IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ユニヴァーシティ オブ ウォーリックの特許一覧

<>
  • 特許-細胞の生命力の検出 図1
  • 特許-細胞の生命力の検出 図2
  • 特許-細胞の生命力の検出 図3
  • 特許-細胞の生命力の検出 図4a
  • 特許-細胞の生命力の検出 図4b
  • 特許-細胞の生命力の検出 図4c
  • 特許-細胞の生命力の検出 図5
  • 特許-細胞の生命力の検出 図6
  • 特許-細胞の生命力の検出 図7
  • 特許-細胞の生命力の検出 図8
  • 特許-細胞の生命力の検出 図9
  • 特許-細胞の生命力の検出 図10
  • 特許-細胞の生命力の検出 図11
  • 特許-細胞の生命力の検出 図12
  • 特許-細胞の生命力の検出 図13
  • 特許-細胞の生命力の検出 図14
  • 特許-細胞の生命力の検出 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】細胞の生命力の検出
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20240909BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240909BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240909BHJP
   G01N 21/66 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12M1/34 B
G01N21/64 E
G01N21/66
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020557969
(86)(22)【出願日】2019-04-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 GB2019051103
(87)【国際公開番号】W WO2019202327
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】1806419.6
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1817435.9
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512262938
【氏名又は名称】ザ ユニヴァーシティ オブ ウォーリック
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ストラトフォード ジェイムズ ピーター
(72)【発明者】
【氏名】アサリ ムネヒロ
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-532522(JP,A)
【文献】国際公開第2006/058185(WO,A2)
【文献】Nature,2015年,Vol.527,pp.59-63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料内の複数の細胞の生命力を検出する方法であって、
複数の細胞と、膜電位の変化に反応する蛍光色素と、を備えている試料を準備して、
前記複数の細胞と、前記蛍光色素を含む液状またはゲル状培地と、を含む前記試料の一部を、電極対の間にある試験用空間内に配置して、
前記電極対の間に電圧を印加して、前記試料の前記一部にわたって、生きている細胞には前記蛍光色素を導入し、生きていない細胞には導入しないことを選択的に促進させる電界を発生させ、
前記試験用空間を照光して、
前記電極対の間に電圧を印加してからの時間にわたって、前記試験用空間からの蛍光反応を測定して、
前記時間における蛍光反応が増加した場合に、前記試料内の複数の細胞を生きていると検出する、方法。
【請求項2】
前記電界は1kV/cmよりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電界は100V/cmよりも大きい、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記電界は交流である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電圧は10秒よりも短い時間の間印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電圧は0.1秒よりも長い時間の間印加される、請求項記載の方法。
【請求項7】
前記電圧5秒よりも短い時間の間印加される、請求項またはに記載の方法。
【請求項8】
