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特許7551039半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240906BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20240906BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20240906BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L25/04 C
H05K7/20 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024534281
(86)(22)【出願日】2023-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2023022188
【審査請求日】2024-06-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山竹 厚
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特表2024-519226(JP,A)
【文献】国際公開第2022/260225(WO,A1)
【文献】特開2022-018033(JP,A)
【文献】特開2021-022603(JP,A)
【文献】特開2013-062506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 25/07
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱板、
前記放熱板の上面に配置された絶縁層、
前記絶縁層の上面に配置された回路電極、
前記回路電極の上面に配置された半導体チップ、
前記放熱板の下面を露出させて前記放熱板の周囲を取り囲む枠状に形成され、前記半導体チップを囲むように前記絶縁層の上面の周辺部に接するケースを備えた半導体装置と、
前記ケースに締結されたヒートシンクと、
前記ヒートシンクの上面および前記放熱板の下面に挟まれた放熱部材と、
前記放熱部材の周囲に接触して取り囲む枠状に形成され、前記ヒートシンクの上面および前記ケースの底面に挟まれた可撓性シートとを備え、
前記ヒートシンクは前記可撓性シートを介して前記ケースに締結されていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
前記可撓性シートの内周端は前記放熱板の外周端よりも外側に位置することを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記可撓性シートの内周端は前記放熱板の外周端よりも内側に位置することを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記可撓性シートは、前記放熱板と接触している位置における厚さが、前記ケースと接触している位置における厚さよりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
放熱板、前記放熱板の上面に配置された絶縁層、前記絶縁層の上面に配置された回路電極、前記回路電極の上面に配置された半導体チップ、および、前記放熱板の下面を露出させて前記放熱板の周囲を取り囲む枠状に形成され、前記半導体チップを囲むように前記絶縁層の上面の周辺部に接するケースを備えた半導体装置と、
放熱部材と、
枠状に形成された可撓性シートと、
ヒートシンクとを備えた半導体モジュールの製造方法であって、
前記ヒートシンクの上面に前記可撓性シートを設置する第一工程と、
前記可撓性シートの内周の内側において、前記可撓性シートに取り囲まれるように前記ヒートシンクの上面に前記放熱部材を設置する第二工程と、
前記放熱板および前記ヒートシンクによって前記放熱部材を挟み、前記可撓性シートが前記放熱部材の周囲に接触して取り囲むように前記可撓性シートを介して前記ケースおよび前記ヒートシンクを締結する第三工程とを含む半導体モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記可撓性シートの内周端が前記放熱板の外周端よりも外側に位置する半導体モジュールの製造方法であって、
前記ケースと前記ヒートシンクとが締結される前において、
前記放熱板の底面と前記ケースの底面との高さの差に、前記放熱部材の厚さを加えた値は、前記可撓性シートの厚さよりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記可撓性シートの内周端が前記放熱板の外周端よりも内側に位置する半導体モジュールの製造方法であって、
