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特許7551059コンタクトレンズ用モノマー組成物、コンタクトレンズ用重合体及びその製造方法、並びにコンタクトレンズ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】コンタクトレンズ用モノマー組成物、コンタクトレンズ用重合体及びその製造方法、並びにコンタクトレンズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20240909BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20240909BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240909BHJP
   C08G 77/395 20060101ALI20240909BHJP
   C08G 77/30 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
G02C7/04
C08F220/36
C08F290/06
C08G77/395
C08G77/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021516091
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016975
(87)【国際公開番号】W WO2020218220
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019083615
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】高島 柊
(72)【発明者】
【氏名】小林 滉
(72)【発明者】
【氏名】五反田 龍矢
(72)【発明者】
【氏名】岩切 規郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 陽介
(72)【発明者】
【氏名】原田 英治
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110534(JP,A)
【文献】特開平07-268038(JP,A)
【文献】特表2012-530052(JP,A)
【文献】特開2004-175830(JP,A)
【文献】特開2013-139567(JP,A)
【文献】特表2014-505067(JP,A)
【文献】国際公開第2019/194264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマーと、
(B)下記式(2)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルモノマーと、
(C)水酸基を1個以上有するトリメチルシロキシリル基含有シリコーンモノマーと、
(D)水酸基を1個以上有するモノビニルエーテルモノマーと、
(E)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、
(F)架橋剤として働くモノマーと、
(G)前記(A)~(F)成分以外のモノマーと、を含有する組成物であり、
前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が10~50質量%であり、(B)成分の含有割合が5~20質量%であり、(C)成分の含有割合が5~40質量%であり、(D)成分の含有割合が5~40質量%であり、(E)成分の含有割合が5~30質量%であり、(F)成分の含有割合が0.1~15質量%であり、且つ(G)成分の含有割合が0~50質量%である、
コンタクトレンズ用モノマー組成物。
【化1】
[式(1)中、aは20から500の整数を示す。bは1から70の整数を示す。cは0又は1を示す。pとqはそれぞれ0又は1を示す。Xは-CH-又は-CHCH-を表す。]
【化2】
【請求項2】
前記組成物が、さらに(H)水酸基を有する溶媒を含有し、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量部に対して、(H)成分の含有割合が30質量部以下である、
請求項1に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項3】
以下の構成単位の重合性不飽和基の重合反応物である、重合体
(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマー
(B)下記式(2)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルモノマー
(C)水酸基を1個以上有するトリメチルシロキシリル基含有シリコーンモノマー
(D)水酸基を1個以上有するモノビニルエーテルモノマー
(E)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上の水酸基含有モノマー
(F)架橋剤として働くモノマー。
【化3】
[式(1)中、aは20から500の整数を示す。bは1から70の整数を示す。cは0又は1を示す。pとqはそれぞれ0又は1を示す。Xは-CH-又は-CHCH-を表す。]
【化4】
【請求項4】
さらに、(H)水酸基を有する溶媒を構成単位として含む、請求項3に記載の重合体。
【請求項5】
前記重合体の重合前の構成単位の合計100質量%に対して、(A)の含有割合が10~50質量%であり、(B)の含有割合が5~20質量%であり、(C)の含有割合が5~40質量%であり、(D)の含有割合が5~40質量%であり、(E)の含有割合が5~30質量%であり、及び(F)の含有割合が0.1~15質量%である、
請求項4に記載の重合体。
【請求項6】
請求項3に記載の重合体の水和物からなる、
コンタクトレンズ。
【請求項7】
請求項3~5のいずれか1に記載の重合体と、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、および2-プロパノールから選択される1種以上の溶媒とを混合し、前記重合体を洗浄する工程と、
前記重合体を生理食塩水に浸漬して水和させる工程と、を有する、
コンタクトレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用モノマー組成物、当該組成物の重合体とその製造方法、並びに当該重合体の水和物からなるコンタクトレンズとその製造方法に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2019-083615号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、酸素透過性の高いことから眼への負担が少ない。一方で、シリコーンハイドロゲルは、疎水性のシリコーンを含むことにより濡れ性や潤滑性が不足しやすい。よって、表面改質法による表面親水化や硬化前のレンズ組成物中に親水性高分子を混合することによる表面親水化が検討されている。現在、光学的透明性と所望の潤滑性を有し、酸素透過性が高いシリコーンハイドロゲルレンズを提供する様々な方法が存在する。
