(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】回路基板用LCPフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20240906BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20240906BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20240906BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240906BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240906BHJP
C08L 39/04 20060101ALI20240906BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240906BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20240906BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
H05K1/03 610H
B29C48/08
B29C35/02
C08J5/18 CFD
C08L67/00
C08L39/04
B29C48/305
B29K67:00
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2021561372
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043340
(87)【国際公開番号】W WO2021106768
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019216578
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】小川 直希
(72)【発明者】
【氏名】升田 優亮
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-071376(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235436(WO,A1)
【文献】特開2003-124580(JP,A)
【文献】特開平10-329270(JP,A)
【文献】特開平10-258491(JP,A)
【文献】特開平10-258492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
B29C 48/08
B29C 35/02
C08J 5/18
C08L 67/00
C08L 39/04
B29C 48/305
B29K 67/00
B29L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル100質量部、及びオキサゾリン基含有ポリマー1~20質量部を少なくとも含有するLCP樹脂組成物を準備する組成物準備工程と、
前記LCP樹脂組成物を溶融押出して、TD方向の線膨張係数(α2)が50ppm/K以上のLCPフィルムを形成するフィルム形成工程と、
前記LCPフィルムを加圧加熱処理して、TD方向の線膨張係数(α2)が16.8±12ppm/Kの回路基板用LCPフィルムを得る加圧加熱工程と、を少なくとも備えることを特徴とする、
回路基板用LCPフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記LCP樹脂組成物は、ポリアリレート1~20質量部をさらに含有する
請求項1に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記LCPフィルムは、MD方向の引張弾性率Y
MDとTD方向の引張弾性率Y
TDの比(Y
MD/Y
TD)が2以上10以下であり、
前記加圧加熱工程では、前記LCPフィルムを加圧加熱処理して、MD方向の引張弾性率Y
MDとTD方向の引張弾性率Y
TDの比(Y
MD/Y
TD)が0.8以上2.0以下の回路基板用LCPフィルムを得る
請求項1又は2に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記加圧加熱工程では、前記LCPフィルムを加圧加熱処理して、TD方向の線膨張係数が5.0ppm/K以上16.0ppm/K以下の回路基板用LCPフィルムを得る
請求項1~3のいずれか一項に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記LCPフィルムは、10μm以上500μm以下の厚みを有する
請求項1~4のいずれか一項に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記回路基板用LCPフィルムは、比誘電率ε
rが3.0~3.9であり誘電正接tanδが0.0005~0.003の誘電特性(36GHz)を有する
請求項1~5のいずれか一項に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板用LCP樹脂組成物や回路基板用LCPフィルム及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマー(LCP)は、溶融状態或いは溶液状態で液晶性を示すポリマーである。とりわけ、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーは、高ガスバリア性、高フィルム強度、高耐熱、高絶縁、低吸水率等の優れた性質を有しているため、ガスバリア性フィルム材料用途、電子材料用途や電気絶縁性材料用途において、急速にその実用化が進められている。
【0003】
液晶ポリマーを用いた樹脂組成物として、例えば特許文献1には、(A)液晶ポリエステルおよび(B)オキサゾニル基含有重合体からなり、成分(A)と成分(B)の比率が、成分(A)が99.9~0.1重量%、成分(B)が0.1~99.9重量%である液晶ポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、液晶ポリマーを用いた樹脂組成物として、例えば特許文献2には、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマー97.1~99.0重量%と、非晶性ポリマー1.0~2.9重量%(ポリマーの総量を基準にして)とからなることを特徴とするポリマーアロイが開示されている。
【0005】
