(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】不飽和アルデヒドの製造方法および不飽和アルデヒドの製造装置
(51)【国際特許分類】
C07C 45/35 20060101AFI20240906BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20240906BHJP
B01J 23/887 20060101ALI20240906BHJP
B01J 35/51 20240101ALI20240906BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
C07C45/35
C07C47/22 G
B01J23/887 Z
B01J35/51
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2024506138
(86)(22)【出願日】2023-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2023036202
(87)【国際公開番号】W WO2024080203
(87)【国際公開日】2024-04-18
【審査請求日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2022163792
(32)【優先日】2022-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥村 成喜
(72)【発明者】
【氏名】香川 主
(72)【発明者】
【氏名】河村 智志
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/198763(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203266(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/157699(WO,A1)
【文献】特開2023-121161(JP,A)
【文献】国際公開第2005/005037(WO,A1)
【文献】特開2005-289919(JP,A)
【文献】特開2020-73581(JP,A)
【文献】特開2018-111696(JP,A)
【文献】特開2004-26799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00- 38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床多管型反応器を用いてアルケンを部分酸化して対応する不飽和アルデヒドを製造する方法であって、
前記固定床多管型反応器は、複数の反応管と、前記複数の反応管の温度を調節する反応浴とを備え、
前記反応管には、ガス流れ方向において2層以上の触媒層が設けられており、
不飽和アルデヒドの収率が最高となる反応浴温度をA(℃)、前記収率が最高値より1.0%ポイント低くなる反応浴温度をA1(℃)及びA2(℃)とすると、以下式(1)及び(2)が成り立ち、かつ、前記反応浴温度A(℃)において不飽和アルデヒドを製造したときのSf及びStについて、以下式(3)が成り立つ、不飽和アルデヒドの製造方法。
A1 < A < A2 (1)
(A2-A1) ≧ 10 (2)
(Sf/St)×100 ≦ 40 (3)
ここでSfおよびStは以下の手順(a)~(c)によって定められる。
(a)前記反応管に設けられた前記2層以上の触媒層のガス流れ方向全体にわたってp個(pは2以上の整数)の熱電対を等間隔で配置し、前記熱電対を用いて、反応浴温度A(℃)で不飽和アルデヒドを製造したときの前記反応管内のp個の測定点におけるスポット温度T1
j(℃)(jは1~p)を取得する。
(b)前記測定点のそれぞれについて、スポット温度T1
j(℃)から反応浴温度A(℃)を減算した値(T1
j-A)であるスポット発熱温度T2
jを算出する。ただしT1
j-Aが負の値になる場合、当該測定点のスポット発熱温度T2
jは0とする。
(c)前記反応管内の全ての測定点のスポット発熱温度T2
jを合計した値をStとする。最も出口側の触媒層に設けられている測定点のスポット発熱温度T2
k(kは1~q、qは
手順(a)で規定する、反応管内に等間隔で配置されたp個の測定点のうちの、最も出口側の触媒層に設けられている測定点の数であり、q<p)を合計した値をSfとする。
【請求項2】
反応用原料ガスの最も入口側の触媒層に含まれる触媒活性成分が、下記式(I-1)で表される組成を有する請求項1に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
Mo
a1Bi
b1Ni
c1Co
d1Fe
e1X
f1Cs
g1Z
h1O
i1 (I-1)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe、CsおよびOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、セシウムおよび酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、Cs、OおよびX以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Cs、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7.0、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<e1≦5.0、0≦f1≦2.0、0<g1≦3.0、0≦h1≦5.0を満たし、i1は各元素の酸化状態によって決まる値である。)
【請求項3】
反応用原料ガスの最も出口側の触媒層に含まれる触媒活性成分が、下記式(I-2)で表される組成を有する請求項1又は2に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
Mo
a2Bi
b2Ni
c2Co
d2Fe
e2X
f2K
g2Z
h2O
i2 (I-2)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、FeおよびKはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄およびカリウムを表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、K、OおよびX以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a2、b2、c2、d2、e2、f2、g2、h2、およびi2はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、K、Zおよび酸素の原子数を表し、a2=12としたとき、0<b2≦7.0、0≦c2≦10、0<d2≦10、0<e2≦5.0、0≦f2≦2.0、0≦g2≦3.0、0≦h2≦5.0を満たし、i2は各元素の酸化状態によって決まる値である。)
【請求項4】
反応浴温度が310℃以上340℃以下である請求項1又は2に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
【請求項5】
反応用原料ガス中のアルケンに対する酸素の体積比率(酸素/アルケン)が1.0以上1.8以下である請求項1又は2に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
【請求項6】
前記反応管は、前記触媒層よりも入口側にイナート層を有さない請求項1又は2に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
【請求項7】
前記反応管には、ガス流れ方向において3層の触媒層が設けられており、
前記反応管の入口側から数えて1層目と2層目の充填長の和と3層目の充填長との比((1層目の充填長+2層目の充填長)/3層目の充填長)が、1.5以上3.5以下である請求項1又は2に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
【請求項8】
前記反応管には、ガス流れ方向において2層以上の触媒層が設けられており、下記(II)、(III)、(IV)式により定義されるakt/aknが1.41以上10.00以下となるように各触媒層の触媒の種類、希釈率および充填長が設定されている、請求項1又は2に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
触媒の反応速度k=-Ln(1-x/100) (II)
触媒層の実質反応速度ak=(当該触媒層の希釈率)×(当該触媒層の充填長)×(当該触媒層の触媒の反応速度k) (III)
akt/akn=(全触媒層の実質反応速度akを足し合わせた数値)/(反応管の最も出口側の触媒層の実質反応速度ak) (IV)
ここでxは触媒を微分系反応器に充填して反応浴温度360℃で前記アルケンの部分酸化反応を実施したときの原料ガス転化率(%)である。
【請求項9】
アルケンを部分酸化して対応する不飽和アルデヒドを製造するための不飽和アルデヒドの製造装置であって、
複数の反応管と、前記複数の反応管の温度を調節する反応浴とを備える固定床多管型反応器を含み、
前記反応管には、ガス流れ方向において2層以上の触媒層が設けられており、
不飽和アルデヒドの収率が最高となる反応浴温度をA(℃)、前記収率が最高値より1.0%ポイント低くなる反応浴温度をA1(℃)及びA2(℃)とすると、以下式(1)及び(2)が成り立ち、かつ、前記反応浴温度A(℃)において不飽和アルデヒドを製造したときのSf及びStについて、以下式(3)が成り立つ、不飽和アルデヒドの製造装置。
A1 < A < A2 (1)
(A2-A1) ≧ 10 (2)
(Sf/St)×100 ≦ 40 (3)
ここでSfおよびStは以下の手順(a)~(c)によって定められる。
(a)前記反応管に設けられた前記2層以上の触媒層のガス流れ方向全体にわたってp個(pは2以上の整数)の熱電対を等間隔で配置し、前記熱電対を用いて、反応浴温度A(℃)で不飽和アルデヒドを製造したときの前記反応管内のp個の測定点におけるスポット温度T1
j(℃)(jは1~p)を取得する。
(b)前記測定点のそれぞれについて、スポット温度T1
j(℃)から反応浴温度A(℃)を減算した値(T1
j-A)であるスポット発熱温度T2
jを算出する。ただしT1
