特許 7550951 エレベータの制動子

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B1)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-09-05

(45)【発行日】2024-09-13

(54)【発明の名称】エレベータの制動子

(51)【国際特許分類】

   B66B 5/22 20060101AFI20240906BHJP

【ＦＩ】

B66B5/22 A

【請求項の数】 7

(21)【出願番号】P 2023200378

(22)【出願日】2023-11-28

【審査請求日】2023-11-28

(73)【特許権者】

【識別番号】000236056

【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】110003568

【氏名又は名称】弁理士法人加藤国際特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】藤原 直

(72)【発明者】

【氏名】島津 秀昭

(72)【発明者】

【氏名】白石 直浩

(72)【発明者】

【氏名】粉川 靖之

(72)【発明者】

【氏名】倉八 誉史輝

【審査官】太田 義典

(56)【参考文献】

【文献】特開２０１１－１０２１６５（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００８－２９７１０８（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開平０６－２０６６７５（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開昭６２－２４９８７９（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｂ６６Ｂ ５／２２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

昇降体の移動を案内するガイドレールに上下方向に沿って形成された制動面に対向する対向面が形成されている制動子本体と、
前記対向面に設けられている第１摩擦部と、
前記対向面に設けられており、前記第１摩擦部の上側に位置している第２摩擦部と
を備え、
前記第１摩擦部には、複数の第１突起が形成された第１突起形成部が前記制動面に向けて設けられており、
前記第２摩擦部は、砥石部を有しており、
前記砥石部には、複数の第２突起が形成された第２突起形成部が前記制動面に向けて設けられており、
前記砥石部は、前記対向面に固定されている結合剤と、前記結合剤に保持されている複数の砥粒とを有しており、
前記第２突起形成部では、前記複数の砥粒の少なくとも一部が前記複数の第２突起として前記結合剤から露出しており、
前記第２突起は、前記第１突起よりも小さくなっており、
前記第１突起及び前記第２突起が前記制動面に接触することにより、前記昇降体を制動するエレベータの制動子。

【請求項2】

前記第１突起の頂部は、前記第２突起よりも前記制動面に近い位置に位置している請求項１に記載のエレベータの制動子。

【請求項3】

前記第２突起形成部は、上下方向において前記第２摩擦部の下端部から前記第２摩擦部の上端部に向かって前記制動面に近づく方向へ前記制動面に対して傾斜している請求項１に記載のエレベータの制動子。

【請求項4】

前記第２摩擦部は、上下方向へ並んでいる複数の前記砥石部を有しており、
上下方向において互いに隣り合う２つの前記砥石部のうち、上側に位置する前記砥石部における前記砥粒の大きさは、下側に位置する前記砥石部における前記砥粒の大きさよりも小さくなっている請求項１から請求項３までのいずれか一項に記載のエレベータの制動子。

【請求項5】

前記複数の砥石部の間の少なくともいずれかには、溝が前記対向面に沿って形成されている請求項４に記載のエレベータの制動子。

【請求項6】

前記複数の砥石部の少なくともいずれかには、溝が前記対向面に沿って形成されている請求項４に記載のエレベータの制動子。

【請求項7】

前記第１摩擦部には、溝が前記対向面に沿って形成されている請求項１から請求項３までのいずれか一項に記載のエレベータの制動子。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本開示は、ガイドレールに接触することにより昇降体を制動するエレベータの制動子に関する。

【背景技術】

【0002】

特許文献１には、第１摺動部材及び第２摺動部材をガイドレールの摺動面に摺動させることにより、かごを制動するエレベータの制動子が開示されている。第１摺動部材は、ガイドレールを摺動することにより摺動面を粗面とする。第２摺動部材は、ガイドレールを摺動することにより摺動面を滑面とする。第１摺動部材の少なくとも一部は、かごの進行方向において第２摺動部材よりも前側に位置している。従って、かごの移動中に制動子がガイドレールの摺動面に接触すると、第１摺動部材によって摺動面が粗面となり、粗面となった摺動面に第２摺動部材が摺動することにより摺動面が滑面となって修復される。これにより、特許文献１に開示されたエレベータでは、ガイドレールの摺動面をできるだけ荒らすことなく、かごを制動する制動力を効果的に大きくすることができる。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【文献】特開２００１－２８９２７０号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

特許文献１に開示されたエレベータでは、同じ制動子を複数回にわたり使用すると、第１摺動部材及び第２摺動部材が摩耗又は破損する。これにより、第１摺動部材及び第２摺動部材によって発生した制動力が低下しやすくなる。また、粗面となった摺動面を第２摺動部材が摺動しても、摺動面が修復されにくくなる。

【0005】

本開示は、上記のような課題を解決するものであり、ガイドレールの制動面に接触して生じる制動力の低下を抑制しながら、制動面に生じた凹凸を修復する機能の低下を抑制することができるエレベータの制動子を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本開示に係るエレベータの制動子は、昇降体の移動を案内するガイドレールに上下方向に沿って形成された制動面に対向する対向面が形成されている制動子本体と、対向面に設けられている第１摩擦部と、対向面に設けられており、第１摩擦部の上側に位置している第２摩擦部とを備え、第１摩擦部には、複数の第１突起が形成された第１突起形成部が制動面に向けて設けられており、第２摩擦部は、砥石部を有しており、砥石部には、複数の第２突起が形成された第２突起形成部が制動面に向けて設けられており、砥石部は、対向面に固定されている結合剤と、結合剤に保持されている複数の砥粒とを有しており、第２突起形成部では、複数の砥粒の少なくとも一部が複数の第２突起として結合剤から露出しており、第２突起は、第１突起よりも小さくなっており、第１突起及び第２突起が制動面に接触することにより、昇降体を制動するものである。

【発明の効果】

【0007】

本開示に係るエレベータの制動子によれば、ガイドレールの制動面に接触して生じる制動力の低下を抑制しながら、制動面に生じた凹凸を修復する機能の低下を抑制することができる。

【図面の簡単な説明】

【0008】

【図1】実施の形態１に係るエレベータを示す構成図である。

【図2】図１のかごを示す構成図である。

【図3】図２の制動子を示す正面図である。

【図4】図３のＩＶ－ＩＶ線に沿った断面図である。

【図5】図２の第１突起形成部における第１突起を示す拡大斜視図である。

【図6】図４の第１摩擦部が制動面を摺動したときの制動面の状態を示す斜視図である。

【図7】図６の粗面を示す拡大図である。

【図8】図４の第２摩擦部が粗面を摺動したときの制動面の状態を示す斜視図である。

【図9】図８の修復面を示す拡大図である。

【図10】図４の一部の砥粒が結合剤から脱落した制動子を示す断面図である。

【図11】実施の形態２に係るエレベータの制動子を示す断面図である。

【図12】実施の形態３に係るエレベータの制動子を示す断面図である。

【図13】図１２のＸＩＩＩ部を拡大して示す断面図である。

【図14】実施の形態４に係るエレベータの制動子を示す正面図である。

【図15】図１４のＸＶ－ＸＶ線に沿った断面図である。

【図16】実施の形態５に係るエレベータの制動子を示す正面図である。

【図17】実施の形態６に係るエレベータの制動子を示す正面図である。

【図18】各実施の形態における第１突起の他の例を示す拡大斜視図である。

【図19】各実施の形態における第１突起の他の例を示す拡大斜視図である。

【図20】各実施の形態における第１突起の他の例を示す拡大斜視図である。

【図21】各実施の形態における第１突起の他の例を示す拡大斜視図である。

【図22】図２１の第１突起が実施の形態１における第１摩擦部に適用された制動子を示す正面図である。

【発明を実施するための形態】

【0009】

本開示の対象を実施するための形態について添付の図を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化又は省略する。なお、本開示の対象は、以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態の任意の構成要素の変形、又は実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。

