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特許7550955熱電変換制御装置および熱電変換装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】熱電変換制御装置および熱電変換装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
H02N11/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023505006
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2021009742
(87)【国際公開番号】W WO2022190309
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】森岡 孝之
(72)【発明者】
【氏名】山下 彰
(72)【発明者】
【氏名】時岡 秀忠
(72)【発明者】
【氏名】日永田 一大
(72)【発明者】
【氏名】池田 勝己
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-22688(JP,A)
【文献】特開2007-12768(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107621568(CN,A)
【文献】特許第6952937(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換装置から前記熱電変換装置が出力する電力の変換を行う電力変換部に入力される電流および電圧を計測する電流電圧測定部と、
前記電流電圧測定部によって計測された前記電流および前記電圧に基づいて、前記熱電変換装置の出力電力最大化させるために前記熱電変換装置の出力端子に接続すべき負荷抵抗値である最大出力負荷抵抗値を算出し、前記電力変換部の入力端子側から前記電力変換部を見た抵抗値が前記最大出力負荷抵抗値になるように、前記熱電変換装置から前記電力変換部に入力される前記電流を制御する電力変換制御部と、
を備え、
前記電力変換制御部は、前記電力変換部に入力される前記電流を一定値だけ変化させ、前記電流を変化させた直後に計測された前記電圧と前記電流を変化させた後に前記電圧が安定してから計測された前記電圧との差分と、前記電流を変化させたときの前記電流の変化量とに基づいて、前記熱電変換装置の前記最大出力負荷抵抗値を算出する、
熱電変換制御装置。
【請求項2】
前記電力変換制御部は、前記電力変換部に入力される前記電流を変化させる際、前記熱電変換装置を開放状態から短絡状態へと変化させる、
請求項1に記載の熱電変換制御装置。
【請求項3】
前記電流電圧測定部は、前記電力変換部に入力される前記電流および前記電圧をそれぞれ2点以上計測し、
前記電力変換制御部は、前記電流および前記電圧の2点以上の計測結果から算出した前記熱電変換装置の内部抵抗値に基づいて、前記熱電変換装置の前記最大出力負荷抵抗値を算出する、
請求項1または請求項2に記載の熱電変換制御装置。
【請求項4】
前記電流の変化直後に計測された前記電圧をV、前記電圧が安定した後に計測された前記電圧をV、前記電流の変化量をΔI、前記熱電変換装置の内部抵抗値をRintとすると、前記電力変換制御部は、前記熱電変換装置の前記最大出力負荷抵抗値Rpmaxを、
pmax=Rint+(V-V)/ΔI
の関係式を用いて算出する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱電変換制御装置。
【請求項5】
前記電力変換制御部は、前記電流および前記電圧の3点以上の計測結果から前記熱電変換装置の熱時定数を算出し、算出した前記熱時定数に基づいて、前記電流を変化させた後に前記電圧が安定するまでの待ち時間を決定する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱電変換制御装置。
【請求項6】
前記電力変換部をさらに備える、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱電変換制御装置。
【請求項7】
