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特許7551283レトルト包装用途のポリプロピレン組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】レトルト包装用途のポリプロピレン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20240909BHJP
   C08L 23/14 20060101ALI20240909BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240909BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/14
B65D65/40 D
B32B27/32 Z
B32B27/32 103
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019133575
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2020172617
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】10201903296W
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】517301210
【氏名又は名称】タイ ポリエチレン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スパキット ツリーサマクル
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-039453(JP,A)
【文献】特開平01-174579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
C08L 23/14
B65D 65/40
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、ポリプロピレン組成物:
(a)60重量%~76重量%のホモポリプロピレン;
(b)2モル%~10モル%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のランダムコポリマーポリプロピレン;および
(c)10重量%~25重量%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のプロピレン-エチレンコポリマー
であって、成分(a)、(b)および(c)が145℃~165℃の範囲の融点を有する、ポリプロピレン組成物。
【請求項2】
前記ポリプロピレン組成物中の前記ホモポリプロピレン、前記ランダムコポリマーポリプロピレン、および前記プロピレン-エチレンコポリマーが合計で100重量%である、請求項1に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項3】
前記ランダムコポリマーポリプロピレンが少なくとも50重量%のプロピレン由来ユニットを含む、請求項1または2に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項4】
前記ランダムコポリマーポリプロピレンが2モル%~5モル%のエチレン由来ユニットを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項5】
前記ランダムコポリマーポリプロピレンが25重量%の量で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項6】
前記プロピレン-エチレンコポリマーが少なくとも50重量%のプロピレン由来ユニットを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項7】
前記プロピレン-エチレンコポリマーが15重量%~20重量%のエチレン由来ユニットを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項8】
前記プロピレン-エチレンコポリマーが20重量%~25重量%の量で存在する、請求項1、2、3、4、6、又は7のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項9】
前記ホモポリプロピレンが、ASTM D 1238-13により、230℃、2.16kgで1g/10分~10g/10分のメルトフローレートを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項10】
前記組成物が、ASTM D 1238-13により、230℃、2.16kgで0.1g/10分~4.0g/10分のメルトフローレートを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物。
【請求項11】
成形品を製造する方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物を用意する工程と、前記ポリプロピレン組成物を成形品に成形する工程とを含む方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法によって得られる成形品。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリプロピレン組成物を含む成形品。
【請求項14】
前記成形品が単層フィルムまたは単層シートである、請求項12または13に記載の成形品。
【請求項15】
前記成形品が、多層フィルムまたは多層シートの1つ以上のシートである、請求項12または13に記載の成形品。
【請求項16】
