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特許7551029コーティング被膜、物品及びコーティング被膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】コーティング被膜、物品及びコーティング被膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20240906BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20240906BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20240906BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240906BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240906BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/14
C09D5/16
C09D7/61
C09D7/65
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024508040
(86)(22)【出願日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2023037215
【審査請求日】2024-02-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】南出 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 育弘
(72)【発明者】
【氏名】小山 夏実
(72)【発明者】
【氏名】安藤 圭理
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-348538(JP,A)
【文献】特開2016-089147(JP,A)
【文献】特開2005-023171(JP,A)
【文献】特開2003-342498(JP,A)
【文献】特開2003-342527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
12nm~250nmの平均粒径を有し、針状、鱗片状、鎖状又は数珠状をなす異形シリカ粒子と、
50nm~500nmの平均粒径を有する疎水性樹脂粒子と、
棒状、針状又は繊維状の結晶性を有し、且つ、結晶の長さが1μm以上10mm以下、結晶の太さが0.1μm以上15μm以下である難水溶性の抗カビ粒子、または3μm以下の粒径を有する難水溶性の抗カビ粒子と、
均一に分散された水溶性塩と、
を備えるコーティング被膜。
【請求項2】
前記異形シリカ粒子と、前記疎水性樹脂粒子との重量比が70:30~95:5である
請求項1記載のコーティング被膜。
【請求項3】
前記疎水性樹脂粒子がフッ素樹脂である
請求項1又は2記載のコーティング被膜。
【請求項4】
前記抗カビ粒子が、ベンゾイミダゾール系又はヨウ素系の抗カビ剤からなる水への溶解度が0.1%以下である
請求項1又は2記載のコーティング被膜。
【請求項5】
前記抗カビ粒子が、IPBCである
請求項1又は2記載のコーティング被膜。
【請求項6】
前記抗カビ粒子が、棒状の結晶性を有し、短径と長径との比率が1.2以上である
請求項1又は2記載のコーティング被膜。
【請求項7】
前記水溶性塩は、ケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム又は塩化ナトリウムである
請求項1又は2記載のコーティング被膜。
【請求項8】
請求項1又は2記載のコーティング被膜
を備える物品。
【請求項9】
基材に、水溶性塩又は水溶性塩の前駆体を含む水溶液を塗布する工程と、
前記水溶液を塗布した後に、少なくとも12nm~250nmの平均粒径を有し、針状、鱗片状、鎖状又は数珠状をなす異形シリカ粒子と、50nm~500nmの平均粒径を有する疎水性樹脂粒子と、棒状、針状又は繊維状の結晶性を有し、且つ、結晶の長さが1μm以上10mm以下、結晶の太さが0.1μm以上15μm以下である難水溶性の抗カビ粒子、または3μm以下の粒径を有する難水溶性の抗カビ粒子と、を含有する水系のコーティング組成物を塗布する工程と、
前記コーティング組成物を塗布した後に、自然乾燥を含む乾燥を行う工程と、
を備えるコーティング被膜の製造方法。
【請求項10】
12nm~250nmの平均粒径を有し、針状、鱗片状、鎖状又は数珠状をなす異形シリカ粒子と、50nm~500nmの平均粒径を有する疎水性樹脂粒子と、棒状、針状又は繊維状の結晶性を有し、且つ、結晶の長さが1μm以上10mm以下、結晶の太さが0.1μm以上15μm以下である難水溶性の抗カビ粒子、または3μm以下の粒径を有する難水溶性の抗カビ粒子と、を含有する水系の混合液と、
水溶性塩又は水溶性塩の前駆体を含む水溶液とを、
基材に塗布する直前に混合してコーティング組成物を製造する工程と、
前記基材に前記コーティング組成物を塗布する工程と、