【0010】

実施の形態１．
図１は、実施の形態１に係るエレベータを示す構成図である。図において、昇降路１の上部には、機械室２が設けられている。機械室２には、巻上機３と、そらせ車４と、制御装置５とが設けられている。

【0011】

巻上機３は、巻上機本体３１と、駆動シーブ３２とを有している。駆動シーブ３２は、巻上機本体３１に設けられている。巻上機本体３１は、モータ及びブレーキを有している。巻上機本体３１のモータは、駆動シーブ３２を回転させる。巻上機本体３１のブレーキは、駆動シーブ３２の回転を制動する。

【0012】

駆動シーブ３２及びそらせ車４には、懸架体６が巻き掛けられている。懸架体６としては、複数本のロープ又は複数本のベルトが用いられている。懸架体６の一端部は、昇降体としてのかご７に接続されている。懸架体６の他端部は、昇降体としての釣合おもり８に接続されている。かご７及び釣合おもり８は、懸架体６によって昇降路１内に吊り下げられている。

【0013】

かご７及び釣合おもり８は、駆動シーブ３２の回転に応じて昇降路１内を上下方向、即ち鉛直方向へ移動する。制御装置５は、巻上機３を制御することにより、かご７及び釣合おもり８を上下方向へ移動させる。

【0014】

昇降路１内には、一対のかごガイドレール９と、一対の釣合おもりガイドレール１０とが複数のガイドレールとして設置されている。なお、図１には、簡単のため、一対のかごガイドレール９の一方のみと、一対の釣合おもりガイドレール１０の一方のみとが示されている。各かごガイドレール９及び各釣合おもりガイドレール１０は、上下方向に沿って配置されている。一対のかごガイドレール９は、上下方向へのかご７の移動を案内する。一対の釣合おもりガイドレール１０は、上下方向への釣合おもり８の移動を案内する。各かごガイドレール９及び各釣合おもりガイドレール１０は、例えば鋼製である。昇降路１内の底部には、かご緩衝器１１及び釣合おもり緩衝器１２が設置されている。

【0015】

かご７の下部には、一対の非常止め装置１３が一対のかごガイドレール９に対応して設けられている。なお、図１には、一対の非常止め装置１３の一方のみが示されている。一方の非常止め装置１３には、作動レバー１４が設けられている。一対の非常止め装置１３は、不図示の連動機構を介して互いに連動する。作動レバー１４が操作されると、一方の非常止め装置１３と他方の非常止め装置１３とが連動し、各非常止め装置１３が作動する。即ち、一対の非常止め装置１３は、作動レバー１４が操作されることにより作動する。各非常止め装置１３が作動すると、各非常止め装置１３は、一対のかごガイドレール９を把持してかご７を非常停止させる。

【0016】

機械室２には、調速機１５が設けられている。調速機１５は、調速機本体１５１と、調速機シーブ１５２とを有している。調速機シーブ１５２は、調速機本体１５１に回転可能に設けられている。調速機シーブ１５２には、調速機ロープ１６が巻き掛けられている。

【0017】

昇降路１内の下部には、張り車１７が配置されている。調速機ロープ１６は、張り車１７に巻き掛けられている。調速機ロープ１６の両端部は、作動レバー１４に接続されている。これにより、調速機ロープ１６は、調速機シーブ１５２及び張り車１７間に環状に張られている。かご７が移動すると、かご７の移動に応じて調速機ロープ１６が移動し、かご７の移動速度に応じた回転速度で調速機シーブ１５２が回転する。

【0018】

例えば懸架体６の破断によりかご７の下降速度が定格速度を超えて過大な非常速度に達すると、調速機本体１５１は、機械的な機構によって調速機ロープ１６を把持する。調速機本体１５１が調速機ロープ１６を把持すると、調速機ロープ１６の移動が停止して、作動レバー１４が調速機ロープ１６によって操作される。これにより、各非常止め装置１３が作動し、かご７が非常停止する。

【0019】

図２は、図１のかご７を示す構成図である。かごガイドレール９には、一対の制動面９１が上下方向に沿って形成されている。一対の制動面９１は、互いに反対側に向けてかごガイドレール９に形成されている。

【0020】

各非常止め装置１３は、枠体１３１と、一対の制動子１３２と、一対の押付機構１３３とを有している。枠体１３１は、かご７の下部に固定されている。一対の制動子１３２及び一対の押付機構１３３は、枠体１３１に支持されている。

【0021】

一対の制動子１３２は、一対の制動面９１に個別に対応している。非常止め装置１３が作動していない状態では、各制動子１３２が、対応する制動面９１に隙間を介して対向している。

【0022】

一対の押付機構１３３は、一対の制動子１３２に個別に対応している。各押付機構１３３は、非常止め装置１３の作動時に、対応する制動子１３２をかごガイドレール９の制動面９１に接触させて押し付ける。これにより、かごガイドレール９は、一対の制動子１３２の間に把持される。非常止め装置１３は、一対の制動子１３２の間にかごガイドレール９を把持することにより、かご７を制動する制動力を発生する。

【0023】

各押付機構１３３は、押付部材１３４と、押付ばね１３５とを有している。押付部材１３４は、対応する制動子１３２を案内する傾斜部１３４ａを有している。かごガイドレール９と傾斜部１３４ａとの間の距離は、傾斜部１３４ａの下端部から傾斜部１３４ａの上端部に向かって連続的に狭くなる。

【0024】

各押付機構１３３において、押付ばね１３５は、枠体１３１と押付部材１３４との間に設けられている。押付ばね１３５は、非常止め装置１３の作動時に、対応する制動子１３２をかごガイドレール９の制動面９１に押付部材１３４を介して押し付ける弾性復元力を発生する。

【0025】

かご７の下降速度が非常速度に達し、作動レバー１４が操作されると、制動子１３２が押付部材１３４に対して引き上げられる。このとき、制動子１３２は、傾斜部１３４ａの案内によってかごガイドレール９の制動面９１に接触した後、かごガイドレール９と押付部材１３４との間を押し広げながら上方へ移動する。これにより、押付ばね１３５が圧縮され、制動子１３２が押付ばね１３５の弾性復元力によってかごガイドレール９の制動面９１に押し付けられる。制動子１３２が制動面９１に押し付けられると、制動子１３２と制動面９１との間に摩擦力がかご７を制動する制動力として発生し、かご７が非常停止される。

【0026】

かご７には、複数のガイド装置１８が設けられている。本実施の形態では、ガイド装置１８がかご７の上部及び下部に２つずつ設けられている。なお、図２には、かご７の上部に設けられた２つのガイド装置１８の一方のみと、かご７の下部に設けられた２つのガイド装置１８の一方のみとが示されている。