前記多層フィルムまたは多層シートがパウチまたはバッグを構成する、請求項15に記載の成形品。
【請求項17】
165℃の密封開始温度で少なくとも15N/15mmの密封強度を有する、請求項12~16のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項18】
レトルト包装用途における請求項12~17のいずれか一項に記載の成形品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
様々な実施形態は、ポリプロピレン組成物、ポリプロピレン組成物を使用して成形品を製造する方法、ポリプロピレン組成物により製造される成形品、およびレトルト包装用途における成形品の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト包装(レトルトパウチまたはレトルト可能なパウチとしても知られる)は、可撓性プラスティックと金属箔の積層体から構成されるある種の包装である。これは、従来の工業用缶詰法に代わり、無菌加工で取り扱う多種多様な食品や薬剤を無菌包装し、熱滅菌した製品を無菌状態で滅菌容器に包装し、冷蔵を必要としない安定した製品を製造するために用いられる。
【0003】
一般に、レトルト包装は、使用者からの様々な要求を満たすために多層の積層フィルムを含む。例えば、多層の積層フィルムは、外部環境と直接接触するためのものである第1の外層、包装された製品と直接接触するためのものである、多層の積層フィルムの反対面上に配置される第2の外層、および第1の外層と第2の外層との間に配置される1つまたは複数の中層を含むことができる。第1の外層は、包装の外側にあり、使用者が視認可能である。それ故、包装の第1の外層は、一般に、印刷可能な特性を有するように設計することができる。したがって、第1の外層は、包装された製品の審美性または外観の観点から重要な機能を果たすことができる。さらに、第1の外層は、穿刺力に対するレトルト包装の完全性を維持するための保護層として働くことができる。中層の1つ以上は、包装を介する水分および/または酸素の浸透を防ぐための障壁層として機能することができる。さらに、中層の1つ以上は、加熱および加圧を用いて包装の様々な層を接着または接合して積層フィルムを形成するためのシーラント層として機能することができる。一方、包装された製品と直接接する第2の外層は、シーラント層としても機能することができ、単独で、または中層のシーラント層との連携下で作用して、加熱の際に包装内容物の密封を可能にすることもできる。
【0004】
現在、それぞれのレトルト包装は包装後に手作業で洗浄されるため、包装された製品の製造速度が遅くなり、また、洗浄工程に人為的なミスが生じる。従って、レトルト包装の洗浄速度を改善して、包装された製品の生産速度を高め、かつ人為的ミスを防止することが望ましい。高圧処理条件または熱低温殺菌処理(滅菌処理とも呼ばれる)を用いて工業的にこれを行うことができるが、レトルト包装の内容物が漏出し、密封が汚染されることを防ぐために、レトルト包装によって提供される密封がこれらの過酷な条件の間、無事なままであることが必要である。
【0005】
現在、この漏出の問題は、製造ラインでは未解決のままであり、包装廃棄物や食品廃棄物が多く発生している。したがって、レトルト包装を構成するフィルムの層は、良好な密封により密封の汚染を避けるために、良好な機械的特性および包装の層間の強い接着などの要件を満たさなければならない。
【0006】
さらに、レトルト包装の密封処理について、特に食品用レトルト包装の使用において、技術水準の方法と比較して、低いまたは少なくともより低い密封開始温度で実施される包装処理が望まれる。本明細書で使用する密封開始温度(seal initiation temperature:SIT)は、密封初期(initial)温度とも呼ばれ、特定の密封強度(seal strength)で密封が形成される最低温度である。食品が包装と直接接触することを考慮すると、これは、食品の品質保持に有利である。さらに、より低い密封開始温度は、より低い温度がシーリングバー(sealing bar)に設定され得ることを意味し、これは、レトルト包装の製造における速度の改善につながる。
【0007】
密封の汚染を防止または実質的に回避するための以前の試みは、(1)ポリプロピレン樹脂の密封開始温度を上げて、完全に密封されたポリプロピレンフィルム層を形成すること、および/または(2)ポリプロピレン樹脂の極性を改善して、得られるポリプロピレンフィルムに対して食品をより流動性にすることを含む。
【0008】
上記にもかかわらず、上述の問題の1つ以上を克服するか、または少なくとも軽減する、改良されたシーラント層が依然として必要とされている。これは、シーラント層を形成するための改良された材料(例えば、本明細書に開示されるポリプロピレン組成物)、およびそれから製造される成形品の形態であってよい。これにより、高い密封強度、好ましくは低い密封開始温度が可能になり、密封の汚染の低減が実証されている。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様では、以下を含むポリプロピレン組成物が提供される:
(a)50~76重量%のホモポリプロピレン;
(b)2モル%~10モル%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のランダムコポリマーポリプロピレン;および
(c)10重量%~25重量%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のプロピレン-エチレンコポリマー。
【0010】
