(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】リチウム2次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240909BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240909BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240909BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240909BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240909BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240909BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240909BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20240909BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20240909BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240909BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20240909BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/058
H01M10/0565
H01M10/0566
H01M4/134
H01M4/66 A
H01M50/44
H01M50/46
H01M50/457
H01M50/489
H01M50/491
(21)【出願番号】P 2022543264
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033590
(87)【国際公開番号】W WO2022038793
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/031096
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩
(72)【発明者】
【氏名】中野 雅継
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0379045(US,A1)
【文献】特表2015-519686(JP,A)
【文献】国際公開第2019/045399(WO,A2)
【文献】特開2021-150152(JP,A)
【文献】特開2021-089859(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0587
H01M 4/00-4/84
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極活物質を有しない負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されているセパレータと、
前記セパレータの前記負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層と、
電解液と、
を備え
、
前記緩衝機能層が、ファイバ状又は多孔質状の固体電解質又はゲル電解質であるイオン伝導層と、前記イオン伝導層を被覆する電気伝導層と、を備える、
リチウム2次電池。
【請求項2】
正極と、
負極活物質を有しない負極と、
前記正極と前記負極との間に配置され
、電解液を含む固体電解質と、
前記固体電解質の前記負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層と、
を備え
、
前記緩衝機能層が、ファイバ状又は多孔質状の固体電解質又はゲル電解質であるイオン伝導層と、前記イオン伝導層を被覆する電気伝導層と、を備える、
リチウム2次電池。
【請求項3】
前記緩衝機能層の空孔率が、70%以上95%以下である、請求項1又は2に記載のリチウム2次電池。
【請求項4】
前記緩衝機能層の厚さが、1μm以上100μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項5】
前記イオン伝導層が、ファイバ状である、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項6】
前記電気伝導層の平均厚さが、1nm以上300nm以下である、請求項5に記載のリチウム2次電池。
【請求項7】
前記リチウム2次電池は、リチウム金属が前記負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが電解溶出することによって充放電が行われるリチウム2次電池である、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項8】
前記負極は、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項9】
初期充電の前に、前記負極の表面にリチウム箔が形成されていない、請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項10】
エネルギー密度が350Wh/kg以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、安全性が高く、かつ多くの電気エネルギーを蓄えることができる蓄電デバイスとして、様々な2次電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間を金属イオンが移動することで充放電を行う2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られており、典型的には、リチウムイオン2次電池が知られている。典型的なリチウムイオン2次電池としては、正極及び負極にリチウムを保持することのできる活物質を導入し、正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうものが挙げられる。また、負極に活物質を用いない2次電池として、負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持するリチウム金属2次電池が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、室温で少なくとも1Cのレートでの放電時に、1000Wh/Lを越える体積エネルギー密度及び/又は350Wh/kgを越える質量エネルギー密度を有する、高エネルギー密度、高出力リチウム金属アノード2次電池が開示されている。特許文献1は、そのようなリチウム金属アノード2次電池を実現するため、極薄リチウム金属アノードを用いることを開示している。
【0005】
また、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、前記負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって前記正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム2次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-517722号公報
【文献】特表2019-537226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度及びサイクル特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、正極活物質及び負極活物質の間での金属イオンの授受によって充放電をおこなう典型的な2次電池は、エネルギー密度が十分でない。また、上記特許文献に記載されているような、負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持する従来のリチウム金属2次電池は、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライト状のリチウム金属が形成されやすく、短絡及び容量低下が生じやすい。その結果、サイクル特性が十分でない。
