(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】車両用灯具の制御装置、車両用灯具システムおよび車両用灯具の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/115 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
B60Q1/115
(21)【出願番号】P 2023137863
(22)【出願日】2023-08-28
(62)【分割の表示】P 2021526024の分割
【原出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2019111344
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019111346
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】石上 健太
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳
(72)【発明者】
【氏名】長田 尚己
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-030782(JP,A)
【文献】特開2014-104787(JP,A)
【文献】特開2012-101624(JP,A)
【文献】特開2017-001613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な傾斜センサの出力値を示す信号を受信する受信部と、
車両停止中の前記傾斜角度の変化に対して車両用灯具の光軸角度の調節を指示する調節信号を出力し、車両走行中の前記傾斜角度の変化に対して前記調節信号の生成または出力を回避するか、前記光軸角度の維持を指示する維持信号を出力する制御部と、
イグニッションスイッチがオフ状態にある間に車両の移動があったことを判定する移動判定部と、を備え、
前記制御部は、前記移動判定部が移動なしと判定した場合に、イグニッションスイッチがオフ状態にある間の前記傾斜角度の変化に対して前記調節信号を出力し、前記移動判定部が移動ありと判定した場合に、イグニッションスイッチがオフ状態にある間の前記傾斜角度の変化に対して前記調節信号の生成または出力を回避するか、前記維持信号を出力することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
水平面に対する車両の傾斜角度を合計角度と呼ぶとき、この合計角度には水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度と路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度とが含まれ、
前記制御部は、前記路面角度の基準値および前記車両姿勢角度の基準値を揮発的に保持し、
車両停止中の前記合計角度の変化に対して、車両停止中の前記合計角度の変化量と前記車両姿勢角度の基準値との合計に等しい車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持し、
車両走行中の前記合計角度の変化に対して、車両走行中の前記合計角度の変化量と前記路面角度の基準値との合計に等しい路面角度を新たな路面角度の基準値として保持する請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項3】
前記車両用灯具の制御装置は、イグニッションスイッチがオフ状態に移行する際に前記制御部が保持している前記路面角度の基準値および前記車両姿勢角度の基準値を不揮発的に記憶するための記憶部を備え、
前記制御部は、イグニッションスイッチがオン状態に移行すると、
前記移動判定部が移動ありと判定した場合は、現在の前記合計角度と前記記憶部から読み出した前記車両姿勢角度の基準値とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持し、
前記移動判定部が移動なしと判定した場合は、現在の前記合計角度と前記記憶部から読み出した前記路面角度の基準値とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持する請求項2に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項4】
前記車両用灯具の制御装置は、イグニッションスイッチがオフ状態に移行する際に前記制御部が保持している前記車両姿勢角度の基準値およびイグニッションスイッチがオフ状態に移行する際の合計角度を不揮発的に記憶するための記憶部を備え、
前記制御部は、イグニッションスイッチがオン状態に移行すると、
前記移動判定部が移動ありと判定した場合は、現在の前記合計角度と前記記憶部から読み出した前記車両姿勢角度の基準値とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持し、
前記移動判定部が移動なしと判定した場合は、現在の前記合計角度および前記記憶部から読み出した前記合計角度の差分と前記記憶部から読み出した前記車両姿勢角度の基準値とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持し、現在の前記合計角度と算出した前記車両姿勢角度とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持する請求項2に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項5】
前記車両用灯具の制御装置は、イグニッションスイッチがオフ状態に移行する際に前記制御部が保持している前記路面角度の基準値およびイグニッションスイッチがオフ状態に移行する際の合計角度を不揮発的に記憶するための記憶部を備え、
前記制御部は、イグニッションスイッチがオン状態に移行すると、
前記移動判定部が移動ありと判定した場合は、現在の前記合計角度および前記記憶部から読み出した前記合計角度の差分と前記記憶部から読み出した前記路面角度の基準値とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持し、現在の前記合計角度と算出した前記路面角度とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持し、
前記移動判定部が移動なしと判定した場合は、現在の前記合計角度と前記記憶部から読み出した前記路面角度の基準値とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持する請求項2に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項6】
前記車両用灯具の制御装置は、イグニッションスイッチがオフ状態に移行する際に前記制御部が保持している前記路面角度の基準値および前記車両姿勢角度の基準値、ならびにイグニッションスイッチがオフ状態に移行する際の合計角度を不揮発的に記憶するための記憶部を備え、
前記制御部は、イグニッションスイッチがオン状態に移行すると、
前記移動判定部が移動ありと判定した場合は、現在の前記合計角度および前記記憶部から読み出した前記合計角度の差分と前記記憶部から読み出した前記路面角度の基準値とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持し、
前記移動判定部が移動なしと判定した場合は、現在の前記合計角度および前記記憶部から読み出した前記合計角度の差分と前記記憶部から読み出した前記車両姿勢角度の基準値とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持する請求項2に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項7】
前記移動判定部は、車両の位置情報、車両が市場にあるか工場にあるかを識別する信号、および車両周囲のオブジェクトに関する情報のいずれか1つ以上に基づいて、イグニッションスイッチがオフ状態にある間に車両の移動があったことを判定する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項8】
光軸を調節可能な車両用灯具と、
水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な傾斜センサと、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の車両用灯具の制御装置と、
を備えることを特徴とする車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具の制御装置、車両用灯具システムおよび車両用灯具の制御方法に関する。特に本発明は、自動車などに用いられる車両用灯具の制御装置、車両用灯具システムおよび車両用灯具の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の傾斜角度に応じて車両用前照灯の光軸位置を自動的に調節して、前照灯の照射方向を変化させるオートレベリング制御が知られている。一般にオートレベリング制御では、車高センサの出力値から導出される車両のピッチ角度に基づいて前照灯の光軸位置が調節されていた。これに対し、特許文献1には、加速度センサを用いてオートレベリング制御を実施する車両用灯具の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加速度センサを用いた場合、車高センサを用いた場合に比べてオートレベリングシステムをより安価にすることができ、また軽量化を図ることもできる。その結果、車両の低コスト化および軽量化を図ることができる。一方で、加速度センサを用いる場合であっても、オートレベリング制御の精度をより高めたいという要求は常にある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、車両用灯具のオートレベリング制御の精度を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、第1周波数で振動する振動発生源が搭載される車両用灯具における光軸角度の調節を制御する車両用灯具の制御装置である。この制御装置は、車両用灯具に搭載されるとともに、第1周波数の非整数倍の第2周波数で加速度をサンプリングするよう設定された加速度センサと、加速度センサの出力値を示す信号を受信する受信部と、加速度センサの出力値に基づいて車両用灯具の光軸角度を調節する制御を実行する制御部と、を備える。
【0007】
本発明の他の態様は、車両用灯具システムである。この車両用灯具システムは、光軸を調節可能な車両用灯具と、上記いずれかの態様の車両用灯具の制御装置と、を備える。
【0008】
本発明の他の態様は、第1周波数で振動する振動発生源が搭載される車両用灯具における光軸角度の調節を制御する車両用灯具の制御方法である。この制御方法は、車両用灯具に搭載される加速度センサによって第1周波数の非整数倍の第2周波数で加速度をサンプリングするステップと、サンプリングした加速度に基づいて車両用灯具の光軸角度を調節するステップと、を含む。
【0009】
本発明の他の態様は、車両用灯具の制御装置である。この制御装置は、水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な傾斜センサの出力値を示す信号を受信する受信部と、車両停止中の傾斜角度の変化に対して車両用灯具の光軸角度の調節を指示する調節信号を出力し、車両走行中の傾斜角度の変化に対して調節信号の生成または出力を回避するか、光軸角度の維持を指示する維持信号を出力する制御部と、イグニッションスイッチがオフ状態にある間に車両の移動があったことを判定する移動判定部と、を備える。制御部は、移動判定部が移動なしと判定した場合に、イグニッションスイッチがオフ状態にある間の傾斜角度の変化に対して調節信号を出力し、移動判定部が移動ありと判定した場合に、イグニッションスイッチがオフ状態にある間の傾斜角度の変化に対して調節信号の生成または出力を回避するか、維持信号を出力する。
【0010】
本発明の他の態様は、車両用灯具システムである。この車両用灯具システムは、光軸を調節可能な車両用灯具と、水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な傾斜センサと、上記いずれかの態様の車両用灯具の制御装置と、を備える。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両用灯具のオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1に係る車両用灯具の鉛直断面図である。
【
図2】車両用灯具、レベリングECUおよび車両制御ECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。
【
図3】車両に生じる加速度ベクトルと加速度センサで検出可能な車両の傾斜角度とを説明するための模式図である。
【
図4】加速度センサのサンプリング周波数と振動発生源の振動周波数との関係を示す図である。
【
図5】実施の形態1に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御の一例を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態2に係る車両用灯具の鉛直断面図である。
【
図7】車両用灯具、レベリングECUおよび車両制御ECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。
【
図8】車両に生じる加速度ベクトルと傾斜センサで検出可能な車両の傾斜角度とを説明するための模式図である。
【
図9】
図9(A)および
図9(B)は、車両の運動加速度ベクトルの方向と車両姿勢角度との関係を説明するための模式図である。
【
図10】車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度との関係を示すグラフである。
【
図11】実施の形態2に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御の一例を示すフローチャートである。
【
図12】実施の形態2に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のある態様は、第1周波数で振動する振動発生源が搭載される車両用灯具における光軸角度の調節を制御する車両用灯具の制御装置である。この制御装置は、車両用灯具に搭載されるとともに、第1周波数の非整数倍の第2周波数で加速度をサンプリングするよう設定された加速度センサと、加速度センサの出力値を示す信号を受信する受信部と、加速度センサの出力値に基づいて車両用灯具の光軸角度を調節する制御を実行する制御部と、を備える。