第2の態様では、成形品を製造する方法であって、50重量%~76重量%のホモポリプロピレン、2モル%~10モル%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のランダムコポリマーポリプロピレン、および10重量%~25重量%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のプロピレン-エチレンコポリマーを含むポリプロピレン組成物を用意する工程、ならびにポリプロピレン組成物を成形品に成形する工程を含む方法が提供される。
【0011】
第3の態様では、第2の態様の手法により得られる成形品が提供される。
【0012】
第4の態様において、50重量%~76重量%のホモポリプロピレンと、2モル%~10モル%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のランダムコポリマーポリプロピレンと、10重量%~25重量%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のプロピレン-エチレンコポリマーとを含むポリプロピレン組成物を含む成形品が提供される。
【0013】
第5の態様では、レトルト包装用途における成形品の使用が提供される。
【0014】
以下、本出願の主題のさらなる利点および特徴を、図面とともに例によって例示する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A図1Aは、比較試料1Aおよび試料2A、3Aおよび4Aの密封強度(N/15mm)対密封温度(℃)を示す図である。
図1B図1Bは、比較試料1Aおよび試料2A、5Aおよび6Aの密封強度(N/15mm)対密封温度(℃)を示す図である。
図2A図2Aは、フォース(N/25.4mm)対温度(℃)として示される、ホットタック試験によって測定されたフィルム(試料2A、3Aおよび4Aによるポリプロピレン組成物について得られる)の密封強度を示す図である。
図2B図2Bは、フォース(N/25.4mm)対温度(℃)として示される、ホットタック試験によって測定されるフィルム(試料2A、5Aおよび6Aによるポリプロピレン組成物について得られる)の密封強度を示す図である。
図3図3は、レトルト処理の前後におけるフィルム(比較試料1Aおよび試料2Aおよび3Aによるポリプロピレン組成物について得られる)の密封強度の比較を示す図である。レトルト処理後の密封強度を、食品収容レトルト包装の辺(side)で測定した。汚染は認められなかった。
図4A図4Aは、比較試料1Aのレトルトパウチを示す写真である。図中に円で囲んだ領域で示したように、密封部において食物の漏出および密封の汚染が認められた。
図4B図4Bは、試料2Aのレトルトパウチを示す写真である。食物の漏出および密封の汚染は認められなかった。
図4C図4Cは、試料3Aのレトルトパウチを示す写真である。食物の漏出および密封の汚染は認められなかった。
図4D図4Dは、試料4Aのレトルトパウチを示す写真である。食物の漏出および密封の汚染は認められなかった。
図4E図4Eは、試料5Aのレトルトパウチを示す写真である。食物の漏出および密封の汚染は認められなかった。
図4F図4Fは、試料6Aのレトルトパウチを示す写真である。食物の漏出および密封の汚染は認められなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の態様では、(a)50重量%~76重量%のホモポリプロピレン、(b)2モル%~10モル%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のランダムコポリマーポリプロピレン、および(c)10重量%~25重量%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のプロピレン-エチレンコポリマーを含むポリプロピレン組成物が提供される。簡略化のため、本ポリプロピレン組成物に含まれるホモポリプロピレン、ランダムコポリマーポリプロピレン、およびプロピレン-エチレンコポリマーは、本明細書では、それぞれ、成分(a)、成分(b)、および成分(c)と呼称されてもよい。プロピレン組成物中の成分(a)、(b)および(c)の重量百分率は、ポリプロピレン組成物の総重量に基づいて計算される。様々な態様において、ポリプロピレン組成物は、成分(a)、(b)および(c)から成り、すなわち、成分(a)、(b)および(c)の重量百分率は、合計で100重量%である。
【0017】
有利には、本開示のポリプロピレン組成物またはそれから製造される成形品は、性能を通じて良好な密封および低い密封開始温度を有する。例えば、本明細書に開示されたポリプロピレン組成物から製造されたフィルムから形成されたレトルト包装は、滅菌および包装処理中に食物の漏れを生じず、これは、ポリプロピレン組成物をレトルト包装用途における使用に適したものにする。本明細書に開示された実施形態に従って提供されるポリプロピレン組成物は、ポリプロピレンの使用による密封の汚染問題を実質的に回避することができる。本明細書中に開示されるポリプロピレン組成物に含まれるポリマーの選択および相対量は、ポリマーの鎖の絡み具合、密封開始温度および密封の汚染のような因子に起因し得る、機械的特性と密封性能との間の標的特性を得るための相乗作用を発揮することが実証された。
【0018】
特に、ランダムコポリマーポリプロピレンおよびプロピレン-エチレンコポリマーをそれぞれポリプロピレン組成物の少なくとも12重量%および25重量%以下の量でポリプロピレン組成物に組み込むことにより、組成物を用いたて調製により得られるフィルムの強度などの機械的特性を改善することができることが実証されている。例えば、ランダムコポリマーポリプロピレンの添加は、ホモポリプロピレンマトリクス中のプロピレン-エチレンコポリマー相の拡散を改善するための相溶化剤として作用することができ、これは、ポリプロピレン組成物を使用して調製される単層フィルム、多層フィルム、またはレトルト包装のような成形品の改善された機械的特性をもたらし得る。
