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特許7551096酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる方法および装置、並びに、疾患検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる方法および装置、並びに、疾患検査装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/26 20060101AFI20240909BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240909BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C12Q1/26
G01N33/68
C12M1/34 E
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020065362
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021159012
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】今石 浩正
(72)【発明者】
【氏名】伊原 航平
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-214127(JP,A)
【文献】特表2006-508339(JP,A)
【文献】特開2018-077814(JP,A)
【文献】特表2004-531207(JP,A)
【文献】YAMAMOTO, Ryuichi et al,Chemico-Biological Interactions,2018年06月25日,Vol. 290,pp. 88-98,DOI: 10.1016/j.cbi.2018.05.012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
G01N 33/48-33/98
C12M 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質の酵素反応阻害パターンを取得し、検体を含む系と、検体を含まない系との前記酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行うことにより、前記酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる方法であって、
各々の系の前記酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450非存在下における測定値を基準とすることを特徴とする方法
【請求項2】
前記特徴解析において、
複数種の第1のシトクロムP450による前記酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行い、疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、がん疾患の検体と神経変性疾患の検体を分類する第1の分類判別ステップと、
第1の分類判別ステップによって分類したがん疾患と神経変性疾患の各検体に対して、複数種の第2のシトクロムP450による前記酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行い、がん疾患または神経変性疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、さらに詳細な疾患に分類する第2の分類判別ステップ、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記第1の分類判別ステップにおいて、
前記特徴解析により、がん疾患の検体と、神経変性疾患の検体と、疾患に罹患していない検体を分類することを特徴とする請求項2に記載の方法
【請求項4】
前記特徴解析は、
疾患に罹患したラベル情報の付された検体を含む系と、疾患に罹患していないラベル情報の付された検体を含む系と、検体を含まない系とを用いて、前記測定値を基準とした前記酵素反応阻害パターンを取得し、取得した前記酵素反応阻害パターンの対比に基づくデータを教師データとして機械学習をさせ予め得た疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、前記酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行うことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の方法
【請求項5】
前記シトクロムP450は、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の14分子種を含むことを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の方法
【請求項6】
前記シトクロムP450は、前記14分子種から1乃至7の分子種が除外されたものであることを特徴とする請求項5に記載の方法
【請求項7】
前記基質が蛍光性基質であり、前記酵素反応阻害パターンが蛍光パターンであることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の方法
【請求項8】
前記疾患は、炎症性疾患、がん疾患又は神経変性疾患であることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の方法
【請求項9】
複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質の酵素反応阻害パターンを取得する酵素反応阻害パターン取得部と、
検体を含む系と、検体を含まない系との前記酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行う特徴解析部、
を備え、前記酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置であって、
前記酵素反応阻害パターン取得部における各々の系の前記酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450非存在下における測定値を基準とすることを特徴とする装置
【請求項10】
前記特徴解析部は、
複数種の第1のシトクロムP450による前記酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行い、がん疾患と神経変性疾患の検体を分類する第1の分類判別部と、
第1の分類判別部によって分類したがん疾患と神経変性疾患の各検体に対して、複数種の第2のシトクロムP450による前記酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行い、さらに詳細な疾患に分類する第2の分類判別部、
を備える請求項9に記載の装置
【請求項11】
前記第1の分類判別部において、
前記特徴解析により、がん疾患の検体と、神経変性疾患の検体と、疾患に罹患していない検体を分類することを特徴とする請求項10に記載の装置
【請求項12】
前記特徴解析部は、
疾患に罹患したラベル情報の付された検体を含む系と、疾患に罹患していないラベル情報の付された検体を含む系と、検体を含まない系とを用いて、前記測定値を基準とした前記酵素反応阻害パターンを取得し、取得した前記酵素反応阻害パターンの対比に基づくデータを教師データとして機械学習をさせ予め得た疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、前記酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行うことを特徴とする請求項9~11の何れかに記載の装置
【請求項13】
前記基質が蛍光性基質であり、前記酵素反応阻害パターンが蛍光パターンであることを特徴とする請求項9~12の何れかに記載の装置
【請求項14】
被験者から取得した検体に対して、複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質の酵素反応阻害パターンを取得する酵素反応阻害パターン取得部と、
検体を含む系と、検体を含まない系との前記酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行う特徴解析部、
を備え、
各々の系の前記酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450非存在下における測定値を基準とし、
前記特徴解析部は、疾患に罹患したラベル情報の付された検体を含む系と、疾患に罹患していないラベル情報の付された検体を含む系と、検体を含まない系とを用いて、前記測定値を基準とした前記酵素反応阻害パターンを取得し、取得した前記酵素反応阻害パターンの対比に基づくデータを教師データとして機械学習をさせ予め得た疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、前記酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行い疾患の分類ラベルを出力することを特徴とする疾患検査装置。
【請求項15】
前記特徴解析部は、
複数種の第1のシトクロムP450による前記酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行い、がん疾患と神経変性疾患の検体を分類する第1の分類判別部と、
第1の分類判別部によって分類したがん疾患と神経変性疾患の各検体に対して、複数種の第2のシトクロムP450による前記酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行い、さらに詳細な疾患に分類する第2の分類判別部、
を備える請求項14に記載の疾患検査装置。
【請求項16】
前記第1の分類判別部において、
前記特徴解析により、がん疾患の検体と、神経変性疾患の検体と、疾患に罹患していない検体を分類することを特徴とする請求項15に記載の疾患検査装置。
【請求項17】
前記基質が蛍光性基質であり、前記酵素反応阻害パターンが蛍光パターンであることを特徴とする請求項14~16の何れかに記載の疾患検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患、がん疾患、神経変性疾患などの疾患のバイオマーカーとして酵素反応阻害パターンが利用できるかを調べる方法、置および疾患検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肝臓および大腸などは、がん発生の初期から中期にかけては患者の自覚症状が出にくい臓器である。したがって、治療前・治療後の肝臓および大腸を良好な状態に維持するためには、定期的な検診を受けることが重要である。一般的に、がんの診断は、臨床症状、超音波検査やX線CT検査の所見、および血液学的検査等による医師の主観的な総合判断によりなされている。また、生検による肝細胞や大腸表皮細胞の病理検査は最も精度が高い診断法であるが、日常の診断技術としては患者の負担が大きい。そのため、痛みや危険を伴わない非侵襲的なバイオマーカーが求められている。すなわち、血液中や体液中に産出されるバイオマーカーを検出し、がんの早期発見やがん転移の検査に用いられている。
