(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】評価装置、登山能力評価システム、および評価方法
(51)【国際特許分類】
A63B 69/00 20060101AFI20240906BHJP
A61B 5/11 20060101ALN20240906BHJP
A61B 5/22 20060101ALN20240906BHJP
A63B 71/06 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
A63B69/00 517
A61B5/11 210
A61B5/22 200
A63B71/06 M
(21)【出願番号】P 2022162231
(22)【出願日】2022-10-07
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 伶菜
(72)【発明者】
【氏名】市川 将
(72)【発明者】
【氏名】西村 典子
(72)【発明者】
【氏名】石野 和人
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/049688(WO,A1)
【文献】桑江豊、ほか,ウェアラブルモーションセンサを用いた脳卒中片麻痺者のFour Square Step Testにおける前後左右移動の評価,生体医工学,日本,2015年02月10日,Vol.53 No.1,Page.32-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
登山におけるユーザの転倒リスクを評価する評価装置であって、
演算部と、
入力部と、
出力部とを備え、
前記入力部は、身体をコントロールする調整力を測定した第1情報を受け付け、
前記第1情報は、第1面と、前記第1面と面の態様が
登山道を模して異なる第2面とを含む所定の経路をユーザが移動するために要した時間を計測することで前記調整力を測定した情報であり、
前記演算部は、前記第1情報に基づいてユーザの転倒リスクを評価したリスク値を算出し、
前記出力部は、算出されたユーザの転倒リスクの前記リスク値を出力する、評価装置。
【請求項2】
前記第2面は、前記第1面と異なる高さを有する面、凹凸を有する面、および衝撃吸収作用を有する面のいずれかの面である、請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記所定の経路は、前記第1面と前記第2面とに加えて、前記第1面および前記第2面と面の態様が
登山道を模して異なる第3面を含む、請求項1に記載の評価装置。
【請求項4】
前記第2面から前記第3面へと移動する進行方向は、前記第1面から前記第2面へと移動する進行方向と異なる方向である、請求項3に記載の評価装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記第1情報が示す値を第1閾値と比較した結果に基づいて、転倒リスクを算出し、
前記第1閾値は、複数の被験者の転倒経験の有無と、当該複数の被験者の前記第1情報とに基づいて定められる、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項6】
前記入力部は、ユーザの体幹筋力を測定した第2情報をさらに受け付け、
前記演算部は、前記第1情報および前記第2情報に基づいてユーザの転倒リスクを評価したリスク値を算出する、請求項1記載の評価装置。
【請求項7】
前記第2情報は、所定の時間内にユーザが行った上体起こしの回数である、請求項6に記載の評価装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記第1情報が示す値を第2閾値と比較した結果、および前記第2情報が示す値を第3閾値と比較した結果に基づいて、転倒リスクを算出し、
前記第2閾値および前記第3閾値は、複数の被験者の転倒経験の有無と、当該複数の被験者の前記第1情報および前記第2情報とに基づいて定められる、請求項6に記載の評価装置。
【請求項9】
請求項1に記載の評価装置を含み、ユーザの登山能力を評価する評価システムであって、
前記入力部は、
前記第1情報を少なくとも含むユーザの体力を測定した情報を含む第1データを受け付け、
ユーザの低酸素に対する耐性を測定した第3情報、および登山の知識または経験を問う問診の結果の第4情報のうち少なくとも1つの情報を含む第2データを受け付け、
前記演算部は、前記リスク値を算出するとともに、前記第1データと前記第2データとに基づいてユーザの登山能力を評価した評価結果を作成し、
前記出力部は、前記リスク値とともに前記評価結果を出力する、登山能力評価システム。
【請求項10】
登山におけるユーザの転倒リスクを評価する評価方法であって、
第1面と、前記第1面と面の態様が
登山道を模して異なる第2面とを含む所定の経路をユーザが移動するために要した時間を計測するステップと、
前記計測するステップにて計測された時間を、身体をコントロールする調整力を測定した第1情報として受け付けるステップと、
前記第1情報に基づいてユーザの転倒リスクを評価したリスク値を算出するステップと、
算出されたユーザの転倒リスクの前記リスク値を出力するステップとを含む、評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価装置、登山能力評価システム、および評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、登山者の数が増加している。登山者の数の増加に伴って、登山中の事故数も増加傾向にある。非特許文献1には、日本の長野県における登山事故の原因として最も多い原因が「転倒、転落、滑落」であることが記載されている。また、令和4年度の態様別山岳遭難者の構成比を示す非特許文献2には、遭難する態様として道迷いが174人(22.1%)と最も多く、次いで転倒が171人(21.8%)であることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】山本正嘉著、“登山の運動生理学とトレーニング学”東京新聞出版局出版、2016年12月
【文献】警察庁、“令和4年夏期における山岳遭難の概況”、[online]、[令和4年9月27日検索]、インターネット<URL:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r4_kaki_sangakusounan.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1,2に示されているように登山事故の原因は登山者の転倒である場合が多い。登山を行う前に転倒が発生するリスクをユーザに認識させることができれば、登山を実際に行う前からユーザに転倒に対する準備、注意喚起を促すことができる。そのため、登山を実際に行う前に登山中に転倒してしまうリスクを評価する評価方法が望まれている。
【0005】
