(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20240909BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240909BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240909BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20240909BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240909BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20240909BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20240909BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/46 ZHV
B60W10/08 900
B60W20/00 900
F02D45/00 362
F02D29/06 D
B60L50/61
(21)【出願番号】P 2020203501
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】大渕 浩司
(72)【発明者】
【氏名】菊池 拓史
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-312168(JP,A)
【文献】特開2000-352347(JP,A)
【文献】特開2011-219008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0263382(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00- 10/10
B60W 10/18
B60W 10/26
B60W 10/28
B60W 10/30-20/50
F02D 43/00-45/00
F02D 29/00-29/06
B60L 1/00-3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60L 50/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4ストロークのエンジンと、
発電機と、
前記エンジンのクランクシャフトと前記発電機の回転軸との間に介装され、歯の噛み合いにより動力を伝達する噛合機構と、
前記回転軸の回転角に応じた電気信号を出力するレゾルバと、
前記発電機の制御のために前記レゾルバからの電気信号が入力される制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記レゾルバの電気信号から前記回転角を算出するとともに、前記レゾルバの電気信号から前記回転軸の回転数の変動を求めて、
0~359°CAの範囲内での前記回転数のボトムの回数および360~720°CAの範囲内での前記回転数のボトムの回数から前記エンジンの気筒判別を行い、算出した前記回転角および前記気筒判別の結果から前記エンジンのクランク角を推定する、車両。
【請求項2】
前記制御装置は、推定した前記クランク角を用いて、前記エンジンの瞬時トルクと逆位相の発電機トルクが前記エンジンに加わるように前記発電機を制御する、請求項1に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両(HV:Hybrid Vehicle)などの車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(レシプロエンジン)では、吸気、圧縮、膨張および排気の行程が繰り返されるため、爆発トルク(瞬時トルク)に変動が生じ、そのトルク変動により回転数が変動する。エンジンの回転数の変動が大きくなるにつれて、エンジンが搭載された車両のNV(ノイズバイブレーション)特性が悪化する。
【0003】
この問題に対し、たとえば、エンジンのクランクシャフトの回転角(位相角)であるクランク角0~720°CAの範囲での爆発トルクの波形をその平均値で折り返した波形となるモータトルクのマップをメモリに保持しておき、クランク角に応じたモータトルクを出力することにより、モータトルクでエンジンの爆発トルクの変動を相殺する方策が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンの制御にクランク角の検出が必要となるので、エンジンを制御するE/G-ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)には、クランクシャフトが一定角度回転する度にパルス信号を出力する角度センサと、特定の気筒が一定のクランク角であるときにパルス信号を出力する気筒判別センサとが接続されている。
【0006】
