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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】磁気歯車が設けられた計時器機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 49/00 20060101AFI20240906BHJP
   G04B 13/02 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
F16H49/00 A
G04B13/02 Z
【請求項の数】 19
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022196221
(22)【出願日】2022-12-08
(65)【公開番号】P2023094573
(43)【公開日】2023-07-05
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】21217315.7
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・インボーデン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ピエール・ミニョー
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・リヴァ
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-092849(JP,A)
【文献】特開2019-117682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 49/00
G04B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ホイール(6A)と、第2ホイール(6B)とを備える磁気歯車(2)であって、前記第1ホイール(6A)は、交番磁極を有する第1磁束がそれぞれ発する第1磁気歯部(8)の磁化歯を形成するように配置された第1永久磁極(7)が設けられ、前記第2ホイール(6B)は、第2磁気歯部(10)を画定する軟強磁性材料製の歯が設けられ、前記第1ホイール(6A)および前記第2ホイール(6B)は、前記第1磁気歯部(8)との第1磁気結合領域に一時的に配置されることで、当該第1磁束の内の第1磁束がそれぞれ流れる、前記第2磁気歯部(10)の歯に磁気引力を掛けるように一時的に分極する当該第1磁束により、前記第1磁気歯部(8)が前記第2磁気歯部(10)と第1磁気結合するように配置されることで、前記第1および第2ホイール(6A、6B)が互いに磁気的に噛み合い、前記磁気歯車(2)が、前記第2ホイール(6B)の回転軸(34)から延び、前記第1ホイール(6A)の回転軸(32)を通過する第1基準半軸(30)を画定する、磁気歯車(2)を備え、
前記磁気歯車(2)は、第2永久磁極(9)が設けられた第3ホイール(6C)をさらに備え、前記第2永久磁極(9)は、交番磁極の第2磁束をそれぞれ発する、第3磁気歯部(12)の磁化歯を形成するように配置され、前記第3ホイール(6C)および前記第2ホイール(6B)は、前記第3磁気歯部(12)との第2磁気結合領域に一時的に配置されることで、当該第2磁束の内の第2磁束がそれぞれ流れる、前記第2磁気歯部(10)の歯に磁気引力を掛けるように一時的に分極する当該第2磁束により、前記第3磁気歯部(12)が前記第2磁気歯部(10)と第2磁気結合するように配置されることで、前記第2および第3ホイール(6B、6C)が互いに磁気的に噛み合い、前記磁気歯車(2)が、前記第2ホイール(6B)の回転軸(34)から延び、前記第3ホイール(6C)の回転軸(38)を通過する第2基準半軸(36)を画定し、前記第1基準半軸(30)と、前記第2基準半軸(36)とはその間に所定の角度Φを有し、
前記第1ホイール(6A)の前記第1永久磁極(7A)は、前記第1基準半軸(30)に対し第1位相を有し、前記第3ホイール(6C)の前記第2永久磁極(9A)は、前記第2基準半軸(36)に対し第2位相を有し、前記磁気歯車(2)は、当該第1および第2位相との間の差として定義される、前記第1および第3ホイールの位相シフトが常に一定となるように配置され、
当該角度Φおよび当該位相シフトは、前記第2ホイールと、前記第1および第3ホイールとの間にすべりを起こすことなく、前記磁気歯車内で伝達可能な最大機械的トルクの値を略決定するように選択され、
前記角度Φ(N)と、前記位相シフとは、すべりなしで前記第1および第3ホイール(6A、6C)と前記第2ホイール(6B)との間で伝達可能な当該最大機械的トルクが、前記第1ホイール(6A)および前記第2ホイール(6B)のみを備える別の磁気歯車により、前記第1ホイール(6A)と前記第2ホイール(6B)との間で伝達可能な対応する最大機械的トルクの2倍超となるように選択される、ことを特徴とする計時器用の機構(1)。
【請求項2】
前記第1磁気歯部(8)と、前記第3磁気歯部(12)とがそれぞれ備える歯(7、9)の数N1は同じであり、
前記第1および第3ホイール(6A、6C)は、前記第2ホイールの前記回転軸に対し、当該角度Φ(N)が以下の数学的関係を満たすように、角度を付けて配置され、
【数1】
式中、N2は前記第2磁気歯部(10)の歯の数で、NはN2未満の正の整数であることを特徴とする、請求項1に記載の機構。
【請求項3】
前記角度Φ(N)の値は、
【数2】
に略等しくなるように選択されることを特徴とする、請求項2に記載の機構。
【請求項4】
前記第1磁気歯部(8)と、前記第3磁気歯部(12)とがそれぞれ備える歯(7、9)の数N1は同じであり、これら第1および第3磁気歯部の2つの特定の歯は、前記第1および第2半軸それぞれに対し常に、所定の一定角度差Ψを有し、
前記第1および第3ホイール(6A、6C)は前記第1および第2半軸それぞれに対し、前記角度差Ψが以下の数学的関係を満たすように角度を付けて配置され、
【数3】
式中、MはN1未満の正の整数であることを特徴とする、請求項1に記載の機構。
【請求項5】
前記角度差Ψ(M)の値は、
【数4】
に略等しくなるように選択されることを特徴とする、請求項4に記載の機構。
【請求項6】
前記第1歯部(8)および前記第3歯部(12)それぞれの前記磁化歯(7、9)は、これら磁化歯(7、9)から前記第1ホイール(6A)および前記第3ホイール(6C)それぞれの前記回転軸(32、38)に対して、径方向となる主方向に、前記第1磁束および第2磁束がそれぞれ発するように配置されることを特徴とする、請求項1に記載の機構。
【請求項7】
前記第1および第3ホイール(6A、6C)は、駆動ホイールであり、前記第2ホイール(6B)が駆動されることを特徴とする、請求項1に記載の機構。
【請求項8】
2つのモーターをさらに備え、前記2つのモーターそれぞれの回転子はそれぞれ前記第1および第3ホイール(6A、6C)の内の互いに異なるホイールに動力伝達可能に接続され、それによりこれら第1および第3ホイールは回転駆動されることで前記磁気歯車(2)内の駆動ホイールとなり、