【0027】

かご７の上部では、一方のガイド装置１８が一方のかごガイドレール９に対応し、他方のガイド装置１８が他方のかごガイドレール９に対応している。かご７の下部でも、一方のガイド装置１８が一方のかごガイドレール９に対応し、他方のガイド装置１８が他方のかごガイドレール９に対応している。

【0028】

各ガイド装置１８は、複数のガイドローラ１８１を有している。各ガイド装置１８は、対応するかごガイドレール９の制動面９１にガイドローラ１８１を接触させながら、対応するかごガイドレール９に案内される。これにより、かご７は、各ガイド装置１８を介して一対のかごガイドレール９に上下方向へ案内される。一対のかごガイドレール９のそれぞれにおける各制動面９１は、通常運転時に、上下方向へのかご７の移動を案内する案内面として機能する。なお、各ガイド装置１８は、制動面９１を滑りながらかごガイドレール９に案内されるガイドシューであってもよい。

【0029】

図３は、図２の制動子１３２を示す正面図である。図４は、図３のＩＶ－ＩＶ線に沿った断面図である。制動子１３２は、制動子本体２１と、第１摩擦部２２と、第２摩擦部２３とを有している。

【0030】

制動子本体２１には、かごガイドレール９の制動面９１に対向する対向面２１１が形成されている。本実施の形態では、対向面２１１を制動面９１と平行にして制動子本体２１が配置されている。

【0031】

第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３は、制動子本体２１の対向面２１１に設けられている。第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３は、対向面２１１に沿って上下方向へ並んでいる。第２摩擦部２３は、第１摩擦部２２の上側に位置している。これにより、制動子１３２では、かご７が下降するときの制動子１３２の進行方向Ａにおいて、第１摩擦部２２が第２摩擦部２３よりも前側に位置している。本実施の形態では、第１摩擦部２２と第２摩擦部２３とが隙間なく上下方向へ連続して対向面２１１に設けられている。制動子１３２が制動面９１に接触している状態では、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３のそれぞれが制動面９１に接触する。

【0032】

第１摩擦部２２には、複数の第１突起２２２が形成された第１突起形成部２２１が制動面９１に向けて設けられている。第１突起形成部２２１は、制動面９１に接触することにより制動面９１との間で摩擦力を発生する。

【0033】

ここで、対向面２１１において、上下方向に沿った方向を対向面２１１の縦方向とし、上下方向に対して交差する方向を対向面２１１の横方向とする。本実施の形態では、対向面２１１の縦方向及び横方向のいずれの方向においても第１突起２２２が第１突起形成部２２１に複数並んでいる。

【0034】

図５は、図２の第１突起形成部２２１における第１突起２２２を示す拡大斜視図である。本実施の形態では、各第１突起２２２の形状が四角錐状である。第１摩擦部２２は、各第１突起２２２の頂部を制動面９１に向けて配置されている。従って、第１摩擦部２２が制動面９１に接触するときには、第１突起形成部２２１における各第１突起２２２の頂部が制動面９１に接触する。

【0035】

第１摩擦部２２の素材は、かごガイドレール９の素材よりも硬度の高い素材である。第１摩擦部２２の素材としては、セラミック材料、耐熱及び耐摩耗性に優れた合金材料、これらを主原料とした複合材料などが用いられる。第１摩擦部２２の素材として用いられるセラミック材料としては、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化炭素、サーメット、サイアロンなどのセラミック材料が挙げられる。第１摩擦部２２の素材として用いられる合金材料としては、タングステン、チタンなどを主原料とした合金材料が挙げられる。なお、かごガイドレール９の素材よりも硬度の高い素材であれば、工具鋼などの鋼材を第１摩擦部２２の素材として用いてもよい。

【0036】

本実施の形態では、第１摩擦部２２の全体の素材が同じ素材となっている。これにより、第１突起形成部２２１における各第１突起２２２は、かごガイドレール９よりも硬くなっている。

【0037】

第２摩擦部２３は、図４に示すように、１つの砥石部である。砥石部としての第２摩擦部２３には、複数の第２突起２３２が形成された第２突起形成部２３１が制動面９１に向けて設けられている。第２突起形成部２３１は、制動面９１に接触することにより制動面９１との間で摩擦力を発生する。

【0038】

第２摩擦部２３は、結合剤２３３と、複数の砥粒２３４とを有している。結合剤２３３は、対向面２１１に固定されている。結合剤２３３の素材は、第１摩擦部２２及び砥粒２３４のそれぞれの素材よりも硬度の低い素材である。結合剤２３３の素材としては、金属又はセラミックスを焼成した素材、樹脂素材、金属めっき素材などが用いられている。

【0039】

複数の砥粒２３４は、結合剤２３３に保持されている。これにより、複数の砥粒２３４は、結合剤２３３を介して対向面２１１に固定されている。複数の砥粒２３４は、結合剤２３３に分散している。砥粒２３４の素材は、かごガイドレール９の素材よりも硬度の高い素材である。砥粒２３４の素材としては、アルミナ質研削材、炭化ケイ素質研削材、ダイヤモンド、ＣＢＮ（Ｃｕｂｉｃ Ｂｏｒｏｎ Ｎｉｔｒｉｄｅ：立方晶窒化ホウ素）などが用いられている。

【0040】

第２突起形成部２３１では、複数の砥粒２３４の少なくとも一部が複数の第２突起２３２として結合剤２３３から露出している。第２突起形成部２３１における複数の第２突起２３２の高さは、互いに異なっている。従って、第２摩擦部２３が制動面９１に接触するときには、第２突起形成部２３１における複数の第２突起２３２のうち、一部の第２突起２３２が制動面９１に接触する。即ち、結合剤２３３から露出している複数の砥粒２３４のうち、一部の砥粒２３４が制動面９１に接触する。

【0041】

第２突起２３２は、第１突起２２２よりも小さくなっている。従って、第２突起２３２の高さは、第１突起２２２の高さよりも低くなっている。制動子１３２は、第１突起形成部２２１における第１突起２２２と、第２突起形成部２３１における第２突起２３２とを制動面９１に接触させることにより、かご７を制動する。

【0042】

次に、かご７の下降中に制動子１３２がかごガイドレール９の制動面９１に押し付けられたときの動作について説明する。かご７の下降中に制動子１３２が制動面９１に押し付けられると、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３のそれぞれが制動面９１に押し付けられる。これにより、第１突起形成部２２１における第１突起２２２と、第２突起形成部２３１における第２突起２３２とが制動面９１に食い込んで、制動子１３２と制動面９１との間に摩擦力がかご７を制動する制動力として発生する。

【0043】

この後、制動子１３２と制動面９１との間に摩擦力が発生した状態で、かご７の下降に伴って第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を下方へ摺動する。これにより、かご７が非常停止される。このとき、制動面９１に対する第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３のそれぞれによる掘り起こし作用によって、制動子１３２と制動面９１との間の摩擦力が確保される。

【0044】

例えば、中国でのエレベータ据付後に行われる監督検査では、エレベータの設置現場において非常止め装置１３の動作確認を行う必要がある。非常止め装置１３の動作確認は、非常止め装置１３を実際に作動させて、制動子１３２をかごガイドレール９の制動面９１に接触させる。このため、監督検査において非常止め装置１３の動作確認を行うと、かご７を案内する案内面として機能する制動面９１に傷が付き、かご７の乗り心地が低下するおそれがある。

