(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】耐火断熱組成物、耐火断熱組成物スラリー、耐火断熱ボード及び耐火断熱構造体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240909BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20240909BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20240909BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240909BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240909BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20240909BHJP
C04B 14/14 20060101ALI20240909BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20240909BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/14 D
C04B22/14 B
C04B14/38 Z
C04B22/08 A
C04B22/06 Z
C04B22/14 A
C04B24/06 Z
C04B14/14
C04B22/10
E04B1/94 U
E04B1/94 W
(21)【出願番号】P 2022534060
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2021024628
(87)【国際公開番号】W WO2022004749
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2020114479
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】田原 和人
(72)【発明者】
【氏名】長崎 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】水田 航平
(72)【発明者】
【氏名】三本 正憲
(72)【発明者】
【氏名】下條 芳範
(72)【発明者】
【氏名】吉川 博伸
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152101(JP,A)
【文献】特開2018-178046(JP,A)
【文献】特開2017-077994(JP,A)
【文献】特開2016-160145(JP,A)
【文献】特開2013-014453(JP,A)
【文献】特開2009-073713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアウイン40~70質量%、ビーライト5~30質量%を含有するカルシウムサルフォアルミネート100質量部に対して、セッコウを5~100質量部含み、
前記カルシウムサルフォアルミネート中に含まれる前記アウイン及び前記ビーライト以外の鉱物が25%以下であり、
前記カルシウムサルフォアルミネートと前記セッコウの合計100質量部に対して、含水率が5質量%以上である繊維状無機粘土鉱物を0.1~20質量部含む耐火断熱組成物。
【請求項2】
空孔を有する無機粉末を含む請求項1記載の耐火断熱組成物。
【請求項3】
凝結遅延剤を含む請求項1又は2に記載の耐火断熱組成物。
【請求項4】
水和促進剤を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の耐火断熱組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の耐火断熱組成物と水を混合した耐火断熱組成物スラリー。
【請求項6】
連続空隙率が25~70体積%の樹脂成形体の空隙部に、請求項5に記載の耐火断熱組成物スラリーが充填されて固化してなる耐火断熱ボード。
【請求項7】
請求項6記載の耐火断熱ボードを含む耐火断熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の耐火断熱構造体を構築するための耐火断熱組成物、耐火断熱組成物スラリー、耐火断熱ボード及び耐火断熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物には、様々な断熱材や耐火材が使用されており、断熱材としては、断熱効果が高く軽量で作業性が良い樹脂発泡体であるポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、及びフェノールフォーム等が使われ、又コスト的に安価なグラスウールやロックウール等の無機系の繊維集合体も使われている。
【0003】
樹脂発泡体は有機物のため火災発生時には燃焼し、しばしば延焼による被害拡大の原因となるため、その対策が望まれている。
【0004】
一方、グラスウールやロックウール等の無機系の繊維集合体は燃えない素材を主体に構成されているが、樹脂発泡体に比べ熱伝導率が高い傾向があり断熱性の点で劣り、又、繊維状であるため穿刺感を感じ、作業性に劣る問題もあった。更に従来、施工時には繊維集合体をプラスチック製の袋に収めた荷姿とし、これを住宅の柱と外壁の間にはめ込む方法が採られているが、隙間が生じたり、経年で脱落したりするといった課題があった。
【0005】
他方、樹脂発泡体に不燃性を付与した断熱材は既に市販されている。例えば、フェノールフォームのボードの片面或いは両面を不燃材であるアルミニウム箔、水酸化アルミニウム紙、セッコウ系板材等で積層した構造の不燃断熱ボードが挙げられる。しかしこうした従来の不燃断熱ボードは、火災時には火炎に面した表面は燃えないものの、その熱で内部のフェノールフォームが溶けて空洞ができ、ボード自体が脱落して延焼するという課題が解決できておらず、建築基準法で定められた耐火構造仕様を満足する資材とはなっていない。
【0006】
樹脂発泡体の耐燃焼性を向上する既往の技術を例示すると、例えば、ポリウレタンフォームの耐燃焼性を向上する技術としては、アルカリ金属炭酸塩、イソシアネート類、水及び反応触媒で発泡体を形成する断熱材料に関する技術(特許文献1)や、リチウム、ナトリウム、カリウム、ホウ素、及びアルミニウムからなる群より選ばれる金属の、水酸化物、酸化物、炭酸塩類、硫酸塩、硝酸塩、アルミン酸塩、ホウ酸塩、及びリン酸塩類からなる群より選ばれる一種又は二種以上の無機化合物と水とイソシアネート類とからなる硬化性組成物で、主にトンネルの地盤改良用の注入材に関する技術(特許文献2)が知られている。
