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特許7551295血管の管腔内から、または隣接する血管の管腔から内膜、内膜下空間、中膜、外膜、外膜周囲空間、または血管周囲組織への細胞療法の送達のための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】血管の管腔内から、または隣接する血管の管腔から内膜、内膜下空間、中膜、外膜、外膜周囲空間、または血管周囲組織への細胞療法の送達のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20240909BHJP
【FI】
A61M25/10 510
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019545876
(86)(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 US2017000073
(87)【国際公開番号】W WO2018084882
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】62/416,189
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】322011494
【氏名又は名称】ステムプラント エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーペンター,ジュディス
(72)【発明者】
【氏名】カーペンター,ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,スペンサー
【合議体】
【審判長】井上 哲男
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-501869(JP,A)
【文献】特表2005-532120(JP,A)
【文献】特開平5-293176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00 - 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の管腔内に位置する場合、プラーク層を含む前記血管の1つ以上の層を穿孔するための複数の突起を担持する外面を有する外側の変形可能な部材と、内部空洞を画定する内とを含み、前記内壁及び前記外面はトロイダル体を形成し、各突起が、前記内部空洞と流体連通するボアを有し、液体媒体中に懸濁された細胞が前記内部空洞から前記ボアを通って前記プラーク層または血管周囲組織に入るのを可能にするのに十分な直径を有する、細胞懸濁液送達装置であって、
前記治療すべき組織は、動脈瘤であり、
a. 細胞懸濁液送達装置は、経皮的に対になった静脈に導入され、対になった動脈中の動脈瘤の近傍に位置付けされ、
b. 前記動脈瘤の近傍の前記対になった静脈の静脈壁に機械的に貫通され、
c. 前記細胞懸濁液送達装置を介して懸濁液中の細胞が前記動脈瘤の近傍の動脈周囲の組織に圧力下に送達される、
細胞懸濁液送達装置。
【請求項2】
前記装置に接続されたカテーテルをさらに含み、前記カテーテルは前記内部空洞と流体連通している内腔を有する、請求項1に記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項3】
前記内は、非変形可能である、請求項1に記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項4】
前記1つ以上の血管の層は、内膜、内膜下空間、中膜、外膜及び外膜周囲空間の1つ以上を含む、請求項1に記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項5】
前記複数の突起は2つ以上の長さのものである、請求項1に記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項6】
前記外側の変形可能な部材が多葉性バルーンである、請求項1記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項7】
前記複数の突起が、血管壁に接触する各葉の頂点に位置する、請求項6記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項8】
前記外側の変形可能な部材が、第2の内腔を介して血管壁に送達される細胞の懸濁液とは別個の異なる流体を使用して前記装置を膨張させる第1の内腔を具備する二重管腔設計のものである、請求項1記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項9】
