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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】ポンプ施設
(51)【国際特許分類】
   E03F 5/22 20060101AFI20240909BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20240909BHJP
【FI】
E03F5/22
C02F1/00 K
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020186371
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076111
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康人
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-186887(JP,A)
【文献】特開2015-188841(JP,A)
【文献】特開2013-029017(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111188366(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0308595(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0267318(US,A1)
【文献】特開2000-018883(JP,A)
【文献】特開2005-144384(JP,A)
【文献】特開2001-181117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00-11/00
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水を受け入れる受入槽と、
前記受入槽内に配置され、受け入れた汚水を送り出すポンプと、
前記受入槽内において受け入れた汚水に水没する位置に配置され、汚水のpH値を高めるpH調整剤と
前記pH調整剤を内部に保持し、該内部と外部との間で汚水が流通可能な孔が設けられた保持容器とを備え、
前記保持容器は、受け入れた汚水に水没する位置に前記孔が配置されたものであることを特徴とするポンプ施設。
【請求項2】
前記pH調整剤は、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1記載のポンプ施設。
【請求項3】
前記pH調整剤は、平均粒径が2.0mm以上4.0mm以下の粒状をしたものであることを特徴とする請求項1または2記載のポンプ施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水を受け入れるポンプ施設に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭で発生する生活排水等の汚水は、地下に埋設された下水道管路内を通って下水処理施設に送られる。また、汚水は、浄化槽で処理された後、河川などに送られて放流される場合もある。汚水は、基本的には自然流下で送られる。しかし、途中に山や河川などが存在する場合、下水道管路に十分な下り勾配が得られない場合および宅地が下水道本管や河川などよりも低い場合には、自然流下では汚水を送ることができない。これらの場合、マンホールポンプ施設、グラインダポンプ施設、宅内ポンプ施設、ポンプ付浄化槽などの、汚水を汲み上げるためのポンプが設置されたポンプ施設を設けて汚水を送り出す圧送方式が採用されている。
【0003】
ポンプ施設は、汚水を受け入れる受入槽と、その受入槽内に配置されたポンプとを備えており、受入槽内の汚水の水位が所定の高水位に達したときなどにポンプを作動させて受入槽内の汚水を自然流下管内に送り出す。送り出された汚水は、自然流下管内を流れていく。自然流下管は、傾斜角度が1°程度で、長い距離延在したものが多い。このため、汚水は自然流下管内を長時間かけてゆっくり流れていくことになる。汚水が自然流下管内を流れている間、自然流下管内にある汚水は酸素が供給されない状態が維持される。このため、その汚水が嫌気状態になり、汚水中の硫酸塩が硫酸塩還元菌の働きにより硫化水素に変化してしまう。硫化水素は悪臭の原因になる上に強い毒性を有している。また、硫化水素の濃度が高まると、今度はコンクリート表面に住む硫黄酸化細菌の働きにより硫化水素が酸化されて硫酸が生成され、自然流下管や下水道管路が腐食してしまう。なお、ポンプ施設から送り出された汚水が到達する到達点が、そのポンプ施設よりも上方に位置している場合、自然流下管の代わりに圧送管が用いられる。圧送管を用いる場合、ポンプ施設のポンプが停止している間は、圧送管内に汚水が滞留する。この滞留が長時間になることもあるため、圧送管を用いる場合も圧送管内が嫌気状態になり、圧送管が腐食してしまうことがある。