前記時間における蛍光反応が減少した場合に、前記試料の複数の細胞を生きていないと検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記時間は60秒よりも短い、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記時間は10秒よりも短い、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記時間は0.1秒よりも長い、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光色素は、ネルンスト色素(Nernstian dye)である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記試料は前記試験用空間内を、前記時間の間に前記試験用空間の第1地点から第2地点へと流れていて、前記試験用空間を光で照光して蛍光反応を測定するステップが、前記第1地点と第2地点で繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
検出ステップでは、前記時間の間に蛍光反応が所定の量よりも多い量だけ変化した場合に、前記試料の生きている複数の細胞を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記所定の量は50%よりも多い、請求項14記載の方法。
【請求項16】
試料内の細菌株を検出する方法であって、
前記試料を抗生物質で処理し、
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法を実行して、前記抗生物質に耐性のある細菌を検出する、方法。
【請求項17】
前記細菌は大腸菌である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記抗生物質はバンコマイシンである、請求項17記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、細胞の生命力を検出すること、つまり、複数の細胞が生きている(生命力がある)か死んでいる(生命力がない)かを判定することに関する。
[背景技術]
試料内で生きている、つまり生存能力のある複数の細胞の存在を検出する従来の方法は、通例は試料を培地で培養し、複数の細胞の繁殖の有無やその繁殖程度を判定することを要する。この種の試験は、試料内の細菌の存在やその量を検出する場合には一般的である。試料を培養する際に求められることとして、試料の培養が可能になるのにかなりの遅れが発生し、結果が得られるまでにほぼ数日程度かかってしまうこともあり得る。
【0002】
蛍光色素の中には、例えば核酸染色法に用いるSytox(登録商標)系のように、易感染性膜を用いた複数の細胞の検出に使用できるものもある。なぜなら、この色素は親水性であるかまたは帯電しており、通常であれは脂質膜を透過するのに用いるルートを有さないからである。例えば電気穿孔法により生じた非特異性の孔を有する複数の細胞は、色素が脂質膜を透過するのに用いる経路を供給し、透過した色素がDNAに結合した結果、蛍光シグナルが生成される。しかし、無傷膜を有する複数の細胞ではシグナルは生成されず、これらの色素を用いて生きている複数の細胞を検出することができない。よって、細胞の生命力の表示は、崩壊した複数の細胞の分を割り引いて行うことでしか実行できない。
[発明の概要]
第1の態様に従って、試料内の複数の細胞の生命力を検出する方法が提供されており、本方法は、
蛍光色素を試料に加えて、
試料の一部を電極対の間にある試験用空間内に配置して、
電極対の間に電圧を印加して、試料の一部にわたって電界を発生させ、
試験用空間を照光して、
電圧を印加してからの時間にわたって、試験用空間からの蛍光反応を測定して、
時間の間の蛍光反応の変化次第で、試料内の複数の細胞を生きていると検出することを含む。
【0003】
蛍光反応の変化は、例えば、細胞の膜電位の検出に用いられる蛍光色素の種類に応じて、前述の時間の間の反応の増大または減少であってもよい。
【0004】
本方法は、試料内の生きている複数の細胞を迅速かつ確実に検出する方法の問題点に対処している。本方法は、培養を要する従来技術と比較すると、このような複数の細胞をより短時間で、しかも対象試料上で直接検出可能である。
【0005】
通常の用途における電界は1kV/cmよりも小さくてもよい。この場合における目的は、電気穿孔法のように細胞膜内に孔を開口することではなく、むしろ、生きている複数の細胞には蛍光色素を導入するが、生きていない複数の細胞には導入しないことを選択的に促進させるためである。電界は通常の用途においては100V/cmよりも大きくてもよく、範囲例としては約100V/cmから800V/cmの間、または約400V/cmから800V/cmの間である。好ましくは、本方法は複数の細胞の電気穿孔を含まない。つまり、好ましくは、電界は電圧印加時には複数の細胞の電気穿孔が起こらないように選定される。