前記2つのモーターは、前記第1および第3ホイール(6A、6C)を少なくとも一部同時に駆動可能に構成されることを特徴とする、請求項7に記載の機構。
【請求項9】
前記第1および第3ホイール(6A、6C)は機械的に結合され、
前記機構は、1つのモーターをさらに備え、前記モーターの回転子は、前記第1および第3ホイール(6A、6C)に動力伝達可能に接続され、これによりこれら第1および第3ホイールを回転駆動できることを特徴とする、請求項7に記載の機構。
【請求項10】
歯車列(14)が、前記第1および第3ホイール(6A、6C)を機械的に結合し、前記回転子は、この歯車列と、前記第1および第3ホイール(6A、6C)とを回転駆動することを特徴とする、請求項9に記載の機構。
【請求項11】
前記第1および第3ホイール(6A、6C)は、前記第2ホイール(6B)の略両側に配置され、これにより前記第2ホイール(6B)は前記第1および第3ホイール(6A、6C)の略間に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の機構(1)。
【請求項12】
前記第1および第3ホイール(6A、6C)は、前記第2ホイール(6B)の略両側に配置され、これにより前記第2ホイール(6B)は前記第1および第3ホイールの略間に配置され、
前記歯車列(14)が3つの追加ホイール(22A、22B、22C)から成り、その3つ内の第1および第2追加ホイール(22A、22C)は、前記第1および第3ホイールの軸(20A、20C)にそれぞれ接続され第3追加ホイール(22B)は前記第1および第2追加ホイールを機械的に結合し、
前記機構(1)は、前記第2ホイール(6B)の前記回転軸(34)に揃えられ、この第2ホイールに保持される、前記第3追加ホイールに対するガイドベアリングを備えることを特徴とする、請求項10に記載の機構。
【請求項13】
前記第1ホイール(6A)および前記第3ホイール(6C)はそれぞれ、強磁性材料製の中心部(32、38)を有し、その周囲にそれぞれその当該第1永久磁極(7)および当該第2永久磁極(9)が対で、同数の対応する磁極と共に配置され、これにより、径方向磁化され、それぞれ前記第1磁気歯部(8)および前記第3磁気歯部(12)の前記磁化歯を画定するバイポーラ磁石を形成することを特徴とする、請求項1に記載の機構。
【請求項14】
前記第2ホイール(6B)はリムを備え、前記リムは前記第2磁気歯部(10)に対して連続的な円形ベースを形成し、前記リムから前記第2磁気歯部(10)は突出し、前記リムは軟強磁性材料製で、これにより前記第2歯部を通過する当該第1磁束および当該第2磁束に対する磁路の終端を形成することを特徴とする、請求項1に記載の機構。
【請求項15】
前記第1および第3ホイール(6A、6C)のそれぞれに対し、軟強磁性要素または軟強磁性要素組をさらに備え、当該軟強磁性要素または軟強磁性要素組は、このホイール(6Aまたは6C)に対し、前記第1および第3ホイールそれぞれに掛かり、このホイールが前記第2ホイール(6B)の前記第2磁気歯部(10)に磁気結合されていることで生じる個別の磁気位置決めトルクの少なくとも大部分を補償するように配置され、
前記第1および第3ホイールそれぞれにかかる前記個別の磁気位置決めトルクは、当該ホイールの回転軸(32、38)を通過するように前記第2ホイール(6B)の前記回転軸(34)から延びる前記基準半軸(30、36)に対する、当該ホイールの角度位置に応じた強度の定期的な変動が生じることを特徴とする、請求項7に記載の機構。
【請求項16】
当該軟強磁性要素または軟強磁性要素組は、該当する前記ホイール(6A、6C)の、当該ホイールの前記回転軸(32、38)を通過する前記基準半軸(30、36)に対する前記角度位置に基づく、強度の定期的な変動が同様に生じる磁気補償トルクを生成するように配置され、
前記磁気補償トルクと、前記個別の磁気位置決めトルクとが、略180°の位相シフトを有することを特徴とする、請求項15に記載の機構。
【請求項17】
請求項1に記載の機構(1)を備えることを特徴とする、計時器、特に腕時計。
【請求項18】
請求項2に記載の機構(1)を備えることを特徴とする、計時器、特に腕時計。
【請求項19】
請求項3に記載の機構(1)を備えることを特徴とする、計時器、特に腕時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに磁気的に噛み合う、第1ホイールと、第2ホイールとにより形成される、磁気歯車の分野に関する。
【0002】
特に、本発明はそのような磁気歯車を内蔵する機構、特に計時器機構に関する。本発明はさらに、そのような機構を備える計時器に関する。そのような計時器は、特に腕時計であり得る。
【背景技術】
【0003】
磁気歯車は、2つの部品の間の直接接触を一切介さず、したがってその間に摩耗や摩擦を起こすことなく、当該部品間で機械的トルクを伝達するのに使用可能な公知の装置である。そのような歯車は、以下の利点を提供する。
-機械的摩耗が部品の歯に生じないため、オイルまたは潤滑材が不要である。
-気密分離した歯付き部品間でも、相互作用を通じてトルクおよび機械的動力を伝達できる。
-歯付き部品は、最大トルクを制限するのに使用可能で、したがって、例えば機械的衝撃の際に、損傷防止に寄与し得る。
【0004】
そのような磁気歯車は典型的に、互いに磁気的に噛み合う、2つのホイールを備える。第1ホイールには、典型的には交番磁極の、円状に配置され、第1磁気歯部を画定する、第1永久磁極が設けられる。これら第1磁極は、例えば、径方向磁気、好ましくは交番磁気を帯びた、バイポーラ磁石により画定される。第2ホイールは、例えば同様に交番磁極のバイポーラ磁石により画定された、軟強磁性材料製の歯または第2磁極が設けられる。これら歯または第2磁極は、円状に配置され、第2磁気歯部を画定する。第1および第2ホイールは、典型的には、同一の概略平面上に配置される。但し、両者が永久磁極で形成されている場合、歯部を重ねることも可能である。第1および第2ホイールの歯部間の磁気結合は、第1および第2ホイールの一方が回転駆動されると、他方のホイールも回転駆動されることを意味する。したがって、機械的トルクが、全体的に歯車の機能に対応する磁気歯車において伝達される。
【0005】
しかし、この種の磁気歯車の1つの欠点として、2つのホイール間で(歯車における滑りなしで)伝達可能な最大機械的トルクが、様々な要因で制限され得ることが挙げられる。したがって、より大きな機械的トルクを伝達可能な磁気歯車が求められている。
【0006】
