(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】銅粉及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240906BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240906BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20240906BHJP
B22F 1/07 20220101ALI20240906BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20240906BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240906BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240906BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/05
B22F1/06
B22F1/07
B22F9/08 A
B82Y30/00
B82Y40/00
C22C9/00
(21)【出願番号】P 2023531609
(86)(22)【出願日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2022045684
(87)【国際公開番号】W WO2023223586
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022081800
(32)【優先日】2022-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆史
(72)【発明者】
【氏名】井手 仁彦
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-247702(JP,A)
【文献】特開2005-200734(JP,A)
【文献】特開2014-222619(JP,A)
【文献】国際公開第2007/111231(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/015865(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123809(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/05,1/06,1/068,1/07,
1/14,9/08
B82Y 30/00,40/00
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS Z2512:2012に準じて400回タップしたときのタップ密度が4.2g/cm
3以上5.5g/cm
3以下であり、
JIS Z2512:2012に準じて100回タップしたときのタップ密度が4.1g/cm
3以上5.5g/cm
3以下であり、
粒子の厚みの標準偏差SD(μm)/平均粒径D
50(μm)の値が0.08以上0.26以下であ
り、
炭素元素の含有量が0.30質量%以下である、銅粉。
【請求項2】
粒子の長径/粒子の短径の値であるアスペクト比の平均値が1.25以上3.00以下である、請求項1に記載の銅粉。
【請求項3】
前記アスペクト比が1.25以上である粒子を、個数基準で30%以上含む、請求項2に記載の銅粉。
【請求項4】
酸素元素の含有量が0.5質量%以下である、請求項1に記載の銅粉。
【請求項5】
平均粒径D
50が2.0μm以上5.0μm以下である、請求項1に記載の銅粉。
【請求項6】
銅の結晶子サイズが50nm以上80nm以下である、請求項1に記載の銅粉。
【請求項7】
(D
90-D
10)/D
50の値が1.00以上であり、球状銅粒子の集合体からなる原料銅粉を準備する工程と、
前記原料銅粉と
脂肪族アルコールとを混合してスラリーを調製する工程と、
前記スラリーをメディアミル装置による扁平化処理に付して、前記球状銅粒子を扁平銅粒子に変形させる工程と、を有する銅粉の製造方法であって、
前記扁平化処理を、
滑剤を使用せず且つ前記スラリー中の水分量を0.30質量%以下に維持しながら、不活性雰囲気で行う、銅粉の製造方法。
【請求項8】
アトマイズ法で前記原料銅粉を製造する、請求項
7に記載の製造方法。
【請求項9】
粒度分布のSD値が1.00以上である前記原料銅粉を準備する、請求項
