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特許7551194獣忌避剤およびその製造方法、並びに獣忌避装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】獣忌避剤およびその製造方法、並びに獣忌避装置
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/10 20200101AFI20240909BHJP
   A01M 29/12 20110101ALI20240909BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
A01N63/10
A01M29/12
A01P17/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024047397
(22)【出願日】2024-03-24
【審査請求日】2024-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524112809
【氏名又は名称】チョー セイン
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】チョー セイン
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-051483(JP,A)
【文献】特開2010-202570(JP,A)
【文献】特開2000-234337(JP,A)
【文献】特開2012-232293(JP,A)
【文献】米国特許第4656038(US,A)
【文献】米国特許第4388303(US,A)
【文献】特開昭50-123820(JP,A)
【文献】米国特許第3962425(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01M
A01P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
忌避対象がサルであり、魚介類と食塩とを少なくとも含有する発酵原料の固形状発酵生成物からなることを特徴とする獣忌避剤。
【請求項2】
前記獣忌避剤は、前記魚介類由来以外の菌類または酵素が未配合である前記発酵原料の発酵生成物であることを特徴とする請求項1記載の獣忌避剤。
【請求項3】
請求項1記載の獣忌避剤の製造方法であって、
少なくとも魚介類を含む原材料を粉砕し、得られた粉砕物に対して、粉砕物:食塩=3:1~20:1の質量比で食塩を加えて、発酵原料を調整する原料調整工程と、
前記発酵原料を、直射日光の当たらない室内において、発生する液体の排出路を設けつつ載置して、室温で1か月以上の発酵期間で発酵させて前記発酵生成物を得る発酵工程と、
を備えてなることを特徴とする獣忌避剤の製造方法。
【請求項4】
前記原料調整工程において、発酵原料に対して、前記魚介類由来以外の菌類または酵素を配合しないことを特徴とする請求項3記載の獣忌避剤の製造方法。
【請求項5】
前記原料調整工程において加える食塩が、前記粉砕物:前記食塩=8:1~12:1の質量比であり、
前記発酵工程の発酵期間が、3か月以上12か月以下であることを特徴とする請求項3または請求項4記載の獣忌避剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2記載の獣忌避剤と、前記獣忌避剤を収容するとともに、外部との空気の出入口となる開口部を有する収納容器と、前記収容容器への雨水の侵入を抑制する蓋部とを備えてなることを特徴とする獣忌避装置。
【請求項7】
前記収容容器は、前記獣忌避剤と直接または網状袋を介して接触する接触部の一部に前記開口部を有し、
前記獣忌避剤は、前記開口部から前記収容容器の外部に漏出しない硬さの軟質の固形状であることを特徴とする請求項6記載の獣忌避装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣忌避剤およびその製造方法に関し、特にサルを忌避対象とした獣忌避剤およびその製造方法に関する。また、この獣忌避剤を用いた獣忌避装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内における獣による農作物の被害は、古くから存在している。日本では、サル(猿)、イノシシ、シカ、タヌキ、キツネなどの野生動物(獣)が主に農作物を荒らし、農業生産や生活に大きな損害を与えている。特にサルは、非常に賢い動物であり、その高い学習能力、知能、社会性などにより、対処が容易ではない。例えば、一度果樹園や農地に侵入して食べ物を見つけると、その場所や方法を覚えて同じような行動を繰り返すため、一度被害を受けた農地や果樹園では、繰り返して被害を受ける可能性が高い。また、柵やネットで囲まれた農地や果樹園への侵入方法を研究して、柵を乗り越える方法を見つけ出すことがある。さらに、仲間同士で情報を共有し、一度被害を受けた場所には他のサルが集まり、被害が拡大する場合がある。
