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特許7550965電力システムに電気量の周波数を提供する方法、装置及びコンピュータプログラム製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】電力システムに電気量の周波数を提供する方法、装置及びコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
   G01R 23/10 20060101AFI20240906BHJP
   G01R 23/12 20060101ALI20240906BHJP
   G01R 23/16 20060101ALI20240906BHJP
   H02H 3/44 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
G01R23/10 H
G01R23/12
G01R23/16 B
H02H3/44 D
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023514040
(86)(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2021074063
(87)【国際公開番号】W WO2022049092
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】20193795.0
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベントソン,トルド
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05832414(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0219640(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102680785(CN,A)
【文献】特開2013-053861(JP,A)
【文献】特開2004-029032(JP,A)
【文献】特開平05-223860(JP,A)
【文献】特開2014-121252(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0254840(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 23/00-23/20
H02H 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力システム(10)において電気量の周波数を提供するための方法であって、
-前記電気量がサンプリングされる第1の時間に関して、前記電力システムにおける電気量の第1の離散フーリエ変換(DFT)フェーザを取得するステップ(30)と、
-前記第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定するステップ(32)であって、前記第1の時間間隔は近似周波数に依存し、前記第2のDFTフェーザは、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき時間付近のサンプリング時間に取得されたDFTフェーザを使用する補間によって推定される、推定するステップ(32)と
-前記第1および前記第2のDFTフェーザに基づいて前記第1の時間において前記周波数(fnew)を決定するステップ(34)と、を含む、方法。
【請求項2】
前記第2のDFTフェーザは、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間の直前のサンプリング時間に取得されたDFTフェーザと、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間の直後のサンプリング時間に取得された別のDFTフェーザとを使用する線形補間によって推定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のDFTフェーザは、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間付近のサンプリング時間に取得される少なくとも3つのDFTフェーザを使用する高次補間によって推定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記近似周波数は、前記第1の時間に先行する第2の時間における周波数であり、特に、前記第2の時間における前記周波数は、前記第2の時間における前のDFTフェーザと、前記第2の時間の前の第2の時間間隔における前の推定DFTフェーザとに基づいて決定される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の時間間隔は、1を積で除算することにより与えられ、前記積は前記近似周波数の2倍である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1および前記第2のDFTフェーザに基づいて前記第1の時間において前記周波数を決定するステップ(34)が、前記第1および前記第2のDFTフェーザ間の位相角の差を決定するステップを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の時間において前記決定された周波数を前記電力システムにおける障害対処措置において適用するステップ(36)をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記決定された周波数を補正関数に適用するステップ(48)であって、前記補正関数は、前記フェーザの解析式に基づく、適用するステップと、
前記補正関数から得られる補正係数を用いて前記フェーザを調整するステップ(50)と、をさらに含む、
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記解析式は正弦関数に基づく、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記補正関数は、前記フェーザの位相をパラメータとして含み、前記方法は、前記フェーザに基づいて前記補正関数の前記位相を推定するステップ(48)をさらに含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記解析式およびゼロ位相角に基づいて前記補正関数で使用される初期位相を推定するステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電力システムの障害対処措置において前記調整フェーザを適用するステップをさらに含む、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記障害対処措置は周波数変化率(ROCOF)保護対策である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記障害は短絡障害を含み、および/または前記保護は発電機の保護である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
