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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】混合液晶潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/18 20060101AFI20240909BHJP
   C09K 19/42 20060101ALI20240909BHJP
   C09K 19/12 20060101ALI20240909BHJP
   C09K 19/16 20060101ALI20240909BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240909BHJP
【FI】
C10M105/18
C09K19/42
C09K19/12
C09K19/16
C10N40:02
C10N30:06
C10N30:00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020050905
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021147558
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506103636
【氏名又は名称】ウシオケミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】原本 雄一郎
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/017509(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/124072(WO,A1)
【文献】特開2017-105874(JP,A)
【文献】特開2014-129494(JP,A)
【文献】特開2015-199934(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103578(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0203137(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化17】

で表される化合物であって、
(a) R11及びR12がいずれも、基-OCHCHR1314(R13はメチル、エチル又はプロピルであり、R14は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)である化合物、
(b) R11及びR12が異なり、一方が、基-OCHCHR1314(R13はメチル、エチル又はプロピルであり、R14は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)であり、他方が、基-OCHCHCH(R15)CHCHOR16(R15はメチル、エチル又はプロピルであり、R16は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)である化合物、及び
(c) R11及びR12がいずれも、基-OCHCHCH(R15)CHCHOR16(R15はメチル、エチル又はプロピルであり、R16は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)である化合物
の混合物(A)と、
【化18】

の混合物(B)と
を含み、動摩擦係数が0.1未満である、混合液晶潤滑剤。
【請求項2】
混合物(A)が標準状態において液体である、請求項1に記載の混合液晶潤滑剤。
【請求項3】
混合物(A)対混合物(B)の重量比が55:45乃至95:5である、請求項1又は2に記載の混合液晶潤滑剤。
【請求項4】
追加給脂用である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の混合液晶潤滑剤。
【請求項5】
混合物(A)が、
【化19】

である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の混合液晶潤滑剤。
【請求項6】
式(1):
【化20】

で表される化合物であって、
(a) R 11 及びR 12 がいずれも、基-OCH CHR 13 14 (R 13 はメチル、エチル又はプロピルであり、R 14 は直鎖又は分岐鎖のC 2n+1 であり、4≦n≦12である)である化合物、
(b) R 11 及びR 12 が異なり、一方が、基-OCH CHR 13 14 (R 13 はメチル、エチル又はプロピルであり、R 14 は直鎖又は分岐鎖のC 2n+1 であり、4≦n≦12である)であり、他方が、基-OCH CH CH(R 15 )CH CH OR 16 (R 15 はメチル、エチル又はプロピルであり、R 16 は直鎖又は分岐鎖のC 2n+1 であり、4≦n≦12である)である化合物、及び
(c) R 11 及びR 12 がいずれも、基-OCH CH CH(R 15 )CH CH OR 16 (R 15 はメチル、エチル又はプロピルであり、R 16 は直鎖又は分岐鎖のC 2n+1 であり、4≦n≦12である)である化合物
の混合物(A)と、
【化21】