前記ケースと前記ヒートシンクとが締結される前において、
前記放熱部材の厚さは、前記可撓性シートの厚さよりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記可撓性シートの内周端が前記放熱板の外周端よりも内側に位置する半導体モジュールの製造方法であって、
前記ケースと前記ヒートシンクとが締結される前において、
前記ケースと前記ヒートシンクとが締結された後に前記放熱板と重なる位置における前記可撓性シートの厚さは、前記ケースと前記ヒートシンクとが締結された後に前記ケースの底面と接触する位置における前記可撓性シートの厚さよりも小さく、前記放熱部材の厚さは、前記ケースと前記ヒートシンクとが締結された後に前記放熱板と重なる位置における前記可撓性シートの厚さよりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の半導体モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体パワーモジュール等の半導体モジュールは、電力変換装置として利用されている。半導体装置を備えた半導体モジュールでは、半導体装置に備えられた半導体チップ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor、MOSFET:Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)が作動中に発熱するため、半導体装置を冷却するヒートシンクを備えることにより、効率的に放熱を行っている。半導体装置は例えば金属製の放熱板を備えており、その放熱板とヒートシンクとを接触させることにより放熱を行っている。放熱板とヒートシンクとの取り付け面が平坦でない場合あるいは凹凸がある場合には、接触面積が小さくなり、放熱性能が低下する。そのため、放熱板とヒートシンクとの間に放熱グリースを挟み、取り付け面の形状に合わせて変形させ、放熱性を向上させている。
【0003】
しかし、半導体モジュールを長期間使用していると、放熱板の温度変化に伴う反り変形により、徐々に放熱グリースが排出されるポンプアウト現象が起きることがある。このような場合、放熱板とヒートシンクとの間に空間が生じると、放電が発生するおそれがある。対策として、ヒートシンクと放熱板を導電部材でつなぐことにより放電を防止することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-048552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の半導体モジュールは、放熱部材である放熱グリースのポンプアウトの発生を抑制するものではないため、放熱部材のポンプアウトが発生し、放熱性能が低下するおそれがあるという課題があった。
【0006】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであり、放熱部材のポンプアウトの発生を抑制する半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る半導体モジュールは、放熱板、放熱板の上面に配置された絶縁層、絶縁層の上面に配置された回路電極、回路電極の上面に配置された半導体チップ、放熱板の下面を露出させて放熱板の周囲を取り囲む枠状に形成され、半導体チップを囲むように絶縁層の上面の周辺部に接するケースを備えた半導体装置と、ケースに締結されたヒートシンクと、ヒートシンクの上面および放熱板の下面に挟まれた放熱部材と、放熱部材の周囲に接触して取り囲む枠状に形成され、ヒートシンクの上面およびケースの底面に挟まれた可撓性シートとを備え、ヒートシンクは可撓性シートを介してケースに締結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る半導体モジュールは、放熱板、放熱板の上面に配置された絶縁層、絶縁層の上面に配置された回路電極、回路電極の上面に配置された半導体チップ、放熱板の下面を露出させて放熱板の周囲を取り囲む枠状に形成され、半導体チップを囲むように絶縁層の上面の周辺部に接するケースを備えた半導体装置と、ケースに締結されたヒートシンクと、ヒートシンクの上面および放熱板の下面に挟まれた放熱部材と、放熱部材の周囲に接触して取り囲む枠状に形成され、ヒートシンクの上面およびケースの底面に挟まれた可撓性シートとを備え、ヒートシンクは可撓性シートを介してケースに締結されているので、放熱部材のポンプアウトの発生が抑制される。

【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1における半導体装置の断面概略図である。
図2】実施の形態1における半導体装置の底面図である。
図3】第一比較例の半導体モジュールの断面概略図である。