【0019】
また、成分(a)、(b)および(c)のそれぞれのメルトフローレートおよび融点について注意深く検討すること、これらは成分(b)および(c)のコモノマーによって制御することができる。プロピレン-エチレンコポリマーは、プロピレン-エチレンコポリマーをより低い温度で融解することができるので、ポリプロピレン組成物の密封開始温度を低減するように機能することができる。有利なことに、本明細書に開示されるポリプロピレン組成物の処方物は、機械的特性と密封特性との間の最適化された均衡を提供するように特許請求の範囲に記載される範囲内で調節できるので、得られるレトルト包装は、例えば、レトルト包装の内容物および大きさなどの意図される用途に応じて調整され得る。ある態様において、成分(b)および(c)の両方は、プロピレンベースのコポリマーであり、このことは、成分(b)および(c)のそれぞれが少なくとも50重量%のプロピレン由来反復単位を含むことを意味する。成分(b)および(c)は、それらの特定のコモノマー含量に基づき、十分に低い融点を有し得、それらは、組成物の全融点を低下させるのに充分な量である少なくとも12重量%のポリプロピレン組成物で提供され、これは、密封開始温度を低下させるために好都合である。さらに、様々な実施形態による本開示の組成物は、成分(b)および(c)におけるそれぞれの量およびコモノマーの分布により、121℃への加熱を含む滅菌処理の過酷な条件後でさえも、実質的に保持された密封強度を示している。
【0020】
本明細書で使用する「組成物」という語は、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックポリマー、ターポリマー、またはそれらの組合せなどのポリマーの混和物(blend)であり、ここで、ポリマーはすでに重合しており、混和の際にさらなる重合に関与しない。この状況では、ポリプロピレン組成物は、ホモポリプロピレン、ランダムコポリマーポリプロピレンおよびプロピレン-エチレンコポリマーの物理的な混和物を含む。この組成物は「レジン混和物」とも呼ばれる。
【0021】
本明細書で用いる「ホモポリプロピレン」という語は、プロピレンから誘導される繰り返し単位から本質的になる、または当該繰り返し単位からなる重合体を指す。ホモポリプロピレンは、例えば、プロピレン由来の反復単位の少なくとも99.0重量%、より好ましくは少なくとも99.5重量%、なおより好ましくは少なくとも99.95重量%、さらにより好ましくは少なくとも99.99重量%、または100重量%を含むことができる。
【0022】
様々な実施形態によると、ホモポリプロピレンは、50重量%から76重量%の量、例えば60重量%から76重量%の量、または60重量%から70重量%の量でポリプロピレン組成物中に存在してもよい。ある態様において、ホモポリプロピレンは、ポリプロピレン組成物の少なくとも60重量%を占める。様々な実施形態によれば、ホモポリプロピレンは、ASTM D 1238-13により、230℃、2.16kgで1g/10分~10g/10分、又はASTM D 1238-13により、230℃、2.16kgで2g/10分~5g/10分、又は2g/10分~4g/10分、2.16kgのメルトフローレートを有することができる。ホモポリプロピレンは、4g/mol~15g/mol、より好ましくは5g/mol~10g/molの分子量分布(Mw/Mn)を有していてもよい。ホモポリプロピレンの濃度は、0.88g/cm~0.92g/cm、より好ましくは0.89g/cm~0.91g/cmである。
【0023】
ホモポリプロピレンは、示差走査熱量計(DSC)で測定される150℃から170℃の範囲、より好ましくは160℃から165℃の範囲の融点を有し得る。融点がこの範囲未満、例えば160℃未満の場合、得られる成形品は耐熱性が低く、レトルト包装用途に適さない場合がある。
【0024】
ホモポリプロピレンのほかに、ポリプロピレン組成物にはランダムコポリマーポリプロピレンも含まれている。本明細書で用いる「ランダムコポリマーポリプロピレン」なる語は、プロピレンおよび少なくとも1種の他のコモノマー、例えば2、3、4または5種の他のコモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーを意味する。ランダムコポリマーポリプロピレンは、少なくとも50重量%のプロピレン由来ユニット、または50重量%を超えるプロピレン由来ユニット、および少なくとも0.05重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%、さらにより好ましくは少なくとも0.4重量%である少なくとも1つの他のコモノマーに由来する反復ユニットを含んでもよい。様々な実施形態によると、ランダムコポリマーポリプロピレン中の少なくとも1つの他のコモノマーから誘導される反復単位は、15重量%以下である。他のコモノマーは、プロピレンを除く任意のα-オレフィンから選択され得、そして例えば、C12アルキレンのようなC20アルキレンであり得る。従って、他のコモノマーは、エチレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0025】
様々な態様において、他のコモノマーは、エチレン由来ユニットである。従って、ランダムコポリマーポリプロピレンは、10モル%までのエチレン由来ユニット、例えば、2モル%~10モル%のエチレン由来ユニット、3モル%~9モル%のエチレン由来ユニット、4モル%~8モル%のエチレン由来ユニット、2モル%~7モル%のエチレン由来ユニット、2モル%~5モル%のエチレン由来ユニットまたは2モル%~4モル%のエチレン由来ユニットまたは約3モル%のエチレン由来ユニットを含むことができる。
【0026】