昨今の医療分野において、がん細胞に特異的なタンパク質、核酸、脂質等をがん細胞のバイオマーカーとし、ゲノムなど生体分子情報を網羅的に探索するオミックス解析が行われている。しかしながら、オミックス解析では、各種がん細胞の特異的な生体分子成分を特定する必要があり、その特定分析に多大な労力が必要であるといった問題がある。そのため、より簡便な検査に適用できるバイオマーカーが求められている。
【0003】
一方で、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、高齢化社会において急激に増加しており、これらの疾患は、記憶を喪失させ、人格を崩壊させ、社会生活に必要な機能を失わせる。神経変性疾患に対しても、痛みや危険を伴わない非侵襲的で、より簡便な検査に適用できるバイオマーカーが求められている。
【0004】
近年、代謝酵素であるシトクロムP450(Cytochrome P450、以下、単に「P450」又は「CYP」と表記することがある)の酵素活性と疾患との関係について着目されている中で、本発明者の一人は、複数種のシトクロムP450の活性について、ルテニウム錯体を含んだ酸素センサーにより測定して、バイオマーカーとしての代謝パターンを取得する方法を開発し、取得した代謝パターンに基づいて被験者の体内に取り込まれた化合物の毒性(変異原性)を予測できることを開示している(特許文献1を参照)。特許文献1に開示された代謝パターンは、シトクロムP450の活性測定系が、酸素分圧低下に伴いルテニウム錯体による生じる蛍光現象を利用するものである。
また、本発明者の一人は、被験者の検体の存在下で、蛍光性基質を用いて12種のシトクロムP450と蛍光性基質とを反応させ、蛍光を測定することにより蛍光パターンを検出して、検出した蛍光パターンを、炎症性腸疾患のバイオマーカーとすることについて開示している(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-158307号公報
【文献】特開2016-214127号公報(特許第6501607号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の一人は、上述のとおり、複数種のシトクロムP450の蛍光パターンを、炎症性疾患のバイオマーカーとして検出する方法と、検体から検出した蛍光パターンから炎症性疾患の検査を行う方法を既に提案した。
かかる提案方法では、マウス由来血清やヒト由来血清を検体とし、検体の非存在下と比較して検体の存在下において、蛍光強度が低下するP450種を特定して、蛍光強度の値から、検体による各P450の活性の阻害率を算出し、阻害率のパターンを蛍光パターンとした実施データを開示していた。しかしながら、複数人の被験者の検体毎に、測定環境が変化した場合に、実際の蛍光強度の測定値(生データ)や、算出する阻害率が大きく異なり、阻害率のパターン(蛍光パターン)が大きなバラつきを生じるといった問題があった。そのため、場合によっては、バイオマーカーの検出が困難となっていた。また、炎症性疾患の検査方法においても、検体から検出した蛍光パターンについて、炎症性疾患の検体から予め作成した蛍光パターンとの重複を解析して疾患判定を行っていることから、蛍光パターンが大きなバラつきを生じ、パターンの変動幅が大きいと、正しい疾患判定をすることが困難であった。
【0007】
そのため、測定環境の違いによるシトクロムP450の蛍光パターンの変動幅を改善し、測定した蛍光パターンを疾患のバイオマーカーとして安定的に検出できる方法が必要であり、また、安定的に疾患の検査ができるアプローチが求められている。
さらに、炎症性疾患だけでなく、シトクロムP450の活性を用いて、がん疾患、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の他の疾患に対しても、安定的にバイオマーカーを検出し、疾患の検査が行えることが求められている。
【0008】
かかる状況に鑑みて、本発明は、炎症性疾患、がん疾患、神経変性疾患などの疾患について、測定環境に依存しない安定的なバイオマーカー、及び、安定的で高精度な疾患検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、炎症性疾患のバイオマーカーについての研究の過程において、がん患者の臓器中の各種のシトクロムP450量が特異的に変化することを見出した。すなわち、生体中の多様な化合物が、臓器内のシトクロムP450酵素による酸化反応を受け血中へと放出されるため、血中の化合物量と化合物構造は、がんに特異的に変化すると考えた。そこで、血清中のこれら化合物とシトクロムP450の蛍光性基質とを、再度、生体外において複数種のシトクロムP450酵素を用いた競合反応を行うことにより、がん患者の特異的な競合反応パターンを取得できるといった発想に至ったものである。
そして、がん疾患のみならず、アルツハイマー病やパーキンソン病に罹患した患者から採取した血清と、シトクロムP450の蛍光性基質と、複数種のシトクロムP450酵素を用いた競合反応を行うことにより、特異的な競合反応パターンを取得できるといった知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の法は、複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質の酵素反応阻害パターンを取得し、検体を含む系と、検体を含まない系との酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行うことにより、前記酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる方法であって、各々の系の酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450非存在下における測定値を基準とすることを特徴とする。
【0011】
本発明では、複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質の酵素反応阻害パターンを様々な疾患のバイオマーカーとする。検体の存在下で複数種のシトクロムP450と特異的に反応する基質を反応させ、シトクロムP450との酵素反応の度合いを測定し、検体による各シトクロムP450の活性の阻害率を算出して、阻害率のパターンを酵素反応阻害パターンとすることができる。ここで、シトクロムP450と反応する基質は、例えば、蛍光性基質、各種医薬品、ステロイド類、ビタミン類、芳香族多環化合物などが挙げられる。蛍光性基質の場合には、蛍光性基質から変換した蛍光性物質の蛍光強度(蛍光値)を測定して、酵素反応阻害パターンの一種として、複数種のシトクロムP450における蛍光性基質の蛍光パターンを得ることができる。また、蛍光性基質以外のシトクロムP450と反応する基質では、高速液体クロマトグラフィー、高速液体クロマト-マススペクトロメトリーまたはガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリーや、シトクロムP450酵素への電子伝達効率評価を介したシトクロムP450酵素活性の電気化学的評価法(Yoshioka K et al. Anal Chem. 2013 85 9996-9. doi: 10.1021/ac402661w. Cytochrome P450 modified polycrystalline indium tin oxide film as a drug metabolizing electrochemical biosensor with a simple configuration.)により、シトクロムP450酵素活性阻害を評価することは可能である。
【0012】
本発明では、各々の系の酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における測定値を基準とすることが重要な特徴であり、この特徴によって、測定環境に依存しない安定的で高精度なバイオマーカーとすることができる。検体を含む系は、検体と基質と複数種のシトクロムP450を含む系であり、その酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下で、検体及び基質を含む系における測定値を基準として酵素反応阻害パターンを測定する。一方、検体を含まない系は、基質と複数種のシトクロムP450を含んで検体を含まない系であり、その酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下で、基質を含む系における測定値を基準として酵素反応阻害パターンを測定する。
ここで、同じ測定環境下とは、測定装置の設定やパラメータなど装置に由来する測定環境、例えば、蛍光測定であれば光源やカメラに由来する設定やパラメータ、容器や基質の同一性が確保された測定環境をいう。
また、シトクロムP450の由来については、特に限定されず、市販のシトクロムP450を用いることができる。
また、検体は、特に限定されるものではないが、血液由来成分を好適に用いることができ、唾液や汗などの体液、尿などを用いてもよい。
【0013】
本発明の法における特徴解析は、複数種の第1のシトクロムP450による酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行い、疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、がん疾患の検体と神経変性疾患の検体を分類する第1の分類判別ステップと、第1の分類判別ステップによって分類したがん疾患と神経変性疾患の各検体に対して、複数種の第2のシトクロムP450による酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行い、がん疾患または神経変性疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、さらに詳細な疾患に分類する第2の分類判別ステップを備えることが好ましい。
第1の分類判別ステップと第2の分類判別ステップをさらに備えることにより、がん疾患と神経変性疾患の分類、そして、がん疾患と神経変性疾患のより詳細な病態の分類が高精度に行える。
【0014】