【0015】
上記態様において、振動発生源は、車両用灯具に搭載される発熱部材を冷却するためのファンであってもよい。また、上記いずれかの態様において、振動発生源は、光源から出射する光を反射しながら回転軸を中心に回転する回転リフレクタであってもよい。また、上記いずれかの態様において、加速度センサの出力値からは、水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度、および路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度を含む、水平面に対する車両の傾斜角度である合計角度を導出可能であり、制御部は、路面角度の基準値および車両姿勢角度の基準値を保持し、車両停止中の合計角度の変化に対して、光軸角度の調節を指示する調節信号を出力するとともに、車両停止中の合計角度の変化量と車両姿勢角度の基準値との合計に等しい車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持し、車両走行中の合計角度の変化に対して、調節信号の生成または出力を回避するか、光軸角度の維持を指示する維持信号を出力するとともに、車両走行中の合計角度の変化量と路面角度の基準値との合計に等しい路面角度を新たな路面角度の基準値として保持する制御を実行してもよい。
【0016】
本発明の他の態様は、車両用灯具システムである。この車両用灯具システムは、光軸を調節可能な車両用灯具と、上記いずれかの態様の車両用灯具の制御装置と、を備える。
【0017】
本発明の他の態様は、第1周波数で振動する振動発生源が搭載される車両用灯具における光軸角度の調節を制御する車両用灯具の制御方法である。この制御方法は、車両用灯具に搭載される加速度センサによって第1周波数の非整数倍の第2周波数で加速度をサンプリングするステップと、サンプリングした加速度に基づいて車両用灯具の光軸角度を調節するステップと、を含む。
【0018】
本発明の他の態様は、車両用灯具の制御装置である。この制御装置は、水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な傾斜センサの出力値を示す信号を受信する受信部と、車両停止中の傾斜角度の変化に対して車両用灯具の光軸角度の調節を指示する調節信号を出力し、車両走行中の傾斜角度の変化に対して調節信号の生成または出力を回避するか、光軸角度の維持を指示する維持信号を出力する制御部と、イグニッションスイッチがオフ状態にある間に車両の移動があったことを判定する移動判定部と、を備える。制御部は、移動判定部が移動なしと判定した場合に、イグニッションスイッチがオフ状態にある間の傾斜角度の変化に対して調節信号を出力し、移動判定部が移動ありと判定した場合に、イグニッションスイッチがオフ状態にある間の傾斜角度の変化に対して調節信号の生成または出力を回避するか、維持信号を出力する。
【0019】
上記態様において、水平面に対する車両の傾斜角度を合計角度と呼ぶとき、この合計角度には水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度と路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度とが含まれ、制御部は、路面角度の基準値および車両姿勢角度の基準値を揮発的に保持し、車両停止中の合計角度の変化に対して、車両停止中の合計角度の変化量と車両姿勢角度の基準値との合計に等しい車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持し、車両走行中の合計角度の変化に対して、車両走行中の合計角度の変化量と路面角度の基準値との合計に等しい路面角度を新たな路面角度の基準値として保持してもよい。
【0020】
また、上記態様において、車両用灯具の制御装置は、イグニッションスイッチがオフ状態に移行する際に制御部が保持している路面角度の基準値および車両姿勢角度の基準値を不揮発的に記憶するための記憶部を備え、制御部は、イグニッションスイッチがオン状態に移行すると、移動判定部が移動ありと判定した場合は、現在の合計角度と記憶部から読み出した車両姿勢角度の基準値とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持し、移動判定部が移動なしと判定した場合は、現在の合計角度と記憶部から読み出した路面角度の基準値とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持してもよい。
【0021】
また、上記態様において、車両用灯具の制御装置は、イグニッションスイッチがオフ状態に移行する際に制御部が保持している車両姿勢角度の基準値およびイグニッションスイッチがオフ状態に移行する際の合計角度を不揮発的に記憶するための記憶部を備え、制御部は、イグニッションスイッチがオン状態に移行すると、移動判定部が移動ありと判定した場合は、現在の合計角度と記憶部から読み出した車両姿勢角度の基準値とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持し、移動判定部が移動なしと判定した場合は、現在の合計角度および記憶部から読み出した合計角度の差分と記憶部から読み出した車両姿勢角度の基準値とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持し、現在の合計角度と算出した車両姿勢角度とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持してもよい。
【0022】
また、上記態様において、車両用灯具の制御装置は、イグニッションスイッチがオフ状態に移行する際に制御部が保持している路面角度の基準値およびイグニッションスイッチがオフ状態に移行する際の合計角度を不揮発的に記憶するための記憶部を備え、制御部は、イグニッションスイッチがオン状態に移行すると、移動判定部が移動ありと判定した場合は、現在の合計角度および記憶部から読み出した合計角度の差分と記憶部から読み出した路面角度の基準値とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持し、現在の合計角度と算出した路面角度とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持し、移動判定部が移動なしと判定した場合は、現在の合計角度と記憶部から読み出した路面角度の基準値とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持してもよい。
【0023】
また、上記態様において、車両用灯具の制御装置は、イグニッションスイッチがオフ状態に移行する際に制御部が保持している路面角度の基準値および車両姿勢角度の基準値、ならびにイグニッションスイッチがオフ状態に移行する際の合計角度を不揮発的に記憶するための記憶部を備え、制御部は、イグニッションスイッチがオン状態に移行すると、移動判定部が移動ありと判定した場合は、現在の合計角度および記憶部から読み出した合計角度の差分と記憶部から読み出した路面角度の基準値とから得られる路面角度を新たな路面角度の基準値として保持し、移動判定部が移動なしと判定した場合は、現在の合計角度および記憶部から読み出した合計角度の差分と記憶部から読み出した車両姿勢角度の基準値とから得られる車両姿勢角度を新たな車両姿勢角度の基準値として保持してもよい。
【0024】
また、上記いずれかの態様において、移動判定部は、車両の位置情報、車両が市場にあるか工場にあるかを識別する信号、および車両周囲のオブジェクトに関する情報のいずれか1つ以上に基づいて、イグニッションスイッチがオフ状態にある間に車両の移動があったことを判定してもよい。
【0025】
本発明の他の態様は、車両用灯具システムである。この車両用灯具システムは、光軸を調節可能な車両用灯具と、水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な傾斜センサと、上記いずれかの態様の車両用灯具の制御装置と、を備える。
【0026】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0027】
(実施の形態1)
本明細書において、「車両走行中」とは、例えば後述する車速センサ308の出力値が0を越えたときから、車速センサ308の出力値が0となるまでの間である。「車両停止時」とは、例えば車速センサ308の出力値が0となった後、後述する加速度センサ32の出力値が安定したときである。「車両停止中」とは、例えば加速度センサ32の出力値が安定したときから車速センサ308の出力値が0を越えたときまでである。「安定したとき」は、加速度センサ32の出力値の単位時間あたりの変化量が所定量以下となったときとしてもよいし、車速センサ308の出力値が0になってから所定時間経過後(例えば1~2秒後)としてもよい。「車両300が停車している」とは、車両300が「車両停止時」あるいは「車両停止中」の状態にあることを意味する。「発進直後」とは、例えば車速センサ308の出力値が0を超えたときからの所定時間である。「発進直前」とは、例えば車速センサ308の出力値が0を超えたときから所定時間前の時間である。前記「車両走行中」、「車両停止時」、「車両停止中」、「安定したとき」、「発進直後」、「発進直前」、「所定量」及び「所定時間」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0028】
図1は、実施の形態1に係る車両用灯具の鉛直断面図である。本実施の形態の車両用灯具1は、左右対称に形成された一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯である。一対の前照灯ユニットは、車両の車幅方向の左右に配置される。右側の前照灯ユニットと左側の前照灯ユニットとは実質的に同一の構成であるため、以下では、車両用灯具1の構造として一方の前照灯ユニットの構造を説明し、他方の前照灯ユニットの構造については説明を省略する。
【0029】
車両用灯具1は、車両前方に向かって開口した凹部を有するランプボディ2と、ランプボディ2の開口を覆う透光カバー4と、を有する。ランプボディ2と透光カバー4とによって灯室6が形成される。灯室6には、光学ユニット8が収容される。
【0030】
光学ユニット8は、光源10と、集光用レンズ12と、回転リフレクタ14と、投影レンズ16と、ヒートシンク18と、を備える。光源10は、回路基板10a上に複数の発光素子10bがアレイ状に配置された構造を有する。各発光素子10bは個別に点消灯可能に構成されている。発光素子10bとしては、LED、EL、LD等の半導体発光素子を用いることができる。なお、光源10は、白熱球やハロゲンランプ、放電球等で構成されてもよい。
【0031】
集光用レンズ12は、光源10から出射する光Lの光路を変化させて回転リフレクタ14のブレード14aに向かわせる光学部材である。回転リフレクタ14は、光源10から出射する光Lを反射しながら回転軸Rを中心に回転する光学部材である。回転リフレクタ14は、複数のブレード14aと、回転筒14bと、駆動源としてのモータ14cと、を有する。複数のブレード14aは、光Lの反射面として機能し、回転筒14bの周面に固定される。回転筒14bは、筒の中心軸がモータ14cの出力軸と一致するように姿勢が定められて、モータ14cの出力軸に固定される。モータ14cの出力軸と回転筒14bの中心軸とは、回転リフレクタ14の回転軸Rと一致する。
【0032】
モータ14cが駆動すると、ブレード14aが回転軸Rを中心に一方向に旋回する。ブレード14aは、旋回しながら光Lを反射することで灯具前方を光Lで走査する。これにより、灯具前方に所望の配光パターンを形成することができる。例えば光学ユニット8は、光源10の点消灯と回転リフレクタ14の回転との組み合わせにより、自車前方の対向車の存在領域に遮光部を有するハイビーム用配光パターンを形成することができる。
【0033】
投影レンズ16は、回転リフレクタ14で反射された光Lを灯具前方に投影する光学部材である。投影レンズ16は、例えば平凸非球面レンズからなる。なお、投影レンズ16の形状は、要求される配光パターンや照度分布などの配光特性に応じて適宜選択することができる。また、本実施の形態の投影レンズ16は、外周の一部に切り欠き部16aを有する。切り欠き部16aが存在することで、回転リフレクタ14のブレード14aが投影レンズ16に干渉しにくくなり、投影レンズ16と回転リフレクタ14とを近づけることができる。
【0034】
ヒートシンク18は、光源10を冷却するための部材である。ヒートシンク18は、光源10を挟んで回転リフレクタ14とは反対側に配置される。光源10は、ヒートシンク18の回転リフレクタ14側を向く面に固定される。光源10の熱がヒートシンク18に伝導することで、光源10が冷却される。また、灯室6にはファン20が収容される。ファン20は、支持機構(図示せず)を介してランプボディ2に固定され、ヒートシンク18に向けて送風する。これにより、ヒートシンク18からの放熱を促進することができ、光源10をより冷却することができる。
【0035】
光学ユニット8は、ランプブラケット22を介してランプボディ2に支持される。ランプブラケット22は、例えば主表面が灯具前後方向を向くように配置される板状部材であり、灯具前方側を向く主表面に光学ユニット8が固定される。光源10は、ヒートシンク18を介してランプブラケット22に固定される。回転リフレクタ14は、台座15を介してランプブラケット22に固定される。投影レンズ16は、レンズホルダ(図示せず)を介してランプブラケット22に固定される。
【0036】
ランプブラケット22の灯具後方側を向く主表面の上端部には、灯具後方側に突出するジョイント受け部24を有する。ジョイント受け部24には、ランプボディ2の壁面を貫通して灯具前方に延出するシャフト26が連結される。シャフト26の先端には、ボールジョイント用球部26aが設けられる。ジョイント受け部24には、ボールジョイント用球部26aの形状に沿った球形空間24aが設けられる。ジョイント受け部24とシャフト26とは、ボールジョイント用球部26aが球形空間24aに嵌め込まれることで連結される。
【0037】
ランプブラケット22の灯具後方側を向く主表面の下端部には、レベリングアクチュエータ28が連結される。レベリングアクチュエータ28は、例えばロッド28aを矢印M,N方向に伸縮させるモータで構成され、ロッド28aの先端がランプブラケット22に固定される。光学ユニット8は、ロッド28aが矢印M方向に伸びることで、ジョイント受け部24とシャフト26との係合部を支点に変位して後傾姿勢となる。また、光学ユニット8は、ロッド28aが矢印N方向に縮むことで、当該係合部を支点に変位して前傾姿勢となる。したがって、レベリングアクチュエータ28の駆動によって、車両用灯具1の光軸Axのピッチ角度を下方、上方に向けるレベリング調整を実現することができる。なお、光学ユニット8自体の構造や、光学ユニット8の支持構造等は上述したものに限定されない。
