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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】歪み補償装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/20 20060101AFI20240906BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20240906BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20240906BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H04L27/20 Z
H04B1/04 R
H03F1/32 141
H03F3/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024504267
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009143
(87)【国際公開番号】W WO2023166664
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】柏木 僚
(72)【発明者】
【氏名】安田 武史
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-19029(JP,A)
【文献】特開2013-197897(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141333(WO,A1)
【文献】特開2012-10243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/20
H04B 1/04
H03F 1/32
H03F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を生成する送信信号発生器と、
前記送信信号発生器により生成された前記送信信号をディジタル変調する変調器と、
前記変調器によりディジタル変調された前記送信信号の歪みを歪補償係数に基づいて補償する歪補償演算部と、
前記歪補償演算部により歪みが補償された前記送信信号をアナログ信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された前記送信信号を増幅する電力増幅器と、
前記電力増幅器により増幅された前記送信信号を減衰させることで、フィードバック信号を生成する減衰器と、
前記減衰器により生成された前記フィードバック信号をディジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器によりディジタル信号に変換された前記フィードバック信号を復調する復調器と、
前記送信信号発生器により生成された前記送信信号から重複する系列を除去して得られる系列である一意系列を生成する重複系列除去部と、
前記重複系列除去部により生成された前記一意系列と前記復調器により復調された前記フィードバック信号とから、前記フィードバック信号の遅延量を推定する遅延量推定部と、
前記遅延量推定部により推定された前記フィードバック信号の前記遅延量に基づいて、前記変調器によりディジタル変調された前記送信信号を遅延させることで、ディジタル変調された前記送信信号とディジタル信号に変換された前記フィードバック信号とを同期させる遅延器と、
互いに同期されたディジタル変調された前記送信信号とディジタル信号に変換された前記フィードバック信号とから、前記歪補償係数を算出する歪補償係数算出部と、
を備える歪み補償装置。
【請求項2】
前記電力増幅器の利得および前記減衰器の減衰量を調整する利得/減衰量調整部をさらに備え、
前記利得/減衰量調整部は、
前記遅延量推定部が前記フィードバック信号の前記遅延量を推定する際は、前記電力増幅器が線形動作し、且つ、前記DA変換器が出力する前記送信信号のレベルと前記AD変換器に入力される前記フィードバック信号のレベルとが一致するように、前記電力増幅器の利得および前記減衰器の減衰量を調整し、
