(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ミネラル繊維のマットを製造するプロセスから生じる水を再循環する方法
(51)【国際特許分類】
C03C 25/1095 20180101AFI20240906BHJP
C03C 25/14 20180101ALI20240906BHJP
C03C 25/321 20180101ALI20240906BHJP
C03C 25/70 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C03C25/1095
C03C25/14
C03C25/321
C03C25/70
(21)【出願番号】P 2022519408
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2020076681
(87)【国際公開番号】W WO2021058634
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-08-24
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502425053
【氏名又は名称】サン-ゴバン イゾベール
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】アントワーヌ ロベール
(72)【発明者】
【氏名】レスリー ジュニエス
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0221457(US,A1)
【文献】米国特許第03356565(US,A)
【文献】特開2006-239684(JP,A)
【文献】特表2010-535864(JP,A)
【文献】特表2017-516881(JP,A)
【文献】特表2010-532739(JP,A)
【文献】特表2017-508898(JP,A)
【文献】特表2012-502199(JP,A)
【文献】米国特許第03791807(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 25/00 - 25/70
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミネラル繊維マットを製造するプロセスにおいて器具の腐食を低減する方法であって、
前記製造プロセスが、
繊維を形成し、そして、形成ゾーンにおいて水性バインダを用いて前記繊維を結合する工程、
炉において、前記バインダを架橋する工程、及び、
前記形成ゾーン中の前記器具を、第1再循環ループで連続的に再循環される洗浄水によって洗浄すること、
を含み、
前記方法が、
前記洗浄水が前記第1再循環ループに沿って前記形成ゾーンへと再循環される前に、前記洗浄水のpHを6~9の値に調節すること、
を含み、
前記製造プロセスが、さらに、
前記炉からの煙を洗浄すること、及び、煙洗浄水を再循環すること、
を含み、
前記腐食低減方法は、
前記水性バインダが、水素化糖、還元糖、及び非還元糖から選択される少なくとも1つの糖、及び、少なくとも1つのモノマー性ポリカルボン酸又はその塩、を含有すること、
前記煙洗浄水を、前記第1再循環ループとは別個の第2再循環ループで再循環し、この再循環される煙洗浄水の一部を、そのpHを調整することなく、断続的に、前記バインダを調製するためのゾーンに送ること、
を特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記pHの値を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩のタイプのアルカリ塩基から選択される塩基によって調節することを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水素化糖が、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、セロビトール、パラチニトール、マルトトリオール、でんぷん加水分解物又はリグノセルロース材料の水素化産物、及びこれらの混合物から選択され、好ましくは、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、及び/又はでんぷん加水分解物若しくはリグノセルロース材料の水素化産物からなる群から選択されることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記還元糖が、単糖、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