【0007】
しかし特許文献2の従来技術は、地盤改良用に開発されたものであり断熱性を得ることを目的とするものではない。特に特許文献1のように、アルカリ金属炭酸塩の30%以上の水溶液とイソシアネート類を反応させる従来の手法では、多量の水を使用することにより未反応の水が多量に残ることから、断熱材として使用するためには乾燥する必要があり、しかも得られる発泡体の気泡サイズが大きくなることから断熱性は大きくないと考えられる。
【0008】
合成樹脂発泡体を被覆して耐燃焼性を向上する技術としては、セピオライトと水溶性樹脂を主成分とする水性有機バインダーとからなる被覆を形成して表面処理を施した合成樹脂の発泡体粒子に、無機粉体とアルカリ金属ケイ酸塩を主成分とする水ガラスを含む水性無機バインダーとからなるコーティング材を更に被覆し、乾燥硬化させる断熱性被覆粒体に関する技術(特許文献3)や、合成樹脂発泡体の少なくとも一部の表面の気泡構造内に、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸塩のうちの1種又は2種以上の混合物からなるシリカ系無機物が充填した無機物含有合成樹脂発泡体に関する技術(特許文献4)が開示されている。
【0009】
しかしこれらケイ酸塩類を用いる従来技術は、燃焼によって、樹脂発泡体が溶けて充填されたケイ酸塩自体の結合力も失われ粉化するため、断熱ボードとしての形状を保つことが難しいと考えられる。
【0010】
ビーズ法ポリスチレンフォームで形成された発泡樹脂において、発泡ビーズ間に形成された連通空隙に、酸素指数が21より大きい有機系物質からなる充填材料を充填した発泡樹脂複合構造体に関する技術(特許文献5)や、連通した空隙を有し、空隙率が5~60%である熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の空隙に、スメクタイトを含有するセメント又は石膏の硬化物が充填されている複合成形体に関する技術(特許文献6)が知られている。
【0011】
しかし特許文献5では、連通空隙に有機系物質である充填材料を充填するため、不燃レベルの耐燃焼性の向上は期待できない。特許文献5は、発泡体の空隙率が3%程度の非常に密実な空隙を持つ発泡ポリスチレンフォームを対象にしているものであり、その空隙を有効に利用できているとは言い難い。特許文献6はセメントとしてその硬化物にエトリンガイトを含有することが好ましく、エトリンガイトを含有するセメントとして商品名で例示しており、材料分離低減材の一つと考えられるスメクタイトを含有することを記載しているがエトリンガイトを生成するセメントとして本発明のカルシウムサルフォアルミネートに関する記載はない。
【0012】
特許文献7はCaO含有量が40質量%以上のカルシウムアルミネート、セッコウ、平均粒子径が20~60μmの中空構造を有する無機粉末、平均粒子径が20~130μmの廃ガラス発泡体粉末を含有する組成物を記載するが、カルシウムアルミネートを主成分としており本発明とは異なる。特許文献8に記載の材料は、鉄骨表面を被覆し火災から保護する目的で使用されるものであり、大きな断熱性を有していないと考えられる。
【0013】
また、イソシアネート、活性水素含有化合物、水、反応触媒、及び、アウイン水和物を含有し、密度が350kg/m3以下である断熱材であり、アウイン水和物が(1)セメントと(2)アウイン含有物質と(3)水を混合して得られる水和物であり、(2)アウイン含有物質が、遊離石灰、無水セッコウ、アウイン、及び、カルシウムアルミノフェライトを含有する物質である断熱材が知られているが(特許文献9)、生成したアウイン水和物を使用する点で本発明とは異なる。
【0014】
エトリンジャイトを主たる成分として含有してなることを特徴とする耐火被覆用組成物であり、更に100~1000℃で不燃性ガスを放出する無機化合物粉粒体や酸化チタン粉粒体を含有する耐火被覆用組成物(特許文献10)も知られている。
【0015】
耐熱骨材、軽量骨材、アルミナ系結合材、炭化珪素、及び補強繊維からなる不焼成耐火断熱材に関する技術が開示されており、軽量骨材としてシラスバルーン、アルミナ系結合材としてカルシウムアルミネートが記述されている(特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平10-67576号公報
【文献】特開平8-92555号公報
【文献】特開2001-329629号公報
【文献】特開2012-102305号公報
【文献】特許第4983967号公報
【文献】特開2015-199945号公報
【文献】特開2017-77994号公報
【文献】特開平7-48153号公報
【文献】特開2016-160145号公報
【文献】特開平7-61841号公報
【文献】特開昭62-41774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、上述した特許文献10及び11の従来技術でも、製鉄や製鋼で使用する高温領域の耐火断熱材に使用することを前提としており、通常環境下の断熱性も火災時の耐火性も不十分であった。このため、良好な断熱性と耐火性を両立できる手法が求められていた。
以上から、本発明は良好な断熱性と耐火性を両立できる耐火断熱組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、特定の組成を用いることにより、前述のような課題を解決して良好な断熱性と耐火性を両立できる耐火断熱組成物が得られる知見を得て、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記のとおりである。
【0019】
[1] 少なくともアウイン40~70質量%、ビーライト5~30質量%を含有するカルシウムサルフォアルミネート100質量部に対して、セッコウを5~100質量部含み、前記カルシウムサルフォアルミネートと前記セッコウの合計100質量部に対して、含水率が5質量%以上である繊維状無機粘土鉱物を0.1~20質量部含む耐火断熱組成物。
[2] 空孔を有する無機粉末を含む[1]記載の耐火断熱組成物。
[3] 凝結遅延剤を含む[1]又は[2]に記載の耐火断熱組成物。
[4] 水和促進剤を含む[1]~[3]のいずれかに記載の耐火断熱組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の耐火断熱組成物と水を混合した耐火断熱組成物スラリー。