ここで、第1のシトクロムP450と第2のシトクロムP450は、複数種のシトクロムP450が異なる場合に限らず、同じ場合が存在する。また、シトクロムP450が異なる場合において、第1のシトクロムP450と第2のシトクロムP450は、分子種の種類が異なる場合と、分子種の数が異なる場合が存在する。さらに、第2のシトクロムP450について、がん疾患と神経変性疾患の各検体に対して、シトクロムP450が異なる場合も存在する。
【0015】
上記の法における第1の分類判別ステップにおいて、特徴解析により、がん疾患の検体と、神経変性疾患の検体と、疾患に罹患していない検体を分類することがさらに好ましい。
第1の分類判別ステップでは、がん疾患の検体と神経変性疾患の検体と疾患に罹患していない検体の分類が高精度に行える。
【0016】
本発明の法において、上記の特徴解析は、疾患に罹患したラベル情報の付された検体を含む系と、疾患に罹患していないラベル情報の付された検体を含む系と、検体を含まない系とを用いて、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における測定値を基準とした酵素反応阻害パターンを取得し、取得した酵素反応阻害パターンの対比に基づくデータを教師データとして機械学習をさせ予め得た疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行う。
後述の実施例により、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における測定値を基準とした酵素反応阻害パターンを学習させた学習済み分類モデルによれば、酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析と疾病分類が高精度に予測できることが示される。
【0017】
本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる方法、また後述する酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置と疾患検査装置において、シトクロムP450は、具体的に、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の14分子種を含む。
また、後述する実施例で明らかにするとおり、疾病判別の精度をより向上させるために、シトクロムP450は、上記の14分子種から1~7の分子種が除外されたものであることが好ましい。
【0018】
本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる方法、また後述する酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置と疾患検査装置において、具体的に、基質は蛍光性基質であり、酵素反応阻害パターンは蛍光パターンである。また、疾患は、具体的に、炎症性疾患、がん疾患又は神経変性疾患である。
【0019】
次に、本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置について説明する。
本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置は、複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質の酵素反応阻害パターンを取得する酵素反応阻害パターン取得部と、検体を含む系と、検体を含まない系との酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行う特徴解析部を備える。そして、酵素反応阻害パターン取得部における各々の系の酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450非存在下における測定値を基準とする。
本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置における特徴解析部は、複数種の第1のシトクロムP450による酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行い、がん疾患と神経変性疾患の検体を分類する第1の分類判別部と、第1の分類判別部によって分類したがん疾患と神経変性疾患の各検体に対して、複数種の第2のシトクロムP450による酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行い、さらに詳細な疾患に分類する第2の分類判別部を備える。ここで、第1の分類判別部において、特徴解析により、がん疾患の検体と、神経変性疾患の検体と、疾患に罹患していない検体を分類することもできる。
本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置における特徴解析部は、疾患に罹患したラベル情報の付された検体を含む系と、疾患に罹患していないラベル情報の付された検体を含む系と、検体を含まない系とを用いて、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における測定値を基準とした酵素反応阻害パターンを取得し、取得した酵素反応阻害パターンの対比に基づくデータを教師データとして機械学習をさせ予め得た疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行うことができる。
【0020】
次に、本発明の疾患検査装置について説明する。
本発明の疾患検査装置は、被験者から取得した検体に対して、複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質の酵素反応阻害パターンを取得する酵素反応阻害パターン取得部と、検体を含む系と、検体を含まない系との酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行う特徴解析部を備える。そして、各々の系の酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450非存在下における測定値を基準とし、特徴解析部は、疾患に罹患したラベル情報の付された検体を含む系と、疾患に罹患していないラベル情報の付された検体を含む系と、検体を含まない系とを用いて、上記の測定値を基準とした酵素反応阻害パターンを取得し、取得した酵素反応阻害パターンの対比に基づくデータを教師データとして機械学習をさせ予め得た疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデルによって、酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行い疾患の分類ラベルを出力する。
本発明の疾患検査装置における特徴解析部は、複数種の第1のシトクロムP450による酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行い、がん疾患と神経変性疾患の検体を分類する第1の分類判別部と、第1の分類判別部によって分類したがん疾患と神経変性疾患の各検体に対して、複数種の第2のシトクロムP450による酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行い、さらに詳細な疾患に分類する第2の分類判別部を備える。ここで、第1の分類判別部において、特徴解析により、がん疾患の検体と、神経変性疾患の検体と、疾患に罹患していない検体を分類することもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる方法および置によれば、炎症性疾患、がん疾患、神経変性疾患などの疾患について、測定環境に依存せず安定的に、バイオマーカーを検出できるといった効果がある。また、本発明の疾患検査装置によれば、安定的で高精度な検査結果を提供できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置の機能ブロック図
図2】本発明の疾患検査装置の機能ブロック図
図3】蛍光競合アッセイの原理の説明図
図4】本発明の測定法と従来法の対比説明図
図5】BCPIA法が従来法の測定より優れていることの説明図
図6】蛍光パターンの説明図
図7】分類器(分類モデル)の説明図
図8】大腸菌膜由来と市販品のシトクロムP450についての蛍光阻害率の比較図
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【0024】
本発明は、複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質の酵素反応阻害パターンを疾患のバイオマーカーとし、疾患に罹患した検体の存在下で複数種のシトクロムP450と基質とを反応させ、酵素反応が阻害される度合いを測定して、酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる。酵素反応が阻害される度合いは、酵素反応の量を比較することにより阻害量または阻害率を算定してもよい。本発明では、酵素反応阻害パターンを取得し、疾患に罹患した検体を含む系と、検体を含まない系との酵素反応阻害パターンの対比により特徴解析を行うことにより、酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる。重要なのは、各々の系の酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で行われ、かつ、シトクロムP450が非存在下における測定値を基準とすることである。
【0025】
本発明において、炎症性疾患とは、慢性炎症性疾患と、急性炎症性疾患を含む。慢性炎症性疾患は、医療分野で診断され得る慢性炎症性疾患であればよく特に限定されないが、具体的には、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、糸球体腎炎(ネフローゼ症候群(特発性ネフローゼ症候群、微小変化ネフロパシーなど)、多発性硬化症、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、重症筋無力症、特発性スプルー、サルコイドーシス、ライター症候群、I型糖尿病、原田病、ベーチェット病、シェーグレン症候群、混合性結合組織病、バセドウ病、慢性甲状腺炎、自己免疫性血液疾患(溶血性貧血、再生不能性貧血、特発性血小板減少症など)、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、慢性活動性EBウイルス感染症、乾癬様関節炎、炎症性皮膚疾患(扁平苔癬、天疱瘡、水泡性類天疱瘡、表皮水泡症、円形性脱毛症など)などが挙げられる。
【0026】
また、本発明において、がん疾患とは、肝臓がん、大腸がん、胃がん、肺がん、膵臓がん、腎がん、乳がん、子宮がん、胆管がんなどの他、白血病、悪性リンパ腫、脳腫瘍、神経芽腫、網膜芽細胞腫、腎腫瘍、肝腫瘍、骨肉腫のような肉腫が挙げられる。
【0027】
