(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 7/075 20060101AFI20240909BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20240909BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240909BHJP
H01G 4/40 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
H03H7/075 Z
H01F27/00 S
H01F17/00 D
H01G4/40 321A
(21)【出願番号】P 2020049668
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 利之
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-048450(JP,A)
【文献】特開2003-158437(JP,A)
【文献】特開2018-064266(JP,A)
【文献】特開平11-205065(JP,A)
【文献】国際公開第2006/022098(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F17/00-38/42
H01G4/00-13/06
H03H1/00-7/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子および出力端子と、
第1面を有する第1誘電体層と第2面を有する第2誘電体層を含む複数の誘電体層が積層された積層体と、
前記第1面に設けられた第1線路、第2線路、第3線路および第4線路と、
前記第1面に設けられ、一端が前記第1線路の端部と前記第2線路の端部が接続する第1ノードに接続され、他端が前記第3線路の端部と前記第4線路の端部とが接続する第2ノードに接続された第5線路と、
前記第2面に設けられた第3ノードと、
前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層を貫通し、前記第3ノードと前記第3線路の前記第2ノードから離れた箇所とを接続する第1ビア配線と、
前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層を貫通し、前記第3ノードと前記第4線路の前記第2ノードから離れた箇所とを接続する第2ビア配線と、
を備え、
前記第1線路は第1インダクタの少なくとも一部を形成し、
前記第2線路は第2インダクタの少なくとも一部を形成し、
前記第5線路と、前記第3線路および前記第1ビア配線の経路と、前記第4線路および前記第2ビア配線の経路とは、前記第1インダクタと前記第2インダクタとに前記第1ノードにおいて接続された第3インダクタを形成
し、
前記第1線路、前記第2線路および前記第1ノードは前記入力端子と前記出力端子との間の経路に設けられ、
前記第3ノードは、前記入力端子と前記出力端子との間の他の経路に設けられ、
前記第3インダクタは前記第1ノードと前記第3ノードとの間に設けられているフィルタ。
【請求項2】
前記入力端子と前記出力端子との間
の前記他の経路において前記第1インダクタと並列に接続される第1キャパシタと、
前記入力端子と前記出力端子との間
の前記他の経路において前記第2インダクタと並列に接続される第2キャパシタと、
を備える請求項
1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記第1キャパシタの一端は前記第3ノードに接続され、
前記第2キャパシタの一端は前記第3ノードに接続される請求項
2に記載のフィルタ。
【請求項4】
一端が前記第3ノードに接続され、他端が接地された第3キャパシタを備える請求項
3に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記第3線路および前記第4線路は前記第5線路に対し略線対称であり、
前記第1ビア配線および前記第2ビア配線は前記第5線路に対し略線対称である請求項1から
4のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第3線路が前記第1ビア配線の中心に入る方向および前記第4線路が前記第2ビア配線の中心に入る方向は前記第5線路の延伸方向に略直交する請求項
5に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記フィルタはローパスフィルタまたはバンドパスフィルタである請求項1から
6のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか一項に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば誘電体層が積層されたフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートホンや携帯電話等の無線通信端末には、不要な妨害波を除去するフィルタが用いられている。フィルタとして、誘電体層を積層した積層体を用いることが知られている。誘電体層の1つの表面に分岐された3つの線路を設けることが知られている(例えば特許文献1から3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-13962号公報
【文献】特開2018-186417号公報
【文献】国際公開第2006/22098号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直列に接続された2つのインダクタの一部を束ねることで、インダクタのサイズを小さくすることができる。2つのインダクタの一部を束ねると、誘電体層の表面において分岐された3つの線路が設けられる。分岐された3つの線路は他の誘電体層の表面に設けられた導電体パターンに誘電体層を貫通するビア配線を介し接続される。
