(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/00 20070101AFI20240906BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H02M1/00 K
H02M3/155 Z
(21)【出願番号】P 2024539649
(86)(22)【出願日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2023024610
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糸川 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】浦壁 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】原田 茂樹
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-232771(JP,A)
【文献】国際公開第2011/016199(WO,A1)
【文献】特開2019-092242(JP,A)
【文献】特開2022-59297(JP,A)
【文献】特開2015-154591(JP,A)
【文献】特開平8-088550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電圧が印加される一対の第1入出力端子と、
前記一対の第1入出力端子間に直列に接続される複数のスイッチング素子と、
前記複数のスイッチング素子をそれぞれオンオフ制御する複数の駆動回路と、
前記複数のスイッチング素子のうちの少なくとも1つのスイッチング素子にそれぞれ接続される少なくとも1つの調速回路とを備え、
前記複数のスイッチング素子の各々は、ゲート端子と、高電位側の第1主端子と、低電位側の第2主端子と、前記第1主端子および前記第2主端子間に逆並列接続されるダイオードとを有しており、対応する駆動回路から前記ゲート端子に印加されるゲート電圧によってオンオフされ、
各調速回路は、
対応するスイッチング素子の前記第1主端子と前記第2主端子との間に電気的に接続される蓄電要素と、
前記第1主端子と前記蓄電要素との間に、前記蓄電要素に電流が流れる方向に接続される整流要素と、
前記整流要素および前記蓄電要素の接続点と、前記対応するスイッチング素子の前記ゲート端子との間に電気的に接続される第1の抵抗要素とを含
み、
前記第1の抵抗要素の抵抗値は、前記対応するスイッチング素子の駆動回路に含まれるゲート抵抗の抵抗値よりも大きい、電力変換装置。
【請求項2】
前記各調速回路において、前記蓄電要素の端子間電圧は、前記対応するスイッチング素子のオフ状態における前記第1主端子および前記第2主端子間の電圧に保持され、
前記蓄電要素の端子間電圧に応じた電流が、前記第1の抵抗要素および前記ゲート端子を経由して、前記対応するスイッチング素子の前記駆動回路に流れ込むことにより、前記対応するスイッチング素子の前記ゲート端子に印加される前記ゲート電圧が上昇する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記一対の第1入出力端子間に直列接続される上アームおよび下アームを含むブリッジ回路と、
前記下アームの両端に接続され、前記第1電圧よりも低い第2電圧が印加される一対の第2入出力端子とをさらに備え、
前記複数のスイッチング素子は、
前記上アームを構成する複数の第1のスイッチング素子と、
前記下アームを構成する複数の第2のスイッチング素子とを含み、
前記少なくとも1つの調速回路は、前記複数の第1のスイッチング素子および前記複数の第2のスイッチング素子のうちの少なくとも1つにそれぞれ接続される、請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの調速回路は、
前記複数の第1のスイッチング素子のうちの少なくとも1つの第1のスイッチング素子にそれぞれ接続される少なくとも1つの第1の調速回路と、
前記複数の第2のスイッチング素子のうちの少なくとも1つの第2のスイッチング素子にそれぞれ接続される少なくとも1つの第2の調速回路とを含む、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記複数の第1のスイッチング素子の個数をaとし、前記少なくとも1つの第1の調速回路の個数をbとした場合において、bはa-1以上a以下であり、
前記複数の第2のスイッチング素子の個数をcとし、前記少なくとも1つの第2の調速回路の個数をdとした場合において、dはc-1以上c以下である、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
隣り合う2個の第1のスイッチング素子の第1の接続点に第1端が接続され、隣り合う2個の第2のスイッチング素子の第2の接続点に第2端が接続され、前記第1の接続点および前記第2の接続点間の電圧を保持するための少なくとも1つの第1の電圧保持要素をさらに備え、
各前記少なくとも1つの第1の電圧保持要素について、前記第1端が接続される前記第1の接続点と、前記第2端が接続される前記第2の接続点とは、前記上アームおよび前記下アームの接続点に対して対称性を有する、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記上アームおよび前記下アームの接続点に対して対称性を有する前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子のペアの個数をeとし、前記少なくとも1つの調速回路の個数をfとした場合において、fはe-1以上2e以下であり、
f=e-1の場合、前記各調速回路は、e-1個の前記ペアの各々において、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子のいずれか一方に接続される、請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記対応するスイッチング素子の
前記駆動回路
に含まれる前記ゲート抵抗は、
前記対応するスイッチング素子の前記ゲート端子に接続される、ターンオン用の第1のゲート抵抗と、
前記対応するスイッチング素子の前記ゲート端子に接続される、ターンオフ用の第2のゲート抵抗とを含み、
前記第2のゲート抵抗の抵抗値は、前記第1のゲート抵抗の抵抗値よりも大きい、請求項1から7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの調速回路の各々は、
前記整流要素および前記蓄電要素の接続点と、前記対応するスイッチング素子の前記ゲート端子との間に、前記第1の抵抗要素と直列に接続される少なくとも1つのツェナーダイオードをさらに含む、請求項1から
7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つの調速回路の各々は、
前記対応するスイッチング素子の前記ゲート端子と前記第2主端子との間に電気的に接続されるツェナーダイオードをさらに含む、請求項1から
7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つの調速回路の各々は、
前記対応するスイッチング素子の前記ゲート端子と前記第2主端子との間に電気的に接続される第2の抵抗要素をさらに含む、請求項1から
7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つの調速回路にそれぞれ対応して設けられ、前記対応するスイッチング素子の前記ゲート端子に印加される前記ゲート電圧のシフト量を保持するための少なくとも1つの保持回路をさらに備え、
各保持回路は、
前記対応するスイッチング素子の前記駆動回路と前記ゲート端子との間に接続される第2の電圧保持要素と、
前記第2の電圧保持要素に並列に接続される第2の抵抗要素とを含む、請求項1から
7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2000-36731号公報(特許文献1)には、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」とも称する)を直列接続して主回路アームを構成した電力変換装置が開示されている。直列接続した複数のスイッチング素子に同じゲート信号を入力し、各スイッチング素子のスイッチングのタイミングを揃えることにより、低電圧スイッチング素子の高速性と高い電圧定格とを実現している。
【0003】
しかしながら、上記電力変換装置では、各スイッチング素子またはゲートドライバの特性ばらつきに起因して複数のスイッチング素子のスイッチングのタイミングにばらつきがある場合には、複数のスイッチング素子に「電圧アンバランス」が生じてしまうことがある。「電圧アンバランス」とは、直列接続された複数のスイッチング素子Qに均等に電圧が負担されず、各スイッチング素子Qの出力電圧が不均衡になることである。電圧アンバランスはスイッチング素子の電圧破壊を招く可能性がある。
【0004】
特許文献1に記載される電力変換装置は、電圧アンバランスを各スイッチング素子に印加するゲート信号の遅れ時間調整で補正する補正回路を備えている。補正回路は、各スイッチング素子に印加するゲート信号を遅らせる遅れ時間発生回路と、各遅れ時間発生回路の次回のゲート信号の遅れ時間を調整する遅れ時間コントローラとを有する。遅れ時間コントローラは、各スイッチング素子のオフ状態の出力電圧を検出し、最も出力電圧の低いスイッチング素子との電圧差が所定値以上あるスイッチング素子に対して、遅れ発生回路の次回のゲート信号の遅れ時間を増加させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、SiC(炭化ケイ素)またはGaN(窒化ガリウム)等のように高速で駆動するスイッチング素子では、上述した補正回路によって、スイッチング素子の出力電圧を検出して、スイッチング素子に印加するゲート信号の遅れ時間を高速かつ高精度に調整することが難しい。このように特許文献1に記載される電力変換装置では、スイッチング素子の特性によっては、電圧バランスを適当に抑制することができないという課題がある。そのため、電力変換装置の設計時において安全率を高くとり、各スイッチング素子を必要以上に高耐圧としなければならない。このスイッチング素子の高耐圧化によって、スイッチング素子に発生する電力損失(スイッチング損失および導通損失)が増加してしまうことが懸念される。
【0007】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであって、その主たる目的は、直列接続された複数のスイッチング素子の電圧アンバランスを確実に抑制することができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一局面に従う電力変換装置は、第1電圧が印加される一対の第1入出力端子と、一対の第1入出力端子間に直列に接続される複数のスイッチング素子と、複数のスイッチング素子をそれぞれオンオフ制御する複数の駆動回路と、複数のスイッチング素子のうちの少なくとも1つのスイッチング素子にそれぞれ接続される少なくとも1つの調速回路とを備える。複数のスイッチング素子の各々は、ゲート端子と、高電位側の第1主端子と、低電位側の第2主端子と、第1主端子および第2主端子間に逆並列接続されるダイオードとを有している。各スイッチング素子は、対応する駆動回路からゲート端子に印加されるゲート電圧によってオンオフされる。各調速回路は、対応するスイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間に電気的に接続される蓄電要素と、第1主端子と蓄電要素との間に、蓄電要素に電流が流れる方向に接続される整流要素と、整流要素および蓄電要素の接続点と、対応するスイッチング素子のゲート端子との間に電気的に接続される第1の抵抗要素とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、直列接続された複数のスイッチング素子の電圧アンバランスを確実に抑制することができる電力変換装置を提供するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に従う電力変換装置の主回路構成図である。
【
図3】調速回路によるゲート電圧の上昇を説明する図である。
【
図4】実施の形態1の第1変形例に従う電力変換装置の主回路構成図である。
【
図5】実施の形態1の第2変形例に従う電力変換装置の主回路構成図である。
【
図6】実施の形態2に従う電力変換装置の主回路構成図である。
【
図7】スイッチング素子Q1のみがオンしている状態における電流経路を説明する図である。
【
図8】スイッチング素子Q2のみがオンしている状態における電流経路を説明する図である。
【
図9】実施の形態2の第1変形例に従う電力変換装置の主回路構成図である。
【
図10】実施の形態2の第2変形例に従う電力変換装置の主回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰り返さないものとする。
【0012】
実施の形態1.