7又は
8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は導電性の高い金属であり、また汎用性が高い材料であることから、導電材料として工業的に広く用いられている。例えば銅粒子の集合体である銅粉は、積層セラミックコンデンサ(以下「MLCC」ともいう。)の外部電極及び内部電極、並びに各種基板への配線など、各種電子部品を製造するための原材料として幅広く利用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、銅粉の粉粒を塑性変形させフレーク化したフレーク状銅粉において、レーザ回折散乱式粒度分布測定法による重量累積粒径D50が10μm以下であり、レーザ回折散乱式粒度分布測定法により測定した粒度分布の標準偏差SD/D50の値が0.55以下であり、重量累積粒径D90/重量累積粒径D10の値が4.5以下であるフレーク状銅粉が記載されている。フレーク状銅粉によれば、導電性ペーストの粘度制御が可能になり、導電性ペーストに適切なチクソトロピック性を付与できると同文献には記載されている。
【0004】
特許文献2には、平均厚さDが0.2μm以上のフレーク形状の銅粒子からなるフレーク状銅粉が記載されている。このフレーク状銅粉は、粒度分布における50%径D50が1~30μmであり、アスペクト比(D50/平均厚さD)が5~70である。このフレーク状銅粉は導電性ペーストのフイラーに適したものであると、同文献には記載されている。
【0005】
特許文献3には、平均厚さDが0.2μm以上のフレーク形状の銅粒子からなるフレーク状銅粉において、粒度分布における50%径D50が1~30μmであり、D50/Dで定義されるアスペクト比が5~70であり、SD/(D90/D10)の値が0.1以下であるフレーク状銅粉が記載されている。SDは、電子顕微鏡観察で測定した粒子100個の厚さの標準偏差であり、D90は粒度分布における90%径であり、D10は粒度分布における10%径である。このフレーク状銅粉によれば、優れた粘度、印刷性及び導電性をもつ導電性ペーストを得ることができると同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-169155号公報
【文献】特開2005-200734号公報
【文献】特開2005-314755号公報
【発明の概要】
【0007】
銅粉をMLCCの外部電極及び内部電極、並びに各種基板への配線として用いる場合、該銅粉として、特許文献1ないし3に記載のフレーク状銅粉を用いると、その粒子形状に起因して、電極の緻密性を向上させづらいことがある。一方、球状銅粉を用いた場合には、電極の連続性が担保しづらいことがある。そこで現在では、お互いの短所を補うことを目的として、フレーク状銅粉と球状銅粉とを混合して用いる場合が多い。しかし、フレーク状銅粉と球状銅粉とを併用することは、混合操作が必要となるので工業的及び経済的な観点からは必ずしも有利とは言えず、混合使用を必要とせずに電極を製造することが望まれている。
したがって本発明の課題は、混合使用を必要とせずに緻密性及び連続性が高い電極を製造し得る銅粉及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明は、JIS Z2512:2012に準じて400回タップしたときのタップ密度が4.2g/cm3以上5.5g/cm3以下であり、
JIS Z2512:2012に準じて100回タップしたときのタップ密度が4.1g/cm3以上5.5g/cm3以下であり、
粒子の厚みの標準偏差SD(μm)/平均粒径D50(μm)の値が0.08以上0.26以下である、銅粉を提供するものである。
【0009】
また本発明は、粒度分布のSD値が1.00以上であり、且つ、(D90-D10)/D50の値が1.00以上であり、球状銅粒子の集合体からなる原料銅粉を準備する工程と、
前記原料銅粉と有機溶媒とを混合してスラリーを調製する工程と、
前記スラリーをメディアミル装置による扁平化処理に付して、前記球状銅粒子を扁平銅粒子に変形させる工程と、を有する銅粉の製造方法であって、
前記扁平化処理を、前記スラリー中の水分量を0.3質量%以下に維持しながら、不活性雰囲気で行う、銅粉の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた銅粉の走査型電子顕微鏡像である。
【
図2】