j-Aが負の値になる場合、当該測定点のスポット発熱温度T2
jは0とする。
(c)前記反応管内の全ての測定点のスポット発熱温度T2
jを合計した値をStとする。最も出口側の触媒層に設けられている測定点のスポット発熱温度T2
k(kは1~q、qは
手順(a)で規定する、反応管内に等間隔で配置されたp個の測定点のうちの、最も出口側の触媒層に設けられている測定点の数であり、q<p)を合計した値をSfとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化し対応する不飽和アルデヒドを製造する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルケンまたはその分子内脱水反応によりアルケン類を生じうるアルコールを原料にして対応する不飽和アルデヒドを製造する方法は工業的に広く実施されている。なかでもプロピレンを分子状酸素により気相接触酸化して、アクロレインを合成する触媒に関し、従来から数多くの提案がなされている。
【0003】
この気相系酸化反応においては、生産性の観点から収率が最も重要視される。そのため触媒の組成成分の改良として、鉄およびコバルト、ニッケルの原子比率に関する技術が特許文献1に記載されている。コバルトおよび/またはニッケルに対する鉄の原子比率に関する技術が特許文献2に記載されている。モリブデンに対するそれぞれの元素の原子比率の最適化に加え、ビスマスに対するニッケル、アルカリ金属成分に対するニッケル、アルカリ金属成分に対するビスマス、それぞれの原子比率に関する技術が特許文献3に記載されている。また、モリブデンに対するビスマスの組成比の改良が特許文献4に記載されている。
【0004】
また、この反応系は激しい発熱を伴うため、触媒層における局所的な高温部分(ホットスポット)の発生が大きな問題となっている。ホットスポットは、一般的には触媒層内温度の極大値のことを意味し、通常は原料濃度が高いガス入口側の触媒層で発生するが、入口側触媒の失活や、急激な外乱要因や様々な条件のばらつきによりガス出口側に位置する高活性な触媒層にも発生しうる。ここでいう外乱要因とは、例えば反応浴ジャケットに供給される熱媒体の流速の変化や気温による原料ガスの流量の変動を指す。
【0005】
ホットスポットの発生は触媒寿命の短縮、過度の酸化反応による収率の低下、場合によっては暴走反応につながるため、ホットスポット温度を抑制するためにホットスポットが発生する部分に充填する触媒の活性を制御する技術がいくつか提案されている。
【0006】
例えば特許文献5には担持量を変えて活性を調節した触媒を使用すること、触媒の焼成温度を変えて活性を調節した触媒を使用することでホットスポット温度を低下させる技術が開示されている。特許文献6には触媒の見かけ密度の比を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献7には触媒成型体の不活性成分の含有量を変えるとともに、触媒成型体の占有容積、アルカリ金属の種類および/または量、触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献8には触媒成型体の占有容積を変えた反応帯を設け、すくなくとも一つの反応帯に不活性物質を混合する技術が開示されている。特許文献9には触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献10には触媒の占有容積と、焼成温度および/またはアルカリ金属の種類、量を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2003-164763号公報
【文献】日本国特開2003-146920号公報
【文献】国際公開第2014/181839号
【文献】国際公開第2016/136882号
【文献】日本国特開平10-168003号公報
【文献】日本国特開2004-002209号公報
【文献】日本国特開2001-328951号公報
【文献】日本国特開2005-320315号公報
【文献】日本国特開平8-3093号公報
【文献】日本国特開2001-226302号公報
【文献】日本国特許第6912153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記手段をもって収率の改善をはかっても目的生成物の収率は十分とは言い難く、製造に要するアルケンの使用量を左右し製造コストに多大な影響を与えるため改善が求められている。また、低い収率で運転を継続することによって副生成物を大量に生成するため精製工程に大きな負荷を与え、精製工程にかかる時間および運転コストが上がってしまう問題が生じる。さらには副生成物の種類によっては、それらは触媒表面や触媒付近のガス流路に堆積する場合もあり、これらが触媒表面の必要な反応活性点を被覆してしまうことで触媒の活性を低下させるため、無理やり活性を上げる必要が生じ反応浴温度を上げざるを得なくなる。すると、触媒が熱的ストレスを受けることとなり、寿命の低下や選択率の低下を引き起こし、さらなる収率の低下を招くことにもなる。
【0009】
さらに、ホットスポットの抑制をはじめとした安定稼働についても未だ対策は十分ではない。たとえば工業プラントでは、反応器構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布が生じてしまうことがあり、全ての反応管内で同一の状態で触媒が使用されるということはほぼありえない。
【0010】
工業プラントで使用された触媒を分析すると、原料ガス入口部分の触媒が集中して劣化している反応管や、全体にわたって触媒が緩やかに劣化している反応管、さらに驚くべきことに原料ガス出口部分の触媒が入口部分の触媒よりも劣化している反応管が見受けられることもある。これは、原料ガス出口側の触媒層のホットスポット温度が異常に高かった可能性を示唆しており、場合によっては暴走反応を引き起こす可能性がある。これは、前述した工業プラントにおける反応管径のばらつき、反応器の構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布により、原料炭化水素の転化率が異なり、温度分布の形状が異なったことが原因と予想される。様々なばらつき要因が重なってしまった場合でも、より安全に安定して長期にわたって反応を維持できる技術の開発が課題として挙げられた。仮に反応の異常によるプラント停止が発生すると、その期間中の未生産分による損失、異常な温度や雰囲気によっては触媒寿命が短縮され、暴走反応が起きた際には工業プラント設備そのものの損傷や事故など多大な損失を招く可能性がある。このように、特に多管式反応器では反応器が複数あるが故に猶更、広い反応浴温度において安定な収率を保持でき、安定稼働に関する改善が望まれている。
【0011】
これまでの製造技術として、反応管ガス入口側には活性の低い触媒を用い、反応管ガス出口側の触媒には活性の高い触媒を用い、ガス入口側よりもガス出口側付近の触媒層の充填長を長くする多層充填方法がとられている。
【0012】
特にプロピレンからアクロレインを製造する方法において、アクロレイン収率を向上させる方法は例えば特許文献11に記載されているが、別の課題が発生しうる。すなわち、上述のように触媒の多層充填により反応ガス出口側の触媒に活性の高い触媒を用いることが一般的であるが、最も活性の高い出口側触媒におけるホットスポット温度(PTf)が反応浴温度(BT)に対して鋭敏に変化するかは、プラントの安定運転の観点では重要な課題となる。というのも、PTfがBTに対して鋭敏に変化する(ΔPTf/ΔBTが高い)場合、わずかな反応浴温度の変化や複数の反応管間の反応浴温度の違いにより、最も活性の高い出口側の触媒上でホットスポットが鋭敏に変化することにより、熱暴走やそれに伴う反応管の破損や爆発がより生じやすいためである。さらに、PTfが高いということは、反応器の出口側における発熱量が多いために反応器出口のガス温度が高く、アクロレインの冷炎反応(クールフレーム)が生じることによるアクロレイン収率低下や、アクロレインの自動酸化反応による反応管出口側での炭素状析出物の堆積(コーキングまたはファウリング)、およびそれによる反応管内の閉塞が生じうる。
上述の課題が生じる背景として、プロピレンからアクロレインを製造する方法においてΔPTf/ΔBTが高くなる理由を以下に記載する。すなわち、プロピレンからアクロレインを製造する場合、逐次酸化生成物であるアクリル酸を副生成物としてとらえるため、逐次酸化が生じないような反応器およびプロセスの設計が実施される。たとえば、(1)低負荷(=原料プロピレンの空間速度が低い)であるとガス対流と逐次酸化が生じるため高負荷条件とすること、(2)原料ガス入り口部分に配置する不活性物質の充填量を少なくすること、(3)逐次酸化反応によるアクロレイン収率の低下を抑制するために触媒層入口における酸素/プロピレン比率を低く設定すること、および(4)上記による触媒全体の活性低下を補うため出口圧力を高く設定すること、などが挙げられる。これらの理由により、特にプロピレンからアクロレインを製造する方法においては、多層充填された全触媒層においてPTfが最も高温になりやすく、またPTfがBTに対して鋭敏に変化しやすい。
ここで、ΔPTf/ΔBTの具体的な算出方法は次の通りである。すなわち、後述するA1およびA2の範囲内における最も出口側のピーク温度(PTf)とBTの3点以上の実測した全測定点を散布図としてプロットしたとき、縦軸である最も出口側のピーク温度に切片があり、BTに対して一次関数であると仮定した、最小二乗法による近似直線の傾きを、ΔPTf/ΔBTと定義する。また、測定点が2点の場合は当該2点を通る直線の傾きをΔPTf/ΔBTとする。測定点は、反応浴温度(BT)が最も低い測定点の反応浴温度BT1と、反応浴温度が最も高い測定点の反応浴温度BT2との差(BT2-BT1)が、A2-A1の30%以上となるように設定する。
以上説明したように、特にプロピレンからアクロレインを製造する方法において上述の反応器およびプロセスの制約の中で、プラントを安定運転させるためにどのような触媒およびその充填方法、並びに運転管理方法を採用すべきかについては公知ではなかった。また、最も出口側のピーク温度に着目した安定運転のため、どのような触媒や、その充填方法が好ましいかについても公知ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、これら上記の現状と課題に対して鋭意検討した結果、アクロレイン収率が安定である反応浴温度領域(以下オペレーションウインドウと記載する)を広げるように触媒を充填することで、高収率で安定的なプラント運転が可能であることを見出した。また、更には、最も出口側の触媒層のスポット発熱温度の合計と全触媒層のスポット発熱温度の合計との間に一定の関係ができるように触媒を充填すると、PTfがBTに対してなだらかに変化できる(ΔPTf/ΔBTを低くできる)こと、さらには不飽和アルデヒドの収率が高くなり、より高収率で安定的なプラント運転が可能であることを見出した。本発明は、プロピレンからアクロレインへの反応だけでなく、例えばtert-ブチルアルコールおよび/またはイソブチレンからメタクロレインへの反応に適用することができる。