【0038】
灯室6には、本実施の形態に係る車両用灯具の制御装置として機能するレベリングECU30や、加速度センサ32も収容される。以下、レベリングECU30および加速度センサ32について詳細に説明する。
【0039】
図2は、車両用灯具、レベリングECUおよび車両制御ECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。なお、レベリングECU30および車両制御ECU302は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、
図2ではそれらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0040】
レベリングECU30は、加速度センサ32と、受信部34と、制御部36と、送信部38と、メモリ40と、を備える。本実施の形態の加速度センサ32は、レベリングECU30の回路基板に実装された状態で車両用灯具1に搭載される。しかしながら、特にこの構成に限定されず、加速度センサ32は、レベリングECU30とは別の回路基板に実装されてもよい。この場合、レベリングECU30は車両300の内部、例えばダッシュボード付近等に設置されてもよい。レベリングECU30には、車両300に搭載される車両制御ECU302およびライトスイッチ304が接続される。車両制御ECU302やライトスイッチ304から出力される信号は、受信部34によって受信される。また、受信部34は、加速度センサ32の出力値を示す信号を受信する。
【0041】
車両制御ECU302には、車両300に搭載されるステアリングセンサ306、車速センサ308、ナビゲーションシステム310等が接続される。これらから出力される信号は、必要に応じて車両制御ECU302を介して受信部34によって受信される。ライトスイッチ304は、運転者の操作内容に応じて、車両用灯具1の点灯状態を制御する信号や、オートレベリング制御の実行を指示する信号等を車両制御ECU302やレベリングECU30に送信する。また、ライトスイッチ304は、車両300に搭載される電源312にも信号を送信する。
【0042】
受信部34が受信した信号は、制御部36に送信される。制御部36は、加速度センサ32の出力値に基づいて、車両300の姿勢に適した車両用灯具1の光軸Axのピッチ角度(以下では適宜、この角度を光軸角度θoという)を算出する。つまり、制御部36は、車両用灯具1のとるべき光軸角度θOを算出する。そして、算出された光軸角度θOに近づくように現状の光軸角度θOを調節する。前記「近づく」には、車両用灯具1の現状の光軸角度θOが、算出された光軸角度θOと一致することも含まれる。制御部36は、自身を構成する集積回路が、RAMやメモリ40に保持されたプログラムを実行することで動作することができる。
【0043】
制御部36は、角度演算部36aおよび調節指示部36bを有する。角度演算部36aは、加速度センサ32の出力値と、必要に応じてレベリングECU30が有するRAM(図示せず)やメモリ40に保持されている情報とを用いて、車両300のピッチ角度情報を生成する。例えば角度演算部36aは、受信部34から送信される加速度センサ32の出力値をRAMに保持し、取得した出力値の数が所定数に達すると、取得した複数の出力値に平均化処理を施し、これにより得られた出力値に基づいて車両300のピッチ角度を導出する。
【0044】
調節指示部36bは、角度演算部36aで生成されたピッチ角度情報に基づいて車両用灯具1のとるべき光軸角度θoを決定し、光軸角度θOの調節を指示する調節信号を生成する。調節指示部36bは、生成した調節信号を送信部38を介してレベリングアクチュエータ28に出力する。レベリングアクチュエータ28は、受信した調節信号を基に駆動し、これにより車両用灯具1の光軸Axがピッチ角度方向について調整される。制御部36が有する各部の動作については、後に詳細に説明する。
【0045】
車両300には、レベリングECU30、車両制御ECU302、および車両用灯具1の電源回路42に電力を供給する電源312が搭載される。ライトスイッチ304の操作により車両用灯具1の点灯が指示されると、電源312から電源回路42を介して光源10に電力が供給される。また、電源回路42は、必要に応じて回転リフレクタ14およびファン20にも電力を供給する。電源312からレベリングECU30への電力供給は、イグニッションスイッチ314がオンのときに実施され、イグニッションスイッチ314がオフのときに停止される。
【0046】
(オートレベリング制御)
続いて、上述の構成を備えるレベリングECU30により実行されるオートレベリング制御について詳細に説明する。
図3は、車両に生じる加速度ベクトルと加速度センサで検出可能な車両の傾斜角度とを説明するための模式図である。
【0047】
例えば、車両後部の荷室に荷物が載せられたり後部座席に乗員がいる場合、車両姿勢は後傾姿勢となり、荷室から荷物が下ろされたり後部座席の乗員が下車した場合、車両姿勢は後傾姿勢の状態から前傾する。車両300が後傾姿勢あるいは前傾姿勢になると、車両用灯具1の光照射方向も上下に変動し、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、レベリングECU30は、加速度センサ32の出力値から車両300のピッチ方向の傾斜角度またはその変化量を導出し、光軸角度θoを車両姿勢に応じた角度とする。車両姿勢に基づき車両用灯具1のレベリング調整をリアルタイムで行うオートレベリング制御を実施することで、車両姿勢が変化しても前方照射光の到達距離を最適に調節することができる。
【0048】
本実施の形態において、加速度センサ32は、例えば互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ32は、任意の姿勢で車両用灯具1に取り付けられ、車両300に生じる加速度ベクトルを検出する。走行中の車両300には、重力加速度と車両300の移動により生じる運動加速度とが生じる。このため、加速度センサ32は、
図3に示すように、重力加速度ベクトルGと運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβを検出することができる。また、車両300の停止中、加速度センサ32は、重力加速度ベクトルGを検出することができる。加速度センサ32は、検出した加速度ベクトルの各軸成分の数値を出力する。
【0049】
加速度センサ32は車両用灯具1に対して任意の姿勢で取り付けられるため、加速度センサ32が車両用灯具1に搭載された状態における加速度センサ32のX軸、Y軸およびZ軸(センサ側の軸)は、車両300の姿勢を決める車両300の前後軸、左右軸および上下軸(車両側の軸)と必ずしも一致しない。このため、制御部36は、加速度センサ32から出力される3軸の成分、すなわちセンサ座標系の成分を、車両300の3軸の成分、すなわち車両座標系の成分に変換する必要がある。
【0050】
レベリングECU30は、車両用灯具1に取り付けられた状態の加速度センサ32の軸と車両300の軸と路面角度との位置関係を示す基準軸情報を予め保持している。例えば、レベリングECU30は、基準軸情報として、加速度センサ32の出力値における各軸成分の数値を車両300の各軸成分の数値と対応付けた変換テーブルを、メモリ40に保持している。本実施の形態のメモリ40は、不揮発性メモリである。角度演算部36aは、加速度センサ32から出力されるX軸、Y軸およびZ軸の各成分の数値をそれぞれ複数取得すると、各成分について平均化処理を施した後に基準軸情報を用いて車両300の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換する。したがって、加速度センサ32の出力値から、車両前後方向、車両左右方向および車両上下方向の加速度を導出可能である。
【0051】
また、車両停止中の加速度センサ32の出力値からは、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを導出することができる。すなわち、加速度センサ32の出力値からは、水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度θr、および路面に対する車両300の傾斜角度である車両姿勢角度θvを含む、水平面に対する車両300の傾斜角度である合計角度θを導出可能である。なお、路面角度θr、車両姿勢角度θvおよび合計角度θは、車両300のピッチ方向の角度である。
【0052】
オートレベリング制御は、車両300のピッチ方向の傾斜角度の変化にともなう車両用灯具1の前方照射距離の変化を吸収して、照射光の前方到達距離を最適に保つことを目的とするものである。したがって、オートレベリング制御に必要とされる車両300の傾斜角度は、車両姿勢角度θvである。すなわち、オートレベリング制御では、車両姿勢角度θvが変化した場合に車両用灯具1の光軸角度θoが調節され、路面角度θrが変化した場合に車両用灯具1の光軸角度θoが維持されることが望まれる。これを実現するためには、合計角度θから車両姿勢角度θvについての情報を抽出する必要がある。
【0053】
(基本制御)
これに対し、制御部36は、以下に説明するオートレベリングの基本制御を実行する。基本制御では、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定し、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定して、合計角度θから車両姿勢角度θvが導出される。車両走行中は、積載荷量や乗車人数が増減して車両姿勢角度θvが変化することは稀であるため、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定することができる。また、車両停止中は、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀であるため、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。
【0054】
まず、車両300が所定の基準路面上で所定の基準姿勢にあるとき、所定の初期化処理が実施される。そして、初期化処理において路面角度θrの初期設定値と、車両姿勢角度θvの初期設定値とが取得され、制御部36のRAMやメモリ40に保持される。具体的には、例えば車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に対して平行になるよう設計された基準路面に置かれ、基準姿勢とされる。例えば基準姿勢は、運転席に1名乗車したとき、あるいは誰も乗車していないときの車両300の姿勢である。そして、工場の初期化処理装置のスイッチ操作やCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、初期化信号が送信される。
【0055】
制御部36は、初期化信号を受けると所定の初期化処理を実行する。初期化処理では、初期エイミング調整が実施され、車両用灯具1の光軸Axが初期角度に合わせられる。また、角度演算部36aは、基準状態における加速度センサ32の出力値を路面角度θrの初期設定値(例えばθr=0°)、車両姿勢角度θvの初期設定値(例えばθv=0°)としてRAMに記憶して揮発的に保持する。また、これらの初期設定値をメモリ40に書き込んで不揮発的に保持する。
【0056】
基本制御において、制御部36は、加速度センサ32の複数の出力値を用いて合計角度θを導出し、車両停止中の合計角度θの変化に対して、光軸角度θoの調節を指示する調節信号を出力してレベリングアクチュエータ28を駆動させる。また、制御部36は、車両走行中の合計角度θの変化に対して、レベリングアクチュエータ28の駆動を回避する。
【0057】
また、制御部36は、車両姿勢角度θvの初期設定値を車両姿勢角度θvの基準値として用い、路面角度θrの初期設定値を路面角度θrの基準値として用いて、オートレベリング制御を開始する。そして、車両停止中の合計角度θの変化量と車両姿勢角度θvの基準値との合計に等しい車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持する。また、車両走行中の合計角度θの変化量と路面角度θrの基準値との合計に等しい路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として保持する。つまり、制御部36は、車両300の走行、停止のたびに路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値を繰り返し更新する。
【0058】
例えば、車両300が実際に使用される状況において、制御部36は、車両走行中の合計角度θの変化に対して、光軸角度θoの調節を指示する調節信号の生成または出力を回避する。あるいは、当該変化に対して、光軸角度θoの維持を指示する維持信号を出力する。これにより、レベリングアクチュエータ28の駆動を回避することができる。そして、角度演算部36aは、車両停止時に加速度センサ32の複数の出力値から、現在(車両停止時)の合計角度θを算出する。次いで、角度演算部36aは、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して、路面角度θrを得る(θr=θ-θv基準値)。この路面角度θrは、車両走行中の合計角度θの変化量と路面角度θrの基準値との合計に等しい。
【0059】
角度演算部36aは、得られた路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として、保持している路面角度θrの基準値を更新する。これにより、路面角度θrの変化量と推定される車両走行中の合計角度θの変化量が、路面角度θrの基準値に取り込まれる。
【0060】
また、制御部36は、車両停止中の合計角度θの変化に対して、光軸角度θoの調節信号を生成し出力することで、レベリングアクチュエータ28を駆動させる。具体的には、車両停止中、角度演算部36aは加速度センサ32の複数の出力値から現在の合計角度θを所定のタイミングで繰り返し算出する。そして、角度演算部36aは、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両姿勢角度θvを得る(θv=θ-θr基準値)。この車両姿勢角度θvは、車両停止中の合計角度θの変化量と車両姿勢角度θvの基準値との合計に等しい。
【0061】
