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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】涙液層撮影装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
A61B3/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021551470
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2020037498
(87)【国際公開番号】W WO2021066124
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019183430
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100145458
【弁理士】
【氏名又は名称】秋元 正哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】山内 貴紀
【審査官】相川 俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-000545(JP,A)
【文献】特開2005-211173(JP,A)
【文献】特開2009-178174(JP,A)
【文献】特開2006-204773(JP,A)
【文献】特開2018-166650(JP,A)
【文献】特開2003-153860(JP,A)
【文献】特開2019-155011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の角膜表面に形成される涙液層に照明光を照射する照明用光源と、前記涙液層で反射された前記照明光の反射光を受光し、前記涙液層を撮像する撮像手段と、前記被検眼に正対し、前記照明用光源からの前記照明光及び前記涙液層からの前記反射光を透過するよう配置される対物レンズと、を含む涙液層撮影用光学系と、
前記涙液層撮影用光学系の適正位置からの位置ずれを検出する位置ずれ検出用光学系と、
を備え、
前記位置ずれ検出用光学系は、
前記被検眼の角膜に位置ずれ検出用光を照射する位置ずれ検出用光源と、
前記角膜で反射された前記位置ずれ検出用光の反射光を受光する受光手段と、
前記受光手段における前記位置ずれ検出用光の受光位置に基づき、前記涙液層撮影用光学系の位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出手段と、
前記位置ずれ量算出手段で算出された前記涙液層撮影用光学系の位置ずれ量に基づき、前記涙液層撮影用光学系の位置を補正する位置補正手段と、
を備え、
前記位置ずれ検出用光源からの前記位置ずれ検出用光及び前記角膜からの前記反射光は、前記涙液層撮影用光学系の前記対物レンズを通過すると共に、前記対物レンズを通過した前記反射光は、前記受光手段で受光される、
ことを特徴とする涙液層撮影装置。
【請求項2】
前記位置ずれ検出用光源として、前記位置ずれのX方向成分及びY方向成分を検出するための第1の位置ずれ検出用光を前記角膜に照射するための第1の位置ずれ検出用光源と、前記位置ずれのZ方向成分を検出するための第2の位置ずれ検出用光を前記角膜に照射するための第2の位置ずれ検出用光源とが、別々に設けられ、
前記位置ずれ量算出手段は、前記受光手段における前記第1の位置ずれ検出用光の受光位置に基づき、前記涙液層撮影用光学系のXY方向の位置ずれ量を算出すると共に、前記受光手段における前記第2の位置ずれ検出用光の受光位置に基づき、前記涙液層撮影用光学系のZ方向の位置ずれ量を算出する、
請求項1に記載の涙液層撮影装置。
【請求項3】
前記受光手段として、前記角膜で反射された前記第1の位置ずれ検出用光の反射光を受光する第1の受光手段と、前記角膜で反射された前記第2の位置ずれ検出用光の反射光を受光する第2の受光手段とが、別々に設けられる、
請求項2に記載の涙液層撮影装置。
【請求項4】
前記照明光、前記第1の位置ずれ検出用光、及び前記第2の位置ずれ検出用光は、夫々波長の異なる光である、
請求項2又は3に記載の涙液層撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙液層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット端末などの携帯型情報端末の普及により、所謂ドライアイを発症したドライアイ患者数が急増している。ドライアイは、角膜表面に形成される涙液層の減少に伴い、一部の角膜表面部分が涙液層に保護されずに外部に露出することに起因する眼科疾患である。ドライアイを発症することで、角膜上皮障害、結膜障害等の重度な疾患を併発する場合もあるため、ドライアイに対する適切な検査・治療が求められる。