【0006】
電界は交流であってもよく、例えば、1つ以上のパルスの形状で印加されてもよく、これにより、試料の電気分解が低減または防止される。電圧印加は短時間だけでもよく、例えば10秒よりも短い時間、もしくは5秒よりも短い時間であってもよい。電圧が印加されている最短時間は0.1秒程度に短くてもよい。
【0007】
本方法はさらに、前述の時間における蛍光反応が減少した場合、または増大しなかった場合に、試料の複数の細胞を生きていないと検出してもよい。
【0008】
検出が実行されている時間は、例えば30分までであってもよく、60秒または30秒よりも短くてもよい場合もあり、また、10秒よりも短く、随意で0.1秒よりも長くてもよい場合もある。
【0009】
蛍光色素は、細胞膜にわたって変化している電界またはイオン勾配を表す蛍光反応を発生させる物質であってもよい。この蛍光色素は、ネルンスト色素、例えばチオフラビンT等のフラビンであってもよい。しかし、この色素はネルンスト色素である必要はなく、電圧刺激に反応して起こった膜電位変化の結果として、その構造を通過したり変化させたりすることができる物質であってもよい。
【0010】
いくつかの実施形態において、試料は試験用空間内を、前述の時間の間に試験用空間の第1地点から第2地点へと流れていて、試験用空間を光で照光して蛍光反応を測定するステップが、第1地点と第2地点で繰り返されていてもよい。
【0011】
検出ステップでは、前述の時間の間に蛍光反応が例えば2分の1よりも多い量だけ変化した場合に、試料の生きている複数の細胞を検出してもよい。
【0012】
本方法は好ましくは、複数の細菌細胞の生命力または生存能力、つまり、このような複数の細胞が繁殖する能力を検出することに関する。したがって、本方法は、まず試料を抗生物質で処理し、次に本方法を実行して、抗生物質に耐性のある細菌を検出することによって、試料内の細菌株を検出するのに使用されてもよい。細菌は例えば、ペニシリンやバンコマイシンを含むある種の抗生物質に耐性がある、大腸菌等の大腸菌群であってもよい。
【0013】
第2の態様に従って、試料内の複数の細胞の生命力を検出する装置が提供されており、本装置は、
試料を収容する試料ホルダであって、電極対を試験用空間の向かい合う側に備えている試料ホルダと、
電極対に接続されている電圧源と、
試験用空間を照光するように配置された光源と、
光源が照光すると、試験用空間からの蛍光反応を検出するように配置された光検出器と、を備えている。
【0014】
試料ホルダは、電極対が設けられている表面を有する透明基板を備えていてもよい。
【0015】
光源は、試料を、試験用空間の反対側から光検出器へと照光するように配置されていてもよい。
【0016】
本装置は、試料ホルダと光検出器との間に光ファイバー平板を備えていてもよく、ここで光検出器は画像センサである。好ましくは、光ファイバー平板の開口数は1より小さく、これにより、基板に対して浅い角度からの入射照光(励起)光は、光ファイバー平板を通って蛍光発光光の検出器に伝えられることはない。
【0017】
光源は試験用空間の第1部分を照光するように配置されている第1光源であり、光検出器は試験用空間の第1部分から発せられた蛍光を検出するように配置されている第1光検出器である場合、本装置は、試験用空間の第2部分を照光するように配置されている第2光源と、試験用空間の第2部分から発せられた蛍光を検出するように配置されている第2光検出器とを備えていてもよく、試料ホルダは、試料が試験用空間内を、第1地点から第2地点へと流れていくことができるように構成されていてもよい。
【0018】
第1の態様にかかる本方法は、好ましくは、適切にプログラミングされたコンピュータコントローラの制御下で実行されることによって、少なくとも部分的に自動化されている。したがって、代替として、本方法は、試料内の複数の細胞の生命力を検出する方法として規定されてもよく、本方法は、
試料と蛍光色素を収容している試験用空間内にある電極対の間に電圧を印加して、試料の一部にわたって電界を発生させ、
試験用空間を照光して、
電圧を印加してからの時間にわたって、試験用空間からの蛍光反応を測定して、
時間の間の蛍光反応の変化次第で、試料内の複数の細胞を生きていると検出することを含む。
【0019】
第1の態様の方法に関連する他の任意の効果的な特徴は、上述の代替として規定された方法に適応してもよい。
【0020】
第2の態様に係る装置は、上述の代替として規定された方法を実行するように構成されているコントローラを備えていてもよい。
【0021】
よって、第3の態様に従って、上述の代替態様に係る方法をコンピュータに実行させる命令を行うコンピュータプログラムが提供されている。コンピュータプログラムは、読み出し専用メモリ等の非一時的な記憶媒体で具現化してもよい。