角度演算部36aは、得られた車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として、保持している車両姿勢角度θvの基準値を更新する。これにより、車両姿勢角度θvの変化量と推定される車両停止中の合計角度θの変化量が、車両姿勢角度θvの基準値に取り込まれる。
【0062】
そして、調節指示部36bは、算出された車両姿勢角度θvあるいは更新された新たな車両姿勢角度θvの基準値を用いて、光軸角度θoの調節信号を生成する。例えば、調節指示部36bは、予めメモリ40に記録されている、車両姿勢角度θvの値と光軸角度θoの値とを対応付けた変換テーブルを用いて光軸角度θoを決定し、調節信号を生成する。生成された調節信号は、送信部38からレベリングアクチュエータ28へ出力される。
【0063】
また、制御部36は、イグニッションスイッチ314がオフになる際、RAMに保持している路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値の少なくとも一方をメモリ40に記録する。これにより、イグニッションスイッチ314がオフにされても路面角度θrの基準値および/または車両姿勢角度θvの基準値を保持することができる。制御部36は、車両制御ECU302側から発信されるIG-OFF信号を受信するか、あるいは制御部36に供給される電源電圧が所定値以下となったことを検知することで、イグニッションスイッチ314がオフになることを検知することができる。
【0064】
イグニッションスイッチ314がオフの状態では、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀である。したがって、イグニッションスイッチ314のオフからオンまでの間の合計角度θの変化を、車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。そこで、制御部36は、イグニッションスイッチ314がオン状態に移行したとき、起動後の最初の制御として、現在の加速度センサ32の複数の出力値から得られる合計角度θと、メモリ40に保持している基準値とを用いて、現在の車両姿勢角度θvを導出する。
【0065】
路面角度θrの基準値をメモリ40に保持する場合、制御部36は、現在の加速度センサ32の複数の出力値から得られる合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、現在の車両姿勢角度θvを得る。
【0066】
車両姿勢角度θvの基準値をメモリ40に保持する場合、制御部36は、イグニッションスイッチ314がオフになる際、車両姿勢角度θvの基準値に加えてイグニッションスイッチ314がオフになる前の最後に検出された合計角度θをメモリ40に記録する。起動後の最初の制御において、制御部36は、現在の加速度センサ32の複数の検出値から得られる合計角度θと、イグニッションオフ前の最後に検出された合計角度θとの差分を算出する。そして、車両姿勢角度θvの基準値に得られた差分を加算して、現在の車両姿勢角度θvを計算する。
【0067】
制御部36は、得られた車両姿勢角度θvを新たな基準値としてRAMに保持する。また、得られた車両姿勢角度θvあるいは新たな車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸Axを調節する。これにより、イグニッションスイッチ314がオフにされている間の車両姿勢角度θvの変化を基準値に取り込むことができ、また光軸角度θoを適切な位置に調節することができる。このため、オートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0068】
(加速度センサ32のサンプリング周波数)
図4は、加速度センサのサンプリング周波数と振動発生源の振動周波数との関係を示す図である。車両用灯具1には、振動発生源が搭載されることが多い。振動発生源は、例えば車両用灯具1に搭載される発熱部材(本実施の形態では光源10やヒートシンク18)を冷却するためのファン20である。また、振動発生源は、例えば光源10から出射する光を反射しながら回転軸Rを中心に回転する回転リフレクタ14である。ファン20や回転リフレクタ14は、その重心が回転軸に対してずれている場合、所定の第1周波数で振動する。第1周波数は、ファン20や回転リフレクタ14のそれぞれの回転数に比例する周波数である。つまり、振動発生源は、第1周波数の周期振動Aを発生する。
【0069】
一方で本実施の形態では、加速度センサ32も車両用灯具1に搭載される。加速度センサ32を車両用灯具1に搭載すると、加速度センサ32によって検出される加速度に、周期振動Aに起因する加速度成分も含まれ得る。この場合、車両300の傾斜角度の検出精度が低下してしまう。
【0070】
外部から入力される衝撃といったランダムな振動に起因する加速度については、加速度センサ32の複数の出力値に平均化処理を施すことで、車両300の傾斜角度の検出に与える影響を低減することができる。これにより、傾斜角度の検出精度を高めることができる。しかしながら、周期振動Aを発生させる振動発生源については、平均化処理では影響を軽減することができない場合がある。つまり、加速度センサ32のサンプリング周波数(サンプリング周期Bの周波数)が周期振動Aの第1周波数の整数倍であると、
図4において黒丸で示すように、加速度センサ32の出力値の全てに同じ大きさの振動由来加速度が加算されてしまう。この場合、複数の出力値の平均化処理では、振動発生源が傾斜角度の検出に与える影響を軽減することができない。
【0071】
これに対し、本実施の形態に係るレベリングECU30が備える加速度センサ32は、
図4において白丸で示すように、第1周波数の非整数倍の第2周波数(サンプリング周期Cの周波数)で加速度をサンプリングするよう設定される。これにより、加速度センサ32の各出力値に加算される振動由来加速度の大きさを変化させることができる。この結果、複数の出力値の平均化処理によって、振動発生源が傾斜角度の検出に与える影響を軽減することができる。一例として、第1周波数は51.33Hzあるいは55.83Hzであり、第2周波数は20Hzである。
【0072】
なお、
図4では、X軸の加速度成分について図示しているが、Y軸およびZ軸の加速度成分についても同様である。ただし、加速度センサ32の3軸に対するファン20や回転リフレクタ14の回転軸の傾きに応じて、加速度センサ32に入力される振動由来加速度の各軸成分の大きさは変化する。
【0073】
図5は、実施の形態1に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、たとえばライトスイッチ304によってオートレベリング制御の実行指示がなされ、且つイグニッションスイッチ314がオンのときに制御部36により所定のタイミングで繰り返し実行され、オートレベリング制御の実行指示が解除される(あるいは停止指示がなされる)か、イグニッションスイッチ314がオフにされた場合に終了する。
【0074】
まず、制御部36は、車両300が停車しているか判断する(S101)。制御部36は、車速センサ308の出力値に基づいて車両300の停車を判断することができる。車両300が停車していない場合(S101のN)、すなわち車両300が走行中である場合、制御部36は、本ルーチンを終了する。車両300が停車している場合(S101のY)、制御部36は、前回のルーチンのステップS101における停車判定において車両300が走行中(S101のN)であったか判断する(S102)。前回の判定が走行中であった場合(S102のY)、この場合は「車両停止時」であることを意味し、制御部36は、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrを算出する(S103)。そして、得られた路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として更新し(S104)、本ルーチンを終了する。
【0075】
前回の判定が走行中でなかった場合(S102のN)、この場合は「車両停止中」であることを意味し、制御部36は、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両姿勢角度θvを算出する(S105)。そして、得られた車両姿勢角度θvを用いて光軸角度θoを調節し、また得られた車両姿勢角度θvを新たな基準値として更新して(S106)、本ルーチンを終了する。
【0076】
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具1の制御装置としてのレベリングECU30は、第1周波数で振動する振動発生源が搭載される車両用灯具1における光軸角度θoの調節を制御する装置であって、加速度センサ32と、受信部34と、制御部36と、を備える。加速度センサ32は、車両用灯具1に搭載されるとともに第1周波数の非整数倍の第2周波数で加速度をサンプリングするよう予め設定される。受信部34は、加速度センサ32の出力値を示す信号を受信する。制御部36は、受信部34が受信した加速度センサ32の出力値に基づいて車両用灯具1の光軸角度θOを調節する制御を実行する。
【0077】
このように、振動発生源の振動周波数(第1周波数)に対し非整数倍のサンプリング周波数(第2周波数)を有する加速度センサ32を車両用灯具1に搭載することで、加速度センサ32を用いた車両300の傾斜角度の検出に対して振動発生源が与える負の影響を軽減することができる。これにより、車両300の傾斜角度の検出精度を高めることができる。よって、車両用灯具1のオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0078】
車両用灯具1に搭載される振動発生源は、車両用灯具1に搭載される光源10等の発熱部材を冷却するためのファン20や、光源10から出射する光Lを反射しながら回転軸Rを中心に回転する回転リフレクタ14である。つまり、本実施の形態によれば、ファン20や回転リフレクタ14を搭載した車両用灯具1におけるオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0079】
また、本実施の形態の制御部36は、路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値を保持する。そして、制御部36は、車両停止中の合計角度θの変化に対して、調節信号を出力するとともに、車両停止中の合計角度θの変化量と車両姿勢角度θvの基準値との合計に等しい車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持する。また、制御部36は、車両走行中の合計角度θの変化に対して、調節信号の生成または出力を回避するか、光軸角度θOの維持を指示する維持信号を出力する。また、これとともに、車両走行中の合計角度θの変化量と路面角度θrの基準値との合計に等しい路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として保持する。このような制御により、加速度センサ32を用いたオートレベリング制御を簡単な制御構造で実現することができる。
【0080】
以上、本発明の実施の形態1について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0081】
実施の形態1では、合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して車両姿勢角度θvを算出し、合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrを算出しているが、特にこの構成に限定されない。
【0082】
例えば制御部36は、車両停止中に現在の合計角度θと前回算出した合計角度θとから差分Δθ1を算出し、車両姿勢角度θvの基準値に差分Δθ1を加算して、車両停止中の合計角度θの変化量を含む車両姿勢角度θvを得る(θv=θv基準値+Δθ1)。また、得られた車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として更新する。これにより、車両姿勢角度θvの変化量と推定される車両停止中の合計角度θの変化量が、車両姿勢角度θvの基準値に取り込まれる。この制御方法によれば、路面角度θrの基準値を用いないオートレベリング制御が可能となる。このため、オートレベリング制御の簡略化を図ることができる。
【0083】
また、例えば制御部36は、車両300の発進直後に発進直前の合計角度θを合計角度θの基準値として保持し、車両停止時の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ2を算出する。そして、路面角度θrの基準値に差分Δθ2を加算して、車両走行中の合計角度θの変化量を含む路面角度θrを得る(θr=θr基準値+Δθ2)。また、得られた路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として更新する。これにより、路面角度θrの変化量と推定される車両走行中の合計角度θの変化量が、路面角度θrの基準値に取り込まれる。そして、制御部36は、車両停止中に合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両停止中の合計角度θの変化量を含む車両姿勢角度θvを得る(θv=θ-θr基準値)。この制御方法によれば、車両姿勢角度θvの基準値を用いないオートレベリング制御が可能となる。このため、オートレベリング制御の簡略化を図ることができる。
【0084】
技術的に整合しない場合を除き、所定の成分を用いた計算により得られる値の保持には、当該値の計算に用いられる成分を保持することも含まれる。例えば、合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrの基準値を計算する場合において、路面角度θrの基準値の保持には、計算に用いられる合計角度θおよび車両姿勢角度θvの基準値を保持することも含まれる。また、合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して車両姿勢角度θvの基準値を計算する場合において、車両姿勢角度θvの基準値の保持には、計算に用いられる合計角度θおよび路面角度θrの基準値を保持することも含まれる。また、合計角度θの保持には、加速度センサ32の出力値の保持も含まれる。
【0085】
上述した実施の形態1に係る発明は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[項目1]
光軸(Ax)を調節可能な車両用灯具(1)と、
車両用灯具(1)の制御装置(30)と、
を備える、車両用灯具システム。
[項目2]
第1周波数で振動する振動発生源が搭載される車両用灯具(1)における光軸角度(θO)の調節を制御する車両用灯具(1)の制御方法であって、
車両用灯具(1)に搭載される加速度センサ(32)によって第1周波数の非整数倍の第2周波数で加速度をサンプリングするステップと、
