(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20240909BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20240909BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20240909BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20240909BHJP
F04C 18/02 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16C33/20 Z
F04B39/00 104A
F04C29/00 A
F04C18/02 311W
F04C18/02 311J
(21)【出願番号】P 2022535278
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2021024943
(87)【国際公開番号】W WO2022009769
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020116358
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓志
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-132163(JP,A)
【文献】特開平10-339286(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110925426(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
F16C 33/00-33/28
F04B 39/00
F04C 29/00
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環形状を成し、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であって、
前記摺動面は、該摺動面に沿って円環状を成す動圧発生溝と、前記動圧発生溝と該摺動面の外部空間とを連通する複数の導通溝と、を備え、
前記導通溝は、一の導通溝と前記摺動面の中心点とを通る仮想線上に他の導通溝が交わらない配置関係となって
おり、前記摺動面のうち前記一の導通溝と前記中心点を挟んで対向する領域にランドが形成され、該ランドにより前記動圧発生溝と前記外部空間とが隔離されていることを特徴とする摺動部品。
【請求項2】
前記導通溝は周方向に奇数個等配されている請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記導通溝は前記動圧発生溝よりも深い請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記摺動面の内径側の外部空間と外径側の外部空間とは圧力差があり、前記導通溝は高圧側の外部空間に連通している請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項5】
前記動圧発生溝を区画する少なくとも一方の側壁は、周方向に対して交差する交差面を複数有している請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
前記交差面は、内径側の側壁に形成されている請求項5に記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心機構を含む回転機械に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業分野で利用されている回転駆動を伴う機械は、中心軸が定位置に保持されたまま回動する回転機械だけではなく、中心軸が偏心を伴って回転する回転機械がある。偏心を伴って回転する回転機械の一つにスクロール圧縮機等があり、この種の圧縮機は、端板の表面に渦巻状のラップを備える固定スクロール、端板の表面に渦巻状のラップを備える可動スクロールからなるスクロール圧縮機構、回転軸を偏心回転させる偏心機構等を備え、可動スクロールを回転軸の回転により固定スクロールに対して偏心回転を伴わせながら相対摺動させることにより、両スクロールの外径側の低圧室から供給された流体を加圧し、固定スクロールの中央に形成される吐出孔から高圧の流体を吐出させる機構となっている。
