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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】駆動装置、電力変換器及び駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M1/08 341A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023535650
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2022042852
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100207192
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】桑原 健人
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-187955(JP,A)
【文献】特開2009-229133(JP,A)
【文献】特開2021-108526(JP,A)
【文献】特開2015-162845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直列に接続されている複数の素子を含む電力変換器の各素子に夫々流れる素子ごとの電流値を用いて、前記素子の駆動部から前記素子内の半導体スイッチング素子に制御信号を送る経路のインピーダンスを調整するインピーダンス調整部
を備え、
前記インピーダンス調整部は、
複数の抵抗を含み、前記複数の抵抗の中から指定された抵抗を選択する切替部と、
前記抵抗を選択するための切替信号を生成するインピーダンス算出部と
を備え、
前記インピーダンス算出部は、
前記半導体スイッチング素子のオン時とオフ時の両方を含む期間に前記電力変換器の素子に夫々流れる素子ごとの電流値を平滑化して、前記平滑化したのちの電流値を、前記経路のインピーダンスの決定に用いる、
駆動装置。
【請求項2】
前記インピーダンス算出部は、
前記電力変換器の素子に流れる電流値と、前記経路のインピーダンスとを関連付ける変換テーブルを備え、
前記変換テーブルは、前記電流値が閾値を超えた場合の前記半導体スイッチング素子の損失が、前記電流値が前記閾値を超えない場合に比べて小さくなるように構成されている
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記変換テーブルは、前記電力変換器の運転パターンごとに、前記素子の損失が所望の範囲に収まるような前記経路のインピーダンスを選択するように構成されている
請求項に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記インピーダンス算出部は、
前記電力変換器の素子に夫々流れる素子ごとの電流値を用いて前記変換テーブルを参照して、前記抵抗を選択するための選択信号を生成する、
請求項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記インピーダンス算出部は、
前記電力変換器の運転パターンと前記電力変換器の素子に流れる電流値とに基づいて、前記経路のインピーダンスを決定する、
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記電力変換器の運転パターンは、力行運転状態と回生運転状態とによって区分されている
請求項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記電力変換器の運転パターンは、力率の大きさによって区分されている
請求項に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記電力変換器の運転パターンは、キャリア周波数の高さによって区分されている
請求項に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記電力変換器の運転パターンは、力行運転状態と回生運転状態とによって区分される第1条件と、力率の大きさによって区分される第2条件と、キャリア周波数の高さによって区分される第3条件との組み合わせから決定される
請求項に記載の駆動装置。
【請求項10】
互いに直列に接続されている複数の素子であって、夫々スイッチングすることにより電力を変換する複数の素子と、