前記コーティング組成物を塗布した後に、自然乾燥を含む乾燥を行う工程と、
を備えるコーティング被膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基材等に形成されるコーティング被膜、物品及びコーティング被膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室内空間において、例えば冷凍庫又は冷蔵庫からの冷輻射によって、冷凍庫又は冷蔵庫の周辺の天井又は壁が冷やされ、室外から流れ込んだ暖気と相まって、結露が生じ易くなる場合がある。また、エアコンの吹き出し口付近の天井又は壁に、結露又は汚れが生じている光景もよく目にする。このような場所では、結露の水分又は汚れを栄養としてカビが発生し易くなるため、近年の清潔性の要求の高まりから、カビの発生を抑制する対策が求められる。
【0003】
カビの発生を抑制する対策として、結露、汚れ、及びそれらを起因とするカビに対して、結露環境を生じさせないように空調能力を最適化する技術が開発されている。特許文献1には、天井材である石膏ボードに、非水溶性の抗カビ剤を含有させる方法が開示されている。また、特許文献2には、光触媒性酸化物と疎水性樹脂エマルジョンとシリカ粒子とからなる水系コーティング剤を用いることによって、防汚性及び抗菌性を付与する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5520603号公報
【文献】特開2005-105053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、それぞれの室内空間において空調能力を最適化するためには、設計に時間及びコストを要し、環境及び機器の制約から確実な効果を得ることができない場合がある。また、特許文献1のように、天井材に抗カビ性石膏ボードを用いるためには、既存の天井に対して大掛かりな施工となってコストがかさむ。更に、特許文献2のように、光触媒を利用した機能性コーティング剤は、暗部での効果に限定される。既存の天井、壁又はそのほかの物品に対して、結露、汚れ、及びそれらを起因とするカビが発生することを抑制することが求められている。
【0006】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、既存の天井、壁又はそのほかの物品に対して、結露、汚れ、及びそれらを起因とするカビが発生することを抑制するコーティング被膜、物品及びコーティング被膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るコーティング被膜は、12nm~250nmの平均粒径を有し、針状、鱗片状、鎖状又は数珠状をなす異形シリカ粒子と、50nm~500nmの平均粒径を有する疎水性樹脂粒子と、棒状、針状又は繊維状の結晶性を有し、且つ、結晶の長さが1μm以上10mm以下、結晶の太さが0.1μm以上15μm以下である難水溶性の抗カビ粒子、または3μm以下の粒径を有する難水溶性の抗カビ粒子と、均一に分散された水溶性塩と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、既存の天井、壁又はそのほかの物品に対して、結露、汚れ、及びそれらを起因とするカビが発生することを抑制することができる。更に、水溶性塩によって、膜中の自由水を軽減することができるため、カビの生育を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係るコーティング被膜を示す断面模式図である。
図2】実施の形態1に係る鎖状の異形シリカ粒子を示す模式図である。
図3】実施の形態1に係る数珠状の異形シリカ粒子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示のコーティング被膜、物品及びコーティング被膜の製造方法の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本開示は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。また、図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、以下の説明において、本開示の理解を容易にするために方向を表す用語を適宜用いるが、これは本開示を説明するためのものであって、これらの用語は本開示を限定するものではない。方向を表す用語としては、例えば、「上」、「下」、「右」、「左」、「前」又は「後」等が挙げられる。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るコーティング被膜5を示す断面模式図である。図1に示すように、物品10に形成されたコーティング被膜5は、異形シリカ粒子2と、疎水性樹脂粒子3と、抗カビ粒子4とを含有する水系の混合液であるコーティング組成物を、基材1に塗布することで形成されている。
【0012】