[6] 連続空隙率が25~70体積%の樹脂成形体の空隙部に、[5]に記載の耐火断熱組成物スラリーが充填されて固化してなる耐火断熱ボード。
[7] [6]記載の耐火断熱ボードを含む耐火断熱構造体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、良好な断熱性と耐火性を両立できる耐火断熱組成物を提供できる。
したがって、本発明の耐火断熱組成物及びそのスラリーを用いることで、良好な耐火性と断熱性を併せ持った耐火断熱ボードを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】繊維状無機粘土鉱物(セピオライト)の結晶構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本明細書における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。本明細書における数値範囲は、別段の定めがない限りはその上限値及び下限値を含むものとする。
【0023】
[耐火断熱組成物]
本発明の実施形態に係る耐火断熱組成物(以下、単に「組成物」ということもある。)は、少なくともアウイン40~70質量%、ビーライト5~30質量%を含有するカルシウムサルフォアルミネート100質量部に対して、セッコウを5~100質量部含み、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの合計100質量部に対して、含水率が5%以上である繊維状無機粘土鉱物を0.1~20質量部含む。
【0024】
(カルシウムサルフォアルミネート)
当該カルシウムサルフォアルミネートとは、カルシア原料、アルミナ原料及びサルファー原料等を混合して、キルンで焼成し、或いは、電気炉で溶融し冷却して得られるCaO、Al2O3及びSO3とを主成分とする水和活性を有する物質の総称である。
【0025】
当該カルシウムサルフォアルミネートは、特に限定されるものではないがJIS A 6202に定義される膨張材に使用されるカルシウムサルフォアルミネートとは異なる。アウインを含有する点、エトリンガイトを水和生成物とする点で類似しているが、当該カルシウムサルフォアルミネートはビーライトを含有する点、セッコウと混合して使用する点及びセメントに対する混和材ではなく主成分として使用する点がJIS A 6202に定義される膨張材とは異なる。
【0026】
カルシウムサルフォアルミネートにおけるアウインの含有量は40~70%であり、45~70%であることが好ましく、50~70%であることがより好ましい。アウインの含有量が40%未満であると耐火性が劣ってしまい、70%を超えてもそれ以上の耐火性の向上は期待できない。
また、カルシウムサルフォアルミネートにおけるビーライトの含有量は5~30%であり、5~20%であることが好ましく、5~15%であることがより好ましい。ビーライトの含有量が5%未満であると、可使時間の確保が困難となったり長期的な強度発現性低くなったりして耐火性が劣ってしまい、30%を超えると耐火性が劣ってしまう。
【0027】
更に当該カルシウムサルフォアルミネートとして、カルシウムサルフォアルミネートのCaOやAl2O3の一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物も使用できる。
【0028】
更に当該カルシウムサルフォアルミネートとして、アウインとビーライト以外の鉱物として、25%を上限としてCaO、12CaO・7Al2O3、2CaO・Al2O3・SiO2、3CaO・Al2O3、4CaO・Al2O3・Fe2O3及びCaSO4等を含有できる。25%以下だと耐火性能及び可使時間に悪影響を及ぼさない。
【0029】
カルシウムサルフォアルミネートの粒度は、初期強度発現性の点で、ブレーン比表面積3,000cm2/g以上が好ましく、4,000cm2/g以上がより好ましい。3,000cm2/g以上であると初期強度発現性が向上する。ここで、ブレーン比表面積とは、JIS R5201:2015(セメントの物理試験方法)に準拠して測定した値である。
【0030】
(セッコウ)
本組成物が含むセッコウとしては、無水セッコウ、半水セッコウ、二水セッコウのいずれも使用でき、特に限定されるものではない。無水セッコウとは硫酸カルシウム無水物でCaSO4なる分子式で示される化合物の総称であり、半水セッコウとは、CaSO4・1/2H2Oなる分子式で示される化合物の総称であり、二水セッコウとは、CaSO4・2H2Oなる分子式で示される化合物の総称である。
【0031】
セッコウの粒度は、不燃性や初期強度発現性と適正な作業時間が得られる点で、平均粒子径1~30μmが好ましく、5~25μmがより好ましい。ここで、平均粒子径とは、測定レーザー回折式粒度分布計を用い、超音波装置を用いて分散させた状態で測定した値である。
【0032】
本組成物におけるセッコウの含有量は、カルシウムサルフォアルミネート100質量部に対して、5~100質量部であり、15~50質量部が好ましい。セッコウが5質量部未満又は100質量部を越えると、十分な耐火性を付与できない。
【0033】
(繊維状無機粘土鉱物)
本組成物が含む繊維状無機粘土鉱物(以下、単に「繊維状鉱物」ということもある。)は、断熱性と耐火性を得る上で、その含水率が少なくとも5%以上である必要がある。繊維状無機粘土鉱物は、組成物に材料分離低減効果を与えるとともに耐火性をも向上させるものである。
【0034】
図1に繊維状無機粘土鉱物(
図1では、セピオライト)の結晶構造の模式図を示す(Brauner及びPreisingerの構造モデルによる。特開2004-59347号公報、特開2002-338236号公報参照)。当該繊維状鉱物は、含水マグネシウムケイ酸塩鉱物の一種であって、
図1に示すような結晶構造を持ち結晶内部に空孔が存在していることが特徴的な繊維状の粘土鉱物であり、その空孔内に結合水や沸石水の形態で結晶水が存在している。
【0035】
図1によると、二次元の結晶構造がレンガのように交互に積み重ねた繊維状の結晶構造を形成している。この単位結晶構造には、
図1に示すとおり、Mg原子に結合した4個の水酸基、Mg原子に結合した4個の結合水、8個の沸石水が存在している。
図1は、単位構造中の沸石水が8個のものとして示す。
【0036】