前記遅延量推定部が前記フィードバック信号の前記遅延量の推定を完了した後は、前記電力増幅器が非線形動作し、且つ、前記DA変換器が出力する前記送信信号のレベルと前記AD変換器に入力される前記フィードバック信号のレベルとが一致するように、前記電力増幅器の利得および前記減衰器の減衰量を調整する、
請求項1に記載の歪み補償装置。
【請求項3】
前記電力増幅器により増幅された前記送信信号を、前記送信信号を空中送信する電力線に出力するか、前記送信信号を終端する疑似負荷に出力するかを切り替える出力切替部をさらに備える、
請求項1または請求項2に記載の歪み補償装置。
【請求項4】
前記重複系列除去部により生成された前記一意系列を蓄積する系列蓄積部と、
前記系列蓄積部に蓄積された前記一意系列を、前記電力増幅器により増幅された前記送信信号が前記電力線から送信されないタイミングで、前記変調器および前記遅延量推定部へ出力する系列再生部と、
をさらに備え、
前記電力増幅器により増幅された前記送信信号が前記電力線から送信されるとき、前記変調器は、前記送信信号発生器が出力する前記送信信号をディジタル変調し、前記遅延量推定部は、前記重複系列除去部が出力する前記一意系列を用いて前記フィードバック信号の前記遅延量を推定し、
前記電力増幅器により増幅された前記送信信号が前記電力線から送信されないとき、前記変調器は、前記系列再生部が出力する前記一意系列をディジタル変調し、前記遅延量推定部は、前記系列再生部が出力する前記一意系列を用いて前記フィードバック信号の前記遅延量を推定する、
請求項3に記載の歪み補償装置。
【請求項5】
前記歪補償演算部、前記DA変換器、前記電力増幅器、前記減衰器、前記AD変換器、前記遅延器、および前記歪補償係数算出部からなる回路を2系統備え、
第1系統の前記電力増幅器により増幅された前記送信信号と第2系統の前記電力増幅器により増幅された前記送信信号とのどちらを前記送信信号を空中送信する電力線に出力するかを切り替える入力切替部をさらに備え、
前記復調器は、前記入力切替部により前記電力線に出力されていない方の前記送信信号に対応する前記フィードバック信号を復調し、
前記遅延量推定部は、前記第1系統と前記第2系統とのうち、前記入力切替部により前記送信信号が前記電力線に出力されていない方の前記遅延器における前記送信信号の遅延量を更新する、
請求項1または請求項2に記載の歪み補償装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力増幅器における歪み補償装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムで用いられる電力増幅器は、入力電力の増加に応じて出力電力を線形に増加させることによって、入力波形を増幅した出力波形を出力する。しかし、入力電力の増加に伴って出力電力が飽和すると、電力増幅器の非線形動作により出力波形が歪む。電力増幅器の非線形動作による歪みを補償するために、電力増幅器で発生する歪みと逆の歪みを入力波形に予め与えることで出力波形の歪みを低減させるディジタルプリディストーション(DPD)と呼ばれる歪み補償の技術がある。
【0003】
DPDでは、電力増幅器を通過した送信信号をフィードバック信号として用い、電力増幅器通過後のフィードバック信号と電力増幅器通過前の送信信号との差から、歪補償係数を算出する。さらに、算出された歪補償係数を用いて、送信信号に電力増幅器と逆の歪みを与えることで歪みが補償される。ここで、歪補償係数の算出にあたり、電力増幅器通過前の送信信号と電力増幅器通過後のフィードバック信号とは、互いに同期する必要がある。そのため、電力増幅器通過後のフィードバック信号の遅延量に基づいて、電力増幅器通過前の送信信号を遅延させることで、電力増幅器通過前の送信信号と電力増幅器通過後のフィードバック信号とを同期させる。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、パイロット信号やプリアンブル信号など、送信信号に含まれる特定の信号を用いてフィードバック信号の遅延量を推定し、DPDを実現する歪み補償装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-19154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の歪み補償装置では、フィードバック信号の遅延量を推定するために用いる特定の信号が、無線通信システムに依存して変わる。任意の信号に基づいてフィードバック信号の遅延量を推定する場合、観測された範囲内で当該信号が一意でなければ、当該信号が重複して出現することがあるため、歪み補償装置がフィードバック信号の遅延量の推定を誤る可能性がある。そのため、汎用的な無線通信システムにDPDを適用するには、送信信号における特定の信号が既知でなければならない。