一方、例えば特許文献3には、液晶ポリマーと、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート及びポリフェニレンサルファイドの中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂とのブレンド体から形成されたフィルムであって、該ブレンド体における熱可塑性樹脂の割合が25~55重量%であり、該フィルムのMDとTDの両方向の線膨張係数が5~25ppm/Kであり、且つ、フィルムの厚さ方向の線膨張係数が270ppm/Kを超えないことを特徴とする液晶ポリマーブレンドフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平09-286903号公報
【文献】特開2000-290512号公報
【文献】特開2004-175995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液晶ポリマー、とりわけ液晶ポリエステルを用いたLCP樹脂組成物は、高周波特性及び低誘電性に優れることから、今後進展する第5世代移動通信システム(5G)やミリ波レーダー等におけるフレキシブルプリント配線板(FPC)、フレキシブルプリント配線板積層体、繊維強化フレキシブル積層体等の回路基板の絶縁材料として、近年、脚光を浴びている。
【0008】
しかしながら、特許文献1では、LCP樹脂組成物のガスバリア性や機械強度に着目して、ガスバリア性成形品、容器、チューブ、ミート、繊維、コーティング材、電子材料包装フィルム等へ応用を検討するに留まっており、フレキシブルプリント配線板(FPC)等の絶縁材料としての適用はなんら検討されていない。
【0009】
また、特許文献2では、電気絶縁材や電気回路基板材としてLCP樹脂組成物の有用性こそ言及されているものの、実際には、LCPフィルムの機械強度(端裂強度、すなわちフィルム等の端部に生じる欠損や破れに対する強度)の向上のための改善提案がなされているに過ぎない。
【0010】
一方、特許文献3では、液晶ポリマーと特定の熱可塑性樹脂との樹脂組成物Tダイ溶融押出してのLCPブレンドフィルムを得た後に、二軸延伸することにより、面方向(TD方向及びMD方向)の線膨張係数に異方性がなく、かつ厚さ方向の線膨張係数の小さい液晶ポリマーブレンドフィルムが得られている。しかしながら、得られる液晶ポリマーブレンドフィルムは、ポリアリレート等の熱可塑性樹脂を多量に配合しているため、耐熱性、誘電特性、引張強度等が低下したものとなり、実用性に劣るものであった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、液晶ポリエステルが有する機械的特性、電気特性、耐熱性等の優れた基本性能を過度に損なうことなく、線膨張係数が小さく寸法安定性に優れる回路基板用LCPフィルムを実現可能な、回路基板用LCP樹脂組成物等を提供することにある。
【0012】
また、本発明の別の目的は、液晶ポリエステルが有する機械的特性、電気特性、耐熱性等の優れた基本性能を過度に損なうことなく、線膨張係数が小さく寸法安定性に優れる、回路基板用LCPフィルム、及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定のLCP樹脂組成物を用いることにより、また、この所定のLCP樹脂組成物を溶融押出して得たLCPフィルムを加圧加熱処理することにより、線膨張係数を小さくすることができ、これにより寸法安定性が高められ、金属箔への密着性をも高め得ることを見出し、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
(1)液晶ポリエステル100質量部、及びオキサゾリン基含有ポリマー1~20質量部を少なくとも含有するLCP樹脂組成物を準備する組成物準備工程と、前記LCP樹脂組成物を溶融押出して、TD方向の線膨張係数(α2)が50ppm/K以上のLCPフィルムを形成するフィルム形成工程と、前記LCPフィルムを加圧加熱処理して、TD方向の線膨張係数(α2)が16.8±12ppm/Kの回路基板用LCPフィルムを得る加圧加熱工程と、を少なくとも備えることを特徴とする、回路基板用LCPフィルムの製造方法。
【0015】
(2)前記LCP樹脂組成物は、ポリアリレート1~20質量部をさらに含有する(1)に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
(3)前記LCPフィルムは、MD方向の引張弾性率YMDとTD方向の引張弾性率YTDの比(YMD/YTD)が2以上10以下であり、前記加圧加熱工程では、前記LCPフィルムを加圧加熱処理して、MD方向の引張弾性率YMDとTD方向の引張弾性率YTDの比(YMD/YTD)が0.8以上2.0以下の回路基板用LCPフィルムを得る(1)又は(2)に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
(4)前記加圧加熱工程では、前記LCPフィルムを加圧加熱処理して、TD方向の線膨張係数が5.0ppm/K以上16.0ppm/K以下の回路基板用LCPフィルムを得る(1)~(3)のいずれか一項に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
(5)前記LCPフィルムは、10μm以上500μm以下の厚みを有する(1)~(4)のいずれか一項に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
(6)前記回路基板用LCPフィルムは、比誘電率εrが3.0~3.9であり誘電正接tanδが0.0005~0.003の誘電特性(36GHz)を有する(1)~(5)のいずれか一項に記載の回路基板用LCPフィルムの製造方法。
【0016】
(7)液晶ポリエステル100質量部、及びオキサゾリン基含有ポリマー1~20質量部を少なくとも含有する、回路基板用LCP樹脂組成物。
(8)前記LCP樹脂組成物は、ポリアリレート1~20質量部をさらに含有する(7)に記載の回路基板用LCP樹脂組成物。
【0017】
(9)液晶ポリエステル100質量部、及びオキサゾリン基含有ポリマー1~20質量部を少なくとも含有し、TD方向の線膨張係数(α2)が16.8±12ppm/Kである、回路基板用LCPフィルム。
【0018】
(10)ポリアリレート1~20質量部をさらに含有する(9)に記載の回路基板用LCPフィルム。
(11)MD方向の引張弾性率YMDとTD方向の引張弾性率YTDの比(YMD/YTD)が0.8以上2.0以下である(9)又は(10)に記載の回路基板用LCPフィルム。
(12)TD方向の線膨張係数が5.0ppm/K以上16.0ppm/K以下である(9)~(11)のいずれか一項に記載の回路基板用LCPフィルム。