室内空間において、例えば冷凍庫又は冷蔵庫からの冷輻射によって、冷凍庫又は冷蔵庫の周辺の天井又は壁が冷やされ、室外から流れ込んだ暖気と相まって、結露が生じ易くなる場合がある。また、エアコンの吹き出し口付近の天井又は壁に、結露又は汚れが生じて黒ずんでいる光景もよく目にする。これは、このような場所において、結露の水分又は汚れを栄養としてカビが発生し易くなることが原因である。カビの生育には、胞子、水、養分、酸素及び温度が必要であることが知られている。通常の室内空間において、酸素及び温度は、カビの生育に十分な環境を有する。また、カビの胞子は通常の土壌及び植物等において繁殖しており、カビの胞子は空気中に放出されている。室内空間においても、人又は物品10の出入りに伴ってカビ胞子は侵入するため、いずれの空間においてもカビ胞子は浮遊している。このため、カビの繁殖を抑制するためには、水及び養分の2点を減らすと共に、カビ胞子の付着及びカビ菌糸の成長を抑制することが必要である。
【0013】
(基材1)
基材1は、例えば吸水性を有する天井材又は壁材である。
【0014】
(異形シリカ粒子2)
図2は、実施の形態1に係る鎖状の異形シリカ粒子2を示す模式図であり、図3は、実施の形態1に係る数珠状の異形シリカ粒子2を示す模式図である。異形シリカ粒子2は、針状、鱗片状、鎖状又は数珠状等の異形を有する。異形シリカ粒子2は、粒径5nm~20nmの略球状の粒子が結合したものである。なお、異形シリカ粒子2は、鎖状又は数珠状に結合して、平均粒径12nm~250nmの形状であることが好ましい。図2に示す鎖状の異形シリカ粒子2及び図3に示す数珠状の異形シリカ粒子2は、一例であり、一部が鎖状又は数珠状に結合していてもよい。また、異形シリカ粒子2は、略球状の粒子が混在してもよいし、鎖状、数珠状又は鱗片状等の粒子が混在してもよい。
【0015】
なお、平均粒径は、コーティング組成物として混合前のシリカ粒子水分散液を動的光散乱法又はレーザー回折法により測定したものであるが、それ以外の方法で測定したものでもよい。コーティング組成物中においては、シリカ粒子が凝集することによって、平均粒径がより大きな値となってもよい。
【0016】
異形シリカ粒子2は、コーティング被膜5において、被膜を構成する主要成分となると共に、疎水性樹脂粒子3及び抗カビ粒子4を固定するバインダーとしての作用を有する。鎖状又は数珠状の異形シリカ粒子2が用いられることによって、コーティング組成物の塗布及び乾燥の過程での流動性を好ましく制御することができる。ここで、凹凸面への塗布の場合、球状シリカをベースとするコーティング組成物であると、塗布及び乾燥後に得られるコーティング被膜5は、凹部のみに液が溜まることによって凸部に十分な被膜を形成することができない。また、吸水性を有する基材1又は多孔質性を有する基材1においては、球状シリカをベースとするコーティング組成物の場合、毛細管現象によりコーティング組成物内の水と共に基材1内部に移動してしまい、良好なコーティング被膜5を形成することができない。これに対し、本実施の形態1の異形シリカ粒子2は、その大きさによって、基材1の細孔を通り難く、基材1の表面に被膜を形成することが可能となる。
【0017】
鎖状又は数珠状に結合した異形シリカ粒子2を含有するコーティング組成物において、基材1への塗布及び乾燥によって得られるコーティング被膜5は、膜中に微細な空隙を有する。異形シリカ粒子2は、コーティング被膜5を親水性とする主要な成分であるが、微細な空隙を形成することにより、球状のシリカを用いる場合に比べて高い親水性となる。また、異形シリカ粒子2は、撥水性物質の吸着による汚染等に対しても親水性が低下し難いものとなる。また、異形シリカ粒子2は、塵埃による汚染等に対しても、空隙により分子間力(付着力)が小さくなることで、塵埃が固着し難くなる効果を発揮する。
【0018】
異形シリカ粒子2を用いることによって、球状のシリカを用いる場合に比べて、コーティング被膜5においてクラック等の膜の欠陥が形成され難くなるという特長も得られる。これにより、コーティング被膜5は剥離し難くなり、摩擦又は環境変化等による劣化が抑制されて、長寿命及び高耐久性となる。更に、塵埃が付着するクラックが無いため、塵埃汚染が起こり難いという効果も得ることができる。
【0019】
コーティング組成物においては、ベースとなる組成としてシリカ粒子が用いられている。シリカ粒子は、チタニア粒子又はアルミナ粒子といった他の親水性無機粒子より低い屈折率を有しているため、界面又は表面の光散乱による白濁を起こし難い。本実施の形態1では、シリカ粒子として異形シリカ粒子2を用いることによって、コーティング被膜5は微細な空隙を有する。これにより、更に低い屈折率としている。また、光散乱を発生させるクラックの形成も抑制されるため、白濁の低減を実現している。
【0020】
異形シリカ粒子2の平均粒径が12nmに満たない場合は、凹凸面又は吸水面への塗布性、低白濁性及び低汚染性等の効果が十分に得られない。平均粒径が250nmを超える場合には、形成されるコーティング被膜5の膜が脆くなったり、膜中の微細空隙が過剰に大きくなって白濁し易くなったりするため、好ましくない。
【0021】
コーティング組成物中の異形シリカ粒子2の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1wt%以上15wt%以下である。より好ましくは、0.5wt%以上10wt%以下である。異形シリカ粒子2の含有量が少な過ぎると、基材1を十分にコーティング被膜5で覆うことができなくなる。一方、異形シリカ粒子2の含有量が多過ぎると、形成される膜が厚くなり過ぎて、白濁したり剥離したりし易くなる。
