(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】湛水管理装置
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
A01G25/00 501D
A01G25/00 501E
(21)【出願番号】P 2021011182
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】521040673
【氏名又は名称】株式会社イクセス
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】小川 智久
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-032858(JP,A)
【文献】特開2020-031627(JP,A)
【文献】特開平08-070716(JP,A)
【文献】特開2020-191786(JP,A)
【文献】特開平11-113431(JP,A)
【文献】特開平09-098678(JP,A)
【文献】特開平08-066129(JP,A)
【文献】特開2020-191892(JP,A)
【文献】特開2007-028959(JP,A)
【文献】特開2019-024401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00-29/00
E02B 13/02
E02B 7/20- 7/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用水路から水田に取水する既設の取水路に設置
される湛水管理装置本体、及び
前記水田の湛水水位を検出する水位センサを有する湛水管理装置であって、
前記湛水管理装置本体は、
取水口を有し、前記取水路に交差するように設置される本体プレートと、
前記本体プレートの前記用水路側の面に沿って配置され、前記取水口を開閉することが可能な遮蔽板と、
前記本体プレートの前記水田側の面に沿って配置され、弾性部材の付勢力によって前記取水路に形成されている堰板ガイド溝内に嵌入させ前記本体プレートの幅を実質的に拡幅することが可能な幅調整プレートと、
連結部材を介して前記遮蔽板を上下に移動させるモータと、
前記湛水管理装置の全体を制御する制御部と、
前記制御部に電力を供給するバッテリーと、
を有
し、
前記遮蔽板は、上方側が前記連結部材に軸支され、かつ下方側に設けられた案内部が前記本体プレートに立設された案内軸に係合し、前記案内軸に倣って上下方向に往復移動が可能に構成されている、
ことを特徴とする湛水管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の湛水管理装置において、
前記モータ及び前記制御部は制御ボックス内に収容されており、
前記制御ボックスには、前記制御ボックスを覆う保護カバーが取り付けられ、
前記制御ボックスと前記保護カバーとの間には外気と接続する隙間が形成されている、
ことを特徴とする湛水管理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の湛水管理装置において、
前記制御部は、前記取水口の開口高さを任意に調整することが可能な開口高さ調整操作手段、予め前記取水口の開口高さを任意に設定することが可能な開口高さ設定手段、複数の監視湛水水位を設定することが可能な監視モード設定手段、及び取水を休止し、かつ前記水位センサによる湛水水位の監視を休止する日数を設定することが可能な取水休止設定手段の少なくとも一つを有している、
ことを特徴とする湛水管理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の湛水管理装置において、
前記水位センサは複数のセンサ部を有し、
複数の前記センサ部の各々の前記水田の底からの高さ位置が、前記監視モード設定手段により設定される深水モード、浅水モード及び間断灌水モードの湛水水位に対応付けられている、
ことを特徴とする湛水管理装置。
【請求項5】
請求項3に記載の湛水管理装置において、
前記取水休止設定手段は、取水を休止する所定日数が経過した後、前記水位センサによる前記湛水水位の監視を開始するよう制御される、
ことを特徴とする湛水管理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の湛水管理装置において、
前記取水口を閉口する方向に前記遮蔽板の位置を移動させる際に、一旦、前記取水口を所定の開口高さまで開口した後、前記取水口を閉じていく動作に移行する工程を1回又は複数回繰り返すよう制御される、
ことを特徴とする湛水管理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の湛水管理装置において、
前記制御部は、前記モータに過電流が流れたことを検出する過電流検出手段を有し、
前記遮蔽板が前記取水口を閉口していく動作の途中で、前記モータに過電流が流れたことを検出したときには、所定開口高さまで前記取水口を開口した後、前記取水口を閉じていく動作に移行するように前記遮蔽板が制御される、
ことを特徴とする湛水管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湛水管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水田の水位は、稲の生長状況、天候(気温や降水量など)又は農薬の使用状況などに応じて適宜調整する必要がある。従来は、水源となる用水路から水田に用水を取り入れる取水路に水位調整用の堰板を取り付け、水田の水位(湛水状況)を観察しながら手動で堰板の開閉により取水量の調整を行うことが一般的であった。しかし、耕作者が堰板の配置場所に都度出向いて湛水管理を行うことは大きな負担となっていた。
【0003】
そのような負担を軽減するために、水位センサによって水田の湛水水位を検出し、その検出値に基づいてモータを制御し、堰板を上下に駆動することによって取水口を開閉して水位を調整する水田水位調整装置や止水機などの湛水管理装置が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-24401号公報
【文献】特開平9-248077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の湛水管理装置は、1本の支柱に制御ボックスを取り付け、支柱から水平に延在されたフレームの先端部にモータボックス及び堰板を取り付けている。このような構成においては、支柱はコンクリート基礎などで強固に立設する必要があり、設置場所に制約がある他、湛水管理装置を取水路から取り外すことや移設することが困難である。このような湛水管理装置は、設置工事を専門業者に依頼することになり設置費用が高価になるという課題もある。
