(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物の共重合樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 232/08 20060101AFI20240906BHJP
C08F 212/06 20060101ALI20240906BHJP
C08F 2/06 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C08F232/08
C08F212/06
C08F2/06
(21)【出願番号】P 2021564053
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046223
(87)【国際公開番号】W WO2021117854
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019225762
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】澤田 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】飯島 義和
(72)【発明者】
【氏名】岩村 恭平
(72)【発明者】
【氏名】川手 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】加賀 慎之介
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/147027(WO,A1)
【文献】特表2004-515618(JP,A)
【文献】特開2004-026903(JP,A)
【文献】特開昭64-051416(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168654(WO,A1)
【文献】特開2015-124246(JP,A)
【文献】特開昭51-17291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 232/00-232/08
C08F 212/00-212/36
C08F 2/00- 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを熱重合する共重合樹脂の製造方法であって、
前記ビニル芳香族化合物が下記式(1):
【化1】
(式中、R
1は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である。)
で示される化合物であり、
下記工程(A)および(B):
(A)反応系内の予熱した溶媒中に重合原料として前記ジシクロペンタジエンと上記式(1)で示されるビニル芳香族化合物を連続的に投入し、同時に溶媒と前記重合原料を含む反応液の一部を反応系外へ抜出しながら、前記重合原料の昇温を行う、原料投入工程と、
(B)原料投入工程後、反応系内において240℃~280℃の範囲で前記重合原料を加温して、重合反応を進行させて、重合反応物を得る反応工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
工程(A)における前記重合原料の平均滞留時間が5分~120分である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(A)における前記溶媒の予熱温度が180℃~280℃の範囲である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(B)において、重合原料である前記ビニル芳香族化合物と前記ジシクロペンタジエンおよび前記ビニル芳香族化合物と前記ジシクロペンタジエンとの重合物を含む反応性成分の合計濃度が、前記反応性成分および前記溶媒を含む反応液全体の35質量%~60質量%の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(B)において得られた重合反応物のZ平均分子量が1000以上4000以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
重合溶媒が芳香族炭化水素化合物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
(C)前記反応工程後に、重合反応物を精製する後処理工程、
をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(C)で得られた共重合樹脂のZ平均分子量が、1000以上3000以下である、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを熱重合する共重合樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、接着が速く、無溶剤かつ無害で、対候性、耐熱性、経済性に優れるため、製本、包装、製缶、縫製、衛生材料などの分野に広く用いられている。一般に、ホットメルト接着剤の構成成分は、ベースポリマー、粘着付与樹脂、可塑剤、充填剤および酸化防止剤などに大別され、中でも、粘着付与樹脂は、ホットメルト接着剤の性能に大きく寄与することが知られている。
