(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】洗剤を混入した乾燥ハイドロゲル粒子および高分子の濃縮と比活性の向上
(51)【国際特許分類】
G01N 1/40 20060101AFI20240909BHJP
B01D 15/34 20060101ALI20240909BHJP
B01J 20/24 20060101ALI20240909BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20240909BHJP
G01N 1/34 20060101ALI20240909BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
G01N1/40
B01D15/34
B01J20/24 B
B01J20/26 D
G01N1/34
G01N1/10 A
(21)【出願番号】P 2021530303
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 CN2019120118
(87)【国際公開番号】W WO2020108390
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】201811485330.9
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522394557
【氏名又は名称】福建省集力生物技術有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】黄志堅
(72)【発明者】
【氏名】羅旻
(72)【発明者】
【氏名】呂常慶
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-311506(JP,A)
【文献】特表2007-500008(JP,A)
【文献】特表2013-543110(JP,A)
【文献】米国特許第04555344(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/40
B01D 15/34
B01J 20/24
B01J 20/26
G01N 1/34
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子の質量濃縮またはタンパク質の比活性向上のための洗剤を混入した乾燥ハイドロゲル粒子であって、
粒子の架橋ネットワークの孔径は、高分子またはタンパク質のサイズよりも小さく、
前記洗剤は、前記粒子の網目の内部空間と網目の外面に分布し、
前記洗剤は、ポリソルベート-20
(商標)、ポリソルベート-40
(商標)、ポリソルベート-60
(商標)、ポリソルベート-80
(商標)、Brij-35
(登録商標)、Brij-58
(登録商標)、NP-40
(商標)、トリトンX-100
(登録商標)、トリトンX-114
(登録商標)、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、3-[3-(コラミドプロピル)ジメチルアミノ]プロパンスルホン酸内塩、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアミノ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸内塩、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシル硫酸ナトリウムから選択されることを特徴とする、粒子。
【請求項2】
前記粒子は、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリデキストラン、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、アガロース、ポリヒアルロン酸、ポリキチン、ポリアルギン酸、ポリアルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリペプチド、ポリプロテインから選択されるハイドロゲル;前記ハイドロゲルのモノマーの誘導体を重合して架橋した修飾ハイドロゲル;及び複数の前記ハイドロゲルのモノマーまたはポリマーの混合物を重合して架橋したハイブリッドハイドロゲルから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記洗剤の洗剤混入液における濃度は0.001~10%であることを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項4】
