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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】エレベータの制動子
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/22 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
B66B5/22 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023200377
(22)【出願日】2023-11-28
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003568
【氏名又は名称】弁理士法人加藤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直
(72)【発明者】
【氏名】島津 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】白石 直浩
(72)【発明者】
【氏名】粉川 靖之
(72)【発明者】
【氏名】倉八 誉史輝
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-102165(JP,A)
【文献】特開平06-206675(JP,A)
【文献】特開昭62-249879(JP,A)
【文献】特開2008-297108(JP,A)
【文献】特開2012-66908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/18-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降体の移動を案内するガイドレールに上下方向に沿って形成された制動面に対向する対向面が形成されている制動子本体と、
前記対向面に設けられており、上下方向へ並んでいる複数の摩擦部と
を備え、
各前記摩擦部は、前記対向面に固定されている結合剤と、前記結合剤に保持されている複数の砥粒とを有しており、
上下方向において互いに隣り合う2つの前記摩擦部のうち、上側に位置する前記摩擦部における前記砥粒の大きさは、下側に位置する前記摩擦部における前記砥粒の大きさよりも小さくなっており、
前記複数の摩擦部が前記制動面に接触することにより、前記昇降体を制動するエレベータの制動子。
【請求項2】
前記複数の摩擦部の間の少なくともいずれかには、溝が前記対向面に沿って形成されている請求項1に記載のエレベータの制動子。
【請求項3】
前記複数の摩擦部の少なくともいずれかには、溝が前記対向面に沿って形成されている請求項1又は請求項2に記載のエレベータの制動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガイドレールに接触することにより昇降体を制動するエレベータの制動子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1摺動部材及び第2摺動部材をガイドレールの摺動面に摺動させることにより、かごを制動するエレベータの制動子が開示されている。第1摺動部材は、ガイドレールを摺動することにより摺動面を粗面とする。第2摺動部材は、ガイドレールを摺動することにより摺動面を滑面とする。第1摺動部材の少なくとも一部は、かごの進行方向において第2摺動部材よりも前側に位置している。従って、かごの移動中に制動子がガイドレールの摺動面に接触すると、第1摺動部材によって摺動面が粗面となり、粗面となった摺動面に第2摺動部材が摺動することにより摺動面が滑面となって修復される。これにより、特許文献1に開示されたエレベータでは、ガイドレールの摺動面をできるだけ荒らすことなく、かごを制動する制動力を効果的に大きくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-289270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたエレベータでは、同じ制動子を複数回にわたり使用すると、第1摺動部材及び第2摺動部材が摩耗又は破損する。これにより、第1摺動部材及び第2摺動部材によって発生する制動力が低下しやすくなる。また、粗面となった摺動面を第2摺動部材が摺動しても、摺動面が修復されにくくなる。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するものであり、ガイドレールの制動面に接触して生じる制動力の低下を抑制しながら、制動面に生じた凹凸を修復する機能の低下を抑制することができるエレベータの制動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベータの制動子は、昇降体の移動を案内するガイドレールに上下方向に沿って形成された制動面に対向する対向面が形成されている制動子本体と、対向面に設けられており、上下方向へ並んでいる複数の摩擦部とを備え、各摩擦部は、対向面に固定されている結合剤と、結合剤に保持されている複数の砥粒とを有しており、上下方向において互いに隣り合う2つの摩擦部のうち、上側に位置する摩擦部における砥粒の大きさは、下側に位置する摩擦部における砥粒の大きさよりも小さくなっており、複数の摩擦部が制動面に接触することにより、昇降体を制動するものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係るエレベータの制動子によれば、ガイドレールの制動面に接触して生じる制動力の低下を抑制しながら、制動面に生じた凹凸を修復する機能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係るエレベータを示す構成図である。
図2図1のかごを示す構成図である。
図3図2の制動子を示す正面図である。
図4図2のIV-IV線に沿った断面図である。
図5図4の第1摩擦部が制動面を摺動したときの制動面の状態を示す斜視図である。
図6図5の粗面を示す拡大図である。
図7図4の第2摩擦部が粗面を摺動したときの制動面の状態を示す斜視図である。
図8図7の修復面を示す拡大図である。
図9図4の一部の第1砥粒が第1結合剤から脱落し、一部の第2砥粒が第2結合剤から脱落した制動子を示す断面図である。
図10】実施の形態2に係るエレベータの制動子を示す正面図である。
図11】実施の形態3に係るエレベータの制動子を示す正面図である。
図12】実施の形態4に係るエレベータの制動子を示す正面図である。