図4】実施の形態1による半導体モジュールの断面概略図である。
図5】実施の形態1における可撓性シートおよび半導体装置の底面図である。
図6】実施の形態1における可撓性シートが設置された後の半導体装置の底面図である。
図7】実施の形態1による半導体モジュールの製造方法の工程図である。
図8】製造途中の実施の形態1による半導体モジュールを示す図である。
図9】製造途中の実施の形態1による半導体モジュールを示す図である。
図10】製造途中の第二比較例の半導体モジュールを示す図である。
図11】第三工程の後における実施の形態1による半導体モジュールを示す図である。
図12】製造途中の実施の形態2による半導体モジュールを示す図である。
図13】第三工程の後における実施の形態2による半導体モジュールを示す図である。
図14】製造途中の実施の形態3による半導体モジュールを示す図である。
図15】製造途中の実施の形態3による半導体モジュールを示す図である。
図16】第三工程の後における実施の形態3による半導体モジュールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を実施するための実施の形態に係る半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一符号は同一もしくは相当部分を示している。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における半導体装置1の断面概略図である。金属製の放熱板2のおもて面である上面に絶縁層3が配置され、絶縁層3の上面に回路電極4が配置され、回路電極4の上面に半導体チップ5が配置されている。半導体チップ5は、回路電極4およびワイヤ6を通じて、端子7に接続される。半導体チップ5はその周囲をケース8に囲まれており、ケース8の内部は絶縁封止材9が充填されて絶縁されている。絶縁封止材9は、ケース8、絶縁層3、回路電極4、半導体チップ5および端子7に囲まれた空間に充填されている。また、ケース8は、放熱板2の裏面である下面を露出させて放熱板2の周囲を取り囲む枠状に形成され、半導体チップ5を囲むように絶縁層3の上面の周辺部に接している。図2には、実施の形態1における半導体装置1を裏面である下面から見たときの底面図である。ケース8の四隅には、ネジ固定用の貫通穴10aがある。
【0012】
図3は、第一比較例による半導体モジュールの断面概略図である。半導体装置1の運転時には、半導体チップ5から発生した熱が、放熱板2に伝わる。放熱板2の熱を放出するために、ケース8とヒートシンク12とをネジ13によって締結する。ケース8とヒートシンク12とを締結するときに、放熱板2とヒートシンク12との接触面に凹凸があり接触面積が小さいと放熱効率が低下するため、ヒートシンク12の上面と放熱板2の下面との間に放熱部材14を挟むことにより、接触面積を大きくして放熱効率を高くすることができる。放熱部材14は、例えば放熱グリースであり、例えば熱伝導性の高い材質のフィラーが混入されたシリコーンである。また、放熱部材14は、例えば放熱シートであり、例えば熱伝導性の高いフィラーが混入された樹脂である。ただし、放熱シートは温度変化による放熱板2の反りに追従できない場合があるため、放熱部材14は放熱グリースを使うことが望ましい。
【0013】
半導体装置1の運転時には熱が発生するため、熱膨張計数の差の影響によって放熱板2に反りが発生し、図3に示す第一比較例の半導体モジュールにおいては、その変形が繰り返されることにより、放熱部材14である放熱グリースが外に漏れだすポンプアウトが発生する。放熱板2とヒートシンク12との間の放熱部材14である放熱グリースが減少すると、放熱部材14がなくなる空間が生じ、放熱性が低下する要因となる。
【0014】
また、図3に示す第一比較例の半導体モジュールでは、放熱板2の側面とケース8との間の空隙11において、端子7などの高電圧部と放熱板2の端部との間で発生する電界によって、部分放電が発生するおそれがある。例えば、地上環境の運転電圧において部分放電が発生しなかったとしても、高高度環境(山頂、飛行中の航空機内)では気圧が低下して放電が起こりやすくなり、第一比較例の半導体モジュールにおいて部分放電が発生する可能性が高くなる。部分放電は、絶縁劣化要因あるいはノイズ源となるため、抑制することが求められる。放熱板2の側面とケース8との間の空隙11における放電を抑制する方法として、空隙11に絶縁物を充填する方法があるが、ボイドを残さずに絶縁物を充填する工程が必要となり、コストが上昇する。
【0015】