【0045】

図６は、図４の第１摩擦部２２が制動面９１を摺動したときの制動面９１の状態を示す斜視図である。図７は、図６の粗面９２を示す拡大図である。第１摩擦部２２が制動面９１を下方へ摺動するときには、複数の第１突起２２２が制動面９１を削りながら移動する。これにより、複数の凹凸を持つ粗面９２が第１摩擦部２２の摺動軌跡として制動面９１に生じる。従って、粗面９２における凹凸の大きさは、第１突起２２２の大きさに応じた大きさとなる。

【0046】

第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を下方へ摺動するときには、第２摩擦部２３が第１摩擦部２２の上側に位置しているため、制動面９１において第１摩擦部２２が摺動した場所を第２摩擦部２３が摺動する。これにより、第２摩擦部２３は、第１摩擦部２２の摺動軌跡である粗面９２を摺動する。

【0047】

図８は、図４の第２摩擦部２３が粗面９２を摺動したときの制動面９１の状態を示す斜視図である。図９は、図８の修復面９３を示す拡大図である。第２摩擦部２３が粗面９２を下方へ摺動するときには、複数の第２突起２３２が粗面９２における凹凸の一部を削りながら移動する。粗面９２における凹凸の大きさは、複数の第１突起２２２の大きさに応じた大きさである。従って、第１突起２２２の大きさよりも小さい複数の第２突起２３２が粗面９２における凹凸の一部を削ることにより、粗面９２における凹凸が小さくなる。これにより、粗面９２は、第２摩擦部２３の摺動によって修復されて修復面９３となる。修復面９３における凹凸の大きさは、粗面９２における凹凸の大きさよりも小さくなっている。

【0048】

このようにして、制動子１３２は、第１摩擦部２２によって制動面９１から粗くなった粗面９２を第２摩擦部２３によって修復しながら制動面９１を摺動する。従って、制動子１３２がかごガイドレール９の制動面９１を摺動した後には、粗面９２よりも粗さが小さくなった修復面９３が制動面９１に形成される。これにより、非常止め装置１３の復帰後、かご７の移動時にガイドローラ１８１が修復面９３を通過するときにも、かご７に生じる振動の増大が抑制される。これにより、かご７の乗り心地が低下しにくくなる。

【0049】

一方、欧州におけるＥＮ規格（European Norm／European Standard）、中国におけるＧＢ規格（Guo jia Biao zhun）などによれば、型式試験において同じ制動子を連続して３回にわたり使用した場合でも、かご７を制動する制動力を確保できるようにすることが要求されている。

【0050】

本実施の形態では、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が複数回にわたり制動面９１を摺動すると、第２摩擦部２３において、複数の砥粒２３４のうち、制動面９１に第２突起２３２として接触する砥粒２３４が摩耗したり脱落したりする。

【0051】

図１０は、図４の一部の砥粒２３４が結合剤２３３から脱落した制動子１３２を示す断面図である。なお、図１０には、結合剤２３３から脱落した砥粒２３４の脱落前の状態が破線で示されている。

【0052】

第２摩擦部２３では、一部の砥粒２３４が結合剤２３３から脱落したり摩耗したりすると、複数の砥粒２３４のうち、制動面９１に接触せずに第２突起２３２として控えていた新たな砥粒２３４が制動面９１に接触する。これにより、第２摩擦部２３では、第２突起２３２が制動面９１に食い込む機能の低下が抑制され、制動面９１に対する第２摩擦部２３による掘り起こし作用の低下が抑制される。即ち、第２摩擦部２３では、砥粒２３４の自生作用によって第２摩擦部２３の機能の低下が抑制される。

【0053】

従って、制動子１３２が複数回にわたり使用されても、第２摩擦部２３と制動面９１との間の摩擦力の低下が抑制される。これにより、制動子１３２が制動面９１に接触して生じる制動力の低下が抑制される。また、第２突起２３２が粗面９２を削って粗面９２を修復する機能の低下も抑制される。これにより、制動子１３２では、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を修復する機能の低下も抑制される。

【0054】

このようなエレベータの制動子１３２では、第２摩擦部２３が第１摩擦部２２の上側に位置している。第２摩擦部２３には、複数の第２突起２３２が形成された第２突起形成部２３１が制動面９１に向けて設けられている。第２突起形成部２３１では、複数の砥粒２３４の少なくとも一部が複数の第２突起２３２として結合剤２３３から露出している。第２突起２３２は、第１摩擦部２２における第１突起２２２よりも小さくなっている。このため、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３のそれぞれが制動面９１に接触したときに、制動面９１に対する第１突起２２２及び第２突起２３２のそれぞれの掘り起こし作用によって、かご７を制動する制動力を発生することができる。また、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を第２摩擦部２３によって修復することができる。さらに、制動子１３２が複数回にわたり使用された場合でも、制動子１３２が制動面９１に接触して生じる制動力の低下を第２摩擦部２３における砥粒２３４の自生作用により抑制することができる。また、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を修復する機能の低下を第２摩擦部２３における砥粒２３４の自生作用により抑制することもできる。

【0055】

実施の形態２．
図１１は、実施の形態２に係るエレベータの制動子を示す断面図である。制動子本体２１の対向面２１１には、段差２１２が形成されている。段差２１２の位置は、第１摩擦部２２と第２摩擦部２３との境界の位置と一致している。対向面２１１は、段差２１２を境界として上下方向へ並ぶ第１面部２１１ａ及び第２面部２１１ｂを有している。第２面部２１１ｂは、第１面部２１１ａの上側に位置している。第２面部２１１ｂは、第１面部２１１ａよりも制動面９１から遠い位置に位置している。本実施の形態では、第１面部２１１ａ及び第２面部２１１ｂのそれぞれが制動面９１と平行になっている。

【0056】

第１摩擦部２２は、第１面部２１１ａに設けられている。第２摩擦部２３は、第２面部２１１ｂに設けられている。第２摩擦部２３は、制動面９１から遠い側へ第１摩擦部２２に対してずれた位置に配置されている。これにより、第１突起形成部２２１と第２突起形成部２３１との間には、段差２３５が形成されている。

【0057】

制動面９１から第２突起２３２までの距離は、制動面９１から第１突起２２２までの距離よりも大きくなっている。即ち、第１突起２２２の頂部は、第２突起２３２よりも制動面９１に近い位置に位置している。

【0058】

ここで、制動面９１から第２突起２３２までの距離と、制動面９１から第１突起２２２までの距離との差を突起差ｄとする。第２突起２３２が粗面９２における凹凸を削る量は、突起差ｄが大きくなるほど少なくなる。従って、制動子１３２が制動面９１を摺動した後に生じる修復面９３における凹凸の大きさは、突起差ｄが大きくなるほど大きくなる。

【0059】

突起差ｄは、修復面９３における凹凸の大きさが過大とならないように設定許容範囲内に設定されている。突起差ｄが設定許容範囲内に設定されている場合、修復面９３における凹凸が過大とならず、通常運転時にガイド装置１８が修復面９３を通過しても、かご７に生じる振動の大きさが許容できる大きさに留まる。他の構成及び動作は、実施の形態１と同様である。