図2は、比較例2で得られた銅粉の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明は、扁平な銅粒子を主として含む銅粉に関するものである。銅粉及び銅粒子は、銅及び不可避不純物からなる。本発明の銅粉は、銅粉の緻密性が高く、また流動性が高い点に特徴の一つを有する。銅粉の緻密性及び流動性が高いことは、本発明の銅粉を用いて調製されたペーストの塗膜における粒子の緻密性が高く、また塗膜の連続性が高いこと、すなわち途切れることなく塗膜を形成し得ることを意味する。
【0012】
緻密性の程度は、銅粉のタップ密度によって評価できる。本発明の銅粉は、JIS Z2512:2012に準じて400回タップしたときのタップ密度(以下「400回タップ密度」ともいう。)が4.2g/cm3以上5.5g/cm3以下であり、4.3g/cm3以上5.5g/cm3以下であることが好ましく、4.3g/cm3以上5.4g/cm3以下であることがより好ましい。銅粉の400回タップ密度が上述の範囲にあることにより、銅粉の緻密性が増大する。400回タップ密度が上述の範囲を満たすようにするためには、例えば後述する方法に従い扁平な銅粒子を製造すればよい。
【0013】
流動性の程度は、JIS Z2512:2012に準じて100回タップしたときのタップ密度(以下「100回タップ密度」ともいう。)によって評価できる。本発明の銅粉は、100回タップ密度が4.1g/cm3以上5.5g/cm3以下であり、4.2g/cm3以上5.4g/cm3以下であることが好ましく、4.2g/cm3以上5.3g/cm3以下であることがより好ましい。100回タップという比較的少ない回数でのタップ密度が上述の範囲、すなわち400回タップ密度と同程度のタップ密度を有することにより、銅粉の流動性が高くなり、当該銅粉を用いて塗膜を製造した場合において、当該塗膜中における銅粉の緻密性が増大する。100回タップ密度が上述の範囲を満たすようにするためには、例えば後述する方法に従い表面が平滑且つ扁平な銅粒子を製造すればよい。
なお、銅粉の種類に応じ、100回タップ密度は、400回タップ密度と同じ値であるか、又はそれよりも小さい値をとる。
【0014】
更に本発明の銅粉は、これを構成する銅粒子の厚みの標準偏差SD(μm)と、平均粒径D50(μm)との間に特定の関係を有する。具体的には、標準偏差SD(μm)/平均粒径D50(μm)の値が0.08以上0.26以下であり、0.09以上0.25以下であることが好ましく、0.10以上0.24以下であることがより好ましい。標準偏差SD(μm)/平均粒径D50(μm)が上述の範囲内にあることによって、銅粉を構成する銅粒子は、その粒径に対する粒子の厚みの変動が抑制されたものになる。つまり、銅粒子の粒径及び厚みが均一になるので、このような銅粒子の集合体からなる銅粉を用いて塗膜を構成した場合に、銅粒子間の隙間の形成が抑制され、銅粒子が連続して存在するようになる。結果として、当該塗膜中の銅粒子の連続性が増大する。
【0015】
銅粒子の平均粒径D50は、レーザ回折散乱式粒度分布測定法によって求めることができる。銅粒子の厚みの標準偏差SDは、銅粉と溶剤と樹脂とを混合して樹脂組成物とし、その塗膜を形成後に該塗膜を乾燥させ、得られた乾燥塗膜の断面における銅粒子の厚みを、走査型電子顕微鏡を用いて測定する方法によって求めることができる。
【0016】
本発明の銅粉が有する上述した各種の利点を一層顕著なものとする観点から、銅粒子の平均粒径D50は、2.0μm以上5.0μm以下であることが好ましく、2.5μm以上4.8μm以下であることがより好ましく、3.0μm以上4.5μm以下であることが更に好ましい。
同様の観点から、銅粒子の厚み平均値は、0.20μm以上2.00μm以下であることが好ましく、0.30μm以上1.80μm以下であることがより好ましく、0.40μm以上1.70μm以下であることが更に好ましい。銅粒子の厚み平均値の測定は、銅粉と溶剤と樹脂を混合し樹脂組成物とし、その塗膜を形成後に該塗膜を乾燥させ、得られた乾燥塗膜の断面に観察される銅粒子の厚みを測定することで求めることができる。測定は300個以上の銅粒子を対象とする。断面の観察は、走査型電子顕微鏡を用い倍率2000倍で行う。
【0017】
本発明においては、銅粒子の板面における長径/粒子の短径の値であるアスペクト比(以下「平面アスペクト比」ともいう。)の平均値が1.25以上3.00以下であることが好ましく、1.27以上2.50以下であることがより好ましく、1.30以上2.00以下であることが更に好ましい。平面アスペクト比が上述のような値を有する銅粒子から本発明の銅粉が構成されていることによって、当該銅粒子を含む銅粉から塗膜を構成した場合の、当該塗膜中での銅粉の緻密性及び連続性が更に向上する。