【0006】
特許文献2の湛水管理装置においては、弁体(堰板に相当する板部材)によって取水口を開閉する手段としてラックとピニオンで構成されるギア機構を採用している。そのため、部品点数が多く、構成が複雑になることからコスト高になるという課題がある。また、耕作者によるメンテナンスも困難である。
【0007】
また、特許文献1及び特許文献2はともに、湛水管理が取水口の解放と閉鎖の2値であって、稲の生育状況や天候、農薬の使用状況などに対応した湛水管理をすることができないという課題がある。また、既設の取水路の幅は様々であるため、取水路の幅に対応するために幅調整プレートを有している。しかし、この幅調整板プレートは、本体プレートに対してネジで固定する構成であることから、ネジを外して幅調整を行い、その後ネジ固定をするために幅調整作業が面倒であり、幅調整作業中に取水路に対して隙間ができてしまうおそれがある。
【0008】
また、特許文献2においては、取水口に土砂やごみなどが詰まった場合には、モータを停止することによってモータに過負荷がかかることを防止している。しかし、土砂やごみなどの除去は人手に頼らざるを得ないという課題がある。
【0009】
そこで、本発明は、このような課題の少なくとも一つを解決するためになされたものであり、簡単な構造で取水路への設置やメンテナンスを容易に行うことができること、及び設置費用や装置コストを低減することが可能であり、取水口の詰まりを低減し、稲の生育状況や天候、農薬の使用状況などに応じた湛水管理を行うことが可能な湛水管理装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]本発明の湛水管理装置は、既設の取水路に設置する湛水管理装置本体、及び水田の湛水水位を検出する水位センサを有する湛水管理装置であって、前記湛水管理装置本体は、取水口を有し、前記取水路に交差するように設置される本体プレートと、前記本体プレートの前記用水路側の面に沿って配置され、前記取水口を開閉することが可能な遮蔽板と、前記本体プレートの前記水田側の面に沿って配置され、弾性部材の付勢力によって前記取水路に形成されている堰板ガイド溝内に嵌入させ前記本体プレートの幅を実質的に拡幅することが可能な幅調整プレートと、連結部材を介して前記遮蔽板を上下に移動させるモータと、前記湛水管理装置の全体を制御する制御部と、前記制御部に電力を供給するバッテリーと、を有していることを特徴とする。
【0011】
[2]本発明の湛水管理装置においては、前記遮蔽板は、上方側が前記連結部材に軸支され、かつ下方側に設けられた案内部が前記本体プレートに立設された案内軸に係合し、前記案内軸に倣って上下方向に往復移動が可能に構成されていることが好ましい。
【0012】
[3]本発明の湛水管理装置においては、前記モータ及び前記制御部は制御ボックス内に収容されており、前記制御ボックスには、前記制御ボックスを覆う保護カバーが取り付けられ、前記制御ボックスと前記保護カバーとの間には外気と接続する隙間が形成されていることが好ましい。
【0013】
[4]本発明の湛水管理装置においては、前記制御部は、前記取水口の開口高さを任意に調整することが可能な開口高さ調整操作手段、予め前記取水口の開口高さを任意に設定することが可能な開口高さ設定手段、複数の監視湛水水位を設定することが可能な監視モード設定手段、及び取水を休止し、かつ前記水位センサによる湛水水位の監視を休止する日数を設定することが可能な取水休止設定手段の少なくとも一つを有していることが好ましい。
【0014】
[5]本発明の湛水管理装置においては、前記水位センサは複数のセンサ部を有し、複数の前記センサ部の各々の水田の底からの高さ位置が、前記監視モード設定手段により設定される深水モード、浅水モード及び間断灌水モードの湛水水位に対応付けられていることが好ましい。
【0015】
[6]本発明の湛水管理装置においては、前記取水休止設定手段は、取水を休止する所定日数が経過した後、前記水位センサによる前記湛水水位の監視を開始するよう制御される、ことが好ましい。
【0016】
[7]本発明の湛水管理装置においては、前記取水口を閉口する方向に前記遮蔽板の位置を移動させる際に、一旦、前記取水口を所定の開口高さまで開口した後、前記取水口を閉じていく動作に移行する工程を1回又は複数回繰り返すよう制御されることが好ましい。
【0017】
[8]本発明の湛水管理装置においては、前記制御部は、前記モータに過電流が流れたことを検出する過電流検出手段を有し、前記遮蔽板が前記取水口を閉口していく動作の途中で、前記モータに過電流が流れたことを検出したときには、所定開口高さまで前記取水口を開口させた後、前記取水口を閉じていく動作に移行するように前記遮蔽板が制御されることが好ましい。
【0018】
[9]本発明の湛水管理装置においては、前記制御部は、前記取水口を所定位置まで開口する動作を所定回数繰り返しても前記過電流を検出する場合には前記モータを停止した後に、警告を発する警告手段をさらに有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
湛水管理装置は、水位センサ、本体プレート、遮蔽板、幅調整プレート、モータ、制御部及びバッテリーなど少ない構成部品、かつ簡単な構造で構成されている。また、既設の取水路の堰板ガイド溝に湛水管理装置本体を設置することが可能であり、水位センサは水田に設置される。そのために、湛水管理装置の取水路への設置を容易に行うことができ、設置費用や装置コストを低減することが可能となる。また、取水口を閉口する際に、一旦、取水口を開口することによって取水口に溜まっている土砂やごみなどを流すことができ、取水口の詰まりを低減することが可能となる。このように構成することによって、設置方法及びメンテナンスが簡単となり、耕作者が容易に取り扱うことができる湛水管理装置を提供することが可能となる。また、開口高さ調整操作手段、開口高さ設定手段、監視モード設定手段、及び取水休止設定手段などを有していることから、稲の生育状況や天候、農薬などの使用状況に対応した湛水管理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】湛水管理装置1の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】
図3のQ-Q切断線で切断した切断面を示す断面図である。
【
図3】遮蔽板11が取水口17を開閉する動作を説明する説明図である。
【
図4】下流側から見た幅調整プレート12,13の構成を示す正面図である
【