【0060】

このようなエレベータの制動子１３２では、第１突起２２２の頂部が第２突起２３２よりも制動面９１に近い位置に位置している。このため、第１摩擦部２２の第１突起２２２によって制動面９１に生じた凹凸を、第２摩擦部２３の第２突起２３２が必要以上に削ることを防止することができる。これにより、第２摩擦部２３の第２突起形成部２３１において、例えば切粉による目詰まりの防止を図ることができる。従って、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を修復する第２摩擦部２３の機能の低下をさらに抑制することができる。

【0061】

実施の形態３．
図１２は、実施の形態３に係るエレベータの制動子を示す断面図である。第２面部２１１ｂは、上下方向において第２面部２１１ｂの下端部から第２面部２１１ｂの上端部に向けて制動面９１に近づく方向へ制動面９１に対して傾斜している。これにより、第２面部２１１ｂの上端部は、第２面部２１１ｂの下端部よりも制動面９１に近い位置に位置している。

【0062】

また、第２摩擦部２３における第２突起形成部２３１も、上下方向において第２摩擦部２３の下端部から第２摩擦部２３の上端部に向かって制動面９１に近づく方向へ制動面９１に対して傾斜している。これにより、第２摩擦部２３の上端部における第２突起２３２は、第２摩擦部２３の下端部における第２突起２３２よりも制動面９１に近い位置に位置している。本実施の形態では、第１摩擦部２２における各第１突起２２２の頂部が、第２摩擦部２３におけるいずれの第２突起２３２よりも制動面９１に近い位置に位置している。

【0063】

第２摩擦部２３の下端部の位置は、制動面９１から遠い側へ第１摩擦部２２に対してずれた位置となっている。これにより、第１突起形成部２２１と第２突起形成部２３１との間には、段差２３５が形成されている。

【0064】

図１３は、図１２のＸＩＩＩ部を拡大して示す断面図である。第１摩擦部２２が制動面９１を下方へ摺動するときには、第１突起２２２が制動面９１を削りながら第１摩擦部２２が下方へ移動する。従って、第１摩擦部２２によって生じた粗面９２には、第１突起２２２がかごガイドレール９の素材を掘り起こして盛り上がった返り部９４が段差として生じる。

【0065】

第２摩擦部２３が粗面９２を下方へ摺動するときには、複数の第２突起２３２が粗面９２における凹凸の一部を削りながら移動する。これにより、粗面９２は、第２摩擦部２３の摺動によって修復される。このとき、返り部９４の位置では、制動面９１に対して傾斜する第２突起形成部２３１が第２摩擦部２３の移動に伴って粗面９２に徐々に近づきながら、第２突起２３２が返り部９４を徐々に切削する。これにより、返り部９４が粗面９２から除去される。他の構成及び動作は、実施の形態２と同様である。

【0066】

このようなエレベータの制動子１３２では、上下方向において第２摩擦部２３の下端部から第２摩擦部２３の上端部に向かって制動面９１に近づく方向へ第２突起形成部２３１が制動面９１に対して傾斜している。このため、第１摩擦部２２によってかごガイドレール９に生じた返り部９４を、第２突起形成部２３１における第２突起２３２によって徐々に切削して除去することができる。これにより、返り部９４を切削する第２突起形成部２３１の負担を軽減することができる。また、第２突起形成部２３１の領域のうち、返り部９４の高さよりも粗面９２に近い領域に設けられた第２突起２３２のみによって返り部９４を切削することができる。これにより、第２突起形成部２３１が必要以上に返り部９４に接触することを抑制することができる。従って、第２突起形成部２３１において、例えば切粉による目詰まりの防止を図ることができ、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を修復する第２摩擦部２３の機能の低下をさらに抑制することができる。

【0067】

実施の形態４．
図１４は、実施の形態４に係るエレベータの制動子を示す正面図である。図１５は、図１４のＸＶ－ＸＶ線に沿った断面図である。第２摩擦部２３は、３つの砥石部２４，２５，２６を有している。３つの砥石部２４，２５，２６は、制動子本体２１の対向面２１１に設けられている。３つの砥石部２４，２５，２６は、対向面２１１に沿って上下方向へ並んでいる。本実施の形態では、砥石部２４と砥石部２５とが上下方向において互いに隣り合っており、砥石部２５と砥石部２６とが上下方向において互いに隣り合っている。

【0068】

砥石部２５は、砥石部２４の上側に位置している。砥石部２６は、砥石部２５の上側に位置している。これにより、制動子１３２では、かご７が下降するときの制動子１３２の進行方向Ａにおいて、砥石部２４が砥石部２５よりも前側に位置し、砥石部２５が砥石部２６よりも前側に位置している。本実施の形態では、砥石部２４，２５，２６が隙間なく上下方向へ連続して対向面２１１に設けられている。

【0069】

砥石部２４には、複数の第２突起２４２が形成された第２突起形成部２４１が制動面９１に向けて設けられている。第２突起形成部２４１は、制動面９１に接触することにより制動面９１との間で摩擦力を発生する。

【0070】

砥石部２４は、結合剤２４３と、複数の砥粒２４４とを有している。結合剤２４３は、対向面２１１に固定されている。複数の砥粒２４４は、結合剤２４３に保持されている。これにより、複数の砥粒２４４は、結合剤２４３を介して対向面２１１に固定されている。複数の砥粒２４４は、結合剤２４３に分散している。

【0071】

第２突起形成部２４１では、複数の砥粒２４４の少なくとも一部が複数の第２突起２４２として結合剤２４３から露出している。第２突起形成部２４１における複数の第２突起２４２の高さは、互いに異なっている。第２突起形成部２４１が制動面９１に接触するときには、第２突起形成部２４１における複数の第２突起２４２のうち、一部の第２突起２４２が制動面９１に接触する。

【0072】

砥石部２４の上側に位置する砥石部２５には、複数の第２突起２５２が形成された第２突起形成部２５１が制動面９１に向けて設けられている。第２突起形成部２５１は、制動面９１に接触することにより制動面９１との間で摩擦力を発生する。

【0073】

砥石部２５は、結合剤２５３と、複数の砥粒２５４とを有している。結合剤２５３は、対向面２１１に固定されている。複数の砥粒２５４は、結合剤２５３に保持されている。これにより、複数の砥粒２５４は、結合剤２５３を介して対向面２１１に固定されている。複数の砥粒２５４は、結合剤２５３に分散している。

【0074】

第２突起形成部２５１では、複数の砥粒２５４の少なくとも一部が複数の第２突起２５２として結合剤２５３から露出している。第２突起形成部２５１における複数の第２突起２５２の高さは、互いに異なっている。第２突起形成部２５１が制動面９１に接触するときには、第２突起形成部２５１における複数の第２突起２５２のうち、一部の第２突起２５２が制動面９１に接触する。

【0075】

砥石部２５の上側に位置する砥石部２６には、複数の第２突起２６２が形成された第２突起形成部２６１が制動面９１に向けて設けられている。第２突起形成部２６１は、制動面９１に接触することにより制動面９１との間で摩擦力を発生する。

【0076】

砥石部２６は、結合剤２６３と、複数の砥粒２６４とを有している。結合剤２６３は、対向面２１１に固定されている。複数の砥粒２６４は、結合剤２６３に保持されている。これにより、複数の砥粒２６４は、結合剤２６３を介して対向面２１１に固定されている。複数の砥粒２６４は、結合剤２６３に分散している。