【0003】
特許文献1では、MPCと水酸基を有するポリシロキサンモノマーSiGMAのランダム共重合によって製造されるシリコーンハイドロゲルが開示されている。
【0004】
一般にシリコーンハイドロゲルレンズへのホスホリルコリン基の導入において、MPCを共重合に使用する場合、シリコーンハイドロゲル骨格における高親水性のMPC部位と疎水性シリコーン部位の相分離を克服する必要がある。そのため、シリコーンハイドロゲルレンズを安定に製造するためにはまだ改善の余地が残されている。
【0005】
特許文献2では、ホスホリルコリン類似基をシリコーン鎖の両末端に導入したポリシロキサンモノマーが開示されている。また、特許文献3及び特許文献4では、両末端にホスホリル基を導入したポリシロキサンモノマーが開示されている。これらの構造を有するポリシロキサンモノマーにおいては、主鎖のポリジメチルシロキサン部が変性されていないため、親水性モノマーとの相溶性及び得られるレンズの透明性の面で必ずしも十分な性能が得られているとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-197513号
【文献】WO2010/147779
【文献】WO2001/057047
【文献】WO2012/104349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、普及しているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは一定期間ごとに交換が必要であり、交換期間としては1日おきに交換するものや2週間または1ヶ月の間等がある。交換期間が長いものについては同じレンズを繰り返し装用して使用するため、繰り返し使用したときにレンズの形状が変化しないことが重要になる。
【0008】
コンタクトレンズの形状安定性についてはコンタクトレンズのモジュラス及び破断伸びが大きく関わる。しかしながら、ポリシロキサンモノマーを使用したコンタクトレンズでは、レンズ表面の表面親水性及び酸素透過性の点で良好であるものの、モジュラス及び破断伸びについては改善の余地があった。
【0009】
そこで本発明の課題は、ポリシロキサンモノマーを使用して重合体を作製し、良好な表面親水性、酸素透過性を示し、かつモジュラス及び破断伸びの点に優れたコンタクトレンズ用モノマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマー、モノビニルエーテルモノマー等を含有するモノマー組成物が、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の一形態によれば、(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマーと、(B)下記式(2)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルモノマーと、(C)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するトリメチルシロキシリル基含有シリコーンモノマーと、(D)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するモノビニルエーテルモノマーと、(E)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、(F)架橋剤とを含有する組成物であり、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が10~50質量%であり、(B)成分の含有割合が5~20質量%であり、(C)成分の含有割合が5~40質量%であり、(D)成分の含有割合が5~40質量%であり、(E)成分の含有割合が5~30質量%であり、且つ(F)成分の含有割合が0.1~15質量%である、コンタクトレンズ用モノマー組成物が提供される。
本発明の一形態によれば、(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマーと、(B)下記式(2)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルモノマーと、(C)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するトリメチルシロキシリル基含有シリコーンモノマーと、(D)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するモノビニルエーテルモノマーと、(E)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、(F)架橋剤と、(G)上記(A)~(F)成分以外のモノマーと、を含有する組成物であり、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が10~50質量%であり、(B)成分の含有割合が5~20質量%であり、(C)成分の含有割合が5~40質量%であり、(D)成分の含有割合が5~40質量%であり、(E)成分の含有割合が5~30質量%であり、(F)成分の含有割合が0.1~15質量%であり、且つ(G)成分の含有割合が0~50質量%である、コンタクトレンズ用モノマー組成物が提供される。
加えて、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)及び(G)成分の含有割合(質量比)は、100:10~200:10~400:10~400:10~300:1~150:0~500であってもよい。
【0012】
【化1】
【0013】
式(1)中、aは20から500の整数を示す。bは1から70の整数を示す。cは0又は1を示す。pとqはそれぞれ0又は1を示す。Xは-CH-又は-CHCH-を表す。
【0014】
【化2】
【0015】
本発明の他の形態によれば、上記コンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体からなるコンタクトレンズ用重合体が提供される。
【0016】
本発明の更なる形態によれば、上記コンタクトレンズ用重合体の水和物からなるコンタクトレンズ、及びその製造方法が提供される。
【0017】
すなわち、本発明は次の通りである。
1.(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマーと、
(B)下記式(2)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルモノマーと、
(C)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するトリメチルシロキシリル基含有シリコーンモノマーと、
(D)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するモノビニルエーテルモノマーと、
(E)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、
