(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】複合材の分断方法及び複合材
(51)【国際特許分類】
B23K 26/364 20140101AFI20240906BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20240906BHJP
C03B 33/033 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B23K26/364
C03B33/09
C03B33/033
(21)【出願番号】P 2022546884
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015845
(87)【国際公開番号】W WO2022049824
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2020149235
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 敏広
(72)【発明者】
【氏名】平田 聡
(72)【発明者】
【氏名】仲井 宏太
(72)【発明者】
【氏名】村重 毅
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 淳一
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-280447(JP,A)
【文献】特開2019-122966(JP,A)
【文献】特開平2-36094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/364
C03B 33/09
C03B 33/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材を分断する方法であって、
レーザ光源から発振したレーザ光を前記複合材の分断予定線に沿って前記樹脂層に照射して前記樹脂層を形成する樹脂を除去することで、前記分断予定線に沿った加工溝を形成する樹脂除去工程と、
前記樹脂除去工程の後、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を前記分断予定線に沿って前記脆性材料層に照射して前記脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、前記分断予定線に沿った加工痕を形成する脆性材料除去工程と、を含み、
前記脆性材料除去工程で形成する前記加工痕は、前記樹脂層側で開口し、且つ、前記脆性材料層を非貫通である、
複合材の分断方法。
【請求項2】
前記脆性材料除去工程において、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光のパワー、及び、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の焦点と前記脆性材料層との位置関係を調整することで、前記加工痕の深さを調整する、
請求項1に記載の複合材の分断方法。
【請求項3】
前記加工痕の深さが、前記脆性材料層の厚みの90%以下である、
請求項1又は2に記載の複合材の分断方法。
【請求項4】
前記加工痕の深さが、前記脆性材料層の厚みの65%以下である、
請求項3に記載の複合材の分断方法。
【請求項5】
前記脆性材料除去工程の後、前記分断予定線に沿って外力を加えることで、前記複合材を分断する複合材分断工程を更に含む、
請求項1から4の何れかに記載の複合材の分断方法。
【請求項6】
前記脆性材料層の厚みが、5μm以上200μm以下である、
請求項1から5の何れかに記載の複合材の分断方法。
【請求項7】
脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材であって、
前記脆性材料層の少なくとも一の端面における前記樹脂層側の第1部位の表面粗さが、前記脆性材料層の前記一の端面における前記樹脂層と反対側の第2部位の表面粗さよりも大きい、
複合材。
【請求項8】
前記第1部位の表面粗さが、算出平均高さSaで300nm未満であり、
前記第2部位の表面粗さが、算出平均高さSaで12nm未満である、
請求項7に記載の複合材。
【請求項9】
前記第1部位の厚みが、前記脆性材料層の厚みの90%以下である、
請求項7又は8に記載の複合材。
【請求項10】
前記第1部位の厚みが、前記脆性材料層の厚みの65%以下である、
請求項9に記載の複合材。
【請求項11】
前記脆性材料層の厚みが、5μm以上200μm以下である、
請求項7から10の何れかに記載の複合材。
【請求項12】
前記脆性材料層側が凸となるように曲げたときの前記複合材の曲げ強度が、200MPa以上である、請求項7から11の何れかに記載の複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材を分断する方法、及びこれによって得ることのできる複合材(複合材片)に関する。特に、本発明は、分断後の脆性材料層の端面のクラックや、分断後の樹脂層の端面の深刻な熱劣化を生じさせることなく、複合材を分断可能で、且つ分断後の複合材に十分な曲げ強度が得られる方法、及びこれによって得ることのできる複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビやパーソナルコンピュータに用いられる画像表示装置の最表面側には、多くの場合、画像表示装置を保護するための保護材が配置されている。保護材として、代表的には、ガラス板が使用されている。
しかしながら、スマートフォン、スマートウォッチ、車載ディスプレイ等に用いられる画像表示装置のように、画像表示装置の小型化、薄型化、軽量化に伴い、保護機能と光学機能とを兼ね備える薄型の保護材に対する要望が高まっている。このような保護材としては、例えば、保護機能を奏するガラス等の脆性材料層と、光学機能を奏する偏光フィルム等の樹脂層とが積層された複合材が挙げられる。この複合材は、用途に応じた所定形状・所定寸法に分断する必要がある。
【0003】
従来、脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材を分断する方法として、特許文献1に記載の方法が提案されている。
特許文献1に記載の方法は、CO2レーザ光源等のレーザ光源から発振したレーザ光を複合材の分断予定線に沿って樹脂層に照射して樹脂層を形成する樹脂を除去することで、分断予定線に沿った加工溝を形成する樹脂除去工程と、樹脂除去工程の後、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を分断予定線に沿って脆性材料層に照射して脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、分断予定線に沿った加工痕を形成する脆性材料除去工程と、を含み、加工痕が脆性材料層を貫通する貫通孔である。
特許文献1に記載の方法によれば、分断後の脆性材料層の端面のクラックや、分断後の樹脂層の端面の深刻な熱劣化を生じさせることなく、複合材を分断可能である。
【0004】
特許文献1に記載の方法でも、分断後の複合材に所定の曲げ強度が得られるものの、より一層十分な曲げ強度が得られることが望まれている。
【0005】
なお、非特許文献1には、超短パルスレーザ光を用いた加工技術において、超短パルスレーザ光のフィラメンテーション現象を利用することや、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系又はベッセルビーム光学系を適用することが記載されている。