電力システム(10)で使用するためのフェーザ処理装置(12)であって、プロセッサ(22)を備え、前記プロセッサ(22)は、
-電気量がサンプリングされる第1の時間に関して、前記電力システムにおける前記電気量の第1の離散フーリエ変換(DFT)フェーザを取得し、
-前記第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定し、前記第1の時間間隔は近似周波数に依存し、前記第2のDFTフェーザは、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間付近のサンプリング時間に取得されたDFTフェーザを使用する補間によって推定され、
-前記第1および前記第2のDFTフェーザに基づいて前記第1の時間において前記周波数(fnew)を決定するように構成されている、フェーザ処理装置(12)。
【請求項16】
前記第2のDFTフェーザは、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間の直前のサンプリング時間に取得されたDFTフェーザと、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間の直後のサンプリング時間に取得された別のDFTフェーザとを使用する線形補間によって推定される、請求項15に記載のフェーザ処理装置(12)。
【請求項17】
前記第2のDFTフェーザは、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間付近のサンプリング時間に取得される少なくとも3つのDFTフェーザを使用する高次補間によって推定される、請求項15に記載のフェーザ処理装置(12)。
【請求項18】
インテリジェント電子デバイス、保護リレー、フェーザ測定ユニット、グリッドコントローラ、および統合ユニットのグループから選択される、請求項15~17のいずれか1項に記載のフェーザ処理装置(12)。
【請求項19】
電力システム(10)内の電気量の周波数を提供するためのコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラム製品は、コンピュータプログラムコード(64)を備えるデータキャリア(62)上に提供され、前記コンピュータプログラムコード(64)は、プロセッサ(22)によって動作されているときに、前記プロセッサ(22)に、
-電気量がサンプリングされる第1の時間に関して、前記電力システムにおける前記電気量の第1の離散フーリエ変換(DFT)フェーザを取得させ、
-前記第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定させ、前記第1の時間間隔は近似周波数に依存し、前記第2のDFTフェーザは、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間付近のサンプリング時間に取得されたDFTフェーザを使用する補間によって推定され、
-前記第1および前記第2のDFTフェーザに基づいて前記第1の時間において前記周波数(fnew)を決定させるように構成されている、コンピュータプログラム製品。
【請求項20】
前記第2のDFTフェーザは、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間の直前のサンプリング時間に取得されたDFTフェーザと、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間の直後のサンプリング時間に取得された別のDFTフェーザとを使用する線形補間によって推定され、または、
前記第2のDFTフェーザは、前記第2のDFTフェーザが推定されるべき前記時間付近のサンプリング時間に取得される少なくとも3つのDFTフェーザを使用する高次補間によって推定される、請求項19に記載のコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、電力システムにおいて電気量の周波数を提供するための方法およびコンピュータプログラム製品、ならびにそのような電力システムで使用するためのフェーザ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
電気物理量のフェーザは、電力システムの機器の保護において重要である。保護活動などの多くの活動は、フェーザ測定に基づく。
【0003】
さらに、電力システムの周波数は、いくつかの状況においてそれ自体で知ることも重要である。電力システムは、通常、公称周波数を有する。障害および負荷変動などの様々な状況により、周波数は公称値から変動し得る。さらに、再生可能エネルギー源の出現により、電力システムの周波数安定性が低くなり得る。これにより、システム周波数は急速に変化する可能性があり、これは時に有害であり、対処する必要がある。したがって、このような状況を正しく処理するために、瞬間的なシステム周波数を正確に判定する必要がある。
【0004】
さらに、電圧および電流の振幅および位相は、例えば電力線に障害があるかどうかを判定するために、多くの状況で重要である。フェーザは、いわゆる離散フーリエ変換(DFT)を使用して取得され、公称周波数、振幅、および位相を反映する。したがって、DFTフェーザの精度も重要である。
【0005】
従来技術の一例は、発電機保護システム、および離散フーリエ変換における振動に起因するフェーザ推定の誤差を補償する方法に関する米国特許第5832414号明細書に見出すことができる。
【0006】
本発明の態様は、上述の状況のうちの1つまたは複数に対処する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
本発明の実施形態の1つの目的は、電力システム周波数の改善された推定に基づいて障害対処措置を適用することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、電力システムにおいて電気量の周波数を提供するための方法によって達成される第1の態様による。本方法は、
-電気量がサンプリングされる第1の時間に関して、電力システムにおける電気量の第1の離散フーリエ変換(DFT)フェーザを取得するステップと、
-第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定するステップであって、前記第1の時間間隔は近似周波数に依存し、第2のDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間付近のサンプリング時間に得られたDFTフェーザを使用する補間によって推定される、ステップと、
-第1のDFTフェーザおよび第2のDFTフェーザに基づいて第1の時間において周波数を決定するステップと、を含む。
【0009】
この目的は、電力システムで使用するためのフェーザ処理装置を介して達成される第2の態様による。フェーザ処理装置は、