(F)架橋剤と、
(G)前記(A)~(F)成分以外のモノマーと、を含有する組成物であり、
前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が10~50質量%であり、(B)成分の含有割合が5~20質量%であり、(C)成分の含有割合が5~40質量%であり、(D)成分の含有割合が5~40質量%であり、(E)成分の含有割合が5~30質量%であり、(F)成分の含有割合が0.1~15質量%であり、且つ(G)成分の含有割合が0~50質量%である、
コンタクトレンズ用モノマー組成物。
【化3】
[式(1)中、aは20から500の整数を示す。bは1から70の整数を示す。cは0又は1を示す。pとqはそれぞれ0又は1を示す。Xは-CH-又は-CHCH-を表す。]
【化4】
2.前記組成物が、さらに(H)水酸基を有する溶媒を含有し、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量部に対して、(H)成分の含有割合が30質量部以下である、
前項1に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物。
3.前項1又は2に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体からなる、
コンタクトレンズ用重合体。
4.前項3に記載のコンタクトレンズ用重合体の水和物からなる、
コンタクトレンズ。
5.前項3に記載のコンタクトレンズ用重合体と、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、および2-プロパノールから選択される1種以上の溶媒とを混合し、前記重合体を洗浄する工程と、
前記重合体を生理食塩水に浸漬して水和させる工程と、を有する、
コンタクトレンズの製造方法。
6.以下のモノマー組成物を重合する工程を有するコンタクトレンズ用重合体の製造方法。
(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマーと、
(B)下記式(2)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルモノマーと、
(C)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するトリメチルシロキシリル基含有シリコーンモノマーと、
(D)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するモノビニルエーテルモノマーと、
(E)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、
(F)架橋剤と、
(G)前記(A)~(F)成分以外のモノマーと、を含有する組成物であり、
ここで、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が10~50質量%であり、(B)成分の含有割合が5~20質量%であり、(C)成分の含有割合が5~40質量%であり、(D)成分の含有割合が5~40質量%であり、(E)成分の含有割合が5~30質量%であり、(F)成分の含有割合が0.1~15質量%であり、且つ(G)成分の含有割合が0~50質量%である。
【化5】
[式(1)中、aは20から500の整数を示す。bは1から70の整数を示す。cは0又は1を示す。pとqはそれぞれ0又は1を示す。Xは-CH-又は-CHCH-を表す。]
【化6】
7.前記組成物が、さらに(H)水酸基を有する溶媒を含有し、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量部に対して、(H)成分の含有割合が30質量部以下である、前項6に記載のコンタクトレンズ用重合体の製造方法。
8.以下のモノマー組成物をコンタクトレンズ用重合体の製造としての使用。
(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマーと、
(B)下記式(2)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルモノマーと、
(C)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するトリメチルシロキシリル基含有シリコーンモノマーと、
(D)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するモノビニルエーテルモノマーと、
(E)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、
(F)架橋剤と、
(G)前記(A)~(F)成分以外のモノマーと、を含有する組成物であり、
ここで、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が10~50質量%であり、(B)成分の含有割合が5~20質量%であり、(C)成分の含有割合が5~40質量%であり、(D)成分の含有割合が5~40質量%であり、(E)成分の含有割合が5~30質量%であり、(F)成分の含有割合が0.1~15質量%であり、且つ(G)成分の含有割合が0~50質量%である。
【化7】
[式(1)中、aは20から500の整数を示す。bは1から70の整数を示す。cは0又は1を示す。pとqはそれぞれ0又は1を示す。Xは-CH-又は-CHCH-を表す。]
【化8】
9.前記組成物が、さらに(H)水酸基を有する溶媒を含有し、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量部に対して、(H)成分の含有割合が30質量部以下である、前項8に記載のコンタクトレンズ用重合体の製造としての使用。
10.以下のモノマー組成物をコンタクトレンズ用重合体としての使用。
(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマーと、
(B)下記式(2)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルモノマーと、
(C)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するトリメチルシロキシリル基含有シリコーンモノマーと、
(D)分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するモノビニルエーテルモノマーと、
(E)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、
(F)架橋剤と、
(G)前記(A)~(F)成分以外のモノマーと、を含有する組成物であり、
ここで、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が10~50質量%であり、(B)成分の含有割合が5~20質量%であり、(C)成分の含有割合が5~40質量%であり、(D)成分の含有割合が5~40質量%であり、(E)成分の含有割合が5~30質量%であり、(F)成分の含有割合が0.1~15質量%であり、且つ(G)成分の含有割合が0~50質量%である。