また、非特許文献2には、薄ガラス基板の2点曲げ応力について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】ジョン ロペス(John Lopez)他、“超短パルスベッセルビームを用いたガラス切断(GLASS CUTTING USING ULTRASHORT PULSED BESSEL BEAMS)”、[online]、2015年10月、International Congress on Applications of Lasers & Electro-Optics (ICALEO)、[令和2年7月17日検索]、インターネット(URL:https://www.researchgate.net/publication/284617626_GLASS_CUTTING_USING_ULTRASHORT_PULSED_BESSEL_BEAMS)
【文献】Suresh T. Gulati他、“Two Point Bending of Thin Glass Substrate”、2011年、SID 11 DIGEST、p.652-654
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、分断後の脆性材料層の端面のクラックや、分断後の樹脂層の端面の深刻な熱劣化を生じさせることなく、複合材を分断可能で、且つ分断後の複合材に十分な曲げ強度が得られる方法、及びこれによって得ることのできる複合材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、加工痕を脆性材料層の樹脂層側のみに形成することで、分断後の複合材に十分な曲げ強度が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材を分断する方法であって、レーザ光源から発振したレーザ光を前記複合材の分断予定線に沿って前記樹脂層に照射して前記樹脂層を形成する樹脂を除去することで、前記分断予定線に沿った加工溝を形成する樹脂除去工程と、前記樹脂除去工程の後、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を前記分断予定線に沿って前記脆性材料層に照射して前記脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、前記分断予定線に沿った加工痕を形成する脆性材料除去工程と、を含み、前記脆性材料除去工程で形成する前記加工痕は、前記樹脂層側で開口し、且つ、前記脆性材料層を非貫通である、複合材の分断方法を提供する。
【0011】
本発明に係る複合材の分断方法によれば、脆性材料除去工程において、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を脆性材料層に照射して脆性材料層を形成する脆性材料を除去するため、分断後の脆性材料層の端面(複合材の厚み方向(脆性材料層と樹脂層との積層方向)に直交する方向の端面)にクラックが生じない。また、本発明に係る複合材の分断方法によれば、脆性材料除去工程の前に、樹脂除去工程において、レーザ光源から発振したレーザ光を樹脂層に照射して樹脂層を形成する樹脂を除去するため、分断後の樹脂層の端面(複合材の厚み方向(脆性材料層と樹脂層との積層方向)に直交する方向の端面)に深刻な熱劣化が生じない。すなわち、本発明に係る複合材の分断方法によれば、分断後の脆性材料層の端面のクラックや、分断後の樹脂層の端面の深刻な熱劣化を生じさせることなく、複合材を分断可能である。
また、本発明に係る複合材の分断方法によれば、脆性材料除去工程で形成する加工痕が、樹脂層側で開口し、且つ、脆性材料層を非貫通である。換言すれば、脆性材料除去工程において、加工痕を脆性材料層の樹脂層側のみに形成する。したがい、本発明者らが知見したように、分断後の複合材に十分な曲げ強度を得ることができる。
【0012】
なお、本発明に係る複合材の分断方法において、「レーザ光を前記複合材の分断予定線に沿って前記樹脂層に照射」とは、複合材の厚み方向(脆性材料層と樹脂層との積層方向)から見て、分断予定線に沿ってレーザ光を樹脂層に照射することを意味する。また、本発明に係る複合材の分断方法において、「レーザ光を前記分断予定線に沿って前記脆性材料層に照射」とは、複合材の厚み方向(脆性材料層と樹脂層との積層方向)から見て、分断予定線に沿ってレーザ光を脆性材料層に照射することを意味する。
また、本発明に係る複合材の分断方法において、樹脂除去工程において用いるレーザ光源の種類は、発振したレーザ光で樹脂層を形成する樹脂を除去できるものである限りにおいて、特に限定されるものではない。ただし、複合材に対するレーザ光の相対的な移動速度(加工速度)を高めることが可能である点で、赤外域の波長のレーザ光を発振するCO2レーザ光源やCOレーザ光源を用いることが好ましい。
また、本発明に係る複合材の分断方法において、脆性材料層除去工程で形成する加工痕は、分断予定線に沿ったミシン目状の加工痕でもよいし、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光と脆性材料層との分断予定線に沿った相対移動速度を小さく設定するか、超短パルスレーザ光源のパルス発振の繰り返し周波数を大きく設定することで形成される、分断予定線に沿って一体的に繋がった加工痕であってもよい。
さらに、本発明に係る複合材の分断方法において、脆性材料層の両側にそれぞれ樹脂層が積層された複合材である場合、「樹脂層側で開口」とは、両側の樹脂層のうち、何れか一方の樹脂層側で開口していることを意味する。
【0013】
本発明に係る複合材の分断方法の前記脆性材料除去工程において、例えば、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光のパワー、及び、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の焦点と前記脆性材料層との位置関係を調整することで、前記加工痕の深さを調整することが好ましい。
上記の好ましい方法において、「レーザ光の焦点と前記脆性材料層との位置関係」とは、複合材の厚み方向についての位置関係を意味する。また、上記の好ましい方法において、「加工痕の深さ」は、加工痕の樹脂層側の端(加工痕の開口端)と、加工痕の脆性材料層側の底部(加工痕の開口端と反対側の端)との距離を意味する。
上記の好ましい方法のように、レーザ光のパワーを調整することで、加工痕を形成する(脆性材料を除去する)のに用いられるエネルギーの強弱を調整することが可能である。また、レーザ光の焦点と脆性材料層との位置関係を調整することで、分断予定線に沿って加工痕を形成するのに用いられるエネルギーに複合材の厚み方向の分布を与えることが可能である。したがい、上記の好ましい方法によれば、脆性材料層の樹脂層側の脆性材料のみを除去して、脆性材料層の樹脂層側のみに加工痕を形成することができ、なお且つ、加工痕の深さを調整することが可能である。
【0014】
本発明者らの知見によれば、加工痕の深さが小さいほど、分断後の複合材に十分な曲げ強度を得ることが可能である。
したがい、本発明に係る複合材の分断方法において、好ましくは、前記加工痕の深さが、前記脆性材料層の厚みの90%以下であり、より好ましくは、65%以下である。
なお、加工痕の深さが小さすぎると、複合材を分断できなくなる。このため、好ましくは、加工痕の深さは、脆性材料層の厚みの10%以上である。
上記の好ましい方法において、「前記加工痕の深さが、前記脆性材料層の厚みの90%以下であり、より好ましくは、65%以下である」とは、分断予定線に沿った加工痕の深さの平均値が脆性材料層の厚みの90%以下であり、より好ましくは、65%以下であることを意味する。
【0015】
好ましくは、本発明に係る複合材の分断方法は、前記脆性材料除去工程の後、前記分断予定線に沿って外力を加えることで、前記複合材を分断する複合材分断工程を更に含む。
上記の好ましい方法によれば、複合材を確実に分断することが可能である。
【0016】
本発明に係る複合材の分断方法において、前記脆性材料層の厚みは、例えば、5μm以上200μm以下である。
【0017】