<電力変換装置の構成例>
図1は、本開示の実施の形態1に従う電力変換装置の主回路構成図である。実施の形態1に従う電力変換装置100は、直流電源1と直流電源2との間で双方向の電力変換を行なうように構成されたチョッパ回路である。
【0013】
直流電源1は、電力変換装置100に直流電力を供給する。直流電源1は、種々のものにより構成することが可能であり、例えば、直流系統、太陽電池、蓄電池により構成することができる。または、直流電源1を、交流系統に接続された整流回路またはAC/DCコンバータにより構成してもよい。あるいは、直流電源1を、直流系統から出力される直流電力を所定の電力に変換するDC/DCコンバータによって構成してもよい。
【0014】
直流電源2は、電力変換装置100から供給される直流電力によって駆動する。直流電源2は、例えば、負荷である。直流電源2を、電力変換装置100から出力される直流電力を交流電力に変換して負荷に供給するDC/ACコンバータにより構成してもよい。
【0015】
電力変換装置100は、直流電源1と直流電源2との間で電力を伝送する。ある局面では、電力変換装置100は、直流電源1から入力される電圧V1を降圧して直流電源2に出力する。別の局面では、電力変換装置100は、直流電源2から入力される電圧V2を昇圧して直流電源1に出力する。
【0016】
図1に示すように、電力変換装置100は、一対の入出力端子T1,T2と、一対の入出力端子T3,T4と、正極電線PL1,PL2と、負極電線NL1と、直流リンクキャパシタ101と、ブリッジ回路110と、電流制御リアクトル102と、フィルタキャパシタ103とを備える。
【0017】
一対の入出力端子T1,T2は、直流電源1に接続されている。一対の入出力端子T1,T2には直流電源1の電圧V1が印加される。一対の入出力端子T3,T4は、直流電源2に接続されている。一対の入出力端子T3,T4には直流電源2の電圧V2が印加される。一対の入出力端子T1,T2は「一対の第1入出力端子」の一実施例に対応する。一対の入出力端子T3,T4は「一対の第2入出力端子」の一実施例に対応する。
【0018】
正極電線PL1は入出力端子T1に接続されている。負極電線NL1は入出力端子T2,T4に接続されている。直流リンクキャパシタ101は、正極電線PL1と負極電線NL1との間に接続され、平滑コンデンサとして機能する。
【0019】
ブリッジ回路110は、複数(本実施の形態では、4個)の電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」とも称する)Q1~Q4と、複数(本実施の形態では4個)の駆動回路(DC)150とを含む。
【0020】
複数のスイッチング素子Q1~Q4は、正極電線PL1と負極電線NL1との間に直列に接続されている。以下では、スイッチング素子Q1~Q4を特に区別しない場合には、総称して「スイッチング素子Q」と称することがある。
図1では、スイッチング素子Qとして、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いているが、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の任意の電圧駆動型の半導体素子を用いることができる。
【0021】
スイッチング素子Qは、高電位側の第1主端子であるドレインと、低電位側の第2主端子であるソースと、制御端子であるゲート端子と、ドレインおよびソース間に逆並列接続されるダイオードとを有する。以下では、ソースに対するゲート端子の電圧(ゲート-ソース間電圧)を「ゲート電圧Vgs」、ソースに対するドレインの電圧(ドレイン-ソース間電圧)を「ドレイン電圧Vds」と表記する。また、ドレイン電圧Vdsを「出力電圧」とも表記する。
【0022】
ダイオードは、対応するスイッチング素子Qのオフ時に還流電流(フリーホイール電流)を流すために設けられたフリーホイールダイオードである。スイッチング素子QがMOSFETである場合には、ダイオードは、寄生のダイオード(ボディダイオード)で構成してもよい。スイッチング素子Qがダイオードを内蔵しないIGBTである場合には、ダイオードは、IGBTに逆並列接続されたダイオードで構成される。
【0023】
スイッチング素子Q1のドレインは正極電線PL1に接続され、スイッチング素子Q1のソースはスイッチング素子Q2のドレインに接続されている。スイッチング素子Q2のソースはノードND1に接続されている。スイッチング素子Q3のドレインはノードND1に接続され、スイッチング素子Q3のソースはスイッチング素子Q4のドレインに接続されている。スイッチング素子Q4のソースは負極電線NL1に接続されている。すなわち、ノードND1は、スイッチング素子Q2およびスイッチング素子Q3の接続点に相当する。
【0024】
ブリッジ回路110において、正極電線PL1とノードND1との間に直列接続される2個のスイッチング素子Q1,Q2は「上アーム112」を構成し、ノードND1と負極電線NL1との間に直列接続される2個のスイッチング素子Q3,Q4は「下アーム114」を構成する。スイッチング素子Q1,Q2は「第1のスイッチング素子」の一実施例に対応する。スイッチング素子Q3,Q4は「第2のスイッチング素子」の一実施例に対応する。
図1の例では、各アームは2個のスイッチング素子Qで構成されているが、各アームを構成するスイッチング素子Qの個数は2以上であればよい。
【0025】
電流制御リアクトル102の第1端はノードND1に接続され、電流制御リアクトル102の第2端は正極電線PL2に接続されている。正極電線PL2は入出力端子T3に接続されている。すなわち、一対の入出力端子T3,T4は、下アーム114の両端に電気的に接続されている。本明細書において「電気的に接続」とは、直接的な接続、あるいは、他要素を介して接続によって電気エネルギーの伝達が可能な接続状態を示すものとする。
【0026】
フィルタキャパシタ103は、正極電線PL2と負極電線NL1との間に接続される。電流制御リアクトル102およびフィルタキャパシタ103はLCフィルタを構成する。
【0027】
複数の駆動回路150は、複数のスイッチング素子Q1~Q4にそれぞれ対応して設けられる。複数の駆動回路150は、コントローラ104と通信可能に接続される。
【0028】
コントローラ104は、予め定められたプログラムを実行する処理回路(図示せず)を含んで構成される。処理回路は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、および入出力インターフェイスを含んで構成される。メモリの一部領域にはプログラムが予め格納されており、CPUが当該プログラムを実行することで、電力変換装置100の動作を制御する。入出力インターフェイスは、処理回路の外部との間で、信号およびデータを入出力する。
【0029】
あるいは、処理回路の少なくとも一部については、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の回路を用いて構成することが可能である。または、処理回路の少なくとも一部について、アナログ回路によって構成することも可能である。
【0030】
コントローラ104には、直流リンクキャパシタ101の端子間電圧、フィルタキャパシタ103の端子間電圧、および電流制御リアクトル102に流れる電流の検出値を含む各種信号が入力される。コントローラ104は、入力された各種信号に基づいて、複数のスイッチング素子Q1~Q4のオンオフを制御するための制御信号であるゲート信号を生成する。具体的には、コントローラ104は、スイッチング素子Qがオンすべき期間においてH(論理ハイ)レベルのゲート信号を生成し、スイッチング素子Qがオフすべき期間においてL(論理ロー)レベルのゲート信号を生成する。
【0031】
複数の駆動回路150の各々は、コントローラ104から与えられるゲート信号に従って、対応するスイッチング素子Qを駆動することにより、スイッチング素子Qのオンオフを制御する。具体的には、各駆動回路150は、Hレベルのゲート信号に応答して、対応するスイッチング素子Qのゲート端子にオンゲート電圧Vgonを印加し、Lレベルのゲート信号に応答して、対応するスイッチング素子Qのゲート端子にオフゲート電圧Vgoffを印加するように構成される。
【0032】
オンゲート電圧Vgonは、スイッチング素子Qのゲート閾値電圧Vthよりも十分に高い電圧に設定される。オフゲート電圧Vgoffは、スイッチング素子Qのゲート閾値電圧Vthよりも低い電圧に設定される。なお、スイッチング素子Qのオフ状態において、ゲート電圧Vgsは、スイッチング素子Qのゲート閾値電圧Vthよりも低い(Vgs<Vth)。
【0033】
<電力変換装置の動作>
次に、