図4は、実施の形態1による半導体モジュールの断面概略図である。図4に示す実施の形態1による半導体モジュールを図3に示す第一比較例による半導体モジュールと比較すると、可撓性シート15が追加されていることが異なる点である。可撓性シート15は、放熱部材14の周囲を取り囲む枠状に形成され、ケース8とヒートシンク12とを締結するときにヒートシンク12の上面とケース8の底面に挟まれている。可撓性シート15は、放熱部材14の周囲を隙間なく取り囲んでいてもよい。可撓性シート15は、例えば、シリコーンゴムからなるものであり、弾力性があるものである。
【0016】
図5は、可撓性シート15が半導体装置1に設置される前の、可撓性シート15および半導体装置1の様子を示す底面図である。図5の下の図は半導体装置1を放熱板2の下面方向から見たときの底面図であり、図5の上の図は可撓性シート15の裏面である下面から見たときの底面図である。図6は、半導体装置1に設置された後の可撓性シート15の様子を示す図であり、可撓性シート15が設置された半導体装置1を放熱板2の下面方向から見たときの底面図である。図6においては、ヒートシンク12および放熱部材14は示していない。可撓性シート15は、放熱板2と重なる部分に対して貫通穴16を有する枠状に形成されている。可撓性シート15の貫通穴16の大きさは、放熱板2の大きさよりも大きく、ケース8の外周部の大きさよりも小さい。例えば、放熱板2の下面方向から見たときの可撓性シート15の内周端は、放熱板2の下面方向から見たときの放熱板2の外周端よりも外側に位置している。可撓性シート15には、ケース8の貫通穴10aに対応する位置に貫通穴10bがあり、可撓性シート15をケース8に重ね合わせたときに貫通穴10aと貫通穴10bとが一つの貫通穴となり、ネジ13によってケース8とヒートシンク12とが可撓性シート15を介して締結される。ケース8とヒートシンク12とが締結された半導体モジュールにおいては、可撓性シート15の貫通穴16の位置において、放熱部材14がヒートシンク12の上面および放熱板2の下面とに挟まれる。これにより、放熱板2の下面の全体が放熱部材14に接触することになり、高い放熱効果を得ることができる。
【0017】
可撓性シート15はネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結されるときに変形し、可撓性シート15とケース8とが密着し、可撓性シート15とヒートシンク12とが密着する。絶縁層3の上面の周辺部とケース8とが密着しているため、ヒートシンク12と可撓性シート15とケース8と放熱板2と絶縁層3とで囲まれた空間が密閉され、密閉された空間において放熱部材14が可撓性シート15に囲まれる。これにより、半導体装置1の運転時に熱が発生して放熱板2に反りが発生したときにも、放熱部材14が密閉された空間から外に漏れだすことが無く、ポンプアウトによって放熱部材14が流出することが抑制される。さらに、空隙11が半導体モジュールの外部に対して密閉された空間となるため、高高度環境などの気圧の低い環境においても、空隙11の気圧が低くならず、空隙11における部分放電の発生が抑制される。
【0018】
実施の形態1による半導体モジュールの製造方法について説明する。図7は、実施の形態1による半導体モジュールの製造方法の工程図であり、図1に示す半導体装置1と、放熱部材14と、可撓性シート15と、ヒートシンク12とから、半導体モジュールを製造する方法を示すものである。ステップS1の第一工程では、ヒートシンク12の上面に可撓性シート15を設置し、ステップS2の第二工程に進む。ステップS2の第二工程では、可撓性シート15の内周の内側において、放熱部材14が可撓性シート15に取り囲まれるようにヒートシンク12の上面に放熱部材14を設置し、ステップS3の第三工程に進む。ステップS3の第三工程では、放熱板2およびヒートシンク12によって放熱部材14を挟み、可撓性シート15を介してケース8およびヒートシンク12を締結する。
【0019】
図8および図9は、製造途中の実施の形態1による半導体モジュールを示す図である。図8は、第三工程の前において、放熱板2と放熱部材14とが接触する前の様子を示す図であり、図9は、ケース8とヒートシンク12とが締結される前において、放熱板2と放熱部材14とが接触したときの様子を示す図である。ケース8とヒートシンク12とが締結される前において、放熱板2の底面の上下方向の高さとケース8の底面の上下方向の高さとの差をt1とし、放熱部材14の上下方向の厚さをt2とし、可撓性シート15の上下方向の厚さをt3とする。放熱部材14が放熱グリースの場合は、放熱グリースの塗布の厚さをt2とする。このとき、図9に示すように、ネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結される前においては、t1+t2>t3となるようにする。すなわち、ケース8とヒートシンク12とが締結される前において、放熱板2の底面とケース8の底面との高さの差に、放熱部材14の厚さを加えた値は、可撓性シート15の厚さよりも大きいものとする。
【0020】