-第1の時間に関して、電力システムにおける電気量の第1の離散フーリエ変換(DFT)フェーザを取得し、
-第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定し、前記第1の時間間隔は近似周波数に依存し、第2のDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間付近のサンプリング時間に得られたDFTフェーザを使用する補間によって推定され、
-第1のDFTフェーザおよび第2のDFTフェーザに基づいて第1の時間において周波数を決定するように構成される。
【0010】
フェーザ処理装置は、前述の動作を実行するように構成されたプロセッサを備えることができる。
【0011】
フェーザ処理装置は、一例として、保護リレーなどのインテリジェント電子デバイスであってもよい。別の例として、それはフェーザ測定ユニット、グリッドコントローラ、または統合ユニットであってもよい。したがって、フェーザ処理装置は、インテリジェント電子デバイス、保護リレー、フェーザ測定ユニット、グリッドコントローラ、および統合ユニットからなる群から選択することができる。
【0012】
上述の目的は、電力システム内の電気量の周波数を提供するためのコンピュータプログラム製品を介して達成される第3の態様によって達成され、コンピュータプログラム製品はコンピュータプログラムコードを備えるデータキャリアに提供され、コンピュータプログラムコードは、プロセッサによって動作されているときに、プロセッサに、
-第1の時間に関して、電力システムにおける電気量の第1の離散フーリエ変換(DFT)フェーザを取得させ、
-第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定させ、前記第1の時間間隔は近似周波数に依存し、第2のDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間付近のサンプリング時間に得られたDFTフェーザを使用する補間によって推定され、
-第1のDFTフェーザおよび第2のDFTフェーザに基づいて第1の時間において周波数を決定させるように構成される。
【0013】
「第2のDFTフェーザが推定されるべき時間付近のサンプリング時間において」という表現は、例えば、複数のサンプリング時間を意味し、複数のサンプリング時間のサンプリング時間は、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間に先行するまたは続くものである。補間は、所望の時間に先行する、すなわち前にあるサンプルと、所望の時間に続く、すなわち後にあるサンプルとを必要とする。補間は、所望の時間に続くサンプルと同じ数の所望の時間に先行するサンプルを使用することができる。しかしながら、補間は、所望の時間に続くサンプルと比較して、所望の時間に先行する異なる数のサンプルを使用することができる。例えば、1つまたは複数のサンプリング時間が先行していてもよく、残りのサンプリング時間は、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間に続いてもよい。
【0014】
複数のDFTフェーザのDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間に先行するサンプリング時間において取得されてもよく、複数のDFTフェーザの別のDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間に続くサンプリング時間において取得されてもよい。
【0015】
第1の態様、第2の態様、および第3の態様によれば、第2のDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間の直前のサンプリング時間に取得されたDFTフェーザと、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間の直後のサンプリング時間に取得された別のDFTフェーザとを使用する線形補間によって推定することができる。
【0016】
あるいは、第1の態様、第2の態様、および第3の態様によれば、第2のDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間付近のサンプリング時間に取得される少なくとも3つのDFTフェーザを使用する高次補間によって推定することができる。
【0017】
少なくとも3つのDFTフェーザのDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間に先行するサンプリング時間において取得されてもよく、少なくとも3つのDFTフェーザの別のフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間に続くサンプリング時間において取得されてもよい。少なくとも3つのDFTフェーザの少なくとも1つのDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間の直前または直後であってもよい。
【0018】
第1および第2の態様の第1の変形例によれば、第2のDFTフェーザの推定に使用される近似周波数は、第1の時間に先行する第2の時間における周波数であり、特に、第2の時間における周波数は、第2の時間における前のDFTフェーザと、第2の時間の前の第2の時間間隔における前の推定DFTフェーザとに基づいて決定される。さらに、第1の使用される近似周波数は電力システムの公称周波数であることが可能である。
【0019】
第1および第2の態様の第2の変形例によれば、時間間隔は、1を積で除算することによって与えられ、積は近似周波数の2倍であり、近似周波数は、第2のフェーザの推定に使用される周波数である。したがって、それは第1の時間間隔が依存する周波数である。
【0020】
第1の時間および第2の時間は、サンプリング時間、すなわちフェーザがサンプリングされる時間であってもよい。しかしながら、第1の時間の前の第1の時間間隔および第2の時間の前の第2の時間間隔は、サンプリング時間の間の時点であってもよい。
【0021】
第1の態様の第3の変形例によれば、第1および第2のDFTフェーザに基づいて周波数を決定するステップは、第1および第2のDFTフェーザ間の位相角の差を決定するステップを含む。
【0022】
第2の態様の対応する変形例によれば、フェーザ処理装置は、第1および第2のDFTフェーザに基づいて周波数を決定するときに、第1および第2のDFTフェーザ間の位相角の差を決定するように構成される。
【0023】
第5の態様は、電力システムにおける電気量のフェーザ精度を改善するための方法に関し、方法は、
-電気量のフェーザ、特に第1の態様による第1のDFTフェーザを取得するステップと、
-特に第1の態様の方法に従って電気量の周波数を取得するステップと、
-周波数を補正関数に適用するステップであって、補正関数は前記フェーザの解析式に基づく、ステップと、
-補正関数から得られる補正係数を用いてフェーザを調整するステップと、を含む。
【0024】