図1に示した電力変換装置100の動作について説明する。
【0034】
直流電源1から直流電源2に電力を伝送する場合には、電力変換装置100は、直流電源1から一対の入出力端子T1,T2に入力される直流電圧V1を降圧して、一対の入出力端子T3,T4を介して直流電源2に出力する。この場合、ブリッジ回路110の下アーム114を構成するスイッチング素子Q3,Q4はオフ状態に固定される。ブリッジ回路110の上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2は、コントローラ104からのゲート信号によってオンオフを同期制御する。
【0035】
具体的には、ゲート信号は、一定周波数fでHレベルおよびLレベルにされる。ゲート信号がHレベルにされるとスイッチング素子Q1,Q2がオンし、ゲート信号がLレベルにされるとスイッチング素子Q1,Q2がオフする。
【0036】
スイッチング素子Q1,Q2がオンされると、正極電線PL1からスイッチング素子Q1,Q2、電流制御リアクトル102、および直流電源2を介して負極電線NL1に至る経路に電流が流れ、直流電源2に電力が伝送されるとともに、電流制御リアクトル102に電磁エネルギーが蓄えられる。スイッチング素子Q1,Q2がオフされると、電流制御リアクトル102の第2端から直流電源2およびスイッチング素子Q3,Q4のダイオードを介して電流制御リアクトル102の第1端に至る経路で電流が流れ、直流電源2に電力が伝送されるとともに、電流制御リアクトル102の電磁エネルギーが放出される。ゲート信号がHレベルにされる時間と1周期(1/f)との比であるデューティ比を調整することにより、直流電源2の端子間電圧を所望の直流電圧に調整することが可能となっている。
【0037】
直流電源2から直流電源1に電力を伝送する場合には、電力変換装置100は、直流電源2から一対の入出力端子T3,T4に入力される直流電圧V2を昇圧して、一対の入出力端子T1,T2を介して直流電源1に出力する。この場合、ブリッジ回路110の上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2はオフ状態に固定される。ブリッジ回路110の下アーム114を構成するスイッチング素子Q3,Q4は、コントローラ104からのゲート信号によってオンオフを同期制御する。
【0038】
具体的には、ゲート信号は、一定周波数fでHレベルおよびLレベルにされる。ゲート信号がHレベルにされるとスイッチング素子Q3,Q4がオンし、ゲート信号がLレベルにされるとスイッチング素子Q3,Q4がオフする。
【0039】
スイッチング素子Q3,Q4がオンされると、直流電源2から正極電線PL2、電流制御リアクトル102およびスイッチング素子Q3,Q4を介して負極電線NL1に至る経路に電流が流れ、電流制御リアクトル102に電磁エネルギーが蓄えられる。スイッチング素子Q3,Q4がオフされると、電流制御リアクトル102からスイッチング素子Q3,Q4に流れていた電流が電流制御リアクトル102からスイッチング素子Q1,Q2のダイオードに転流され、正極電線PL1、および直流電源1を介して負極電線NL1に至る経路に電流が流れ、直流電源1に電力が伝送されるとともに、電流制御リアクトル102の電磁エネルギーが放出される。ゲート信号のデューティ比を調整することにより、直流電源1の電圧V1を所望の直流電圧に調整することが可能となっている。
【0040】
このように上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2のオンオフを同期制御するとともに、下アーム114を構成するスイッチング素子Q3,Q4のオンオフを同期制御することにより、電力変換装置100は、直流電源1と直流電源2との間で電力を伝送する。上アーム112および下アーム114の各々を、直列接続された複数のスイッチング素子Qで構成することにより、低耐圧のスイッチング素子で高耐圧特性を有するブリッジ回路110を実現することができる。
【0041】
しかしながら、一方で、複数のスイッチング素子Qを直列接続することにより、スイッチング素子Qおよび駆動回路150の特性差に起因して、複数のスイッチング素子Qに「電圧アンバランス」が生じる場合がある。「電圧アンバランス」とは、直列接続された複数のスイッチング素子Qに均等に電圧が負担されず、各スイッチング素子Qの出力電圧が不均衡になることである。
【0042】
例えば、上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2の間でターンオフのタイミングがずれたことによって、スイッチング素子Q1が先にオフし、スイッチング素子Q2がオンしている状態では、スイッチング素子Q1にのみ高い電圧がかかることになる。素子耐圧を超える電圧がスイッチング素子Q1にかかることで、スイッチング素子Q1が破壊されるおそれがある。
【0043】
このような電圧アンバランスを抑制するために、実施の形態1では、直列接続される複数のスイッチング素子Q1~Q4の少なくとも1つのスイッチング素子Qに調速回路120を接続する。
図1の例では、複数のスイッチング素子Q1~Q4の全てに調速回路120が接続されている。
【0044】
調速回路120は、対応するスイッチング素子Qの出力電圧に応じて、当該スイッチング素子Qのゲート電圧Vgsを上昇(シフト)させるように構成されている。ゲート電圧の上昇量(シフト量)ΔVgsは、駆動回路150からスイッチング素子Qのゲート端子に印加されるオンゲート電圧Vgonおよびオフゲート電圧Vgoffにそれぞれ加算される。これにより、オンゲート電圧Vgonおよびオフゲート電圧Vgoffが嵩上げされる。このオンゲート電圧Vgonおよびオフゲート電圧Vgoffの嵩上げによって、スイッチング素子Qのターンオンおよび/またはターンオフにおいて、スイッチング素子Qにゲート信号が与えられてから実際にスイッチング素子Qがスイッチングするまでの時間を調整することができる。
【0045】
<調速回路の構成例>
図2は、調速回路120の構成例を示す図である。
図2に示すように、調速回路120は、蓄電要素121と、整流要素122と、抵抗要素123とを含む。
【0046】
蓄電要素121は、スイッチング素子Qのドレインおよびソースの間に電気的に接続される。蓄電要素121は、例えば、コンデンサである。蓄電要素121は、例えば、スイッチング素子Qの出力容量と同程度の容量値を有する。なお、スイッチング素子Qの出力容量は、ゲート-ドレイン間容量とドレイン-ソース間容量との和に相当する。
【0047】
整流要素122は、スイッチング素子Qのドレインと蓄電要素121の第1端との間に接続される。すなわち、整流要素122および蓄電要素121は、スイッチング素子Qのドレインおよびソースの間に直列に接続される。整流要素122は、例えば、ダイオードである。整流要素122のアノードはスイッチング素子Qのドレインと接続され、整流要素122のカソードは蓄電要素121の第1端と接続される。すなわち、整流要素122は、蓄電要素121に電流が流れ込む方向に接続される。
【0048】
抵抗要素123は、整流要素122および蓄電要素121の接続点と、スイッチング素子Qのゲート端子との間に電気的に接続される。抵抗要素123の抵抗値は、駆動回路150に含まれるゲート抵抗Rgの抵抗値よりも大きい。抵抗要素123は、例えば数kΩの抵抗値を有する。抵抗要素123は「第1の抵抗要素」の一実施例に対応する。
【0049】
駆動回路150は、ゲートドライバ(GD)151と、ゲート抵抗Rgとを含む。ゲートドライバ151は、ゲート抵抗Rgを介してスイッチング素子Qのゲート端子に接続される。ゲートドライバ151は、コントローラ104(
図1)からゲート信号を受け、ゲート信号に従って、スイッチング素子Qのオンオフを制御する。ゲートドライバ151は、ゲート抵抗Rgの第1端と接続される。ゲート抵抗Rgの第2端は、スイッチング素子Qのゲート端子と接続される。
【0050】
ここで、
図2において、スイッチング素子Qがスイッチングする場合を想定する。
スイッチング素子Qがターンオフすると、スイッチング素子Qのドレイン電圧Vdsが上昇し始める。整流要素122および蓄電要素121の直列回路には、スイッチング素子Qのドレイン電圧Vdsが印加される。整流要素122を介して蓄電要素121に電流が流れ込むことにより、蓄電要素121に電荷が蓄えられる。この蓄電要素121の充電により、蓄電要素121の端子間電圧は、スイッチング素子Qのドレイン電圧Vdsと等しい電圧まで上昇する。
【0051】