本明細書において扁平とは、粒子の主面を形成している一対の板面と、これらの板面と交差する側面とを有する形状を指す。板面及び側面はそれぞれ独立して、平面、曲面又は凹凸面であり得る。板面は平面であることが好ましい。
【0018】
銅粒子の厚み面、すなわち側面におけるにおける長辺/短辺の値であるアスペクト比(以下「側面アスペクト比」ともいう。)の平均値は2.0以上であることが好ましい。このような側面アスペクト比を有する銅粒子から本発明の銅粉が構成されていることによって、当該銅粒子を含む銅粉から塗膜を構成した場合の、当該塗膜中での銅粉の緻密性及び連続性が更に向上する。側面アスペクト比は、上述した銅粒子の厚みの標準偏差SDの測定と同様の方法で測定できる。
なお、本発明において「扁平な銅粒子を主として含む」とは、上述した側面アスペクト比が上述の範囲を満たす銅粒子の含有割合が例えば個数基準で70%以上であることをいう。
本発明の銅粉中に球状粒子が含まれている場合、球状粒子の割合は、個数基準で30%以下であることが好ましく、28%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましい。
【0019】
本発明の銅粉においては、平面アスペクト比の平均値が1.25以上である銅粒子の割合が個数基準で30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましく、銅粒子のすべてが、平面アスペクト比の平均値が1.25以上である銅粒子からなることが特に好ましい。これによって、上述した本発明の銅粉の作用効果が確実に奏される。
本発明において平面アスペクト比は次の方法で決定される。銅粉について走査型電子顕微鏡(以下「SEM」とも言う。)観察を行い、観察視野中の300個以上の任意の粒子について板面における長径Dと、該長径Dの垂直二等分線が粒子を横切る長さ、すなわち短径dとの比であるD/dで表される。SEMの拡大倍率は、銅粒子の粒径に応じて適切な値を選択する。一般に、視野中に300個以上600以下の粒子が観察されるような倍率を選択する。
【0020】
本発明の銅粉においては、これを構成する銅粒子の粒径によらず、一定範囲の平面アスペクト比を有することが好ましい。例えば、銅粒子の個々の粒径のヘイウッド径が2.0μm以上6.5μm以下の範囲において、平面アスペクト比が1.25以上3.00以下の範囲となっていることが、緻密性及び流動性が高い銅粉となることから好ましく、平面アスペクト比が特に1.25以上2.50以下、とりわけ1.25以上2.00以下になっていることが好ましい。
【0021】
本発明の銅粉中には、平面アスペクト比の平均値が1.25以上である銅粒子以外の銅粒子が含まれていてもよい。そのような銅粒子の形状に特に制限はなく、円形状及び非円形状のいずれのものも用いられる。銅粒子が円形状であるとは、銅粒子を二次元投影した場合、円形度係数が0.85以上であることをいう。円形度係数は、一次粒子の銅粒子の走査型電子顕微鏡像を撮影し、銅粒子の二次元投影像の面積をSとし、周囲長をLとしたときに、銅粒子の円形度係数を4πS/L2の式から算出する。一方、銅粒子が非円形状であるとは、上述の円形度係数が0.85未満であることをいう。非円形状の具体例としては、六面体や八面体等の多面体状粒子、紡錘状粒子、異形状粒子等が挙げられる。
【0022】
銅粉を構成する銅粒子における銅の結晶子サイズは50nm以上100nm以下であることが好ましく、50nm以上90nm以下であることがより好ましく、50nm以上80nm以下であることが更に好ましい。銅の結晶子サイズがこの範囲にあることにより、該銅粉から塗膜を形成し該塗膜を焼成するときに、塗膜時の熱に起因して銅粒子が収縮する程度を適度な範囲に制御することができ、電極の寸法安定性が高まる。銅の結晶子サイズをこの範囲に設定するには、例えば後述する銅粉の好適な製造方法において、球状銅粒子の扁平化の程度を適切に制御すればよい。銅の結晶子サイズは外力が加わることで小さくなる傾向にあるからである。
【0023】
銅の結晶子サイズを算出するには、(株)リガク製のUltima IVを用い、銅粉のX線回折測定を行う。この測定によって得られた銅の(111)面の回折ピークをシェラー法にて解析し、結晶子サイズを算出する。
【0024】
<X線回折測定条件>
・管球:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:50mA
・測定回折角:2θ=20~100°
・測定ステップ幅:0.01°
・収集時間:3sec/ステップ
・受光スリット幅:0.3mm