前記外側の変形可能な部材が、前記プラーク層と密接に接触される、請求項1記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項10】
前記外側の変形可能な部材が、前記複数の突起とは独立して、前記プラーク層を破砕するようにさらに構成されている、請求項1記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項11】
前記液体媒体が、薬剤を含む、請求項1記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項12】
前記突起が、前記細胞の懸濁液を含む前記液体媒体を、前記プラークの下にある内膜、内膜下空間、中膜、外膜、および/または外膜周囲空間に送達するように構成されている、請求項1記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項13】
治療される前記血管を通る血流が、細胞懸濁液送達装置の導入によって遮断されない、請求項1記載の細胞懸濁液送達装置。
【請求項14】
記細胞は、前記血管の内腔に隣接する動脈周囲の組織および脂肪へ送達される、請求項1記載の細胞懸濁液送達装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本出願は、2016年11月2日に出願された米国仮特許出願第62416189号の優先権を主張する。
【0002】
心血管疾患は、世界中の死亡の主な原因である。アテローム性動脈硬化症は、狭心症や心筋梗塞を引き起こす主要な冠動脈の症候性閉塞につながることがある。最も一般的な治療法は、バイパス手術、アテレクトミー、およびステントの移植と組み合わせたバルーン血管形成術が挙げられる。内膜過形成は、アテレクトミー、血管形成術、およびステント術の最も一般的な失敗モードである。この主要な問題は、すべての経皮的冠動脈形成術後に発生し、最初の1年以内に15~30%という高率で関連する冠動脈の再狭窄をもたらす。内膜過形成は、内膜部分へ移行する血管平滑筋細胞の蓄積、ならびに細胞外マトリックス物質の沈着から構成される。その結果、罹患した血管の内腔径が減少し、その結果終末器官の虚血が起こる。再狭窄を防止するために、内膜過形成の原因を治療することの重要性は、その有病率において、またこの問題に対処するために提案されてきた無数の装置および治療の中で明らかである。
【0003】
初期の治療法は、ステントの開発により、内膜過形成に起因する血管形成術後の再狭窄を防止するための試みであった。これらの治療は、内膜過形成がステントの孔を通って成長するために失敗した。次いでこれを防ぐために被覆ステントが開発されたが、被覆ステントの端部に内膜過形成を発症して再狭窄を引き起こした。より最近の治療は、内膜過形成の過程における特定の段階または要因に対処することを試みている。これらが成功しないのは、一般的に、内膜過形成の発症に関与する複雑なメカニズム、および効果的な治療を提供することの困難さに起因し得る。内膜過形成の原因として、剪断応力および壁張力などの血行力学的要因、内皮剥離および内側裂傷を含む損傷、炎症、ならびに遺伝的要因などが挙げられる。これらの原因はそれぞれ、複雑な経路と様々な細胞と化学伝達物質に関連する。特定の経路における特定の段階または細胞を標的にすることによって、または初期の原因を最小限に抑えることによって、内膜過形成の発症を減少させることを試みるために、多数の薬物療法が開発されてきた。
【0004】
内膜過形成を減少させるための現在の治療法は、薬剤溶出性ステントおよび薬剤溶出性血管形成術用バルーンの使用を含む。これらのステントおよびバルーンのうちのいくつかは、血管形成術の部位との直接の接触または介入によって、ステントまたはバルーン表面から移動する様々な薬剤でコーティングされている。他のものは血管壁近くの薬剤の放出を可能にする。次いで、薬剤は血管組織と接触し、治療部位での再発性閉塞の可能性を減少させる目的で、肥厚性瘢痕反応(内膜過形成)に対してその抑制効果を発揮する。
【0005】
従来技術は、血管に薬剤を送達するための装置の多くの例を含む。これらの中には、Wolinskyらの米国特許第5,087,244号、Hansonらの米国特許第5,985,307号、Laryらの米国特許第7,985,200号がある。
【0006】
別の重大な血管疾患の状態は破裂動脈瘤であり、これは世界で一番多い死因である。現在、治療は外科的切除またはアブレーションであり、この疾患を予防または停止するための治療法はない。動脈瘤疾患の病態生理は重大な炎症性要素を有する動脈の変性であることが証明されている。炎症過程は、動脈壁と周囲の外膜周囲脂肪および組織に位置する。