この目的に対する手段としてわかりやすいのは、大きな歯径を有するホイールを使用し、2つのホイール間の距離を最小限にすることである。しかし、2つのホイールの歯の間に生じさせる磁気相互作用により、2つのホイールの両方において隣接した歯の間の間隔が十分狭くなる可能性がなくなってしまう。2つの歯部を接触させずに互いに極めて短距離に配置することは、公差に関して実際に問題を生じる。本発明の範囲内で、磁気歯車に関する2つの主要な問題が特定されている。第1の主要な問題は、回転駆動するホイールに、定期的に位置決めトルク(寄生磁気トルク)がかかるという事実によるものである。「磁気トルク」という用語は、磁気偶力を意味するものと理解されたい。解消されるべき位置決めトルクは、2つのホイールが整列されたそれぞれの2つの歯を有する場合に、最小エネルギーが磁気歯車内に存在するという事実による現象である。位置決めトルクは、2つのホイールを、最小エネルギーの位置に運ぶように働く。したがって動作時、それは定期的に、駆動ホイールの回転に抗する。この寄生磁気トルクは大きく成り得、磁気歯車の2つのホイールの間で伝達される機械的トルクと同等に(またはそれ以上にすら)なり得る。この問題のトルクを解消するため、2つのホイールの内の一方を駆動するモーター装置は、磁気歯車内で伝達される機械的偶力を大幅に上回る偶力を提供可能である必要である。これはモーターの動力消費を不要に増加させる、いずれの場合にも、第1ホイールが駆動ホイールで、第2ホイールが第1ホイールにより駆動されるものとすると、伝達可能な機械的トルクが、ホイールの磁気相互作用ではなく、第1ホイールからの最小機械的トルクにより制限され得る。本明細書の検討対象である典型的な磁気歯車において、第1ホイールにより提供される機械的トルクは、最大位置決めトルク(寄生磁気トルク)と、磁気歯車内で/を通じて伝達される機械的トルクとの和に等しい必要がある。
【0007】
本発明で主に対処される第2の重要な問題は、上述の典型的な磁気歯車において伝達される最大機械的トルクが、動作中の磁気歯車で生じる磁気トルクの変動により限定されるということである。具体的には、2つのホイールが回転する際、そのそれぞれの2つの磁気歯部が、交互に第1の状態と、第2の状態とに交互に遷移する。第1の状態では、これら2つの磁気歯部のうちの1つの磁気歯が、2つのホイールの中心間を通過する軸に沿うように配置される。第2の状態では、この磁気歯部の2つの隣接する磁気歯が、2つのホイールの中心間を通過する軸に対して、対称的な角度位置に存在する。第1の状態と、第2の状態との間で、駆動ホイールから被駆動ホイールにかかる磁気トルクの減少、すなわち歯車において伝達可能な最大機械的トルクの変動が認められる。したがって、歯車において伝達可能な最大機械的トルクが、回転する2つのホイール間の最小磁気トルクにより制限されるのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、上述のとおり特定された、従来技術の欠点を解消することにある。これは、機構、特に計時器機構であって、製造および当該機構への搭載、特に磁気歯部の製造および相対位置交差に関して容易な磁気歯車を備えた機構を提供することで実現される。これは、歯車において伝達可能(歯車における一方のホイールが他方に対して滑ることなく)な最大機械的トルクを増やすことが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明は、第1ホイールと、第2ホイールとを備える磁気歯車を備える機構、特に計時器機構に関する。第1ホイールは、交番磁極を有する第1磁束が発する第1磁気歯部の磁化歯を形成するように配置された第1永久磁極が設けられ、第2ホイールは、第2磁気歯部を画定する軟強磁性材料製の歯が設けられる。第1ホイールおよび第2ホイールは、第1磁気歯部との第1磁気結合領域に一時的に配置されることで、当該第1磁束の内の第1磁束がそれぞれ流れる、第2磁気歯部の歯に磁気引力を掛けるように一時的に分極する当該第1磁束により、第1磁気歯部が第2磁気歯部と第1磁気結合するように配置されることで、第1および第2ホイールが互いに磁気的に噛み合い、磁気歯車が、第2ホイールの回転軸から延び、第1ホイールの回転軸を通過する第1基準半軸を画定する。本発明によると磁気歯車は、第2永久磁極が設けられた第3ホイールをさらに備え、第2永久磁極は、交番磁極の第2磁束をそれぞれ発する、第3磁気歯部の磁化歯を形成するように配置される。第3ホイールおよび第2ホイールは、第3磁気歯部との第2磁気結合領域に一時的に配置されることで、当該第2磁束の内の第2磁束がそれぞれ流れる、第2磁気歯部の歯に磁気引力を掛けるように一時的に分極する当該第2磁束により、第3磁気歯部が第2磁気歯部と第2磁気結合するように配置されることで、第2および第3ホイールが互いに磁気的に噛み合い、磁気歯車が、第2ホイールの回転軸から延び、第3ホイールの回転軸を通過する第2基準半軸を画定する。第1基準半軸と、第2基準半軸とはその間に所定の角度Φを有する。第1ホイールの第1永久磁極(すなわち、磁化歯/磁気歯部)は、第1基準半軸に対し第1位相を有し、第3ホイールの前記第2永久磁極(すなわち、磁化歯/磁気歯部)は、第2基準半軸に対し第2位相を有する。磁気歯車は、当該第1および第2位相との間の差として定義される、第1および第3ホイールの位相シフトが常に一定となるように配置される。当該角度Φおよび当該位相シフトは、この磁気歯車に滑りを起こすことなく、すなわち、第2ホイールと第1および第3ホイールとの間に滑りを起こすことなく、磁気歯車内で伝達可能な最大機械的トルクの値を略決定するように選択される。
【0010】
第1ホイールおよび第3ホイールそれぞれの位相、すなわち、第1永久磁極および第2永久磁極それぞれ(すなわち、第1磁気歯部および第3磁気歯部それぞれの磁化歯)の位相は、所定のタイミングで、以下のとおりに画定される。これら永久磁極の1つ(これら磁化歯の1つ)の、第1半軸および第2半軸それぞれに対する角度を、第1磁気歯部、第3磁気歯部それぞれの角度期間(すなわち、この磁気歯部の2つの隣接する磁化歯の間の角度距離)を法として、全体をこの角度期間で除算し、360°を掛けることで得られる。位相シフトは、2つの位相の差により得られる。なお位相シフトβは、位相シフトβ-360°に等しい。したがって、該当する2つの位相の一時的値により、値がβからβ-360°の両方向に変化する位相シフトは、一定の位相シフトに留まる(例えば、90°の位相シフトと、-270°の位相シフトとは、単一および同一の位相シフトとなり、これら2つの値で変動する値の位相シフトは、一定の位相シフトである)。
【0011】
概して、磁気歯車内に、永久磁極が設けられ、第2ホイールに磁気結合された第3ホイールを設けることで、歯車内で滑りなく伝達可能な最大機械的トルクが、この目的のために、当該角度Φと当該位相シフトとを適切に選択することで、選択可能となる。特に、第3ホイールは、磁気歯車内で滑りを生じることなく(すなわち、この歯車で実現された動力伝達可能接続、すなわち、第2ホイールと、第1および第3ホイールとの磁気的噛み合いを解除することなく)伝達可能な最大機械的トルクを所定のモータートルクに対して増加可能とする。このような利点は、磁気歯車における最大総磁気トルクが、第1および第3ホイール間の角度ずれαに基づいて、さらに第1および第3ホイール間の当該位相シフトに応じて大幅に変動するという事実によるものである。角度ずれαは、上述の第2ホイールの磁気歯部の期間Pを法とした角度Φと等しいと定義される。さらに、磁化歯を有する2つのホイールが、強磁性材料製の歯を有する別のホイールに結合されたこのような磁気歯車は、停止状態の磁気歯車のホイールの角度位置にかかわらず、全てのホイールを停止させ続けるために、より大きな機械的トルクを提供する。これは、動的な、慣性が限定された機構について特に有効である。
【0012】