の混合物(B)とを含む化合物混合物の、動摩擦係数が0.1未満である混合液晶潤滑剤の製造のための使用。
【請求項7】
混合物(A)が、
【化22】

である、請求項6の使用。
【請求項8】
互いに接触して相対運動する複数の機械要素と、該機械要素の接触面の少なくとも一部に配置された請求項1乃至5のいずれか一項に記載の混合液晶潤滑剤とを有する機械装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合液晶潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤とは、一般に、機械の可動部分に塗布し、相接する部品間の摩擦を低減し、摩擦熱の発生を防ぎ、部品同士の接触部分に応力が集中するのを抑制するほか、密封、防錆、防塵などの役割をも担う物質である。潤滑剤には潤滑油やグリースが含まれ、潤滑油は通常、石油精製物等の混合油であるが、グリースは、潤滑剤膜が付着した状態に保つのが困難な摺動面(例えば、すべり軸受や転がり軸受)に適用する目的で、潤滑油を増ちょう剤に保持させ、チクソトロピー性を付与したものである。
【0003】
このような潤滑剤には、低摩擦係数を示すことは言うまでもなく、使用可能な温度範囲の広いこと、特に耐熱性に優れること、長期間にわたって蒸発量の少ないことなど様々な特性が要求される。そのような要求に応える潤滑剤として、特許文献1には、ビフェニル環を含む液晶化合物とビニレン基で連結された3つのフェニル環を含む液晶化合物とを含む耐熱導電性潤滑剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-105874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、汎用の潤滑剤であるDOS(ジオクチルセバケート)の40℃における平均動摩擦係数は0.238(40℃)であり、特許文献1の表1に開示された例1から例6までの試料でさえも40℃における平均動摩擦係数は0.145から0.285の範囲であり、いまだ平均動摩擦係数0.1の壁を破ることができていなかった。
【0006】
また、これらの耐熱導電性潤滑剤は硬く、流動性が低いという欠点を持っていた。そのため、既に潤滑されてはいるが、潤滑剤の機能が低下している機械への潤滑剤の追加の添加(追加給脂、又は中間給脂)が困難であった。
【0007】
そこで本発明は、平均動摩擦係数が低く、広い温度範囲において有効であり、長期間にわたって蒸発量が少なく、しかも、粘度が低いために初期潤滑剤としてはもちろん、追加給脂用にも適した潤滑剤を提供することを目的とする。より具体的には、平均動摩擦係数が0.1を下回り、被潤滑部材にダメージを与えることなく、氷点下の温度においても液晶性を示す混合液晶潤滑剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、側鎖にアルキル基を導入することにより長鎖アルキル基間の距離を拡大し、分子間力を低下させ、分子間の滑りを向上させ、かつ、低温領域で液晶状態を示す液晶材料を実現させる構造設計を行った。そして、このような構造の液晶化合物の合成を行い、氷点下の温度領域で液晶状態を示す混合液晶化合物の合成に成功した。本発明に係る混合液晶潤滑剤は柔らかく、機材の潤滑部位に製造時点で添加しやすいのみならず、追加給脂も容易である。また、溶剤溶解性にも優れている。
【0009】
すなわち本発明は、以下を包含する。
<1> 式(1):
【化1】

[式中、R11及びR12は同一又は異なり、
基-OCHCHR1314(R13はメチル、エチル又はプロピルであり、R14は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)又は
基-OCHCHCH(R15)CHCHOR16(R15はメチル、エチル又はプロピルであり、R16は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)
である]
の化合物(A)を少なくとも一種と、
式(2):
【化2】

[式中、
21及びR22は同一又は異なり、アルコキシ基OR27(R27は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)であり、
23、R24、R25及びR26は同一又は異なり、水素原子、又はアルコキシ基OR28(R28は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)である]
の化合物(B)を少なくとも一種と
を含む、混合液晶潤滑剤。
<2> 化合物(A)が標準状態において液体である、<1>に記載の混合液晶潤滑剤。
<3> 化合物(A)対化合物(B)の重量比が55:45乃至95:5である、<1>又は<2>に記載の混合液晶潤滑剤。
<4> 動摩擦係数が0.1未満である、<1>乃至<3>のいずれか一項に記載の混合液晶潤滑剤。
<5> 追加給脂用である、<1>乃至<4>のいずれか一項に記載の混合液晶潤滑剤。
<6> 化合物(A)として、
【化3】

の混合物を含む、<1>乃至<5>のいずれか一項に記載の混合液晶潤滑剤。
<7> 化合物(B)として、
【化4】

の混合物を含む、<1>乃至<6>のいずれか一項に記載の混合液晶潤滑剤。
<8> 式(1):
【化5】

[式中、R11及びR12は同一又は異なり、
基-OCHCHR1314(R13はメチル、エチル又はプロピルであり、R14は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)又は
基-OCHCHCH(R15)CHCHOR16(R15はメチル、エチル又はプロピルであり、R16は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)
である]
の化合物(A)を少なくとも一種と、
式(2):
【化6】

[式中、
21及びR22は同一又は異なり、アルコキシ基OR27(R27は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)であり、
23、R24、R25及びR26は同一又は異なり、水素原子、又はアルコキシ基OR28(R28は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)である]
の化合物(B)を少なくとも一種と
を含む化合物混合物の混合液晶潤滑剤の製造のための使用。
<9> 互いに接触して相対運動する複数の機械要素と、該機械要素の接触面の少なくとも一部に配置された<1>乃至<7>のいずれか一項に記載の耐熱導電性潤滑剤とを有する機械装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る混合液晶潤滑剤の有利な効果をいくつか挙げれば以下のとおりである。
(1) 氷点下から100℃以上までの温度範囲において液晶性を示すため、耐久性に優れる。
(2) 平均動摩擦係数が低く、広い温度範囲において有効であり、長期間にわたって蒸発量が少ないため、製造当初から各種機材の潤滑剤として使用することに適している。