また、前記課題を解決するため、本発明は、脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材であって、前記脆性材料層の少なくとも一の端面における前記樹脂層側の第1部位の表面粗さが、前記脆性材料層の前記一の端面における前記樹脂層と反対側の第2部位の表面粗さよりも大きい、複合材としても提供される。
本発明に係る複合材は、前述の本発明に係る複合材の分断方法によって得ることのできる分断後の複合材(複合材片)である。本発明に係る複合材の分断方法によって本発明に係る複合材を得る場合、本発明に係る複合材の脆性材料層の端面における第1部位が加工痕の形成された部位に相当し、脆性材料層の端面における第2部位が加工痕の形成されていない部位に相当する。
本発明に係る複合材は、脆性材料層の端面全体が表面粗さの大きな第1部位ではなく、その一部の樹脂層側の部位が第1部位であって、残りの部位が表面粗さの小さな第2部位であるため、十分な曲げ強度を有する。
【0018】
具体的には、本発明に係る複合材において、前記第1部位の表面粗さが、算出平均高さSaで300nm未満であり、前記第2部位の表面粗さが、算出平均高さSaで12nm未満である場合を例示できる。
第1部位の表面粗さは、算術平均高さSaで好ましくは120nm未満、より好ましくは100nm未満、更に好ましくは80nm未満、特に好ましくは50nmである。また、第1部位の表面粗さは、算術平均高さSaで12nm以上であることが好ましい。
算術平均高さSaは、ISO 25178に規定されており、算術平均粗さRaを三次元に拡張したパラメータである。
【0019】
本発明者らの知見によれば、表面粗さの大きな第1部位の厚み(脆性材料層の厚み方向に沿った第1部位の寸法)が小さいほど、複合材に十分な曲げ強度を得ることが可能である。
したがい、本発明に係る複合材において、好ましくは、前記第1部位の厚みが、前記脆性材料層の厚みの90%以下であり、より好ましくは、65%以下である。
上記の好ましい構成において、「前記第1部位の厚みが、前記脆性材料層の厚みの90%以下であり、より好ましくは、65%以下である」とは、脆性材料層の端面における第1部位の厚みの平均値が脆性材料層の厚みの90%以下であり、より好ましくは、65%以下であることを意味する。
【0020】
本発明に係る複合材において、前記脆性材料層の厚みは、例えば、5μm以上200μm以下である。
【0021】
本発明に係る複合材によれば、前記脆性材料層側が凸となるように曲げたときの前記複合材の曲げ強度が、200MPa以上のものを得ることができる。
「複合材の曲げ強度が、200MPa以上」とは、脆性材料層の厚みに対する第1部位の厚みの割合が同等である複数の複合材の曲げ強度の平均値が200MPa以上であることを意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、分断後の脆性材料層の端面のクラックや、分断後の樹脂層の端面の深刻な熱劣化を生じさせることなく、複合材を分断可能で、且つ分断後の複合材に十分な曲げ強度を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る複合材の分断方法の手順を模式的に説明する説明図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る複合材の分断方法の手順を模式的に説明する説明図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る複合材の分断方法の脆性材料除去工程における加工痕の形成方法の一例を模式的に説明する説明図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る分断方法の複合材分断工程で分断された後の複合材片の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係る複合材の分断方法の手順を模式的に説明する説明図である。
【
図6】実施例1に係る試験の概要を模式的に説明する図である。
【
図7】参考例に係る脆性材料層片の曲げ強度の評価結果を示す図である。
【
図8】実施例1及び比較例に係る複合材片の曲げ強度の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る複合材の分断方法について説明する。
図1及び
図2は、本発明の第1実施形態に係る複合材の分断方法の手順を模式的に説明する説明図である。
図1(a)は第1実施形態に係る分断方法の樹脂除去工程を示す断面図であり、
図1(b)は第1実施形態に係る分断方法の脆性材料除去工程を示す断面図であり、
図1(c)は第1実施形態に係る分断方法の複合材分断工程を示す断面図である。
図2(a)は第1実施形態に係る分断方法の脆性材料除去工程を示す平面図であり、
図2(b)は第1実施形態に係る分断方法の脆性材料除去工程を示す斜視図である。なお、
図2において、超短パルスレーザ光源30の図示は省略している。
第1実施形態に係る分断方法は、脆性材料層1と樹脂層2とが積層された複合材10を厚み方向(脆性材料層1と樹脂層2との積層方向、
図1の上下方向、Z方向)に分断する方法である。
【0025】
脆性材料層1と樹脂層2とは、任意の適切な方法によって積層される。例えば、脆性材料層1と樹脂層2とは、いわゆるロール・トゥ・ロール方式によって積層可能である。すなわち、長尺の脆性材料層1と長尺の樹脂層2とを長手方向に搬送しながら、互いの長手方向を揃えるようにして互いに貼り合わせることで、脆性材料層1と樹脂層2とを積層可能である。また、脆性材料層1と樹脂層2とをそれぞれ所定形状に切断した後、積層することも可能である。脆性材料層1と樹脂層2とは、代表的には、任意の適切な粘着剤や接着剤(図示せず)を介して積層される。
【0026】
脆性材料層1を形成する脆性材料としては、ガラス、及び単結晶又は多結晶シリコンを例示できる。
ガラスとしては、組成による分類によれば、ソーダ石灰ガラス、ホウ酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、石英ガラス、及びサファイアガラスを例示できる。また、アルカリ成分による分類によれば、無アルカリガラス、低アルカリガラスを例示できる。ガラスのアルカリ金属成分(例えば、Na2O、K2O、Li2O)の含有量は、好ましくは15重量%以下であり、更に好ましくは10重量%以下である。
【0027】
脆性材料層1の厚みは、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下であり、更に好ましくは120μm以下であり、特に好ましくは100μm以下である。一方、脆性材料層1の厚みは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは20μm以上であり、更に好ましくは30μm以上である。脆性材料層1の厚みがこのような範囲であれば、ロール・トゥ・ロールによる樹脂層2との積層が可能になる。
【0028】
脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1の波長550nmにおける光透過率は、好ましくは85%以上である。脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1の波長550nmにおける屈折率は、好ましくは1.4~1.65である。脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1の密度は、好ましくは2.3g/cm3~3.0g/cm3であり、更に好ましくは2.3g/cm3~2.7g/cm3である。
【0029】
脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1として、市販のガラス板をそのまま用いてもよく、市販のガラス板を所望の厚みになるように研磨して用いてもよい。市販のガラス板としては、例えば、コーニング社製「7059」、「1737」又は「EAGLE2000」、旭硝子社製「AN100」、NHテクノグラス社製「NA-35」、日本電気硝子社製「OA-10」、ショット社製「D263」又は「AF45」が挙げられる。