高分子液体試料の体積と請求項1~3に記載の粒子の質量を一定の比例で接触させ、前記粒子を膨潤させかつ前記高分子を排除し、前記高分子液体試料と前記粒子の混合体をろ過して遠心分離し、表面的に脱水したが内部の細孔が膨潤している前記粒子を除去し、前記粒子によって排除された前記高分子の濃縮ろ液を収集することを特徴とする、高分子質量濃縮の方法。
【請求項5】
前記高分子液体試料と前記粒子の混合体をろ過して遠心分離するステップは、円錐形のろ過膜ドラムで行われ、ここで、前記高分子液体試料と前記粒子の混合体を小口径の底部に連続的に供給し、表面的に脱水したが内部の細孔が膨潤している前記粒子を遠心力によって大口径方向に向かって連続的に上方へ移動させて振り出し、前記高分子の濃縮ろ液を前記ろ過膜ドラムのろ過膜から連続的に振り出して収集することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記高分子液体試料の接触膜によって隔離された余分な前記粒子は、定量的かつ制御可能に液体を吸収することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質液体試料の体積と請求項1~3に記載の粒子の質量を一定の比例で接触させ、前記粒子を膨潤させかつ前記タンパク質を排除し、そして、前記タンパク質液体試料と前記粒子の混合体をろ過して遠心分離し、表面的に脱水したが内部の細孔が膨潤している前記粒子を除去し、前記粒子によって排除された前記タンパク質の濃縮ろ液を収集することを特徴とする、タンパク質の比活性の向上方法。
【請求項8】
タンパク質液体試料の体積と請求項1~3に記載の粒子の質量を一定の比例で接触させ、前記粒子を膨潤させかつ前記タンパク質を排除し、そして、前記タンパク質液体試料と前記粒子の混合体をろ過して遠心分離し、表面的に脱水したが内部の細孔が膨潤している前記粒子を除去し、前記粒子によって排除された前記タンパク質の濃縮ろ液を収集することを特徴とする、結晶化または立体配座分析のためのタンパク質液体試料を処理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗剤を混入した乾燥ハイドロゲル粒子に関し、高分子の質量濃縮を高倍率かつ高回収率で実現し、タンパク質の比活性を高める。
【背景技術】
【0002】
本発明で言及される高分子は、多糖、核酸、タンパク質、およびそれらの個別成分または複合成分によって形成される、リボソーム、エクソソーム、エンドソーム、染色体、オルガネラなどの凝集体、並びにウイルスなどの天然の生体高分子または凝集体を含み、また、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ラテックス粒子、コロイド金などの水溶性合成高分子またはコロイドも含む。これらの高分子の液体試料を調製、修飾または分析する際には、濃度が低すぎるために濃縮する必要がある場合が多い。有機溶媒、pH、イオン濃度、水和競合剤や温度などの条件を制御することで引き起こす沈殿は、高分子の液体試料を濃縮する一般的な方法であるが、使い勝手が悪い、低濃度試料の沈殿効率が悪い、生体高分子の活性機能が失われるなど一連の問題がある。それに対し、圧力やナノスケールの孔径膜に基づく限外ろ過法を用いて高分子を濃縮することは、穏やかで、濃縮効率が濃度に依存しないという利点がある一方で、プロセスの遅れ、膜孔の目詰まりという問題がしばしばあり、また、タンパク質試料の場合、膜の局所的な濃度分極によって引き起こされる凝集や、圧力によって引き起こされる構造変化などの変性のリスクもある。
【0003】
本発明者らは、乾燥ハイドロゲル粒子が高分子液体試料中で水和により膨潤すると、その架橋された網目構造により、高分子を排除しながら水性溶媒や低分子溶質を網目内空間に自発的かつ迅速に入り込ませることができ、すなわち、高分子が網目外空間に濃縮され、ろ過や遠心分離による単純な固液分離により当該濃縮試料が容易に得られることを発見した(Analytical Biochemistry, 1984, 138, 451)。高分子液体試料の空間全体に均一に分布するハイドロゲルの網目表面積は、単層限外ろ過膜の面積よりもはるかに大きいため、ハイドロゲル濃縮は、限外ろ過法に存在している遅れ、膜の目詰まり、タンパク質膜の局所的な濃度分極によって引き起こされる凝集や、圧力によって引き起こされる変性などの問題をよく解決する。しかし、高倍率の濃縮を行う場合、膨潤したハイドロゲル粒子の体積が占める割合が比較的大きいため、その表面に比較的多くの高分子濃縮液が遮断され、回収率が著しく低下する。したがって、7倍以上濃縮する場合、ろ過遠心分離の際に遠心力の方向にろ過膜で遮断されるハイドロゲルの厚さをあまり大きくできないため、濃縮し得る高分子液体試料の体積が大幅に制限されている。