サンプリングした加速度に基づいて車両用灯具(1)の光軸角度(θO)を調節するステップと、
を含む、車両用灯具(1)の制御方法。
【0086】
(実施の形態2)
本明細書において、「車両走行中」とは、例えば後述する車速センサ308の出力値が0を越えたときから、車速センサ308の出力値が0となるまでの間である。「車両停止時」とは、例えば車速センサ308の出力値が0となった後、後述する傾斜センサ132の出力値が安定したときである。「車両停止中」とは、例えば傾斜センサ132の出力値が安定したときから車速センサ308の出力値が0を越えたときまでである。「安定したとき」は、傾斜センサ132の出力値の単位時間あたりの変化量が所定量以下となったときとしてもよいし、車速センサ308の出力値が0になってから所定時間経過後(例えば1~2秒後)としてもよい。「車両300が停車している」とは、車両300が「車両停止時」あるいは「車両停止中」の状態にあることを意味する。「発進直後」とは、例えば車速センサ308の出力値が0を超えたときからの所定時間である。「発進直前」とは、例えば車速センサ308の出力値が0を超えたときから所定時間前の時間である。前記「車両走行中」、「車両停止時」、「車両停止中」、「安定したとき」、「発進直後」、「発進直前」、「所定量」及び「所定時間」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0087】
図6は、実施の形態2に係る車両用灯具の鉛直断面図である。本実施の形態の車両用灯具1は、左右対称に形成された一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯である。一対の前照灯ユニットは、車両の車幅方向の左右に配置される。右側の前照灯ユニットと左側の前照灯ユニットとは実質的に同一の構成であるため、以下では、車両用灯具1の構造として一方の前照灯ユニットの構造を説明し、他方の前照灯ユニットの構造については説明を省略する。
【0088】
車両用灯具1は、車両前方に向かって開口した凹部を有するランプボディ2と、ランプボディ2の開口を覆う透光カバー4と、を有する。ランプボディ2と透光カバー4とによって灯室6が形成される。灯室6には、光学ユニット8が収容される。
【0089】
光学ユニット8は、光源10と、集光用レンズ12と、回転リフレクタ14と、投影レンズ16と、ヒートシンク18と、を備える。光源10は、回路基板10a上に複数の発光素子10bがアレイ状に配置された構造を有する。各発光素子10bは個別に点消灯可能に構成されている。発光素子10bとしては、LED、EL、LD等の半導体発光素子を用いることができる。なお、光源10は、白熱球やハロゲンランプ、放電球等で構成されてもよい。
【0090】
集光用レンズ12は、光源10から出射する光Lの光路を変化させて回転リフレクタ14のブレード14aに向かわせる光学部材である。回転リフレクタ14は、光源10から出射する光Lを反射しながら回転軸Rを中心に回転する光学部材である。回転リフレクタ14は、複数のブレード14aと、回転筒14bと、駆動源としてのモータ14cと、を有する。複数のブレード14aは、光Lの反射面として機能し、回転筒14bの周面に固定される。回転筒14bは、筒の中心軸がモータ14cの出力軸と一致するように姿勢が定められて、モータ14cの出力軸に固定される。モータ14cの出力軸と回転筒14bの中心軸とは、回転リフレクタ14の回転軸Rと一致する。
【0091】
モータ14cが駆動すると、ブレード14aが回転軸Rを中心に一方向に旋回する。ブレード14aは、旋回しながら光Lを反射することで灯具前方を光Lで走査する。これにより、灯具前方に所望の配光パターンを形成することができる。例えば光学ユニット8は、光源10の点消灯と回転リフレクタ14の回転との組み合わせにより、自車前方の対向車の存在領域に遮光部を有するハイビーム用配光パターンを形成することができる。
【0092】
投影レンズ16は、回転リフレクタ14で反射された光Lを灯具前方に投影する光学部材である。投影レンズ16は、例えば平凸非球面レンズからなる。なお、投影レンズ16の形状は、要求される配光パターンや照度分布などの配光特性に応じて適宜選択することができる。また、本実施の形態の投影レンズ16は、外周の一部に切り欠き部16aを有する。切り欠き部16aが存在することで、回転リフレクタ14のブレード14aが投影レンズ16に干渉しにくくなり、投影レンズ16と回転リフレクタ14とを近づけることができる。
【0093】
ヒートシンク18は、光源10を冷却するための部材である。ヒートシンク18は、光源10を挟んで回転リフレクタ14とは反対側に配置される。光源10は、ヒートシンク18の回転リフレクタ14側を向く面に固定される。光源10の熱がヒートシンク18に伝導することで、光源10が冷却される。また、灯室6にはファン20が収容される。ファン20は、支持機構(図示せず)を介してランプボディ2に固定され、ヒートシンク18に向けて送風する。これにより、ヒートシンク18からの放熱を促進することができ、光源10をより冷却することができる。
【0094】
光学ユニット8は、ランプブラケット22を介してランプボディ2に支持される。ランプブラケット22は、例えば主表面が灯具前後方向を向くように配置される板状部材であり、灯具前方側を向く主表面に光学ユニット8が固定される。光源10は、ヒートシンク18を介してランプブラケット22に固定される。回転リフレクタ14は、台座15を介してランプブラケット22に固定される。投影レンズ16は、レンズホルダ(図示せず)を介してランプブラケット22に固定される。
【0095】
ランプブラケット22の灯具後方側を向く主表面の上端部には、灯具後方側に突出するジョイント受け部24を有する。ジョイント受け部24には、ランプボディ2の壁面を貫通して灯具前方に延出するシャフト26が連結される。シャフト26の先端には、ボールジョイント用球部26aが設けられる。ジョイント受け部24には、ボールジョイント用球部26aの形状に沿った球形空間24aが設けられる。ジョイント受け部24とシャフト26とは、ボールジョイント用球部26aが球形空間24aに嵌め込まれることで連結される。
【0096】
ランプブラケット22の灯具後方側を向く主表面の下端部には、レベリングアクチュエータ28が連結される。レベリングアクチュエータ28は、例えばロッド28aを矢印M,N方向に伸縮させるモータで構成され、ロッド28aの先端がランプブラケット22に固定される。光学ユニット8は、ロッド28aが矢印M方向に伸びることで、ジョイント受け部24とシャフト26との係合部を支点に変位して後傾姿勢となる。また、光学ユニット8は、ロッド28aが矢印N方向に縮むことで、当該係合部を支点に変位して前傾姿勢となる。したがって、レベリングアクチュエータ28の駆動によって、車両用灯具1の光軸Axのピッチ角度を下方、上方に向けるレベリング調整を実現することができる。なお、光学ユニット8自体の構造や、光学ユニット8の支持構造等は上述したものに限定されない。
【0097】
灯室6には、本実施の形態に係る車両用灯具の制御装置として機能するレベリングECU30や、傾斜センサ132も収容される。以下、レベリングECU30および傾斜センサ132について詳細に説明する。
【0098】
図7は、車両用灯具、レベリングECUおよび車両制御ECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。なお、レベリングECU30および車両制御ECU302は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、
図7ではそれらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0099】
レベリングECU30は、傾斜センサ132と、受信部34と、制御部36と、送信部38と、メモリ40(記憶部)と、イグニッション検知部44と、移動判定部46と、を備える。本実施の形態の傾斜センサ132は、レベリングECU30の回路基板に実装された状態で車両用灯具1に搭載される。しかしながら、特にこの構成に限定されず、傾斜センサ132は、レベリングECU30とは別の回路基板に実装されてもよい。また、レベリングECU30および傾斜センサ132は、それぞれ車両300の内部、例えばダッシュボード付近等に設置されてもよい。また、レベリングECU30および傾斜センサ132の一方が車両用灯具1内に、他方が車両300内に配置されてもよい。
【0100】
レベリングECU30には、車両300に搭載される車両制御ECU302およびライトスイッチ304が接続される。車両制御ECU302やライトスイッチ304から出力される信号は、受信部34によって受信される。また、受信部34は、傾斜センサ132の出力値を示す信号を受信する。
【0101】
車両制御ECU302には、車両300に搭載されるステアリングセンサ306、車速センサ308、GPSを備えたナビゲーションシステム310、イグニッションスイッチ314、車両300の周囲を撮像するカメラ316、信号受信部318等が接続される。これらから出力される信号は、必要に応じて車両制御ECU302を介して受信部34によって受信される。信号受信部318は、車両300が市場にあるか工場にあるかを識別する信号(以下では適宜、識別信号という)や、車両300の周囲のオブジェクトに関する情報(以下では適宜、オブジェクト情報という)を外部から受信する。
【0102】
識別信号としては、例えば車両300が車両メーカの製造工場にあるとき工場の設備から送信されて、レベリングECU30や車両制御ECU302を工場モードに設定するための信号が挙げられる。また、識別信号としては、車両300がディーラーにあるときディーラーの設備から送信されて、レベリングECU30や車両制御ECU302を市場モードに設定するための信号が挙げられる。工場モードとは、主に車両300が工場(工場からディーラーに輸送されている間も含む)にあるとき設定されるモード、つまり車両300がユーザの使用に供されていない状況で設定されるモードである。市場モードとは、主に車両300が工場以外にあるとき設定されるモード、つまり車両300がユーザの使用に供される状況で設定されるモードである。オブジェクト情報としては、例えば車両300の周囲に存在する信号機、街灯、監視カメラ等から位置情報が送られる場合には、この位置情報を示す信号が挙げられる。なお、オブジェクト情報には、信号受信部318によって受信される情報以外に、カメラ316によって撮像された画像情報も含まれる。
【0103】
ライトスイッチ304は、運転者の操作内容に応じて、車両用灯具1の点灯状態を制御する信号や、オートレベリング制御の実行を指示する信号等を車両制御ECU302やレベリングECU30に送信する。また、ライトスイッチ304は、車両300に搭載される電源312にも信号を送信する。
【0104】
受信部34が受信した信号は、制御部36に送信される。制御部36は、傾斜センサ132の出力値に基づいて、車両300の姿勢に適した車両用灯具1の光軸Axのピッチ角度(以下では適宜、この角度を光軸角度θoという)を算出する。つまり、制御部36は、車両用灯具1のとるべき光軸角度θOを算出する。そして、算出された光軸角度θOに近づくように現状の光軸角度θOを調節する。前記「近づく」には、車両用灯具1の現状の光軸角度θOが、算出された光軸角度θOと一致することも含まれる。制御部36は、自身を構成する集積回路が、揮発性メモリであるRAM36cや不揮発性メモリであるメモリ40に保持されたプログラムを実行することで動作することができる。
【0105】
制御部36は、角度演算部36a、調節指示部36bおよびRAM36cを有する。角度演算部36aは、傾斜センサ132の出力値と、必要に応じてRAM36cやメモリ40に保持されている情報とを用いて、車両300のピッチ角度情報を生成する。例えば角度演算部36aは、受信部34から送信される傾斜センサ132の出力値をRAM36cに保持し、取得した出力値の数が所定数に達すると、取得した複数の出力値に平均化処理を施し、これにより得られた出力値に基づいて車両300のピッチ角度を導出する。
【0106】
調節指示部36bは、角度演算部36aで生成されたピッチ角度情報に基づいて車両用灯具1のとるべき光軸角度θoを決定し、光軸角度θOの調節を指示する調節信号を生成する。調節指示部36bは、生成した調節信号を送信部38を介してレベリングアクチュエータ28に出力する。レベリングアクチュエータ28は、受信した調節信号を基に駆動し、これにより車両用灯具1の光軸Axがピッチ角度方向について調整される。
【0107】
イグニッション検知部44は、車両制御ECU302を介してイグニッションスイッチ314からオン状態あるいはオフ状態に移行することを示す信号を受信することで、イグニッションスイッチ314のオン、オフを検知することができる。あるいは、イグニッション検知部44は、電源312から供給される電圧を監視することで、イグニッションスイッチ314のオン状態あるいはオフ状態への移行を検知することもできる。イグニッション検知部44は、イグニッションスイッチ314がオン状態あるいはオフ状態に移行することを示す信号を制御部36や移動判定部46に送信する。
【0108】
移動判定部46は、イグニッションスイッチ314がオフ状態にある間に車両300の移動があったことを判定する。移動判定部46は、車両300の位置情報、識別信号、およびオブジェクト情報のいずれか1つ以上に基づいて、イグニッションスイッチ314のオフ中に車両300の移動があったことを判定することができる。なお、複数種の情報や信号を用いて車両移動の有無が判定される場合の一例では、用いた情報、信号の少なくとも1つが車両移動有りを示すとき、残りの情報、信号が車両移動無しを示していても車両移動有りと判定される。
【0109】
移動判定部46は、車両制御ECU302を介してナビゲーションシステム310からの信号を受信することで、車両300の位置情報を取得することができる。また、移動判定部46は、車両制御ECU302を介して信号受信部318から識別信号を受信することができる。また、移動判定部46は、車両制御ECU302を介して信号受信部318あるいはカメラ316からオブジェクト情報を示す信号を受信することができる。レベリングECU30が有する各部の動作については、後に詳細に説明する。
【0110】
車両300には、レベリングECU30、車両制御ECU302、および車両用灯具1の電源回路42に電力を供給する電源312が搭載される。ライトスイッチ304の操作により車両用灯具1の点灯が指示されると、電源312から電源回路42を介して光源10に電力が供給される。また、電源回路42は、必要に応じて回転リフレクタ14およびファン20にも電力を供給する。電源312からレベリングECU30への電力供給は、イグニッションスイッチ314がオンのときに実施され、イグニッションスイッチ314がオフのときに停止される。