【化9】
[式(1)中、aは20から500の整数を示す。bは1から70の整数を示す。cは0又は1を示す。pとqはそれぞれ0又は1を示す。Xは-CH-又は-CHCH-を表す。]
【化10】
11.前記組成物が、さらに(H)水酸基を有する溶媒を含有し、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量部に対して、(H)成分の含有割合が30質量部以下である、前項10に記載のコンタクトレンズ用重合体としての使用。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコンタクトレンズは、本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物を用いて製造されるため、優れた表面親水性、モジュラス、破断伸び及び酸素透過係数を同時に示し得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物は、必須のモノマー成分として後述する(A)~(F)成分を含有し、更に任意のモノマー成分として(G)成分を含有していてもよく、更に任意の溶媒成分として(H)成分を含有していてもよい。
本発明のコンタクトレンズ用重合体は、本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体から得られる。また、本発明のコンタクトレンズは、本発明のコンタクトレンズ用重合体から得られる。加えて、本発明のコンタクトレンズは、本発明のコンタクトレンズ用重合体の水和物であっても良い。以下、本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物を単に組成物と称する。また、本発明のコンタクトレンズ用重合体を単に重合体と称する。
なお、本発明での「破断伸びに優れる」とは、数値は特に限定されないが、好ましくは実施例で詳述する機械的強度測定において破断伸びが250%以上のものを意味する。また、「親水性に優れる」とは、数値は特に限定されないが、好ましくは実施例で詳述するWBUT(water film break up time)の評価において30秒以上のものを意味する。また、「酸素透過性に優れる」とは、数値は特に限定されないが、好ましくは実施例で詳述する酸素透過性測定において酸素透過係数が75以上のものを意味する。
【0020】
(A)成分は、下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマーである。(A)成分は、製造されるコンタクトレンズの酸素透過性及び表面親水性の向上に寄与する成分である。本発明のホスホリルコリン基含有ポリシロキサンモノマーの数平均分子量は2,000~50,000であればよく、好ましくは4,600~42,000である。
【0021】
【化11】
【0022】
式中、aは20から500の整数を示す。bは1から70の整数を示す。cは0又は1を示す。pとqはそれぞれ0又は1を示す。Xは-CH-又は-CHCH-を表す。
a及びbは上記の範囲内であれば特に限定されないが、aは20~500、好ましくは50~300、より好ましくは80~200であり、bは1~70、好ましくは2~40、より好ましくは3~15である。
【0023】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(A)成分の含有割合は10~50質量%であり、好ましくは15~50質量%であり、さらに好ましくは25~40質量%である。(A)成分の含有割合が10質量%未満であると、製造されるコンタクトレンズの酸素透過性が不十分になる懸念がある。一方、50質量%を超えると、コンタクトレンズが白濁する場合がある。
なお、本発明において、「モノマー成分」は分子内に1つ以上の重合性不飽和基を有する成分を意味する。即ち、「モノマー成分」は(A)~(F)及び(G)成分を包含し、(H)成分を包含しない。
【0024】
(B)成分は、下記式(2)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルモノマーであり、具体的には2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)である。(B)成分は、製造されるコンタクトレンズの表面親水性と潤滑性の向上に寄与する成分である。
【0025】
【化12】
【0026】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(B)成分の含有割合は5~20質量%であり、好ましくは8~15質量%である。(B)成分の含有割合が5質量%未満であると、十分な表面親水性が得られない。一方、20質量%を超えると、(B)成分を組成物中に溶解させることが困難となり、また、コンタクトレンズのモジュラス(引張応力)の増加が懸念される。
【0027】
(C)成分は、分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するトリメチルシロキシリル基含有シリコーンモノマーである。(C)成分は、製造されるコンタクトレンズの酸素透過性の向上および透明性に寄与する成分である。
(C)成分の具体例としては、4-(2-ヒドロキシエチル)=1-[3-トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]=2-メチリデンスクシネート、2-ヒドロキシ-3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]プロピルメタクリレート等が挙げられるが、好ましくは4-(2-ヒドロキシエチル)=1-[3-トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]=2-メチリデンスクシネート、2-ヒドロキシ-3-[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]プロピルメタクリレートであり、より好ましくは4-(2-ヒドロキシエチル)=1-[3-トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]=2-メチリデンスクシネートである。
【0028】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(C)成分の含有割合は5~40質量%であり、好ましくは10~20質量%である。(C)成分の含有割合が5質量%未満であると、(B)成分の溶解が困難となる可能性や、製造されるコンタクトレンズ用重合体が白濁する可能性がある。一方、40質量%を超えると、コンタクトレンズの表面親水性が不十分となる懸念がある。
【0029】
(D)成分は、分子内に少なくとも水酸基を1個以上有するモノビニルエーテルモノマーである。(D)成分は、製造されるコンタクトレンズの表面親水性と破断伸びの向上に寄与する成分である。
【0030】
(D)成分の具体例としては、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられるが、好ましくはエチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルであり、より好ましくはエチレングリコールモノビニルエーテルである。