【0004】
ハイドロゲルと洗剤の混合体は、固定成形型または放出制御型の洗浄剤または香水剤を作るために使用されているが、本発明以前には、このような混合体を高分子の濃縮に使用した先行技術は報告されていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、洗剤を混入したハイドロゲル粒子を提供し、また、このハイドロゲルを乾燥した粒子に基づいて高分子液体試料の質量を高倍率かつ高回収率で濃縮する方法を提供し、さらに、この濃縮プロセスに伴うタンパク質液体試料の比活性を向上させる方法を提供する。架橋ネットワークの孔径が標的高分子のサイズよりも小さくなる、洗剤を混入した乾燥ハイドロゲル粒子を計量し、様々なサイズと体積の濃縮対象となる高分子水溶液と接触させ、ハイドロゲル粒子が高分子液中の液体および低分子溶質を吸収し、膨潤して架橋ネットワークから高分子を排除して濃縮液を形成し、さらに、ろ過遠心分離またはコニカル膜ドラムによる遠心分離によって当該ハイドロゲル粒子と高分子液体試料の混合物を分離し、表面的に脱水したが内部の細孔が膨潤しているハイドロゲル粒子を除去すると、ろ液がハイドロゲルから排除される標的高分子濃縮液となる。当該高分子がタンパク質である場合、上述の濃縮プロセスはさらに、当該タンパク質液体試料の比活性を高めるため、タンパク質の比活性を向上させる方法でもある。本発明は、既存の高分子濃縮技術の使い勝手が悪く、遅く、目詰まり、局所的な濃度が低く、分極しまたは活性機能が失われるなどの欠点を解消する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】膨潤したハイドロゲルと高分子濃縮液との混合物のろ過遠心分離を示す図である。
【
図2】濃縮された大体積の高分子液体試料の連続ろ過遠心分離を示す図である。
【
図3】液体試料の濃縮速度を制御するために、乾燥ハイドロゲル粒子と高分子液体試料を分割して接触および吸引することを示す図である。
【
図4】高分子を濃縮するための水平回転ヘッド型ろ過遠心分離法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
20種類以上のアミノ酸モノマーが交互に重合して形成されるタンパク質は、多様な一次配列構造とそれに対応する二次空間的立体配座を有する。これらの立体配座は、常にタンパク質の様々な特定の活性機能を発揮するために必要な構造基盤であるが、不安定であることが多く、時間的、物理的、化学的要因の作用下で変化し、対応する活性機能が失われやすく、これはタンパク質の変性現象と呼ばれる。
【0008】
ハイドロゲルは、化学的に共有結合または物理的に非共有結合の作用で互いに架橋された、親水性基を持つ3次元ポリマーネットワークを含み、その親水性基は当該ネットワーク内に水性溶媒または水溶液を封入することができる。一般的な天然または人工のハイドロゲルは、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリデキストラン、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、アガロース、ポリヒアルロン酸、ポリキチン、ポリアルギン酸、ポリアルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリペプチド、ポリプロテイン、上記ハイドロゲルモノマーの誘導体を重合して架橋した修飾ハイドロゲル、または複数の上記ハイドロゲルモノマーまたはポリマーの混合物を重合して架橋したハイブリッドハイドロゲルを含むが、これらに限定されない。
【0009】