本開示は上述のような問題点を解決するためになされたものであって、本開示の目的は、登山を実際に行う前に登山中の転倒リスクを評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の評価装置は、登山におけるユーザの転倒リスクを評価する。評価装置は、演算部と、入力部と、出力部とを備える。入力部は、身体をコントロールする調整力を測定した第1情報を受け付ける。第1情報は、第1面と、第1面と面の態様が異なる第2面とを含む所定の経路をユーザが移動するために要した時間を計測することで調整力を測定した情報である。演算部は、第1情報に基づいてユーザの転倒リスクを評価したリスク値を算出する。出力部は、算出されたユーザの転倒リスクのリスク値を出力する。
【0007】
本開示における評価方法は、登山におけるユーザの転倒リスクを評価する評価方法である。評価方法は、第1面と、第1面と面の態様が異なる第2面とを含む所定の経路をユーザが移動するために要した時間を計測するステップと、計測するステップにて計測された時間を、身体をコントロールする調整力を測定した第1情報として受け付けるステップと、第1情報に基づいてユーザの転倒リスクを評価したリスク値を算出するステップと、算出されたユーザの転倒リスクのリスク値を出力するステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、登山を実際に行う前に登山中の転倒リスクを評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1における評価装置を用いた転倒リスクの評価を説明するための概略図である。
【
図3】実施の形態1におけるFSSTを説明するための図である。
【
図4】複数の被験者に対して行われたアンケートの結果を示す図である。
【
図5】FSSTのカットオフ値を説明するための図である。
【
図6】カットオフ値を用いて被験者を評価したときのオッズ比およびリスク比を示す図である。
【
図7】実施の形態1における転倒リスクの評価の処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】評価装置を用いた転倒リスクの評価を説明するための概略図である。
【
図10】上体起こしおよびFSSTのカットオフ値を説明するための図である。
【
図11】カットオフ値を定めた後のオッズ比およびリスク比を算出した結果を示す図である。
【
図12】転倒リスクを定めるためのマトリクスを示す図である。
【
図13】実施の形態2における転倒リスクの評価の処理手順を示すフローチャートである。
【
図14】登山能力評価システムを用いた登山能力の評価を説明するための概略図である。
【
図15】実施の形態3における登山能力評価システムの構成を示す図である。
【
図16】登山能力の評価シートを説明するための図である。
【
図17】登山能力と山とを対応付けた情報を説明するための図である。
【
図18】実施の形態3における登山能力の評価の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、同一の構成には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0011】
<実施の形態1>
[転倒リスクの評価の流れ]
図1は、実施の形態1における評価装置10を用いた転倒リスクの評価を説明するための概略図である。
図1には、評価装置10によるユーザの登山中の転倒リスクを評価する流れが示されている。評価装置10は、たとえば、トレーニングジムを運営する事業者によって所有される。登山中の転倒リスクの評価対象となるユーザUr1は、たとえば、トレーニングジムの利用者である。ユーザUr1は、トレーニングジムに設置されている評価装置10を用いて自身の登山中の転倒リスクの評価結果を取得する。
【0012】
実施の形態1における評価装置10は、第1情報に基づいてユーザUr1の登山における転倒リスクを評価したリスク値を算出する。実施の形態1における評価装置10では、登山における転倒リスクを評価したリスク値をユーザに認識させることによって、登山における転倒の未然防止を促す。第1情報は評価装置10へと入力される情報であり、登山中の転倒リスクを評価したリスク値は評価装置10から出力される情報である。
【0013】
第1情報は、ユーザUr1の調整力を測定するテストの結果である。調整力とは、不安定な環境においてもユーザUr1が自分の身体を巧みにコントロールできる能力である。調整力が高いと転倒リスクは低下し、調整力が低いと転倒リスクは上昇する。より具体的には、調整力とは運動中の姿勢を調整する能力であって、敏捷性、バランス能力と関連する能力である。調整力が高いユーザは、調整力が低いユーザと比較して、身体のバランスが崩れてしまった状況からでも俊敏に足を動かすことができるため、再度、身体のバランスが安定した状態を取り戻すことができる。実施の形態1では、登山における調整力を測定するためのFSST(Four Square Step Test)を用いる。一般的なFSSTは、低い障害物を越えて、前後左右に素早くステップをするスピードを測定する評価方法であるが、本実施の形態においては、登山中の調整力を測定することに特化したFSSTが採用されている。
【0014】
図1下部には、FSSTを実施しているユーザを平面視した図が示されている。ユーザUr1は、台座Pd1上を移動することによってFSSTを実施する。ユーザUr1は、台座Pd1上において、面R1,R2,R3,R4を含む、予め定められた所定の経路を移動する。ユーザUr1は、当該所定の経路を移動するために要した時間を計測する。実施の形態1における第1情報は、ユーザUr1が所定の経路を移動することに要した時間である。台座Pd1の構造については、後述にて詳細に説明する。
【0015】
評価装置10は、ユーザUr1から第1情報を受け付け、受け付けた第1情報に基づいて登山中の転倒リスクを演算する。実施の形態1の評価装置10では、転倒リスクの大きさを表す指標として「高」、「低」の2段階のリスク値が出力される。なお、リスク値の表現方法は、2段階に限られず、たとえば、3段階、5段階または10段階であってもよいし、100点を満点として点数形式であってもよい。
【0016】
[転倒リスクの評価装置の構成]
図2は、評価装置10の構成を示す図である。評価装置10は、たとえば、デスクトップ型コンピュータ、ラップトップ型コンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等の情報通信装置によって実現される。
【0017】
評価装置10は、主たる構成要素として、プログラムを実行するCPU11と、データを一時的に(揮発的に)格納するRAM12と、データを不揮発的に格納するハードディスクその他の記憶装置13と、入力部14と、出力部15と、通信インターフェース(I/F)16とを含む。各構成要素は、データバスによって相互に接続されている。RAM12および記憶装置13に格納されるデータは、CPU11のプログラム実行によって生成されたデータおよび外部から入力されたデータを含む。
【0018】
評価装置10における処理は、各ハードウェアおよびCPU11により実行されるソフトウェアの協働によって実現される。ソフトウェアは、記憶装置13に予め記憶されている場合がある。ソフトウェアは、CPU11によって記憶装置13から読み出され、RAM12に実行可能なプログラムの形式で格納される。CPU11は、そのプログラムを実行する。ここでいうプログラムとは、CPU11により直接実行可能なプログラムだけでなく、ソースプログラム形式のプログラム、圧縮処理されたプログラム、暗号化されたプログラム等を含む。なお、CPU11は、本開示における「演算部」の一例である。