【0003】
可動スクロールを固定スクロールに対して偏心回転を伴わせながら相対的に摺動させるメカニズムを利用したこれらスクロール圧縮機は、圧縮効率が高いだけではなく、低騒音であることから、例えば冷凍サイクル等多岐に利用されているが、両スクロール間の軸方向隙間からの冷媒漏れが発生するといった問題があった。特許文献1に示されるスクロール圧縮機は、可動スクロールの背面側において可動スクロールと相対摺動するスラストプレートを備え、このスラストプレートの背面側に形成される背圧室にスクロール圧縮機構により圧縮された冷媒の一部を供給し、可動スクロールを固定スクロールに向けて押圧することにより、冷媒の圧縮時において両スクロール間の軸方向隙間からの冷媒漏れを低減できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-61208号公報(第5頁~第6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるスクロール圧縮機においては、スクロール圧縮機構により圧縮される冷媒の一部を利用しスラストプレートを介して可動スクロールを背面側から固定スクロールに向けて押圧させていることから、両スクロール間の軸方向隙間からの冷媒漏れを低減できるものの、両スクロール間、特に可動スクロールとスラストプレートとの偏心回転を伴う摺動面において、軸方向両側から押圧力が作用するため摩擦抵抗が大きくなり、可動スクロールの円滑な動作が阻害され圧縮効率を高められないといった問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、偏心回転を伴う摺動面間の摩擦抵抗を安定して低減することができる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
円環形状を成し、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であって、
前記摺動面は、該摺動面に沿って円環状を成す動圧発生溝と、前記動圧発生溝と該摺動面の外部空間とを連通する複数の導通溝と、を備え、
前記導通溝は、一の導通溝と前記摺動面の中心点とを通る仮想線上に他の導通溝が交わらない配置関係となっている。
これによれば、摺動面と相手摺動面との偏心回転を伴う相対摺動により、一の導通溝が外部空間に向けて移動したとき、または相手摺動面が一の導通溝上を外部空間とは径方向反対側に向けて移動したときには、外部空間の流体が一の導通溝を通じて動圧発生溝内に導入され、動圧発生溝における一の導通溝近傍の部位で動圧が発生する。また、一の導通溝と摺動面の中心点とを通る仮想線上に他の導通溝が配置されず、動圧発生溝のみが存在するため、動圧発生溝における一の導通溝と径方向に対向する部位でも動圧が発生する。すなわち、一の導通溝近傍の部位とその径方向対向部位とで動圧が発生し、摺動面同士を相対的な傾きが小さい状態で離間させ、その状態を摺動面の偏心回転角度によらず維持することができる。これにより、摺動面間における潤滑性が向上し、摺動面の摩擦抵抗を安定して低減することができる。
【0008】
前記導通溝は周方向に奇数個等配されていてもよい。
これによれば、径方向に対向する導通溝同士が摺動面の中心点を通る仮想線上に配置されない状態で導通溝を周方向に等配できるので、摺動面の偏心回転角度によらず摺動面同士を相対的な傾きが小さい状態で摺動面を離間させることができる。
【0009】
前記導通溝は前記動圧発生溝よりも深くてもよい。
これによれば、流体は動圧発生溝よりも深い導通溝に保持されるので、流体は導通溝から動圧発生溝に確実に供給される。
【0010】
前記摺動面の内径側の外部空間と外径側の外部空間とは圧力差があり、前記導通溝は高圧側の外部空間に連通していてもよい。
これによれば、導通溝から動圧発生溝に高い圧力の流体が導入されることから摺動面同士を離間させやすい。
【0011】
前記動圧発生溝を区画する少なくとも一方の側壁は、周方向に対して交差する交差面を複数有していてもよい。
これによれば、摺動面の偏心摺動における特定の区間で、相手摺動部品の摺動面が交差面と交差する方向に移動するので、交差面によって動圧を生じさせることができる。
【0012】
前記交差面は、内径側の側壁に形成されていてもよい。