【0003】
ドライアイ検査に使用する眼科装置に関して、例えば、下記特許文献1に開示の眼科装置が提案されている。特許文献1に開示される眼科装置は、被検眼を照明するための光源、ハーフミラー、対物レンズ、結像レンズ、撮像手段を含む被検眼撮影用光学系を備える。この光学系に含まれる各種光学部材が適正位置に配置されることで、涙液層を含む被検眼が光源からの照明光に照明されると共に、涙液層で反射された照明光の反射光が撮像手段で結像される。その結果、涙液層が撮像される。実際の検査では、医師等が、撮影された涙液層の像を撮影し、被検眼のドライアイ症状の有無を診察する(以下、涙液層を撮影する眼科装置を「涙液層撮影装置」と言う。)。
【0004】
ところで、涙液層撮影装置において、眼科装置のモニタに表示される撮影体は、透明な涙液層である。すなわち、涙液層は、モニタ上で明瞭に識別されない。そのため、涙液層と被検眼撮影用光学系との位置関係が適正でない場合、それを認識することが難しい。また、これらの位置関係が適正でないと認識できても、涙液層を示す指標物がモニタに明瞭に映し出されないことから、適正位置に補正するための道標がない。従って、涙液層撮影装置の操作者の手動のみで、被検眼撮影用光学系の位置補正を行えない事態が生じ得る。
【0005】
これに対して、被検眼撮影光学系の位置補正を自動で行うオートアライメント機能(被検眼の動画を撮影する場合、オートトラッキング機能。)を備えた眼科装置が提供されている(例えば、特許文献2に開示の眼科装置)。特に、オートアライメント機能を涙液層撮影装置に適用すれば、涙液層と被検眼撮影用光学系との位置補正に関する前記問題に適切に対処することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-33483号公報
【文献】特開平4-269937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献2に開示の眼科装置は、被検眼の角膜表面に平行光束を投光し、平行光束の角膜による反射光を受光し該反射光を受光する第1のアライメント検出光学系と、被検眼の角膜表面にアライメント検出用の指標を投影し、該指標の反射像を受光する第2のアライメント検出光学系を備え、第1及び第2のアライメント検出光学系の両方を用いてアライメント検出を行う。
【0008】
このように、被検眼撮影用光学系に加えて、アライメント検出光学系を設ければ、被検眼撮影用光学系のみを備えた眼科装置に比べて多くの光学部材が配設される。しかしながら、双方の光学系で共用できる光学部材の選別や、各光学部材の配置の適正化などに関する事項は、特許文献2に示されていない。
【0009】
特に、被検眼撮影用光学系及びアライメント検出光学系は、構成要素として共に対物レンズを含む。仮に、双方の光学系に別々の対物レンズが用いられる場合、夫々の対物レンズを被検眼正面に都度移動しなければ、対応する光学系を使用できない。すなわち、被検眼撮影用光学系を用いた被検眼の撮影と、アライメント検出光学系を用いたアライメント検出とを同時に行うことができない。
【0010】
従って、被検眼撮影用光学系の位置補正(アライメント)を行う場合、被検眼撮影用光学系を用いた被検眼の撮影を一旦停止し、アライメント検出光学系を用いた被検眼撮影用光学系の位置補正を行わなければならない。そのため、検査に時間が掛かる結果、被検者への心理的・肉体的負担が増える。
【0011】
更に、眼科装置を用いて被検眼の動画を撮影する場合、撮影の途中で、被検眼撮影用光学系が適正位置からずれた場合も、同様の問題が生じる。すなわち、適正位置からずれた被検眼撮影用光学系の位置補正を行う際、被検眼の撮影を完全に停止しなければならない。そのため、モニタに表示される被検眼を自動で追跡するオートトラッキング機能を備えた眼科装置であっても、それを有効活用できない。
【0012】
それに加え、対物レンズは、比較的大きく高重量のレンズ部材であるため、使用を停止した光学系の対物レンズと、次に使用する光学系の対物レンズとを切り替えるための大型の駆動機構を眼科装置に組み込まなければならない。その結果、眼科装置が大型化し、眼科装置の生産コストが増加する。
【0013】