E/G-ECUと発電モータを制御するPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)とは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる通信が可能に接続されているので、PCUは、E/G-ECUで検出されたクランク角をE/G-ECUから通信で受け取ることが可能である。しかし、通信速度に制限があるため、PCUが受け取るクランク角には、実際のクランク角に対して遅れが生じる。角度センサおよび気筒判別センサのパルス信号がPCUに直に入力されるように、角度センサおよび気筒判別センサをPCUに接続すれば、通信による遅れの問題は回避できるが、新規の配線によるコストの上昇やその配線の断線のリスクが新たに生じる。
【0007】
本発明の目的は、発電機を制御する制御装置でエンジンのクランク角を精度よく推定できる、車両を提供することである。
【0008】
また、本発明の他の目的は、エンジンの回転数の変動を抑制できる、車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係る車両は、エンジンと、発電機と、エンジンのクランクシャフトと発電機の回転軸との間に介装され、歯の噛み合いにより動力を伝達する噛合機構と、回転軸の回転角に応じた電気信号を出力するレゾルバと、発電機の制御のためにレゾルバからの電気信号が入力される制御装置とを備え、制御装置は、レゾルバの電気信号から回転角を算出するとともに、レゾルバの電気信号から回転軸の回転数の変動を求めて、当該変動からエンジンの気筒判別を行い、算出した回転角および気筒判別の結果からエンジンのクランク角を推定する。
【0010】
この構成によれば、制御装置には、発電機を制御するため、レゾルバから発電機の回転軸の回転角(以下、「発電機回転角」という。)に応じた電気信号が入力される。制御装置では、レゾルバの電気信号から発電機回転角が算出される。また、制御装置では、レゾルバの電気信号から発電機の回転軸の回転数(以下、「発電機回転数」という。)の変動が求められて、その発電機回転数の変動からエンジンの気筒判別が行われる。そして、発電機回転角および気筒判別の結果から、エンジンのクランク角が推定される。
【0011】
エンジンの爆発トルク(瞬時トルク)の変動によりエンジン回転数が変動し、そのエンジン回転数の変動に伴って、発電機回転数が変動する。たとえば、エンジンが3気筒4ストロークエンジンである場合を例にとると、1番気筒の排気上死点(TDC:Top Dead Center)がクランク角の基準(0°CA)とされ、1番気筒、2番気筒および3番気筒がこの順序で点火されるとした場合、1サイクルでクランク角が0°~720°CAの範囲で変化し、各気筒間の行程位相差が240°CAであるから、0°~359°CAの範囲内で1番気筒と3番気筒とが点火され、360°CA~720°CAの範囲内で2番気筒が点火される(点火時期は進角)。そのため、0°~359°CAの範囲内では、発電機回転数のボトムが2回生じ、360°CA~720°CAの範囲内では、発電機回転数のボトムが1回生じる。したがって、発電機回転数の変動から気筒判別(各気筒のエンジンの動作行程の判別)を行うことができる。
【0012】
そして、エンジンおよび発電機は、発電機回転角の基準とクランク角の基準とを合わせて組み付けられるので、発電機回転角と気筒判別の結果とから、エンジンのクランク角を精度よく推定することができる。
【0013】
しかも、レゾルバの電気信号は、クランク角の推定以外の他の用途で制御装置に入力されている。したがって、クランク角の推定のために、レゾルバの電気信号を制御装置に入力する配線を新規に設ける必要がない。よって、新規の配線によるコストの上昇やその配線の断線のリスクの発生を回避することができる。
【0014】
噛合機構は、エンジンのクランクシャフトおよび発電機の回転軸の一方に設けられたオススプラインの歯とそれらの他方に設けられたメススプラインの歯とが噛み合うことにより動力を伝達する機構であってもよいし、エンジンのクランクシャフトに相対回転不能に支持されたギヤの歯と発電機の回転軸に相対回転不能に支持されたギヤの歯とが噛み合うことにより動力を伝達する機構であってもよい。
【0015】
制御装置は、推定したクランク角を用いて、エンジンの瞬時トルクと逆位相の発電機トルクがエンジンに加わるように発電機を制御することが好ましい。
【0016】
この制御により、エンジンの爆発トルクの変動を逆位相の発電機トルクで相殺することができる。その結果、エンジンの回転数の変動を抑制することができ、車両のNV(ノイズバイブレーション)特性を向上することができる。
【0017】
本発明の他の局面に係る車両は、エンジンと、エンジンの動力で発電する発電機と、走行用の動力を発生する駆動モータと、発電機を制御する制御装置とを備える車両であって、制御装置は、車両の走行状態にかかわらず、エンジンの爆発トルクと逆位相の発電機トルクがエンジンに加わるように発電機を制御する。
【0018】