【0022】
本発明を、一例として以下に詳細に、添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は試料内の複数の細胞の生命力を測定する装置例の概略図である。
図2図2図1の装置で使用する櫛型電極アレイの略平面図である。
図3図3は、蛍光色素がある状態での電界印加後の複数の細胞試料の顕微鏡写真である。
図4a図4aは、異なる時間で電界を印加している間における複数の細胞からの蛍光発光の画像である。
図4b図4bは、異なる時間で電界を印加している間における複数の細胞からの蛍光発光の画像である。
図4c図4cは、異なる時間で電界を印加している間における複数の細胞からの蛍光発光の画像である。
図5図5は、試料内の複数の細胞から選択した2つに電界を印加した時間にわたって起きた相対的な蛍光反応のグラフである。
図6図6は、試料内の複数の細胞から選択した2つに電界を印加した時間にわたって起きた相対的な蛍光反応の別のグラフである。
図7図7は試料内の複数の細胞の生命力を測定する別の装置例の概略図である。
図8図8は試料内の複数の細胞の生命力を測定する別の代替装置例の概略図である。
図9図9は試料内の複数の細胞の生命力を検出する方法を示す概略フローチャート図である。
図10図10は試料内の複数の細胞の生命力を測定する装置例の概略図である。
図11図11図10の装置の回路構成の概略図である。
図12図12図10の装置の光学アセンブリ例の略断面図である。
図13図13は試料ホルダの電極レイアウト例の平面図である。
図14図14図13の電極レイアウト例の一部の平面図である。
図15図15図13の電極レイアウトを有する試料ホルダの構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[発明の詳細な説明]
外部電界(ΔΨ)による膜電位の変化は、シュワンの等式(Schwan equation)ΔΨ=1.5rEcosθによって定量的に説明される。ここで、rは理想的な球状細胞の半径、Eは外部電界の電界強度、θは電界との角度である。
【0025】
この等式によれば、外部電界は、細胞の膜間電位を変化させることによって電位依存性カリウムチャネルを開口させることができる。シュワンの等式により、細菌膜上にある電位感受性チャネルを開閉させるのに必要な電界強度はだいたい400~800V/cmの範囲であるという概算ができる。
【0026】
複数の細胞が生きている場合は、カリウムチャネルが開口した結果、細胞膜の過分極が起こるが、これは生きている複数の細胞は大量のカリウムを細胞質内に蓄えているからである。死んでいる複数の細胞では、代謝は限定的または皆無であるので、カリウムイオン勾配を戻すことができる代謝エネルギーが存在しない。これは、電気パルスで刺激するとすぐにカリウムチャネルが開口する場合には、膜電位が崩壊する、つまり脱分極することを意味する。したがって、膜分極の変化に反応する蛍光色素を添加して、外部電界に晒されている細胞膜に対して色素がどのように反応するかによって複数の細胞の生死を判定してもよい。よって、過分極は、ネルンスト色素(Nernstian dye)を使用した場合には蛍光発光の増加として示されることもあるし、他の種類の色素の場合には蛍光シグナルの減少として示されることもある。例えばFluoVolt(登録商標)といった蛍光色素は、過分極の場合にはその蛍光シグナルが減少する。膜電位に対する他の蛍光指示薬は、di-4-ANEPPS色素等のように、膜極性に応じてスペクトルを変化させるものもある。
【0027】
分子の導入に関与する主な機構は印加された電界による選択性イオンチャネルの開口であるとみなされているが、他の機構も同時に働いている。例えば、電気パルスにより細胞外培地のイオン濃度が一時的に変化して、細胞膜内でのイオン勾配が変化して流出が発生することがあり、その結果、輸送機構の状態の変化ではなく、輸送を促進する勾配の変化が存在する。この反応は、複数の細胞内にストレスが誘発されたことも一因である可能性があり、これがイオンチャネル、特にカリウムチャネルの開口も誘発し得る。このストレスは、電気パルス印加中に電気化学的に生成された電気信号や化学物質が原因の可能性がある。この複数の細胞の反応はまた、電極間の電流の流れが起こした電気化学反応により反応種が生成されたことが一因である可能性もある。これらの種はチャネルを調整したり、またはストレス反応を誘発したりすることもある。このような種は反応性酸素種または酸化性塩素化合物であり得る。上述の機構のすべてが、細胞膜内のイオンチャネルの導電性やイオン輸送速度を調整し、その結果分子が細胞へ入る動きを調整することをもたらすという共通の性質を有している。
【0028】
