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特許7551296液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240909BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
B41J2/14 613
B41J2/14 501
B41J2/14 607
B41J2/16 401
B41J2/16 201
B41J2/16 509
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020003024
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021109385
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 暁
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一成
(72)【発明者】
【氏名】堀内 勇
(72)【発明者】
【氏名】浜出 陽平
(72)【発明者】
【氏名】石井 美穂
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-114749(JP,A)
【文献】特開平9-131867(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0076058(US,A1)
【文献】特開2011-126102(JP,A)
【文献】特開2005-8652(JP,A)
【文献】特開2012-158189(JP,A)
【文献】特開2010-280229(JP,A)
【文献】特開平6ー99578(JP,A)
【文献】国際公開第97/37851(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の基板面上に設けられ液体の流路を形成する流路形成部材と、前記流路形成部材上に設けられ液体を吐出する吐出口を有する吐出口形成部材と、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記吐出口形成部材と前記流路形成部材とは異なる材料で形成され、
前記基板面に対して垂直な方向において、前記吐出口形成部材の厚さよりも前記流路形成部材の厚さが大きく、
前記吐出口形成部材が、感光性樹脂組成物の硬化物であり、
前記流路形成部材が、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を含有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記ポリエーテルイミド樹脂及び前記ポリエーテルアミドイミド樹脂が、熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記ポリエーテルイミド樹脂及び前記ポリエーテルアミドイミド樹脂の重量平均分子量が、5000~100000である、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記感光性樹脂組成物が、カチオン重合型のエポキシ樹脂を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記感光性樹脂組成物が、1分子中に二つ以上のエポキシ基を有するカチオン重合型エポキシ樹脂を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記感光性樹脂組成物が、ネガ型組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記感光性樹脂組成物が、光酸発生剤を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記ポリエーテルイミド樹脂及び前記ポリエーテルアミドイミド樹脂の吸水率が、前記
感光性樹脂組成物の硬化物の吸水率よりも小さい、請求項1~7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記吐出口形成部材上に撥液層が形成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
基板と、前記基板の基板面上に設けられ液体の流路を形成する流路形成部材と、前記流路形成部材上に設けられ液体を吐出する吐出口を有する吐出口形成部材と、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板の上に、液体の流路を形成する流路形成部材を形成する工程と、
前記流路形成部材の上に、液体を吐出する吐出口を有する吐出口形成部材を形成する工程と、を含み、
前記吐出口形成部材と前記流路形成部材とは異なる材料で形成され、
前記基板面に対して垂直な方向において、前記吐出口形成部材の厚さよりも前記流路形成部材の厚さが大きく、