図10は、製造途中の第二比較例の半導体モジュールを示す図である。図10に示す第二比較例の半導体モジュールのように、ケース8とヒートシンク12とが締結される前において、t1+t2<t3となると、放熱板2と放熱部材14との間に空気が残る。第二比較例の半導体モジュールでは、第三工程においてネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結されて可撓性シート15の厚さが小さくなったとしても、ヒートシンク12と可撓性シート15とケース8と放熱板2と絶縁層3とで囲まれた空間が密閉されているため、空気が外に漏れることが無く、放熱板2と放熱部材14との間に空気が残留する可能性が高く、放熱性が低くなる要因となる。したがって、実施の形態1による半導体モジュールの製造方法においては、図9に示すように、ネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結される前においては、t1+t2>t3となるようにする。
【0021】
図11は、第三工程の後における実施の形態1による半導体モジュールを示す図である。第三工程においてネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結されることにより、放熱部材14が横に広がりながら放熱部材14の厚さが小さくなり、ケース8の底面と可撓性シート15とが接触し、続けて可撓性シート15の厚さが少し圧縮されて、ヒートシンク12と可撓性シート15とケース8と放熱板2と絶縁層3とで囲まれた空間が密閉される。第三工程においてネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結された後において、放熱部材14の上下方向の厚さをt21、可撓性シート15の上下方向の厚さをt31とすると、図11に示すように、t1+t21=t31となる。
【0022】
第三工程においてネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結されるときに、放熱部材14は、厚さが小さくなるとともに横に広がり、図11に示すように可撓性シート15に接する。よって、第二工程において可撓性シート15の枠の内側においてヒートシンク12の上面に放熱部材14を設置するときに、図8に示すように、放熱部材14と可撓性シート15との間には空間を設けておくとよい。第三工程においてネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結されるときに、放熱部材14は厚さが小さくなるとともに横に広がり、放熱部材14が可撓性シート15に接して横に広がることができなくなったときに、それ以上にネジ13を締めることができなくなる。ネジ13を締める力が強すぎることにより可撓性シート15に過度に力がかかると、長期的にクリープ現象を起こし、ヒートシンク12と可撓性シート15とケース8と放熱板2と絶縁層3とで囲まれた空間の密閉性能が低下するおそれがある。しかし、実施の形態1による半導体モジュールでは、図11に示す可撓性シート15の厚さt31がt1+t21を下回ることが無いため、変形後の可撓性シート15の厚さt31および変形後の放熱部材14の厚さt21を想定して、変形前の可撓性シート15の厚さt3および変形前の放熱部材14の厚さt2を設定することにより、可撓性シート15に過度の力がかかることが抑制され、クリープ現象の発生を抑制することができる。
【0023】
以上のように、実施の形態1による半導体モジュールは、放熱板2、放熱板2の上面に配置された絶縁層3、絶縁層3の上面に配置された回路電極4、回路電極4の上面に配置された半導体チップ5、放熱板2の下面を露出させて放熱板2の周囲を取り囲む枠状に形成され、半導体チップ5を囲むように絶縁層3の上面の周辺部に接するケース8を備えた半導体装置1と、ケース8に締結されたヒートシンク12と、ヒートシンク12の上面および放熱板2の下面に挟まれた放熱部材14と、放熱部材14の周囲を取り囲む枠状に形成され、ヒートシンク12の上面およびケース8の底面に挟まれた可撓性シート15とを備え、ヒートシンク12は可撓性シート15を介してケース8に締結されているので、放熱部材14のポンプアウトの発生が抑制される。
【0024】
実施の形態2.
実施の形態1による半導体モジュールは、可撓性シート15の貫通穴16の幅は放熱板2の幅よりも大きくし、すなわち、放熱板2の下面方向から見たときの可撓性シート15の内周端は放熱板2の下面方向から見たときの放熱板2の外周端よりも外側に位置するものとした。この構造においては、ケース8の底面において幅の狭い部分(例えば、図5のケース8の図5における上側または下側の幅の狭い部分)があると、ケース8を可撓性シート15に取り付けるときの位置精度が低いときに、ケース8の底面の幅の狭い部分が可撓性シート15の貫通穴16の中に入ってしまうことがある。ケース8の底面の幅の狭い部分が可撓性シート15の貫通穴16の中に入ると、半導体モジュールにおけるヒートシンク12と可撓性シート15とケース8と放熱板2と絶縁層3とで囲まれた空間が密閉されなくなり、実施の形態1による半導体モジュールの効果が得られないことになる。実施の形態2による半導体モジュールでは、可撓性シート15の貫通穴16の幅を放熱板2の幅よりも小さくすることにより、ケース8の底面の幅の狭い部分が可撓性シート15の貫通穴16の中に入ってしまうことを防ぐ。