【0003】
従前より山間部や農村地域では、サルによる農作物の被害は地域経済に影響を与えるほど深刻であった。特に、果樹園などでは、柿やブドウ、桃などの果物がサルにとって魅力的な食料であるため、果物が豊富になる季節になると侵入が頻繁に起こり、果樹園経営や地域住民の生計に大きな影響を及ぼしていた。さらに、近年では、農作物の被害が都市部や平野部でも増加している。その主な要因の一つとしてサルの生息地の破壊や減少が挙げられる。都市化の進展によって、サルの生息地が狭められ、人間の生活圏に近づくことを余儀なくされている。また、気候変動や環境の変化もサルの行動に影響を与えており、農地や果樹園に侵入する頻度が増加している。
【0004】
従来、このようなサルなどの獣による農作物の被害を防ぐため、さまざまな対策が試みられている。例えば、果樹園には電気柵やネットを設置するなど、獣の侵入を防ぐための物理的な障壁(防護柵)を作る方法がある。また、威嚇や追い払うための音や臭いを利用する方法がある。
【0005】
防護柵に関する技術として、特許文献1には、合成樹脂製ネット撚糸と忌避剤添加ネット撚糸とで構成した紺色の第一ネット撚糸と、緑色の第二ネット撚糸と、ワイヤーを撚り上げたプラス・マイナス極用の導電撚糸で結節したプラス・マイナス導電ネット撚糸とを用いた構成とすることで、第一ネット撚糸が空に溶け込んで、ネットの存在を攪乱し、また第二ネット撚糸が圃場の作物に溶け込んで、ネットの存在を攪乱させて、サルの侵入を防止する電撃ネット構造が開示されている。
【0006】
また、匂いなどを利用した技術として、特許文献2には、忌避対象の動物が忌避する他の動物の排泄物、または、その排泄物の匂い物質を用いる技術が開示されている。特に、イヌ、ネコ、タヌキ、サル、シカなどの小動物を忌避対象とする場合に、他の動物として、トラ、ライオン、ヒョウ、クマ、ゾウなどの大型動物の尿または糞の匂い物質を利用することが開示されている。特許文献2では、その実験として、忌避対象の行動範囲に、大型動物の尿を散布することで忌避効果を確認したことが記載されている。
【0007】
さらに、排泄物(尿、糞)の散布をせずに衛生面に優れる技術として、特許文献3には、メチルプロピルケトン、2-エチルヘキサノール、エチルメチルスルフィド、メチルペンチルケトン、およびジ-n-オクチルフタレートから選択される少なくとも1種を有効成分として含有する忌避剤が開示されている。この忌避剤は、シカ、イノシシ、サル、アライグマ、ハクビシン、ネコ、カラスなどを忌避対象とするとされている。この技術は、オオカミの尿の中に、有害鳥獣に対して本能に基づく忌避行動を誘発し、学習による効果の低下が生じにくい忌避成分が含まれていることを見い出し、この成分を同定し、同成分(オオカミの尿由来ではなく別途準備する試薬など)の化合物を忌避剤として利用するものである。特許文献3では、その実験として、上記化合物の現液をシカの餌に塗布し、シカに対して使用する忌避効果を確認したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-307009号公報
【文献】特開2004-189684号公報
【文献】特開2020-33308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のような防護柵・防護ネットは、最も直接的にサルなどの獣の侵入を抑制できるといえる。しかしながら、防護ネットの設置には相応のコストが必要となる。特に広い範囲や高い場所を保護したい場合には、ネットの設置に大きな労力とコストが必要となる。また、電撃ネットでは恒常的な通電が必要となる他、防護ネットの経時的な劣化や野生動物による部分的な損傷などのため、定期的なメンテナンスに時間と労力が必要となる。これらの結果、防護柵・防護ネットの採用は、農家や果樹園経営者などの設置者にとって、多大なコスト負担となるおそれがある。
【0010】
特許文献2のように他の動物の排泄物(尿、糞)を用いる場合には、衛生面での懸念がある。例えば、人間にとっても不快な匂いである場合、周囲の環境や生活環境に影響を与えるおそれがある。また、特許文献2と特許文献3のような排泄物や化合物を利用して忌避をする場合、その効果は忌避対象によって異なる場合がある。すなわち、忌避効果が得られる動物(獣)が限定的となり、本来忌避したい獣(例えばサル)に対して有効でないおそれがある。また、特定の化学物質が、土壌や水質、生態系に悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、液状の忌避剤を散布・塗布することで使用する場合、土壌への浸透や、雨や風などによる流出・飛散など、自然影響によって効果が薄れやすくなるおそれがある。