これらの課題に鑑み、本発明は、装置のコストアップを防ぐと共に、被検眼(涙液層)の撮影と被検眼(涙液層)撮影用光学系の位置補正を同時に行える涙液層撮影装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した課題を解決するため、本発明に係る涙液層撮影装置は、
被検眼の角膜表面に形成される涙液層に照明光を照射する照明用光源と、前記涙液層で反射された前記照明光の反射光を受光し、前記涙液層を撮像する撮像手段と、前記被検眼に正対し、前記照明用光源からの前記照明光及び前記涙液層からの前記反射光を透過するよう配置される対物レンズと、を含む涙液層撮影用光学系と、
前記涙液層撮影用光学系の適正位置からの位置ずれを検出する位置ずれ検出用光学系と、
を備え、
前記位置ずれ検出用光学系は、
前記被検眼の角膜に位置ずれ検出用光を照射する位置ずれ検出用光源と、
前記角膜で反射された前記位置ずれ検出用光の反射光を受光する受光手段と、
前記受光手段における前記位置ずれ検出用光の受光位置に基づき、前記涙液層撮影用光学系の位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出手段と、
前記位置ずれ量算出手段で算出された前記涙液層撮影用光学系の位置ずれ量に基づき、前記涙液層撮影用光学系の位置を補正する位置補正手段と、
を備え、
前記位置ずれ検出用光源からの前記位置ずれ検出用光及び前記角膜からの前記反射光は、前記涙液層撮影用光学系の前記対物レンズを通過すると共に、前記対物レンズを通過した前記反射光は、前記受光手段で受光される、
ことを特徴とする。
【0015】
本発明のこの態様によれば、涙液層撮影用光学系と位置ずれ検出用光学系とで同じ対物レンズを使用するため、涙液層の撮影と、涙液層撮影用光学系の位置補正とを同時に行うことができる。そのため、モニタ上で涙液層を識別することが難しい涙液層撮影装置であっても、涙液層撮影用光学系の位置補正を精度良く行える。従って、涙液層観察装置を用いた検査を正確且つ迅速に行える。また、涙液層撮影装置の大型化を防止できる結果、涙液層撮影装置生産の過度なコストアップを防止できる。
【0016】
また、本発明に係る涙液層撮影装置は、
前記位置ずれ検出用光源として、前記位置ずれのX方向成分及びY方向成分を検出するための第1の位置ずれ検出用光を前記角膜に照射するための第1の位置ずれ検出用光源と、前記位置ずれのZ方向成分を検出するための第2の位置ずれ検出用光を前記角膜に照射するための第2の位置ずれ検出用光源とが、別々に設けられ、
前記位置ずれ量算出手段は、前記受光手段における前記第1の位置ずれ検出用光の受光位置に基づき、前記涙液層撮影用光学系のXY方向の位置ずれ量を算出すると共に、前記受光手段における前記第2の位置ずれ検出用光の受光位置に基づき、前記涙液層撮影用光学系のZ方向の位置ずれ量を算出することが好ましい。
【0017】
本発明のこの態様によれば、涙液層撮影用光学系の位置ずれのXY方向成分を検出する位置ずれ検出用光源と、Z方向成分を検出する位置ずれ検出用光源とを別々に設け、受光手段で受光された各位置ずれ検出用光の受光位置から、涙液層撮影用光学系のX,Y,Z方向成分に係る位置ずれ量を算出できる。そのため、涙液層撮影用光学系の位置ずれ状態を複数の成分量から多面的に評価することができ、涙液層撮影用光学系の位置補正をより高精度に行うことができる。
【0018】
更に、本発明に係る涙液層撮影装置は、
前記受光手段として、前記角膜で反射された前記第1の位置ずれ検出用光の反射光を受光する第1の受光手段と、前記角膜で反射された前記第2の位置ずれ検出用光の反射光を受光する第2の受光手段とが、別々に設けられることが好ましい。
【0019】
本発明のこの態様によれば、角膜で反射された第1の位置ずれ検出用光の受光手段と、第2の位置ずれ検出用光の受光手段とを別々に設けるため、例えば、第1の位置ずれ検出用光と第2の位置ずれ検出用光とを同じ受光手段で受光する場合に起こり得る不具合(例えば、各位置ずれ検出用光が同じ受光位置に至り、各々の受光成分を分離抽出できないなどの事態)を防止できる。
【0020】
更に、本発明に係る涙液層撮影装置において、
前記照明光、前記第1の位置ずれ検出用光、及び前記第2の位置ずれ検出用光は、夫々波長の異なる光であることが好ましい。
【0021】
本発明の前記態様によれば、照明光、第1の位置ずれ検出用光、第2の位置ずれ検出用光を異なる波長の光とすることで、涙液層撮影用光学系と位置ずれ検出用光学系との共用光路域で、各光が混ざり識別不能になるなどの事態を防止できる。また、波長選択機能を持つ光学部材を光路上に配設することで、設計通りの光路に各光を誘導できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、装置のコストアップを防ぐと共に、涙液層の撮影と、涙液層撮影用光学系の位置補正を同時に行える涙液層撮影装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る涙液層撮影装置のシステムブロック図。