(a)熱電変換装置から前記熱電変換装置が出力する電力の変換を行う電力変換部に入力される電流を一定値だけ変化させる工程と、
(b)前記工程(a)の直後に、前記熱電変換装置から前記電力変換部に入力される前記電流および電圧を計測する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記電圧が安定してから、前記熱電変換装置から前記電力変換部に入力される前記電流および前記電圧を計測する工程と、
(d)前記工程(b)で計測された前記電圧と前記工程(c)で計測された前記電圧との差分と、前記工程(a)での前記電流の変化量とに基づいて、前記熱電変換装置の出力電力最大化させるために前記熱電変換装置の出力端子に接続すべき負荷抵抗値である最大出力負荷抵抗値を算出する工程と、
(e)前記電力変換部の入力端子側から前記電力変換部を見た抵抗値が前記最大出力負荷抵抗値になるように、前記熱電変換装置から前記電力変換部に入力される前記電流を制御する工程と、
を備える熱電変換装置の制御方法。
【請求項8】
前記工程(a)において、前記電力変換部に入力される前記電流を変化させる際、前記熱電変換装置を開放状態から短絡状態へと変化させる、
請求項7に記載の熱電変換装置の制御方法。
【請求項9】
(f)前記電力変換部に入力される前記電流および前記電圧をそれぞれ2点以上計測する工程、
を含み、
前記工程(d)において、前記電流および前記電圧の2点以上の計測結果から算出した前記熱電変換装置の内部抵抗値に基づいて、前記熱電変換装置の前記最大出力負荷抵抗値を算出する、
請求項7または請求項8に記載の熱電変換装置の制御方法。
【請求項10】
前記工程(d)において、前記電流の変化直後に計測された前記電圧をV、前記電圧が安定した後に計測された前記電圧をV、前記電流の変化量をΔI、前記熱電変換装置の内部抵抗値をRintとすると、前記熱電変換装置の前記最大出力負荷抵抗値Rpmaxは、
pmax=Rint+(V-V)/ΔI
の関係式を用いて算出される、
請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の熱電変換装置の制御方法。
【請求項11】
(g)前記電流および前記電圧の3点以上の計測結果から前記熱電変換装置の熱時定数を算出する工程、
をさらに備え、
前記工程(d)における前記電圧が安定するまでの待ち時間は、前記工程(g)で算出された前記熱時定数に基づいて決定される、
請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の熱電変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換装置の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換装置の従来の制御装置として、熱電変換装置が出力する電力を最大化させるために、熱電変換装置の出力電圧および出力電流を熱電変換装置の内部インピーダンスと一致させるものが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-22688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような熱電変換装置の制御装置は、熱電変換装置と高温熱源との間および熱電変換装置と低温冷却源との間に熱抵抗が存在しない理想的な系においては、熱電変換装置の最大出力動作点(出力電力が最大となる動作点)を取得して出力電力を最大化することが可能であるが、熱抵抗が存在する実際の系においては、最大出力動作点を取得できず、出力電力の最大化を達成することができないという課題を有している。