【0022】
一般的にシリカ粒子を安定して水に分散する場合、その安定性はpHにより左右される。シリカ粒子は、pH2~4の酸性領域、pH8~11のアルカリ領域で高い安定性が得られる。pH9を超えるアルカリである場合、溶解したシリカ成分が、乾燥時にシリカ粒子同士のバインダーとして働くため、膜の強度が得られ易く好ましい。本実施の形態1のコーティング組成物においても、pH8~12であることが好ましく、pH9~11であることが更に好ましい。
【0023】
pHは、カビの抑制効果にも関連している。カビはpH2~8.5で生育し易いものの、pH9を超えるアルカリ性環境で生育できるものは限られる。pH8~12のコーティング組成物で得られるコーティング被膜5においては、アルカリ成分を含んだものとなっている。結露等によりカビが生育し易い状況となった場合、アルカリ成分が溶出することによってアルカリ化して、カビ生育を抑制する効果が得られる。
【0024】
(疎水性樹脂粒子3)
疎水性樹脂粒子3は、水に対する親和性が低く水に溶け難い樹脂の粒子である。疎水性樹脂粒子3は、例えばシリコーン樹脂粒子又はフッ素樹脂粒子が挙げられるが、それらに限定されず他の樹脂でもよい。なお、水性媒体中に分散するものとして、フッ素樹脂粒子が好ましい。フッ素樹脂粒子の具体例としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、これらの共重合体及び混合物、並びにこれらのフッ素樹脂に他の樹脂を混合したものが挙げられる。これらのうち、疎水性樹脂粒子3としては、安定性に優れ、且つ疎水性が大きなPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)及びFEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)が好ましい。
【0025】
疎水性樹脂粒子3の平均粒径は、特に制限されることはないが、光散乱法により測定した場合、好ましくは50nm~500nmであり、より好ましくは100nm~250nmである。この範囲の平均粒径を有する疎水性樹脂粒子3をコーティング組成物に含有させることによって、疎水性樹脂粒子3がコーティング被膜5中に適度に分散すると共にコーティング被膜5の表面に露出し易くなって、良好な防汚性能を得ることができる。疎水性樹脂粒子3の平均粒径が50nm未満であると、疎水性樹脂粒子3がコーティング被膜5の表面に露出し難くなって、所望の防汚性能が得られない場合がある。一方、疎水性樹脂粒子3の平均粒径が500nmを超えると、得られるコーティング被膜5において疎水性部分の領域が大きくなったり、コーティング被膜5の凹凸が大きくなったりするため、所望の防汚性能が得られない場合がある。
【0026】
コーティング組成物における異形シリカ粒子2と疎水性樹脂粒子3との重量比は、70:30~95:5であり、好ましくは75:25~90:10である。この範囲の質量比の場合、異形シリカ粒子2に起因する親水性部分と、疎水性樹脂粒子3に起因する疎水性部分とがバランスよく混在したコーティング被膜5が得られる。このとき、常温での乾燥により得られたコーティング被膜5は、良好な防汚性能を有する。コーティング被膜5の表面の親水性部分が、防汚性能を向上させる上で重要な働きをする。また、この範囲の質量比であれば、コーティング被膜5の表面では、親水性部分が疎水性部分により分断されることなく連続している。このため、コーティング被膜5の表面に水滴等が付着した場合には、コーティング被膜5全体に水が拡がり易いという特性を有する。
【0027】
そして、水は、コーティング被膜5の表面に付着した親水性及び疎水性の汚れを浮き上がらせて除去したり、固着し難くしたりする効果を与える。特に、結露時、降雨時及び洗浄時等において、付着した汚れがコーティング被膜5の表面から除去され易い。また、コーティング被膜5は、連続したシリカ膜から主に構成されるため、汚れの吸着の原因となる膜表面の帯電を抑制することもできる。更に、コーティング被膜5は、水が拡がり易いという特性を有している。このため、仮に結露したとしても、その結露水はコーティング被膜5を拡がり、従って結露水は乾燥し易くなる。コーティング被膜5において、汚れが付き難く、結露水が拡がり易く、乾燥し易いため、埃及び水を餌とするカビが増殖し難い環境を得ることができる。
【0028】
空気中に浮遊するカビは、カビ胞子単体として浮遊するものと、親水性の汚れ及び疎水性の汚れにカビ胞子又はカビ菌糸等として混在し浮遊するものとが存在する。概して、カビ胞子は、親水性の表面を有しており、親水基同士の静電的な結合、水等による液架橋、又は分子間力によって付着する。カビ胞子は、2μm~10μmの粒径を有する微小な粒子である。カビ胞子の付着を防止するためには、親水性の汚れが付着し得る大きさの親水性部分がないコーティング被膜5を形成すればよい。
【0029】