(3) 既存の液晶潤滑剤等に構造が近似するため、相溶性に優れ、しかも低粘度であるため、追加給脂が容易である。例えばエスカレーターのように、現在は頻繁にオイル交換を必要としている用途には、本発明に係る混合液晶潤滑剤のような追加給脂性能は非常に有利であろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、
式(1):
【化7】

[式中、R11及びR12は同一又は異なり、
基-OCHCHR1314(R13はメチル、エチル又はプロピルであり、R14は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)又は
基-OCHCHCH(R15)CHCHOR16(R15はメチル、エチル又はプロピルであり、R16は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)
である]
の化合物(A)を少なくとも一種と、
式(2):
【化8】

[式中、
21及びR22は同一又は異なり、アルコキシ基OR27(R27は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)であり、
23、R24、R25及びR26は同一又は異なり、水素原子、又はアルコキシ基OR28(R28は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、4≦n≦12である)である]
の化合物(B)を少なくとも一種と
を含む、混合液晶潤滑剤が提供される。
【0012】
[式(1)の化合物(A)]
式(1)においてR11及びR12は同一又は異なり、基-OCHCHR1314、又は基-OCHCHCH(R15)CHCHOR16を表す。
13はメチル、エチル、n-プロピル又はi-プロピルであり、好ましくはエチル又はn-プロピルであり、最も好ましくはエチルである。
14は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、好ましくは直鎖のC2n+1である。4≦n≦12であり、より好ましくは4≦n≦9であり、最も好ましくは4≦n≦6である。
15はメチル、エチル、n-プロピル又はi-プロピルであり、好ましくはメチル又はエチルであり、最も好ましくはメチルである。
16は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、好ましくは直鎖のC2n+1である。4≦n≦12であり、より好ましくは6≦n≦10であり、最も好ましくは7≦n≦9である。
【0013】
好ましくは、化合物(A)は標準状態において液体である。本明細書にいう標準状態とは、基準の温度を0セルシウス度(273.15ケルビン)、標準圧力を101.325kPaとするNTP(標準温度圧力、normal temperature and pressure)をいう。
【0014】
好ましい化合物(A)の例は、
(A-1) 式(1)においてR11及びR12はいずれも基-OCHCHR1314を表し、R13はエチルであり、R14は直鎖のC2n+1であり、4≦n≦6である化合物、
(A-2) 式(1)においてR11及び同一又は異なり、R11は基-OCHCHR1314を表し、R13はエチルであり、R14は直鎖のC2n+1であり、4≦n≦6であり、R12は基-OCHCHCH(R15)CHCHOR16を表し、R15はメチルであり、R16は直鎖のC2n+1であり、7≦n≦9である化合物、
(A-3) 式(1)においてR11及びR12はいずれも基-OCHCHCH(R15)CHCHOR16を表し、R15はメチルであり、R16は直鎖のC2n+1であり、7≦n≦9である化合物、
である。
【0015】
本発明に係る混合液晶潤滑剤は、化合物(A)として二種以上の化合物を含んでいてもよい。
好ましくは、本発明に係る混合液晶潤滑剤は、化合物(A)として、
【化9】