【0031】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(D)成分の含有割合は5~40質量%であり、好ましくは10~20質量%である。(D)成分の含有割合が5質量%未満であると、破断伸びが不十分になる懸念がある。製造されるコンタクトレンズ用重合体が白濁する可能性がある。一方、40質量%を超えると、重合性が悪化して、本発明の効果が十分に得られない懸念がある。
【0032】
(E)成分は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上の水酸基含有モノマーである。好ましくはヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート及び/又はヒドロキシブチルメタクリレートであり、より好ましくはヒドロキシプロピルメタクリレート及び/又はヒドロキシブチルメタクリレートである。(E)成分を所定量含有することにより、本発明の組成物中への(B)成分の溶解が良好となる。(B)成分の当該溶解性の点で、(E)成分の水酸基は1級水酸基であることが好ましい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。
【0033】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(E)成分の含有割合は5~30質量%であり、好ましくは5~15質量%である。(E)成分の含有割合が5質量%未満であると、本発明の組成物が均一透明液体とならず、本発明の効果が十分に得られない懸念がある。一方、30質量%を超えると、コンタクトレンズの酸素透過性が低下する懸念がある。
【0034】
(F)成分は、(A)~(E)成分のモノマーの重合反応時に架橋剤として働く。(F)成分は通常2つ以上の重合性不飽和基を有する。本発明の組成物は所定量の(F)成分を含有するため、本発明の重合体は架橋構造を有し、そのため本発明のコンタクトレンズは優れたモジュラスを示す。
【0035】
(F)成分の具体例としては、下記式(3)で表されるシリコーンジメタクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(アルキレンの炭素数2~6)、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(アルキレンの炭素数2~4)、ジビニルスルホン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アリルメタクリレート、(2-アリルオキシ)エチルメタクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、式(3)で表されるシリコーンジメタクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、及びテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、トリエチレングリコールジビニルエーテル、及びテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。(F)成分は、これら架橋剤のいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよいが、2種以上を混合したものが好ましく、トリエチレングリコールジビニルエーテルとテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを質量比で1/4~4/1(1:4~4:1)の混合物であるものがさらに好ましく、1/2~2/1(1:2~2:1)の混合物であるものが特に好ましい。
【0036】
【化13】
【0037】
式(3)中、p及びrは互いに等しく、0又は1である。qはジメチルシロキサン部の繰り返し数を表し、10~70である。式(3)で表されるシリコーンジメタクリレートは繰り返し数qが異なる複数の化合物の混合物であってよい。この場合、qは数平均分子量における平均値であり、入手性の面から10~70の範囲内である。
【0038】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(F)成分の含有割合は0.1~15質量%であり、好ましくは0.5~5質量%であり、さらに好ましくは1~3質量%である。(F)成分の含有割合が0.1質量%未満であると、重合体の耐溶媒性が低下し、重合体の洗浄時に破損するおそれがある。15質量%を超えると、コンタクトレンズが脆く破損が生じる懸念があり、またモジュラスが高くなりすぎて装用感が悪化する場合がある。
【0039】
(G)成分は、(A)~(F)成分以外のモノマーである。(G)成分は任意成分であり、コンタクトレンズ中の含水率の調整等を目的として配合することができる。
(G)成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド及びN-メチルアセトアミド等のアミド基含有モノマーが挙げられる。
(G)成分は、これらのモノマーのいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0040】
(G)成分を含有する場合、その含有量は、本発明の組成物中の全モノマー成分の全量基準で50質量%以下であり、0~50質量%、0.01~50質量%、0.1~50質量%、1~50質量%、10~50質量%であってもよい。50質量%以下であれば、(A)成分の本発明の組成物中への溶解性が良好であり、本発明の効果をバランス良く得ることができる
【0041】
(H)成分は水酸基を有する溶媒であり、カルボン酸やアルコールであってよい。(H)成分はコンタクトレンズのモジュラス及び形状の安定化を目的として配合することができる。(H)成分の具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、tert-アミルアルコール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-デカノール、1-ドデカノール、グリコール酸、乳酸、酢酸等が挙げられる。(H)成分はこれら溶媒のいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。入手性及びpH安定性の点において、(H)成分はエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び1-ヘキサノールから選ばれる1種以上からなるのが好ましい。
【0042】
本発明の組成物が(H)成分を含有する場合、組成物中の全てのモノマー成分の合計を100質量部としたとき、(H)成分の含有割合は30質量部以下であり、好ましくは20質量部以下である。30質量部以下であれば、コンタクトレンズのモジュラス及び形状をバランスよく保持できる。
【0043】