一般的に、カビ菌糸は、数十μm~数mmの長さを有している。このため、カビが混在した親水性の汚れ及び疎水性の汚れは、数十μm~数mmの大きさを有する。カビが混在した親水性の汚れの付着を防止するためには、親水性の汚れが付着し得る大きさの親水性部分がない防汚性を有するコーティング被膜5を形成する必要がある。同様に、カビが混在した疎水性の汚れの付着を防止するためには、疎水性の汚れが付着し得る大きさの疎水性部分がない防汚性を有するコーティング被膜5を形成する必要がある。本実施の形態1では、異形シリカ粒子2と疎水性樹脂粒子3との質量比を、前述の質量比とすることによって、親水性を有するシリカ膜に、疎水性を有する疎水性樹脂粒子3が適度に点在する。これにより、親水性汚れが親水性部分に付着した場合であっても、親水性部分に近接する疎水性部分の表面又は疎水性部分の突起による物理的疎外により、親水性汚れは付着しにくくなる。また、同様に、コーティング被膜5の親水性部分によって、疎水性汚れの付着を抑制することができる。
【0030】
なお、疎水性樹脂粒子3は、予め水に分散された市販のものが用いられてもよい。この場合、コーティング組成物をアルカリ性とするために、中性又はアルカリ性の分散液を用いることが好ましい。
【0031】
(抗カビ粒子4)
抗カビ粒子4は、難水溶性であることが好ましい。これにより、吸水性を有する基材1においても、基材1表面に抗カビ粒子4が存在することができる。従って、カビが増殖し難いコーティング被膜5を得ることができる。難水溶性の抗カビ粒子4としては、ベンゾイミダゾール系又はヨウ素系の抗カビ剤が好ましいが、特に限定されるものではない。抗カビ粒子4として、例えば、チアベンダゾール(TBZ)、カルベンダジム(BCM)、3-ヨード-2-プロピル-N-ブチルカルバマート(IPBC)、ジヨードメチルパラトリルスルホン(DMTS)が挙げられる。水への溶解度はTBZで0.003%、IPBCで0.0156%、DMTSで0.1%、BCMは不溶とされ、いずれも水へは難溶解性を示す。コーティング組成物中に溶解することなく分散させることによって、コーティング被膜5内に抗カビ粒子4を存在させることができ、カビの繁殖を抑制することができる。
【0032】
難水溶性の抗カビ粒子4は、微粉末状、棒状、針状又は繊維状の結晶性を有する抗カビ剤が用いられる。抗カビ剤の結晶形態としては、特に、棒状、針状又は繊維状であることが好ましい。抗カビ粒子4が棒状の結晶である場合、短径と長径との比率が1.2以上であることが好ましい。コーティング組成物中又はコーティング被膜5内において、抗カビ粒子4は、結晶の長さが1μm以上10mm以下であり、結晶の太さが0.1μm以上15μm以下となっていることが好ましい。
【0033】
抗カビ粒子4を含有するコーティング組成物は、多孔質や凹凸表面の基材1に塗布したとしても、抗カビ剤が基材1内部又は凹部に入り込むことなく表面に集積した状態となり、高い抗カビ性が得られる。また、コーティング被膜5中においては、長手方向が基材1表面に沿った状態で配置される。このため、抗カビ粒子4がコーティング被膜5の表面から突出したり、コーティング被膜5の厚さムラを大きくしたり、クラックを発生させたりし難い。概して、コーティング被膜5の表面凹凸が大きくなれば、コーティング被膜5の防汚性を損なうことになる。これに対し、本実施の形態1は、上記の抗カビ剤の添加形態とすることで、防汚性を損なうことなく、多量の抗カビ剤の添加が可能となる。
【0034】
この様な抗カビ粒子4を含むコーティング被膜5は、コーティング組成物中のシリカ粒子が前述の異型シリカ粒子であることで実現される。異形シリカ粒子2をベースとすることによって、コーティング組成物は擬組成流体としての流動性を示す。そして、抗カビ粒子4の長手方向が基材1表面に沿った状態で配置し易く、抗カビ粒子4があっても局所的な厚膜化を生じにくい。従って、均一性の高いコーティング被膜5を形成できる。また、異形シリカ粒子2により微細な空隙を有する被膜となるため、クラックを生じることなく抗カビ粒子4を内包することができる。更に、コーティング被膜5が加湿状態となった時には、空隙を通して抗カビ剤を拡散することができる。
【0035】
抗カビ剤粒子が粒状又は粉末状の場合でも、コーティング被膜5に含有させることは可能である。しかし、粒状であって粒径が3μmを超える粒子の場合、コーティング組成物の塗布過程で粒子が偏在し、防汚性を有する均一なコーティング被膜5の形成が困難である。また、微細粒子の場合には、均一なコーティング被膜5が形成されたとしても、抗カビ剤が異形シリカ粒子2と疎水性樹脂粒子3の合計に対して5%を超える添加量となると、連続したシリカ相が形成されない。このため、コーティング被膜5の強度が低下し、摩耗又は剥離が起こり易くなるという問題がある。
【0036】
難水溶性の抗カビ粒子4の含有量は、異形シリカ粒子2と疎水性樹脂粒子3との合計に対して、5wt%以上500wt%以下であることが好ましい。より好ましくは、難水溶性の抗カビ粒子4の含有量は、5wt%以上150wt%以下である。抗カビ粒子4の含有量が少な過ぎると、コーティング被膜5が十分な抗カビ性を有することが難しくなる場合がある。また、抗カビ粒子4が多過ぎると、コーティング被膜5の防汚性が阻害される場合がある。
【0037】