【0007】
本開示は以上のような課題を解決するためになされたものであり、任意の信号に基づいてフィードバック信号の遅延量を推定しても、正しい推定を行うことができる歪み補償装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る歪み補償装置は、送信信号を生成する送信信号発生器と、前記送信信号発生器により生成された前記送信信号をディジタル変調する変調器と、前記変調器によりディジタル変調された前記送信信号の歪みを歪補償係数に基づいて補償する歪補償演算部と、前記歪補償演算部により歪みが補償された前記送信信号をアナログ信号に変換するDA変換器と、前記DA変換器により変換された前記送信信号を増幅する電力増幅器と、前記電力増幅器により増幅された前記送信信号を減衰させることで、フィードバック信号を生成する減衰器と、前記減衰器により生成された前記フィードバック信号をディジタル信号に変換するAD変換器と、前記AD変換器によりディジタル信号に変換された前記フィードバック信号を復調する復調器と、前記送信信号発生器により生成された前記送信信号から重複する系列を除去して得られる系列である一意系列を生成する重複系列除去部と、前記重複系列除去部により生成された前記一意系列と前記復調器により復調された前記フィードバック信号とから、前記フィードバック信号の遅延量を推定する遅延量推定部と、前記遅延量推定部により推定された前記フィードバック信号の前記遅延量に基づいて、前記変調器によりディジタル変調された前記送信信号を遅延させることで、ディジタル変調された前記送信信号とディジタル信号に変換された前記フィードバック信号とを同期させる遅延器と、互いに同期されたディジタル変調された前記送信信号とディジタル信号に変換された前記フィードバック信号とから、前記歪補償係数を算出する歪補償係数算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る歪み補償装置によれば、送信信号から重複する系列を除去して得られる系列である一意系列に基づいて、フィードバック信号の遅延量が推定されるため、送信信号が任意の信号であっても、フィードバック信号の遅延量を正しく推定することができる。
【0010】
本開示の目的、特徴、態様、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る歪み補償装置のブロック図である。
図2】送信信号の例を示す図である。
図3】長さが1の一意系列の例を示す図である。
図4】長さが2の一意系列の例を示す図である。
図5】長さが2の一意系列の例を示す図である。
図6】長さが2の一意系列の例を示す図である。
図7】長さが2の一意系列の例を示す図である。
図8】長さが2の一意系列の例を示す図である。
図9】重複系列除去部の動作を示すフローチャートである。
図10】系列計数処理を示すフローチャートである。
図11】一意系列出力処理を示すフローチャートである。
図12】実施の形態2に係る歪み補償装置のブロック図である。
図13】電力増幅器の非線形特性を説明するための図である。
図14】実施の形態3に係る歪み補償装置のブロック図である。
図15】実施の形態4に係る歪み補償装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係る歪み補償装置の構成を示すブロック図である。図1のように、実施の形態1に係る歪み補償装置は、送信信号発生器1、変調器2、歪補償演算部3、DA変換器4、電力増幅器5、出力切替部6、電力線7、疑似負荷8、減衰器9、AD変換器10、復調器11、重複系列除去部12、遅延量推定部13、遅延器14、および歪補償係数算出部15を備える。
【0013】