【0019】
記憶装置13は、たとえば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリなどの書換え可能な不揮発性メモリである。なお、記憶装置13は、CD-ROM、FD(Flexible Disk)、磁気テープ、カセットテープ、光ディスク(MO(Magnetic Optical Disc)/MD(Mini Disc)/DVD(Digital Versatile Disc))、IC(Integrated Circuit)カード(メモリーカードを含む)、光カード、マスクROM、EPROM(Electronically Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュROMなどの半導体メモリ等の固定的にプログラムを担持する媒体でもあってもよい。ここでいうプログラムとは、CPUにより直接実行可能なプログラムだけでなく、ソースプログラム形式のプログラム、圧縮処理されたプログラム、暗号化されたプログラム等を含む。
【0020】
入力部14は、キーボードKy1と接続されており、キーボードKy1を介して入力された情報を受け付ける。入力部14に接続される機器は、キーボードKy1に限られず、マウス、マイク、ユーザUr1が所有するスマートフォンなども含まれ得る。出力部15は、ディスプレイDy1と接続されており、ディスプレイDy1に評価装置10によって処理された情報を出力する。これにより、ディスプレイDy1は、評価装置10によって処理された情報をユーザUr1に認識させることができる。出力部15に接続される機器は、ディスプレイDy1に限られず、スピーカ、紙媒体を印刷するプリンタ、またはユーザUr1が所有するスマートフォンであってもよい。通信インターフェース16は、他の機器と評価装置10とを接続するためのインターフェースである。
【0021】
[実施の形態1におけるFSSTの態様]
以下では、実施の形態1において実施されるFSSTについて説明する。一般的なFSSTでは、4区間に分けられた領域をユーザUr1が移動し、移動に要した時間を計測することによって調整力が測定される。このような一般的なFSSTにおいて、4区間に分けられた領域の全ては平坦な面で構成されている。
【0022】
実施の形態1において実施されるFSSTでは、登山道を模した面上をユーザUr1に移動させる。これにより、実施の形態1のFSSTの結果は、平面だけから構成される一般的なFSSTの結果よりも登山中に発揮される調整力を反映した結果となる。換言すれば、実施の形態1のFSSTでは、登山において必要となる調整力を測定できる。
【0023】
図3は、実施の形態1におけるFSSTを説明するための図である。実施の形態1にて用いられるFSSTでは、
図3に示されている台座Pd1を用いて行われる。
図3には、台座Pd1の斜視図が示されている。台座Pd1は、登山道を模した面R1~R4を有する。
【0024】
台座Pd1は、面R1~面R4を含み、平面視したときに矩形形状を有する。台座Pd1の長辺に沿う方向を「X軸方向」と称する。X軸方向に垂直な方向であって、台座Pd1の短辺に沿う延伸方向を「Y軸方向」と称する。X軸方向およびY軸方向の両方に対して垂直な方向を「Z軸方向」と称する。各図におけるZ軸の正方向を上側、負方向を下側と称する場合がある。
【0025】
ユーザUr1は、台座Pd1上の面R1~R4を含む予め定められた経路を、靴を着用して移動する。
図3に示されるように、ユーザUr1が移動する経路は、面R1、面R2、面R3、面R4、面R1、面R4、面R3、面R2、面R1の順の経路である。ユーザUr1は、上述の経路を移動することに要した時間を計測し、計測結果をFSSTの結果として評価装置10に入力する。なお、ある局面においては、ユーザUr1が移動する経路は、該経路に異なる面間の移動が含まれていれば、他の経路であってもよい。
【0026】
面R1は、台座Pd1をZ軸の正方向側から平面視した際に、Y軸の負方向側であってX軸の負方向側に配置されている。面R1は、平坦な面である。面R2は、台座Pd1をZ軸の正方向側から平面視した際に、Y軸の正方向側であってX軸の負方向側に配置されている。面R2は、面R1~R3と異なる高さに配置されている。すなわち、面R2と面R1,R3,R4とは、Z軸方向において距離Hg1だけ離れている。面R2および面R1,R3,R4からなる形状は、登山道における段差、階段を模した形状である。これにより、たとえば面R1から面R2に移動するユーザUr1は、登山道における段差、階段の移動を模擬的に体験することができる。
【0027】
面R3は、複数の突起Ob1を有する面である。ユーザUr1は、予め定められた経路を移動するために靴を着用した上で面R3上に載る。ユーザUr1が面R3上に移動したとき、ユーザUr1が着用している靴底の一部分だけが突起Ob1に衝突し、靴底は、XY平面上から傾いてしまう。そのため、面R3は、面R1と比較して、ユーザUr1が面R3上においてバランスを取って直立することが難しい面である。面R3は、登山道における砂利道を模している。
【0028】
面R4は、衝撃吸収作用を有する面である。たとえば、面R4は、反発力が小さい素材で形成されており、所定の重さを有する物体が面R4上に載せられた場合、面R4は、当該物体の形状に沈み込むように形状を変化させる。ユーザUr1が面R4上に足を載せたとき、面R4は、足の形状に合わせて沈み込む。面R4は、面R1と比較して、ユーザUr1が面R4上においてバランスを取って直立することが難しい面である。面R4は、泥、落ち葉などが滞留した登山道を模している。
【0029】
このように、実施の形態1におけるFSSTは、登山に向けて構成されている台座Pd1を用いたテストである。これによって、実施の形態1における評価装置10は、一般的なFSSTを用いた場合よりも、ユーザUr1の登山における調整力を測定できる。
【0030】
また、
図3に示されるように、ユーザUr1は、各面R1~R4の間を移動する際に進行方向を変化させる必要がある。たとえば、面R1から面R2への進行方向は、Y軸の正方向に沿う方向であるが、面R2から面R3への進行方向は、X軸の正方向に沿う方向である。すなわち、面R1から面R2への進行方向は、面R2から面R3への進行方向と異なる方向である。そのため、ユーザは、予め定められた経路上を移動する際に体を捻る必要がある。経路上を移動する際に、進行方向を変更しなければならないことによって、経路上を移動する難易度が上昇し、ユーザUr1の調整力をより正確に測定することができる。
【0031】
[評価基準(カットオフ値)の測定手法]
以下では、第1情報に基づく転倒リスクを算出する方法について説明する。
図4は、複数の被験者に対して行われたアンケートの結果を示す図である。
図4に示されるアンケートは、44人の被験者に対して行われている。44人の被験者の全ては、アンケート実施時から遡って過去2年以内に登山またはハイキングの経験を有している。
