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特許7550843親水性重合体を含む抗ウイルス性物品外層用樹脂組成物、成形体、抗ウイルス性物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】親水性重合体を含む抗ウイルス性物品外層用樹脂組成物、成形体、抗ウイルス性物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240906BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240906BHJP
   C08G 63/672 20060101ALI20240906BHJP
   C08G 69/40 20060101ALI20240906BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240906BHJP
   C08L 77/12 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C08L67/02
A61P31/12
C08G63/672
C08G69/40
C08J5/00
C08L77/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022510928
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2022005030
(87)【国際公開番号】W WO2022176726
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2022-06-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2021022249
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】322012860
【氏名又は名称】東レ・セラニーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】大田 健史
(72)【発明者】
【氏名】坂口 剛正
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】天野 宏樹
【審判官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168212(JP,A)
【文献】特開2020-40267(JP,A)
【文献】特開平11-323659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L67/02
C08L77/12
C08L101/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性重合体を含み、水の接触角が80度以下、吸水率が25%以下であり、24時間後の抗ウイルス活性値が2以上であり、親水性重合体が熱可塑性ポリエステルエラストマーあるいは熱可塑性ポリアミドエラストマーを含むことを特徴とする抗ウイルス性物品外層用樹脂組成物。
【請求項2】
親水性重合体が熱可塑性ポリエステルエラストマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性物品外層用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗ウイルス性物品外層用樹脂組成物を加工してなる成形体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の抗ウイルス性物品外層用樹脂組成物を外層に用いてなる抗ウイルス性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナウイルス等の様々なウイルスによる感染症は、人間の生命を脅かすことから、世界的にその対策が急がれている。このような観点から、抗ウイルス性材料の需要は高まる一方であり、あらゆる製品において抗ウイルス性が求められている。
【0003】
このような抗ウイルス性材料としては、例えば、特許文献1や特許文献2のように、銀、銅、亜鉛等からなる金属酸化物を樹脂に分散させた材料が報告されている。しかしながら、金属酸化物がブリードアウトするという問題があった。また、混合する樹脂が金属酸化物によって劣化するという問題があった。
【0004】
一方、特許文献3のように、金属酸化物を添加しないで抗ウイルス性を発現する高分子化合物として、アミノ基を有するポリビニルアルコールが報告されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-172462号公報
【文献】特開2015-205998号公報
【文献】国際公開第2017/171066号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3の高分子化合物であるアミノ基を有するポリビニルアルコールは水溶性のため水に対して耐性がなく、また成形加工性に課題があり、新たな材料が求められると考えた。
【0007】
本発明は、金属酸化物などの添加物を添加しなくてもそれ自身で高い抗ウイルス性を発現することができ、水に対して耐性があり、成形体として、射出成形品、押出成形品、フィルム、繊維、不織布及び発泡体に加工することができる、抗ウイルス性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、親水性重合体を含み、水の接触角が80度以下である樹脂組成物が、金属酸化物などの添加物を添加しなくてもそれ自身が抗ウイルス性を発現することを見出した。そして、水の接触角が80度以下でありながら、吸水率が25%以下であれば、水に対して耐性があることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、親水性重合体を含み、水の接触角が80度以下、吸水率が25%以下であり、24時間後の抗ウイルス活性値が2以上であることを特徴とする抗ウイルス性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属酸化物のブリードアウトや金属酸化物による劣化を起こすことなく、高い抗ウイルス性を発現することができ、水に対して耐性があり、成形加工性に優れる抗ウイルス性樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。