前記吐出口形成部材が、感光性樹脂組成物の硬化物であり、
前記流路形成部材が、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を含有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記流路形成部材が、ポリエーテルアミドイミド樹脂を含有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記流路形成部材が、ポリエーテルアミドイミド樹脂を含有する、請求項10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドはインクジェット記録装置などの液体吐出装置に用いられ、流路形成部材と基板とを有する。流路形成部材は基板上に設けられており、液体の流路を形成している。基板には液体供給口が形成されており、また表面側にエネルギー発生素子を有する。
液体は液体供給口から流路に供給され、エネルギー発生素子でエネルギーを与えられ、流路形成部材上に設けられた吐出口形成部材の液体吐出口から吐出されて紙などの記録媒体に着弾する。
また、基板上には、エネルギー発生素子を覆う絶縁層や保護層、又はその他の様々な目的で、多くの場合、無機材料層が設けられている。一方、基板上の流路形成部材やその他の構造物を有機材料層で形成することが知られている。特に、有機材料層を感光性樹脂で形成すると、フォトリソグラフィーによって高精度な形成を行うことができる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された液体吐出ヘッドの製造方法では、液体流路となる感光性樹脂層のドライフィルムをラミネート法により、無機材料層を有する基板上に成膜し、流路の形状に露光する。次に、吐出口と流路を連結するノズル部及び吐出口となる感光性樹脂層のドライフィルムを流路となる感光性樹脂層上に積層し、吐出口形状に露光した後、各感光性樹脂層の未硬化部を現像により一括で除去し、流路、ノズル部、吐出口を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-018272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、インクジェット画像記録に対する要望が高度化するに伴って、インクに要望される性能もまた高度化しており、記録物への定着性の観点から高沸点の溶剤を、インク中に添加する機会が増えている。
このようにして得られるインク種は、エポキシ樹脂などからなる感光性樹脂層に浸透して流路形成部材を変形させてしまうことがある。
従って、このインク種を用いた場合、特許文献1の構成では、流路形成部材の変形が、従来用いられるインク種以上のペースで進行することが考えられ、長期的信頼性の観点において改善の余地がある。
例えば、インクジェットヘッドの長期間に亘る使用によって、流路形成部材が基板から剥がれる可能性や、所望のインク吐出性能が得られない可能性がある。
本開示では、浸透性が高い液体を用いても、流路形成部材への液体の浸透を防ぐことによって流路形成部材の基板からの剥離を抑制することができ、高い信頼性が確保できる液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
基板と、前記基板上に設けられ液体の流路を形成する流路形成部材と、前記流路形成部材上に設けられ液体を吐出する吐出口を有する吐出口形成部材と、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記吐出口形成部材と前記流路形成部材とは異なる材料で形成され、
前記基板面に対して垂直な方向において、前記吐出口形成部材の厚さよりも前記流路形成部材の厚さが大きく、
前記吐出口形成部材が、感光性樹脂組成物の硬化物であり、
前記流路形成部材が、ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を含有することを特徴とする液体吐出ヘッドに関する。
【0007】
また、本開示は、
基板と、前記基板上に設けられ液体の流路を形成する流路形成部材と、前記流路形成部材上に設けられ液体を吐出する吐出口を有する吐出口形成部材と、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板の上に、液体の流路を形成する流路形成部材を形成する工程と、
前記流路形成部材の上に、液体を吐出する吐出口を有する吐出口形成部材を形成する工程と、を含み、
前記吐出口形成部材と前記流路形成部材とは異なる材料で形成され、
前記基板面に対して垂直な方向において、前記吐出口形成部材の厚さよりも前記流路形成部材の厚さが大きく、
前記吐出口形成部材が、感光性樹脂組成物の硬化物であり、