【0003】
粘着付与樹脂は、溶融塗布時にヌレやホットタックを付与させ、被着体表面に対する接着性を向上させる。また、ホットメルトにした際の溶融粘度を制御することで、作業性を向上させる、ホットメルト時の耐熱性を調整できるといった特徴を有するため、粘着付与樹脂はホットメルト接着剤の成分として多く配合される。粘着付与樹脂として用いられる樹脂を大別すると、ロジンおよびロジン誘導体、テルペン樹脂、石油樹脂に分類されるが、最近では、紙おむつなどの衛生材料用としての需要から、相溶性や耐熱性、安全性、コストなどに優れた石油樹脂が多く使われている。石油樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂が良く用いられている。
【0004】
上記の石油樹脂の中でも、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との共重合樹脂は、性能とコストのバランスが優れている。一般的に、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との共重合樹脂は熱重合反応によって得られる。熱重合反応が可能なビニル芳香族化合物としては、得られた樹脂の色相及び粘着付与特性の点においてスチレンが好適に使用される。しかしながら、スチレンを大量に使用する条件や、ジシクロペンタジエンとの共重合が進行しない低温条件ではスチレンが単独重合した高分子量体が生成し、粘着付与剤として使用する際の問題となる。
【0005】
また、ジシクロペンタジエンについても熱重合反応を短時間で行う方が好ましく、反応が長時間に及んだ場合、ジシクロペンタジエン由来の難溶性物質(ワックス)が生成し、製造工程におけるフィルターのつまりや、粘着付与剤として使用する際の問題となる。
【0006】
ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との熱重合反応は一般的にバッチ式により行われている(特許文献1、2)。代表的には溶媒を反応温度まで加熱し、溶媒中にジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物の混合物を投入して重合を行うことで、部分的に芳香族化合物を導入した共重合樹脂が得られる(滴下重合法)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-130820号公報
【文献】特表2004-515618号公報
【発明の概要】
【発明が解決すべき課題】
【0008】
バッチ式の重合は、反応温度の制御や収率の増加という観点では利点を有するものの、大量生産における装置サイズの増大や、各工程における運転の煩雑さが問題である。一方、連続的に重合を行うと、装置サイズの縮小化や、各工程の運転の簡略化が可能である。
【0009】
連続的に樹脂を製造する方法として、押し出し流れ反応器(PFR)、連続槽型反応器(CSTR)等を用いた方法が一般的である。しかしながら、PFRでの連続反応では、重合原料の昇温中に反応温度が低い状態を経由するため、ビニル芳香族化合物の高分子量体やジシクロペンタジエンの難溶性物質が生成する。また、CSTRでは、重合原料の滞留時間に広い分布が発生することにより、生成した樹脂も広い分子量分布を有し、特に低分子量体が多く生成することから収率が低下する。
【0010】
本発明では、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との熱重合反応において、ビニル芳香族化合物の高分子量体やジシクロペンタジエンの難溶性物質(ワックス)の発生を抑制し、かつ高収率で連続的に樹脂を製造することができるジシクロペンタジエンとビニル芳香族の共重合樹脂の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意検討した結果、反応系中の予熱した溶媒に重合原料としてジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを連続的に投入し、同時に溶媒と重合原料を含む反応液の一部を反応系外へ抜出しながら、重合原料の昇温を行う原料投入工程を実施することで、顕熱を利用した重合原料の急昇温が可能となり、ビニル芳香族化合物の高分子量体やジシクロペンタジエンの難溶性物質の発生が抑制できることを見出した。さらに、原料投入工程後に反応工程を設けることで、重合反応が所望の分子量まで進行し、収率が向上することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の<1>~<8>を提供するものである。
<1> ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを熱重合する共重合樹脂の製造方法であって、