、及びこれらの混合物、並びに、二糖、例えば、ラクトース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、及びこれらの混合物、から選択され、好ましくは、グルコース又はフルクトース、より好ましくはグルコースであることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記非還元糖が、二糖、三糖、四糖、及び五糖から選択され、好ましくはスクロースであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記モノマー性のポリカルボン酸が、ジカルボン酸、トリカルボン酸、又はテトラカルボン酸から選択され、好ましくはクエン酸であることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記バインダの調製ゾーンに送られた洗浄水の量と同じ量の水を、断続的に、前記煙洗浄水に導入することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
再循環された前記煙洗浄水を、前記バインダの調製のために用いる前に、フィルター処理することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
- 形成ユニット(1)、この形成ユニットは、新たに形成された繊維の上にバインダ溶液を噴霧するための手段であって前記バインダ溶液を調製するためのステーション(3)から供給を受ける手段(2)、及び、前記形成ユニットを洗浄するための第1洗浄手段、を含む、
- 前記バインダで含浸された前記繊維を、受容し、1又は複数の煙道を備える炉(7)へと輸送するための手段(4)、
- 前記輸送手段(4)に受容される前記繊維のマットに含まれる過剰な前記バインダを吸い取るための吸引手段(5)、及び、前記形成ユニット(1)からの洗浄水を回収するための第1回収手段(6)、前記吸引手段(5)及び前記回収手段(6)は、塩基供給手段(13)に接続している第1タンク(10)に流体的に通じており、前記第1タンク(10)が、前記形成ユニット(1)の前記洗浄手段に流体的に通じており、それによって、第1再循環回路(100)を形成している、
- 前記炉(7)の1又は複数の煙道から来る煙を洗浄するための第2洗浄手段、及び、これらの煙からの洗浄水を回収するための第2回収手段、
を有する、
繊維マットの製造のための設備であって、
前記第2回収手段が、前記第1のタンク(10)とは別個であって前記第2洗浄手段と流体的に通じている第2タンク(14)を有しており、それによって、第2再循環回路(200)を形成していること、及び、
前記第2タンク(14)が、前記バインダ溶液調製ステーション(3)に流体的に通じていること、
を特徴とする、
繊維マットの製造のための設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミネラル繊維に基づく材料の分野に関し、特には、ミネラルウール、例えばガラスウール又はロックウールに基づく材料の分野に関する。より特には、本発明は、モノマー性のポリカルボン酸又はそのような酸の塩に基づく特定の酸バインダを用いる場合に繊維化プロセス及び成形プロセスで回収される水を再循環するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在市販されている材料の大部分、例えば遮断性のボード又はロールは、有機バインダによって結合したミネラル繊維、例えばガラス繊維、を含有するミネラルウールのマット又はフェルトからなる。
【0003】
このタイプの遮断性材料を製造するために必要な種々の工程及び装置が、従来から知られている。典型的には、ミネラル繊維マットの形成は、遠心による繊維化プロセスを含み、これの例が、欧州特許第0406107号明細書又は欧州特許第0461995号明細書に記載されている。
【0004】
より正確には、上記のマット又はフェルトを形成するために、新たに形成された繊維の上に噴霧によってバインダの水溶液を適用することが一般的であり、バインダは、硬化後に、繊維を一緒に結合することを可能にする。このようなプロセスでは、ミネラル繊維の残存熱、及び、繊維化の後でコンベヤ上に受容される繊維マットを通る、適切な手段によってもたらされる高温空気の送風は、初期のバインダ組成物中に含有される過剰な水の大部分を蒸発させ除去するのに十分である。そして、その湿分の大部分がなくなったミネラルウールマットを、架橋チャンバー又は炉に送って、乾燥プロセスを完了させ、バインダを硬化させる。公知の方法では、この硬化は、得られるマットの最終的な機械的強度及びその柔軟性の両方を確保する条件下で行われ、この柔軟性とは、強い圧縮の段階の後で実質的にその初期形状及び初期厚さに戻ることができる能力であり、これは、その梱包及び輸送のために特に必要である。