前記流路形成部材が、ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を含有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、浸透性が高い液体を用いても、流路形成部材への液体の浸透を防ぐことによって流路形成部材の基板からの剥離を抑制することができ、高い信頼性が確保できる液体吐出ヘッド及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A)は液体吐出ヘッドの構成の一例を示す模式斜図、(B)は図1(A)のA-A’線における模式断面図。
図2】樹脂構造物の製造方法の一例を示す模式断面図
図3】液体吐出ヘッドの製造方法の例を示す模式断面図
図4】液体吐出ヘッドの製造方法の例を示す模式断面図
図5】液体吐出ヘッドの製造方法の例を示す模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、この開示を実施するための形態を、具体的に例示する。ただし、この形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、開示が適用される部材の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この開示の範囲を以下の形態に限定する趣旨のものではない。
また、本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
また、以下の説明では、同一の機能を有する構成には図面中に同一の番号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0011】
図1(A)は、液体吐出ヘッドの構成の一例を示す模式斜図である。また、図1(B)は、図1(A)におけるA-A’を通る、基板に垂直な面で見た、液体吐出ヘッドの模式
断面図の一実施形態である。
図1に示す液体吐出ヘッドは、液体を吐出するためのエネルギーを発生させるエネルギー発生素子2が所定のピッチで形成された基板1を有する。基板1は、例えばシリコンで形成されている。
エネルギー発生素子2としては、電気熱変換素子や圧電素子が挙げられる。エネルギー発生素子2は、基板1の表面に接するように設けられていても、基板1の表面に対して一部中空状に設けられていてもよい。エネルギー発生素子2には、そのエネルギー発生素子2を動作させるための制御信号入力電極(不図示)が接続されている。また、基板1にはインクなどの液体を供給する供給口3が開口されている。
【0012】
基板1の表面側には、無機材料層4と保護層5が形成されている。基板1としては、シリコンで形成されたシリコン基板が挙げられる。シリコン基板はシリコンの単結晶で、表面の結晶方位が(100)であることが好ましい。無機材料層4としては、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)及び炭窒化シリコン(SiCN)、炭酸化シリコン(SiOC)などが挙げられる。
図1においては、無機材料層4は、蓄熱層や絶縁層として用いられている。保護層5は、エネルギー発生素子を保護するものであり、例えば、TaやIrで形成されている。無機材料層4は、エネルギー発生素子を覆っていてもよい。
【0013】
図1においては、無機材料層4は、基板1の表面(基板面20)のほぼ全面に形成されている。無機材料層4上には、基板1の基板面20上に設けられ、液体の流路を形成する流路形成部材6によって流路7が形成されている。さらに、流路形成部材6上に設けられ液体を吐出する吐出口8を有する吐出口形成部材10が形成されている。吐出口形成部材10は、吐出口8に連通する液体の流路(ノズル部9)を有する。また、必要に応じて吐出口形成部材10上に撥液層11が形成されている。
この液体吐出ヘッドは、供給口3から流路7を通って供給されるインクなどの液体を、エネルギー発生素子2によって発生する圧力を加えることによって、ノズル部9を介して吐出口8から液滴として吐出させる。
【0014】
次に、図2図3を用いて、液体吐出ヘッドの製造方法について具体的に例示する。
図2に、流路形成部材を形成する、ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を含む樹脂構造物の製造方法の一例を示す。
図3は、液体吐出ヘッドの製造方法の一例を示す模式断面図である。ここでは、インクジェットヘッドの製造方法の一例を示す。図3は、完成した状態で図1(B)と同じく、基板に垂直な面で見た、断面構造を示す。
【0015】
まず、図2(a)に示すようにポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミドなどからなるフィルム12を用意する。次に、図2(b)に示すように、ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂(流路形成部材用樹脂13)をフィルム12に塗布する。
塗布方法としては、スピンコート法やスリットコート法などを用いるとよい。流路形成部材用樹脂13を塗布後、プリベークを行うことで、流路形成部材用樹脂13を有する樹脂構造物を作製する。