【0014】
即ち、本発明は、以下1)~11)に関する。
1)
固定床多管型反応器を用いてアルケンを部分酸化して対応する不飽和アルデヒドを製造する方法であって、
前記固定床多管型反応器は、複数の反応管と、前記複数の反応管の温度を調節する反応浴とを備え、
前記反応管には、ガス流れ方向において2層以上の触媒層が設けられており、
不飽和アルデヒドの収率が最高となる反応浴温度をA(℃)、前記収率が最高値より1.0%ポイント低くなる反応浴温度をA1(℃)及びA2(℃)とすると、以下式(1)及び(2)が成り立つ、不飽和アルデヒドの製造方法。
A1 < A < A2 (1)
(A2-A1) ≧ 10 (2)
2)
前記反応浴温度A(℃)において不飽和アルデヒドを製造したときのSf及びStについて、以下式(3)が成り立つ、上記1)に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
(Sf/St)×100 ≦ 42.0 (3)
ここでSfおよびStは以下の手順(a)~(c)によって定められる。
(a)前記反応管に設けられた前記2層以上の触媒層のガス流れ方向全体にわたってp個(pは2以上の整数)の熱電対を等間隔で配置し、前記熱電対を用いて、反応浴温度A(℃)で不飽和アルデヒドを製造したときの前記反応管内のp個の測定点におけるスポット温度T1j(℃)(jは1~p)を取得する。
(b)前記測定点のそれぞれについて、スポット温度T1j(℃)から反応浴温度A(℃)を減算した値(T1j-A)であるスポット発熱温度T2jを算出する。ただしT1j-Aが負の値になる場合、当該測定点のスポット発熱温度T2jは0とする。
(c)前記反応管内の全ての測定点のスポット発熱温度T2jを合計した値をStとする。最も出口側の触媒層に設けられている測定点のスポット発熱温度T2k(kは1~q、qは最も出口側の触媒層に設けられている測定点の数であり、q<p)を合計した値をSfとする。
3)
反応用原料ガスの最も入口側の触媒層に含まれる触媒活性成分が、下記式(I-1)で表される組成を有する上記1)又は2)に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1Xf1Csg1Zh1Oi1 (I-1)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe、CsおよびOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、セシウムおよび酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、Cs、OおよびX以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Cs、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7.0、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<e1≦5.0、0≦f1≦2.0、0<g1≦3.0、0≦h1≦5.0を満たし、i1は各元素の酸化状態によって決まる値である。)
4)
反応用原料ガスの最も出口側の触媒層に含まれる触媒活性成分が、下記式(I-2)で表される組成を有する上記1)から3)のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
Moa2Bib2Nic2Cod2Fee2Xf2Kg2Zh2Oi2 (I-2)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、FeおよびKはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄およびカリウムを表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、K、OおよびX以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a2、b2、c2、d2、e2、f2、g2、h2、およびi2はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、K、Zおよび酸素の原子数を表し、a2=12としたとき、0<b2≦7.0、0≦c2≦10、0<d2≦10、0<e2≦5.0、0≦f2≦2.0、0≦g2≦3.0、0≦h2≦5.0を満たし、i2は各元素の酸化状態によって決まる値である。)
5)
反応浴温度が310℃以上340℃以下である上記1)から4)のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
6)
反応用原料ガス中のアルケンに対する酸素の体積比率(酸素/アルケン)が1.0以上1.8以下である上記1)から5)のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
7)
前記反応管は、前記触媒層よりも入口側にイナート層を有さない上記1)から6)のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
8)
前記反応管には、ガス流れ方向において3層の触媒層が設けられており、
前記反応管の入口側から数えて1層目と2層目の充填長の和と3層目の充填長との比((1層目の充填長+2層目の充填長)/3層目の充填長)が、1.5以上3.5以下である上記1)から7)のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
9)
前記反応管には、ガス流れ方向において2層以上の触媒層が設けられており、下記(II)、(III)、(IV)式により定義されるakt/aknが1.41以上10.00以下となるように各触媒層の触媒の種類、希釈率および充填長が設定されている、上記1)から8)のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
触媒の反応速度k=-Ln(1-x/100) (II)
触媒層の実質反応速度ak=(当該触媒層の希釈率)×(当該触媒層の充填長)×(当該触媒層の触媒の反応速度k) (III)
akt/akn=(全触媒層の実質反応速度akを足し合わせた数値)/(反応管の最も出口側の触媒層の実質反応速度ak) (IV)
ここでxは触媒を微分系反応器に充填して反応浴温度360℃で前記アルケンの部分酸化反応を実施したときの原料ガス転化率(%)である。
10)
アルケンを部分酸化して対応する不飽和アルデヒドを製造するための不飽和アルデヒドの製造装置であって、
複数の反応管と、前記複数の反応管の温度を調節する反応浴とを備える固定床多管型反応器を含み、
前記反応管には、ガス流れ方向において2層以上の触媒層が設けられており、
不飽和アルデヒドの収率が最高となる反応浴温度をA(℃)、前記収率が最高値より1.0%ポイント低くなる反応浴温度をA1(℃)及びA2(℃)とすると、以下式(1)及び(2)が成り立つ、不飽和アルデヒドの製造装置。
A1 < A < A2 (1)
(A2-A1) ≧ 10 (2)
11)
固定床多管型反応器を用いてアルケンを部分酸化して対応する不飽和アルデヒドを製造する方法であって、
前記固定床多管型反応器は、複数の反応管と、前記複数の反応管の温度を調節する反応浴とを備え、
前記反応管には、ガス流れ方向において2層以上の触媒層が設けられており、
不飽和アルデヒドの収率が最高となる反応浴温度A(℃)において不飽和アルデヒドを製造したときのSf及びStについて、以下式(3)が成り立つ、不飽和アルデヒドの製造方法。
(Sf/St)×100 ≦ 42.0 (3)
ここでSfおよびStは以下の手順(a)~(c)によって定められる。
(a)前記反応管に設けられた前記2層以上の触媒層のガス流れ方向全体にわたってp個(pは2以上の整数)の熱電対を等間隔で配置し、前記熱電対を用いて、反応浴温度A(℃)で不飽和アルデヒドを製造したときの前記反応管内のp個の測定点におけるスポット温度T1j(℃)(jは1~p)を取得する。
(b)前記測定点のそれぞれについて、スポット温度T1j(℃)から反応浴温度A(℃)を減算した値(T1j-A)であるスポット発熱温度T2jを算出する。ただしT1j-Aが負の値になる場合、当該測定点のスポット発熱温度T2jは0とする。
(c)前記反応管内の全ての測定点のスポット発熱温度T2jを合計した値をStとする。最も出口側の触媒層に設けられている測定点のスポット発熱温度T2k(kは1~q、qは最も出口側の触媒層に設けられている測定点の数であり、q<p)を合計した値をSfとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルケンまたはその分子内脱水反応によりアルケン類を生じうるアルコールを原料にして対応する不飽和アルデヒドを製造する場合において、工業プラントにおいても安全に安定して長期にわたって高い収率を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、不飽和アルデヒドの製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、不飽和アルデヒドの製造装置1を示す概略図である。
図1に示すように、製造装置1は、複数の反応管20と、反応浴30とを備える固定床多管式反応器を含む。反応管20の内部には触媒層21、22、23が設けられており、各触媒層には異なる触媒が配置されている。また、反応浴30によって反応管20の温度を調節できる。製造装置1によれば、例えばアルケンを含む反応用の原料ガスを製造装置1の上部から導入し、反応管20に原料ガスを通過させて反応させることで、不飽和アルデヒドを含む反応生成物を得ることができる。
【0018】
[A、A1、A2の関係]