図5】制御部14の主要な構成を示すブロック図である。
【
図6】監視モード設定手段57の1例を説明する説明図である。
【
図7】湛水管理装置1の管理条件設定方法を示す工程図である。
【
図8】取水口17を詰まらせる土砂及びごみの除去方法を示す工程図である。
【
図9】適用例1に係る湛水管理装置本体2Aを上流側から見た正面図である。
【
図10】適用例2に係る幅調整部66を下流側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の湛水管理装置について
図1~
図10を参照して説明する。なお、以下に説明する各図においては、各部の寸法及び縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
【0022】
(湛水管理装置1の構成)
図1は、湛水管理装置1の概略構成を示す斜視図である。湛水管理装置1は、湛水管理装置本体2及び水田の湛水水位を検出する水位センサ3によって構成されている。湛水管理装置本体2は、用水路から水田に取水する既設の取水路4に設置される。取水路4は、いわゆるU字溝であって、取水路4として使用する場合には、堰板を配設するための堰板ガイド溝5が設けられている。湛水管理装置本体2は、その一部を堰板ガイド溝5に嵌入すれば取水路4に設置することができる。なお、以下に説明する図において、湛水管理装置本体2を挟んで取水路4の用水路側を上流側、水田側を下流側とする。水位センサ3は、水田に支柱6を垂直に突き刺すことによって設置することができる。なお、本例においては水位センサ3として電極式センサを採用しているが、電極式に限らず静電容量式、フロート式及び反射型超音波式などの水位センサを採用することができる。
【0023】
湛水管理装置本体2は、本体プレート10、本体プレート10の上流側の面10aに沿って配置される遮蔽板11、本体プレート10の下流側の面10bに沿って配置される幅調整プレート12,13、湛水管理装置1の全体を制御する制御部14(
図2、
図5参照)及び遮蔽板11を駆動するモータ15(
図2参照)などで構成されている。制御部14及びモータ15は、制御ボックス16内に収容される。制御部14及びモータ15は、本体プレート10の下流側の面10bに配置される。モータ15としては、サーボモータを使用している。但し、サーボモータに限らず、例えば、DCモータを適用することが可能であるが、その際、DCモータと回転検出器(ロータリーエンコーダなど)とを組み合わせて使用することが好ましい。なお、制御ボックス16は、保護カバー29によって覆われる(
図2参照)。
【0024】
本体プレート10の下方側には用水を水田に取水するための取水口17が設けられている。本体プレート10の上方側には、本体プレート10の下流側に配置されるモータ15と上流側に配置される遮蔽板11とを連結するための貫通孔18が設けられている。本体プレート10の取水口17より上方側には、遮蔽板11を幅方向の側面11a,11bを挟むように2本の案内軸19が立設されている。2本の案内軸19と側面11a,11bとの間には、遮蔽板11が上下方向に移動することが可能な範囲のクリアランスが設けられている。本体プレート10の下方側端面10cは、取水路4の底面4aに当接するように配置される。
図1において、本体プレート10の下方側端面10cは直線で表しているが、実際には取水路4の底面4aの形状に沿った形状に形成される。
【0025】
遮蔽板11は、モータ15の回転を遮蔽板11に伝達するための連結部材20(
図2、
図3参照)を軸支するための軸受21を有している。軸受21はベアリング軸受とすることがより好ましい。遮蔽板11の側面11a,11bは、上下方向に移動する際に本体プレート10に立設された2本の案内軸19によって幅方向の位置が規制される案内部となる。従って、側面11a,11bは平滑に仕上げられていることが好ましい。遮蔽板11を駆動するときには、軸受21が力点となり、2本の案内軸19が支点となる。遮蔽板11の動作については、
図3を参照して説明する。
【0026】
幅調整プレート12,13各々は、本体プレート10の下流側の面10bにおいて、取水路4の幅方向に移動可能に取り付けられている。幅調整プレート12,13を堰板ガイド溝5に嵌入することによって、湛水管理装置本体2を取水路4に設置することができる。幅調整プレート12,13の作用については、
図4を参照して説明する。なお、湛水管理装置本体2の厚み方向の構成については、
図2を参照して説明する。
【0027】
水位センサ3は、L字状に曲げられた6本のセンサ部L1,L2,L3,L4,L5,L6、センサ部L1~L6を支持するためのセンサ支持ボックス36、及びセンサ支持ボックス36を固定する支柱6で構成されている。センサ部L1~L6は、L字状に曲げられた先端部を高さ方向にずらして水平に配列される。最下部のセンサ部L1を水田の底E(
図6参照)に接触させたうえで、センサ部L2~L6の高さは任意に設定することが可能な構成としている。本例においては、センサ部L1とセンサ部L2は同じ高さにしている。センサ部L1~L6各々は、センサ支持ボックス36内において、支持板(図示は省略)に並列させて固定され、それぞれが配線37によって制御ボックス16内の制御部14(
図2参照)へ接続される。水位センサ3は、水田の取水路4から流れ込む用水の流れから外れた位置に設置される。センサ部L2~L6は、用水に接触している状態(電極ON状態)と、用水に接触していない状態(電極OFF状態)とを認識することによって湛水水位を検出する検出部である。
【0028】
センサ部L2が「ON」で、他のセンサ部が「OFF」であれば、水田の湛水が「0」に近い状態であることを認識できる。全てのセンサ部が「ON」であることを検出すれば、水田に十分に湛水されていることを認識することができる。例えば、センサ部L3が「ON」であって、センサ部L4が「OFF」であるとき、湛水水位はセンサ部L3とセンサ部L4との間にあると認識する。続いて、湛水管理装置本体2の厚み方向の構成について
図2を参照して説明する。
【0029】
図2は、
図3のQ-Q切断線で切断した切断面を示す断面図である。
図2は、遮蔽板11が取水口17を全閉した状態(止水した状態)を表している。本体プレート10の下方側端面10cは、取水路4の底面4aに当接している。遮蔽板11は、本体プレート10に立設された鍔部19bを有する2本の案内軸19によって幅方向が規制され、上下方向には移動することが可能に固定されている。遮蔽板11の上方側は、連結部材20に立設された軸部材22に軸受21を介して軸支されている。連結部材20は、本体プレート10の上方側の貫通孔18内に配置されている。連結部材20は、一方の端部がモータ軸23に固定され、他方の端部には軸部材22が立設されている。従って、モータ15の回転は連結部材20を介して遮蔽板11に伝達することが可能となっている。