ハイドロゲルは、モノマー溶液の重合や架橋反応または高分子ポリマー溶液の架橋反応による単相凝集によって調製することができ、さらに切断、洗浄、乾燥や研磨などの手順を行うと、粒子として調製することができ、これらの溶液の反応によって形成されたハイドロゲルが、液体全体を吸収するのに十分でない場合、このハイドロゲルは溶液から分離し、洗浄、乾燥、必要に応じて研磨などの手順をさらに行うと粒子として調製され、また、ハイドロゲル粒子は、分散した懸濁液の液滴中でのモノマー重合や架橋反応または高分子ポリマーの架橋反応を発生させた後、洗浄や乾燥などの工程を経て、直接調製することもできる。洗剤を混入する好ましい方法として、最終的に上記ハイドロゲル粒子を完全に水和させ、膨潤させ、一定の混入濃度の洗剤水溶液に懸濁させることができ、その後、好ましいろ過法によって過剰な洗剤溶液を排出し、得られた湿潤粒子を乾燥させることで、本発明に係る洗剤を混入したハイドロゲル乾燥粒子を得ることができる。生物科学の分野で一般的に使用されている洗剤は、タンパク質の活性に対する機能的な親和性のおおよその順序で、ポリソルベート-20、ポリソルベート-40、ポリソルベート-60、ポリソルベート-80、Brij-35、Brij-58、NP-40、トリトンX-100、トリトンX-114、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、3-[3-(コラミドプロピル)ジメチルアミノ]プロパンスルホン酸内塩、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアミノ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸内塩、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロマイドまたはドデシル硫酸ナトリウムを含むが、これらに限定されない。
【0010】
上記の乾燥ハイドロゲル粒子を高分子水溶液に比例的かつ定量的に投与すると、これらの粒子の巨大な表面に巻き付いた網目構造の親水性基が水溶液を誘導して吸入することが考えられ、当該網目構造が乾燥崩壊時に発生する歪み張力は、水溶液を吸入した空間の充填によって解放されるので、ハイドロゲル乾燥粒子の3次元網目空間による水溶液の吸収は、追加のエネルギー支援なしに自発的かつ迅速なプロセスである。ハイドロゲル架橋網目の孔径が標的高分子のサイズよりも小さい場合、その高分子は網目から排除され、網目の外側の水溶液とともに濃縮液を形成する。ハイドロゲルに対する洗剤の混入は、液体中のこれらの2つの成分の混合体から始まるため、洗剤はモノマーやマイクロクラスターの形態でハイドロゲル網目の内側または外側に分布することができ、余分な液体を除去してハイドロゲルを乾燥させた後、洗剤は網目の内部空間と網目の外面に分布すべきである。洗剤を混入した乾燥ハイドロゲル粒子が水溶液を吸収して高分子を濃縮すると、粒子の網目表面に局所的に分布する洗剤の濃度が十分に高くなり、粒子表面での高分子溶質の吸着を効果的に減少させることができ、また、粒子表面での網目外高分子濃縮液の張力を効果的に低下させることで、後述するようなろ過遠心分離による高分子濃縮液と粒子との間の効果的な対向的相分離を容易にする。したがって、洗剤の混入により、高分子濃縮液の溶質質量と溶液体積の回収率が向上し、つまり、溶質の総質量の回収率が向上される。注意すべきことに、ハイドロゲル網目の外側にある洗剤が、標的高分子との相互作用や濃縮液への拡散によって損失した場合でも、本来網目の内側にあった洗剤が拡散して消耗した洗剤を補充することで、標的高分子の回収率を向上させる機能を維持することができる。大体積の高分子液体試料を高倍率で濃縮し、つまり、下記のろ過遠心分離方法で遠心力方向に膨潤したハイドロゲル粒子の厚い層から体積比が非常に小さな濃縮液を回収する場合、その際、乾燥ハイドロゲル粒子への洗剤の混入は、高分子濃縮液の高分子溶質の総質量を効率的に回収するために特に顕著かつ重要な役割を果たしている。
【0011】
タンパク質液体試料には、通常、機能が活性化された立体配座、機能が可逆的に不活性化された中間立体配座、および機能が不可逆的に不活性化された立体配座にそれぞれ対応する緊密に折り畳まれた立体配座、可逆的に緩む中間立体配座および不可逆的に緩む立体配座が含まれていることが考えられる。タンパク質液体試料が、上記の活性機能が優しい洗剤を混入した乾燥ハイドロゲル粒子の濃縮プロセスを経ると、タンパク質分子表面の水和した水分子がハイドロゲル粒子の表面で迅速に吸収され、可逆的に緩む中間立体配座が脱水により収縮して、緊密に折り畳まれた立体配座に戻り、すなわち、機能活性を待たない中間立体配座成分が活性機能を持つ立体配座成分に変換され、これにより、当該タンパク質液体試料の総活性または比活性が向上し、タンパク質試料の活性機能立体配座を精製・濃縮することにも相当することが考えられる。乾燥ハイドロゲル粒子の濃縮プロセスにおけるタンパク質液体試料の活性機能が低下せずに向上することで、この試料処理は有益なものであり、また、タンパク質の立体配座の純度を高めることで、組成と立体配座が均一な分子間の共配置が必要な結晶化プロセス、および様々な構造分析に役立つ。