前記複数の素子のうちの各素子に夫々流れる素子ごとの電流値を用いて、前記素子の駆動部から前記素子内の半導体スイッチング素子に制御信号を送る経路のインピーダンスを調整するインピーダンス調整部と、
を備え、
前記インピーダンス調整部は、
複数の抵抗を含み、前記複数の抵抗の中から指定された抵抗を選択する切替部と、
前記抵抗を選択するための切替信号を生成するインピーダンス算出部と
を備え、
前記インピーダンス算出部は、
前記半導体スイッチング素子のオン時とオフ時の両方を含む期間に自電力変換器の素子に夫々流れる素子ごとの電流値を平滑化して、前記平滑化したのちの電流値を、前記経路のインピーダンスの決定に用いる、
電力変換器。
【請求項11】
前記互いに直列に接続されている複数の素子が中性点クランプ回路に含まれている、
請求項10に記載の電力変換器。
【請求項12】
互いに直列に接続されている複数の素子を含む電力変換器の各素子に夫々流れる素子ごとの電流値を用いて、前記素子の駆動部から前記素子内の半導体スイッチング素子に制御信号を送る経路のインピーダンスを調整する過程と、
複数の抵抗の中から指定された抵抗を選択するための切替信号を生成する過程と、
前記半導体スイッチング素子のオン時とオフ時の両方を含む期間に前記電力変換器の素子に夫々流れる素子ごとの電流値を平滑化して、前記平滑化したのちの電流値を、前記経路のインピーダンスの決定に用いる過程と、
を含む駆動方法。
【請求項13】
前記電流値が閾値を超えた場合の前記半導体スイッチング素子の損失が、前記電流値が前記閾値を超えない場合に比べて小さくなるように構成されている変換テーブルを用いて、前記電力変換器の素子に流れる電流値と、前記経路のインピーダンスとを関連付ける過程
を含む請求項12に記載の駆動方法。
【請求項14】
前記電力変換器の素子に夫々流れる素子ごとの電流値と、前記経路のインピーダンスとを、前記電流値が閾値を超えた場合に、前記電流値が前記閾値を超えない場合に比べて、前記半導体スイッチング素子の損失が小さくなるように前記経路のインピーダンスを関連付ける変換テーブルを、前記電力変換器の素子に夫々流れる素子ごとの電流値を用いて参照して、前記抵抗を選択するための選択信号を生成する過程、
を含む請求項13に記載の駆動方法。
【請求項15】
前記電力変換器の運転パターンと前記電力変換器の素子夫々流れる素子ごとの電流値とに基づいて、前記経路のインピーダンスを決定する過程、
を含む請求項12に記載の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、駆動装置、電力変換器及び駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換器の半導体スイッチング素子は、その半導体スイッチング素子に対応付けられた駆動装置が生成する信号によって駆動される。電力変換器において、その運転パターンが変わったときなどに、運転中の半導体スイッチング素子の温度の変動量が所望の範囲よりも大きくなることがあった。しかしながら運転中の半導体スイッチング素子の温度の変化を検出することは容易なことではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-274911公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、運転中の半導体スイッチング素子の温度の変動量を低減できる駆動装置及び駆動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の一態様の駆動装置は、インピーダンス調整部を備える。前記インピーダンス調整部は、電力変換器の素子に流れる電流値を用いて、前記素子の駆動部から前記素子内の半導体スイッチング素子に制御信号を送る経路のインピーダンスを調整する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の電力変換装置の構成図。
図2】実施形態の駆動装置を含むレグの構成図。
図3A】実施形態のインピーダンス調整部の構成図である。
図3B】実施形態のインピーダンス調整部内の抵抗部の構成図。
図4A】実施形態の素子の電流値に対する素子の損失の関係を説明するための図。
図4B】実施形態の素子の電流値に対する素子の損失の関係を説明するための図。
図4C】実施形態の素子の電流値に対する素子の損失の関係を説明するための図。