加えて、上述した第5の態様および第5の態様の以下の変形例は、第1、第2および第3の態様のさらなる変形例として提供されてもよい。言い換えると、第5の態様は、第1、第2および第3の態様と組み合わされてもよい。
【0025】
第5の態様に対応する第2の態様の変形例では、フェーザ処理装置は、
-決定された周波数を第1のDFTフェーザの解析式に基づく補正関数に適用し、
-補正関数から得られる補正係数を用いて第1のフェーザを調整するようにさらに構成される。
【0026】
第2および第5の態様の変形例によれば、解析式は正弦関数に基づく。正弦関数は、さらに、固定振幅を有する正弦関数であってもよい。
【0027】
補正関数は、パラメータとしてフェーザの位相を含むことができる。
第5の態様のさらなる変形例によれば、方法は、フェーザに基づいて補正関数の位相を推定するステップをさらに含む。
【0028】
第2の態様の対応する変形例によれば、フェーザ処理装置は、フェーザに基づいて補正関数の位相を推定するようにさらに構成される。
【0029】
第5の態様の別の変形例によれば、方法は、解析式およびゼロ位相角に基づいて補正関数で使用される初期位相を推定するステップをさらに含む。
【0030】
第2の態様の対応する変形例によれば、フェーザ処理装置は、解析式およびゼロ位相角に基づいて補正関数で使用される初期位相を推定するようにさらに構成される。
【0031】
初期位相は、第1の時間におけるDFTフェーザの位相と、位相角パラメータ設定が0である補正関数の位相との間の差に基づいて推定されてもよい。あるいは、初期位相は、電力システムの公称周波数付近のフェーザの解析式の級数展開である解析式にゼロ位相角を適用することによって推定されてもよい。
【0032】
さらに、第1の時間において決定された周波数および/または調整されたフェーザを、電力システムにおける障害対処措置に適用することが可能である。
【0033】
障害対処措置は、周波数変化率(ROCOF)保護対策および/または発電機保護対策であってもよい。起こり得る障害の非限定的な例は、短絡障害である。
【0034】
本発明は、いくつかの利点を有する。これにより、周波数決定およびフェーザ推定の精度が向上する。それにより、周波数が公称値から大きく逸脱する場合など、深刻なシステム偶発事象下でのフェーザ推定値の信頼性をさらに保証することができる。
【0035】
図面の簡単な説明
本発明は、添付の図面を参照して以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】フェーザ処理装置に接続された電力線を備える電力システムを概略的に示す。
図2】DFTフェーザ決定モジュールと、周波数推定モジュールと、DFTフェーザ補正モジュールと、保護動作実行モジュールとを備えるフェーザ処理装置の1つの実現を概略的に示す。
図3】フェーザ処理装置の別の実現を概略的に示す。
図4】公称周波数から逸脱する周波数を有する2つのフェーザの振幅の時間依存性を示す。
図5】電力システムにおける電気量の周波数を提供するための方法におけるいくつかの要素を示す。
図6】従来の周波数推定と本方法による周波数推定との比較を示す。
図7】電力システムにおける電気量のフェーザ精度を改善するための方法におけるいくつかの要素を示す。
図8】標準DFT振幅、線形化開始角度を有する補正DFT振幅、および公称周波数付近の周波数範囲における4回の反復後の補正DFT振幅を示す。
図9】補正関数の開始角度と対応するDFTフェーザの角度との関係を示す。
図10】周波数推定モジュール、保護活動実行モジュール、およびDFTフェーザ補正モジュールを実装するための、CD-ROMディスクの形態のコンピュータプログラムコードを有するデータキャリアを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本発明の実施形態を以下に詳細に説明する。実施形態を説明する際に、明確にするために特定の用語が使用される。しかしながら、本発明は、そのように選択された特定の専門用語に限定されることを意図しない。特定の例示的な実施形態が説明されているが、これは例示のみを目的として行われることを理解されたい。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、他の構成要素および構成を使用できることを認識するであろう。
【0038】
本発明は、一般に、交流(AC)電力システムなどの電力システムにおける周波数および/または電気量のフェーザの提供に関し、および/またはこの周波数は、電力システムにおける障害対処措置の実行に使用することができる。
【0039】
図1は、このような電力システム10における電力線PLを概略的に示している。電力線PLには、フェーザ処理装置12、すなわちフェーザを処理する装置が接続されている。処理は、電力システムにおける電気量のフェーザに基づいて周波数を決定することを含むことができる。したがって、フェーザ処理装置12は、電力システムにおける電気量の周波数を提供する装置と考えることもできる。フェーザ処理装置12は、有利には、保護リレーなどのインテリジェント電子デバイス(IED)であってもよい。
【0040】
フェーザ処理装置12は、この例では、変流器CTおよび変圧器VTを介して電力線PLに接続された保護リレーとして実装される。保護リレーは、しばしばサンプリング時間と示される離散的な時点または時間インスタンスで電力線PLの電流および電圧を測定する。
【0041】
図2は、フェーザ処理装置10の一実現形態を概略的に示す。フェーザ処理装置は、離散フーリエ変換(DFT)フェーザ決定モジュールDFT PDM14と、周波数推定モジュールFEM16と、DFTフェーザ補正モジュールDFT PCM18と、保護アプリケーション実行モジュールPAPM20とを備える。保護アプリケーション実行モジュール20は、保護アプリケーションを実行するさらなる装置に接続されてもよい。保護リレーの場合、一例として回路遮断器に接続されてもよい。上述したように、フェーザ処理装置12は、フェーザ測定ユニット(PMU)、グリッドコントローラ、または統合ユニットの形態などの他の実現を有することができ、この場合および他の場合には、変換器または静的VAR補償器などの他の装置に接続することができる。そのような活動実行装置は、フェーザ処理装置12の一部であってもよい。
【0042】
さらに、DFTフェーザ決定モジュール14は、フェーザを処理するためにDFTフェーザをフェーザ処理装置12に供給する別個のデバイスとして設けられることが可能である。さらに、DFTフェーザ補正モジュール18を省略することも可能である。
【0043】
DFTフェーザ決定モジュール14、周波数推定モジュール16、DFTフェーザ補正モジュール18、および保護アプリケーション実行モジュール20は、特定用途向け集積回路(ASIC)またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などの1つまたは複数の専用集積回路として実現されてもよい。
【0044】