本発明は不飽和アルデヒドの製造方法および製造装置に関し、その実質は触媒層の充填方法に関するものである。すなわち、不飽和アルデヒドの収率が最高となる反応浴温度をA(℃)、前記収率が最高値より1.0%ポイント低くなる反応浴温度をA1(℃)及びA2(℃)とすると、上記式(1)及び(2)が成り立つように触媒を充填する。ここでの収率はモル収率を意味する。なお本明細書においてA、A1、A2は以下のように定義する。
A:不飽和アルデヒドの収率が最高となる反応浴温度
A1、A2:反応浴温度Aにおける不飽和アルデヒドの収率より1.0%ポイント低くなる反応浴温度
そして、A1よりAが高温であり、AよりA2が高温であり、かつ(A2-A1)は10℃以上である。(A2-A1)は、より好ましくは10℃以上30℃以下、さらに好ましくは10℃以上25℃以下、最も好ましくは10℃以上20℃以下である。ここで(A2-A1)は、アクロレイン収率が安定である反応浴温度領域(オペレーションウインドウ)であり、(A2-A1)が大きいほど広い反応浴温度範囲で不飽和アルデヒドを高収率で得ることができ、望ましい。また、収率の最高値(反応浴温度Aにおける収率)は、例えば50%以上であり、好ましくは70%以上である。なお、A1およびA2は実測のアクロレイン収率とBTの関係から算出する必要はなく、BTを変えてアクロレイン収率を測定した一連のデータの内挿または外挿から算出してもよい。A(℃)よりも低い反応浴温度でアクロレイン収率が低下する原因は、原料プロピレンの反応率が低くなることに起因し、A(℃)よりも高い反応浴温度でアクロレイン収率が低下する原因は、アクロレインの逐次酸化反応に代表される二酸化炭素やアクリル酸等の生成に起因する。目的生成物がアクリル酸の場合、本発明の触媒は二段階の酸化反応(プロピレン→アクロレイン→アクリル酸)の一段目に使用され、その場合にはアクロレインとアクリル酸の合計量が重要になることから、反応浴温度が高温になってもアクリル酸の収率は急激には低下しない。したがって目的生成物がアクリル酸の場合、収率が安定である反応浴温度領域が比較的広くなりやすい。逆に、目的生成物がアクロレインの場合には、オペレーションウインドウが比較的狭くなりやすいため、適切に制御するのが難しく、その制御方法は上述したように当業者にとっても公知ではなかったと言える。
式(1)および式(2)を満たすように触媒を充填すると、最も活性の高い出口側触媒におけるホットスポット温度(PTf、単位:℃)が反応浴温度(BT、単位:℃)に対してなだらかに変化(=ΔPTf/ΔBTを低く)でき、より高収率で安全かつ安定的なプラント運転を実現する。また暴走反応を抑制することで、触媒の熱的ストレスも予防し、寿命の長期化も期待される。より詳細に記載すると、わずかな反応浴温度の変化や複数の反応管間の反応浴温度の違いにより、最も活性の高い出口側の触媒上でホットスポットが鋭敏に変化することにより、熱暴走やそれに伴う反応管の破損や爆発を予防できる。さらには、反応器の出口側における発熱量が多いために反応器出口のガス温度が高く、アクロレインの冷炎反応(クールフレーム)が生じることによるアクロレイン収率低下や、アクロレインの自動酸化反応による反応管出口側での炭素状析出物の堆積(コーキングまたはファウリング)、およびそれによる反応管内の閉塞と触媒劣化を抑制できる。
【0019】
[SfとStの関係]
本発明は、反応管のガス流れ方向において2層以上の触媒層を設け、スポット発熱温度に関するSfとStが、上記式(3)を満たす場合が好ましい。ここでSfとStは以下の手順(a)~(c)によって定められる値である。
(a)反応管に設けられた2層以上の触媒層のガス流れ方向全体にわたってp個(pは2以上の整数)の熱電対を等間隔で配置し、熱電対を用いて、反応浴温度A(℃)で不飽和アルデヒドを製造したときの前記反応管内のp個の測定点におけるスポット温度T1
j
(℃)(
jは1~p)を取得する。
(b)測定点のそれぞれについて、スポット温度T1
j
(℃)から反応浴温度A(℃)を減算した値(T1
j
-A)であるスポット発熱温度T2
j
を算出する。ただしT1
j
-Aが負の値になる場合、当該測定点のスポット発熱温度T2
j
は0とする。
(c)反応管内の全ての測定点のスポット発熱温度T2
j
を合計した値をStとする。最も出口側の触媒層に設けられている測定点のスポット発熱温度T2
k
(
kは1~q、qは最も出口側の触媒層に設けられている測定点の数であり、q<p)を合計した値をSfとする。すなわち、StおよびSfはそれぞれ式(5)および式(6)によって定義される。
【数1】
多管式反応器のように間壁の厚みが反応管入口から出口にかけて一定である反応器においては、熱伝導のフーリエの法則より、Sfは最も出口側の触媒層の発熱量の総和を意味しており、Stは全触媒層の発熱量の総和を意味する。すなわち、SfとStが式(3)の関係を満たすとは、最も出口側の触媒層における発熱量が、全触媒層における発熱量の42.0%以下であり、原料ガスが高活性な最も出口側の触媒層にたどり着く前に確実に反応していることを意味する。部分酸化によるアルケンから不飽和アルデヒドへの反応速度は、アルケン分圧に対して一次であることが当業者にとって公知である。すなわち反応器の下層側ほど反応速度および(反応速度に触媒形状や、不活性担体による希釈率の影響を加味した)反応性は下がるため、本反応において多層充填を採用する場合、最も出口側には高活性な触媒を選定することが一般的である。ただ、そのような充填方法の設計において、最も出口側触媒の手前でどの程度アルケンを反応させ、さらに最も出口側触媒の活性をどのように設定すれば本発明の効果が得られるかに関しては、当業者にとって明らかではなかったと言える。なお、Sf/St×100のより好ましい範囲として、下限は好ましい順に1、5、7、9、11、12、13、14、15、16、17、18であり上限は好ましい順に40、37、35、33、31、30、29、28である。すなわちSf/St×100は1以上40以下が好ましく、5以上40以下がより好ましく、7以上40以下がより好ましく、11以上40以下がより好ましく、12以上37以下がより好ましく、13以上35以下がより好ましく、14以上33以下がより好ましく、15以上31以下がより好ましく、16以上30以下がより好ましく、17以上29以下がより好ましく、18以上28以下が最も好ましい。
【0020】
<反応管内温度分布の測定について>
反応管には、触媒が充填された触媒層および/または不活性担体が充填されたイナート層の温度情報を得られるように、深さ方向に所定の間隔で熱電対を挿入する。熱電対の挿入のされ方は、当業者にとって公知な方法であれば限定されないが、例えば、以下が挙げられる。熱電対を挿入する方向は、反応管の深さ方向および/または反応管の深さ方向に垂直な方向であり、熱電対の挿入方法は、反応管と並行に熱電対を直接挿入する方法、および/または熱電対が挿入されるケース(サーモウェル)を挿入し、その内部に熱電対を挿入する方法(すなわち、反応管は二重管構造となる)であり、熱電対の経時的な移動方法は、まったく移動しない固定タイプおよび/または経時的に反応管内の任意の位置に移動するタイプである。
なお、熱電対が挿入される反応管は反応器中の全ての反応管ではなく、一部の反応管であり、数千~数万本の反応管の内、通常5以上100本以下、好ましくは6以上50本以下、さらに好ましくは7以上40本以下、特に好ましくは8以上16本以下の反応管を対象として選択する。また、多管式反応器においてはガスの流れ方向に垂直な平面において分割された複数の区画について、熱電対を挿入する反応管を一部の区画のみから選択しても良いし、全ての区画からなるべく万遍無く選択しても良い。ただし反応器全体の温度を把握する為には、全区画中40%以上の区画から、それぞれ少なくとも1本の反応管が選択された態様が好ましく、より好ましくは60%以上の区画から選択された態様であり、さらに好ましくは75%以上の区画から選択された態様である。なお、本発明において特に断りがない限り、熱電対が挿入された反応管も単に反応管と記載する。
また、深さ方向の熱電対の位置については、特に制限されるものではないが、熱電対を等間隔に配置する方法、または必要に応じ熱電対の間隔を変える方法を採用できる。熱電対を等間隔に配置する場合、Sf、Stを正確に求めるために、測温データは10cm以下の間隔で得ることが好ましい。熱電対の間隔を変える場合、特に本発明の反応のような発熱反応では、ガス入口側の触媒充填層において温度分布は深さ方向に急峻な立ち上がりを示すため、熱電対位置の間隔は狭く、逆にガス出口側の触媒充填層においては熱電対位置の間隔は広くなるよう配置する方法が好ましい。また、選択された複数の反応管全てについて同じ深さ方向の位置で温度情報を測定するよりも、各々の反応管において測定位置を深さ方向にずらして配置した方が、反応器全体の温度分布を把握しやすく好適である。
上記のように熱電対が挿入された反応管の区画や本数、測定点の深さを設定することにより効率的かつ少ない熱電対の本数で、反応管内温度分布の取得が可能となる。
【0021】
[触媒について]
本発明に用いられる触媒は、下記式(I)で表される組成を有する触媒であることが好ましい。
MoaBibNicCodFeeXfYgZhOi (I)
上記式(I)中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、YおよびO以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、e、f、g、h、およびiはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a=12としたとき、0<b≦7.0、0≦c≦10、0<d≦10、0<c+d≦20、0<e≦5.0、0≦f≦2.0、0≦g≦3.0、0≦h≦5.0を満たし、iは各元素の酸化状態によって決まる値である。
【0022】
上記式(1)において、a=12としたときのb~hの好ましい範囲は以下である。
bの下限としては好ましい順に、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70であり、上限としては好ましい順に、6.0、5.0、4.0、3.0、2.0、1.8、1.5、1.2、1.0である。すなわちbは0.10以上6.0以下であることが好ましく、0.10以上5.0以下であることがより好ましく、0.10以上4.0以下であることがより好ましく、0.20以上3.0以下であることがより好ましく、0.30以上2.0以下であることがより好ましく、0.40以上1.8以下であることがより好ましく、0.50以上1.5以下であることがより好ましく、0.60以上1.2以下であることがより好ましく、0.70以上1.0以下であることが最も好ましい。