本発明の組成物は、上記(A)~(H)成分に加え、重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤は公知のものであってよく、好ましくは熱重合開始剤である。熱重合開始剤を用いると、重合途中の温度変化による各モノマー成分の共重合性の変化が容易である。熱重合開始剤の例としては、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドレート、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジハイドレート、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジヒドロクロライド、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-{1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾ系重合開始剤や、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシヘキサノエート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は単独で使用してよく、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうち、安全性と入手性の点でアゾ系重合開始剤が好ましく、反応性の点から2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、及び2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が特に好ましい。
【0044】
添加する重合開始剤の量は、組成物中の全てのモノマー成分の合計を100質量部としたとき、0.1~3質量部であり、好ましくは0.1~2質量部であり、より好ましくは0.2~1質量部である。0.1~3質量部の範囲であれば、本発明のモノマー組成物の重合物を容易に得ることができる。
【0045】
本発明の組成物は、上記(A)~(H)成分及び重合開始剤に加え、本発明の目的を阻害しない範囲で、重合性紫外線吸収剤、重合性色素(着色剤)等の添加剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤を配合することにより、日光等の紫外線による目の負担を低減できる。また、色素を配合することにより、カラーコンタクトレンズとすることができる。
【0046】
これらの添加剤の使用量はコンタクトレンズの厚さ等に依るが、通常、全てのモノマー成分の合計を100質量部としたとき、重合性紫外線吸収剤及び重合性色素の各々の含有割合は好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは0.02~3質量部である。
【0047】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、各成分を任意の順又は一括して撹拌(混合)装置に投入し、10℃~50℃の温度で、均一になるまで撹拌(混合)することにより製造できる。ただし、組成物が重合開始剤を含有する場合は、混合時に重合反応が開始しないように留意が必要であり、40℃以下で混合するのが好ましい。(A)成分の溶解性が良好となる点において、(A)、(B)、及び(C)成分の3成分を混合溶解した後、他の成分を添加して混合することが好ましい。
【0048】
本発明の重合体は、上記本発明の組成物の重合体からなる。以下、本発明の重合体の製造方法について説明する。以下に示す製造方法は該重合体を得る方法の一実施形態にすぎず、本発明の重合体は当該製造方法によって得られるものに限定されない。
【0049】
本発明の組成物をモールドに充填して重合反応を行うことにより、本発明の重合体を製造できる。該モールドとしては、ポリプロピレン等からなる疎水性表面を有するモールドを使用してよい。
【0050】
重合反応は、1段階の重合工程又は2段階以上の重合工程により行うことができる。重合反応は、例えば、使用する重合開始剤の分解温度に合わせて45℃~140℃の温度で組成物を1時間以上維持する1段階の重合工程により行ってもよいが、以下に示す重合工程2からなる1段階の重合工程、又は重合工程1及び重合工程2を含む2段階以上の重合工程によって行うのが好ましい。重合終了後、例えば60℃以下まで冷却し、重合体をモールドから取り出してよい。
【0051】
(重合工程1)
重合工程1では、必要に応じて組成物に上記重合開始剤を添加し、45℃~140℃の温度で1時間以上重合を行う工程である。
【0052】
重合工程1の重合温度は、好ましくは50℃~70℃であり、より好ましくは55℃~70℃である。重合工程1の重合温度が45℃~75℃であれば、表面親水性等の物性が良好な重合体を安定して得ることができる。
【0053】
重合工程1の重合時間は、好ましくは2時間以上、12時間以下である。重合工程1の重合時間が1~12時間であれば、表面親水性等の物性が良好な重合体を効率よく得ることができる。
【0054】
(重合工程2)
重合工程2は、90℃~140℃で重合反応を行う工程である。重合工程2は、重合工程1を行わない場合は必要に応じて組成物に上記重合開始剤を添加して行う。
【0055】
重合工程2の重合温度は、好ましくは100℃~120℃である。重合工程2の重合温度が90℃~140℃であれば、表面親水性等の物性が良好な重合体を安定して得ることができ、ポリプロピレン等からなるモールドを変形させずに重合体を効率よく得ることができる。
【0056】
重合工程2の重合時間は、好ましくは1時間以上、10時間以下である。重合工程2の重合時間が1~10時間であれば、表面親水性等の物性が良好な重合体を効率よく得ることができる。
【0057】
重合工程1及び2を行う雰囲気は特に限定されないが、重合工程1及び2のいずれも、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行うのが重合率を向上させる点で好ましい。この場合、組成物に不活性ガスを通気したり、モールドの組成物充填場所を不活性ガス雰囲気としてよい。
【0058】
モールド内の圧力は大気圧~微加圧でよい。不活性ガス雰囲気中で重合する場合は、ゲージ圧で1kgf/cm2以下とすることが好ましい。
【0059】
本発明のコンタクトレンズは、上記重合体の水和物からなるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズであっても良い。即ち、本発明の重合体を水和し、含水させてヒドロゲル状とすることで、本発明のコンタクトレンズが得られる。なお、本明細書中において「シリコーンヒドロゲル」とは、重合体中にシリコーン部を有するヒドロゲルのことをいう。本発明の組成物はシリコーン含有モノマーである(A)及び(C)成分を含有するので、その重合体はシリコーン部を有しており、水和(含水)させることによりシリコーンヒドロゲルを形成できる。
【0060】
コンタクトレンズの含水率(コンタクトレンズの総質量に対する水の割合)は、35質量%以上60質量%以下であり、好ましくは35質量%以上50質量%以下である。含水率が35~60質量%であれば、酸素透過性とのバランスに優れたものとすることができる。