変調器2の入力は、送信信号発生器1の出力と接続される。歪補償演算部3の入力は、変調器2の出力と、歪補償係数算出部15の出力とに接続される。DA変換器4の入力は、歪補償演算部3の出力と接続される。電力増幅器5の入力は、DA変換器4の出力と接続される。出力切替部6の入力は、電力増幅器5の出力と接続される。電力線7の入力は、出力切替部6の出力と接続される。疑似負荷8の入力は、出力切替部6の出力と接続される。減衰器9の入力は、電力増幅器5の出力と接続される。AD変換器10の入力は、減衰器9の出力と接続される。復調器11の入力は、AD変換器10の出力と接続される。重複系列除去部12の入力は、送信信号発生器1の出力と接続される。遅延量推定部13の入力は、復調器11の出力と、重複系列除去部12の出力と接続される。遅延器14の入力は、変調器2の出力と、遅延量推定部13の出力と接続される。歪補償係数算出部15の入力は、AD変換器10の出力と、遅延器14の出力と接続される。
【0014】
送信信号発生器1は、図2に例示されるような送信信号16を発生する。送信信号16はディジタルデータの系列で構成される。図2は送信信号16の一例である。図2の送信信号16は、16進数のバイナリ系列であり、0A→0B→0C→0A→0B→0C→0D→11→22→11→22→0A→0B→0Cの順に遷移する。
【0015】
変調器2は、送信信号16をディジタル変調する。変調器2が行うディジタル変調の方式としては、BPSK、QPSK、DPSK、8PSK、16QAM、32APSK、64QAM、128QAM、256QAM、1024QAM、ASK、OFDMなどがある。
【0016】
歪補償演算部3は、歪補償係数算出部15で算出された歪補償係数を用いて、電力増幅器5の歪みを打ち消すために送信信号16を補償する。歪補償演算部3が送信信号16を補償するために用いるアルゴリズムとしては、LUT(ルックアップテーブル)、FIRフィルタ、NN(ニューラルネットワーク)などがある。歪補償演算部3は、遅延量推定部13が遅延量を推定するときにのみ、変調器2が変調した送信信号16をDA変換器4にそのまま出力する。
【0017】
DA変換器4は、歪補償演算部3で補償された送信信号16をアナログ信号に変換する。
【0018】
電力増幅器5は、DA変換器4によりアナログ信号に変換された送信信号16を増幅する。
【0019】
出力切替部6は、電力増幅器5により増幅された送信信号16を電力線7に出力するか疑似負荷8に出力するかを制御する。具体的には、出力切替部6は、遅延量推定部13が遅延量を推定するとき、送信信号16を疑似負荷8に出力し、遅延量推定部13が遅延量を推定しないとき、送信信号16を電力線7に出力する。
【0020】
電力線7は、電力増幅器5により増幅された送信信号16を空中送信する。
【0021】
疑似負荷8は、電力増幅器5により増幅された送信信号16を終端する。
【0022】
減衰器9は、電力増幅器5により増幅された送信信号16を、フィードバック信号としてAD変換器10に入力可能な範囲になるように減衰させる。
【0023】
AD変換器10は、減衰器9により減衰されたフィードバック信号をアナログ信号からディジタル信号に変換する。
【0024】
復調器11は、AD変換器10によりディジタル信号に変換されたフィードバック信号を復調する。復調器11が行う復調の方式は、変調器2と同じ方式とする。
【0025】
重複系列除去部12は、送信信号16から重複系列を除去することで、図3図8に例示されるような一意系列17を生成する。一意系列17は、送信信号16から一定の長さの重複した系列を排除して得られる当該一定の長さの系列と、送信開始時刻からのオフセット時刻とで構成される。一意系列17の長さ(すなわち上記「一定の長さ」)は、任意の長さでよく、予め指定しておいてもよい。
【0026】
図3は、図2の送信信号16から生成される長さが1の一意系列17である。図2の送信信号16には、長さが1の系列として、0A、0B、0C、0D、11、22が含まれている。そのうちの0A、0B、0C、11、22は重複が見られるため除外され、0Dのみが一意系列17として残る。
【0027】
図4図8は、図2の送信信号16から生成される長さが2の一意系列17である。図2の送信信号16には、長さが2の系列として、「0A→0B」、「0B→0C」、「0C→0A」、「0C→0D」、「0D→11」、「11→22」、「22→11」、「22→0A」が含まれている。そのうちの「0A→0B」、「0B→0C」、「11→22」は重複が見られるため除外され、「0C→0A」(図4)、「0C→0D」(図5)、「0D→11」(図6)、「22→11」(図7)、「22→0A」(図8)が一意系列17として残る。図4図8のように、送信信号16から複数の一意系列17が得られることがあるが、遅延量推定部13ではそのうちの1つが用いられる。