続いてスイッチング素子Qがターンオンされると、ドレイン電圧Vdsは低下し始める。ただし、整流要素122の作用により、蓄電要素121に蓄えられている電荷は放電されず、その結果、蓄電要素121の端子間電圧は低下しない。すなわち、蓄電要素121の端子間電圧は、スイッチング素子Qのオフ状態のときのドレイン電圧Vdsに保持される。したがって、電圧アンバランスによってスイッチング素子Qのドレイン電圧Vds(出力電圧)が上昇すると、この出力電圧の上昇に従って蓄電要素121の端子間電圧も上昇することになる。
【0052】
蓄電要素121の端子間電圧が上昇すると、
図2中に矢印A1で示すように、蓄電要素121から抵抗要素123、スイッチング素子Qのゲート端子、ゲート抵抗Rg、およびゲートドライバ151を介してスイッチング素子Qのソースに至る経路で電流が流れる。ゲート抵抗Rgの電圧降下分に相当する電圧が、スイッチング素子Qのゲート端子およびソース間に印加される。その結果、ゲート抵抗Rgの電圧降下分だけゲート電圧Vgsが上昇(シフト)する。
【0053】
図3は、調速回路120によるゲート電圧Vgsの上昇を説明する図である。
図3には、スイッチング素子Qのゲート電圧Vgsの波形が示されている。図中の点線は、調速回路120が接続されていないスイッチング素子Qのゲート電圧Vgsの波形を示している。図中の実線は、調速回路120が接続されているスイッチング素子Qのゲート電圧Vgsの波形を示している。
【0054】
点線で示されるゲート電圧Vgsの波形に着目すると、時刻t1にてスイッチング素子Q1のゲート端子にオンゲート電圧Vgonが印加されると、スイッチング素子Qの入力容量を充電しながらゲート電圧Vgsが上昇する。スイッチング素子Qの入力容量は、ゲート-ソース間容量とゲート-ドレイン間容量との和に相当する。ゲート電圧Vgsがゲート閾値電圧Vthを超えると(時刻t2)、スイッチング素子Qがターンオンし始める。スイッチング素子Qがターンオンし始めると、ドレイン電圧Vdsが下がり始める。ゲート電圧Vgsは、オンゲート電圧Vgonまで上昇する。
【0055】
時刻t3にてスイッチング素子Q1のゲート端子にオフゲート電圧Vgoffが印加されると、スイッチング素子Qのゲート-ソース間容量が放電されるため、ゲート電圧Vgsが徐々に低下する。ゲート電圧Vgsがゲート閾値電圧Vth未満になると(時刻t4)、スイッチング素子Qがターンオフし始める。スイッチング素子Qがターンオフし始めると、ドレイン電圧Vdsが上がり始める。ゲート電圧Vgsは、オフゲート電圧Vgoffまで低下する。以下では、スイッチング素子Qがターンオンするタイミング(時刻t2)からターンオフするタイミング(時刻t4)までの時間を「オン時間Ton」と称する。
【0056】
図2で説明したように、スイッチング素子Qに調速回路120を接続した構成では、ゲート抵抗Rgの電圧降下分だけゲート電圧Vgsが上昇する。なお、ゲート電圧の上昇量ΔVgsは、蓄電要素121の端子間電圧が大きくなるほど、すなわち、オフ状態のスイッチング素子Qの出力電圧が大きくなるほど大きくなる。
【0057】
実線で示されるゲート電圧Vgsの波形を参照して、ゲート電圧の上昇量ΔVgsは、スイッチング素子Qのゲート端子に印加されるオフゲート電圧Vgoffおよびオンゲート電圧Vgonに加算される。これにより、オンゲート電圧Vgonおよびオフゲート電圧Vgoffが嵩上げされる。その結果、時刻t2よりも早い時刻t5にてゲート電圧Vgsがゲート閾値電圧Vthを超えて、スイッチング素子Qがターンオンし始める。また、時刻t4よりも遅い時刻t6にてゲート電圧Vgsがゲート閾値電圧Vth未満となり、スイッチング素子Qがターンオフし始める。
【0058】
このようにスイッチング素子Qに調速回路120を接続したことにより、スイッチング素子Qがターンオンするタイミングが早められるとともに、スイッチング素子Qがターンオフするタイミングが遅らされる。その結果、調速回路120を接続したスイッチング素子Qのオン時間Tonは、調速回路120を接続しないスイッチング素子Qのオン時間Tonよりも長くなる。なお、図示は省略するが、調速回路120は、スイッチング素子Qがターンオンするタイミングを早める、または、スイッチング素子Qがターンオフするタイミングを遅らせることによって、スイッチング素子Qのオン時間Tonを長くする構成としてもよい。
【0059】
調速回路120が接続されるスイッチング素子Qのオン時間Tonの長さは、ゲート電圧の上昇量ΔVgsに依存する。ゲート電圧の上昇量ΔVgsが大きくなるほど、スイッチング素子Qのオン時間Tonが長くなる。上述したように、ゲート電圧の上昇量ΔVgsは、蓄電要素121の端子間電圧(オフ状態のスイッチング素子Qの出力電圧)が大きくなるほど大きくなる。したがって、蓄電要素121の端子間電圧(オフ状態のスイッチング素子Qの出力電圧)が大きくなるに従って、スイッチング素子Qのオン時間Tonが長くなる。反対に、蓄電要素121の端子間電圧(オフ状態のスイッチング素子Qの出力電圧)が小さくなるに従って、スイッチング素子Qのオン時間Tonが短くなる。
【0060】
ここで、上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2に電圧アンバランスが生じている場合を想定する。以下では、スイッチング素子Q1のドレイン電圧VdsをVds1とし、スイッチング素子Q2のドレイン電圧VdsをVds2とする。また、スイッチング素子Q1のオン時間TonをTon1とし、スイッチング素子Q2のオン時間TonをTon2とする。
【0061】
オフ状態のスイッチング素子Q1,Q2において、Vds1>Vds2の関係が存在している場合には、スイッチング素子Q1,Q2の各々に接続された調速回路120によって、スイッチング素子Q1,Q2のオン時間Tonに、Ton1>Ton2の関係が生成される。
【0062】
Ton1>Ton2となる場合には、スイッチング素子Q1,Q2のオンオフを同期制御するときに、スイッチング素子Q1がオンする一方で、スイッチング素子Q2がオフしている時間が生じる。この時間にはスイッチング素子Q2にのみ高い電圧がかかることになる。したがって、Vds2が上昇するとともに、Vds1が下降する。これにより、Vds1およびVds2の差が小さくなり、スイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスが抑制される。
【0063】
なお、Vds2が上昇したことによって、Vds1<Vds2の関係が生じた場合には、上述した動作とは対照的に、調速回路120によって、スイッチング素子Q1,Q2のオン時間Tonに、Ton1<Ton2の関係が生成される。したがって、スイッチング素子Q1,Q2のオンオフを同期制御するときに、スイッチング素子Q2がオンする一方で、スイッチング素子Q1がオフしている時間が生じるため、スイッチング素子Q1にのみ高い電圧がかかることになる。その結果、Vds1が上昇するとともに、Vds2が下降する。Vds1およびVds2の差が小さくなるため、スイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスが抑制される。
【0064】
下アーム114を構成するスイッチング素子Q3,Q4に電圧アンバランスが生じている場合においても同様に、スイッチング素子Q3,Q4の各々に接続されている調速回路120によって、電圧アンバランスを抑制することができる。
【0065】
<実施の形態1の効果>
以上説明したように、実施の形態1に従う電力変換装置100によれば、直列接続される複数のスイッチング素子Qの各々に調速回路120を接続したことにより、オフ状態のスイッチング素子Qの出力電圧の上昇に応じてスイッチング素子Qのゲート電圧の上昇量ΔVgsを増やして、スイッチング素子Qのオン時間Tonを長くすることができる。
【0066】
これによると、複数のスイッチング素子Qに電圧アンバランスが生じている場合には、出力電圧が大きいスイッチング素子Qのオン時間Tonが、出力電圧が小さいスイッチング素子Qのオン時間Tonよりも長くなるため、出力電圧が小さいスイッチング素子Qの電圧負担を増やすことができる。この結果、複数のスイッチング素子Qの電圧アンバランスを抑制することができる。
【0067】
また、実施の形態1に従う電力変換装置100によれば、特許文献1に記載される電力変換装置と比較して、各スイッチング素子に印加するゲート信号の遅れ時間を調整するための補正回路(遅れ時間発生回路および遅れ時間コントローラ)が不要となる。したがって、高速で駆動する複数のスイッチング素子の電圧アンバランスを抑制することが可能となる。これによると、電力変換装置の設計時に、安全率を考慮して各スイッチング素子の耐圧を必要以上に大きくすることを抑制することができる。その結果、各スイッチング素子に生じる電力損失の増加を抑制して、電力変換効率を向上させることができる。
【0068】
実施の形態1の第1変形例.