【0030】
、
本体プレート10の下流側の面10bに沿う幅方向両側には、幅調整プレート12,13が配置されている。また、幅調整プレート12,13の間には、ガイドプレート24が本体プレート10の下流側の面10bに沿って配設されている(
図4参照)。幅調整プレート12,13は、ガイドプレート24を介して押え板25によって厚み方向の位置を規制され、押え板25を介して2本のネジ26によって本体プレート10に固定される。ガイドプレート24の厚みは幅調整プレート12,13の厚みより厚いため、幅調整プレート12,13は、厚み方向の位置が規制された状態で幅方向に移動することが可能となっている。湛水管理装置本体2は、幅調整プレート12,13を取水路4の堰板ガイド溝5に嵌入することによって、取水路4に設置することができる。幅調整プレート12,13の構成及び作用については
図4を参照して説明する。
【0031】
本体プレート10の上方で下流側の面10bには、固定プレート27及び回路基板28が固定されている。モータ15は固定プレート27に固定され、回路基板28には制御部14が固定されている。制御部14は、CPUをはじめ、開口高さ調整操作手段、開口高さ設定手段、監視モード設定手段、取水休止設定手段及びバッテリーなどで構成されている。制御部14の構成及び作用については
図5を参照して説明する。
【0032】
モータ15及び制御部14は、制御ボックス16内に収容される。なお、制御ボックス16の下流側の側面には開閉扉16bが設けられていて、開閉扉16bを開けて内部を視認したり、制御部14の制御条件を設定したりすることができるようになっている。本例においては、開閉扉16bを開けると湛水管理装置1の稼働を停止し、開閉扉16bを閉めると稼働を開始するよう構成されている。なお、湛水管理装置本体2には、制御ボックス16を含む上部を覆い、湛水管理装置本体2に対して着脱可能な保護カバー29が装着されている。保護カバー29には、ソーラーパネルSPが装着されている。なお、ソーラーパネルSPを使用しない構成も有る。
【0033】
保護カバー29は、制御部14及びモータ15など、主として電気系を風雨などから保護するために設けられる。開閉扉16bは保護カバー29を装着した状態で開閉を行うことができる。なお、制御ボックス16と保護カバー29との間には、外気と接続する隙間Gを有している。このことによって、風雨から制御ボックス16内を保護しつつ、直射日光により制御ボックス16内が過熱することを防止する。なお、保護カバー29は本体プレート10にネジ固定され、湛水管理装置本体2を持ち運びしたり、湛水管理装置本体2を取水路4に着脱したりし易くするための取手(図示は省略)が設けられている。ソーラーパネルSPの電極端子(図示は省略)は、制御ボックス16内の制御部14に接続される。続いて、遮蔽板11が取水口17を開閉する動作について
図3を参照して説明する。
【0034】
図3は、遮蔽板11が取水口17を開閉する動作を説明する説明図である。
図3は、上流側から見た湛水管理装置本体2の正面図である。
図2を参照しながら説明する。湛水管理装置本体2は、幅調整プレート12,13を取水路4の堰板ガイド溝5に嵌入することによって取水路4に取り付けられる。モータ15の回転は連結部材20及び軸部材22を介して遮蔽板11に伝達される。軸部材22が下方位置(下死点の付近)K1にあるとき、遮蔽板11は取水口17を全閉する。この状態の遮蔽板11を遮蔽板11Aと表す(
図3において実線で表している)。モータ15を時計回りに回転すると、連結部材20がモータ軸23を回転軸として時計回りに回転し、遮蔽板11を上方に引き上げる。遮蔽板11は、案内部としての左右の側面11a,11bが2本の案内軸19の軸部19aを摺動しながら上昇し、取水口17の開口高さを拡げていく。
【0035】
軸部材22が上方位置(上死点の付近)K2まで回転すると遮蔽板11は取水口17を全開する。この状態の遮蔽板11を遮蔽板11Bと表す(
図3において二点鎖線で表している)。軸部材22が、下方位置K1と上方位置K2との中間位置K3にあるとき、遮蔽板11は取水口17の約半分を開口する。この状態の遮蔽板11を遮蔽板11Cと表す(
図3において一点鎖線で表す)。なお、本例においては、遮蔽板11は、取水口17を高さ方向に開口していくため、取水口17の開口具合を開口高さと表す。モータ15を時計回りに回転すれば取水口17を開ける方向に遮蔽板11を移動させる。モータ15を反時計回りに回転すれば取水口17を閉口する方向に遮蔽板11を移動させる。本例においては、下方位置K1と上方位置K2は中心軸P上にある。なお、モータ15、連結部材20及び遮蔽板11をクランク構造で構成すれば、モータ15を360度正回転又は逆回転することによって、取水口17を開閉することができる。
【0036】
遮蔽板11は、案内軸19の鍔部19bによって、軸部19aとの係合が外れることはないように支持されている。また、遮蔽板11は、本体プレート10より上流側に配置されているため、水圧(流勢)によって本体プレート10の上流側の面10aに密接されるため、本体プレート10と遮蔽板11の間の漏水は極めて少ない。続いて、幅調整プレート12,13の構成及び作用について
図4を参照して説明する。
【0037】
図4は、下流側から見た幅調整プレート12,13の構成を示す正面図である。
図4は、幅調整プレート12,13を堰板ガイド溝5に嵌入した状態を表している。
図2を参照しながら説明する。本例においては、幅調整プレート12,13は中心軸(対象軸)Pに対して対称形である。本体プレート10の下流側の面10bの下方側には、十文字状のガイドプレート24が配置されている。ガイドプレート24は、図示左右方向に延出され、幅調整プレート12,13各々の左右方向の移動を案内するための案内部30,31、及び案内部30,31に対して直交し本体プレート10に固定するための固定部32,33を有している。ガイドプレート24の上方側の固定部32には、それぞれ左右方向に開口する溝24a,24bが形成され、下方側の固定部33には、それぞれ左右方向に開口する溝24c,24dが形成されている。
【0038】
幅調整プレート12には、ガイドプレート24の案内部30に勘合し厚み方向に貫通する案内溝12a、ガイドプレート24の溝24aに対向する溝12b、及びガイドプレート24の溝24cに対向する溝12cが形成されている。溝24aと溝12bとの間には、幅調整プレート12を図示右側の堰板ガイド溝5に嵌入する方向に付勢する弾性部材としてのコイルバネ34の先端部が嵌着されている。同様に、溝24cと溝12cとの間には、幅調整プレート12を図示右側の堰板ガイド溝5に嵌入する方向に付勢するコイルバネ34の先端部が嵌着されている。幅調整プレート12は、2本のコイルバネ34の付勢力によって図示右側に移動し堰板ガイド溝5内に嵌入される。