【0009】
また、リチウム金属2次電池において、リチウム金属析出時の離散的な成長を抑制するために、電池に大きな物理的圧力をかけて負極とセパレータとの界面を高圧に保つ方法も開発されている。しかしながら、そのような高圧の印加には大きな機械的機構が必要であるため、電池全体としては、重量及び体積が大きくなり、エネルギー密度が低下する。
【0010】
更に、従来のリチウム金属2次電池は、負極表面上にリチウム金属が析出することに起因して、充放電に伴うセル(電池全体)の体積変化が大きいという問題がある。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れ、かつ、充放電に伴うセルの体積変化が抑制されたリチウム2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極と、負極活物質を有しない負極と、上記正極と上記負極との間に配置されているセパレータと、上記セパレータの上記負極に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層と、を備える。
【0013】
そのようなリチウム2次電池は、負極活物質を有しない負極を備えることにより、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。また、緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状であるため、充電により負極上に析出するリチウム金属は、緩衝機能層の空孔を埋めるように析出することができ、充放電に伴うセルの体積変化が抑制される。更に、緩衝機能層がイオン伝導性及び電気伝導性を有するため、リチウム2次電池では、負極の表面上だけでなく、緩衝機能層の内部でもリチウム金属が析出することができるため、リチウム金属析出反応の反応場の表面積が増加し、リチウム金属析出反応の反応速度が緩やかになるように制御される。その結果、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制される。
【0014】
上記セパレータに代えて、固体電解質を用いてもよい。そのような態様によれば、リチウム2次電池を固体電池とすることができるため、一層安全性の高いリチウム2次電池とすることができる。
【0015】
上記緩衝機能層の空孔率は、好ましくは、70%以上95%以下である。そのような態様によれば、上述した緩衝機能層の効果が一層有効かつ確実に奏されるため、リチウム2次電池のサイクル特性及びエネルギー密度が一層向上する。
【0016】
上記緩衝機能層の厚さは、好ましくは、1μm以上100μm以下である。そのような態様によれば、上述した緩衝機能層の効果が一層有効かつ確実に奏されるため、リチウム2次電池のサイクル特性及びエネルギー密度が一層向上する。
【0017】
上記緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導層と、上記イオン伝導層を被覆する電気伝導層と、を備えるものであってもよい。そのような態様によれば、イオン伝導層におけるリチウムイオンが電気伝導層から供給される電子により還元反応を生じ、リチウム金属の析出を生じ、かつ、析出したリチウム金属は、電気伝導層に電子を放出することにより、イオン伝導層にリチウムイオンとして溶出する。
【0018】
上記電気伝導層の平均厚さは、好ましくは、1nm以上300nm以下である。そのような態様によれば、緩衝機能層の電気伝導性を一層適切に保つことができるため、リチウム2次電池のサイクル特性が一層向上する。
【0019】
上記リチウム2次電池は、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが溶解することによって充放電が行われるリチウム2次電池であってもよい。そのような態様によれば、エネルギー密度が一層高くなる。
【0020】
負極は、好ましくは、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。また、そのような負極は安定であるため、2次電池のサイクル特性は一層向上する。
【0021】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、初期充電の前に、上記負極の表面にリチウム箔が形成されていない。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。
【0022】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、エネルギー密度が350Wh/kg以上である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れ、かつ、充放電に伴うセルの体積変化が抑制されたリチウム2次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
【
図2】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の使用の概略断面図である。
【
図3】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池における緩衝機能層の概略断面図であり、(A)は緩衝機能層の一実施形態であるファイバ状の緩衝機能層を示し、(B)はファイバ状の緩衝機能層にリチウム金属が析出する析出態様を示し、(C)はファイバ状の緩衝機能層を構成する部材の一実施形態を示す。
【
図4】第2の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
[第1の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図1は、第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図1に示すように、第1の本実施形態のリチウム2次電池100は、正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されているセパレータ120と、セパレータ120の負極140に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層130と、を備える。正極110は、固体電解質410に対向する面とは反対側の面に正極集電体150を有する。
【0027】
(負極)
負極140は、負極活物質を有しないものである。負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池は、その負極活物質の存在に起因して、エネルギー密度を高めることが困難である。一方、本実施形態のリチウム2次電池100は負極活物質を有しない負極140を備えるため、そのような問題が生じない。すなわち、本実施形態のリチウム2次電池100は、リチウム金属が負極140上に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。
【0028】
なお、本実施形態において、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、特に断りがない限りにおいて、負極の表面、後述する緩衝機能層の固体部分の表面、並びに、負極及び/又は緩衝機能層の固体部分の表面に形成された固体電解質界面層(SEI層)の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。したがって、リチウム2次電池100において、リチウム金属は、例えば、負極140の表面(負極140と緩衝機能層130との界面)に析出してもよく、緩衝機能層130の内部(緩衝機能層の固体部分の表面)に析出してもよい。
【0029】
本明細書において、「負極活物質」とは、電池において電荷キャリアとなるリチウムイオン、又はリチウム金属(以下、「キャリア金属」ともいう。)を負極140に保持するための物質を意味し、キャリア金属のホスト物質と換言してもよい。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられ、典型的には、インターカレーションである。なお、負極活物質には、リチウム金属自身は含まれない。