図5】実施形態の実施形態の素子の電流値に対する素子の損失の関係付けるデータテーブルを説明するための図。
図6】実施形態の電動機の制御の一例を説明するための図。
図7】実施形態の電動機の制御の他の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の駆動装置、電力変換器及び駆動方法を、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。なお、本明細書で言う「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。さらに、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。
実施形態のゲート抵抗値とは、電力変換器内の素子の駆動部から、その素子内の半導体スイッチング素子に制御信号を送る経路のインピーダンスのことである。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、実施形態の電力変換装置1の構成図である。
に示す電力変換装置1は、直流電力を多相交流電力に変換して、その多相交流電力を電動機2に供給して電動機2を駆動する。例えば、電動機2は、3相交流電動機であり、交流負荷の一例である。例えば、電動機2には速度センサ2Aが設けられていて、電動機2の速度ωrを検出して出力する。
電流検出器CTは、電力変換装置1の主回路10と電動機2とを繋ぐ交流バスに流れる電流を検出する。U相、V相、W相の各相電圧に流れる電流を相電流Iu、Iv、Iwと呼ぶ。3相のうちの2相の電流を検出して、残りの1相の電流値を、変換式を用いて推定してもよい。
上記の交流バスのそれぞれに、相電圧を検出する電圧検出器VDETがそれぞれ設けられている。U相、V相、W相の各相電圧を、電圧Vu、Vv、Vwで示す。なお、電圧検出器VDETは、主回路10内に設けられていてもよい。
【0009】
電力変換装置1は、例えば、主回路10と、制御装置20とを備える。
主回路10は、レグUA、VA、WAを備える3相インバータ(電力変換器)である。レグUA、VA、WAを区別しない場合には、単に「各レグ」という。電力変換装置1は、主回路10を3レベル型のインバータとして機能させる。
【0010】
制御装置20は、主回路10を制御することにより、主回路10による電力変換を制御する。制御装置20は、例えば、PWM変換部21と、コントローラ22とを備える。
【0011】
PWM変換部21は、コントローラ22によって生成される電圧基準を、所定の周波数のキャリア信号を用いてパルス幅変調(PWM)することにより変換して、ゲートパルスGPU、GPV、GPWを生成する。PWM変換部21は、ゲートパルスGPU、GPV、GPWを、それぞれレグUA、VA、WAに供給する。例えば、ゲートパルスGPUは、レグUAの各素子を駆動するための制御信号を含む。ゲートパルスGPV、GPWについても同様である。
【0012】
コントローラ22は、上記の電圧基準を生成してPWM変換部21に供給する。
例えば、コントローラ22は、電動機2の速度ωrと、速度基準ωとに基づいて速度基準ωに追従させる速度制御を実施して、夫々の時点のトルク基準を生成する。コントローラ22は、トルク基準に基づいた電流指令値Iと、モータ電流Iu,IV,Iwとに基づいた電流制御を実施して、PWM制御に用いる電圧基準を生成する。この電圧基準がPWM変換部21に供給される。
【0013】
図2を参照して、主回路10の各レグを代表してレグUAについて説明する。
図2は、実施形態の駆動装置を含むレグUAの構成図である。
レグUAの正極電源端子には、第1直流バスを介して正極側の電圧DCPが供給され、レグUAの負極電源端子には、第2直流バスを介して負極側の電圧DCNが供給される。レグUAの基準電圧端子が、中性点NPに接続されている。レグUAの出力端子TUは、交流バスを介して電動機2のU相の巻線に接続されている。
【0014】
図2に示すように、レグUAは、スイッチ部11から14を備える。スイッチ部11から14は、例えば、素子DEV1からDEV4をそれぞれ備える。さらにレグUAは、ダイオードDPとDNとを備える。
【0015】
素子DEV1は、半導体スイッチング素子Q1とダイオードD1の組を備える。素子DEV2は、半導体スイッチング素子Q2とダイオードD2の組を備える。素子DEV3は、半導体スイッチング素子Q3とダイオードD3の組を備える。素子DEV4は、半導体スイッチング素子Q4とダイオードD4の組を備える。
【0016】
