(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】材料の屈折率計算
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20240906BHJP
G16C 10/00 20190101ALI20240906BHJP
【FI】
G16C60/00
G16C10/00
(21)【出願番号】P 2023129684
(22)【出願日】2023-08-09
【審査請求日】2023-08-09
(32)【優先日】2022-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514180812
【氏名又は名称】ダッソー システムズ アメリカス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サビーヌ シュヴァイツァー
(72)【発明者】
【氏名】クワン スキナー
(72)【発明者】
【氏名】ラリサ スブラマニアン
【審査官】塩田 徳彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-060275(JP,A)
【文献】特開2007-293782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の複屈折率を計算するためのコンピュータ実装方法であって、
材料を形成する一つ以上の化合物についての一つ以上の三次元構造モデルを構築するステップと、
前記構築された一つ以上の三次元構造モデルの各々について、
前記三次元構造モデルを分子軸に沿って整列させるステップと、
前記整列された三次元構造モデルに対して一つ以上の傾斜角を設定するステップと、
前記整列された三次元構造モデルを、前記設定された一つ以上の傾斜角と共に使用して、前記整列された三次元構造モデルに対する分子分極率テンソルを、前記設定された一つ以上の傾斜角で計算するステップと、
前記計算された分子分極率テンソルに基づいて、前記材料の複屈折率を計算するステップと
を備える、方法。
【請求項2】
前記材料が、液晶混合物、有機分子系材料、有機分子系純粋化合物、または有機分子の混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一つ以上の化合物についての前記一つ以上の三次元構造モデルを構築するステップは、
前記材料を形成する前記一つ以上の化合物についての一つ以上の初期三次元構造モデルを構築するステップと、
前記構築された一つ以上の初期三次元構造モデルに基づいて、立体配座検索を実行して、前記一つ以上の化合物の各々に対して、配座異性体のそれぞれの三次元構造モデルセットを生成するステップと、
生成された配座異性体の各三次元構造モデルセットについて、前記生成された配座異性体の三次元構造モデルセットから配座異性体のサブセットを選択するステップと、
(1)前記一つ以上の初期三次元構造モデル、および(2)各選択された配座異性体のサブセットに対応する配座異性体の三次元構造モデルを、前記材料を形成する前記一つ以上の化合物についての前記構築された一つ以上の三次元構造モデルとして設定するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
配座異性体のサブセットを選択するステップは、
低エネルギー配座異性体、中エネルギー配座異性体、および高エネルギー配座異性体を選択するステップ
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
立体配座検索を行うステップは、
体系的な立体配座検索を行うステップと、
立体配座サンプリングのための分子動力学シミュレーションを行うステップと、
一つ以上の所望の配座異性体を選択するユーザ入力を受け取るステップと
のうちの少なくとも一つを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
立体配座サンプリングのための分子動力学シミュレーションを実施するステップは、
前記材料の三次元バルク構造モデルを構築するステップと、
構築した前記三次元バルク構造モデルを使用して、一つ以上の温度で分子動力学シミュレーションを実施して、軌道を生成するステップと、
前記一つ以上の化合物の各々について、前記軌道から、前記一つ以上の化合物の個々の分子を選択するステップと、
選択された前記個々の分子の幾何学的最適化に基づいて、選択された各個々の分子のそれぞれのエネルギーを決定するステップと、
各個々の分子の前記決定されたそれぞれのエネルギーを統計的に分析して、前記一つ以上の化合物の各々に対するエネルギー範囲を定義するステップと、
前記一つ以上の化合物の各定義されたエネルギー範囲を、サブレンジビンに分割するステップと、
前記一つ以上の化合物の配座異性体についてのそれぞれの各三次元構造モデルセット内の各配座異性体を、前記サブレンジビンの所定のエネルギービンに割り当てるステップと、
各サブレンジビン内の配座異性体の数を決定するステップと、
各サブレンジビン内の決定された配座異性体の数に基づいて、各選択された配座異性体のサブセットを識別し、各選択された配座異性体のサブセット内の各配座異性体の重要度を重み付けするステップと
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記一つ以上の傾斜角を設定するステップは、
前記一つ以上の傾斜角を体系的に変化させるステップと、
分子動力学シミュレーションから前記一つ以上の傾斜角を自動的に決定するステップと
のうち少なくとも一つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記整列された三次元構造モデルを、前記設定された一つ以上の傾斜角と共に使用して、分子分極率テンソルを計算するステップは、
前記整列された三次元構造モデルの幾何学的最適化を、前記設定された一つ以上の傾斜角を用いて行うステップと、
振動周波数解析を実行して、前記整列された三次元構造モデルの極小幾何学を、設定された一つ以上の傾斜角を用いて確認するステップと
のうち少なくとも一つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記計算された分子分極率テンソルに基づいて、前記材料の複屈折率を計算するステップは、
各計算された分子分極率テンソルについて、
前記計算された分子分極率テンソルから関連成分を選択するステップと、
前記選択された関連成分を使用して、通常の屈折率および異常な屈折率を計算するステップと、
各計算された分子分極率テンソルに対して計算された前記通常の屈折率および前記異常な屈折率を使用して、前記複屈折率を計算するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
各計算された分子分極率テンソルに対して計算された前記通常の屈折率および前記異常な屈折率を使用して、前記複屈折率を計算するステップは、
前記一つ以上の化合物の立体配座と、前記設定された一つ以上の傾斜角のうちの一つの傾斜角とについて、前記複屈折率を計算するステップと、
前記一つ以上の傾斜角が複数の傾斜角を含む場合に、(1)前記一つ以上の化合物の立体配座および前記複数の傾斜角、または(2)前記一つ以上の化合物の複数の立体配座および前記複数の傾斜角のうちの所定の傾斜角、または(3)前記一つ以上の化合物の複数の立体配座および前記複数の傾斜角について、
前記複屈折率を計算するステップと、
計算された各分子分極率テンソルに対して、計算された前記通常の屈折率および前記異常な屈折率を平均化するステップと、
計算された各通常の屈折率および各異常な屈折率の寄与度を重み付けするステップと
のうちの少なくとも一つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記構築された一つ以上の三次元構造モデルの各々について、それぞれのアスペクト比を決定するステップと、
各計算された分子分極率テンソルについて、前記選択された関連成分および前記決定されたそれぞれのアスペクト比を使用して、前記通常の屈折率および前記異常な屈折率を計算するステップと
をさらに備える、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記整列された三次元構造モデルに対して一つ以上の傾斜角を設定するステップは、
前記一つ以上の化合物から形成される前記材料のネマティック相構造を構築するステップと、
前記構築されたネマティック相構造を幾何学的に最適化するステップと、
一つ以上の温度で平衡化された、前記幾何学的に最適化されたネマティック相構造の分子動力学シミュレーションを実行するステップと、
前記一つ以上の温度で平衡化された前記幾何学的に最適化されたネマティック相構造の前記分子動力学シミュレーションを実行する結果を分析することによって、各分子の分子軸と空間軸との間の前記一つ以上の傾斜角を決定するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記一つ以上の傾斜角を決定するステップは、
前記決定された一つ以上の傾斜角を統計的に分析して、傾斜角のサブセットを選択するステップ
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記決定された一つ以上の傾斜角を統計的に分析するステップは、
前記ネマティック相構造内に含有される各化合物の傾斜角分布を生成するステップと、
前記分子動力学シミュレーションの経時的な各傾斜角分布を平均化するステップと、