この構成によれば、エンジンの運転中は、車両の走行状態にかかわらず、エンジンの爆発トルクの変動を逆位相の発電機トルクで相殺することができる。その結果、エンジンの回転数の変動を抑制することができ、車両のNV特性を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発電機を制御する制御装置でエンジンのクランク角を精度よく推定することができる。また、その推定されたクランク角に応じた爆発トルクと同じ大きさで逆向きの発電機トルクが発電機からエンジンに加えられることにより、エンジンの回転数の変動を抑制することができ、車両のNV特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両の構成を示すブロック図である。
【
図2】エンジンのクランク角と爆発トルク(E/Gトルク)との関係を示す図である。
【
図3】エンジンのクランク角と発電モータが出力するMG1トルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
<ハイブリッド車両>
図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両1の構成を示すブロック図である。
【0023】
ハイブリッド車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステム2を搭載している。ハイブリッドシステム2には、エンジン(E/G)11、発電モータ(MG1)12、駆動モータ(MG2)13、バッテリ14およびPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)15が含まれる。
【0024】
エンジン11は、たとえば、3気筒4ストロークのガソリンエンジンである。エンジン11には、燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。
【0025】
発電モータ12は、たとえば、永久磁石同期モータである。
【0026】
エンジン11のクランクシャフト21と発電モータ12のモータ軸22とは、歯の噛み合いにより動力を伝達する噛合機構23を介して連結されている。噛合機構23は、たとえば、クランクシャフト21およびモータ軸22の一方に設けられたオススプラインと、それらの他方に設けられたメススプラインとを含み、オススプラインの歯とメススプラインの歯とが噛み合うことにより、クランクシャフト21とモータ軸22との間で相互に動力を伝達可能にする機構である。
【0027】
駆動モータ13は、たとえば、発電モータ12よりも大型の永久磁石同期モータである。駆動モータ13のモータ軸は、ハイブリッド車両1の駆動系16に連結されている。駆動系16には、デファレンシャルギヤが含まれており、駆動モータ13の動力は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の前輪または後輪からなる駆動輪17に分配されて伝達される。これにより、左右の駆動輪17が回転し、ハイブリッド車両1が前進または後進する。
【0028】
バッテリ14は、複数の二次電池(たとえば、リチウムイオン電池)を組み合わせた組電池である。バッテリ14は、たとえば、約200~350V(ボルト)の直流電力を出力する。
【0029】
PCU15は、発電モータ12および駆動モータ13の駆動を制御するためのユニットである。PCU15には、図示されていないが、発電モータ12の駆動回路であるMG1インバータと、駆動モータ13の駆動回路であるMG2インバータと、MG1インバータおよびMG2インバータの直流側に接続されるとともに、バッテリ14に接続されて、MG1インバータおよびMG2インバータとバッテリ14との間で直流電圧を昇降圧するコンバータとが含まれる。
【0030】
また、ハイブリッド車両1には、ハイブリッドシステム2のためのECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)として、HV-ECU31およびE/G-ECU32が搭載されている。
【0031】
PCU15、HV-ECU31およびE/G-ECU32には、マイコン(マイクロコントローラユニット)が内蔵されている。マイコンは、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリを備えている。
【0032】
また、PCU15、HV-ECU31およびE/G-ECU32は、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信(以下、「CAN通信」という。)が可能に接続されている。
【0033】
HV-ECU31は、ハイブリッドシステム2を統括的に制御するECUであり、CAN通信により、PCU15およびE/G-ECU32から各種の情報を受け取り、PCU15およびE/G-ECU32にそれぞれモータ制御指令およびエンジン制御指令を送信する。
【0034】