(13)比誘電率εrが3.0~3.9であり誘電正接tanδが0.0005~0.003の誘電特性(36GHz)を有する(9)~(12)のいずれか一項に記載の回路基板用LCPフィルム。
(14)10μm以上500μm以下の厚みを有する(9)~(13)のいずれか一項に記載の回路基板用LCPフィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液晶ポリエステルが有する機械的特性、電気特性、高周波特性、耐熱性等の優れた基本性能を過度に損なうことなく、線膨張係数を小さく、これにより寸法安定性が高められた、回路基板用LCPフィルム及びその製造方法等を提供することができる。また、本発明の好適態様によれば、機械的特性、電気特性、高周波特性、耐熱性等の基本性能に優れるのみならず、フィルム面内方向の異方性が小さく金属箔への密着性を高めることのできる、回路基板用LCPフィルム等を簡易且つ再現性よく提供することができ、これにより、生産性及び経済性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態の回路基板用LCPフィルム11の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】一実施形態の回路基板用LCPフィルム11を示す概略模式図である。
【
図3】一実施形態の金属箔張積層板31を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。但し、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0022】
(LCPフィルム)
図1は、本実施形態の回路基板用LCPフィルム11の製造方法を示すフローチャートであり、
図2は、本実施形態の回路基板用LCPフィルム11を示す概略模式図である。
【0023】
本実施形態の製造方法は、所定のLCP樹脂組成物を準備する組成物準備工程(S1)と、このLCP樹脂組成物を溶融押出して所定のLCPフィルムを形成するフィルム形成工程(S2)と、このLCPフィルムを加圧加熱処理して所定の回路基板用LCPフィルム11を得る加圧加熱工程(S3)と、を少なくとも備える。
【0024】
<組成物準備工程(S1)>
この組成物準備工程(S1)では、液晶ポリマーとして液晶ポリエステル100質量部、及びオキサゾリン基含有ポリマー1~20質量部を少なくとも含有するLCP樹脂組成物を準備する。
【0025】
液晶ポリエステルとしては、当業界で公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない。サーモトロピック型の液晶様性質を示し、融点が250℃以上、好ましくは融点が280℃~380℃の、液晶ポリエステルが好ましく用いられる。このような液晶ポリエステルとしては、例えば、芳香族ジオール、芳香族カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等のモノマーから合成される、溶融時に液晶性を示す芳香族ポリエステルが知られている。その代表的なものとしては、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、フェノール及びフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、2,6-ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、液晶ポリエステルは、それぞれ1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0026】
液晶ポリエステルの中でも、機械的特性、電気特性、耐熱性等の基本性能に優れる観点から、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体(以降において、単に「モノマー成分A」と称する場合がある。)を基本構造とし、パラヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェノール、エチレンテレフタレート及びこれらの誘導体よりなる群から選択される1種以上(以降において、単に「モノマー成分B」と称する場合がある。)をモノマー成分として少なくとも有する芳香族ポリエステル系液晶ポリマーが好ましい。
【0027】
上述したモノマー成分Aとモノマー成分Bとを含有する芳香族ポリエステル系液晶ポリマーは、溶融状態で分子の直鎖が規則正しく並んで異方性溶融相を形成し、典型的にはサーモトロピック型の液晶様性質を示し、機械的特性、電気特性、高周波特性、耐熱性、吸湿性等において優れた基本性能を有するものとなる。なお、上述した芳香族ポリエステル系液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した偏光検査法等の公知の方法によって確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施することができる。
【0028】
上述した芳香族ポリエステル系液晶ポリマーは、必須単位としてモノマー成分A及びモノマー成分Bを有するものである限り、任意の構成を採ることができる。例えば2種以上のモノマー成分Aを有していても、3種以上のモノマー成分Aを有していてもよい。また、上述した芳香族ポリエステル系液晶ポリマーは、モノマー成分A及びモノマー成分B以外の、他のモノマー成分を含有していてもよい。すなわち、芳香族ポリエステル系液晶ポリマーは、モノマー成分A及びモノマー成分Bのみからなる2元系以上の重縮合体であっても、モノマー成分A、モノマー成分B及び他のモノマー成分からなる3元系以上のモノマー成分の重縮合体であってもよい。他のモノマー成分(以降において、単に「モノマー成分C」と称する場合がある。)としては、上述したモノマー成分A及びモノマー成分B以外のもの、具体的には芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物及びその誘導体;芳香族又は脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体;芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体;香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸及びその誘導体;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0029】