【0039】
一方、幅調整プレート13は、幅調整プレート12と同様に、ガイドプレート24の案内部31に勘合する厚み方向に貫通する案内溝13a、ガイドプレート24の溝24bに対向する溝13b、及びガイドプレート24の溝24dに対向する溝13cが形成されている。溝24bと溝13bとの間には、幅調整プレート12を取水路4の図示左側の堰板ガイド溝5に嵌入する方向に付勢する弾性部材としてのコイルバネ34の先端部が嵌着されている。同様に、溝24dと溝13cとの間には、幅調整プレート13を取水路4の図示左側の堰板ガイド溝5に嵌入する方向に付勢するコイルバネ34の先端部が嵌着されている。幅調整プレート13は、2本のコイルバネ34の付勢力によって図示左側の堰板ガイド溝5内に嵌入することが可能となっている。4本のコイルバネ34各々は、一端がガイドプレート24に嵌着され、他端が幅調整プレート12又は幅調整プレート13に嵌着される。
【0040】
幅調整プレート12,13は、押え板25によって本体プレート10に支持される(
図2参照)。幅調整プレート12,13、ガイドプレート24及びコイルバネ34は、本体プレート10の各所定位置に配置された後、ネジ26で本体プレート10に固定される押え板25によって本体プレート10との間に支持される。従って、湛水管理装置本体2を取水路4から取り外したときには、幅調整プレート12,13は、押え板25で厚み方向が規制された状態で、コイルバネ34によって幅方向が支持される。コイルバネ34の直径は、幅調整プレート12,13の厚みより小さいため、押え板25を固定しても伸縮動作に支障がない。
【0041】
次いで、湛水管理装置本体2の取水路4への設置方法及び取り外し方法について説明する。湛水管理装置本体2を取水路4に設置する際には、幅調整プレート12の外側側面12d及び幅調整プレート13の外側側面13dが取水路4のガイド溝5に入り込むことがでる幅になるまで幅調整プレート12,13を内側に押し縮め、堰板ガイド溝5に挿入する。内側への押し縮め力を解除すると、幅調整プレート12,13は、コイルバネ34の付勢力によって、堰板ガイド溝5に嵌着される。取水路4から湛水管理装置本体2を取水路4から取り外す際には、装着するときと同様に、幅調整プレート12の外側側面12d及び幅調整プレート13の外側側面13dが取水路4のガイド溝5から外せる幅になるまで幅調整プレート12,13を内側に押し縮め、湛水管理装置本体2を引き上げれば取水路4から取り外すことができる。
【0042】
なお、湛水管理装置本体2を取水路4に設置したとき、幅調整プレート12,13それぞれの外側側面12d,13dは、各々堰板ガイド溝5の右側底面5a及び左側底面5bに圧接するか、少なくとも堰板ガイド溝5内に納まる範囲に幅寸法が設定される。また、幅調整プレート12,13の下端面12e,13eは、取水路4の底面4aに当接する。なお、図示は省略するが、幅調整プレート12,13には、それぞれ下端面12e,13e及び外側側面12d、13dに漏水を抑制するためのシール部材を設けることが好ましい。続いて、制御部14の構成について
図5を参照して説明する。
【0043】
図5は、制御部14の主要な構成を示すブロック図である。制御部14は、湛水管理装置1全体の制御を担うCPU45を中心に、センサ部L1~L6のON/OFF信号を入力し湛水水位を認識するセンサ回路46、モータ15の駆動を制御するモータ制御回路47、ソーラーパネルSPの発電電力をバッテリー48に供給する充電回路49、及びバッテリー48から供給される電力を適切な電圧値及び電流値に制御してCPU45に供給する電源制御回路50を有している。バッテリー48としては、小型大容量のリチウムイオン電池を採用することが好ましい。制御部14は、モータ15に過電流が流れたことを検出する過電流検出手段である過電流検出回路53をさらに有している。過電流を検出したときには、制御部14は遮蔽板11(モータ15)の閉口動作を停止する。制御部14は、過電流を検出したときにはランプなどを点灯して警告する警告手段51を有している。警告手段51が視認可能なランプの場合、耕作者から視認可能な位置、例えば、制御ボックス16の表面またはポールなどに配設することが好ましい。警告手段51は、ランプ点灯以外に、通信手段を使用して耕作者が所有するスマートフォン、PC、タブレットなどの端末機に告知するようにすることが可能である。
【0044】
CPU45は、入力される各種信号を適切に処理する処理部、耕作者が設定する各種条件を入力するインターフェースとしてのフラッシュメモリ、及び制御プログラムを格納するメインメモリなどを有している。耕作者が各種条件を設定する設定手段としては、取水口17の開口高さを任意に調整することが可能な開口高さ調整操作手段55、予め取水口17の開口高さを任意に設定することが可能な開口高さ設定手段56、予め設定された湛水水位を水位センサ3と対応付けて監視する監視モード設定手段57、及び止水したうえで水位センサ3による湛水水位の監視を所定の日数だけ休止する取水休止設定手段58を有している。
【0045】
開口高さ調整操作手段55は、例えば、小型トグルスイッチなどであって、中立位置から一方にレバーを倒している間に取水口17を開ける方向に遮蔽板11を移動し、他方にレバーを倒している間に取水口17を閉める方向に遮蔽板11を移動する。すなわち、耕作者は湛水状況を見て、取水口17の開口高さを自在に調整することができる。開口高さ設定手段56は、例えば、ダイヤルスイッチ(ボリューム)であって、耕作者は、予め取水口17の開口高さを設定しておくことができる。すなわち、取水口17の全開状態の開口率を100%、全閉状態の開口率を0%としたとき、開口率を0%~100%まで無段階で設定することができる。つまり、本例の湛水管理装置1においては、予め設定された取水口17の開口率によって遮蔽板11の位置が規定され、以降説明する際に取水口17を開口するということは、この設定された開口率に取水口17を開口するということである。
【0046】
監視モード設定手段57は、例えば、深水モード、浅水モード及び間断灌水モードを予め設定された湛水水位とセンサ部L1~L6とを対応付ける手段であって、例えば、ダイヤルスイッチである。監視モード設定手段57の機能について
図6を参照して説明する。
【0047】
図6は、監視モード設定手段57の1例を説明する説明図である。
図6(a)は水位センサ3を示す側面図、
図6(b)は監視モード設定手段57の操作部である監視モード設定ダイヤル52を示す図、