の混合物を含む。
【0016】
[式(2)の化合物(B)]
式(2)においてR21及びR22は同一又は異なり、アルコキシ基OR27を表し、R23、R24、R25及びR26は同一又は異なり、水素原子、又はアルコキシ基OR28を表す。
27は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、好ましくは直鎖のC2n+1である。4≦n≦12であり、より好ましくは6≦n≦12であり、最も好ましくは8≦n≦12である。
28は直鎖又は分岐鎖のC2n+1であり、好ましくは直鎖のC2n+1である。4≦n≦12であり、より好ましくは7≦n≦12であり、最も好ましくは10≦n≦12である。
【0017】
好ましい化合物(B)の例は、
(B-1) 式(2)においてR21及びR22は同じアルコキシ基OR27を表し、R27は直鎖のC2n+1であり、8≦n≦12であり、R23、R24、R25及びR26はいずれも水素原子である化合物、
(B-2) 式(2)においてR21及びR22は異なるアルコキシ基OR27を表し、R27はそれぞれ直鎖のC2n+1であり、8≦n≦12であり、R23、R24、及びR26は水素原子であり、R25はアルコキシ基OR28であり、R28は直鎖のC2n+1であり、10≦n≦12である化合物、
(B-3) 式(2)においてR21及びR22は同じアルコキシ基OR27を表し、R27は直鎖のC2n+1であり、8≦n≦12であり、R23、及びR26は水素原子であり、R24、及びR25は同じアルコキシ基OR28であり、R28直鎖のC2n+1であり、10≦n≦12である化合物、
である。
【0018】
本発明に係る混合液晶潤滑剤は、化合物(B)として二種以上の化合物を含んでいてもよい。
好ましくは、本発明に係る混合液晶潤滑剤は、化合物(B)として、
【化10】

の混合物を含む。
【0019】
[化合物の合成]
本発明に係る式(A)で表される化合物、及び式(B)で表される化合物の製造方法は特に限定されるものではなく、特許第5916916号公報に記載の方法など公知の反応を組み合わせることにより合成することができる。
【0020】
例えば、本発明に係る式(A)で表される化合物の合成は、4,4’-ジヒドロキシビフェニルとアルキルハライド及び/又はアルコキシアルキルハライドとを、アルカリ金属やアルカリ金属アルコラートを用いたハロゲン化水素の脱離によるカップリング反応に供することにより容易に行うことができる。具体的な合成例は、後述する合成例1に示す。
【0021】
本発明に係る式(B)で表される化合物は、以下のようにして有利に調製することができる。

【化11】

[式中、
は、アルコキシ基OR(Rは直鎖又は分岐鎖、好ましくは直鎖のC2n+1であり、4≦n≦12であり、より好ましくは6≦n≦12であり、最も好ましくは8≦n≦12である)であり、
及びRは同一又は異なり、水素原子、又はアルコキシ基OR(Rは直鎖又は分岐鎖、好ましくは直鎖のC2n+1であり、4≦n≦12であり、より好ましくは7≦n≦12であり、最も好ましくは10≦n≦12である)である]
で表される化合物を少なくとも一種、

【化12】

[式中、
は、Rと同一又は異なり、アルコキシ基OR(Rは直鎖又は分岐鎖、好ましくは直鎖のC2n+1であり、4≦n≦12であり、より好ましくは6≦n≦12であり、最も好ましくは8≦n≦12である)であり、
及びRは、R及びRと同一又は異なり、水素原子、又はアルコキシ基OR(Rは直鎖又は分岐鎖、好ましくは直鎖のC2n+1であり、4≦n≦12であり、より好ましくは7≦n≦12であり、最も好ましくは10≦n≦12である)である]
で表される化合物を少なくとも一種、及び