図13】実施の形態5に係るエレベータの制動子を示す正面図である。
図14図13のXIV-XIV線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の対象を実施するための形態について添付の図を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化又は省略する。なお、本開示の対象は、以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態の任意の構成要素の変形、又は実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るエレベータを示す構成図である。図において、昇降路1の上部には、機械室2が設けられている。機械室2には、巻上機3と、そらせ車4と、制御装置5とが設けられている。
【0011】
巻上機3は、巻上機本体31と、駆動シーブ32とを有している。駆動シーブ32は、巻上機本体31に設けられている。巻上機本体31は、モータ及びブレーキを有している。巻上機本体31のモータは、駆動シーブ32を回転させる。巻上機本体31のブレーキは、駆動シーブ32の回転を制動する。
【0012】
駆動シーブ32及びそらせ車4には、懸架体6が巻き掛けられている。懸架体6としては、複数本のロープ又は複数本のベルトが用いられている。懸架体6の一端部は、昇降体としてのかご7に接続されている。懸架体6の他端部は、昇降体としての釣合おもり8に接続されている。かご7及び釣合おもり8は、懸架体6によって昇降路1内に吊り下げられている。
【0013】
かご7及び釣合おもり8は、駆動シーブ32の回転に応じて昇降路1内を上下方向、即ち鉛直方向へ移動する。制御装置5は、巻上機3を制御することにより、かご7及び釣合おもり8を上下方向へ移動させる。
【0014】
昇降路1内には、一対のかごガイドレール9と、一対の釣合おもりガイドレール10とが複数のガイドレールとして設置されている。なお、図1には、簡単のため、一対のかごガイドレール9の一方のみと、一対の釣合おもりガイドレール10の一方のみとが示されている。各かごガイドレール9及び各釣合おもりガイドレール10は、上下方向に沿って配置されている。一対のかごガイドレール9は、上下方向へのかご7の移動を案内する。一対の釣合おもりガイドレール10は、上下方向への釣合おもり8の移動を案内する。各かごガイドレール9及び各釣合おもりガイドレール10は、例えば鋼製である。昇降路1内の底部には、かご緩衝器11及び釣合おもり緩衝器12が設置されている。
【0015】
かご7の下部には、一対の非常止め装置13が一対のかごガイドレール9に対応して設けられている。なお、図1には、一対の非常止め装置13の一方のみが示されている。一方の非常止め装置13には、作動レバー14が設けられている。一対の非常止め装置13は、不図示の連動機構を介して互いに連動する。作動レバー14が操作されると、一方の非常止め装置13と他方の非常止め装置13とが連動し、各非常止め装置13が作動する。即ち、一対の非常止め装置13は、作動レバー14が操作されることにより作動する。各非常止め装置13が作動すると、各非常止め装置13は、一対のかごガイドレール9を把持してかご7を非常停止させる。
【0016】
機械室2には、調速機15が設けられている。調速機15は、調速機本体151と、調速機シーブ152とを有している。調速機シーブ152は、調速機本体151に回転可能に設けられている。調速機シーブ152には、調速機ロープ16が巻き掛けられている。
【0017】
昇降路1内の下部には、張り車17が配置されている。調速機ロープ16は、張り車17に巻き掛けられている。調速機ロープ16の両端部は、作動レバー14に接続されている。これにより、調速機ロープ16は、調速機シーブ152及び張り車17間に環状に張られている。かご7が移動すると、かご7の移動に応じて調速機ロープ16が移動し、かご7の移動速度に応じた回転速度で調速機シーブ152が回転する。
【0018】
例えば懸架体6の破断によりかご7の下降速度が定格速度を超えて過大な非常速度に達すると、調速機本体151は、機械的な機構によって調速機ロープ16を把持する。調速機本体151が調速機ロープ16を把持すると、調速機ロープ16の移動が停止して、作動レバー14が調速機ロープ16によって操作される。これにより、各非常止め装置13が作動し、かご7が非常停止する。
【0019】
図2は、図1のかご7を示す構成図である。かごガイドレール9には、一対の制動面91が上下方向に沿って形成されている。一対の制動面91は、互いに反対側に向けてかごガイドレール9に形成されている。
【0020】
各非常止め装置13は、枠体131と、一対の制動子132と、一対の押付機構133とを有している。枠体131は、かご7の下部に固定されている。一対の制動子132及び一対の押付機構133は、枠体131に支持されている。
【0021】
一対の制動子132は、一対の制動面91に個別に対応している。非常止め装置13が作動していない状態では、各制動子132が、対応する制動面91に隙間を介して対向している。
【0022】
一対の押付機構133は、一対の制動子132に個別に対応している。各押付機構133は、非常止め装置13の作動時に、対応する制動子132をかごガイドレール9の制動面91に接触させて押し付ける。これにより、かごガイドレール9は、一対の制動子132の間に把持される。非常止め装置13は、一対の制動子132の間にかごガイドレール9を把持することにより、かご7を制動する制動力を発生する。
【0023】
各押付機構133は、押付部材134と、押付ばね135とを有している。押付部材134は、対応する制動子132を案内する傾斜部134aを有している。かごガイドレール9と傾斜部134aとの間の距離は、傾斜部134aの下端部から傾斜部134aの上端部に向かって連続的に狭くなる。
【0024】
各押付機構133において、押付ばね135は、枠体131と押付部材134との間に設けられている。押付ばね135は、非常止め装置13の作動時に、対応する制動子132をかごガイドレール9の制動面91に押付部材134を介して押し付ける弾性復元力を発生する。
【0025】
かご7の下降速度が非常速度に達し、作動レバー14が操作されると、制動子132が押付部材134に対して引き上げられる。このとき、制動子132は、傾斜部134aの案内によってかごガイドレール9の制動面91に接触した後、かごガイドレール9と押付部材134との間を押し広げながら上方へ移動する。これにより、押付ばね135が圧縮され、制動子132が押付ばね135の弾性復元力によってかごガイドレール9の制動面91に押し付けられる。制動子132が制動面91に押し付けられると、制動子132と制動面91との間に摩擦力がかご7を制動する制動力として発生し、かご7が非常停止される。