代替として、DFTフェーザ決定モジュール14、周波数推定モジュール16、DFTフェーザ補正モジュール18、および保護アプリケーション実行モジュール20は、モジュール機能を実装する1つまたは複数のコンピュータメモリ内のコンピュータプログラム命令に作用する1つまたは複数のプロセッサとして実現されてもよい。図3は、プロセッサPR22およびメモリ24が存在し、プロセッサ22がモジュールを実装するメモリ24内のコンピュータ命令に作用する、フェーザ処理装置12内のモジュールのそのような実現の一例を示す。
【0045】
DFTフェーザ決定モジュール14は、電流変圧器CTおよび電圧変圧器VTによって測定されている電流および電圧の電気量のうちの1つまたは複数のDFTフェーザを決定する。当技術分野で知られているように、フェーザは、そのような量の振幅および位相として実現され、DFTフェーザとして計算され得る。
【0046】
電力システムは、典型的には、50または60Hzなどの公称周波数を有する。しかしながら、システムは通常、公称システム周波数を維持することができない。システム周波数は公称周波数付近で変動する可能性があり、一例としてそのような周波数変動は負荷変動の影響を受ける可能性がある。さらに、発電システムは、例えば同期機械と比較して、慣性の低い再生可能な電源をますます採用している。これにより、システム周波数が不安定かつ変動しやすくなる可能性がある。
【0047】
したがって、瞬間的なシステム周波数の正確な推定値を取得することが重要である。本発明の態様は、瞬間的なシステム周波数の良好な推定値を提供することを対象とする。
【0048】
電力システムで頻繁に使用される量の1つは、フェーザ、すなわち電気量の振幅および位相である。フェーザは、いくつかの異なる活動において重要である。したがって、それはしばしば手元にあり、したがってシステム周波数を決定するための良好なソースでもある。フェーザはさらに、電気量の測定サンプルに基づいてDFTフェーザとして計算されることが多い。
【0049】
DFTは、以下のようにサンプリング時間に取得された振幅測定値のサンプルのストリームに基づいて取得することができる。
【0050】
【数1】

【0051】
式中、サンプルストリームAkは、一定のサンプリング時間間隔tで取得された振幅測定値であり、したがって、サンプルkのDFTは、複素指数e2πji/Nで重み付けされた最後のN個のサンプルの平均であり、jは虚数単位である。
【0052】
フェーザのDFTがMathematicaなどの数学的解析ツールで調査される場合、解析することができる解析ツールの第1の解析DFTフェーザ表現を得ることが可能であり、その解析表現は、特に固定周波数を有する正弦関数に基づく。
【0053】
例えばMathematicaでは、周波数fおよび位相角φの正弦波のDFTが所望される場合、解析ツールの以下の式が第1の解析式として得られる。
【0054】
【数2】

【0055】
式中、fは公称システム周波数であり、kは総和指数であり、NはN=1/(f)、すなわち1つの完全な公称周期に対して合計されたサンプルの数である。
【0056】
本発明者は、分析ツールの最初の分析表現である式(2)を研究する際に、いくつかの観察を行った。第1の観察は、式が和を含まない閉式であることである。したがって、計算コストは、Nの値にかかわらず同じである。しかしながら、計算コストは、いくつかの複素指数関数を含むため、いずれにせよかなりのものとなり得る。9個のそのようなものがあるように見えるが、より詳細な研究は、これらを4つの基本複素指数関数の組み合わせに減らすことができることを明らかにする。
【0057】
本発明者によって行われた第2の観察は、図4から理解することができる。図4は、周波数偏差が0.95*fであるDFTフェーザの振幅26の時間依存性および1.01*fである周波数偏差を有するDFTフェーザの振幅28の時間依存性を示す。実際の周波数の2倍が、フェーザの決定において役割を果たすように見えることが分かる。本発明者による第3の観察は、初期位相角φが時間の役割を果たすことである。
【0058】
【数3】
【0059】
式2中の時間tは、合計範囲t=0~ts(N-1)に制限され、初期角度は、新しいサンプルごとの連続するDFT計算間の遅延を反映する。
【0060】
理想的なケースf=fは、式2でカバーされる原因であるが、この場合は分子と分母がいずれも0であるため、制限値が取られる必要がある。結果にはいくつかの関心点がある。
【0061】
【数4】

【0062】
これは、この場合、振幅が1であり、DFT角度が時間とともに線形に増加し、オフセットπ/2であることを意味する。
【0063】
ここでこの知識をどのように使用することができるかを、電力システムにおいて電気量の周波数を提供するための方法におけるいくつかの要素のフローチャートを示す図5を参照してより詳細に説明する。
【0064】
DFTフェーザ決定モジュール14は、DTFフェーザ、例えば変流器CTおよび変圧器VTによって測定された電流および/または電圧の形態の電気量のフェーザを連続的に決定する。これらのDFTフェーザは、周波数推定モジュールFEM16にも供給される。次いで、周波数推定モジュール16は、フェーザの周波数を決定する。
【0065】
DFTフェーザに対して、周波数推定モジュール16は、以下の動作を有する。
周波数推定モジュール16は、DFTフェーザ決定モジュール14から第1の時間に対する第1のDFTフェーザを取得(30)し、第1の時間は、電気量が測定またはサンプリングされる時間であってもよい現時点であってもよい。次いで、周波数推定モジュール16は続けて、第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定(32)し、第1の時間間隔は、近似周波数に依存する。第1の時間間隔は、より具体的には、1を積で除算することによって与えられてもよく、積は近似周波数の2倍である。
【0066】
近似周波数は、より具体的には、第1の時間に先行する第2の時間における周波数であってもよい。第2の時間は、例えば、先行するサンプルの時間、すなわち物理量の現在のサンプルに先行する物理量のサンプルであってもよい。
【0067】
その後、周波数推定モジュール16は、第1および第2のDFTフェーザに基づいて第1の時間において周波数を決定(34)する。周波数を決定するステップは、第1のDFTフェーザと第2のDFTフェーザとの間の位相角の差を決定するステップを含むことができる。
【0068】
近似周波数として使用される第2の時間における周波数は、第1の時間における周波数と同じ方法で、すなわち、第2の時間における第3のDFTフェーザと、第2の時間の前の第2の時間間隔における以前の推定された第4のDFTフェーザとに基づいて決定されていてもよく、この場合、第2の時間間隔は、第2の時間に先行する第3の時間におけるさらに近似周波数に依存する。さらに、初期近似周波数は公称周波数であり得る。
【0069】
周波数fは、より具体的には、
【0070】
【数5】

【0071】
すなわち、フェーザAの位相角の時間微分によって得られる。したがって、第1および第2のDFTフェーザに基づいて第1の時間において周波数を決定するステップは、第1および第2のDFTフェーザ間の位相角の差を決定するステップを含むことが理解されよう。言い換えれば、第1の時間における周波数は、以下の方法で決定される。