前記ビニル芳香族化合物が下記式(1):
【化1】
(式中、R
1は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である。)
で示される化合物であり、
下記工程(A)および(B):
(A)反応系内の予熱した溶媒中に重合原料として前記ジシクロペンタジエンと上記式(1)で示されるビニル芳香族化合物を連続的に投入し、同時に溶媒と前記重合原料を含む反応液の一部を反応系外へ抜出しながら、前記重合原料の昇温を行う、原料投入工程と、
(B)原料投入工程後、反応系内において240℃~280℃の範囲で前記重合原料を加温して、重合反応を進行させて、重合反応物を得る反応工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
<2> 工程(A)における前記重合原料の平均滞留時間が5分~120分である、<1>に記載の製造方法。
<3> 工程(A)における前記溶媒の予熱温度が180℃~280℃の範囲である、<1>または<2>に記載の製造方法。
<4> 工程(B)において、重合原料である前記ビニル芳香族化合物と前記ジシクロペンタジエンおよび前記ビニル芳香族化合物と前記ジシクロペンタジエンとの重合物を含む反応性成分の合計濃度が、前記反応性成分および前記溶媒を含む反応液全体の35質量%~60質量%の範囲である、<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5> 工程(B)において得られた重合反応物のZ平均分子量が1000以上4000以下である、<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6> 重合溶媒が芳香族炭化水素化合物である、<1>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7>(C)前記反応工程後に、重合反応物を精製する後処理工程、
をさらに含む、<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法。
<8> 工程(C)で得られた共重合樹脂のZ平均分子量が1000以上3000以下である、<7>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法は、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを熱重合する方法であって、ビニル芳香族化合物の高分子量体やジシクロペンタジエンの難溶性物質の発生を抑制し、かつ高収率で連続的に共重合樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<共重合樹脂の製造方法>
本発明のジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物の共重合樹脂の製造方法は、少なくとも、下記の工程(A)および(B)を含むものであり、さらに工程(C)を含んでもよい。以下、各工程を説明する。
【0015】
<工程(A)>
工程(A)は、原料投入工程である。原料投入工程は、反応系内の予熱した溶媒中に重合原料を連続的に投入し、同時に溶媒と重合原料を含む反応液の一部を反応系外へ抜出を行いながら、重合原料の昇温を行う工程である。
【0016】
具体的には、予熱温度まで昇温した重合溶媒中に、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物と溶媒とを含む混合液を連続的に投入することで、顕熱を利用した重合原料の急昇温が可能となる。同時に溶媒と重合原料を含む反応液の一部を反応系外へ抜出を連続的に行い、系内の重合原料の滞留時間を調整することで、樹脂の分子量分布を狭くすることができる。なお、投入する混合液において、重合原料であるジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物の濃度を調整することが好ましい。
【0017】
原料投入工程に用いられるビニル芳香族化合物は下記式(1):
【化2】
(式中、R
1は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である。)
で示される化合物である。
【0018】
R1で示されるアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素数1~7のアルキル基がより好ましい。また、アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基等が挙げられる。また、シクロアルキル基としては、炭素数3~7のシクロアルキル基が好ましい。例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基等が挙げられる。また、アリール基としては、炭素数6~12のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。また、アラルキル基としては、炭素数7~20のアラルキル基が好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0019】