【0026】
かご7には、複数のガイド装置18が設けられている。本実施の形態では、ガイド装置18がかご7の上部及び下部に2つずつ設けられている。なお、図2には、かご7の上部に設けられた2つのガイド装置18の一方のみと、かご7の下部に設けられた2つのガイド装置18の一方のみとが示されている。
【0027】
かご7の上部では、一方のガイド装置18が一方のかごガイドレール9に対応し、他方のガイド装置18が他方のかごガイドレール9に対応している。かご7の下部でも、一方のガイド装置18が一方のかごガイドレール9に対応し、他方のガイド装置18が他方のかごガイドレール9に対応している。
【0028】
各ガイド装置18は、複数のガイドローラ181を有している。各ガイド装置18は、対応するかごガイドレール9の制動面91にガイドローラ181を接触させながら、対応するかごガイドレール9に案内される。これにより、かご7は、各ガイド装置18を介して一対のかごガイドレール9に上下方向へ案内される。一対のかごガイドレール9のそれぞれにおける各制動面91は、通常運転時に、上下方向へのかご7の移動を案内する案内面として機能する。なお、各ガイド装置18は、制動面91を滑りながらかごガイドレール9に案内されるガイドシューであってもよい。
【0029】
図3は、図2の制動子132を示す正面図である。図4は、図3のIV-IV線に沿った断面図である。制動子132は、制動子本体21と、第1摩擦部22と、第2摩擦部23とを有している。
【0030】
制動子本体21には、かごガイドレール9の制動面91に対向する対向面211が形成されている。
【0031】
第1摩擦部22及び第2摩擦部23は、制動子本体21の対向面211に設けられた複数の摩擦部である。本実施の形態では、対向面211に設けられた摩擦部の数が第1摩擦部22及び第2摩擦部23の2つとなっている。
【0032】
第1摩擦部22及び第2摩擦部23は、対向面211に沿って上下方向へ並んでいる。これにより、第1摩擦部22及び第2摩擦部23は、上下方向において互いに隣り合って配置されている。第2摩擦部23は、第1摩擦部22よりも上側に位置している。これにより、制動子132では、かご7が下降するときの制動子132の進行方向Aにおいて、第1摩擦部22が第2摩擦部23よりも前側に位置している。本実施の形態では、第1摩擦部22と第2摩擦部23とが隙間なく上下方向へ連続して対向面211に設けられている。
【0033】
本実施の形態では、図4に示すように、段差212が対向面211に形成されている。段差212の位置は、第1摩擦部22と第2摩擦部23との境界の位置と一致している。これにより、第2摩擦部23が設けられた対向面211の部分は、第1摩擦部22が設けられた対向面211の部分よりも制動面91に近い位置に位置している。一方、第2摩擦部23の厚さは、第1摩擦部22の厚さよりも薄くなっている。これにより、制動子132が制動面91に接触している状態では、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれが制動面91に接触する。
【0034】
第1摩擦部22は、第1結合剤221と、複数の第1砥粒222とを有している。第1結合剤221は、複数の第1砥粒222を対向面211に固定する結合剤である。第1結合剤221は、対向面211に固定されている。
【0035】
第1砥粒222は、第1結合剤221よりも硬い砥粒である。複数の第1砥粒222は、第1結合剤221に保持されている。これにより、複数の第1砥粒222は、第1結合剤221を介して対向面211に固定されている。複数の第1砥粒222は、第1結合剤221に分散している。
【0036】
第1摩擦部22では、複数の第1砥粒222のうち、少なくとも一部の第1砥粒222が第1結合剤221から露出している。第1摩擦部22には、第1結合剤221から露出している第1砥粒222によって高さの異なる凹凸が生じている。これにより、第1摩擦部22が制動面91に接触している状態では、第1結合剤221から露出している第1砥粒222のうち、一部の第1砥粒222が制動面91に接触する。
【0037】
第2摩擦部23は、第2結合剤231と、複数の第2砥粒232とを有している。第2結合剤231は、複数の第2砥粒232を対向面211に固定する結合剤である。第2結合剤231は、対向面211に固定されている。
【0038】
第2砥粒232は、第2結合剤231よりも硬い砥粒である。複数の第2砥粒232は、第2結合剤231に保持されている。これにより、複数の第2砥粒232は、第2結合剤231を介して対向面211に固定されている。複数の第2砥粒232は、第2結合剤231に分散している。
【0039】
第2摩擦部23では、複数の第2砥粒232のうち、少なくとも一部の第2砥粒232が第2結合剤231から露出している。第2摩擦部23には、第2結合剤231から露出している第2砥粒232によって高さの異なる凹凸が生じている。これにより、第2摩擦部23が制動面91に接触している状態では、第2結合剤231から露出している第2砥粒232のうち、一部の第2砥粒232が制動面91に接触する。
【0040】
第1結合剤221及び第2結合剤231のそれぞれの素材としては、金属又はセラミックスを焼成した素材、樹脂素材、金属めっき素材などが用いられている。本実施の形態では、第1結合剤221の素材と同じ素材が第2結合剤231の素材として用いられている。また、本実施の形態では、第1結合剤221及び第2結合剤231が連続して繋がっている。
【0041】
第1砥粒222及び第2砥粒232のそれぞれの素材は、かごガイドレール9の素材よりも硬度の高い素材である。第1砥粒222及び第2砥粒232のそれぞれの素材としては、アルミナ質研削材、炭化ケイ素質研削材、ダイヤモンド、CBN(Cubic Boron Nitride:立方晶窒化ホウ素)などが用いられている。本実施の形態では、第1砥粒222の素材と同じ素材が第2砥粒232の素材として用いられている。
【0042】
第1摩擦部22及び第2摩擦部23のうち、上側に位置する第2摩擦部23における第2砥粒232の大きさは、下側に位置する第1摩擦部22における第1砥粒222の大きさよりも小さくなっている。即ち、かご7が下降するときの制動子132の進行方向Aにおいて、前側に位置する第1摩擦部22における第1砥粒222の大きさは、後側に位置する第2摩擦部23における第2砥粒232の大きさよりも大きくなっている。
【0043】