図2】本実施形態に係る涙液層撮影装置に備わる涙液層撮影用光学系の構成を示す図。
図3】本実施形態に係る涙液層撮影装置に備わる第1の位置ずれ検出用光学系の構成、及び涙液層撮影光学系のXY方向位置が適正位置にある場合と、適正位置からずれている場合の第1の位置ずれ検出用光の光路を示す図。
図4】本実施形態に係る涙液層撮影装置に備わる第1の受光手段の受光面の正面図。
図5】本実施形態に係る涙液層撮影装置に備わる第2の位置ずれ検出用光学系の構成を示す図。
図6】涙液層撮影光学系のZ方向位置が適正位置にある場合と、適正位置からずれている場合の第2の位置ずれ検出用光の光路を示す図。
図7】本実施形態に係る涙液層撮影装置に備わる第2の受光手段の受光面の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る涙液層撮影装置を詳細に説明する。なお、正面視における撮影対象物(例えば被検眼)を基準に、その水平方向がX方向に対応し、垂直方向がY方向に対応し、奥行き方向がZ方向に対応する。
【0025】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る涙液層撮影装置1の概略構成を説明する。図1は、涙液層撮影装置1のシステムブロック図である。図1に示されるように、涙液層撮影装置1は、光学系部10、光学系部10から出力される各種情報を演算処理する制御部20、制御部20で演算処理された各種情報を受信すると共に、光学系部10を支持するステージを移動させる駆動機構部30、光学系部10を介して撮影された被撮影体を表示するモニタ40等を備える。
【0026】
光学系部10は、涙液層撮影用光学系11、第1の位置ずれ検出用光学系12、第2の位置ずれ検出用光学系13を含む。本実施形態において、これらの光学系に属する光学部材は、例えば、涙液層撮影装置1の上方側に位置し、被検眼と正対する位置に取り付けられる光学部材収容筐体(図示しない。)に収められる。また、少なくとも涙液層撮影用光学系11に含まれる光学部材を支持するステージ(図示しない。)が、光学部材収容筐体内に収容されることが好ましい。なお、以下の説明において、第1の位置ずれ検出用光学系12と第2の位置ずれ検出用光学系13とを併せて、「位置ずれ検出用光学系」と言う場合がある。
【0027】
次に、制御部20は、図1に示されるように、画像情報取得手段21、画像生成手段22を含む。画像情報取得手段21は、涙液層撮影用光学系11から出力される涙液層の画像情報を取得する。また、画像生成手段22は、画像情報取得手段21で取得された画像情報に各種画像処理を施し、モニタ40で表示される画像を生成する。
【0028】
更に、制御部20は、位置ずれ量算出手段23、位置補正手段24を含む。位置ずれ量算出手段23は、第1の位置ずれ検出用光学系12から出力される涙液層撮影用光学系11のX方向成分の位置ずれ情報及びY方向成分の位置ずれ情報を取得する。それに加えて、位置ずれ量算出手段23は、第2の位置ずれ検出用光学系13から出力される涙液層撮影用光学系11のZ方向成分の位置ずれ情報を取得する。更に、位置ずれ量算出手段23は、得られた各位置ずれ情報に基づき、涙液層撮影用光学系11の位置ずれ量を算出する。更に、位置ずれ量算出手段23は、位置ずれ量情報を位置補正手段24に送信する。位置補正手段24は、受信した位置ずれ量情報を涙液層撮影用光学系11の位置補正情報に変換し駆動機構部30に送信する。
【0029】
なお、制御部20は、CPU、RAM、ハードディスク、入出力装置、通信インターフェイス等を備える一般的なコンピュータであってよい。前述の画像情報取得手段21、画像生成手段22、位置ずれ量算出手段23、位置補正手段24で果たされる各機能は、予め記憶されたプログラムに従い所望の演算処理を実行するCPU等によって実現されてもよい。また、制御部20は、通信インターフェイスを介して、画像生成手段22によって生成された画像情報を外部情報端末に送信する手段を更に備えてもよい。
【0030】
次に、駆動機構部30は、涙液層撮影用光学系11に含まれる光学部材を支持するステージを、X方向に沿って移動させるX方向駆動機構31、Y方向に沿って移動させるY方向駆動機構32、Z方向に沿って移動させるZ方向駆動機構33を含む。
【0031】