繊維状鉱物は、その種類によっても異なるが、比表面積が50~500m2/gであり、平均繊維長が0.1~50μmであり、平均繊維長/平均繊維径で示されるアスペクト比が5~5000であることが好ましい。ここで、比表面積とは、BET法、JIS Z8830:2013に準じて測定した値である。平均繊維長、平均繊維径は、撮影したSEM写真を画像解析した値である。
【0037】
繊維状鉱物は特に限定されるものではないが代表的なものとしてはセピオライト((OH2)4(OH)4Mg8Si12O30・6~8H2O)、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)((OH2)4(OH)2Mg5Si8O20・4H2O)、ウォラストナイト、ログリナイト等が挙げられる。これらの中では、セピオライト、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)から選ばれる1種以上が好ましい。
【0038】
上記繊維状鉱物の含水率は、良好な耐火性と断熱性の観点から、5%以上であり、7%以上が好ましく、9%以上がより好ましい。当該含水率の上限値は特に限定されないが、例えば、30%以下が好ましい。繊維状鉱物を熱重量分析装置(TGA)によって30℃から200℃まで昇温し、昇温前の質量Xと減少した質量(30℃から200℃まで昇温した時に減少した質量)X1を用いて下記式から含水率Wを算出できる。サンプル量は10mg、昇温速度5.0℃/min、空気雰囲気下の条件で測定した。
含水率W(質量%)=(X1/X)×100
【0039】
本組成物における繊維状鉱物の含有量は、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの合計100部に対して0.1~20部であり、3~15部であることが好ましい。繊維状鉱物の量が0.1部未満では、耐火性や断熱性が向上しない可能性があり、20部を越えると耐火性や断熱性が低下する可能性がある。該繊維状鉱物は予めカルシウムサルフォアルミネートやセッコウとともにプレミックスして使用してもよいし、予め水に分散させて使用することもできる。
【0040】
(空孔を有する無機粉末)
好ましい実施形態においては、本組成物が更に、空孔を有する無機粉末(以下、単に「無機粉末」ということもある。)を含んでいてもよい。当該無機粉末は、空孔を有する無機材料の粉末であれば特に限定されるものではなく、いかなるものでも使用できる。
【0041】
空孔を有する無機粉末の代表的なものとしては、シラスバルーンに代表される火山性堆積物を高温で加熱して作られる発泡体から得られる無機粉末や、火力発電所から発生するフライアッシュバルーンや、黒曜石、真珠岩、若しくは頁岩を焼成して得られた無機粉末や、ガラスビン等の廃棄物を粉砕した後に焼成し、粒度調整した廃ガラス発泡体粉末(リサイクルガラスバルーン)等が挙げられ、これらの1種以上を使用できる。フライアッシュバルーンを使用する場合は、強熱減量が5%以下のものを使用することが、未燃カーボンが少ない点で、好ましい。本明細書においては、無機粉末は、上述したカルシウムサルフォアルミネート、セッコウ、繊維状無機粘土鉱物を除くものとする。
【0042】
これらの中では、発泡樹脂成形体の連続気泡に充填した際に断熱性を損ないにくい点で、シラスバルーン、フライアッシュバルーン、及び廃ガラス発泡体粉末からなる群の1種以上が好ましい。
【0043】
当該無機粉末の粒度は、平均粒子径1~150μmが好ましく、15~100μmがより好ましい。ここで、平均粒子径とは、測定レーザー回折式粒度分布計を用い、超音波装置を用いて分散させた状態で測定した値である。
【0044】
本組成物における当該無機粉末の含有量は、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの合計100部に対して2~100部が好ましく、5~80部がより好ましい。無機粉末の量が2部以上であると断熱性が向上し、100部以下であると耐火性が向上する。
【0045】
(凝結遅延剤)
好ましい実施形態においては、本組成物が更に凝結遅延剤を含んでいてもよい。当該凝結遅延剤とは、耐火断熱組成物スラリーの可使時間を調整する物質である。当該凝結遅延剤としては、無機凝結遅延剤や有機系凝結遅延剤等が挙げられる。無機凝結遅延剤としては、例えば、リン酸塩、ケイフッ化物、水酸化銅、ホウ酸又はその塩、酸化亜鉛、塩化亜鉛、炭酸化亜鉛等が挙げられる。有機系凝結遅延剤としては、例えば、オキシカルボン酸類(クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコヘプトン酸、オキシマロン酸、乳酸等)又はその塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、砂糖に代表される糖類等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。更に、炭酸塩、重炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、ケイ酸塩等といった無機凝結遅延剤と、上記オキシカルボン酸類又はその塩とを、組み合わせた混合物も使用できる。これらの中では、オキシカルボン酸類又はその塩単独か、無機凝結遅延剤とオキシカルボン酸類又はその塩との混合物が好ましい。本明細書においては、凝結遅延剤は上述したカルシウムサルフォアルミネート、セッコウ、繊維状無機粘土鉱物、空孔を有する無機粉末を除くものとする。
【0046】
本組成物における凝結遅延剤の含有量は、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの合計100部に対して0.02~2.0部が好ましく、0.05~1.0部がより好ましい。凝結遅延剤の量が0.02部以上であると必要な可使時間に調整することが容易になり、2.0部以下であると硬化時間が長くなりすぎず、硬化不良を起こしにくい。
【0047】
好ましい実施形態においては、本組成物が更に水和促進剤を含んでいてもよい。当該水和促進剤とは、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの反応を促し結晶水量を増加させ耐火性を向上する物質であり、特に限定されるものではない。水和促進剤としては、例えば、水酸化カルシウム等の水酸化物、珪酸アルカリ金属塩、無水硫酸アルミニウム等の硫酸アルミニウム、炭酸ナトリウム等の炭酸アルカリ金属塩、硝酸塩、亜硝酸塩、普通ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、各種無機フィラー微粉末等が挙げられ、これらの1種以上が使用できる。本明細書においては、水和促進剤は上述したカルシウムサルフォアルミネート、セッコウ、繊維状無機粘土鉱物、空孔を有する無機粉末、凝結遅延剤を除くものとする。