複数の傾斜角が適用される場合、前記傾斜角に対する重み付け係数を求めるステップと
のうちの少なくとも一つを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記材料の密度を計算するステップ
をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記材料の前記密度を計算するステップは、
前記材料に対して分子動力学シミュレーションを実施して、軌道を決定し、前記軌道を分析するステップと、
機械学習ベースの分析を実行して、前記材料の前記密度を予測するステップと
のうちの少なくとも一つを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記決定された複屈折率を使用して、前記材料のシミュレーションを行うステップ
をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記シミュレーションに基づいて、前記シミュレーションが行われた材料を使用して、現実世界の物体の設計を決定するステップ
をさらに備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記現実世界の物体が、光学表示装置、フィルタ、フィルム、コーティング、またはレンズである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記構築するステップ、整列させるステップ、設定するステップ、分子分極率テンソルを計算するステップ、複屈折率を計算するステップ、および複数の候補材料の各々についてシミュレーションをするステップを繰り返すステップと、
前記シミュレーションの結果に基づいて、前記候補材料の中から所定の材料を選択するステップと
をさらに備える、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
材料の複屈折率を計算するためのシステムであって、
プロセッサと、
そこにコンピュータコード命令が格納されたメモリ
と
を備え、
前記コンピュータコード命令
は、
前記プロセッサによって実行されると、前記
プロセッサに、
材料を形成する一つ以上の化合物についての一つ以上の三次元構造モデルを構築することと、
前記構築された一つ以上の三次元構造モデルの各々について、
前記三次元構造モデルを分子軸に沿って整列することと、
前記整列された三次元構造モデルに対して、一つ以上の傾斜角を設定することと、
前記整列された三次元構造モデルを、前記設定された一つ以上の傾斜角と共に使用して、前記整列された三次元構造モデルに対する分子分極率テンソルを、前記設定された一つ以上の傾斜角で計算することと、
前記計算された分子分極率テンソルに基づいて、前記材料の複屈折率を計算することと
を行わせ
る、
システム。
【請求項22】
材料の複屈折率を計算するための、非一時的コンピュータプログラム製品であって、ネットワークを介して一つ以上のクライアントと通信するサーバによって実行され、
プログラム命令を含むコンピュータ可読媒体であって、
前記プログラム命令が、プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、
材料を形成する一つ以上の化合物についての一つ以上の三次元構造モデルを構築することと、
前記構築された一つ以上の三次元構造モデルの各々について、
前記三次元構造モデルを分子軸に沿って整列することと、
前記整列された三次元構造モデルに対して、一つ以上の傾斜角を設定することと、
前記整列された三次元構造モデルを、前記設定された一つ以上の傾斜角と共に使用して、前記整列された三次元構造モデルに対する分子分極率テンソルを、前記設定された一つ以上の傾斜角で計算することと、
前記計算された分子分極率テンソルに基づいて、前記材料の複屈折率を計算することと
を行わせ
る、コンピュータ可読媒体
を備える、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料用の屈折率計算に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼロからの材料の屈折特性(refractive properties)(例えば、複屈折率(birefringence)など)の計算は、典型的には、純粋な化合物(pure compounds)に適用される。通常は、「秩序パラメータ(order parameter)」が使用され、このような計算のために分子異方性(molecular anisotropy)が考慮される必要がある。秩序パラメータの値は、典型的には、経験者によって提供される推測であり、またはせいぜい、実験結果から決定される。しかしながら、秩序パラメータを提供する実験結果は、限られた数の純粋な化合物についてのみ利用可能である。
【発明の概要】
【0003】
したがって、秩序パラメータおよび分子異方性を推定するには、信頼性のある第一原理(first principles)に基づく機能性が必要である。こうした実施形態の一つは、この機能性を、(1)化合物の三次元構造を構築するステップ、(2)ネマティック相構造(nematic phase structure)を構築するステップ、(3)分子動力学シミュレーション(molecular dynamics simulations)を実施して、構築したネマティック相構造を平衡化するステップ、(4)ネマティック相の構造、例えば、個々の分子と空間軸(room axis)との間の角度を分析するステップ、および(5)角度から秩序パラメータを決定するステップによって、提供する。
【0004】
さらに、純粋な化合物および混合物(mixtures)をその複屈折特性(birefringent properties)についてスクリーニングする機能性が必要である。実施形態は、こうした機能性を提供する。例示的な実施形態は、実験データが存在しない第一原理シミュレーション技法(first principles simulation techniques)からの先験的材料スクリーニング(a priori materials screening)のための方法を対象とする。
【0005】
実施形態は、実験データが存在しない場合、例えば、液晶材料(liquid crystal materials)などの材料の三次元(3D)原子論的モデリング(atomistic modeling)およびシミュレーションに使用することができる。実施形態は、他の例がある中でも特に、秩序構造を形成する有機分子の純粋化合物または混合物に適用できる。さらに、実施形態は、他の例がある中でも特に、光学表示装置(optical displays)(例えば、電話、コンピュータ、テレビ画面、フラットパネル、および他の電子機器用の表示装置など)、フィルタ、スマートフィルム/コーティング(smart films/coatings)、およびレンズ用の材料を設計するために、屈折率(refractive indices)を自動的に予測することができる。このように、実施形態は、このような製品を設計するための効率的な方法を可能にする。
【0006】
実施形態は、有機分子(organic molecules)を調べるために使用することができる。さらに、実施形態は、他の例がある中でも特に、相関法または機械学習ベースの方法を使用して、単量体分子(monomeric molecules)およびオリゴマー分子(oligomeric molecules)から高分子系(polymeric systems)への外挿(extrapolation)を介して、高分子系の屈折特性(refractive properties)を決定することができる。
【0007】
一実施形態は、材料の複屈折率、例えば、液晶混合物(liquid crystal mixture)を計算するための計算方法を対象とする。一実施形態では、各純粋な構成要素(pure component)について、分子の異なる配座異性体(conformers)の傾斜構造(tilted structures)が生成される。これらの構造のそれぞれについて、分極率(polarizability)が計算され、計算された分極率に基づいて、複屈折率が決定される。各化合物について、異なる立体配座および配向に対する通常の屈折率(ordinary refractive index)および異常な屈折率(extraordinary refractive index)の平均(例えば、加重平均など)が計算される。一実施形態では、混合物の化合物の通常の屈折率および異常な屈折率は、混合物の組成物に従って重み付けされる。傾斜角(tilt angle)を決定するために、一実施形態は、例えば、BIOVIA(登録商標)Materials Studio(登録商標)を使用して、ネマティック相(nematic phase)を構築する。次いで、分子動力学シミュレーションが実施され、結果として生じる軌道(trajectory)から、各化合物の平均傾斜角が決定される。異なる立体配座(conformations)は、他の例がある中でも特に、分子動力学シミュレーションから、または手動で生成される、体系的な配座異性体検索(conformer search)を介して取得することができる。
【0008】