また、本発明において、神経変性疾患とは、認知機能が障害されるアルツハイマー病、レビー小体型認知症、皮質基底核変性症などの疾病、運動機能が障害されるパーキンソン病、パーキンソン症候群(多系統萎縮症、進行性核上性麻痺など)などの疾病、筋力低下が生じる筋萎縮性側索硬化症などの疾病、身体のバランス機能が障害される脊髄小脳変性症、痙性対麻痺などの疾病が挙げられる。
【0028】
本発明で用いる検体は、被験者から採取されたものであれば、特に限定されるものではないが、非侵襲的で被験者への負担が少ない検体としては、血液由来成分、唾液や汗などの体液、尿が好ましく用いることができる。シトクロムP450に関する薬物動態試験(P450代謝による医薬・食品成分の体内動態評価)では、比較的量が回収できかつ簡便に取り扱えることから、尿が用いられるケースが知られている(Gaunitz et al. Anal Bioanal Chem. 2019 16 3561-3579. doi: 10.1007/s00216-019-01837-8. In vitro metabolic profiling of synthetic cannabinoids by pooled human liver microsomes, cytochrome P450 isoenzymes, and Cunninghamella elegans and their detection in urine samples.)。血液由来成分は、具体的には、全血、血漿、血清から選択されるものであり、好ましくは血清が用いられる。採取された検体は、検査に際し、適宜前処理を行うことができる。例えば、ヒト血清を検体として用いる場合は、血清を10倍~100倍、好ましくは30~50倍に希釈して用いることが好ましい。希釈に用いる溶液は、本発明の目的を達成し得るものであれば特に限定されない。上記の倍率で希釈したヒト血清を用いて得られる酵素反応阻害パターンは、各種のシトクロムP450の活性に対するヒト血清の影響をより正しく反映できる。
【0029】
本発明で用いるシトクロムP450は、ヒト由来のものが好ましいが、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギなどの哺乳動物に由来するシトクロムP450でも構わない。シトクロムP450は、任意に選択できるが、薬剤代謝型P450を選択するのが好ましい。具体的には、現在知られている57種のヒト由来シトクロムP450から選択されるもの、例えば、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1からなる14種のシトクロムP450が挙げられ、これら14種のシトクロムP450から適切な1~7の分子種を除外することでもよい。
【0030】
本発明で用いるシトクロムP450は、in vitroで安定して、基質と反応できるものであればよく、市販品のシトクロムP450を用いることができる。この他、シトクロムP450は、P450をコードする塩基配列を用いて得られた組換えシトクロムP450を用いることも可能である。各種シトクロムP450のアミノ酸配列は公知であり、例えば、URLアドレスのサイト(http://www.p450.kvl.dk/cyp_all_112401.pdf)に掲載されている。また各種シトクロムP450をコードする遺伝子の塩基配列も公知であり、例えば、次のURLアドレスのサイト(http://drnelson.utmem.edu/CytochromeP450.html)の動物・植物の欄に掲載されている。
【0031】
本発明で用いる基質として、蛍光性基質を好適に用いることができる。蛍光性基質は、シトクロムP450の作用によって特異的に分解または酸化され、蛍光性物質に変換される物質である。蛍光性基質は、蛍光性を持たない物質であり、シトクロムP450の作用により、蛍光性基質の構造の一部が変化し、蛍光を発する蛍光性物質に変換される。蛍光性基質は、実質的にシトクロムP450以外の酵素による反応が生じないか、または、シトクロムP450以外の酵素による作用を受けたとしても蛍光の変化を生じないものが好ましい。
蛍光性基質としては、例えば、Vivid蛍光性基質、7-エトキシクマリン、7-エトキシレゾルフィン、クマリンなどを用いることができる。蛍光性基質にシトクロムP450が反応すると、蛍光ブロック作用を有する側鎖が切断され強い蛍光が起きるが、反応が阻害されると基質に蛍光が生じないことから、蛍光値を用いて阻害活性の定量測定ができる。
【0032】
本発明において、複数種のシトクロムP450と基質との反応は、酵素反応の変化を検出できる測定手段であれば測定方法および測定装置は特に限定されるものではない。例えば、複数の区画を有するアレイの各区画内において、検体存在下での1種のシトクロムP450と1種の基質との反応を行い、酵素反応の変化を検出することができる。ここで、区画とは、他のシトクロムP450や基質と接触しない閉ざされた領域内を意味し、反応槽ともいう。複数の区画を有するアレイは、複数の反応槽を有するデバイスであり、例えば、プレートやディスクである。
【0033】
例えば、基質として蛍光性基質を用い、複数の区画を有するアレイとして、複数のウェルを有するプレートを用いる場合を想定して説明する。プレート内の単一のウェル内には1種のシトクロムP450と1種の蛍光性基質が含まれ、プレート全体として複数種のシトクロムP450を担持することとなる。シトクロムP450と蛍光性物質と検体とをウェル内に存在させることにより、酵素反応させ、蛍光値を測定することで、蛍光阻害の度合いを算出する。具体的には、検体を添加したウェルにおける蛍光と、検体を添加していないウェルにおける蛍光とを比較することにより、検体による蛍光の変化を検出する。
各ウェル内では、検体中に存在する物質に依存して、シトクロムP450の酵素反応が阻害され、蛍光性物質の産生量が変化する。検体中にシトクロムP450に親和性のある物質が存在する場合には、シトクロムP450の酸化活性が低下して蛍光性物質による蛍光強度が低下する。このシトクロムP450の酸化活性の変化を、蛍光性物質が発する蛍光により検出して、酵素反応阻害パターンの一種である蛍光パターンを得ることができる。シトクロムP450と蛍光性基質の何れかは、ウェル内に予め添加され、固定化されてもよい。例えば、疾病検査用の試薬キットとして、複数種のシトクロムP450、基質、検体を希釈するための緩衝液等を含むことができる。
【0034】
本発明における酵素反応阻害パターンは、複数種のシトクロムP450の活性パターンに基づくものであり、複数種のシトクロムP450の活性を酵素反応阻害の度合いにより検出してパターン化したものである。酵素反応阻害パターンは、各シトクロムP450の酵素反応強度の変化の程度を特定することでもよい。酵素反応強度から、検体による各シトクロムP450の酵素反応の阻害率を算出し、阻害率のパターンを酵素反応阻害パターンとすることもできる。
【0035】
本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置1は、図1の機能ブロック図に示すように、複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質に基づく各酵素反応阻害率17から得られる酵素反応阻害パターン18を取得する酵素反応阻害パターン取得部11と、疾患に罹患した検体を含む系と、検体を含まない系との酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行う特徴解析部12を備える。そして、酵素反応阻害パターン取得部11における各々の系の酵素反応阻害パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における測定値を基準とする。
【0036】
特徴解析部12では、疾患に罹患したラベル情報の付された検体を含む系と、疾患に罹患していないラベル情報の付された検体を含む系と、検体を含まない系とを用いて、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における測定値を基準とした酵素反応阻害パターンを取得し、取得した酵素反応阻害パターンの対比に基づくデータを教師データとして機械学習をさせ予め得た疾患の罹患を判別できる学習済み分類モデル13によって、酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を行い疾患の分類ラベル19を出力することで、疾患の種類の分類判定を行う。
本発明の疾患検査装置2は、本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置1の機能ブロック(図1)と同じである。
【0037】
また、本発明の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置1における特徴解析部12は、図2に示すように、第1の分類判別部15と第2の分類判別部16を備え、がん疾患と神経変性疾患の少なくとも何れかの疾患の検査装置として利用できる。第1の分類判別部15では、複数種の第1のシトクロムP450による酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を第1の分類モデル151を用いて行い、がん疾患と神経変性疾患の検体を分類する。そして、第2の分類判別部16では、第1の分類判別部15によって分類したがん疾患と神経変性疾患の各検体に対して、複数種の第2のシトクロムP450による酵素反応阻害パターンの対比に基づく特徴解析を第2の分類モデル161を用いて行い、さらに詳細な疾患(例えば、肝臓がん、大腸がん等)に分類する。第1の分類判別部15では、がん疾患の検体と、神経変性疾患の検体と、疾患に罹患していない検体を分類する。本発明の疾患検査装置により、各種疾患の発症の検査のみならず、疾患患者の病態のモニタリング、治療の奏功の評価、予後の診断などを行うことが可能である。
【0038】
後述する実施例で、本発明の疾患のバイオマーカーや疾患検査装置の予測精度について説明するが、まず、実施例で使用する14種のシトクロムP450とそれぞれの酵素量、各シトクロムP450に反応させる蛍光性基質、酵素反応により蛍光性基質から変換する蛍光性物質の励起波長と蛍光波長を下記表1に纏める。
なお、使用した蛍光性基質は、全てVivid蛍光性基質でありInvitrogen(登録商標)より購入したものである。Vivid DBOMFには、アセトニトリル(MeCN)を85μl加えて小瓶中の結晶が溶解するまでボルテックス処理し、Vivid BOMCCには、MeCNを160μl、Vivid EOMCCには205μl加えて同様にボルテックス処理したものを使用した。各サンプルは、-30℃、遮光条件下にて保存した。MeCN特級試薬はナカライテスクより購入した。MeCNで溶解したVivid DBOMF 1μlに2×Reaction buffer 399μlを加え、蛍光性基質の終濃度は0.5μMとした。Vivid BOMCC 5.5μlには104.5μlを、Vivid EOMCC 13μlには247μlの2×Reaction bufferを加え、両蛍光性基質の終濃度は10μMとした。蛍光性基質は、上記処理後に直ちに使用した。