その他、トラやクマなどの大型動物の尿は、入手性に優れるものではなく、忌避剤のコストが高くなるおそれがあり、所定の化合物についても、その製造方法によっては、同様に忌避剤のコストが高くなるおそれがある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、低コストかつ低労力で導入可能でありながら、所望の忌避対象であるサルに対して有効である獣忌避剤およびその製造方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の獣忌避剤は、忌避対象がサルであり、魚介類と食塩とを少なくとも含有する発酵原料の固形状発酵生成物からなることを特徴とする。また、好ましい態様として、上記獣忌避剤は、上記魚介類由来以外の菌類または酵素が未配合である上記発酵原料の発酵生成物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の獣忌避剤の製造方法は、少なくとも魚介類を含む原材料を粉砕し、得られた粉砕物に対して、粉砕物:食塩=3:1~20:1の質量比で食塩を加えて、発酵原料を調整する原料調整工程と、上記発酵原料を、直射日光の当たらない室内において、発生する液体の排出路を設けつつ載置して、室温で1か月以上の発酵期間で発酵させて上記発酵生成物を得る発酵工程と、を備えてなることを特徴とする。
【0014】
好ましい態様として、上記原料調整工程において、発酵原料に対して、上記魚介類由来以外の菌類または酵素を配合しないことを特徴とする。
【0015】
好ましい態様として、上記原料調整工程において加える食塩が、上記粉砕物:食塩=8:1~12:1の質量比であり、上記発酵工程の発酵期間が、3か月以上12か月以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の獣忌避装置は、上記本発明の獣忌避剤と、上記獣忌避剤を収容するとともに、外部との空気の出入口となる開口部を有する収納容器と、上記収容容器への雨水の侵入を抑制する蓋部とを備えてなることを特徴とする。
【0017】
好ましい態様として、上記収容容器は、上記獣忌避剤と直接または網状袋を介して接触する接触部の一部に上記開口部を有し、上記獣忌避剤は、上記開口部から上記収容容器の外部に漏出しない硬さの軟質の固形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の獣忌避剤は、忌避対象がサルであり、魚介類と食塩とを少なくとも含有する発酵原料の固形状発酵生成物からなるので、大型動物の糞尿や特定の化合物は必要なく、対象箇所に適宜設置するのみで、低コストかつ低労力で導入可能である。また、所望の忌避対象であるサルに対して非常に有効である。さらに、固形状であるため、液状物と比較して効果の持続期間が長くなる。
【0019】
本発明の獣忌避剤の製造方法は、少なくとも魚介類を含む原材料を粉砕し、得られた粉砕物に対して、粉砕物:食塩=3:1~20:1の質量比で食塩を加えて、発酵原料を調整する原料調整工程と、この発酵原料を、直射日光の当たらない室内において、発生する液体の排出路を設けつつ載置して、室温で1か月以上の発酵期間で発酵させて発酵生成物を得る発酵工程と、を備えてなるので、魚介類と食塩という最小限の原料から、下処理や天日干しなどの作業はなく、低コストでの製造が可能である。
【0020】
また、原料調整工程において、発酵原料に対して、魚介類由来以外の菌類または酵素を配合しないので、忌避剤の低コスト化に寄与する。また、製造される発酵乾燥物である忌避剤において、発酵・熟成の度合いがサルの忌避剤として適したものとなり、人の生活環境に影響を与えにくい程度の匂いであり、かつ、サルに対する高い忌避効果を発揮するものとなる。
【0021】
本発明の獣忌避装置は、本発明の獣忌避剤と、この獣忌避剤を収容するとともに、外部との空気の出入口となる開口部を有する収納容器と、収容容器への雨水の侵入を抑制する蓋部とを備えてなるので、開口部より匂い成分などの周囲への徐放ができるとともに、雨や風などの自然影響による忌避剤の流出や飛散を防止できる。この結果、忌避効果の低減が起こりにくく、効果持続期間の延長が図れる。
【0022】
また、上記収容容器は、本発明の獣忌避剤と直接または網状袋を介して接触する接触部の一部に開口部を有し、この獣忌避剤は、上記開口部から収容容器の外部に漏出しない硬さの軟質の固形状であるので、開口部のすぐ近くに配置された忌避剤から容器外部に匂い成分が徐放されやすく、かつ、液状物などのように当該開口部から流出してしまうことも抑制できる。また、軟質の固形状であるため、水分が固形分に含有されて保持された状態であり、徐々の水分が蒸発することに合わせて匂い成分の一部が外部に広がり、効果持続期間の延長が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の獣忌避剤の一例(実施例)を示す写真である。