X方向駆動機構31、Y方向駆動機構32、Z方向駆動機構33の構成は、対応する各方向にステージ(涙液層撮影用光学系11)を移動可能なものであれば特に限定されない。例えば、各駆動機構として、モータと、モータのシャフト部に接続されるギアと、ギアと噛み合うレール部材とを含む態様が挙げられる。この場合、モータは、位置補正手段24からの位置補正情報を受信し、受信した位置補正情報に対応する回転数でシャフトを回転させる。また、レール部材は、ステージの所定位置に設けられる部材であり、ギアを介して伝達されるモータシャフトの回転運動をX,Y,Z方向への並進運動に変換する。
【0032】
次に、図2を参照して、涙液層撮影用光学系11を説明する。図2に示されるように、涙液層撮影用光学系11は、涙液層を含む被検眼110に照明光を照射する照明用光源111、第1の偏光板112、ハーフミラー113、被検眼110に正対する対物レンズ114、結像レンズ115、第2の偏光板116、撮像手段117等を備える。
【0033】
照明用光源111は、モニタ40を介して涙液層の像を的確に視認できる状態とするため、白色光源であることが好ましい。白色光源の例として、白熱ランプ、ハロゲンランプ、LED(light Emitting Diode)ランプ、蛍光ランプ等が挙げられる。ただし、照明用光源111は、涙液層を照明できるものであれば特に限定されない。
【0034】
撮像手段117は、照明用光源111で照明された涙液層の像を撮像可能なものであれば特に限定されない。撮像手段117の例として、CCDイメージセンサーやCMOSイメージセンサー等が挙げられる。なお、撮像手段117は、通信ケーブルを介して制御部20の画像情報取得手段21に接続される。これにより、撮像手段117で得られた涙液層の生画像情報が、制御部20に送信される。
【0035】
涙液層撮影用光学系11において、照明用光源111からの照明光は、以下の光路を進む。すなわち、照明用光源111から照射された照明光は、まず、第1の偏光板112を通過し、ハーフミラー113に至り、一部が、対物レンズ114に向けて反射される。反射された照明光は、対物レンズ114を通過した後、涙液層(被検眼)に至り、それまでの光路と逆方向に鏡面反射される。鏡面反射された照明光は、再び対物レンズ114を通過した後、ハーフミラー113を通過する。更に、ハーフミラー113を通過した照明光は、結像レンズ115、第2の偏光板116を通過し、撮像手段117で結像される。これにより、涙液層が撮像される。
【0036】
次に、図3を参照して、第1の位置ずれ検出用光学系12を用いた涙液層撮影用光学系11のXY方向の位置ずれを検出する例を説明する。第1の位置ずれ検出用光学系12は、第1の位置ずれ検出用光源121、ピンホール開口を有する絞り122、レンズ123、第1のダイクロイックミラー124、第2のダイクロイックミラー125、結像レンズ126、第1の受光手段127等を備える。更に、第1の位置ずれ検出用光学系12は、涙液層撮影用光学系11と共通の対物レンズ114を含む。
【0037】
第1の位置ずれ検出用光源121の種類は、特に限定されない。第1の位置ずれ検出用光源121の例として、LED、OLED(Organic Light Emitting Diode)、各種レーザ等が挙げられる。ただし、図3に示されるように、第1の位置ずれ検出用光学系12は、涙液層撮影用光学系11との共用光路域を有する。従って、第1の位置ずれ検出用光源121から照射される第1の位置ずれ検出用光と、照明用光源111からの照明光とが混在し、第1の位置ずれ検出用光が識別不能となるなどの事態を避ける必要がある。そのため、第1の位置ずれ検出用光は、照明用光源111からの照明光とは異なる波長帯を有することが好ましい。特に限定されるものではないが、本実施形態における第1の位置ずれ検出用光は、赤外光である。なお、本実施形態において、第1の位置ずれ検出用光の波長を800nmとするが、これに限定されるものではなく、他の波長であってもよい。
【0038】
第1の受光手段127は、第1の位置ずれ検出用光学系12において、第1の位置ずれ検出用光を受光可能なものであれば特に限定されない。第1の受光手段127の例として、CCDイメージセンサーやCMOSイメージセンサー等が挙げられる。なお、第1の受光手段127は、通信ケーブルを介して制御部20の位置ずれ量算出手段23に接続される。これにより、涙液層撮影用光学系11のX方向及びY方向の位置ずれ情報が、制御部20に送信される。
【0039】