【0005】
長い間、フェノール-ホルムアルデヒドのタイプの樹脂が、それらの優れたコスト/性能比並びに比較的容易なそれらの調製及び使用に起因して、上記の機能を満たすバインダとして用いられてきた。しかしながら、揮発性の有機化合物に対する規制上の制約の強化が、これらのバインダからの転換をもたらしており、カルボン酸及びポリオールのポリマーに基づく、「アクリルバインダ」として一般的に言及されるバインダが好まれている。
【0006】
そのようなバインダの使用に伴う主要な課題は、繊維化チャンバーで繊維に噴霧されるバインダ溶液の酸性度である。したがって、用いる樹脂のタイプに応じて、一般的に4未満、又はさらにはより多くの場合には3未満、又はさらには2.5未満の溶液のpHが、良好な使用特性を有するマットを得るために必要である。その結果として、このプロセスからの水、特には、形成後に繊維コンベヤベルトから回収される水は、非常に酸性度が高い。
【0007】
本分野では、この回収された水の少なくとも一部、好ましくはそのすべてを再循環し使用し、それによって、バインダ溶液を繊維化プロセスの上流で形成すること、並びに/又は、製造器具、特には形成ライン(繊維化及び繊維マットの形成)を洗浄すること、及び、プロセスの加熱段階によって生成される煙を洗浄することが、一般的に行われる。このような構成は、このプロセスから生じる排水の処理を不要にすることによって、又は、処理すべき量を大幅に低減することによって、設備の運用コストを大幅に低減するという、特に有利な点を有する。
【0008】
したがって、そのような再循環に関しては、回収される水の顕著な酸性度は、大きな問題であり、なぜならば、再循環を可能にする器具、例えばパイプが、非常に強い腐食を受けるからである。結果として、それらの耐用期間が大幅に制限される。
【0009】
1つの明らかな解決策は、耐腐食性に関してよく知られている金属、例えばステンレス鋼でできているパイプを用いることである。しかしながら、そのような解決策は、大幅な追加コストを伴い、長期間にわたる十分な効率を保証せず、その一方で、管理人員にとって、配管中に存在する液体を扱う上での問題を生じ、配管を浄化又は洗浄する必要がある場合には、特にそうである。
【0010】
これらのパイプの耐用期間を延ばすための他の解決策が提案されており、特に、米国特許第7153437号明細書及び国際公開第2009/007648号で示されている解決策がある。この解決策は、(形成チャンバーを含む)形成ユニットの構成要素を洗浄するためにかつ随意に炉及び/又は形成チャンバーからの煙及びガスを洗浄するために用いられる洗浄水の再循環回路に、塩基を導入することからなる。
【0011】
他の方法が、米国特許第7754020号明細書で提案されており、これは、形成チャンバーに関連する輸送手段、吸引手段、及び換気手段の洗浄水のための、この洗浄水のpHを調節する手段を含む、第1の再循環ループと、水性バインダによってコーティングされたばかりのミネラル繊維が付着する形成チャンバーの壁を洗浄するために用いられる水のための特別な第2の再循環ループを、提供する。この第2の再循環ループでは、洗浄水は、中和されず、単純にフィルター処理され、バインダの製造で再利用される。
【0012】
上記の解決策は、アクリルバインダの場合に興味深い一方で、これらの解決策は、アクリルバインダの不利な点、特には中和状態におけるそれらの高い粘性及び環境へのそれらの悪影響に対応するためにより最近に開発されている他のバインダに単純に利用することはできない。これらの新世代のバインダは、「グリーンバインダ」と呼ばれ、メイラード反応によって得られるメラノイジンに基づいており(国際公開第2007/014236号、国際公開第2008/127936号、及び国際公開第2009/019232号を参照)、又は、糖を、モノマー性ポリカルボン酸、特にはクエン酸と反応させることによって得られる熱硬化性ポリエステルから形成され、特に、特許出願である国際公開第2013/014399号及び国際公開第2013/021112に記載されている。
【0013】