図6(c)は間断灌水モードにおける取水口17の開閉の1例を示す図である。ここでは、監視モードとして深水モードM1、浅水モードM2、間断灌水モードM3を設定する例について説明する。なお、センサ部L1,L2は水田の底Eと同水位以下の水面に接触させる(湛水水位「0」を検出)。深水モードM1においては、センサ部L5がOFFしたときに取水口17を開口し、センサ部L6がONしたときに取水口17を閉口する。一般に、田植え後の初期管理として用水の保温効果を生かすためや、出穂期に十分な湛水が必要とされる時期に深水モードM1を選択する場合が多い。浅水モードM2においては、センサ部L3がOFFしたときに取水口17を開口し、センサ部L4がONしたときに取水口を閉口する。一般に、稲の分げつ(分けつともいう)期から中干し期まで有効分げつ数を確保するために水温を高くするために浅水モードM2を選択する。間断灌水モードM3においては、センサ部L2がOFFしたときに取水口17を開口し、センサ部L4がONしたときに取水口17を閉口する。一般に、稲の登熟期には根の活力を維持するために間断灌水モードM3を選択する。
【0048】
深水モードM1、浅水モードM2及び間断灌水モードM3において湛水水位レベルとセンサ部L1~L6の組み合わせで取水口17を開口させるか、閉口させるかを監視モード設定ダイヤル52を操作し予め選択する。耕作者は設定する各監視モードにおける湛水水位に対応してセンサ部L2~L6の高さを任意に調整することができる。例えば、深水モードM1において、湛水水位が5cmで取水口17を開口し、6cmで閉口する、浅水モードM2において、湛水水位が3cmで取水口17を開口し、4cmで閉口する、間断灌水モードM3において、湛水水位が0cmで取水口17を開口し、4cmで閉口する、というように湛水水位を任意に設定することが可能となる。耕作者は、監視モード設定ダイヤル52によって、深水モードM1にするか、浅水モードM2にするか、又は間断灌水モードM3にするかを設定する。次いで、
図6(c)を参照して間断灌水モードM3における取水方法について説明する。
【0049】
図6(c)に示すように、間断灌水モードM3は取水口17の開閉を間欠的に行うモードであって、湛水水位が0cmであることを検出すると取水口17を開口し、センサ部L4のONを検出してから取水口17を閉口する。取水口17を閉口すると、徐々に湛水水位が下がりセンサ部L2がOFFしたときに取水口17を開口することを、監視モードを切り替えるまで繰り返す。この取水パターンは任意に設定することが可能である。次に、取水休止設定手段に58について説明する。
【0050】
取水休止設定手段58はダイヤルスイッチであって、耕作者は予め取水休止日数を設定することが可能である。例えば、水田に除草剤、消毒剤及び肥料などの薬剤を散布したときには、湛水量を一定の範囲に維持することが望ましく、その際には取水口17を一定の日数を閉口(止水)する。例えば、耕作者は、取水休止設定手段58の操作部であるダイヤルスイッチによって、休止日数を3日、7日又は14日というように任意に選択する。休止設定をした時点から設定日数内においては、取水口17を閉口し、水位センサ3による湛水水位の監視を休止する。休止設定日数が経過した時点から水位センサ3によって湛水水位を検出し、予め選択されている取水口17の開口高さ(開口率)、及び湛水監視モードの条件下で湛水管理が行われる。
【0051】
(湛水管理装置1の管理条件設定方法)
図7は、湛水管理装置1の管理条件設定方法を示す工程図である。まず、開閉扉16bを開けて駆動条件を設定可能な状態にする(ステップS1)。次いで、開口高さ設定手段56によって取水口17の開口率を設定し(ステップS2)、監視モード設定手段57によって監視モード(深水モードM1、浅水モードM2及び間断灌水モードM3のいずれか)を設定する(ステップS3)。ステップS2とステップS3の順番は入れ替えてもよい。次いで、取水休止を設定するかを決める(ステップS4)。取水休止の設定をしない(NO)場合には開閉扉16bを閉める(ステップS5)。開閉扉16bを閉じると制御部14がON状態となり、予め設定された取水口17の開口率及び監視モードに従って水位センサ3による湛水管理を開始する(ステップS6)。
【0052】
ステップS4において、取水休止を設定する場合(YES)には、取水休止設定手段58によって、取水休止日数を設定し(ステップS7)、開閉扉16bを閉める(ステップS8)。或いは、ようにしてもよい。開閉扉16bを閉めると制御部14がON状態となり取水口17を閉口(止水)する(ステップS9)。例えば、開閉扉16bを閉めた後、最初に水位センサ3が湛水水位を検出するタイミングで自動的に取水口17を全閉する。または、取水休止日数を設定する際に開口高さ調整操作手段55によって取水口17を全閉するようにしてもよい。所定の取水休止日数が経過したところで(YES)、予め設定されている取水口17の開口率(開口高さ)及び監視モードの条件下で、水位センサ3による湛水管理を開始する(ステップS6)。設定された取水休止日数を経過していないとき(NO)には、取水休止日数に達するまで取水口17の全閉(止水)状態を継続する。設定された取水休止日数が経過した後、開閉扉16bを開けて、取水口17の開口率、監視モードの設定を切り替えるまでは、予め設定されている条件で湛水管理が続けられる。
【0053】
(土砂及びごみの除去方法)
従来の湛水管理装置においては、取水口に土砂やごみなどが詰まった場合には、モータを停止しモータに過負荷がかかることを防止しているが、土砂やごみなどの除去は人手に頼らざるを得なかった。本例の湛水管理装置1では、取水口17を閉口する方向に遮蔽板11の位置を移動させる際に、一旦、取水口を所定の開口高さまで開口した後、取水口17を閉じていく動作に移行する動作を1回又は複数回繰り返すことによって、土砂やごみなどを用水で流して除去する。この作用について
図8を参照して説明する。
【0054】
図8は、取水口17を詰まらせる土砂及びごみの除去方法を示す工程図である。制御部14は、水位センサ3による湛水水位の検出によって取水口17を閉口する方向に遮蔽板11を移動させる信号を出力する際に、遮蔽板11を一旦上方に移動させる信号を出力し取水口17を所定の開口高さまで開口する(ステップS20)。この所定の開口高さは予め任意に設定可能であるが、例えば、取水口17の全開高さに設定する。そして、開口状態を一定時間維持し(ステップS21)、一定時間経過後に取水口17の閉口動作を開始する(ステップS22)。ここで、一定時間とは1秒、3秒又は5秒というように予め任意に設定することが可能である。閉口動作中において、過電流検出回路53はモータ15に過負荷が生じたときに発生する過電流を検出している(ステップS23)。閉口動作中に過電流が検出されない(NO)場合には取水口17の閉口動作を継続し所定の開口高さ位置で遮蔽板11を停止させ、取水口17の閉口動作を終了する(ステップS24)。