【0072】
最適時間差1/(2fold)、すなわち近似周波数foldに依存する時間間隔において角度を見つけるために補間が実行される。以下の一連の式は、これをどのように行うことができるかを示している。
【0073】
最後の推定周波数foldである近似周波数から、最適時間ステップに対応するサンプル数sは次のように計算される。
【0074】
【数6】

【0075】
ステップsは一般に整数ではないことに留意されたい。現在時間における現在のサンプルnの前の先行する時間におけるDFT結果、すなわち、第1の時間における第1のDFTフェーザの前の時間間隔における第2のDFTフェーザは、線形補間によって次のように推定することができる。
【0076】
【数7】

【0077】
式中、Floor(s)およびCeiling(s)は、sよりもそれぞれ小さい、または大きい、最も近い整数である。次いで、角度差は、第1の時間における推定周波数を以下によって与える。
【0078】
【数8】

【0079】
式中、DFT(n)は、第1の時間における第1のDFTフェーザであり、DFT[n-s]は、時間間隔1/(2fold)における、すなわち、近似周波数foldに依存する時間間隔における第2のDFTフェーザである。
【0080】
この手法は、広い周波数範囲で適用可能である。これは図6に見ることができ、図6は、固定ステップを使用する従来の周波数推定(38)と、補間を使用する周波数推定(40)の48秒での40Hzから60Hzへの周波数掃引を示す。図から分かるように、補間手法は、40~60Hzの周波数範囲における約0.01Hzのほぼ一定の偏差を与える。
【0081】
記載された手法の周波数偏差にはいくつかの可能な変動がある。より詳細な検査は、整数のサンプルに対応する周波数、47.62、50、および52.63Hzなどで最小値が発生することを明らかにする。したがって、補間信号の偏差は、使用される線形補間にトレースすることができ、より高次の補間は偏差をさらに低減する。
【0082】
多項式補間またはスプライン補間などのより高次の補間を使用することができる。より高次の補間は、少なくとも3つのDFT結果を必要とする。
【0083】
現在時間における現在のサンプルnの前の所望の時間におけるDFT結果DFT[n-s]は、例えば、現在のサンプルn-Floor(s)、n-Floor(s)+x、n-Ceiling(s)、n-Ceiling(s)-yにおけるDFT結果を使用する高次補間を使用して推定することができ、xおよびyは整数である。言い換えれば、所望の時間の前後の現在のサンプルにおける少なくとも3つのDFT結果を使用して、高次多項式を使用することによって所望の時間におけるDFT結果を推定することができる。
【0084】
言い換えると、第2のDFTフェーザは、少なくとも3つのDFTフェーザを使用する高次補間によって推定することができる。少なくとも3つのDFTフェーザのDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間に先行するサンプリング時間において取得され、少なくとも3つのDFTフェーザの別のDFTフェーザは、第2のDFTフェーザが推定されるべき時間に後続するサンプリング時間に取得される。
【0085】
より多くの数のDFTフェーザを使用することにより、補間の次数を増加させることができ、偏差をさらに低減することができる。
【0086】
次いで、決定された周波数は、電力システムのシステム周波数であると考えることができる。より具体的には、第1の時間に関連する瞬間的なシステム周波数の推定であってもよい。
【0087】
次いで、決定された周波数は、障害対処措置を実行するために保護活動実行モジュール20によって直接使用されてもよい。したがって、保護活動実行モジュール20は、電力システムにおける障害対処措置においてシステム周波数推定を適用(36)することができる。これは、負荷の切断などの周波数変化率(ROCOF)活動の分野における保護活動などの様々な活動を含み得る。
【0088】
先に述べたように、周波数推定はまた、DFTフェーザに関連して使用されてもよい。これは、より具体的には、DFTフェーザを補正するために使用され得る。ここで、これをどのように行うことができるかを、電力システムにおける電気量のフェーザ精度を改善するための方法におけるいくつかの要素を示す図7を参照して説明する。
【0089】
ここでも、DFTフェーザ決定モジュール14は、電力システム内の電気量のフェーザを決定し、そのフェーザは、周波数推定モジュール16およびDFTフェーザ補正モジュール18に提供される。周波数推定モジュール16は、フェーザの周波数を決定し、この周波数もDFTフェーザ補正モジュール18に提供する。
【0090】
それにより、DFTフェーザ補正モジュール18は、電気量の周波数を取得(42)するとともに、対応するフェーザを取得(44)し、周波数は、周波数推定モジュール16によって決定された第1の時間における前述の周波数であり、対応するフェーザは、この周波数の決定に使用された第1の時間における前述の第1のDFTフェーザである。任意選択で、DFTフェーザ補正モジュール18はまた、フェーザに基づいて位相を推定(46)し、次いで周波数および位相を補正関数に適用(48)し、補正関数はフェーザの解析式に基づく。解析式は、一例として、式2によって実現される前述の第1の解析式であってもよい。最後に、DFTフェーザ補正モジュール18は、補正関数から得られた補正係数でフェーザを調整(50)する。
【0091】
数学的解析ツールの解析DFTフェーザ式に基づく補正関数は、一例として、式(2)の形式であってもよい。この第1の式は、位相角パラメータφおよび周波数パラメータfを有し、DFTフェーザを表す。これにより、補正関数も周波数パラメータfおよび位相角パラメータφを有する。
【0092】
位相の推定は、補正関数で使用される初期位相を推定することを含んでもよい。
初期位相の推定は、DFTフェーザおよびゼロ位相角の解析式に基づいてもよい。初期位相は、より詳細には、前述の第1の時間におけるDFTフェーザの位相と、位相角パラメータ設定が0である補正関数の位相との間の差に基づいて推定されてもよい。代替として、初期位相は、電力システムの公称周波数付近のDFTフェーザの解析式の級数展開である解析式にゼロ位相角を適用することによって推定されてもよい。
【0093】
初期位相が推定された後、位相補正モジュールは、周波数パラメータとして第1の時間において決定された周波数と共に初期位相を位相パラメータとして位相補正関数に適用し、補正関数は、ここでは式2によって例示される解析DFTフェーザ式に基づく。
【0094】
補正関数にパラメータを適用することにより、DFTフェーザ補正モジュール18は、補正係数を取得し、次いで、DFTフェーザ補正モジュール18は、補正関数から取得された補正係数で現在のDFTフェーザを調整し、この補正係数は、システム周波数推定を周波数パラメータとして使用し、推定された初期位相を位相パラメータとして使用することによって取得された。
【0095】
このタイプの推定は、その後、後続のDFTフェーザに対して反復的に実行されてもよく、周波数は、現在のフェーザの対応する推定された新しい周波数であり、位相は、前の位相で調整された現在のフェーザの位相である。