【0030】
樹脂層2としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネート(PC)、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン-酢酸ビニル(EVA)、ポリアミド(PA)、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、各種樹脂製発泡体などのプラスチック材料で形成された単層フィルム、又は複数の層からなる積層フィルムを例示できる。
【0031】
樹脂層2が複数の層からなる積層フィルムである場合、層間に、アクリル粘着剤、ウレタン粘着剤、シリコーン粘着剤などの各種粘着剤や、接着剤が介在してもよい。
また、樹脂層2の表面に、酸化インジウムスズ(ITO)、Ag、Au、Cuなどの導電性の無機膜が形成されていてもよい。
第1実施形態に係る分断方法は、特に樹脂層2がディスプレイに用いられる偏光フィルムや位相差フィルム等の各種光学フィルムである場合に好適に用いられる。
樹脂層2の厚みは、好ましくは20~500μmである。
【0032】
なお、
図1に示す例では、樹脂層2が、偏光フィルム21と剥離ライナー23とが粘着剤22を介して積層された積層フィルムである例を図示している。
【0033】
第1実施形態に係る分断方法は、樹脂除去工程と、脆性材料除去工程と、複合材分断工程と、を含んでいる。以下、各工程について順に説明する。
【0034】
[樹脂除去工程]
図1(a)に示すように、樹脂除去工程では、レーザ光源20から発振したレーザ光L1を複合材10の分断予定線に沿って樹脂層2に照射して樹脂層2を形成する樹脂を除去することで、分断予定線に沿った加工溝24を形成する。
図1及び
図2に示す例では、複合材10の面内(XY2次元平面内)の直交する2方向(X方向及びY方向)のうち、Y方向に延びる直線DLが分断予定線である場合を図示している。分断予定線DLは、視覚的に認識できる表示として実際に複合材10に描くことも可能であるし、レーザ光L1と複合材10とのXY2次元平面上での相対的な位置関係を制御する制御装置(図示せず)にその座標を予め入力しておくことも可能である。
図1及び
図2に示す分断予定線DLは、制御装置にその座標が予め入力されており、実際には複合材10に描かれていない仮想線である。なお、分断予定線DLは、直線に限るものではなく、曲線であってもよい。複合材10の用途に応じて分断予定線DLを決定することで、複合材10を用途に応じた任意の形状に分断可能である。
【0035】
第1実施形態では、レーザ光源20として、発振するレーザ光L1の波長が赤外域の9~11μmであるCO2レーザ光源を用いている。
ただし、本発明はこれに限るものではなく、レーザ光源20として、発振するレーザ光L1の波長が5μmであるCOレーザ光源を用いることも可能である。
また、レーザ光源20として、可視光及び紫外線(UV)パルスレーザ光源を用いることも可能である。可視光及びUVパルスレーザ光源としては、発振するレーザ光L1の波長が532nm、355nm、349nm又は266nm(Nd:YAG、Nd:YLF、又はYVO4を媒質とする固体レーザ光源の高次高調波)であるもの、発振するレーザ光L1の波長が351nm、248nm、222nm、193nm又は157nmであるエキシマレーザ光源、発振するレーザ光L1の波長が157nmであるF2レーザ光源を例示できる。
また、レーザ光源20として、発振するレーザ光L1の波長が紫外域以外であり、なお且つパルス幅がフェムト秒又はピコ秒オーダーのパルスレーザ光源を用いることも可能である。このパルスレーザ光源から発振するレーザ光L1を用いれば、多光子吸収過程に基づくアブレーション加工を誘発可能である。
さらに、レーザ光源20として、発振するレーザ光L1の波長が赤外域である半導体レーザ光源やファイバーレーザ光源を用いることも可能である。
前述のように、第1実施形態では、レーザ光源20としてCO2レーザ光源を用いているため、以下、レーザ光源20を「CO2レーザ光源20」と称する。
【0036】
レーザ光L1を複合材10の分断予定線に沿って照射する態様(レーザ光L1を走査する態様)としては、例えば、枚葉状の複合材10をXY2軸ステージ(図示せず)に載置して固定(例えば、吸着固定)し、制御装置からの制御信号によってXY2軸ステージを駆動することで、レーザ光L1に対する複合材10のXY2次元平面上での相対的な位置を変更することが考えられる。また、複合材10の位置を固定し、制御装置からの制御信号によって駆動するガルバノミラーやポリゴンミラーを用いてCO2レーザ光源20から発振したレーザ光L1を偏向させることで、複合材10に照射されるレーザ光L1のXY2次元平面上での位置を変更することも考えられる。更には、上記のXY2軸ステージを用いた複合材10の走査と、ガルバノミラー等を用いたレーザ光L1の走査との双方を併用することも可能である。
【0037】
CO2レーザ光源20の発振形態は、パルス発振でも連続発振でもよい。レーザ光L1の空間強度分布は、ガウシアン分布でもよいし、レーザ光L1の除去対象外である脆性材料層1のダメージを抑制するため、回折光学素子(図示せず)等を用いて、フラットトップ分布に整形してもよい。レーザ光L1の偏光状態に制約はなく、直線偏光、円偏光及びランダム偏光の何れであってもよい。
【0038】
レーザ光L1を複合材10の分断予定線DLに沿って樹脂層2(偏光フィルム21、粘着剤22及び剥離ライナー23からなる積層フィルム)に照射することで、樹脂層2を形成する樹脂のうち、レーザ光L1が照射された樹脂(偏光フィルム21、粘着剤22及び剥離ライナー23のレーザ光L1が照射された部分)の赤外光吸収に伴う局所的な温度上昇が生じて当該樹脂が飛散することで、当該樹脂が複合材10から除去され、複合材10に加工溝24が形成される。複合材10から除去される樹脂の飛散物が複合材10に再付着することを抑制するには、分断予定線DL近傍に集塵機構を設けることが好ましい。加工溝24の溝幅が大きくなるのを抑制するには、樹脂層2への照射位置におけるスポット径が300μm以下となるようにレーザ光L1を集光することが好ましく、スポット径が200μm以下となるようにレーザ光L1を集光することが更に好ましい。
【0039】
なお、レーザ光L1が照射された樹脂の赤外光吸収に伴う局所的な温度上昇を原理とする樹脂の除去方法の場合、樹脂の種類や樹脂層2の層構造に関わらず、樹脂層2の厚みによって、加工溝24を形成するのに必要な投入エネルギーを概ね見積もることが可能である。具体的には、加工溝24を形成するのに必要な以下の式(1)で表わされる投入エネルギーを、樹脂層2の厚みに基づき、以下の式(2)によって見積もることが可能である。
投入エネルギー[mJ/mm]=レーザ光L1の平均パワー[mW]/加工速度[mm/sec] ・・・(1)
投入エネルギー[mJ/mm]=0.5×樹脂層2の厚み[μm] ・・・(2)
実際に設定する投入エネルギーは、上記の式(2)で見積もった投入エネルギーの20%~180%に設定することが好ましく、50%~150%に設定することが更に好ましい。このように見積もった投入エネルギーに対してマージンを設けるのは、樹脂層2を形成する樹脂の光吸収率(レーザ光L1の波長における光吸収率)や、樹脂の融点・分解点等の熱物性の違いによって、加工溝24を形成するのに必要な投入エネルギーに差異が生じることを考慮しているからである。具体的には、例えば、第1実施形態に係る分断方法を適用する複合材10のサンプルを用意し、上記の好ましい範囲内の複数の投入エネルギーでこのサンプルの樹脂層2に加工溝24を形成する予備試験を行って、適切な投入エネルギーを決定すればよい。
【0040】
[脆性材料除去工程]
図1(b)及び