【0061】
次に、本発明のコンタクトレンズの製造方法について説明する。以下に示す製造方法は本発明のコンタクトレンズを得る方法の一実施形態にすぎず、本発明のコンタクトレンズは当該製造方法によって得られるものに限定されない。
【0062】
上記重合反応の後、重合体は、未反応のモノマー成分(未反応物)、各成分の残渣、副生成物、残存した溶媒等との混合物の状態にある場合がある。このような混合物をそのまま水和処理に供することも可能であるが、水和処理の前に、精製用溶媒を用いて重合体を精製することが好ましい。
【0063】
精製用溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、これらの混合物等が挙げられる。精製は、例えば、10℃~40℃の温度で、重合体をアルコール溶媒に10分間~5時間浸漬し、次に水に10分間~5時間浸漬する、等のように実施できる。また、アルコール溶媒に浸漬後、アルコール濃度20~50重量%の含水アルコールに10分間~5時間浸漬し、更に水に浸漬してもよい。水としては、純水、イオン交換水等が好ましい。
【0064】
重合体を生理食塩水に浸漬し、所定の含水率となるように水和させることによって、本発明のコンタクトレンズが得られる。生理食塩水は、ホウ酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等であってよい。また、生理食塩水を含有するソフトコンタクトレンズ用保存液に浸漬してもよい。生理食塩水の浸透圧は250~400mOms/kgであることが水和の点で好ましい。
【0065】
本発明のコンタクトレンズは、表面親水性及び酸素透過性が高く、且つ機械的強度が適当であり装用感に優れているので、通常の使用形態で1ヶ月程度使用することができる。即ち、本発明のコンタクトレンズの交換頻度は最長1ヶ月であってよい。当然ながら、それより短期間で交換してもよい。
【実施例
【0066】
以下、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。まず、実施例及び比較例で用いた成分を以下に示す。
【0067】
(A)成分
以下の方法によりに合成した式(1)で表される化合物
(A-1)
1L四つ口フラスコ中で2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン(COP)97.26g(0.68モル)をアセトニトリル389.03gに溶解し、氷浴で5℃以下に冷却した。500mLビーカー中でエチレングリコールモノアリルエーテル(東京化成工業社製)66.38g(0.65モル)とトリエチルアミン(キシダ化学社製)69.07g(0.68モル)をアセトニトリル135.45gに溶解した溶液を300mL滴下ロートに移し、先ほどのCOP溶液中へ1時間で滴下した。さらに氷浴中で4時間反応を行った。反応により生成したトリエチルアミン塩酸塩をろ別した後、トリメチルアミン61.46g(1.04モル)を仕込み、75℃で8時間反応させた。冷却後、生成した目的物をろ別し、アセトン140gで2回洗浄した。減圧下、溶媒を除去することでアリル基含有ホスホリルコリン化合物104.1gを得た。
500mLの遮光瓶中でFM-7711(JNC社、両末端メタクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサン(分子量≒1,000))17.24g、オクタメチルシクロテトラシロキサン150.0g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン6.74g、クロロホルム173.99gを混合し、さらにトリフルオロメタンスルホン酸1.50gを加えた。25℃で8時間反応させた後、イオン交換水約1500gで5回洗浄した。その後減圧により低沸分を除去し、アセトン24.2g、メタノール120.1gを加えて攪拌した。静置後上層を廃棄し、下層を減圧して低沸分を留去することにより透明液体のヒドロシリル基含有両末端メタクリルシリコーン127.09gを得た。
100mL3つ口フラスコ中で前記ヒドロシリル基含有両末端メタクリルシリコーン10.00gと前記アリル基含有ホスホリルコリン化合物0.2140gを2-プロパノール10.00gに溶解させ、オイルバスを用いて80℃に加熱したのち、4重量%ヘキサクロロ白金酸六水和物2-プロパノール溶液40μLを加えた。
式(5)で表されるアリル基含有ホスホリルコリン化合物1.93gを2-プロパノール5.78gに溶解した溶液を10mL滴下ロートに仕込み、3つ口フラスコ上部に取り付けた。
80℃を維持しながら30分かけて滴下ロート中の液を滴下した。滴下後、さらに1時間還流状態で反応を行った。減圧により低沸分を留去した後、イオン交換水33.18g、エタノール11.05g酢酸エチル44.21gを混合し、攪拌した。静置後3層に分離し、上層と下層を廃棄した後、減圧により中層から減圧留去により透明のゲル状物7.31gを得た。H NMR分析により式(1)で表される化合物であることを確認した。
今回使用した(A-1)成分について、式(1)中の構成単位のモル比及び数平均分子量は表1に記載する。
【0068】
H NMR分析値
5.54、6.10ppmの末端二重結合の2Hのピーク面積値(1.00+1.00=2.00)
3.34ppmのコリン基由来の9Hの面積値(46.89)
0.16ppmのシロキサン由来のピーク面積値(646.15)
以上から、式(1)の構造式中、a≒108、b=5、c=1、p=q=0、Xは-CHCH-であることが算出された。
また、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法を用いて測定し、PMMA(ポリメチルメタクリレート)を標準品として以下の測定条件で算出した結果、数平均分子量Mn≒10,000であると算出された。
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.8mL/min
カラム:PLgelmixed-E×3本(直列接続)
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率計
【0069】
(A-2~A-6)
ヒドロシリル基含有両末端メタクリルシリコーンの分子量、ヒドロシリル基含有率を変更し、ヒドロシリル基の濃度に比例してアリル基含有ホスホリルコリン化合物の仕込量を変化させた以外はA-1と同様に、A-2~A-6を行った。A-5及びA-6は、式(1)中のaが20~500を満たさない(A)類似成分である。A-2~A-6の式(1)の構成単位のモル比及び数平均分子量の算出結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
(B)成分
MPC:式(2)で表される化合物
【0072】
(C)成分
ES:4-(2-ヒドロキシエチル)=1-[3-トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]=2-メチリデンスクシネート
SiGMA:2-ヒドロキシ-3-[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]プロピルメタクリレート