【0004】
下水処理施設に設けられた沈砂池や沈殿池などの大規模なポンプ施設においても、臭気を抑制するために密閉状態で汚水を流下させているため、内部が嫌気状態になり硫化水素が発生することがある。さらに、沈砂池や沈殿池を密閉状態にしていなくても、沈殿している砂や汚泥の内部が嫌気状態になって硫化水素が発生することもある。そして、沈砂池や沈殿池を構成するコンクリート壁面に住む硫黄酸化細菌の働きにより硫化水素が酸化されて硫酸が生成され、沈砂池や沈殿池のコンクリート壁や天井が腐食してしまうことがある。
【0005】
この対策として、ポンプ施設の受入槽内に、硫酸塩還元菌の活動を抑制する薬液または薬剤を選択的に注入することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1のポンプ施設では、受入槽内に、粉末または粒状の水酸化マグネシウムを貯蔵した薬品注入装置を配置している。この薬品注入装置には、電動弁または受入槽の水位によって動作する複雑な機構を有する弁が接続されており、これらの弁を用い、特定の条件に達したときに所定量の水酸化マグネシウムを受入槽内に注入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-186887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のポンプ施設では、電動弁または複雑な機構を有する弁を有する薬品注入装置を用いているので、ポンプ施設が高価になってしまうという問題がある。なお、複雑な機構を有する弁を用いたものは、弁を開閉するための機構が破損して弁の開閉ができなくなってしまう虞もある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、硫化水素の発生を抑制できる安価なポンプ施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を解決する本発明のポンプ施設は、汚水を受け入れる受入槽と、
前記受入槽内に配置され、受け入れた汚水を送り出すポンプと、
前記受入槽内において受け入れた汚水に水没する位置に配置され、汚水のpH値を高めるpH調整剤とを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記pH調整剤を汚水に水没する位置に配置するといった簡素な構成であるため、このポンプ施設を安価に構成できる。
【0011】
ここで、前記pH調整剤は、前記受入槽の最低水位よりも下方に配置されたものであってもよい。また、前記最低水位は、前記ポンプが汚水の送り出しを停止する水位であってもよい。さらに、前記pH調整剤は、前記ポンプによって水流が発生する位置に配置されたものであってもよい。
【0012】
このポンプ施設において、前記pH調整剤を内部に保持し、該内部と外部との間で汚水が流通可能な孔が設けられた保持容器を備え、
前記保持容器は、受け入れた汚水に水没する位置に前記孔が配置されたものであってもよい。
【0013】
このポンプ施設によれば、前記pH調整剤が前記受入槽の外に送り出されてしまうことを防止できるので、硫化水素の発生を抑制する効果が長期間維持される。
【0014】
ここで、前記孔は、1.0mm以上で前記pH調整剤の平均粒径以下であってもよい。また、前記孔は、前記受入槽の最低水位よりも下方に配置されたものであってもよい。さらに、前記孔は、前記保持容器に複数形成されていてもよい。またさらに、前記保持容器は、前記pH調整剤を入れ替え自在なものであってもよい。加えて、前記保持容器は、前記pH調整剤を投入可能な開口が形成され、該開口を開閉可能な蓋体を有するものであってもよい。また、前記保持容器は、前記ポンプによって生じる水流に対して前記pH調整剤を内部に留まらせるものであってもよい。
【0015】
また、このポンプ施設において、前記pH調整剤は、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムであってもよい。
【0016】