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、熱電変換装置と高温熱源との間および熱電変換装置と低温冷却源との間に熱抵抗が存在する系においても、熱電変換装置の出力電力を最大値に近づけることが可能な制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る熱電変換制御装置は、熱電変換装置から前記熱電変換装置が出力する電力の変換を行う電力変換部に入力される電流および電圧を計測する電流電圧測定部と、前記電流電圧測定部によって計測された前記電流および前記電圧に基づいて、前記熱電変換装置の出力電力最大化させるために前記熱電変換装置の出力端子に接続すべき負荷抵抗値である最大出力負荷抵抗値を算出し、前記電力変換部の入力端子側から前記電力変換部を見た抵抗値が前記最大出力負荷抵抗値になるように、前記熱電変換装置から前記電力変換部に入力される前記電流を制御する電力変換制御部と、を備え、前記電力変換制御部は、前記電力変換部に入力される前記電流を一定値だけ変化させ、前記電流を変化させた直後に計測された前記電圧と前記電流を変化させた後に前記電圧が安定してから計測された前記電圧との差分と、前記電流を変化させたときの前記電流の変化量とに基づいて、前記熱電変換装置の前記最大出力負荷抵抗値を算出する。

【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、熱電変換装置の最大出力負荷抵抗値を電気計測のみに基づいて取得して、熱電変換装置が出力する電力を最大値に近づけることができる。よって、熱電変換装置と高温熱源との間および熱電変換装置と低温冷却源との間に熱抵抗が存在する系においても、熱電変換装置の出力電力を最大値に近づけることが可能である。
【0008】
本開示の目的、特徴、態様、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る熱電変換装置の制御装置(熱電変換制御装置)を示す構成図である。
図2】実施の形態1に係る熱電変換装置の動作を示すフローチャートである。
図3】熱電変換装置の出力電流を変化させた際の出力電圧の時間変化を示す図である。
図4】熱電変換装置の出力電流を変化させた際の熱電変換モジュールの高温側と低温側との温度差の時間変化を示す図である。
図5】熱電変換装置の出力電流を変動させた際の熱電変換装置の振る舞いを説明するための図である。
図6】熱電変換装置の出力電流を変動させた際の熱電変換装置の振る舞いを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
以下、熱電変換装置の制御装置を「熱電変換制御装置」という。図1は、実施の形態1に係る熱電変換制御装置の構成を示す図である。図1に示すように、熱電変換制御装置12は、熱電変換装置11と負荷13との間に接続され、熱電変換装置11が発生した電力の変換を行い、変換後の電力を負荷13に供給する。
【0011】
熱電変換装置11は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する装置であり、熱電変換モジュール11aと、熱電変換モジュール11aの高温側の面に設置された高温側熱交換器11bと、熱電変換モジュール11aの低温側の面に設置された低温側熱交換器11cとを備えている。
【0012】
熱電変換モジュール11aは、高温側の面と低温側の面との間に接続された少なくとも1つの熱電変換素子を含んでいる。熱電変換素子は、熱電材料によって構成され、両端の温度差に応じて起電力が生じるゼーベック効果により発電する。熱電変換モジュール11aが発生した電力は、熱電変換装置11の正極側出力端子および負極側出力端子から出力される。なお、熱電変換モジュール11aが複数の熱電変換素子を有する場合、熱電変換モジュール11a内で複数の熱電変換素子が直列または並列に接続される。
【0013】
高温側熱交換器11bは、工場などで排出される排気ガスなどの高温流体から熱を受け、その熱を熱電変換モジュール11aの高温側の面へ伝達する機能を有する。高温側熱交換器11bとしては、例えば、アルミやステンレス(SUS)から成るフィン状の構造体が用いられる。低温側熱交換器11cは、熱電変換モジュール11aの低温側の面から熱を奪う機能を有する。低温側熱交換器11cとしては、例えば、アルミや銅から成るブロック中に冷却水が流れる構造のものが用いられる。高温側熱交換器11bおよび低温側熱交換器11cの働きにより、熱電変換モジュール11aの高温側の面から低温側の面へ熱が貫通し、熱電変換モジュール11aに起電力が生じる。
【0014】