これによれば、動圧発生溝の内側から見て外径側に凸状を成す曲面である動圧発生溝の内径側の側壁に交差面が設けられている。すなわち動圧発生溝内の流体が凸状を成す曲面によって周方向に分散されやすく、外径側の側壁に比べ、動圧を発生させにくい構造の内径側の側壁に交差面が設けられていれる。そのため、動圧発生溝の内径側で発生する動圧の総和が高められ、動圧発生溝の内径側と外径側で発生する圧力をバランスさせやすい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る実施例1の摺動部品としてのサイドシールが適用されるスクロール圧縮機を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施例1のサイドシールの摺動面を示す図である。
【
図4】本発明の実施例1のサイドシールの摺動面とスラストプレートの摺動面との相対摺動を示す図である。尚、(a)を開始位置として、(b)は90度、(c)は180度、(d)は270度まで回転軸が偏心回転したときに相対摺動するサイドシールの摺動面とスラストプレートの摺動面との位置関係を示している。
【
図5】
図4(a)から
図4(b)の状態に向かって偏心回転するサイドシールの摺動面において、動圧発生溝内に発生する動圧の発生箇所を示す図である。
【
図6】本発明に係る実施例2の動圧発生溝を示す図である。
【
図7】本発明に係る実施例3の動圧発生溝を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1に係る摺動部品につき、
図1から
図5を参照して説明する。尚、説明の便宜上、図面において、摺動部品の摺動面に形成される溝等にドットを付している。
【0016】
本発明の摺動部品は、偏心機構を含む回転機械、例えば自動車等の空調システムに用いられる流体としての冷媒を吸入、圧縮、吐出するスクロール圧縮機Cに適用される。尚、本実施例において、冷媒は気体であり、ミスト状の潤滑油が混合した状態となっている。
【0017】
先ず、スクロール圧縮機Cについて説明する。
図1に示されるように、スクロール圧縮機Cは、ハウジング1と、回転軸2と、インナーケーシング3と、スクロール圧縮機構4と、摺動部品としてのサイドシール7と、スラストプレート8と、駆動モータMと、から主に構成されている。
【0018】
ハウジング1は、円筒状のケーシング11と、ケーシング11の開口を閉塞するカバー12と、から構成されている。ケーシング11の一方側の開口はカバー12により閉塞されている。ケーシング11の他方側の開口は駆動モータMにより閉塞されている。
【0019】
ケーシング11の内部には、低圧室20と、高圧室30と、背圧室50と、が形成されている。低圧側の外部空間としての低圧室20には、図示しない冷媒回路から吸入口10を通して低圧の冷媒が供給されている。高圧室30には、スクロール圧縮機構4により圧縮された高圧の冷媒が吐出されている。高圧側の外部空間としての背圧室50には、スクロール圧縮機構4により圧縮された冷媒の一部が潤滑油と共に供給されている。尚、背圧室50は、ケーシング11の内部に収容される円筒状のインナーケーシング3の内部に形成されている。
【0020】
カバー12には、吐出連通路13が形成されている。吐出連通路13は、図示しない冷媒回路と高圧室30とを連通している。また、カバー12には、高圧室30と背圧室50とを連通する背圧連通路14の一部が吐出連通路13から分岐して形成されている。尚、吐出連通路13には、冷媒から潤滑油を分離するオイルセパレータ6が設けられている。
【0021】
インナーケーシング3は、その軸方向端部をスクロール圧縮機構4を構成する固定スクロール41の端板41aに当接させた状態で固定されている。また、インナーケーシング3の側壁には、径方向に貫通する吸入連通路15が形成されている。すなわち、低圧室20は、インナーケーシング3の外部から吸入連通路15を介してインナーケーシング3の内部まで形成されている。吸入連通路15を通ってインナーケーシング3の内部まで供給された冷媒は、スクロール圧縮機構4に吸入される。
【0022】
スクロール圧縮機構4は、固定スクロール41と、可動スクロール42と、から主に構成されている。固定スクロール41は、カバー12に対して密封状に固定されている。可動スクロール42は、インナーケーシング3の内部に収容されている。
【0023】