【0039】
【表1】
【実施例1】
【0040】
まず、以下の実施例で用いる蛍光競合アッセイの原理について図3を参照して説明する。通常、Vivid蛍光性基質は、シトクロムP450により代謝され強い蛍光を発する蛍光性代謝物へと変換される。反応系にシトクロムP450と反応する血清などの基質競合剤が存在すると、蛍光性基質への代謝が阻害され、蛍光強度に変化が現れる。以下の実施例では、この競合阻害剤として血清を用い、シトクロムP450の分子種ごとの、蛍光性基質の代謝がどれだけ阻害されたかの割合(蛍光阻害率)を算出する。競合阻害剤となるものは、血中に含まれるシトクロムP450と反応性がある物質のみであるので、一般的な血清分析に用いる質量分析(LC/MS)などに比べると飛躍的に特異性の高い反応系である。
本発明は、測定環境の違いによるシトクロムP450の蛍光パターンなどの酵素反応阻害パターンの変動幅を改善し、測定したパターンを疾患のバイオマーカーとして安定的に検出すると共に、測定したパターンから炎症性疾患の検査を安定的に高精度に行えるものである。これに対して、前述の特許文献2に開示された従来法では、測定した蛍光パターンを炎症性腸疾患のバイオマーカーとして検出しているが、被験者の検体毎に、測定環境が変化した場合に、実際の蛍光強度の測定値(生データ)や、算出する阻害率が大きく異なり、阻害率のパターン(蛍光パターン)が大きなバラつきを生じていた。
そのため、本発明では、各々の系のパターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における測定値を基準とすることを特徴とする。以後、本発明の特徴であるこの方法を、バックグラウンド補正蛍光P450競合アッセイ(Background-corrected P450 fluorescence inhibition assay:BCPIA)法と呼ぶ。
【0041】
図4を参照して、BCPIA法と従来法の測定を対比して説明する。図4(1)は従来法の測定イメージであり、図4(2)は本発明におけるBCPIA法の測定イメージを示している。
従来法の測定では、シトクロムP450及び蛍光性基質の存在下で、検体を含まない系(血清非添加)の蛍光値(A)から検体を含む系(血清添加)の蛍光値(D)を減算した値(A-D)を、蛍光値(A)で除算して蛍光阻害率を算出している。
これに対して、BCPIA法の測定では、検体を含まない系(血清非添加)の蛍光値(A)から検体を含む系(血清添加)の蛍光値(D)を減算するのではなく、蛍光値(A)と同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における蛍光値(B)を測定し、また、蛍光値(D)と同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における蛍光値(E)を測定し、蛍光値(A)から蛍光値(B)を減算した値(C)(C=A-B)から、蛍光値(D)から蛍光値(E)を減算した値(F)(F=D-E)を減算し(C-F)、それを値(C)で除算し、蛍光阻害率を算出している。
図5を参照して、仮想的な蛍光値を用いて、本発明のBCPIA法が従来法の測定より優れていることを説明する。図5に示す表には、上記A~Fと、バックグラウンドを考慮しない蛍光阻害率(G)と、バックグラウンドを考慮した蛍光阻害率(H)を示している。4人の被験者からの検体を含まない系(血清非添加)の蛍光値(A)と、検体を含む系(血清添加)の蛍光値(D)とは、それぞれ4人の被験者の間で大きく異なっている。シトクロムP450が非存在下で蛍光性基質を含む系における蛍光値(B)(バックグラウンド)と、シトクロムP450が非存在下で検体(血清)及び蛍光性基質を含む系における蛍光値(E)(バックグラウンド)とは、それぞれ4人の被験者の間で全て同じ蛍光値である。そして、血清非添加の実質活性値(C=A-B)と血清添加の実質活性値(F=D-E)を算出する。バックグラウンドを考慮しない蛍光阻害率(G)とバックグラウンドを考慮した蛍光阻害率(H)を算出すると、従来法の蛍光阻害率(G)では、大きくバラつきがあるのに対して、本発明のBCPIA法の蛍光阻害率(H)では、いずれの蛍光値でも蛍光阻害率は90%になり、被験者が変わっても結果は一定で、結果を再現しやすいことがわかる。
【0042】
下記表2,3は、それぞれシトクロムP450のCYP2C8とCYP3A4について、3名の被験者A~Cに対するBCPIA法(実施例1)と従来法(比較例1)の測定結果を示している。
従来法(比較例1)の測定の場合には、被験者の違いにより、実際の蛍光値(生データ)は大きく異なる。その原因として、発明者らは、シトクロムP450が存在下で、かつ、蛍光性基質を含む系の蛍光値のバックグラウンドを測定し、それらを考慮していないからであると考えた。すなわち、蛍光値が大きく異なるにも拘わらず、バックグラウンドを含む蛍光値を蛍光性基質の代謝活性として蛍光阻害率を算出していることが、被験者により阻害率が異なる要因であると考えた。
BCPIA法の測定の場合には、シトクロムP450が非存在下における蛍光値のバックグラウンドを基準として、それぞれの系の蛍光値を測定し、蛍光阻害率を算出するため、従来法と比較して各被験者間で生じる蛍光パターンの変動幅を改善できていることが理解できる。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【実施例2】
【0045】
本実施例2ならびに後述する実施例3~5では、検体に対して、複数種のシトクロムP450により特異的に作用する基質として蛍光性基質を用い、酵素反応阻害パターンを得たものである。ここで、酵素反応阻害パターンは、シトクロムP450の特異的作用により、蛍光性基質から変換した蛍光性物質の蛍光値を測定し、各シトクロムP450の蛍光値の各阻害率をデータセットとした蛍光パターンである。図6に、蛍光パターンの一例として、疾患に罹患していない健常者の検体(HV)と、肝臓がんに罹患した検体(HCC)と、大腸がんに罹患した検体(CRC)の3種類の検体から上記表1に示した内の11分子種のシトクロムP450の得られた蛍光パターンを示す。図6の横軸はシトクロムP450の11分子種、縦軸は蛍光阻害率(%)を示している。なお、除外率は検体数(n)の平均を示している。シトクロムP450の違いによって、阻害率が大きく異なり、また、図6(2)に示すように、肝臓がんと大腸がんと健常者の検体によって、蛍光除外率に幾つかの特徴が確認できることがわかる。
各シトクロムP450の蛍光値の各阻害率は、上述の実施例1と同じやり方で算出した。すなわち、疾患に罹患した検体を含む系と、検体を含まない系との蛍光パターンの取得の際は、各々の系の蛍光パターンは、同じ測定環境下で、シトクロムP450が非存在下における測定値を基準として、各シトクロムP450の蛍光値を測定し蛍光パターンを取得した。
【0046】
実施例2では、がん疾患に罹患した検体と、疾患に罹患していない検体との蛍光パターンの対比に基づく特徴解析において、予め蛍光パターンと正解ラベルを教師データとして機械学習をさせた学習済み分類モデルを使用した。
使用した分類モデルは、4つある。1つ目の分類モデルは、木構造を用いて分類を行う決定木を作る機械学習(決定木学習)により得られた分類モデル(決定木)であり、2つ目の分類モデルは、パターン識別用の教師あり機械学習により得られた分類モデル(サポートベクターマシン)であり、3つ目の分類モデルは、条件分岐をもった複数の決定木をランダムに構築し、それらの結果を組み合わせて分類を行う分類モデル(ランダムフォレスト)であり、4つ目の分類モデルは、入力層と出力層とそれらの間の中間層(少なくとも1層の隠れ層)を有するニューラルネットワークの構造における重み係数を教師あり機械学習によりチューニングして得られた分類モデル(ニューラルネットワーク)である。
【0047】
使用した4つの分類モデルは、全て、Weka(バージョン3.7.11)に実装された分類器を使用した。Wekaは、オープンソースのフリーソフトであり、分類などのアルゴリズムの集合体である。本実施例及び後述する実施例で用いた分類器に対するアルゴリズムは以下の通りである。なお、パラメータはWekaのデフォルト値を用いた。
・決定木:J48
・ランダムフォレスト:RandomForest
・サポートベクターマシン:SMO
・ニューラルネットワーク:MultilayerPerceptron
各実施例におけるWekaの分類器について説明すると、図7に示すとおり、検体に対する複数種のシトクロムP450による蛍光値(各阻害率)から蛍光パターンを取得し、蛍光パターンと共に、疾病の種類(健常者、肝臓がん、大腸がん、アルツハイマー病、パーキンソン病)を教師データとして、Wekaの分類器に入力させ、学習器の学習と評価を繰り返した後、学習済み分類器に、未知の蛍光パターンを入力して、分類ラベルを出力させるというものである。
各分類器(分類モデル)の正答率は、一つ抜きクロスバリデーション法(leave-one-out cross-validation)を使って求めた。
【0048】
実施例2では、検体として、大腸がんと肝臓がんと健常者の3種の血清を用い、複数種のシトクロムP450として、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種、もしくは、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の14分子種(左記の11分子種にCYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の3分子種を加えたもの)、又は、11分子種や14分子種から一部の分子種を除外した群を用いて、各シトクロムP450の蛍光値を測定した。血清を含む3種類の系と血清を含まない系は、同じ測定環境下で、血清及びシトクロムP450が非存在下で蛍光性基質を含む系における測定値を基準として、各シトクロムP450の蛍光値を測定し、血清を含む3種類の系の各測定値から、血清を含まない系の測定値を減算し、各シトクロムP450の蛍光値の各阻害率を算出して、各阻害率をデータセットとした蛍光パターンを取得した。
4つの各分類モデルには、肝臓がんと大腸がんと健常者の血清(市販品)を9検体、12検体、10検体用意し、全31検体から得られる其々の蛍光パターンと正解ラベルを教師データとして与え、十分な繰り返し学習をさせた。
蛍光パターンは、11分子種のシトクロムP450の場合には、各阻害率の11個の連続変数データとし、14分子種のシトクロムP450の場合には、各阻害率の14個の連続変数データとし、一部の分子種を除外する場合は、除外された残りのシトクロムP450の数(N種)の各阻害率のN個の連続変数データとした。
【0049】