【0111】
(オートレベリング制御)
続いて、上述の構成を備えるレベリングECU30により実行されるオートレベリング制御について詳細に説明する。
図8は、車両に生じる加速度ベクトルと傾斜センサで検出可能な車両の傾斜角度とを説明するための模式図である。
【0112】
例えば、車両後部の荷室に荷物が載せられたり後部座席に乗員がいる場合、車両姿勢は後傾姿勢となり、荷室から荷物が下ろされたり後部座席の乗員が下車した場合、車両姿勢は後傾姿勢の状態から前傾する。車両300が後傾姿勢あるいは前傾姿勢になると、車両用灯具1の光照射方向も上下に変動し、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、レベリングECU30は、傾斜センサ132の出力値から車両300のピッチ方向の傾斜角度またはその変化量を導出し、光軸角度θoを車両姿勢に応じた角度とする。車両姿勢に基づき車両用灯具1のレベリング調整をリアルタイムで行うオートレベリング制御を実施することで、車両姿勢が変化しても前方照射光の到達距離を最適に調節することができる。
【0113】
本実施の形態において、傾斜センサ132は、例えば互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を有する3軸加速度センサである。傾斜センサ132は、任意の姿勢で車両用灯具1に取り付けられ、車両300に生じる加速度ベクトルを検出する。走行中の車両300には、重力加速度と車両300の移動により生じる運動加速度とが生じる。このため、傾斜センサ132は、
図8に示すように、重力加速度ベクトルGと運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβを検出することができる。また、車両300の停止中、傾斜センサ132は、重力加速度ベクトルGを検出することができる。傾斜センサ132は、検出した加速度ベクトルの各軸成分の数値を出力する。
【0114】
傾斜センサ132は車両用灯具1に対して任意の姿勢で取り付けられるため、傾斜センサ132が車両用灯具1に搭載された状態における傾斜センサ132のX軸、Y軸およびZ軸(センサ側の軸)は、車両300の姿勢を決める車両300の前後軸、左右軸および上下軸(車両側の軸)と必ずしも一致しない。このため、制御部36は、傾斜センサ132から出力される3軸の成分、すなわちセンサ座標系の成分を、車両300の3軸の成分、すなわち車両座標系の成分に変換する必要がある。
【0115】
レベリングECU30は、車両用灯具1に取り付けられた状態の傾斜センサ132の軸と車両300の軸と路面角度との位置関係を示す基準軸情報を予め保持している。例えば、レベリングECU30は、基準軸情報として、傾斜センサ132の出力値における各軸成分の数値を車両300の各軸成分の数値と対応付けた変換テーブルを、メモリ40に保持している。角度演算部36aは、傾斜センサ132から出力されるX軸、Y軸およびZ軸の各成分の数値を取得すると、基準軸情報を用いて車両300の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換する。したがって、傾斜センサ132の出力値から、車両前後方向、車両左右方向および車両上下方向の加速度を導出可能である。
【0116】
また、車両停止中の傾斜センサ132の出力値からは、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを導出することができる。すなわち、傾斜センサ132の出力値からは、水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度θr、および路面に対する車両300の傾斜角度である車両姿勢角度θvを含む、水平面に対する車両300の傾斜角度である合計角度θを導出可能である。なお、路面角度θr、車両姿勢角度θvおよび合計角度θは、車両300のピッチ方向の角度である。
【0117】
オートレベリング制御は、車両300のピッチ方向の傾斜角度の変化にともなう車両用灯具1の前方照射距離の変化を吸収して、照射光の前方到達距離を最適に保つことを目的とするものである。したがって、オートレベリング制御に必要とされる車両300の傾斜角度は、車両姿勢角度θvである。すなわち、オートレベリング制御では、車両姿勢角度θvが変化した場合に車両用灯具1の光軸角度θoが調節され、路面角度θrが変化した場合に車両用灯具1の光軸角度θoが維持されることが望まれる。これを実現するためには、合計角度θから車両姿勢角度θvについての情報を抽出する必要がある。
【0118】
(基本制御)
これに対し、制御部36は、以下に説明するオートレベリングの基本制御を実行する。基本制御では、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定し、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定して、合計角度θから車両姿勢角度θvが導出される。車両走行中は、積載荷量や乗車人数が増減して車両姿勢角度θvが変化することは稀であるため、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定することができる。また、車両停止中は、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀であるため、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。
【0119】
まず、車両300が所定の基準路面上で所定の基準姿勢にあるとき、所定の初期化処理が実施される。そして、初期化処理において路面角度θrの初期設定値と、車両姿勢角度θvの初期設定値とが取得され、RAM36cやメモリ40に保持される。具体的には、例えば車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に対して平行になるよう設計された基準路面に置かれ、基準姿勢とされる。例えば基準姿勢は、運転席に1名乗車したとき、あるいは誰も乗車していないときの車両300の姿勢である。そして、工場の初期化処理装置のスイッチ操作やCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、初期化信号が送信される。
【0120】
制御部36は、初期化信号を受けると所定の初期化処理を実行する。例えば、初期化処理は、レベリングECU30が工場モードに設定されている状態で実行される。初期化処理では、初期エイミング調整が実施され、車両用灯具1の光軸Axが初期角度に合わせられる。また、角度演算部36aは、基準状態における傾斜センサ132の出力値を路面角度θrの初期設定値(例えばθr=0°)、車両姿勢角度θvの初期設定値(例えばθv=0°)としてRAM36cに記憶して揮発的に保持する。また、これらの初期設定値をメモリ40に書き込んで不揮発的に保持する。
【0121】
基本制御において、制御部36は、傾斜センサ132の出力値を用いて合計角度θを導出し、車両停止中の合計角度θの変化に対して、光軸角度θoの調節を指示する調節信号を出力してレベリングアクチュエータ28を駆動させる。また、制御部36は、車両走行中の合計角度θの変化に対して、レベリングアクチュエータ28の駆動を回避する。
【0122】
また、制御部36は、車両姿勢角度θvの初期設定値を車両姿勢角度θvの基準値として用い、路面角度θrの初期設定値を路面角度θrの基準値として用いて、オートレベリング制御を開始する。そして、車両停止中の合計角度θの変化に対して、車両停止中の合計角度θの変化量と車両姿勢角度θvの基準値との合計に等しい車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持する。また、車両走行中の合計角度θの変化に対して、車両走行中の合計角度θの変化量と路面角度θrの基準値との合計に等しい路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として保持する。つまり、制御部36は、車両300の走行、停止のたびに路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値を繰り返し更新する。
【0123】
例えば、車両300が実際に使用される状況において、制御部36は、車両走行中の合計角度θの変化に対して、光軸角度θoの調節を指示する調節信号の生成または出力を回避する。あるいは、当該変化に対して、光軸角度θoの維持を指示する維持信号を出力する。これにより、レベリングアクチュエータ28の駆動を回避することができる。そして、角度演算部36aは、車両停止時に傾斜センサ132の出力値から、現在(車両停止時)の合計角度θを算出する。次いで、角度演算部36aは、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して、路面角度θrを得る(θr=θ-θv基準値)。この路面角度θrは、車両走行中の合計角度θの変化量と路面角度θrの基準値との合計に等しい。
【0124】
角度演算部36aは、得られた路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として、保持している路面角度θrの基準値を更新する。これにより、路面角度θrの変化量と推定される車両走行中の合計角度θの変化量が、路面角度θrの基準値に取り込まれる。なお、角度演算部36aは、車両停止時に走行前後での合計角度θの差分Δθ1を算出し、路面角度θrの基準値に差分Δθ1を加算することで、車両走行中の合計角度θの変化量を含む路面角度θrを得てもよい(θr=θr基準値+Δθ1)。例えば角度演算部36aは、車両300の発進直後に発進直前の合計角度θを合計角度θの基準値として保持し、車両停止時の合計角度θから合計角度θの基準値を減算することで、差分Δθ1を算出することができる。
【0125】
また、角度演算部36aは車両停止中、傾斜センサ132の出力値から現在の合計角度θを所定のタイミングで繰り返し算出する。そして角度演算部36aは、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両姿勢角度θvを得る(θv=θ-θr基準値)。この車両姿勢角度θvは、車両停止中の合計角度θの変化量と車両姿勢角度θvの基準値との合計に等しい。
【0126】
角度演算部36aは、得られた車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として、保持している車両姿勢角度θvの基準値を更新する。これにより、車両姿勢角度θvの変化量と推定される車両停止中の合計角度θの変化量が、車両姿勢角度θvの基準値に取り込まれる。なお、角度演算部36aは、車両停止中に現在の合計角度θと前回算出した合計角度θとから差分Δθ2を算出し、車両姿勢角度θvの基準値に差分Δθ2を加算することで、車両停止中の合計角度θの変化量を含む車両姿勢角度θvを得てもよい(θv=θv基準値+Δθ2)。
【0127】
そして、調節指示部36bは、算出された車両姿勢角度θvあるいは更新された新たな車両姿勢角度θvの基準値を用いて、光軸角度θoの調節信号を生成する。例えば、調節指示部36bは、予めメモリ40に記録されている、車両姿勢角度θvの値と光軸角度θoの値とを対応付けた変換テーブルを用いて光軸角度θoを決定し、調節信号を生成する。生成された調節信号は、送信部38からレベリングアクチュエータ28へ出力される。
【0128】
(補正処理)
上述したように、オートレベリングの基本制御では、合計角度θから車両姿勢角度θvあるいは路面角度θrの基準値が減算されて、基準値が繰り返し更新される。あるいは合計角度θの変化の差分Δθ1が路面角度θrの基準値に、差分Δθ2が車両姿勢角度θvの基準値にそれぞれ算入されて、基準値が繰り返し更新される。これにより、路面角度θrおよび車両姿勢角度θvの変化がそれぞれの基準値に取り込まれる。このように路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値を繰り返し書き換える場合、傾斜センサ132の検出誤差等が基準値に積み重なって、オートレベリング制御の精度が低下してしまうおそれがある。そこで、レベリングECU30は、基準値および光軸角度θoの補正処理として以下に説明する制御を実行する。
【0129】
図9(A)および
図9(B)は、車両の運動加速度ベクトルの方向と車両姿勢角度との関係を説明するための模式図である。
図9(A)は、車両姿勢角度θvが0°の状態を示し、
図9(B)は、車両姿勢角度θvが0°から変化した状態を示している。また、
図9(A)および
図9(B)において、車両300が前進したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを実線矢印で示し、車両300が減速若しくは後進したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを破線矢印で示している。
図10は、車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度との関係を示すグラフである。
【0130】
車両300は路面に対して平行に移動する。よって、運動加速度ベクトルαは、車両姿勢角度θvによらず路面に対して平行なベクトルとなる。また、
図9(A)に示すように、車両300の車両姿勢角度θvが0°であった場合、理論上は車両300の前後軸Vxは路面に対して平行となる。このため、運動加速度ベクトルαは、車両300の前後軸前後軸Vxに平行なベクトルとなる。よって、車両300の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際に、傾斜センサ132によって検出される合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、車両300の前後軸Vxに対して平行な直線となる。
【0131】
一方、
図9(B)に示すように、車両姿勢角度θvが0°でない場合、車両300の前後軸Vxは路面に対して斜めにずれる。このため、運動加速度ベクトルαは、車両300の前後軸Vxに対して斜めに延びるベクトルとなる。よって、車両300の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際の合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、車両300の前後軸Vxに対して傾いた直線となる。
【0132】
車両前後方向の加速度を第1軸(X軸)に設定し、車両上下方向の加速度を第2軸(Z軸)に設定した座標に、車両走行中に得られる傾斜センサ132の出力値をプロットすると、
図10に示す結果を得ることができる。
図10において、点t
A1~t
Anは