cの下限としては好ましい順に、0.20、0.50、0.80、1.0、1.5、1.8、2.0、2.5、2.8であり、上限としては好ましい順に、8.0、7.0、6.0、5.0、4.0、3.5、3.3である。すなわちcは0.20以上8.0以下であることが好ましく、0.50以上8.0以下であることがより好ましく、0.80以上8.0以下であることがより好ましく、1.0以上7.0以下であることがより好ましく、1.5以上6.0以下であることがより好ましく、1.8以上5.0以下であることがより好ましく、2.0以上4.0以下であることがより好ましく、2.5以上3.5以下であることがより好ましく、2.8以上3.3以下であることが最も好ましい。
dの下限としては好ましい順に、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0であり、上限としては好ましい順に、9.5、9.0、8.5、8.0、7.5、7.0、6.5、6.3である。すなわちdは1.0以上9.5以下であることが好ましく、1.0以上9.0以下であることがより好ましく、1.0以上8.5以下であることがより好ましく、1.0以上8.0以下であることがより好ましく、2.0以上7.5以下であることがより好ましく、3.0以上7.0以下であることがより好ましく、4.0以上6.3以下であることがより好ましく、5.0以上6.3以下であることが最も好ましい。
c+dの下限としては好ましい順に、0.0、2.0、4.0、6.0、8.0、8.3であり、上限としては好ましい順に、20.0、15.0、12.5、11.0、10.0、9.0である。すなわち、c+dは0.0以上20.0以下であることが好ましく、2.0以上15.0以下であることがより好ましく、4.0以上12.5以下であることがより好ましく、6.0以上11.0以下であることがより好ましく、8.0以上10.0以下であることがより好ましく、8.3以上9.0以下であることが最も好ましい。
eの下限としては好ましい順に、0.10、0.20、0.50、0.80、1.0、1.5、1.6であり、上限としては好ましい順に、4.5、4.0、3.5、3.0、2.5、2.0、1.9である。すなわちeは0.10以上4.5以下であることが好ましく、0.20以上4.0以下であることがより好ましく、0.50以上3.5以下であることがより好ましく、0.80以上3.0以下であることがより好ましく、1.0以上2.5以下であることがより好ましく、1.5以上2.0以下であることがより好ましく、1.6以上1.9以下であることが最も好ましい。
fの上限としては好ましい順に、1.8、1.5、1.0、0.80、0.50であり、下限としては、0が好ましい。すなわちfは、0以上1.8以下であることが好ましく、0以上1.5以下であることがより好ましく、0以上1.0以下であることがより好ましく、0以上0.80以下であることがより好ましく、0以上0.50以下であることがより好ましく、0であることが最も好ましい。
gの下限としては好ましい順に、0.010、0.020、0.030、0.040、0.050、0.060であり、上限としては好ましい順に、2.0、1.0、0.50、0.40、0.30、0.20、0.15、0.090である。すなわちgは0.010以上2.0以下であることが好ましく、0.010以上1.0以下であることがより好ましく、0.010以上0.50以下であることがより好ましく、0.020以上0.40以下であることがより好ましく、0.030以上0.30以下であることがより好ましく、0.040以上0.20以下であることがより好ましく、0.050以上0.15以下であることがより好ましく、0.060以上0.090以下であることが最も好ましい。
hの上限としては好ましい順に、4.0、3.0、2.0、1.8、1.5、1.0、0.80、0.50であり、下限としては、0が好ましい。すなわちhは0以上4.0以下であることがより好ましく、0以上3.0以下であることがより好ましく、0以上2.0以下であることがより好ましく、0以上1.8以下であることがより好ましく、0以上1.5以下であることがより好ましく、0以上1.0以下であることがより好ましく、0以上0.80以下であることがより好ましく、0以上0.50以下であることがより好ましく、0が最も好ましい。
【0023】
式(1)におけるXとしては、タングステン、アンチモン、亜鉛、マグネシウム、セリウムが好ましく、アンチモン、亜鉛が特に好ましい。
式(1)におけるYとしては、ナトリウム、カリウム、セシウムが好ましく、カリウム、セシウムが更に好ましい。
式(1)におけるZとしては、バナジウム、銅、ニオブ、ジルコニウム、カルシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム、鉛、リンが好ましい。
【0024】
[第1層目の触媒]
本発明において、第1層目(反応用原料ガスの最も入口側の触媒層)に含まれる触媒の触媒活性成分は、下記式(I-1)で表される組成を有することが好ましい。なお3層以上の触媒層を設ける場合、最も出口側の触媒層を除くすべての触媒層が式(I-1)で表される組成を有する触媒を含む場合が好ましい。
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1Xf1Csg1Zh1Oi1 (I-1)
式(I-1)中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe、CsおよびOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、セシウムおよび酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、Cs、OおよびX以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Cs、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7.0、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<e1≦5.0、0≦f1≦2.0、0<g1≦3.0、0≦h1≦5.0を満たし、i1は各元素の酸化状態によって決まる値である。
式(I-1)におけるa1=12としたときの好ましいb1~f1、h1、並びにXおよびZは、式(I)のb~f、h、並びにXおよびZと好ましい態様を含め同じである。
g1に関しては、下限としては好ましい順に、0.0010、0.0050、0.010、0.015、0.020、0.030であり、上限としては好ましい順に、2.0、1.0、0.50、0.40、0.30、0.20、0.15、0.090、0.060である。すなわちg1は0.0010以上2.0以下であることが好ましく、0.0010以上1.0以下であることがより好ましく、0.0010以上0.50以下であることがより好ましく、0.0010以上0.40以下であることがより好ましく、0.0050以上0.30以下であることがより好ましく、0.010以上0.20以下であることがより好ましく、0.015以上0.15以下であることがより好ましく、0.020以上0.090以下であることがより好ましく、0.030以上0.060以下であることが最も好ましい。
【0025】
[最も出口側の触媒]
本発明において、最も出口側の触媒層に含まれる触媒の触媒活性成分は、下記式(I-2)で表される組成を有することが好ましい。たとえば3層の触媒層を設ける場合、3層目の触媒層に含まれる触媒活性成分が式(I-2)で表される組成を有する場合が好ましく、更なる多層充填の場合も、最も出口側の触媒層に含まれる触媒活性成分が式(I-2)で表される組成を有する場合が好ましい。
Moa2Bib2Nic2Cod2Fee2Xf2Kg2Zh2Oi2 (I-2)
式中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe、KおよびOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、カリウムおよび酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、K、OおよびX以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a2、b2、c2、d2、e2、f2、g2、h2、およびi2はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、K、Zおよび酸素の原子数を表し、a2=12としたとき、0<b2≦7.0、0≦c2≦10、0<d2≦10、0<e2≦5.0、0≦f2≦2.0、0≦g2≦3.0、0≦h2≦5.0を満たし、i2は各元素の酸化状態によって決まる値である。
式(I-2)におけるa2=12としたときの好ましいb2~f2、h2、X、およびZは、式(I)のb~f、h、X、およびZと好ましい態様を含め同じである。
g2に関しては、下限としては好ましい順に、0.0010、0.0050、0.010、0.015、0.020、0.030であり、上限としては好ましい順に、2.0、1.0、0.50、0.40、0.30、0.20、0.15、0.10である。すなわちg2は0.0010以上2.0以下であることが好ましく、0.0010以上1.0以下であることがより好ましく、0.0010以上0.50以下であることがより好ましく、0.0050以上0.40以下であることがより好ましく、0.010以上0.30以下であることがより好ましく、0.015以上0.20以下であることがより好ましく、0.020以上0.15以下であることがより好ましく、0.030以上0.10以下であることが最も好ましい。
【0026】
[充填方法]
上記A、A1、A2の関係を調整する方法、St、Sfの関係を調整する方法としては、(1)各触媒層の相対活性を制御する方法、(2)各触媒層の粒径を制御する方法、(3)反応管出口側に不活性物質層を設ける方法、(4)反応管の触媒層入口側におけるガス温度を高く設定する方法等種々の方法が考えられ、これらを単独または組み合わせて使用することも可能である。
(1)各触媒層の相対活性を制御する方法では、触媒を微分系反応器に充填し特定のBTで得られた原料ガス転化率xを、積分形の反応速度式より反応速度を算出する。例えばプロピレンの酸化反応では、プロピレン濃度に対して一次の速度式であることから、以下式(II)により本反応の反応速度kが算出される。
k=-Ln(1-x/100) (II)
ここで、kは本反応の反応速度(無単位)、Lnは自然対数、xはプロピレン転化率(単位:%)である。