【0096】
調整されたフェーザは、保護活動実行モジュール20にさらに供給されてもよく、これは、次に、補正されたフェーザを処理し、処理された電流フェーザが障害を示す場合に保護活動を実行してもよい。
【0097】
DFTフェーザ補正モジュール18の動作は、以下のように説明することもできる。
ユニティ振幅および固定周波数、すなわち式2を有する正弦波の閉じたDFTを使用して、任意の波形w(t)のDFT結果を補正することができる。補正関数cor(f,φ)は、式2をf=f(式4)の結果で除算することによって導出することができ、結果は以下のとおりである。
【0098】
【数9】

【0099】
次に、補正された、または精度が向上したDFT結果は以下のとおりである。
【0100】
【数10】

【0101】
補正関数は、信号の実際の周波数fおよびその位相φのみに依存すると述べられており、他の2つのパラメータfおよびNは、特定の用途ごとに一定に保たれると考えられる。
【0102】
位相を推定することができる場合、補正は簡単であり、数値精度に対する周波数のアーチファクトを排除することができる。これは図8に見ることができ、図8は、標準的なDFT52、平均化なしの線形化された開始角度を有する補正されたDFT54、および4回の反復後の補正されたDFT56の3つの変形における25Hz~75Hzの周波数掃引のDFT振幅を示す。
【0103】
開始角度は、周波数よりもわずかに複雑な問題を引き起こすが、標準的なDFT結果から推定することもできる。複雑さは、実際の周波数を反映するために(平均して)同じ勾配で増加するので、DFTフェーザ角と必要な開始角φは関連していなければならないにもかかわらず、DFTフェーザ角が必要な開始角φに等しくないことである。図9はこの記述を例示しており、50Hzについて分析された75Hz信号DFTの開始角度φ58とDFTフェーザの角度60との間の関係を示している。
【0104】
傾きが既知であるとすると、φとPhase[DFT]との関係は、DFT(φ=0)で与えられる点を通る直線で近似的に求められる。したがって、開始角度は次の式で近似することができる。
【0105】
【数11】

【0106】
式中、π/2は、補正関数corr(f,φ)とDFT表現である式2との間の位相差に由来する。これにより、初期位相は、第1の式およびゼロ位相角に基づいて推定され、さらに、初期位相は、現在のDFTフェーザの位相と、位相角パラメータ設定が0の補正関数の位相との間の差に基づいて推定されることが分かる。
【0107】
しかしながら、この手法は、cor(f,φ)の表現である式9を必要とし、これは、補正されたサンプルごとに2回実行され、計算コストを大幅に増加させる。この計算は、DFT表現の級数展開によって与えられるより単純な表現である式4によって近似することができ、f=f付近でφ=0である。
【0108】
【数12】

【0109】
この式は、三角関数Cot[2π/N]を含むが、これはすべての評価で同じであるため、すべてについて1回で計算することができる。したがって、式12の最初の2つの項の角度を使用して、式11と同様にDFT角度を補正することができる。これにより、初期位相は、第1の分析式およびゼロ位相角に基づいて推定され、この場合、初期位相は、電力システムの公称周波数f付近の第1の分析式の級数展開である分析ツールの分析式(式12)にゼロ位相角を適用することによって推定されることが分かる。
【0110】
初期位相角を推定する上記の両方の手法は、f付近の10%の範囲に等しく適している。
【0111】
角度補正係数の加算は、DFT位相の振動に影響を与えず、補正精度を低下させる働きをする。振動を減少させるために、追加の複雑さを伴うが、周波数推定値と開始角度の両方に浮動平均手法を使用することができる。複雑さは、角度が着実に増加しており、さらに悪いことに、180°から-180°に定期的にジャンプするという事実から生じる。平均化手法を使用するには、これらの複雑さを排除しなければならない。
【0112】
複雑さは、最初に線形位相増加を除去し、次に平均化を実行し、最後に線形増加角度を加算し直すことによって排除することができる。
【0113】
遅延を最小にするには、1つの周期の平均化間隔が最適であり得る。
周波数および開始角度推定の品質は、可能な精度向上を制限する。調査は、開始角度推定値が周波数よりも許容可能な結果に対してより決定的であることを示している。この制限を克服するために、周波数および開始角度の推定値が、これらの推定値が低減された振動を有するはずであるため、最後の補正されたDFTフェーザから得られる反復手順を想定することができる。
【0114】
したがって、十分な計算労力が投資されれば、非常に広い範囲の周波数が精度を高めることができる。ここでは、1%の精度が必要な場合、領域30~70Hzを4回の反復でカバーできるように見える。これは、標準DFTが約49.5~50.5Hzの同じ精度内にある領域と比較することができる。
【0115】
したがって、保護のために、想定される最適な実装は、反復なしでDFT精度向上を使用することである。周波数推定値および開始角度は、上述の方法で取得することができ、ここで線形化された式12が好ましい。周波数推定値の線形補間は、追加の計算コストをほとんど与えないはずであるが、開始角度平均化は顕著な負担を加える可能性がある。そのような実施態様では、ほとんどの最新の保護リレーは、少なくともいくつかの重要な信号に対するDFT拡張に対応することができると予想される。
【0116】
オフラインアプリケーションの場合、計算負荷は主な懸念事項ではないが、無論、無駄にしてはならない。したがって、推定周波数が公称値から逸脱するにつれて、より重い計算を選択する適応的実施態様を想定することができる。そのような増加した計算労力のラダーは、以下を構成することができる。
【0117】
1.周波数が公称に近い場合の保護と同じ実施態様。仮の範囲は±2Hzである。
2.周波数が公称値から逸脱するにつれて、反復回数が増加する。
【0118】
前述のように、推定周波数および補正フェーザは、いくつかの領域で使用することができる。
【0119】
障害処理機能は、いくつかの障害処理機能のいずれかであってもよい。一例として、障害対処措置は、周波数変化率(ROCOF)保護対策であってもよい。
【0120】
別の例として、障害対処措置は、周波数が公称値から大きく逸脱するときの深刻なシステム偶発事象下でのフェーザ推定値の信頼性の保証であってもよい。したがって、1つの可能な用途は、システム偶発事象中に信頼性の高い精度および良好な時間分解能でフェーザを供給することである。一般的なシステム偶発事象は、発電設備の喪失であり、制御が可能な限りシステムを復旧するように作用するまで周波数の低下をもたらす。発生したシステム全体の崩壊の多くは、さらなる残念な事象または状態が崩壊につながったこのような事象に起因する。残念ながら、これらの残念な事象の中で、保護の機能不全は珍しくないようである。したがって、強化されたDFTは、システム崩壊につながるカスケード事象のリスクを低減することができることが期待され得る。
【0121】