図2】本発明の獣忌避剤の製造工程の一例を示すフロー図である。
図3】本発明の獣忌避装置の一例を示す斜視図である。
図4】収容容器の開口部の例を示す図である。
図5】収容容器の開口部の封止例を示す図である。
図6】本発明の獣忌避装置の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の獣忌避剤は、これを容器などに入れて農作物のある畑や、農作物保管庫や家屋の近くに載置しておくことで、野生動物であるサルの接近などを抑制して忌避し、農作物の被害を低減するものである。日本国内において、農作物に被害を与える野生の有害鳥獣としては、サル、シカ、イノシシ、タヌキ、キツネ、アライグマ、ハクビシン、ネコ、カラス、ハトなどが挙げられる。忌避剤の効果は、忌避対象となる鳥獣により差異があり、本発明の獣忌避剤は、後述の実施例にも示すとおり、サルに対して極めて高い忌避効果を発揮するものである。なお、試験時の様子から、シカとカラスに対しては有効性が劣る(ほぼ認められない)ことが把握できている(表1参照)。サルによる被害が出る具体的な農作物としては、栗、柿、ブドウ、桃、梨、リンゴ、ミカン、しいたけ、かぼちゃ、とうもろこし、いんげん、スイカなど、多岐にわたる。
【0025】
本発明の獣忌避剤を図1に基づいて説明する。図1は、本発明の獣忌避剤の一例(実施例のもの)を示す写真である。
本発明の獣忌避剤は、魚介類と食塩とを少なくとも含有する発酵原料の固形状発酵生成物から構成される。すなわち、この獣忌避剤は、発酵生成物であり、かつ、性状が固形状である。ここで、固形状とは、液状でなく、一定期間(例えば1時間以上)所定の形状を保持できる性状であり、水分を含んだ軟質状の固形物も含む概念である。本発明の獣忌避剤は、元々水分を多く含む魚介類の発酵生成物であるため、水分をある程度含むものであり、典型的な性状としては、上記の軟質状の固形物である。例えば、図1に示すように、本発明の獣忌避剤1は、味噌状であり、指の力で容易に形状を変形させることができ、かつ、一定期間形状を保持できるものである。
【0026】
本発明の獣忌避剤における水分量は、特に限定されないが、上記のとおり元々の魚介類原料が含有する水分量が非常に多いため(通常80質量%程度)、最終的な発酵生成物である獣忌避剤の全体質量に対する水分量は、例えば5~60質量%程度となる。このような発酵物を食用用途とする場合、発酵時の腐敗などを抑制するため、発酵原料の調整時にある程度の水分量(例えば50質量%以下)まで脱水することが望ましいが、本発明ではこのような調整は必要なく、最終的に上述の固形状を維持できる程度の水分量となればよい。なお、発酵原料が魚介類であることから、発酵原料の調整時に別添で水を配合しなければ、通常、発酵後において固形状を維持できる上記程度の水分量となる。
【0027】
本発明の獣忌避剤の性状は、上記の軟質状の固形物であることが好ましい。軟質状の固形物は、チキソトロピー性を有する固形物であり、例えば、上記の味噌状のほか、粘土状、グリース状とも表現できる。軟質の程度は、獣忌避剤を入れる網状袋(メッシュ袋)や収容容器の開口部から時間経過により自然流出しない程度の軟質性であればよい。この軟質の程度は、含まれる水分量でみれば、上記の5~60質量%程度(残部が固形分)であればよい。味噌状のような軟質の固形状であることで、固形分に保持された水分が徐々に蒸発して、匂い成分の徐放が起こり、忌避効果の持続期間を延長できる。なお、水分や匂い成分などの揮発成分の徐放が進むと、徐々に獣忌避剤の軟質性が失われ、最終的には粉体状の固形物に近づく。
【0028】
本発明の獣忌避剤の発酵原料について説明する。
発酵原料の原材料の魚介類としては、例えば、通常食用として利用されている、海水・淡水の魚類、貝類、甲殻類などの水産生物を使用できる。また、本発明の獣忌避剤は、食用用途ではないことから、通常食用として利用されてない(例えば、飼料用途など)魚介類も使用できる。本発明で使用できる魚介類の具体例としては、例えば、イカナゴ、イカ、タコ、イワシ、サバ、マダイ、ヒラメ、カンパチ、トラフグ、ブリ、マグロ、ウナギ、ナマズ、アユ、ニジマス、タイセイヨウサケ、ギンザケ、マスノスケ、ワカサギバナメイエビ、クルマエビ、ウシエビ、ホワイトレッグシュリンプ、ガザミ、アキアミ、オキアミ(軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目オキアミ目)、その他のアミ類(軟甲綱真軟甲亜綱フクロエビ上目アミ目)などが挙げられる。
【0029】
これらの中でも、比較的安価であり、小型であることから小規模な設備でも忌避剤の製造がしやすく、発酵後の忌避性も担保しやすいことから、アキアミやオキアミ、アミ類のような小エビ類(小型の甲殻類)を原料とすることが好ましい。