図9(A)に示す状態での時間t
1~t
nにおける出力値である。点t
B1~t
Bnは
図9(B)に示す状態での時間t
1~t
nにおける出力値である。この出力値のプロットは、傾斜センサ132の出力値から得られる車両座標系の加速度値のプロットであってもよいし、センサ座標系の加速度値のプロットであってもよい。
【0133】
このようにプロットした少なくとも2点から直線(ベクトルでもよい)を導出し、その傾きを得ることで車両姿勢角度θvを推定することができる。例えば、プロットされた複数点t
A1~t
An,t
B1~t
Bnに対して最小二乗法や移動平均法等を用いて直線近似式A,Bを求め、当該直線近似式A,Bの傾きを算出する。車両姿勢角度θvが0°の場合、傾斜センサ132の出力値からX軸に平行な直線近似式Aが得られる。すなわち、直線近似式Aの傾きは0となる。これに対し、車両姿勢角度θvが0°でない場合、傾斜センサ132の出力値から車両姿勢角度θvに応じた傾きを有する直線近似式Bが得られる。したがって、直線近似式Aと直線近似式Bとがなす角度(
図10におけるθ
AB)、あるいは直線近似式Bの傾きそのものが、車両姿勢角度θvとなる。よって、車両走行中の傾斜センサ132の出力値をプロットして得られる直線の傾きから、車両姿勢角度θvを推定することができる。
【0134】
そこで角度演算部36aは、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標に、車両走行中に得られる傾斜センサ132の出力値をプロットする。そして、プロットした複数点から得られる直線の傾きを用いて車両姿勢角度θvまたはその変化量を導出する。角度演算部36aは、導出した車両姿勢角度θvまたはその変化量に基づいて車両姿勢角度θvの基準値を調整する。あるいは、導出した車両姿勢角度θvを新たな基準値として保持する。これにより、車両姿勢角度θvの基準値が補正される。
【0135】
例えば、角度演算部36aは、車速センサ308の出力値に基づいて車両300が走行中であることを検知すると補正処理を開始する。補正処理において、傾斜センサ132の出力値は、所定の時間間隔で繰り返し制御部36に送信される。制御部36に送信された傾斜センサ132の出力値は、RAM36cに保持される。そして、出力値の数が直線の一回の導出に必要とされる予め定められた数に達したとき、角度演算部36aは、上述した座標に傾斜センサ132の出力値をプロットして直線を導出する。なお、角度演算部36aは、傾斜センサ132の出力値を受信する毎に座標に出力値をプロットし、プロットした出力値の数が所定数に達したときに直線を導出してもよい。
【0136】
調節指示部36bは、導出された車両姿勢角度θvまたはその変化量、あるいは更新された新たな車両姿勢角度θvの基準値を用いて、光軸角度θoの調節信号を生成し出力する。これにより、光軸角度θoが補正される。以降は、補正した車両姿勢角度θvを車両姿勢角度θvの基準値とし、また現在の合計角度θとこの車両姿勢角度θvの基準値とから得られる路面角度θrを路面角度θrの基準値として(これにより路面角度θrの基準値が補正される)、上述した基本制御が再開される。
【0137】
(イグニッションスイッチ314のオンオフ切り替わり時の制御)
本実施の形態の制御部36は、イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行する際に、RAM36cに保持している路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値をメモリ40に書き込む。これにより、両基準値を不揮発的に記憶することができる。よって、イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行しても路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値を保持することができ、イグニッションスイッチ314がオン状態に移行した後にオートレベリング制御を再開することができる。
【0138】
制御部36は、イグニッション検知部44から信号を受信することでイグニッションスイッチ314がオフ状態に移行することを検知することができる。イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行することを検知してからメモリ40へ基準値を書き込む動作に必要な電力は、例えばイグニッションスイッチ314がオフ状態になってから電源312からの電力供給が停止するまでの間に電源312から供給される電力や、電源312の周辺やレベリングECU30に設けられたコンデンサ(キャパシタ)等の蓄電素子(図示せず)から供給される電力等で賄うことができる。あるいは、イグニッションスイッチ314のオフ状態において電源312からの電力供給を所定時間だけ維持する電力供給維持部をレベリングECU30に設けることで、基準値の書き込み動作に必要な電力を賄うことができる。
【0139】
オートレベリングの基本制御では、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定している。この技術思想に基づけば、イグニッションスイッチ314がオフの間に生じる合計角度θの変化も車両姿勢角度θvの変化と推定されることになる。車両300が実際に使用される状況(つまり市場モード)では、イグニッションスイッチ314がオフの間に車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀である。このため、イグニッションスイッチ314のオフからオンまでの間の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することは妥当性を有する。
【0140】
したがって、イグニッションスイッチ314がオン状態に移行したとき、起動後の最初の制御(以下では適宜、この制御を開始制御という)として、現在の傾斜センサ132の出力値から得られる合計角度θと、メモリ40から読み出した路面角度θrの基準値とを用いて現在の車両姿勢角度θvを導出し、これによりイグニッションスイッチ314がオフの間に生じた合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの基準値に取り込むことが考えられる。
【0141】
しかしながら、イグニッションスイッチ314のオフ中に路面角度θrが変化することも起こり得る。例えば、車両300が船舶やキャリアカー等で運送、牽引される場合や工場内でベルトコンベアやリフトで移動させられた場合等(つまり工場モード)は、車両停止中に路面角度θrが変化する。このため、イグニッションスイッチ314がオフの間に生じる合計角度θの変化を一律に車両姿勢角度θvの変化として処理してしまうと、オートレベリング制御の精度が低下し得る。
【0142】
そこで、制御部36は、イグニッションスイッチ314のオフ中の車両移動がなかったと移動判定部46が判定した場合に、イグニッションスイッチ314がオフ状態にある間の合計角度θの変化に対して、調節信号を出力する。また、制御部36は、イグニッションスイッチ314のオフ中の車両移動があったと移動判定部46が判定した場合に、イグニッションスイッチ314がオフ状態にある間の合計角度θの変化に対して、調節信号の生成または出力を回避するか、維持信号を出力する。
【0143】
より具体的には、制御部36は、イグニッションスイッチ314がオン状態に移行すると、開始制御として、移動判定部46の判定結果に応じて以下に示す2通りの制御を実行する。まず、移動判定部46が車両移動ありと判定した場合、制御部36は、現在の合計角度θとメモリ40から読み出した車両姿勢角度θvの基準値とから得られる路面角度θr(θr=θ-θv基準値)を新たな路面角度θrの基準値として保持する。これにより、イグニッションスイッチ314のオフ中に生じる合計角度θの変化を路面角度θrの基準値に取り込むことができる。メモリ40に記憶した車両姿勢角度θvの基準値はそのまま保持する。
【0144】
その後に基本制御が開始されると、最初の光軸制御では、メモリ40に記憶していた車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸Axが調節される。メモリ40に記憶していた車両姿勢角度θvの基準値には、イグニッションスイッチ314のオフ中の合計角度θの変化量は含まれていない。このため、イグニッションスイッチ314がオフ状態にある間の合計角度θの変化に対して調節信号の生成を回避することができる。
【0145】
一方、移動判定部46が車両移動なしと判定した場合、制御部36は、現在の合計角度θとメモリ40から読み出した路面角度θrの基準値とから得られる車両姿勢角度θv(θv=θ-θr基準値)を新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持する。これにより、イグニッションスイッチ314のオフ中に生じる合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの基準値に取り込むことができる。メモリ40に記憶した路面角度θrの基準値はそのまま保持する。
【0146】
その後に基本制御が開始されると、最初の光軸制御では、開始制御で更新された新たな車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸Axが調節される。これにより、イグニッションスイッチ314のオフ中に生じる車両姿勢角度θvの変化に対して調節信号を出力することができる。なお、開始制御において、算出した車両姿勢角度θvあるいは新たな車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸Axが調節されてもよい。
【0147】
移動判定部46によって車両移動ありと判定された場合で、且つ車両姿勢角度θvの変化が生じていた場合、この車両姿勢角度θvの変化量は路面角度θrの基準値に取り込まれてしまう。また、移動判定部46によって車両移動なしと判定された場合で、且つ路面角度θrの変化が生じていた場合、この路面角度θrの変化量は車両姿勢角度θvの基準値に取り込まれてしまう。これらの場合、実際の路面角度θrおよび車両姿勢角度θvと、制御部36が保持する路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値との間に誤差が生じてしまう。しかしながら、この誤差は、上述した補正処理によって是正することができる。
【0148】
移動判定部46は、イグニッションスイッチ314のオフ前およびオン後の位置情報を比較することで、車両移動の有無を判断することができる。また、移動判定部46は、カメラ316から取得したイグニッションスイッチ314のオフ前およびオン後の画像情報を比較することで、車両移動の有無を判断することができる。
【0149】
また、移動判定部46は、信号受信部318から受信した最新の識別信号が工場モードに設定するための信号である場合、イグニッションスイッチ314のオフ中に車両300が移動したと判断することができる。工場モードにある状況では、車両300はイグニッションスイッチ314がオフの状態で移動させられることはあるが、荷物の積み下ろしや人の乗降が行われる可能性は低い。このため、レベリングECU30が工場モードにある場合は、イグニッションスイッチ314のオフ中に車両300が移動したと推定することが可能である。なお、実際に車両300が移動したか否かにかかわらず、工場モードにあるときは一律に車両移動ありと判断してもよい。なぜならば、車両300が移動していないときに車両移動ありと判断して開始制御を実行しても、これによって実際の路面角度θrと路面角度θrの基準値とが乖離することはないためである。
【0150】
一方、移動判定部46は、信号受信部318から受信した最新の識別信号が市場モードに設定するための信号である場合、イグニッションスイッチ314のオフ中に車両300が移動していないと判断することができる。市場モードにある状況では、イグニッションスイッチ314がオフの状態で荷物の積み下ろしや人の乗降が行われることはあるが、車両300が移動させられる可能性は低い。このため、レベリングECU30が市場モードにある場合は、イグニッションスイッチ314のオフ中に車両300が移動していないと推定することが可能である。
【0151】
図11および
図12は、実施の形態2に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、たとえばライトスイッチ304によってオートレベリング制御の実行指示がなされ、且つイグニッションスイッチ314がオンのときにレベリングECU30により所定のタイミングで繰り返し実行され、オートレベリング制御の実行指示が解除される(あるいは停止指示がなされる)か、イグニッションスイッチ314がオフにされた場合に終了する。
【0152】
図11に示すように、まずレベリングECU30は、イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行したことを示すIG-OFFフラグの設定があるか判断する(S101)。制御部36は、メモリ40にIG-OFFフラグが記憶されているか否かに基づいて、IG-OFFフラグの設定の有無を判断することができる。IG-OFFフラグの設定がある場合は、本ルーチンが、イグニッションスイッチ314がオン状態に移行した後の最初のルーチンであることを意味する。
【0153】
IG-OFFフラグの設定がない場合(S101のN)、レベリングECU30は、基本制御を実行する。具体的には、レベリングECU30は、車両300が停車しているか判断する(S102)。レベリングECU30は、車速センサ308の出力値に基づいて車両300の停車を判断することができる。車両300が停車していない場合(S102のN)、すなわち車両300が走行中である場合、レベリングECU30は、補正処理を実行した後に(S103)、本ルーチンを終了する。
【0154】
車両300が停車している場合(S102のY)、レベリングECU30は、前回のルーチンのステップS102における停車判定において車両300が走行中(S102のN)であったか判断する(S104)。前回の判定が走行中であった場合(S104のY)、この場合は「車両停止時」であることを意味し、レベリングECU30は、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrを算出する(S105)。そして、得られた路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として更新し(S106)、本ルーチンを終了する。
【0155】