【0055】
閉口動作中において、過電流を検出した場合(YES)には、取水口17に土砂やごみなどが堆積していると判断し、取水口17を開口するステップS20から過電流を検出するステップS23までの工程を1回又は複数回繰り返す。取水口17を開口することによって、取水口17に堆積した土砂やごみを用水の圧力(流勢)によって除去することが可能となる。例えば、この繰り返し回数を3回繰り返しても過電流が検出される場合には、土砂やごみを流水の圧力では除去が困難と判断し、警告手段51から警告を発する。
【0056】
以上説明した湛水管理装置1は、取水路4に設置する湛水管理装置本体2、及び水田の湛水水位を検出する水位センサ3を有する湛水管理装置である。湛水管理装置本体2は、取水口17を有し、取水路4に交差するように設置される本体プレート10と、本体プレート10の上流側(用水路側)の面10aに沿って配置され取水口17を開閉することが可能な遮蔽板11と、本体プレート10の下流側(水田側)の面10bに沿って配置され、弾性部材であるコイルバネ34の付勢力によって取水路4に形成されている堰板ガイド溝5内に嵌入させ本体プレート10の幅を実質的に拡幅することが可能な幅調整プレート12,13と、を有している。湛水管理装置1は、連結部材20を介して遮蔽板11を上下に移動させるモータ15と、湛水管理装置1の全体を制御する制御部14と、制御部14に電力を供給するバッテリー48と、をさらに有している。
【0057】
湛水管理装置1は、水位センサ3、本体プレート10、遮蔽板11、幅調整プレート12,13、モータ15、制御部14及びバッテリー48など少ない構成部品、かつ簡単な構造で構成されている。また、湛水管理装置1は、幅調整プレート12,13をコイルバネ34の付勢力を利用して既設の取水路4の堰板ガイド溝5に嵌入することによって耕作者自身が湛水管理装置本体2を取水路4設置したり、他の取水路に移設したりすることを容易に行うことが可能であり、装置コスト及び設置費用を低減することが可能となる。
【0058】
湛水管理装置1においては、遮蔽板11は、上方側が連結部材20に軸支され、かつ下方側に設けられた案内部である側面11a,11bが本体プレート10に立設された案内軸19,19に係合し、案内軸19,19に倣って上下方向に往復移動が可能に構成されている。
【0059】
モータ15を回転すると連結部材20を介して遮蔽板11の側面11a,11bを2本の案内軸19を摺動して移動させることが可能であり、簡単な構造で遮蔽板11による取水口17の開閉を行うことが可能となる。なお、遮蔽板11は本体プレート10の上流側に配置されていることから、用水の水圧(流勢)によって本体プレート10に密接し漏水を抑えることができる。
【0060】
湛水管理装置1においては、モータ15及び制御部14は制御ボックス16内に収容されており、制御ボックス16には、制御ボックス16を覆う保護カバー29が取り付けられ、制御ボックス16と保護カバー29との間には外気と接続する隙間Gが形成されている。
【0061】
保護カバー29を設けることによって、制御ボックス16内に収容されるモータ15及び制御部14が風雨に晒され機能不全になったり、劣化したりすることを防止することが可能となる。また、制御ボックス16と保護カバー29との間には外気と接続する隙間Gを設けているため、夏の炎天下であっても、制御部14が過熱状態となり誤動作することを防止できる。
【0062】
また、制御部14は、取水口17の開口高さを任意に調整することが可能な開口高さ調整操作手段55、予め取水口17の開口高さを任意に設定することが可能な開口高さ設定手段56、複数の監視湛水水位を設定することが可能な監視モード設定手段57、及び取水を休止し、かつ水位センサ3による湛水水位の監視を休止する取水休止日数を設定することが可能な取水休止設定手段58の少なくとも一つを有している。
【0063】
現地において、耕作者は開口高さ調整操作手段55を操作して、水位センサ3の湛水水位の検出に関わらず、取水口17の開口高さ位置を任意に調整することができる。また、開口高さ設定手段56により予め取水口17の開口高さ(開口率)を適宜設定しておくことによって、単位時間当たりの取水量(水田への流入量)を概ね一定に維持することが可能となる。また、監視モード設定手段57は、深水モードM1、浅水モードM2及び間断灌水モードM3と、水位センサ3(センサ部L1~L6)とを対応付けすることによって、稲の生育状況に応じた湛水水位を管理することが可能となる。また、取水休止設定手段58は、水田に除草剤、消毒剤などの薬剤を散布した際に、一定日数の間取水を休止することによって薬剤の効果を高めることが可能となる。
【0064】
また、湛水管理装置1においては、水位センサ3はセンサ部L1~L6を有し、センサ部L1~L6の各々の前記水田の底Eからの高さ位置が、監視モード設定手段により設定される深水モード、浅水モード及び間断灌水モードに対応付けられている。
【0065】
センサ部L1,L2は水田の底Eに接触するように配置される。他のセンサ部L3~L6は、水田の底Eからの高さ位置を深水モードM1、浅水モードM2及び間断灌水モードM3それぞれの所定の湛水水位に任意に対応付けて配置される。従って、各モードにおける湛水水位を適切に管理することが可能となる。
【0066】
また、取水休止設定手段58は、取水を休止する日数が経過した後、水位センサ3による湛水水位の監視を開始するよう制御される。つまり、設定された取水休止日数が終了した時点で、湛水管理装置1は、休止日数を設定する前に予め設定された遮蔽板11の開口高さ(開口率)及び監視モードの条件下で、水位センサ3による湛水水位の検出値に基づく取水量の管理を自動的に開始させることができる。
【0067】
湛水管理装置1は、取水口17を閉口する方向に遮蔽板11の位置を移動させる際に、一旦、取水口17を所定の開口高さまで開口した後、取水口17を閉じていく動作に移行する動作を1回又は複数回繰り返すよう制御される。取水口17を閉口する方向に遮蔽板11の位置を移動させる際に、取水口17に土砂やごみが堆積していて取水口17の閉口が妨げられる場合がある。そこで、一旦閉口動作の前に取水口17を開口させることによって、用水の圧力及び流勢によって取水口17に堆積した土砂やごみを除去することが可能となり、取水口17の詰まりを低減することが可能となり、メンテナンスのための労力を低減することが可能となる。
【0068】