【0030】
そのような負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、炭素系物質、金属酸化物、及び金属又は合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記金属又は合金としては、キャリア金属と合金化可能なものであれば特に限定されないが、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、ガリウム、及びこれらを含む合金が挙げられる。
【0031】
負極140としては、負極活物質を有さず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。なお、負極140にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと反応しない金属」とは、リチウム2次電池の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0032】
負極140は、好ましくはリチウムを含有しない電極である。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、リチウム2次電池100は、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。同様の観点及び負極140の安定性向上の観点から、その中でも、負極140は、より好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである。同様の観点から、負極140は、更に好ましくは、Cu、Ni、又はこれらからなる合金からなるものであり、特に好ましくはCu、又はNiからなるものである。
【0033】
本明細書において、「負極が負極活物質を有しない」とは、負極における負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であることを意味する。負極における負極活物質の含有量は、負極全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。なお、リチウム2次電池100が負極活物質を有しない負極を備えるということは、リチウム2次電池100が、一般的に用いられる意味でのアノードフリー2次電池、ゼロアノード2次電池、又はアノードレス2次電池であることを意味する。
【0034】
なお、典型的なリチウムイオン2次電池において、負極が有する負極活物質の容量は、正極の容量と同程度となるように設定される。一方、リチウム2次電池100は、負極140とセパレータ120との間に緩衝機能層130を有し、当該緩衝機能層は、リチウムと反応し得る金属を含み得るものの、その容量は正極と比較して十分小さいため、リチウム2次電池100は、「負極活物質を有しない負極を備える」ということができる。
【0035】
負極140及び緩衝機能層130の容量の合計は、正極110の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下であってもよい。なお、正極110、負極140、及び緩衝機能層130の各容量は、従来公知の方法により測定することができる。
【0036】
負極140の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における負極140の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0037】
(正極)
正極110としては、一般的にリチウム2次電池に用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム2次電池の用途及びキャリア金属の種類によって、公知の材料を適宜選択することができる。リチウム2次電池の安定性及び出力電圧を高める観点から、正極110は、好ましくは正極活物質を有する。
【0038】
本明細書において、「正極活物質」とは、リチウム元素(典型的には、リチウムイオン)を正極110に保持するための物質を意味し、リチウムイオンのホスト物質と換言してもよい。
【0039】
そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。典型的な正極活物質としては、LiCoO2、LiNixCoyMnzO(x+y+z=1)、LiNixMnyO(x+y=1)、LiNiO2、LiMn2O4、LiFePO、LiCoPO、LiFeOF、LiNiOF、及びTiS2が挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0040】
正極110は、上記の正極活物質以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の導電助剤、バインダー、固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質が挙げられる。
【0041】
正極110における導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CF)、及びアセチレンブラック等が挙げられる。また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0042】
正極110における、正極活物質の含有量は、正極110全体に対して、例えば、50質量%以上100質量%以下であってもよい。導電助剤の含有量は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよい。バインダーの含有量は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質の含有量の合計は、正極110全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。
【0043】
(正極集電体)
正極110の片側には、正極集電体150が形成されている。正極集電体150は、電池においてリチウムイオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。そのような正極集電体としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0044】
正極集電体150の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における正極集電体150の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0045】
(セパレータ)
セパレータ120は、正極110と負極140とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極110と負極140との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材であり、電子導電性を有さず、リチウムイオンと反応しない材料により構成される。また、セパレータ120は当該電解液を保持する役割も担う。セパレータ120は、上記役割を担う限りにおいて限定はないが、例えば、多孔質のポリエチレン(PE)膜、ポリプロピレン(PP)膜、又はこれらの積層構造により構成される。
【0046】
セパレータ120は、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータ120の両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、イオン伝導性を有し、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータ120と、セパレータ120に隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。なお、セパレータ120は、セパレータ被覆層を有するセパレータを包含するものである。
【0047】