固定スクロール41は、金属製であり、渦巻状のラップ41bを備えている。渦巻状のラップ41bは、円板状の端板41aの表面、すなわち端板41aから可動スクロール42に向けて突設されている。また、固定スクロール41には、端板41aの背面、すなわち端板41aのカバー12に当接する端面の内径側が該カバー12とは反対方向に凹む凹部41cが形成されている。この凹部41cとカバー12とから高圧室30が画成されている。
【0024】
可動スクロール42は、金属製であり、渦巻状のラップ42bを備えている。渦巻状のラップ42bは、円板状の端板42aの表面、すなわち端板42aから固定スクロール41に向けて突設されている。また、可動スクロール42には、端板42aの背面の中央から突出するボス42cが形成されている。ボス42cには、回転軸2に形成される偏心部2aが相対回転可能に挿嵌される。尚、本実施例においては、回転軸2の偏心部2aと、回転軸2から外径方向に突出するカウンタウエイト部2bとにより、回転軸2を偏心回転させる偏心機構が構成されている。
【0025】
回転軸2が駆動モータMにより回転駆動されると、偏心部2aが偏心回転し、可動スクロール42が固定スクロール41に対して姿勢を保った状態で偏心回転を伴って相対摺動する。このとき、固定スクロール41に対して可動スクロール42は偏心回転し、この回転に伴いラップ41b、42bの接触位置は回転方向に順次移動し、ラップ41b、42b間に形成される圧縮室40が中央に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより、スクロール圧縮機構4の外径側に形成される低圧室20から圧縮室40に吸入された冷媒が圧縮されていき、最終的に固定スクロール41の中央に設けられる吐出孔41dを通して高圧室30に高圧の冷媒が吐出される。
【0026】
次いで、本実施例における摺動部品としてのサイドシール7について説明する。
図2および
図3に示されるように、サイドシール7は、樹脂製であり、断面矩形状かつ軸方向視円環状を成している。また、サイドシール7は、可動スクロール42の端板42aの背面に固定されている(
図1参照)。尚、
図2では、サイドシール7の摺動面7aが図示されている。
【0027】
サイドシール7には、スラストプレート8に形成される摺動面8a(
図1参照)に当接する摺動面7aが形成されている。
【0028】
図2に示されるように、サイドシール7の摺動面7aは、動圧発生溝70と、複数の導通溝71と、ランド72と、ランド73と、を備えている。動圧発生溝70は、円環状をなす摺動面7aの中心点Qを中心とした円状に形成されている。導通溝71は、動圧発生溝70の内径側に複数設けられている。ランド72は、動圧発生溝70よりも内径側に設けられている。ランド73は、動圧発生溝70よりも外径側に設けられている。
【0029】
図2及び
図3に示されるように、動圧発生溝70は、内側壁70aと、外側壁70bと、底面70cと、により区画されている。内側壁70aは、ランド72の平坦な表面72aに直交して深さ方向に延びる内径側の側壁として形成されている。外側壁70bは、ランド73の平坦な表面73aに直交して深さ方向に延びる外径側の側壁として形成されている。底面70cは、同一面上に形成された表面72a,73aと平行に延び、内側壁70a及び外側壁70bの端部同士を連結して形成されている。
【0030】
この動圧発生溝70の径方向の幅寸法L1(すなわち、内側壁70a及び外側壁70bの離間幅)は、動圧発生溝70の深さ寸法L2よりも大きく形成されている(L1>L2)。尚、動圧発生溝70の幅寸法は深さ寸法よりも大きく形成されていれば、動圧発生溝70の幅寸法及び深さ寸法は自由に変更できるが、幅寸法L1は深さ寸法L2の10倍以上であることが好ましい。
【0031】
導通溝71は、動圧発生溝70の内側壁70aからサイドシール7の内周面まで延び内径側に開放されている。すなわち、動圧発生溝70は、導通溝71を通じて摺動面7aの内径側の外部空間としての背圧室50(
図1参照)に連通している。
【0032】
また、導通溝71は、摺動面7aの周方向において奇数個(本実施例では5個)等配されている。具体的には、各導通溝71は、一の導通溝71と中心点Qとを通る仮想線LNに他の導通溝71が交わらない配置関係となっている。言い換えれば、各導通溝71の中心点Qを基準とした対称位置には、別の導通溝71が設けられていない。
【0033】