【0032】
図4の右上部には、44人の被験者の属性を表す属性表AF1が示されている。属性表AF1には、属性Pt1~Pt4の4つの属性が示されている。属性Pt1は、過去2年以内の登山またはハイキング中に転倒経験を有さない被験者を示す。属性Pt2,Pt3,Pt4は、過去2年以内の登山またはハイキング中に転倒経験を有する被験者を示す。
【0033】
さらに、属性Pt2の被験者の転倒態様は、「つまずいた」ことである。属性Pt3の被験者の転倒態様は、「手をついた」ことである。属性Pt4の被験者の転倒態様は、「膝や尻もちをついた」ことである。属性Pt2~Pt4に示される転倒態様は、属性Pt2,Pt3,Pt4の順番で危険度が高くなる。膝や尻もちをついたという転倒態様は、登山中の事故に繋がるリスクが高く、危険度が高い転倒態様である。
【0034】
属性Pt2~Pt4に含まれる被験者は、属性Pt2,Pt3,Pt4の順番で転倒を回避する能力が低くなり、転倒リスクが高くなる。したがって、属性Pt1~Pt4のうち、属性Pt1に含まれる被験者が最も転倒リスクが低く、属性Pt4に含まれる被験者が最も転倒リスクが高い。
【0035】
図4には、グラフG1~G5が示されている。グラフG1~G5は、44人の被験者に対して実施された5種のテスト結果が示されている。グラフG1~G5には、属性Pt1~Pt5の各属性に含まれる被験者の平均値が、属性Pt1~Pt5ごとに示されている。以下では、グラフG1~G5を用いて、転倒リスクの高さと相関関係を有するテストの種類について説明する。
【0036】
グラフG1は、5回立ち座りテストの結果を示す。5回立ち座りテストとは、椅子に座った状態から立ち上がり、再度座るまでの動作を1回とカウントして、この動作を5回連続で行ったときの時間を測定するテストである。グラフG1に示されているように、属性Pt1,Pt2,Pt3,Pt4に含まれる被験者が5回立ち座りテストを行った結果の平均値は、それぞれ1.15秒、1.18秒、1.18秒、1.08秒である。
【0037】
グラフG2は、上体起こしテストの結果を示す。上体起こしテストとは、所定の時間内に行った上体起こしの回数を測定するテストである。実施の形態1における所定の時間は、30秒である。グラフG2に示されているように、属性Pt1,Pt2,Pt3,Pt4に含まれる被験者が上体起こしテストを行った結果の平均値は、それぞれ25.63回、24.60回、24.29回、19.43回である。
【0038】
グラフG3は、背筋力テストの結果を示す。背筋力テストとは、ユーザUr1が直立した状態で床に取り付けられた持ち手を鉛直上方向に引っ張る力を測定するテストである。背筋力テストでは、一般的に背筋力を測定する専用の装置が用いられ、当該専用の装置は、背筋力計と称される。グラフG3に示されているように、属性Pt1,Pt2,Pt3,Pt4に含まれる被験者が背筋力テストを行った結果の平均値は、それぞれ118.9kg、100.8kg、137.7kg、105.6kgである。
【0039】
グラフG4は、実施の形態1におけるFSSTの結果を示す。FSSTは、
図3にて説明したテストである。グラフG4に示されているように、属性Pt1,Pt2,Pt3,Pt4に含まれる被験者がFSSTを行った結果の平均値は、それぞれ5.20秒、5.53秒、5.25秒、6.02秒である。
【0040】
グラフG5は、持久力テストの結果を示す。
図3に示される持久力テストは、質問紙を用いて行われる。当該質問紙の詳細は、研究論文「田中 喜代次他著、“質問紙によるヒトの全身持久力性体力の簡易評価法に関する提案-成人女性を対象として-”」に示されている。グラフG5に示されているように、属性Pt1,Pt2,Pt3,Pt4に含まれる被験者が持久力テストを行った結果の平均値は、それぞれ39.84点、42.00点、40.43点、33.50点である。
【0041】
グラフG1~G5の縦軸に示されている各テストの結果と、転倒リスクの高さによって分けられた属性Pt1~Pt4とを所定の条件に基づいて相関分析したところ、グラフG2とグラフG4とは転倒リスクと相関を有することが発明者によって見出された。このため、実施の形態1における評価装置10では、ユーザUr1が行ったFSSTの結果(秒)が短ければ登山における転倒リスクは低く、FSSTの結果が長ければ登山における転倒リスクは高いと推測する。
【0042】
図5は、FSSTのカットオフ値を説明するための図である。評価装置10では、44人の被験者のFSSTの結果から転倒リスクの高さを推定するためのカットオフ値Cf0を定める。具体的には、カットオフ値Cf0は、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を用いて定められる。
【0043】
図5の右上には、44人の被験者の属性を表す属性表AF2が示されている。属性表AF2には、属性Pt1,PtNの2つの属性が示されている。属性Pt1は、
図4と同様に、過去2年以内に登山またはハイキング中に転倒経験を有さない被験者を示す。属性PtNは、過去2年以内に登山またはハイキング中に転倒経験を有する被験者を示す。すなわち、属性PtNは、
図4における属性Pt2,Pt3,Pt4に含まれる被験者の集合を示す。
【0044】
グラフG0は、属性Pt1,PtNごとのFSSTの結果を示す。属性Pt1,PtNに含まれる被験者がFSSTを行った結果の平均値は、それぞれ5.20秒、5.65秒である。カットオフ値Cf0は、ROC解析を用いて定められる。より具体的には、AUC(Area Under the Curve)が最も1に近づくときの値がカットオフ値Cf0として定められる。カットオフ値Cf0は、たとえば、4.20秒~6.20秒の間のいずれかの値として定められる。
図5には、カットオフ値Cf0の一例が示されている。なお、カットオフ値Cf0は、本開示における「第1閾値」に対応し得る。
【0045】
実施の形態1の評価装置10では、ユーザUr1がFSSTを行った結果がカットオフ値Cf0未満である場合、FSSTの結果を「○」と評価し、FSSTを行った結果がカットオフ値Cf0以上である場合、FSSTの結果を「×」と評価する。
【0046】
図6は、カットオフ値Cf0を用いて被験者を評価したときのオッズ比およびリスク比を示す図である。
図6には、
図5にて定めたカットオフ値Cf0を用いたときのオッズ比とリスク比が示されている。なお、
図6においてFSSTの評価は、被験者44名のうち1名を除く43名について行っている。
【0047】
FSSTの評価が「×」である被験者のうち、転倒経験を有さない人は7人であり、転倒経験を有する人は18人である。また、FSSTの評価が「○」である被験者のうち、転倒経験を有さない人は12人であり、転倒経験を有する人は6人である。すなわち、転倒するオッズ比は36/7であり、転倒するリスク比は6/18である。したがって、FSSTの評価が「×」である場合、FSSTの評価が「○」である場合よりも転倒の経験を有することが統計的に有意に示されている。
【0048】
評価装置10は、複数の被験者の転倒経験に基づいて決定されたカットオフ値Cf0およびトレーニングジムにて