実施の形態1では、直列接続される複数のスイッチング素子Q1~Q4の各々に調速回路120を接続する構成例について説明したが、スイッチング素子Q1~Q4の少なくとも1つのスイッチング素子に調速回路120を接続する構成としても、当該少なくとも1つのスイッチング素子を含むアームに生じる電圧アンバランスを抑制することができる。
【0069】
図4は、実施の形態1の第1変形例に従う電力変換装置の主回路構成図である。第1変形例に従う電力変換装置100は、
図1に示した電力変換装置100とは、1個のスイッチング素子Qにのみ調速回路120が接続されている点が異なる。
図4の例では、スイッチング素子Q1にのみ調速回路120が接続されているが、スイッチング素子Q2~Q4のいずれか1つに調速回路120を接続する構成としてもよい。
【0070】
図4の例では、調速回路120の作用により、スイッチング素子Q1のドレイン電圧Vds1の上昇に応じて、スイッチング素子Q1のゲート電圧Vgsが上昇する。スイッチング素子Q1のゲート電圧の上昇量ΔVgsは、ドレイン電圧Vds1に応じて変化する。そして、このゲート電圧の上昇量ΔVgsに応じて、スイッチング素子Q1のオン時間Ton1の長さが変化する。
【0071】
したがって、上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2のドレイン電圧Vdsに、Vds1>Vds2の関係が存在する場合には、スイッチング素子Q1,Q2のオン時間Tonに、Ton1>Ton2の関係が生じる。これによると、スイッチング素子Q1,Q2のオンオフを同期制御するときに、スイッチング素子Q1がオンする一方で、スイッチング素子Q2がオフしている時間が生じ、スイッチング素子Q2にのみ高い電圧がかかることになる。Vds2が上昇するとともにVds1が下降することにより、スイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスが抑制される。
【0072】
また、Vds1が下降するととともにVds2が上昇するに従って、スイッチング素子Q1のゲート電圧の上昇量ΔVgsが減少するため、スイッチング素子Q1のオン時間Ton1が短くなる。これにより、Ton1とTon2との差が小さくなるため、スイッチング素子Q2にのみ高い電圧がかかる時間が短くなる。その結果、Vds2の上昇が抑制される。このようにしてスイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスが抑制される。
【0073】
なお、
図4の例では、下アーム114を構成するスイッチング素子Q3,Q4には調速回路120が接続されていないため、スイッチング素子Q3,Q4のゲート電圧Vgsを上昇させることができない。したがって、スイッチング素子Q3,Q4の電圧アンバランスを抑制することができない。ただし、スイッチング素子Q3,Q4をオフ状態に固定する態様(直流電源1から直流電源2に電力を伝送する態様)に限定して電力変換装置100を使用する場合には、
図4に示した構成例を適用することが考えられる。
【0074】
実施の形態1の第2変形例.
実施の形態1では、各アームが2個のスイッチング素子Qの直列回路により構成されるブリッジ回路110を備える電力変換装置100について説明した。ただし、電力変換装置100が、各アームが3個以上のスイッチング素子Qの直列回路により構成されるブリッジ回路110を備える構成においても、電圧アンバランスを抑制することができる。
【0075】
図5は、実施の形態1の第2変形例に従う電力変換装置の主回路構成図である。第2変形例に従う電力変換装置100は、
図1に示した電力変換装置100とは、ブリッジ回路110の構成が異なる。
【0076】
図5に示すように、ブリッジ回路110は、6個のスイッチング素子Q1~Q6と、6個の駆動回路150とを含む。6個のスイッチング素子Q1~Q6は、正極電線PL1と負極電線NL1との間に直列に接続されている。
【0077】
スイッチング素子Q1のドレインは正極電線PL1に接続され、スイッチング素子Q1のソースはスイッチング素子Q2のドレインに接続されている。スイッチング素子Q2のソースはスイッチング素子Q3のドレインに接続されている。スイッチング素子Q3のソースはノードND1に接続されている。スイッチング素子Q4のドレインはノードND1に接続され、スイッチング素子Q4のソースはスイッチング素子Q5のドレインに接続されている。スイッチング素子Q5のソースはスイッチング素子Q6のドレインに接続されている。スイッチング素子Q6のソースは負極電線NL1に接続されている。すなわち、ノードND1は、スイッチング素子Q3およびスイッチング素子Q4の接続点に相当する。
【0078】
ブリッジ回路110において、正極電線PL1とノードND1との間に直列接続される3個のスイッチング素子Q1~Q3は上アーム112を構成し、ノードND1と負極電線NL1との間に直列接続される3個のスイッチング素子Q4~Q6は下アーム114を構成する。スイッチング素子Q1~Q3は「第1のスイッチング素子」の一実施例に対応し、スイッチング素子Q4~Q6は「第2のスイッチング素子」の一実施例に対応する。
【0079】
6個の駆動回路150は、6個のスイッチング素子Q1~Q6にそれぞれ対応して設けられる。複数の駆動回路150は、コントローラ104と通信可能に接続される。各駆動回路150は、コントローラ104から与えられるゲート信号に従って、対応するスイッチング素子Qを駆動することにより、スイッチング素子Qのオンオフを制御する。
【0080】
第2変形例に従う電力変換装置100の動作は、実施の形態1に従う電力変換装置100の動作と基本的に同じである。すなわち、直流電源1から直流電源2に電力を伝送する場合には、ブリッジ回路110の下アーム114を構成するスイッチング素子Q4~Q6はオフ状態に固定される。ブリッジ回路110の上アーム112を構成するスイッチング素子Q1~Q3は、コントローラ104からのゲート信号によってオンオフを同期制御する。直流電源2から直流電源1に電力を伝送する場合には、ブリッジ回路110の上アーム112を構成するスイッチング素子Q1~Q3はオフ状態に固定される。ブリッジ回路110の下アーム114を構成するスイッチング素子Q4~Q6は、コントローラ104からのゲート信号によってオンオフを同期制御する。
【0081】
上アーム112を構成するスイッチング素子Qの個数をaとし、当該のスイッチング素子Qに接続される調速回路120の個数をbとした場合において、bはa-1以上a以下であることが好ましい。ただし、aは2以上の整数である。
図5の例では、上アーム112を構成する3個のスイッチング素子Q1~Q3の全てに調速回路120を接続することができる。あるいは、3個のスイッチング素子Q1~Q3のうちの2個のスイッチング素子Qに調速回路120を接続することができる。
【0082】
上アーム112において、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点n1の電圧と、スイッチング素子Q2とスイッチング素子Q3との接続点n2の電圧とは互いに独立に変動する。接続点n1の電圧は、主にスイッチング素子Q1のドレイン電圧Vdsに応じて変動する。接続点n2の電圧は、主にスイッチング素子Q3のドレイン電圧Vdsに応じて変動する。
【0083】
接続点n1の電圧変動に対応するためには、スイッチング素子Q1,Q2の少なくとも一方に調速回路120を接続する必要がある。接続点n2の電圧変動に対応するためには、スイッチング素子Q2,Q3の少なくとも一方に調速回路120を接続する必要がある。ただし、スイッチング素子Q2にのみ調速回路120を接続する構成では、互いに独立する接続点n1,n2の電圧変動に対応することができない。したがって、
図5に示すように、上アーム112におけるスイッチング素子Qの接続点の個数に相当する数の調速回路120が必要となる。
【0084】
下アーム114においても同様に、下アーム114を構成するスイッチング素子Qの個数をcとし、当該スイッチング素子Qに接続される調速回路120の個数をdとした場合において、dはc-1以上c以下であることが好ましい。ただし、cは2以上の整数である。
図5の例では、下アーム114を構成する3個のスイッチング素子Q4~Q6の全てに調速回路120を接続することができる。あるいは、3個のスイッチング素子Q4~Q6のうちの2個のスイッチング素子Qに調速回路120を接続することができる。なお、上アーム112に接続される調速回路120の個数bと、下アーム114に接続される調速回路120の個数dとは必ずしも一致していなくてもよい。
【0085】
実施の形態2.