図3に示されるように、導通溝71の深さ寸法L3は、動圧発生溝70の深さ寸法L2よりも深く形成されている(L2<L3)。尚、導通溝71の深さ寸法が動圧発生溝70の深さ寸法よりも深く形成されていることが好ましく、動圧発生溝70及び導通溝71の深さ寸法は自由に変更できるが、深さ寸法L3は深さ寸法L2の10倍以上であることが特に好ましい。
【0034】
図1を参照し、スラストプレート8は、金属製であり、円環状を成している。また、スラストプレート8には、シールリング43が固定されている。また、シールリング43は、インナーケーシング3の内側面に当接している。これにより、スラストプレート8は、サイドシール7を介して可動スクロール42の軸方向の荷重を受けるスラスト軸受として機能している。
【0035】
また、サイドシール7とシールリング43は、インナーケーシング3の内部において、可動スクロール42の外径側に形成される低圧室20と可動スクロール42の背面側に形成される背圧室50とを区画している。背圧室50は、インナーケーシング3と回転軸2の間に形成された密閉区間である。シールリング44は、インナーケーシング3の他方の端の中央に設けられる貫通孔3aの内周に固定され、貫通孔3aに挿通される回転軸2に密封状に摺接する。また、高圧室30と背圧室50とを連通する背圧連通路14は、カバー12、固定スクロール41、インナーケーシング3に亘って形成されている。また、背圧連通路14には、図示しないオリフィスが設けられており、オリフィスにより減圧調整された高圧室30の冷媒がオイルセパレータ6で分離された潤滑油と共に背圧室50に供給されるようになっている。このとき、背圧室50内の圧力は、低圧室20内の圧力よりも高くなるように調整される。尚、インナーケーシング3には、径方向に貫通し、低圧室20と背圧室50とを連通する圧力抜き孔16が形成されている。また、圧力抜き孔16内には、圧力調整弁45が設けられている。圧力調整弁45は、背圧室50の圧力が設定値を上回ることで開放するようになっている。
【0036】
また、スラストプレート8の中央の貫通孔8bには、可動スクロール42のボス42cが挿通されている。貫通孔8bは、ボス42cに挿嵌される回転軸2の偏心部2aによる偏心回転を許容できる径の大きさに形成されている。すなわち、サイドシール7の摺動面7aは、回転軸2の偏心回転によりスラストプレート8の摺動面8aに対して偏心回転を伴って相対摺動できるようになっている(
図4参照)。
【0037】
尚、
図4においては、
図4(a)~(d)は、固定スクロール41側から見た場合のボス42cの黒矢印で示す回転軌跡のうち、
図4(a)を時計周り方向の基準として、ボス42cがそれぞれ90度、180度、270度回転した状態を示している。また、サイドシール7の摺動面7aとスラストプレート8の摺動面8aとの摺動領域をドットにより模式的に示している。また、説明の便宜上、回転軸2については、ボス42cに挿嵌される偏心部2aのみを図示し、偏心機構を構成するカウンタウエイト部2b等の図示を省略している。
【0038】
このように、サイドシール7は、スラストプレート8の摺動面8aに対して偏心回転を伴って相対摺動する摺動面7aを有する摺動部品である。
【0039】
次に、スラストプレート8に対するサイドシール7の相対摺動時における動圧の発生について、
図5を参照して説明する。尚、
図5では、サイドシール7が
図4(a)の状態から
図4(b)の状態に向かって移動するときの態様を示している。また、
図5では、摺動面7aを軸方向から見た場合のサイドシール7が図示されており、拡大部に示される丸印は、動圧発生溝70において圧力が高くなる箇所を示している。また、動圧発生溝70及び導通溝71内には、回転停止時であっても冷媒および潤滑油等を含む流体が貯留されている。
【0040】
また、
図5では、右斜め上に配置される導通溝を導通溝71Aと称し、導通溝71Aを基準として時計回り方向に導通溝71B,71C,71D,71Eと称する。
【0041】
図5に示されるように、サイドシール7が白矢印方向に移動しようとすると、動圧発生溝70及び各導通溝71内の流体が白矢印に対して相対的に反対方向に向かって移動する。
【0042】
これにより、導通溝71Aの近傍の外側壁70bでは、動圧が発生し、摺動面7a,8a同士がわずかに離間され、流体による流体膜が形成される。
【0043】