レグUAの半導体スイッチング素子Q1からQ4は、例えばIGBTである。半導体スイッチング素子の種別は、IGBTに制限されることなく、MOSFETなどに変更してもよい。半導体スイッチング素子Q1からQ4は記載の順に直列に接続さている。半導体スイッチング素子Q1のエミッタとコレクタには、逆接続されたダイオードD1が並列に接続されている。半導体スイッチング素子Q2からQ4についても、ダイオードD2からD4が同様に並列に接続されている。半導体スイッチング素子Q1からQ4のうち、半導体スイッチング素子Q1とQ2は、正極側アームに含まれ、半導体スイッチング素子Q3とQ4は、負極側アームに含まれる。
【0017】
中性点端子NPには、ダイオードDPのアノードと、ダイオードDNのカソードとが接続されている。ダイオードDPのカソードは、半導体スイッチング素子Q2のエミッタと半導体スイッチング素子Q3のコレクタの接続点に接続される。ダイオードDNのアノードは、半導体スイッチング素子Q3のエミッタと半導体スイッチング素子Q4のコレクタの接続点に接続される。
【0018】
出力端子TUには、半導体スイッチング素子Q2のエミッタと、半導体スイッチング素子Q3のコレクタと、ダイオードD2のアノードと、ダイオードD3のカソードとが接続されている。
【0019】
各段のスイッチ部は、ゲートドライブ回路(GDC)と、インピーダンス調整部(ZADJ)と、電流検出部とをそれぞれ含む。
【0020】
例えば、スイッチ部11は、ゲートドライブ回路(GDC)111と、インピーダンス調整部(ZADJ)112と、電流検出部113とをそれぞれ含む。スイッチ部12は、ゲートドライブ回路(GDC)121と、インピーダンス調整部(ZADJ)122と、電流検出部123とをそれぞれ含む。スイッチ部13は、ゲートドライブ回路(GDC)131と、インピーダンス調整部(ZADJ)132と、電流検出部133とをそれぞれ含む。スイッチ部14は、ゲートドライブ回路(GDC)141と、インピーダンス調整部(ZADJ)142と、電流検出部143とをそれぞれ含む。
【0021】
ゲートドライブ回路(GDC)111は、ゲートパルスGPUの中の第1信号を受け、その第1信号に対し所定の信号変換を実施して、素子DEV1用のゲート信号を生成する。ゲートドライブ回路(GDC)111における信号変換は、既知のものであって良い。電流検出部113は、素子DEV1の正極側に配置され、素子DEV1に流れる電流を検出する。インピーダンス調整部(ZADJ)112は、素子DEV1に流れる電流の大きさに基づいて、素子DEV1に供給されるゲート信号の経路のインピーダンスを調整する。
【0022】
ゲートドライブ回路(GDC)121は、ゲートパルスGPUの中の第2信号を受け、その第2信号に対し所定の信号変換を実施して、素子DEV2用のゲート信号を生成する。電流検出部123は、素子DEV2の正極側に配置され、素子DEV2に流れる電流を検出する。インピーダンス調整部(ZADJ)122は、素子DEV2に流れる電流の大きさに基づいて、素子DEV2に供給されるゲート信号の経路のインピーダンスを調整する。
【0023】
ゲートドライブ回路(GDC)131は、ゲートパルスGPUの中の第3信号を受け、その第3信号に対し所定の信号変換を実施して、素子DEV3用のゲート信号を生成する。電流検出部133は、素子DEV3の正極側に配置され、素子DEV3に流れる電流を検出する。インピーダンス調整部(ZADJ)132は、素子DEV3に流れる電流の大きさに基づいて、素子DEV3に供給されるゲート信号の経路のインピーダンスを調整する。
【0024】
ゲートドライブ回路(GDC)141は、ゲートパルスGPUの中の第4信号を受け、その第4信号に対し所定の信号変換を実施して、素子DEV4用のゲート信号を生成する。電流検出部143は、素子DEV4の正極側に配置され、素子DEV4に流れる電流を検出する。インピーダンス調整部(ZADJ)142は、素子DEV4に流れる電流の大きさに基づいて、素子DEV4に供給されるゲート信号の経路のインピーダンスを調整する。
【0025】
図3A図3Bとを参照して、各段のインピーダンス調整部(ZADJ)について説明する。
図3Aは、実施形態のインピーダンス調整部(ZADJ)の構成図である。図3Bは、実施形態のインピーダンス調整部(ZADJ)内の抵抗部の構成図である。
【0026】
図3Aに示す上段側から第1段目のインピーダンス調整部(ZADJ)112は、切替部(ZSW)1121と、インピーダンス算出部1122とを備える。