【0028】
このように、一意系列17は、送信信号16の観測された範囲内で重複のない(つまり、1回しか出現しない)1以上の長さを有する系統を抽出したものである。よって、一意系列17は、送信信号16の観測された範囲およびそれに対応するフィードバック信号に複数回現れることはなく、一意的に定まる。
【0029】
ここで、重複系列除去部12が一意系列17を生成する方法を図9のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
まず、ステップS1の系列計数処理にて、重複系列除去部12は、系列の重複回数を数え、ステップS2に進む。そして、ステップS2の一意系列出力処理にて、重複系列除去部12は、ステップS1で数えた系列のうちから重複していない系列を抽出し、抽出した系列を一意系列17として出力する。
【0031】
次に、上記の系列計数処理(図9のステップS1)について、図10のフローチャートを用いて説明する。
【0032】
まず、ステップS11にて、重複系列除去部12は、送信信号発生器1から出力された送信信号16を取得し、予め確保しておいた固定長のメモリ領域に送信信号16を保存して、ステップS12に進む。
【0033】
ステップS12では、重複系列除去部12は、当該メモリ領域に送信信号16が存在するか否かを確認し、存在していればステップS13に進む。
【0034】
ステップS13では、重複系列除去部12は、当該メモリ領域に存在する送信信号16における先頭から一定の長さの系列を取得し、ステップS14に進む。例えば、送信信号16が図2に示したように0A→0B→0C→0A→0B→0C→0D→11→22→11→22→0A→0B→0Cの順に遷移するものと仮定すると、先頭から長さ1の系列は「0A」であり、先頭から長さ2の系列は「0A→0B」である。
【0035】
ステップS14では、重複系列除去部12は、ステップS13で取得した系列が辞書に登録されているか否かを確認し、ステップS13で取得した系列が辞書に登録されていればステップS15に進み、登録されていなければステップS16に進む。
【0036】
ステップS15では、重複系列除去部12は、辞書に登録されている当該系列(ステップS13で取得したものと同じ系列)の重複回数を1つ増やし、ステップS18に進む。
【0037】
ステップS16では、重複系列除去部12は、ステップS13で取得した系列を、その系列の時刻の情報とともに辞書に登録し、ステップS17に進む。ステップS13で取得される系列の長さが2以上の場合は、その系列の先頭の時刻を当該系列の時刻とする。例えば、ステップS13で取得される系列の長さが2であり、送信信号16が図2に示したように0A→0B→0C→0A→0B→0C→0D→11→22→11→22→0A→0B→0Cの順に遷移する場合、先頭の長さ2の系列「0A→0B」の時刻は0となり、系列「0D→11」の時刻は6となる。
【0038】
ステップS17では、重複系列除去部12は、ステップS16で辞書に登録した系列の重複回数を初期値の1にして、ステップS18に進む。つまり、辞書に登録されている系列の重複回数が1であることは、その系列が送信信号16において1回出現したことを意味している。
【0039】
ステップS18では、重複系列除去部12は、送信信号16を1シンボルだけ進め、ステップS12へ戻る。送信信号16が図2に示したように0A→0B→0C→0A→0B→0C→0D→11→22→11→22→0A→0B→0Cの順に遷移すると仮定すると、1回目のステップS18で送信信号16が1シンボル進められると、先頭の0Aが除外されて、上記の固定長のメモリ領域には、送信信号16として、0B→0C→0A→0B→0C→0D→11→22→11→22→0A→0B→0Cが残ることになる。
【0040】
系列計数処理では、重複系列除去部12は以上の動作を繰り返し、ステップS18で送信信号16が1シンボル進められた結果、上記の固定長のメモリ領域に残る送信信号16が無くなると、ステップS12でNOと判断され、系列計数処理は終了する。
【0041】
次に、上記の一意系列出力処理(図9のステップS2)について、図11のフローチャートを用いて説明する。
【0042】
まず、ステップS21にて、重複系列除去部12は、辞書に系列が存在しているか否かを確認し、辞書に系列が存在すればステップS22に進む。