【0025】
図12は、製造途中の実施の形態2による半導体モジュールを示す図であり、図7の第一工程および第二工程の後で、第三工程の前における、半導体装置1とヒートシンク12と可撓性シート15と放熱部材14との様子を示す図である。実施の形態2による半導体モジュールの製造方法の工程は、図7に示す実施の形態1による半導体モジュールの製造方法の工程と同じである。実施の形態2による半導体モジュールでは、可撓性シート15の貫通穴16の幅が放熱板2の幅よりも小さく、可撓性シート15の一部が放熱板2の端部と重なる。例えば、放熱板2の下面方向から見たときの可撓性シート15の内周端は、放熱板2の下面方向から見たときの放熱板2の外周端よりも内側に位置する。なお、ケース8とヒートシンク12とを可撓性シート15を介して締結するためには、放熱板2の下面方向から見たときの可撓性シート15の外周端は、放熱板2の下面方向から見たときの放熱板2の外周端よりも外側に位置することになる。可撓性シート15の内周端に近い部分の一部が、放熱板2の端部と重なる。これにより、ケース8を可撓性シート15に取り付けるときの位置精度が低いときでも、ケース8を可撓性シート15の上に容易にのせることができる。
【0026】
実施の形態2による半導体モジュールでは、ケース8とヒートシンク12とが締結される前において、放熱部材14の上下方向の厚さt2が、可撓性シート15の上下方向の厚さt3よりも小さいと、第三工程の後の半導体モジュールにおいて放熱板2と放熱部材14の間に空気が残ってしまう。そのため、図12に示すように、ネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結される前においては、放熱部材14の上下方向の厚さt2を可撓性シート15の上下方向の厚さt3よりも大きくする。また、第三工程においてネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結されることにより、放熱部材14が横に広がるので、ケース8とヒートシンク12とが締結される前においては、放熱部材14と可撓性シート15との間には空間を設けておく。
【0027】
図13は、第三工程の後における実施の形態2による半導体モジュールを示す図である。ネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結されることにより、放熱板2と接触している位置の可撓性シート15の上下方向の厚さは、放熱板2と接触していない位置の可撓性シート15の上下方向の厚さよりも小さくなる。すなわち、実施の形態2による半導体モジュールの可撓性シート15は、放熱板2の外周端よりも内側の位置における厚さが放熱板2の外周端よりも外側の位置における厚さよりも小さくなる。これにより、可撓性シート15は、放熱板2と接触している位置における上下方向の厚さが、ケース8と接触している位置における上下方向の厚さよりも小さくなる。その結果、実施の形態2による半導体モジュールでは、実施の形態1による半導体モジュールと比べて放熱部材14の体積を小さくすることができる。また、実施の形態2による半導体モジュールにおいても、ヒートシンク12と可撓性シート15とケース8と放熱板2と絶縁層3とで囲まれた空間が密閉され、放熱部材14のポンプアウトの発生が抑制され、高高度環境などの気圧の低い環境においても空隙11における部分放電の発生が抑制される。
【0028】
実施の形態3.
実施の形態2による半導体モジュールでは、可撓性シート15の厚さt3に合わせて、放熱部材14の厚さt2が決定される。したがって、放熱部材14の厚さt2を小さくしたいときには可撓性シート15の厚さt3を小さくする必要があるが、可撓性シート15の厚さt3を小さくしすぎると、ケース8の底面と可撓性シート15の上面との密閉、および可撓性シート15の下面とヒートシンク12の上面との密閉を保てなくなる。
【0029】