熱電変換制御装置12は、熱電変換装置11の正極側出力端子に接続される正極側入力端子と、熱電変換装置11の負極側出力端子に接続される負極側入力端子とを有しており、熱電変換装置11が出力した電力は熱電変換制御装置12に入力される。また、熱電変換制御装置12は、電力変換部12aと、電流電圧測定部12bと、電力変換制御部12cとを備えている。
【0015】
電力変換部12aは、熱電変換装置11から熱電変換制御装置12に入力された電力の変換を行う変換回路である。電力変換部12aとしては、熱電変換装置11の起電力と負荷13で必要とされる電圧との関係に応じて、昇圧型、降圧型または昇降圧型のDC-DCコンバータのいずれかが用いられる。図1に示す電力変換部12aの回路は、熱電変換装置11の最適動作点の出力電圧が負荷13で必要な電圧よりも低い場合の、降圧コンバータの回路構成である。電力変換部12aによって変換された電力は、熱電変換制御装置12の正極側出力端子および負極側出力端子から出力される。
【0016】
負荷13は、熱電変換制御装置12の正極側出力端子に接続される正極側入力端子と、熱電変換制御装置12の負極側出力端子に接続される負極側入力端子とを有し、熱電変換制御装置12によって変換された電力は負荷13に入力される。負荷13cは、例えば蓄電池などの定電圧源から構成される。
【0017】
電流電圧測定部12bは、熱電変換装置11から熱電変換制御装置12に入力される電力に係る電流および電圧を計測する測定回路である。電力変換制御部12cは、電流電圧測定部12bが計測した電流および電圧に基づいて電力変換部12aを制御することにより、熱電変換装置11の出力電力を最大値に近づける最大出力制御を行う制御回路である。
【0018】
熱電変換制御装置12の入力端子側から見た電力変換部12aの負荷抵抗値(正極側入力端子と負極側入力端子との間の負荷抵抗値)、すなわち(入力電圧)/(入力電流)の値は、電力変換部12aのDC-DCコンバータを構成するスイッチング素子の開閉の時間割合であるデューティ比によって制御できる。例えば図1に示す回路構成の電力変換部12a(降圧コンバータ)では、スイッチング素子のデューティ比を増加させると、電力変換部12aの負荷抵抗値が低くなる。電力変換制御部12cは、PWM(Pulse Width Modulation)波やPFM(Pulse Frequency Modulation)波など、周期的な矩形波のスイッチング信号を電力変換部12aのスイッチング素子のゲートに入力することで、当該スイッチング素子の開閉制御を行い、それによって電力変換部12aの負荷抵抗値を制御する。
【0019】
熱電変換制御装置12は、電力変換制御部12cが、電流電圧測定部12bが計測した電流および電圧、すなわち熱電変換装置11の出力電流および出力電圧に基づいて、電力変換部12aの負荷抵抗値を制御することによって、熱電変換装置11の最大出力制御の処理を実施する。
【0020】
なお、電力変換部12aは、熱電変換制御装置12の外部構成であってもよい。すなわち、熱電変換制御装置12を、電流電圧測定部12bおよび電力変換制御部12cのみからなる構成とし、熱電変換制御装置12が、外部に接続された電力変換部12aの負荷抵抗値を制御するようにしてもよい。
【0021】
以下、熱電変換制御装置12が行う熱電変換装置11の最大出力制御の処理について説明する。
【0022】
図2は、熱電変換制御装置12の動作を示すフローチャートを示す。以下の説明では、電流電圧測定部12bによって測定される熱電変換装置11の出力電流および出力電圧をそれぞれ電流Iおよび電圧Vと表記する。
【0023】
熱電変換制御装置12が動作を開始すると、ステップS10において、電力変換制御部12cは、電力変換部12aのスイッチング素子に入力するスイッチング信号のデューティ比を制御して、電流電圧測定部12bにより計測される電流Iが任意の一定値Iになるように制御し、電圧Vの変動が小さくなるまで待つ。
【0024】
次に、ステップS11において、電力変換制御部12cは、スイッチング信号のデューティ比を変化させることで、電流IをIからI+ΔIに変化させる。
【0025】
次に、ステップS12において、電流電圧測定部12bは、ステップS11で電流IをI+ΔIに変化させた直後の電圧Vを計測する。ステップS12で計測された電圧VをVとする。ここで、「電流Iを変化させた直後」とは、電流Iを変化させてから、熱電変換装置11の熱時定数(例えば10秒)よりも大幅に短い時間が経過するまでの間を意味する。本実施の形態では、電流IをI+ΔIに変化させてから、0.01秒以内にステップS12を行い、電圧Vを計測する。