様々な実施形態によると、ランダムコポリマーポリプロピレンは12重量%~25重量%の量で存在してもよく、またはランダムコポリマーポリプロピレンは15重量%~25重量%の量で存在してもよく、または15重量%~20重量%の量で存在してもよい。あるいは、ランダムコポリマーポリプロピレンは25重量%の量で存在してもよい。有利には、ランダムコポリマーポリプロピレンが25重量%の量で存在する場合、得られるポリプロピレン組成物は、287kg/cmの非常に高い破断時引張強さおよび726%の非常に高い破断伸びを示し得る。
【0027】
好ましくは、ランダムコポリマーポリプロピレンは、ASTM D 1238-13により、230℃、2.16kgで5g/10分~10g/10分のメルトフローレート(MFR)、より好ましくは6.5g/10分~7.5g/10分のMFR、さらにより好ましくは7.0g/10分~7.5g/10分のMFRを有する。
【0028】
種々の態様において、ランダムコポリマーポリプロピレンは、示差走査熱量計で測定すると、145℃~155℃または150℃~160℃の範囲のような、140℃~165℃の範囲の融点を有し得る。
【0029】
本明細書中に開示されるポリプロピレン組成物はまた、プロピレン-エチレンコポリマーを含む。本明細書で使用する「プロピレン-エチレンコポリマー」という語は、プロピレンおよびエチレンから誘導される反復単位を含むコポリマーを指す。様々な態様において、プロピレン-エチレンコポリマーは、少なくとも50重量%のプロピレン由来ユニット、例えば、少なくとも60重量%または少なくとも70重量%のプロピレン由来ユニットを含む。プロピレンおよびエチレンから誘導される繰り返し単位に加えて、コポリマーは、ブチレンおよび/または5~18個の炭素原子を有する他のα-オレフィンのようなさらなるコモノマーからさらに誘導され得る。あるいは、それは、プロピレンおよびエチレンから誘導される反復単位から実質的になるか、または完全になることができる。
【0030】
様々な実施形態によると、プロピレン-エチレンコポリマーは、15重量%~20重量%のエチレン由来ユニットなどの10重量%~25重量%のエチレン由来ユニット、または約16重量%のエチレン由来ユニットを有してもよい。エチレン単位はプロピレンポリマー中にランダムに分布していてもよく、これはアイソタクチックであってもよい。本開示の状況では、プロピレン/α-オレフィンの低結晶性コポリマーは、約0.2dg/分~約20dg/分のメルトフローレート、約80℃~約150℃の融点、および約0.88g/cm~約0.92g/cmの濃度を有する。
【0031】
ポリプロピレン組成物にプロピレン-エチレンコポリマーを含めると、本明細書に開示する実施形態により得られるポリプロピレン組成物の機械的強度が有利に改善された。様々な実施形態によれば、プロピレン-エチレンコポリマーは、12重量%~25重量%、または15重量%~25重量%、または15重量%~20重量%の量で存在してもよい。あるいは、プロピレン-エチレンコポリマーは、ポリプロピレン組成物中に20重量%~25重量%の量で存在してもよい。有利には、プロピレン-エチレンコポリマーがポリプロピレン組成物中に少なくとも20重量%存在する場合、得られるポリプロピレン組成物は、261kg/cmまたは244kg/cmの非常に高い破断時引張強さ(tensile strength at break)、および664%および676%の非常に高い破断伸び(elongation at break)を示し得る。
【0032】
様々な実施形態によると、プロピレン-エチレンコポリマーは、ASTM D1238に従って、230℃、2.16kgで測定すると、0.1g/10分~15g/10分のMFRを有する。0.1g/10分~15g/10分の全ての個々の値および下位範囲が本明細書に含まれ、本明細書に開示される;例えば、プロピレン-エチレンコポリマーは、0.1g/10分~10g/10分、例えば、0.2g/10分~10g/10分、0.5g/10分~10g/10分、1g/10分~10g/10分、2g/10分~10g/10分、2.5g/10分~10g/10分のメルトフローレートを有し得る。いくつかの態様において、プロピレン-エチレンコポリマーは、2.5g/10分~15g/10分のMFRを有する。
【0033】
好ましくは、プロピレン-エチレンコポリマーは、3.5g/mol以下、好ましくは3.0g/mol以下、より好ましくは1.8g/mol~3.0g/molの分子量分布(Mw/Mn)を有し得る。
【0034】
ある態様において、本ポリプロピレン組成物の成分(a)、(b)および(c)は、145℃~165℃の融点を有する。
【0035】
ホモポリプロピレンおよびランダムコポリマーポリプロピレンは、当該分野で公知の任意の慣用的方法によって調製され得る。例えば、ホモポリプロピレンおよびランダムコポリマーポリプロピレンは、触媒系の存在下で、反応器または多段反応器中で製造することができる。触媒系は、チーグラー・ナッタ触媒またはメタロセン触媒を含むことができる。特定の実施形態では、触媒系はチーグラー-ナッタ触媒を含む。
【0036】
本開示のポリプロピレン組成物は、当技術分野で公知の任意の方法(バンバリー型の高剪断内部ミキサーを用いる機械的混合、または二軸スクリュー押出機中での直接的な混合などが挙げられるが、これらに限定されない)を用いて調製することができる。
【0037】
様々な実施形態によると、組成物は、ASTM D 1238-13により、230℃、2.16kgで0.1g/10分~4.0g/10分のメルトフローレートを有し得る。
【0038】
本開示の好ましいポリプロピレン組成物は、以下の特性の少なくとも2つ、より好ましくは全てを含み得る。
(i)0.1g/10分~4.0g/10分のMFR;
(ii)15N/15mm~30N/15mmの密封強度
(iii)少なくとも15N/15mmの密封強度に対して165℃の密封開始温度。
【0039】