図6は、実施の形態2に従う電力変換装置100の主回路構成図である。
図6に示すように、実施の形態2に従う電力変換装置100は、
図1に示した実施の形態1に従う電力変換装置100とは、電圧保持要素105を備える点が異なる。
【0086】
電圧保持要素105の第1端は、スイッチング素子Q1およびスイッチング素子Q2の接続点n1に接続される。電圧保持要素105の第2端は、スイッチング素子Q3およびスイッチング素子Q4の接続点n3に接続される。電圧保持要素105は、例えば、コンデンサである。電圧保持要素105の容量は、直流リンクキャパシタ101の容量よりも小さい。電圧保持要素105は、蓄電池で構成されてもよい。
【0087】
電圧保持要素105は、接続点n1および接続点n3の間に直列に接続されるスイッチング素子Q2,Q3のドレイン電圧Vds(出力電圧)の和を保持する作用を有する。また、直流リンクキャパシタ101が直流電源1の電圧(スイッチング素子Q1~Q4のドレイン電圧Vds(出力電圧)の和に相当)を保持する作用を有することから、電圧保持要素105は、副次的にスイッチング素子Q2,Q3のドレイン電圧Vds(出力電圧)の和を保持する作用を有する。電圧保持要素105は、後述するように、調速回路120とともに、スイッチング素子Q1~Q4の電圧アンバランスを抑制する効果を奏する。電圧保持要素105は「第1の電圧保持要素」の一実施例に対応する。
【0088】
実施の形態2に従う電力変換装置100の動作は、実施の形態1に従う電力変換装置100と同じである。すなわち、上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2のオンオフを同期制御するとともに、下アーム114を構成するスイッチング素子Q3,Q4のオンオフを同期制御することにより、電力変換装置100は、直流電源1と直流電源2との間で電力を伝送する。
【0089】
ただし、
図6に示す電力変換装置100は、スイッチング素子Q1,Q2をオンする第1のモードと、スイッチング素子Q1,Q3をオンする第2のモードと、スイッチング素子Q3,Q4をオンする第3のモードとを切り替えて実行することにより、V1(直流電源1の電圧),V1/2,0の3レベルの直流電圧を直流電源2に出力することも可能である。
【0090】
ここで、
図6に示す電力変換装置100において、上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2に電圧アンバランスが生じている場合を想定する。以下では、スイッチング素子Q1のドレイン電圧VdsをVds1とし、スイッチング素子Q2のドレイン電圧VdsをVds2とする。また、スイッチング素子Q1のオン時間TonをTon1とし、スイッチング素子Q2のオン時間TonをTon2とする。
【0091】
オフ状態のスイッチング素子Q1,Q2において、Vds1>Vds2の関係が存在している場合には、スイッチング素子Q1,Q2の各々に接続された調速回路120によって、スイッチング素子Q1,Q2のオン時間Tonに、Ton1>Ton2の関係が生成される。これにより、スイッチング素子Q1,Q2のオンオフを同期制御するときに、スイッチング素子Q1がオンする一方で、スイッチング素子Q2がオフしている時間が生じる。この時間、電力変換装置100には、
図7に示すような電流経路が形成される。
【0092】
図7は、スイッチング素子Q1のみがオンしている状態における電流経路を説明する図である。
図7に示すように、スイッチング素子Q1がオンし、スイッチング素子Q2がオフしている。スイッチング素子Q3,Q4はオフ状態に固定されている。この場合、
図7中に矢印A2で示すように、正極電線PL1からスイッチング素子Q1、電圧保持要素105、スイッチング素子Q3のダイオード、電流制御リアクトル102、および直流電源2を介して負極電線NL1に至る経路に電流が流れる。この電流によって電圧保持要素105に電荷が蓄えられ、電圧保持要素105の端子間電圧が上昇する。そして、電圧保持要素105の端子間電圧の上昇に伴って、ターンオフ後のスイッチング素子Q1のドレイン電圧Vds1が下降する。これにより、スイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスが抑制される。
【0093】
なお、オフ状態のスイッチング素子Q1のドレイン電圧Vds1が下降すると、スイッチング素子Q1に接続される調速回路120の作用により、スイッチング素子Q1のゲート電圧の上昇量ΔVgsが減少する。Vds1とVds2とが均衡し、スイッチング素子Q1のオン時間Ton1がスイッチング素子Q2のオン時間Ton2に等しくなることにより、
図7に示す電流が流れなくなる。
【0094】
反対に、オフ状態のスイッチング素子Q1,Q2において、Vds1<Vds2の関係が存在している場合には、スイッチング素子Q1,Q2の各々に接続された調速回路120によって、スイッチング素子Q1,Q2のオン時間Tonに、Ton1<Ton2の関係が生成される。これにより、スイッチング素子Q1,Q2のオンオフを同期制御するときに、スイッチング素子Q1がオフする一方で、スイッチング素子Q2がオンしている時間が生じる。この時間、電力変換装置100には、
図8に示すような電流経路が形成される。
【0095】
図8は、スイッチング素子Q2のみがオンしている状態における電流経路を説明する図である。
図8に示すように、スイッチング素子Q1がオフし、スイッチング素子Q2がオンしている。スイッチング素子Q3,Q4はオフ状態に固定されている。この場合、
図8中に矢印A3で示すように、電圧保持要素105からスイッチング素子Q2、電流制御リアクトル102、直流電源2、負極電線NL1、およびスイッチング素子Q4のダイオードを介して電圧保持要素105に至る経路に電流が流れる。この電流によって電圧保持要素105に蓄えられていた電荷が放出され、電圧保持要素105の端子間電圧が下降する。そして、電圧保持要素105の端子間電圧の下降によって、ターンオフ後のスイッチング素子Q2のドレイン電圧Vds2が下降する。これにより、スイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスが抑制される。
【0096】
オフ状態のスイッチング素子Q2のドレイン電圧Vds2が下降すると、スイッチング素子Q2に接続される調速回路120の作用により、スイッチング素子Q2のゲート電圧の上昇量ΔVgsが減少する。Vds1とVds2とが均衡し、スイッチング素子Q2のオン時間Ton2がスイッチング素子Q1のオン時間Ton1に等しくなることにより、
図8に示す電流が流れなくなる。
【0097】
<実施の形態2の効果>
以上説明したように、実施の形態2に従う電力変換装置100によれば、スイッチング素子Q2,Q3の出力電圧の和を保持する電圧保持要素105を設けたことにより、スイッチング素子Q1,Q2に電圧アンバランスが生じた場合に、調速回路120の作用によって電圧保持要素105の充電または放電が行なわれる。電圧保持要素105の端子間電圧が上昇または下降することに伴って、スイッチング素子Q1,Q2の出力電圧が上昇または下降することにより、スイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスが抑制される。
【0098】
スイッチング素子Q3,Q4に電圧アンバランスが生じた場合においても同様に、調速回路120の作用によって電圧保持要素105の充電または放電が行なわれる。電圧保持要素105の端子間電圧が上昇または下降することに伴って、スイッチング素子Q3,Q4の出力電圧が上昇または下降することにより、スイッチング素子Q3,Q4の電圧アンバランスが抑制される。
【0099】
実施の形態1に従う電力変換装置100では、調速回路120がスイッチング素子Q1,Q2のオン時間Tonに長短を生じさせることで、スイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスを抑制することができる。
【0100】
これに対して、実施の形態2に従う電力変換装置100では、スイッチング素子Q1,Q2のオン時間Tonの長短に応じて電圧保持要素105の充電または放電が行なわれることによって、スイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスをより効率的に抑制することができる。
【0101】
実施の形態2の第1変形例.