なお、本実施形態における第1の位置ずれ検出用光は、ピンホール開口を有する絞り122を通過するため、絞り122の通過後、円形のスポット光となっている。従って、第1の受光手段127で受光される第1の位置ずれ検出用光も、円形のスポット光(輝点像)である。ただし、これに限定されない。
【0040】
第1の位置ずれ検出用光学系12において、第1の位置ずれ検出用光は、以下の光路を進む。すなわち、第1の位置ずれ検出用光は、第1の位置ずれ検出用光源121から出射された後、絞り122及びレンズ123を通過し、第1のダイクロイックミラー124に至る。第1のダイクロイックミラー124は、所定波長帯の赤外光を選択的に反射する。そのため、第1のダイクロイックミラー124に至った第1の位置ずれ検出用光は、ハーフミラー113に向けて反射される。
【0041】
その後、第1の位置ずれ検出用光は、ハーフミラー113、対物レンズ114を通過し、被検眼110の角膜に至る。角膜に至った第1の位置ずれ検出用光は、それまでの光路とは逆方向に鏡面反射され、再び対物レンズ114を通過し、ハーフミラー113に至る。ハーフミラー113に至った第1の位置ずれ検出用光は、第2のダイクロイックミラー125に至る。第2のダイクロイックミラー125も、第1のダイクロイックミラー124と同様に、所定波長帯の赤外光を選択的に反射する。そのため、第2のダイクロイックミラー125に至った第1の位置ずれ検出用光は、結像レンズ126に向けて反射された後、第1の受光手段127で受光される。
【0042】
第1の位置ずれ検出用光学系12の所定位置に、第1のダイクロイックミラー124、第2のダイクロイックミラー125のような、特定の波長帯の光を選択的に反射する光学部材を設けることで、第1の受光手段127に至る所望の光路に第1の位置ずれ検出用光を適宜誘導することができる。
【0043】
次に、図3及び図4を参照して、涙液層撮影用光学系11のX方向成分及びY方向成分の位置補正を説明する。図3は、前述の通り、第1の位置ずれ検出用光学系12の構成を示す。また、図3は、涙液層撮影用光学系11のX成分位置又はY成分位置が適正位置にある場合と、適正位置からずれている場合の第1の位置ずれ検出用光の光路を併せて示す。次に、図4は、第1の位置ずれ検出用光を受光した第1の受光手段127(受光面1271)の正面図である。
【0044】
まず、涙液層撮影用光学系11が、適正位置に配置されている場合、図3(b)の実線で示されるように、第1の位置ずれ検出用光は、被検眼110(110a)の角膜頂点に至り、光軸に沿う方向に反射される。その結果、反射光は、以後の光路に配置される各種光学部材(対物レンズ114、ハーフミラー113、第2のダイクロイックミラー125、結像レンズ126、第1の受光手段127)の略中心位置を結ぶ線分に沿って進む。
【0045】
その結果、図4に示されるように、涙液層撮影用光学系11が、適正位置に配置されている場合、第1の位置ずれ検出用光(121R)は、受光面1271の原点O(以下、「基準位置」と言う。)で受光される。
【0046】
これに対して、涙液層撮影用光学系11が、例えば、図3(b)の二点鎖線又は破線で示されるように、X方向又はY方向において適正位置に配置されていない場合、第1の位置ずれ検出用光は、以下の状態で進行する。ここで、角膜表面は、所定の曲率で湾曲しているため、角膜表面(涙液層)に至った第1の位置ずれ検出用光は、光軸に対して相応の角度で反射される。より詳しくは、例えば、第1の位置ずれ検出用光が、被検眼110(110b)の角膜頂点よりY方向正側を照らす場合、光軸に対してθ1の角度で反射される。これに対して、第1の位置ずれ検出用光が、被検眼110(110c)の角膜頂点よりY方向負側を照らす場合、光軸に対してθ2の角度で反射される。涙液層撮影用光学系11が、X方向にずれている場合も、同様である。
【0047】
そのため、角膜表面からの反射光は、図3(a)の破線で示されるように、以後の光路に配置される各光学部材(対物レンズ114、ハーフミラー113、第2のダイクロイックミラー125、結像レンズ126、第1の受光手段127)の略中心位置を結ぶ線分から離れた光路を進む。その結果、第1の位置ずれ検出用光は、受光面1271の基準位置とは異なる位置(符号121E1又は121E2で現される位置)で受光される。
【0048】
なお、図4に示される態様は、涙液層撮影用光学系11の位置ずれ方向がY方向のみであるが、通常、涙液層撮影用光学系11の位置ずれは、X方向成分を含む。X方向成分を含む位置ずれの場合、第1の位置ずれ検出用光は、図4で示される受光面1271の基準位置より右側又は左側の位置で受光される。
【0049】