原料投入工程で用いられるビニル芳香族化合物の具体的な例としては、スチレン、p-メチルスチレン、およびp-tert-ブチルスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。なお、ナフサクラッカー等から回収される、20~50質量%のビニル芳香族化合物を含む未精製のスチレン留分を原料として用いることができる。また、ビニル芳香族化合物には重合禁止剤等の安定化剤が含まれていてもよい。
【0020】
原料投入工程で用いられるジシクロペンタジエンは特に限定されず、30~100質量%のジシクロペンタジエンを含む高純度ジシクロペンタジエン又は未精製ジシクロペンタジエン留分をジシクロペンタジエン原料として用いることができる。
【0021】
原料投入工程の重合原料の平均滞留時間は、5分~120分が好ましく、10分~100分がより好ましく、30分~90分がさらに好ましい。平均滞留時間が5分以上であれば、重合反応を進行させて、所望の分子量を得ることができ、120分以下であれば、共重合樹脂の高分子量化を抑制することができる。重合に用いる装置や重合条件によるが、本発明の実施形態においては、平均滞留時間〈min〉は、(初期張りの溶媒の使用量〈g〉/重合原料の投入(抜出)速度〈g/min〉)で示される。
【0022】
原料投入工程の予熱温度は、180℃~280℃が好ましく、250℃~270℃がより好ましい。予熱温度が180℃以上であれば、ビニル芳香族化合物が単独重合した高分子量体やジシクロペンタジエンの難溶性物質の生成を抑制し易く、280℃以下であれば、重合反応の急激な進行を抑制することができる。予熱方式は特に限定されないが、例えば回分式や外部循環式による予熱が挙げられる。
【0023】
投入する重合原料は、得られる樹脂の芳香族含有量や分子量の目標値応じて適宜設定されるが、反応器内に投入するジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物および溶媒を含む混合液の合計質量に対し、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物の合計質量の割合が35~60質量%であることが好ましく、40~50質量%がより好ましい。ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物の比率は、ビニル芳香族100質量部に対して、ジシクロペンタジエンが、95~190質量部が好ましく、130~160質量部がより好ましい。ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物については前記の留分を使用しても良い。なお、未精製の留分を用いる場合はジシクロペンタジエンやビニル芳香族化合物以外の未反応成分を重合溶媒として扱っても良い。
【0024】
重合反応においては、生成する樹脂の性状を一定範囲内に制御するため、次の反応工程に移す時点でのモノマー成分の濃度を特定の範囲に保つ必要がある。したがって、重合原料の連続的な投入と、溶媒と重合原料を含む反応液の一部の抜出は、反応系内中の反応性成分の濃度がおおよそ一定に保たれるまで継続する必要がある。具体的には、予熱のため初期張りしている溶媒の量に対し、3~5倍以上の溶媒と重合原料を含む混合液を投入し、反応液の一部を反応系外へ抜出をする。
【0025】
重合溶媒は熱重合反応の温度で使用可能であり、重合原料と反応しない溶媒であれば特に制限はないが、ビニル芳香族化合物以外の芳香族炭化水素化合物を使用することが好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが特に好ましい。
【0026】
予熱に使用する初期張りの溶媒の使用量としては、所望する平均滞留時間によって調整する。先述の式、平均滞留時間〈min〉=(初期張りの溶媒の使用量〈g〉/重合原料(反応液)の投入(抜出)速度〈g/min〉)から、所望の平均滞留時間と重合原料(反応液)の投入(抜出)速度、および装置サイズから適当な溶媒の使用量を設定する。
【0027】
原料投入工程の反応圧力は特に限定されず、0~10MPaGが好ましく、0.5~3MPaGがより好ましい。また、予熱温度による投入原料の蒸気圧でも良い。
【0028】
<工程(B)>
工程(B)は、反応工程である。反応工程は、重合原料を加温し、所望の分子量まで重合を進行させる工程である。
【0029】
反応工程の反応温度は、240℃~280℃が好ましく、250℃~260℃がより好ましい。反応温度が240℃以上280℃以下であれば、重合速度を所望の範囲内に調節することができる。また、反応工程においては、反応器の構成によっては、原料投入工程で使用した反応器から、別の反応器へ反応液を移送して重合原料の加温を行う場合もあるが、移送を行う際には反応液を温度低下させずに移送することが望ましい。
【0030】