図2に示すように、脆性材料除去工程では、樹脂除去工程の後、超短パルスレーザ光源30から発振(パルス発振)したレーザ光(超短パルスレーザ光)L2を分断予定線DLに沿って脆性材料層1に照射して脆性材料層1を形成する脆性材料を除去することで、分断予定線DLに沿った加工痕11を形成する。
レーザ光L2を分断予定線DLに沿って照射する態様(レーザ光L2を走査する態様)としては、前述のレーザ光L1を分断予定線DLに沿って照射する態様と同じ態様を採用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
脆性材料層1を形成する脆性材料は、超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2のフィラメンテーション現象を利用して、或いは、超短パルスレーザ光源30にマルチ焦点光学系(図示せず)又はベッセルビーム光学系(図示せず)を適用することで、除去される。
【0042】
第1実施形態の脆性材料除去工程では、超短パルスレーザ光源30から発振するレーザ光L2のパワー、及び、超短パルスレーザ光源30から発振するレーザ光L2の焦点と脆性材料層1との位置関係を調整することで、加工痕11の深さを調整している。そして、これにより、第1実施形態の脆性材料除去工程で形成する加工痕11は、樹脂層2側(加工溝24側)で開口し、且つ、脆性材料層1を非貫通(樹脂層2側と反対側では開口していない)になっている。換言すれば、脆性材料除去工程において、加工痕11を脆性材料層1の樹脂層2側のみに形成している。
以下、この点について、より具体的に説明する。
【0043】
図3は、第1実施形態に係る分断方法の脆性材料除去工程における加工痕11の形成方法の一例を模式的に説明する説明図である。なお、
図3において、加工溝24(
図1、
図2参照)の図示は省略している。
図3に示す例では、超短パルスレーザ光源30にマルチ焦点光学系を適用している。具体的には、
図3に示すマルチ焦点光学系は、3つのアキシコンレンズ31a、31b、31cで構成されている。
図3に示すように、超短パルスレーザ光源30から発振するレーザ光L2の空間強度分布をガウシアン分布と仮定すれば、比較的強度の高い点Aから発振したレーザ光L2は、
図3において実線で示す光路を辿って、焦点AFで収束する。一方、比較的強度の低い点Bから発振したレーザ光L2は、
図3において破線で示す光路を辿って、焦点AFとは異なる焦点BFで収束する。このように、超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2は、マルチ焦点光学系によって、複数の焦点で収束することになる。
【0044】
図3に示すように、複合材10の脆性材料層1側に、比較的強度の低い点Bから発振したレーザ光L2の焦点BFが位置し、複合材10の樹脂層2側に、比較的強度の高い点Aから発振したレーザ光L2の焦点AFが位置するように、レーザ光L2の焦点と脆性材料層1との位置関係を調整することで、加工痕11を形成するのに用いられるエネルギーに複合材10の厚み方向の分布、具体的には、樹脂層2側のエネルギーの方が脆性材料層1側のエネルギーよりも大きな分布を与えることが可能である。そして、レーザ光L2の焦点と脆性材料層1との位置関係を調整することで、脆性材料層1におけるこの分布を変化させることが可能である。また、超短パルスレーザ光源30から発振するレーザ光L2のパワーを調整することで、加工痕11を形成する(脆性材料を除去する)のに用いられるエネルギーの強弱(点A、点Bの強度の大小)を調整することが可能である。これにより、脆性材料層1の樹脂層2側の脆性材料のみを除去して、脆性材料層1の樹脂層2側のみに加工痕11を形成することができ、なお且つ、加工痕11の深さを調整することが可能である。
【0045】
なお、超短パルスレーザ光のフィラメンテーション現象を利用することや、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系又はベッセルビーム光学系を適用することについては、前述の非特許文献1に記載されている。また、ドイツのTrumpf社から、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系を適用したガラス加工に関する製品が販売されている。このように、超短パルスレーザ光のフィラメンテーション現象を利用することや、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系又はベッセルビーム光学系を適用することについては公知であるため、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0046】
第1実施形態の脆性材料除去工程で形成する加工痕11は、分断予定線DLに沿ったミシン目状の加工痕である。加工痕11のピッチP(
図2(a)参照)は、パルス発振の繰り返し周波数と、複合材10に対するレーザ光L2の相対的な移動速度(加工速度)とによって決まる。後述の複合材分断工程を簡便且つ安定的に行うために、加工痕11のピッチPは、好ましくは10μm以下に設定される。より好ましくは、加工痕11のピッチPは、5μm以下に設定される。加工痕11の直径は5μm以下で形成される場合が多い。
また、加工痕11の深さは、好ましくは脆性材料層1の厚みの90%以下や80%以下に設定され、より好ましくは脆性材料層1の厚みの70%以下や60%以下に設定され、さらに好ましくは脆性材料層1の厚みの50%以下に設定される。加工痕11の深さが小さすぎると、後述の複合材分断工程で複合材10を分断できなくなる。このため、加工痕11の深さは、脆性材料層1の厚みの10%以上に設定することが好ましく、脆性材料層1の厚みの30%以上に設定することがより好ましい。
【0047】
超短パルスレーザ光源30から発振するレーザ光L2の波長は、脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合に高い光透過率を示す500nm~2500nmであることが好ましい。非線形光学現象(多光子吸収)を効果的に引き起こすため、レーザ光L2のパルス幅は、100ピコ秒以下であることが好ましく、50ピコ秒以下であることが更に好ましい。レーザ光L2の発振形態は、シングルパルス発振でも、バーストモードのマルチパルス発振でもよい。
【0048】
第1実施形態の脆性材料除去工程では、超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2を樹脂除去工程で形成した加工溝24と反対側から脆性材料層1に照射している。
図1(a)、(b)に示す例では、樹脂層2に対向するように、CO
2レーザ光源20を複合材10に対してZ方向下側に配置し、脆性材料層1に対向するように、超短パルスレーザ光源30を複合材10に対してZ方向上側に配置している。そして、樹脂除去工程においてCO
2レーザ光源20から発振したレーザ光L1で加工溝24を形成した後、レーザ光L1の発振を停止し、脆性材料除去工程において超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2で加工痕11を形成している。
しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、CO
2レーザ光源20及び超短パルスレーザ光源30を複合材10に対していずれも同じ側(Z方向上側又は下側)に配置し、樹脂除去工程では樹脂層2をCO
2レーザ光源20に対向させ、脆性材料除去工程では脆性材料層1が超短パルスレーザ光源30に対向するように複合材10の上下を反転させる方法を採用することも可能である。
超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2を加工溝24と反対側から照射すれば、たとえ加工溝24の底部に樹脂の残渣が生じていたとしても、残渣の影響を受けることなく、脆性材料層1に適切な加工痕11を形成可能である。
【0049】