PCU15には、レゾルバ33が接続されている。レゾルバ33は、発電モータ12に取り付けられて、発電モータ12のモータ軸22の回転角の変化を2相の交流電圧の変化として出力する。レゾルバ33には、レゾルバ33が出力する2相の交流電圧のアナログ信号をデジタル信号に変換するR/D(レゾルバ/デジタル)変換器が付随して設けられており、PCU15のマイコンには、モータ制御に必要な信号として、R/D変換器から出力されるデジタル信号がレゾルバ信号として入力される。PCU15のマイコンは、HV-ECU31から送信されるモータ制御指令に従って、MG1インバータを介して発電モータ12の駆動を制御し、MG2インバータを介して駆動モータ13の駆動を制御する。また、必要に応じて、PCU15のマイコンは、コンバータによる直流電圧の昇降圧を制御する。
【0035】
E/G-ECU32には、クランク角センサ34が接続されている。クランク角センサ34は、クランクシャフト21の回転角に応じた検出信号を出力する。E/G-ECU32のマイコンには、クランク角センサ34の検出信号が入力される。PCU15のマイコンは、HV-ECU31から送信されるエンジン制御指令に従って、インジェクタによる燃料の噴射量および噴射タイミングなど、電子スロットルバルブ、インジェクタおよび点火プラグの動作を制御する。
【0036】
HV-ECU31からのモータ制御指令およびエンジン制御指令に従って、PCU15およびE/G-ECU32が制御を行うことにより、エンジン11の始動時には、バッテリ14から出力される直流電力がコンバータにより昇圧されて、昇圧された直流電力がMG1インバータで交流電力に変換され、交流電力が発電モータ12に供給される。これにより、発電モータ12が力行運転されて、エンジン11が発電モータ12によりモータリング(クランキング)される。モータリングによりエンジン11のクランクシャフト21の回転数が始動に必要な回転数まで上昇した状態で、電子スロットルバルブ、インジェクタおよび点火プラグが制御されることにより、エンジン11が始動する。
【0037】
また、ハイブリッド車両1の走行時には、駆動モータ13が力行運転されて、駆動モータ13が動力を発生する。
【0038】
発電モータ12および駆動モータ13に要求される出力の合計がバッテリ14の出力より小さいときには、ハイブリッド車両1がEV走行する。すなわち、エンジン11が停止されて、発電モータ12による発電が行われず、バッテリ14から駆動モータ13に電力が供給されて、その電力で駆動モータ13が駆動される。
【0039】
一方、発電モータ12および駆動モータ13に要求される出力の合計がバッテリ14の出力を上回るときには、ハイブリッド車両1がHV走行する。すなわち、エンジン11が運転状態にされて、発電モータ12が発電運転(回生運転)されることにより、エンジン11の動力が発電モータ12で交流電力に変換される。そして、発電モータ12からの交流電力がMG1インバータで直流電力に変換され、MG1インバータから出力される直流電力がMG2インバータで交流電力に変換されて、その交流電力が駆動モータ13に供給されることにより、駆動モータ13が駆動される。
【0040】
バッテリ14の残容量が所定以下に低下すると、駆動モータ13の駆動/停止にかかわらず、エンジン11が運転状態にされて、発電モータ12が発電運転される。このとき、発電モータ12からの交流電力がMG1インバータで直流電力に変換され、MG1インバータから出力される直流電力がコンバータで降圧されて、降圧後の直流電力がバッテリ14に供給されることにより、バッテリ14が充電される。
【0041】
ハイブリッド車両1の減速時には、駆動モータ13が回生運転されて、駆動輪17から駆動モータ13に伝達される動力が交流電力に変換される。このとき、駆動モータ13が走行駆動系の抵抗となり、その抵抗がハイブリッド車両1を制動する制動力(回生制動力)として作用する。このとき、PCU15では、駆動モータ13からMG2インバータに供給される交流電力がMG2インバータで直流電力に変換され、MG2インバータから出力される直流電力がコンバータで降圧される。そして、その降圧後の直流電力がバッテリ14に供給されることにより、バッテリ14が充電される。
【0042】
<クランク角検出>
図2は、エンジン11のクランク角と爆発トルク(E/Gトルク)との関係を示す図である。
【0043】
エンジン11の運転中は、吸気、圧縮、膨張および排気の4つの行程が繰り返される。エンジン11の各気筒の爆発トルク(瞬時トルク)は、膨張行程で急峻に上昇して、排気行程で減少し、吸気行程でほぼ0となり、圧縮行程でマイナスになるといった変化を示す。エンジン11の爆発トルクの変動により、エンジン11のクランクシャフト21の回転数が変動する。エンジン11のクランクシャフト21と発電モータ12のモータ軸22とが噛合機構23を介して連結されているので、クランクシャフト21の回転数の変動と同期して、モータ軸22の回転数が変動する。
【0044】
PCU15では、マイコンにより、レゾルバ信号からモータ軸22の回転角(以下、「モータ回転角」という。)が算出される。また、PCU15では、マイコンにより、レゾルバ信号からモータ軸22の回転数(以下、「モータ回転数」という。)の変動が求められて、そのモータ回転数の変動からエンジン11の気筒判別が行われる。そして、モータ回転角および気筒判別の結果から、エンジン11のクランク角が推定される。