【0030】
原材料の魚介類は、その全体、身(魚肉など)の他に、身を分離して商品化した後の副産物である、頭、骨、内臓、尾、皮、鱗などを含む加工残滓を利用してもよい。
【0031】
発酵原料の食塩としては、特にその種類は限定されず、精製塩、岩塩、天日塩、藻塩、湖塩などを使用できる。また、製法も特に限定されず、電気分解を利用して得られるもの、ミネラルやにがりを加えて得られるもの、釜で煮詰めて得られるものなどが挙げられ、いずれも使用できる。また、純度も特に限定されず、塩化ナトリウム純度が95%以上の並塩、99%以上の食塩、99.5%以上の特級塩などのいずれも使用できる。食用用途ではなく、発酵期間も十分に長いことから、上記のように通常入手できる食塩であれば獣忌避剤としての性能への影響は小さく、コスト面を考慮して選定すればよい。
【0032】
本発明の獣忌避剤は、上記のような発酵原料の発酵生成物である。発酵原料において、魚介類由来の自己消化酵素(内臓に含まれるプロテアーゼ)、原料に混入している細菌やカビが分泌する酵素の作用により発酵が進み、魚介類の形が崩れて部分的に液化される。この液体の残り固形分が、本発明における発酵生成物であり、硬質骨格や魚肉分などの固形物、食塩分、水分、魚介類の動物性蛋白質が分解されて得られるアミノ酸、魚介類に含まれる核酸などを含む生成物として得られる。この発酵生成物は、魚介類特有の生臭さや、腐敗菌の作用によって生じる腐敗臭も含まれる場合がある。
【0033】
本発明の獣忌避剤の製造方法を図2に基づいて説明する。図2は、本発明の獣忌避剤の製造工程の一例を示すフロー図である。
図2に示すように、本発明の獣忌避剤の製造工程は、大きく分けて、(S1)発酵原料を調整する原料調整工程と、(S2)その発酵原料を発酵させて発酵生成物を得る発酵工程とを備えている。
【0034】
(S1)発酵原料の原料調整工程
この工程では、まず、魚介類を含む原材料を粉砕する。原材料に用いる魚介類は上記のとおりである。粉砕には、処理量などに応じて、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル、ホモジナイザー(ミートチョッパー)、すり鉢などを適宜使用できる。小エビ類などを磨り潰し、細かく粉砕することで、魚介類由来の消化酵素や菌類が良く混ざり合い、発酵工程において、発酵が進行しやすくなる。
【0035】
次に、得られた粉砕物に食塩を配合する。発酵原料に用いる食塩は上記のとおりである。食塩の配合量は、例えば、粉砕物:食塩=3:1~20:1の質量比である。食塩濃度としては、5~25質量%程度となる。このような発酵物を食用用途とする場合、発酵時の腐敗などを抑制するため、発酵原料の調整時に食塩濃度としては、20~30質量%程度とすることが多いが、本発明では多少の腐敗も許容できるため、上記程度の食塩濃度でも問題がない。食塩の配合量は、好ましくは、粉砕物:塩=8:1~12:1の質量比とする。最も好ましくは、粉砕物:塩=9:1~11:1の質量比とする。このような配合量とすることで、極力塩分量を抑えながら、獣忌避剤として利用可能な発酵・熟成を達成できる。
【0036】
原料調整工程において、発酵原料に対して、用いる魚介類由来以外の菌類または酵素を配合しないことが好ましい。なお、菌類と酵素はいずれとも配合しないことが好ましい。魚介類由来以外の菌類や酵素としては、例えば、麹菌、酵母菌、乳酸菌、市販酵素製剤などが挙げられる。麹菌としては、醤油麹菌(Aspergillus sojae)、黄麹菌(Aspergillus oryzae)などが挙げられる。
【0037】
通常、食用用途の発酵物であると、単に魚介類と食塩とを発酵させるのみでなく、このような麹や乳酸菌、必要に応じて市販酵素製剤などを加えて発酵させ、魚介類の特有の良好な風味を活かしつつ、魚介類の生臭さなどを抑制して、うまみがあって口当たりの良い食品(魚味噌、魚醤油)とすることが多い。本発明は獣忌避剤であり、このような食用用途と異なり、味などは特に要求されないため、魚介類由来以外の菌類や酵素を別配合しなくてもよい。これらを配合しないことで、獣忌避剤の原材料コストを低減できる。
【0038】
また、発酵原料に対して、用いる魚介類由来以外の菌類または酵素を配合しないことで、獣忌避剤として適度な発酵・熟成が可能となり、人の生活環境に影響を与えにくい程度の匂い(苦手でない人であれば食せる程度)でありながら、サルにとっては不快と思われる匂いとできる。この結果、生活場に近い場所に設置するサルの忌避剤として好適に利用できる。
【0039】