これらの「グリーンバインダ」の製造において試薬として用いられるクエン酸が、一般的に180℃超又はさらには200℃超の温度にまで上昇する炉内で分解される傾向を有することが、出願人によって観察された。この際に、形成される分解産物、例えばシトラコン酸、イタコン酸、プロピオン酸、酢酸、及びギ酸が、炉の煙道を介して蒸発する。炉の煙は、また、分解されていないクエン酸も含み(この出願の出願時にはまだ公開されていないPCT/FR2019/050879参照)、したがって、高度に酸性である。したがって、プロセス洗浄水と炉煙洗浄水との混合は、pH4に達しうる。場所によっては1mm/年に達しうる器具の腐食を回避するために、この洗浄水は、形成エリアに再循環しうる前に、特には国際公開第2009/007648号に従って、かなりの量の塩基で中和される必要がある。この文献では、再循環された水の一部を、バインダ溶液調製ステーションにも向かわせる。しかしながら、少量の塩基であってもバインダの硬化性に影響し、したがって、ミネラル繊維を一緒に結合させるその能力に影響し、かつ繊維マットの機械特性に影響することが、観察された。この問題への1つの解決策は、バインダの製造のために意図されている洗浄水の一部を再酸化することである。米国特許第7754020号明細書で提案されている別の解決策は、形成フードの壁からの洗浄水を、中和することなく、バインダ調製ステーションへと、別個に再循環することである。フードの壁に付着するサイジング処理された繊維は、バインダの製造に再利用できる試薬を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、この解決策を、どのようにして、炉の煙洗浄水に利用することができ、炭化水素及びモノマー性ポリカルボン酸、例えばクエン酸、に基づくバインダを用いるプロセスで用いることができるかは、自明ではなかった。この煙洗浄水は、その製造で用いられる試薬とは異なる、バインダの種々の分解産物を、含有する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
出願人は、いまや、モノマー性ポリカルボン酸バインダ、例えばクエン酸を用いて得られるミネラル繊維マットの製造プロセスにおける器具の腐食を低減する方法を開発した。この方法は、本質的に、炉煙からの洗浄水を、他の器具、特には形成チャンバーを洗浄するために用いられるものとは別個の再循環ループにおいて、再循環することからなる。
【0016】
出願人は、驚くべきことに、いくらかのバインダ試薬を含有しているが酸性分解産物を多く含むこの煙洗浄水を、中和する必要なく、バインダの製造のために用いることができることを見出した。試薬の酸性分解産物の、バインダへの再導入は、バインダの硬化反応(架橋)を実質的に阻害せず、又は、得られる遮断製品の機械的特性を劣化させない。
【0017】
したがって、本発明の目的は、ミネラル繊維マットを製造するプロセスにおいて、器具の腐食を低減するための方法であり、このプロセスは、繊維を形成し(繊維化を行い)、そしてそれらを、形成ゾーンにおいて、水性バインダの助けの下で結合させる工程、バインダを炉内で架橋する工程、及び、第1再循環ループにおいて連続的に再循環される洗浄水によって、形成ゾーン中の器具を洗浄すること、を含む。
【0018】
上記の方法は、洗浄水を上記の第1再循環ループに沿って上記の形成ゾーンへと再循環する前に、洗浄水のpHを6~9の値に調整することを含む。
【0019】
この製造プロセスは、さらに、炉からの煙を洗浄し、煙洗浄水を再循環することを含む。
【0020】
上記の腐食低減方法は、水性バインダが、水素化糖、還元糖、及び非還元糖から選択される少なくとも1つの糖と、少なくとも1つの、モノマー性のポリカルボン酸又はその塩と、を含む、という特徴を有する。
【0021】
さらに、上記の腐食低減方法は、煙洗浄水が、第1再循環ループとは別個に、第2再循環ループで再循環され、この再循環された煙洗浄水の一部が、そのpHを調整することなく、断続的に、上記バインダを調製するためのゾーンへと送られる、という特徴を有する。
【0022】
本発明は、また、繊維マットを製造するための設備にも関し、この設備は:
- 形成ユニット、この形成ユニットは、バインダ溶液を調製するためのステーションから供給を受け、新たに形成された繊維にバインダの溶液を噴霧するための手段と、形成ユニットを洗浄するための第1洗浄手段とを、含む、
- バインダで含浸された繊維を受け取り、1又は複数の煙道を備えている炉へと輸送するための手段、
- 輸送手段で受容された繊維マットに含有されている過剰なバインダを吸引するための手段、及び、
- 形成ユニットから洗浄水を回収するための第1回収手段、
を有し、
吸引及び回収手段が、塩基供給手段に接続されている第1タンクと流体的に通じており、上記の第1タンクが、形成ユニットを洗浄するための上記洗浄手段と流体的に通じており、それによって、第1再循環回路が形成されており、
上記設備は、
-1又は複数の炉煙道から来る煙を洗浄するための第2洗浄手段、及び、これらの煙からの洗浄水を回収するための第2回収手段、