図3に示されるFSSTを実施したユーザUr1のFSSTの結果に基づいて、ユーザUr1の登山中の転倒リスクを評価したリスク値を算出する。すなわち、評価装置10は、ユーザUr1のFSSTの結果がカットオフ値Cf0未満である場合、転倒リスクを評価したリスク値が「低」と判断する。また、評価装置10は、ユーザUr1のFSSTの結果がFSSTを行った結果がカットオフ値Cf0以上である場合、転倒リスクを評価したリスク値が「高」と判断する。
【0049】
実施の形態1の評価装置10は、算出した転倒リスクの結果をディスプレイDy1に表示させる。これにより、評価装置10は、転倒リスクと相関関係を有するFSSTの結果に基づいて、登山中の転倒リスクをユーザUr1に認識させることができる。すなわち、評価装置10では、登山を実際に行う前にユーザUr1の登山中の転倒リスクを評価できる。
【0050】
[処理手順]
図7は、実施の形態1における転倒リスクの評価の処理手順を示すフローチャートである。評価装置10は、
図3に示されるFSSTの結果を取得する(ステップS110)。たとえば、ユーザUr1は、FSSTを行った結果を、キーボードKy1もしくはユーザUr1が有するスマートフォンを介して評価装置10に入力する。
【0051】
評価装置10は、
図5にて説明したカットオフ値Cf0とFSSTの結果とに基づいて、ユーザUr1の登山中の転倒リスクを算出する(ステップS120)。評価装置10は、算出した転倒リスクを出力し(ステップS130)、処理を終了する。評価装置10は、たとえば、算出した転倒リスクを評価したリスク値の情報を、ディスプレイDy1に表示させるか、ユーザUr1が有するスマートフォンまたはプリンタ等へと送信する。
【0052】
<変形例>
図8は、台座Pd1の変形例を説明するための図である。
図3では、面R1~R4の4面を有する台座Pd1について説明した。しかしながら、台座Pd1が含む面の数は、4つに限られない。
図8の変形例では、3面の面R1~R3を有する台座Pd2について説明する。
【0053】
図8には、Z軸の正方向側から平面視したときの台座Pd2が示されている。台座Pd2は、Z軸の正方向側から平面視したときに三角形状を有する。台座Pd2は、
図3の台座Pd1と同様の面R1,R2,R3を有する。
図8における経路は、面R1、面R2、面R3、面R1、面R3、面R2、面R1の順で移動する経路である。
【0054】
実施の形態1の評価装置10では、このような3つの面R1~R3から形成される台座Pd2を用いても、
図8の台座Pd1と同様に、ユーザUr1の登山中の調整力を測定できる。
図8においても、面R1から面R2への進行方向Dr1は、面R2から面R3への進行方向Dr2と異なる方向である。これにより、変形例の台座Pd2を適用した評価装置10においても、
図3と同様に経路上を移動する難易度を上昇させ、ユーザUr1の調整力を測定できる。
【0055】
<実施の形態2>
実施の形態1では、FSSTの結果を用いて転倒リスクを評価する構成について説明した。
図4にて説明したように、転倒リスクと相関関係を有するテストは、FSSTだけではなく、ユーザUr1の体幹筋力を測定する上体起こしテストも含まれる。実施の形態2では、FSSTの結果に加えて、上体起こしテストの結果を用いて転倒リスクを評価する構成ついて説明する。
【0056】
[転倒リスクの評価の流れ]
以下では、
図9~
図13を用いて、実施の形態2における評価装置10を説明する。
図9~
図13において、実施の形態1と重複する構成の説明は繰り返さない。
【0057】
図9は、評価装置10を用いた転倒リスクの評価を説明するための概略図である。
図9には、評価装置10による登山における転倒リスクの出力の流れが示されている。
【0058】
実施の形態2における評価装置10では、第1情報に加えて第2情報を用いてユーザUr1の転倒リスクを評価したリスク値が算出される。実施の形態2では、第1情報および第2情報が評価装置10に入力される情報となる。
【0059】
第2情報は、ユーザUr1の体幹筋力を測定するテストの結果である。実施の形態2における体幹筋力を測定するテストは、所定の時間内に行った上体起こしの回数を測定するテストである。すなわち、実施の形態2における第2情報は、所定の時間内にユーザUr1が行った上体起こしの回数を示す情報である。
【0060】
なお、体幹筋力を測定するテストは、上体起こしの回数の測定に限られず、腹筋に負荷が生じる姿勢を維持できた時間を測定するテスト、または腹筋力を測定するための問診テストなどであってもよい。実施の形態2では、評価装置10では、転倒リスクの大きさを表す指標として「高」、「中」、「低」の3段階のリスク値が出力される。
【0061】
図4にて説明したように、
図4におけるグラフG2とグラフG4とは転倒リスクと相関を有することが発明者によって見出された。実施の形態2における評価装置10は、ユーザUr1が行った上体起こしの回数が多ければ登山における転倒リスクは低く、上体起こしの回数が少なければ登山における転倒リスクは高いと推測する。
【0062】
図10は、上体起こしおよびFSSTのカットオフ値を説明するための図である。評価装置10では、43人の被験者のFSSTの結果から転倒リスクの高さを推定するためのカットオフ値Cf1,Cf2を定める。
【0063】
図10の右上部には、
図4と同様の属性表AF2が示されている。グラフG6は、
図4のグラフG6と同様のグラフである。グラフG7は、属性Pt1,PtNごとの上体起こしテストの結果を示す。属性Pt1,PtNに含まれる被験者が上体起こしテストを行った結果の平均値は、それぞれ25.63回、23.00回である。
【0064】
グラフG6とグラフG7とを用いて、カットオフ値を定めれる。FSSTのカットオフ値Cf1は、たとえば、5.20秒~5.70秒の間のいずれかの値として定められる。上体起こしのカットオフ値Cf2は、たとえば、23回~26回の間のいずれかの値として定められる。
図10には、カットオフ値Cf1,Cf2の一例がそれぞれ示されている。実施の形態2の評価装置10では、ユーザUr1がFSSTを行った結果がカットオフ値Cf1未満である場合、FSSTの結果を「○」と評価し、FSSTを行った結果がカットオフ値Cf1以上である場合、FSSTの結果を「×」と評価する。実施の形態2の評価装置10では、ユーザUr1が上体起こしテストを行った結果がカットオフ値Cf2未満である場合、上体起こしテストの結果を「×」と評価し、上体起こしテストを行った結果がカットオフ値Cf2以上である場合、上体起こしテストの結果を「○」と評価する。なお、カットオフ値Cf1は、本開示における「第2閾値」に対応し得る。また、カットオフ値Cf2は、本開示における「第3閾値」に対応し得る。
【0065】
図11は、カットオフ値Cf1,Cf2を定めた後のオッズ比およびリスク比を算出した結果を示す図である。
図11には、
図10にて定めたカットオフ値Cf1,Cf2を用いたときのオッズ比とリスク比が示されている。
【0066】