本開示のポリプロピレン組成物およびそれから調製される成形品は、成形品に特定の特性を付与し得る種々の添加剤を含有してもよい。これらのブレンドにおいて使用することができる当業者に公知の添加剤は、タルクおよび炭酸カルシウムのような充填剤、顔料、酸化防止剤、安定剤、腐食防止剤、スリップ剤、および粘着防止剤などを含むが、これらに限定されない。
【0040】
本開示のポリプロピレン組成物は、成形品を調製するためのブローフィルム処理および/または共押出キャスティングにおける使用に特によく適している。成形品は、例えば、フィルム、層、またはシートであり得る。
【0041】
従って、第2の態様において、成形品を製造する方法が提供され、該方法は、50重量%~76重量%のホモポリプロピレン;2モル%~10モル%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のランダムコポリマーポリプロピレン;および10重量%~25重量%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のプロピレン-エチレンコポリマーを含むポリプロピレン組成物を用意する工程;および該ポリプロピレン組成物を成形品に成形する工程を含む。使用できるホモポリプロピレン、ランダムコポリマーポリプロピレンおよびプロピレン-エチレンコポリマーは、すでに上記で議論されている。
【0042】
様々な実施形態では、ポリプロピレン組成物を成形品に成形することは、ブローフィルム処理、フィルムキャスティング、および/またはポリプロピレン組成物の共押出を含む。ブローフィルム処理、フィルムキャスティング、および/または共押出は、当技術分野で周知の方法に従って行うことができる。さらに、本開示のフィルムまたはシート材料は、それぞれのブローフィルム処理、フィルムキャスティング、および/または押出し成形の後に、他の材料と積層されてもよい。また、シートおよびフィルムを積層する公知の技術を適用して、これらのラミネートを形成することができる。
【0043】
従って、第3の態様では、上記のような手法により得られる成形品が提供される。
【0044】
第4の態様において、50重量%~76重量%のホモポリプロピレンと、2モル%~10モル%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のランダムコポリマーポリプロピレンと、10重量%~25重量%のエチレン由来ユニットを有する12重量%~25重量%のプロピレン-エチレンコポリマーとを含むポリプロピレン組成物を含む成形品が提供される。
【0045】
様々な実施形態によると、成形品は、単層フィルムまたは単層シートであってもよい。第1の態様のポリプロピレン組成物は、シーラント層として、例えば、1つ以上の中層として、またはレトルト包装内の食品などの包装された内容物と接する外層として働くことができる。
【0046】
様々な実施形態によると、成形品は、多層フィルムまたは多層シートの1つ以上のシートである。例えば、上述の単層フィルムまたは単層シートの1つ以上は、多層フィルムまたは多層シートの一部であってもよい。本明細書に開示されるポリプロピレン組成物は、キャスト共押出しによって多層ポリプロピレンフィルムを形成するために使用されてもよい。本多層フィルムは、層数に制限はなく、例えば、2、3、4、5、10、15、または20の層を有することができる。多層フィルムまたは多層シートは、パウチまたはバッグを構成することができる。パウチまたはバッグの内層は、単層フィルムまたは単層シートであってよい。
【0047】
特定の実施形態では、成形品は、食品用のレトルトパウチであってもよい。成形品は、有利には、ASTM F 88-15に従って、少なくとも15N/15mmの密封強度を有し得る。好ましくは、ポリプロピレン組成物を含む成形品は、ASTM F 88-15に従って15N/15mm~30N/15mm、より好ましくは20N/15mm~27N/15mm、さらにより好ましくは22N/15mm~25N/15mmの範囲のシール強度を有し得る。少なくとも15N/15mmの密封強度では、密封開始温度は165℃であってもよい。有利には、本開示のポリプロピレン組成物のこれらの密封特性は、成形品の密封について汚染からの良好なおよび/または改善された保護を提供することができる。
【0048】
破断伸び、降伏引張(tensile at yield)、破断引張(tensile at break)、および/または2%セカント弾性係数(secant modulus)などの他の機械的特性も、本開示のポリプロピレン組成物の使用によって改善することができる。例えば、破断伸びは、約400%~約800%、例えば、約450%~約750%、又は約500%~約700%の範囲にあり得る。一方、降伏引張は、約100kg/cm~約300kg/cm、例えば約100kg/cm~約250kg/cm、又は約100kg/cm~約200kg/cmである。破断引張は、約100kg/cm~約300kg/cm、例えば約150kg/cm~約250kg/cmである。2%セカント弾性係数は、約3,000kg/cm~約5,000kg/cm、例えば、約3,500kg/cm~約4,500kg/cm、又は約3,500kg/cm~約4,000kg/cmである。
【0049】
本発明によって提供される様々な利点によれば、第5の態様において、レトルト包装用途における本明細書に記載される成形品の使用が提供される。
【0050】