【0007】
脂肪由来幹細胞の調製および使用の先行技術には、Fraserらの米国特許第8,691,216号、およびFraserらの米国特許第9,198,937号が挙げられるが、そのような幹細胞は、バルーンを備えたカテーテルを介した送達による創傷治癒および肝臓損傷を促進するために使用される。
【0008】
最近では、内膜過形成は、血管の外側から血管形成術により誘導される動脈損傷部位への幹細胞の導入によって減少させることができることが示されている。(Inhibitory Effects of Mesenchymal Stem Cells in Intimal Hyperplasia After Balloon Angioplasty,Ae-Kyeong Kim,PhD,a Min-Hee Kim,a Do-Hyung Kim,a Ha-Nl Go,a Seung-Woo Cho,PhD,b Soong Ho Um,PhD,c and Dong-Ik Kim,MD,PhD,http://dx.doi.org/10.1016/j.jvs.2014.08.058)
【0009】
また、幹細胞治療は、動脈瘤の候補薬物療法であり得ると考えられている。細胞療法のための送達システムは、現在利用可能ではないか、または動脈瘤疾患の治療に適切でない。罹患した動脈壁の脆弱性は、治療時に動脈瘤組織の操作の危険性を伴う治療の送達に対して特別な課題を示す。
【0010】
最後に、細胞懸濁液を治療を必要とする組織の近傍に直接送達してもよく、経皮アクセスを使用して循環系を介した送達が所望される場合に限り、幹細胞療法を他の疾患状態の医学的治療法として使用することができると考えられている。
【0011】
この種の用途のために血管の内腔に細胞療法を送達するための装置は、開発も商業化もされていない。現在の薬剤被覆介入装置と細胞療法の違いは、実行可能にするために、(介入装置上に被覆されそして保存するために乾燥状態に維持されるのとは対照的に)幹細胞を新たに調製し、かつ懸濁状態に維持しなければならないことである。さらなる違いは、幹細胞(および他の細胞懸濁液)は薬物分子と比較してサイズが大きく、そして処置が完了した後に血管を通って流れる血液によって介入部位から一掃されることである。したがって、適切に調製された新鮮な幹細胞または非幹細胞の液体懸濁液を介入部位に送達し、そこに保持する新しい方法が必要とされている
【発明の概要】
【0012】
開示された発明は循環への経皮アクセスを介して導入され、血管損傷もしくは介入の部位に、または周囲組織に送達するための、細胞療法の送達のための方法及び装置である。細胞懸濁液は血管の内腔内から内膜、内膜下空間、中膜、外膜もしくは外膜周囲空間に、または隣接する血管の内腔内から動脈周囲の組織および脂肪へ送達される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の送達装置の一実施形態の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態は、その表面上に開口または連続した溝を有する1つ以上の管を運ぶバルーンである。プラーク層を破砕するために膨張すると、細胞懸濁液は管を通って導入され、そこで開口部(または溝)から血管壁に流れる。この実施形態は、膨張中に血流を可能にするための中央通路を備えていてもよい。細胞が懸濁されている培地は、生物学的に中性または活性な溶液であり得、そして必要に応じて、薬剤、生物学的製剤、および他の添加物を含み得る。
【0015】
図1に示す本発明の送達装置は、その外側表面(20)上に中空の剛性スパイク(30)を有する、トロイダルバルーン(10)である。このバルーンは、治療中の血管への経皮アクセスのために従来のカテーテル(図示せず)に取り付けられており、非膨張状態または最小限の膨張状態で血管内に配置されている。トロイダルバルーンの内壁(25)は、バルーンの挿入および配置を容易にするために比較的堅い材料で作られてもよい。一旦配置されると、バルーンを圧力下で細胞懸濁液を導入することによって膨張させてもよく、バルーン(10)を膨張させ、中空の剛性スパイク(30)をプラーク層の中へおよびプラーク層を介して入れ、スパイクを介して懸濁液をプラークおよび/または血管壁の所望の構造へ送達する。次いで、バルーン(10)を収縮させて引き抜き、幹細胞を残すが、血流中で押し流されないようにする。バルーン(10)はトロイダルであるため、治療中の血管を通る血流を遮断することはない。
【0016】
代替の実施形態(図示せず)では、バルーン(10)は球形または細長くてもよいが、トロイダルではなく、膨張中に治療中の血管を通る血流を遮断する。バルーン(10)には、近位端および遠位端に環状フランジ(図示せず)を任意に設けてもよい。これらのフランジは血管壁と係合し、血管壁と外側表面(20)との間の血流を妨げる役割を果たし、代わりにトーラスを通る血流を誘導する。