FSSTの評価が「×」であって、かつ、上体起こしテストの評価が「×」である被験者のうち、転倒経験を有さない人は5人であり、転倒経験を有する人は10人である。また、FSSTの評価が「○」であって、かつ、上体起こしテストの評価が「○」である被験者のうち、転倒経験を有さない人は9人であり、転倒経験を有する人は3人である。すなわち、転倒するオッズ比は6であり、転倒するリスク比は8/3である。したがって、FSSTの評価が「×」であって、かつ、上体起こしテストの評価が「×」である場合、FSSTの評価が「○」であって、かつ、上体起こしテストの評価が「○」である場合よりも転倒の経験を有することが統計的に有意に示されている。
【0067】
図12は、転倒リスクを定めるためのマトリクスを示す図である。実施の形態2における評価装置10は、
図12に示されているマトリクスにしたがってユーザUr1の登山中の転倒リスクを定める。上述したように、評価装置10は、ユーザUr1が行ったFSSTと上体起こしテストの結果とを取得する。評価装置10は取得した結果と
図10にて定めたカットオフ値Cf1,Cf2を用いて、FSSTの結果と上体起こしテストの結果とを評価する。
【0068】
評価装置10は、カットオフ値Cf1を用いたFSSTの評価が「○」であり、カットオフ値Cf2を用いた上体起こしテストの評価が「○」である場合、転倒リスク「低」と判断する。評価装置10は、カットオフ値Cf1を用いたFSSTの評価が「○」であり、カットオフ値Cf2を用いた上体起こしテストの評価が「×」である場合、転倒リスク「中」と判断する。評価装置10は、カットオフ値Cf1を用いたFSSTの評価が「×」であり、カットオフ値Cf2を用いた上体起こしテストの評価が「○」である場合、転倒リスク「中」と判断する。評価装置10は、カットオフ値Cf1を用いたFSSTの評価が「×」であり、カットオフ値Cf2を用いた上体起こしテストの評価が「×」である場合、転倒リスク「高」と判断する。
【0069】
実施の形態2の評価装置10は、
図12のマトリクスにしたがって判断した転倒リスクの結果をディスプレイDy1に表示させる。これにより、評価装置10は、転倒リスクと相関関係を有する上体起こしテストおよびFSSTの結果に基づいて、登山における転倒リスクをユーザUr1に認識させることができる。すなわち、実施の形態2の評価装置10においても、実施の形態1と同様に、登山を実際に行う前にユーザUr1の登山中の転倒リスクを評価できる。
【0070】
また、実施の形態2では、FSSTの結果に加えて、転倒リスクと相関関係を有する上体起こしテストの結果を用いているため、より高い精度で転倒リスクを評価できる。
【0071】
[処理手順]
図13は、実施の形態2における転倒リスクの評価の処理手順を示すフローチャートである。評価装置10は、上体起こしテストの結果を取得する(ステップS210)。評価装置10は、FSSTの結果を取得する(ステップS220)。
【0072】
評価装置10は、
図11にて説明したカットオフ値Cf1,Cf2と、
図12のマトリクスを用いて、上体起こしテストの結果およびFSSTの結果に基づいて、ユーザUr1の転倒リスクを算出する(ステップS230)。評価装置10は、算出した転倒リスクを出力し(ステップS240)、処理を終了する。
【0073】
このように実施の形態1と実施の形態2では、転倒リスクを評価する評価装置について説明した。しかしながら、登山において発生する事故は、転倒以外の要因によって生じる場合がある。そこで、以下に示す実施の形態3では、転倒以外の要因によって生じる登山事故についても未然防止するために、総合的なユーザの登山能力を評価してユーザに認識させる評価システムについて説明する。
【0074】
<実施の形態3>
実施の形態1および実施の形態2では、転倒リスクを評価して出力する構成について説明した。実施の形態3では、FSSTおよび上体起こしテストに加えて、登山能力と関連のある他のテストを実施して、総合的な登山能力を評価する登山用体力評価システムについて説明する。
【0075】
[登山能力評価システムにおける評価の流れ]
以下では、
図14~
図18を用いて、実施の形態3における登山能力評価システム100について説明する。
図14~
図18において、実施の形態1および実施の形態2と重複する構成の説明は繰り返さない。
【0076】
図14は、登山能力評価システム100を用いた登山能力の評価を説明するための概略図である。
図14には、登山能力評価システム100による登山能力の評価の流れが示されている。
【0077】
実施の形態3における登山能力評価システム100では、第1データと第2データとを用いてユーザUr1の登山能力を評価した評価シートSh1が出力される。実施の形態3では、第1データおよび第2データが登山能力評価システム100に入力される情報であり、評価シートSh1に記載されている登山能力の評価が出力される情報である。
【0078】
第1データは、ユーザUr1の体力を測定した情報を含むデータであって、ユーザUr1の総合的な体力を示す情報である。具体的には、第1データは、下肢筋力、体幹筋力、調整力、持久力、体脂肪率などの項目を評価するテストの結果から構成されている。
図14に示されているように、上記項目を評価するテストには、FSST、上体起こしテスト、および5回立ち座りテストが含まれている。たとえば、ユーザUr1は、トレーニングジムなどにおいて上記項目を評価するテストを実施し、実施した結果を評価装置10に入力する。
【0079】
第2データは、第3情報および第4情報のうちの少なくとも1つを含むデータである。第3情報は、ユーザの低酸素に対する耐性を測定した結果を示す情報である。ユーザの低酸素に対する耐性は、たとえば、低酸素環境部屋L1内におけるユーザUr1の血中酸素濃度、体温、脈拍などが検出されることによって測定される。
【0080】
登山能力評価システム100では、低酸素環境部屋L1内において、安静状態および運動状態のユーザUr1の血中酸素濃度、体温または脈拍を用いて、低酸素環境に対する耐性が測定される。低酸素に対する耐性の測定は、10点を満点とする点数形式で測定する。
【0081】
第4情報は、登山の知識または経験を問う問診の結果である。当該問診には、たとえば、地形図または天気図から実際の地形や天気を把握する能力、登山中の緊急時の行動手順、登山における基本的なマナー、動植物の特徴などを問う問題が含まれ得る。当該問診は、ユーザUr1の登山の知識または経験を5段階で評価できるように構成されている。
【0082】
実施の形態3における登山能力評価システム100では、第1データと第2データとを用いて、ユーザUr1の登山能力を評価した結果を出力する。
図14に示されているように、登山能力評価システム100において、評価装置10は、インターネットINを介して、サーバ20と接続されている。すなわち、評価装置10は、サーバ20と情報の送受信をすることができる。
【0083】
[登山能力評価システムの構成]
図15は、実施の形態3における登山能力評価システム100の構成を示す図である。登山能力評価システム100は、
図2にて説明した評価装置10に加えて、サーバ20を含む。
図15に示されている評価装置10は、
図2における評価装置10と同様の構成を有するため、説明を繰り返さない。
【0084】
サーバ20は、主たる構成要素として、プログラムを実行するCPU21と、CPU21によるプログラムの実行により生成されたデータ、またはユーザによって入力されたデータを一時的に(揮発的に)格納するRAM22と、データを不揮発的に格納する記憶装置23と、通信インターフェース(I/F)24とを含む。