【0026】
なお、熱電変換装置11の熱時定数は、熱電変換装置11の熱応答に対して時間遅れを生じさせるものであり、その値は、高温側熱交換器11bの熱容量および熱抵抗と、低温側熱交換器11cの熱容量および熱抵抗と、熱電変換モジュール11aの熱容量および熱抵抗とによって決まる。熱電変換装置11の熱時定数を事前に推定できない場合は、電流Iを変化させた後、電流電圧測定部12bで可能な限り早いタイミングで電圧Vを計測することが好ましい。
【0027】
次に、ステップS13において、電流Iを変化させてから熱電変換装置11の系が熱的に安定して、電圧Vが安定するまで(変動が小さくなるまで)待つ。電流Iを変化させると電圧Vが一時的に変動する理由は、
(1)電流Iが変化して熱電変換装置11の熱バランスが一時的に崩れると、熱電変換モジュール11aが電流Iを増加させる
(2)電流Iが増加すると、ペルチェ効果により熱抵抗が低下し、それに伴って熱電変換モジュール11aの高温側と低温側の温度差ΔTTEGも低下しようとする
(3)しかし、高温側熱交換器11bおよび低温側熱交換器11cはそれぞれ熱容量を持つため温度差ΔTTEGが熱平衡状態の値に達するまでに時間遅れが生じ、それに伴って熱電変換モジュール11aの電圧Vが平衡状態に達するのにも遅れが生じる
というメカニズムによる。
【0028】
その後、ステップS14において、電流電圧測定部12bは、安定した後の電圧Vを測定する。ステップS14で計測された電圧VをVとする。
【0029】
図3および図4に、熱電変換装置11が出力する電流IをΔIだけ増加させた際の電圧Vおよび熱電変換モジュール11aの温度差ΔTTEGそれぞれの時間変化(過渡特性)の例を示す。図3のように、電流IをΔIだけ増加させると、その直後に電圧Vは電圧Vに遷移するが、その後は熱電変換装置11の熱平衡時の電流-電圧特性に従って電圧Vは電圧Vに漸近する。漸近する際の電圧Vの時定数は、上述した熱電変換装置11の熱時定数と等しい。これは、ゼーベック効果により熱電変換モジュール11aが出力する電圧Vが温度差ΔTTEGに比例することによる。
【0030】
従って、ステップS13では、ステップS11から少なくとも熱電変換装置11の熱時定数以上の時間が経過するまで待つことが好ましく、熱電変換装置11の熱時定数をTとすると、3Tの時間以上待つことがより好ましい。なお、ΔIが正の値である場合は、図3のように電圧Vは徐々に減少して一定値に収束するが、ΔIが負の値である場合は、電圧Vは徐々に増加して一定値に収束する。熱電変換装置11の熱時定数Tがあらかじめ取得できている場合は、3T以上の時間待つことで熱電変換装置11が熱平衡状態に近くなり、電圧Vとして収束値に近い値を得ることができる。
【0031】
ステップS14にて電圧Vが計測されると、ステップS15において、電力変換制御部12cは、次の式(1)に基づき、熱電変換装置11の出力電力が最大化される負荷抵抗値である最大出力負荷抵抗値Rpmaxを算出する。式(1)において、Rintは熱電変換装置11の内部抵抗値(熱電変換モジュール11aの内部抵抗値)である。
【0032】
【数1】
【0033】
次に、ステップS16において、電力変換部12aの入力端子側から見た負荷抵抗値が、ステップS14で算出した最大出力負荷抵抗値Rpmaxになるように、電力変換制御部12cが、電力変換部12aのスイッチング素子に入力するスイッチング信号のデューティ比を制御する。具体的には、熱電変換装置11が出力する電圧Vおよび電流Iと最大出力負荷抵抗値Rpmaxとの関係がV/I=Rpmaxとなるように、電力変換制御部12cがスイッチング信号のデューティ比を調整して、電流Iを制御する。

【0034】
次に、ステップS17において、V/I=Rpmaxに制御している状態で、熱電変換装置11が熱平衡状態に近くなるように、再び一定時間だけ待つ。ステップS17における待ち時間も、ステップS13の待ち時間と同様に、少なくとも熱電変換装置11の熱時定数T以上であることが好ましく、より好ましくは3T以上である。本実施の形態では、ステップS13およびS17における待ち時間を3Tとする。