次に、この方法で同条件にて各触媒層の反応速度を計算した後、プラントにおける各触媒層の実質反応速度akを以下式(III)より算出する。
ak=(当該触媒層の希釈率)×(当該触媒層の充填長)×(当該触媒層の触媒の反応速度k) (III)
ここで、希釈率とは後述する不活性物質による希釈率と同義であり、充填長とは単位:cmで示した充填された触媒層の長さである。なお、充填長は設計値ではなく実測値を用いるのが好ましい。プラントにおいては、反応管が複数本ある場合が多いため、その一部の計測結果から得られる平均値を用いることもできる。例えば反応管上部から触媒を下部に向けて順に充填していき、その各層の上部の空間長さをメジャーなどを用い計測することで算出できる。
こうして算出した各層のakより、以下式(IV)によりakt/aknを算出する。akt/aknの好ましい数値範囲として、下限は好ましい順に1.41、1.42、1.43、1.44、1.45であり、上限は好ましい順に10.00、7.50、5.00、4.00、3.00、2.75、2.65、2.55、2.50となる。すなわちakt/aknは1.41以上10.00以下であることが好ましく、1.41以上7.50以下であることがより好ましく、1.41以上5.00以下であることがより好ましく、1.41以上4.00以下であることがより好ましく、1.41以上3.00以下であることがより好ましく、1.42以上2.75以下であることがより好ましく、1.42以上2.65以下であることがより好ましく、1.42以上2.55以下であることがより好ましく、1.45以上2.50以下であることが最も好ましい。
akt/akn=(全触媒層の実質反応速度akを足し合わせた数値)÷(反応管の最も出口側の触媒層の実質反応速度ak) (IV)
なお、上述の原料ガス転化率xは本発明においては以下の方法により算出する。内径28.4mmの反応管に触媒4g分を、ホットスポットが発生しないよう不活性物質で希釈した状態で充填し、プロピレン:酸素:窒素:水=1:1.7:6.4:3.0のモル比率で、プロピレンの空間速度(GHSV)=400hr-1となるよう反応浴温度360℃にて反応させる。校正されたガスクロマトグラフィーにより出口のプロピレン流量を算出し、以下式によりプロピレン転化率xを算出する。
x=100-出口のプロピレンガス流量÷入口のプロピレンガス流量×100
(2)各触媒層の粒径を制御する方法では、反応管の最も出口側の触媒層の触媒粒径が、その他の触媒層の触媒粒径と比較し異なっていればよく、大きくても小さくてもよい。反応管の出口側触媒の粒径が大きい場合、出口側でガスの滞留が低減される結果、目的生成物の収率が上がり、その副次効果としてオペレーションウインドウを広く調整できる。また反応管の出口側触媒の粒径が小さい場合、入口側で圧力および反応速度が上昇し、入口側で反応を着実に進行させるため、オペレーションウインドウを広く調整できる。これらの効果は、反応管内の圧力設定や反応浴温度、反応管の内径、入口ガスモル比、およびプロピレン濃度によって異なるため、各条件にしたがって適切に各触媒層の粒径を制御すべきである。たとえば、反応管内の圧力が高い、および/または反応浴温度が低い、および/または反応管の内径が大きい、および/または入口プロピレン濃度が低い場合は、各触媒層の粒径は大きくする方が好ましく、特に反応管入口側の触媒層の粒径を大きくするのが好ましい。またその粒径比(反応管の最も出口側の触媒層の触媒粒径÷その他の触媒層の触媒粒径)の好ましい範囲として、下限は好ましい順に0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、1.00であり、上限は好ましい順に1.50、1.40、1.30、1.20、1.10である。すなわち当該粒径比は0.50以上1.50以下であることが好ましく、0.60以上1.50以下であることがより好ましく、0.70以上1.40以下であることがより好ましく、0.80以上1.30以下であることがより好ましく、0.90以上1.20以下であることがより好ましく、1.00以上1.10以下が最も好ましい。触媒層を3層以上設ける場合、最も出口側の触媒層以外の各触媒層の充填長によって重みづけした触媒粒径の加重平均を「その他の触媒層の触媒粒径」とする。
(3)反応管出口側に不活性物質層を設ける方法では、触媒層よりも出口側に不活性物質層を設けることで特に反応管入口側の圧力が上昇し、反応管入口側で反応を着実に進行させることができる。出口側不活性物質の充填長は、原料負荷や反応管径により異なるが、たとえば5cm以上、好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上、最も好ましくは30cm以上である。出口側不活性物質の充填長は、例えば50cm以下であってもよい。
(4)反応管の入口側におけるガス温度を高く設定する方法では、入口ガス温度を高くすることにより反応管入口側で触媒が容易に活性化され、反応を着実に進行させることができる。入口ガス温度としては好ましい順に、150℃以上、200℃以上、250℃以上、270℃以上、290℃以上、300℃以上、310℃以上、320℃以上、330℃以上、340℃以上である。入口ガス温度は、例えば360℃以下であってもよい。
【0027】
[触媒層の充填長について]
上記方法のうち(1)において触媒層の充填長を調整する方法について、触媒層の充填長を以下のように定義した上で詳述する。
Ln:反応管のガス流れ方向においてn層の触媒層を設けた際の、反応管ガス入口側から数えてn層目の充填長
L:反応管ガス入口側から数えて1層目からn-1層目までの合計の充填長
L/Lnが1.5以上3.5以下である場合が好ましい充填方法である。さらに触媒層が上述の触媒組成を有することがより好ましい。このL/Lnの更に好ましい上限としては、3.4、3.3、3.2、3.1であり、特に好ましくは、3.0である。また好ましい下限としては1.6、1.7、1.8、1.9であり、特に好ましくは2.0である。従って、L/Lnは1.6以上3.4以下が好ましく、1.7以上3.3以下がより好ましく、1.8以上3.2以下がより好ましく、1.9以上3.1以下がより好ましく、2.0以上3.0以下であることが最も好ましい。
また、触媒層の分割数nについては、好ましくは2~5層であり、さらに好ましくは2~4層であり、特に好ましくは2~3層であり、最も好ましくは3層である。
【0028】
本発明に用いる触媒層に含まれる触媒の形状は、特に制限されるものではなく、球状、円柱状、リング状、粉末状等を用いることができるが、特に好ましくは球状である。
【0029】
なお、2層充填の場合には、上層に含まれる触媒、下層に含まれる触媒共に不活性物質を用いて希釈したものであっても良いが、上層、下層ともに希釈しない方法がより好ましい。
【0030】
不活性物質による希釈率として、好ましい範囲を以下に記載する。ここでいう希釈率とは、触媒と不活性物質とにより構成される触媒層のうち触媒が占有する質量比率を示す数値であり、例えば触媒層が80質量%希釈とは触媒が80質量%、不活性物質が20質量%であることを意味する。なお、後述する触媒の製造方法において説明するように、触媒活性成分を不活性担体に担持して触媒とした場合は、不活性担体を含めた触媒の質量を基に希釈率を算出する。以下、n=2または3の場合を例に、好ましい形態を記載するが、本発明はこれに限定されるものでは無い。
【0031】
本発明における触媒層の充填方法として好ましい態様は、下記1)~2)である。
1)n=2であり、上層が式(I-1)で表される触媒活性成分を含む触媒であり、希釈率が100質量%である。下層が式(I-2)で表される触媒活性成分を含む触媒であり、希釈率が100質量%である。
2)n=3であり、中層が式(I-1)で表される組成を有する触媒活性成分を含む触媒であり、希釈率が100質量%である。上層が中層と同じ触媒を不活性物質で希釈した触媒であり、希釈率が60質量%以上100質量%未満である。下層が式(I-2)で表される組成を有する触媒活性成分を含む触媒であり、希釈率が100質量%である。
【0032】
また、反応管の触媒層よりも入口側に不活性物質層(イナート層)を設ける充填方法もあり、本発明の効果を阻害しない限り、当該充填方法を採用しても良い。ただし本発明においては、反応管の触媒層よりも入口側にイナート層を有さないことが好ましい。
【0033】
上記不活性物質としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカアルミナ、炭化ケイ素、炭化物、およびこれらの混合物など公知の物質が挙げられる。このうち、好ましくはシリカ、アルミナ、またはこれらの混合物であり、特に好ましくはシリカ、アルミナであり、最も好ましくはシリカとアルミナの混合物である。
また、不活性物質の形状は、特に制限はないが球状であるものが好ましい。不活性物質の平均粒子径は3mm~10mmが好ましく、3.5mm~9mmがさらに好ましく、4mm~8mmが特に好ましい。
【0034】
[触媒の製造方法について]
本発明に用いる触媒は、例えば下記工程a)~e)によって製造することができる。
<工程a) 調合>
一般に触媒活性成分を構成する各元素の出発原料は特に制限されるものではない。モリブデン成分原料としては三酸化モリブデンのようなモリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウムのようなモリブデン酸又はその塩、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸のようなモリブデンを含むヘテロポリ酸又はその塩などを用いることができる。好ましくはモリブデン酸アンモニウムを使用した場合で、これにより高性能な触媒を得ることができる。特にモリブデン酸アンモニウムには、ジモリブデン酸アンモニウム、テトラモリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム等、複数種類の化合物が存在するが、その中でもヘプタモリブデン酸アンモニウムを使用した場合が最も好ましい。
【0035】
ビスマス成分原料としては硝酸ビスマス、次炭酸ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマスなどのビスマス塩、三酸化ビスマス、金属ビスマスなどを用いることができる。好ましくは硝酸ビスマスであり、これを使用した場合に高性能な触媒が得られる。鉄、コバルト、ニッケル及びその他の元素の原料としては通常は酸化物あるいは強熱することにより酸化物になり得る硝酸塩、炭酸塩、有機酸塩、水酸化物等又はそれらの混合物を用いることができる。例えば、鉄成分原料とコバルト成分原料及び/又はニッケル成分原料を所望の比率で10~80℃の条件下にて水に溶解混合し、20~90℃の条件下にて別途調合されたモリブデン成分原料およびZ成分原料水溶液もしくはスラリーと混合し、20~90℃の条件下にて1時間程度加熱撹拌した後、ビスマス成分原料を溶解した水溶液と、必要に応じX成分原料、Y成分原料とを添加して触媒成分を含有する水溶液またはスラリーを得る。以降、このようにして得た水溶液またはスラリーをまとめて調合液(A)と称する。