水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムを用いることで、人体への影響がなく安全である。なお、前記pH調整剤として、水酸化マグネシウムと酸化マグネシウムとを混合したものを用いてもよい。
【0017】
さらに、このポンプ施設において、前記pH調整剤は、平均粒径が2.0mm以上4.0mm以下の粒状をしたものであってもよい。
【0018】
こうすることで、硫化水素の発生を抑制する効果を早期に発揮でき、その効果を長期間維持することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、硫化水素の発生を抑制できる安価なポンプ施設を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に相当するマンホールポンプ施設を示す平面図であり、(b)は、同図(a)のA-A断面図である。
図2図1(a)に示したマンホールポンプ施設のB-B断面図である。
図3】(a)は、図1(a)に示したマンホールポンプ施設に備えられた保持容器の正面図であり、(b)は、同図(a)に示した保持容器の下面図である。
図4図1に示したマンホールポンプ施設の変形例を示す、図2と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明の一実施形態であるマンホールポンプ施設は、下水道管路の途中に配置され、受け入れた汚水を上方に向かって送り出すものである。
【0022】
図1(a)は、本発明の一実施形態に相当するマンホールポンプ施設を示す平面図である。また、図1(b)は、同図(a)のA-A断面図である。なお、図1(a)では、マンホールポンプ施設1の上端部分を省略して示している。また、図1(b)では断面を示すハッチングは省略している。
【0023】
図1(a)および図1(b)に示すように、マンホールポンプ施設1は、マンホール11と、予旋回槽12と、2台のポンプユニット13,13と、吐出管15と、自然流下管16と、水位計17(図2参照)と、フロートスイッチ18(図2参照)と、保持容器19とを備えている。このマンホールポンプ施設1は、ポンプ施設の一例に相当する。
【0024】
図1(b)に示すように、マンホール11には、マンホール蓋112と、複数の昇降用足掛け金具113と、流入バッフル114とが設けられている。マンホール11は、作業員が地上から出入りできるように地中に埋められた有底の筒体で構成されている。このマンホール11は、受入槽の一例に相当する。この実施形態のマンホール11は、地上からつながった縦穴を形成するコンクリート製の組立マンホールである。図1(a)に示すように、マンホール11には、2本の汚水流入管91,91が接続されている。マンホール11内には、家庭で発生する生活排水等の汚水が2本の汚水流入管91,91それぞれから流入してくる。マンホール11は、その汚水を受け入れて貯留するものである。図1(b)に示すマンホール蓋112は、マンホール11上端の開口を塞ぐ鋳鉄製の蓋である。複数の昇降用足掛け金具113は、作業員がマンホール11内を上下方向に移動する際に使用される、真上から見てコの字状をした金具である。流入バッフル114は、2本の汚水流入管91,91とマンホール11の接続部分にそれぞれ1つづつ配置されている。この流入バッフル114は、マンホール11内に流入してくる汚水がマンホール11内で飛散してしまうことを防止するためのものである。流入バッフル114は、上下方向に延在した断面がコの字状をした板であり、水平方向の両端がマンホール11の内壁面に固定されている。マンホール11内に流入してきた汚水は、流入バッフル114に衝突し、流入バッフル114の下端とマンホール11の内壁面との隙間から下方に向かって放出される。
【0025】
図1(b)に示すように、予旋回槽12は、マンホール11の底面に配置されている。予旋回槽12は、下側に空洞部が形成されたFRP強化プラスチック製であり、その空洞部には予旋回槽12の設置時に充填されたモルタルが配置されている。予旋回槽12は、ポンプユニット13が汚水を吸い上げるときに、渦流を発生させるためのものである。渦流を発生させることで、ポンプユニット13が浮遊物や沈殿物を吸込みやすくなるといった効果がある。予旋回槽12には、2台のポンプユニット13,13を載置するための台部が形成されている。その台部には上方に向かってボルトが突出している。
【0026】