次に、かご7の下降中に制動子132がかごガイドレール9の制動面91に押し付けられたときの動作について説明する。かご7の下降中に制動子132が制動面91に押し付けられると、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれが制動面91に押し付けられる。これにより、第1砥粒222及び第2砥粒232が制動面91に食い込んで、制動子132と制動面91との間に摩擦力がかご7を制動する制動力として発生する。
【0044】
この後、制動子132と制動面91との間に摩擦力が発生した状態で、かご7の下降に伴って第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を下方へ摺動する。これにより、かご7が非常停止される。このとき、制動面91に対する第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれによる掘り起こし作用によって、制動子132と制動面91との間の摩擦力が確保される。従って、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれが制動面91に接触することにより、かご7が制動される。
【0045】
例えば、中国でのエレベータ据付後に行われる監督検査では、エレベータの設置現場において非常止め装置13の動作確認を行う必要がある。非常止め装置13の動作確認は、非常止め装置13を実際に作動させて、制動子132をかごガイドレール9の制動面91に接触させる。このため、監督検査において非常止め装置13の動作確認を行うと、かご7を案内する案内面として機能する制動面91に傷が付き、かご7の乗り心地が低下するおそれがある。
【0046】
図5は、図4の第1摩擦部22が制動面91を摺動したときの制動面91の状態を示す斜視図である。図6は、図5の粗面92を示す拡大図である。第1摩擦部22が制動面91を下方へ摺動するときには、複数の第1砥粒222が制動面91を削りながら移動する。これにより、複数の凹凸を持つ粗面92が第1摩擦部22の摺動軌跡として制動面91に生じる。従って、粗面92における凹凸の大きさは、第1砥粒222の大きさに応じた大きさとなる。
【0047】
第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を下方へ摺動するときには、第2摩擦部23が第1摩擦部22の上側に位置しているため、制動面91において第1摩擦部22が摺動した場所を第2摩擦部23が摺動する。これにより、第2摩擦部23は、第1摩擦部22の摺動軌跡である粗面92を摺動する。
【0048】
図7は、図4の第2摩擦部23が粗面92を摺動したときの制動面91の状態を示す斜視図である。図8は、図7の修復面93を示す拡大図である。第2摩擦部23が粗面92を下方へ摺動するときには、複数の第2砥粒232が粗面92における凹凸の一部を削りながら移動する。粗面92における凹凸の大きさは、第1砥粒222の大きさに応じた大きさである。従って、第1砥粒222の大きさよりも小さい複数の第2砥粒232が粗面92における凹凸の一部を削ることにより、粗面92における凹凸が小さくなる。これにより、粗面92は、第2摩擦部23の摺動によって修復されて修復面93となる。修復面93における凹凸の大きさは、粗面92における凹凸の大きさよりも小さくなっている。
【0049】
このようにして、制動子132は、第1摩擦部22によって制動面91から粗くなった粗面92を第2摩擦部23によって修復しながら制動面91を摺動する。従って、制動子132がかごガイドレール9の制動面91を摺動した後には、粗面92よりも粗さが小さくなった修復面93が制動面91に形成される。これにより、非常止め装置13の復帰後、かご7の移動時にガイドローラ181が修復面93を通過するときにも、かご7に生じる振動の増大が抑制される。これにより、かご7の乗り心地が低下しにくくなる。
【0050】
一方、欧州におけるEN規格(European Norm/European Standard)、中国におけるGB規格(Guo jia Biao zhun)などによれば、型式試験において同じ制動子を連続して3回にわたり使用した場合でも、かご7を制動する制動力を確保できるようにすることが要求されている。
【0051】
本実施の形態では、第1摩擦部22及び第2摩擦部23が複数回にわたり制動面91を摺動すると、第1摩擦部22では、複数の第1砥粒222のうち、制動面91に接触する第1砥粒222が摩耗したり脱落したりする。また、第2摩擦部23では、複数の第2砥粒232のうち、制動面91に接触する第2砥粒232が摩耗したり脱落したりする。
【0052】
図9は、図4の一部の第1砥粒222が第1結合剤221から脱落し、一部の第2砥粒232が第2結合剤231から脱落した制動子132を示す断面図である。なお、図9には、第1結合剤221から脱落した第1砥粒222の脱落前の状態と、第2結合剤231から脱落した第2砥粒232の脱落前の状態とが破線で示されている。
【0053】
第1摩擦部22では、一部の第1砥粒222が第1結合剤221から脱落したり摩耗したりすると、複数の第1砥粒222のうち、制動面91に接触せずに控えていた新たな第1砥粒222が制動面91に接触する。これにより、第1摩擦部22では、第1砥粒222が制動面91に食い込む機能の低下が抑制され、制動面91に対する第1摩擦部22による掘り起こし作用の低下が抑制される。即ち、第1摩擦部22では、第1砥粒222の自生作用によって第1摩擦部22の機能の低下が抑制される。従って、第1摩擦部22と制動面91との間の摩擦力の低下が抑制される。
【0054】
また、第2摩擦部23では、一部の第2砥粒232が第2結合剤231から脱落したり摩耗したりすると、複数の第2砥粒232のうち、制動面91に接触せずに控えていた新たな第2砥粒232が制動面91に接触する。これにより、第2摩擦部23では、第2砥粒232が粗面92を削って粗面92を修復する機能の低下が第2砥粒232の自生作用によって抑制される。即ち、第2摩擦部23では、第1摩擦部22によって制動面91に生じた凹凸を修復する機能の低下が第2砥粒232の自生作用によって抑制される。
【0055】
さらに、第2摩擦部23では、粗面92に対する第2摩擦部23による掘り起こし作用の低下も抑制され、第2摩擦部23と粗面92との間の摩擦力の低下も抑制される。従って、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれと制動面91との間の摩擦力の低下が第1砥粒222及び第2砥粒232のそれぞれの自生作用によって抑制され、制動子132が制動面91に接触して生じる制動力の低下が抑制される。
【0056】