セパレータ120の平均厚さは、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは35μm以下であり、更に好ましくは30μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100におけるセパレータ120の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータ120の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極110と負極140とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0048】
(緩衝機能層)
緩衝機能層130は、セパレータ120の負極140に対向する表面に形成され、また、緩衝機能層130は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する。本実施形態において、緩衝機能層130は、セパレータ120及び負極140の間に配置されているため、リチウム2次電池100を充電すると、緩衝機能層130の表面、及び/又は内部において、負極140からの電子と、セパレータ120及び/又は電解液からのリチウムイオンとが供給される。ここで、緩衝機能層130は、ファイバ状又は多孔質状であるため、イオン伝導性及び電気伝導性を有する固体部分と、該固体部分の隙間により構成される空孔部分を有する。したがって、緩衝機能層130では、上述のようにして供給される電子及びリチウムイオンが、緩衝機能層の内部である、上記固体部分の表面において反応し、上記空孔部分にリチウム金属が析出する。なお、本明細書においいて、緩衝機能層における「固体部分」とは、ゲルのような半固体を含むものとする。
【0049】
従来のリチウム2次電池では、リチウム金属が析出する場が負極表面に限られているため、リチウム金属の成長方向が負極表面からセパレータ方向に限られ、リチウム金属がデンドライト状に成長する傾向にある。一方、本実施形態のリチウム2次電池100のように緩衝機能層を備えるリチウム2次電池では、上述の通り、負極表面だけでなく、緩衝機能層の固体部分の表面においてもリチウム金属が析出することができるため、リチウム金属析出反応の反応場の表面積が増加する。その結果、リチウム2次電池100では、リチウム金属析出反応の反応速度が緩やかに制御されるため、リチウム金属の異方的な成長、すなわち、デンドライト状に成長したリチウム金属の形成が抑制され、サイクル特性が優れると推察される。ただし、リチウム2次電池100がサイクル特性に優れる要因は上記に限られない。
【0050】
また、上記のとおり、本実施形態のリチウム2次電池100において、リチウム金属は負極の表面に析出するだけでなく、緩衝機能層130の空孔部分を埋めるように、緩衝機能層の固体部分の表面にも析出する。したがって、緩衝機能層130は、リチウム2次電池100において、充放電に伴う電池の体積膨張を緩和する緩衝層(バッファ層)として機能する。すなわち、緩衝機能層を有しない従来のリチウム2次電池は、充電により負極表面にリチウム金属が析出するため、充電前の電池に比べて、充電後の電池は、セル体積が膨張する一方、本実施形態のリチウム2次電池100は、負極表面だけでなく、緩衝機能層130の空孔部分にもリチウム金属が析出するため、充電による電池のセル体積の膨張を抑制することができる。したがって、本実施形態のリチウム2次電池は、特に、許容可能な体積膨張率が低い電池(例えば、小型電子端末等用電池等)用途として有用である。
【0051】
緩衝機能層130としては、ファイバ状又は多孔質状であり、イオン伝導性及び電気伝導性を有するものであれば特に限定されない。緩衝機能層の非限定的な例示としては、例えば、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導層の表面の全部又は一部に、電気伝導層を被覆したもの;ファイバ状又は多孔質状の電気伝導層の表面の全部又は一部に、イオン伝導層を被覆したもの;並びに、ファイバ状のイオン伝導層と、ファイバ状の電気伝導層とを交絡させたもの等が挙げられる。
【0052】
イオン伝導層としては、イオンを伝導することができるものである限り限定されないが、例えば、無機又は有機塩を含む固体電解質又は疑似固体電解質(以下、「ゲル電解質」ともいう。)等が挙げられる。
【0053】
固体電解質及びゲル電解質としては、一般的にリチウム2次電池に用いられるものであれば特に限定されず、公知の材料を適宜選択することができる。固体電解質又はゲル電解質を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)のような主鎖及び/又は側鎖にエチレンオキサイドユニットを有する樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、及びポリテトラフロロエチレン等が挙げられる。上記のような樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0054】
固体電解質又はゲル電解質に含まれる塩としては、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF3CF3)2、LiB(O2C2H4)2、LiB(C2O4)2、LiB(O2C2H4)F2、LiB(OCOCF3)4、LiNO3、及びLi2SO4等が挙げられる。上記のような塩、又はリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0055】
固体電解質又はゲル電解質における樹脂とリチウム塩との含有量比は、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子の比([Li]/[O])によって定めてもよい。固体電解質又はゲル電解質において、樹脂とリチウム塩との含有量比は、上記比([Li]/[O])が、例えば、0.02以上0.20以下、0.03以上0.15以下、又は0.04以上0.12以下になるように調整してもよい。
【0056】
固体電解質又はゲル電解質は、樹脂及び塩以外に、リチウム2次電池100が含み得る電解液を含んでいてもよい。
【0057】
電気伝導層としては、電子を伝導することができるものである限り限定されないが、例えば、金属膜、及び多孔質金属層が挙げられる。電気伝導層に含まれ得る金属の非限定的な例示としては、例えば、SUS、Si、Sn、Sb、Al、Ni、Cu、Sn、Bi、Ag、Au、Pt、Pb、Zn、In、Bi-Sn、及びIn-Sn等が挙げられる。電気伝導層に含まれる金属としては、Cu、及びNiが好ましい。電気伝導層において、上記の金属は、1種を単独で、又は、2種以上の合金として含まれていてもよい。
【0058】
緩衝機能層130の一実施形態として、ファイバ状の緩衝機能層が挙げられる。
図3(A)にファイバ状の緩衝機能層の概略断面図を示す。
図3(A)に示す緩衝機能層130は、イオン伝導性及び電気伝導性を有するファイバである、イオン電気伝導ファイバ310からなる。すなわち、本実施形態において、「緩衝機能層がファイバ状である」とは、緩衝機能層がファイバを含むか、あるいは、ファイバにより構成されていることで、固体部分と、該固体部分の隙間により構成される空孔部分を有することを意味する。
【0059】
図3(A)に示す緩衝機能層130を有するリチウム2次電池を充電すると、緩衝機能層の固体部分の表面、すなわち、イオン電気伝導ファイバ310の表面に、リチウム金属が析出する。したがって、そのような態様によれば、
図3(B)にその概略断面図を示すように、緩衝機能層の固体部分であるイオン電気伝導ファイバ310の表面に、緩衝機能層の空孔部分を埋めるように、リチウム金属320が析出する。
【0060】
イオン電気伝導ファイバ310の一実施形態を、
図3(C)に概略断面図として示す。
図3(C)に示すように、一実施形態において、イオン電気伝導ファイバ310は、ファイバ状のイオン伝導層330と、イオン伝導層330の表面を被覆する電気伝導層340とを備える。そのような態様によれば、イオン伝導層330におけるリチウムイオンが電気伝導層340から供給される電子により還元反応を生じ、リチウム金属の析出を生じると推察される。また、当該析出したリチウム金属は、電気伝導層340に電子を放出することにより、イオン伝導層330又は電解液にリチウムイオンとして溶出すると推察される。