ただし、本発明は、これに限るものではなく、樹脂除去工程で形成した加工溝24を脆性材料除去工程の前にクリーニングすることで、樹脂層2を形成する樹脂の残渣を除去するクリーニング工程を更に含んでもよい。そして、脆性材料除去工程において、加工溝24側から脆性材料層1に超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2を照射して加工痕11を形成することも可能である。
クリーニング工程では、各種ウェット方式及びドライ方式のクリーニング方法を適用可能である。ウェット方式のクリーニング方法としては、薬液浸漬、超音波洗浄、ドライアイスブラスト、マイクロ及びナノファインバブル洗浄を例示できる。ドライ方式のクリーニング方法としては、レーザ、プラズマ、紫外線、オゾンなどを用いることが可能である。
クリーニング工程において、樹脂層2を形成する樹脂の残渣を除去するため、脆性材料除去工程において、加工溝24側から脆性材料層1に超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2を照射しても、レーザ光L2が樹脂の残渣の影響を受けず、脆性材料層1に適切な加工痕11を形成可能である。
【0050】
[複合材分断工程]
図1(c)に示すように、複合材分断工程では、脆性材料除去工程の後、分断予定線DLに沿って外力を加えることで、複合材10を分断する。
図1(c)に示す例では、複合材10は、複合材片10a、10bに分断される。
複合材10への外力の付加方法としては、機械的なブレイク(山折り)、赤外域レーザ光による切断予定線DLの近傍部位の加熱、超音波ローラによる振動付加、吸盤による吸着及び引き上げ等を例示できる。山折りによって複合材10を分断する場合には、加工痕11が形成された脆性材料層1の樹脂層2側を起点として分断するように、樹脂層2側が凸となる(脆性材料層1側が凹となる)ように外力を加えることが好ましい。
【0051】
図4は、第1実施形態に係る分断方法の複合材分断工程で分断された後の複合材片10a、10bの構成を模式的に示す断面図である。
図4(a)は複合材片10a、10bの全体構成を示す断面図であり、
図4(b)は
図4(a)の矢符ZZの方向から見た脆性材料層1の端面における第1部位12を示す拡大図である。
図4に示すように、複合材片10a、10bは、その脆性材料層1の一の端面(分断した端面)における樹脂層2側の第1部位12の表面粗さが、前記一の端面における樹脂層2と反対側の第2部位13の表面粗さよりも大きくなっている。第1部位12は、加工痕11の形成された部位に相当し、第2部位13は、加工痕11の形成されていない部位に相当する。したがい、第1部位12の厚み(脆性材料層1の厚み方向(Z方向)に沿った第1部位12の寸法)は、好ましくは脆性材料層1の厚みの90%以下や80%以下であり、より好ましくは脆性材料層1の厚みの70%以下や60%以下であり、さらに好ましくは脆性材料層1の厚みの50%以下である。また、第1部位12の厚みは、好ましくは脆性材料層1の厚みの10%以上であり、より好ましくは脆性材料層1の厚みの30%以上である。
複合材片10a、10bの脆性材料層1の一の端面(分断した端面)は、樹脂層2の同じ側の端面(分断した端面)よりも前記一の端面側(
図4(a)の紙面左側)に突出している。その突出量14は、CO
2レーザ光源20から発振したレーザ光L1の樹脂層2への照射位置におけるスポット径に応じて変化するが、例えば、200μm以下や、100μm以下や、50μm以下である。突出量14の下限は、小さいほど好ましいが、例えば、1μm以上や、5μm以上である。
【0052】
以上に説明した第1実施形態に係る分断方法によれば、樹脂除去工程において、樹脂層2を形成する樹脂を除去することで、分断予定線DLに沿った加工溝24を形成した後、脆性材料除去工程において、脆性材料層1を形成する脆性材料を除去することで、同じ分断予定線DLに沿った加工痕11を形成する。脆性材料除去工程で形成する加工痕11は、分断予定線DLに沿ったミシン目状の加工痕であり、加工痕11のピッチPが10μm以下と小さいため、複合材分断工程において、分断予定線DLに沿って外力を加えることで、複合材10を比較的容易に分断可能である。
また、第1実施形態に係る分断方法によれば、脆性材料除去工程において、超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2を脆性材料層1に照射して脆性材料層1を形成する脆性材料を除去するため、分断後の脆性材料層1の端面にクラックが生じない。また、第1実施形態に係る分断方法によれば、脆性材料除去工程の前に、樹脂除去工程において、CO2レーザ光源20から発振したレーザ光L1を樹脂層2に照射して樹脂層2を形成する樹脂を除去するため、分断後の樹脂層2の端面に深刻な熱劣化が生じない。すなわち、第1実施形態に係る分断方法によれば、分断後の脆性材料層1の端面のクラックや、分断後の樹脂層2の端面の深刻な熱劣化を生じさせることなく、複合材10を分断可能である。
さらに、第1実施形態に係る分断方法によれば、脆性材料除去工程で形成する加工痕11が、樹脂層2側で開口し、且つ、脆性材料層1を非貫通である。換言すれば、脆性材料除去工程において、加工痕11を脆性材料層1の樹脂層2側のみに形成する。したがい、分断後の複合材片10a、10bに十分な曲げ強度を得ることができる。
【0053】
<第2実施形態>
前述の第1実施形態に係る分断方法では、脆性材料除去工程で形成する加工痕11がミシン目状の加工痕である。
これに対し、第2実施形態に係る分断方法では、脆性材料除去工程において、超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2と脆性材料層1との分断予定線DLに沿った相対移動速度を小さく設定するか、超短パルスレーザ光源30のパルス発振の繰り返し周波数を大きく設定することで、分断予定線DLに沿って一体的に繋がった加工痕を形成する。第2実施形態に係る分断方法では、一体的に繋がった加工痕を形成するため、第1実施形態に係る分断方法よりも一層容易に複合材10を分断可能であるという利点を有する。
第2実施形態に係る分断方法は、一体的に繋がった加工痕を形成する点を除いて第1実施形態に係る分断方法と同じであるため、詳細な説明は省略する。
第2実施形態に係る分断方法によっても、分断後の脆性材料層1の端面のクラックや、分断後の樹脂層2の端面の深刻な熱劣化を生じさせることなく、複合材10を分断可能で、且つ分断後の複合材片に十分な曲げ強度が得られる。
【0054】
<第3実施形態>
前述の第1実施形態及び第2実施形態では、脆性材料層1と樹脂層2とが一層ずつ積層された複合材10を厚み方向に分断する方法について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、脆性材料層の両側にそれぞれ樹脂層が積層された複合材を厚み方向に分断する場合にも適用可能である。
図5は、本発明の第3実施形態に係る複合材の分断方法の手順を模式的に説明する説明図(断面図)である。なお、
図5において、CO
2レーザ光源20及びレーザ光L1、並びに超短パルスレーザ光源30及びレーザ光L2の図示は省略している。また、
図5において、複合材分断工程の図示は省略している。
図5(a)に示すように、第3実施形態に係る分断方法は、脆性材料層1の両側にそれぞれ樹脂層2a、2bが積層された複合材10Aを厚み方向(Z方向)に分断する方法である。脆性材料層1と樹脂層2a、2bとの積層方法、脆性材料層1や樹脂層2a、2bの形成材料等は、第1実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0055】
第3実施形態に係る分断方法も、第1実施形態に係る分断方法と同様に、樹脂除去工程と、脆性材料除去工程と、複合材分断工程と、を含んでいる。以下、各工程について、第1実施形態と異なる点を主として説明する。
【0056】
[樹脂除去工程]
図5(b)及び(c)に示すように、樹脂除去工程では、第1実施形態と同様に、CO