なお、本明細書において、「誘導体」とは、上述したモノマー成分の一部に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~5のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等)、フェニル基等のアリール基、水酸基、炭素数1~5のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)、カルボニル基、-O-、-S-、-CH2-等の修飾基が導入されているもの(以降において、「置換基を有するモノマー成分」と称する場合がある。)を意味する。ここで、「誘導体」は、上述した修飾基を有していてもよいモノマー成分A及びBのアシル化物、エステル誘導体、又は酸ハロゲン化物等のエステル形成性モノマーであってもよい。
【0030】
より好ましい芳香族ポリエステル系液晶ポリマーとしては、パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体との二元系重縮合体;パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体とモノマー成分Cとの三元系以上の重縮合体;パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体とテレフタル酸、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェノール、エチレンテレフタレート及びこれらの誘導体よりなる群から選択される1種以上とからなる三元系以上の重縮合体;パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体とテレフタル酸、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェノール、エチレンテレフタレート及びこれらの誘導体よりなる群から選択される1種以上と1種以上のモノマー成分Cとからなる四元系以上の重縮合体;が挙げられる。これらは、例えばパラヒドロキシ安息香酸のホモポリマー等に対して比較的に低融点を有するものとして得ることができ、そのため、これらを用いたLCPフィルムは、被着体への熱圧着時の成型加工性に優れたものとなる。
【0031】
芳香族ポリエステル系液晶ポリマーの融点を低くし、LCPフィルムの被着体への熱圧着時の成型加工性を高め、或いはLCPフィルムを金属箔に熱圧着した時に高いピール強度を得る等の観点から、芳香族ポリエステル系液晶ポリマーに対するモノマー成分Aのモル比換算の含有割合は、10モル%以上70モル%以下が好ましく、10モル%以上50モル%以下がより好ましく、10モル%以上40モル%以下がさらに好ましく、15モル%以上30モル%以下がより好ましい。同様に、芳香族ポリエステル系液晶ポリマーに対するモノマー成分Bのモル比換算の含有割合は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、50モル%以上90モル%以下がより好ましく、60モル%以上90モル%以下がさらに好ましく、70モル%以上85モル%以下がより好ましい。
【0032】
また、芳香族ポリエステル系液晶ポリマーに含まれていてもよいモノマー成分Cの含有割合は、モル比換算で10質量%以下が好ましく、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、好ましくは3質量%以下である。
【0033】
なお、液晶ポリエステルの合成方法は、公知の方法を適用することができ、特に限定されない。上述したモノマー成分によるエステル結合を形成させる公知の重縮合法、例えば溶融重合、溶融アシドリシス法、スラリー重合法等を適用することができる。これらの重合法を適用する際、常法にしたがい、アシル化ないしはアセチル化工程を経てもよい。
【0034】
オキサゾリン基含有ポリマーは、分子中に少なくとも2以上のオキサゾリン基を有する重合体である。オキサゾリン基含有ポリマーを含有することにより、フィルム形成工程(S2)で生ずるLCPフィルムのフィルム面内方向の異方性を、加圧加熱工程(S3)において、液晶ポリエステルとの架橋ないしは液晶ポリエステルとの相溶化促進等により、効果的に低減させることが可能となる。オキサゾリン基含有ポリマーは、公知のものの中から適宜選択して用いることができ、その種類は特に限定されない。例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリンおよび2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の重合性基を有するオキサゾリン化合物を含有するモノマーの重合、オキサゾニル基含有不飽和単量体とビニルモノマー(例えばスチレンおよび/またはアクリロニトリル)との共重合、オキサゾニル基含有不飽和単量体と液晶ポリエステル及び液晶ポリエステル樹脂組成物を除く熱可塑性樹脂(例えばポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体)とのグラフト共重合等により得ることができる。また、オキサゾリン基ポリマーは、熱可塑性樹脂の改質剤や架橋剤等の各種用途で用いられており、これら公知のものから適宜選択して用いることができる。オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、例えば、日本触媒社製のエポクロス(登録商標)、エポクロス(登録商標)RPSシリーズ、エポクロス(登録商標)RASシリーズ等が市販されている。なお、オキサゾリン基含有ポリマーは、それぞれ1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0035】
上述したオキサゾリン基含有ポリマーの総含有割合は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、LCP樹脂組成物の総量100質量部に対して、固形分換算で1~20質量部が好ましく、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは1.5~10質量部である。オキサゾリン基含有ポリマーの含有割合が上記の好ましい範囲内にあることで、LCPフィルムのフィルム面内方向の異方性の低減効果が効果的に発揮される傾向にある。オキサゾリン基含有ポリマーの含有割合が上記の好ましい範囲を超えると、液晶ポリエステルの含有割合が相対的に低減して、機械的特性、電気特性、高周波特性、耐熱性等の基本性能が低下する傾向にあるため、本発明による異方性の低減効果と液晶ポリエステルの基本性能の低下とのバランスを考慮して、オキサゾリン基含有ポリマーの含有割合を調整すればよい。
【0036】