好ましくは、角度Φと、第1および第3ホイールの位相シフトとは、具体的には磁気歯車において一方のホイールが他方に対して滑ることなく伝達可能な最大機械的トルクが、第1ホイールおよび第2ホイールのみを備える別の磁気歯車により伝達可能な対応する最大機械的トルクの2倍超となるように選択される。より具体的には、第1および第3ホイールのそれぞれは、最大伝達可能機械的トルクについて、このホイールと第2ホイールとの間の、これら2つのホイールいずれかの角度位置に応じた最小磁気トルクに限定される。この最小値は、ホイールの一方から他方に伝達可能な機械的トルクの最大値を決定する。しかし、第1および第3ホイールの角度ずれおよび位相シフトが適切に選択されれば、2つの磁気トルクそれぞれの2つの最小値の間に打ち消しが確認される。すなわち、2つの磁気トルクの合計最小値(総磁気トルク)を、2つの磁気トルクの内の1つのみについての最小値の倍超にできる。この特徴は目覚ましいものである。
【0013】
有利な代替的な形態において、第1磁気歯部と、第3磁気歯部とがそれぞれ備える歯の数N1は同じであり、第1および第3ホイールは、第2ホイールの回転軸に対し、当該角度Φが以下の数学的関係を満たすように、角度を付けて配置され、
【0014】
【数1】
【0015】
式中、N2は第2磁気歯部10の歯の数で、NはN2未満の正の整数である。この角度Φ(N)の値の範囲は歯車について最大伝達可能機械的トルクに関して(値範囲の各値にそれぞれ関連付けられた第1および第3ホイールの永久磁極の間の位相シフトの特定の範囲に関して)良好な結果をもたらす。
【0016】
好ましくは、角度Φ(N)の値は、
【0017】
【数2】
【0018】
に略等しくなるように選択される。この角度Φ(N)の理想値は、歯車について最大伝達可能機械的トルクに関して(以下定義される理想位相シフトについて、第1および第3ホイールの永久磁極の間の位相シフトの特定の範囲に関して)最上の結果をもたらす。典型的には、角度Φ(N)の理想値によると、第1および第3ホイールの永久磁極間の位相シフトの所定の値について、第1ホイールおよび第2ホイールのみを備える別の歯車により生成される最大伝達可能機械的トルクの2倍を超える最大伝達可能機械的トルクを提供できる。
【0019】
別の有利な代替的な形態において、第1磁気歯部と、第3磁気歯部とがそれぞれ備える歯の数N1は同じであり、第1および第3磁気歯部のそれぞれ2つの特定の歯は、第1および第2半軸それぞれに対し常に、所定の一定角度差Ψを有する。第1および第3ホイールは第1および第2半軸それぞれに対し、角度差Ψが以下の数学的関係を満たすように角度を付けて配置され、
【0020】
【数3】
【0021】
式中、Mは、具体的には角度差を測定するために選択された2つの特定な歯に応じた、N1未満の正の整数である。角度差Ψ(M)についてのこの値の範囲によると、歯車について最大伝達可能機械的トルクに関して(値範囲の値それぞれに関連付けられた、第1および第3ホイール間の角度ずれの特定の範囲に関して)良好な結果が得られる。
【0022】
好ましくは、角度差Ψ(M)の値は
【0023】
【数4】
【0024】
に略等しくなるように選択される。角度差Ψ(M)についてのこの理想値によると、歯車について最大伝達可能機械的トルクに関して(全てのNに対する理想角度Φ(N)に対応する理想の角度ずれについて、第1および第3ホイール間の角度ずれの特定の範囲に関して)最上の結果が得られる。典型的には、Ψ(M)のこの理想値によると、第1および第3ホイールの角度ずれの所定の値について、第1ホイールおよび第2ホイールのみを備える別の歯車により生成される最大伝達可能機械的トルクの2倍を超える最大伝達可能機械的トルクを提供できる。角位相シフトは、第1歯部の期間(第3歯部のものに等しい)を法とした、角度差Ψ(M)として定義される。したがって、角位相シフトδは全てのMについて等しい。同様に、上述の角度ずれαも全てのNについて等しい。全てのNについての理想角度Φ(N)に対応する好ましい/理想角度ずれαと、全てのMについての好ましい/理想角度差Ψ(M)に対応する好ましい/理想角位相シフトδとの組合せにより、最大伝達可能機械的トルクに関して最上の結果が得られる。
【0025】
本発明の一例示的実施形態によると、第1および第3ホイールは、第2ホイールの略両側に配置され、これにより第2ホイールは第1および第3ホイールの略間に配置される。これにより、第2ホイールにかかる径方向磁力が均衡する。
【0026】
有利な代替的な形態において、第1および第3ホイールは駆動ホイールであり、第2ホイールは駆動される。
【0027】
本発明の一例示的実施形態によると、第1歯部および第3歯部それぞれの磁化歯は、これら磁化歯から第1ホイールおよび第3ホイールそれぞれの回転軸に対して、径方向となる主方向に、前記第1磁束および第2磁束がそれぞれ発するように配置される。
【0028】
第1の特定の実施形態によると、機構はさらに2つのモーター、好ましくは2つのラベットモーターを備え、2つのモーターそれぞれの回転子はそれぞれ第1および第3ホイールに動力伝達可能に接続され、それによりこれら第1および第3ホイールはそれぞれ回転駆動され、2つのモーターは、第1および第3ホイールを少なくとも一部同時に駆動するように構成される。
【0029】
第2の特定の実施形態によると、機構はさらに、1つのモーター、好ましくはラベットモーターを備え、モーターの回転子は、第1および第3ホイールに動力伝達可能に接続され、これによりこれらホイールを回転駆動する。第1および第3ホイールは、特に歯車列を介して機械的に結合される。
【0030】
有利には、第1および第3ホイールは、同じ直径を有し、それぞれ歯の数が同じである歯部を有し、これら2つのホイール間の距離は、その直径の4倍超、好ましくは8倍超である。これにより、第1および第3ホイール間の寄生磁気相互作用をほぼ完全に除去する。
【0031】
好ましくは、第1ホイールおよび第3ホイールはそれぞれ、強磁性材料製の中心部を有し、その周囲にそれぞれその当該第1永久磁極および当該第2永久磁極が対で、同数の対応する磁極と共に配置され、これにより、径方向磁化され、それぞれ第1磁気歯部および第3磁気歯部の磁化歯を画定するバイポーラ磁石を形成する。これにより、隣接するバイポーラ磁石間の磁気線が、第1ホイール、第3ホイールそれぞれの中心部を介して効果的に閉鎖可能となる。
【0032】
有利には、第2ホイールはリムを備え、リムは第2磁気歯部に対して連続的な円形ベースを形成し、リムから第2磁気歯部は突出し、リムは軟強磁性材料製で、これにより第2歯部を通過する当該第1磁束および当該第2磁束に対する磁路の終端を形成する。
【0033】
本発明の具体的な一例示的実施形態によると、第1、第2、および第3ホイールは同一平面上にある。本発明の別の具体的な例示的実施形態によると、第1、第2、および第3ホイールは異なる平面において延在し得る。
【0034】
有利には、機構はさらに、第1および第3ホイールのそれぞれに対し、軟強磁性要素または軟強磁性要素組をさらに備え、当該軟強磁性要素または軟強磁性要素組は、このホイールに対し、第1および第3ホイールそれぞれに掛かり、このホイールが第2ホイールの第2磁気歯部に磁気結合されていることで生じる個別の磁気位置決めトルクの少なくとも大部分を補償するように配置される。第1および第3ホイールそれぞれにかかる個別の磁気位置決めトルクは、このホイールの回転軸を通過するように第2ホイールの回転軸から延びる基準半軸に対する、当該ホイールの角度位置に応じた強度の定期的な変動が生じる。強磁性要素または強磁性要素組は、有利には、該当するホイールの、このホイールに関連付けられた基準半軸に対する角度位置に応じた、強度の定期的変動が同様に生じる磁気補償トルクを生成するように配置され、磁気補償トルクと、個別の磁気位置決めトルクとが、好ましくは180°の位相シフトを有する。