【0048】
本組成物における水和促進剤の含有量は、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの合計100部に対して0.1~15質量部が好ましく、0.5~10部がより好ましい。水和促進剤の量が0.1部以上であると、十分な水和促進効果が得られ、15部以下であると十分な可使時間が確保できる効果を奏する。
【0049】
本発明の実施形態に係る耐火断熱組成物中のカルシウムサルフォアルミネートの含有量は、耐火性の観点から、50~95%が好ましく、60~90%がより好ましい。
【0050】
[耐火断熱組成物スラリー]
本発明の実施形態に係る耐火断熱組成物スラリーは、既述の耐火断熱組成物と水を混合してなる。すなわち、既述の耐火断熱組成物と、水(水道水等)を使用することによって耐火断熱組成物スラリーを調製できる。当該スラリーを調製するときの水の量は、特に限定するものではないが、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの合計100質量部に対して40~300質量部が好ましく、80~250質量部がより好ましい。水の量が40質量部以上であると、空隙への充填が均一になり、耐火性が向上し、300質量部以下であると、空隙内の硬化体中のエトリンガイト含有量が増加し、耐火性が向上する。
【0051】
[耐火断熱ボード]
本発明の実施形態に係る耐火断熱ボードは、連続空隙率が25~70体積%の樹脂成形体の空隙部に、本発明の実施形態に係る耐火断熱組成物スラリーが充填されて固化してなる。
【0052】
本発明の実施形態に係る耐火断熱組成物スラリーを、連続空隙率が25~70体積%の樹脂成形体(以下、単に「樹脂成形体」ということもある。)の空隙に充填し固化させることで、本発明の実施形態に係る耐火断熱ボードを製造できる。
【0053】
当該樹脂成形体とは、連続空隙を有する樹脂であり、スラリーが充填できる空隙を有するものを言う。樹脂の種類としては、例えば、発泡ポリビニルアルコール樹脂、発泡ポリウレタン樹脂、発泡ポリスチレン樹脂、発泡ポリオレフィン樹脂、発泡フェノール樹脂等が挙げられる。これらの樹脂からなる、独立気泡を有する直径数mmの粒状発泡体を、型に詰めて加熱加圧成形し、粒状発泡体間に連続空隙が生じるように成形することで、当該樹脂成形体を得られる。樹脂成形体の連続空隙率は、製造時の加圧の程度により調節できる。ポリスチレン樹脂についてはビーズ法ポリスチレンフォームの製造方法に準拠して連続空隙を有する樹脂成形体を製造できる。これらの中では、汎用性の点で、発泡ポリスチレン樹脂成形体が好ましい。連続空隙率が25体積%以上であると、得られるボードに十分な耐火性を付与でき、70体積%以下であると、ボード密度が小さくなり、熱伝導率が小さくなり、断熱性が向上する。
樹脂成形体の連続空隙率Vは、例えば次のような方法により求めることができる。
まず、温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間以上放置した樹脂成形体から直方体サンプルを切り出し、該サンプルの外形寸法より見かけ体積(Va)を求める。次いで該サンプルを温度23℃のエタノールの入ったメスシリンダー中に金網の道具を使用して沈め、軽い振動を加えることにより成形体中の空隙に存在している空気を脱気する。そして、金網の道具の体積を考慮して水位上昇分を読み取り、該サンプルの真の体積(Vb)を測定する。求められたサンプルの見かけ体積(Va)と真の体積(Vb)から、次式により連続空隙率(V)を求めることができる。
連続空隙率V(%)=〔(Va-Vb)/Va〕×100
【0054】
連続空隙に充填したスラリーは、水和反応により水和生成物が生じ、固化(硬化)する。樹脂成形体内の連続空隙は、水和生成物で充填される。水和生成物としては、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの反応で生成するエトリンガイトが挙げられる。エトリンガイトは分子内に多量の水を結晶水として有するので、加熱により脱水し、消火作用を示し、樹脂成形体に不燃性を付与する。
【0055】
樹脂成形体への耐火断熱組成物スラリーの充填方法は、特に限定するものではないが、圧搾空気による圧入や真空ポンプで減圧して吸引により充填する方法や、振動テーブルに樹脂成形体を設置し30~60ヘルツの振動を加えながら空隙内に充填する方法等が挙げられる。これらの中では、品質安定性の点で、振動を加えながら空隙内に充填する方法が好ましい。
【0056】
耐火断熱組成物スラリーを空隙部に充填した後の耐火断熱ボードの養生方法は、特に限定するものではないが、充填後、常温下で気中養生したり、ボード表面をプラスチックフィルムで覆い常温で気中養生したりする方法等が挙げられる。養生時間を短縮するために耐火断熱ボードを30~50℃の温度で養生してもよい。
【0057】
或る実施形態では、更に不織布でボード全体を被覆したり、格子状の繊維シート等の補強材をボードの片面或いは両面に配置したり、不織布と繊維シートを併用したりすることもできる。
【0058】
本発明の耐火断熱ボードの形状は、特に限定するものではないが、縦500~1000mm、横1000~2000mm、厚さ10~100mmが好ましい。厚さは50~100mmがより好ましい。サイズが小さいと耐火断熱ボードが軽くなり、設置時の作業性がよくなる。
【0059】
或る実施形態では、本耐火断熱組成物スラリーの調製にあたって更に、性能に影響を与えない範囲で各種添加剤を1種以上使用できる。そうした添加剤としては、例えば、界面活性剤、空気連行剤、炭化促進剤、難燃性付与剤、延焼防止剤、無機物、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、粘土鉱物、アニオン交換体等が挙げられる。
【0060】
本発明の実施形態に係る耐火断熱ボードの密度は、耐火性及び断熱性を損なわない点で、100~800kg/m3が好ましく、200~500kg/m3がより好ましい。100kg/m3以上であると、十分な耐火性を確保でき、800kg/m3以下であると十分な断熱性が得られる。
【0061】
[耐火断熱構造体]
本発明の実施形態に係る耐火断熱構造体は、耐火断熱ボードを含む。すなわち、上述した耐火断熱ボードを用いて、建築物の耐火構造体を構築できる。そうした耐火構造体としては、例えば、外壁側からの層構成で示せば、サイディングボード、透湿防水シート、耐火断熱ボード、構造用合板、耐火断熱ボードの順の層からなり、構造用合板と耐火断熱ボードの間は間柱(