【0035】
その後、ステップS18において、電流電圧測定部12bが電圧Vおよび電流Iを計測し、熱電変換装置11の発電量P=V×Iを算出する。
【0036】
さらに、熱電変換制御装置12は、熱電変換装置11の最大出力動作点が熱源や冷却源の温度変化によって変動する場合でも継続して最大出力動作点に追従するために、以下のステップS19~S21を実施する。
【0037】
ステップS19において、任意の一定時間tだけ待つ。この時間tは、熱電変換装置11の発電量を継続的にモニタリングする周期となる。
【0038】
次に、ステップS20において、電流電圧測定部12bが電圧Vおよび電流Iを計測し、このときの熱電変換装置11の発電量P’を算出する。ステップS20で計測された電圧Vおよび電流IをそれぞれI'およびV'とすると、P’=I'×V'である。
【0039】
次に、ステップS21において、ステップS18で算出された発電量PとステップS20で算出されたて発電量P'とが一定値ΔP以上乖離しているか否か判定する。PとP’とがΔP以上乖離している場合は(ステップS21でYES)、熱電変換装置11の内部抵抗値Rintまたは最大出力負荷抵抗値Rpmaxに変化が生じて、熱電変換装置11の最大出力動作点が変化した可能性があるため、ステップS10に戻り、再度、最大出力負荷抵抗値Rpmaxを算出する手順に移る。一方、PとP’との乖離がΔP未満である場合は(ステップS21でNO)、ステップS19に戻り、熱電変換装置11にかかる負荷抵抗値(熱電変換制御装置12の負荷抵抗値)を一定に保ったまま、一定時間tの周期で発電量P'を算出する手順を繰り返し実行する。
【0040】
以上のように、実施の形態1に係る熱電変換制御装置12は、熱電変換装置11が出力する電流Iおよび電圧Vの電気計測のみに基づいて、熱電変換装置11の最大出力動作点(最大出力負荷抵抗値Rpmax)を取得し、熱電変換装置11の出力電力を最大値に近づける。そのため、熱電変換装置11と高温熱源との間および熱電変換装置11と低温冷却源との間に熱抵抗が存在する系においても、熱電変換装置11の出力電力を最大値に近づけることが可能である。
【0041】
ここで、上記の式(1)により熱電変換装置11の最大出力負荷抵抗値Rpmaxが得られる原理について説明する。
【0042】
熱電変換モジュール11aと高温側の温度固定点との間、および、熱電変換モジュール11aと低温側の温度固定点との間に熱抵抗が存在しない理想状態では、熱電変換モジュール11aの最大出力負荷抵抗値Rpmaxは、熱電変換モジュール11aの内部抵抗値Rintに一致する。これは最大電力供給の定理によるものである。
【0043】
一方、図5に示すように、熱電変換モジュール11aと高温側の温度固定点との間、および、熱電変換モジュール11aと低温側の温度固定点との間に熱抵抗が存在する場合、熱電変換モジュール11aの最大出力負荷抵抗値Rpmaxは、熱電変換モジュール11aの内部抵抗値Rintよりも高い値となる。このときの最大出力負荷抵抗値Rpmaxは、以下のように導出される。
【0044】
熱電変換モジュール11aのペルチェ係数をΠとすると、熱電変換モジュール11aに電流Iが流れるときの熱電変換モジュール11aの貫通熱量Qは、ペルチェ効果により、電流I=0のときと比較してΠIだけ増加する。よって、電流I=0のときの熱電変換モジュール11aの貫通熱量をQとすると、熱電変換装置11の貫通熱量Qは、次の式(2)で表される。
【0045】
【数2】
【0046】
高温側の温度固定点の温度Thと低温側の温度固定点の温度Tcの温度差をΔT0とする。高温側の温度固定点は、高温側熱交換器11bを流れる熱流体の温度であり、低温側の温度固定点は、低温側熱交換器11cを流れる冷却水の温度である。また、図5に示すように、高温側の温度固定点と熱電変換装置11の高温側の面との間の熱抵抗をRth_h、低温側の温度固定点と熱電変換モジュール11aの低温側の面との間の熱抵抗をRth_cとし、Rth_hとRth_cとの和を、付加熱抵抗Rth_addとする。
【0047】
熱電変換モジュール11aの高温側の面と低温側の面との温度差ΔTTEGは、式(2)のQを用いて、次の式(3)で表される。
【0048】
【数3】
【0049】