第2段目のインピーダンス調整部(ZADJ)122は、切替部(ZSW)1221と、インピーダンス算出部1222とを備える。
第3段目のインピーダンス調整部(ZADJ)132は、切替部(ZSW)1321と、インピーダンス算出部1322とを備える。
第4段目のインピーダンス調整部(ZADJ)142は、切替部(ZSW)1421と、インピーダンス算出部1422とを備える。
【0027】
例えば、切替部(ZSW)1121は、図3Bに示すように、抵抗RG1から抵抗RG3の複数の抵抗と、信号スイッチSWを含む。例えば、抵抗RG1から抵抗RG3は、互いに異なるインピーダンスを有する。切替部(ZSW)1121は、信号スイッチSWによって、その複数の抵抗の中から指定された抵抗を選択する。
【0028】
インピーダンス算出部1122は、その抵抗を選択するための切替信号を生成する。
インピーダンス算出部1122は、電力変換装置1の運転パターンと主回路10(電力変換器)の素子DEV1に流れる電流値とに基づいて、素子DEV1に供給されるゲート信号の経路のインピーダンスを決定するとよい。
【0029】
例えば、インピーダンス算出部1122は、運転パターン決定部11221と、素子電流検出部11222と、平滑化処理部11223と、ゲート抵抗値決定部11224とを備える。
【0030】
運転パターン決定部11221は、電動機2を駆動するための指令値と、電動機2の稼働状態に関する情報を取得して、現時点の運転状態を決定する。運転パターン決定部11221は、さらに、電動機2を所望の状態で制御するための力率、PWM制御のキャリア周波数の指令値を取得する。
【0031】
運転パターン決定部11221は、上記の力率の指令値と、キャリア周波数の指令値と、さらに、力行状態と回生状態の何れかの状態を示す情報とを出力する。現時点の運転状態には、力行状態、回生状態、静止状態などが含まれる。以下の説明では、力行状態と回生状態における各素子の制御を中心に説明する。なお、静止状態を力行状態とみなしてもよい。
【0032】
素子電流検出部11222は、素子DEV1に流れる電流の大きさを示す情報を、電流検出部133から取得する。平滑化処理部11223は、その電流の検出結果を平滑化する。例えば、電流の検出結果を平滑化処理には、PWM制御の制御周期、キャリア周波数の成分が含まれないように、所定のカットオフ周波数よりも周波数が高い成分を抑圧するフィルタ処理、移動平均処理などが含まれる。
【0033】
ゲート抵抗値決定部11224は、運転パターン決定部11221から運転状態を示す運転パターンの情報を取得して、平滑化処理部11223から平滑化された電流値の情報を取得して、切替部(ZSW)1121の信号スイッチSWを制御するための切替信号を生成する。
【0034】
例えば、ゲート抵抗値決定部11224(インピーダンス算出部)は、主回路10の素子DEV1に流れる電流値と、上記切替信号を素子DEVに送る経路のインピーダンスとを関連付ける変換テーブルを含む。
【0035】
ゲート抵抗値決定部11224(インピーダンス算出部)は、主回路10の素子DEV1に流れる電流の電流値を用いて、上記の変換テーブルを参照して、抵抗を選択するための選択信号を生成する。ゲート抵抗値決定部11224(インピーダンス算出部)は、主回路10の素子DEV1に流れる電流の電流値を、その大きさに基づいてクラス分けして、上記の変換テーブルを参照する処理に用いるとよい。
【0036】
上記は、第1段目のインピーダンス調整部(ZADJ)112についての説明であるが、第2段目のインピーダンス調整部(ZADJ)122から第4段目のインピーダンス調整部(ZADJ)142についても同様である。
なお、第1段目のインピーダンス調整部(ZADJ)112から第4段目のインピーダンス調整部(ZADJ)142が夫々用いる変換テーブルに登録される各データを、共通にしてよい。
【0037】
上記はU相に対応付けられたレグUAに関する説明であるが、V相、W相についても同様である。
【0038】
上記のとおり主回路10は、3レベル変換器として形成されている。主回路10は、直流電力を交流電力に変換して、負荷に交流電力を供給する力行状態と、負荷が生成した交流電力を直流電力に変換して、直流側に直流電力を供給する回生状態との運転を許容する。
主回路10は、例えば上位装置からの指令などにより、力率の調整と、PWM制御に利用するキャリア信号の周波数(キャリア周波数)の調整を可能とする。力行状態と回生状態との切替指令と、力率の指令と、キャリア周波数の指令とを纏めて運転パターンの指令と呼ぶ。指令により定まる力行状態と回生状態との何れかと、力率と、キャリア周波数とを纏めて運転パターンという。