別の実施形態は、材料の複屈折率を計算するためのコンピュータ実装方法を対象とする。本方法は、材料を形成する一つ以上の化合物についての一つ以上の三次元構造モデルを構築するステップから始まる。次に、構築された一つ以上の三次元構造モデルのそれぞれについて、(1)三次元構造モデルが分子軸(molecular axis)に沿って整列され、(2)整列された三次元構造モデルについて一つ以上の傾斜角が設定され、(3)整列された三次元構造モデルを、設定された一つ以上の傾斜角と共に使用して、整列された三次元構造モデルと設定された一つ以上の傾斜角について分子分極率テンソル(molecular polarizability tensor)が計算される。次いで、材料の複屈折率は、計算された分子分極率テンソルに基づいて計算される。
【0009】
実施形態を使用して、変化する材料の複屈折率を決定してもよい。例えば、一実施形態では、材料(このために複屈折率が決定される)は、液晶混合物(liquid crystal mixture)、有機分子系材料(organic molecule-based material)、有機分子系純粋化合物(organic-molecule-based pure compound)、または有機分子の混合物(mixture of organic molecules)である。
【0010】
一実施形態は、材料を形成する一つ以上の化合物についての一つ以上の初期三次元構造モデルを最初に構築するステップによって、一つ以上の化合物について一つ以上の三次元構造モデルを構築する。次いで、こうした実施形態は、構築された一つ以上の初期三次元構造モデルに基づいて、立体配座検索(conformational search)を実行して、一つ以上の化合物のそれぞれに対して、配座異性体のそれぞれの三次元構造モデルセットを生成する。次いで、配座異性体のそれぞれ生成された三次元構造モデルセットについて、生成された配座異性体の三次元構造モデルセットから配座異性体のサブセットが選択される。こうした実施形態は、(1)一つ以上の初期三次元構造モデル、および(2)各選択された配座異性体のサブセットに対応する配座異性体の三次元構造モデルを、材料を形成する一つ以上の化合物の構築された一つ以上の三次元構造モデルとして設定する。こうした実施形態では、配座異性体のサブセットを選択するステップは、低エネルギー配座異性体(low-energy conformer)、中エネルギー配座異性体(medium-energy conformer)、および高エネルギー配座異性体(high-energy conformer)を選択するステップを含む。さらに、なおも別の実施形態では、立体配座検索を行うステップは、(1)体系的な立体配座検索を行うステップ、(2)立体配座サンプリング(conformational sampling)のための分子動力学シミュレーションを行うステップ、および(3)一つ以上の所望の配座異性体を選択するユーザ入力を受信するステップ、のうちの少なくとも一つを含む。
【0011】
一実施形態は、前述の立体配座サンプリングについての分子動力学シミュレーションを、まず、材料の三次元バルク構造モデル(three-dimensional bulk structure model)を構築するステップによって、第二に、構築された三次元バルク構造モデルを使用して一つ以上の温度で分子動力学シミュレーションを実施するステップによって、実施する。分子動力学シミュレーションを行うと、軌道が作成される。軌道から、一つ以上の化合物の個々の分子が、三次元バルク構造モデルから選択される。次いで、選択された各個々の分子のそれぞれのエネルギーは、選択された個々の分子の幾何学的最適化(geometry optimization)に基づいて計算される。各個々の分子の決定されたそれぞれのエネルギーは、統計的に分析され、一つ以上の化合物のそれぞれに対してエネルギー範囲(energy range)が定義され、一つ以上の化合物の各定義されたエネルギー範囲は、サブレンジビン(sub-range bins)に分割される。一つ以上の化合物の配座異性体のそれぞれの各三次元構造モデルセット中の各配座異性体は、サブレンジビンの所定のエネルギービン(energy bin)に割り当てられる。各サブレンジビン中の配座異性体の数が決定され、各サブレンジビン中の決定された配座異性体の数に基づいて、選択された各配座異性体のサブセットが特定される。さらに、こうした実施形態は、選択された各配座異性体のサブセットにおける各配座異性体の重要度(importance)を重み付けすることができる。
【0012】
一実施形態によれば、一つ以上の傾斜角を設定するステップは、一つ以上の傾斜角を体系的に変化させるステップ、および分子動力学シミュレーションから一つ以上の傾斜角を自動的に決定するステップ、のうちの少なくとも一つを含む。別の実施形態では、整列された三次元構造モデルに対して一つ以上の傾斜角を設定するステップは、一つ以上の化合物から形成される材料のネマティック相構造を構築するステップと、構築されたネマティック相構造を幾何学的に最適化するステップと、を含む。次いで、一つ以上の温度で平衡化された幾何学的に最適化されたネマティック相構造の分子動力学シミュレーションが実施される。こうした実施形態では、一つ以上の温度で平衡化された幾何学的に最適化されたネマティック相構造の分子動力学シミュレーションを実行する結果を分析することによって、各分子の分子軸と空間軸との間の一つ以上の傾斜角が決定される。こうした実施形態では、一つ以上の傾斜角は、決定された一つ以上の傾斜角を統計的に分析して、傾斜角のサブセットを選択することステップによって決定される。一実施形態によれば、決定された一つ以上の傾斜角を統計的に分析するステップは、(1)ネマティック相構造に含まれる各化合物について、傾斜角分布(tilt angle distribution)を生成するステップ、(2)分子動力学シミュレーションの経時的な各傾斜角分布を平均化するステップ、および(3)複数の傾斜角が適用される場合、傾斜角に対する重み付け係数(weighting factors)を求めるステップ、のうちの少なくとも一つを含む。
【0013】
なお別の実施形態では、整列された三次元構造モデルを、設定された一つ以上の傾斜角と共に使用して、分子分極率テンソルを計算するステップは、整列された三次元構造モデルの幾何学的最適化を、設定された一つ以上の傾斜角を用いて行うステップ、および振動周波数解析(vibrational frequency analysis)を実行して、整列された三次元構造モデルの極小幾何学(local minimum geometry)を、設定された一つ以上の傾斜角を用いて確認するステップ、のうち少なくとも一つを含む。
【0014】
計算された分子分極率テンソルに基づいて材料の複屈折率を計算する際に、実施形態は、各計算された分子分極率テンソルについて、計算された分子分極率テンソルから関連成分を選択し、選択された関連成分(relevant components)を使用して、通常の屈折率および異常な屈折率を計算する。次いで、材料の複屈折率は、各計算された分子分極率テンソルに対して計算された通常の屈折率および異常な屈折率を使用して計算される。
【0015】
様々な動作が、各計算された分子分極率テンソルに対して計算された通常の屈折率および異常な屈折率を使用して複屈折率を計算することに関与しうる。例えば、一実施形態は、一つ以上の化合物の立体配座と、設定された一つ以上の傾斜角のうちの一つの傾斜角について複屈折率を計算する。一つ以上の傾斜角が複数の傾斜角を含む、別の実施形態では、複屈折率は、(1)一つ以上の化合物の立体配座および複数の傾斜角、または(2)一つ以上の化合物の複数の立体配座および複数の傾斜角のうちの所定の傾斜角、または(3)一つ以上の化合物の複数の立体配座および複数の傾斜角について計算される。なお別の実施形態によると、複屈折率を計算することの一環として、各計算された分子分極率テンソルに対して計算された通常の屈折率および異常な屈折率が平均化される。なお別の実施形態は、計算された各通常の屈折率および各異常な屈折率の寄与度(contributions)を重み付けする。
【0016】
一実施形態は、構築された一つ以上の三次元構造モデルのそれぞれについてそれぞれのアスペクト比(aspect ratio)を決定し、各計算された分子分極率テンソルについて、選択された関連成分および決定されたそれぞれのアスペクト比を使用して、通常の屈折率および異常な屈折率を計算する。
【0017】
方法の別の実施形態は、材料の密度(density)を計算する。こうした実施形態の一つは、材料について分子動力学シミュレーションを実行して、軌道を決定し、軌道を分析する、および/または機械学習ベースの分析を実行して、材料の密度を予測する。
【0018】
実施形態は、決定された複屈折率を使用して、追加の分析および現実世界のアクションを実行してもよい。例えば、一実施形態は、決定された複屈折率を使用して材料のシミュレーションをする。他の例がある中でも特に、シミュレーションは、現実世界のユースケース(use cases)における材料の挙動(behavior)を決定しうる。シミュレーション(およびその結果)に基づいて、別の実施形態は、材料を使用する現実世界の物体のための設計を決定する。一実施形態によれば、現実世界の物体は、他の例がある中でも特に、光学表示装置、フィルタ、フィルム、コーティング、またはレンズである。別の実施形態は、構築するステップ、整列させるステップ、設定するステップ、分子分極率テンソルを計算するステップ、複屈折率を計算するステップ、および複数の候補材料のそれぞれについてシミュレーションをするステップ、を繰り返す。次に、シミュレーションの結果に基づいて、こうした実施形態は、候補材料(candidate materials)の中から所定の材料を選択する。
【0019】