【0035】
このように構成された軟強磁性要素または軟強磁性要素組が存在することで、第1および第3ホイールそれぞれにかかる磁気位置決め偶力に関する問題の実質的大部分を解消する。具体的には、この寄生トルクの大部分を除去し、したがって第2ホイール、それに伴い第1および第3ホイールにかかる全体的な位置決めトルクが最小限に抑えられるのである。具体的には、磁気結合の変動は、第1および第3ホイールそれぞれについて、それらが磁気歯車における駆動ホイールである場合に、モーター装置が提供する機械的トルクの変動をもたらす。したがって、このような強磁性要素または強磁性要素組が存在することで、第1および第3ホイールそれぞれについてのこの変動の幅を抑制可能とする。しかも、これにより磁気歯車における磁気結合に対して顕著な影響を与えることは一切ない。言い換えると、第1および第3ホイールに供給される機械的トルクを「平滑化」することは、第2ホイールと、第1および第3ホイールとの間の磁気結合の変動をほとんど変化させない。この変動は、第1ホイール、第3ホイールそれぞれの磁極に対する第2歯部の角度位置に応じるものである。この変動は、本発明に係る磁気歯車の構成により、大幅に補償される。
【0036】
なお、本発明に係る磁気歯車は、上述したような、第1および第3ホイールの配置を通じて、これら第1および第3ホイールの間の角度ずれαおよび位相シフトにより、全体的な位置決めトルクをさらに大幅に低減可能とする。より具体的には、角度ずれαおよび位相シフトに関する有利な代替的な形態の構成、とりわけこれら2つのパラメータについて特定された理想値により、第1および第3ホイールそれぞれが生成し、第2ホイールにかかる2つの磁気位置決めトルクが同位相にならないことで、第3ホイールのない従来技術の場合よりも、第2ホイールにかかる全体的位置決めトルクが、大幅に低減される。特に、第1および第3ホイールが共に回転するように一体化されている場合、この2つのホイール組にも、全体としてより低い位置決めトルクがかかる。すなわち、これは第2ホイールにかかる全体的な位置決めトルクとほぼ等しくなる。したがって、本発明に係る磁気歯車は、効果的に背景技術の項目に記載の従来技術の実施形態で特定された2つの主な問題を効果的に解消する。すなわち、この磁気歯車は、より低いモータートルクで、より大きな機械的トルクを、安定して安全に伝達可能とする。
【0037】
本発明はさらに、本発明の機構を備える計時器、特に腕時計に関する。
【0038】
本発明に係る機構の目的、利点、および特徴は、図示の各種非限定的な実施形態に対する、以下の説明により、より明らかになる。図は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の具体的代替的実施形態に係る磁気歯車を内蔵する機構の上面図である。
図2】2つの小ホイールと、1つのより大きなホイールを備える、本発明に係る機構の第1実施形態の磁気歯車の、図1と同様な上面図である。
図3A】大ホイールの回転軸に対する2つの小ホイールの角度ずれの複数の異なる値について、図2の機構の2つの小ホイール間の角位相シフトに応じた、磁気歯車内で伝達可能な最大機械的トルクの変化を示す、いくつかのグラフの組を示す。
図3B】2つの小ホイールの間の角位相シフトの複数の異なる値について、図2の機構の2つの小ホイール間の角度ずれに応じた、磁気歯車内で伝達可能な最大機械的トルクの変化を示す、いくつかのグラフの組を示す。
図4A図2の機構の2つの小ホイール間の角度ずれに応じた、これら2つの小ホイールについての理想角位相シフトの変化を示すグラフである。
図4B図2の機構の2つの小ホイール間の0から1の尺度で表現されるずれに応じた、これら2つの小ホイールについて、同様に0から1で示される理想位相シフトの変化とともに、磁気歯車において伝達される最大機械的トルクが比較的高くなるこれら2つのパラメータの範囲を示す、図4Aと同様のグラフである。
図5図5は、本発明の機構の第2実施形態に対する第1の代替的形態の上面図である。
図6図6は、切断面VI-VIに沿った、図5の機構の断面図である。
図7図7は、本発明の機構の第2実施形態に対する第2の代替的形態の上面図である。
図8図8は、切断面VIII-VIIIに沿った、図7の機構の断面図である。
図9図9は、本発明の機構の第2実施形態に対する改良版変形例に係る、図5と同様な図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、本発明に係る、特に計時器型であって、本発明の概略的概念を呈する磁気歯車2を備える、機構1の、具体的な代替的実施形態を示す。本発明は2つのホイールを備える磁気歯車2を提供する。ホイール2は特に、ピニオン固有の小さい直径および寸法を有し、各ホイールの回転軸32、38の周りに、円形に配置された永久磁極がそれぞれ設けられる。これら2つのホイールは、特に大径で、比較的高透磁率の軟強磁性材料製の歯が設けられた別のホイール6Bに磁気結合される。2つの小ホイールの両者が駆動ホイールであり、大ホイールが駆動されるか、この逆もあり得る。図1において、2つの小ホイールはそれぞれ、円形バイポーラ磁石5A、5C(ディスク形状)であって、このバイポーラ磁石の磁気軸に垂直な中心回転軸32、38を有する、バイポーラ磁石5A、5Cにより形成された単一の回転要素5A、5Cにより形成される。なお、バイポーラ磁石は別の形状、特に矩形であってもよい。バイポーラ磁石5A、5Cはそれそれ、対応する回転するバイポーラ磁石との、対応する磁気結合領域を画定する、大ホイール6Bの対応する1領域において、この大ホイールに結合される磁場を生成する。したがって、2つの回転するバイポーラ磁石5A、5Cはそれぞれ、好ましくは大径で、有利に2つのバイポーラ磁石の間に配置されたホイールであるホイール6Bと磁気的に噛み合う。回転するバイポーラ磁石5A、5Cはそれぞれ、ホイール6Bの磁気歯部を一時的に局地的に磁気分極可能とする磁束を生成する。
【0041】
したがって、回転するバイポーラ磁石5A、5Cそれぞれが生成する磁場は、ホイール6Bを局地的および一時的に磁化する。より具体的には磁化されるのは、このホイール6Bの軟強磁性材料製の歯である。この歯は、所定の時点で活性化される。すなわち、ホイール6Bと、対応するバイポーラ磁石との間に設けられた磁気結合領域の定義に対応する、磁気噛合領域内に一時的配置されるのである。当該局地的磁化を実現するのに必要な、回転要素5A、5Bにより図示される、各ホイールの永久磁極の数は、バイポーラ磁石を形成する少なくとも2つの磁極まで減少される。
【0042】