【0039】
運転パターンに基づいて、切替信号を素子DEVに送る経路のインピーダンスが決定される。これについては後述する。なお、この運転パターンに含まれる項目は、これに制限されず、適宜削減と追加を許容する。
【0040】
図4Aから図4Cは、実施形態の素子の電流値に対する素子の損失の関係を説明するための図である。図5は、実施形態の実施形態の素子の電流値に対する素子の損失の関係付けるデータテーブルを説明するための図である。
【0041】
図4Aから図4Cに示すグラフは、素子に流れる電流(横軸:素子電流)と、素子の損失(縦軸)の関係を示す。素子に流れる電流の大きさによって、例えば3つの領域に区分される。Ith1からIth3は、領域を区分する閾値である。Ith1、Ith2、Ith3の順に、より大きな値が設定されている。
【0042】
グラフの原点を通るように描かれた3つの破線は、インピーダンスが互いに異なる抵抗Rg1からRg3がそれぞれ選択された場合の、素子の電流値に対する素子の損失の変換率を示す。抵抗Rg1からRg3の順により大きな値のインピーダンスが割り付けられている。
この3つの破線の一部が実線で描かれている。この実線の部分が、その領域で選択された抵抗を示す。
【0043】
図5に示すデータテーブルは、運転状態、力率、キャリア周波数などの指令に基づき決定される第1変数(運転パターン)と、検出された電流値に基づいて決定され第2変数(素子の電流値)との組み合わせから、素子の電流値に対する素子の損失の関係付ける処理に利用される。
【0044】
このデータテーブルは、第1変数を用いて12個に区分した運転パターンを対応付けた一例である。この程度の規模のテーブルであれば、FPGA又は論理回路の組み合わせにより実現可能である。
【0045】
例えば、力行運転中に力率を1にする場合、素子の損失を比較的小さくする抵抗Rg1を利用するとよい。これとは逆に、力行運転中に力率を下げる場合、素子の損失を比較的大きくできる抵抗Rg3を利用するとよい。ただし、素子の電流値が大きくなると、素子の損失が過大になることがある。このような素子の損失が過大になることを防ぐには、抵抗Rg3よりも素子の損失を低減可能な抵抗Rg2又は抵抗Rg1を適宜利用するとよい。
【0046】
なお、キャリア周波数は、電動機2及びその負荷に機械的な共振が生じないように選択される。幾つかのキャリア周波数を、運転パターンとして選択可能にすることで、上記のような機械的な共振の発生を抑制できる。
【0047】
このデータテーブルに示す設定例の幾つかを、図4Aから図4Cに示す。
このデータテーブルの最上段の運転パターンの場合を図4Aに示し、最上段から4段目の運転パターンの場合を図4Bに示し、最上段から7段目の運転パターンの場合を図4Cに示す。
各段の運転パターンに共通する運転条件は、キャリア周波数を1kHzにして力行運転状態にしたときのものである。これに対し、各段の運転パターンに互いに異なる運転条件は、力率が異なる。図4Aに示す条件では、力率が0.9に設定されていて、図4Bに示す条件では、力率が0.95に設定されていて、図4Cに示す条件では、力率が1に設定されている。
【0048】
なお、運転状態、力率、キャリア周波数をそれぞれ区分した個数及び値を、このデータテーブルに示したものに制限することはなく、適宜変更してよい。
【0049】
運転状況により複数の素子の損失が均等に変化するのではなく、素子の損失の変化に偏りが生じることがある。このような事象に対して、運転パターンを変えることで、各素子で発生する損失を変更できる。
【0050】
なお、ゲート抵抗値を固定値にした構成の比較例の場合には、特定の素子の温度が過大になったり、特定の素子の温度変動が大きくなったりすることがあった。また、発生する素子の損失の分布が異なる状況で各素子を一律に制御していると、その運転中の素子の温度変動がばらつくことがあった。このような事象は、素子のサーマルサイクル耐量の低下を招くことになる。
本実施形態では、ゲート抵抗値をリアルタイムで運転パターンと各素子の電流値を元に算出したゲート抵抗値に切り替えて運転することが可能であり、素子温度の変動を抑制することができる。
【0051】
図6は、実施形態の電動機2の制御の一例を説明するための図である。
図6に示すタイミングチャートには、上段側から速度基準、実速度、トルク基準、及びモータ電流のそれぞれの大きさが示されている。