また、本実施形態のLCP樹脂組成物は、上述した液晶ポリエステル及びオキサゾリン基含有ポリマー以外に、ポリアリレートをさらに含有していることが好ましい。非晶性ポリマーであるポリアリレートを含有することにより、加圧加熱工程(S3)において、液晶ポリエステルとの相溶化促進等により、効果的に低減させることが可能となる。ポリアリレートとしては、公知のものの中から適宜選択して用いることができ、その種類は特に限定されない。例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、又はこれらの混合物等の芳香族ジカルボン酸単位と、ビスフェノール等のジフェノール単位とから構成される非晶質ポリエステルカーボネートが好ましい。また、ポリアリレートの市販品としては、例えば、ユニチカ株式会社製のUポリマー(登録商標)、米国のセラニーズ社製のデュレル(登録商標)等が知られている。なお、ポリアリレートは、それぞれ1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0037】
上述したポリアリレートの総含有割合は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、LCP樹脂組成物の総量100質量部に対して、固形分換算で1~20質量部が好ましく、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは1.5~10質量部である。ポリアリレートの含有割合が上記の好ましい範囲内にあることで、LCPフィルムのフィルム面内方向の異方性の低減効果が効果的に発揮される傾向にある。ポリアリレートの含有割合が上記の好ましい範囲を超えると、液晶ポリエステルやオキサゾリン基含有ポリマーの含有割合が相対的に低減して、機械的特性、電気特性、高周波特性、耐熱性等の基本性能が低下したり、本発明による異方性の低減効果が低下したりする傾向にあるため、本発明による異方性の低減効果と液晶ポリエステルの基本性能の低下とのバランスを考慮して、ポリアリレートの含有割合を調整すればよい。
【0038】
なお、本実施形態のLCP樹脂組成物は、上述した成分以外に、本発明の効果を過度に損なわない範囲で、当業界で公知の添加剤、例えば炭素数10~25の高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、ポリシロキサン、フッ素樹脂等の離型改良剤;染料、顔料、カーボンブラック等の着色剤;有機充填剤;無機充填剤;酸化防止剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;難燃剤;滑剤;帯電防止剤;界面活性剤;防錆剤;発泡剤;消泡剤;蛍光剤等を含んでいてもよい。これらの添加剤は、LCPフィルムの製膜時に溶融樹脂組成物に含ませることができる。これらの添加剤は、それぞれ1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。添加剤の含有量は、特に限定されないが、成型加工性や熱安定等の観点から、LCPフィルムの総量に対して、0.01~10質量%が好ましく、より好ましくは0.1~7質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%である。
【0039】
本実施形態のLCP樹脂組成物の調製は、常法にしたがって行えばよく、特に限定されない。上述した各成分を、例えば混練、溶融混錬、造粒、押出成形、プレス又は射出成形等の公知の方法によって製造及び加工することができる。なお、溶融混練を行う際には、一般に使用されている一軸式又は二軸式の押出機や各種ニーダー等の混練装置を用いることができる。これらの溶融混練装置に各成分を供給するに際し、液晶ポリエステルやポリマー材料等を予めタンブラーやヘンシェルミキサー等の混合装置を用いてドライブレンドしてもよい。溶融混練の際、混練装置のシリンダー設定温度は、適宜設定すればよく特に限定されないが、一般的に液晶ポリエステルの融点以上360℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは液晶ポリエステルの融点+10℃以上360℃以下である。
【0040】
<フィルム形成工程(S2)>
このフィルム形成工程(S2)では、上述したLCP樹脂組成物を、例えばTダイ法等の公知の溶融押出製膜法によりフィルム状に製膜して、TD方向の線膨張係数(α2)が50ppm/K以上のLCPフィルムを形成する。なお、本明細書において、線膨張係数は、熱履歴を解消した値を見るために、LCPフィルム又は回路基板用LCPフィルム11を5℃/分の昇温速度で加熱(1st heating)した後に測定環境温度(23℃)まで冷却(1st cooling)し、その後に5℃/分の昇温速度で2回目の加熱(2nd heating)したときの値を意味する。また、その他については、後述する実施例に記載の測定条件に従うものとする。
【0041】
具体的には、例えば上述したLCP樹脂組成物を押出機で溶融混練し、口金(例えばTダイ)を通して溶融樹脂を押出すことによって、LCPフィルムを得ることができる。このとき、溶融混練の過程を経ず、各成分を予めドライブレンドしておき、溶融押出の操作中に混練して、LCP樹脂組成物を調製するとともにLCPフィルムをそのまま得ることもできる。このような製膜時における押出機の設定条件は、使用するLCP樹脂組成物の種類や組成、目的とするLCPフィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的には、押出機のシリンダーの設定温度は230~360℃が好ましく、より好ましくは280~350℃である。また、例えばTダイのスリット間隙も同様に、使用するLCP樹脂組成物の種類や組成、目的とするLCPフィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが。一般的には0.1~1.5mmが好ましく、より好ましくは0.1~0.5mmである。
【0042】
得られるLCPフィルムの厚みは、要求性に応じて適宜設定でき、特に限定されない。Tダイ溶融押出成形時の取扱性や生産性等を考慮すると、10μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以上300μm以下、さらに好ましくは30μm以上250μm以下である。
【0043】
LCPフィルムの融点(融解温度)は、特に限定されないが、フィルムの耐熱性や加工性等の観点から、融点(融解温度)が200~400℃であることが好ましく、とりわけ金属箔への熱圧着性を高める観点から、250~360℃が好ましく、より好ましくは260~355℃、さらに好ましくは270~350℃、特に好ましくは275~345℃である。なお、本明細書において、LCPフィルムの融点は、熱履歴を解消した値を見るために、圧着に供するLCPフィルムを20℃/分の昇温速度で加熱(1st heating)した後に50℃/分の降温速度で冷却(1st cooling)し、その後に20℃/分の昇温速度で2回目の加熱(2nd heating)したときの示差走査熱量測定法(DSC)における融解ピーク温度を意味する。また、その他については、後述する実施例に記載の測定条件に従うものとする。