【化13】

で表される化合物を反応させて、下記化合物
【化14】

[式中、R、R、R、R、R及びRは上に定義したとおりである]
の混合物を得る。
【0022】
なお、前記アルカリ金属としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。また前記アルカリ金属アルコラートとしては、ナトリウムエチラート、ナトリウムメチラート、tert-ブトキシナトリウム、tert-ブトキシカリウムなどが挙げられる。
【0023】
また、上記の反応には従来公知の各種有機溶媒が使用可能であり、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、トルエンが使用可能である。
【0024】
かくして得られる混合物は、単独の化合物を用いる場合に比較して、より広い温度範囲で潤滑剤用途に適した低粘度を示すので、混合液晶潤滑剤として一層好適に使用することができる。
【0025】
[混合液晶潤滑剤の特徴]
氷点下から100℃以上までの温度範囲において液晶性を示すため、耐久性に優れる。
本発明に係る混合液晶潤滑剤の動摩擦係数は40℃で測定したとき、好ましくは0.1未満である。
また、本発明に係る混合液晶潤滑剤は揮発性が非常に小さく(例えば、100℃で1か月加熱後の重量減少が1%以下)、慣用のグリース等に比較して長期間補充することなく使用継続が可能という利点も有する。
【0026】
典型的な本発明に係る混合液晶潤滑剤は、粘度が低めの潤滑剤から粘度が高めのグリース様潤滑剤まで、幅広い用途に使用し得る。
本発明に係る混合液晶潤滑剤は、DOS(ジオクチルセバケート)や既存の液晶潤滑剤等との相溶性に優れ、しかも低粘度であるため、既にこれらの潤滑剤によって潤滑されている機材の部位にも追加給脂が容易である。
【0027】
[混合液晶潤滑剤の調製]
本発明に係る混合液晶潤滑剤が、本発明の効果を損なわない範囲において含んでもよい、その他の成分について、順に説明する。これらは基本的に潤滑剤の含有成分として従来公知の物質であって、その含有量は、特にほかに言及しない限り、従来公知の範囲で当業者が適宜選択することができる。また、いずれの成分も1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
(液晶化合物)
本発明に係る式(A)で表される化合物、及び式(B)で表される化合物は液晶化合物であるが、本発明に係る混合液晶潤滑剤は、それ以外の液晶化合物を含有してもよい。
【0029】
そのような液晶化合物としては、スメクチック相あるいはネマチック相を示す液晶化合物、アルキルスルホン酸、ナフィオン膜系の構造を持つ化合物、アルキルカルボン酸、アルキルスルホン酸等を挙げることができる。また、特許第5916916号公報、特開2017-105874号公報に記載の液晶化合物も好適に配合することができる。
【0030】
これらの成分の併用は、本発明に係る混合液晶潤滑剤に含まれる液晶化合物が液晶相を形成する温度範囲を更に広げ得るものであり、上述の液晶相形成による利点を広い温度範囲にて享受できる可能性がある。
【0031】
(基油)
本発明に係る式(A)で表される化合物、及び式(B)で表される化合物を添加剤として潤滑剤に含める場合、基油としては、従来公知の各種の潤滑剤基油を使用することができる。
【0032】
前記基油としては、特に限定されないが、例えば、鉱油、高精製鉱油、合成炭化水素油、パラフィン系鉱油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、シリコーン油、ナフテン系鉱油及びフッ素油等が使用できる。このような基油の本発明に係る混合液晶潤滑剤における含有量は、通常80~99重量%である。
【0033】
(その他の添加剤)
本発明に係る式(A)で表される化合物、及び式(B)で表される化合物を基油として潤滑剤に含める場合、従来公知の各種添加剤を添加可能である。
【0034】
その他、本発明に係る混合液晶潤滑剤に添加可能な添加剤としては、軸受油、ギヤ油及び作動油などの潤滑剤に用いられている各種添加剤、すなわち極圧剤、配向吸着剤、摩耗防止剤、摩耗調整剤、油性剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤、固体潤滑剤等が挙げられる。
【0035】
前記極圧剤の例としては、塩素系化合物、硫黄系化合物、リン酸系化合物、ヒドロキシカルボン酸誘導体、及び有機金属系極圧剤が挙げられる。極圧剤を添加することにより、本発明に係る混合液晶潤滑剤の耐摩耗性が向上する。
【0036】