【0005】
しかしながら、3つの線路が設けられた誘電体層と導電体パターンが形成された誘電体層との合わせずれが生じると、3つの線路のうち少なくとも1つの線路の実質的な長さが変わってしまう。これにより、フィルタ特性が変化してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、特性の変化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、入力端子および出力端子と、第1面を有する第1誘電体層と第2面を有する第2誘電体層を含む複数の誘電体層が積層された積層体と、前記第1面に設けられた第1線路、第2線路、第3線路および第4線路と、前記第1面に設けられ、一端が前記第1線路の端部と前記第2線路の端部が接続する第1ノードに接続され、他端が前記第3線路の端部と前記第4線路の端部とが接続する第2ノードに接続された第5線路と、前記第2面に設けられた第3ノードと、前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層を貫通し、前記第3ノードと前記第3線路の前記第2ノードから離れた箇所とを接続する第1ビア配線と、前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層を貫通し、前記第3ノードと前記第4線路の前記第2ノードから離れた箇所とを接続する第2ビア配線と、を備え、前記第1線路は第1インダクタの少なくとも一部を形成し、前記第2線路は第2インダクタの少なくとも一部を形成し、前記第5線路と、前記第3線路および前記第1ビア配線の経路と、前記第4線路および前記第2ビア配線の経路とは、前記第1インダクタと前記第2インダクタとに前記第1ノードにおいて接続された第3インダクタを形成し、前記第1線路、前記第2線路および前記第1ノードは前記入力端子と前記出力端子との間の経路に設けられ、前記第3ノードは、前記入力端子と前記出力端子との間の他の経路に設けられ、前記第3インダクタは前記第1ノードと前記第3ノードとの間に設けられているフィルタである。
【0010】
上記構成において、前記入力端子と前記出力端子との間の前記他の経路において前記第1インダクタと並列に接続される第1キャパシタと、前記入力端子と前記出力端子との間の前記他の経路において前記第2インダクタと並列に接続される第2キャパシタと、を備える構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第1キャパシタの一端は前記第3ノードに接続され、前記第2キャパシタの一端は前記第3ノードに接続される構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、一端が前記第3ノードに接続され、他端が接地された第3キャパシタを備える構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記第3線路および前記第4線路は前記第5線路に対し略線対称であり、前記第1ビア配線および前記第2ビア配線は前記第5線路に対し略線対称である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第3線路が前記第1ビア配線の中心に入る方向および前記第4線路が前記第2ビア配線の中心に入る方向は前記第5線路の延伸方向に略直交する構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記フィルタはローパスフィルタまたはバンドパスフィルタである構成とすることができる。
【0017】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特性の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
【
図2】
図2は、実施例1に係るフィルタの斜視図である。
【
図3】
図3は、実施例1に係るフィルタの解体斜視図である。
【
図4】
図4は、実施例1においてインダクタL3からL5を形成する線路およびビア配線の拡大平面図である。
【
図5】
図5は、実施例1においてインダクタL3からL5を形成する線路の拡大斜視図である。
【
図6】
図6は、比較例1に係るフィルタの解体斜視図である。
【
図7】
図7は、比較例1においてインダクタL3からL5を形成する線路およびビア配線の拡大平面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、比較例1のフィルタAからCにおける線路およびビア配線の拡大平面図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、実施例1のフィルタAからCにおける線路およびビア配線の拡大平面図である。
【
図12】
図12(a)から
図12(c)は、実施例1における線路の別の例を示す拡大平面図である。
【
図13】
図13は、実施例2に係るトリプレクサの回路図である。
【
図14】
図14は、実施例2の変形例1に係る通信用モジュールの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
実施例1として、バンドパスフィルタ(BPF)を例に説明する。
図1は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
図1に示すように、フィルタ100は、ハイパスフィルタ(HPF)20、21およびローパスフィルタ22を備えている。HPF20は入力端子である端子T1とノードN2との間に接続され、HPF21はノードN4と出力端子である端子T2との間に接続されている。LPF22はノードN2とN4との間に接続されている。LPF22の遮断周波数はHPF20および21の遮断周波数より高い。これにより、フィルタ100はバンドパスフィルタとして機能する。
【0022】