図3の間柱)で100mm程度の空間(グラスウール等の断熱材が収まる空間)を設けた構造体が挙げられる。サイディングボードと透湿防水シートの間に胴縁を設けても良い(
図3参照)。
【0062】
本発明の実施形態により、耐火断熱ボードを含む耐火断熱構造体が得られる。耐火構造体を構築する際、必要とする耐火仕様によっては、本耐火断熱ボードを複数枚重ねて貼り付けてもよく、本耐火断熱ボードを強化セッコウボードと併用して使用してもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例、比較例を挙げて更に詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
「実験例1」
連続空隙を有する発泡樹脂成形体A(サイズ:縦20cm×横20cm×厚み5cm)の厚み方向下部に耐アルカリ性ガラス繊維で補強を施し、更にポリエステル製不織布を重ねた。これを振動含浸装置にセットし、成形体上面に表1に示す配合の耐火断熱組成物スラリーを流し込み、60ヘルツの振動を1分間与え空隙内に耐火断熱組成物スラリーを含浸して耐火断熱ボードを製造した。充填後、装置から耐火断熱ボードを取り出し、3日間常温で養生した。養生した耐火断熱ボードについて、結晶水の含有量、耐火性、形状保持性、形状保持率及び熱伝導率を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
(使用材料)
発泡樹脂成形体A:市販されているポリスチレン発泡ビーズ(直径1~5mm)を成形機(株式会社ダイセン工業製:VS-500)に充填し、スチームにより加熱して、発泡粒子間に空隙を有する状態で発泡粒子同士を融着させて製造した。連続空隙率は加圧度合いを調整することで制御した。連続空隙率36.8%、ポリスチレン発泡ビーズの密度10.5kg/m3、ポリスチレン発泡ビーズ成形体の熱伝導率0.033W/(m・K)
【0066】
カルシウムサルフォアルミネート1(CSA1):CaO原料、Al2O3原料およびCaSO4原料を配合し、混合粉砕した後、電気炉を用いて、1300℃で3時間熱処理してクリンカーを合成し、ボールミルで粉砕して調製した。アウイン:69%、ビーライト:10%、その他鉱物:12%、ブレーン比表面積4800cm2/g
【0067】
カルシウムサルフォアルミネート2(CSA2):CaO原料、Al2O3原料およびCaSO4原料を配合し、混合粉砕した後、電気炉を用いて、1300℃で3時間熱処理してクリンカーを合成し、ボールミルで粉砕して調製した。アウイン:55%、ビーライト:24%、その他鉱物:16%、ブレーン比表面積4900cm2/g
【0068】
カルシウムサルフォアルミネート3(CSA3):CaO原料、Al2O3原料およびCaSO4原料を配合し、混合粉砕した後、電気炉を用いて、1300℃で3時間熱処理してクリンカーを合成し、ボールミルで粉砕して調製した。アウイン:42%、ビーライト:29%、その他鉱物:25%、ブレーン比表面積4950cm2/g
【0069】
エトリンガイト1(ET1):消石灰と硫酸アルミニウム及び石膏を出発原料とし、水熱合成したものをろ過、乾燥し得られたエトリンガイト粉末、結晶水率:46%
【0070】
セッコウ1(CS1):ノリタケカンパニー社製II型無水セッコウ、商品名D-101A、純度95%、平均粒子径20μm
【0071】
セッコウ2(CS2):ノリタケカンパニー社製β型半水セッコウ、商品名FT-2、純度95%、平均粒子径20μm
【0072】
セッコウ3(CS3):ノリタケカンパニー社製二水セッコウ、商品名P52B、純度95%、平均粒子径20μm
【0073】
繊維状鉱物(F1):TOLSA社製セピオライト、商品名:PANGEL AD、含水率:13.2%、平均繊維長5μm、平均繊維径0.1μm、比表面積320m2/g
【0074】
繊維状鉱物(F2):Active Minerals International社製パリゴルスカイト(アタパルジャイト)、商品名:MIN-U-GEL 200、含水率:9.8%、平均繊維長5μm、平均繊維径0.1μm、比表面積270m2/g
【0075】
繊維状鉱物(F3):関西マテック社製ウォラストナイト、商品名:KTP-H02、含水率:2.0%、平均繊維長75μm、平均繊維径10μm、比表面積4200cm2/g
【0076】
非繊維状鉱物(N1):クニミネ工業社製ベントナイト、商品名:クニゲルV1、結晶水率:3.5%、比表面積60m2/g、層状
【0077】
水:水道水
【0078】
(耐火断熱組成物スラリーの調製と仕込み量)
(1)カルシウムサルフォアルミネートを用いた場合
カルシウムサルフォアルミネート(CSA1~3)100質量部に対して、セッコウを表1に示す量加えて混合物を調製し、前記混合物100質量部に対して、繊維状鉱物(F1~F3)又は非繊維状鉱物(N1)を表1に示す種類と量、水100質量部を加え、5分間攪拌してスラリー(耐火断熱組成物スラリー)を調製した。調製したスラリーは810cm3(樹脂成形体空隙量に対して1.1倍)となるように発泡樹脂成形体上面に流し込んだ。
【0079】
(2)合成エトリンガイトを用いた場合
合成エトリンガイト(ET1)を用いた場合については、当該合成エトリンガイト100質量部に対して繊維状鉱物(F1)を表1に示す所定割合となるように混合した混合物を作製し、前記混合物100質量部に対して水を100質量部となるように加え、5分間攪拌してスラリー(耐火断熱組成物スラリー)を調製した。調製したスラリーは810cm3(樹脂成形体空隙量に対して1.1倍)となるように発泡樹脂成形体上面に流し込んだ。
【0080】
(測定方法)
連続空隙率:発泡樹脂成形体の連続空隙率を下記のようにして求めた。まず、温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した発泡樹脂成形体の外形寸法(縦10cm×横10cm×厚さ5cm)より見かけ体積(Va)を求め、該サンプルを温度23℃のエタノールの入ったメスシリンダー中に金網の道具を使用して沈め、軽い振動を加えることにより成形体中の空隙に存在している空気を脱気した。そして、金網の道具の体積を考慮して水位上昇分を読み取り、該サンプルの真の体積(Vb)を測定する。求められたサンプルの見かけ体積(Va)と真の体積(Vb)から、次式により連続空隙率(V)を求めた。
【0081】