熱電変換モジュール11aのゼーベック係数Sおよび内部抵抗値Rintを用いると、熱電変換モジュール11aの出力電圧Vは、次の式(4)で表される。
【0050】
【数4】
【0051】
式(4)に、式(2)および式(3)を代入すると、次の式(5)が得られる。
【0052】
【数5】
【0053】
ここで、熱電変換モジュール11aの出力電力Pは、次の式(6)で表される。
【0054】
【数6】
【0055】
式(6)に式(5)を代入すると、次の式(7)が得られる。
【0056】
【数7】
【0057】
式(7)のPはIの二次関数であるため、熱電変換モジュール11aの出力電力Pが極大となるときの電流Iの値Ipmaxは、上に凸の二次関数の極値大値の点として求めることができ、次の式(8)で表すことができる。
【0058】
【数8】
【0059】
また、その際の電圧Vpmaxは、式(4)に式(8)を代入して、次の式(9)で表すことができる。
【0060】
【数9】
【0061】
式(8)および式(9)から、熱電変換モジュール11aの最大出力負荷抵抗値Rpmaxは、次の式(10)で表すことができる。
【0062】
【数10】
【0063】
式(10)から分かるように、熱電変換モジュール11aの最大出力負荷抵抗値Rpmaxは、内部抵抗値RintよりもSΠRth_addだけ高い値となる。
【0064】
次に、SΠRth_addを、熱計測をすることなく、熱電変換モジュール11aが出力する電流Iおよび電圧Vの計測のみに基づいて取得する原理について説明する。
【0065】
図3および図4ならびに図5および図6に示すように、電圧V=Vのときの熱電変換モジュール11aの温度差ΔTTEGをΔT、電圧V=Vのときの熱電変換モジュール11aの温度差ΔTTEGをΔTとする。熱電変換装置11の最大出力制御において、VとVとの差分から、ゼーベック効果の式により、熱電変換モジュール11aの温度差ΔTTEGの差分ΔT-ΔTを求めることができる。差分ΔT-ΔTは、次の式(11)で表される。
【0066】
【数11】
【0067】
さらに、I=I+ΔIのときの熱電変換モジュール11aの貫通熱量をQ+ΔQとすると、ΔQは次の式(12)で表される。
【0068】
【数12】
【0069】
ここで、I=I+ΔIのときに付加熱抵抗Rth_addで生じる温度差は、定常状態において、I=Iのときと比較してRth_addΔQだけ増加する。ただし、過渡的には、電流IをΔIだけ変化させた直後のRth_addで生じる温度差は、電流Iの変化直前の温度が熱容量によって保持されているため、電流Iの変化直前と同じRth_addQのままであり、一定時間経過したときにRth_addで生じる温度差は、I=Iのときと比較してRth_addΔQだけ増加する。これは熱電変換素子の温度差のΔTTEGの変化分であるΔT-ΔTと等しいので、次の式(13)が成り立つ。
【0070】
【数13】
【0071】
式(13)に式(11)および式(12)を代入すると、次の式(14)が得られる。
【0072】
【数14】
【0073】
さらに、式(14)を式(10)に代入すると、SとΠが消去されて、次の式(15)が得られる。
【0074】
【数15】
【0075】
よって、熱電変換モジュール11aの内部抵抗値Rintが事前に把握できている場合は、熱計測をすることなく、電気計測の結果に基づいて、最大出力負荷抵抗値Rpmaxを算出することができる。
【0076】
<実施の形態2>
実施の形態2では、図2にフローチャートのステップS10において電力変換制御部12cが電流Iを一定値Iに制御するとき、熱電変換モジュール11aを開放状態にして電流Iを0にし、また、ステップS11で電流IをΔIだけ変化させるとき、熱電変換モジュール11aを短絡状態にして、ΔIを熱電変換モジュール11aの短絡時の電流値Iscにする。
【0077】
これにより、V-VおよびΔIを、外部起電力を用いずにできる限り大きな値にすることができ、式(1)から最大出力負荷抵抗値Rpmaxを高い精度で得ることができるため、熱電変換装置11の発電量Pを高い精度で最大値に近づけることが可能になる。
【0078】
<実施の形態3>