【0012】
本発明の抗ウイルス性樹脂組成物は、親水性重合体を含み、水の接触角が80度以下、吸水率が25%以下である。水の接触角が80度以下であることで、ウイルス活性を抑制することができ、吸水率が25%以下であることで、水に対して耐性があり、成形加工性に優れる。
【0013】
本発明の抗ウイルス性樹脂組成物は、後述する抗ウイルス性試験(SARS-CoV-2)における、24時間後の抗ウイルス活性値が2以上である。
【0014】
本発明において、「抗ウイルス性」とは、病原体ウイルスを不活化する性質を意味する。抗ウイルス性は、後述する24時間後の抗ウイルス活性値(Mv)や24時間後のウイルス低減率(%)で評価される。
【0015】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は親水性重合体を含み、水の接触角が80度以下、吸水率が25%以下である。ウイルスとの接触面積が大きいほど良いため、水の接触角は75度以下が好ましい。吸水率は25%を超えると成形品の膨潤が大きくなり形状安定性が悪くなる。
【0016】
[親水性重合体]
本発明に用いられる親水性重合体の具体例として、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の親水性樹脂が挙げられる。これらのうち、ポリエステル系樹脂が好ましく使用できる。ポリエステル系樹脂の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヘキシレンテレフタレート、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート、ポリシクロヘキサン-1,4-ジメチロールテレフタレート、熱可塑性ポリエステルエラストマーなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートなどの共重合ポリエステルが挙げられる。なお、ここで「/」は共重合体を意味する。中でも、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマーが好ましく、熱可塑性ポリエステルエラストマーがより好ましい。
【0017】
また、親水性重合体は、ヒドロキシル基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシル基などの親水基を少なくとも1種類を含む重合体でもよい。具体例として、コロナ処理やプラズマ処理により、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水基を付与した、疎水性樹脂であるポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。さらには、親水性重合体は、2つ以上の異なる重合体を混合させたものでもよく、具体例として、ポリビニルアルコールなどの吸水率が25%より大きい重合体を疎水性樹脂と混合してもよい。
【0018】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー]
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーは、高融点結晶性重合体セグメントと低融点重合体セグメントの共重合体である。
【0019】
高融点結晶性重合体セグメントは、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルである。
【0020】
前記芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4'-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、および3-スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。本発明においては、前記芳香族ジカルボン酸を主として用いるが、この芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4'-ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。さらに、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物なども同等に用い得る。
【0021】
本発明においては、上記酸成分を2種以上使用することができる。例えばテレフタル酸とイソフタル酸、テレフタル酸とドデカンジオン酸、テレフタル酸とダイマー酸などの組み合わせが挙げられる。
【0022】
次に、高融点結晶性重合体セグメント中のジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2'-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4'-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、および4,4'-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0023】
低融点重合体セグメントは、脂肪族ポリエーテルであるが、脂肪族ポリエステルや脂肪族ポリカーボネートを併用してもよい。
【0024】
脂肪族ポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ノナメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、テトラメチレンオキシドとヘキサメチレンオキシドの共重合体、テトラメチレンオキシドとノナメチレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体を含むことが好ましい。中でもポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物を含むことが好ましい。なお、例えば、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールは、ポリプロピレンオキシドあるいはポリプロピレングリコールであり、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールは、ポリ(テトラメチレンオキシド)あるいはポリテトラメチレンエーテルグリコールである。