発酵原料には、魚介類と食塩以外に、必要に応じて他の原料を配合してもよい。例えば、唐辛子、ニンニク、生姜などの香辛料、小麦、米、トウモロコシなどの澱粉質、魚介類以外の動物性または植物性の蛋白質、種々の野菜などが挙げられる。特に香辛料を配合することで、サル以外の有害鳥獣にも忌避効果が有効となる場合がある。本発明では、低コスト化を図るために、発酵原料として、魚介類と食塩のみとし、これら以外には何も配合しない原料とすることが好ましい。その他、上記のとおり、発酵原料に含まれる魚介類は含有する水分量が非常に多いため、通常、原料調整工程において、発酵原料に対して水を追加で配合する必要はない。
【0040】
また、原材料の前処理に関して、食用用途では、魚介類の下処理として、下洗い処理、蒸煮処理、水晒処理などが行われる場合がある。通常、このような蒸煮処理は、魚介類を70℃以上の温度で数十分程度の時間保持することで実施され、水晒処理は、魚介類を水に数十分程度晒すことで実施される。これらの下処理は、特に使用する魚介類の鮮度が低い場合において、魚臭の除去や、魚介類由来の細菌の栄養細胞を除去する目的などで実施される。これに対して、本発明の獣忌避剤では、原料調整工程において、あえて、このような原材料の魚介類の下処理をしない(非下処理魚介類とする)ことが好ましい。これにより、獣忌避剤の製造コストを低減でき、かつ、適度な発酵と腐敗が進行して忌避剤としての有効性の向上が期待できる。
【0041】
(S2)発酵原料の発酵工程
この工程は、(S1)原料調整工程で得られた、魚介類の粉砕物と食塩を含む発酵原料を発酵させる工程である。発酵原料を直射日光の当たらない室内において載置し、室温で1か月以上の発酵期間で発酵させて発酵生成物を得る。発酵原料の発酵場所は、直射日光の当たらない室内とすることが好ましい。直射日光の当たらない状況で発酵させることで、水分の蒸発が緩やかになり、高い水分量を維持したまま、長期間(1か月以上)にわたり発酵原料を発酵・熟成できる。このように発酵原料をゆっくりと寝かすことにより、サルにとって不快な匂いが発生しやすくなる。
【0042】
発酵途中においても、一時的に直射日光に晒して加熱・乾燥させること(天日干し)などの処置は必要ない。また、撹拌や切り返しなどの処理も特に必要ない。発酵原料を載置してある室内は、適度に換気を行うことで、臭気がこもることを抑制できる。また、室内に載置する場合、その置き方は特に限定されず、発酵原料を容器に入れてもよく、また、発酵原料に単に網をかぶせて置いてもよい。いずれの場合でも、発酵原料から時間経過とともに発生する液体の排出路を設けることが好ましい。この排出路は、発生する液体に発酵原料自体が浸されることを避けて、発酵を着実に進行させるためのものであり、例えば、発酵原料の下部位置などに溝として設けることができる。
【0043】
発生する液体は、排出路から外部に廃棄する他、排出路に連結された貯蔵容器などに貯めて別途利用してもよい。この液体には、発酵生成物である獣忌避剤(固形分側)と同様の成分も含まれているため、この液体を獣忌避剤の補助(設置場所近くに散布する)として利用することもできる。また、利用用途によっては、この液体に対して加熱処理や濾過処理を施してもよい。
【0044】
発酵場所である室内の温度は、特に限定されず、また空調設備などで調整する必要はなく、昼夜変動、季節変動に合わせて変化する温度でよい。例えば、3℃~40℃程度の範囲で変動する。室温が低い場合であっても、発酵熱により時間をかけてゆっくりと発酵・熟成が進行する。
【0045】
発酵期間は、1か月以上であることが好ましく、2か月以上であることがより好ましく、3か月以上であることがさらに好ましい。発酵時間を長くとることで、市販酵素製剤などの別添の材料を利用せずに、魚介類と食塩のみの発酵原料を用い、加温などのエネルギーも使用せずに室温で発酵させながら、十分な発酵・熟成が可能となり、サルに対する高い忌避効果を発揮する獣忌避剤が得られる。また、発酵時間の上限は特に限定されないが、獣忌避剤の生産性などを考慮して、12か月以内、18か月以内、24か月以内などに設定できる。
【0046】
本発明の獣忌避装置を図3に基づいて説明する。図3は、本発明の獣忌避装置の一例を示す斜視図である。
図3に示すように、本発明の獣忌避装置2は、獣忌避剤1と、獣忌避剤1を収容する収納容器3と、収容容器3への雨水の侵入を抑制する蓋部4とを備えてなる。また、収容容器3は、容器の底部に、外部との空気の出入口となる開口部5を有する。収容容器3の形状は、内部に獣忌避剤を収容できる形状であれば特に限定されず、例えば、平面視で四角型(図3のもの)、多角形型、丸型などとできる。また、蓋部4の形状は、収容容器3への雨水の侵入を抑制できる形状であれば特に限定されず、平面視で収容容器の形状に合わせた、四角型、多角形型、丸型などとできる。さらに、蓋部4は、収容容器3に直接嵌合して密閉する部材の他、収容容器3の上部に空間を開けて傘状に配置される部材であってもよい。この場合、平面視で収容容器3が完全に隠れるような、収容容器3よりも大きい形状であってもよい。
【0047】