・発散縦制限スリット幅:10mm
・検出器:高速1次元X線検出器 D/teX Ultra250
【0025】
<X線回折用試料の調製方法>
測定対象の銅粉を測定ホルダに敷き詰め、銅粉層の厚さが0.5mmで且つ平滑になるように、ガラスプレートを用いて平滑化した。
【0026】
上述の測定条件にて得られたX線回折パターンを用いて、以下の条件にて、解析用ソフトウェアで解析した。解析には、ピーク幅の補正にLaB6値を用いて補正した。結晶子サイズは、ピークの半値幅の全幅とシェラー定数(0.94)とを用いて算出した。
【0027】
<測定データ解析条件>
・解析ソフトウェア:Rigaku製PDXL2
・平滑処理:ガウス関数、平滑化パラメータ=10
・バックグラウンド除去:フィッティング方式
・Kα2除去:強度比0.497
・ピークサーチ:二次微分法
・プロファイルフィッティング:FP法
・結晶子サイズ分布タイプ:ローレンツモデル
・シェラー定数:0.9400
【0028】
本発明においては、銅粉中の酸素元素の含有量は可能な限り少ないことが好ましい。具体的には、銅粉中の酸素元素の含有量は0.50質量%以下である好ましく、0.45質量%以下であることがより好ましく、0.40質量%以下であることが更に好ましい。銅粉中の酸素元素の含有量がこの値以下であることによって、本発明の銅粉を含むペーストの分散安定性が良好になり、凝集及び粘度変化を抑制することができる。
銅粉中の酸素元素含有量は、例えば後述する銅粉の製造方法における扁平化処理に供するスラリー中の水分量を3000ppm以下とし、扁平化処理を不活性ガス雰囲気中で行うことにより達成することができる。
【0029】
本発明においては、銅粉中の炭素元素の含有量も可能な限り少ないことが好ましい。具体的には、0.40質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましく、0.20質量%以下であることが更に好ましい。銅粉中の炭素元素含有量が過度に多いと、銅粉を含むペーストを焼成するときに、炭素に由来する分解ガスが発生し、この分解ガスに起因して焼結体にクラックやブリスターが発生する場合がある。
銅粉の炭素元素含有量を低減させるためには、例えば本発明の銅粉の原料となる原料粉として炭素含有量の少ないものを用いればよい。そのような原料粉としては、例えばガスアトマイズ法や水アトマイズ法等のアトマイズ法で製造された銅粉や、プラズマ法で製造された銅粉が挙げられる。
【0030】
本発明の銅粉における炭素元素の含有量は、LECO社製の炭素、硫黄分析装置CS-844を用い、酸素気流中での燃焼-赤外線吸収方式による測定で求められる。具体的には、るつぼ中に0.5gの試料を入れ、このるつぼを装置にセットして測定を行う。
【0031】
本発明の銅粉は好ましくは以下の方法によって製造することができる。
最初に、球状銅粒子の集合体からなる原料銅粉を準備する。この原料銅粉としては広い粒度分布を有するものを用いることが、緻密性及び流動性が高い銅粉を容易に得られる観点から好ましい。この観点から、原料銅粉は、(D90-D10)/D50の値が1.00以上であるもの、特に1.05以上、とりわけ1.10以上であるものを用いることが有利である。このような原料銅粉は、例えばガスアトマイズ法及び水アトマイズ法等のアトマイズ法やプラズマ法によって容易に形成することができる。尤も、これらの方法に限定されるものではなく、銅塩水溶液とアルカリ剤を反応させて水酸化銅を析出させ、この水酸化銅を亜酸化銅に液中で一次還元し、得られた亜酸化銅を金属銅に液中で二次還元する湿式還元法等を用いることもできる。(D90-D10)/D50の値の上限値は2.00程度であることが好ましい。
D10、D50及びD90はそれぞれ、レーザ回折散乱式粒度分布測定法による累積体積10容量%、50容量%及び90容量%における体積累積粒径のことである。
【0032】
原料銅粉は、その粒度分布のSD値が1.00以上であることも、緻密性及び流動性が高い銅粉を容易に得られる観点から好ましい。この観点から、原料銅粉は、その粒度分布のSD値が1.10以上であることが更に好ましく、1.15以上であることが一層好ましい。粒度分布のSD値の上限は3.00程度であることが好ましい。
【0033】