図1は試料内の複数の細胞の生命力を測定する装置例100を図示したものである。試料101は、表面に電極(図1には図示せず)が施されている基板103の表面にある試料箱102内部に載置されている。試料101は培地を含み、培地内には、複数の細胞と、その細胞膜を通過して吸収可能な蛍光色素が備わっている。培地はその形態が例えば液状またはゲル状培地であってもよい。
【0029】
基板102に隣接して光学機器104が設けられており、光学機器104は、光が試料101上に向けられるように配置されている光源107と、反応した試料101から蛍光発光した光を検出するように配置されている光検出器とを備えている。図示されている例では、試料101を観察するために、光源107は光学機器と同じ側に配置されている。別の実施形態では、光源が光学機器の反対側に配置されていてもよい。光源は、環状に、または試料の上方に配置された、LEDやランプなどの環状光源で構成されていてもよい。好ましくは、どの事例でも入射光の角度は、蛍光発光を検出するために、試料101上への光の入射角が、光学機器に光が直接入射することを防ぐのに十分なほど小さい。これにより、蛍光励起光源による検出器の直接照射が最小限になる。
【0030】
基板103上の電極には電圧源105が接続されており、試料101の各部分にわたって制御可能な電界を供給する。基板103の表面に設けられていてもよい電極の種類の一例を図2に示す。電極201,202は櫛型であり、電極において隣接して対向する櫛歯部203,204の間に設けられた領域内では、基板103の表面に配置された試料101において電極201,202の上方にある部分に、制御可能な電界を印加してもよい。
【0031】
電圧源105、光源107、及び光学機器104には、コントローラ108が接続されており、電圧源105を制御して、電圧信号が試料101に印加される規定の時間にわたって光学機器104から画像を取得するように構成されている。コントローラ108は、例えば、電圧信号が印加される前の時間の開始時に第1画像を取得し、その後、電圧信号が印加されていた時間の最後に第2画像を取得し、第1画像と第2画像の差、例えば輝度レベルの差等に基づいて第3画像を算出して出力し、この時間の間に蛍光発光の変化を示した複数の細胞を判定してもよい。
【0032】
試料箱作成のために、例えばTi-Au製、インジウムスズ酸化物(indium tin oxide:ITO)製、もしくは他の導電体製でもよい、櫛型または等間隔で配置された信号電極と接地電極からなるアレイが、ガラスまたは他の透明な硬質基板上に、物理蒸着または化学蒸着等の蒸着技術、またはスクリーン印刷によって配置されてもよい。
【0033】
基板103は、図1の構成に示されているように、透明な基板の裏面から、一般的な顕微鏡の高開口数対物レンズを用いて、鮮明な光学的撮像が高解像度で行える種類のものであってもよい。これは、この基板は通例では光学的に透明で厚さが0.2mm未満であることを意味する。基板103上に電極セットを複数配置して、複数の試料を連続して、あるいは同時に分析可能であってもよい。
【0034】
電圧源105等の外部回路は、コンタクトパッドや標準的な電気コネクタを用いて基板103に接続してもよい。
【0035】
電極同士の間隔は、通常は100マイクロメートル未満であり、好適な間隔は50マイクロメートル前後である。複数の電極対の全体にわたって用いる間隔を共通にしてもよく、これにより、同じ電圧で一定の電界を印加することができる。この範囲の電極間隔を用いると、試料の電気分解が発生するような合計電圧を電極間にかけることなく、約60V/mmの電界が印加可能である。
【0036】
基板103は、気体及び/または水分が入らないハウジング106の中に入れられていてもよい。ハウジング106は、上下から光が透過して試料に入ることができるように、透明であってもよい。図1の実施形態において、光源は基板のいずれの側に設けられていてもよい。
【0037】
電圧源105は、電気信号を発生させて、さらにはこれらの信号を記録するように構成されていてもよく、基板上の複数の電極セットに対して電圧信号を選択的に印加して監視するように配置されていることにより、別々の試料に供給された電圧をそれぞれ制御できるようになっていてもよい。
【0038】
ある実験装置において、複数の細菌細胞をアガロースパッドに接種し、電極面に載置すると、顕微鏡下で単一細胞の解像度で複数の細胞をモニタリングすることができた。これまで細菌とともに広く用いられてきた蛍光性ネルンスト指示色素であるチオフラビンT(ThT)を用いて、複数の細胞の膜電位動力学をモニタリングした。
【0039】