この動圧は、外側壁70bと摺動面8aとの相対的な偏心回転角度の関係により、外側壁70bにおける導通溝71Aの近傍の部位で最も圧力が高くなり、動圧発生溝70の周方向に向かうにつれて漸次小さくなる。前記動圧は、導通溝71B,71Eの近傍の外側壁70bでも僅かに発生し、導通溝71A近傍から時計周りに90度、270度回転した位置ではほとんど発生しないようになっている。
【0044】
また、動圧発生溝70には、白矢印方向に向けて内径側が開口する導通溝71A、すなわち背圧室50に向けて移動する導通溝71Aを通じて背圧室50(
図1参照)から高圧の流体が導入されるので、導通溝71Aの近傍の外側壁70bで高圧の流体を用いて大きな動圧を発生させることができる。
【0045】
尚、導通溝71B,71Eでは、背圧室50から高圧の流体僅かに導入される。
【0046】
また、導通溝71Aと中心点Qとを通る仮想線LN上には、他の導通溝71B~71Eが配置されておらず、導通溝71Aが形成された摺動面7aの領域αとは中心点Qを基準とした対称位置にある摺動面7aの領域βには、内径側のランド72及び外径側のランド73を除いて動圧発生溝70のみが存在する。
【0047】
そのため、摺動面7aの領域βでは、内径側の内側壁70aで動圧が発生し、摺動面7a,8a同士がわずかに離間され、流体による流体膜が形成される。
【0048】
この動圧は、内側壁70aと摺動面8aとの相対的な偏心回転角度の関係により、内側壁70aにおける摺動面7aの領域β近傍の部位で最も圧力が高い。また、この動圧は、動圧発生溝70の周方向に向かうにつれて漸次小さくなり、摺動面7aの領域β近傍から時計周りに90度、270度回転した位置ではほとんど動圧が発生しないようになっている。
【0049】
尚、前記動圧は、導通溝71C,71Dの近傍では、動圧発生溝70内の流体が導通溝71C,71Dを通じて背圧室50(
図1参照)に流出するため、導通溝71C,71Dの近傍の内側壁70aでは、ほとんど動圧が発生しない。
【0050】
また、導通溝71A近傍位置の外径側の外側壁70bは、軸方向視において動圧発生溝70内の流体が流れる方向に対して凹状を成す曲面であるため、サイドシール7が白矢印方向に移動したときには、動圧発生溝70内の流体を保持でき、動圧を発生させやすい構造となっている。
【0051】
また、領域βの内側壁70aは、軸方向視において動圧発生溝70内の流体が流れる方向に対して凸状を成す曲面であるため、サイドシール7が白矢印方向に移動したときには、動圧発生溝70内の流体が周方向に分散され、外側壁70bに比べ動圧を発生させにくい構造となっている。
【0052】
したがって、外側壁70bで生じる動圧は、内側壁70aで生じる動圧よりも大きくなる。
【0053】
このように、スラストプレート8に対してサイドシール7が偏心回転を伴って相対摺動したときには、動圧発生溝70における外側壁70bと、動圧発生溝70における内側壁70aと、に動圧が発生して、摺動面7a,8a同士の相対的な傾きを抑制した状態で離間させることができる。
【0054】
また、スラストプレート8に対するサイドシール7の偏心回転を伴う相対摺動においては、サイドシール7の摺動面7aの移動方向に応じて動圧が発生する位置が動圧発生溝70の周方向に沿って連続的に移動する。動圧発生溝70は円環状を成していることから、摺動面7aの偏心回転角度によらず、摺動面7a,8a同士の相対的な傾きを抑制して離間させた状態を維持したまま、摺動面7aを偏心回転摺動させることができる。よって、摺動面7a,8a間における潤滑性が向上し、摺動面7a,8aの摩擦抵抗を安定して低減することができる。
【0055】
また、導通溝71は、摺動面7aの周方向において奇数個(本実施例では5個)等配されている。これによれば、径方向に対向する導通溝71同士が中心点Qを通る仮想線LN上に配置されない状態で各導通溝71が周方向に等配されるので、摺動面7aの偏心回転角度によらず摺動面7a,8a同士の相対的な傾きが小さい状態で摺動面7aを摺動面8aから離間させることができる。
【0056】
また、導通溝71の深さ寸法L3は、動圧発生溝70の深さ寸法L2よりも深く形成されている(L2<L3)ので、流体を動圧発生溝70よりも深い導通溝71に多く保持できるので、動圧発生溝70に流体を確実に供給することができる。
【0057】
また、導通溝71は高圧側の背圧室50に連通しており、高圧の流体を利用するため、摺動面7a,8a同士を離間させやすい。
【0058】