連続空隙率V(%)=〔(Va-Vb)/Va〕×100
【0082】
結晶水の含有量(結晶水量):耐火断熱ボードから20gサンプリングし、アセトンで硬化体中の自由水と発泡体を溶解し、ろ過した後、残渣物をよくアセトンで洗浄し、25℃の環境下、デシケータ中で48時間真空乾燥した。乾燥した硬化物(残渣物)を熱分析装置(昇温速度:10℃/分、空気中)で50~200℃の範囲の質量減少率(%)を測定することで結晶水量とした。
尚、本明細書における結晶水とは、アセトン等の乾燥によって除去できる自由水を除く、該耐火断熱ボード中に含まれる化学的或いは物理的に結合された水のことを言う。
【0083】
耐火性:ISO-5660-1:2002に示されたコーンカロリーメータによる発熱試験を実施し、耐火性を簡易的に評価した。耐火断熱ボードから得られた縦10cm×横10cm×厚さ5cmの試験体を用い、加熱時間が20分間のときの総発熱量が8MJ/m2以下であることが、耐火性(不燃である)を有する点で好ましい。
【0084】
熱伝導率:耐火断熱ボードから得られた縦10cm×横5cm×厚み5cmの試験体を用いて迅速熱伝導率計(ボックス式プローブ法)で測定した。
なお、熱伝導率が低いほど断熱性が高いといえる。熱伝導率は0.070W/mK以下が好ましい。
【0085】
形状保持性:コーンカロリーメータによる燃焼試験(耐火性試験)後の試験体に亀裂、割れ、崩壊、欠損箇所、収縮がない場合を○、亀裂、割れ、崩壊、欠損箇所が確認された場合を×とした。
【0086】
形状保持率:コーンカロリーメータによる燃焼試験(耐火性試験)後の試験体の体積を試験前の試験体の体積と比較することで形状保持率((試験後の試験体の体積/試験前の試験体の体積)×100(%))を測定した。
【0087】
【0088】
上記表1中のセッコウ(CS)の量は、カルシウムサルフォアルミネート(CSA)100質量部に対する質量部である。繊維状鉱物(F)の量は、カルシウムサルフォアルミネート(CSA)とセッコウ(CS)の混合物100質量部に対する質量部である。また、実験No.1-22は、カルシウムアルミネート(CA)とセッコウ(CS)の混合物100質量部に対して、5質量部の繊維状鉱物(F1)と5質量部の繊維状鉱物(F2)を混合して使用した。
【0089】
表1より、所定の条件を満たすカルシウムサルフォアルミネートと石膏、繊維状鉱物を使用することで、充填された硬化体中の結晶水量、例えば、エトリンガイト中の結晶水量が大きく増加していることがわかる、即ち、繊維状鉱物はカルシウムサルフォアルミネートと石膏の反応に寄与するために、エトリンガイト含有割合が増加し、耐火性、形状保持性、熱伝導率を向上できる。一方、合成エトリンガイトを使用した比較例では、繊維状鉱物の使用により結晶水量が増加していないことがわかる。当該比較例では、スラリーを調製する際に加えた水分の大半が結晶水では無く自由水として存在するため、経時乾燥や加熱を受けるとその自由水が容易に失われてしまい、実施例が奏する効果を得ることができないと考えられる。
【0090】
「実験例2」
カルシウムサルフォアルミネート(CSA1)100質量部に対して、セッコウ(CS1)50質量部、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの混合物100質量部に対して、無機粉末を表2に示す種類と量と、繊維状鉱物(F1)を7質量部と、水を100質量部とを加え、実験例1と同様に耐火断熱組成物スラリーを調製し、性能を評価した。結果を表2に示す。
【0091】
(使用材料)
無機粉末1(P1):アクシーズケミカル社製シラスバルーン、商品名:MSB-301、平均粒子径50μm
無機粉末2(P2):アクシーズケミカル社製シラスバルーン、商品名:ISM-F015、平均粒子径22μm
無機粉末3(P3):アクシーズケミカル社製シラスバルーン、商品名:MSB-5011、平均粒子径96μm
無機粉末4(P4):巴工業社製フライアッシュバルーン、商品名:セノライトSA、平均粒子径80μm
無機粉末5(P5):DENNERT PORAVER GMBH社製廃ガラス発泡体粉末、商品名:Poraver(0.04-0.125mm粒度品)、平均粒子径90μm
【0092】
【0093】
上記表2中、無機粉末(P)の量は、カルシウムサルフォアルミネート(CA)とセッコウ(CS)の混合物100質量部に対する質量部である。実験No.2-13では、カルシウムサルフォアルミネート(CA)とセッコウ(CS)の混合物100質量部に対して、7質量部の無機粉末(P1)と7質量部の無機粉末(P4)を混合して使用した。
【0094】
表2より、耐火断熱組成物が更に無機粉末を含むことで、優れた耐火性、形状保持性を維持しながら断熱性を向上することが分かる。
【0095】
「実験例3」
カルシウムサルフォアルミネート(CSA1)100質量部に対して、セッコウ(SC1)50質量部、カルシウムアルミネートとセッコウの混合物100質量部に対して、凝結遅延剤を表3に示す種類と量と、繊維状鉱物(F1)を7質量部と、水を100質量部とを加え、実験例1と同様に耐火断熱組成物スラリーを調製し、性能を評価した。また、ゲル化時間についても評価した。結果を表3に示す。
【0096】
(使用材料)
凝結遅延剤(R1):試薬1級 クエン酸ナトリウム
凝結遅延剤(R2):試薬1級 酒石酸
凝結遅延剤(R3):試薬1級 グルコン酸ナトリウム
【0097】
(測定方法)
ゲル化時間:調製した耐火断熱組成物スラリーをポリビーカーに入れ、これを断熱容器に入れ、測温抵抗体を差し込んだ。記録計により混練を終了した直後の温度に対して、モルタルの硬化に伴う発熱によって2℃温度が上昇した時間を、ゲル化時間とした。
【0098】
【0099】
上記表3中、凝結遅延剤(R)の量は、カルシウムサルフォアルミネート(CSA)とセッコウ(CS)の混合物100質量部に対する質量部である。
【0100】
表3より、耐火断熱組成物が更に凝結遅延剤を含むことで、優れた耐火性、形状保持性、断熱性を維持しながら可使時間を調整できることが分かる。
【0101】
「実験例4」
カルシウムサルフォアルミネート(CSA1)100質量部に対して、セッコウ(SC1)50質量部、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの混合物100質量部に対して、凝結遅延剤0.07質量部と、水和促進剤を表4に示す種類と量と、繊維状鉱物(F1)を7質量部と、水100質量部とを加え、実験例1と同様に耐火断熱組成物スラリーを調製し、性能を評価した。また、ゲル化時間についても評価した。結果を表4に示す。