前回の判定が走行中でなかった場合(S104のN)、この場合は「車両停止中」であることを意味し、レベリングECU30は、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両姿勢角度θvを算出する(S107)。そして、得られた車両姿勢角度θvを用いて光軸角度θoを調節し、また得られた車両姿勢角度θvを新たな基準値として更新する(S108)。
【0156】
続いてレベリングECU30は、イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行したか判断する(S109)。イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行していない場合(S109のN)、レベリングECU30は本ルーチンを終了する。イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行した場合(S109のY)、レベリングECU30は、RAM36cに保持している路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値をメモリ40に書き込む(S110)。そして、レベリングECU30は、IG-OFFフラグを設定して(S111)、本ルーチンを終了する。レベリングECU30は、メモリ40にIG-OFFフラグを書き込むことで、IG-OFFフラグを設定することができる。
【0157】
IG-OFFフラグの設定がある場合(S101のY)、レベリングECU30は、
図12に示す開始制御に移行する。まず、レベリングECU30は、イグニッションスイッチ314のオフ中に車両300の移動があったか判断する(S201)。車両300の移動があった場合(S201のY)、レベリングECU30は、現在の合計角度θから、メモリ40から読み出した車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrを算出する(S202)。そして、得られた路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として更新する(S203)。その後、レベリングECU30は、IG-OFFフラグの設定を解除し(S204)、本ルーチンを終了する。レベリングECU30は、メモリ40に記憶しているIG-OFFフラグを削除することで、IG-OFFフラグの設定を解除することができる。
【0158】
車両300の移動がなかった場合(S201のN)、レベリングECU30は、現在の合計角度θから、メモリ40から読み出した路面角度θrの基準値を減算して車両姿勢角度θvを算出する(S205)。そして、得られた車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として更新する(S206)。その後、レベリングECU30は、IG-OFFフラグの設定を解除し(S204)、本ルーチンを終了する。
【0159】
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具1の制御装置としてのレベリングECU30は、水平面に対する車両300の傾斜角度である合計角度θを導出可能な傾斜センサ132の出力値を示す信号を受信する受信部34と、車両停止中の合計角度θの変化に対して光軸角度θOの調節信号を出力し、車両走行中の合計角度θの変化に対して調節信号の生成または出力を回避するか、光軸角度θOの維持信号を出力する制御部36と、イグニッションスイッチ314がオフ状態にある間に車両300の移動があったことを判定する移動判定部46と、を備える。制御部36は、移動判定部46が車両移動なしと判定した場合に、イグニッションスイッチ314がオフ状態にある間の合計角度θの変化に対して調節信号を出力し、移動判定部46が車両移動ありと判定した場合に、イグニッションスイッチ314がオフ状態にある間の合計角度θの変化に対して、調節信号の生成または出力を回避するか、維持信号を出力する。
【0160】
つまり、本実施の形態のレベリングECU30は、IG OFF中の車両移動の有無を判断し、その結果に応じてIG OFF中の合計角度θの変化に対する光軸調節の実行と非実行とを切り替える。これにより、車両用灯具1のオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0161】
また、本実施の形態の制御部36は、路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値をRAM36cに揮発的に保持し、車両停止中の合計角度θの変化に対して、車両停止中の合計角度θの変化量と車両姿勢角度θvの基準値との合計に等しい車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持し、車両走行中の合計角度θの変化に対して、車両走行中の合計角度θの変化量と路面角度θrの基準値との合計に等しい路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として保持する。このような制御により、傾斜センサ132を用いたオートレベリング制御を簡単な制御構造で実現することができる。
【0162】
また、レベリングECU30は、イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行する際に制御部36が揮発的に保持している路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値を不揮発的に記憶するためのメモリ40を備える。そして、制御部36は、イグニッションスイッチ314がオン状態に移行すると、移動判定部46が車両移動ありと判定した場合は、現在の合計角度θとメモリ40から読み出した車両姿勢角度θvの基準値とから得られる路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値として保持し、移動判定部46が移動なしと判定した場合は、現在の合計角度θとメモリ40から読み出した路面角度θrの基準値とから得られる車両姿勢角度θvを新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持する。これにより、オートレベリング制御の精度向上を簡単な制御構造で実現することができる。
【0163】
また、移動判定部46は、車両300の位置情報、車両300が市場にあるか工場にあるかを識別する信号、および車両周囲のオブジェクトに関する情報のいずれか1つ以上に基づいて、イグニッションスイッチ314がオフ状態にある間に車両300の移動があったことを判定する。これにより、車両300の移動を簡単且つ確実に判定することができる。
【0164】
以上、本発明の実施の形態2について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0165】
実施の形態2では、イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行する際に、制御部36は路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値をメモリ40に書き込んでいる。しかしながら、この構成に限定されず、レベリングECU30は、以下に説明する変形例1~3の制御を実行してもよい。
【0166】
(変形例1)
変形例1に係るレベリングECU30は、イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行する際に、制御部36がRAM36cに保持している車両姿勢角度θvの基準値およびイグニッションスイッチ314がオフ状態に移行する際の合計角度θをメモリ40に不揮発的に記憶する。「オフ状態に移行する際の合計角度θ」とは、例えばイグニッションスイッチ314がオフ状態に移行した際にRAM36cに保持されている最新の合計角度θである。そして、制御部36は、イグニッションスイッチ314がオン状態に移行すると、移動判定部46が車両移動ありと判定した場合は、現在の合計角度θとメモリ40から読み出した車両姿勢角度θvの基準値とから得られる路面角度θr(θr=θ-θvの基準値)を新たな路面角度θrの基準値として保持する。メモリ40に記憶した車両姿勢角度θvの基準値はそのまま保持する。
【0167】
また、制御部36は、移動判定部46が車両移動なしと判定した場合は、現在の合計角度θおよびメモリ40から読み出した合計角度θの差分Δθ3とメモリ40から読み出した車両姿勢角度θvの基準値とから得られる車両姿勢角度θv(θv=θv基準値+Δθ3)を新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持する。また、現在の合計角度θと算出した車両姿勢角度θv(新たな車両姿勢角度θvの基準値を含む)とから得られる路面角度θr(θr=θ-θv基準値)を新たな路面角度θrの基準値として保持する。このような制御によっても、オートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0168】
(変形例2)
変形例2に係るレベリングECU30は、イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行する際に制御部36がRAM36cに保持している路面角度θrの基準値およびイグニッションスイッチ314がオフ状態に移行する際の合計角度θをメモリ40に不揮発的に記憶する。そして、制御部36は、イグニッションスイッチ314がオン状態に移行すると、移動判定部46が車両移動ありと判定した場合は、現在の合計角度θおよびメモリ40から読み出した合計角度θの差分Δθ3とメモリ40から読み出した路面角度θrの基準値とから得られる路面角度θr(θr=θr基準値+Δθ3)を新たな路面角度θrの基準値として保持する。また、現在の合計角度θと算出した路面角度θ(新たな路面角度θrの基準値を含む)とから得られる車両姿勢角度θv(θv=θ-θr基準値)を新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持する。
【0169】
また、制御部36は、移動判定部46が車両移動なしと判定した場合は、現在の合計角度θとメモリ40から読み出した路面角度θrの基準値とから得られる車両姿勢角度θv(θv=θ-θr基準値)を新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持する。メモリ40に記憶した路面角度θrの基準値はそのまま保持する。このような制御によっても、オートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0170】
(変形例3)
変形例3に係るレベリングECU30は、イグニッションスイッチ314がオフ状態に移行する際に制御部36がRAM36cに保持している路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値、ならびにイグニッションスイッチ314がオフ状態に移行する際の合計角度θをメモリ40に不揮発的に記憶する。そして、制御部36は、イグニッションスイッチ314がオン状態に移行すると、移動判定部46が車両移動ありと判定した場合は、現在の合計角度θおよびメモリ40から読み出した合計角度θの差分Δθ3とメモリ40から読み出した路面角度θrの基準値とから得られる路面角度θr(θr=θr基準値+Δθ3)を新たな路面角度θrの基準値として保持する。メモリ40に記憶した車両姿勢角度θvの基準値はそのまま保持する。
【0171】
また、制御部36は、移動判定部46が車両移動なしと判定した場合は、現在の合計角度θおよびメモリ40から読み出した合計角度θの差分Δθ3とメモリ40から読み出した車両姿勢角度θvの基準値とから得られる車両姿勢角度θv(θv=θv基準値+Δθ3)を新たな車両姿勢角度θvの基準値として保持する。メモリ40に記憶した路面角度θrの基準値はそのまま保持する。このような制御によっても、オートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0172】
(その他)
技術的に整合しない場合を除き、所定の成分を用いた計算により得られる値の保持には、当該値の計算に用いられる成分を保持することも含まれる。例えば、合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrの基準値を計算する場合において、路面角度θrの基準値の保持には、計算に用いられる合計角度θおよび車両姿勢角度θvの基準値を保持することも含まれる。また、合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して車両姿勢角度θvの基準値を計算する場合において、車両姿勢角度θvの基準値の保持には、計算に用いられる合計角度θおよび路面角度θrの基準値を保持することも含まれる。また、合計角度θの保持には、傾斜センサ132の出力値の保持も含まれる。
【0173】
オートレベリングの基本制御において、制御部36が車両姿勢角度θvの基準値に差分Δθ2を加算して車両停止中の合計角度θの変化量を含む車両姿勢角度θvを得る場合、路面角度θrの基準値を用いないオートレベリング制御が可能である。このような制御によれば、オートレベリング制御の簡略化を図ることができる。また、制御部36が路面角度θrの基準値に差分Δθ1を加算して車両走行中の合計角度θの変化量を含む路面角度θrを算出し、車両停止中は合計角度θからこの路面角度θrの基準値を減算して車両姿勢角度θvを得る場合、車両姿勢角度θvの基準値を用いないオートレベリング制御が可能である。このような制御によってもオートレベリング制御の簡略化を図ることができる。
【0174】
上述した実施の形態2および変形例では、傾斜センサ132の一例として加速度センサが用いられているが、傾斜センサ132は、例えばジャイロセンサや地磁気センサなどの他のセンサであってもよい。
【0175】
上述した実施の形態2に係る発明は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[項目1]
光軸(Ax)を調節可能な車両用灯具(1)と、
水平面に対する車両(300)の傾斜角度を導出可能な傾斜センサ(132)と、
車両用灯具(1)の制御装置(30)と、
を備える、車両用灯具システム。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明は、車両用灯具の制御装置、車両用灯具システムおよび車両用灯具の制御方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0177】
1 車両用灯具、 10 光源、 14 回転リフレクタ、 20 ファン、 30 レベリングECU、 32 加速度センサ、 34 受信部、 36 制御部、 36a 角度演算部、 36b 調節指示部、 36c RAM、 40 メモリ、 46 移動判定部、 132 傾斜センサ、 300 車両、 314 イグニッションスイッチ。