さらに別の実施形態は、材料の複屈折率を計算するシステムを対象とする。システムは、プロセッサと、その上にコンピュータコード命令(computer code instructions)が記憶されたメモリと、を含む。こうした実施形態では、プロセッサおよびメモリは、コンピュータコード命令により、システムに、本明細書に記載される任意の実施形態または実施形態の組み合わせを実施させるように構成される。
【0020】
別の実施形態は、材料の複屈折率を計算するためのクラウドコンピューティング実装(cloud computing implementation)を対象とする。こうした実施形態は、一つ以上のクライアントとネットワーク上で通信しているサーバによって実行されるコンピュータプログラム製品(computer program product)に向けられ、ここで、コンピュータプログラム製品は、一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、本明細書に記載される任意の実施形態、または実施形態の組み合わせを実施させる命令を含む。
【0021】
本方法、システム、およびコンピュータプログラム製品の実施形態は、本明細書に記載される、任意の実施形態、または実施形態の組み合わせを実装するように構成されてもよいことが注目される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
前述のことは、添付の図面に示されるように、例示的な実施形態の以下のより具体的な説明から明らかであり、同様の参照文字は、異なる図全体にわたって同じ部分を参照している。図面は必ずしも原寸に比例しておらず、代わりに実施形態を説明することに重点が置かれている。
【
図1】一実施形態による、材料の複屈折率を決定するための方法のフローチャートである。
【
図2】一実施形態によるアスペクト比を決定するための測定値を示す図である。
【
図3】実施形態によって計算され得る傾斜角を示す図である。
【
図4】一実施形態による分子動力学シミュレーションで使用され得る材料のネマティック相のモデルを示す図である。
【
図5】一実施形態による材料の複屈折率を計算するためのコンピュータシステムの簡略ブロック図である。
【
図6】本発明の一実施形態が実装され得るコンピュータネットワーク環境の簡略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
例示的な実施形態の説明は、以下の通りである。
【0024】
実施形態は、材料、例えば、有機材料、液晶材料などの複屈折率を計算する。実施形態は、純粋化合物および化合物の混合物の両方に適用される。
【0025】
複屈折率は、材料の異常な屈折率と通常の屈折率との間の差(difference)である。異常な屈折率および通常の屈折率は、分子分極率テンソルに基づいて計算することができ、これは、他の例がある中でも特に、密度汎関数理論計算(density functional theory calculations)を使用して計算することができる。分子分極率テンソルを屈折率と関連付けるには、様々なアプローチが存在する。例えば、ローレンツ・ローレンツの式(Lorentz-Lorenz equation)、およびノイゲバウアー・ボルデワイク・デ・ジュー(NBJ)方程式(Neugebauer-Bordewijk-de Jeu (NBJ) equation)(例えば、化学物理ジャーナル(J. Chem. Phys.)、2005年、123巻、134904を参照のこと)などのクラウジウス・モソッティの式(Clausius-Mossotti equation)の拡張が、分極率を屈折率と関連付ける。
【0026】
化合物の空間的な配向および伸長(spatial orientation and extension)は、屈折率に影響を与える。したがって、材料の分子の配向および伸長を決定することができることが極めて重要である。実施形態は、第一原理から両方の特性を導出する。一実施形態によれば、これらの二つの特性は、ネマティック相および異方性の秩序化(ordering)を考慮に入れる。
【0027】
図1は、一つのこうした例示的な方法の実施形態100を示す。方法100は、材料の複屈折率を計算するためのコンピュータ実装方法である。方法100は、ステップ101で、例えば、コンピュータメモリ内で、材料を形成する一つ以上の化合物についての一つ以上の三次元構造モデルを構築するステップによって開始される。一実施形態によれば、方法100は、立体配座サンプリングを行い、異なる立体配座を考慮することによって、分子異方性を考慮する方法で、ステップ101でモデルを構築する。続いて、構築された一つ以上の三次元構造モデルのそれぞれについて、方法100は、(1)三次元構造モデルを分子軸に沿って整列させ(ステップ102)、(2)整列された三次元構造モデルについて一つ以上の傾斜角を設定し(ステップ103)、および(3)整列された三次元構造モデルを、設定された一つ以上の傾斜角と共に使用して、整列された三次元構造モデルと設定された一つ以上の傾斜角について、分子分極率テンソルを計算する(ステップ104)。次いで、ステップ105で、材料の複屈折率が、計算された分子分極率テンソルに基づいて計算される。
【0028】
説明のために、材料が二つの化合物AおよびBで形成される、簡略化された実施例を考察する。ステップ101では、Aの三次元構造モデル(「A」と称する)およびBの三次元構造モデル(「B」と称する)が構築され、作業中のコンピュータメモリ内に保持される。AおよびBの立体配座はまた、本明細書に記載されるステップ101で構築されてもよいが、この簡略化された例示的な例では、立体配座のサンプリング/考慮は実施されない。ステップ102で、モデルAは、分子軸に沿って整列されて整列モデルA’を形成し、モデルBは、分子軸に沿って整列されて整列モデルB’を形成する。次に、ステップ103で、モデルA’およびB’の傾斜角が設定され、その結果、モデルA’’およびB’’が生じる。実施形態では、複数の傾斜角が使用され、複数の傾斜角を有するモデルが使用され、本明細書に記載されるように重み付けされることが注目される。続いて、モデルA’’およびB’’は次に、ステップ104で使用され、モデルA’’の分子分極率テンソルおよびモデルB’’の分子分極率テンソルを計算する。分極率テンソルは、ステップ105で計算するために使用され(例えば、材料中のAおよびBの量に基づいて、分極率テンソルまたは通常の屈折率および異常な屈折率の加重平均(weighted average)を使用して)、材料の複屈折率の表示(indication)を出力する。
【0029】
上述のように、方法100は、コンピュータ実装され、そのため、機能性および効果的な動作、例えば、構築(101)、整列(102)、設定(103)、分子分極率テンソルの計算(104)、および複屈折率の計算(105)が、一つ以上のデジタルプロセッサによって自動的に実施される。さらに、方法100は、当技術分野で既知の任意のコンピュータ装置(computer device)またはコンピューティング装置(computing devices)の組み合わせを使用して実施することができる。他の例がある中でも特に、方法100は、
図5に関連して以下に記載されるコンピュータシステム550、および
図6に関連して以下に記載されるコンピュータネットワーク環境(computer network environment)660を使用して実施することができる。
【0030】
方法100は、例えば、化合物および分子の混合物など、変化する材料の複屈折率を決定してもよい。方法100の一実施形態では、材料(このために複屈折率がステップ105で決定される)は、液晶混合物、有機分子系材料、有機分子系純粋化合物、または有機分子の混合物である。
【0031】
方法100の一実施形態では、ステップ101で一つ以上の化合物についての一つ以上の三次元構造モデルを構築するステップは、まず材料を形成する一つ以上の化合物についての一つ以上の初期三次元構造モデルを構築するステップを含む。他の例がある中でも特に、実施形態は、ステップ101で、3D分子構造を生成するための3Dビューア(3D viewer)および構築機能(building functionalities)を提供する、既知のソフトウェアプラットフォーム(software platforms)、例えば、BIOVIA(登録商標)Materials Studio(登録商標)を使用して、一つ以上のモデルを構築する。初期モデルを構築した後、こうした実施形態は、コンピュータメモリ内に構築された一つ以上の初期三次元構造モデルに基づいて、立体配座検索を実行し、一つ以上の化合物のそれぞれに対して、配座異性体のそれぞれの三次元構造モデルセットを生成する。次いで、配座異性体のそれぞれ生成された三次元構造モデルセットについて、配座異性体の生成された三次元構造モデルセットから配座異性体のサブセット(subset of conformers)が選択される。最後に、こうした実施形態は、(1)一つ以上の初期三次元構造モデル、および(2)各選択された配座異性体のサブセットに対応する配座異性体の三次元構造モデルを、材料を形成する一つ以上の化合物についての構築された一つ以上の三次元構造モデルとして設定する。
【0032】