下記表4は、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種(上記の14分子種からCYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の3分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて、4つの各分類モデルが分類した分類ラベルの正答率(正しく分類された検体数をテストセット内の検体数の総数で除算したもの)を示している(実施例2-1A~2-1Dを参照)。各分類モデルの正答率は、一つ抜きクロスバリデーション法を用いた。
なお、分類モデル(ニューラルネットワーク)については、11分子種からCYP2C8、CYP3A4、CYP1A2の3分子種を除外した8分子種(14分子種からCYP2C8、CYP3A4、CYP1A2、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の6分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示している。
【0050】
【表4】
【0051】
上記表4に示すとおり、実施例2-1A~2-1Dのそれぞれの分類モデルで特徴解析して得られる分類ラベルの正答率は、77%を超えており、蛍光パターンが、肝臓がんと大腸がんの疾病のバイオマーカーとして使用できることがわかる。
また、実施例2-1Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)については、11分子種からCYP2C8、CYP3A4、CYP1A2の3分子種を除外した8分子種の場合には、93%を超える正答率であった。下記表5に、93%を超える正答率を出した判定結果を示す。健常者の10検体は、すべて正しく分類されていた。また、肝臓がんの9検体は、1検体だけ大腸がんに分類されたが、8検体は正しく分類されており、大腸がんの12検体は、1検体だけ肝臓がんに分類されたが、11検体は正しく分類されていた。
以上のとおり、実施例2-1A~2-1Dのそれぞれの分類モデルを使用し解析して得られる分類ラベルの正答率、特に、実施例2-1Dの分類モデルを使用して8分子種のシトクロムP450を用いた解析では、非常に高い正答率であり、肝臓がんと大腸がんに対して、安定的に高精度のバイオマーカーとして利用でき、また、肝臓がんと大腸がんの疾病検査が可能であることがわかった。
【0052】
【表5】
【0053】
下記表6は、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の14分子種について得られた蛍光パターンを用いて、4つの各分類モデルが分類した分類ラベルの正答率を示している(実施例2-2A~2-2Dを参照)。各分類モデルの正答率は、同様に一つ抜きクロスバリデーション法を用いた。
なお、分類モデル(ニューラルネットワーク)については、14分子種からCYP3A4、CYP2C9、CYP1A1、CYP2J2の4分子種を除外した10分子種について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示している。
【0054】
【表6】
【0055】
上記表6において、実施例2-2A~2-2Dのそれぞれの分類モデルで特徴解析して得られる分類ラベルの正答率は、77%を超えており、蛍光パターンが、肝臓がんと大腸がんの疾病のバイオマーカーとして使用できることがわかる。
また、実施例2-2Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)については、14分子種からCYP3A4、CYP2C9、CYP1A1、CYP2J2の4分子種を除外した10分子種の場合には、90%を超える正答率であった。下記表7に、90%を超える正答率を出した判定結果を示す。健常者の10検体は、1検体だけ大腸がんに分類されたが、9検体は正しく分類されていた。また、肝臓がんの9検体は、すべて正しく分類されていた。大腸がんの12検体は、2検体だけ肝臓がんに分類されたが、10検体は正しく分類されていた。
以上のとおり、実施例2-2A~2-2Dのそれぞれの分類モデルを使用し解析して得られる分類ラベルの正答率、特に、実施例2-2Dの分類モデルを使用して10分子種のシトクロムP450を用いた解析では、非常に高い正答率であり、肝臓がんと大腸がんに対して、安定的に高精度のバイオマーカーとして利用でき、また、肝臓がんと大腸がんの疾病検査が可能であることがわかった。
【0056】
【表7】
【実施例3】
【0057】
実施例3では、神経変性疾患に罹患した検体と、疾患に罹患していない検体との蛍光パターンの対比に基づく特徴解析において、実施例2と同様に、予め蛍光パターンと正解ラベルを教師データとして機械学習をさせた学習済み分類モデルを使用した。
使用した分類モデルは、実施例2と同様に4つの分類モデル(決定木、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク)である。
【0058】
実施例3では、検体として、アルツハイマー病とパーキンソン病と健常者の3種の血清を用い、複数種のシトクロムP450として、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種、もしくは、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の14分子種(左記の11分子種にCYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の3分子種を加えたもの)、又は、11分子種や14分子種から一部の分子種を除外した群を用いて、各シトクロムP450の蛍光値を測定した。実施例2と同様に、血清を含む3種類の系と血清を含まない系は、同じ測定環境下で、血清及びシトクロムP450が非存在下で蛍光性基質を含む系における測定値を基準として、各シトクロムP450の蛍光値を測定し、血清を含む3種類の系の各測定値から、血清を含まない系の測定値を減算し、各シトクロムP450の蛍光値の各阻害率を算出して、各阻害率をデータセットとした蛍光パターンを取得した。
4つの各分類モデルには、アルツハイマー病とパーキンソン病と健常者の血清(市販品)を10検体、10検体、10検体用意し、全30検体から得られる其々の蛍光パターンと正解ラベルを教師データとして与え、十分な繰り返し学習をさせた。
蛍光パターンは、実施例2と同様に、11分子種のシトクロムP450の場合には、各阻害率の11個の連続変数データとし、14分子種のシトクロムP450の場合には、各阻害率の14個の連続変数データとし、一部の分子種を除外する場合は、除外された残りのシトクロムP450の数(N種)の各阻害率のN個の連続変数データとした。
【0059】
下記表8は、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種(上記の14分子種からCYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の3分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて、4つの各分類モデルが分類した分類ラベルの正答率を示している(実施例3-1A~3-1Dを参照)。各分類モデルの正答率は、実施例2と同様に、一つ抜きクロスバリデーション法を用いた。
なお、分類モデル(ニューラルネットワーク)については、11分子種からCYP3A4、CYP2B6、CYP1A2の3分子種を除外した8分子種(14分子種からCYP3A4、CYP2B6、CYP1A2、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の6分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示している。
【0060】
【表8】
【0061】
上記表8に示すとおり、実施例3-1A~3-1Dのそれぞれの分類モデルで特徴解析して得られる分類ラベルの正答率は、53%を超えている。実施例3-1Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)の正答率は、66%を超えており、蛍光パターンが、アルツハイマー病とパーキンソン病の疾病のバイオマーカーとして使用できることがわかる。
実施例3-1Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)については、11分子種からCYP3A4、CYP2B6、CYP1A2の3分子種を除外した8分子種の場合には、83%を超える正答率であった。下記表9に、83%を超える正答率を出した判定結果を示す。健常者の10検体は、すべて正しく分類されていた。また、アルツハイマー病の10検体は、1検体がパーキンソン病に分類され、1検体が健常者に分類されたが、8検体は正しく分類されており、パーキンソン病の10検体は、3検体がアルツハイマー病に分類され、7検体が正しく分類されていた。
以上のとおり、実施例3-1A~3-1Dのそれぞれの分類モデルを使用し解析して得られる分類ラベルの正答率、特に、実施例3-1Dの分類モデルを使用して8分子種のシトクロムP450を用いた解析では、高い正答率であり、アルツハイマー病とパーキンソン病に対して、安定的に高精度のバイオマーカーとして利用でき、また、アルツハイマー病とパーキンソン病の疾病検査が可能であることがわかった。
【0062】
【表9】
【0063】
下記表10は、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の14分子種について得られた蛍光パターンを用いて、4つの各分類モデルが分類した分類ラベルの正答率を示している(実施例3-2A~3-2Dを参照)。各分類モデルの正答率は、同様に一つ抜きクロスバリデーション法を用いた。
なお、分類モデル(ニューラルネットワーク)については、14分子種からCYP2C19の1分子種を除外した13分子種について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示している。
【0064】
【表10】
【0065】
上記表10において、実施例3-2A~3-2Dのそれぞれの分類モデルで特徴解析して得られる分類ラベルの正答率は、実施例3-2A(決定木)を除き56%を超えており、蛍光パターンが、アルツハイマー病とパーキンソン病の疾病のバイオマーカーとして使用できることがわかる。
また、実施例3-2Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)については、14分子種からCYP2C19の1分子種を除外した13分子種の場合には、86%を超える正答率であった。下記表11に、86%を超える正答率を出した判定結果を示す。健常者の10検体は、1検体がアルツハイマー病に分類され、1検体がパーキンソン病に分類されたが、8検体は正しく分類されていた。また、アルツハイマー病の10検体は、1検体がパーキンソン病に分類されたが、9検体は正しく分類されていた。パーキンソン病の10検体は、1検体がアルツハイマー病に分類されたが、9検体は正しく分類されていた。