図14および図15は、製造途中の実施の形態3による半導体モジュールを示す図である。図14は、第三工程の前において、放熱板2と放熱部材14とが接触する前の様子を示す図であり、図15は、ケース8とヒートシンク12とが締結される前において、放熱板2と放熱部材14とが接触したときの様子を示す図である。実施の形態3による半導体モジュールの製造方法の工程は、図7に示す実施の形態1による半導体モジュールの製造方法の工程と同じである。放熱板2の下面方向から見たときの可撓性シート15の内周端が放熱板2の下面方向から見たときの放熱板2の外周端よりも内側に位置すること、および、放熱板2の下面方向から見たときの可撓性シート15の外周端が放熱板2の下面方向から見たときの放熱板2の外周端よりも外側に位置することは、実施の形態2による半導体モジュールと同様である。実施の形態3による半導体モジュールでは、ケース8とヒートシンク12とが締結される前において、ケース8とヒートシンク12とが締結された後に放熱板2の下面方向から見たときに放熱板2と重なる位置の可撓性シート15の上下方向の厚さを、ケース8とヒートシンク12とが締結された後にケース8の底面と接触する位置の可撓性シート15の上下方向の厚さよりも小さくし、放熱部材14の上下方向の厚さは、ケース8とヒートシンク12とが締結された後に放熱板2の下面方向から見たときに放熱板2と重なる位置の可撓性シート15の上下方向の厚さよりも大きくする。例えば、ケース8とヒートシンク12とが締結される前において、ケース8とヒートシンク12とが締結された後に放熱板2と接触する位置の可撓性シート15の上下方向の厚さを、ケース8とヒートシンク12とが締結された後にケース8の底面と接触する位置の可撓性シート15の上下方向の厚さよりも小さくし、放熱部材14の上下方向の厚さは、ケース8とヒートシンク12とが締結された後に放熱板2と接触する位置の可撓性シート15の上下方向の厚さよりも大きくする。実施の形態3による半導体モジュールの可撓性シート15は例えば断面が階段状であり、ケース8とヒートシンク12とが締結される前において、ケース8とヒートシンク12とが締結された後に放熱板2と重なる位置にある段差部151の上下方向の厚さをt4としたときに、「t2>t4」かつ「t1+t2>t3」となるようにする。
【0030】
図16は、第三工程の後における実施の形態3による半導体モジュールを示す図である。実施の形態3による半導体モジュールの可撓性シート15は、実施の形態2による半導体モジュールの可撓性シート15と同様に、放熱板2と接触している位置における上下方向の厚さが、ケース8と接している位置における上下方向の厚さよりも小さくなる。第三工程においてネジ13によってケース8とヒートシンク12とが締結された後において、放熱部材14の上下方向の厚さをt21、ケース8とヒートシンク12とに挟まれた部分の可撓性シート15の上下方向の厚さをt31、放熱板2とヒートシンク12とに挟まれた部分の段差部151の上下方向の厚さをt41とすると、図16に示すように、t21=t41となり、t1+t21=t31となる。実施の形態3による半導体モジュールでは、可撓性シート15の厚さを締結に必要な分を保ったまま、放熱部材14の厚さを小さくすることができる。すなわち、ヒートシンク12と可撓性シート15とケース8と放熱板2と絶縁層3とで囲まれた空間が密閉されるとともに、実施の形態2による半導体モジュールに比べて放熱部材14の厚さを小さくすることができる。また、例えば、可撓性シート15の段差部151の位置を放熱板2の外周端の位置に合わせることにより、第三工程における設置の位置ずれを抑制することができる。
【0031】
本開示は、様々な例示的な実施の形態が記載されているが、1つまたは複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、本開示の技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0032】
1 半導体装置、2 放熱板、3 絶縁層、4 回路電極、5 半導体チップ、6 ワイヤ、7 端子、8 ケース、9 絶縁封止材、10a、10b 貫通穴、11 空隙、12 ヒートシンク、13 ネジ、14 放熱部材、15 可撓性シート、16 貫通穴、151 段差部。
【要約】
放熱部材のポンプアウトの発生を抑制する半導体モジュール。
放熱板(2)、放熱板(2)の上面に配置された絶縁層(3)、絶縁層(3)の上面に配置された回路電極(4)、回路電極(4)の上面に配置された半導体チップ(5)、放熱板(2)の下面を露出させて放熱板(2)の周囲を取り囲む枠状に形成され、半導体チップ(5)を囲むように絶縁層(3)の上面の周辺部に接するケース(8)を備えた半導体装置(1)と、ケース(8)に締結されたヒートシンク(12)と、ヒートシンク(12)の上面および放熱板(2)の下面に挟まれた放熱部材(14)と、放熱部材(14)の周囲を取り囲む枠状に形成され、ヒートシンク(12)の上面およびケース(8)の底面に挟まれた可撓性シート(15)とを備え、ヒートシンク(12)は可撓性シート(15)を介してケース(8)に締結されている。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図16