前述の実施形態を説明するために、化合物CおよびDが材料を形成する例を考慮する。こうした例示的な実施形態は、最初に初期モデルCおよびDをワーキングメモリ内に構築する。次に、モデルCおよびDを使用して、立体配座検索が行われ、これによって化合物CおよびDの配座異性体のセット、それぞれ[C1、C2、C3]および[D1、D2、D3]ができる。前述のセットから、配座異性体のサブセットが選択され、この例では、C2およびC3は、化合物Cの配座異性体のセットから選択され、D2およびD3は、化合物Dの配座異性体のサブセットから選択される。選択された配座異性体、C2、C3、D2、およびD3、ならびに任意選択で初期モデルCおよびDは、その後、構築された三次元構造モデルとして設定される。このように、こうした実施形態は、ステップ101で、材料を形成する化合物のモデルおよび化合物の配座異性体を構築する。したがって、この例示的な実施形態では、これらのモデルC、C2、C3、D、D2、およびD3が、その後、方法100のその他のステップ、例えば、102、103、および104で使用される。こうした実施形態では、各モデルC、C2、C3、D、D2、およびD3は整列され(ステップ102)、傾斜角が設定され(ステップ103)、次いで分子分極率テンソルが、C、C2、C3、D、D2、およびD3の各整列された傾斜角セットモデル(tilt angle set model)に対して計算される(ステップ104)。分極率テンソルから、対角要素(diagonal elements)を使用して、C、C2、C3、D、D2、およびD3の各整列された傾斜角セットモデルに対する通常の屈折率および異常な屈折率が計算される。計算された通常の屈折率および異常な屈折率は、化合物ごとに別々に平均化される。すなわち、C、C2、C3の通常の屈折率(ordinary indices)の平均(Av_OR_CはセットCの通常の屈折率を平均化)が計算され、C、C2、C3の異常な屈折率(extraordinary indices)の平均(Av_ER_CはセットCの異常な屈折率を平均化)が計算される。またセットD、D2、D3に対しても同じであり、すなわち、平均Av_OR_DはセットDの通常の屈折率を平均化し、平均Av_ER_DはセットDの異常な屈折率を平均化する。個々の立体配座(C、C2、C3およびD、D2、D3)の寄与(contributions)が重み付けされてもよい。通常の屈折率の平均値Av_OR_CおよびAv_OR_Dは、混合物の組成(composition)に従って平均化および/または重み付けされ、Av_OR_mixが得られる。同じことが、平均値Av_ER_CおよびAv_ER_Dで行われ、Av_ER_mixが得られる。次に、複屈折率は、Av_OR_mixとAv_ER_mixとの間の差である。
【0033】
立体配座検索が行われ、配座異性体のサブセットがステップ101で選択される方法100の一実施形態において、配座異性体のサブセットを選択するステップは、低エネルギー配座異性体、中エネルギー配座異性体、および高エネルギー配座異性体を選択するステップを含む。さらに、なおも別の実施形態では、立体配座検索を行うステップは、(1)体系的な立体配座検索を行うステップ、(2)立体配座サンプリングのための分子動力学シミュレーションを行うステップ、および(3)一つ以上の所望の配座異性体を選択するユーザ入力を受け取るステップ、のうちの少なくとも一つを含む。一実施形態では、立体配座サンプリングのための体系的な立体配座検索および分子動力学シミュレーションは、当業者に公知の技術を使用して実施されうる。方法100の一実施形態は、まず、材料の三次元バルク構造モデルを構築するステップによって、立体配座サンプリングのための分子動力学シミュレーションを実施する。第二に、分子動力学シミュレーションは、一つ以上の温度で、構築された三次元バルク構造モデルを使用して、実施される。分子動力学シミュレーションを行うステップは、バルク構造の軌道(trajectory)、すなわち、時間の関数(function of time)として、空間内の分子システム(molecular system)の座標(coordinates)を生成する。軌道から、一つ以上の化合物の個々の分子が選択される。次いで、選択された各個々の分子のそれぞれのエネルギーは、選択された個々の分子の幾何学的最適化に基づいて計算される。各個々の分子の決定されたそれぞれのエネルギーは、統計的に分析され、一つ以上の化合物のそれぞれに対してエネルギー範囲が定義され、一つ以上の化合物の各定義されたエネルギー範囲は、サブレンジビンに分割される。このように、こうした実施形態は、各化合物の個々のエネルギーに基づいて、各化合物の配座異性体を分析する。一つ以上の化合物の配座異性体のそれぞれの各三次元構造モデルのセット中の各配座異性体は、サブレンジビンの所定のエネルギービンに割り当てられる。各サブレンジビン中の配座異性体の数が決定され、各サブレンジビン中の決定された配座異性体の数に基づいて、選択された各配座異性体のサブセットが特定される。例えば、一実施形態では、各サブレンジビン内の配座異性体の数は、重要度の重み付けに使用することができる。例えば、ビン内に多数の配座異性体がある場合、この立体配座は重要であり、選択される。少数の配座異性体を有するサブレンジビンと、多数の配座異性体を有する他のサブレンジビンとが存在する場合、こうした実施形態では、多数の分子を含有するサブレンジビンから立体配座が選択され、その他は選択されないことになる。さらに、こうした実施形態は、選択された各配座異性体のサブセットにおける各配座異性体の重要度を重み付けすることができる。
【0034】
上述のように、ステップ102で、各三次元構造モデルは、分子軸に沿って整列される(102)。一実施形態では、各モデルは、ステップ102で一貫して整列される。一実施形態によれば、分子軸は、三次元構造モデルの慣性モーメント(moment of inertia)の主軸(principal axis)である。
【0035】
一実施形態によれば、ステップ103で、一つ以上の傾斜角を設定するステップは、一つ以上の傾斜角を体系的に変化させるステップ、および分子動力学シミュレーションから一つ以上の傾斜角を自動的に決定するステップ、のうちの少なくとも一つを含む。一実施形態では、体系的な検索は、グリッドスキャン(grid scan)またはボルツマン法(Boltzmann technique)を使用して実施されてもよい。あるいは、ランダムサンプリング(random sampling)が使用できる。傾斜角331の例を
図3に示し、本明細書でさらに後述する。
【0036】
一実施形態では、ステップ103で、整列された三次元構造モデルに対して一つ以上の傾斜角を設定するステップは、一つ以上の化合物から形成される材料のネマティック相構造を構築するステップと、構築されたネマティック相構造を幾何学的に最適化するステップとを含む。例示的なネマティック相構造モデル440を
図4に示し、以下に説明する。次いで、平衡化された幾何学的に最適化されたネマティック相構造の分子動力学シミュレーションが、一つ以上の温度で実施される。こうした実施形態では、一つ以上の温度で平衡化された幾何学的に最適化されたネマティック相構造の分子動力学シミュレーションを実行する結果を分析することによって、各分子の分子軸と空間軸との間の一つ以上の傾斜角が決定される。こうした実施形態の一つでは、一つ以上の傾斜角は、決定された一つ以上の傾斜角を統計的に分析して、傾斜角のサブセットを選択することによって決定される。一実施形態によれば、決定された一つ以上の傾斜角を統計的に分析するステップは、(1)ネマティック相構造に含まれる各化合物について、傾斜角分布を生成するステップ、(2)分子動力学シミュレーションの経時的な各傾斜角分布を平均するステップ、および(3)複数の傾斜角が適用される場合、傾斜角に対する重み付け係数を求めるステップ、のうちの少なくとも一つを含む。
【0037】
方法100の一実施形態では、ステップ104で、整列された三次元構造モデルを、設定された一つ以上の傾斜角と共に使用して、分子分極率テンソルを計算するステップは、整列された三次元構造モデルの幾何学的最適化を、設定された一つ以上の傾斜角を用いて行うステップ、および振動周波数解析を実行して、整列された三次元構造モデルの極小幾何学を、設定された一つ以上の傾斜角を用いて確認するステップのうちの少なくとも一つを含む。
【0038】
計算された分子分極率テンソルに基づいて材料の複屈折率を計算する際に、方法100の一実施形態は、ステップ105で、各計算された分子分極率テンソルについて、計算された分子分極率テンソルから関連成分を選択し、選択された関連成分を使用して、通常の屈折率および異常な屈折率を計算する。一実施形態によれば、関連成分は分極率テンソルの対角要素である。次いで、材料の複屈折率は、各計算された分子分極率テンソルに対して計算された通常の屈折率および異常な屈折率を使用して計算される。
【0039】
ステップ105で、様々な動作が、各分子分極率テンソルに対して計算された通常の屈折率および異常な屈折率を使用して複屈折率を計算することに関与しうる。例えば、方法100の一実施形態は、一つ以上の化合物の立体配座と、設定された一つ以上の傾斜角の一つの傾斜角について複屈折率を計算する。こうした実施形態の一つは、ローレンツ・ローレンツの式、またはノイゲバウアー・ボルデワイク・デ・ジュー(NBJ)方程式などのクラウジウス・モソッティの式の拡張に基づいて、複屈折率を計算する。一つ以上の傾斜角が複数の傾斜角を含む、方法100の別の実施形態では、ステップ105で、複屈折率は、(1)一つ以上の化合物の立体配座および複数の傾斜角、または(2)一つ以上の化合物の複数の立体配座および複数の傾斜角のうちの所定の傾斜角、または(3)一つ以上の化合物の複数の立体配座および複数の傾斜角、について計算される。なお別の実施形態によると、ステップ105で、複屈折率を計算することの一環として、各計算された分子分極率テンソルに対して計算された通常の屈折率および異常な屈折率が平均される。実施形態は、異なる立体配座、傾斜角、および/または化合物(混合物の場合)にわたって指数を平均することができる。