【0044】
上記のLCP樹脂組成物を溶融押出ししてLCPフィルムをTダイ溶融押出成形すると、典型的には、MD方向(Machine Direction;長手方向)の線膨張係数(CTE,α2)が-40~40ppm/Kであり、TD方向(Transverse Direction;横手方向の線膨張係数(CTE,α2)が50~120ppm/KであるLCPフィルムが得られ易い。また、上記のLCP樹脂組成物を溶融押出ししてLCPフィルムをTダイ溶融押出成形すると、典型的には、MD方向の引張弾性率YMDとTD方向の引張弾性率YTDの比(YMD/YTD)が2以上10以下であるLCPフィルムが得られ易い。このような物性が得られるのは、Tダイ溶融押出成形時にMD方向に液晶ポリエステルの主鎖が配向され易い傾向にあるとともに、Tダイ溶融押出成形時に液晶ポリエステルの異方性用溶融相が存在するためである。
【0045】
このように、フィルム形成工程(S2)では、配向度が高い(異方性が大きな)LCPフィルムが形成され易い。本発明では、このように配向度が高いLCPフィルムであっても、上記組成のLCP樹脂組成物を用いて加圧加熱工程(S3)を行うことにより、その配向性(異方性)を大幅に低減することができるため、従来は産業上の利用可能性が乏しいとされてきた、配向度が高いLCPフィルムを半製品(中間品)として利用できることに特徴の1つがある。そのため、配向度が極めて高い(異方性が極めて大きな)LCPフィルムを利用した場合に、本発明の効果が、より顕在化される傾向にある。なお、LCPフィルムのMD方向の線膨張係数(CTE,α2)は、特に限定されないが、好ましくは-40~0ppm/Kであり、より好ましくは-30~0ppm/Kである。また、LCPフィルムのTD方向の線膨張係数(CTE,α2)は、特に限定されないが、好ましくは50~120ppm/Kであり、より好ましくは50~100ppm/Kである。さらに、得られるLCPフィルムのMD方向の引張弾性率YMDとTD方向の引張弾性率YTDの比(YMD/YTD)は、特に限定されないが、好ましくは2~9であり、より好ましくは3~8である。
【0046】
<加圧加熱工程(S3)>
この加圧加熱工程(S3)では、上述した配向度が高い(異方性が大きな)LCPフィルムを加圧加熱処理して、その配向度(異方性)を低減させて、TD方向の線膨張係数(CTE,α2)が16.8±12ppm/Kの回路基板用LCPフィルム11を得る。この加圧加熱により、液晶ポリエステルのポリマー鎖の配向性を緩和させ、フィルム寸法安定性を予め向上させて金属箔への密着性を優れたものにすることができる。
【0047】
加熱加圧処理は、当業界で公知の方法、例えば接触式の熱処理、非接触性の熱処理等を用いて行えばよく、その種類は特に限定されない。例えば非接触式ヒーター、オーブン、ブロー装置、熱ロール、冷却ロール、熱プレス機、ダブルベルト熱プレス機等の公知の機器を用いて熱セットすることができる。このとき、必要に応じて、LCPフィルムの表面に、当業界で公知の剥離フィルムや多孔質フィルムを配して、熱処理を行うことができる。また、この熱処理を行う場合、配向性の制御の観点から、LCPフィルムの表裏に剥離フィルムや多孔質フィルムを配してダブルベルトプレス機のエンドレスベルト対の間に挟持しながら熱圧着し、その後に剥離フィルムや多孔質フィルムを除去する熱圧成形方法が好ましく用いられる。熱圧成形方法は、例えば特開2010-221694号等を参照して行えばよい。上記のLCP樹脂組成物を用いたLCPフィルムをダブルベルトプレス機のエンドレスベルト対の間で熱圧成形する際の処理温度としては、LCPフィルムの結晶状態を制御するため、液晶ポリエステルの融点より高い温度以上、融点より70℃高い温度以下で行うことが好ましく、より好ましくは融点より+5℃高い温度以上、融点より60℃高い温度以下、さらに好ましくは融点より+10℃高い温度以上、融点より50℃高い温度以下である。このときの熱圧着条件は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、面圧0.5~10MPaで加熱加圧時間250~430℃の条件下で行うことが好ましく、より好ましくは面圧0.6~8MPaで加熱加圧時間260~400℃の条件下、さらに好ましくは面圧0.7~6MPaで加熱加圧時間270~370℃の条件下である。一方、非接触式ヒーターやオーブンを用いる場合には、例えば200~320℃で1~20時間の条件下で行うことが好ましい。
【0048】
(回路基板用LCPフィルム)
加圧加熱工程(S3)処理後に得られる回路基板用LCPフィルム11の厚みは、要求性に応じて適宜設定でき、特に限定されない。加圧加熱処理時の取扱性や生産性等を考慮すると、10μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以上300μm以下、さらに好ましくは30μm以上250μm以下である。
【0049】
回路基板用LCPフィルム11のTD方向の線膨張係数(CTE,α2)は、特に限定されないが、金属箔への密着性を高める観点から、16.8±12ppm/Kであることが好ましく、より好ましくは16.8±10ppm/K、さらに好ましくは16.8±8ppm/Kである。TD方向の線膨張係数(CTE,α2)が50ppm/K以上という異方性の高いLCPフィルムを当初から被処理物として使用しているにも関わらず、TD方向の線膨張係数(CTE,α2)を大幅に低減できる点で、本発明は顕著な効果を有している。なお、電解銅箔への密着性を高める観点から、回路基板用LCPフィルム11の一態様においては、TD方向の線膨張係数(CTE,α2)は、5.0ppm/K以上16.0ppm/K以下が好ましく、より好ましくは6.0ppm/K以上16.0ppm/K以下、さらに好ましくは7.0ppm/K以上16.0ppm/K以下である。
【0050】
回路基板用LCPフィルム11のMD方向の線膨張係数(CTE,α2)は、特に限定されないが、金属箔への密着性を高める観点から、0~40ppm/Kであることが好ましく、より好ましくは0~30ppm/Kであり、さらに好ましくは0~20ppm/Kである。なお、フィルム厚み方向の線膨張係数(CTE,α2)は、特に限定されないが、150ppm/K以下であることが好ましい。
【0051】
一方、回路基板用LCPフィルム11のMD方向の引張弾性率YMDとTD方向の引張弾性率YTDの比(YMD/YTD)は、フィルム面内方向の異方性を低減する観点から、0.8以上2.0以下が好ましく、より好ましくは0.9以上1.5以下、さらに好ましくは0.95以上1.2以下である。