したがって、この例は、周波数が低下しているときにシステム偶発事象中に強化手順がより正確なフェーザ推定値を与えることができることを示している。
【0122】
改善された周波数推定および/またはDFTフェーザ補正が重要であり得る別の例は、発電機が突然負荷を失うときである。
【0123】
DFTフェーザ推定の実質的に向上した精度を得るための予期しない方法が詳細に提示されている。それは、周知のDFT周波数依存アーチファクトをシステム雑音レベルまで低減することができ、したがってアーチファクトは不可視である。これは、±10Hzを超える広い周波数範囲で可能である。強化されたDFTのいくつかの変形は、より多くの計算労力を犠牲にして、周波数範囲および精度を高めて提示される。少なくとも最も基本的なバージョンは、±5Hz間隔で1%より良好な精度を有し、現在のリアルタイム保護および制御プラットフォームのほとんどで実行可能であると推定される。
【0124】
フェーザ精度の向上に加えて、周波数推定のための単純なアルゴリズムが提案されている。このアルゴリズムは、1周期未満の遅延を有し、広い周波数間隔において良好な精度で適用可能である。
【0125】
DFTアルゴリズムがこれらの用途で広く使用されるので、周波数推定およびDFTフェーザの精度の向上は、電力システムのより信頼性の高い制御および保護に寄与することが想定される。精度が向上することにより、将来的に他の用途の開発が可能になる。
【0126】
周波数推定モジュールおよび保護活動実行モジュール、ならびにオプションのDFTフェーザ補正モジュールおよびDFTフェーザ決定モジュールは、先に論じたように、ソフトウェアを使用して実装されてもよい。したがって、それらは、プログラムコードが1つまたは複数のプロセッサによって操作されるか、または1つまたは複数のコンピュータにロードされるときに、これらのモジュールの機能を実行する1つまたは複数のデータキャリア上に提供され得るコンピュータプログラムコードを使用して実装され得る。CD-ROMディスクの形態のコンピュータプログラムコード64を有するそのようなデータキャリア62が、図10に概略的に示されている。そのようなコンピュータプログラムは、代替として、メモリスティック上に提供されてもよい。代替として、コンピュータプログラムは、サーバ上に提供され、そこから1つまたは複数のコンピュータにダウンロードされてもよい。
【0127】
一般的または代替的な態様では、本開示はまた、電力システム(10)において電気量の周波数を提供するための方法に関し、本方法は、
-第1の時間に関して、電力システムにおける電気量の第1の離散フーリエ変換(DFT)フェーザを取得するステップ(30)と、
-第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定するステップ(32)であって、前記第1の時間間隔は近似周波数に依存する、ステップと、
-第1および前記第2のDFTフェーザに基づいて第1の時間において周波数(fnew)を決定するステップ(34)と、を含む。
【0128】
近似周波数は、第1の時間に先行する第2の時間における周波数であってもよく、特に、第2の時間における周波数は、第2の時間における前のDFTフェーザと、第2の時間の前の第2の時間間隔における前の推定DFTフェーザとに基づいて決定される。
【0129】
さらに、第1の時間間隔は、1を積で除算することによって与えられてもよく、積は近似周波数の2倍である。
【0130】
さらに、第1および第2のDFTフェーザに基づいて第1の時間において周波数を決定するステップ(34)は、第1および第2のDFTフェーザ間の位相角の差を決定するステップを含んでもよい。
【0131】
さらに、本方法は、第1の時間において決定された周波数を電力システムにおける障害対処措置において適用するステップ(36)をさらに含むことができる。
【0132】
さらなる態様によれば、電力システムにおける電気量のフェーザ精度を改善するための方法が提供され、本方法は、
電力システムにおける電気量の周波数を提供するために、特に上述の一般的または代替的な態様の方法に従って、電気量の周波数を取得するステップ(42)と、
電気量のフェーザ、特に上述の第1のDFTフェーザを取得するステップ(44)と、
周波数を補正関数に適用するステップ(48)であって、補正関数はフェーザの解析式に基づく、適用するステップと、および
補正関数から得られる補正係数を用いてフェーザを調整するステップ(50)と、を含む。
【0133】
一実施形態によれば、解析式は正弦関数に基づいてもよい。
さらに、補正関数は、パラメータとしてフェーザの位相を含むことができ、方法は、フェーザに基づいて補正関数の位相を推定するステップ(48)をさらに含む。
【0134】
さらに、本方法は、解析式およびゼロ位相角に基づいて補正関数で使用される初期位相を推定するステップをさらに含むことができる。
【0135】
さらに、本方法は、電力システムにおける障害対処措置に調整フェーザを適用するステップをさらに含むことができる。特に、障害対処措置は、周波数変化率(ROCOF)保護対策であってもよい。
【0136】
さらに、障害は短絡障害を含んでもよく、および/または保護は発電機の保護であってもよい。
【0137】
さらなる態様によれば、電力システム(10)で使用するためのフェーザ処理装置(12)が提供される。フェーザ処理装置はプロセッサ(22)を備えてもよく、プロセッサは、
-第1の時間に関して、電力システムにおける電気量の第1の離散フーリエ変換(DFT)フェーザを取得し、
-第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定し、前記第1の時間間隔は近似周波数に依存し、
-第1のDFTフェーザおよび第2のDFTフェーザに基づいて第1の時間において周波数(fnew)を決定するように構成される。
【0138】
一実施形態によれば、装置は、インテリジェント電子デバイス、保護リレー、フェーザ測定ユニット、グリッドコントローラ、および統合ユニットのグループから選択することができる。
【0139】
またさらなる態様によれば、電力システム(10)において電気量の周波数を提供するためのコンピュータプログラム製品が提供される。コンピュータプログラム製品は、コンピュータプログラムコード(64)を備えるデータキャリア(62)上に提供されてもよく、前記コンピュータプログラムコードは、プロセッサ(22)によって動作されているときに、プロセッサに、
-第1の時間に関して、電力システムにおける電気量の第1の離散フーリエ変換(DFT)フェーザを取得し、
-第1の時間の前の第1の時間間隔において第2のDFTフェーザを推定し、前記第1の時間間隔は近似周波数に依存し、
-第1のDFTフェーザおよび第2のDFTフェーザに基づいて第1の時間において周波数(fnew)を決定するように構成される。
【0140】
上記の説明から、本発明が多数の方法で変更され得ることは明らかである。結果として、本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきであることが理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10