【0040】
なお別の実施形態は、計算された各通常の屈折率および各異常な屈折率の寄与度を重み付けする。一実施形態では、屈折率(indices)(通常の屈折率および異常な屈折率)は、材料に対するそれらの関連する立体配座の寄与度に基づいて重み付けされる。同様に、重み付けは、材料に対する各化合物の寄与度に基づいてもよい。説明のために、材料が同量の化合物Aおよび化合物Bで作製される(例えば、製造業者によって公表されている)場合、AおよびBの屈折率はそれぞれ0.5および0.5で重み付けされる。しかしながら、A、およびAの配座異性体A’が、各々、材料の四分の一を構成する場合(本明細書に記載の技術、例えば、分子動力学シミュレーションの統計分析(statistical analysis)を使用して推定されるとおり)、Aの屈折率には0.25の重みが与えられ、A’の屈折率には0.25の重みが与えられる。
【0041】
方法100の一実施形態は、ステップ101で構築された一つ以上の三次元構造モデルのそれぞれについて、それぞれのアスペクト比を決定する。アスペクト比を決定するための例示的な測定値221aおよび221bを
図2に示し、以下に記載する。一実施形態は、三次元構造モデルの寸法、または三次元構造モデルの剛体コア部分(rigid core parts)の寸法を測定することによってアスペクト比を決定する。寸法は、原子間で測定されることもでき、またはそれぞれのモデルの3D構造に基づいてユーザ定義の楕円体(ellipsoids)から決定されることもできる。こうした実施形態では、各計算された分子分極率テンソルについて、選択された関連成分および決定されたそれぞれのアスペクト比を使用して、通常の屈折率および異常な屈折率が計算される。一実施形態では、材料が異方性である場合、アスペクト比が決定され、通常の屈折率および異常な屈折率を決定するためのアプローチ/方程式で使用される。このようにして、アスペクト比を決定・使用して複屈折率を計算することでは、分子異方性が考慮される。
【0042】
方法100の別の実施形態は、材料の密度を計算する。こうした実施形態の一つは、材料について分子動力学シミュレーションを実行して、軌道を決定し、軌道を分析する、および/または機械学習ベースの分析を実行して、材料の密度を予測する。決定された密度はまた、温度依存性密度(temperature dependent density)であってもよい。一実施形態によれば、決定された密度は、屈折率を計算するために方程式(equations)で使用される。
【0043】
方法100の実施形態は、決定された複屈折率を使用して、および/またはそれらに基づいて、追加の分析および現実世界の行動を実行してもよい。例えば、一実施形態は、他の特性がある中でも特に、決定された複屈折率を使用して、現実世界のシナリオにおける材料の使用のシミュレーションを行う。他の例がある中でも特に、シミュレーションは、現実世界のユースケースにおける材料の挙動を決定しうる。シミュレーションは、特定のユースケース(例えば、電話画面(phone screen)として)における材料の効率および動作を決定してもよい。シミュレーション(およびその結果)に基づいて、別の実施形態は、材料を使用する現実世界の物体のための設計を決定する。一実施形態によれば、現実世界の物体は、他の例がある中でも特に、光学表示装置、フィルタ、フィルム、コーティング、またはレンズである。
【0044】
方法100の実施形態はまた、材料の変更、例えば、材料の構造および/または組成物を決定するためのシミュレーションを実施してもよい。これらの変更は、パラメータ/要件を満たす材料が識別されるまで、特性を変化させながら材料について方法100を繰り返すことによって特定されてもよい。さらに、材料および基礎組成物に対する変更は、方法100の実施形態を使用して、仮想的に試験してもよい。
【0045】
方法100の別の実施形態は、構築するステップ101、整列させるステップ102、設定するステップ103、分子分極率テンソルを計算するステップ104、複屈折率を計算するステップ105、および複数の候補材料のそれぞれについてシミュレーションをするステップ、を繰り返す。次に、シミュレーションの結果に基づいて、こうした実施形態は、候補材料の中から所定の材料を選択する。このようにして、こうした実施形態は、現実世界の用途(例えば、電話画面など)のための複数の候補材料で始まり、選択された所定の材料が要件を満たすことを示すシミュレーションの結果に基づいて、候補の中から所定の材料を選択してもよい。
【0046】
方法100の実施形態は、分子モデリングプラットフォーム(molecule modeling platforms)、例えば、BIOVIA(登録商標)Materials Studio(登録商標)のファイル形式/構造を使用して、方法100によって決定/使用される様々なモデルおよび値、例えば、三次元モデル、傾斜角、重み、分子分極率テンソル、複屈折率、および本明細書に記載される他の任意のデータに格納してもよい。方法100の一実施形態は、傾斜角および分子軸の整列データを原子位置(atomic positions)の座標に格納する。原子座標(atomic coordinates)は、異なるファイル形式で、例えば、BIOVIA(登録商標)で利用可能なフォーマットを使用して保存することができる。実施形態では、これらのファイル形式/構造にアクセスして、本明細書に記載される機能性の実施に使用されるデータを取得することができる。
【0047】
[分子構造]
実施形態は、分析される材料の分子構造、すなわち、複屈折率が計算される材料を決定する。分子構造を決定することは、多数の機能性を含んでもよい。
【0048】
一実施形態は、まず、関連する化合物、すなわち、材料を形成する化合物の三次元(3D)原子論的構造(atomistic structures)、すなわちモデルを構築する。他の例がある中でも特に、こうした機能性は、方法100のステップ101で実施されてもよい。次いで、一実施形態は、各化合物について立体配座検索を実施する。立体配座検索を行うことは、分子異方性を考慮し、アスペクト比を決定することに関連し、これは、一実施形態では、クラウジウス・モソッティの式の拡張に基づいて屈折率を計算する際に使用される(例えば、化学物理ジャーナル、2005年、123巻、134904を参照のこと)。
図2は、一実施形態による、構築された原子論的構造220の例を示す。構造220は、立体配座検索から得られた例示的な構造、およびアスペクト比を決定するための測定値221aおよび221bを図示する。
【0049】
実施形態は、一つの技術または技術の組み合わせを使用して、立体配座検索を実行してもよい。例えば、一実施形態は、各化合物の配座異性体を識別するために、体系的な立体配座検索を実施してもよい。あるいは、分子動力学(MD)シミュレーションを使用した立体配座サンプリングを実施することができる。追加の特性は、MDシミュレーションからも取得することができる。前記特性に関するさらなる詳細を、以下に記載する。MDシミュレーションが、立体配座サンプリングに使用される場合、最終的な軌道が分析される。これには、個々の分子の選択および幾何学的最適化が含まれる。統計分析を実施して、例えば、特定のエネルギー範囲内にあるなど、同じ立体配座を有する分子の数が決定されてもよい。この情報は、異なる立体配座の重要度を重み付けするために使用されてもよい。立体配座検索の第三の可能性は、ユーザが、十分に異なる別個の立体配座を手動で生成することである。立体配座検索を行った後、一実施形態は、各化合物の低エネルギー、中エネルギー、および高エネルギーの配座異性体を選択する。
【0050】
立体配座検索の後、構造は一方向に沿って整列する。こうした実施形態は、分子軸に沿った理想的な整列を伴う構造を生成する。構造は、3D分子モデリング視覚化ソフトウェア(3D molecular modeling visualization software)を使用して整列させることができる。例示的な実施形態では、BIOVIA(登録商標)Materials Studio(登録商標)機能が、(1)左から右、(2)垂直、および(3)YZ平面の整列手順に使用される。前述の整列手順は、実施形態で使用され得る他の可能性のある手順の中でも、一つの例示的な手順である。実施形態で使用される整列手順は、モデルを一貫して扱い、通常の屈折率および異常な屈折率を計算するために分極率テンソルの正しい対角要素を選択しうる。
【0051】
無秩序(disorder)および温度の影響を考慮に入れるために、一実施形態は、傾斜した配向(tilted orientations)を有する追加の構造を作り出す。一実施形態によれば、これらの追加構造における傾斜角は、例えば、屈折率を計算するために、NBJ方程式(例えば、化学物理ジャーナル、2005年、123巻、134904を参照のこと)を使用する時に使用される秩序パラメータの計算に適切である。傾斜角が不明である場合、一実施形態は、傾斜角を系統的に変化させる。別の実施形態では、傾斜角は、以下に記載されるMDシミュレーションに基づいて決定される。
図3は、一実施形態による化合物330について決定された傾斜角331の例を示す。
【0052】
[分極率テンソルの計算]
構造を作製するステップ、立体配座検索を実施するステップ、構造を整列させるステップ、傾斜角を決定するステップの後に、実施形態は分極率テンソルを計算するステップによって続行される。
【0053】