【0085】
サーバ20は、たとえば、トレーニングジムを運営する事業者によって所有される。
図15に示されるように、サーバ20は、評価装置10と電気的に接続されている。
図15では、サーバ20は、評価装置10とだけ接続されているが、他店舗のトレーニングジムに設置されている複数の評価装置と接続されていてもよい。サーバ20の記憶装置23には、後述にて説明するチャートと山とを対応付けた情報が格納されている。
【0086】
[評価シート]
図16は、登山能力の評価シートSh1を説明するための図である。上述したように、評価シートSh1は、第1データおよび第2データに基づいて生成される。評価シートSh1には、基本情報、登山能力、詳細、転倒リスク、コメントという項目に分けられて情報が記載されている。基本情報の項目は、ユーザUr1の名前、測定年月日、性別が示されている。
【0087】
以下では、登山能力の評価方法について説明する。登山能力の項目には、第1データおよび第2データに基づいて評価した登山能力がチャート形式で示されている。詳細の項目には、登山能力を評価する上で使用した情報が表形式で示されている。詳細の項目に示されているように、登山能力は、技術、耐性、体力に基づいて定められる。登山能力評価システム100では、各テストの結果を相対的に評価できるように5段階評価に換算する。
【0088】
上述したように、登山の知識または経験を問う問診は、換算される前から5段階評価で結果を示すテストであるため、測定値および5段階の両方に「2」が示されている。また、低酸素の耐性の測定は、10点を満点とする点数形式で測定するテストである。
図16におけるユーザUr1は、低酸素の耐性が9.3点と高い得点であるため、5段階中「4」と高い評価を得ている。このように、
図16には、各テストの結果を5段階評価で換算した数値が詳細の項目に示されている。また、詳細の項目には、5段階評価の結果を図示したバーと前回の測定結果も表示されている。
【0089】
評価装置10のCPU11は、これらの5段階評価の数値を用いて、登山能力を評価する。詳細の項目の左側に位置する登山能力の項目には、技術、体力、耐性の項目の各々を5段階評価で三角形のチャートが示されている。詳細の項目に示されているとおり、技術の項目には2点がプロットされ、耐性の項目には4点がプロットされている。体力の項目には、複数のテストの結果を5段階評価に換算した後の平均値がプロットされている。
図16の例では、体力の項目の点数は、3点がプロットされている。実施の形態3の評価装置10は、体力の項目の点数を算出する際にBMIおよび体脂肪率も考慮して算出する。
【0090】
このように、実施の形態3の登山能力評価システム100では、ユーザUr1の登山能力をチャートとして表示している。これにより、登山能力評価システム100では、登山に関連する複数のテストの結果を用いて評価した登山能力をユーザUr1に認識させることができる。
【0091】
[リコメンド機能]
続いて、リコメンド機能について説明する。評価シートSh1の登山能力の項目の下部には、「おすすめの山:富士山」という記載が示されている。登山能力評価システム100では、ユーザUr1の登山能力に応じた山がリコメンドされる。
【0092】
図17は、登山能力と山とを対応付けた情報を説明するための図である。
図17には、登山能力と山とを対応付けた情報として、対応表Tb1が示されている。対応表Tb1は、サーバ20の記憶装置23に記憶されている。対応表Tb1には、チャートが取り得る全ての形状に対応して、山の名前と情報とが対応付けられている。
【0093】
図17に示されるように、技術「5点」、体力「5点」、耐性「5点」のチャートには、標高8,849mのエベレストが対応付けられている。また、技術「2点」、体力「3点」、耐性「4点」のチャートには、標高3,776mの富士山が対応付けられている。さらに、また、技術「1点」、体力「2点」、耐性「1点」のチャートには、標高642mの生駒山が対応付けられている。
【0094】
図16に戻り、評価装置10は、ユーザUr1の登山能力を評価した後、サーバ20に格納されている対応表Tb1を参照して、ユーザUr1にお勧めする山を取得する。評価装置10は、取得した山の名前を評価シートSh1内に出力する。これによって、登山能力評価システム100では、登山能力に応じた山をユーザUr1に対してリコメンドすることができる。
【0095】
続いて、転倒リスクに応じたリコメンドについて説明する。転倒リスクの項目には、実施の形態2にて説明した転倒リスクを評価したリスク値が示されている。コメントの項目には、転倒リスクを評価したリスク値に応じたリコメンドが示されている。
【0096】
サーバ20の記憶装置23には、対応表Tb1に加えて、転倒リスクを評価したリスク値に対応したリコメンドが格納されている。実施の形態3の評価装置10は、ユーザUr1の転倒リスクを算出した後、算出した転倒リスクに応じたリコメンドをサーバ20から取得する。
【0097】
サーバ20には、たとえば、以下に示す文章がリコメンドとして格納されている。転倒リスク「高」には、「測定結果から、調整力レベルが低い傾向が見られました。登山中,険しい岩場やヤセ尾根で予期せずバランスを崩しかねません。そんな時に必要なのが自分の身体を巧みに動かす調整力です。」という文章が対応付けられている。さらに、転倒リスク「高」には、「ジムにおいては、初心者用のメニューで行うエアロビクス、バランスボード、バランスボール、バランスマットを用いたトレーニングがおすすめです。また、ご自宅では、綱渡りのように1本線の上を歩くタンデムウォーク、意識してジグザグのルートを歩くジグザグ歩き、つま先上げ、かかと上げ、片足立ちトレーニングがおすすめです。」という推奨トレーニングに関する情報が対応付けられている。
【0098】
また、転倒リスク「中」には、「測定結果から、調整力レベルは平均的ですが、他の要素に比べると改善の余地がありました。登山中、険しい岩場やヤセ尾根で予期せずバランスを崩しかねません。そんな時に必要なのが自分の身体を巧みに動かす調整力です。」という文章が対応付けられている。さらに、転倒リスク「中」には、「ジムにおいては、中級者用のメニューで行うエアロビクス、バランスボード、バランスボール、バランスマットを用いたトレーニングがおすすめです。また、ご自宅では、1歩1歩を大きく踏み出して歩くランジウォーク、壁や他の支えを使わずに自分自身でバランスを取りながら脚を前後左右に振り上げる脚のスウィングトレーニングがおすすめです。」という推奨トレーニングに関する情報が対応付けられている。
【0099】
転倒リスク「低」には、「測定結果から、転んだりバランスを崩したりせず歩き続けるための体力レベルはとても高いです。このレベルを維持していきましょう。」という文章が対応付けられている。さらに、転倒リスク「低」には、「ジムにおいては、上級者用のメニューで行うエアロビクス、バランスボード、バランスボール、バランスマットを用いたトレーニングがおすすめです。また、ご自宅では、トレーニング用の縄はしごを踏まないようにステップして進むラダートレーニング、座布団、クッションなどの上でバランスを取るバランスディスク、脚のスウィングトレーニングがおすすめです。」という推奨トレーニングに関する情報が対応付けられている。