HPF20では、キャパシタC1およびC2は端子T1とノードN2との間に直列接続されている。キャパシタC3は端子T1とノードN2との間においてキャパシタC1およびC2に並列接続されている。インダクタL1はキャパシタC1とC2との間のノードN1と、グランド端子Tgと、の間に接続されている。
【0023】
HPF21では、キャパシタC6およびC7はノードN4と端子T2との間に直列接続されている。キャパシタC8はノードN4と端子T2との間においてキャパシタC6およびC7に並列接続されている。インダクタL2はキャパシタC6とC7との間のノードN5と、グランド端子Tgと、の間に接続されている。
【0024】
LPF22では、キャパシタC4およびC5はノードN2とN4との間に直列接続されている。キャパシタC9およびC11はそれぞれノードN2およびN4とグランド端子Tgとの間に接続されている。キャパシタC10はキャパシタC4とC5との間のノードN3とグランド端子Tgとの間に接続されている。インダクタL3はノードN2とN6との間に接続され、インダクタL4はノードN6とN4との間に接続されている。インダクタL5はノードN6とN3との間に接続されている。
【0025】
キャパシタC4、インダクタL3およびL5は並列共振回路23を形成し、キャパシタC5、インダクタL4およびL5は並列共振回路24を形成する。並列共振回路23および24により通過帯域の高周波側に減衰極が形成される。インダクタL5はインダクタL3とL4の一部を束ねたインダクタである。
【0026】
図2は、実施例1に係るフィルタの斜視図である。
図2に示すように、フィルタ100は、積層体10を有している。積層体10の下面に端子14が設けられている。端子14は、例えば端子T1、T2およびグランド端子Tgである。
【0027】
図3は、実施例1に係るフィルタの解体斜視図である。
図3では、ビア配線13bから13fの接続を破線で示す。
図3に示すように、積層体10においてセラミックス材料からなる誘電体層11aから11fが積層されている。誘電体層11aから11fの上面にそれぞれ導電体パターン12aから12fが設けられている。誘電体層11fの下面に端子14が設けられている。誘電体層11bから11fを貫通するようにそれぞれビア配線13bから13fが設けられている。ビア配線13bから13eは、導電体パターン12bから12fの少なくとも1つと接続する。ビア配線13fは導電体パターン12fと端子14とを接続する。
【0028】
導電体パターン12aは方向識別マークとなる。インダクタL1からL4は、導電体パターン12bおよび12cにより形成される。インダクタL5は、導電体パターン12cにより形成される。ノードN3に相当する導電体パターン39は導電体パターン12dにより形成されている。キャパシタC2、C4からC6は、誘電体層11dを挟む導電体パターン12dと12eとにより形成される。キャパシタC1、C3、C7からC11は、誘電体層11eを挟む導電体パターン12eと12fとにより形成される。
【0029】
図4は、実施例1においてインダクタL3からL5を形成する線路およびビア配線の拡大平面図である。
図4に示すように、線路36および37は導電体パターン12bにより形成されている。線路31から35は導電体パターン12cにより形成されている。ビア配線43および44は誘電体層11bを貫通するビア配線13bであり、ビア配線41および42は誘電体層11cを貫通するビア配線13cである。ビア配線45および46はビア配線13bから13d(
図3参照)である。
【0030】
線路36の一端はビア配線45を介しノードN2(
図3参照)に電気的に接続される。線路37の一端はビア配線46を介しノードN4(
図3参照)に電気的に接続される。線路36の他端はビア配線43を介し線路31に電気的に接続される。線路37の他端はビア配線44を介し線路32に電気的に接続される。ビア配線45、線路36、ビア配線43および線路31はインダクタL3を形成する。ビア配線46、線路37、ビア配線44および線路32はインダクタL4形成する。
【0031】
線路31と32とはノードN6において接続されている。線路35はノードN6とN7との間に接続されている。線路33および線路34はノードN7において接続されている。線路33の端部はビア配線41を介しノードN3に接続されている。線路34の端部はビア配線42を介しノードN3に接続されている。ノードN7とノードN3である導電体パターン39(
図3参照)との間において、線路33およびビア配線41の経路と、線路34およびビア配線42の経路は、並列接続されている。線路35と、線路33およびビア配線41の経路と、線路34およびビア配線42の経路と、はインダクタL5(
図1参照)を形成する。
【0032】
図4において、線路31から37においてビア配線41から46と接続される箇所(パッド)の平面形状が十字形となっているが、この箇所の平面形状は円形状または多角形状でもよい。
【0033】
図5は、実施例1においてインダクタL3からL5を形成する線路の拡大斜視図である。実線矢印は線路31から37に流れる電流を示し、破線矢印は電流により誘起される磁界を示している。
【0034】
図5に示すように、線路35に+X方向に電流が流れると、インダクタL3およびL5を形成する線路36、31、35および33を流れる電流は右回り(時計方向)となり、インダクタL4およびL5を形成する線路37、32、35および34を流れる電流は左回り(反時計方向)となる。これにより、インダクタL3およびL5が誘起するインダクタL3およびL5内の磁界70の方向は-Z方向となる。インダクタL4およびL5が誘起するインダクタL4およびL5内の磁界71の方向は+Z方向となる。
【0035】
磁界72のように互いの磁界が結合して磁界を強め合う。これにより、各インダクタのインダクタンスが大きくなる。線路33から35のように、インダクタL3とL4の一部をインダクタL5として束ねることで、電流を共有することができ、磁界の結合がより強められる。インダクタL5を長くすることで、インダクタL3とL5とのインダクタンスおよびインダクタL4とL5とのインダクタンスを大きくできる。よって、短い線路で大きなインダクタンスを得ることができる。