分極率テンソルを計算するステップは、各構造の幾何学的最適化を実行するステップから開始される。幾何学的最適化は、Turbomole、DMol3、または当技術分野で公知のその他のソフトウェアプラットフォームに実装されるように、密度汎関数理論の方法または当技術分野で公知の他の第一原理の方法を利用してもよい。実施形態はまた、振動周波数計算(vibrational frequency calculations)を行って、極小幾何学を確認してもよい。
【0054】
各構造を幾何学的に最適化した後、一実施形態は、分子分極率テンソルを計算し、分極率テンソルの関連成分を選択して、分子軸に沿った、例えば、ローレンツ・ローレンツの式(例えば、化学物理ジャーナル、2005年、123巻、134904)を使用して、またはNBJ方程式(化学物理ジャーナル、2005年、123巻、134904)を使用して、通常の屈折率および異常な屈折率を計算する。
【0055】
ローレンツ・ローレンツの式は、次式により与えられる。すなわち、
【0056】
【0057】
式中、nは屈折率、ρは密度、NAはアボガドロ数(Avogadro number)、αは分子分極率、Mは相対モル質量(relative molar mass)、ε0は真空誘電率(vacuum permittivity)、iおよびjはデカルト座標系におけるx軸、y軸、およびz軸である。
【0058】
前述のローレンツ・ローレンツの式は、次式に変換できる。すなわち、
【0059】
【0060】
式中、
【0061】
【0062】
【0063】
は、分極率テンソル(y方向に沿ったアライメント)から取得できる。すなわち、
【0064】
【0065】
および
【0066】
【0067】
ローレンツ・ローレンツの式については、密度が既知である必要がある。実施形態では、密度は、文献(literature)から取得するか、または以下にさらに説明する、BIOVIA(登録商標)Materials Studio(登録商標)の分子動力学エンジン(molecular dynamics engine)であるForciteを用いるなど、ソフトウェアプラットフォームを使用して実装された分子動力学シミュレーションを使用して計算することができる。他の分子動力学シミュレーションエンジン(molecular dynamics simulation engines)またはソフトウェアが好適である。
【0068】
異常な屈折率および通常の屈折率が計算されると、複数の立体配座および配向(orientations)がある場合、各立体配座および配向に対する異常な屈折率および通常の屈折率が平均化される。混合物の場合、寄与度は、混合物の組成物に従って重み付けされる。さらに、NBJアプローチを適用するとき、実施形態はアスペクト比を決定する。実施形態は、アスペクト比を推定するために、異なる技術を用いることができる。そのような実施形態の一つは、分子の剛体部分の分子寸法を、分子軸に沿って、およびそれに垂直に測定することによって、アスペクト比を手作業で決定する。別の実施形態は、Materials Studio(登録商標)、または他のそのようなシミュレーションソフトウェア(simulation software)で運動群(motion groups)を定義し、これらの運動群の寸法を決定することによって、アスペクト比を決定する。別の実施形態には、材料のネマティック相構造の分子動力学シミュレーションが関与する。運動群は、バルク構造の個々の分子に割り当てられる。幾何学的最適化の後に、一つ以上の温度での分子動力学シミュレーションを実施して、バルクモデルを平衡化する。次に、運動群の寸法が分析される。解析には、シミュレーション時間(simulation time)に対する平均化および/または立体配座に対する平均化を伴いうる。
【0069】
アスペクト比を決定するステップの後に、複屈折率が決定される。
【0070】
[MDシミュレーションからのアスペクト比、密度、および傾斜角の決定]
上述のように、実施形態は、MDシミュレーションを実施して、分析中の材料の特性を決定しうる。他の例がある中でも特に、これらのMDシミュレーションは、傾斜角およびアスペクト比を決定するのに使用されてもよい。
【0071】
一実施形態では、MDシミュレーションを実施するステップは、コンピュータシミュレーションソフトウェアを使用して、純粋化合物または混合物のネマティック相を構築するステップから始まる。例示的な実施形態は、BIOVIA(登録商標)Materials Studio(登録商標)機能を利用して、例えば、ネマティック相における材料のモデルなどのネマティック相を構築する。
【0072】
一実施形態によれば、ネマティック相を構築するステップは、構成要素、すなわち、材料の化合物の分子構造を構築するステップを含む。次に、各構成要素に対してメソゲン基(Mesogen group)が定義され、存在する場合、分子の剛体コアが選択される。次に、運動群が作成され、アスペクト比を決定するために割り当てられ、各構成要素のサブセットが定義される。次に、コンピュータシミュレーションソフトウェア(computer simulation software)、例えば、BIOVIA(登録商標)Materials Studio(登録商標)Amorphous Cellは、定義されたメソゲン基および作成/割り当てられた運動群を用いて構造を使用して、ネマティック相を構築する。
図4は、材料のネマティック相440を示す分子動力学シミュレーションのスナップショット(snapshot)である。
【0073】
次いで、構築されたネマティック相は、シミュレーションソフトウェア、例えば、Materials Studio(登録商標)Forciteを使用して、対象の温度で平衡化される。次に、平衡シミュレーションが、NVT(すなわち、シミュレーション中は、シミュレーション粒子数(number of simulated particles)(N)、シミュレーションセルのセル体積(cell volume)(V)、および温度(T)が一定である)およびNPT(すなわち、シミュレーション中は、シミュレーション粒子数(N)、圧力(P)および温度(T)が一定である)全体で実行される。次いで、実施形態は、平衡化された構造の軌道および特性を分析する。一実施形態によれば、この分析は、NPT平衡後の密度を評価するステップを含む。一実施形態では、これは、MDシミュレーション、例えば、Materials Studio(登録商標)を実施するために使用されるコンピュータベースのシミュレーションソフトウェアを介して利用可能な分析機能(number of simulated particles)を介して直接アクセス可能である。
【0074】
例示的な実施形態では、MDシミュレーションが、立体配座サンプリングに使用される場合、実施形態は、上記に記載されるように、(1)個々の分子を選択するステップ、(2)配座異性体を幾何学的に最適化するステップ、(3)各分子種に対してエネルギー範囲を定義するステップ、(4)各幾何学的最適化された配座異性体をエネルギービンに割り当てるステップ、(5)ヒストグラム分析を行うステップ、すなわち、各ビン内の配座異性体の数をカウントするステップ、(6)この情報を使用して、立体配座の重要度を重み付けするステップ、および(7)分極率テンソルを計算するために立体配座を選択するステップ、によって進行する。
【0075】
次いで、こうしたMDシミュレーションベースの実施形態は、経時的な平均化および分子数によって、それぞれの種の傾斜角を決定する。MDシミュレーションを実施するために使用されるソフトウェア、例えば、Materials Studio(登録商標)では、距離モニター(distance monitors)を定義することができる。これらの定義された距離モニターを使用して、分子軸と空間軸との間の角度、すなわち
図3に示すような傾斜角331を計算することができる。決定された傾斜角は、経時的に平均されてもよい。さらに、ヒストグラム(histogram)または傾斜角分布が生成されてもよい。複数の傾斜角が存在する場合、この情報を使用して、一般的な傾斜角を特定することができる。さらに、複数の傾斜角が使用される場合、分布が異なる傾斜角の重要度を重み付けするために使用されうる。
【0076】
実施形態では、実験データは、計算した特性、例えば、密度の代わりに、または計算した特性に加えて、使用され得ることが注記される。さらに、機械学習ベースのモデルが、分子の剛体部分、密度、および/または異常な屈折率および通常の屈折率の計算に必要なその他の関連する特性を予測するために開発されてもよい。
【0077】
[利点]
実施形態は、純粋および混合有機液晶(pure and mixed organic liquid crystals)の複屈折率を予測する方法を提供する。経験による推測または実験データ(多くの場合、非純粋化合物については取得できない)に依存する本明細書に記述される既存のアプローチとは異なり、実施形態は、複屈折率を自動的に決定する方法を提供する。さらに、既存の方法は、純粋化合物を選択することに限定され、実施形態にはそのような制限がない。実施形態は、分極率、光学特性(optical properties)、例えば、液体材料(liquid materials)の複屈折率、および関連する化合物を予測できる自動ワークフロー(automatic workflow)を提供する。他の例がある中でも特に、実施形態によって決定される複屈折率は、仮想現実および電子デバイスの表示に使用することができる。
【0078】