反応工程において、重合原料であるビニル芳香族化合物とジシクロペンタジエンおよび原料投入工程で一部重合が進行したビニル芳香族化合物とジシクロペンタジエンとの重合物を含む反応性成分の合計濃度は、反応性成分および溶媒を含む反応液全体の35~60質量%であることが好ましく、40~50質量%であることがより好ましい。反応性成分の濃度が35質量%以上であれば重合速度を好適な範囲に保つことができ、60質量%以下であれば得られる共重合樹脂の分子量を好適な範囲に調節することができる。反応工程にて、反応性成分の濃度を先述の範囲に制御するため、原料投入工程における重合原料の投入量や平均滞留時間を適当に設定する。
【0031】
反応工程の反応時間は0.5~8時間が好ましく、より好ましくは3~5時間である。
【0032】
反応工程の反応圧力は、特に限定されず、0~10MPaGが好ましく、0.5~3MPaGがより好ましい。また、反応温度による原料投入工程後の反応物の蒸気圧でも良い。
【0033】
反応工程における、温度を一定の状態に保ち、系内を撹拌させながら反応させることが望ましい。反応方式は特に限定されず、回分式、外部循環式、PFRでも良い。
【0034】
反応工程において、重合反応を終了した時点での重合反応物のZ平均分子量(Mz)は1000以上4000以下が好ましく、2000以上3500以下がより好ましい。重合反応物のZ平均分子量が上記範囲内であれば、高分子量化を抑制することができる。なお、重合反応を終了した時点とは、所定の時間、加温を行った後に、加温を停止した時点を示す。
【0035】
<工程(C)>
工程(C)は、反応工程で得られた重合反応物を精製する後処理工程である。後処理工程では、樹脂の用途や求める樹脂の性能に応じて、精製や水素添加等の後処理を行うことができる。
【0036】
精製の例としては、エバポレーションやストリッピング、フラッシングによる溶媒や軽質分の除去が挙げられる。
【0037】
重合反応物を精製して得られたジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物の共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは500以上1500以下であり、より好ましくは600以上1100以下である。共重合樹脂の数平均分子量(Mn)は、好ましくは300以上600以下であり、より好ましくは400以上500以下である。共重合樹脂のZ平均分子量(Mz)は、好ましくは500以上6000以下であり、より好ましくは1000以上4000以下である。共重合樹脂の分子量分布(Mw/Mn)好ましくは1.2以上5.0以下であり、より好ましくは1.2以上3.0以下である。共重合樹脂の分子量および分子量分布が上記範囲内であれば、高分子量化を抑制し、さらに所望の性状を有するものを得ることができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、以下の実施例における測定は、次の測定方法に従った。
【0039】
<分子量測定>
分子量(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及びZ平均分子量Mz)及び分子量分布(Mw/Mn)は、高速GPC装置(東ソー株式会社製、HLC-8220GPC)を用い、ポリスチレン換算値として求めた〔溶離液:テトラヒドロフラン、カラム:東ソー株式会社製G4000HXL、G3000HXL、G2000HXL(2本)を直列に連結して使用、検出器:RI、標準試料:ポリスチレン〕。
【0040】
<軟化点測定>
JIS K-2207(1991)に従って、環球法で測定した。
【0041】
<芳香族量>
AL-400(JEOL)1H-NMRスペクトルの測定結果から算出した。
【0042】
<実施例1>
内容積5Lの攪拌機付きオートクレーブに、溶媒としてキシレン1500gを仕込み、反応系内を窒素で置換した。その後500rpmで撹拌しながら260℃まで昇温した。昇温後、260℃に保持した状態で、表1で示される組成のジシクロペンタジエン留分X1(ジシクロペンタジエン濃度:74質量%)1775gとスチレン933gとキシレン1792gの混合液を50g/分の速度で滴下し、50g/分で90分間、混合液の連続投入を行った。混合液の連続投入と同時に、反応液を反応系外へ50g/分で連続抜出し、反応系内の液量が一定となるよう調整した(平均滞留時間30分)(工程(A))。なお、抜出した反応液は次の反応工程には用いなかった。
【0043】
混合液の連続投入開始から90分後、混合液の投入と反応液の抜出を止め、反応系内の反応液を260℃で150分間保持し重合反応を行った(工程(B))。加温を停止した後、重合反応物を得た。重合反応物の性状を表2に示す。重合反応物の一部を分取し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で15分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaA(Aは絶対圧力であることを示す。以下同様である。)で9分間処理し、低分子量体を一部除去して共重合樹脂を得た(工程(C))。得られた共重合樹脂の性状を表3に示す。