【0025】
また、これらの脂肪族ポリエーテルの数平均分子量としては、共重合された状態において300~6000であることが好ましい。数平均分子量は一般的な有機分析で測定することができる。
【0026】
脂肪族ポリエステルの具体例として、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、等が挙げられる。脂肪族ポリカーボネートは、主として炭素数2~12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、等が挙げられる。
【0027】
高融点結晶性重合体セグメントと低融点重合体セグメントの共重合比に関しては、低融点セグメントの比率が大きいほど好ましい。具体的には、低融点重合体セグメントの共重合比率は9%以上がより好ましく、20%以上がより好ましく、25%以上がより好ましく、30%以上がより好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上がより好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上がより好ましい。
【0028】
なお、ここで言う低融点セグメントの共重合比率とは、低融点セグメントの、ジオール成分としての低融点セグメント単位の割合である。すなわち、原料の低融点セグメント成分からエステル結合生成による水分子分を控除した量の、低融点セグメントを含む共重合体全体の量に対する割合を質量%で表したものである。原料の組成が判っていればそのまま計算して求めることができる。また、低融点セグメントを含む共重合体をNMRで構造分析して求めることができる。
【0029】
本発明の抗ウイルス性組成物は、親水性重合体のみからなっても構わないし、目的を損なわない範囲で必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤等の添加剤や、タルク、マイカ、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、セルロースナノファイバーなどの補強材を添加することができる。
【0030】
本発明のウイルスの具体例としては、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、SARS-CoV-2、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス、風疹ウイルス、麻診ウイルス、ヒトRSウイルス、狂犬病ウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、D型肝炎ウイルス、天然痘ウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ノロウイルス、ネコカリシウイルス、アデノウイルス、A型肝炎ウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、ロタウイルス、パルボウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、等が挙げられる。
【0031】
本発明の成形体は、本発明の抗ウイルス性樹脂組成物を加工してなる。本発明の成形体の具体的な態様は、射出成形品、押出成形品、フィルム、繊維、不織布及び発泡体等である。
【0032】
本発明の抗ウイルス性樹脂組成物は、抗ウイルス性を付与させたい物品の外層に好ましく用いられる。すなわち、抗ウイルス性を有する物品を提供する方法であって、前記方法は物品の外層を提供する工程を含み、前記外層が本発明の抗ウイルス性樹脂組成物を含むことは好ましい。ここで外層とは、2層以上が重なってできている成形体の表層部、もしくは単層成形体の露出面であり、例えば、インモールド成形体のフィルム層、2色成形品の人が触れられる層、コーティングしていないマスクの露出面等があげられる。
【0033】
また、物品の表面に抗ウイルス性を付与するための、本発明の抗ウイルス性樹脂組成物の物品の外層への使用は好ましい。
【0034】
また、本発明の抗ウイルス性樹脂組成物の用途としては、壁紙、床材、カーテン、衣類、ごみ箱、食品包装材、絆創膏、マスク、包帯、食器、家具、玩具、浴室部材、トイレ部材、キッチン部材、家電、フィルター(空気清浄器)、寝具(毛布、布団、シーツ)、座席用シート(カーシート、列車シート、航空機シート、家庭用チェアシート)、つり革、手すり、スポンジ(清掃用、食器洗い、ろ過材)、おむつ、清掃用具、汚染拡散防止材、自動車内装材、等が挙げられる。
【0035】
本発明において、「抗ウイルス性」とは、病原体ウイルスを不活化する性質を意味する。抗ウイルス性は、後述する24時間後の抗ウイルス活性値Mvや24時間後のウイルス低減率(%)で評価される。
【実施例
【0036】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%及び部とは、断りのない場合、すべて質量基準である。また、実施例中に示される物性は次のように測定した。
【0037】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-1)]
テレフタル酸270.0部、1,4-ブタンジオール234.0部およびテトラブチルチタネート0.1部、モノn-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.1部を精留塔、撹拌機を有するエステル化缶に仕込み、160℃、700mmHgの減圧下でエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温するとともに、さらに1,4-ブタンジオール59.0部を連続的に追加添加した。反応を開始してから3時間40分後に透明な反応生成物を得て、反応を終了させた。エステル化反応終了後、重縮合触媒としてテトラブチルチタネート1.8部、安定剤として“IRGANOX”1330(BASF社製)1.0部をエステル化缶に添加し、一方、数平均分子量1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール686.0部を重縮合缶に仕込んだ後、上記のエステル化反応生成物をエステル化缶から重縮合缶へ移行した。そして、重縮合缶内の反応系を撹拌重合させながら、常圧から1mmHg以下の高真空度まで1時間かけて徐々に減圧系にし、同時に245℃に昇温して、245℃,1mmHg以下の条件下で3時間30分重縮合せしめ、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-1)を得た。