また、制御部14は、モータ15に過電流が流れたことを検出する過電流検出手段である過電流検出回路53をさらに有し、遮蔽板11が取水口17を閉口していく動作の途中で、モータ15に過電流が流れたことを検出したときには、所定開口高さまで取水口17を開口した後、取水口17を閉じていく動作に移行するように遮蔽板11が制御される。
【0069】
取水口17を閉口していく動作の途中で遮蔽板11が土砂やごみに当たるとモータ15に過負荷がかかり過電流が流れる。そこで、過電流を検出したときには、遮蔽板11を所定開口高さ(例えば、全開高さ)まで開口させることによって、モータ15が過負荷によって損傷することを防止することができる。
【0070】
また、制御部14は、取水口17を所定位置まで開口する動作を所定回数繰り返しても過電流を検出する場合にはモータ15を停止した後に、警告を発する警告手段51をさらに有している。つまり、取水口17に堆積している土砂やごみを除去する動作を複数回繰り返しても過電流が検出された場合には、この動作では堆積物を除去できないと判断し、モータ15を停止したうえで耕作者に警告を発する。耕作者は、この警告を認識したところで現地において堆積物を除去することが可能となる。
【0071】
なお、上記湛水管理装置1は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に適用可能であり、以下に適用例として説明する。
【0072】
(適用例1)
図9は、適用例1に係る湛水管理装置本体2Aを上流側から見た正面図である。湛水管理装置本体2Aは、湛水管理装置本体2に対して、遮蔽板11に設けられる案内部及び本体プレート10に設けられる案内軸の構成のみが異なるため、湛水管理装置本体2との相違箇所を中心に説明する。遮蔽板11には、中心軸P上に案内部としての長孔65が設けられている。遮蔽板11は、長孔65において1本の案内軸19によって本体プレート10に移動可能に固定されている。案内軸19は段付き軸であって、軸部19aが長孔65に挿入され、鍔部19bによって遮蔽板11が本体プレート10に対して浮き上がらないように固定される。長孔65は、遮蔽板11が上下に移動することが可能な長さ及び幅を有している。
【0073】
モータ15、連結部材20及び軸部材22による遮蔽板11の連結構造並びに連結部材20の動作は湛水管理装置本体2と同じであるため説明は省略する。遮蔽板11は、案内軸19の軸部19aに倣って長孔65の形成範囲で連結部材20によって揺動しながら上下移動する。軸部材22が下方位置(下死点の付近)K1にあるとき遮蔽板11は取水口17を全閉する。この状態の遮蔽板11を遮蔽板11Aと表す。軸部材22が上方位置(上死点の付近)K2まで回転すると遮蔽板11は取水口17を全開する。この状態の遮蔽板11を遮蔽板11Bと表す。軸部材22が、下方位置K1と上方位置K2との中間位置K3にあるとき、遮蔽板11は取水口17の約半分を開口する。この状態の遮蔽板11を遮蔽板11Cと表す。なお、
図9において説明を省略した部分は、湛水管理装置本体2と同じであり、
図3と同じ符号を付している。
【0074】
適用例1に係る湛水管理装置本体2Aは、モータ15を回転すると連結部材20を介して遮蔽板11に形成された長孔65の形成範囲で移動可能であり、簡単な構造で遮蔽板11による取水口17の開閉を行うことが可能となる。
【0075】
(適用例2)
図10は、適用例2に係る幅調整部66を下流側から見た正面図である。なお、
図10は、湛水管理装置本体2Bを取水路4に設置した状態を表している。幅調整部66は、ガイドプレート67、幅調整プレート68、ガイドプレート67と幅調整プレート68とを連結する弾性部材である2本のコイルバネ34、及びこれらを本体プレート10に支持する押え板25で構成されている。ガイドプレート67は、幅調整プレート68に向かって延在される案内部69を有し、案内部69を挟んで両側にコイルバネ34の先端部を嵌着する溝67a,67bを有している。幅調整プレート68は、ガイドプレート67の案内部69に勘合し厚み方向に貫通する案内溝70、及び案内溝70を挟んで両側にコイルバネ34の先端部を嵌着する溝68a,68bを有している。幅調整プレート68は、2本のコイルバネ34によってガイドプレート67に連結されている。
【0076】
ガイドプレート67及び幅調整プレート68は、2本のコイルバネ34によって連結され、本体プレート10の所定位置に配置された後、押え板25を介して2本のネジ26によって本体プレート10に固定される。ガイドプレート67の厚みは幅調整プレート68の厚み及びコイルバネ34の直径より厚いため、幅調整プレート68は、厚み方向の位置が押え板25に規制された状態で幅方向に移動することが可能である。湛水管理装置本体2Bを取水路4に設置したとき、幅調整プレート68の外側側面68c及びガイドプレート67の外側側面67cは、それぞれ堰板ガイド溝5の左右の底面5a,5bを圧接するか、少なくとも堰板ガイド溝5内に納まる範囲に幅寸法が設定されている。なお、ガイドプレート67及び幅調整プレート68のそれぞれの下端面67d、68dは、取水路4の底面4aに当接する。
【0077】
適用例2に係る湛水管理装置本体2Bは、幅調整プレート68と本体プレート10に固定されたガイドプレート67の一部とをコイルバネ34の付勢力を利用して既設の取水路4の堰板ガイド溝5に嵌入することによって取水路4に取り付けることができる。従って、湛水管理装置本体2と同様に耕作者自身が湛水管理装置本体2Bを用水に設置したり、他の用水路に移設したりすることが可能となる。なお、図示は省略するが、ガイドプレート67及び幅調整プレート68には、それぞれ下端面67d,68d、及び外側側面67c、68cに漏水を抑制するためのシール部材を設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0078】
1…湛水管理装置、2,2A,2B…湛水管理装置本体、3…水位センサ、4…取水路、5…堰板ガイド溝、10…本体プレート、10a…上流側(用水路側)の面、10b…下流側(水田側)の面、11、11A,11B,11C…遮蔽板、11a,11b…側面(案内部)、12,13,68…幅調整プレート、14…制御部、15…モータ、16…制御ボックス、17…取水口、19…案内軸、20…連結部材、22…軸部材、24,67…ガイドプレート、25…押え板、29…保護カバー、34…コイルバネ(弾性部材)、48…バッテリー、51…警告手段、53…過電流検出回路(過電流検出手段)、55…開口高さ調整操作手段、56…開口高さ設定手段、57…監視モード設定手段、58…取水休止設定手段、65…長孔、66…幅調整部、E…水田の底、G…隙間、L1~L6…センサ部、P…中心軸、SP…ソーラーパネル、M1…深水モード、M2…浅水モード、M3…間断灌水モード