【0043】
ステップS22では、重複系列除去部12は、辞書に存在する系列のうちの1つを取り出し、ステップS23に進む。
【0044】
ステップS23では、重複系列除去部12は、ステップS22で辞書から取り出した系列の重複回数が1か否かを確認し、当該系列の重複回数が1、つまり送信信号16における当該系列の出現回数が1回だけであれば、ステップS24に進む。また、当該系列の重複回数が1以外、つまり送信信号16における当該系列の出現回数が2回以上であれば、当該系列の登録を辞書から削除して、ステップS21に戻る。
【0045】
ステップS24では、重複系列除去部12は、ステップS22で辞書から取り出した系列と当該系列の時刻の情報を、一意系列17として出力する。
【0046】
なお、重複回数が1の系列が見つからず、ステップS21からステップS23が繰り返し実行された結果、辞書に登録された系列が無くなると、ステップS21でNOと判断され、一意系列出力処理は終了する。
【0047】
図1に戻り、遅延量推定部13は、重複系列除去部12により生成された一意系列17と、復調器11により復調されたフィードバック信号とから、フィードバック信号の遅延量を推定する。具体的には、遅延量推定部13は、一意系列17と一致する系列をフィードバック信号から見付け、見つかった系列の開始時刻を取得し、その開始時刻に一意系列17の時刻を足すことで、遅延量を推定する。遅延量推定部13がフィードバック信号の遅延量の推定に用いる一意系列17は、送信信号16の観測された範囲に1回しか出現しない一意な系列であるため、遅延量推定部13は、フィードバック信号の遅延量を正しく推定することができる。遅延量の推定が完了すると、遅延量推定部13は、遅延量を確定して動作を停止する。
【0048】
遅延器14は、遅延量推定部13で推定された遅延量に基づき、復調器11が復調した送信信号16を遅延させることで、AD変換器10によりディジタル信号に変換されたフィードバック信号に送信信号16を同期させる。
【0049】
歪補償係数算出部15は、互いに同期した、AD変換器10によりディジタル信号に変換されたフィードバック信号と遅延器14により遅延された送信信号16とから、歪補償係数を算出し、算出した歪補償係数を歪補償演算部3に提供する。歪補償係数算出部15が歪補償係数を算出するアルゴリズムとしては、例えばLMS(最小平均二乗)、NLMS(正規化最小平均二乗)、RLS(再帰的最小二乗)などがある。
【0050】
このように、実施の形態1に係る歪み補償装置によれば、フィードバック信号の遅延量が、送信信号16から重複系列を除去して得られる一意系列17に基づいて推定されるため、フィードバック信号の遅延量を誤りなく推定できる。その結果、歪補償係数が正しく計算され、電力増幅器5の非線形動作による出力波形の補償が精度良く補償される。
【0051】
<実施の形態2>
実施の形態2では、電力増幅器5の利得を線形領域に調整することで、多値変調時におけるフィードバック信号のシンボル誤りを抑制し、それによって、フィードバック信号の遅延量が誤って推定されることを防止する。
【0052】
図12は、実施の形態2に係る歪み補償装置の構成を示すブロック図である。図12の歪み補償装置の構成は、図1の構成に対し、利得/減衰量調整部18を追加したものである。また、電力増幅器5の入力は、DA変換器4の出力と、利得/減衰量調整部18の出力とに接続される。減衰器9の入力は、電力増幅器5の出力と、利得/減衰量調整部18の出力とに接続される。それ以外の構成は図1と同様である。
【0053】
本実施の形態では、電力増幅器5は、DA変換器4によりアナログ信号に変換された送信信号16を、利得/減衰量調整部18から出力される利得に基づいて増幅する。
【0054】
電力増幅器5が理想的な線形増幅器である場合、入力電力が増加すると出力電力が直線的に増加する。しかし、電力増幅器5が理想的な線形増幅器でない場合、入力電力が増加すると出力電力が直線的に増加することなく飽和する。図13に、電力増幅器5における利得曲線の例を示す。図13には、非線形領域を含む利得曲線19と、線形領域のみの利得曲線20とが図示されている。図13のグラフの横軸は入力電力、縦軸は出力電力を示し、利得曲線の傾きが利得に相当する。線形領域のみの利得曲線20は傾きが一定である。非線形領域を含む利得曲線19は、線形領域21では傾きが一定であるが、非線形領域22では傾きが一定ではなく、入力電力の増加に対応して出力電力が直線的に増加しないため、出力信号に歪みが生じる。