イオン伝導層330は、例えばイオン伝導層として上述したような構成を備え、電気伝導層340は、例えば電気伝導層として上述したような構成を備えていてもよい。
【0061】
ファイバ状のイオン伝導層330のファイバ平均直径は、好ましくは20nm以上5000nm以下であり、より好ましくは30nm以上2000nm以下であり、更に好ましくは40nm以上1000nm以下であり、更により好ましくは50nm以上500nm以下である。イオン伝導層のファイバ平均直径が上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層適切な範囲となるため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0062】
電気伝導層340の平均厚さは、好ましくは1nm以上300nm以下であり、より好ましくは5nm以上250nm以下であり、更に好ましくは10nm以上200nm以下である。電気伝導層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、イオン電気伝導ファイバ310の電気伝導性を一層適切に保つことができるため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0063】
別の実施形態において、
図1に示すリチウム2次電池100の緩衝機能層130は、多孔質状であってもよい。多孔質状の緩衝機能層は、例えば、多孔質状、特に連通孔を有するイオン伝導層と、イオン伝導層の表面を被覆する電気伝導層とを備えるものであってもよい。
【0064】
緩衝機能層は、ファイバ状又は多孔質状であるため、空孔を有する。緩衝機能層の空孔率は、特に限定されないが、体積%で、50%以上であってもよく、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、更に好ましくは80%以上である。緩衝機能層の空孔率が上記の好ましい範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層上昇するため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。また、そのような態様によれば、セル体積膨張を抑制する効果が一層有効かつ確実に奏される傾向にある。緩衝機能層の空孔率は、特に限定されないが、体積%で、99%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよい。
【0065】
緩衝機能層の平均厚さは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、更に、好ましくは30μm以下である。緩衝機能層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池100における緩衝機能層130の占める体積が減少するため、電池のエネルギー密度が一層向上する。また、緩衝機能層の平均厚さは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは4μm以上であり、更に、好ましくは7μm以上である。緩衝機能層の平均厚さが上記の範囲内にあることにより、リチウム金属が析出できる反応場の表面積が一層上昇するため、サイクル特性が一層向上する傾向にある。また、そのような態様によれば、セル体積膨張を抑制する効果が一層有効かつ確実に奏される傾向にある。
【0066】
ファイバ状のイオン伝導層のファイバ直径、電気伝導層の厚さ、緩衝機能層の空孔率、及び緩衝機能層の厚さは、公知の測定方法により測定することができる。例えば、緩衝機能層の厚さは、緩衝機能層の表面を集束イオンビーム(FIB)でエッチングして、その断面を露出させ、露出した切断面における緩衝機能層の厚さをSEM又はTEMにより観察することにより測定することができる。
【0067】
ファイバ状のイオン伝導層のファイバ直径、電気伝導層の厚さ、及び緩衝機能層の空孔率は、透過型電子顕微鏡で緩衝機能層の表面を観察することにより測定することができる。なお、緩衝機能層の空孔率は、画像解析ソフトを用いて、緩衝機能層の表面の観察画像を2値解析し、画像の総面積に対して緩衝機能層が占める割合を求めることで算出すればよい。
【0068】
上記の各測定値は3回以上、好ましくは10回以上測定した測定値の平均を求めることにより算出される。
【0069】
なお、緩衝機能層がリチウムと反応し得る金属を含む場合、負極140及び緩衝機能層130の容量の合計は、正極110の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下であってもよい。
【0070】
(電解液)
リチウム2次電池100は、電解液を有していてもよい。電解液は、セパレータ120に浸潤させてもよく、リチウム2次電池100と共に電解液を封入したものを完成品としてもよい。電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、電解液を有するリチウム2次電池100は、内部抵抗が一層低下し、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層向上する。
【0071】
電解質は、塩であれば特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。電解質としては、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF3CF3)2、LiB(O2C2H4)2、LiB(O2C2H4)F2、LiB(OCOCF3)4、LiNO3、及びLi2SO4等が挙げられる。リチウム2次電池100のエネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層優れる観点から、リチウム塩は、LiN(SO2F)2が好ましい。なお、上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0072】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フロロエチレンカーボネート、ジフロロエチレンカーボネート、トリフロロメチルプロピレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ノナフロロブチルメチルエーテル、ノナフロロブチルエチルーテル、テトラフロロエチルテトラフロロプロピルエーテル、リン酸トリメチル、及びリン酸トリエチルが挙げられる。上記の溶媒は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0073】
(リチウム2次電池の使用)
図2に本実施形態のリチウム2次電池の1つの使用態様を示す。リチウム2次電池200は、リチウム2次電池100において、正極集電体150及び負極140に、リチウム2次電池を外部回路に接続するための正極端子220及び負極端子210がそれぞれ接合されている。リチウム2次電池200は、負極端子210を外部回路の一端に、正極端子220を外部回路のもう一端に接続することにより充放電される。
【0074】
リチウム2次電池200は、初期充電により、負極140の表面(負極140と緩衝機能層130との界面)に固体電解質界面層(SEI層)が形成されていてもよい。あるいは、SEI層は、形成されていなくてもよく、緩衝機能層130の固体部分の表面に形成されていてもよい。形成されるSEI層としては、特に限定されないが、例えば、リチウムを含む無機化合物、及びリチウムを含む有機化合物等を含んでいてもよい。SEI層の典型的な平均厚さとしては、1nm以上10μm以下である。
【0075】
正極端子220及び負極端子210の間に、負極端子210から外部回路を通り正極端子220へと電流が流れるような電圧を印加することでリチウム2次電池200が充電される。リチウム2次電池200を充電することにより、負極上にリチウム金属の析出が生じる。なお、当該リチウム金属の析出は、負極140の表面(負極140と緩衝機能層130との界面)、及び緩衝機能層130の内部(緩衝機能層130の固体部分の表面)の少なくとも1箇所に生じる。
【0076】
充電後のリチウム2次電池200について、正極端子220及び負極端子210を接続するとリチウム2次電池200が放電される。これにより、負極表面に生じたリチウム金属の析出が電解溶出する。