難水溶性の抗カビ粒子4に加え、水溶性の抗カビ剤が含まれてもよい。水溶性の抗カビ剤は、難水溶性の抗カビ粒子4とは異なり、吸水性のある基材1又は多孔質の基材1において、基材1表面に留まり難く基材1内部に浸透する。このため、基材1表面に結露が生じた場合、結露水の内部への浸透により、基材1表面に滲み出すことになる。これにより、カビの繁殖を抑制することができる。
【0038】
コーティング組成物は、本実施の形態1で得られる効果を阻害しない範囲において、様々な特性をコーティング組成物に付与する観点から、当該技術分野において公知の成分を含むことができる。公知の成分としては、界面活性剤、カップリング剤又はシラン化合物等が挙げられる。これらの成分の配合量は、本実施の形態1で得られる効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、使用する成分の種類に応じて適宜調整されればよい。
【0039】
(水溶性塩6)
水溶性塩6は、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウムであるが、特に限定されない。また、ここでの水溶性塩6は、前駆体であってコーティング被膜5形成過程又は形成後に水溶性塩6となるものも含む。例えば、塩化ナトリウムとなる次亜塩素酸ナトリウム、炭酸ナトリウムとなる水酸化ナトリウムが挙げられる。次亜塩素酸ナトリウムはコーティング被膜5中では安定に存在できないが、分解により塩化ナトリウムを形成する。水酸化ナトリウムは水溶性塩6ではないが、炭酸ガス等による中和反応により炭酸ナトリウムを形成する。
【0040】
コーティング被膜5は、異形シリカ粒子2が途切れなく存在することによって、親水性を有している。親水性によって、結露水はコーティング被膜5を拡がり、従って結露水は乾燥し易くなる。コーティング被膜5において、結露水が拡がり易く、乾燥し易いため、埃又は水を餌とするカビが増殖し難い環境を得易い。コーティング被膜5に水溶性塩6を含有することによって、膜中において、カビの繁殖を助ける自由水を更に抑えることができる。これは、食品において塩を入れることによって水分活性が抑えられ、カビの繁殖が抑えられることと同じである。水溶性塩6によってコーティング膜中の自由水が抑えられ、水分活性が低くなることによってカビの繁殖を抑制することができる。
【0041】
コーティング被膜5は、コーティング組成物が塗布及び乾燥されることによって形成される。このため、コーティング組成物に含有される異形シリカ粒子2、疎水性樹脂粒子3、難水溶性の抗カビ粒子4、水溶性塩6、その他の任意に添加される水溶性の抗カビ剤等によって構成される。コーティング被膜5を形成する基材1が吸水性である場合、コーティング組成物中においては、水溶性塩6およびその他の任意に添加される水溶性抗カビ剤等の一部は、基材1の内部に浸透しコーティング被膜5中の含有量が少なくなる。
【0042】
コーティング組成物中の水溶性塩6の含有量は、特に限定されないが、コーティング被膜5を形成する基材1が吸水性でない場合には、0.5wt%以上10wt%以下、吸水性の場合には、1wt%以上50wt%である。含有量が少な過ぎると、コーティング被膜5に含有される水溶性塩6が少なくなり、自由水を抑える効果がない場合がある。また、含有量が多過ぎると、コーティング被膜5の防汚性が損なわれ、カビ胞子の付着又は餌となる埃等の付着を抑えることができなくなる場合がある。
【0043】
室温で乾燥後のコーティング被膜5において、被膜構成成分中の水溶性塩6が、5wt%以上80wt%以下が好ましく、10wt%以上60wt%以下が更に好ましい。水溶性塩6が5wt%未満の場合には、高湿度環境では水溶性塩6の効果が得られない。水溶性塩6が80wt%を超える場合には、高湿度環境でコーティング被膜5が流出するおそれがあり好ましくない。
【0044】
(コーティング被膜5の製造方法)
コーティング組成物は、水と、異形シリカ粒子2と、疎水性樹脂粒子3と、抗カビ粒子4とを混合することで調整される。コーティング被膜5は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を用いて形成される。例えば、スプレー塗布、刷毛塗布、ローラー塗布又はディップ塗布といった方法が挙げられる。これらの塗布方法を組み合わせてもよい。コーティング組成物は、基材1への塗布後、自然乾燥のみでコーティング被膜5となる。コーティング組成物に含まれる異形シリカ粒子2表面は、一部溶存するため、自然乾燥時にシリカ粒子同士が凝着し、コーティング被膜5を形成することができる。気流、温風等により、乾燥を早め、コーティング被膜5を得ることもできる。
【0045】
コーティング被膜5は、連続したシリカ膜から主に構成されている。このため、汚れの吸着の原因となる膜表面の帯電を抑制し、水が拡がり易いという特性を有している。従って、仮に結露したとしても、その結露水はコーティング被膜5を拡がり、従って結露水は乾燥し易くなる。また、その結露水も、アルカリ性を示すため、カビが増殖し難い。更に、難水溶性の抗カビ粒子4があるため、カビの成長を抑えることができる。このように本実施の形態1のコーティング被膜5において、汚れが付き難く、結露水が拡がり易く、乾燥し易い。このため、埃や水を餌とするカビが増殖し難い膜を得ることができる。
【0046】
実施の形態2.