次いで、原料銅粉と有機溶媒とを混合してスラリーを調製する。有機溶媒としては、炭素数1以上22以下の脂肪族アルコールを用いることが好ましく、炭素数1以上10以下の飽和脂肪族一価アルコールを用いることが更に好ましい。とりわけ炭素数1以上4以下の一価アルキルアルコールを用いることが好ましい。そのようなアルコールの例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、sec-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールなどが挙げられる。アルコールは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
原料銅粉と有機溶媒との配合割合は、両者の合計質量に対して、原料銅粉を10質量%以上90質量%以下、特に30質量%以上70質量%以下配合することが好ましい。これによって、以下に説明する扁平化処理を首尾よく行うことができる。
【0035】
スラリー中の水分量は0.3質量%以下とすることが有利である。これによって、銅粉中の酸素元素含有量を上述した0.5質量%以下に制御することができ、銅粉の分散安定性が良好になり、凝集及び粘度変化を抑制することができるので、上述したとおりの特性の銅粉を容易に得ることができる。スラリー中の水分量が過度に高い場合には、扁平銅粒子の表面が水分によって酸化されて荒れてしまい、該表面の平滑さが損なわれやすい。この理由は、銅粒子の表面に亜酸化銅などの銅酸化物の微小粒子が生成することによるものである。表面が平滑でない扁平銅粒子は、その流動性が低下する傾向にある。
【0036】
次いで、前記スラリーをメディアミル装置による扁平化処理に付して、前記球状銅粒子を扁平銅粒子に変形させる。メディアミル装置としては、ビーズミル、ボールミル及び振動ミルを用いることができる。この扁平化処理において、他の条件が一定であれば処理時間が長いほど平面アスペクト比の大きな扁平形状の銅粒子を得ることができ、通常は30分~4時間程度の扁平化処理時間であれば充分である。
【0037】
扁平化処理は、スラリー中の水分量は3000ppm以下に維持しながら、窒素やアルゴンガスなどの不活性雰囲気下で行う。これにより、銅粉中の酸素元素含有量を上述した0.5質量%以下に制御することができ、銅粉の分散安定性が良好になり、凝集及び硬度変化を抑制することができるので、上述のような特性の銅粉を得ることができる。
【0038】
ボールミルや振動ミルに装填するメディアとしては、セラミックス、ガラス、金属等、材質に制限はないが、強度があり、粉砕工程で破壊・磨耗による不純物源とならないセラミックスが好ましく、強度・コスト面から材質はジルコニアがより好ましい。使用するメディアは径が0.03mm以上5mm以下であることが好ましく、0.05mm以上2.5mm以下であることがより好ましい。
【0039】
また、扁平化処理においては、脂肪酸等の滑剤を使用しないことが好ましい。滑剤を使用すると、小粒径の銅粒子が潰れにくくなり、扁平形状であって、上述した特性を満足する銅粉を得ることが困難になる。尤も、滑剤の使用を全く排除するものではなく、必要に応じ、原料銅粉中に0.1質量%以上1.0質量%以下の割合で滑剤を含有させてもよい。
【0040】
滑剤を例示すると、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等を挙げることができる。
【0041】
銅粉は、その表面に表面処理剤が付着していてもよい。銅粉の表面に表面処理剤を付着させておくことで、銅粉どうしの過度の凝集を抑制することができる。
【0042】
表面処理剤は特に限定されるものではなく、脂肪酸、脂肪族アミン、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等を用いることができる。これらを用いることで、粒子の表面と相互作用しペースト中に含まれる有機溶媒との相溶性を向上させペーストの流動性を向上させることや、粒子表面の酸化を防止することができる。
【0043】
本製造方法においては、原料銅粉と有機溶媒とを含むスラリーを循環させながら扁平化処理を行うことが、球状銅粒子の効率的な扁平化の観点から好ましい。具体的には、循環槽とメディアミル装置との間を往路配管及び復路配管によって接続し、スラリーを循環槽とメディアミル装置との間で循環させることが好ましい。この場合、循環槽とメディアミル装置と各配管のいずれにおいてもスラリー中の水分量を0.3質量%以下に維持し、滑剤を不存在とし、且つ、不活性雰囲気とすることが好ましい。
【0044】
上記銅粉を電極に適用するには、該銅粉を含む銅ペーストを作製する。銅ペーストは、本発明の銅粉をバインダ、溶剤及びガラスフリットなどと混合すればよい。こうすることで、高温焼成型銅ペーストを得ることができる。あるいは、本発明の銅粉を、バインダ及び溶剤、更に必要に応じて硬化剤等と混合して樹脂硬化型銅ペーストを調製することもできる。