【0044】
<実施例2>
実施例1において混合液の投入および反応液抜出速度を25g/分、混合液投入時間を180分(平均滞留時間60分)、重合反応時間を120分、減圧乾燥時間を10分に変更し、それ以外を同様の方法で行った。得られた重合反応物および共重合樹脂の性状を表2、表3に示した。
【0045】
<実施例3>
実施例1において混合液の投入および反応液の抜出速度を16.7g/分、混合液投入時間を270分(平均滞留時間90分)、重合反応時間を120分、減圧乾燥時間を7.5分に変更し、それ以外を同様の方法で行った。得られた重合反応物および共重合樹脂の性状を表2、表3に示した。
【0046】
<比較例1>
内容積5Lの攪拌機付きオートクレーブに、溶媒としてキシレン2000gを仕込み、反応系内を窒素で置換した。その後500rpmで撹拌しながら260℃まで昇温した。昇温後、260℃に保持した状態で、表1で示される組成のジシクロペンタジエン留分X1(ジシクロペンタジエン濃度:74質量%)2324gとスチレン1245gとキシレン2431gの混合液を12.9g/分の速度で滴下し、12.9g/分で465分間、混合液の連続投入を行った(平均滞留時間155分)。混合液の連続投入と同時に、反応液を反応系外へ12.9g/分で連続抜出し、反応系内の液量が一定となるよう調整した。重合原料投入後におけるオートクレーブ内の重合反応物の性状を表2に示す。重合反応物の一部を分取し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で15分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで15分間処理し、低分子量体を一部除去して共重合樹脂を得た。得られた共重合樹脂の性状を表3に示した。
【0047】
<比較例2>
比較例1において混合液の投入および反応液の抜出速度を11.1g/分、平均滞留時間180分、減圧乾燥時間を12.5分に変更し、それ以外を同様の方法で行った。得られた重合反応物および共重合樹脂の性状を表2、表3に示した。
【0048】
<比較例3>
管型反応器をキシレンで置換し260℃で昇温した。昇温後、ジシクロペンタジエン留分X1(ジシクロペンタジエン濃度:74質量%)866gとスチレン456g、キシレン875gの混合液を室温の状態で、11.8g/分の速度で投入した。混合液は、室温から150℃までを7分間で昇温し、次いで、150℃から260℃までを昇温速度15.7℃/分、昇温時間7分で昇温した。42分間、混合液の連続投入と連続抜出を行った。得られた重合反応物の性状を表2に示した。
【0049】
<比較例4>
比較例3において混合液の投入および反応液の抜出速度を11.8g/分、室温から150℃までを7分、150℃から260℃までの昇温時間14分、昇温速度7.9℃/分、混合液の連続投入と連続抜出時間を63分間に変更し、それ以外を同様の方法で行った。得られた重合反応物の性状を表2に示した。
【0050】
<比較例5>
比較例3において混合液の投入および反応液の抜出速度を23.6g/分、室温から150℃までを3.5分、150℃から260℃までの昇温時間4.3分、昇温速度25.6℃/分、混合液の連続投入と連続抜出時間を24分間に変更し、それ以外を同様の方法で行った。得られた重合反応物の性状を表2に示した。
【0051】
<比較例6>
内容積5Lの攪拌機付きオートクレーブにジシクロペンタジエン留分X1(ジシクロペンタジエン濃度:74質量%)1104gとスチレン581gとキシレン1115gの混合液を常温で仕込み、昇温速度2℃/分で260℃まで昇温した。昇温後260℃で180分保持し重合反応を行った。得られた重合反応物の性状を表2に示した。
【0052】
<比較例7>
比較例6において昇温速度4℃/分、保持時間を210分に変更し、それ以外を同様の方法で行った。得られた重合反応物の性状を表2に示した。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
表2に示すとおり、重合反応を終了した時点での重合反応物のZ平均分子量が1000以上4000以下であり、高分子量化が抑制された。さらに、表3に示すとおり、実施例1~3で得られた共重合樹脂はZ平均分子量(Mz)が1000以上3000以下であり、高分子量化が抑制された上、乾燥収率が約40%となっている。比較例1、2では原料投入工程のみを実施し、反応工程を省略した例であり、これらの場合、共重合樹脂の高分子量化は抑制できたものの、多くの未反応成分が残存し、乾燥収率が約30%となり、実施例と比較して収率が低下する結果となった。比較例3~7では原料投入工程を省略した例であり、これらの場合、共重合樹脂が高分子量化することが確認された。
以上の実施例および比較例から、顕熱により重合原料の急昇温を行う原料投入工程と、重合原料を所望の分子量まで進行させる反応工程を設けることにより、共重合樹脂の高分子量化を抑制しつつ、収率を向上可能であることが確認された。