【0077】

第２突起形成部２６１では、複数の砥粒２６４の少なくとも一部が複数の第２突起２６２として結合剤２６３から露出している。第２突起形成部２６１における複数の第２突起２６２の高さは、互いに異なっている。第２突起形成部２６１が制動面９１に接触するときには、第２突起形成部２６１における複数の第２突起２６２のうち、一部の第２突起２６２が制動面９１に接触する。

【0078】

各砥粒２４４，２５４，２６４の素材は、かごガイドレール９の素材よりも硬度の高い素材である。各砥粒２４４，２５３，２６３の素材としては、アルミナ質研削材、炭化ケイ素質研削材、ダイヤモンド、ＣＢＮ（Ｃｕｂｉｃ Ｂｏｒｏｎ Ｎｉｔｒｉｄｅ：立方晶窒化ホウ素）などが用いられている。

【0079】

各結合剤２４３，２５３，２６３の素材は、第１摩擦部２２及び砥粒２４４，２５４，２６４のそれぞれの素材よりも硬度の低い素材である。各結合剤２４３，２５３，２６３の素材としては、金属又はセラミックスを焼成した素材、樹脂素材、金属めっき素材などが用いられている。

【0080】

上下方向において互いに隣り合う２つの砥石部２４，２５のうち、上側に位置する砥石部２５における砥粒２５４の大きさは、下側に位置する砥石部２４における砥粒２４４の大きさよりも小さくなっている。即ち、かご７が下降するときの制動子１３２の進行方向Ａにおいて、前側に位置する砥石部２４における砥粒２４４の大きさは、後側に位置する砥石部２５における砥粒２５４の大きさよりも大きくなっている。

【0081】

また、上下方向において互いに隣り合う２つの砥石部２５，２６のうち、上側に位置する砥石部２６における砥粒２６４の大きさは、下側に位置する砥石部２５における砥粒２５４の大きさよりも小さくなっている。即ち、かご７が下降するときの制動子１３２の進行方向Ａにおいて、前側に位置する砥石部２５における砥粒２５４の大きさは、後側に位置する砥石部２６における砥粒２６４の大きさよりも大きくなっている。

【0082】

これにより、上下方向へ並ぶ複数の砥石部２４，２５，２６のうち、上側に位置する砥石部ほど、砥石部における砥粒の大きさが小さくなっている。即ち、複数の砥石部２４，２５，２６のうち、かご７が下降するときの制動子１３２の進行方向Ａにおいて前側に近い砥石部ほど、砥石部における砥粒の大きさが大きくなっている。

【0083】

また、上下方向へ並ぶ複数の砥石部２４，２５，２６のうち、上側に位置する砥石部ほど、砥石部における第２突起の高さが低くなっている。即ち、複数の砥石部２４，２５，２６のうち、かご７が下降するときの制動子１３２の進行方向Ａにおいて前側に近い砥石部ほど、砥石部における第２突起の高さが高くなっている。

【0084】

第２突起２４２，２５２，２６２は、第１突起２２２よりも小さくなっている。従って、第２突起２４２，２５２，２６２の高さは、第１突起２２２の高さよりも低くなっている。制動子１３２は、第１突起形成部２２１における第１突起２２２と、第２突起形成部２４１，２５１，２６１における第２突起２４２，２５２，２６２とを制動面９１に接触させることにより、かご７を制動する。

【0085】

次に、かご７の下降中に制動子１３２が制動面９１に押し付けられたときの動作について説明する。かご７の下降中に制動子１３２が制動面９１に押し付けられると、第１摩擦部２２と、第２摩擦部２３における各砥石部２４，２５，２６とが制動面９１にそれぞれ押し付けられる。これにより、第１突起２２２及び各第２突起２４２，２５２，２６２が制動面９１に食い込んで、制動子１３２と制動面９１との間に摩擦力がかご７を制動する制動力として発生する。

【0086】

この後、制動子１３２と制動面９１との間に摩擦力が発生した状態で、かご７の下降に伴って、第１摩擦部２２及び各砥石部２４，２５，２６が制動面９１を下方へ摺動する。これにより、かご７が非常停止される。このとき、制動面９１に対する第１摩擦部２２及び各砥石部２４，２５，２６のそれぞれによる掘り起こし作用によって、制動子１３２と制動面９１との間の摩擦力が確保される。

【0087】

第１摩擦部２２及び各砥石部２４，２５，２６が制動面９１を下方へ摺動するときには、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた粗面９２の凹凸が第２摩擦部２３における各砥石部２４，２５，２６によって順次削られて粗面９２が修復される。従って、制動子１３２は、第１摩擦部２２によって制動面９１から粗くなった粗面９２を各砥石部２４，２５，２６によって順次修復しながら制動面９１を摺動する。

【0088】

各砥石部２４，２５，２６のそれぞれには、砥粒２４４，２５４，２６４のそれぞれの自生作用がある。これにより、制動子１３２を複数回にわたり使用した場合でも、各砥石部２４，２５，２６のそれぞれと制動面９１との間の摩擦力の低下が抑制され、制動子１３２が制動面９１に接触して生じる制動力の低下が抑制される。また、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を修復する第２摩擦部２３における各砥石部２４，２５，２６の機能の低下も、砥粒２４４，２５４，２６４のそれぞれの自生作用によって抑制される。他の構成及び動作は、実施の形態１と同様である。

【0089】

このようなエレベータの制動子１３２では、上下方向へ並ぶ３つの砥石部２４，２５，２６が第２摩擦部２３に含まれている。第２摩擦部２３において、上下方向において互いに隣り合う２つの砥石部のうち、上側に位置する砥石部における砥粒の大きさは、下側に位置する砥石部における砥粒の大きさよりも小さくなっている。このため、制動面９１に対する砥粒２４４，２５４，２６４のそれぞれの掘り起こし作用によって、第２摩擦部２３と制動面９１との間に摩擦力を発生することができる。また、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を第２摩擦部２３における各砥石部２４，２５，２６によって修復することができる。砥粒２４４，２５４，２６４の大きさが砥石部２４、砥石部２５及び砥石部２６の順に上方に向かって小さくなっているため、修復面における凹凸の大きさをさらに小さくすることができ、修復面をさらに滑らかにすることができる。さらに、制動子１３２が複数回にわたり使用された場合でも、制動子１３２が制動面９１に接触して生じる制動力の低下を第２摩擦部２３における砥粒２４４，２５４，２６４のそれぞれの自生作用により抑制することができる。また、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を修復する機能の低下を第２摩擦部２３における砥粒２４４，２５４，２６４のそれぞれの自生作用により抑制することもできる。

【0090】

実施の形態５．
図１６は、実施の形態５に係るエレベータの制動子を示す正面図である。第２摩擦部２３では、複数の砥石部２４，２５，２６が互いに間隔をあけて対向面２１１に設けられている。これにより、複数の砥石部２４，２５，２６の間のそれぞれには、横溝２７が対向面２１１に沿って形成されている。各横溝２７は、対向面２１１の横方向に沿った溝である。各横溝２７の底面は、対向面２１１によって形成されている。各横溝２７内は、空間となっている。