【0055】
利得/減衰量調整部18は、電力増幅器5の利得および減衰器9の減衰量を調整する。具体的には、利得/減衰量調整部18は、遅延量推定部13がフィードバック信号の遅延量を推定する際、電力増幅器5が線形動作するように、電力増幅器5の利得を予め定められた値に調整し、その上でDA変換器4が出力する送信信号16のレベルとAD変換器10に入力されるフィードバック信号のレベルとが一致するように、減衰器9の減衰量を予め定められた値に調整する。また、遅延量推定部13でフィードバック信号の遅延量の推定が完了した後、利得/減衰量調整部18は、電力増幅器5が非線形動作するように、電力増幅器5の利得を予め定められた値に調整し、その上でDA変換器4が出力する送信信号16のレベルとAD変換器10に入力されるフィードバック信号のレベルとが一致するように、減衰器9の減衰量を予め定められた値に調整する。
【0056】
このように、実施の形態2の歪み補償装置によれば、実施の形態1で得られる効果に加え、遅延量推定部13がフィードバック信号の遅延量を推定する際に、電力増幅器5を線形領域で動作させて、歪みのないフィードバック信号を得ることで、多値変調時におけるフィードバック信号の遅延量を誤りなく推定することができる。
【0057】
<実施の形態3>
実施の形態1では、歪み補償装置を含むシステム(以下、単に「システム」という)が送信信号16を電力線7から送信しないタイミングで、送信信号発生器1に送信信号16を出力させ、その送信信号16から得られる一意系列17を用いてフィードバック信号の遅延量が推定される。実施の形態3では、送信信号発生器1が出力した送信信号16から生成された一意系列17を一旦蓄積し、システムが送信信号16を電力線7から送信しないタイミングで蓄積された一意系列17を再生し、再生された一意系列17を用いてフィードバック信号の遅延量を推定する。
【0058】
図14は、実施の形態3に係る歪み補償装置の構成を示すブロック図である。図14の歪み補償装置の構成は、図1の構成に対し、系列蓄積部23および系列再生部24を追加したものである。また、変調器2の入力は、送信信号発生器1の出力と、系列再生部24の出力とに接続される。遅延量推定部13の入力は、復調器11の出力と、重複系列除去部12の出力と、系列再生部24の出力とに接続される。系列蓄積部23の入力は、重複系列除去部12の出力と接続される。系列再生部24の入力は、系列蓄積部23の出力と接続される。それ以外の構成は図1と同様である。
【0059】
系列蓄積部23は、重複系列除去部12が発生した一意系列17を蓄積する。系列再生部24は、送信信号発生器1が送信信号16の送信を行わないタイミングで、系列蓄積部23に蓄積された一意系列17を、変調器2および遅延量推定部13へ出力する。
【0060】
変調器2は、送信信号発生器1から出力される送信信号16、または、系列再生部24から出力される一意系列17を、ディジタル変調する。具体的には、変調器2は、システムが送信信号16を電力線7から送信するときは、送信信号発生器1が出力する送信信号16をディジタル変調し、システムが送信信号16を電力線7から送信しないときは、系列再生部24が出力する一意系列17をディジタル変調する。
【0061】
遅延量推定部13は、重複系列除去部12または系列再生部24から出力される一意系列17と復調器11により復調されたフィードバック信号とから、フィードバック信号の遅延量を推定する。具体的には、遅延量推定部13は、システムが送信信号16を送信するときは、重複系列除去部12から出力される一意系列17を用いてフィードバック信号の遅延量を推定し、システムが送信信号16を送信しないときは、系列再生部24から出力される一意系列17を用いてフィードバック信号の遅延量を推定する。
【0062】
出力切替部6は、電力増幅器5により増幅された送信信号16または一意系列17を電力線7に出力するか疑似負荷8に出力するか制御する。具体的には、出力切替部6は、システムが送信信号16を送信するとき、電力増幅器5により増幅された送信信号16を電力線7に出力し、システムが送信信号16を送信しないとき、電力増幅器5により増幅された一意系列17を疑似負荷8に出力する。
【0063】