【0016】
ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂(流路形成部材用樹脂13)は、高耐熱及び高密着の観点から、熱可塑性樹脂であることが望ましい。
また、ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5000~100000であることが好ましく、2
0000~50000であることがより好ましい。
ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、解像性及び溶剤に対する溶解性の観点から、100000以下であることが好ましい。一方、塗布性及び皮膜性の観点から5000以上であることが好ましい。
ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂は、加工性が良好であり、かつ液体などに対する吸水性も低いことから、液体吐出ヘッドの流路形成部材として使用するのに適している。
ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂の吸水率は、感光性樹脂組成物の硬化物の吸水率よりも小さいことが好ましい。
【0017】
ここで、基板面20に対して垂直な方向において、吐出口形成部材の厚さよりも流路形成部材の厚さは大きくなるように設計する。これにより、吐出時に主滴以外の液滴を軽減できるなど良好な吐出特性が得られる。
基板面20に対して垂直な方向において、流路形成部材用樹脂13の厚さは流路の高さに相当する。流路形成部材用樹脂13の厚さは吐出口形成部材の厚さよりも大きくなるよう、液体吐出ヘッドの吐出設計により適宜決定するとよいが、例えば、3.0μm~25.0μmとすることが好ましい。また、流路形成部材の厚さは、5.0μm~24.0μmとすることがより好ましい。
【0018】
以下、具体的な、製造方法を説明するがこれらに限定されるわけではない。
図3(a)に示すように、エネルギー発生素子2を表面側(基板面20側)に有する基板1を用意する。
次に、図3(b)に示すように、エネルギー発生素子2を被覆するように、基板1の表面側(基板面上)に無機材料層4を形成する。また、エネルギー発生素子2の上方に保護層5を形成する。無機材料層4及び保護層5は、必要に応じてパターニングを行う。
次に、図3(c)に示すように、基板を貫通し、インクを供給する供給口3を形成する。供給口3は、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)などのアルカリ系のエッチング液によるウェットエッチングや、反応性イオンエッチングなどのドライエッチングを用いて、所望の位置に形成する。
次に、図3(d)に示すように、図2で説明した、流路形成部材用樹脂13を有する樹脂構造物をエネルギー発生素子2と供給口3を配置した基板1の無機材料層4上に、ラミネート法を用いて転写して成膜する。その後、流路形成部材用樹脂13を有する樹脂構造物からフィルム12を剥離テープなどにより剥離する。
なお、供給口3が配置されていない基板の場合、該樹脂構造物を用いずに、流路形成部材用樹脂13をスピンコート法やスリットコート法などで塗布して、成膜してもよい。
【0019】
次に、図3(e)に示すように、流路形成部材用樹脂13の上に、マスクレジスト14を塗布し、流路パターンを有する流路形成マスク15を介して、パターン露光し、現像することで、エッチングマスクを形成する。
次に、図3(f)に示すように、酸素プラズマなどでパターニングを行うことで、液体吐出ヘッドの流路形成部材6及び流路7を形成する。不要になったエッチングマスクは剥離液などにより、除去する。
【0020】
次に、図3(g)に示すように、感光性樹脂組成物16をPETやポリイミドなどからなるフィルムに塗布した後、流路形成部材6上にラミネート法を用いて転写して成膜する。
吐出口形成部材10となる感光性樹脂組成物16は、流路形成部材6との密着性、機械的強度、解像性などを考慮すると、カチオン重合型のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0021】
吐出口形成部材も流路形成部材と同一の、ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を用いる場合も考えられる。しかしながら、これらのうち非感光性の樹脂を用いた場合、マスクレジストを介したドライエッチングによる処理となるため、解像性が劣る可能性がある。そのため、吐出口形成部材には、カチオン重合型のエポキシ樹脂を含む感光性樹脂組成物を用いることが好ましい。
感光性樹脂組成物は、その硬化物の密着性能、機械的強度、フォトリソグラフィー材料としての反応性、解像性などから、カチオン重合型のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。
ここで、該エポキシ樹脂は末端に反応性のエポキシ基を持つ熱硬化型の樹脂であることが好ましい。