本明細書中に例示的に記載される本発明は、本明細書中に特に開示されていない、いかなる要素、制限、または制限の非存在下でも適切に実施され得る。従って、例えば、用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」等は、広義に理解されるべきであり、限定されない。さらに、本明細書で使用される用語および表現は、記述の用語として用いられ、限定の用語として用いられておらず、そのような用語および表現の使用において、示され、かつ説明された特徴の任意の均等物またはその一部を除外する意図はなく、特許請求の範囲で記載された範囲内において様々な改変が可能であることが認識される。したがって、本発明は、好ましい実施形態および任意の特徴によって具体的に開示されてきたが、本明細書で開示された本発明の改変および変更は、当業者に依存することができ、そのような改変および変更は、本発明の範囲内にあると考慮されることを理解されたい。
【0051】
以下、本発明の例示的実施形態が示される添付の図面を参照して、本開示をより十分に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具体化され得、本明細書に記載される例示的実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が十分かつ完全にあり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。図面において、層および領域の長さおよびサイズは、明確性のために強調されていることがある。
【実施例
【0052】
(実験項)
実施例1:測定方法
【0053】
以下に、本開示のポリプロピレン組成物の特性試験について説明する。使用される試験方法および装置は従来使用されており、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【0054】
(1)メルトフローレート(MFR):メルトフローレート(MFR)は、ASTM D 1238-13に従い、230℃、2.16kgで測定した。
【0055】
(2)密度:密度はASTM D 1505-10に従って測定した。
【0056】
(3)フィルムの引張強さ:フィルムの引張強さ、伸びおよびセカント弾性係数の計測は、ASTM D 882-12に従って行った。
【0057】
(4)密封強度:密封強度はASTM F88-15に準拠して測定した。
【0058】
(5)ホットタック試験:フィルムの密封開始温度は、ASTM F1921-12に準拠したホットタック装置により測定した。
【0059】
(6)密封通過汚染試験
(6.1)試料の調製:平らなレトルト可能なパウチを用いて、本明細書に開示するポリプロピレンフィルムの汚染特性について密封を評価した。パウチは、180℃、圧力2バール、保持時間1秒の恒温密封棒を有する高温密封バー機器を用いて、3辺密封包装パウチの形態で調製した。3辺密封包装パウチの内径は12.0cm×15.0cmであった。3辺密封包装パウチは、それぞれ200mLの食品模倣物を含む小型のバッグを形成していた。パウチの残りの辺を密封してレトルト可能なパウチを閉じ、それぞれの充填パウチ内の容積およびヘッドスペースを制御する固定位置にした。
【0060】
(6.2)食品模倣物の調製:用いた食品模倣物は、白酢、トマトソース、ソイルビーン油を1:1:1の重量比で混ぜたものである。
【0061】
(6.3)レトルト処理:レトルト処理は、Vertical Floor-Standing Autoclaves SYSTEC V-Series社製40リットル容量高圧オートクレーブ機(シングルバスケット型)を用いて行った。圧力伝達液として水を用いた。最初に、充填したパウチを加圧滅菌前に100℃の初期温度に予熱した。その後、温度121℃、圧力2.2MPaに昇温し、この状態で30分~35分間保持した。食品の種類やパウチの大きさなどの因子によっては、前述した状態とは異なった状態が用いられることがある。一般に、レトルトパウチ包装では、包装内で利用可能な自由空間は、包装内の圧力を最適化するように制御される。温度及び圧力を制御した滅菌処理後、充填したパウチを冷却し、オートクレーブの圧力を開放した。充填したパウチをチャンバーから取り出し、一般的な概観、密封部の漏出、レトルト処理後の密封強度について試験した。
【0062】
実施例2:リプロピレン組成物の調製物
出発材料はすべて市販されていた。
【0063】
ホモポリプロピレン(hPP)は230℃で2.5g/10分のMFR、重量2.16kg、分子量分布7.5g/mol、濃度0.910g/cmであった。ランダムコポリマーポリプロピレン(rPP)は3モル%のエチレンユニットを含み、0.910g/cmの濃度を有していた。プロピレン-エチレンコポリマーは、16重量%のランダムに分布したエチレンユニットを有するアイソタクチックポリプロピレンを含んでいた。
【0064】
ホモポリプロピレン、ランダムコポリマーポリプロピレンおよびプロピレン-エチレンコポリマーを、ツインスクリュー押出機を用いて、表1に示すように種々の比率で混和した。
【0065】
得られた混和ポリプロピレン組成物を共押出処理により厚さ70μmのフィルムに成形した。次いで、ポリプロピレン組成物から得られたフィルムを上記のように分析した。その結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
15重量%でプロピレン-エチレンコポリマーを同量有する試料、すなわち試料2A、3Aおよび4Aを比較すると、25重量%で最高のランダムコポリマーポリプロピレン含量を有する試料4Aは、表1に示すように、最高の破断時引張強さおよび破断伸びを示した。また、試料4Aの破断時引張強さおよび破断伸びも比較試料1Aよりも高かった。例えば、得られた破断時引張強さは287kg/cmであったが、比較試料1Aでは202kg/cmの破断時引張強さのみが得られた。破断伸びに関して、試料4Aは、わずか569%の破断伸びを有する比較試料1Aに比べて、726%の破断伸びを示した。
【0068】
理論に束縛されることは望まないが、ランダムコポリマーポリプロピレンは、ホモポリプロピレンマトリクス中のプロピレン-エチレンコポリマー相の拡散を改善する相溶化剤として機能することにより、フィルムのより良好な機械的特性をもたらすと考えられる。