を有し、
第2回収手段が、第1タンクとは別個の、第2タンクを有しており、かつ、第2洗浄手段と流体的に通じており、それによって、第2再循環回路を形成していること、
及び、
上記の第2タンクが、バインダ溶液調製ステーションと流体的に通じていること
を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明に係る方法を実施するために用いられる設備の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ミネラル繊維マットを製造するプロセスにおいて器具の腐食を低減する方法に関する。
【0025】
このプロセスは、慣用的に、繊維を形成し、そして、形成ゾーンにおいて、これらを水性バインダで結合する工程、そして、1又は複数の煙道、多くの場合には2つの煙道、を備える炉でバインダを架橋する工程、を有し、この煙道を通って、高温のガスが炉から外へ出る。
【0026】
本発明によれば、形成領域における器具を、第1再循環ループにおいて連続的に再循環される洗浄水によって、洗浄する。この目的のために、形成プロセスからの水を、少なくとも部分的に、形成領域の出口において、特には繊維輸送ベルト(繊維コンベヤベルト)において、回収する。有利には、回収された水を、少なくとも部分的に、繊維マットを得るための装置の構成要素の少なくとも1つ、特には、形成チャンバー若しくはフードの壁、繊維輸送手段、及び/又は繊維マット中の過剰なバインダを除去するために用いられる吸引手段、を洗浄するために用いる。このようにして、特には、バインダを形成するために用いられ未だ反応していない試薬、及び、未結合のミネラル繊維を、回収することが可能になる。有利には、第1ループで再循環された水のうちのいくらかを、約50μmのフィルターを通してフィルター処理し、噴霧リングによってミネラル繊維に希釈組成物を噴霧する直前にバインダ組成物を希釈するために、用いる。
【0027】
しかしながら、この第1再循環ループで循環する洗浄水は、炉からの煙を洗浄するためには用いない。
【0028】
本発明に係る方法は、さらに、上記の第1再循環ループに沿って上記形成ゾーンへと洗浄水を再循環する前に、洗浄水のpHを6~9の値に調節することを含む。この目的のために、塩基を、再循環された水に、任意の手段によって、特には、手動、自動、又は半自動で、加えてよい。したがって、第1再循環ループに配置された1又は複数のpHプローブによって計測されたpHに応じて、塩基を、投与ポンプによって、第1再循環ループに、水溶液の形態で、自動的に加えることができる。代替的には、形成プロセスの間に導入される酸性バインダ流量の関数として、特には比例的な関係に従って、塩基の流量を直接に調節することができる。一般的に言えば、pH値は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩のタイプのアルカリ塩基から選択される塩基によって調節される。用いられる塩基の性質は、特には、目的のpHに依存し、6~7のpHを達成するためには、比較的弱い塩基、例えば石灰、アンモニア、又は水酸化カリウムを用いることができ、一方で、7~9のpHを達成するためには、比較的強い塩基、例えば水酸化ナトリウムが好ましい。
【0029】
本発明に係る方法は、さらに、炉からの煙を洗浄し、この煙洗浄水を、第1再循環ループとは別個の、第2再循環ループで再循環することを含む。この再循環される煙洗浄水の一部を、断続的に、そのpHを調整することなく、上記バインダのための調製領域に送る。結果として起こる洗浄溶液の体積の損失を補うために、上記バインダの調製ゾーンに送られた洗浄水の量と同量の水を、煙洗浄水に導入する。
【0030】
本発明の好ましい実施態様では、再循環された煙洗浄水を、バインダの調製のために用いる前に、フィルター処理する。
【0031】
本発明に係る方法は、好ましくは、特定のバインダを用いてミネラル繊維マットを製造するプロセスの一部として実施される。用いられるバインダは、水素化糖、還元糖、及び非還元糖から選択される正確に1つの糖、及び、少なくとも1つの、モノマー性のポリカルボン酸又はその塩を、含む。
【0032】
本発明に従って用いられるポリカルボン酸は、モノマー性のタイプである。換言すると、この用語は、モノマー性のポリカルボン酸の重合によって得られるポリマー、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸のホモポリマー又はコポリマーを、含まない。これは、ジカルボン酸、トリカルボン酸、又はテトラカルボン酸であってよい。
【0033】