【0038】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-2)]
テレフタル酸501.0部、1,4-ブタンジオール量326.0部およびテトラブチルチタネート0.3部、モノn-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.2部を精留塔、撹拌機を有するエステル化缶に仕込み、160℃、650mmHgの減圧下でエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温するとともに、さらに1,4-ブタンジオール81.0部を連続的に追加添加しながら、反応途中から減圧度を500mmHgに変更した。反応を開始してから3時間40分後に透明な反応生成物を得て、反応を終了させた。エステル化反応終了後、重縮合触媒としてテトラブチルチタネート2.0部、安定剤として“IRGANOX”1098(BASF社製)0.5部をエステル化缶に添加し、一方、数平均分子量1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール354.0部を重縮合缶に仕込んだ後、上記のエステル化反応生成物をエステル化缶から重縮合缶へ移行した。そして、重縮合缶内の反応系を撹拌重合させながら、常圧から1mmHg以下の高真空度まで1時間かけて徐々に減圧系にし、同時に245℃に昇温して、245℃,1mmHg以下の条件下で3時間30分重縮合せしめ、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-2)を得た。
【0039】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-3)]
テレフタル酸591.0部、1,4-ブタンジオール量385.0部およびテトラブチルチタネート0.3部、モノn-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.1部を精留塔、撹拌機を有するエステル化缶に仕込み、160℃、500mmHgの減圧下でエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温するとともに、さらに1,4-ブタンジオール96.0部を連続的に追加添加した。反応を開始してから3時間40分後に透明な反応生成物を得て、反応を終了させた。エステル化反応終了後、重縮合触媒としてテトラブチルチタネート1.5部、安定剤として“IRGANOX”1098(BASF社製)0.5部をエステル化缶に添加し、一方、数平均分子量1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール231.0部を重縮合缶に仕込んだ後、上記のエステル化反応生成物をエステル化缶から重縮合缶へ移行した。そして、重縮合缶内の反応系を撹拌重合させながら、常圧から1mmHg以下の高真空度まで1時間かけて徐々に減圧系にし、同時に245℃に昇温して、245℃,1mmHg以下の条件下で3時間30分重縮合せしめ、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-3)を得た
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-4)]
テレフタル酸340.0部、イソフタル酸100部、1,4-ブタンジオール量296.0部およびテトラブチルチタネート0.3部、モノn-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.1部を精留塔、撹拌機を有するエステル化缶に仕込み、160℃、500mmHgの減圧下でエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温するとともに、さらに1,4-ブタンジオール74.0部を連続的に追加添加した。反応を開始してから3時間40分後に透明な反応生成物を得て、反応を終了させた。エステル化反応終了後、重縮合触媒としてテトラブチルチタネート1.9部、安定剤として“IRGANOX”1098(BASF社製)0.5部をエステル化缶に添加し、一方、数平均分子量1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール495.0部を重縮合缶に仕込んだ後、上記のエステル化反応生成物をエステル化缶から重縮合缶へ移行した。そして、重縮合缶内の反応系を撹拌重合させながら、常圧から1mmHg以下の高真空度まで1時間かけて徐々に減圧系にし、同時に245℃に昇温して、245℃,1mmHg以下の条件下で3時間30分重縮合せしめ、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-4)を得た
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-5)]
結晶性芳香族ポリエステルからなる高融点結晶性重合体セグメントとなるテレフタル酸ジメチル312部およびイソフタル酸ジメチル91部、脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメントとなる数平均分子量2150のポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物537部、さらに1,4-ブタンジオール167部、チタンテトラブトキシド4部をヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱してメタノールを系外に留出した。反応混合物に“IRGANOX”1098および1019(BASF社製)各2部を添加した後、243℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で3時間重合を行い、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-5)を得た