【0091】

第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を摺動すると、かごガイドレール９が削られて切粉が異物３０として生じる。また、制動面９１に堆積した油、埃などが異物３０となって第１摩擦部２２及び各砥石部２４，２５，２６に付着することもある。第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を摺動するときに生じた異物３０は、各横溝２７へ排出されやすくなる。他の構成及び動作は、実施の形態４と同様である。

【0092】

このようなエレベータの制動子１３２では、第２摩擦部２３における複数の砥石部２４，２５，２６の間のそれぞれに横溝２７が対向面２１１に沿って形成されている。このため、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を摺動するときに生じた異物３０を各横溝２７へ排出しやすくすることができる。これにより、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３のそれぞれの機能の低下をさらに抑制することができる。従って、制動子１３２が複数回にわたり使用された場合でも、制動子１３２が制動面９１に接触して生じる制動力の低下を抑制しながら、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を修復する機能の低下を抑制することができる。

【0093】

実施の形態６．
図１７は、実施の形態６に係るエレベータの制動子を示す正面図である。第２摩擦部２３において、各砥石部２４，２５，２６は、複数の砥石単位部に分割されている。

【0094】

砥石部２４は、３つの砥石単位部２４５に分割されている。３つの砥石単位部２４５は、対向面２１１の横方向へ互いに間隔をあけて並んでいる。

【0095】

砥石部２５は、３つの砥石単位部２５５に分割されている。３つの砥石単位部２５５は、対向面２１１の横方向へ互いに間隔をあけて並んでいる。

【0096】

砥石部２６は、３つの砥石単位部２６５に分割されている。３つの砥石単位部２６５は、対向面２１１の横方向へ互いに間隔をあけて並んでいる。

【0097】

これにより、３つの砥石単位部２４５の間、３つの砥石単位部２５５の間、３つの砥石単位部２６５の間のそれぞれには、縦溝２８が対向面２１１に沿って形成されている。従って、各砥石部２４，２５，２６には、縦溝２８が２つずつ形成されている。各縦溝２８は、対向面２１１の縦方向に沿った溝である。各縦溝２８の底面は、対向面２１１によって形成されている。各縦溝２８内は、空間となっている。

【0098】

第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を摺動すると、実施の形態５と同様に異物３０が生じる。第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を摺動するときに生じた異物３０は、横溝２７及び縦溝２８のそれぞれへ排出されやすくなる。他の構成及び動作は、実施の形態５と同様である。

【0099】

このようなエレベータの制動子１３２では、各砥石部２４，２５，２６に縦溝２８が対向面２１１に沿って形成されている。このため、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を摺動するときに生じた異物３０を横溝２７だけでなく縦溝２８へも排出しやすくすることができる。これにより、制動子１３２が複数回にわたり使用された場合でも、制動子１３２が制動面９１に接触して生じる制動力の低下をさらに抑制しながら、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸を修復する機能の低下をさらに抑制することができる。

【0100】

なお、実施の形態６では、各砥石部２４，２５，２６に縦溝２８が形成されている。しかし、すべての砥石部２４，２５，２６に縦溝２８を形成しなくてもよい。例えば、複数の砥石部２４，２５，２６のうち、砥石部２４にのみ縦溝２８を形成してもよいし、２つの砥石部２５，２６にのみ縦溝２８を形成してもよい。この場合、複数の砥石部２４，２５，２６のうち、縦溝２８が形成された砥石部のみが複数の砥石単位部に分割される。即ち、実施の形態６では、複数の砥石部２４，２５，２６の少なくともいずれかが複数の砥石単位部に分割され、複数の砥石単位部の間に縦溝２８が形成されていればよい。

【0101】

また、実施の形態６において、砥石部２４における縦溝２８の数、砥石部２５における縦溝２８の数、砥石部２６における縦溝２８の数は、１つ以上であればよい。この場合、各砥石部２４，２５，２６において、複数の砥石単位部が対向面２１１の横方向へ互いに間隔をあけて並べられ、複数の砥石単位部の間に縦溝２８が形成される。

【0102】

また、実施の形態６では、各砥石部２４，２５，２６に対向面２１１に沿って形成された溝が縦溝２８となっている。しかし、複数の砥石部２４，２５，２６の少なくともいずれかに横溝を形成してもよい。この場合、複数の砥石部２４，２５，２６のうち、横溝が形成された砥石部が複数の砥石単位部に分割される。また、この場合、横溝が形成された砥石部では、複数の砥石単位部が対向面２１１の縦方向へ互いに間隔をあけて並べられ、複数の砥石単位部の間に横溝が形成される。さらに、砥石部に形成された横溝の数は、１つでもよいし、複数でもよい。

【0103】

また、実施の形態６では、複数の砥石部２４，２５，２６の間のそれぞれに横溝２７が形成されている。しかし、実施の形態６において、実施の形態４のように、第２摩擦部２３に横溝２７が形成されていなくてもよい。

【0104】

また、実施の形態５及び６では、複数の砥石部２４，２５，２６の間のそれぞれに横溝２７が形成されている。しかし、互いに隣り合う２つの砥石部２４，２５の間にのみ横溝２７が形成されていてもよいし、互いに隣り合う２つの砥石部２５，２６の間にのみ横溝２７が形成されていてもよい。このようにしても、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を摺動するときに生じた異物３０を横溝２７へ排出しやすくすることができる。従って、実施の形態５及び６では、複数の砥石部２４，２５，２６の間の少なくともいずれかに横溝２７を形成することができる。

【0105】

また、実施の形態４～６では、実施の形態２のように、第１突起２２２の頂部が各第２突起２４２，２５２，２６２よりも制動面９１に近い位置に位置するようにしてもよい。

【0106】

また、実施の形態４～６では、実施の形態４のように、第２摩擦部２３における各第２突起形成部２４１，２５１，２６１が制動面９１に対して傾斜していてもよい。この場合、上下方向において第２摩擦部２３の下端部から第２摩擦部２３の上端部に向かって各第２突起形成部２４１，２５１，２６１が制動面９１に対して個別に傾斜する。また、この場合、各第２突起形成部２４１，２５１，２６１の位置は、第２摩擦部２３の下端部から、第２突起形成部２４１、第２突起形成部２５１及び第２突起形成部２６１の順に制動面９１に近い位置となる。

【0107】

また、実施の形態４～６では、第２摩擦部２３における砥石部の数が砥石部２４，２５，２６の３つである。しかし、第２摩擦部２３における砥石部の数を２つ又は４つ以上としてもよい。この場合、第２摩擦部２３では、複数の砥石部が上下方向へ並べられる。また、この場合、上下方向において互いに隣り合う２つの砥石部のうち、上側に位置する砥石部における砥粒の大きさが、下側に位置する砥石部における砥粒の大きさよりも小さくされる。第２摩擦部２３における砥石部の数が増えるほど、第１摩擦部２２によって制動面９１に生じた凹凸をより確実に修復することができる。

【0108】

また、実施の形態１～３では、第２摩擦部２３に溝が形成されていない。しかし、第２摩擦部２３に溝を対向面２１１に沿って形成してもよい。この場合、第２摩擦部２３が複数の砥石単位部に分割され、複数の砥石単位部の間に溝が形成される。また、この場合、第２摩擦部２３に形成された溝の底面は、対向面２１１によって形成される。さらに、この場合、第２摩擦部２３に形成された溝内は、空間とされる。このようにすれば、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を摺動するときに生じた異物３０を、第２摩擦部２３に形成された溝へ排出しやすくすることができる。