ジカルボン酸は、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、トラウマチン酸、ショウノウ酸、特には少なくとも1つのホウ素原子又は塩素原子を含む、フタル酸及びその誘導体、特には少なくとも1つの塩素原子を含む、テトラヒドロフタル酸及びその誘導体、例えばクロレンド酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メサコン酸、並びにシトラコン酸を、包含する。
【0034】
トリカルボン酸は、例えば、クエン酸、トリカルバリル酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、アコニット酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、およびトリメシン酸を包含する。
【0035】
テトラカルボン酸は、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸およびピロメリット酸を含む。
【0036】
クエン酸が、好ましい。
【0037】
ポリカルボン酸は、塩基、例えばアミン又はアンモニアで、部分的又は完全に中和されてよい。好ましくは、ポリカルボン酸は、塩基によって中和されていない、酸の形態で、用いられる。
【0038】
ポリエステルを得るために、ポリカルボン酸を、少なくとも1つの糖と反応させる。
【0039】
本発明に従って用いることができる糖の第1のタイプは、還元糖である。この用語は、式Cn(H2O)p、式中、p=n(単糖)又はp=n-1(オリゴ糖及び多糖)の炭化水素であって、少なくとも1つのアルデヒド基又はケトン基(還元基)を有する炭化水素に、言及している。還元糖は、単糖、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、及びこれらの混合物、並びに、二糖、例えば、ラクトース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、及びこれらの混合物、から選択されてよい。好ましくは、グルコース又はフルクトースが用いられ、グルコースが好ましい。
【0040】
これらの炭化水素の水素化産物では、アルデヒド基又はケトン基がアルコールに還元されており、この水素化の産物は、本発明に従って用いることができる第2のタイプの糖を構成し、「水素化糖」と呼ばれる。これらの水素化産物は、アルジトール又は糖アルコールとも呼ばれる。これらは、高い水素圧及び高温の条件で作用する、既知の方法を用いて、接触水素化によって、元素の周期表のIB、IIB、IVB、VI、VII及びVIIIグループの元素、好ましくは、ニッケル、白金、パラジウム、コバルト、モリブデン、及びこれらの混合物を含む群から選択される触媒の存在下で、得ることができる。好ましい触媒は、ラネーニッケルである。水素化糖は、例えば、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、セロビトール、パラチニトール、マルトトリイトール、並びに、でんぷん加水分解物又はリグノセルロース材料の水素化産物、並びにこれらの混合物から選択される。
【0041】
でんぷん加水分解物は、でんぷんの、酵素加水分解及び/又は酸加水分解によって得られる産物である。加水分解の程度は、一般に、下記の関係式によって規定されるデキストロース当量(DE)によって特徴づけられる。
【0042】
【0043】
水素化工程の前における、好ましいでんぷん加水分解物は、5~99のDE、有利には10~80のDEを有する。
【0044】
特に好ましくは、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、及び、でんぷん加水分解物又はリグノセルロース材料の水素化産物、特にはヘミセルロースの水素化産物、特にはキシラン及びキシログルカン、の水素化産物、からなる群から選択される水素化糖を用いる。水素化糖は、明色のミネラル繊維マットが所望される場合に、有利であることがある。明色のミネラル繊維マットは、メイラード反応によって着色する傾向がある還元糖では達成することが困難である。水素化糖は、また、還元糖よりも比較的高い熱安定性を有する。
【0045】
本発明は、さらに、いくつかの炭化水素ユニットからなり、ユニットを一緒に結合するオシド結合にヘミアセタールヒドロキシ含有炭素が関与する、非還元糖系のバインダに、関する。そのような非還元糖の例は、二糖、例えば、トレハロース、イソトレハロース、スクロース及びイソスクロース、並びにこれらの混合物、又は、三糖、例えば、メレジトース、ゲンチアノース、ラフィノース、エルロース、及びウンベリフェロース、又は、四糖、例えば、スタキオース、又は、五糖、例えばベルバスコースである。本発明における使用に関して、スクロースが好ましい。