【0100】
登山能力評価システム100では、算出した転倒リスクに応じたリコメンドを評価シートSh1に対して出力する。これにより、登山能力評価システム100では、ユーザUr1に自分自身の転倒リスクに応じたトレーニングを認識することが可能となる。
【0101】
[処理手順]
図18は、実施の形態3における登山能力の評価の処理手順を示すフローチャートである。評価装置10は、体力テストの結果を取得する(ステップS310)。評価装置10は、低酸素に対する耐性の測定結果を取得する(ステップS320)。評価装置10は、問診の結果を取得する(ステップS330)。
【0102】
評価装置10は、体力テストに含まれているFSSTまたは上体起こしテストの結果に基づいて転倒リスクを取得する(ステップS340)。評価装置10は、体力テスト、低酸素に対する耐性の測定結果、問診の結果に基づいて、登山能力を評価する(ステップS350)。すなわち、評価装置10は、
図16に示されるチャートを生成する。評価装置10は、ステップS350の評価結果を出力して(ステップS360)、処理を終了する。すなわち、評価装置10は、評価シートSh1を生成し、ディスプレイDy1に評価シートSh1を表示させるか、評価シートSh1を印刷する命令をプリンタに出力するか、または、ユーザUr1が所有するスマートフォンにデータとして出力する。
【0103】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0104】
(第1項) 本開示の評価装置は、登山におけるユーザの転倒リスクを評価する評価装置である。演算部と、入力部と、出力部とを備える。入力部は、身体をコントロールする調整力を測定した第1情報を受け付け、第1情報は、第1面と、第1面と面の態様が異なる第2面とを含む所定の経路をユーザが移動するために要した時間を計測することで調整力を測定した情報であり、演算部は、第1情報に基づいてユーザの転倒リスクを評価したリスク値を算出し、出力部は、算出されたユーザの転倒リスクのリスク値を出力する。
【0105】
このような構成によれば、評価装置は、登山を実際に行う前に登山中の転倒リスクを評価できる。
【0106】
(第2項) 第1項に記載の評価装置であって、第2面は、第1面と異なる高さを有する面、凹凸を有する面、および衝撃吸収作用を有する面のいずれかの面である。
【0107】
このような構成によれば、評価装置は、登山に特化した調整力を用いて転倒リスクを評価できる。
【0108】
(第3項) 第1項または第2項に記載の評価装置であって、所定の経路は、第1面と第2面とに加えて、第1面および第2面と面の態様が異なる第3面を含む。
【0109】
このような構成によれば、評価装置は、3種類の態様の面上で測定された調整力を用いて転倒リスクを評価できる。
【0110】
(第4項) 第3項に記載の評価装置であって、第2面から第3面へと移動する進行方向は、第1面から第2面へと移動する進行方向と異なる方向である。
【0111】
このような構成によれば、評価装置は、方向転換を考慮した調整力を用いて転倒リスクを評価できる。
【0112】
(第5項) 第1項~第4項のいずれか1項に記載の評価装置であって、演算部は、第1情報が示す値を第1閾値と比較した結果に基づいて、転倒リスクを算出し、第1閾値は、複数の被験者の転倒経験の有無と、当該複数の被験者の第1情報とに基づいて定められる。
【0113】
このような構成によれば、評価装置は、複数の被験者の転倒経験の有無に基づいてデータを用いて転倒リスクを評価することができる。
【0114】
(第6項) 第1項~第5項のいずれか1項に記載の評価装置であって、入力部は、ユーザの体幹筋力を測定した第2情報をさらに受け付け、演算部は、第1情報および第2情報に基づいてユーザの転倒リスクを評価したリスク値を算出する。
【0115】
このような構成によれば、評価装置は、ユーザの体幹筋力を測定した第2情報を用いて転倒リスクを評価することができる。
【0116】
(第7項) 第6項に記載の評価装置であって、第2情報は、所定の時間内にユーザが行った上体起こしの回数である。
【0117】
このような構成によれば、評価装置は、簡易に実施可能な上体起こしテストの結果を用いて転倒リスクを評価することができる。
【0118】
(第8項) 第6項または第7項のいずれか1項に記載の評価装置であって、演算部は、第1情報が示す値を第2閾値と比較した結果、および第2情報が示す値を第3閾値と比較した結果に基づいて、転倒リスクを算出し、第2閾値および第3閾値は、複数の被験者の転倒経験の有無と、当該複数の被験者の第1情報および第2情報とに基づいて定められる。
【0119】
このような構成によれば、評価装置は、複数の被験者の転倒経験の有無に基づいてデータを用いて転倒リスクを評価することができる。
【0120】
(第9項) 第1項~第8項のいずれか1項に記載の評価装置を含む、ユーザの登山能力を評価する評価システムである。入力部は、第1情報を少なくとも含むユーザの体力を測定した情報を含む第1データを受け付け、ユーザの低酸素に対する耐性を測定した第3情報、および登山の知識または経験を問う問診の結果の第4情報のうち少なくとも1つの情報を含む第2データを受け付け、演算部は、リスク値を算出するとともに、第1データと第2データとに基づいてユーザの登山能力を評価した評価結果を作成し、出力部は、リスク値とともに評価結果を出力する。
【0121】
このような構成によれば、評価システムは、登山を実際に行う前にユーザの総合的な登山能力を評価できる。
【0122】
(第10項) 本開示における評価方法は、登山におけるユーザの転倒リスクを評価する評価方法である。第1面と、第1面と面の態様が異なる第2面とを含む所定の経路をユーザが移動するために要した時間を計測するステップと、計測するステップにて計測された時間を、身体をコントロールする調整力を測定した第1情報として受け付けるステップと、第1情報に基づいてユーザの転倒リスクを評価したリスク値を算出するステップと、算出されたユーザの転倒リスクの前記リスク値を出力するステップとを含む。
【0123】
このような構成によれば、評価装置は、登山を実際に行う前に登山中の転倒リスクを評価できる。
【0124】
また、今回開示された各実施の形態およびその変形例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、上述の実施の形態および各変形例において説明された発明は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
【符号の説明】
【0125】
10 評価装置、12,22 RAM、13,23 記憶装置、14 入力部、15 出力部、16 通信インターフェース、20 サーバ、100 登山能力評価システム、AF1,AF2 属性表、Cf0,Cf1,Cf2 カットオフ値、Dr1,Dr2 進行方向、Dy1 ディスプレイ、G0~G7 グラフ、Hg1 距離、IN インターネット、Ky1 キーボード、Ob1 突起、Pd1,Pd2 台座、Pt1~Pt5,PtN 属性、R1~R4 面、Sh1 評価シート、Tb1 対応表、Ur1 ユーザ。