以上のとおり、実施例3-2A~3-2Dのそれぞれの分類モデルを使用し解析して得られる分類ラベルの正答率を示したが、特に、実施例3-2Dの分類モデルを使用して13分子種のシトクロムP450を用いた解析では、高い正答率であり、アルツハイマー病とパーキンソン病に対して、安定的に高精度のバイオマーカーとして利用でき、また、アルツハイマー病とパーキンソン病の疾病検査が可能であることがわかった。
【0066】
【表11】
【実施例4】
【0067】
実施例4では、がん疾患に罹患した検体と、神経変性疾患に罹患した検体と、疾患に罹患していない検体との蛍光パターンの対比に基づく特徴解析において、実施例2,3と同様に、予め蛍光パターンと正解ラベルを教師データとして機械学習をさせた学習済み分類モデルを使用した。
使用した分類モデルは、実施例2,3と同様に4つの分類モデル(決定木、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク)である。
【0068】
実施例4では、検体として、肝臓がんと大腸がんとアルツハイマー病とパーキンソン病と健常者の5種の血清を用い、複数種のシトクロムP450として、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種、もしくは、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の14分子種(左記の11分子種にCYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の3分子種を加えたもの)、又は、11分子種や14分子種から一部の分子種を除外した群を用いて、各シトクロムP450の蛍光値を測定した。実施例2,3と同様に、血清を含む系と血清を含まない系は、同じ測定環境下で、血清及びシトクロムP450が非存在下で蛍光性基質を含む系における測定値を基準として、各シトクロムP450の蛍光値を測定し、血清を含む系の各測定値から、血清を含まない系の測定値を減算し、各シトクロムP450の蛍光値の各阻害率を算出して、各阻害率をデータセットとした蛍光パターンを取得した。
4つの各分類モデルには、肝臓がんと大腸がんとアルツハイマー病とパーキンソン病と健常者の血清(市販品)を9検体、12検体、10検体、10検体、10検体用意し、全51検体から得られる其々の蛍光パターンと正解ラベルを教師データとして与え、十分な繰り返し学習をさせた。
蛍光パターンは、実施例2,3と同様に、11分子種のシトクロムP450の場合には、各阻害率の11個の連続変数データとし、14分子種のシトクロムP450の場合には、各阻害率の14個の連続変数データとし、一部の分子種を除外する場合は、除外された残りのシトクロムP450の数(N種)の各阻害率のN個の連続変数データとした。
【0069】
下記表12は、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種(上記の14分子種からCYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の3分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて、4つの各分類モデルが分類した分類ラベルの正答率を示している(実施例4-1A~4-1Dを参照)。各分類モデルの正答率は、実施例2,3と同様に、一つ抜きクロスバリデーション法を用いた。
なお、分類モデル(ニューラルネットワーク)については、11分子種からCYP2B6、CYP2C9、CYP2C19の3分子種を除外した8分子種(14分子種からCYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の6分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示している。
【0070】
【表12】
【0071】
上記表12に示すとおり、実施例4-1A~4-1Dのそれぞれの分類モデルで特徴解析して得られる分類ラベルの正答率は、実施例4-1B(サポートベクターマシン)を除き、60%を超えており、蛍光パターンが、肝臓がんと大腸がんとアルツハイマー病とパーキンソン病の疾病のバイオマーカーとして使用できることがわかる。
実施例4-1Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)については、11分子種からCYP2B6、CYP2C9、CYP2C19の3分子種を除外した8分子種の場合には、70%を超える正答率であった。下記表13に、70%を超える正答率を出した判定結果を示す。健常者の10検体は、1検体が肝臓がんに分類されたが、9検体は正しく分類されていた。また、肝臓がんの9検体は、1検体が大腸がんに分類され、1検体がパーキンソン病に分類されたが、7検体は正しく分類されており、大腸がんの12検体は、1検体が肝臓がんに分類され、1検体がパーキンソン病に分類されたが、10検体は正しく分類されていた。また、アルツハイマー病の10検体は、4検体がパーキンソン病に分類され、1検体が肝臓がんに分類され、5検体が正しく分類されており、パーキンソン病の10検体は、4検体がアルツハイマー病に分類され、1検体が大腸がんに分類され、5検体が正しく分類されていた。
以上のとおり、実施例4-1A~4-1Dのそれぞれの分類モデルを使用し解析して得られる分類ラベルの正答率を示したが、特に、実施例4-1Dの分類モデルを使用して8分子種のシトクロムP450を用いた解析では、比較的高い正答率であり、アルツハイマー病とパーキンソン病の検体に対する分類判別精度は比較的低いものの、肝臓がんと大腸がんの検体に対する分類判別精度は高く、安定的に高精度のバイオマーカーとして利用でき、また、肝臓がんと大腸がんとアルツハイマー病とパーキンソン病の疾病検査が可能であることがわかった。
【0072】
【表13】
【0073】
下記表14は、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の14分子種について得られた蛍光パターンを用いて、4つの各分類モデルが分類した分類ラベルの正答率を示している(実施例4-2A~4-2Dを参照)。各分類モデルの正答率は、同様に一つ抜きクロスバリデーション法を用いた。
なお、分類モデル(ニューラルネットワーク)については、14分子種からCYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19の4分子種を除外した10分子種について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示している。
【0074】
【表14】
【0075】
上記表14において、実施例4-2A~4-2Dのそれぞれの分類モデルで特徴解析して得られる分類ラベルの正答率は、実施例4-2D(サポートベクターマシン)を除き58%を超えており、蛍光パターンが、肝臓がんと大腸がんとアルツハイマー病とパーキンソン病の疾病のバイオマーカーとして使用できることがわかる。
また、実施例4-2Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)については、14分子種からCYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19の4分子種を除外した10分子種の場合には、74%を超える正答率であった。下記表15に、74%を超える正答率を出した判定結果を示す。健常者の10検体は、1検体がアルツハイマー病に分類され、1検体がパーキンソン病に分類されたが、8検体は正しく分類されていた。また、肝臓がんの9検体は、2検体が大腸がんに分類されたが、7検体は正しく分類されており、大腸がんの12検体は、1検体が肝臓がんに分類され、1検体がアルツハイマー病に分類され、1検体がパーキンソン病に分類されたが、9検体は正しく分類されていた。また、アルツハイマー病の10検体は、3検体がパーキンソン病に分類され、1検体が肝臓がんに分類され、1検体が健常者に分類され、5検体が正しく分類されており、パーキンソン病の10検体は、1検体がアルツハイマー病に分類されたが、9検体が正しく分類されていた。
以上のとおり、実施例4-2A~4-2Dのそれぞれの分類モデルを使用し解析して得られる分類ラベルの正答率を示したが、特に、実施例4-2Dの分類モデルを使用して10分子種のシトクロムP450を用いた解析では、比較的高い正答率であり、アルツハイマー病の検体に対する分類判別精度は比較的低いものの、肝臓がんと大腸がんとパーキンソン病の検体に対する分類判別精度は高く、安定的に高精度のバイオマーカーとして利用でき、また、肝臓がんと大腸がんとアルツハイマー病とパーキンソン病の疾病検査が可能であることがわかった。
【0076】
【表15】
【実施例5】
【0077】
実施例5では、実施例4と同様に、がん疾患に罹患した検体と、神経変性疾患に罹患した検体と、疾患に罹患していない検体との蛍光パターンの対比に基づく特徴解析を、4つの分類モデル(決定木、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク)を使用して行うが、第1の分類判別と第2の分類判別の2段階に分けて分類を行った結果について説明する。
第1の分類判別段階は、がん疾患の検体と、神経変性疾患の検体と、疾患に罹患していない検体とを分類する。第2の分類判別段階では、第1の分類判別段階でがん疾患の検体と分類された検体に対して、肝臓がんと大腸がんに分類すると共に、第1の分類判別段階で神経変性疾患の検体と分類された検体に対して、アルツハイマー病とパーキンソン病に分類する。
【0078】
実施例5では、実施例4と同様に、検体として、肝臓がんと大腸がんとアルツハイマー病とパーキンソン病と健常者の5種の血清を用い、複数種のシトクロムP450として、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種、又は、11分子種から一部の分子種を除外した群を用いて、各シトクロムP450の蛍光値を測定した。実施例4と同様に、血清を含む系と血清を含まない系は、同じ測定環境下で、血清及びシトクロムP450が非存在下で蛍光性基質を含む系における測定値を基準として、各シトクロムP450の蛍光値を測定し、血清を含む系の各測定値から、血清を含まない系の測定値を減算し、各シトクロムP450の蛍光値の各阻害率を算出して、各阻害率をデータセットとした蛍光パターンを取得した。
4つの各分類モデルには、肝臓がんと大腸がんとアルツハイマー病とパーキンソン病と健常者の血清(市販品)を9検体、12検体、10検体、10検体、10検体用意し、全51検体から得られる其々の蛍光パターンと正解ラベルを教師データとして与え、十分な繰り返し学習をさせた。
蛍光パターンは、11分子種のシトクロムP450の場合には、各阻害率の11個の連続変数データとし、一部の分子種を除外する場合は、除外された残りのシトクロムP450の数(N種)の各阻害率のN個の連続変数データとした。
【0079】