このようなエレベータの制動子132では、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のうち、上側に位置する第2摩擦部23における第2砥粒232の大きさが、下側に位置する第1摩擦部22における第1砥粒222の大きさよりも小さくなっている。第1摩擦部22では、複数の第1砥粒222が第1結合剤221に保持されている。第2摩擦部23では、複数の第2砥粒232が第2結合剤231に保持されている。このため、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれが制動面91に接触したときに、制動面91に対する第1砥粒222及び第2砥粒232のそれぞれの掘り起こし作用によって、かご7を制動する制動力を発生することができる。また、第2砥粒232の大きさが第1砥粒222の大きさよりも小さくなっているため、第1摩擦部22によって制動面91に生じた凹凸を第2摩擦部23によって修復することができる。さらに、制動子132が複数回にわたり使用された場合でも、制動子132が制動面91に接触して生じる制動力の低下を第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれにおける自生作用により抑制することができる。また、第1摩擦部22によって制動面91に生じた凹凸を修復する機能の低下を第2摩擦部23における自生作用により抑制することもできる。
【0057】
なお、実施の形態1では、制動子本体21の対向面211に段差212が形成されている。しかし、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれが制動面91に接触可能であれば、対向面211に段差212がなくてもよい。
【0058】
実施の形態2.
図10は、実施の形態2に係るエレベータの制動子を示す正面図である。第1摩擦部22及び第2摩擦部23は、互いに間隔をあけて対向面211に設けられている。これにより、第1摩擦部22と第2摩擦部23との間には、横溝25が対向面211に沿って形成されている。
【0059】
ここで、対向面211において、上下方向に沿った方向を対向面211の縦方向とし、上下方向に対して交差する方向を対向面211の横方向とする。この場合、横溝25は、対向面211の横方向に沿った溝である。横溝25の底面は、対向面211によって形成されている。横溝25内は、空間となっている。
【0060】
第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を摺動すると、かごガイドレール9が削られて切粉が異物30として生じる。また、制動面91に堆積した油、埃などが異物30となって第1摩擦部22及び第2摩擦部23に付着することもある。第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を摺動するときに生じた異物30は、横溝25へ排出されやすくなる。他の構成及び動作は、実施の形態1と同様である。
【0061】
このようなエレベータの制動子132では、第1摩擦部22と第2摩擦部23との間に横溝25が対向面211に沿って形成されている。このため、第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を摺動するときに生じた異物30を横溝25へ排出しやすくすることができる。これにより、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれの機能の低下をさらに抑制することができる。従って、制動子132が複数回にわたり使用された場合でも、制動子132が制動面91に接触して生じる制動力の低下を抑制しながら、第1摩擦部22によって制動面91に生じた凹凸を修復する機能の低下を抑制することができる。
【0062】
実施の形態3.
図11は、実施の形態3に係るエレベータの制動子を示す正面図である。第1摩擦部22は、制動面91に接触可能な複数の摩擦単位部223に分割されている。本実施の形態では、第1摩擦部22が2つの摩擦単位部223に分割されている。2つの摩擦単位部223は、対向面211の横方向へ互いに間隔をあけて並んでいる。これにより、2つの摩擦単位部223の間には、縦溝26が対向面211に沿って形成されている。
【0063】
第2摩擦部23は、制動面91に接触可能な複数の摩擦単位部233に分割されている。本実施の形態では、第2摩擦部23が2つの摩擦単位部233に分割されている。2つの摩擦単位部233は、対向面211の横方向へ互いに間隔をあけて並んでいる。これにより、2つの摩擦単位部233の間には、縦溝26が対向面211に沿って形成されている。
【0064】
即ち、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれには、縦溝26が対向面211に沿って形成されている。各縦溝26は、対向面211の縦方向に沿った溝である。縦溝26の底面は、対向面211によって形成されている。縦溝26内は、空間となっている。
【0065】
第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を摺動すると、実施の形態2と同様に異物30が生じる。第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を摺動するときに生じた異物30は、横溝25及び縦溝26へ排出されやすくなる。他の構成及び動作は、実施の形態2と同様である。
【0066】
このようなエレベータの制動子132では、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれに縦溝26が形成されている。このため、第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を摺動するときに生じた異物30を横溝25だけでなく縦溝26へも排出しやすくすることができる。これにより、制動子132が複数回にわたり使用された場合でも、制動子132が制動面91に接触して生じる制動力の低下をさらに抑制しながら、第1摩擦部22によって制動面91に生じた凹凸を修復する機能の低下をさらに抑制することができる。
【0067】
なお、実施の形態3では、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれに縦溝26が形成されている。しかし、第1摩擦部22にのみ縦溝26を形成してもよいし、第2摩擦部23にのみ縦溝26を形成してもよい。即ち、第1摩擦部22及び第2摩擦部23の少なくともいずれかに縦溝26を形成することができる。
【0068】
実施の形態4.