ポンプユニット13は、水中汚水ポンプ131と、着脱ベンド132と、4本のガイドパイプ133,133,133,133とを備えている。この水中汚水ポンプ131は、ポンプの一例に相当する。ポンプユニット13はマンホール11内に配置されている。水中汚水ポンプ131の下端には、吸込口131aが形成されている。水中汚水ポンプ131が作動すると、マンホール11の底面近傍の汚水が吸込口131aから吸い上げられる。着脱ベンド132は、予旋回槽12の台部に設けられたボルトにナットを締め込むことことで着脱可能に予旋回槽12に固定されている。着脱ベンド132には、水中汚水ポンプ131と吐出管15がそれぞれ接続されている。水中汚水ポンプ131が吸い上げた汚水は、着脱ベンド132内を通過して吐出管15に送り出される。4本のガイドパイプ133,133,133,133は、それぞれ下端が着脱ベンド132に固定され、上端がマンホール11の上側部分に掛け渡された梁115に固定されている。水中汚水ポンプ131は、上下方向に摺動自在に2本のガイドパイプ133,133に取り付けられている。ガイドパイプ133は、水中汚水ポンプ131をマンホール11の底部に降下させる際に、水中汚水ポンプ131を案内するものである。ガイドパイプ133が水中汚水ポンプ131を案内することで、所定の位置に水中汚水ポンプ131を設置することができる。また、例えばメンテナンス時などに、水中汚水ポンプ131を上方に引き上げる際に、ガイドパイプ133が案内することで、水中汚水ポンプ131をマンホール11の内壁面等に接触させることなく水中汚水ポンプ131を引き上げることができる。
【0027】
図2は、図1(a)に示したマンホールポンプ施設のB-B断面図である。この図2では断面を示すハッチングは省略している。また、図2には、吐出管15も示されている。
【0028】
図2に示すように、吐出管15は、途中で2本に分岐した下側部分151と、上側部分152とから構成されている。この吐出管15は、ポンプユニット13が吸い上げた汚水を自然流下管16に送り出すためのものである。2本に分岐した下側部分151の下端は2つの着脱ベンド132に接続されている。また、2本に分岐した下側部分151には、ボール弁1511と、逆止弁1512と、空気抜弁が1513とがそれぞれ設けられている。ボール弁1511は、ポンプユニット13のメンテナンス時などに水を止めたり、ポンプユニット13から送り出される水量の調整を行うものである。逆止弁1512は、自然流下管16側からポンプユニット13側に汚水が逆流することを防止するためのものである。空気抜弁は、吐出管15内に溜まる空気を自動的に排出するためのものである。吐出管15の上側部分152は、水平方向に延在し、下側部分151に接続された側とは反対側部分が自然流下管16内に挿入されている。
【0029】
自然流下管16は、吐出管15を通してポンプユニット13から送り出された汚水を送水するための管である。吐出管15の吐出口15aから自然流下管16内に吐出された汚水は、自然流下管16内を通って下水処理場側に送られる。なお、自然流下管16の代わりに、吐出管15の吐出口15a側を延長して圧送管を形成し、その圧送管内を通して下水処理場側に汚水を圧送してもよい。
【0030】
水位計17は、マンホール11内であって、マンホール11の底面に近い高さ位置に配置されている。水位計17は、マンホール11内に貯留された汚水の水位を計測するものである。水中汚水ポンプ131が停止した状態で、汚水流入管91からマンホール11内に汚水が流入してくるとマンホール11内の水位は上昇する。水位計17は、マンホール11内の水位が、図2に示した低水位LWL、高水位HWLおよび異常高水位HHWLになったことを検知して不図示の制御装置に送信する。マンホール11内の水位は、不図示の制御装置によって水中汚水ポンプ131の作動が制御されることで概ね低水位LWLから高水位HWLの間を推移する。
【0031】
フロートスイッチ18は、異常高水位HHWLよりもさらに上方に配置されている。このフロートスイッチ18は、マンホール11内に貯留された汚水の水位が自身の位置まで達したことを検出するためのものである。フロートスイッチ18まで水位が達したら、フロートスイッチ18は制御装置に信号を送信する。制御装置は、フロートスイッチ18からの信号を受信したら、例えば無線通信手段などを用いてマンホール11のオペレータに緊急対応が必要であることを通知する。
【0032】