【0052】
この図6に示す範囲における初期段階は、電動機2を停止させている状態にある。
時刻t1に、制御装置20は、電動機2の運転を開始する。例えば、制御装置20は、要求速度である速度基準を+100%にして、正の方向に最速で加速することを指令する。その結果、電動機2に対する要求トルクを示すトルク基準が正の限界値(Limit)に制限される値まで振り切れている。正の限界値のトルク基準応じて、電流制御が行われた結果、モータ電流の振幅が徐々に大きくなる。この間の運転状態は力行である。これに伴い電動機2の実速度が徐々に増加する。
【0053】
時刻t2になると、電動機2の実速度が要求速度に近づくことにより、トルク基準が徐々に小さくなる。これに伴って、モータ電流の振幅が徐々に小さくなる。制御装置20は、電動機2の速度を維持するだけの電流を流す。
【0054】
極端な制御であるが、時刻t3に、制御装置20は、速度基準を-100%にして電動機2の反転を指令して、負の方向に最速で回転するまで最短時間で到達させることを指令する。
この場合に、電動機2に対する要求トルクを示すトルク基準が負の限界値(Limit)に制限される値まで振り切れている。負の限界値のトルク基準応じて、電流制御が行われた結果、モータ電流の振幅が許容される最大値の振幅まで一旦大きくなる。この電流は、電動機2を減速させるように作用する。
【0055】
この減速制御により電動機2の実速度が最短時間で減速し、電動機2の速度が0になる。ただし、制御装置20の制御が継続しているため、すぐに反転方向の加速制御により電動機2の実速度が最短時間で負の方向に最速で加速する。
【0056】
時刻t4になると、電動機2の実速度が要求速度に近づくことにより、トルク基準が徐々に小さくなる。これに伴って、モータ電流の振幅が徐々に小さくなる。制御装置20は、電動機2の速度を維持するだけの電流を流す。
【0057】
時刻t5に、制御装置20は、速度基準を0%にして電動機2の停止を指令して、電動機2が停止するまで最短時間で到達させることを指令する。これに伴い、電動機2から供給される交流電力が、電力変換器を通して回生される。
この場合に、電動機2に対する要求トルクを示すトルク基準が正の限界値(Limit)に制限される値まで振り切れている。負の限界値のトルク基準応じて、電流制御が行われた結果、モータ電流の振幅が許容される最大値の振幅まで一旦大きくなる。この電流は、電動機2を減速させるように作用する。
【0058】
時刻t6になると、電動機2の実速度が要求速度である0に近づくことにより、トルク基準が徐々に小さくなる。これに伴って、モータ電流の振幅が徐々に小さくなる。こののち制御装置20は、電動機2への通電を中断する。
【0059】
上記の制御範囲には、幾つかの特徴的な制御の運転パターンが含まれている。
【0060】
図7は、実施形態の電動機2の制御の他の一例を説明するための図である。
図7に示すタイミングチャートには、上段側から速度基準、実速度、モータ電圧、及びトルク基準のそれぞれの大きさが示されている。実速度が速度基準にほぼ一致しているため、それぞれの波形に差が少なく重なった状況になっている。ここで示すモータ電圧は、交流の振幅を示している。そのため、電動機2の回転方向によらず、速く回転している場合のモータ電圧の振幅が大きくなっている。なお、モータ電圧のピークがこの測定範囲外になっている。
【0061】
この事例は、速度基準の大きさを、所定の変化率の範囲内で変更するように制御した事例である。この場合も前述の図6と同様に、速度基準の大きさを変更した場合に、これに伴ってトルク基準が正の値になったり、負の値になったりする。
【0062】
上記の図6図7に示したように、電動機2の運転中に制御状態が変更された場合に、電力変換器の各レグに流れる電流と、各レグから出力される交流電圧の振幅が変化する。これに伴い、レグを構成する素子に流れる電流の大きさに比較的大きな変化が生じることになる。
【0063】
上記のように、実施形態のスイッチ部11(駆動装置)は、インピーダンス調整部112を備える。インピーダンス調整部112は、主回路10(電力変換器)の素子DEV1に流れる電流値を用いて、素子DEV1のゲートドライブ回路111(駆動部)から素子DEV1内の半導体スイッチング素子Q1に制御信号を送る経路のインピーダンス(ゲート抵抗値)を調整する。これにより、運転中の半導体スイッチング素子Q1における損失の変化を抑制することで、半導体スイッチング素子Q1の温度の変動量を低減できる。
【0064】