【0046】
いずれの場合にも、特性の折衷を得るために、上記の任意のカテゴリーの1又は複数の糖を用いることができ、又は、少なくとも2つの異なるカテゴリーからの糖の混合物を用いることができる。
【0047】
上記の構成要素は、通常、バインダ組成物中で混合されている。用語「バインダ組成物」は、ここでは、種々の濃度の固形物の水溶液に言及しており、これは、揚水性であるために十分に流動性であり、かつ、例えば水での希釈後に、新たに形成された繊維に対してノズルを通して噴霧することができるような粘度を有する。
【0048】
一般に、バインダ組成物は、バインダ組成物の乾物含有量に基づいて、30~70重量%、好ましくは40~60重量%の、ポリカルボン酸を含有する。一般に、糖及びポリカルボン酸のそれぞれの割合は、架橋状態において、最良の機械的特性、特には高湿度条件での加速劣化後の最良の機械的特性、を有する最終的なミネラルウール製品を提供するバインダをもたらすように、選択される。したがって、これらは、一般に、25/75~75/25、好ましくは40/60~60/40の、糖/ポリカルボン酸の重量比に対応する。
【0049】
バインダ組成物は、さらに、ルイス塩基及びルイス酸、例えば、クレイ、シリカ又はコロイダルシリカ、有機アミン、四級アンモニウム、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物、尿素硫化物、尿素塩化物、及びシリケート系触媒、から選択することができる触媒を含有することができる。
【0050】
触媒は、リンを含有する化合物であってもよく、例えば、アルカリ金属次亜リン酸塩、アルカリ金属亜リン酸塩、アルカリ金属ポリリン酸塩、アルカリ金属リン酸水素塩、リン酸、又はアルキルホスホン酸であってもよい。好ましくは、アルカリ金属が、ナトリウム又はカリウムである。
【0051】
触媒は、また、フッ素及びホウ素を含有する化合物であってもよく、例えば、テトラフルオロホウ酸又はこの酸の塩、特には、例えばナトリウム又はカリウムの、アルカリ金属テトラフルオロホウ酸塩、例えばカルシウム又はマグネシウムの、アルカリ土類金属テトラフルオロホウ酸塩、テトラフルオロホウ酸亜鉛、及び、テトラフルオロホウ酸アンモニウムであってもよい。
【0052】
好ましくは、触媒が、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、又はこれらの化合物の混合物である。
【0053】
バインダ組成物に導入される触媒の量は、一般に、1又は複数の糖及び1又は複数のポリカルボン酸の合計重量に基づいて、最大20重量%、有利には1~10重量%である。
【0054】
本発明に従って用いられるバインダ組成物は、さらに、慣用的な添加物、例えば尿素、反応性シリコーン、及び/又はフィラーを有することができる。
【0055】
そのpHは、一般に、2.0~9.0であり、好ましくは2.2~7.0であり、特には2.5~5.0である。
【0056】
バインダ組成物が適用されるミネラル繊維は、特には、ガラス繊維又はロック繊維からなってよく、好ましくはガラス繊維からなってよい。これらの繊維は、遠心押出によって形成され、そして、バインダ組成物が、それらの上に噴霧される。そして、サイジング処理された繊維が、繊維層として回収され、これは、炉への輸送の間に部分的に脱水され、炉において、バインダでコーティングされた繊維が、少なくとも140℃、典型的には少なくとも200℃、例えば250~280℃にまで加熱され、それによって、バインダが架橋される。
【0057】
本発明は、さらに、上述の製造プロセスを実行するための設備に関する。
【0058】
添付の図面におけるダイアグラムは、本発明に係る設備の概略図であり、2つの別個の再循環回路を含む。
【0059】
この図に描写されているように、この設備は、ガラスウールを繊維化するために慣用的に用いられる(図示していない)繊維化チャンバーを含む形成ユニット1を有しており、この形成ユニットでは、例えば、欧州特許第0406107号明細書及び欧州特許0461995号明細書にその例が記載されている、出願人によって開発された内部遠心による繊維化プロセスを、実行することができる。繊維化チャンバーそれ自体は、公知であり、一般に、1又は複数の遠心機が載っているフードを有し、遠心機は、それぞれ、溶融ガラスを受容するためのバスケット、及び、周縁壁に多数のオリフィスを備えているプレート形状部を、有する。運用されているときに、溶融炉から流れとして供給され遠心機バスケットによってまず回収される溶融ガラスが、プレートのオリフィスを通って、多数の回転するフィラメントの形態で、外に出る。遠心機は、さらに、環状バーナーによって囲まれており、これは、ガラスフィラメントを繊維へと延伸するために十分に高い、遠心機壁周縁における温度で、高速ガス流を生じる。形成ユニットは、また、形成フードも有しており、ここにおいて、バインダ組成物が、バインダ調製ステーション3からの供給を受ける噴霧装置2によって、高温空気の流れにさらされた繊維の上に、噴霧される。