実施の形態3に係る歪み補償装置によれば、システムが送信信号16を送信しないタイミングで送信信号発生器1に送信信号16を出力させることなく、システムが送信信号16を送信しないタイミングでフィードバック信号の遅延量を推定することができる。
【0064】
<実施の形態4>
実施の形態3では、システムが送信信号16を送信しないタイミングでフィードバック信号の遅延量を推定したが、実施の形態3は、送信信号16を断続的に送信するシステム(つまり、送信信号16を送信しないタイミングが非常に短いシステム)への適用は困難である。実施の形態4では、送信信号16を断続的に送信するシステムにも適用可能な歪み補償装置を示す。
【0065】
図15は、実施の形態4による歪み補償装置の構成を示すブロック図である。図15に示す歪み補償装置は、図1の構成に対し、歪補償演算部3、DA変換器4、電力増幅器5、減衰器9、AD変換器10、遅延器14および歪補償係数算出部15からなる回路を冗長化して2系統にし、その2系統の回路の片方を第1系統31、もう片方を第2系統32としたものである。また、出力切替部6および疑似負荷8に代えて、入力切替部25が設けられている。入力切替部25の入力は、第1系統31および第2系統32の電力増幅器5の出力と接続され、電力線7の入力は、入力切替部25の出力と接続される。それ以外の構成は図1と同様である。
【0066】
入力切替部25は、第1系統31の電力増幅器5により増幅された送信信号16を電力線7に出力するか、第2系統32の電力増幅器5により増幅された送信信号16を電力線7に出力するかを、システムが電力線7から送信する送信信号16に同期して切り替える。具体的には、入力切替部25は、システムが連続した送信信号16の電力線7からの送信を完了する毎に、第1系統31の電力増幅器5により増幅された送信信号16を電力線7に出力するか、第2系統32の電力増幅器5により増幅された送信信号16を電力線7に出力するかを切り替える。
【0067】
復調器11は、入力切替部25による切り替えに連動して、第1系統31のAD変換器10によりディジタル信号に変換されたフィードバック信号と、第2系統32のAD変換器10によりディジタル信号に変換されたフィードバック信号のうちの一方を復調する。具体的には、復調器11は、入力切替部25により電力線7に出力されていない方の送信信号16に対応するフィードバック信号を復調する。
【0068】
遅延量推定部13は、重複系列除去部12により生成された一意系列17と、復調器11により復調されたフィードバック信号とから、フィードバック信号の遅延量を推定する。また、遅延量推定部13は、入力切替部25による切り替えに連動して、第1系統31の遅延器14および第2系統32の遅延器14のうちの一方における遅延量を更新する。具体的には、遅延量推定部13は、第1系統31と第2系統32とのうち、入力切替部25により送信信号16が電力線7に出力されていない方の遅延器14における送信信号16の遅延量を更新する。
【0069】
実施の形態4に係る歪み補償装置によれば、第1系統31と第2系統32とが交互に送信信号16を電力線7から送信し、第1系統31および第2系統32のうちの送信信号16を送信していない方においてフィードバック信号の遅延量を推定することができる。そのため、歪み補償装置を含むシステムが送信信号16を断続的に送信する場合であっても、フィードバック信号の遅延量を推定することができる。
【0070】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0071】
上記した説明は、すべての態様において、例示であって、例示されていない無数の変形例が想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0072】
1 送信信号発生器、2 変調器、3 歪補償演算部、4 DA変換器、5 電力増幅器、6 出力切替部、7 電力線、8 疑似負荷、9 減衰器、10 AD変換器、11 復調器、12 重複系列除去部、13 遅延量推定部、14 遅延器、15 歪補償係数算出部、16 送信信号、17 一意系列、18 利得/減衰量調整部、19 非線形領域を含む利得曲線、20 線形領域のみの利得曲線、21 線形領域、22 非線形領域、23 系列蓄積部、24 系列再生部、25 入力切替部、31 第1系統、32 第2系統。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15