【0045】
前記のバインダとしては、液状のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。溶剤としては、テルピネオール、エチルカルビトール、カルビトールアセテート、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールアセテート等が挙げることができる。硬化剤としては、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどを挙げることができる。硬化促進剤としては、三級アミン類、三級アミン塩類、イミダゾール類、ホスフィン類、ホスホニウム塩類等を挙げることができる。
【0046】
なお、本出願は、以下の発明をも包含するものである。
<1>JIS Z2512:2012に準じて400回タップしたときのタップ密度が4.2g/cm3以上5.5g/cm3以下であり、
JIS Z2512:2012に準じて100回タップしたときのタップ密度が4.1g/cm3以上5.5g/cm3以下であり、
粒子の厚みの標準偏差SD(μm)/平均粒径D50(μm)の値が0.08以上0.26以下である、銅粉。
<2>粒子の長径/粒子の短径の値であるアスペクト比の平均値が1.25以上3.00以下である、<1>に記載の銅粉。
<3>前記アスペクト比が1.25以上である粒子を、個数基準で30%以上含む、<2>に記載の銅粉。
<4>酸素元素の含有量が0.5質量%以下である、<1>ないし<3>のいずれか一に記載の銅粉。
<5>平均粒径D50が2.0μm以上5.0μm以下である、<1>ないし<4>のいずれか一に記載の銅粉。
<6>銅の結晶子サイズが50nm以上80nm以下である、<1>ないし<5>のいずれか一に記載の銅粉。
<7>炭素元素の含有量が0.40質量%以下である、<1>ないし<6>のいずれか一に記載の銅粉。
<8>(D90-D10)/D50の値が1.00以上であり、球状銅粒子の集合体からなる原料銅粉を準備する工程と、
前記原料銅粉と有機溶媒とを混合してスラリーを調製する工程と、
前記スラリーをメディアミル装置による扁平化処理に付して、前記球状銅粒子を扁平銅粒子に変形させる工程と、を有する銅粉の製造方法であって、
前記扁平化処理を、前記スラリー中の水分量を0.30質量%以下に維持しながら、不活性雰囲気で行う、銅粉の製造方法。
<9>アトマイズ法で前記原料銅粉を製造する、<8>に記載の製造方法。
<10>粒度分布のSD値が1.00以上である前記原料銅粉を準備する、<8>又は<9>に記載の製造方法。
<11>前記扁平化処理を滑剤の不存在下に行う、<8>ないし<10>のいずれか一に記載の銅粉の製造方法。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0048】
〔実施例1〕
原料銅粉として三井金属鉱業(株)製のアトマイズ法銅粉であるMA-C03Kを用いた。この原料粉の平均粒径D
50は3.08μmであり、炭素の含有割合は100ppmであった。また、(D
90-D
10)/D
50の値は1.13であり、粒度分布のSD値は1.27であった。
メタノール100kgと原料銅粉100kgを混合してスラリーとなし、このスラリーを、媒体分散ミルであるアシザワファインテック(株)社製スターミル(登録商標)型式LMZ10に供給した。ミルには、直径0.1mmのジルコニアビーズを充填した。
ミルを周速12m/secの条件で300分間運転して、原料銅粉を塑性変形による扁平化処理した。処理後のスラリーにオレイン酸0.1kgを添加し、30分撹拌することで表面処理を施した。このようにして得られた銅スラリーを固液分離し、得られた銅粉を乾燥させ回収した。
ビーズミル処理時における、スラリー中の水分量は3000ppm以下に維持し、ミル内は窒素雰囲気とした。また、ビーズミル処理時には、スラリー中に滑剤を存在させなかった。スラリーは循環槽とミルとの間を循環させた。
本実施例で得られた銅粉のSEM像を
図1に示す。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1において、原料銅粉の平均粒径D50が3.30μm、(D90-D10)/D50の値が1.22、粒度分布のSD値が1.47のものを使用した。それ以外は実施例1と同様にして銅粉を得た。
【0050】
〔実施例3〕
実施例1において、原料銅粉の平均粒径D50が2.90μm、(D90-D10)/D50の値が1.16、粒度分布のSD値が1.10のものを使用し、ミル運転時間を240分とした。それ以外は実施例1と同様にして銅粉を得た。