【0060】
形成フードの底部が、フードからの洗浄水を回収するための手段6、及び、コンベヤ4を有しており繊維を受け取るための装置を有しており、コンベヤ4は、流体に対して透過性であり端部のないベルトを有しており、その下方に、上述の形成プロセスによって生じる新たに形成されたマットに含有されている流体のための吸引ボックス5が、配置されている。吸引ボックスは、(図示されていない)ファンに接続されており、それによって、例えば、吸引ボックスを、陰圧下に保持する。流体は、ガス、例えば空気、及び煙、並びに、過剰なバインダ、微細物及び繊維を含有する過剰な水相である。バインダと密に混合されたガラスウール繊維のマットが、コンベヤベルトの上に形成される。マットは、コンベヤベルトによって炉7へ輸送される。炉は、通常、バーナーによって高温空気の供給を受けかつファンによってサーキュレートされている一連のボックス又は区画を有する閉鎖チャンバーからなる。例えば、炉7は、2つの相補的な輸送コンベヤ及び補正コンベヤによって横断されている。
【0061】
コンベヤは、バインダの迅速な硬化を促進する高温ガスの通過を確保しつつ、マットを、所望の厚みへと圧縮する。例として、ロール処理されたフェルトに関して、これは、典型的には10~150mmであり、ガラスウール層の密度は、例えば、10~100kg/m3である。
【0062】
炉内での高温処理は、マットの繊維の間でのバインダの架橋とともに、煙の形態での残留水の蒸発を誘導し、この煙は、炉7の出口で回収され、処理される。
【0063】
そして、繊維マットを、他の公知の操作に供することができ、例えば、公知の技術の種々の装置において、端部切断、長さ方向及び/又は横断方向での切断、表面処理などに供することができる。
【0064】
ここまでに記載したシステムの特徴は、非常に慣用的である。他方で、本発明に係るシステムは、2つの別個の再循環回路の存在によって特徴づけられ、これらについて下記に記載する。
【0065】
この図面に描写されているように、形成チャンバーから来て特にはコンベヤ4の上に存在する(水及び過剰なバインダ試薬を含む)流体及び微細物が、典型的には、上述の回収手段6及び吸引ボックス5によって抽出され、そして、ウェル8に送られ、ここからポンプされ、そして、繊維を排除するための約500μmのサイズのフィルターを備えるフィルター処理システム9を通過したのちに、第1タンク10に保存される。この第1タンクは、pHプローブ11を備えており、これは、(図示されていない)プロセッサに接続されており、プロセッサは、pH値の読みを解析し、ポンプ12から成る中和システムを制御して、タンク13に保存さている中和溶液の導入を可能にする。中和溶液は、例えば、30%の水性のソーダ溶液又はアンモニア溶液であり、これは、pH値が7.5±0.3よりも下がるとすぐに、タンク10に供給される。pHがこの値に戻ったときに、プロセッサが、ポンプ12を閉じる。そのpHを調節した後で、第1タンク10に保存されている洗浄水を、形成ユニット1に送り、このようにして、第1再循環回路100を形成する。第1再循環回路100における洗浄水の量は、約100m3であってよい。
【0066】
今度は、炉7の煙を、炉の煙突のレベルで、第2タンク14に保存されており(図示されていない)ベンチュリによって煙突内に噴霧される水溶液で、洗浄する。煙洗浄水を、(図示されていない)ボルテックスの底部で回収し、同じタンク14に戻し、このようにして、第2再循環回路200を形成する。これの合計体積は、約5m3であってよい。実施の際には、炉からの煙を、煙の約2L/m3の流量を有する2つの対向するジェットを生じる噴霧システムを用いて洗浄することが好ましく、これら2つの対向するジェットは、出会うと、水のカーテンを形成し、これを通って煙が通過する。断続的に、炉からの煙洗浄水のいくらかを、ポンプ15によって、第2タンク14から取り出し、約50μmのフィルターを備えているフィルター処理システム16を通過させた後で、形成ユニット1内の噴霧手段2に供給を行うバインダ溶液調製ステーション3に、送る。そして、第2タンク14は、パイプ17を介して水道水の供給を受け、それによって、結果として生ずる体積の損失が、補償される。