2レーザ光源20から発振したレーザ光L1を複合材10Aの分断予定線DLに沿って樹脂層に照射して樹脂層を形成する樹脂を除去することで、分断予定線DLに沿った加工溝を形成する。ただし、第3実施形態では、脆性材料層1の両側にそれぞれ樹脂層2a、2bが積層されているため、
図5(b)に示すように、何れか一方の樹脂層2aに加工溝24aを形成すると共に、
図5(c)に示すように、他方の樹脂層2bに加工溝24bを形成する。
図5(b)及び(c)に示す例では、先にZ方向下側の加工溝24aを形成した後、Z方向上側の加工溝24bを形成しているが、形成順序を逆にすることも無論可能である。
例えば、一対のCO
2レーザ光源20を、樹脂層2aに対向する側と、樹脂層2bに対向する側とにそれぞれ配置し、樹脂層2aに対向する側に配置されたCO
2レーザ光源20を用いて樹脂層2aに加工溝24aを形成し、樹脂層2bに対向する側に配置されたCO
2レーザ光源20を用いて樹脂層2bに加工溝24bを形成することができる。この場合には、加工溝24a及び加工溝24bを順番に形成するのではなく、加工溝24a及び加工溝24bを同時に形成することも可能である。
或いは、樹脂層2a及び樹脂層2bのうち何れか一方に対向する側に単一のCO
2レーザ光源20を配置し、CO
2レーザ光源20を用いて一方の樹脂層2aに加工溝24aを形成(又は樹脂層2bに加工溝24bを形成)した後、複合材10Aの上下を反転させ、同じCO
2レーザ光源20を用いて他方の樹脂層2bに加工溝24bを形成(又は樹脂層2aに加工溝24aを形成)することも可能である。
【0057】
[脆性材料除去工程]
図5(d)に示すように、脆性材料除去工程では、第1実施形態と同様に、樹脂除去工程の後、超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2を分断予定線DLに沿って脆性材料層1に照射して脆性材料層1を形成する脆性材料を除去することで、分断予定線DLに沿った加工痕11を形成する。第1実施形態と同様に、脆性材料除去工程で形成する加工痕11は、分断予定線DLに沿ったミシン目状の加工痕であり、加工痕のピッチは好ましくは10μm以下に設定される。ただし、第2実施形態と同様に、脆性材料除去工程において、分断予定線DLに沿って一体的に繋がった加工痕を形成することも可能である。
第3実施形態では、脆性材料層1の両側に加工溝24a、24bが形成されるため、加工溝24a、24bのうち何れか一方の加工溝側から脆性材料層1に超短パルスレーザ光源30から発振したレーザ光L2を照射して加工痕11を形成することになる。このため、例えば、加工溝24a側からレーザ光L2を照射する場合には、加工溝24aを脆性材料除去工程の前にクリーニングすることで、樹脂層2aを形成する樹脂の残渣を除去するクリーニング工程を更に含むことが好ましい。加工溝24b側からレーザ光L2を照射する場合も同様に、加工溝24bを脆性材料除去工程の前にクリーニングすることで、樹脂層2bを形成する樹脂の残渣を除去するクリーニング工程を更に含むことが好ましい。
【0058】
図5(d)に示す例の加工痕11は、樹脂層2a側で開口し、且つ、脆性材料層1を非貫通である。ただし、本発明はこれに限るものではなく、樹脂層2b側で開口し、且つ、脆性材料層1を非貫通である加工痕を形成することも可能である。
【0059】
[複合材分断工程]
複合材分断工程では、第1実施形態と同様に、脆性材料除去工程の後、分断予定線DLに沿って外力を加えることで、複合材10Aを分断する。山折りによって複合材10Aを分断する場合、
図5(d)に示す例では、加工痕11が形成された脆性材料層1の樹脂層2a側を起点として分断するように、樹脂層2a側が凸となる(脆性材料層1側が凹となる)ように外力を加えることが好ましい。
【0060】
第3実施形態に係る分断方法によっても、分断後の脆性材料層1の端面のクラックや、分断後の樹脂層2a、2bの端面の深刻な熱劣化を生じさせることなく、複合材10Aを分断可能で、且つ分断後の複合材片に十分な曲げ強度が得られる。
【0061】
以下、第1実施形態に係る分断方法(実施例1~3)及び比較例に係る分断方法を用いて複合材10を分断する試験を行った結果の一例について説明する。また、参考例として、複合材10ではなく、脆性材料層1のみを用いて、第1実施形態に係る分断方法と同様の脆性材料除去工程で加工痕11を形成し、脆性材料層1を分断する試験を行った結果の一例についても説明する。
【0062】
<実施例1>
図6は、実施例1に係る試験の概要を模式的に説明する図である。以下、
図1及び
図6を適宜参照しつつ、実施例1に係る試験の概要及び結果について説明する。
実施例1で用いた複合材10は、脆性材料層1が、無アルカリガラスから形成され、厚みが100μmである。また、樹脂層2が、偏光フィルム(ポリビニルアルコールで形成)21、粘着剤22及び剥離ライナー23で形成され、偏光フィルム21と粘着剤22の総厚みが80μmで、剥離ライナー23の厚みが40μmである(樹脂層2の総厚みは120μm)。
図6(a)に示すように、複合材10は、面内(XY2次元平面内)寸法が150mm×150mmの正方形状である。
図6(a)に破線で示す直線は分断予定線である。
【0063】
実施例1では、樹脂除去工程において、CO
2レーザ光源20として、コヒレント社製「E-400i」(発振波長9.4μm、パルス発振の繰り返し周波数25kHz、レーザ光L1のパワー18W、ガウシアンビーム)を用い、CO
2レーザ光源20から発振したレーザ光L1を集光レンズを用いてスポット径120μmに集光し、複合材10の樹脂層2に照射した。複合材10に対するレーザ光L1の相対的な移動速度(加工速度)を400mm/secとし、
図6(a)に示すように、面内寸法が110mm×60mmの複合材片10cを分断できるように、分断予定線に沿ってレーザ光L1を走査したところ、溝幅150μmの加工溝24(
図1参照)が形成された。
なお、実施例1の樹脂除去工程において、前述の式(2)によって見積もられる投入エネルギーは、60mJ/mmである。これに対し、実際の投入エネルギーは、前述の式(1)より、45mJ/mmであり、見積もった投入エネルギーの75%である。
【0064】
次いで、脆性材料除去工程において、超短パルスレーザ光源30として、コヒレント社製「Monaco 1035-80-60」(発振波長1035nm、レーザ光L2のパルス幅350~10000フェムト秒、パルス発振の繰り返し周波数最大50MHz、平均パワー60W)を用い、超短パルスレーザ光源30から所定の出力で発振したレーザ光L2をマルチ焦点光学系を介して、加工溝24と反対側(脆性材料層1側)から複合材10の脆性材料層1に照射した。複合材10に対するレーザ光L2の相対的な移動速度(加工速度)を1200mm/sec、繰り返し周波数を1MHzとし、分断予定線に沿ってレーザ光L2を走査したところ、加工痕11として、ピッチが1.2μmのミシン目状であって、深さ(平均値)が80μmの加工痕(直径1μm程度)が形成された。
【0065】
最後に、複合材分断工程において、分断予定線に沿って人手で複合材10を山折りすることで、複合材片10cを分断した。
【0066】
以上に説明した実施例1によって得られた複合材片10cの端面の品質を光学顕微鏡で観察・評価した結果、4つの端面全てにおいて、脆性材料層1にクラックは生じていなかった。また、樹脂層2の熱劣化に伴う変色領域は、端面から内側に100μm以下であり、深刻な熱劣化が生じていなかった。
また、複合材片10cの1つの端面における2箇所(
図6(a)に示すように、一方はX方向一端側の測定箇所P1、他方はX方向他端側の測定箇所P2)の表面粗さを測定したところ、加工痕11の形成された部位に相当する第1部位の算術平均高さSaは、測定箇所P1については31nmであり、測定箇所P2については34nmであった。また、加工痕11の形成されていない部位に相当する第2部位の算術平均高さSaは、測定箇所P1及びP2の双方について0nmであった。