受光面1271の受光情報(撮影画像)は、制御部20の位置ずれ量算出手段23に送信される。位置ずれ量算出手段23は、受信した撮影画像から、涙液層撮影用光学系11のX方向位置ずれ成分及びY方向位置ずれ成分を検出する。更に、位置ずれ量算出手段23は、検出したX方向位置ずれ成分及びY方向位置ずれ成分に所定係数を乗算し、実際のX方向位置ずれ量及びY方向位置ずれ量に換算する。
【0050】
その後、位置ずれ量算出手段23は、換算したX方向位置ずれ量及びY方向位置ずれ量に関する数値情報を位置補正手段24に送信する。位置補正手段24は、受信した数値情報を涙液層撮影用光学系11の位置補正情報に変換し、X方向駆動機構31及びY方向駆動機構32に送信する。
【0051】
例えば、X方向位置ずれ量がX方向に+2cmである場合、位置補正手段24は、換算された数値情報をX方向に-2cmステージを移動させる旨の指令情報に変換し、X方向駆動機構31に送信する。また、Y方向位置ずれ量がY方向に-1.5cmである場合、位置補正手段24は、換算された数値情報をY方向に+1.5cmステージを移動させる旨の指令情報に変換し、Y方向駆動機構32に送信する。これにより、涙液層撮影用光学系11のX方向成分及びY方向成分の位置補正が行われる。
【0052】
次に、図5を参照して、第2の位置ずれ検出用光学系13を用いた涙液層撮影用光学系11のZ方向の位置ずれを検出する例を説明する。第2の位置ずれ検出用光学系13は、第2の位置ずれ検出用光源131、スリット開口を有する絞り132、レンズ133、結像レンズ134、第2の受光手段135等を備える。更に、第2の位置ずれ検出用光学系13は、涙液層撮影用光学系11と共通の前記ハーフミラー113及び前記対物レンズ114を含む。
【0053】
第2の位置ずれ検出用光源131の種類は、特に限定されない。第2の位置ずれ検出用光源131の例として、LED、OLED、各種レーザ等が挙げられる。ただし、図5に示されるように、第2の位置ずれ検出用光学系13は、涙液層撮影用光学系11及び第1の位置ずれ検出用光学系12との共用光路域を有する。従って、第2の位置ずれ検出用光源131から照射される第2の位置ずれ検出用光、照明用光源111からの照明光、及び第1の位置ずれ検出用光源121から照射される第1の位置ずれ検出用光が混在し、第2の位置ずれ検出用光が識別不能となるなどの事態を避ける必要がある。そのため、第2の位置ずれ検出用光は、照明用光源111からの照明光及び第1の位置ずれ検出用光とは異なる波長帯を有することが好ましい。特に限定されるものではないが、本実施形態における第2の位置ずれ検出用光は、赤外光であり、第1の位置ずれ検出用光とは異なる波長であることが好ましい。なお、本実施形態において、第2の位置ずれ検出用光の波長を950nmとするが、これに限定されるものではなく、他の波長であってもよい。
【0054】
本実施形態における第2の受光手段135は、二分割型フォトダイオードである。ただし、これに限定されるものではなく、例えば四分割型フォトダイオードなどの他の分割型フォトダイオードであってもよいし、CCDイメージセンサーやCMOSイメージセンサー等であってもよい。なお、第2の受光手段135は、通信ケーブルを介して制御部20の位置ずれ量算出手段23に接続される。これにより、涙液層撮影用光学系11のZ方向の位置ずれ情報が、制御部20に送信される。
【0055】
なお、本実施形態における第2の位置ずれ検出用光は、スリット開口を有する絞り132を通過するため、絞り132の通過後、矩形のスリット光となっている。従って、第2の受光手段135で受光される第2の位置ずれ検出用光も、矩形のスリット光である。ただし、これに限定されない。
【0056】
第2の位置ずれ検出用光学系13において、第2の位置ずれ検出用光は、以下の光路を進む。すなわち、第2の位置ずれ検出用光は、第2の位置ずれ検出用光源131から出射された後、絞り132及びレンズ133を通過し、ハーフミラー113に至る。ハーフミラー113に至った第2の位置ずれ検出用光の一部は、対物レンズ114に向けて反射される。その後、第2の位置ずれ検出用光は、対物レンズ114を通過し、被検眼110の角膜に至る。
【0057】
角膜に至った第2の位置ずれ検出用光は、そこで鏡面反射され、再び対物レンズ114を通過し、ハーフミラー113に至る。ハーフミラー113に至った第2の位置ずれ検出用光の一部は、結像レンズ134に向けて反射された後、第2の受光手段135で受光される。
【0058】
次に、図6及び図7を参照して、涙液層撮影用光学系11のZ方向成分の位置補正を説明する。図6は、涙液層撮影用光学系11のZ方向位置が適正位置にある場合と、適正位置からずれている場合の第2の位置ずれ検出用光の光路を示す図である。また、図7は、第2の受光手段135の受光面1351の正面図である。