保持容器19は、マンホール11内に配置され、その下面が予旋回槽12の上面に接している。ただし、保持容器19を予旋回槽12の上面から離間させていてもよい。すなわち、保持容器19は、マンホール11の下端部分に配置されている。保持容器19は、低水位LWLよりも下方に配置されているので通常は後述する容器上開口1911a、容器下開口1912aおよび長孔191bを含む容器全体が汚水中に没している。ただし、保持容器19は、上側部分が低水位LWLよりも上方まで延在して上端が大気中に露出することがあってもよい。また、保持容器19は、一時的であれば全部が大気中に露出することがあってもよい。保持容器19の詳細な構成は後述する。保持容器19の上端には、筒体190が連結されている。筒体190は、保持容器19に連結された下端から上方に向かって延在したステンレス製の筒である。筒体190の上端には不図示のチェーンの一端が取り付けられている。このチェーンの他端は、梁115(図1参照)に巻き付けられている。チェーンを巻きあげることで、筒体190とともに保持容器19を持ち上げることができる。なお、筒体190を省略して筒体190にチェーンの一端を直接取り付けてもよい。
【0033】
図3(a)は、図1(a)に示したマンホールポンプ施設に備えられた保持容器の正面図であり、図3(b)は、同図(a)に示した保持容器の下面図である。図3(a)には、筒体190の下端部分も示されている。保持容器19は、図3(a)に示す姿勢で、マンホール11(図2参照)内に設置されている。
【0034】
図3(a)に示すように、保持容器19は、容器本体191と、下蓋192とを備えている。容器本体191は、上端フランジ1911と下端フランジ1912とを備えた円筒状をしたステンレス製のものである。上端フランジ1911の中央部には容器上開口1911aが形成されている。また、下端フランジ1912の中央部には容器下開口1912aが形成されている。容器上開口1911aと容器下開口1912aそれぞれには、容器本体191の内部に繋がる網目を有する金網193が貼り付けられている。また、容器本体191の側面にも容器本体191の内部に繋がる網目を有する金網193が貼り付けられた複数の長孔191bが形成されている。これらの金網193の網目は、汚水が流通可能な孔の一例に相当する。
【0035】
図3(b)に示すように、下蓋192は、中央部に貫通孔192aを有する環状をしたステンレス製のものである。なお、筒体190、容器本体191および下蓋192は、ステンレス以外の金属製であってもよく樹脂製であってもよいが、汚水に対する耐食性の高いものが好ましい。下蓋192は、容器本体191の下端フランジ1912に、ボルトおよびナットによって固定されている。下蓋192の貫通孔192aは、容器本体191の下端に形成された容器下開口1912a(図3(a)参照)に連続している。従って、汚水は貫通孔192aを通って容器本体191内に流出入自在である。また、容器本体191の上端フランジ1911には、筒体190下端に形成された筒体フランジ1901がボルトおよびナットによって固定されている。筒体190の下端は、筒体190の内部に繋がる筒体開口190aが形成されている。筒体開口190aは、容器本体191の上端に形成された容器上開口1911aに連続している。従って、汚水は筒体開口190aを通って容器本体191内に流出入自在である。
【0036】
容器本体191の内部には、pH調整剤が充填されている。容器本体191は、pH調整剤を所定位置に保持するためのものである。また、pH調整剤は、汚水のpH値を高める効果を奏するものである。容器本体191の容器上開口1911a、容器下開口1912aおよび長孔191bに貼り付けられた金網193は、ステンレス鋼線を縦と横に格子状に結びつけたものであり、格子の間に縦1.0mm×横1.0mmの網目が形成されている。この網目は、最短隙間距離が1.0mm以上で充填されたpH調整剤の平均粒径以下であることが好ましい。網目の最短隙間距離が1.0mmよりも小さいと汚水に混入している汚泥や石などの夾雑物によって網目が詰まってしまいやすい。また、網目の最短隙間距離がpH調整剤の平均粒径よりも大きいと、pH調整剤を充填した容器本体191をマンホールポンプ施設1まで運び込む際に多くのpH調整剤がこぼれ落ちてしまう。加えて、網目の最短隙間距離がpH調整剤の平均粒径よりも大きいと、容器本体191をマンホール11に設置した後に、pH調整剤の一部が網目から流出してしまう。本実施形態のpH調整剤は、平均粒径が2.0mm以上4.0mm以下の水酸化マグネシウムの粒である。pH調整剤は、粉状など平均粒径が2.0mm未満のものであってもよく、4.0mmを超える粒状のものであってもよい。ただし、pH調整剤は、ある程度の期間汚水に浸漬していると、粒どうしが固着して大きな塊になることもある。pH調整剤の平均粒径が2.0mm未満だと、汚水と反応して大きな塊になりやすい。大きな塊になると表面積が減少するのでpH値を高める効果が弱まりやすい。また、pH調整剤の平均粒径が2.0mm未満だと、塊になる前に小粒のものが網目を抜けて流出してしまう虞もある。