なお、算術平均高さSaは、ISO 25178に規定されている「非接触式(光プローブ)」の評価方法に準じて測定した。具体的には、オリンパス社製3D測定レーザー顕微鏡「LEXT OLS5000」を用いて、端面の面内分解能を100nmに設定し、端面に垂直な高さ分解能を12nmに設定して、各測定箇所P1、P2の面内130μm×100μmの領域について算術平均高さSaを測定した。後述の実施例2、3についても同様である。
【0067】
更に、複合材片10cに2点曲げ試験を行った。2点曲げ試験においては、まず
図6(b)に示すように、固定部40、可動部50a、50bを具備する一軸ステージの固定部40に複合材片10cを載置し、可動部50a、50bの間に複合材片10cを挟み込んだ。この際、後述のように、可動部50bを移動させることで、複合材片10cの脆性材料層側が凸となって曲がるように(すなわち、脆性材料層1側が上側になるように)、固定部40に複合材片10cを載置した。次いで、
図6(c)に示すように、可動部50aの位置を固定する一方、可動部50bを20mm/minの速度で可動部50aに向けて移動させ、複合材片10cに曲げ応力を作用させた。そして、複合材片10cが破壊したときの可動部50aと可動部50bとの間隔Dの値によって、複合材片10cの曲げ強度を評価した。
【0068】
具体的には、非特許文献2に記載されている式(3)(以下の式(3)と同一)に上記の間隔Dを代入して、最大応力σ
maxを算出し、これを曲げ強度として評価した。
【数1】
上記の式(3)において、Eは複合材片10cのヤング率を、tは複合材片10cの厚みを、ψは複合材片10cの端の接線と鉛直方向(Z方向)との成す角度を意味する。
複合材片10cのヤング率Eとしては、脆性材料層1のヤング率である70GPaを用いた。樹脂層2のヤング率は脆性材料層1のヤング率に比べて十分に小さいため、複合材片10cのヤング率Eとしては脆性材料層1のヤング率が支配的になるからである。
また、角度ψは、2点曲げ試験を実行中に、
図6(c)に示すY方向から、複合材片10cの一端が視野内に位置するように複合材片10cを撮像して、複合材片10cが破壊する直前の撮像画像に基づき算出した。
【0069】
ここで、参考例として、脆性材料層1のみを用いて、実施例1と同様の条件下で、脆性材料除去工程で加工痕11を形成し、脆性材料層1を分断する試験を行った。そして、分断後の脆性材料層1(脆性材料層片)に
図6に示すものと同様の2点曲げ試験を行い、前述の式(3)を用いて、その曲げ強度(最大応力σ
max)を評価した。脆性材料層1のヤング率Eは、70GPaとした。
参考例では、超短パルスレーザ光源30から発振するレーザ光L2の焦点と脆性材料層1との位置関係を調整することで、加工痕11の深さを調整し、加工痕11の深さ(平均値)が脆性材料層1の厚みの40%、60%、70%、80%である4種類の脆性材料層1をそれぞれ10枚作製して、分断後の脆性材料層片の種類毎に曲げ強度を評価した。
【0070】
図7は、参考例に係る脆性材料層片の曲げ強度の評価結果を示す図である。
図7(a)は、加工痕11の深さの割合(脆性材料層1の厚みに対する割合)と脆性材料層片の曲げ強度との関係を示す図である。
図7(a)において「〇」でプロットしたデータは、10枚の平均値であり、「〇」から上下に延びる縦線は測定値のバラツキを示す。
図7(b)は、加工痕11の深さの割合(第1部位12の厚みの割合)が40%である脆性材料層片の端面の光学顕微鏡による観察像を模式的に示す。
図7(c)は、加工痕11の深さの割合(第1部位12の厚みの割合)が60%である脆性材料層片の端面の光学顕微鏡による観察像を模式的に示す。
図7(d)は、加工痕11の深さの割合(第1部位12の厚みの割合)が70%である脆性材料層片の端面の光学顕微鏡による観察像を模式的に示す。
図7(e)は、加工痕11の深さの割合(第1部位12の厚みの割合)が80%である脆性材料層片の端面の光学顕微鏡による観察像を模式的に示す。
図7に示すように、加工痕11の深さの割合が90%以下である場合(
図7に示す例では、加工痕11の深さの割合が40~80%)には、分断後の脆性材料層片の曲げ強度の平均値は、200MPa以上であり、大きな曲げ強度を得ることが可能であった。そして、加工痕11の深さの割合が小さいほど(加工痕11の深さが小さいほど)、分断後の脆性材料層片に大きな曲げ強度を得ることが可能であった。特に、加工痕11の深さの割合が65%以下(
図7に示す例では、加工痕11の深さの割合が60%以下)になれば、分断後の脆性材料層片の曲げ強度の平均値は、300MPa以上、さらには400MPa以上であり、十分に大きな曲げ強度を得ることが可能であった。
図7に示す結果は、脆性材料層片の曲げ強度であるが、実施例1の複合材片10cについても、同様の結果が得られることが期待できる。
【0071】
<比較例>
脆性材料除去工程で脆性材料層1を貫通する加工痕(すなわち、加工痕の深さの割合が100%)を形成したこと以外は実施例1と同じ条件で試験し、複合材片を分断した。この複合材片の端面の品質を光学顕微鏡で観察・評価した結果、実施例1と同様に、4つの端面全てにおいて、脆性材料層1にクラックは生じていなかった。また、樹脂層2の熱劣化に伴う変色領域は、端面から内側に100μm以下であり、深刻な熱劣化が生じていなかった。
しかしながら、比較例の複合材片に2点曲げ試験を行ったところ、複合材片の曲げ強度は実施例1の複合材片10cの曲げ強度よりも小さくなった。
【0072】
図8は、実施例1に係る複合材片10c及び比較例に係る複合材片の曲げ強度の評価結果を示す図である。
図8(a)は、加工痕11の深さの割合(脆性材料層1の厚みに対する割合)と複合材片の曲げ強度との関係を示す図である。
図8(a)において「〇」でプロットしたデータは、実施例1については8枚の平均値であり、比較例については10枚の平均値である。「〇」から上下に延びる縦線は測定値のバラツキを示す。
図8(b)は、加工痕11の深さの割合(第1部位12の厚みの割合)が80%である実施例1に係る複合材片10cの端面の光学顕微鏡による観察像を模式的に示す。
図8(c)は、加工痕11の深さの割合(第1部位12の厚みの割合)が100%である比較例に係る複合材片の端面の光学顕微鏡による観察像を模式的に示す。
図8に示すように、加工痕11が非貫通である実施例1の場合、加工痕11が脆性材料層1を貫通している比較例に比べて、分断後の複合材片に平均値で200MPa以上、さらには250MPa以上の大きな曲げ強度を得ることが可能であった。
【0073】
<実施例2>
脆性材料除去工程の条件として、超短パルスレーザ光源30から発振するレーザ光L2の出力を実施例1よりも高くしたこと以外は実施例1と同じ条件で試験し、複合材片を分断した。
実施例2によって得られた複合材片の1つの端面における2箇所(実施例1と同様の測定箇所P1、P2)の表面粗さを測定したところ、加工痕11の形成された部位に相当する第1部位の算術平均高さSaは、2箇所のうち小さい方が103nmであり、加工痕11の形成されていない部位に相当する第2部位の算術平均高さSaは、2箇所共に0nmであった。
【0074】
<実施例3>
脆性材料除去工程の条件として、超短パルスレーザ光源30から発振するレーザ光L2の出力を実施例2よりも更に高くしたこと以外は実施例1と同じ条件で試験し、複合材片を分断した。
実施例3によって得られた複合材片の1つの端面における2箇所(実施例1と同様の測定箇所P1、P2)の表面粗さを測定したところ、加工痕11の形成された部位に相当する第1部位の算術平均高さSaは、2箇所のうち小さい方が222nmであり、加工痕11の形成されていない部位に相当する第2部位の算術平均高さSaは、2箇所共に0nmであった。
【符号の説明】
【0075】
1・・・脆性材料層
2・・・樹脂層
10・・・複合材
11・・・加工痕
12・・・第1部位
13・・・第2部位
20・・・レーザ光源(CO2レーザ光源)
24・・・加工溝
30・・・超短パルスレーザ光源
DL・・・分断予定線
L1・・・レーザ光
L2・・・レーザ光