本実施の形態2は、コーティング被膜5の形成方法が、実施の形態1と相違し、コーティング組成物の各成分に関しては同様である。本実施の形態2では、実施の形態1と共通する部分は同一の符号を付して説明を省略し、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0047】
(コーティング被膜5の製造方法)
実施の形態2におけるコーティング被膜5は、水溶性塩6を含む組成物を基材1に塗布後、更に水系のコーティング組成物を塗布することによって形成される。水溶性塩6を含む組成物を塗布後、その上からコーティング組成物を塗布し、自然乾燥のみで被膜を形成することができる。水溶性塩6を含む組成物は、水溶性塩6を含む水溶液である。水溶性塩6は、1wt%以上50wt%以下が好ましい。水溶性塩6が1wt%未満では、水溶性塩6の効果が十分に得られない。水溶性塩6が50wt%を超える濃度では過剰な水溶性塩6が付着し、良好なコーティング被膜5の形成が困難になり易い。水溶性塩6以外に、エタノール等の有機溶剤や抗カビ剤を含んでいても良い。
【0048】
コーティング組成物は、実施の形態1のコーティング組成物と同様である。なお、実施の形態2は、先に水溶性塩6が塗布された面に上塗りされるため、実施の形態1のコーティング組成物よりも、水溶性塩6を減量又は除去されたものであってもよい。水溶性塩6を含む組成物とコーティング組成物との塗布は、液濃度と塗布量とによって、好ましいコーティング被膜5を形成する。室温乾燥後のコーティング被膜5の構成成分中の水溶性塩6は、5wt%以上80wt%以下が好ましく、10wt%以上60wt%以下が更に好ましい。水溶性塩6が5wt%未満の場合には、高湿度環境では水溶性塩6の効果が得られない。水溶性塩6が80wt%を超える場合には、高湿度環境でコーティング被膜5が流出するおそれがあり好ましくない。
【0049】
本実施の形態2は、水溶性塩6を高濃度に含有するコーティング被膜5を得易いという利点がある。コーティング組成物は、異形シリカ粒子2及び疎水性樹脂粒子3等の分散液である。水溶性塩6の添加によって分散安定性が低下するため、十分な水溶性塩6を添加することができない場合がある。従って、水溶性塩6のみを事前に塗布することによって、コーティング被膜5中の水溶性塩6の比率を高くすることができる。
【0050】
更に、吸水性又は多孔質の基材1へ塗布する場合、より好ましい効果が得られる。このような基材1に対して、コーティング組成物を塗布することを想定する。この場合、水溶性塩6のような水溶性成分のみが基材1に吸収されてしまい、コーティング被膜5中での濃度が低下し易い傾向がある。また、実環境においてコーティング被膜5が結露した場合、結露水が基材1に浸透する過程で、コーティング被膜5中の水溶性塩6が基材1に移行する場合もある。これに対し、本実施の形態2では、水溶性塩6が先に塗布されることによって、基材1中にも十分な量の水溶性塩6を含有させることができ、これらの現象を回避することができる。
【0051】
各々の塗布方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、スプレー塗布、刷毛塗布、ローラー塗布又はディップ塗布である。なお、これらの塗布方法を組み合わせた塗布方法としてもよい。吸水性が無い基材1への塗布の場合には、水溶性塩6を含む組成物の塗布量がコーティング組成物の塗布量の0.2倍以上1倍以下となることが好ましい。水溶性塩6を含むコーティング組成物の塗布量を少なくすることによって、塗布乾燥時間を短くすることができる。また、塗布時に流れ易い水溶性塩6を含む組成物のムラを生じ難いという利点も得られる。
【0052】
吸水性の基材1への塗布の場合には、水溶性塩6を含む組成物の塗布量がコーティング組成物の塗布量の1倍以上5倍以下となることが好ましい。水溶性塩6を含む組成物を基材1に十分浸透させることによって、塗布時又は実環境での結露時に、コーティング被膜5中の水溶性塩6の濃度が低下し難いという効果が得られる。コーティング被膜5は、コーティング組成物に含まれる異形シリカ粒子2の表面は一部溶存するため、自然乾燥時にシリカ粒子同士が凝着して被膜が形成される。気流又は温風等によって、乾燥を早めて、被膜を素早く得ることもできる。
【0053】
コーティング被膜5は、連続したシリカ膜から主に構成されるため、汚れの吸着の原因となる膜表面の帯電を抑制し、水が拡がり易いという特性を有している。このため、仮に結露したとしても、その結露水はコーティング被膜5を拡がり、従って結露水は乾燥し易くなる。また、水溶性塩6によって自由水が抑えられるため、カビが増殖し難い。更に、難水溶性の抗カビ粒子4が存在するため、カビの成長を抑えることができる。このように、本実施の形態2のコーティング被膜5は、汚れが付き難く、結露水が拡がり易く、乾燥し易い。このため、埃及び水を餌とするカビが増殖し難い膜を得ることができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例及び比較例を示して実施の形態を具体的に説明するが、実施の形態は下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1~5、比較例1~5)