【0109】

実施の形態１～３において第２摩擦部２３に溝を形成した場合、第２摩擦部２３に形成された溝は、対向面２１１の縦方向に沿った縦溝であってもよいし、対向面２１１の横方向に沿った横溝であってもよい。また、第２摩擦部２３に形成された溝の数は、１つとしてもよいし複数としてもよい。

【0110】

また、各上記実施の形態では、第１摩擦部２２に溝が形成されていない。しかし、第１摩擦部２２に溝を対向面２１１に沿って形成してもよい。この場合、第１摩擦部２２が複数の摩擦単位部に分割され、複数の摩擦単位部の間に溝が形成される。また、この場合、第１摩擦部２２に形成された溝の底面は、対向面２１１によって形成される。さらに、この場合、第１摩擦部２２に形成された溝内は、空間とされる。このようにすれば、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３が制動面９１を摺動するときに生じた異物３０を、第１摩擦部２２に形成された溝へ排出しやすくすることができる。

【0111】

第１摩擦部２２に溝を形成した場合、第１摩擦部２２に形成された溝は、対向面２１１の縦方向に沿った縦溝であってもよいし、対向面２１１の横方向に沿った横溝であってもよい。また、第１摩擦部２２に形成された溝の数は、１つとしてもよいし複数としてもよい。

【0112】

また、各上記実施の形態では、第１摩擦部２２における第１突起２２２の形状が四角錐状となっている。しかし、第１突起２２２の形状は、これに限定されない。例えば、図１８に示すように第１突起２２２の形状を三角錐状としてもよいし、図１９に示すように第１突起２２２の形状を円錐状としてもよい。また、図２０に示すように第１突起２２２の形状を半球状としてもよいし、図２１に示すように第１突起２２２の形状を三角柱状としてもよい。

【0113】

図２２は、図２１の第１突起２２２が実施の形態１における第１摩擦部２２に適用された制動子１３２を示す正面図である。第１突起２２２の形状を三角柱状とする場合、第１突起２２２の三角形の底面を対向面２１１の横方向と直交させ、第１突起２２２の底面における３つの頂点のいずれかを制動面９１に向けて、第１突起２２２が第１突起形成部２２１に形成される。即ち、図２１及び図２２に示すように、第１突起２２２の形状である三角柱の高さ方向を対向面２１１の横方向と一致させ、第１突起２２２の三角柱における２つの側面の境界に形成された稜線を制動面９１に向けて、第１突起２２２が第１突起形成部２２１に形成される。なお、実施の形態２～６における第１摩擦部２２に図２１の第１突起２２２が適用された場合でも、図２２と同様の向きにして第１突起２２２が第１突起形成部２２１に形成される。

【0114】

また、各上記実施の形態では、制動子１３２を有する非常止め装置１３がかご７に設けられている。しかし、制動子１３２を有する非常止め装置１３を昇降体である釣合おもり８に設けてもよい。この場合、釣合おもり８は、制動子１３２が釣合おもりガイドレール１０に接触することにより制動される。

【0115】

以上、上記の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。実施の形態は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、実施の形態の構成の一部を省略または変更することが可能である。

【0116】

以下に、本開示に含まれ得る態様の例について、付記として明記する。
（付記１）
昇降体の移動を案内するガイドレールに上下方向に沿って形成された制動面に対向する対向面が形成されている制動子本体と、
前記対向面に設けられている第１摩擦部と、
前記対向面に設けられており、前記第１摩擦部の上側に位置している第２摩擦部と
を備え、
前記第１摩擦部には、複数の第１突起が形成された第１突起形成部が前記制動面に向けて設けられており、
前記第２摩擦部は、砥石部を有しており、
前記砥石部には、複数の第２突起が形成された第２突起形成部が前記制動面に向けて設けられており、
前記砥石部は、前記対向面に固定されている結合剤と、前記結合剤に保持されている複数の砥粒とを有しており、
前記第２突起形成部では、前記複数の砥粒の少なくとも一部が前記複数の第２突起として前記結合剤から露出しており、
前記第２突起は、前記第１突起よりも小さくなっており、
前記第１突起及び前記第２突起が前記制動面に接触することにより、前記昇降体を制動するエレベータの制動子。
（付記２）
前記第１突起の頂部は、前記第２突起よりも前記制動面に近い位置に位置している付記１に記載のエレベータの制動子。
（付記３）
前記第２突起形成部は、上下方向において前記第２摩擦部の下端部から前記第２摩擦部の上端部に向かって前記制動面に近づく方向へ前記制動面に対して傾斜している付記１又は付記２に記載のエレベータの制動子。
（付記４）
前記第２摩擦部は、上下方向へ並んでいる複数の前記砥石部を有しており、
上下方向において互いに隣り合う２つの前記砥石部のうち、上側に位置する前記砥石部における前記砥粒の大きさは、下側に位置する前記砥石部における前記砥粒の大きさよりも小さくなっている付記１から付記３までのいずれか一項に記載のエレベータの制動子。
（付記５）
前記複数の砥石部の間の少なくともいずれかには、溝が前記対向面に沿って形成されている付記４に記載のエレベータの制動子。
（付記６）
前記複数の砥石部の少なくともいずれかには、溝が前記対向面に沿って形成されている付記４又は付記５に記載のエレベータの制動子。
（付記７）
前記第１摩擦部には、溝が前記対向面に沿って形成されている付記１から付記６までのいずれか一項に記載のエレベータの制動子。

【符号の説明】

【0117】

７ かご（昇降体）、８ 釣合おもり（昇降体）、９ かごガイドレール（ガイドレール）、１０ 釣合おもりガイドレール（ガイドレール）、２１ 制動子本体、２２ 第１摩擦部、２３ 第２摩擦部（砥石部）、２４，２５，２６ 砥石部、２７ 横溝（溝）、２８ 縦溝（溝）、９１ 制動面、２１１ 対向面、２２１ 第１突起形成部、２２２ 第１突起、２３１，２４１，２５１，２６１ 第２突起形成部、２３２，２４２，２５２，２６２ 第２突起、２３３，２４３，２５３，２６３ 結合剤、２３４，２４４，２５４，２６４ 砥粒。

【要約】

【課題】ガイドレールの制動面に接触して生じる制動力の低下を抑制しながら、制動面に生じた凹凸を修復する機能の低下を抑制することができるエレベータの制動子を提供する。
【解決手段】エレベータの制動子１３２において、第１摩擦部２２及び第２摩擦部２３は、制動子本体２１の対向面２１１に設けられている。第２摩擦部２３は、第１摩擦部２２の上側に位置している。砥石部としての第２摩擦部２３には、複数の第２突起２３２が形成された第２突起形成部２３１が制動面９１に向けて設けられている。第２摩擦部２３では、複数の砥粒２３４が結合剤２３３に保持されている。第２突起形成部２３１では、複数の砥粒２３４の少なくとも一部が複数の第２突起２３２として結合剤２３３から露出している。第２突起２３２は、第１摩擦部２２の第１突起２２２よりも小さくなっている。
【選択図】図４

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】