【0036】
ここで、調合液(A)は必ずしもすべての触媒活性成分構成元素を含有する必要は無く、その一部の元素または一部の量を以降の工程で添加してもよい。また、調合液(A)を調合する際に各成分原料を溶解する水の量や、溶解のために硫酸や硝酸、塩酸、酒石酸、酢酸などの酸を加える場合には、原料が溶解するのに十分な水溶液中の酸濃度が、例えば5質量%~99質量%の範囲で調合に適していないと、調合液(A)の形態が粘土状の塊となる場合がある。この場合では、優れた触媒が得られない。調合液(A)の形態としては水溶液またはスラリーが、優れた触媒が得られるため、好ましい。
【0037】
<工程b) 乾燥>
次いで上記で得られた調合液(A)を乾燥し、乾燥粉体とする。乾燥方法は、調合液(A)を完全に乾燥できる方法であれば特に制限はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固等が挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリーから短時間に粉体又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリーの濃度、送液速度等によって異なるが概ね乾燥機の出口における温度が70~150℃である。また、この際得られる乾燥粉体の平均粒径が10~700μmとなるよう乾燥するのが好ましい。こうして乾燥粉体(B)を得る。
【0038】
<工程c) 予備焼成>
得られた乾燥粉体(B)は空気流通下で200℃から600℃で、好ましくは300℃から600℃で焼成することで触媒の成型性、機械的強度、触媒性能が向上する傾向がある。焼成時間は1時間から12時間が好ましい。こうして予備焼成粉体(C)を得る。
【0039】
<工程d) 成型>
成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いた方法が好ましい。さらに好ましくは、球状に成型する場合であり、成型機で予備焼成粉体(C)を球形に成型しても良いが、予備焼成粉体(C)(必要により成型助剤、強度向上剤を含む)を不活性なセラミック等の担体に担持させる方法が好ましい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート方法等が広く知られている。予備焼成粉体(C)が担体に均一に担持できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率や調製される触媒の性能を考慮した場合、より好ましくは固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内にチャージされた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに予備焼成粉体(C)並びに必要により、成型助剤及び/または強度向上剤を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法が好ましい。こうして成型体(D)を得る。
【0040】
尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。用いうるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニルアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等がより好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能な触媒が得られ、具体的にはグリセリンの濃度5質量%以上の水溶液を使用した場合に特に高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成粉体(C)100質量部に対して通常2~80質量部である。不活性担体は、通常、直径2~8mm程度のものを使用し、これに予備焼成粉体(C)を担持させる。その担持率は触媒使用条件、たとえば反応原料の空間速度、原料濃度などの反応条件を考慮して決定されるものであるが、通常20質量%から80質量%である。ここで担持率は以下の式(4)で定義される。
【0041】
担持率(質量%)=100×〔成型に使用した予備焼成粉体(C)の質量/(成型に使用した予備焼成粉体(C)の質量+成型に使用した不活性担体の質量)〕 (4)
【0042】
<工程e) 本焼成>
工程d)により得られた成型体(D)は200~600℃の温度で1~12時間程度焼成することで触媒活性、選択性が向上する傾向にある。焼成温度は400℃以上600℃以下が好ましく、500℃以上600℃以下がより好ましい。流通させるガスとしては空気が簡便で好ましいが、その他に不活性ガス、還元雰囲気にするためのガスおよびそれらの混合物を使用することも可能である。不活性ガスの例としては窒素や二酸化炭素が挙げられる。還元雰囲気にするためのガスの例としては窒素酸化物含有ガス、アンモニア含有ガス、水素ガスが挙げられる。こうして触媒(E)を得る。
【0043】
[原料中のアルケンの濃度]
本発明におけるアルケンの接触気相酸化反応は、原料ガス組成として6~12容量%のアルケン(より好ましくは6~10容量%)、5~18容量%の分子状酸素、0~60容量%の水蒸気及び20~70容量%の不活性ガス、例えば窒素、炭酸ガスなどからなる混合ガスを前記のようにして調製された触媒上に250~450℃の温度範囲及び常圧~10気圧の圧力下、好ましくは常圧~5気圧下、より好ましくは常圧から3気圧下で、0.5~10秒の接触時間で導入することによって行われる。
また、原料ガス中のアルケンに対する酸素の体積比率(酸素/アルケン)が1.0以上1.8以下である場合が好ましい。酸素/アルケンのより好ましい上限は順に、1.7、1.6でありより好ましくは1.5である。またより好ましい下限は順に1.1、1.2、1.3である。以上から酸素/アルケンは1.1以上1.7以下がより好ましく、1.2以上1.6以下がさらに好ましく、1.3以上1.5以下が最も好ましい。
【0044】
なお、本発明において、アルケンとは、その分子内脱水反応においてアルケンを生じるアルコール類、例えばターシャリーブチルアルコールも含めるものとする。アルケンなどの反応基質の触媒体積に対する空間速度(反応基質供給速度(NL/hr)/触媒充填空間容積(L))は高い方が生産効率の点から好ましいが、あまり高くなると目的生成物の収率が低下したり、触媒の寿命が短縮したりする場合がある。したがって実際上は、反応基質の触媒体積に対する空間速度は40~200hr-1が好ましく、より好ましくは60~180hr-1の範囲である。ここでNLは反応基質の標準状態における容積を表す。また、アルケンの転化率としては、高いアクロレイン収率が得られる転化率付近が好ましく、通常は90~99.9%、好ましくは95~99.5%、より好ましくは96~99%である。
【0045】
あまりにも反応ガス出口側の触媒層を短くすると、触媒層全体の活性が低下することによって常用の原料転化率を得て目的生成物を得るために必要な反応浴温度が上昇し過ぎてしまう場合がある。反応浴温度が高くなりすぎると、ホットスポットが高温になり触媒の劣化や性能低下を生じる可能性がある。また場合によってはガス入口側触媒の早期劣化によって、ガス出口側の高活性な触媒層に高温のホットスポットを生じさせ、目的生成物の選択率および収率の急激な低下を引き起こす可能性もある。そのためガス入口側とガス出口側の触媒のバランスを考慮し、出口側の触媒層を短くし過ぎて触媒層全体の活性が低下し、反応浴温度が過度に上昇しないようにすることも必要である。反応浴温度は触媒の特性や、使用条件、必要とする触媒寿命などにより適宜設定されるため一概には言えないが、反応初期の反応浴温度としては350℃以下が好ましく、340℃以下がより好ましい。また下限としては、300℃以上であり、より好ましくは310℃以上である。すなわち反応初期の反応浴温度は300℃以上350℃以下が好ましく、310℃以上340℃以下がより好ましい。なお、反応浴温度とは設定温度であり、適切な原料転化率を得る為に設定される温度である。
【0046】
工業プラントにおいて、上記のような製造方法を実施することにより不飽和アルデヒドの収率を改善し、かつ高活性なガス出口側の暴走を抑制することができる。これにより、長期にわたり高い収率を維持しつつ安定して工業プラントを運転することが可能となる。この効果は、比較的選択率の高い触媒層の占有率が比較的活性の高い触媒層の占有率を上回ることで反応への高選択な触媒の寄与が高まることに起因すると考えられる。
【実施例】
【0047】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明についてさらに説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
なお以下において、アクロレイン収率の定義は、次の通りである。
アクロレイン収率(モル%)
=(生成したアクロレインのモル数/供給したプロピレンのモル数)×100
【0049】
[製造例 (触媒の調製)]
(触媒A1)
蒸留水3000質量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム423.7質量部と硝酸カリウム0.73質量部を溶解して水溶液(調合液1)を得た。別に、硝酸コバルト378.4質量部、硝酸ニッケル139.6質量部、硝酸第二鉄161.6質量部を蒸留水1000質量部に溶解して水溶液(調合液2)を、また、濃硝酸81質量部を加えて酸性にした蒸留水200質量部に硝酸ビスマス97.1質量部を溶解して水溶液(調合液3)をそれぞれ調製した。上記調合液1に調合液2、調合液3を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液を、スプレードライヤーを用いて乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.0:2.0:6.5:3.0:0.050であった。その後、予備焼成粉末100質量部に結晶セルロース5質量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に、上記式(4)で定義される担持率が50質量%になるように、成型に使用する担体質量および予備焼成粉末質量を調整した。20質量%グリセリン水溶液をバインダーとして使用し、直径5.20mmの球状に担持成型して担持触媒を得た。この担持触媒を、焼成温度530℃で、4時間空気雰囲気下で焼成することで触媒A1を得た。触媒A1の活性を以下の通り評価した。内径28.4mmの反応管に触媒4g分を、蓄熱しないよう不活性物質で希釈した状態で充填し、プロピレン:酸素:窒素:水=1:1.7:6.4:3.0のモル比率で、プロピレンの空間速度(GHSV)=400hr-1となるよう反応浴温度360℃にて反応させた。校正されたガスクロマトグラフィーにより出口のプロピレン流量を算出し、プロピレン転化率xを算出した。これに基づいて上記の式(II)により算出された触媒A1の反応速度kは0.63であった。