【0051】
〔実施例4〕
実施例1において、原料銅粉の平均粒径D50が2.60μm、(D90-D10)/D50の値が1.44、粒度分布のSD値が1.45のものを使用し、ミル運転時間を660分とし、スラリー中にオレイン酸を250g溶解させて扁平処理を実施した。このようにして得られた銅粉を固液分離し乾燥させ回収した。また、扁平処理後にオレイン酸の添加は行わなかった。それ以外は実施例1と同様にして銅粉を得た。
【0052】
〔実施例5〕
実施例1において、原料銅粉の平均粒径D50が3.19μm、(D90-D10)/D50の値が1.07、粒度分布のSD値が1.10のものを使用し、ミル運転時間を300分として扁平処理を実施した。処理後のスラリーにオレイルアミンを0.1kg溶解させて表面処理を実施した。このようにして得られた銅粉を固液分離し乾燥させ回収した。それ以外は実施例1と同様にして銅粉を得た。
【0053】
〔比較例1〕
実施例4において、スラリー中の雰囲気を大気雰囲気にして、水分量を3000ppm以下に維持しない状態とし、ミル運転時間を300分とした。それ以外は実施例4と同様にして銅粉を得た。
【0054】
〔比較例2〕
実施例1において、原料銅粉の平均粒径D
50が3.10μm、(D
90-D
10)/D
50の値が1.20、粒度分布のSD値が1.37のものを使用し、スラリー中の雰囲気を大気雰囲気にして、水分量を3000ppm以下に維持しない状態とした。それ以外は実施例1と同様にして銅粉を得た。本比較例で得られた銅粉のSEM像を
図2に示す。水分量を制御していないため、酸化に由来する表面凹凸を確認することができる。
【0055】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた銅粉について、400回タップ密度及び100回タップ密度を上述の方法で測定した。また、厚みの標準偏差SD/D50、平面アスペクト比、側面アスペクト比、結晶子サイズ、酸素元素の含有量、及び炭素元素の含有量を上述の方法で測定した。更に、塗膜緻密性及び塗膜連続性を以下の方法で評価した。これらの結果を表1に示す。なお、表には示していないが、実施例で得られた銅粉は、側面アスペクト比が2.0以上である銅粒子を個数基準で70%以上含んでいた。
【0056】
〔塗膜緻密性〕
実施例及び比較例で得られた銅粉10gに、エチルセルロース10質量%溶解させたターピネオール2.5gを加え、自公転ミキサーにて、混合を2000rpmで1分間行い、脱泡を2200rpmで30秒間行うことでペーストを得た。このペーストをガラス基板に幅10mm、長さ20mmに塗布した。この基板を窒素雰囲気で120℃度加熱することで乾燥塗膜を得た。この塗膜厚みを計測することで塗膜体積を求めた。また、あらかじめ測定した基板重量から塗膜重量を求め、塗膜重量/塗膜体積から塗膜密度g/cm3を算出した。
【0057】
〔塗膜連続性〕
実施例及び比較例で得られた銅粉10gに、エチルセルロース10質量%溶解させたターピネオール10gを加え、自公転ミキサーにて、混合を2000rpmで1分間行い、脱泡を2200rpmで30秒間行うことでペーストを得た。このペーストをPETフィルムに厚み約20μmで塗布し、窒素雰囲気で120℃度加熱することで乾燥塗膜を得た。この塗膜を角度90°になるよう折り曲げた。折り曲げ回数は3回とした。折り曲げ後、光学顕微鏡で折り曲げ部分を観察し、基板であるPETフィルムが露出しておらず銅粉の連続性が保たれているものを〇評価とし、銅粉の連続性が無くPETフィルムが露出しているものを×評価とした。
【0058】
【0059】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた銅粉は、比較例の銅粉よりも緻密性及び連続性に優れることが分かる。また、銅粉の製造時における扁平化処理の際に滑剤を使用していない実施例1から3及び5は、滑剤を用いた実施例4と比較して、塗膜緻密性が向上していることが分かる。
また、
図1と
図2との対比から明らかなとおり、実施例1で得られた銅粉は、これを構成する銅粒子の表面が平滑であるのに対し、比較例2で得られた銅粉は、これを構成する銅粒子の表面が荒れていることが分かる。表面の荒れは、銅の酸化に起因して生じる亜酸化銅由来の凹凸であることが、本発明者の分析の結果判明した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、混合使用を必要とせずに、緻密性及び連続性が高い電極を製造し得る銅粉及びその製造方法が提供される。