【0052】
なお、回路基板用LCPフィルム11の誘電特性は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。より高い誘電特性を得る観点から、比誘電率εrは3.0~3.9が好ましく、より好ましくは3.0~3.6である。また、誘電正接tanδ(36GHz)は0.0005~0.0030が好ましく、より好ましくは0.0005~0.0025である。
【0053】
回路基板用LCPフィルム11の融点(融解温度)は、特に限定されないが、フィルムの耐熱性や加工性等の観点から、融点(融解温度)が200~400℃であることが好ましく、とりわけ金属箔への熱圧着性を高める観点から、250~360℃が好ましく、より好ましくは260~355℃、さらに好ましくは270~350℃、特に好ましくは275~345℃である。なお、本明細書において、回路基板用LCPフィルム11の融点は、上記LCPフィルムの融点と同様の測定条件で測定される値を意味する。
【0054】
(金属箔張積層板)
図3は、本実施形態の金属箔張積層板31の一例を示す概略模式図である。本実施形態の金属箔張積層板体31(金属箔ラミネートLCPフィルム)は、上述した回路基板用LCPフィルム11と、この回路基板用LCPフィルム11の少なくとも一方の表面上に設けられた、1以上の金属箔21を備えるものである。ここで本明細書において、「~の一方(他方)の面側に設けられた」とは、回路基板用LCPフィルム11の一方の表面11aのみに金属箔21が設けられた態様のみならず、回路基板用LCPフィルム11の他方の表面11bに金属箔21が設けられた態様、回路基板用LCPフィルム11の双方の表面11a,11bに金属箔21が設けられた態様のいずれをも包含する概念である。
【0055】
金属箔21の材質としては、特に限定されないが、金、銀、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等が挙げられる。これらの中でも、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔、及び銅とアルミニウムとの合金箔が好ましく、銅箔がより好ましい。かかる銅箔としては、圧延法或いは電気分解法等によって製造されるいずれのものでも使用できるが、表面粗さが比較的に大きい電解銅箔や圧延銅箔が好ましい。金属箔21の厚さは、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。通常は1.5~1000μmが好ましく、より好ましくは2~500μm、さらに好ましくは5~150μm、特に好ましくは7~100μmである。なお、本発明の作用効果が損なわれない限り、金属箔21は、酸洗浄等の化学的表面処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0056】
回路基板用LCPフィルム11の表面11a,11bに金属箔21を設ける方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。回路基板用LCPフィルム11上に金属箔21を積層して両層を接着ないしは圧着させる方法、スパッタリングや蒸着等の物理法(乾式法)、無電解めっきや無電解めっき後の電解めっき等の化学法(湿式法)、金属ペーストを塗布する方法等のいずれであってもよい。
【0057】
好ましい積層方法としては、回路基板用LCPフィルム11と金属箔21とを重ね合わせ、回路基板用LCPフィルム11上に金属箔21が載置された積層体とし、この積層体をダブルベルトプレス機のエンドレスベルト対の間に挟持しながら熱圧成形する方法が挙げられる。上述したとおり、本実施形態で用いる回路基板用LCPフィルム11は、液晶ポリエステルが有する優れた基本性能を過度に損なうことなく、TD方向の線膨張係数(CTE,α2)が大幅に低減され、好ましい態様ではMD方向の引張弾性率YMDとTD方向の引張弾性率YTDの異方性が十分に低減されているので、従来に比して、金属箔21への高いピール強度が得られる。そのため、回路基板や金属箔張積層板31の製造時のプロセス裕度を高めることができ、また、生産性及び経済性が高められる。
【0058】
金属箔21の熱圧着時の温度は、要求性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、液晶ポリエステルの融点より50℃低い温度以上であり融点以下が好ましく、同融点より40℃低い温度以上であり融点以下がより好ましく、同融点より30℃低い温度以上であり融点以下がさらに好ましく、同融点より20℃低い温度以上であり融点以下が特に好ましい。なお、金属箔21の熱圧着時の温度は、前述した積層体のLCPフィルムの表面温度で測定した値とする。また、このときの圧着条件は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、例えばダブルベルトプレス機を用いる場合、面圧0.5~10MPaで加熱時間200~360℃の条件下で行うことが好ましい。
【0059】
本実施形態の金属箔張積層板31は、回路基板用LCPフィルム11と金属箔21との二層構造の熱圧着体を備える限り、さらなる積層構造を有していてもよい。例えば金属箔21/回路基板用LCPフィルム11の2層構造;金属箔21/回路基板用LCPフィルム11/金属箔21、回路基板用LCPフィルム11/金属箔21/回路基板用LCPフィルム11のような3層構造;金属箔21/回路基板用LCPフィルム11/金属箔21/回路基板用LCPフィルム11/金属箔21のような5層構造;等、上述した二層構造を少なくとも有する多層構造とすることができる。また、複数(例えば2~50個)の金属箔張積層板31を、積層熱圧着させることもできる。
【0060】
本実施形態の金属箔張積層板31において、回路基板用LCPフィルム11と金属箔21とのピール強度は、特に限定されないが、より高いピール強度を具備させる観点から、1.0(N/mm)以上であることが好ましく、より好ましくは1.1(N/mm)以上、さらに好ましくは1.2(N/mm)以上である。上述したとおり、本実施形態の金属箔張積層板31では、従来技術に対してより高いピール強度を実現できるため、例えば基板製造の加熱工程で回路基板用LCPフィルム11と金属箔21との剥離を抑制できる。また、従来技術と同等のピール強度を得るにあたって緩和な製造条件を適用することができるため、従来と同程度のピール強度を維持したまま、液晶ポリエステルが有する基本性能の劣化を抑制することができる。
【0061】