【0073】
(D)成分
EGMV:エチレングリコールモノビニルエーテル
DEGMV:ジエチレングリコールモノビニルエーテル
【0074】
(E)成分
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
HBMA:2-ヒドロキシブチルメタクリレート
【0075】
(F)成分
FM-7711:式(3)で表される化合物(p=r=0、q=10、数平均分子量Mn≒1000)
TEGDV:トリエチレングリコールジビニルエーテル
TEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート
【0076】
(G)成分
MMA:メタクリル酸メチル
NVP:N-ビニルピロリドン
DMAA:N,N-ジメチルアクリルアミド
【0077】
(H)成分
HeOH:1-ヘキサノール
【0078】
重合開始剤
AIBN:2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)
【0079】
実施例及び比較例の組成物、重合体、及びコンタクトレンズについて、以下の項目を評価した。
【0080】
コンタクトレンズのモジュラス(引張応力)
山電社製BAS-3305(W)破断強度解析装置を用い、JIS-K7127に従ってコンタクトレンズのモジュラス[MPa]を測定した。詳しくは、幅2mmのサンプルを使用し、200gfのロードセルを用い、クランプ間6mmとして1mm/秒の速度で引張ってモジュラスを測定した。モジュラスが0.3MPa以上0.7MPa未満の場合、モジュラス(引張応力)が良好と判定した。
【0081】
コンタクトレンズの破断伸び
山電社製BAS-3305(W)破断強度解析装置を用い、JIS-K7127に従ってコンタクトレンズの破断伸び[%]を測定した。詳しくは、幅2mmのサンプルを使用し、200gfのロードセルを用い、クランプ間6mmとして1mm/秒の速度で引張って破断伸びを測定した。破断伸びが250%以上の場合を破断伸びが良好と判断した。
【0082】
コンタクトレンズの表面親水性(WBUT)
コンタクトレンズの表面親水性を、WBUT(water film break up time)により評価した。詳しくは、ISO生理食塩水中にサンプルを一晩浸漬し、ピンセットで外周部をつまんで水面から引き上げ、水面から引き上げた時からレンズ表面の水膜が切れるまでの時間(水膜保持時間)を測定した。水膜が切れた状態は目視により判定した。この測定を3回行い、その平均値を求め、30秒以上の場合を表面親水性が良好と判定した。
【0083】
コンタクトレンズの含水率
ISO-18369-4に記載の方法で含水率を測定した。
【0084】
コンタクトレンズの酸素透過性
ISO 18369-4に記載のポーラログラフィー法による測定方法に従い、1~4枚のコンタクトレンズを重ね合わせたサンプルの酸素透過係数を測定した。測定にはRehderDevelopment Company社のO2 Permeometer Model 201Tを用いた。 レンズの厚さをx軸に、測定により求められたt/Dk値をy軸にプロットし、回帰線の傾きの逆数を酸素透過係数{(cm/sec)/(mLO /(mL×mmHg))}とした。酸素透過係数が大きいほど酸素透過性が良好である。酸素透過係数が75以上の場合、酸素透過性が特に良好と判定した。
【0085】
[実施例1]
25℃の温度条件下で、11.8質量%のA-1、11.8質量%のMPC及び31.5質量%のESを混合溶解した後、7.9質量部のEGMV、7.9質量%のHBMA、0.8質量%のTEGDMA、0.8質量%のTEGDV、11.8質量%のMMA、15.7質量%のNVP、及びこれらの合計100質量部に対して、15.0質量部のHeOHを混合し、均一溶解して組成物を得た。各成分の含有割合を表2に示す。
【0086】
上記組成物に0.5質量部のAIBNを添加し、厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとして2枚のポリプロピレン板の間に挟みこんだセル内に流し込み、オーブン内へ置いた。オーブン内の窒素置換を行った後、100℃まで昇温し2時間維持して、0kgf/cm(ゲージ圧)で組成物を重合させて実施例1の重合体を得た。重合体をセルから取り出した。
【0087】
文献(ISO 18369-3:2006,Ophthalmic Optics-Contact Lenses Part3:Measurement Methods.)を参考に、生理食塩水を調製した。塩化ナトリウム8.3g、リン酸水素ナトリウム十二水和物5.993g、リン酸二水素ナトリウム二水和物0.528gを量り、水に溶かして1000mLとして、ろ過して生理食塩水とした。
上記重合体を2-プロパノールに4時間浸漬した後、イオン交換水に4時間浸漬し、更にISO 18369-3に記載の生理食塩水に浸漬して、上記重合体の水和物を作製した。この水和物を各評価試験に適した形状に加工してコンタクトレンズのサンプルを得た。各評価の結果を表2に示す。破断伸びは250%、酸素透過係数は80、WBUTは30秒以上、モジュラスは0.5MPaであったことから、実施例1のコンタクトレンズは良好な親水性、酸素透過性及びモジュラスを示し、かつ破断伸びの点に優れていることを確認した。
【0088】
[実施例2~15及び比較例1及び2]
各成分の含有割合及び重合条件を表2、3及び4に示すように変更したこと以外は実施例1と同様に、実施例2~15及び比較例1及び2の組成物、重合体、及びコンタクトレンズを調製し、評価試験を行った。結果を表2、表3及び表4に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
表2及び表3の結果より、実施例1~15では、WBUT評価が30秒より大きくなり、良好な表面親水性を示し、モジュラスが0.3MPa以上0.7MPa未満の範囲内となり、良好なモジュラスを示し、酸素透過係数が75以上となり、特に良好な酸素透過係数を示し、破断伸びが250%以上となり、良好な破断伸びを示した。
一方、表4より、比較例1では、(D)成分を含有していないため、破断伸びが250%未満となり破断伸びが不良であり、さらにモジュラスが0.7MPa以上となりモジュラスがコンタクトレンズとして不適であった。
比較例2では、(A)成分の代わりに使用したA-6の式(1)中のaが20より小さいため、モジュラスが0.7MPa以上となりモジュラスがコンタクトレンズとして不適であった。
よって、本発明のモノマー組成物を重合して得られる重合体は、表面親水性、モジュラス、破断伸び及び酸素透過係数が良好なコンタクトレンズを製造できることを確認した。
【0093】
以上より、本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物を重合して得られるコンタクトレンズは、表面親水性、モジュラス、破断伸び及び酸素透過係数を同時に満足することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
表面親水性、モジュラス、破断伸び及び酸素透過係数を同時に満足するコンタクトレンズを提供することができる。