図9は、実施の形態2の第1変形例に従う電力変換装置100の主回路構成図である。第1変形例に従う電力変換装置100は、
図6に示した電力変換装置100とは、1個のスイッチング素子Qにのみ調速回路120が接続されている点が異なる。
図9の例では、スイッチング素子Q1にのみ調速回路120が接続されているが、スイッチング素子Q2~Q4のいずれか1つに調速回路120を接続する構成としてもよい。
【0102】
図9に示す電力変換装置100は、
図4に示した電力変換装置100に電圧保持要素105を追加したものである。
図4に示した電力変換装置100では、スイッチング素子Q1にのみ調速回路120を接続したことで、上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスを抑制することができる。
【0103】
これに対して、
図9に示す電力変換装置100では、電圧保持要素105が、スイッチング素子Q2,Q3の出力電圧の和を保持するとともに、副次的にスイッチング素子Q1、Q4の出力電圧の和を保持する作用を有するため、上アーム112を構成するスイッチング素子Q1,Q2の電圧アンバランスだけでなく、下アーム114を構成するスイッチング素子Q3,Q4の電圧アンバランスも抑制することができる。
【0104】
具体的には、スイッチング素子Q3,Q4の電圧アンバランスは、電圧保持要素105の端子間電圧の上昇または下降となって現れる。そして、この電圧保持要素105の端子間電圧の上昇または下降は、スイッチング素子Q1のドレイン電圧Vdsを上昇または下降させる。スイッチング素子Q1に接続される調速回路120がドレイン電圧Vdsの上昇または下降を抑制するように動作することにより、結果的にスイッチング素子Q3,Q4の電圧アンバランスを抑制することができる。
【0105】
実施の形態2の第2変形例.
実施の形態2では、各アームが2個のスイッチング素子Qの直列回路により構成されるブリッジ回路110を備える電力変換装置100について説明した。ただし、電力変換装置100が、各アームが3個以上のスイッチング素子Qの直列回路により構成されるブリッジ回路110を備える構成においても、電圧アンバランスを抑制することができる。
【0106】
図10は、実施の形態2の第2変形例に従う電力変換装置100の主回路構成図である。第2変形例に従う電力変換装置100は、
図8に示した電力変換装置100とは、ブリッジ回路110の構成が異なる。
【0107】
図10に示すように、ブリッジ回路110は、6個のスイッチング素子Q1~Q6と、6個の駆動回路150とを含む。6個のスイッチング素子Q1~Q6は、正極電線PL1と負極電線NL1との間に直列に接続されている。
【0108】
電力変換装置100は、電圧保持要素105,106を備える。電圧保持要素105の第1端は、スイッチング素子Q1およびスイッチング素子Q2の接続点n1に接続される。電圧保持要素105の第2端は、スイッチング素子Q5およびスイッチング素子Q6の接続点n4に接続される。電圧保持要素106の第1端は、スイッチング素子Q2およびスイッチング素子Q3の接続点n2に接続される。電圧保持要素106の第2端は、スイッチング素子Q4およびスイッチング素子Q5の接続点n3に接続される。すなわち、電圧保持要素105の第1端と第2端とは、上アーム112および下アーム114の接続点であるノードND1に対して対称性を有している。電圧保持要素106の第1端と第2端とは、上アーム112および下アーム114の接続点であるノードND1に対して対称性を有している。
【0109】
電圧保持要素105,106は、例えば、コンデンサである。電圧保持要素105,106の容量は、直流リンクキャパシタ101の容量よりも小さい。電圧保持要素105,106は、蓄電池で構成されてもよい。ブリッジ回路110に接続される電圧保持要素の個数は、ブリッジ回路110の各アームを構成するスイッチング素子Qの接続点の個数に等しい。電圧保持要素1-5,106は「第1の電圧保持要素」の一実施例に対応する。
【0110】
電圧保持要素105は、接続点n1および接続点n4の間に直列に接続されるスイッチング素子Q2~Q5のドレイン電圧Vds(出力電圧)の和を保持する作用を有する。電圧保持要素106は、接続点n2および接続点n3の間に直列に接続されるスイッチング素子Q3,Q4のドレイン電圧Vds(出力電圧)の和を保持する作用を有する。電圧保持要素106は、副次的にスイッチング素子Q2,Q5のドレイン電圧Vdsの和を保持する作用を有する。電圧保持要素106は、副次的にスイッチング素子Q1,Q6のドレイン電圧Vdsの和を保持する作用を有する。電圧保持要素105,106は、調速回路120とともに、スイッチング素子Q1~Q4の電圧アンバランスを抑制する効果を奏する。
【0111】
第2変形例に従う電力変換装置100の動作は、実施の形態2に従う電力変換装置100の動作と基本的に同じである。すなわち、直流電源1から直流電源2に電力を伝送する場合には、ブリッジ回路110の下アーム114を構成するスイッチング素子Q4~Q6はオフ状態に固定される。ブリッジ回路110の上アーム112を構成するスイッチング素子Q1~Q3は、コントローラ104からのゲート信号によってオンオフを同期制御する。直流電源2から直流電源1に電力を伝送する場合には、ブリッジ回路110の上アーム112を構成するスイッチング素子Q1~Q3はオフ状態に固定される。ブリッジ回路110の下アーム114を構成するスイッチング素子Q4~Q6は、コントローラ104からのゲート信号によってオンオフを同期制御する。
【0112】
上アーム112および下アーム114の接続点であるノードND1に対して対称性を有する2個のスイッチング素子Qのペアの個数をeとし、ブリッジ回路110に接続される調速回路120の個数をfとした場合において、fはe-1以上2e以下であることが好ましい。ただし、eは2以上の整数である。さらに、f=e-1の場合には、各調速回路120は、e-1個のペアの各々において、2個のスイッチング素子Qのいずれか一方に接続されることが好ましい。
【0113】
図10に示すようにノードND1に対して対称性を有する2個のスイッチング素子Qのペアの個数eが3である場合には、調速回路120の個数fは2以上6以下であることが好ましい。
【0114】
図10には、f=e-1のときの調速回路120の接続例が示されている。この接続例では、スイッチング素子Q1,Q6のペアの一方のスイッチング素子Q6と、スイッチング素子Q3,Q4のペアの一方のスイッチング素子Q4に調速回路120が接続されている。なお、調速回路120が接続されるe-1個のペアは、e個のペアから任意に選択することができる。
【0115】
上アーム112において、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点n1の電圧と、スイッチング素子Q2とスイッチング素子Q3との接続点n2の電圧とは互いに独立に変動する。
図5で説明したように、接続点n1,n2の電圧変動に対応するためには、スイッチング素子Q1~Q3の接続点の個数に相当する数(すなわち、2個)の調速回路120が必要である。下アーム114においても同様に、接続点n3,n4の電圧変動に対応するためには、スイッチング素子Q4~Q6の接続点の個数に相当する数(すなわち、2個)の調速回路120が必要である。
【0116】
しかしながら、
図10に示す電力変換装置100において、電圧保持要素105,106の各々は、ノードND1に対して対称性を有する2個のスイッチング素子Qのペアのドレイン電圧Vds(出力電圧)の和を保持する作用を有している。そのため、1つのペアを構成する2個のスイッチング素子Qの一方のスイッチング素子Qの出力電圧の上昇または下降は、他方のスイッチング素子Qの下降または上昇となって現れる。一方のスイッチング素子Qに調速回路120を接続することで、この調速回路120の作用によって当該スイッチング素子Qの出力電圧の上昇が抑制されると、これに伴って他方のスイッチング素子Qの出力電圧の下降が抑制されることになる。このようにして調速回路120の個数が2である場合においても、電圧保持要素105,106の作用により、スイッチング素子Q1~Q6の電圧アンバランスを抑制することが可能となる。
【0117】
実施の形態3.