磁気歯車2は、より大径のホイール6Bの回転軸34から延在し、図1では第1の回転するバイポーラ磁石5Aとして示される、2つのより小さいホイールの内の第1のホイールの回転軸32を通過する、第1基準半軸30を画定する。磁気歯車2はさらに、ホイール6Bの回転軸34から延在し、図1では第2の回転するバイポーラ磁石5Bで示される、第2小ホイールの回転軸38を通過する第2基準半軸36を画定する。第1基準半軸30と、第2基準半軸36との間には、所定の角度Φが形成される。図1に示すように、第1および第2基準半軸30、36の間の角度Φは、第2基準半軸36から測定される。
【0043】
図2並びに図5から9に示すように、磁気歯車2は3つのホイール6A、6B、6Cを備える。概して、第2ホイール6Bよりも小径な第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cは、円形に設けられ、それぞれ第1磁気歯部8と第3磁気歯部12とを画定する、N1個の永久磁極7、9がそれぞれ設けられる。好ましくは、図2並びに図7から9に示すように、第1および第3ホイール6A、6Cは第2ホイール6Bの略両側に配置される。したがって、第2ホイール6Bは、第1および第3ホイール6A、6Cの略間に配置される。また好ましくは、第1および第3ホイール6A、6Cは駆動ホイールであり、第2ホイール6Bはこれら2つのホイールに回転駆動される。3つのホイール6A、6B、6Cは、同一平面上にあるか、異なる平面で延在してもよい。
【0044】
N1個の永久磁極7、9は、それぞれ第1磁気歯部8および第3磁気歯部12の磁化歯を形成し、そこからそれぞれ交番磁極の第1磁束および第2磁束が生じる。磁極は円形に設けられ、交番磁極となっているため、偶数存在する。好ましくは、N1は、4以上、10以下の偶数である。第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cそれぞれの、磁極7、9は典型的には、対で設けられ、対応する磁極の数も同じである。対応する磁極は、ホイール6A、6Cの軸を形成する中心部32、38の周り、または当該軸が通過する開口内に配置されるものである。したがって、これら磁極対は、その外磁極により、第1磁気歯部8および第3磁気歯部12それぞれの磁化歯を画定するバイポーラ磁石を形成する。複数のバイポーラ磁石が径方向磁化の場合、中心部32、38は、強磁性材料またはミューメタル材料製であることが有利である。そのような材料は、複数のバイポーラ磁石の内の、内側の磁極、特に隣接するバイポーラ磁石間の磁極から発する磁場線を、第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cそれぞれの中心部を介して効果的に閉鎖する。図2および図5から9に示す具体的な例示的実施形態において、第1および第3ホイール6A、6Cはそれぞれ、第1磁気歯部8および第3磁気歯部12それぞれの6個の磁化歯を形成する、6個のバイポーラ磁石7、9を備える。好ましくは、図2、5、7、9に示すように、第1歯部8および第3歯部12それぞれの磁化歯7、9は、これら磁化歯7、9から、第1磁束および第2磁束それぞれが、第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cそれぞれの回転軸に対して径方向となる主方向に発するように構成される。したがって、バイポーラ磁石は、径方向磁化となる。
【0045】
第2ホイール6Bには、第2磁気歯部10を形成する、軟強磁性材料製のN2個の歯が設けられる。第2ホイール6Bは、磁性材料製、典型的には軟強磁性材料製で、同じく軟強磁性材料製で第2磁気歯部10を形成する、42個の歯が突出する環状リムを備える。したがって、そのような環状リムは、第2磁気歯部10に対して、連続的な円形ベースを形成する。これを介して、第1および第3磁気歯部8、12それぞれにより提供される、第1および第2の相互作用する磁束の磁路が閉鎖される。
【0046】
常に、第1ホイール6Aの永久磁極7Aの1つは、第1基準半軸30に対して、第1角度位置となり、第3ホイール6Cの永久磁極9Aの1つは、第2基準半軸36に対して、第2角度位置となる。磁気歯車2は、第1および第3ホイール6A、6Cが常に、第1および第2角度位置が一定の角度差Ψを有するように、それぞれの基準半軸に対して角度を付けて配置される。角度ΦおよびΨは概して、磁気歯車内での滑りのリスクなしで、この磁気歯車内で伝達可能な最大機械的トルクの値を決定するように選択される。特に、角度ΦおよびΨは有利には、磁気歯車2内で滑りの可能性なく伝達可能な最大機械的トルクが、第1ホイール6Aおよび第2ホイール6Bのみを備える別の磁気歯車で伝達可能な対応する最大機械的トルクの2倍超となるように選択される。以下に説明する図3Aから4Bに、角度ΦおよびΨのそのような値を示す。
【0047】
有利な代替的な形態において、第1および第3ホイール6A、6Cは、角度Φが以下の数学的関係(1)を満たすように、第2ホイール6Bに対して角度を付けて配置される。
【0048】
【数5】
【0049】
式中、NはN2未満の整数である(したがって、Nは1からN2-1の任意の整数であり、すなわちN=1、2、…、N2-1となる)。
【0050】
このような角度Φの選択は、特に図3Aに記載の異なる複数の曲線C1、C2、C3、C4、およびC5に基づくいくつかのシミュレーションの結果である。これら曲線は、異なる角度ずれα=Φ(N)-ΦN-1の値について、角位相シフトδ=Ψ(M)-ΨM-1に応じた、磁気歯車2内で伝達可能な最大機械的トルク(単位%)の変化を示す。第2ホイール6Bの磁気期間Pは、360°/N2として定義される。第1および第3ホイール6A、6Cそれぞれの磁気期間Pは360°/N1として定義される。角度ΦN-1は、(N-1)・Pとして定義される。角度ΨM-1は(M-1)・Pとして定義され、MはN1未満の正の整数である(したがってMは1からN1-1の任意の整数であり、すなわちM=1、2、…、N1-1となる)。角度ずれαはΦN-1とΦとの間に含まれ、角位相シフトδは、ΨM-1とΨとの間に含まれる。ΨはMPに等しい。したがって、角度ずれαはΦ(1)に等しい。数学的関係(1)は、角度ずれについて、P/3≦α≦2・P/3という関係に等しい。
【0051】
曲線C1、C2、C3、C4、およびC5は、角度ずれαがそれぞれ0、P/4、P/3、P/2、および2P/3である場合において、角位相シフトδに基づく、磁気歯車2内で伝達可能な最大機械的トルク(単位%)の変化を示す。曲線C3およびC5は、上述数学的関係(1)と、等しい上述の関係の上下限のために選択される。曲線C2、C3、C4、およびC5からわかるように、角位相シフトの所定の範囲について、磁気歯車2内で、滑り無しで伝達可能な最大機械的トルクは、第1ホイール6Aおよび第2ホイール6Bのみを備える、別の磁気歯車により伝達可能な対応する最大機械的トルクの2倍を超える。中点角位相シフトP/2に対し、曲線C3およびC5は綺麗な対称を描いている。これは、これらの2つの状態が、磁気歯車に対して、磁気的に等価であるということで、容易に説明がつく。これにより、中点角度ずれから等距離に存在する上下角度ずれに対応する上下限を数学的関係(1)有する理由が理解されよう。最上の結果が得られるのは、中点角度ずれP/2に対応するC4曲線である。
【0052】
好ましくは、図3A(そして特に、角位相シフトの所定の値について伝達可能な最大機械的トルクに関して最上の結果が得られる曲線C4)に示すように、角度Φ(N)の値は、中点角度ずれP/2に対応する、