本実施形態の金属箔張積層板31は、金属箔21の少なくとも一部をパターンエッチングする等して、電子回路基板や多層基板等の素材として使用することができ、また、高放熱基板、アンテナ基板、光電子混載基板、ICバッケージ等の用途に用いることができる。また、本実施形態の金属箔張積層板31は、高周波特性及び低誘電性に優れ、回路基板用LCPフィルム11と金属箔21との密着性に優れ、また寸法安定性が良好なものとすることができるため、第5世代移動通信システム(5G)やミリ波レーダー等におけるフレキシブルプリント配線板(FPC)等の絶縁材料として殊に有用な素材となる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい数値範囲は前記の上限値又は下限値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0063】
(実施例1)
LCPの合成
撹拌機及び減圧蒸留装置を備える反応槽にp-ヒドロキシ安息香酸(74モル%)と、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(26モル%)と、全モノマー量に対し1.025倍モルの無水酢酸を仕込み、窒素雰囲気下で150℃まで反応槽を昇温し、30分保持した後、副生する酢酸を留去させつつ190℃まですみやかに昇温し、1時間保持し、アセチル化反応物を得た。得られたアセチル化反応物を320℃まで3.5時間かけて昇温した後、約30分かけて2.7kPaにまで減圧して溶融重縮合を行ったのち、徐々に減圧して常圧に戻し、ポリマー固形物を得た。得られたポリマー固形物を粉砕し二軸押出機を用いて300℃で造粒して、p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる芳香族ポリエステル系液晶ポリマー(モル比74:26)のLCPペレットを得た。
【0064】
LCP樹脂組成物の調製
得られたLCPペレットとオキサゾリン基含有ポリマー(オキサゾリン成分5質量%含有ポリスチレン、商品名:エポクロスRPS-1005、(株)日本触媒製)とを表1に記載の割合で供給し、二軸押出機を用いて300℃で混合・反応・造粒することで、LCP樹脂組成物ペレットを得た。
【0065】
LCPフィルムの製造
得られたLCP樹脂組成物ペレットを用いて、Tダイキャスティング法で300℃にて製膜することで、融解温度280℃及び厚さ50μmを有するLCP溶融押出フィルムを得た。
【0066】
加圧加熱処理済みLCPフィルムの製造
得られたLCP溶融押出フィルムに、ダブルベルト熱プレス機を用いて320℃で30秒間の接触式の熱処理をすることで、融解温度280℃及び厚さ50μmを有する加圧加熱処理済みLCPフィルムを得た。
【0067】
(実施例2)
LCP樹脂組成物の調製
実施例1で得られたLCPペレットとオキサゾリン基含有ポリマー(オキサゾリン成分5質量%含有ポリスチレン、商品名:エポクロスRPS-1005、(株)日本触媒製)とポリアリレート(商品名:Uポリマー POWDER CK、ユニチカ(株)製)(PAR)とを表1に記載の割合で供給し、二軸押出機を用いて300℃で混合・反応・造粒することで、LCP樹脂組成物ペレットを得た。
【0068】
LCPフィルムの製造
得られたLCP樹脂組成物ペレットを用いて、Tダイキャスティング法で300℃にて製膜することで、融解温度280℃及び厚さ50μmを有するLCP溶融押出フィルムを得た。
【0069】
加圧加熱処理済みLCPフィルムの製造
得られたLCP溶融押出フィルムに、ダブルベルト熱プレス機を用いて320℃で30秒間の接触式の熱処理をすることで、融解温度280℃及び厚さ50μmを有する加圧加熱処理済みLCPフィルムを得た。
【0070】
(比較例1)
オキサゾリン基含有ポリマーの配合を省略する以外は、実施例1と同様にして、LCP樹脂組成物を調製し、融解温度280℃及び厚さ50μmを有するLCPフィルム、及び、融解温度280℃及び厚さ50μmを有する加圧加熱処理済みLCPフィルムを得た。
【0071】
<性能評価>
実施例1及び2並びに比較例1で得られたLCPフィルムと加圧加熱処理済みLCPフィルムとの性能評価を行った。なお、測定条件は、それぞれ以下のとおりである。
【0072】
[線膨張係数]
測定機器: TMA 4000SE(NETZSCH社製)
測定方法: 引張モード
測定条件: サンプルサイズ 20mm×4mm×厚み50μm
温度区間 室温~200℃(2ndRUN)
昇温速度 5℃/min
雰囲気 窒素(流量50ml/min)
試験荷重 5gf
※熱履歴を解消した値をみるため、2ndRUNの値を採用
【0073】
[引張弾性率]
測定機器: ストログラフVE1D(東洋精機製作所社製)
測定方法: 引張試験
測定環境: 温度23℃相対湿度50%
測定条件: サンプルサイズ ダンベル型、厚み50μm
試験速度 50mm/min
標線距離 25mm
【0074】
[比誘電率εr、誘電正接tanδ(36GHz)電気特性]
測定方法: 円筒空洞共振器法
測定環境: 温度23℃相対湿度50%
測定条件: サンプルサイズ 15mm×15mm×厚み200μm
Cavity 36GHz
【0075】
[耐熱性]
測定機器: DSC8500(PerkinElmer社製)
測定方法: 示差走査熱量測定法(DSC)
測定条件: 温度区間 30~400℃
1st heating 20℃/min
1st cooling 50℃/min
2nd heating 20℃/min
※熱履歴を解消した値をみるため、2ndRUNの値を採用
【0076】
【0077】
(実施例3~5)
オキサゾリン基含有ポリマーとポリアリレートの配合割合を表2に記載のとりに変更する以外は、実施例1と同様にして、LCP樹脂組成物を調製し、融解温度280℃及び厚さ50μmを有するLCPフィルム、及び、融解温度280℃及び厚さ50μmを有する加圧加熱処理済みLCPフィルムを得た。
【0078】
<性能評価>
実施例1~5並びに比較例1で得られたLCPフィルムと加圧加熱処理済みLCPフィルムとの性能評価を行った。
【0079】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の回路基板用LCPフィルム等は、電子回路基板、多層基板、高放熱基板、フレキシブルプリント配線板、アンテナ基板、光電子混載基板、ICバッケージ等の用途において広く且つ有効に利用可能であり、とりわけ高周波特性及び低誘電性に優れることから、第5世代移動通信システム(5G)やミリ波レーダー等におけるフレキシブルプリント配線板(FPC)等の絶縁材料として殊に広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
11 ・・・回路基板用LCPフィルム
11a・・・表面
11b・・・表面
21 ・・・金属箔
31 ・・・金属箔張積層板