前記配向吸着剤の例としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤などの各種カップリング剤に代表される有機シランや有機チタン、有機アルミニウム等が挙げられる。配向吸着剤を添加することにより、本発明に係る混合液晶潤滑剤に含まれる液晶化合物の液晶配向を強め、本発明に係る混合液晶潤滑剤から形成される被膜の厚さとその強度が強化され得る。
【0037】
本発明に係る混合液晶潤滑剤は、以上説明した本発明の化合物やその他の成分を、従来公知の方法で混合することによって、調製することができる。本発明に係る混合液晶潤滑剤の調製方法の一例を示せば、以下のとおりである。
【0038】
混合液晶潤滑剤の構成成分を常法で混合し、その後、必要に応じて、ロールミル、脱泡処理、フィルター処理等を行って本発明に係る混合液晶潤滑剤を得る。あるいは、混合液晶潤滑剤の油成分を先に混合し、続いて添加剤等のその他の成分を加えて混合し、必要に応じて上記の脱泡処理等を行うことによっても、混合液晶潤滑剤を調製することができる。
【0039】
化合物(A)対化合物(B)の重量比は、好ましくは30:70乃至95:5、より好ましくは55:45乃至95:5、最も好ましくは55:45乃至90:10である。
【0040】
〔混合液晶潤滑剤の用途〕
本発明に係る混合液晶潤滑剤は、上述の通り広い温度範囲、特に高温域において良好な低粘度を示し、また動摩擦係数も小さいので、従来はグリースが適用されていた各種の機械装置における潤滑剤として使用可能である。
【0041】
機械装置は一般に、互いに接触して相対運動する複数の機械要素を有するが、この機械要素の接触面の少なくとも一部に本発明に係る混合液晶潤滑剤を配置することで、前記複数の機械要素の接触による摩擦を低減し、相対運動を円滑にすることができる。
【0042】
本発明において前記接触とは、複数の物体が直接接している場合だけでなく、本発明に係る混合液晶潤滑剤により形成される被膜など、何らかの物質の介在を受けて間接的に接している場合を含む。すなわち、本発明に係る混合液晶潤滑剤が複数の機械要素の接触面に配置された場合、当該組成物からなる被膜が複数の機械要素の間に形成されて、機械要素の直接的接触がなくなる。これにより、機械要素同士の摩擦による摩耗や焼き付きを好適に防止することができる。
【0043】
本発明に係る混合液晶潤滑剤を前記複数の機械要素の接触面に配置する方法は当業者に公知である。そのような方法として例えば、前記接触面への組成物の塗布、前記機械要素の接触面を含む、機械要素が近接している一定領域への前記組成物の充填が挙げられる。
【0044】
また、前記機械要素とは、各種の機械装置を構成する要素(部品等)であり、従来潤滑剤による潤滑が行われているもの、特にグリースが適用されているもの、及び、将来潤滑剤、特にグリースによる潤滑が行われる可能性のあるものを含む。
【0045】
前記複数の機械要素の接触面、より広く言えば機械要素の接触部位は平面であっても曲面であってもよいし、そのような面の少なくとも一部に凹凸があってもよいし、孔部が存在してもよい。また機械要素の接触部位を構成する各機械要素の部位には、各種改質など、表面処理がなされていてもよい。機械要素の材質も特に限定されず、金属材料、あるいは有機・無機材料など、いずれの材料で構成されていてもよい。また、機械要素の一方と他方とで、構成材料の種類が異なっていてもよい。
【0046】
このような各種機械要素を有する機械装置の例としては、運送用機械、加工用機械、コンピュータ関連機器、複写機等の事務関連機器並びに家庭用製品などが挙げられ、本発明に係る混合液晶潤滑剤は、例えばこれら各種機械装置の軸受けの潤滑のために好適に利用することができる。
【0047】
前記軸受けの具体例としては、電動ファンモータ及びワイパーモータ等の自動車電装品に使用される軸受;水ポンプ及び電磁クラッチ装置等の自動車エンジン補機等や駆動系に使用される転がり軸受;産業機械装置用の小型ないし大型の汎用モータ等の回転装置に使用される転がり軸受;工作機械の主軸軸受等の高速高精度回転軸受、エアコンファンモータ及び洗濯機等の家庭電化製品のモータや回転装置に使用される転がり軸受;HDD装置及びDVD装置等のコンピュータ関連機器の回転部に使用される転がり軸受;複写機及び自動改札装置等の事務機の回転部に使用される転がり軸受;並びに、電車及び貨車の車軸軸受が挙げられる。
【0048】
また本発明に係る混合液晶潤滑剤は、自動車のCVJ装置や電子電気制御のパワーステアリング装置等に使用される樹脂プーリの潤滑、並びに、リニアガイドやボールねじなどの各種転動装置の機械要素の潤滑に使用することができる。
【0049】