【0012】
ろ過遠心分離は、固液混合体を効率的に分離し、かつその液体を効率的に回収するための実証済みの方法であり、上記のハイドロゲル中の高分子の高倍率濃縮の際に生じる大量のハイドロゲル粒子と少量の濃縮液の混合体を分離するために特に適している。本発明では、従来の実験室または工業用ろ過遠心分離機を使用することができる。
図1に示すように、回転容器内で、膨潤したハイドロゲル粒子1と高分子濃縮液2の上記混合体は、共に矢印で示す方向の遠心力の作用下で、適切な孔径を含むろ過膜壁3に向かって移動し、適切な遠心分離の強度と時間の作用下で、表面的に脱水したハイドロゲル粒子4がろ過膜上で遮断され、濃縮液5は、ろ過膜孔から効率的に振り出されて収集される。
【0013】
工業規模のような大体積の液体試料の高分子濃縮には、技術的に実績のある連続式固液分離のためのろ過遠心分離システムを用いることで、ろ過膜に堆積する膨潤したハイドロゲル粒子を連続的に除去しながら高分子濃縮液を収集し、ハイドロゲル粒子がろ過膜に連続的に堆積して濃縮液が遮断され、標的高分子が損失することがないように保証することができる。推奨される簡単な連続作業システムとして、
図2に示すように、その主な部材はろ過孔を備えた円錐形ドラムである。ドラムが回転している間に、膨潤したハイドロゲル粒子と高分子濃縮液との混合物1は小口径の底部から連続的に供給され、矢印で示された方向の遠心力の作用を受けて、ろ過膜に遮断された表面的に脱水したハイドロゲル粒子2は、連続的に大口径の上方へ移動して振り出されるが、濃縮液3は、連続的にろ過膜4の孔から振り出され、濃縮液体5として回収される。以上のプロセスは、濃縮された大体積の高分子液体試料の供給、表面的に脱水したハイドロゲル粒子の除去、および濃縮液の収集という連続した作業を構成している。
【0014】
上記の高分子の濃縮倍数は、乾燥ハイドロゲル粒子の質量および濃縮される液体の体積の比例に応じて制御され、すなわち、液体試料に対するハイドロゲルの投入量が多いほど、濃縮倍数が大きくなる。一定の濃縮倍数および濃縮効果を得るために、異なる体積の濃縮される高分子液体試料に対して、異なる乾燥ハイドロゲル粒子を計量する必要がある。濃縮される高分子液体試料の体積が小さい場合、乾燥ハイドロゲル粒子を少量かつ正確に計量することは不便であり、すなわち、計量が少なすぎると、濃縮倍数が不十分になり、または計量が多すぎると、液体試料がすべて吸収されて回収できない状況になる。そのため、本発明では、
図3に示すように、過剰な乾燥ハイドロゲル粒子と濃縮される高分子液体試料を分割して接触および吸収するシステムを構築する。システムの一側は、湿っていない乾燥ハイドロゲル粒子1、膨潤したハイドロゲル粒子2、および高分子濃縮液3を含む過剰な乾燥ハイドロゲル粒子領域であり、他側は高分子液体試料4の供給領域であり、システムの底部には、膨潤したハイドロゲル粒子と膨潤していないハイドロゲル粒子を遮断するろ過膜5があり、本来相互に隔離された高分子液体試料と過剰な乾燥ハイドロゲル粒子は、システム底部の接触膜6を介して接触し、毛細管現象により左から右への吸引による液体の移動が起こる。接触膜6の孔径と密度は、過剰なハイドロゲル粒子が供給領域に入るのを防ぐが、高分子液体試料4が、効果的に回収するためにあまりにも早く吸収されることなく、過剰な乾燥ハイドロゲル粒子領域に順調に浸透できるように、適切に設定する必要がある。実際の応用では、吸収により高分子液体試料4が適当な程度に収縮されると、直ちに濃縮システム全体を遠心分離し、矢印で示す方向の遠心力で、膨潤したが表面的に脱水したハイドロゲル粒子7はろ過膜で遮断され、濃縮液8はろ過膜を通って収集される。注意すべきことに、接触膜6を通って供給領域に逆流して高分子液体試料4と混合する濃縮液3の一部が存在する可能性があるが、この混合体も最終的に遠心分離する際に濃縮液8に収集されるため、高分子全体を効率的に回収することができる。
【0015】