【0077】
(リチウム2次電池の製造方法)
図1に示すようなリチウム2次電池100の製造方法としては、上述の構成を備えるリチウム2次電池を製造することができる方法であれば特に限定されないが、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0078】
まず、正極110を公知の製造方法により、又は市販のものを購入することにより準備する。正極110は例えば以下のようにして製造する。上述した正極活物質、公知の導電助剤、及び公知のバインダーを混合し、正極混合物を得る。その配合比は、例えば、上記正極混合物全体に対して、正極活物質が50質量%以上99質量%以下、導電助剤が0.5質量%30質量%以下、バインダーが0.5質量%30質量%以下であってもよい。得られた正極混合物を、所定の厚さ(例えば、5μm以上1mm以下)を有する正極集電体としての金属箔(例えば、Al箔)の片面に塗布し、プレス成型する。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極110を得る。
【0079】
次に、上述した負極材料、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさに打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させることにより負極140を得る。
【0080】
次に、上述した構成を有するセパレータ120を準備する。セパレータ120は従来公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。
【0081】
緩衝機能層130の製造方法は、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する層を得られる限り特に限定されないが、例えば以下のようにすればよい。
【0082】
図3(C)に示すような、ファイバ状のイオン伝導層330と、イオン伝導層330の表面を被覆する電気伝導層340とを備えるイオン電気伝導ファイバ310を有するファイバ状の緩衝機能層は、以下のように製造することができる。
まず、上述した樹脂(例えば、PVDF)を適当な有機溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に溶解させた溶液を、事前に準備したセパレータ120の表面にドクターブレードを用いて塗布する。次いで、樹脂溶液を塗付したセパレータ120を、水浴に浸漬した後、室温で十分乾燥させることで、セパレータ120上にファイバ状のイオン伝導層を形成する(なお、イオン伝導層は、例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい。)。続いて、ファイバ状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下で適当な金属(例えば、Ni)を蒸着させることにより、ファイバ状の緩衝機能層を得ることができる。
【0083】
ファイバ状の緩衝機能層の製造方法において、例えば、ファイバ状のイオン伝導層のファイバ平均直径を調整することにより、緩衝機能層の空孔率を制御することができる。例えば、ファイバ平均直径を小さくすると、緩衝機能層の空孔率が大きくなる傾向にある。ファイバ状のイオン伝導層のファイバ平均直径は、上記方法において、セパレータ表面に塗布する樹脂溶液の樹脂の濃度、及びセパレータを水浴に浸漬する時間等を調整することにより、制御することができる。
【0084】
また、多孔質状のイオン伝導層と、イオン伝導層の表面を被覆する電気伝導層とを備える多孔質状の緩衝機能層は以下のように製造することができる。
まず、上述した樹脂(例えば、PVDF)を適当な溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に溶解させた溶液を用いて、従来公知の方法により(例えば、溶媒との相分離を用いる方法、及び発泡剤を用いる方法等。)、連通孔を有する多孔質状のイオン伝導層をセパレータ120の表面に形成する(なお、イオン伝導層は、例えば電池の組立時に電解液が注液されることでイオン伝導機能を発揮するようにしてもよい。)。続いて、多孔質状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下で適当な金属(例えば、Ni)を蒸着させることにより、多孔質状の緩衝機能層を得ることができる。
【0085】
以上のようにして得られる正極110、緩衝機能層130が形成されたセパレータ120、及び負極140を、この順に、緩衝機能層130が負極140と対向するように積層することで積層体を得る。得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム2次電池100を得ることができる。密閉容器としては、特に限定されないが、例えば、ラミネートフィルムが挙げられる。
【0086】
[第2の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図4は、第2の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図4に示すように、第2の本実施形態のリチウム2次電池400は、正極110と、負極活物質を有しない負極140と、正極110と負極140との間に配置されている固体電解質410と、固体電解質410の負極140に対向する表面に形成されているファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層130と、を備える。正極110は、固体電解質410に対向する面とは反対側の面に正極集電体150を有する。
【0087】
正極集電体150、正極110、緩衝機能層130、及び負極140の構成及びその好ましい態様は、第1の本実施形態のリチウム2次電池100と同様であり、これらの構成について、リチウム2次電池400は、リチウム2次電池100と同様の効果を奏するものである。
【0088】
(固体電解質)
一般に、液体電解質を備える電池は、液体の揺らぎに起因して、電解質から負極表面に対してかかる物理的圧力が場所によって異なる傾向にある。一方、リチウム2次電池400は、固体電解質410を備えるため、固体電解質410から負極140の表面にかかる圧力が一層均一なものとなり、負極140の表面に析出するリチウム金属の形状を一層均一化することができる。すなわち、このような態様によれば、負極140の表面に析出するリチウム金属が、デンドライト状に成長することが一層抑制されるため、リチウム2次電池400のサイクル特性は一層優れたものとなる。
【0089】
固体電解質410としては、一般的にリチウム固体2次電池に用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム2次電池400の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。固体電解質410は、好ましくはイオン伝導性を有し、電気伝導性を有さないものである。固体電解質410が、イオン伝導性を有し、電気伝導性を有さないことにより、リチウム2次電池400の内部抵抗が一層低下すると共に、リチウム2次電池400の内部で短絡することを一層抑制することができる。その結果、リチウム2次電池400のエネルギー密度、容量、及びサイクル特性は一層優れたものとなる。
【0090】
固体電解質410としては、特に限定されないが、例えば、樹脂及びリチウム塩を含むものが挙げられる。そのような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、緩衝機能層130のイオン伝導層が含み得る樹脂として例示した樹脂が挙げられる。また、リチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、緩衝機能層130のイオン伝導層が含み得るリチウム塩として例示した樹脂が挙げられる。上記のような樹脂及びリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0091】
固体電解質410において、樹脂とリチウム塩との含有量比は、上記比([Li]/[O])が、好ましくは0.02以上0.20以下、より好ましくは0.03以上0.15以下、更に好ましくは0.04以上0.12以下になるように調整される。