異形シリカ粒子2として、スノーテックスUP(日産化学工業株式会社製)をベースにカルシウムイオン添加及びpH調整によって柔軟なフロックが形成されたものを用いた。疎水性樹脂粒子3として、アルゴフロンD PTFEディスパージョン(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製)を用いた。難水溶性の抗カビ剤として、IPBCの5%のエタノール溶液を用いた。コーティング組成物は、脱イオン水を撹拌しながら、疎水性微粒子及び異形シリカ粒子2を添加して形成した。その後、アルカリ水溶液を添加することによって、pHを調節した。最後に静止して、難水溶性の抗カビ剤のエタノール溶液を滴下した。水溶性塩6は、5%の水溶液として塗布直前に混合した。コーティングは、コテバケを用いて化粧石膏ボード(ジプトーンライト、吉野石膏株式会社)に塗布して自然乾燥させた。塗布量は30g/m2とした。
【0056】
防汚性の評価は、以下の方法にて行った。コーティング被膜5を形成した基材1を水平に設置し、コーティング被膜5上に、関東ローム粉塵とカーボンブラックとを1:1で混合した模擬汚れを、ステンレス製の篩いを介して載せ、全面を覆った。その後、基材1を垂直に立てることによって、余分な模擬汚れを除去した。コーティング被膜5上に残った模擬汚れにおいて、真っ黒に汚れたものを0、ほぼ汚れが無いものを5として、6段階で目視評価した。防カビ性の評価は、以下の方法にて行った。培地にコーティング被膜5を形成した基材1を貼付し、5種(アスペルギルス ニゲル、ペニシリウム ピノヒルム、ペシロミセス バリオッチ、トリコデルマ ビレンス、ケトミウム グロボスム)の混合胞子懸濁液を噴霧、温度29℃湿度95%で28日培養し、かびの生育を観察した。防カビ性として、25%以上を×、25%未満を△、肉眼で見られない場合を○とした。
【0057】
表1は、コーティング組成物の組成と結果とをまとめたものである。コーティング被膜5は、目視では着色等は認められないが、顕微鏡観察では、抗カビ剤の結晶が認められた。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例1~5は、いずれも良好な防汚性及び抗カビ性が得られている。比較例1は、抗カビ剤だけを塗布したものであるが、防汚性が無いだけでなく抗カビ性も十分でない結果となっている。比較例2及び3は、異形シリカ粒子2及び疎水性樹脂粒子3を含まないものであるため防汚性が無い。比較例4と実施例1とを比較すると、水溶性塩6が抗カビ性向上に寄与していることが分かる。比較例5は、抗カビ性が得られていない。
【0060】
(実施例6~9、比較例6及び7)
脱イオン水に、水溶性塩6又は次亜塩素酸ナトリウムを混合することによって、水溶性塩6水溶液を調整した。コーティング組成物は、実施例1と同様の方法で、異形シリカ粒子2を2.0wt%、疎水性樹脂粒子3を0.3wt%、抗カビ剤をIPBC0.2wt%とし、水溶性塩6を変更したものを調整した。厚さ5mmのシナベニヤ材に対して、水溶性塩6水溶液をコテバケで塗布した。5分間程度放置し、水溶性塩6の水溶液がシナベニヤ材に十分浸透した後に、コーティング組成物をコテバケで塗布して自然乾燥させた。水溶性塩6の水溶液の塗布量は50g/m2程度、コーティング組成物の塗布量は30g/m2程度である。
【0061】
形成されたコーティング被膜5をブラシで剥離し、剥離したコーティング被膜5中の水溶性塩6の比率を重量法で求めた。防汚性及び抗カビ性は実施例1と同様に評価した。湿潤環境での抗カビ性の持続性を確認するため、コーティング被膜5を霧吹きで湿潤して乾燥させることを3回繰り返した後に抗カビ試験を実施した。この結果を抗カビ持続性とした。
【0062】
【表2】
【0063】
実施例6は、実施例1のコーティング組成物を用いてシナベニヤで評価したものである。実施例6は、良好な防汚性及び抗カビ性が得られているが、湿潤の繰り返しで抗カビ性が低下している。湿潤時に水溶性塩6が基材1のシナベニヤに浸透するためと考えられる。実施例7は、水溶性塩6の水溶液を先に塗布した例である。防汚性及び抗カビ性の他、抗カビ持続性も良好となっている。コーティング被膜5だけでなく基材1にも十分な水溶性塩6が含まれることによって、高い抗カビ持続性が実現している。実施例8及び9は、水溶性塩6の水溶液として、塩の前駆体としての次亜塩素酸ナトリウムを用いたものである。いずれも良好な防汚性、抗カビ性及び抗カビ持続性が得られている。これらについては、基材1のシナベニヤ及び付着汚れを漂白する効果も得られる利点がある。
【0064】
比較例6は、水溶性塩6の水溶液の塗布を行ったものであるが、水溶性塩6の濃度が低過ぎて、十分な抗カビ性が得られていない。比較例7は、逆に水溶性塩6の濃度が高過ぎて、コーティング被膜5の耐水性が低く抗カビ持続性が得られていない。
【0065】
このように、本実施の形態1及び2によれば、既存の天井、壁又はそのほかの物品10に対して、結露、汚れ、及びそれらを起因とするカビが発生することを抑制することができる。更に、水溶性塩6によって、膜中の自由水を軽減することができるため、カビの生育を抑制することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 基材、2 異形シリカ粒子、3 疎水性樹脂粒子、4 抗カビ粒子、5 コーティング被膜、6 水溶性塩、10 物品。
【要約】
コーティング被膜は、12nm~250nmの平均粒径を有する異形シリカ粒子と、50nm~500nmの平均粒径を有する疎水性樹脂粒子と、棒状、針状又は繊維状の結晶性を有し、且つ、結晶の長さが1μm以上10mm以下、結晶の太さが0.1μm以上15μm以下である難水溶性の抗カビ粒子と、均一に分散された水溶性塩と、を備える。
図1
図2
図3