一連の電気パルス(±1.5V交流、0.1kHz、2.5秒間)を、電極の間隙に配置した複数の大腸菌(K12株)細胞に印加し、このパルスによって生きている複数の細胞内に過分極(ThTの蛍光シグナルの増大により示された)を生じさせた。図3は、図1で図示した種類の装置の対向する電極対301,302の間で見られた、試料304中に電界を印加した結果を示している。電界印加前に、試料の一部は、試料ホルダの規定された領域303内において、複数の細胞を殺すのに十分な紫外線に曝された。その後に電界を印加して、表示された画像は、電界を印加してからの時間における蛍光発光の差を表していた。図に示されているように、紫外線に曝された領域303内の蛍光発光の変化は、試料304の残りの部分の蛍光発光の変化と区別することができる。試料において紫外線による影響を受けていない領域は蛍光発光の増大を示したのに対し、紫外線による影響を受けた領域303は示さなかった。このことは、蛍光発光の変化が試料内の複数の細胞の生命力の表れであることをはっきりと示している。
【0040】
図4a~4cは、異なる時間で枯草菌の試料に電界を印加している間の顕微鏡画像を示している。振幅が3Vの信号を、間隔が50μmの電極間に保持されている試料に印加して、400V/cmから800V/cmの間のピーク電界強度を与えた。これは、少なくとも3,000~24,000V/cmを使用することもある細胞の電気穿孔法に匹敵する。図4aは1秒以内で電界が印加された試料を示しているが、ここでは1つの細菌401が蛍光発光している。図4bはさらに1秒印加された後の試料を示していて、今度はさらに2つの細菌402が蛍光発光しているが、最初の細菌401の蛍光強度は減少していることを見ることができる。図4cはさらに2秒印加された後の試料を示していて、その2つの細菌が今度は強く蛍光発光しているが、最初の細菌からの蛍光発光は低いままである。この事例は、複数の細胞の生命力の測定結果はほんの数秒で得られることを示しており、生命力の測定が可能になるまでに必要な電界印加時間はおそらく10秒未満であり、5秒未満、さらには3秒未満もあり得ることを実証している。
【0041】
生きている複数の細胞はネルンスト色素を、周囲の培地よりも非常に高いレベルで蓄積する。この作用は、既に細胞膜を透過可能であるネルンスト色素に対して選択性があり、また、生きている細胞膜を通過しないSytox(登録商標)等の色素を排除する。この作用によって、相当に高い電界レベルでしか実現しない複数の細胞の電気穿孔による色素の輸送は発生しないが、その代わりに、既存の細胞電位で生きている細胞膜をわたる輸送を増加させることによる色素の輸送が生じる。
【0042】
図5は、枯草菌の試料に選択的な紫外線処理を施した後に電界印加による処理を施した結果を示している。試料(図3に示している)は、周波数が100Hzで3Vの交流パルスに2.5秒間曝された。紫外線処理を行った細胞10個の平均反応501を、図5に紫外線処理を行っていない細胞10個の平均反応502と並べて示す。電流と最初の蛍光発光との比の対数で表される細胞生存確実性指標は、蛍光発光の相対的な増大または減少を示しており、生きている複数の細胞と死んでいる複数の細胞との間の反応の違いを明確に表している。この事例において、生きている複数の細胞はかなりの増大を示したが、一方死んでいる複数の細胞はかなりの減少を示した。
【0043】
図6は、バンコマイシンの存在下における2つの種の複数の細胞、枯草菌と大腸菌の蛍光反応の対数値を示している。バンコマイシンは大腸菌等の大腸菌群に対して不活性であるが、他のほぼすべての種の細菌を標的にしている。混合培養において、バンコマイシン処理をした複数の枯草菌細胞は脱分極601を示した一方で、複数の大腸菌細胞は過分極602を示した。このことは、この作用は混合培養では大腸菌群の生命力を選択的に示すことができることを表している。したがって、バンコマイシン等の選択性抗生物質で処理した試料の蛍光分析によって、大腸菌または他の大腸菌群の存在を確認することができる。
【0044】
図7は、試料内の複数の細胞の生命力を検出する装置の別の例である装置700を示している。本例では、装置は、透明な蓋702と光ファイバー平板702との間に、試料を収容する試験用空間701を備えている。試験用空間701の対向面を規定する、蓋702及び光ファイバー平板702のそれぞれの表面703,704の片方または両方には、電極が設けられている。電極は、例えば平板の一方にある電極対の形式、または櫛型電極パターンであってもよく、あるいは、両方の平板に、透明電極の形で設けられていてもよい。ここで、両平板の間の間隙は、試料中の電界を規定する。
【0045】
電極には電圧源705が接続されており、光源706が蓋702を介して試験用空間701を照光するように配置されている。光源706は、そのうちの2つが図7に示されているが、浅い角度、例えば表面703,704に対して45度未満の角度で試験用空間701を照光するように配置されていてもよい。このようにすると、平板702の開口数が光を光ファイバー平板702のファイバーに入射させることが可能な角度を制限するために、光が平板702に直接入射することを防ぐと言う効果がある。
【0046】