実施形態は、混合物における温度および無秩序効果(disorder effects)、ならびに分子間影響(intermolecular influences)を考慮することができる。ユーザ入力は最小限で済む。実験データは必要ない(ただし、実験データは、精度を改善するために組み込むことができる)。実施形態は、完全に自動化されてもよく、したがって、ユーザ体験を大幅に改善する。実施形態は、特に、製品設計パラメータの迅速かつ合理的な探索のための効率的な方法を提供するが、液体表示材料(liquid display materials)には限定されない。実施形態はまた、他のワークフロー、および既存のコンピュータベースの設計、およびコンピュータベースのエンジニアリング用途およびプラットフォーム上で使用することができる。
【0079】
実施形態は、現実世界の材料の特性のより良い予測を生成するコンピュータ技術に由来する、技術的に新規の非日常的なソリューションを提供する。その結果、製造の時間/コストの改善をもたらす。
【0080】
材料の設計者は、多くの場合、特定のユースケースまたはユーザ用途に対して、材料に特定の材料特性があることを予期する。材料設計に対するエジソン的アプローチ(Edisonian approach)は、多くの場合、最適な選択にはならず、より長い開発サイクルおよび資源の無駄につながる。対照的に、実施形態は、主要な材料特性のコンピュータシミュレーションで使用され、候補材料のプール(pool)から所望のユーザ用途により適した材料を特定することができる。より良い材料を、例えば、材料設計者などのユーザに提示することができる。
【0081】
一部の実施例では、実施形態は、材料または材料の混合物の光学特性を予測する方法論(methodology)を使用して、仮想的な実装(すなわち、シミュレーションまたはモデリングからのデータ)を識別する。非限定的な例示的な実施形態は、様々な構成要素に封入された第一原理の方法からの情報を使用して、所望の材料特性、例えば、材料の屈折率のシミュレーションのための明示的な指示を提供する。有利なことに、実施形態は、(1)第一原理のシミュレーション技法(first principles simulation techniques)に完全に基づき、(2)実験データが存在しない場合に適用され、および(3)自動化することができる。
【0082】
一実施形態は、現実世界の用途、例えば、電話表示装置(phone display)としての使用のための材料の選択を最適化することができ、このように、実施形態は、現実世界の電話表示装置およびその製造を改善することができる。例えば、新しい電話を設計するユーザは、候補材料が、例えば、既存の材料と比較して製造工程で操作しやすく、製造要件を満たす特性を有する3つの候補材料を、電話表示装置用に識別する場合がある。しかしながら、こうしたユーザは、候補材料が表示性能要件を満たす特性を有するかどうかを知らない可能性がある。実施形態は、これらの材料の各々の複屈折率を決定することによって、この問題を解決する。次いで、表示性能要件を満たす所定の材料が選択され、選択された材料が電話の製造に使用される。このように、表示性能および製造可能性の両方を改善する材料が選択される。
【0083】
[コンピュータサポート]
実施形態は、例えば、Pythonスクリプト(Python script)として、完全に自動化することができる。さらに、実施形態は、既存のソフトウェア、およびコンピュータ支援設計(computer-aided design)、およびコンピュータ支援工学プラットフォーム(computer-aided engineering platforms)に実装することができる。例えば、実施形態は、3DS BIOVIA(登録商標)ソフトウェアの特徴と機能を使用して実施することができる。
【0084】
図5は、本明細書に記載の本発明の任意の様々な実施形態による、材料の複屈折率を計算するために使用され得る、コンピュータベースのシステム550の簡略ブロック図である。システム550は、バス553を含む。バス553は、システム550の様々な構成要素間の相互接続(interconnect)として機能する。バス553に接続されているのは、キーボード、マウス、タッチスクリーン、ディスプレイ、スピーカーなどの様々な入出力装置をシステム550に接続するための、入力/出力デバイスインターフェース(input/output device interface)556である。中央処理装置(CPU)552は、バス553に接続され、コンピュータ命令の実行を提供する。メモリ555は、コンピュータ命令を実行するために使用されるデータの揮発性記憶装置(volatile storage)を提供する。記憶装置554は、オペレーティングシステム(図示せず)など、ソフトウェア命令(software instructions)のための不揮発性記憶装置(non-volatile storage)を提供する。システム550はまた、ワイドエリアネットワーク(WAN)およびローカルエリアネットワーク(LAN)を含む、当該技術分野で知られる任意の様々なネットワークに接続するためのネットワークインターフェース(network interface)551を備える。
【0085】
本明細書に記載の例示的な実施形態は、多くの異なる方法で実装され得ることが理解されるべきである。いくつかの例では、本明細書に記載の様々な方法および機械は、各々、コンピュータシステム550など、物理的、仮想的、もしくはハイブリッドな汎用コンピュータ(hybrid general purpose computer)、または
図6に関連して本明細書の以下に記載する、コンピュータ環境660などのコンピュータネットワーク環境によって実装されてもよい。コンピュータシステム550は、例えば、CPU552による実行のために、メモリ555または不揮発性記憶装置554のいずれかに方法100を実施するソフトウェア命令をロードすることによって、本明細書に記載の方法を実行する機械に変換されてもよい。当業者は、システム550およびその様々な構成要素が、本明細書に記載される任意の実施形態または実施形態の組み合わせを実行するように構成されてもよいことをさらに理解するべきである。さらに、システム550は、動作可能に内部的または外部的にシステム550へ連結された、ハードウェア、ソフトウェア、およびファームウェアモジュールの任意の組み合わせを利用して、本明細書に記載の様々な実施形態を実装してもよい。
【0086】
図6は、本発明の一実施形態を実施し得る、コンピュータネットワーク環境660を示す。コンピュータネットワーク環境660では、サーバ661は、通信ネットワーク(communications network)662を介して、クライアント633a~nにリンクされる。環境660を使用して、クライアント633a~nが、単独またはサーバ661と組み合わせて、本明細書に記載される実施形態のいずれかを実行することが可能になり得る。非限定的な例では、コンピュータネットワーク環境660によって、クラウドコンピューティング(cloud computing)の実施形態、サービスとしてのソフトウェア(SAAS)の実施形態などを提供する。
【0087】
実施形態またはその態様は、ハードウェア、ファームウェア、またはソフトウェアの形態で実装することができる。ソフトウェアで実装された場合、ソフトウェアは、プロセッサが、ソフトウェアまたはその命令のサブセットをロードすることが可能になるように構成されている、任意の非一時的コンピュータ可読媒体(non-transient computer readable medium)上に格納されてもよい。次いで、プロセッサは、命令を実行して、本明細書に記載された様態で動作する、または装置を動作させるように構成される。
【0088】
さらに、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、または命令は、データプロセッサ(data processors)の特定の動作および/または機能を実行するものとして、本明細書に記載され得る。しかし、当然のことながら、本明細書に含まれるこうした記載は、単に便宜のためであり、かつ、実際には、こうした動作は、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令などを実行するコンピュータデバイス、プロセッサ、コントローラ、または他のデバイスからもたらされる。
【0089】
フロー図、ブロック図、およびネットワーク図は、より多いもしくは少ない要素を含んでもよく、異なって配置されてもよく、または異なって表現されてもよいことを理解するべきである。しかしさらに、特定の実装形態では、実施形態の実行を例解するブロック図およびネットワーク図、ならびに数枚のブロック図およびネットワーク図を特定の方法で実装することを指示する場合があることを理解するべきである。
【0090】
それに応じて、さらなる実施形態はまた、様々なコンピュータアーキテクチャ、物理的、仮想的、クラウドコンピュータ、および/またはそれらのいくつかの組み合わせに実装されてもよく、したがって、本明細書に記載のデータプロセッサは、例解の目的で意図されているに過ぎず、実施形態の限定として意図されるものではない。
【0091】
本明細書で引用されるすべての特許、公表された出願、および参考文献の教示は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0092】
例示的な実施形態が特に示され、説明されているが、当業者には、添付の特許請求の範囲に包含される実施形態の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更が行なわれ得ることが理解されるであろう。