また、感光性樹脂組成物は、1分子中に二つ以上のエポキシ基を有するカチオン重合型エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
さらに、カチオン重合型のエポキシ樹脂は、光カチオン重合型のエポキシ樹脂であることが好ましい。その場合、感光性樹脂組成物は、光酸発生剤を含有することが好ましい。
光カチオン重合型のエポキシ樹脂の具体例として、ビスフェノールA型及びF型のエポキシ樹脂;フェノールノボラック型のエポキシ樹脂;クレゾールノボラック型のエポキシ樹脂;ノルボルネン骨格、テルペン骨格、ジシクロペンタジエン骨格、又はオキシシクロヘキサン骨格などを有する多官能エポキシ樹脂;などを含む樹脂組成物が挙げられる。
該感光性樹脂組成物は、露光されると現像液に対して溶解性が低下し、現像後に露光部分が残る、ネガ型組成物であることが好ましい。
【0022】
感光性樹脂組成物が、1分子中に二つ以上のエポキシ基を有するカチオン重合型エポキシ樹脂を含むことで、その硬化物が3次元架橋し、所望の特性を得るのに適している。
光酸発生剤又は光重合開始剤としては、スルホン酸化合物、ジアゾメタン化合物、スルホニウム塩化合物、ヨードニウム塩化合物、ジスルホン系化合物などが挙げられる。
【0023】
光酸発生剤又は光重合開始剤は2種類以上を混合して使用することもできる。さらに密着性能の向上を目的に、感光性樹脂組成物は、シランカップリング剤を含有することもできる。また、パターン解像性の向上や感度(硬化に必要な露光量)の調整に、アントラセン化合物などの増感剤、アミン類などの塩基性物質や弱酸性(pKa=-1.5~3.0)のトルエンスルホン酸を発生させる酸発生剤などを含有することもできる。
【0024】
なお、基板面20に対して垂直な方向において、吐出口形成部材の厚さは、液体吐出ヘッドの吐出設計により適宜決定するとよいが、機械的強度などの観点から、例えば、3.0μm~25.0μmとすることが好ましい。また、吐出口形成部材の厚さは、4.5μm~20.0μmとすることがより好ましい。
【0025】
次に、図3(h)に示すように、撥液層11を感光性樹脂組成物16上に成膜する。
撥液層11を吐出口形成部材上に形成することにより、吐出口形成部材の吸水性を低減させることが可能となる。撥液層11は、インクなどの液体に対する撥液性が求められ、カチオン重合性を有するパーフルオロアルキル組成物やパーフルオロポリエーテル組成物を用いることが好ましい。本開示において、該撥液層の厚さは、上記吐出口形成部材の厚さには加えない。
一般に、パーフルオロアルキル組成物やパーフルオロポリエーテル組成物は、塗布後のベーク処理によってフッ化アルキル鎖が、組成物と空気の界面に偏析することが知られており、組成物の表面の撥液性を高めることが可能である。
【0026】
次に、図3(i)に示すように、吐出口パターンを有する吐出口形成マスク17を介し
て、感光性樹脂組成物16と撥液層11をパターン露光する。さらに熱処理(PostExposureBake)することで露光部を硬化させ、吐出口形成部材10を形成する。
吐出口形成マスク17は、露光波長の光を透過するガラスや石英などの材質からなる基板に、吐出口のパターンに合わせてクロム膜などの遮光膜が形成されたものである。露光装置としては、i線露光ステッパー、KrFステッパーなどの単一波長の光源や、マスクアライナーMPA-600Super(商品名、キヤノン製)などの水銀ランプのブロード波長を光源に持つ投影露光装置を用いることができる。
【0027】
次に、図3(j)に示すように、感光性樹脂組成物16、撥液層11の未硬化部を現像液で現像することにより、一括除去し、吐出口8、ノズル部9を形成し、必要に応じて熱処理をして液体吐出ヘッドを完成させる。現像液としては、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、MIBK(メチルイソブチルケトン)やキシレンなどが挙げられる。また、必要に応じて、IPA(イソプロピルアルコール)などによるリンス処理を行ってもよい。
【実施例
【0028】
以下、実施例及び比較例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に具現化された構成に限定されるものではない。また、実施例及び比較例中で使用する「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0029】
<実施例1>
まず、図4(a)に示すように、厚さ100μmのPETフィルム12を用意した。
次に、図4(b)に示すように、ポリエーテルアミド樹脂である日立化成製のHIMAL HL-1200CH(商品名)(図4(b)の13)をPETフィルム12上にスピンコート法により塗布し、120℃で20分間ベークして溶剤を揮発させ、5.0μmの膜を成膜した。
次に、図4(c)に示すように、TaSiNからなるエネルギー発生素子2を表面側(基板面20側)に有するシリコンで形成された基板1を用意した。