具体的には、高圧の流体を利用して動圧発生溝70内で動圧を発生させるため、動圧発生溝70内で生じる動圧の圧力が高くなり、摺動面7a,8a同士を確実に離間させることができる。
【0059】
また、背圧室50は、摺動面7a,8aの内径側まで延びているため、摺動面7a,8a同士が離間したときに、摺動面7a,8aの内径側から背圧室50内の流体が導入される。また、スクロール圧縮機構4の駆動時には、背圧室50の圧力は高くなり、背圧室50から摺動面7a,8a間に高圧の流体が導入されるため、該流体の圧力により摺動面7a,8a同士をさらに離間させることができる。
【0060】
尚、本実施例では、動圧発生溝70が軸方向から見て円環状をなしていたが、若干楕円形状をなしていてもよい。
【0061】
また、本実施例では、導通溝71が周方向に奇数個等配されている形態を例示したが、これに限られず、径方向の対向する導通溝同士が摺動面の中心点を通る仮想線上に配置されない状態で配置されていれば、導通溝は偶数個で非等配されていてもよい。また、奇数個の導通溝が非等配されていてもよい。
【実施例2】
【0062】
次に、実施例2に係るサイドシール107の動圧発生溝170につき、
図6を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0063】
図6に示されるように、動圧発生溝170の内側壁170aには、各導通溝171の近傍において摺動面107aの周方向に対して交差する交差面174a,174bが設けられている。
【0064】
具体的には、交差面174aは、導通溝171の内側壁171aの内径端から時計回り方向外径側に向けて直線状に延びている。また、交差面174bは、導通溝171の内側壁171bの内径端から反時計回り方向外径側に向けて直線状に延びている。すなわち、動圧発生溝170は、各導通溝171の近傍で拡大されている。
【0065】
摺動面107aが摺動面8aに対して偏心回転摺動したときにおける動圧の発生について説明する。尚、ここでは、
図4(c)の状態から
図4(b)の状態に向かって移動するときに、右斜め上に配置される導通溝171近傍での動圧の発生について例示して説明する。
【0066】
図6に示されるように、摺動面107aが白矢印に向けて移動したときには、摺動面107aの移動方向が特定の区間で交差面174aと交差するので、動圧発生溝170内の流体が交差面174aで動圧を発生させることができる。
【0067】
また、動圧発生溝170の外側壁170bに比べ動圧が発生しにくい内側壁170aに交差面174a,174bを設けたので、動圧発生溝170の内径側の動圧の総和が高められ、動圧発生溝170の内径側と外径側で発生する圧力をバランスさせやすい。つまり、摺動面107aと摺動面8aとの相対的な傾きを抑えることができる。
【実施例3】
【0068】
次に、実施例3に係るサイドシール207の動圧発生溝270につき、
図7を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0069】
図7に示されるように、動圧発生溝270の内側壁270aには、各導通溝271の近傍において摺動面207aの周方向に対して交差する交差面274a,274b,274c,274dが設けられている。
【0070】
具体的には、交差面274aは、導通溝271の内側壁271aの外径端から時計回り方向内径側に直線状に延びており、摺動面207aの内径まで到達している。すなわち、交差面274aと導通溝271との間には、ランド272が形成されている。
【0071】
また、交差面274bは、交差面274aの内径端から時計回り方向外径側に直線状に延びており、内側壁270aに到達している。また、交差面274c,274dは、導通溝271の周方向中央を通って中心点Qに延びる図示しない仮想線を基準として交差面274a,274bと線対称の形状を成している。
【0072】
このように、交差面274a,274b,274c,274dが各導通溝271の近傍に設けられることにより、動圧発生溝270の内径側の動圧の総和が高められる。
【0073】
尚、交差面は導通溝の近傍に設けられることに限られず、導通溝から周方向に離れた位置に設けられていてもよい。
【0074】
また、導通溝は動圧発生溝の内径側の側壁に設けられることに限られず、外径側の側壁に設けられていてもよい。
【0075】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0076】