実施の形態3では、電力変換制御部12cが、熱電変換モジュール11aの内部抵抗値Rintの値を、電力変換部12aの入力端子側から見た負荷抵抗値を変化させたときに電流電圧測定部12bによって計測された電流Iおよび電圧Vに基づいて算出するように構成する。熱電変換モジュール11aの内部抵抗値Rintは、電力変換部12aの負荷抵抗値が変化したときの電圧Vの変化量を、電流Iの変化量で除すことで算出できる。これにより、電力変換制御部12cは、温度安定後における熱電変換モジュール11aの正確な内部抵抗を取得することができ、熱電変換モジュール11aの正確な状態を監視することが可能になる。
【0079】
熱電変換モジュール11aの内部抵抗値Rintは、温度的に安定した熱電変換モジュール11aにおける2点以上の計測点(測定時刻)での電流Iおよび電圧Vとから求めることができる。例えば、図2のステップS10において、電流Iが一定値Iに制御された後、電圧Vが安定したときに、電流電圧測定部12bがそのときの電圧Vの値V0(図3参照)を計測しておけば、電力変換制御部12cは、ステップS15において式(15)を用いて最大出力負荷抵抗値Rpmaxを算出する際に、次の式(16)により内部抵抗値Rintを算出して、式(15)に適用することができる。
【0080】
【数16】
【0081】
<実施の形態4>
実施の形態4では、電力変換制御部12cが、電力変換部12aの入力端子側から見た負荷抵抗値を変化させる際に、熱電変換装置11の熱時定数Tを算出するように構成する。算出された熱時定数Tは、例えば図2のステップS13およびS17における待ち時間の決定に用いることができる。
【0082】
例えば、図2のステップS11で電流Iを変化させてから、ステップS13で電圧Vが安定するまでの間に、電力変換制御部12cは、以下のような処理により熱時定数Tを取得することができる。
【0083】
まず、ステップS11で電流IをI+ΔIに制御してから任意の時間が経過するまでの間に、電流電圧測定部12bが電流Iおよび電圧Vをそれぞれ3点以上の計測点(測定時刻)で計測する。この計測点には、ステップS12の計測点とステップS14の計測点とが含まれてもよい。よって、電流電圧測定部12bは、ステップS12からステップS14までの間に、少なくとも、ステップS12およびステップS14以外の1点の計測点で電流Iおよび電圧Vを計測すればよい。
【0084】
例えば、ステップS12で電圧Vを計測した時刻tを0とすると、時刻tに対する電圧Vの変化は、ステップS12で測定された電圧V、ステップS14で測定された電圧V、熱電変換装置11を用いて、次の式(17)で表すことができる。
【0085】
【数17】
【0086】
式(17)に、ステップS12およびステップS14以外の計測点で測定した電圧Vとその時刻tとを代入すれば、熱電変換装置11の熱時定数Tを求めることができる。
【0087】
また、4点以上の計測点で電圧Vを計測した場合には、最小二乗法などを用いて電圧Vの過渡特性を求めることにより、熱時定数Tを算出してもよい。
【0088】
熱電変換装置11の起電力は、ゼーベック効果により熱電変換モジュール11aの高温側と低温側の温度差ΔTに比例する(V=SΔT)。このため、電圧Vの時間応答は温度差ΔTの時間応答と同じふるまいを示すことになる。このことから、電圧Vの熱時定数Tをそのまま熱時定数Tとしてみなすことができるため、電圧Vの計測のみで熱時定数Tを取得することが可能になる。
【0089】
よって、本実施の形態においては、熱電対などの熱計測のハードウェアを追加することなく、熱電変換制御装置12が、電気計測のみで熱電変換装置11の熱時定数を取得することができ、安価かつ簡便に熱電変換装置11の出力電力を最大値に近づけることができる。
【0090】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0091】
上記した説明は、すべての態様において、例示であって、例示されていない無数の変形例が想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0092】
11 熱電変換装置、11a 熱電変換モジュール、11b 高温側熱交換器、11c 低温側熱交換器、12 熱電変換制御装置、12a 電力変換部、12b 電流電圧測定部、12c 電力変換制御部、13 負荷。
図1
図2
図3
図4
図5
図6