また、獣忌避装置2は、収容容器3の上端位置において、取っ手部6を有している。取っ手部6を木の枝などに引っ掛けることで、獣忌避装置2をその木に吊るして配置できる。
【0048】
収容容器3は、容器の底部にある開口部5から、獣忌避剤1より発生する匂い成分などを容器外部に徐々に放出させることができる。収容容器3における開口部5の位置は、特に限定されず、例えば、収容容器3の底部の他、収容容器3の側面下部などに設けてもよい。開口部5は、収容容器3の内部の獣忌避剤1より発生する匂い成分が容器外部に徐放されやすくするため、徐放性の観点では、獣忌避剤1と直接に(または後述の網状袋を介して)接触する接触部の一部に設けることが好ましい。また、雨水の侵入を防止する観点では、収容容器3の底部に設けることが好ましい。通常、獣忌避剤1は収容容器3の底部に載置するため、徐放性の観点でも、雨水の侵入を防止する観点でも、図3に示すように、開口部5を収容容器3の底部に設けることが好ましい。その他、このような底部の開口部を設けた上で、収容容器の側面上部などに通気孔を設けてもよい。底部以外にも通気可能な孔や空間を設けることで、容器内外の空気の流れが円滑になる。
【0049】
収容容器の開口部の形状の例を図4に示す。図4(a)~図4(c)は、それぞれ収容容器を底部側からみた図である。図4(a)の開口部5は、図3の形態の開口部であり、5つの孔から構成される開口部である。5つの孔は、それぞれ数mm~数十mmの大きさを有し、サイコロの5の目ように整列配置されている。図4(b)の開口部5Aは、中央にある大きい1つの孔から構成される開口部である。図4(c)の開口部5Bは、中央部に形成されたメッシュ状の開口部である。開口部は、孔(開口面積)が大きい程、匂い成分の放出性に優れ、忌避効果が高くなることが期待できる。一方、孔(開口面積)が大きい程、雨水や湿気の侵入、獣忌避剤の流出、鳥獣による破壊(例えば、鳥による嘴でのつつき)の可能性が高くなる。これを踏まえて、周辺環境に応じて、開口部の形状は適宜決定できる。
【0050】
収容容器の開口部の封止例を図5に示す。図5の上図に示すように、獣忌避剤の譲渡・販売時には、開口部5をシール8で封止した状態としておく。その後、図5の下図に示すように、購入者が使用開始時においてシール8を剥がして使用する。これにより、獣忌避剤の購入時や未使用保管時における匂い成分の流出を防止でき、容器周囲の環境への悪影響を抑制できる。また、シール8により収容容器3の内部の気密性を保つことで、獣忌避剤からの匂い成分を含む水分の蒸発自体を抑制でき、保管性に優れる。
【0051】
また、開口部5を封止する手段はシール8に限らず、例えば、着脱可能な栓や蓋、開閉可能な窓構造などであってもよい。
【0052】
図6は、本発明の獣忌避装置の他の例を示す斜視図である。図6に示す形態では、本発明の獣忌避装置2’において、予め獣忌避剤1が網状袋7に入れられた状態で収容容器3に収容されている。獣忌避装置2’において、網状袋7以外の構成は、図3に示す獣忌避装置2と同様である。獣忌避剤1を網状袋7に予め入れた状態としておくことで、時間経過により獣忌避剤1が乾燥して粘性が低下した場合や、さらに粉体化した場合においても、獣忌避剤1が網状袋7の内部に保持され、開口部5からの流出などを抑制できる。また、獣忌避剤1が容器内部に直接に貼りつくことなどを防止でき、交換が容易となる。
【0053】
また、網状袋は7、獣忌避剤が漏出しない程度に細かく開口した網状(メッシュ状)の袋であればよく、不織布製、紙製、プラスチック製のものなどを使用できる。
【0054】
本発明の獣忌避装置の使用方法について説明する。
獣忌避装置は、農作物のある畑や、農作物のなる木、農作物保管庫や家屋の近くに載置して使用される。収容容器の底部に開口部を有する場合には、その底部を塞がない状態で使用する。例えば、木の枝に吊るして配置できる。上記のとおり、取っ手部を有する形態の場合には、取っ手部を木の枝などに引っ掛けることで、その木に吊るして配置できる。また、底部の開口部の周囲に、通気可能な空間があれば、収容容器を吊るさずに任意の場所に載置してもよい。
【0055】
本発明の獣忌避剤は匂い成分の拡散程度が、忌避効果に影響を与えることから、配置位置は、保護したい対象の農作物の近くであることが重要であることは勿論、風向きも重要となる。すなわち、対象の農作物の風上に獣忌避装置を配置することで、風下側の広い範囲で忌避効果を発揮できる。地域によっては季節による主な風向きがあることから、その地域での風向き環境を考慮して、装置の配置を行うことで高い効果を期待できる。
【実施例
【0056】
魚介類としてアキアミ、オキアミ、アミ類などの小エビ類をすり鉢で磨り潰して粉砕物とした。この魚介類には、煮沸処理などの下処理を施していない。この粉砕物に、粉砕物:食塩=10:1の質量比で食塩(精製塩)を加えて、よく混ぜ合わせて発酵原料とした。この発酵原料には、上記の魚介類と食塩のみで調整されており、魚介類由来以外の菌類および酵素が未配合であり、水も元の魚介類に含まれる分のみであって別途添加はしていない。