なお、実際の電力変換装置1は、さまざまな用途で利用される。そのため、例えば、図7のように運転パターンが頻繁に変化するアプリケーションに適用されることもある。
実施形態の駆動装置は、半導体スイッチング素子Q1の温度の変動量を低減できることから、さまざまな用途のアプリケーションに適用可能である。
【0065】
なお、実施形態の電力変換装置1は、3レベル変換器の一例である。このような3レベル変換器では、中点電位を基準にした外側と内側の素子において、その損失が大きくばらつくことがある。そのため、各素子のゲート抵抗値を素子ごとに個別に設定することにより、3レベル変換器の半導体スイッチング素子における運転中の損失のばらつきを抑制することで、半導体スイッチング素子の温度の変動量を低減できる。なお、上記の外側の素子とは、例えば素子DEV1とDEV4のことであり、上記の内側の素子とは、例えば素子DEV2とDEV3のことである。
【0066】
以上に説明した少なくとも一つの実施形態によれば、駆動装置は、インピーダンス調整部を備える。インピーダンス調整部は、電力変換器の素子に流れる電流値を用いて、素子の駆動部から前記素子内の半導体スイッチング素子に制御信号を送る経路のインピーダンスを調整する。これにより、運転中の半導体スイッチング素子の温度の変動量を低減できる。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0068】
(付記)
[1]上記実施形態の一態様は、電力変換器の素子に流れる電流値を用いて、前記素子の駆動部から前記素子内の半導体スイッチング素子に制御信号を送る経路のインピーダンスを調整するインピーダンス調整部を備える駆動装置である。
[2]上記[1]に記載の前記インピーダンス調整部は、複数の抵抗を含み、前記複数の抵抗の中から指定された抵抗を選択する切替部と、前記抵抗を選択するための切替信号を生成するインピーダンス算出部とを備えるものであってよい。
[3]上記[2]に記載の前記インピーダンス算出部は、前記電力変換器の素子に流れる電流値と、前記経路のインピーダンスとを関連付ける変換テーブルを備えるとよい。
[4]上記[3]に記載の前記インピーダンス算出部は、前記電力変換器の素子に流れる電流値を用いて前記変換テーブルを参照して、前記抵抗を選択するための選択信号を生成するとよい。
[5]上記[2]から[4]に記載の前記インピーダンス算出部は、前記電力変換器の運転パターンと前記電力変換器の素子に流れる電流値とに基づいて、前記経路のインピーダンスを決定するとよい。
[6]上記[2]から[5]に記載の前記インピーダンス算出部は、前記電力変換器の素子に流れる電流値を平滑化して、平滑化したのちの電流値を、前記経路のインピーダンスの決定に用いるとよい。
[7]上記[5]に記載の前記電力変換器の運転パターンは、力行状態と回生状態とによって区分されているとよい。
[8]上記[5]又は[6]に記載の前記電力変換器の運転パターンは、力率の大きさによって区分されているとよい。
[9]上記[5]から[7]に記載の前記電力変換器の運転パターンは、キャリア周波数の高さによって区分されているとよい。
[10]上記[3]又は[4]に記載の前記変換テーブルは、前記電力変換器の運転パターンごとに、前記素子の損失が所望の範囲に収まるような前記経路のインピーダンスを選択するように構成されているとよい。
[11]上記[5]から[10]に記載の前記電力変換器の運転パターンは、力行状態と回生状態とによって区分される第1条件と、力率の大きさによって区分される第2条件と、キャリア周波数の高さによって区分される第3条件との組み合わせから決定されるとよい。
【符号の説明】
【0069】
1…電力変換装置、
2…電動機、
10…主回路、
11…スイッチ部(駆動装置)、
111…ゲートドライブ回路(GDC、駆動部)、
112…インピーダンス調整部(ZADJ)、
113…電流検出部、
1121…切替部(ZSW)、
1122…インピーダンス算出部、
11221…運転パターン決定部、
11222…素子電流検出部、
11223…平滑化処理部、
11224…ゲート抵抗値決定部。
【要約】
実施形態の一態様の駆動装置は、インピーダンス調整部を備える。前記インピーダンス調整部は、電力変換器の素子に流れる電流値を用いて、前記素子の駆動部から前記素子内の半導体スイッチング素子に制御信号を送る経路のインピーダンスを調整する。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7