【0069】
同量(15重量%)のランダムコポリマーポリプロピレンを有するが、種々の量のプロピレン-エチレンコポリマーを有する試料、すなわち試料2A、5Aおよび6Aを比較すると、プロピレン-エチレンコポリマーの量はフィルムの降伏引張強さに有意に影響しないことが分かった。試料2Aは、試料5Aおよび6Aよりもわずかに高い降伏引張強さを示した。これは、試料2Aのより高いホモポリプロピレン含量に起因し得る。しかし、少なくとも20重量%のプロピレン-エチレンコポリマーを有する試料5Aおよび6Aは、試料2Aと比較して、より良好な破断時引張強さおよび破断伸びを示した。プロピレン-エチレンコポリマー含量がポリプロピレン組成物の特性に及ぼす影響を比較した。
【0070】
比較試料1Aおよび試料2A、3Aおよび4Aについて、種々の温度で密封強度を測定し、その結果を図1Aに示す。試料3Aは、145℃と165℃の間のフィルム密封の移行段階において、最も低い密封開始温度を示し、より高い密封強度を示した。これは、高い密封開始温度を示し、160℃と170℃の間のみ密封し、165℃で約10N/15mm未満の密封強度を有する比較試料1Aに比べて有利である。理論に拘束されることは望まないが、特許請求の範囲に記載された種々の比率でホモポリプロピレン、ランダムコポリマーポリプロピレンおよびプロピレン-エチレンコポリマーを含むポリプロピレン組成物は、機械的特性と密封性能との間の目標特性を得るための相乗作用を提供すると考えられる。
【0071】
図1Bは、種々の温度で比較試料1Aおよび試料2、5および6について測定された密封強度を示す。140℃から155℃付近の低温域では、フィルムの密封強度はプロピレン-エチレンコポリマー含量の増加により有意に増強されることが示されている。しかし、ポリプロピレン(PP)マトリックスは、高温範囲(160℃~200℃)で支配的な影響を示す。なぜならば、PPマトリックスは、この温度範囲にて完全に融解し、フィルム層間で融合することができるためである。言い換えれば、高温域でのフィルムの密封強度は、ホモポリプロピレンの強度に依存する。なぜならば、それは、完全に融解して層間で融合することができるのに対し、ランダムコポリマーポリプロピレンとプロピレン-エチレンコポリマーは、低温域でフィルムの融合を行うためである。したがって、処方物の最適化は、フィルムの容易な密封機能と機械的特性との間でバランスをとるべきである。
【0072】
フィルムの密封開始温度を保証するために、ホットタック測定も行って、融解段階中のフィルムの密封強度を測定した。図1Aおよび図1Bに対応して、密封性能に対するランダムコポリマーポリプロピレンの有意な影響はなかったが、図2Aおよび図2Bの結果は、融解され、かつ層間に密封されたフィルムの一部が存在することを示した。このことは、ランダムコポリマーポリプロピレンとプロピレン-エチレンコポリマーをホモポリプロピレン中で混和することにより、フィルムの密封開始温度が減少したことを示唆している。プロピレン-エチレンコポリマー含量を増加させると、フィルムの密封開始温度は、より低温域にシフトした。
【0073】
比較試料1Aおよび試料2A~6Aに、12mmの厚さのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを積層した(ここで、PETフィルムは、試料の上部および下部、すなわち両端にある)。ラミネートフィルムを3辺密封し、食品試料を充填するためのパウチを形成した。
【0074】
比較試料1Aおよび試料5Aの第2の試料を用いて、積層されたレトルト可能な包装(本明細書においてそれぞれ比較試料1Bおよび試料5Bと識別)を調製した。比較試料1Bおよび試料5Bについては、乾式積層法を用いて、ポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/ナイロン/比較試料1B、またはポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/ナイロン/試料5Bのフィルム構造を形成してパウチを形成し、次いで、上記法を用いてパウチに食品試料を充填した。
【0075】
食品試料は、市販のトマトソース、酢および植物油を1:1:1の等重量比で混合することによって調製した。食品試料200mlを比較試料1A、1B、試料2A、3A、4A、5A、5B、6Aに充填した。パウチを180℃で加熱密封し、4バールの圧力を4秒間かけてパウチを閉じた。密封後、パウチを過圧条件、および121℃の温度で30分間オートクレーブした。食品漏出の有無の観察を実施し、表2に報告した。
【0076】
本発明例は、パウチからの食品の漏出がなく、また、密封部での食品汚染がないので、パウチの完全な密封を示すものである。一方、比較試料1A、1Bはいずれも、密封部で食品の漏出と汚染が認められた。
【0077】
オートクレーブ処理後の密封性能を調べた。結果を図3に示す。試料2A及び3Aのオートクレーブ処理後の密封強度は、維持された。これは、オートクレーブ処理後に密封強度が劇的に減少することを示した比較試料1Aとは対照的である。
【0078】
【表2】
【0079】
図4A図4Fは、比較試料1A(図4A)および試料2A~6A(図4B~4F)のレタッチパウチを示す写真である。図から分かるように、比較試料1Aでは密封部で食品の漏出や密封の汚染が認められたが、試料2A~6Aでは認められなかった。
【0080】
本発明は、その例示的な実施形態を参照して特に示され、かつ説明されてきたが、以下の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形態および詳細において様々な変更がなされ得ることが、当業者によって理解される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F