【0057】
得られた発酵原料を、直射日光の当たらない室内において、網に入れて載置した。空調設備などは稼働させずに、自然の室温で6か月間(春季から秋季にかけての6か月)放置して、発酵・熟成させた。室温の変動は、10~30℃程度であった。発酵原料を載置する箇所の下部に、発酵原料から発生する液体の排出路を設け、網部から漏れ出る液体を別の容器に貯蔵した。発酵に要した6か月の間において、天日干しや撹拌などの処理は行なっていない。得られた固形状の発酵生成物の写真を図1に示す。この発酵生成物(獣忌避剤)の性状は、軟質の固形状であり、食用の味噌と同程度の硬さ・性状であった。また、匂いはやや強めであった。
【0058】
実施例1
三重県多気郡大台町の山間地域の集落(時期は11月)において、サルが集まる柿の木に対して、得られた獣忌避剤(20g)を収容した獣忌避装置(図6のものであり、1辺約5cm)を2つ準備し、これを枝に掛けて設置した。設置前日までには、10~20匹のサルの群れが当該柿の木に集まっていたところ、設置翌日からサルが1匹も寄り付かず、2か月経過してもサルが寄り付いていない状態であった。なお、柿の木には、柿の実が十分にある状態であった。また、シカとカラスについては、同じ木に対して獣忌避剤の有無にかかわらず近づいていることが確認された。表1に結果を記載する。表1における「〇」は、忌避対象がまったく寄り付かなくなり、かつ、1か月以上それが継続できた場合である。また、表1における「×」は、忌避対象への影響がほとんど確認できない場合である。
【0059】
実施例2
三重県多気郡大台町の山間地域の集落(時期は11月)近くの山において、サルが集まる切り株に対して、得られた獣忌避剤(20g)を収容した獣忌避装置(図6のものであり、1辺約5cm)を2つ準備し、これを近くの木の枝に掛けて設置した。実施例1と同様に設置前日までには、10数匹のサルの群れが当該切り株に集まっていたところ、設置翌日からサルが1匹も寄り付かず、1か月経過してもサルが寄り付いていない状態であった。表1に結果を記載する。評価方法は、実施例1と同じである。なお、評価できていない忌避対象は「‐」としている。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例の結果と表1に示すとおり、本発明の獣忌避剤は、サルに対して極めて高い忌避効果を発揮することが確認できた。また、製造(発酵)による期間は比較的時間がかかるものの、材料費が安く、大きな労力なく一度に大量生産が可能であり、装置1個当りに必要な量も少ないことから、この獣忌避剤は極めて低コストで提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の獣忌避剤および獣忌避装置は、低コストかつ低労力で導入可能でありながら、所望の忌避対象であるサルに対して極めて有効であるので、山間部や農村地域、都市部や平野部において、サルによる農作物の被害を受けている地域において、サルの忌避剤として好適に利用できる。
【0063】
上述した近年の都市化の進展によるサルの生息地の減少や気候変動によってサルによる農作物被害の頻度が増加していることに加えて、日本の農業従事者の多くは高齢化していることから、忌避剤の購入、柵やネットの設置作業などに必要となるコストや労力の低減は極めて重要な課題となっている。また、高齢化が進むなかで、若年層の農業従事者の育成や支援が重要であり、若者が農業に興味を持ち、安定した収入を得られる環境を整えることが、農業の持続性を確保する上で不可欠である。本発明の獣忌避剤は、有害鳥獣の中でも対策が困難なサルの忌避を、低コストかつ低労力で可能とするものであり、若者や高齢者が安心して農業に取り組むことができる環境の整備に資するものである。
【符号の説明】
【0064】
1 獣忌避剤
2、2’ 獣忌避装置
3 収容容器
4 蓋部
5、5A、5B 開口部
6 取っ手部
7 網状袋
8 シール
【要約】
【課題】低コストかつ低労力で導入可能でありながら、所望の忌避対象であるサルに対して有効である獣忌避剤およびその製造方法、並びに獣忌避装置を提供する。
【解決手段】獣忌避装置2’は、獣忌避剤1と、予め網状袋7に入れられた獣忌避剤1を収容する収納容器3と、収容容器3への雨水の侵入を抑制する蓋部4とを備えてなる。また、収容容器3は、獣忌避剤1と網状袋7を介して接触する接触部の一部に開口部5を有する。さらに、獣忌避剤1は、発酵原料を構成する魚介類由来以外の菌類または酵素が未配合である発酵原料の発酵生成物であり、開口部5から収容容器3の外部に漏出しない硬さの軟質の固形状である。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6