次に、図4(d)に示すように、エネルギー発生素子2を被覆するように、基板1の表面側に、無機材料層4としてSiCNをプラズマCVD法によって厚さ0.3μmで成膜した。続いて、スパッタリング法によって、保護層5としてTaを厚さ0.25μmで形成した。さらにフォトリソグラフィー工程及び反応性イオンエッチングによって、無機材料層4及び保護層5をパターニングした。
【0030】
次に、図4(e)に示すように供給口3を形成した。供給口3は、THMP-iP5700HP(東京応化工業社製)からなるポジ型感光性樹脂を用い、開口を有するエッチングマスクを形成し、エッチングマスクの開口を通して、反応性イオンエッチングを行うことで形成した。反応性イオンエッチングは、ICPエッチング装置(アルカテル社製、型式番号:8E)を用い、ボッシュプロセスで行った。供給口3の形成後に、剥離液を用いて、エッチングマスクを除去した。
【0031】
次に、図4(f)に示すように、ポリエーテルアミド樹脂層(図4(f)の13)を形成した。具体的には、エネルギー発生素子2、供給口3を配置した基板1に、図4(b)で作製したポリエーテルアミド樹脂を有するPETフィルムを、ラミネート法を用いて70℃の熱を加え、加圧しながら転写した。その後、ポリエーテルアミド樹脂からPETフィルム12を剥離テープにより剥離した(不図示)。
次に、図4(g)に示すように、ポリエーテルアミド樹脂からなる流路形成部材用樹脂13の上から、THMP-iP5700HP(東京応化工業社製)をマスクレジスト14として塗布し、流路パターンを有する流路形成マスク15を介して、パターン露光し、現
像することで、エッチングマスクを形成した。
【0032】
次に、図4(h)に示すように、ICPエッチング装置(アルカテル社製、型式番号:8E)を用い、エッチングマスクの開口を通して、反応性イオンエッチングを行うことで、液体吐出ヘッドの流路形成部材6及び流路7を形成した。流路7の形成後に、剥離液を用いて、エッチングマスクを除去した。
次に、図4(i)に示すように、感光性樹脂組成物16を形成した。
まず、下記表1に記載の組成材料からなる感光性樹脂組成物16を、厚さ100μmのPETフィルム上に塗布し、90℃、20分ベークして溶媒を揮発させ、4.5μmの膜を成膜した。
次に、感光性樹脂組成物16をポリエーテルアミド樹脂13からなる流路形成部材6上に、ラミネート法を用いて50℃の熱を加えながら転写して積層した。
【0033】
【表1】

表中、
・jER157S70:三菱ケミカル社製
・CPI-410S:サンアプロ社製
・A-187:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製
・PGMEA:酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル
【0034】
次に、図4(j)に示すように撥液層11を形成した。撥液層を形成するフッ素含有化合物として、下式(1)で表される化合物とグリシジルプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、とからなる組成物の縮合物を2-ブタノール及びエタノールで希釈したものを用いた。前記フッ素含有化合物を感光性樹脂組成物16上にスリットコート法により塗布し、70℃で3分間熱処理を行うことで、前記希釈溶剤を揮発させ、感光性樹脂組成物16上の厚さが0.5μmとなる撥液層11を形成した。
【0035】
【化1】

(式(1)中、tは3~10の整数である。)
【0036】
次に、図4(k)に示すように、吐出口パターンを有する吐出口形成マスク17を介して、感光性樹脂組成物16及び撥液層11を、i線露光ステッパー(キヤノン製、商品名:i5)を用いて、1100J/mの露光量でパターン露光した。さらに90℃、5分の熱処理を行うことで露光部を硬化させて吐出口形成部材10を形成した。
次に、図4(l)に示すように、感光性樹脂組成物16及び撥液層11の未硬化部をプ
レピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)で10分間現像することにより除去した。これにより、吐出口8、ノズル部9を形成し、200℃の熱で硬化させて液体吐出ヘッドを得た。
【0037】
<実施例2>
流路形成部材に、ポリエーテルアミドイミド樹脂である日立化成製のHIMAL HL-1210CH(商品名)を用いた以外は実施例1と同様に液体吐出ヘッドを作製した。
【0038】
<比較例1>
下記表2に記載の組成材料からなる感光性樹脂組成物を用いて、流路形成部材を形成した以外は実施例と同様に液体吐出ヘッドを作製した。
【0039】
まず、図5(a)に示すように、厚さ100μmのPETフィルム12を用意した。
次に、図5(b)に示すように、下記表2に記載の組成材料からなる感光性樹脂組成物18を100μm厚のPETフィルム12上に塗布し、90℃、20分ベークして溶媒を揮発させ、5.0μmの膜を成膜した。
次に、実施例1と同様の方法で、図5(c)から(e)に示すように、供給口3を有する基板を作製した。