【0092】
固体電解質410は、上記樹脂及びリチウム塩以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、溶媒及びリチウム塩以外の塩が挙げられる。リチウム塩以外の塩としては、特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。
【0093】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、上記リチウム2次電池100が含み得る電解液において例示したものが挙げられる。
【0094】
固体電解質410の平均厚さは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に、好ましくは15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池400における固体電解質410の占める体積が減少するため、リチウム2次電池400のエネルギー密度が一層向上する。また、固体電解質410の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に、好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極110と負極140とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0095】
固体電解質410は、ゲル電解質を含むものとする。ゲル電解質としては、特に限定されないが、例えば、高分子と、有機溶媒と、リチウム塩とを含むものが挙げられる。ゲル電解質における高分子としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン及び/又はポリエチレンオキシドの共重合体、ポリビニリデンフロライド、並びにポリビニリデンフロライド及びヘキサフロロプロピレンの共重合体等が挙げられる。
【0096】
(2次電池の製造方法)
リチウム2次電池400は、セパレータに代えて固体電解質を用いること以外は、上述した第1の本実施形態に係るリチウム2次電池100の製造方法と同様にして、製造することができる。
【0097】
固体電解質410の製造方法としては、上述した固体電解質410を得られる方法であれば特に限定されないが、例えば、以下のようにすればよい。固体電解質に従来用いられる樹脂、及びリチウム塩(例えば、固体電解質410が含み得る樹脂として上述した樹脂及びリチウム塩。)を有機溶媒(例えば、N-メチルピロリドン、アセトニトリル)に溶解する。得られた溶液を所定の厚みになるように成形用基板にキャストすることで、固体電解質410を得る。ここで、樹脂及びリチウム塩の配合比は、上記したように、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子との比([Li]/[O])によって定めてもよい。上記比([Li]/[O])は、例えば0.02以上0.20以下である。成形用基板としては、特に限定されないが、例えばPETフィルムやガラス基板を用いてもよい。
【0098】
[変形例]
上記本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその本実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【0099】
例えば、第1の本実施形態のリチウム2次電池100において、負極140の両面にセパレータ120が形成されていてもよい。この場合、リチウム2次電池は、以下の順番:正極/セパレータ/緩衝機能層/負極/緩衝機能層/セパレータ/正極;で各構成が積層される。そのような態様によれば、リチウム2次電池の容量を一層向上させることができる。なお、第2の本実施形態のリチウム2次電池400についても、同様の積層構造とすることができる。
【0100】
本実施形態のリチウム2次電池は、リチウム固体2次電池であってもよい。そのような態様によれば、電解液を用いなくてもよいため、電解液漏洩の問題が生じず、電池の安全性が一層向上する。
【0101】
本実施形態のリチウム2次電池は、初期充電の前に、セパレータ又は固体電解質と、負極との間にリチウム箔が形成されていても、されていなくてもよい。本実施形態のリチウム2次電池は、初期充電の前に、セパレータ又は固体電解質と、負極との間にリチウム箔が形成されていない場合、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるリチウム2次電池となる。
【0102】
本実施形態のリチウム2次電池は、負極及び/又は正極の表面において、当該負極又は正極に接触するように配置される集電体を有していてもよく、有していなくてもよい。そのような集電体としては、特に限定されないが、例えば、負極材料に用いることのできるものが挙げられる。なお、リチウム2次電池が正極集電体、及び負極集電体を有しない場合、それぞれ、正極、及び負極自身が集電体として働く。
【0103】
本実施形態のリチウム2次電池は、正極及び/又は負極に、外部回路へと接続するための端子を取り付けてもよい。例えば10μm以上1mm以下の金属端子(例えば、Al、Ni等)を、正極集電体及び負極の片方又は両方にそれぞれ接合してもよい。接合方法としては、従来公知の方法を用いればよく、例えば超音波溶接を用いてもよい。
【0104】
なお、本明細書において、「エネルギー密度が高い」又は「高エネルギー密度である」とは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、より好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上であり、更に好ましくは1000Wh/L以上又は450Wh/kg以上である。
【0105】
また、本明細書において、「サイクル特性に優れる」とは、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクルの前後において、電池の容量の減少率が低いことを意味する。すなわち、初期充放電の後の1回目の放電容量と、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクル後の容量とを比較した際に、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していないことを意味する。ここで、「通常の使用において想定され得る回数」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、30回、50回、70回、100回、300回、又は500回である。また、「充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していない」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であることを意味する。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0107】
[実施例1]
以下のようにしてリチウム2次電池を作製した。
【0108】
(負極の準備)
10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させて、負極を得た。
【0109】
(セパレータの準備)
セパレータとして、12μmのポリエチレン微多孔膜の両面に2μmのポリビニリデンフロライド(PVDF)がコーティングされた、厚さ16μm、所定の大きさ(50mm×50mm)のセパレータを準備した。
【0110】
(正極の作製)
正極活物質としてLiNi0.85Co0.12Al0.03O2を96質量部、導電助剤としてカーボンブラックを2質量部、及びバインダーとしてポリビニリデンフロライド(PVDF)を2質量部混合したものを、正極集電体としての12μmのAl箔の片面に塗布し、プレス成型した。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定の大きさ(40mm×40mm)に打ち抜き、正極を得た。
【0111】
(緩衝機能層の形成)