下記表16は、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種(14分子種からCYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の3分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて、4つの各分類モデルが分類した分類ラベルの正答率を示している(実施例5-1A~5-1Dを参照)。各分類モデルの正答率は、実施例4と同様に、一つ抜きクロスバリデーション法を用いた。
なお、分類モデル(ニューラルネットワーク)について、第1の分類判別段階においては、11分子種からCYP2B6、CYP2C9、CYP2C19の3分子種を除外した8分子種(14分子種からCYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の6分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示し、がん疾患の検体に対する第2の分類判別段階(検体を更に詳細な疾患に分類する段階)においては、11分子種からCYP1A1の1分子種を除外した10分子種(14分子種からCYP1A1、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の4分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示し、神経変性疾患の検体に対する第2の分類判別段階(検体を更に詳細な疾患に分類する段階)においては、11分子種からCYP3A4、CYP2B6、CYP2C9、CYP3A5の4分子種を除外した7分子種(14分子種からCYP3A4、CYP2B6、CYP2C9、CYP3A5、CYP1B1、CYP2J2、CYP51A1の7分子種を除外したもの)について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示している。
【0080】
【表16】
【0081】
上記表16に、がん疾患の検体と、神経変性疾患の検体と、疾患に罹患していない検体とを分類する第1の分類判別段階の正答率を示す。
上記表16に示すとおり、実施例5-1A~5-1Dのそれぞれの分類モデルで特徴解析して得られる分類ラベルの正答率は、実施例5-1A(決定木)を除き、76%を超えており、蛍光パターンが、がん疾患と神経変性疾患のバイオマーカーとして使用できることがわかる。
実施例5-1Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)については、11分子種からCYP2B6、CYP2C9、CYP2C19の3分子種を除外した8分子種の場合には、98%といった非常に高い正答率であった。下記表17に、98%の正答率を出した判定結果を示す。健常者の10検体と、がん疾患の21検体(肝臓がん9検体と大腸がん12検体)は、全て正しく分類されていた。また、神経変性疾患の20検体(アルツハイマー病10検体とパーキンソン病10検体)は、1検体ががん疾患に分類されたが、19検体は正しく分類されていた。
以上のとおり、実施例5-1A~5-1Dのそれぞれの分類モデルを使用し解析して得られる分類ラベルの正答率を示したが、特に、実施例5-1Dの分類モデルを使用した場合に、11分子種のシトクロムP450を用いた解析で94.1%、8分子種のシトクロムP450を用いた解析で98%と非常に高い正答率であり、がん疾患と神経変性疾患の検体に対する分類判別精度は高く、安定的に高精度のバイオマーカーとして利用でき、また、がん疾患と神経変性疾患の疾病検査が可能であることがわかった。
【0082】
【表17】
【0083】
次に、第1の分類判別段階で、がん疾患の検体と分類された検体に対して、肝臓がんと大腸がんに分類する第2の分類判別段階を行った結果について説明する。
下記表18は、第2の分類判別段階において、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種について得られた蛍光パターンを用いて、4つの各分類モデルが分類した分類ラベルの正答率を示している(実施例5-2A~5-2Dを参照)。
なお、分類モデル(ニューラルネットワーク)について、がん疾患の検体に対する第2の分類判別段階においては、11分子種からCYP1A1の1分子種を除外した10分子種について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示している。
【0084】
【表18】
【0085】
上記表18に示すとおり、実施例5-2A~5-2Dのそれぞれの分類モデルで特徴解析して得られる分類ラベルの正答率は、実施例5-2A(決定木)を除き、80%を超えており、第2の分類判別段階によって、蛍光パターンが、肝臓がんと大腸がんの疾患のバイオマーカーとして使用できることがわかる。
実施例5-2Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)については、11分子種からCYP1A1の1分子種を除外した10分子種の場合には、90%を超える高い正答率であった。下記表19に、90%を超える正答率を出した判定結果を示す。がん疾患の21検体(肝臓がん9検体と大腸がん12検体)に対して、肝臓がん9検体は全て正しく分類されており、大腸がん12検体は、2検体が肝臓がんに分類されたが、10検体は正しく分類されていた。
以上のとおり、実施例5-2A~5-2Dのそれぞれの分類モデルを使用し解析して得られる分類ラベルの正答率を示したが、特に、実施例5-2Dの分類モデルを使用した場合に、10分子種のシトクロムP450を用いた解析で90%を超える高い正答率であり、第1の分類判別段階でがん疾患に分類された検体を、第2の分類判別段階で肝臓がんと大腸がんに分類する分類判別精度は高く、安定的に高精度のバイオマーカーとして利用でき、また、肝臓がんと大腸がんの疾病検査が可能であることがわかった。
【0086】
【表19】
【0087】
次に、第1の分類判別段階で、神経変性疾患の検体と分類された検体に対して、アルツハイマー病とパーキンソン病に分類する第2の分類判別段階を行った結果について説明する。
下記表20は、第2の分類判別段階において、CYP2B6、CYP1A2、CYP2C19、CYP2C8、CYP3A4、CYP2C9、CYP3A5、CYP2E1、CYP1A1、CYP2A13、CYP2C18の11分子種について得られた蛍光パターンを用いて、4つの各分類モデルが分類した分類ラベルの正答率を示している(実施例5-3A~5-3Dを参照)。
なお、分類モデル(ニューラルネットワーク)について、神経変性疾患の検体に対する第2の分類判別段階においては、11分子種からCYP3A4、CYP2B6、CYP2C9、CYP3A5の4分子種を除外した7分子種について得られた蛍光パターンを用いて分類した分類ラベルの正答率を示している。
【0088】
【表20】
【0089】
上記表20に示すとおり、実施例5-3A~5-3Dのそれぞれの分類モデルで特徴解析して得られる分類ラベルの正答率は、実施例5-3D(ニューラルネットワーク)のみ、60%を超えており、第2の分類判別段階によって、蛍光パターンが、アルツハイマー病とパーキンソン病の疾患のバイオマーカーとして使用できることがわかる。
実施例5-3Dの分類モデル(ニューラルネットワーク)については、11分子種からCYP3A4、CYP2B6、CYP2C9、CYP3A5の4分子種を除外した7分子種の場合には、95%と非常に高い正答率であった。下記表21に、95%の正答率を出した判定結果を示す。神経変性疾患の20検体(アルツハイマー病10検体とパーキンソン病10検体)に対して、アルツハイマー病10検体は全て正しく分類されており、パーキンソン病10検体は、1検体がアルツハイマー病に分類されたが、9検体は正しく分類されていた。
以上のとおり、実施例5-3A~5-3Dのそれぞれの分類モデルを使用し解析して得られる分類ラベルの正答率を示したが、実施例5-3Dの分類モデルを使用した場合に、7分子種のシトクロムP450を用いた解析で95%と高い正答率であり、第1の分類判別段階で神経変性疾患に分類された検体を、第2の分類判別段階でアルツハイマー病とパーキンソン病に分類する分類判別精度は高く、安定的に高精度のバイオマーカーとして利用でき、また、アルツハイマー病とパーキンソン病の疾病検査が可能であることがわかった。
【0090】
【表21】
【実施例6】
【0091】
上述の実施例においては、市販品のシトクロムP450を使用した。今回用いた市販品のシトクロムP450は、ヒトP450組換え大腸菌由来の膜画分であるEasyCYP(CYP3A5R、Cypex社製)および、EasyCYP(CYP1A1R、Cypex社製)の2種であるが、例えば、他の大腸菌膜由来のシトクロムP450や哺乳類細胞発現系や、昆虫細胞発現系、または、酵母発現系を用いて作製したP450を使用しても同様の結果が得られる。大腸菌膜由来のシトクロムP450に関しては、上述の特許文献2(特許第6501607号)の明細書段落0030~0045に詳細に記載されている。なお、特許文献2(特許第6501607号)は、シトクロムP450の活性を表す蛍光パターンが炎症性疾患のバイオマーカーとして利用できることを開示しており、その実施例データでは、大腸菌膜由来のシトクロムP450に基づくデータを示している。
大腸菌膜由来のシトクロムP450と上述の実施例で用いた市販品のシトクロムP450について、CYP3A5とCYP1A1の2つの酵素に対して、各種の血清を含む系の蛍光値を測定し、その蛍光阻害率とその標準偏差(SD)を比較した結果を表22に示す。また、表22の結果を図8に示す。
図8に示すとおり、異なる方法で調製されたシトクロムP450でも、同様の結果が得られることがわかる。この結果から、発明者らの自作シトクロムP450である大腸菌膜由来のシトクロムP450以外の市販品のシトクロムP450を用いても同様な結果が得られたことから、他の発現手法を用いて作製されたあらゆるシトクロムP450を用いた場合であっても、同様な酵素反応阻害率、ならびに酵素反応阻害パターンが得られることは自明である。
【0092】
【表22】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、炎症性疾患、がん疾患、神経変性疾患の酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置や疾患の検査装置として有用である。
【符号の説明】
【0094】
酵素反応阻害パターンが疾患のバイオマーカーとして利用できるかを調べる装置
2 疾患検査装置
11 酵素反応阻害パターン取得部
12 特徴解析部
13 分類モデル
15 第1の分類判別部
16 第2の分類判別部
17 複数種のシトクロムP450各酵素反応阻害率
18 酵素反応阻害パターン
19 疾患の分類ラベル
151 第1の分類モデル
161 第2の分類モデル

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8