【0059】
まず、涙液層撮影用光学系11が、Z方向において適正位置に配置されている場合、図6(b)の実線で示されるように、第2の位置ずれ検出用光は、角膜頂点に至り反射される。その結果、図6(a)に示されるように、角膜表面への入射光の光路1310と、角膜表面からの反射光の光路1311とは、第2の位置ずれ検出用光学系13の中心線131Cを挟んで線対称の軌跡を描く。その結果、図7に示されるように、第2の位置ずれ検出用光(131R)は、受光面1351の中心線(以下、「基準線」と言う。)上で受光される。
【0060】
これに対して、例えば、図6(b)の二点鎖線又は破線で示されるように、涙液層撮影用光学系11が、Z方向において適正位置に配置されていない場合、第2の位置ずれ検出用光は、以下の状態で進行する。ここで、第2の位置ずれ検出用光は、第2の位置ずれ検出用光学系13の中心線131Cに対して斜めに入射される。そのため、角膜が適正位置110dより手前側110eにある場合、角膜での反射点は、紙面上側にずれる。また、角膜が適正位置110dより奥側110fにある場合、角膜での反射点は、紙面下側にずれる。
【0061】
そのため、角膜表面への入射光の光路1311と、角膜表面からの反射光の光路1312とは、第2の位置ずれ検出用光学系13の中心線131Cを挟んで非対称の軌跡を描く。その結果、図7に示されるように、第2の位置ずれ検出用光は、受光面1351の基準線とは異なる位置(131E1又は131E2で現れる位置)で受光される。
【0062】
前述のように、本実施形態における第2の受光手段135は、二分割型フォトダイオードである。そのため、各分割面の受光量情報が、位置ずれ量算出手段23に送信される。位置ずれ量算出手段23は、各分割面の受光量差から、涙液層撮影用光学系11のZ方向における位置ずれ量を算出する。
【0063】
その後、位置ずれ量算出手段23は、算出したZ方向位置ずれ量情報を位置補正手段24に送信する。位置補正手段24は、受信したZ方向位置ずれ量情報に基づき、涙液層撮影用光学系11の位置補正情報に変換し、Z方向駆動機構33に送信する。
【0064】
例えば、Z方向位置ずれ量がZ方向に+3cmである場合、位置補正手段24は、Z方向位置ずれ量情報をZ方向に-3cmステージを移動させる旨の指令情報に変換し、Z方向駆動機構33に送信する。これにより、涙液層撮影用光学系11のZ方向成分の位置補正が行われる。
【0065】
本実施形態に係る涙液層撮影装置1は、涙液層撮影用光学系11、第1の位置ずれ検出用光学系12、第2の位置ずれ検出用光学系13の全てで、同じ対物レンズ114を用いる。これにより、涙液層の撮影と、涙液層撮影用光学系11の位置補正を同時に行うことができる。その結果、ドライアイの検査を正確かつ迅速に行えると共に、装置の過度なコストアップを有効に防ぐことができる。
【0066】
なお、本実施形態に係る前述の説明において、涙液層の静止画像を撮影する例が示されているが、涙液層撮影用光学系11に対する前述の自動位置補正機能は、涙液層の動画を撮影する場合にも適用される。すなわち、動画撮影される涙液層の自動追跡機能(オートトラッキング機能)として、本実施形態における涙液層撮影用光学系11の自動位置補正機能を用いることができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明した。ただし、前述の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定する趣旨で記載されたものではない。本発明には、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るものを含み得る。また、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 涙液層撮影装置
10 光学部
11 涙液層撮影用光学系
111 照明用光源
113 ハーフミラー
114 対物レンズ
117 撮像手段
12 第1の位置ずれ検出用光学系
121 第1の位置ずれ検出用光源
127 第1の受光手段
13 第2の位置ずれ検出用光学系
131 第2の位置ずれ検出用光源
135 第2の受光手段
20 制御部
21 画像情報取得手段
22 画像生成手段
23 位置ずれ量算出手段
24 位置補正手段
30 駆動機構部
31 X方向駆動機構
32 Y方向駆動機構
33 Z方向駆動機構
110 被検眼
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7