【0053】
【数6】
【0054】
と略等しくなるように選択される。具体的には、中点角度ずれP/2と、中点角位相シフトP/2との組み合わせについて、最大伝達可能機械的トルクが得られる。
【0055】
図1に示す具体的な状態では、N1は18で、第2磁気歯部10の歯の数N2が42であり、ここでは、角度Φ(18)は、150°であることが好ましい。図2に示す具体的な状態では、N1は21で、第2磁気歯部10の歯の数N2が42であり、ここでは、角度Φ(21)は175.7°であることが好ましい。図3Aの第4曲線C4に示すように、第1磁気歯部8および第3磁気歯部12の歯の数N1が6である場合、角位相シフトδの好ましい値(歯車2についての最大伝達可能機械的トルクに関する)は、理想値30度前後である(この角位相シフトδの理想値をΨopt4とする)。
【0056】
有利な代替的な形態において、上述の数学的関係(1)とは独立して(すなわち、最初に角度Ψの値を、角度Φの値の前に選択する場合)、第1および第3ホイール6A、6Cは、角度差Ψが以下の数学的関係(2)を満たすように、それぞれ対応する半軸30および36に対して角度を付けて配置される。
【0057】
【数7】
【0058】
図3Bに、別の曲線C6、C7、C8、C9、およびC10を示す。これら曲線は、角度ずれα=Φ(N)-ΦN-1に応じて、異なる角位相シフトδ=Ψ(M)-ΨM-1の値に応じて、磁気歯車2内で伝達可能な最大機械的トルク(単位%)の変化を示す。なお、角位相シフトδはΨ(1)に等しい。数学的関係(2)は角位相シフトについて、P/3≦δ≦2P/3という関係に等しい。
【0059】
曲線C6、C7、C8、C9、およびC10は、角位相シフトがそれぞれ0、P/8、P/4、3P/8、およびP/2である場合において、角度ずれに応じた、磁気歯車2内で伝達可能な最大機械的トルク(単位%)の変化を示す。曲線C9およびC10からわかるように、角度ずれの所定の範囲について、磁気歯車2内で、滑り無しで伝達可能な最大機械的トルクは、第1ホイール6Aおよび第2ホイール6Bのみを備える、別の磁気歯車により伝達可能な対応する最大機械的トルクの2倍を超える(最上の結果が得られるのは、中点角度ずれP/2に対応する曲線C10である)。
【0060】
好ましくは、図3B(そして特に、角度ずれの所定の値について伝達可能な最大機械的トルクに関して最上の結果が得られる曲線C10)に示すように、角度差Ψ(M)の値は、理想角位相シフトδ=P/2に対応する
【0061】
【数8】
【0062】
に略等しくなるように選択される。図2に示す具体的な状態では、Mは「1」で、第1磁気歯部8および第3磁気歯部12の歯の数N1が「6」であり、ここでは、角度Ψ(1)は30°であることが好ましい。これは理想角位相シフトδ=30°に対応する。図3Bの曲線C10に示すように、第2磁気歯部10の歯の数N2が「42」である場合、角度ずれαの好ましい値(歯車2についての最大伝達可能機械的トルクに関する)は、約4.286°の、理想角度ずれP/2前後である。
【0063】
図4Aは、図3Aにおける曲線C2、C3、C4、およびC5に対応する角度ずれαの異なる複数の値について、これら4つの曲線のピークそれぞれの横座標、すなわち、理想角位相シフトに対応する4点Ψopt2、Ψopt3、Ψopt4、およびΨopt5をグラフで示す。なお、図4Aにおいて、角度ずれに基づいて、理想角位相シフトについて、準線形関数が得られる。理論曲線は、線形直線D1であり、第2ホイール6Bの磁気歯部の期間P2を通じた角度ずれX・P2(Xは0と1の間)に対して、第1および第3ホイール6A、6Cの磁気歯部の期間P1における理想角位相シフトがX・P1であることを示す。したがって、関係δ=(P1/P2)・αはこの理論線形直線D1上に存在する。
【0064】
図4Bは、図4Aと同様のグラフ表示である。但し、座標の尺度が異なる。具体的には、期間P2で除した角度ずれ、すなわちα/2に基づく、期間P1で除した角位相シフトすなわち、δ/P1のグラフである。各種理想値を繋げた曲線に加え、この図4Bは、略2より大きい、磁気歯車内で伝達可能な最大機械的トルクが得られる値組の範囲Z1を示す。この図から次のことがわかる。すなわち、角位相シフトまたは角度ずれが選択されると、これら2つのパラメータの内の選択されていないものの有利な範囲が、当該別のパラメータの理想値の何れかの側で、この別のパラメータに依存した値の所定の範囲に存在する。
【0065】
以下の説明において、同じ参照符号で示す要素は同様のものである。本発明の範囲を限定することなく、機構1は好ましくは計時器機構である。
【0066】
図2を参照して、本発明に係る磁気歯車2を備える機構1の第1実施形態を以下に説明する。この機構1の第1実施形態によると、機構1は2つのモーターを備える(これら2つのモーターは明確さのために図2では不図示)。第1、第2、第3ホイール6A、6B、6Cは、同じ概略的平面状で延在する。
【0067】
第1モーターおよび第2モーターそれぞれの回転子は、1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cそれぞれに、動力伝達可能に接続される。これにより、このホイールを回転駆動する。例えば各モーターは、減速機歯車が設けられたラベットモーターである。2つのモーターは、第1および第3ホイール6A、6Cを同時に駆動するように構成される。具体的には、2つのモーターは、上述の数学的関係(2)により定義された角度Ψ(M)の分だけ、第1および第2角度位置が常に位相ずれするように、第1および第3ホイール6A、6Cを同時に駆動するように構成される。この機構1の第1実施形態において、第1および第3ホイール6A、6Cは、磁気歯車2における駆動ホイールである。
【0068】
図5から9を参照して、本発明に係る磁気歯車2を備える機構1の第2実施形態を以下に説明する。この機構1の第2実施形態によると、機構1は単一のモーターを備える(この単一のモーターは明確さのために不図示)。第1、第2、第3ホイール6B、6C、6Aは、同じ概略平面において延在する。第1および第3ホイール6A、6Cは、典型的には歯車列14を介して機械的に結合され、モーターにより回転駆動される。好ましくは、図5から9に示すように、第1および第3ホイール6A、6Cは同径で、それぞれの磁気歯部において同数の歯を有する。第1ホイール6Aと、第3ホイール6Cとの間の距離は、これら2つのホイールそれぞれの直径の、有利には4倍超で、好ましくは8倍超となる。
【0069】
モーターの回転子は、第1および第3ホイール6A、6Cの少なくとも一方または歯車列14に存在する対応するホイールに、動力伝達可能に接続される。これにより、第1および第3ホイールが同時に回転駆動される。モーターは、好ましくはラベットモーター、または連続回転時計用モーターである。
【0070】