本発明の実質的な内容は、以下の実施例を含むが、これらに限定されない。詳細に記載されていない場合、実施例に係る原材料、設備や方法はいずれも、本分野の通常の購入ルール、開示された文献または従来技術から入手可能である。
【0016】
実施例1:好ましい条件
ハイドロゲル粒子の種類:調製の難易度、調製コストおよび標的高分子との相互作用に応じて、ハイドロゲル粒子の種類を選択する。ポリアクリルアミドとポリデキストランの2種類のハイドロゲル粒子は、調製が比較的容易で経済的であること、および高分子と相互作用しない不活性であることから好ましく選択され、ポリアクリル酸またはポリアクリル酸塩のハイドロゲル粒子は、調製が容易で経済的であることに加え、ゲル質量あたりの吸水量が大きいことから好ましいが、この場合、帯びる負の電荷と標的高分子との相互作用が濃縮プロセスや回収率に及ぼす影響を慎重に検討する必要がある。
混入する洗剤の種類と濃度:標的高分子とハイドロゲル粒子の相互作用の特性に応じて、最高の質量および活性機能回収率が得られるような混入する洗剤の種類を選択し、洗剤混入液の濃度範囲は0.001~10%である。多糖や核酸以外のタンパク質などの敏感な生体高分子、特に活性機能が立体配座に非常に敏感な酵素には、好ましくはポリソルベート系、Brij系、NP-40、トリトン系などのマイルドな非イオン性混入する洗剤を使用し、ポリソルベート系は、ほとんどの生体高分子の活性機能に悪影響を及ぼさず、また、これらの高分子の活性機能の喪失を引き起こす凝集をしばしば防ぐことができるので、特に好ましい。
【0017】
ハイドロゲル粒子の架橋ネットワークの孔径:この孔径は、通常、ハイドロゲル調製におけるモノマーまたはポリマーの濃度および架橋度と正の相関があるが、標的高分子のサイズよりも小さくなければならず、それに対し、標的高分子のサイズは、主にその分子量、基が配列した立体配座の緩さ、水和層の厚さなどに正の相関がある。
【0018】
ハイドロゲル粒子の粒径:粒径が小さすぎると、粒子の比表面積が大きくなりすぎて、標的高分子を吸着して高分子濃縮液を遮断するのが容易になるだけでなく、ろ過遠心分離膜の孔径もそれに応じて減少し、ろ過速度と効率が低下するが、粒径が大きすぎると、膨潤のプロセスが遅くなる。乾燥または膨潤したハイドロゲル粒子の粒径は、好ましくは1~5000ミクロン、さらに好ましくは5~1000ミクロンの範囲である。
【0019】
ろ過遠心分離膜の孔径と材料:ろ過膜の孔径は、乾燥または膨潤したハイドロゲル粒子を遮断するのに十分に小さくなければならない。しかし、孔径が小さすぎると、ろ過速度が低くなりすぎるが、孔径が大きすぎると、遠心分離の前に高分子濃縮液と膨潤したハイドロゲルの混合物を運ぶ際に、濃縮液が大きなろ過孔の孔径を通って逃げないようにする必要があるため、好ましくない。したがって、孔径は、好ましくは0.5~1000ミクロンの範囲である。ろ過膜は、高分子を吸着しないことが望ましく、親水性または疎水性の基材を使用することができる。一般的には、小孔径のろ過膜は、遠心力による液体の透過を促進するために、親水性の基材が好ましく、大孔径のろ過膜は、ろ過や遠心分離の前に液体試料を漏れなく運ぶために、撥水性を持つ疎水性の基材が好ましい。
【0020】
実施例2:単相重合による洗剤を混入した乾燥ポリアクリルアミドハイドロゲル粒子の調製
成分:アクリルアミド29g、N,N-メチレンビスアクリルアミド1g、脱イオン水100ml、過硫酸アンモニウム0.2g、テトラメチルエチレンジアミン40μl。
【0021】
ステップ:上記のアクリルアミド、N,N-メチレンビスアクリルアミドと過硫酸アンモニウムの固形物をビーカーの脱イオン水に溶解して均一に混合し、その後、テトラメチルエチレンジアミンを加え、重合反応が開始するとすぐに底面積が大きく内面が不活性な容器に注ぎ、約1時間静置して重合を完了させ、重合したゲルを切り分け、90°Cで乾燥させ、乾燥したブロック状のポリマーをパルベライザーで粉砕し、60~150の標的粒子を選別し、脱イオン水に注いで完全に膨潤させ、そして、250mlの脱イオン水で2回洗浄し、さらに好ましくは0.01~1%、特に好ましくは0.2%の濃度のポリソルベート-20脱イオン水溶液250mlで2回洗浄し、得られた湿潤粒子を90°Cで乾燥させた後、密閉して保存する。
【0022】
実施例3:逆相懸濁重合による洗剤を混入した乾燥ポリアクリルアミド粒子の調製