【0045】
たとえば、3気筒4ストロークのエンジン11の1番気筒の排気上死点(TDC:Top Dead Center)がクランク角の基準(0°CA)とされ、1番気筒、2番気筒および3番気筒がこの順序で点火されるとした場合、1サイクルでクランク角が0°~720°CAの範囲で変化し、各気筒間の行程位相差が240°CAであるから、0°~359°CAの範囲内で1番気筒と3番気筒とが点火され、360°CA~720°CAの範囲内で2番気筒が点火される(点火時期は進角)。そのため、0°~359°CAの範囲内では、モータ回転数のボトムが2回現れ、360°CA~720°CAの範囲内では、モータ回転数のボトムが1回現れる。したがって、モータ軸22が360°回転する間にモータ回転数のボトムが2回現れた場合、その間に点火された気筒が1番気筒および3番気筒であると判別することができ、モータ軸22が360°回転する間にモータ回転数のボトムが1回現れた場合、その間に点火された気筒が2番気筒であると判別することができる。
【0046】
エンジン11のクランクシャフト21と発電モータ12のモータ軸22とは、クランク角の基準(0°CA)とモータ回転角の基準(0°)とを一致させた状態で、噛合機構23を介して連結されている。したがって、PCU15では、モータ回転角と気筒判別の結果とから、エンジン11のクランク角を精度よく推定することができる。
【0047】
<トルク変動抑制>
図3は、エンジン11のクランク角と発電モータ12が出力するMG1トルクとの関係を示す図である。
【0048】
PCU15に内蔵されているマイコンの不揮発性メモリには、エンジン11のクランク角と爆発トルク(E/Gトルク)との関係がマップの形態で記憶されている。
図3では、エンジン11のクランク角と爆発トルクとの関係を示す特性線が破線で示されている。PCU15のマイコンでは、エンジン11の運転中、ハイブリッド車両1の走行状態にかかわらず、不揮発性メモリに記憶されているマップから、モータ回転角および気筒判別の結果から推定したクランク角に応じた爆発トルクが読み出される。そして、エンジン11のクランク角に応じた爆発トルクと絶対値が同じで正負の異なるトルクが発電モータ12からMG1トルクとして出力されるように、発電モータ12の発電運転が制御される。その結果、発電モータ12から出力されるMG1トルクは、
図3に実線で示されるように、エンジン11のクランク角に応じて爆発トルクと逆位相で変化する。
【0049】
<作用効果>
以上のように、PCU15では、レゾルバ33のレゾルバ信号からモータ回転角が算出されるとともに、モータ回転数の変動が求められて、そのモータ回転数の変動からエンジン11の気筒判別が行われる。さらに、モータ回転角および気筒判別の結果から、エンジン11のクランク角が推定される。そして、その推定されたクランク角に応じた爆発トルクと同じ大きさで逆向きのMG1トルクが発電モータ12から出力されるように、発電モータ12が制御される。この制御により、エンジン11の爆発トルクの変動を逆位相のMG1トルクで相殺することができる。その結果、エンジン11の回転数の変動を抑制することができ、ハイブリッド車両1のNV(ノイズバイブレーション)特性を向上することができる。
【0050】
レゾルバ33のレゾルバ信号は、PCU15でクランク角の推定が行われるか否かにかかわらず、発電モータ12を制御するためにPCU15に入力される。したがって、クランク角の推定のために、レゾルバ信号をPCU15に入力する配線を新規に設ける必要がない。よって、新規の配線によるコストの上昇やその配線の断線のリスクの発生を回避することができる。その結果、ハイブリッド車両1の軽量化および信頼性を向上することができる。
【0051】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0052】
たとえば、前述の実施形態では、シリーズ方式のハイブリッドシステム2を搭載したハイブリッド車両1を取り上げたが、クランク角の推定の手法は、ハイブリッド車両1に限らず、エンジンおよびエンジンに直結される発電機を搭載した車両であれば、エンジンのみを走行用の駆動源とするコンベンショナルな車両に適用されてもよい。
【0053】
また、エンジン11は、3気筒4ストロークのガソリンエンジンであるとしたが、3気筒に限らず、4気筒以上であってもよいし、2気筒以下であってもよい。ただし、気筒数が奇数である方が前述の気筒判別の手法によって良好に気筒を判別することができる。また、エンジン2のストローク数は、4ストロークに限らず、たとえば、2ストロークであってもよい。
【0054】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1:ハイブリッド車両(車両)
11:エンジン
12:発電モータ(発電機)
13:駆動モータ
15:PCU(制御装置)
21:クランクシャフト
22:モータ軸(回転軸)
23:噛合機構
33:レゾルバ