(触媒B1)
触媒A1の製造において原料の硝酸カリウムを硝酸セシウムに変更した以外は同様の方法で、原子比でMo:Bi:Fe:Co:Ni:Cs=12:1.0:2.0:6.5:3.0:0.030である予備焼成粉末を得た。その後の工程も触媒A1の製造と全く同様にして、直径5.20mmの触媒B1を得た。触媒B1の反応速度kは0.35であった。
(触媒B2)
触媒B1の製造で得られた予備焼成粉末を、不活性担体としてアルミナ、シリカを主成分とする直径4.0mmの球状物質を用い、担持率が60質量%になるよう成形した以外は、触媒B1と全く同様にして、直径5.00mmの触媒B2を得た。触媒B2の反応速度kは0.43であった。
(触媒C1)
触媒A1の製造において、原料の配合を変え、原子比でMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.8:1.9:5.0:2.6:0.090である予備焼成粉末を得た。この予備焼成粉末を、不活性担体としてアルミナ、シリカを主成分とする直径4.4mmの球状物質を用い、担持率が40質量%になるよう成形した以外は、触媒A1と全く同様にして、直径4.80mmの触媒C1を得た。触媒C1の反応速度kは0.42であった。
(触媒D1)
触媒A1の製造において、調合工程のうち調合液2の投入前に60wt%の硝酸を投入して調合液のpHを4.0に調整し、さらに原料の配合を変え、原子比でMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:0.6:2.1:5.7:3.0:0.090である予備焼成粉末を得た。この予備焼成粉末を、触媒A1の製造と全く同様にして、直径5.30mmの触媒D1を得た。触媒D1の反応速度kは0.62であった。
(触媒E1)
触媒A1の製造において、原料の配合を変え、原子比でMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:0.8:2.1:6.6:2.2:0.040である予備焼成粉末を得た。この予備焼成粉末を、触媒A1の製造と全く同様にして、直径5.40mmの触媒E1を得た。触媒E1の反応速度kは0.60であった。
【0050】
[実施例1]
熱媒体として溶融塩を循環させるジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径25mmのステンレス製反応器に外径3mmの熱電対用温度鞘を設置し、原料ガス入口側よりガス出口方向へ向かって、上層(原料ガス入口側)として、触媒B1とシリカアルミナ混合物不活性球状担体とを質量比70:30で混合した希釈触媒(70質量%希釈、以下同様に算出)を120cm、中層として無希釈の触媒B1を120cm、下層として無希釈の触媒A1を160cm、それぞれ充填した。akt/aknは1.71であった。これにより触媒層を3層構成とした。反応浴温度を315℃にし、原料モル比率が、プロピレン:酸素(供給される空気中に含まれる酸素):水:窒素(空気とは別に供給される窒素)=1:1.4:1.4:1.6となるようにプロピレン、空気、水、窒素の供給量を設定した。当該供給原料をプロピレンの空間速度が190hr-1となるよう流通させ、全ガス流通時における反応管出口側の圧力が110kPaGとなるようにして反応開始後300時間経過した後、反応浴温度を変化させて、プロピレンの酸化反応を実施した。反応浴温度を変化させて反応成績を調べた結果を表1に示す。各触媒層のピーク温度は、所定の間隔(本実施例では5cm間隔)で温度を測定して得た反応管内の温度プロファイルの中で、各触媒層において最も温度が高い位置の温度を意味する。なお、表1中のA1およびA2において各層のピーク温度や反応成績がない行は、A1およびA2が実測データの内挿または外挿により算出された計算値であることを意味する(以降も同様)。また、アクロレイン収率が最高であるBT330℃におけるSf/Stの算出過程を表1-2に示す。
【0051】
【0052】
【表1-2】
1層目のスポット発熱温度の総和=935、2層目のスポット発熱温度の総和=983、3層目のスポット発熱温度の総和=837より、Sf/Stは837÷(935+983+837)×100=30.4となる。
【0053】
[実施例2]
上層(原料ガス入口側)として、触媒B1とシリカアルミナ混合物不活性球状担体とを質量比80:20で混合した希釈触媒を120cm、中層として無希釈の触媒B1を120cm、下層として無希釈の触媒A1を160cm、それぞれ充填した(akt/akn=1.75)以外は実施例1と全く同様に反応を開始し、反応成績を調べた。結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
[実施例3]
上層(原料ガス入口側)として、触媒B1とシリカアルミナ混合物不活性球状担体とを質量比70:30で混合した希釈触媒を120cm、中層として無希釈の触媒B1を180cm、下層として無希釈の触媒A1を100cm、それぞれ充填した(akt/akn=2.47)。また反応条件として原料モル比率が、プロピレン:酸素(供給される空気中に含まれる酸素):水:窒素(空気とは別に供給される窒素)=1:1.4:1.4:1.6となるようにプロピレン、空気、水、窒素の供給量を設定した。当該供給原料をプロピレンの空間速度が130hr-1となるよう流通させ、全ガス流通時における反応管出口側の圧力が85kPaGとした以外は、実施例1と全く同様に反応を開始し、反応成績を調べた。結果を表3に示す。
【0056】
【0057】
[実施例4]
内径27mmのステンレス製反応器に外径6mmの熱電対用温度鞘を挿入し、原料ガス入口側より直径5.2mmのシリカアルミナ球を15cm充填した。上層(原料ガス入口側)として、触媒B1とシリカアルミナ混合物不活性球状担体とを質量比85:15で混合した希釈触媒を77cm、中層として無希釈の触媒B1を77cm、下層として無希釈の触媒A1を176cm、それぞれ充填した(akt/akn=1.45)。また反応条件として原料モル比率が、プロピレン:酸素(供給される空気中に含まれる酸素):水:窒素(空気とは別に供給される窒素)=1:1.7:1:2.4となるようにプロピレン、空気、水、窒素の供給量を設定した。当該供給原料をプロピレンの空間速度が100hr-1となるよう流通させ、全ガス流通時における反応管出口側の圧力が35kPaGとした以外は、実施例1と全く同様に反応を開始し、反応成績を調べた。結果を表4に示す。
【0058】
【0059】
[実施例5]
内径21mmのステンレス製反応器に外径3mmの熱電対用温度鞘を挿入し、原料ガス入口側より直径5.2mmのシリカアルミナ球を20cm充填した。上層(原料ガス入口側)として、無希釈の触媒C1を200cm、下層として無希釈の触媒D1を150cm、それぞれ充填した(Akt/akn=1.89)。また反応条件として原料モル比率が、プロピレン:酸素(供給される空気中に含まれる酸素):水:窒素(空気とは別に供給される窒素)=1:1.75:0.6:4.35となるようにプロピレン、空気、水、窒素の供給量を設定した。当該供給原料をプロピレンの空間速度が180hr-1となるよう流通させ、全ガス流通時における反応管出口側の圧力が90kPaGとした以外は、実施例1と全く同様に反応を開始し、反応成績を調べた。結果を表5に示す。
【0060】
【0061】
[比較例1]
上層(原料ガス入口側)として、触媒B1とシリカアルミナ混合物不活性球状担体とを質量比75:25で混合した希釈触媒を75cm、中層として無希釈の触媒B1を75cm、下層として無希釈の触媒A1を250cm、それぞれ充填した(akt/akn=1.29)以外は実施例1と全く同様に反応を開始し、反応成績を調べた。結果を表6に示す。
【0062】
【0063】
[比較例2]
上層(原料ガス入口側)として、触媒B2とシリカアルミナ混合物不活性球状担体とを質量比85:15で混合した希釈触媒を75cm、中層として無希釈の触媒B2を75cm、下層として無希釈の触媒E1を250cm、それぞれ充填した(akt/akn=1.40)以外は実施例1と全く同様に反応を開始し、反応成績を調べた。結果を表7に示す。
【0064】
【0065】
[比較例3]
上層(原料ガス入口側)として、触媒B1とシリカアルミナ混合物不活性球状担体とを質量比85:15で混合した希釈触媒を75cm、中層として無希釈の触媒B1を75cm、下層として無希釈の触媒A1を250cm、それぞれ充填した(akt/akn=1.31)以外は実施例1と全く同様に反応を開始し、反応成績を調べた。結果を表8に示す。
【0066】
【0067】
これまでの結果をまとめると表9の通りとなる。表9より、オペレーションウインドウ(A2-A1)を広く取ることにより、ΔPTf/ΔBTは有意に下がることが分かる。特にプロピレンからアクロレインを製造する方法において、上述の反応器およびプロセスの制約の中でプラントの安定運転につながり有益である。同様に、アクロレイン収率が最高となる反応浴温度におけるSf/Stを特定の数値より低くすることにより、ΔPTf/ΔBTは有意に下がることが分かる。このようにオペレーションウインドウやSf/Stを、上述の通りakt/aknにより制御できていることが分かる。
【0068】
【0069】
本出願は、2022年10月12日出願の日本特許出願2022-163792に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によって、不飽和アルデヒド製造プラントにおける収率改善と反応暴走抑制効果を実現することができる。これにより長期にわたり、工業プラントで安定した収率を維持するとともに安定した運転が可能となる。