実施の形態3では、調速回路120の他の構成例について説明する。以下に説明する調速回路120のいくつかの構成例は、その組み合わせを含めて、上述した実施の形態1,2および変形例に従う電力変換装置100の調速回路120について、不都合または矛盾が生じない範囲内で適宜適用することができる。
【0118】
図11は、調速回路120の第1変形例を示す図である。
図11に示すように、第1変形例に従う調速回路120は、
図2に示した調速回路120とは、複数のツェナーダイオード124を含む点が異なる。
図11の例では、調速回路120は、4個のツェナーダイオード124を含んでいるが、ツェナーダイオード124の個数は4以外の複数または単数であってもよい。
【0119】
複数のツェナーダイオード124は、整流要素122および蓄電要素121の接続点とスイッチング素子Qのゲート端子との間に、抵抗要素123と直列に接続される。複数のツェナーダイオード124は、スイッチング素子Qのゲート電圧Vgsをクランプする。
【0120】
第1変形例では、蓄電要素121から抵抗要素123、複数のツェナーダイオード124、ゲート抵抗Rg、およびゲートドライバ151を介してスイッチング素子Qのソースに至る経路で電流が流れる。ゲート抵抗Rgの電圧降下分に相当する電圧だけゲート電圧Vgsが上昇(シフト)する。複数のツェナーダイオード124は、上昇したゲート電圧Vgsを保持する。
【0121】
図12は、調速回路120の第2変形例を示す図である。
図12に示すように、第2変形例に従う調速回路120は、
図2に示した調速回路120とは、ツェナーダイオード125を含む点が異なる。
【0122】
ツェナーダイオード125のアノードはスイッチング素子Qのゲート端子に接続され、ツェナーダイオード125のカソードはスイッチング素子Qのソースに接続される。なお、
図12の例では、調速回路120は、1個のツェナーダイオード125を含んでいるが、ツェナーダイオード125の個数は複数であってもよい。複数のツェナーダイオード125は、スイッチング素子Qのゲート端子とソースとの間に直列に接続される。
【0123】
第2変形例では、蓄電要素121から抵抗要素123、ゲート抵抗Rg、およびゲートドライバ151を介してスイッチング素子Qのソースに至る経路で電流が流れる。ゲート抵抗Rgの電圧降下分に相当する電圧だけゲート電圧Vgsが上昇(シフト)する。ツェナーダイオード125は、ゲート電圧Vgsを保持する。
【0124】
図13は、調速回路120の第3変形例を示す図である。
図13に示すように、第4構成例に従う調速回路120は、
図12に示した第3構成例に従う調速回路120におけるツェナーダイオード125を抵抗要素126に置き換えたものである。抵抗要素126は、ツェナーダイオード125と同じく、ゲート電圧Vgsを保持する作用を有する。なお、ツェナーダイオード125および抵抗要素126の直列回路をスイッチング素子Qのゲート端子およびソースの間に接続する構成としてもよい。
【0125】
実施の形態4.
実施の形態4では、駆動回路150の他の構成例について説明する。以下に説明する駆動回路150の構成例は、上述した実施の形態1,2および変形例に従う電力変換装置100の駆動回路150について、不都合または矛盾が生じない範囲内で適宜適用することができる。
【0126】
図14は、駆動回路150の第1変形例を示す図である。
図14に示すように、第1変形例に従う駆動回路150は、
図2に示した駆動回路150とは、ゲート抵抗Rgに代えて、オンゲート抵抗Rgon、オフゲート抵抗Rgoff、およびダイオードDgを含む点が異なる。
【0127】
オンゲート抵抗Rgonの第1端はゲートドライバ151に接続され、オンゲート抵抗Rgonの第2端はダイオードDgのアノードに接続される。ダイオードDgのカソードはスイッチング素子Qのゲート端子に接続される。
【0128】
オフゲート抵抗Rgoffの第1端はゲートドライバ151に接続され、オフゲート抵抗Rgoffの第2端はスイッチング素子Qのゲート端子に接続される。オンゲート抵抗RgonおよびダイオードDgの直列回路とオフゲート抵抗Rgoffとは、ゲートドライバ151とスイッチング素子Qのゲート端子との間に並列に接続される。オンゲート抵抗Rgonは「第1のゲート抵抗」の一実施例に対応し、オフゲート抵抗Rgoffは「第2のゲート抵抗」の一実施例に対応する。
【0129】
ゲートドライバ151は、オンゲート抵抗RgonおよびダイオードDgを介してスイッチング素子Qのゲート端子にオンゲート電圧Vgonを印加する。ゲートドライバ151は、オフゲート抵抗Rgoffを介してスイッチング素子Qのゲート端子にオフゲート電圧Vgoffを印加する。
【0130】
第1変形例では、オフゲート抵抗Rgoffの抵抗値を、オンゲート抵抗Rgonの抵抗値よりも大きくする。このようにすると、スイッチング素子Qのオフ状態において、蓄電要素121から抵抗要素123、オフゲート抵抗Rgoff、およびゲートドライバ151を介してスイッチング素子Qのソースに至る経路で電流が流れる場合に、オフゲート抵抗Rgoffの電圧降下分を大きくすることができる。これにより、スイッチング素子Qのゲート電圧の上昇量ΔVgsが大きくなるため、スイッチング素子Qの出力電圧に応じたオン時間Tonの調整が行ないやすくなる。
【0131】
図15は、駆動回路150の第2変形例を示す図である。
図15に示すように、第2変形例に従う駆動回路150は、
図2に示した駆動回路150とは、電圧保持回路170を含む点が異なる。
【0132】
電圧保持回路170は、電圧保持要素172と、抵抗要素174と、ツェナーダイオード176とを含む。電圧保持要素172の第1端はスイッチング素子Qのゲート端子に接続され、電圧保持要素172の第2端はゲート抵抗Rgの第1端に接続される。ゲート抵抗Rgの第2端はゲートドライバ151に接続される。電圧保持要素172は、例えば、コンデンサである。電圧保持要素172は「第2の電圧保持要素」の一実施例に対応する。
【0133】
抵抗要素174の第1端は、電圧保持要素172の第1端および抵抗要素123の第1端に接続される。抵抗要素174の第2端は、電圧保持要素172の第2端に接続される。抵抗要素174は「第2の抵抗要素」の一実施例に対応する。
【0134】
ツェナーダイオード126のアノードはゲート抵抗Rgの第1端に接続され、ツェナーダイオード125のカソードはスイッチング素子Qのゲート端子に接続される。なお、
図15の例では、電圧保持回路170は、1個のツェナーダイオード126を含んでいるが、ツェナーダイオード126の個数は複数であってもよい。複数のツェナーダイオード126は、スイッチング素子Qのゲート端子とゲート抵抗Rgの間に直列に接続される。
【0135】
第2変形例では、蓄電要素121から抵抗要素123、電圧保持回路170、ゲート抵抗Rg、およびゲートドライバ151を介してスイッチング素子Qのソースに至る経路で電流が流れる。電圧保持回路170およびゲート抵抗Rgの電圧降下分の和に相当する電圧が、スイッチング素子Qのゲート端子およびソース間に印加されることにより、電圧保持回路170およびゲート抵抗Rgの電圧降下分の和だけゲート電圧Vgsが上昇(シフト)する。電圧保持回路170の電圧保持要素172は、ゲート電圧の上昇量ΔVgsを保持する作用を有する。抵抗要素174は、蓄電要素121から駆動回路150に流れ込む電流の大きさを制限するための電流制限要素として機能する。ツェナーダイオード176は、電圧保持要素172の端子間電圧がツェナーダイオード176の降伏電圧以上にならないように保持する作用を有する。
【0136】
なお、上述した実施の形態1,2では、電力変換装置100として、直流電源1および直流電源2の間で電力を伝送するチョッパ回路について説明したが、本開示に従う電力変換装置100は、ブリッジ回路110を有する構成であればよい。電力変換装置100は、例えば、2個のブリッジ回路110が並列に接続された単相インバータ回路、または、3個のブリッジ回路110が並列に接続された三相インバータ回路であってもよい。
【0137】
また、本開示は、その開示の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせるなど、各実施の形態を適宜変形および省略することが可能である。
【0138】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。矛盾のない限り、今回開示された実施の形態の少なくとも2つを組み合わせてもよい。本開示により示される技術的範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0139】
1,2 直流電源、100 電力変換装置、101 直流リンクキャパシタ、102 電流制御リアクトル、103 フィルタキャパシタ、104 コントローラ、105,106,172 電圧保持要素、110 ブリッジ回路、112 上アーム、114 下アーム、120 調速回路、121 蓄電要素、122 整流要素、123,126,174 抵抗要素、124,125,176 ツェナーダイオード、150 駆動回路、151 ゲートドライバ、170 電圧保持回路、PL1,PL2 正極電線、NL1 負極電源、Q,Q1~Q6 スイッチング素子、Rg ゲート抵抗、Rgon オンゲート抵抗、Rgoff オフゲート抵抗、Dg ダイオード、T1~T4 入出力端子、Ton オン時間。
【要約】
電力変換装置(100)は、一対の第1入出力端子(T1,T2)間に直列に接続される複数のスイッチング素子(Q)と、複数の駆動回路(150)と、複数のスイッチング素子(Q)のうちの少なくとも1つのスイッチング素子にそれぞれ接続される少なくとも1つの調速回路(120)とを備える。各スイッチング素子(Q)は、対応する駆動回路(120)からゲート端子に印加されるゲート電圧によってオンオフされる。各調速回路(120)は、対応するスイッチング素子(Q)の第1主端子と第2主端子との間に電気的に接続される蓄電要素(121)と、第1主端子と蓄電要素(121)との間に、蓄電要素(121)に電流が流れる方向に接続される整流要素(122)と、整流要素(122)および蓄電要素(121)の接続点と、対応するスイッチング素子(Q)のゲート端子との間に電気的に接続される第1の抵抗要素(123)とを含む。