光ファイバー平板702の反対側には、光検出器706が設けられている。光検出器706はCCD等の画像センサ方式の形態であってもよい。画像センサ706と試験用空間701との間に光ファイバー平板702を介在させることにより、センサ706が試験用空間内の複数の細胞を、間にレンズを配置する必要もなく直接撮像することが可能になる。
【0047】
画像センサ706と試験用空間701の間、本例では画像センサ706と光ファイバー平板702隣接する面との間には、フィルタ707を設けてもよい。フィルタ707は、光源706が発する光も含む光の波長範囲を選択的に除去してもよい。光源は例えば青色光を発してもよく、フィルタ707は、緑色光を透過できるようにして、試験用空間からの蛍光発光を画像センサ706に入射可能にしてもよい。
【0048】
電圧源705、光源706、及び画像センサ706には、コントローラ708が接続されており、電圧源705を制御して、電圧信号が試料701に印加されている規定の時間にわたって画像センサ706から画像を取得するように構成されている。コントローラ708は、例えば、電圧信号が印加される前の時間の開始時に第1画像を取得し、その後、電圧信号が印加されていた時間の最後に第2画像を取得し、第1画像と第2画像の差、例えば輝度レベルの差等に基づいて第3画像を算出して出力し、この時間の間に蛍光発光の変化を示した複数の細胞を判定してもよい。
【0049】
装置例及び枯草菌と大腸菌の実験結果のさらなる詳細は、英国特許出願第1817435.9号に提示されているが、本願は当該出願の利益を主張するものであり、全体を参照することにより本願に援用する。
【0050】
図8は、試料内の複数の細胞の生命力を検出するさらに別の装置800を示している。装置は、マイクロ流体デバイス802内に流路形状の試料ホルダ801を備えており、ホルダ801は、試料を流入口803から流出口804へと流すように配置されている。流路801は、複数の細胞の個々に対して蛍光測定が行えるように、デバイス802内を複数の細胞が1つずつ通過できるような寸法であってもよい。流路の向かい合う壁には、各々が電圧源805に接続されている電極対を設けてもよい。
【0051】
装置800は2組の光源と光検出器を備えている。第1光源806aは、流路801の第1部分を照光する(励起)光を送出し、送出された光は二クロム反射板807aによって光ファイバー808a内に送られ、コリメータレンズ811aを通ってさらにレンズ812aを通り、流路801へと送られる。異なる波長を有する流路801からの蛍光発光光は、光ファイバー808aに沿って戻り、二クロム反射板を通過して、フィルタ810aを通って光検出器809aへと送られる。
【0052】
第2光源806bは、流路801の第1部分の下流にある第2部分を照光する光を送出し、送出された光はここでも二クロム反射板807bによって光ファイバー808b内に送られ、コリメータレンズ811bを通ってさらにレンズ812bを通り、流路801へと送られる。異なる波長を有する流路801からの蛍光光は、光ファイバー808bに沿って戻り、二クロム反射板を通過して、フィルタ810bを通って光検出器809bへと送られる。
【0053】
励起光は例えば405nmレーザーダイオードで供給してもよく、レーザービームは10~20μmのスポットでマイクロ流体デバイス802の流路801に集束してもよい。細胞が存在する場合、蛍光光が発せられ、励起光の光路を、ファイバーを通り光源に向かって戻るが、蛍光光は、反射して光源へと向かうのではなく、二クロム鏡を通過して光検出器809aへと向かう。同一の構成を2つ用いて、細胞が流路の第1部分を通過した時の蛍光発光と、次に同じ細胞が流路の第2部分を通過した時の蛍光発光とを比較できるようにすることによって、細胞の蛍光発光を定量化する。複数の細胞が流路内を通過する速度が分かれば、細胞単位で蛍光発光の相対的な変化の測定値を算出することが可能になる。各光検出器809a,809bは例えば光電子増倍管やアバランシェフォトダイオードであってもよい。
【0054】
電圧源805、光源806a,806b、及び検出器809a,809bには、コントローラ818が接続されており、電圧源805を制御して、デバイス802内を通過する試料に電圧信号が印加されている規定の時間にわたって検出器809a,809bから信号を取得するように構成されている。コントローラ808は、例えば、試料の一部が流路801の第1部分と第2部分の間を流れるのに要する時間に相当する時間間隔で、検出器809a,809bからの蛍光発光の連続読み取りデータを保存し、蛍光発光の変化に相当するこれらの読み取りデータの差を出力してもよい。
【0055】