【0040】
次に、図5(f)に示すように、エネルギー発生素子2、供給口3を配置した基板1に、図5(b)で作製した感光性樹脂組成物18を有するPETフィルムを、ラミネート法を用いて70℃の熱を加え、加圧しながら転写した。その後、感光性樹脂組成物18からPETフィルム12を剥離テープにより剥離した(不図示)。
次に、図5(g)に示すように、流路パターンを有する流路形成マスク19を介して、感光性樹脂組成物18を、i線露光ステッパー(キヤノン製、商品名:i5)を用いて、4000J/mの露光量でパターン露光した。さらに90℃、5分の熱処理を行うことで露光部を硬化させて流路形成部材6となる側壁を形成した。
次に、図5(h)に示すように、感光性樹脂組成物18の未硬化部を酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル(PGMEA)で10分間現像することにより除去し、流路形成部材6及び流路7を形成した。
次に、図5(i)に示すように、感光性樹脂組成物16を形成した。
まず、上記表1に記載の組成材料からなる感光性樹脂組成物16を、厚さ100μmのPETフィルム上に塗布し、90℃、20分ベークして溶媒を揮発させ、4.5μmの膜を成膜した。
次に、感光性樹脂組成物16を、感光性樹脂組成物18からなる流路形成部材6上に、ラミネート法を用いて50℃の熱を加えながら転写して積層した。
以下、図5(j)から(l)は実施例と同様である。
【0041】
【表2】

表中、
・TECHMORE VG3101:プリンテック社製
・SP-172:アデカオプトマーSP-172 ADEKA社製
・A-187:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製
・PGMEA:酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル
【0042】
[評価]
<吸水率>
実施例1、2及び比較例1に記載の樹脂及び感光性樹脂組成物の硬化物の吸水率を、以下の方法により評価した。
まず、実施例1及び2で使用した、日立化成製のHIMAL HL-1200CH(商品名:ポリエーテルアミド樹脂)及び日立化成製のHIMAL HL-1210CH(商品名:ポリエーテルアミドイミド樹脂)をシリコン基板上に塗布した。塗布後、120℃、20分ベークして溶剤を揮発させ、5μmの膜を成膜した。
次に、比較例1で使用した感光性樹脂組成物の硬化物については、比較例1の流路形成部材の形成方法と同様の条件で露光、加熱処理を行い、感光性樹脂組成物18の硬化物を作製した。
その後、各樹脂の硬化物が形成された基板を、70℃の純水に1日浸漬し、純水浸漬前後の各樹脂の硬化物の質量変化を質量分析装置(Metryx製、商品名:Mentor
OC23)を用いて測定した。吸水率の測定結果を表3に示す。実施例1及び2で作製し硬化物の方が比較例に比べて、吸水率が著しく低かった。
【0043】
【表3】
【0044】
<耐インク性>
実施例1及び2、並びに比較例1で作製した、それぞれの液体吐出ヘッドの流路に、以下の表4に示すインクを充填し、70℃のオーブン中で90日間放置した。
【0045】
【表4】
【0046】
放置後の無機材料層4と流路形成部材6の接合状態を金属顕微鏡にて観察し、以下の基準で評価を行った。耐インク性の評価結果を表5に示す。
実施例1及び2で作製した液体吐出ヘッドでは、無機材料層と流路形成部材間で剥離が
見られず、耐インク性が良好であったのに対して、比較例では、無機材料層と流路形成部材間で一部剥離が見られた。
(評価基準)
A:70℃、90日間保存後でも、無機材料層4と流路形成部材6間で剥離は発生していない。
B:70℃、90日間保存後に、無機材料層4と流路形成部材6間で、液体吐出ヘッド完成時には見られなかった剥離が発生している。
【0047】
【表5】
【0048】
<印字評価>
実施例及び比較例で作製したそれぞれの液体吐出ヘッドに、耐インク性評価と同様のインクを充填し、70℃、90日間保存した後の印字評価を行った。印字評価の評価結果を表6に示す。
実施例1及び2で作製した液体吐出ヘッドでは、印字評価が良好であったのに対して、比較例では、無機材料層と流路形成部材間で一部剥離が発生し、印字品位の低下が見られた。
【0049】
【表6】
【0050】
以上のように、本開示によれば、浸透性が高いインクを用いても、流路形成部材へのインク浸透を防ぐことによって流路形成部材の基板からの剥離を抑制することができ、高い信頼性が確保できる液体吐出ヘッドを提供することができた。
【符号の説明】
【0051】
1:基板、2:エネルギー発生素子、3:供給口、4:無機材料層、5:保護層、6:流路形成部材、7:流路、8:吐出口、9:ノズル部、10:吐出口形成部材、11:撥液層、12:フィルム、13:流路形成部材用樹脂、14:マスクレジスト、15:流路形成マスク、16:感光性樹脂組成物、17:吐出口形成マスク、18:感光性樹脂組成物、19:流路形成マスク、20:基板面

図1
図2
図3
図4
図5