【0017】
内膜過形成の治療のための本発明の方法は、治療される血管内のプラーク層が破砕されるか、または貫通されること、また幹細胞または非幹細胞の懸濁液がプラークの下から内膜、内膜下空間、中膜、外膜、および/または外膜周囲空間へ送達されることを必要とする。プラークの破砕は、血管形成術において一般に見られるように、バルーンの膨張によるか、または血管内に配置した後にその直径を増大させるためのステント状装置の圧縮など、他の機械的手段によるものであってもよい。プラークの破砕は、本発明による幹細胞の導入前および導入とは別に、バルーンの膨張などの従来の手段によるものであってもよく、またはプラークを破砕してその後細胞懸濁液を導入する単一の装置に組み合わせてもよい。プラークの貫通は、血管内に本発明の送達装置を配置した後にスパイクまたは類似の構造物を延在させることによるものであってもよい。いずれの場合も、破砕または貫通した後、幹細胞の懸濁液は、治療中の血管のプラーク層および/または選択された1つ以上の構造層に細胞を移動させるのに十分な圧力で送達され、送達装置を取り除いた後も残る。
【0018】
本発明の送達装置の別の代替実施形態(図示せず)は、管の長さに沿って間隔を置いて小さな開口を有する薄い管の螺旋または二重螺旋構造である。従来のステントと外観が類似しているが、装置はカテーテルを使用して血管内に挿入され、所望のように配置される。次いで装置は一緒に引き出されて(図示されていない円錐部材の動きによって)その直径を増大させ、それによってプラーク層を破砕するのに使用され、そしてプラーク内に深く埋め込まれる。あるいは、装置は、拘束シースから解放されたとき、または体温まで加熱されたときに、膨張する形状記憶金属から形成されてもよい。次いで、カテーテルを用いて細胞ベースの懸濁液を管に導入し、この懸濁液は小さな開口部を通って管から出る。幹細胞の導入後、装置はその直径を減少させるために細長くされ、それを血管壁から外し、そしてカテーテルと一緒に引き出される。
【0019】
さらに別の実施形態は、血管壁に接触する各葉の頂点に小さな開口または中空スパイクを有する、多葉性バルーンである。
【0020】
さらに別の実施形態は、葉間の空間内に1つ以上の開口を有する、多葉性バルーンであり、この空間は、細胞懸濁液を充填することができるチャネルを画定し、プラーク層と懸濁液との間に増加した接触面積を提供する。この実施形態では、上述のように、環状フランジを用いて細胞懸濁液を閉じ込め、バルーン内の中央中空内腔を通って、またはバルーンの外側表面上の代替チャネルを通って血流を誘導する。その場合環状フランジは、そのようなチャネルまたは中央内腔と連通する開口部またはノッチを有する。
【0021】
上記の各バルーンは、もちろん、細胞懸濁液とは別個の異なる流体を使用して血管壁に送達し、膨張することを可能にするための二重管腔設計のものであってもよい。
【0022】
動脈瘤の治療を目的とした介入について、静脈壁を完全に貫通することができる前述の細胞懸濁液送達システムは、動脈瘤の動脈壁に直接周囲の動脈周囲の組織および脂肪への細胞治療の送達のために使用され得る。ほとんどの動脈は対になった静脈に隣接している。細胞懸濁液送達装置は、隣接する静脈を介して挿入され、そして静脈内に展開される。展開されると、装置上の中空スパイクが静脈壁を通って動脈瘤動脈を囲む組織内に貫通する。細胞調製物はスパイクを通して送達され、その後装置は回収されそして除去される。あるいは、細胞調製物は、静脈壁に接触してこれを支持することを目的としてカテーテルを介して送達されてもよい。壁と接触すると、1つ以上の複数の針、またはスパイクを配置し、注射を動脈周囲組織に送達することができる。
【0023】
本発明をその好ましい実施形態において説明してきたが、使用されている用語は、限定のためではなく、説明のための用語であることを理解すべきであり、本発明のより広い態様において、本発明の真の範囲および趣旨から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更がなされ得ることを理解されるべきである。むしろ、本発明の趣旨から逸脱することなく、特許請求の範囲の均等物の範囲内で、細部において様々な変更を加えることができる。本発明者らはさらに、これらの特許請求の範囲が、本出願日(および、もしあれば本出願が優先権を取得する出願日)に存在する法律の下で利用可能な最も広い構成に従うこと、また添付の特許請求の範囲の減縮は、事後の裁定、ならびに正当な手続きおよび補償なき収用であるため、後の法律の変更によるそのような減縮は許可されないことを要求する。
図1