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-6)]
テレフタル酸501.0部、1,4-ブタンジオール量326.0部およびテトラブチルチタネート0.3部、モノn-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.2部を精留塔、撹拌機を有するエステル化缶に仕込み、160℃、650mmHgの減圧下でエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温するとともに、さらに1,4-ブタンジオール81.0部を連続的に追加添加しながら、反応途中から減圧度を500mmHgに変更した。反応を開始してから3時間40分後に透明な反応生成物を得て、反応を終了させた。エステル化反応終了後、重縮合触媒としてテトラブチルチタネート2.0部、安定剤として“IRGANOX”1098(BASF社製)0.5部をエステル化缶に添加し、一方、数平均分子量1400のテトラメチレンオキシドとノナメチレンオキシドの共重合体354.0部を重縮合缶に仕込んだ後、上記のエステル化反応生成物をエステル化缶から重縮合缶へ移行した。そして、重縮合缶内の反応系を撹拌重合させながら、常圧から1mmHg以下の高真空度まで1時間かけて徐々に減圧系にし、同時に245℃に昇温して、245℃,1mmHg以下の条件下で3時間30分重縮合せしめ、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-6)を得た。
【0040】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-7)]
結晶性芳香族ポリエステルからなる高融点結晶性重合体セグメントとなるテレフタル酸ジメチル269部、脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメントとなる数平均分子量2000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール725.0部、さらに1,4-ブタンジオール92.4部、チタンテトラブトキシド4部をヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱してメタノールを系外に留出した。反応混合物に“IRGANOX”1098および1019(BASF社製)各1.5部を添加した後、243℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で3時間重合を行い、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-7)を得た
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-8)]
結晶性芳香族ポリエステルからなる高融点結晶性重合体セグメントとなるテレフタル酸ジメチル595部、脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメントとなる数平均分子量1000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール353.0部、さらに1,4-ブタンジオール518部、チタンテトラブトキシド4部をヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱してメタノールを系外に留出した。反応混合物に“IRGANOX”1098および1019(BASF社製)各1.5部を添加した後、243℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で3時間重合を行い、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A-7)を得た
[PBT樹脂(B)]
トレコンTM1100S(東レ(株)社製)。テレフタル酸と1,4-ブタンジオールの重合体。
【0041】
[熱可塑性ポリアミドエラストマー(C)]
圧力容器に12-アミノドデカン酸98.00部及びアジピン酸7.66部を仕込んだ。窒素置換後、窒素ガスを供給しながら徐々に加熱し、230℃で4時間重合を行い、ナイロン12のオリゴマーを合成した。このオリゴマーに数平均分子量1800のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール642.5部、テトラブチルジルコネート0.20部及び酸化防止剤“IRGANOX”1098(BASF社製)0.50部を仕込んだ。窒素置換後、窒素ガスを供給しながら徐々に加熱し、210℃で3時間加熱し、次に徐々に減圧を行い、1時間かけて50Paとし、2時間重合を行った後、さらに30分かけて昇温、減圧を行い、230℃、30Paで3時間重合を行って、熱可塑性ポリアミドエラストマー(C)を得た。
【0042】
[試験片の成形]
日精樹脂工業(株)製の射出成形機NEX-1000を用いて射出成形を行い、ペレットから80mmx80mmx1mmの角板状の試験片を得た。射出成形が行えていることから、射出成形品、押出成形品、フィルム、繊維、不織布及び発泡体に加工することができる。
【0043】
[吸水率の測定]
80℃で5時間、真空乾燥して得た80mmx80mmx1mmの角板状試験片を23度の水に24時間浸漬後、浸漬前後の試験片の重量差を処理前の試験片の重量で除してパ-セント表示した値である。
【0044】
[接触角の測定]
接触角の測定は、基本的にJISR3257に準じて行った。80℃で5時間、真空乾燥して得た80mmx80mmx1mmの角板状試験片に約2μLの精製水をシリンジで滴下させた後、着滴1分後の接触角を測定した。なお、接触角の測定は、FTA188(First Ten Angstrom社製)を用いた。
【0045】
[抗ウイルス性試験]
抗ウイルス活性の測定は,基本的にJISZ2801:2012抗菌加工製品抗菌性試験に準じて行った。
【0046】
ウイルスはSARS-CoV-2/JP/Hiroshima-46059T/2020株(Pango Lineage:B.1.1)を用い,培養細胞はVeroE6/TMPRSS2細胞(JCRB1819:JCRB細胞バンクより購入)を用いた。実験は,広島大学大学院医系科学研究科P3実験施設で行った。ウイルスはSARS-CoV-2の種に属する他のウイルスでも評価できる。