【0102】
(使用材料)
水和促進剤1(ACC1):試薬1級 水酸化カルシウム
水和促進剤2(ACC2):デンカ社製 普通ポルトランドセメント
水和促進剤3(ACC3):試薬1級 炭酸ナトリウム
水和促進剤4(ACC4):試薬1級 無水硫酸アルミニウム
【0103】
【0104】
上記表4中、水和促進剤(ACC)の量は、カルシウムサルフォアルミネート(CSA)とセッコウ(CS)の混合物100質量部に対する質量部である。
【0105】
表4より、耐火断熱組成物が更に水和促進剤を含むことで、結晶水量を向上でき、優れた断熱性、形状保持性を維持しながら耐火性を向上できることが分かる。
【0106】
「実験例5」
カルシウムサルフォアルミネート(CSA1)100質量部に対して、セッコウ(CS1)50質量部を加えて混合物を調製し、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの当該混合物100質量部に対して、繊維状鉱物(F1)を7質量部と、水を表5に示す量とを加え、実験例1と同様に耐火断熱組成物スラリーを調製し、性能を評価した。結果を表5に示す。
【0107】
【0108】
上記表5中、水の量は、カルシウムアルミネート(CA)とセッコウ(CS)の混合物100質量部に対する質量部である。
【0109】
表5より、適切な水の使用量で耐火断熱組成物スラリーを調製することで、優れた耐火性、形状保持性、及び断熱性を示すことがわかる。
【0110】
「実験例6」
カルシウムサルフォアルミネート(CSA1)100質量部に対して、セッコウ(CS1)50質量部、カルシウムサルフォアルミネートとセッコウの当該混合物100質量部に対して、繊維状鉱物(F1)を7質量部と、水100質量部とを加え、発泡樹脂成形体の空隙率を表6に示すよう変えて実験例1と同様に耐火断熱組成物スラリーを調製し性能を評価した。結果を表6に示す。
なお、空隙率は、空隙率の異なる発泡樹脂成形体B~Eを使用することで変更した。
【0111】
(使用材料)
発泡樹脂成形体B:市販されているポリスチレン発泡ビーズ(直径1~5mm)を成形機(株式会社ダイセン工業製:VS-500)に充填し、スチームにより加熱して、発泡粒子間に空隙を有する状態で発泡粒子同士を融着させて製造した。連続空隙率は加圧度合いを調整することで制御した。連続空隙率25.3%、ポリスチレン発泡ビーズの密度10.5kg/m3、ポリスチレン発泡ビーズ成形体の熱伝導率0.033W/m・K
【0112】
発泡樹脂成形体C:市販されているポリスチレン発泡ビーズ(直径1~5mm)を成形機(株式会社ダイセン工業製:VS-500)に充填し、スチームにより加熱して、発泡粒子間に空隙を有する状態で発泡粒子同士を融着させて製造した。連続空隙率は加圧度合いを調整することで制御した。連続空隙率43.9%、ポリスチレン発泡ビーズの密度10.5kg/m3、ポリスチレン発泡ビーズ成形体の熱伝導率0.033W/m・K
【0113】
発泡樹脂成形体D:市販されているポリスチレン発泡ビーズ(直径1~5mm)を成形機(株式会社ダイセン工業製:VS-500)に充填し、スチームにより加熱して、発泡粒子間に空隙を有する状態で発泡粒子同士を融着させて製造した。連続空隙率は加圧度合いを調整することで制御した。連続空隙率58.7%、ポリスチレン発泡ビーズの密度10.5kg/m3、ポリスチレン発泡ビーズ成形体の熱伝導率0.033W/m・K
【0114】
発泡樹脂成形体E:市販されているポリスチレン発泡ビーズ(直径1~5mm)を成形機(株式会社ダイセン工業製:VS-500)に充填し、スチームにより加熱して、発泡粒子間に空隙を有する状態で発泡粒子同士を融着させて製造した。連続空隙率は加圧度合いを調整することで制御した。連続空隙率69.4%、ポリスチレン発泡ビーズの密度10.5kg/m3、ポリスチレン発泡ビーズ成形体の熱伝導率0.033W/m・K
【0115】
【0116】
表6より、適切な連続空隙を有する発泡樹脂成形体を用いることで、優れた不燃性、形状保持性、及び断熱性を示すことがわかる。
【0117】
「実験例7」
実験No.1-1、1-2、2-5及び4-1の耐火断熱組成物スラリーを用いて、実験例1と同様にして耐火断熱ボード(縦1000mm×横1000mm×厚さ25mm)を作製した。
作製した耐火断熱ボードを用いて
図2、
図3に示す耐火構造体になるように組み上げて耐火炉に設置した。
当該耐火構造体は、
図3に示すように、窯業系サイディングボードが胴縁を介して、透湿防水シート、耐火断熱ボード及び構造用合板からなる積層板に固定され、当該積層板の構造用合板が柱を介して耐火断熱ボードと固定されている構造を有する。そして、この耐火構造体を、窯業系サイディングボード側が加熱面となるように耐火炉に設置した。
【0118】
耐火構造体のサイズは横2200mm×縦1200mmとした。試験は、耐火断熱ボードの耐火断熱組成物の種類と厚みを変えて試験終了後の耐火構造体の燃焼状態を確認した。尚、厚みを変えてボードを設置する場合は設置枚数を変えることで行った。結果を表7に示す。
なお、使用材料の詳細は下記のとおりである。
【0119】
(使用材料)
窯業系サイディングボード:ニチハ社製、モエンサイディング、厚さ16mm
透湿防水シート:フクビ化学社製、スーパーエアテックスKD
構造用合板:ポリエチレン系、JAS規格品、特類、厚さ9mm
柱(間柱):木材(杉)、長さ15mm
胴縁:木材(杉)、長さ105mm
【0120】
(耐火試験方法)
内部構造を示す
図2の側面図及び
図3の上面図に示すように、耐火構造体を耐火炉に設置した状態で、加熱は外壁を模擬した窯業系サイディングボード側で行い、ガスバーナー(トータル5基)から加炎し、ISO 834に準拠した標準過熱曲線で耐火構造体を1時間加熱した。その後、加熱を止めて耐火炉に設置した状態を3時間維持した。耐火炉から構造体を取り外し、耐火断熱ボードを剥がして柱の燃焼状態を確認した。
【0121】
【0122】
表7より、本発明の実施例に係る耐火断熱ボードで耐火構造体を作ると、耐火性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の実施形態に係る耐火断熱組成物及びそのスラリーを用いることで、耐火性と断熱性を持った耐火断熱ボードを得ることができる。又、そのボードを用いて壁や柱等の構造体を構築した場合、火炎を受けても形状を維持できるので、火災時の延焼を阻止する効果を有する。よって、本発明の実施形態は、防火安全性の高い建築物、車両、航空機、船舶、冷凍設備、及び冷蔵設備の建造に寄与できる。