図12は、実施の形態4に係るエレベータの制動子を示す正面図である。第1摩擦部22は、制動面91に接触可能な複数の摩擦単位部223に分割されている。本実施の形態では、第1摩擦部22が4つの摩擦単位部223に分割されている。4つの摩擦単位部223は、対向面211の縦方向及び横方向のいずれの方向へも互いに間隔をあけて並んでいる。これにより、4つの摩擦単位部223の間には、縦溝26及び横溝27が対向面211に沿って形成されている。
【0069】
第2摩擦部23は、制動面91に接触可能な複数の摩擦単位部233に分割されている。本実施の形態では、第2摩擦部23が4つの摩擦単位部233に分割されている。4つの摩擦単位部233は、対向面211の縦方向及び横方向のいずれの方向へも互いに間隔をあけて並んでいる。これにより、4つの摩擦単位部233の間には、縦溝26及び横溝27が対向面211に沿って形成されている。
【0070】
即ち、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれには、縦溝26及び横溝27が対向面211に沿って形成されている。各縦溝26は、対向面211の縦方向に沿った溝である。各横溝27は、対向面211の横方向に沿った溝である。縦溝26及び横溝27のそれぞれの底面は、対向面211によって形成されている。縦溝26内及び横溝27内は、空間となっている。
【0071】
第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を摺動すると、実施の形態3と同様に異物30が生じる。第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を摺動するときに生じた異物30は、横溝25、縦溝26及び横溝27へ排出されやすくなる。他の構成及び動作は、実施の形態3と同様である。
【0072】
このようなエレベータの制動子132では、第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれに縦溝26及び横溝27が対向面211に沿って形成されている。このため、第1摩擦部22及び第2摩擦部23が制動面91を摺動するときに生じた異物30を横溝25、縦溝26及び横溝27のそれぞれへ排出しやすくすることができる。これにより、制動子132が複数回にわたり使用された場合でも、制動子132が制動面91に接触して生じる制動力の低下をさらに抑制しながら、第1摩擦部22によって制動面91に生じた凹凸を修復する機能の低下をさらに抑制することができる。
【0073】
なお、実施の形態3及び4では、第1摩擦部22に形成された縦溝26の数が1つである。しかし、第1摩擦部22に形成される縦溝26の数を複数にしてもよい。この場合、第1摩擦部22では、対向面211の横方向へ互いに間隔をあけて並ぶ3つ以上の摩擦単位部223の間に縦溝26がそれぞれ形成される。
【0074】
また、実施の形態3及び4では、第2摩擦部23に形成された縦溝26の数が1つである。しかし、第2摩擦部23に形成される縦溝26の数を複数にしてもよい。この場合、第2摩擦部23では、対向面211の横方向へ互いに間隔をあけて並ぶ3つ以上の摩擦単位部233の間に縦溝26がそれぞれ形成される。
【0075】
また、実施の形態4では、第1摩擦部22に形成された横溝27の数が1つである。しかし、第1摩擦部22に形成される横溝27の数を複数にしてもよい。この場合、第1摩擦部22では、対向面211の縦方向へ互いに間隔をあけて並ぶ3つ以上の摩擦単位部223の間に横溝27がそれぞれ形成される。
【0076】
また、実施の形態4では、第2摩擦部23に形成された横溝27の数が1つである。しかし、第2摩擦部23に形成される横溝27の数を複数にしてもよい。この場合、第2摩擦部23では、対向面211の縦方向へ互いに間隔をあけて並ぶ3つ以上の摩擦単位部233の間に横溝27がそれぞれ形成される。
【0077】
また、実施の形態4では、縦溝26及び横溝27が第1摩擦部22及び第2摩擦部23のそれぞれに形成されている。しかし、第1摩擦部22及び第2摩擦部23の少なくともいずれかにおいて、縦溝26はなくてもよい。
【0078】
実施の形態5.