pH調整剤の平均粒径が4.0mmを超えていると、汚水のpH値を高める効果を発揮するのに数日かかってしまうことがある。すなわち、平均粒径が2.0mm以上4.0mm以下のpH調整剤を用いることで、早期に硫化水素の発生を抑制する効果を発揮でき、かつその効果を長期間維持することができる。なお、pH調整剤の平均粒径が1.0mm未満だと、上述した理由から網目の最短隙間距離を1.0mmより細かくする必要が生じ、網目が詰まってしまいやすくなるので、pH調整剤は、平均粒径が1.0mm以上4.0mm以下であることが好ましい。また、pH調整剤は、汚水のpH値を高める作用があれば、酸化マグネシウムなどの他の物質で構成されていてもよい。ただし、水酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムは、人体への影響がなく安全であるため水酸化マグネシウム製または酸化マグネシウム製のpH調整剤を用いることが好ましい。なお、pH調整剤として、水酸化マグネシウムと酸化マグネシウムとを混合したものを用いてもよい。さらに、pH調整剤が汚水と反応して塊になることを抑制するために、例えばガラスなどの汚水と反応しないビーズを容器本体191内に入れてpH調整剤の間に分散させておいてもよい。
【0037】
次に、以上説明したマンホールポンプ施設1の作用について説明する。
【0038】
マンホール11には、汚水流入管91から不定期に汚水が流れ込んでくる。上述したように、水中汚水ポンプ131が停止した状態で、マンホール11が汚水を受け入れることで、マンホール11内に貯留された汚水の水位は上昇する。マンホール11内にある保持容器19に充填されたpH調整剤が汚水に接触していることで、マンホール11内に貯留された汚水のpH値は上昇する。水中汚水ポンプ131が作動するまでの期間が長い場合、保持容器19の周囲にある汚水のpH値は最大で10程度まで上昇する。また、その汚水が拡散することで、マンホール11内の汚水全体のpH値が10程度まで上昇すること9もある。マンホール11内の汚水の水位が、図2に示した高水位HWL以上になったことを水位計17が検知したら、マンホールポンプ施設1の制御装置は、水中汚水ポンプ131を作動させる。これにより、マンホール11内の汚水が水中汚水ポンプ131に吸い込まれてマンホール11内には水流が発生する。この水流は、予旋回槽12によって渦流になる。保持容器19は、その水流が保持容器19内を通過する位置に配置されている。保持容器19をこの位置に配置することで、多くの汚水が保持容器19内のpH調整剤に接触するので、マンホール11から送り出される汚水のpH値を高めることができる。マンホール11からは、長期間貯留されることでpH値が大きく上昇した汚水と、水中汚水ポンプ131によって生じる水流によってpH調整剤に接触してpH値がある程度上昇した汚水とが混ざり合い概ね7以上のpH値に上昇した汚水が送り出される。汚水のpH値を上昇させることで、自然流下管16内(圧送管内)やその後流側の汚水処理施設などにおいて汚水が嫌気状態になったとしても汚水中の硫酸塩還元菌の活性が抑制される。これにより、硫酸塩還元菌の働きで硫化水素が発生してしまうことを防止できる。
【0039】
水中汚水ポンプ131が作動することでマンホール11内の汚水の水位が低下し、図2に示した低水位LWL以下になったことを水位計17が検知したら、マンホールポンプ施設1の制御装置は、水中汚水ポンプ131を停止させる。なお、マンホールポンプ施設1の制御装置は、低水位LWLに達したことを水位計17が検知してから所定の遅延時間経過を待って水中汚水ポンプ131を停止するように制御してもよい。この遅延時間を設けることで、マンホール11内の汚水の殆どを水中汚水ポンプ131で吸い上げることができる。以上説明した水中汚水ポンプ131の動作開始から水中汚水ポンプ131の停止までを1サイクルとして、マンホールポンプ施設1の制御装置は、図2に示した高水位HWL以上になるごとにこのサイクルを実行する。なお、2台のポンプユニット13,13に備えられた各水中汚水ポンプ131は、1サイクルごとに交互に動作する。また、マンホール11内の汚水の水位が、図2に示した異常高水位HHWL以上になったことを水位計17が検知したら、マンホールポンプ施設1の制御装置は、その時点で動作している水中汚水ポンプ131を停止させ、もう一方の水中汚水ポンプ131を作動させる。これは、先に動作していた水中汚水ポンプ131が故障している可能性があり、そのままだとマンホール11の水位が上昇し続けてしまう虞もあるからである。
【0040】