前記実施例1~3では、自動車等の空調システムに用いられるスクロール圧縮機Cに摺動部品としてのサイドシール7が適用される態様について説明したが、これに限らず、偏心機構を含む回転機械であれば、例えば膨張機と圧縮機を一体に備えたスクロール膨張圧縮機等に適用されてもよい。
【0077】
また、摺動部品の摺動面の内外の空間に存在する流体は、それぞれ気体、液体または気体と液体の混合状態のいずれであってもよい。
【0078】
また、本発明の摺動部品は、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有するものであれば、摺動面の内外に圧力差がある環境に限らず、摺動面の内外の圧力が同一である環境で使用されてもよい。また、本発明の摺動部品には、シールとしての機能は必要なく、摺動面の摩擦抵抗を安定して低減できるものであればよい。
【0079】
また、前記実施例1~3では、相対摺動する摺動面を有するサイドシールが樹脂製、スラストプレートが金属製のものとして説明したが、摺動部品の材料は使用環境等に応じて自由に選択されてよい。
【0080】
また、前記実施例1~3では、サイドシールの摺動面に動圧発生溝及び導通溝が形成される態様について説明したが、これに限らず、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であるスラストプレートの摺動面の摺動領域(
図4参照)に動圧発生溝が形成されていてもよい。また、サイドシールの摺動面とスラストプレートの摺動面の両方に動圧発生溝及び導通溝が形成されていてもよい。
【0081】
また、前記実施例1~3では、摺動部品としてのサイドシールの摺動面とスラストプレートの摺動面とが偏心回転を伴って相対摺動する構成について説明したが、これに限らず、サイドシールとスラストプレートのいずれか一方のみを備え、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面に動圧発生溝及び導通溝が形成されてもよい。例えば、スラストプレートのみを備える場合には、摺動部品としてのスラストプレートの摺動面と可動スクロールの端板の背面のいずれか一方または両方に動圧発生溝及び導通溝が形成されてもよい。また、サイドシールのみを備える場合には、摺動部品としてサイドシールの摺動面に溝が形成されてもよい。この場合には、サイドシールがインナーケーシングの内周面に当接して可動スクロールの軸方向の荷重を受けるスラスト軸受としても機能する。
【0082】
また、サイドシールとスラストプレートを備えず、可動スクロールの端板の背面がインナーケーシングの内周面に当接して可動スクロールの軸方向の荷重を受けるスラスト軸受として機能する場合には、可動スクロールの端板の背面に形成される摺動面に動圧発生溝及び導通溝が形成されてもよい。
【0083】
また、導通溝の深さ寸法は、動圧発生溝の深さ寸法よりも深く形成されていることを例示したが、これに限られず、導通溝は動圧発生溝と同じ深さとなっていてもよい。
【0084】
また、導通溝は、高圧側の外部空間である背圧室に連通する形態を例示したが、低圧側の外部空間に連通していてもよい。また、導通溝の一部が高圧側の外部空間、導通溝の他の一部が低圧側の外部空間に連通していてもよい。
【0085】
また、サイドシールの外径側に低圧側の外部空間が存在し、サイドシールの内径側に高圧の外部空間が存在する形態を例示したが、サイドシールの内径側に低圧側の外部空間、サイドシールの外径側に高圧の外部空間が存在していてもよい。
【符号の説明】
【0086】
4 スクロール圧縮機構
7 サイドシール(摺動部品)
7a 摺動面
8 スラストプレート
8a 摺動面
20 低圧室(外径側の外部空間)
30 高圧室
40 圧縮室
41 固定スクロール
42 可動スクロール
50 背圧室(内径側の外部空間、高圧側の外部空間)
70 動圧発生溝
70a 内側壁(内径側の側壁)
70b 外側壁(外径側の側壁)
71,71A 導通溝
107 サイドシール(摺動部品)
107a 摺動面
170 動圧発生溝
170a 内側壁(内径側の側壁)
170b 外側壁(外径側の側壁)
171 導通溝
174a,174b 交差面
207 サイドシール(摺動部品)
207a 摺動面
270 動圧発生溝
270a 内壁壁(内径側の側壁)
271 導通溝
274a~274d 交差面
C スクロール圧縮機
LN 仮想線
M 駆動モータ
Q 中心点