PVDF樹脂をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させた樹脂溶液をセパレータ上にドクターブレードで塗布した。次いで、樹脂溶液を塗付したセパレータを、水浴に浸漬した後、室温で十分乾燥させることで、セパレータ上にファイバ状のイオン伝導層を形成した(なお、イオン伝導層は、電池の組立時に後述する電解液(4M LiN(SO2F)2(LFSI)のジメトキシエタン(DME)溶液)が注液されることでイオン伝導機能を発揮する。)。
セパレータ上に形成されたファイバ状のイオン伝導層のファイバ平均直径を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定したところ、100nmであった。
【0112】
続いて、ファイバ状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下でNiを蒸着させた。エネルギー分散型X線分析装置(EDX)付SEMを用いて、Ni蒸着後のイオン伝導層を観察したところ、Niはファイバ状のイオン伝導層を覆うように分布していることが確認され、ファイバ状のイオン伝導層の表面が電気伝導層に覆われているファイバ状の緩衝機能層が得られたことが確認された。
また、緩衝機能層の断面をFIBで作製してSEMで観察したところ、緩衝機能層の平均厚さは10μmであった。透過型電子顕微鏡で緩衝機能層を観察したところ、電気伝導層であるNi薄膜の平均厚さ、及び緩衝機能層の空孔率は、それぞれ、20nm、及び90%であった。
【0113】
(電池の組み立て)
電解液として、4M LiN(SO2F)2(LFSI)のジメトキシエタン(DME)溶液を準備した。
次いで、正極、緩衝機能層が形成されているセパレータ、及び負極を、この順に、積層することで積層体を得た。更に、正極及び負極に、それぞれ100μmのAl端子及び100μmのNi端子を超音波溶接で接合した後、ラミネートの外装体に挿入した。次いで、上記の電解液を上記の外装体に注入した。外装体を封止することにより、リチウム2次電池を得た。
【0114】
[実施例2]
緩衝機能層の形成工程において、Niを蒸着させる時間を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。透過型電子顕微鏡で緩衝機能層を観察したところ、電気伝導層であるNi薄膜の平均厚さは、200nmであった。
【0115】
[実施例3~6]
緩衝機能層の形成工程において、電気伝導層として蒸着させる金属をNiからCuに変更し、金属を蒸着させる時間を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。透過型電子顕微鏡で緩衝機能層を観察したところ、電気伝導層であるCu薄膜の平均厚さは、表1に記載の各値であった。なお、緩衝機能層の形成工程において、ファイバ状のイオン伝導層を形成する際に、樹脂溶液におけるPVDF樹脂の濃度、及びセパレータを水浴に浸漬する時間を調整することにより、緩衝機能層の平均厚さ及び空孔率、並びにイオン伝導層のファイバ平均直径が表1に記載の各値になるようにした。
【0116】
[実施例7~10]
実施例1と同様にして、負極、及び正極を準備、製造した。セパレータとして、22μmのポリエチレン微多孔膜の両面に2μmのポリビニリデンフロライド(PVDF)がコーティングされた、厚さ26μm、所定の大きさ(50mm×50mm)のセパレータを準備した。
【0117】
実施例1と同様にして、セパレータ上にファイバ状のイオン伝導層を形成した。なお、セパレータ表面に塗布した樹脂溶液における樹脂の濃度、セパレータを水浴に浸漬する時間、及び樹脂溶液の塗布量を適宜調整することにより、緩衝機能層の平均厚さ及び空孔率、並びにイオン伝導層のファイバ平均直径が表1に記載の各値になるようにした。
続いて、ファイバ状のイオン伝導層が形成されたセパレータに対して、真空条件下で表1に記載の各金属(Ni又はCu)を蒸着させた。なお、この際、電気伝導層である金属薄膜(Ni薄膜又はCu薄膜)の平均厚さが表1に記載の各値になるように、蒸着時間を調整した。
【0118】
以上のようにして得られた正極、緩衝機能層が形成されているセパレータ、及び負極を用いて、実施例1と同様にして、リチウム2次電池を得た。
【0119】
[比較例1]
セパレータ表面に緩衝機能層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0120】
[比較例2]
セパレータ表面に緩衝機能層を形成しなかったこと以外は、実施例7と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0121】
[比較例3]
緩衝機能層の形成工程において、Niの蒸着を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。したがって、本比較例では、セパレータ表面にファイバ状のイオン伝導層のみが形成され、当該イオン伝導層は、電子伝導性を有しないものである。走査型電子顕微鏡(SEM)により、イオン伝導層のファイバ平均直径を、FIB及びSEMにより、イオン伝導層の平均厚さを、透過型電子顕微鏡により、イオン伝導層の空孔率を測定したところ、それぞれ、100nm、10μm、及び90%であった。なお、これらのイオン伝導層の平均厚さ、及びイオン伝導層の空孔率は、表1中、形式的に、それぞれ、「緩衝機能層の平均厚さ」、及び「緩衝機能層の空孔率」として記載する。
【0122】
[エネルギー密度及びサイクル特性の評価]
以下のようにして、各実施例及び比較例で作製したリチウム2次電池のエネルギー密度及びサイクル特性を評価した。
【0123】
作製したリチウム2次電池を、3.2mAで、電圧が4.2Vになるまで充電した(初期充電)後、3.2mAで、電圧が3.0Vになるまで放電した(以下、「初期放電」という。)。次いで、6.4mAで、電圧が4.2Vになるまで充電した後、6.4mAで、電圧が3.0Vになるまで放電するサイクルを、温度25℃の環境で繰り返した。いずれの実施例及び比較例についても、初期放電から求められた容量(以下、「初期容量」という。)は、64mAhであり、容量面積密度は4.0mAh/cm2であった。各例について、その放電容量が初期容量の80%になったときのサイクル回数(表中、「80%サイクル回数」という。)を表1に示す。
【0124】
[体積膨張率の測定]
各例について、作製した直後のセルの厚さ、初期充電後のセルの厚さ、及び上記充放電サイクルを99回した後、100回目の充電後におけるセルの厚さをそれぞれ測定することにより、充放電に伴う体積膨張率を測定した。作製した直後のセルに対する初期充電後のセルの体積膨張率(作製した直後のセルに対して、初期充電後のセルがどの程度膨張したかということを意味する。)を体積膨張率(1サイクル目)(%)とし、作製した直後のセルに対する100回目の充電後におけるセルの体積膨張率(作製した直後のセルに対して、100回目の充電後におけるセルがどの程度膨張したかということを意味する。)を体積膨張率(100サイクル目)(%)として、表1に各値を示す。
【0125】
【0126】
表1中、「-」は、緩衝機能層、又は電気伝導層を有しないことを意味する。
【0127】
表1から、ファイバ状又は多孔質状のイオン伝導性及び電気伝導性を有する緩衝機能層を備える実施例1~10は、そうでない比較例1~3と比較して、80%サイクル回数が高く、サイクル特性に優れることがわかる。また、実施例1~10と比較例3とを対比すると、緩衝機能層が電気伝導性を有することに起因して、実施例1~10は、体積膨張が抑制されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れ、かつ、充放電に伴うセルの体積変化を抑制できるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイス、特に、許容可能な体積膨張率が低い電池(例えば、小型電子端末等用電池等)用途として、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0129】
100,200,400…リチウム2次電池、110…正極、120…セパレータ、130…緩衝機能層、140…負極、150…正極集電体、210…負極端子、220…正極端子、310…イオン電気伝導ファイバ、320…リチウム金属、330…イオン伝導層、340…電気伝導層、410…固体電解質。