図5および6に示す機構1の第2実施形態の第1の代替的な形態によると、モーターの回転子は、第1および第3ホイールを機械的に結合する歯車列14に接続される。これにより、歯車列を介して、第1および第3ホイールが同時に回転駆動される。歯車列14は、第1および第3ホイール6A、6Cのそれぞれの軸20A、20Cに接続される。これにより、これらホイールが機械的に結合される。図6に示す例によると、歯車列14は、3つのホイール22A、22B、22Cから成り、中心ホイール22Bは、例えばモーターに接続され、その他2つのホイール22A、22Cを機械的に結合する。中心ホイール22Bは、中心軸20Bに取り付けられる。その他2つのホイール22A、22Cはそれぞれ、第1および第3ホイール6A、6Cの内の1つの、対応する軸20A、20Cに同軸状に取り付けられる。機構1の側方に配置されたピン24は、プレート28に対して、ブリッジ26を取付可能とする。この第2実施形態の第1代替的な形態において、第1および第3ホイール6A、6Cは、磁気歯車2における駆動ホイールである。別の代替的な形態において、第2ホイールは駆動ホイールで、第1および第3ホイールが駆動される。
【0071】
図7および8に示す、機構1の第2実施形態の第2代替的な形態は、2つの主要な点において、第1代替的な形態から本質的に異なる。まず、第1および第3ホイール6A、6Cは、その間の磁気干渉を抑制するため、互いにできるだけ離間される。これらは、第2ホイール6B(大ホイール)の略両側に配置される。すなわち、この第2ホイールの直径に沿って整列する。したがって、有利に、第2ホイール6Bに働く径方向の磁力が、略均衡する。第2に、機構1が、歯車列14のホイール22Bに対し、ピボット軸受を備える。ピボット軸受は、第2ホイール6Bの回転軸34に対して整列され、それ自体は歯車22B側に軸受けを有さないこの第2ホイール6Bの中心部に保持される。
【0072】
図9に示す、機構1の第2実施形態の第1代替的な形態に対する改良版としての代替的な形態によると、機構1はさらに、第1および第3ホイール6A、6Cのそれぞれに対して、このホイール6A、6Cに個別にかかる寄生磁気トルクの少なくとも大部分を理想的に補償し、打ち消すようにこのホイール6A、6Cに対して配置された強磁性要素40A、40Cを備える。具体的には、既に上述したように、第1および第3駆動ホイール6A、6Cのそれぞれに対して寄生磁気トルク(位置決めトルクと称する)がかかる。
【0073】
強磁性要素40A、40Cそれぞれは、ここでは第2ホイール6Bのものと同一の第1および第3ホイール6Aおよび6Cの概略平面内に配置されることが好ましい。この強磁性要素40A、40Cはそれぞれ、第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cそれぞれの磁気歯部8、12に向かって延在する、2つの端部43および44を備える。概して、端部43、44は、第1基準半軸30、第2基準半軸36それぞれに対し、角度を付けて配置される。その値は、(J-1/2)・360/N1、すなわち、(J-1/2)・P1に略等しい。ここで、Jは整数「1」であり、N1は各端部について異なる。なお、より複雑な代替的な形態では、2つの端部に加え、その他突出部が設けられ得る。これらはそれぞれ、上述の数式における、「1」とN1との間の値Jで定義された複数の角度の内の異なる角度で配置される。2つの端部43、44は、中間部46により接続される。この中間部46は、第2ホイール6Bの反対側で、第1および第3ホイール6A、6Cの概略平面内で延在する半円形状を有する。なお、この中間部46は、第1ホイール6A、第3ホイール6Cそれぞれに、低磁気トルクを生じるような寸法に設計される。このトルクは、全体としてそれぞれ強磁性要素40A、40Cにより生成される磁気補償トルクよりもかなり低い。磁気補償トルクは主に、中間部46が形成する円に対し、第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cそれぞれの歯部8および12に向かって内側を面するように配置された、2つの端部43、44により生成されるものである。
【0074】
強磁性要素40A、40Cそれぞれは、第1基準半軸30、第2基準半軸36それぞれに対する、第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cの角度位置に応じた、寄生磁気トルクの周期的強度変動と同じ期間、磁気補償トルクを生成するように配置される。有利に、図示のように、磁気補償トルクと、寄生磁気トルク(位置決めトルク)とは、略180°位相がずれている。好ましくは、強磁性要素40A、40Cそれぞれは、磁気補償トルクの最大強度(振幅)が、磁気位置決めトルクと略同一となるように構成される。
【0075】
改良版によると、強磁性要素40A、40Cは、第1ホイール6A、第3ホイール6Cそれぞれに、全体として、磁気補償引力をそれぞれ第1基準半軸30および第2基準半軸36に沿って生成するように構成される。その引力の方向は、第2ホイール6Bが第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cそれぞれに掛ける径方向磁気引力と反対となる。なお、図9に示す代替的な形態では、半円形の中間部による微量の磁気補償引力が既に生じている。ただし、この中間部は主に2つの端部43および44間に低磁気抵抗回路を生成するものであって、中間部がそれぞれ第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cに掛ける磁気引力は、第2ホイール6Bが、この第1ホイール6Aおよび第3ホイール6Cに掛ける径方向磁気引力よりもかなり低い。すなわち、これら2つの引力の間には、桁違いの差がある。この改良版を実現するために、複数の異なる具体的実施形態が考えられる。特に、上述のパラメータJについて、2つの値を適切に選択すること、および/または検討対象のホイールに向かって内側に面する第3部品を追加すること、および/または中間部の構成を変えることが挙げられる。
【0076】
なお、機構1の第2実施形態の第1例を参照に、強磁性要素40A、40Cを備える構成について説明したが、この構成は、本発明の範囲から逸脱することなく、機構1の第1実施形態および第2実施形態の第2の代替的な形態にも同様に適用される。
【0077】
非限定的な例として、本発明者らは、歯車2内で伝達可能な最大機械的トルクの結果を数値として得ている。それら数値は、歯の数N1を6、歯の数N2を42として得たものである。第1ホイール6Aおよび第2ホイール6Bのみを備える別の磁気歯車において、歯車において伝達可能な最大機械的トルクは、93μNmである。本発明に係る磁気歯車2に関しては、角度ずれ値が0度で角位相シフト値δが0度であれば、歯車2において伝達可能な最大機械的トルクは186μNmとなる。この値は、第1ホイール6Aおよび第2ホイール6Bのみを備える磁気歯車で得られることが期待される値のちょうど倍である。理想角度ずれ値αである4.286度と、理想角位相シフト値δである30度の場合、歯車2において伝達可能な最大機械的トルクは約227μNmである(α=δ=0°の場合と比べて20%超増である)。
【符号の説明】
【0078】
1 機構
2 磁気歯車
5A バイポーラ磁石
5C バイポーラ磁石
6A 第1ホイール
6B 第2ホイール
6C 第3ホイール
7 永久磁極
8 第1磁気歯部
9 永久磁極
10 第2磁気歯部
12 第3磁気歯部
30 第1基準半軸
32、38 中心部
34 回転軸
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9