本発明に係る混合液晶潤滑剤は、例えば、自動車等の車両のエンジン油、ギヤ油、自動車用作動油、船舶・航空機用潤滑油、マシン油,タービン油、油圧作動油、スピンドル油、圧縮機・真空ポンプ油、冷凍機油及び金属加工用潤滑油剤、また、ヒンジ油、ミシン油及び摺動面油、さらには、HDD装置のプラッタ用潤滑剤(水平磁気記録方式及び熱アシスト記録技術等を利用した垂直磁気記録方式に使用されるものを含む)、磁気記録媒体用潤滑剤、マイクロマシン用潤滑剤や人工骨用潤滑剤等にも利用することができる。
【0050】
[各種物性の測定]
潤滑剤の粘度は回転粘度計で測定することができる。
【0051】
動摩擦係数は、市販の動摩擦係数測定装置で測定できるが、本明細書において動摩擦係数は、新東科学株式会社製表面性測定機「TYPE:14FW」を使用して測定する。
【0052】
本発明に係る混合液晶潤滑剤の動摩擦係数は、温度により影響を受けるため、前記動摩擦係数は、-10℃~+40℃の範囲における所定の測定温度で測定する。
【0053】
具体的には、前記表面性測定機の移動台にステンレス板を固定して試料をたらし、以下の条件で、固定したボールで点圧を加え往復運動による摩耗を繰り返し、往復回数100回ごとにおける動摩擦係数を1800回まで測定し、それらの平均値(平均動摩擦係数)を算出する。この平均値を、本発明における動摩擦係数とする。
【0054】
(測定条件)
垂直荷重:100g
摩擦速度:600mm/min
往復回数:1800
往復ストローク:5mm
加重変換器容量:19.61N
試験片温度:-10℃~+40℃
摩擦相手材:SUS304 ステンレス球 直径10mm
サンプル量:0.2mL
【0055】
液晶性の観察方法
液晶性の有無は偏光顕微鏡を用いた観察により判断できる。
【実施例
【0056】
以下、実施例によりさらに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されない。
【0057】
[混合液晶化合物の合成]
(合成例1)
【0058】
【化15】
【0059】
300ml三角フラスコに、化合物(2-1)11.17g(0.06mol)と炭酸カリウム20.73g(0.15mol)を入れ、70mlのDMFを加えた。この混合物に化合物(2-3)11.59g(0.06mol)と化合物(2-8)17.59g(0.06mol)を加え、80℃で24時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応溶液を10%冷希塩酸300mlに注ぎ、分液ロートを用いてジエチルエーテル300mlで抽出した。更に水層をジエチルエーテル100mlで再抽出した。再抽出後のエーテル層を蒸留水300mlで洗浄した。洗浄後のエーテル層に脱水剤として無水硫酸ナトリウムを加え、一晩脱水した。脱水剤を吸引ろ過により除去し、溶媒をエバポレーターにより除去した。得られた残渣が溶解するまでヘキサンを加えてショートカラムでヘキサン500mlを濾過し、ヘキサンをエバポレーターにより除去し、化合物6を得た。
構造確認は、H-NMRとFT-IRにて行った。
理論収量:24.6g
収量:18.53g
収率:75.3%
形状:無色透明液体
【0060】
(合成例2)
合成例1の方法に準じて下記の混合液晶化合物を得た。
【化16】
【0061】
[混合液晶化合物の液晶性]
合成例1の混合液晶化合物と合成例2の混合液晶化合物を更に所定の割合で混合し、極圧剤(アデカサクラルーブS600)を加えて本発明に係る混合液晶潤滑剤(a)~(d)を得た。処方を表1に示す。
偏光顕微鏡を用いてこの混合液晶潤滑剤の液晶性を観察したところ、氷点下から+110℃以上までの範囲で液晶性を呈することがわかった。結果を表1に示す。
【0062】
[混合液晶潤滑剤の動摩擦係数測定]
新東科学株式会社製表面性測定機TYPE:14FWを使用した。本装置の移動台にステンレス板を固定して試料をたらし、固定したボールで点圧を加え往復運動による摩耗を繰り返し、往復回数100回から1800回まで100回きざみで動摩擦係数を40℃で測定し、その平均値(平均動摩擦係数)を算出した。また、摩耗試験後のステンレス板のキズの有無を目視で判定した。結果を表1に示す。
【0063】
(測定条件)
垂直荷重:100g
摩擦速度:600mm/min
往復回数:1800
往復ストローク:5mm
加重変換器容量:19.61N
試験片温度:40℃
摩擦相手材:SUS304 ステンレス球 直径10mm
サンプル量:0.2mL
【0064】
【表1】
【0065】
混合液晶潤滑剤(a)~(d)が流動化する温度を測定したところ、(a)は100℃付近、(b)は105℃付近、(c)は120℃付近、(d)は125℃付近であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、平均動摩擦係数が低く、広い温度範囲において有効であり、長期間にわたって蒸発量が少なく、しかも、粘度が低いために初期潤滑剤としてはもちろん、追加給脂用にも適した潤滑剤を提供することができる。