【0047】
試験片を5cm角に切断し,80%エタノールに潜らせて消毒してから,安全キャビネット内においてHEPAフィルターを通した無菌的な風を当てながら乾燥させた。試験片上にウイルス液400μlを滴下して,上からエタノール消毒したパラフィルム(4cm角)をかぶせてウイルス液を均等に広げた。23度の湿箱に入れて、0あるいは24時間室温で反応させたのちに,ウイルス液を回収した。0時間とは、試験片上にウイルス液を滴下後、1分以内にウイルスを回収したものである。
【0048】
反応させたウイルス液をDMEMで連続的に10倍段階希釈し,10-1から10-8倍の希釈液を得た。それぞれの希釈液50μlを96ウェルプレート中の4ウェルの細胞に接種し,1時間の吸着後,接種液を100μl/ウェルのDMEMに交換した。3日後に細胞変性効果の出現を指標に感染を判定し,Behrens-Kraberアルゴリズムを用いて50%組織培養感染量(TCID50)/mlを算出し,ウイルスの感染価とした。表中、ウイルス感染価をE表記(JIS X0210:1986)で示す。
【0049】
[抗ウイルス性試験(FCV)]
抗ウイルス活性の測定は,基本的にJISZ2801:2012抗菌加工製品抗菌性試験に準じて行った。
【0050】
ウイルスはネコカリシウイルス(FCV)F9株(ATCC VR-782)を用い,培養細胞はCRFK細胞(ATCC CCL-94)を用いた。実験は,広島大学大学院医系科学研究科P2実験施設で行った。
【0051】
試験片を5cm角に切断し,安全キャビネット内で紫外線を裏表各30分間照射して消毒した。試験片上にウイルス液400μlを滴下して,上からエタノール消毒したパラフィルム(4cm角)をかぶせてウイルス液を均等に広げた。23度の湿箱に入れて、0あるいは24時間室温で反応させたのちに,ウイルス液を回収した。0時間とは、試験片上にウイルス液を滴下後,1分以内にウイルスを回収したものである。
【0052】
反応させたウイルス液をDMEMで連続的に10倍段階希釈し,10-1から10-8倍の希釈液を得た。それぞれの希釈液50μlを96ウェルプレート中の4ウェルの細胞に接種し,1時間の吸着後,接種液を100μl/ウェルのDMEMに交換した。5日後に細胞変性効果の出現を指標に感染を判定し,Behrens-Kraberアルゴリズムを用いて50%組織培養感染量(TCID50)/mlを算出し,ウイルスの感染価とした。
【0053】
[抗ウイルス性試験(インフルエンザウイルス)]
抗ウイルス活性の測定は,ISO21702(2019)に準じて行った。
【0054】
ウイルスはインフルエンザウイルス(INFLUENZA A VIRUS(H3N2):ATCC VR-1679)を用いた。実験は、一般財団法人ボーケン品質評価機構で行った。試験液摂取量は0.4mLで、洗い出し液はSCDLP培地を使用した。なお、0時間とは、接種直後にウイルス液を回収したものである。
【0055】
[抗ウイルス活性値]
24時間後の抗ウイルス活性値(Mv)及び24時間後のウイルス低減率(%)は、0時間後のウイルス感染価をVb、24時間後のウイルス感染価をVcとし、下記の式により求めた。
24時間後の抗ウイルス活性値(Mv)=lg10(Vb)-lg10(Vc)
24時間後のウイルス低減率(%)=[(Vb-Vc)×100]/Vb。
【0056】
[実施例1]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-1)を用いて評価を行った。
【0057】
[実施例2]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-1)を用いて、実施例1とウイルス種を変えて、評価を行った。
【0058】
[実施例3]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-1)を用いて、実施例1とウイルス種を変えて、評価を行った。
【0059】
[実施例4]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-2)を用いて評価を行った。
【0060】
[実施例5]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-3)を用いて評価を行った。
【0061】
[実施例6]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-4)を用いて評価を行った。
【0062】
[実施例7]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-5)を用いて評価を行った。
【0063】
[実施例8]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-6)を用いて評価を行った。
【0064】
[実施例9]
上記熱可塑性ポリアミドエラストマ(C)を用いて評価を行った。
【0065】
[実施例10]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-7)を用いて評価を行った。
【0066】
[実施例11]
上記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-8)を用いて評価を行った。
【0067】
[比較例1]
上記PBT樹脂(B)を用いて評価を行った。
【0068】
[比較例2]
上記PBT樹脂(B)を用いて、比較例1とウイルス種を変えて、評価を行った。
【0069】
実施例および比較例の材料、吸水率、接触角、0時間と24時間のウイルス感染価、24時間後の抗ウイルス活性値と24時間後のウイルス低減率を表1、2に示す。
【0070】
実施例1~9より、接触角が80度以下である熱可塑性ポリエステルエラストマ(A-1)、(A-2)、(A-3)、(A-4)、(A-5)、(A-6)、(A-7)、(A-8)及び熱可塑性ポリアミドエラストマ(C)ではウイルス低減効果が大きいことがわかる。
【0071】
また、比較例1、2より、接触角が81度以上であるPBT樹脂(B)ではウイルス低減効果が小さいことがわかる。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】