図13は、実施の形態5に係るエレベータの制動子を示す正面図である。図14は、図13のXIV-XIV線に沿った断面図である。制動子132は、制動子本体21と、第1摩擦部22と、第2摩擦部23と、第3摩擦部24とを有している。
【0079】
第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24は、制動子本体21の対向面211に設けられた複数の摩擦部である。本実施の形態では、対向面211に設けられた摩擦部の数が第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24の3つとなっている。
【0080】
第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24は、上下方向へ対向面211に沿って並んでいる。これにより、第1摩擦部22及び第2摩擦部23が上下方向において互いに隣り合って配置されており、第2摩擦部23及び第3摩擦部24が上下方向において互いに隣り合って配置されている。
【0081】
第2摩擦部23は第1摩擦部22の上側に位置し、第3摩擦部24は第2摩擦部23の上側に位置している。これにより、制動子132では、かご7が下降するときの制動子132の進行方向Aにおいて、第2摩擦部23が第3摩擦部24よりも前側に位置し、第1摩擦部22が第2摩擦部23よりも前側に位置している。本実施の形態では、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24が隙間なく上下方向へ連続して対向面211に設けられている。
【0082】
本実施の形態では、図14に示すように、段差212及び段差213が対向面211に形成されている。段差212の位置は、第1摩擦部22と第2摩擦部23との境界の位置と一致している。段差213の位置は、第2摩擦部23と第3摩擦部24との境界の位置と一致している。これにより、第2摩擦部23が設けられた対向面211の部分は、第1摩擦部22が設けられた対向面211の部分よりも制動面91に近い位置に位置している。第3摩擦部24が設けられた対向面211の部分は、第2摩擦部23が設けられた対向面211の部分よりも制動面91に近い位置に位置している。
【0083】
一方、第2摩擦部23の厚さは第1摩擦部22の厚さよりも薄くなっており、第3摩擦部24の厚さは第2摩擦部23の厚さよりも薄くなっている。これにより、制動子132が制動面91に接触している状態では、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれが制動面91に接触する。
【0084】
第3摩擦部24は、第3結合剤241と、複数の第3砥粒242とを有している。第3結合剤241は、複数の第3砥粒242を対向面211に固定する結合剤である。第3結合剤241は、対向面211に固定されている。
【0085】
第3砥粒242は、第3結合剤241よりも硬い砥粒である。複数の第3砥粒242は、第3結合剤241に保持されている。これにより、複数の第3砥粒242は、第3結合剤241を介して対向面211に固定されている。複数の第3砥粒242は、第3結合剤241に分散している。
【0086】
第3摩擦部24では、複数の第3砥粒242のうち、少なくとも一部の第3砥粒242が第3結合剤241から露出している。第3摩擦部24には、第3結合剤241から露出している第3砥粒242によって高さの異なる凹凸が生じている。これにより、第3摩擦部24が制動面91に接触している状態では、第3結合剤241から露出している第3砥粒242のうち、一部の第3砥粒242が制動面91に接触する。第1摩擦部22及び第2摩擦部23の構成は、実施の形態1と同様である。
【0087】
本実施の形態では、第1結合剤221及び第2結合剤231のそれぞれの素材と同じ素材が第3結合剤241の素材として用いられている。また、本実施の形態では、第1結合剤221、第2結合剤231及び第3結合剤241が連続して繋がっている。
【0088】
第3砥粒242の素材は、かごガイドレール9の素材よりも硬度の高い素材である。本実施の形態では、第1砥粒222及び第2砥粒232のそれぞれの素材と同じ素材が第3砥粒242の素材として用いられている。
【0089】
上下方向において互いに隣り合う第2摩擦部23及び第3摩擦部24のうち、上側に位置する第3摩擦部24における第3砥粒242の大きさは、下側に位置する第2摩擦部23における第2砥粒232の大きさよりも小さくなっている。即ち、かご7が下降するときの制動子132の進行方向Aにおいて、前側に位置する第2摩擦部23における第2砥粒232の大きさは、後側に位置する第3摩擦部24における第3砥粒242の大きさよりも大きくなっている。
【0090】
これにより、上下方向へ並ぶ複数の摩擦部である第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のうち、上側に位置する摩擦部ほど、摩擦部における砥粒の大きさが小さくなっている。即ち、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のうち、かご7が下降するときの制動子132の進行方向Aにおいて前側に近い摩擦部ほど、摩擦部における砥粒の大きさが大きくなっている。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0091】
次に、かご7の下降中に制動子132が制動面91に押し付けられたときの動作について説明する。かご7の下降中に制動子132が制動面91に押し付けられると、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれが制動面91に押し付けられる。これにより、第1砥粒222、第2砥粒232及び第3砥粒242が制動面91に食い込んで、制動子132と制動面91との間に摩擦力がかご7を制動する制動力として発生する。
【0092】
この後、制動子132と制動面91との間に摩擦力が発生した状態で、かご7の下降に伴って、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24が制動面91を下方へ摺動する。これにより、かご7が非常停止される。このとき、制動面91に対する第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれによる掘り起こし作用によって、制動子132と制動面91との間の摩擦力が確保される。従って、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれが制動面91に接触することにより、かご7が制動される。
【0093】
第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24が制動面91を下方へ摺動するときには、第1摩擦部22によって制動面91に生じた粗面92の凹凸が第2摩擦部23及び第3摩擦部24によって順次削られて粗面92が修復される。従って、制動子132は、第1摩擦部22によって制動面91から粗くなった粗面92を第2摩擦部23及び第3摩擦部24によって順次修復しながら制動面91を摺動する。
【0094】
第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれには、第1砥粒222、第2砥粒232及び第3砥粒242のそれぞれの自生作用がある。これにより、制動子132を複数回にわたり使用した場合でも、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれと制動面91との間の摩擦力の低下が抑制され、制動子132が制動面91に接触して生じる制動力の低下が抑制される。また、第1摩擦部22によって制動面91に生じた凹凸を修復する第2摩擦部23及び第3摩擦部24の機能の低下も、第2砥粒232及び第3砥粒242のそれぞれの自生作用により抑制される。