水相の調製:29gのアクリルアミド、1gのN,N-メチレンビスアクリルアミド、100mlの脱イオン水および0.2gの過硫酸アンモニウムを混合する。油相の調製:200mlのシクロヘキサンと3mlのスパン-80を均一に混合する。
【0023】
ステップ:機械的撹拌装置と球形コンデンサーチューブを備えた三口フラスコに油相を調製し、57℃に昇温させて、240rpmで撹拌し、ビーカーに水相を調製し、フラスコに加えて油相と混合し、撹拌中に水相を油相に分散させ、57℃で30分間保持し、その後、67℃まで昇温させ、系を発熱させて大量の還流を生じさせ、発熱が終わったら引き続き30分間保持し、続いて70℃まで昇温させ、30分間保持し、反応終了後、ブフナー漏斗で真空ろ過してシクロヘキサンを除去し、250mlの50%エタノール水溶液で3回洗浄し、次に250mlの脱イオン水で3回洗浄し、そして、好ましくは0.01~1%、特に好ましくは0.2%の濃度のポリソルベート-20脱イオン水溶液250mlで2回洗浄し、得られた湿潤粒子を90℃で乾燥させた後、密閉して保存する。
【0024】
実施例4:ウシ血清アルブミンの濃縮
図4に示すように、ステップ1では、実施例2または3で調製された洗剤を混入した乾燥ポリアクリルアミドハイドロゲル粒子を2g計量し、孔径20ミクロンのろ過膜と上部開口部に突出したキャッチを備えたプラスチックチューブに入れ、さらに、そのプラスチックチューブに、1mlあたり10~500μgの濃度でウシ血清アルブミン(図中の黒点)のpH7.4リン酸緩衝液を約12ml入れ、ステップ2では、ハイドロゲルとタンパク質溶液の混合体を5分間静置して、十分に水和・膨潤させ、ステップ3では、上記のプラスチックチューブを50mlの遠心分離管に嵌入し、3000 x gで3分間、水平回転ヘッドの細い矢印で示される円周方向に遠心分離し、ステップ4では、遠心分離スリーブの太い矢印で示される遠心力の方向に、約2mlのウシ血清アルブミン濃縮液を収集する。測定により、濃縮液タンパク質の質量回収率は90%以上であり、濃度は初期値の約6倍増加した。
【0025】
実施例5:ウシ血清アルブミン溶液の脱塩と緩衝液の交換
実施例4で得られたウシ血清アルブミン濃縮液に10mlの脱イオン水を加え、さらに実施例2または3で調製された洗剤を混入した乾燥ポリアクリルアミドハイドロゲル粒子を2g入れたろ過膜プラスチックチューブに入れ、実施例4に記載の静置水和と遠心分離作業を繰り返して2mlの濃縮液を得る。この濃縮液は、実施例4で得られた濃縮液と比較して、塩およびリン酸の緩衝液の強度を約83%低減する。上記の脱塩および緩衝液の交換作業を1回繰り返すと、脱塩および緩衝液の交換率はさらに約97%まで向上する。
【0026】
実施例6:アルカリホスファターゼの比活性の向上
ウシ血清アルブミン試料を1mlあたり20~200μgの濃度のウシ小腸アルカリホスファターゼのPH7.5トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液に置き換えた以外は、実施例4と同様に12mlの試料量の濃縮作業を行う。得られた濃縮液の定量的タンパク質測定による質量回収率は90%であるが、アルカリホスファターゼ活性測定による活性回収率は100%であるため、アルカリホスファターゼの比活性が約11%向上する。
【0027】
実施例7:尿タンパク質の濃縮
ヒトの尿に含まれる微量のタンパク質は、濃縮することでその濃度と対応する検出性を高めることができる。正常なヒトの尿に1mlあたり2μgの西洋ワサビペルオキシダーゼを混合したものをモデルタンパク尿試料とする。ウシ血清アルブミン試料を当該モデルタンパク尿試料に置き換えた以外は、実施例4と同様に12mlの試料量の濃縮作業を行う。最終的に得られた濃縮液に対して、西洋ワサビペルオキシダーゼ活性の測定を行ったところ、当該酵素タンパク質が約6倍濃縮され、回収率は95%以上であることがわかった。
【0028】
実施例8:培地に分泌されたM13ファージの濃縮
配列決定やファージ展示のためにターゲットファージを選別する必要があるため、大腸菌内で組み入れられた後に細胞外培地に分泌されるM13ファージを濃縮する必要がある。ポリエチレングリコール沈殿に基づく既存のM13濃縮法は、大量の培地または低力価での回収率が低く、低温で長時間の作業も必要である。改良方法として、ウシ血清アルブミン試料を培地に分泌されるM13ファージ試料に置き換えた以外は、本発明の実施例4と同様に12mlの試料量の濃縮作業を行う。最終的な力価測定の結果、M13ファージは約6倍濃縮され、回収率は約95%であった。