図9は、試料内の複数の細胞の生命力を検出する方法を示す概略フローチャート図を示している。本方法は、複数の細胞と蛍光色素とを備えている試料を準備することで開始される(ステップ901)。試料、またはその一部を、電極対の間にある試験用空間内に配置する(ステップ902)。その後、電極対の間に電圧を印加して(ステップ903)、試験用空間内の試料の一部にわたって電界を発生させる。試験用空間を照光して(ステップ904)、電極間に電圧を印加してからの時間にわたって蛍光反応を測定する(ステップ905)。測定時間の間に蛍光反応が増加していれば、試料内の複数の細胞を生きているものとして検出する(ステップ906)。少なくともステップ903からステップ906は、適切にプログラミングされたコントローラによって自動化されて実行されてもよい。
【0056】
図10は試料内の複数の細胞の生命力を測定する装置例1000を図示している。試料は、移動ステージ1002に装着したホルダ1001内に収容されており、移動ステージ1002は、従来の顕微鏡の移動ステージと同様に、試料ホルダ1001をXY面内で二方向に動かすことができる。好ましくは、ステージ1002は、ホルダ1001に取り付けられた試料スライド(図示せず)が動くことで、スライド上の2つ以上の別々の位置で順次読み取りを実行できるようになっている。例示のスライド1501及びホルダ1001は図15に詳細に示されており、本例ではスライド1501には、試料を配置してもよい位置が3か所ある。スライド1501はホルダ1001内に挿入するものであり、PCBエッジコネクタ1503に取り付けるエッジ端子1502を有する電極レイアウトを備えている。
【0057】
再び図10を参照すると、装置1000は、レンズアセンブリ1003と画像センサ1004とを有している光学アセンブリ1010を備えていて、試料ホルダ1001に対してZ方向、つまり試料ホルダ1001が移動可能であるXY面に直行する方向に移動可能である。光学アセンブリ1010が移動することで、画像センサ1004が試料ホルダ1001内の試料上で集束することが可能になる。画像センサは、CMOS、CCD、または空間的な構成を持つ光入力からの電気信号を供給する他の種類のセンサで構成されていてもよい。コントローラ1005は、光学アセンブリ1010の一部であってもよいし、光学アセンブリ1010とは別個のものであってもよいが、マイクロコントローラと基板レベルのコンピュータを備えており、エッジコネクタ1503を通じて試料への電気刺激を制御し、画像センサ1004を制御して画像データを処理し、要求された出力信号を供給する。なおこの手法は上述したとおりであり、詳細は英国特許出願第1817435.9号に記載されていて、参照することにより本願に援用されている。コントローラ1005とのインターフェイスは、上述の構成要素をすべて収容している装置1000の筐体1007上にある画面1006を介して行われてもよい。画面1006は、使用者が装置を制御して細菌細胞数等のデータを表示することを可能にする、例えばタッチ画面であってもよい。
【0058】
図11は、ラテパンダ(Lattepanda)ミニコンピュータ1101といったコンピュータをベースにした、コントローラ1005のレイアウト例を示している。コンピュータ1101は、LCD画面出力1102及びタッチ画面入力1103を介してインターフェイスする。インターフェースボード1104によって、コンピュータ1101が光源1105に、そしてコネクタ1106を介して試料スライドに接続している。本例では光源1105は、複数の(例えば6個の)LEDで提供されている。信号発生回路1107は駆動信号をDAC1108に供給し、DAC1108は、信号を光源1105に、及び試料スライドの1つ以上の電極に選択的に、それぞれ出力する。
【0059】
試料を照光する光学アセンブリの例の詳細図を図12に示す。例えばLED等の光源1201は試料1202への入射光を出力し、入射光は試料1202に到達する前に、レンズ1203、フィルタ1204、及び光ガイド1205を通過する。試料からの光は、レンズアセンブリ1206を通って受信され、上述したように、レンズアセンブリ1206は画像センサへの入射光を集束させる。一般的な態様では、複数の細胞と蛍光色素とを備えた試料の試験用空間を、試料ホルダ面に対して斜めの角度で試料上に入射する光源1201からの光で照光する。入射光は、光ガイド1205を通って試料に誘導されてもよい。この構成の利点は、光源1201から発せられてレンズアセンブリに入射されるあらゆる迷光を低減または最小化することである。
【0060】
図13は試料スライドの電極レイアウト例を図示している。試料を配置するためのレイアウト上には、3つの領域1301a~1301cが設けられている。それぞれの領域は櫛型電極アレイを備えており、その詳細図を図14に示す。各電極軌道の幅が約0.07mmである電極アレイ内のピッチは、例えば約0.05mmであってもよい。
【0061】
他の実施形態は意図的に、添付の請求項で規定された本発明の範囲内にある。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15