適切な平均粒径のpH調整剤を選択し、網目の最短隙間距離を適切に設定することで、水酸化マグネシウム製または酸化マグネシウム製のpH調整剤による汚水のpH値上昇効果は、1年以上継続することが見込まれる。従って、例えば1年ごとにマンホール11から保持容器19を引き上げて、筒体190または下蓋192を容器本体191から取り外し、保持容器19内のpH調整剤を新しいものに入れ替えて再度マンホール11内に設置することで、永続的に汚水のpH値上昇効果を維持することができる。
【0041】
この実施形態のマンホールポンプ施設1によれば、マンホール11内の汚水に水没するようにpH調整剤を配置しているので、安価な構成で硫化水素の発生を抑制できる。また、内部と外部の間で汚水が流通可能な保持容器19内にpH調整剤を配置しているので、pH調整剤がマンホール11の外に送り出されてしまうことが防止される。その結果、硫化水素の発生を抑制する効果を長期間維持することができる。
【0042】
続いて、これまで説明してきたマンホールポンプ施設1の変形例について説明する。以下の説明では、これまで説明した構成要素の名称と同じ構成要素には、これまで用いた符号と同じ符号を付して重複する説明は省略することがある。
【0043】
図4は、図1に示したマンホールポンプ施設の変形例を示す、図2と同様の断面図である。
【0044】
図4に示すように、この変形例のマンホールポンプ施設1は、ポンプユニット13に戻し管153が設けられている点が、図1に示したマンホールポンプ施設1と異なる。戻し管153は、吐出管15の下側部分151の2本に分岐した部分それぞれと筒体190とを接続している。戻し管153の、筒体190に接続された部分には、戻し管ボール弁1531が設けられている。この戻し管ボール弁1531は、ポンプユニット13のメンテナンス時などに水を止めたり、筒体190に戻される水量の調整を行うものである。水中汚水ポンプ131が吸い上げた汚水の一部は、戻し管153内と筒体190内を通過して、容器上開口1911a(図3参照)から保持容器19内に流入する。そして、保持容器19内でpH調整剤に接触することでpH値が上昇した汚水が容器下開口1912a(図3参照)と複数の長孔191bから噴出する。
【0045】
この変形例でも、先の実施形態と同一の効果を奏する。また、水中汚水ポンプ131が吸い上げた汚水の一部を戻し管153を通してマンホール11内に戻しつつpH値を上昇させているので、マンホール11内の汚水および水中汚水ポンプ131によって送り出される汚水のpH値をより高め、硫化水素の発生抑制効果を向上できる。
【0046】
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形を行うことが出来る。たとえば、本実施形態では、マンホールポンプ施設1に本発明を適用した例を用いて説明したが、グラインダポンプ施設、宅内ポンプ施設、ポンプ付浄化槽、沈砂池および沈殿池など、汚水を汲み上げるためのポンプが設置されたポンプ施設であれば、他のポンプ施設にも適用できる。また、本実施形態では、保持容器19内にpH調整剤を充填してマンホール11内に設置する例を用いて説明したが、マンホール11の内壁に汚水が内部を流通可能な保持部を設け、その保持部でpH調整剤を保持してもよく、その内壁にpH調整剤を含有する塗料を塗布してもよい。pH調整剤は、pH値を上昇させる効果を奏するものであればよく、例えば塩化第二鉄、硝酸塩等を用いてもよい。また、マンホールポンプ施設1などのポンプ施設に設置されるポンプユニット13は1台であってもよく3台以上であってもよい。さらに、保持容器19の容器上開口1911a、容器下開口1912aおよび長孔191bに金網193を貼り付けることに変えて、容器本保持容器19内にpH調整剤を充填した袋状の網を挿入してもよい。またさらに、保持容器19自体を袋状の網で構成してもよい。これらの場合には、その袋状の網の網目が、汚水が流通可能な孔の一例に相当する。加えて、金網193の代わりにパンチングメタルを用いてもよい。要するに、保持容器19は、内部にpH調整剤を保持でき、内部と外部との間で汚水が流通可能な複数の孔があいたものであればよい。
【0047】
なお、以上説明した実施形態や変形例の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、上述の実施形態や他の変形例に適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 マンホールポンプ施設
11 マンホール
19 保持容器
131 水中汚水ポンプ
図1
図2
図3
図4