【0095】
このようなエレベータの制動子132では、対向面211に設けられている摩擦部の数が第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24の3つとなっている。このため、制動面91に対する第1砥粒222、第2砥粒232及び第3砥粒242のそれぞれの掘り起こし作用によって、かご7を制動する制動力を発生することができる。また、第1摩擦部22によって制動面91に生じた凹凸を第2摩擦部23及び第3摩擦部24によって修復することができる。第3砥粒242の大きさが第2砥粒232の大きさよりも小さいため、修復面における凹凸の大きさをさらに小さくすることができ、修復面をさらに滑らかにすることができる。さらに、制動子132が複数回にわたり使用された場合でも、制動子132が制動面91に接触して生じる制動力の低下を第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれにおける自生作用により抑制することができる。また、第1摩擦部22によって制動面91に生じた凹凸を修復する機能の低下を第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれにおける自生作用により抑制することもできる。
【0096】
なお、実施の形態5では、制動子本体21の対向面211に段差212及び段差213が形成されている。しかし、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれが制動面91に接触可能であれば、対向面211に段差212がなくてもよいし、対向面211に段差213がなくてもよい。
【0097】
また、実施の形態5において、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれの間の少なくともいずれかに、実施の形態2における横溝25を形成してもよい。このようにすれば、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24が制動面91を摺動する場合でも、異物30を横溝25へ排出することができる。これにより、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれの機能の低下をさらに抑制することができる。
【0098】
また、実施の形態5において、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれの少なくともいずれかに、実施の形態3における縦溝26を形成してもよい。この場合、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれの間の少なくともいずれかに、実施の形態2における横溝25を形成してもよい。
【0099】
また、実施の形態5において、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24の少なくともいずれかに、実施の形態4における縦溝26及び横溝27を形成してもよい。また、この場合、第1摩擦部22、第2摩擦部23及び第3摩擦部24のそれぞれの間の少なくともいずれかに、実施の形態2における横溝25を形成してもよい。
【0100】
また、実施の形態1~4では、制動子132における摩擦部の数が2つであり、実施の形態5では、制動子132における摩擦部の数が3つである。しかし、摩擦部の数はこれに限定されず、制動子132における摩擦部の数が4つ以上であってもよい。制動子132における摩擦部の数が増えるほど、制動面91に生じた凹凸を修復する摩擦部の数を増やすことができ、制動面91に生じた凹凸をより確実に修復することができる。
【0101】
従って、制動子132における摩擦部の数が複数であればよい。この場合、複数の摩擦部は、上下方向へ並んで対向面211に設けられる。また、この場合、各摩擦部は、対向面211に固定されている結合剤と、結合剤に保持されている複数の砥粒とを有する。さらに、この場合、上下方向において互いに隣り合う2つの摩擦部のうち、上側に位置する摩擦部における砥粒の大きさは、下側に位置する摩擦部における砥粒の大きさよりも小さくされる。即ち、上下方向へ並ぶ複数の摩擦部のうち、上側に位置する摩擦部ほど、摩擦部における砥粒の大きさが小さくされる。このようにすれば、制動子132が複数回にわたり使用された場合でも、制動子132が制動面91に接触して生じる制動力の低下を各摩擦部における自生作用により抑制することができる。また、制動面91に生じた凹凸を修復する機能の低下を摩擦部における自生作用により抑制することもできる。
【0102】
また、制動子132における摩擦部の数が複数である場合、複数の摩擦部の間の少なくともいずれかに、実施の形態2における横溝25が形成されていてもよい。
【0103】
また、制動子132における摩擦部の数が複数である場合、複数の摩擦部の少なくともいずれかには、実施の形態4における縦溝26及び横溝27の少なくともいずれかが形成されていてもよい。この場合、複数の摩擦部の少なくともいずれかが、制動面91に接触可能な複数の摩擦単位部に分割され、複数の摩擦単位部の間に縦溝26及び横溝27の少なくともいずれかが形成される。
【0104】
また、各上記実施の形態では、制動子132を有する非常止め装置13がかご7に設けられている。しかし、制動子132を有する非常止め装置13を昇降体である釣合おもり8に設けてもよい。この場合、釣合おもり8は、制動子132が釣合おもりガイドレール10に接触することにより制動される。
【0105】
以上、上記の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。実施の形態は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、実施の形態の構成の一部を省略または変更することが可能である。
【符号の説明】
【0106】
7 かご(昇降体)、8 釣合おもり(昇降体)、9 かごガイドレール(ガイドレール)、10 釣合おもりガイドレール(ガイドレール)、21 制動子本体、22 第1摩擦部(摩擦部)、23 第2摩擦部(摩擦部)、24 第3摩擦部(摩擦部)、25 横溝(溝)、26 縦溝(溝)、27 横溝(溝)、91 制動面、211 対向面、221 第1結合剤(結合剤)、222 第1砥粒(砥粒)、223 摩擦単位部、231 第2結合剤(結合剤)、232 第2砥粒(砥粒)、241 第3結合剤(結合剤)、242 第3砥粒(砥粒)。
【要約】
【課題】ガイドレールの制動面に接触して生じる制動力の低下を抑制しながら、制動面に生じた凹凸を修復する機能の低下を抑制することができるエレベータの制動子を提供する。
【解決手段】エレベータの制動子132において、制動子本体21には、かごガイドレール9の制動面91に対向する対向面211が形成されている。第1摩擦部22及び第2摩擦部23は、対向面211に設けられており、上下方向へ並んでいる。第1摩擦部22では、複数の第1砥粒222が第1結合剤221に保持されている。第2摩擦部23では、複数の第2砥粒232が第2結合剤231に保持されている。第1摩擦部22及び第2摩擦部23のうち、上側に位置する第2摩擦部23における第2砥粒232の大きさは、下側に位置する第1摩擦部22における第1砥粒222の大きさよりも小さくなっている。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14