【0036】
誘電体層11aから11fは、セラミックス材料からなり、主成分として例えばSi、CaおよびMgの酸化物(例えばディオプサイド結晶であるCaMgSi2O6)を含む。誘電体層11aから11fの主成分は、Si、Caおよび/またはMg以外の酸化物でもよい。さらに、誘電体層11aから11fは、絶縁体材料としてTi、ZrおよびAlの少なくとも1つの酸化物を含んでもよい。
【0037】
導電体パターン12aから12f、ビア配線13bから13fおよび端子14の上部は、例えばAg、Pd、Pt、Cu、Ni、Au、Au-Pd合金またはAg-Pt合金を主成分とする金属層である。端子14の上部は、上記金属材料に加えTiO2、ZrO2またはAl2O3等の非伝導性材料を含んでもよい。端子14の下部は、Ni膜およびSn膜である。
【0038】
積層体10は、例えば以下のようにして製造される。誘電体層11aから11fは例えばドクターブレード法を用い作製する。誘電体層11bから11fを貫通するビア配線13bから13fを形成する。例えば誘電体層11aから11fを貫通するビアホールをレーザ光照射により形成する。スキージ法等を用いビアホール内にビア配線13bから13fを形成する。誘電体層11aから11fの表面に導電体パターン12aから12fおよび端子14の上部を形成する。導電体パターン12aから12fおよび端子14の上部は例えばスクリーン印刷法または転写法を用い形成する。誘電体層11aから11fを積層して積層体10を形成する。誘電体層11aから11fの積層には例えば熱加圧または接着剤を用いる。積層体10を例えば700℃以上で焼成する。これにより、誘電体層11aから11fが焼結体となる。端子14の上部の下に端子14の下部を形成する。端子14の下部の形成には、例えばバレルメッキ法等のメッキ法を用いる。
【0039】
[比較例1]
図6は、比較例1に係るフィルタの解体斜視図である。
図6に示すように、比較例1に係るフィルタ110では、インダクタL3およびL4を形成する導電体パターン12bおよび12cの形状が異なる。その他の構成は実施例1と同じである。
【0040】
図7は、比較例1においてインダクタL3からL5を形成する線路およびビア配線の拡大平面図である。
図7に示すように、線路36および37は導電体パターン12bにより形成されている。線路30から32は導電体パターン12cにより形成されている。ビア配線43および44は誘電体層11bを貫通するビア配線13bであり、ビア配線40は誘電体層11cを貫通するビア配線13cである。
【0041】
線路36の一端はビア配線45を介しノードN2に電気的に接続される。線路37の一端はビア配線46を介しノードN4に電気的に接続される。線路36の他端はビア配線43を介し線路31に電気的に接続される。線路37の他端はビア配線44を介し線路32に電気的に接続される。ビア配線45、線路36、ビア配線43および線路31はインダクタL3(
図1参照)を形成する。ビア配線46、線路37、ビア配線44および線路32はインダクタL4(
図1参照)を形成する。
【0042】
線路31と32とはノードN6において接続されている。線路30の一端はノードN6に接続されている。線路30の他端はビア配線40を介しノードN3(
図6参照)に接続されている。線路30およびビア配線40はインダクタL5(
図1参照)を形成する。
【0043】
[シミュレーション]
比較例1および実施例1のフィルタの通過特性をシミュレーションした。シミュレーション条件は以下である。
キャパシタC1からC11のキャパシタンスの概略値を表1に示す。
【表1】
【0044】
インダクタL1からL5のインダクタンスの概略値を表2に示す。
【表2】
【0045】
図8(a)から
図8(c)は、比較例1のフィルタAからCにおける線路およびビア配線の拡大平面図である。
【0046】
図8(a)に示すように、フィルタAでは、線路30から32の端部の十字形の中心とビア配線40、43および44の中心とがほぼ一致している。
図8(b)に示すように、フィルタBでは、線路30から32の端部の十字形の中心がビア配線40、43および44の中心に対し+X方向にシフトしている。
図8(c)に示すように、フィルタCでは、線路30から32の端部の十字形の中心がビア配線40、43および44の中心に対し-X方向にシフトしている。フィルタBおよびCにおけるシフト量D1は40μmである。
【0047】
図9(a)から
図9(c)は、実施例1のフィルタAからCにおける線路およびビア配線の拡大平面図である。
【0048】
図9(a)に示すように、線路35は略直線状でありY方向に延伸する。線路31と32は線路35に対し線対称であり、線路33と34は線路35に対し線対称である。線路31および33は-Y方向に行くにしたがい互いに離れるように延伸する。線路32および34は+Y方向に行くにしたがい互いに離れるように延伸する。線路31および33がビア配線43および41にそれぞれ入る方向は-Y方向である。線路32および34がビア配線44および42にそれぞれ入る方向は+Y方向である。フィルタAでは、線路31から35の端部の十字形の中心とビア配線41から44の中心とがほぼ一致している。
【0049】
図9(b)に示すように、フィルタBでは、線路31から35の端部の十字形の中心がビア配線41から44の中心に対し+X方向にシフトしている。
図9(c)に示すように、フィルタCでは、線路31から35の端部の十字形の中心がビア配線41から44の中心に対し-X方向にシフトしている。フィルタBおよびCにおけるシフト量D1は40μmである。
【0050】
図10(a)および
図10(b)は、比較例1における通過特性を示す図である。
図10(a)は、通過帯域付近における挿入損失を示し、
図10(b)は広帯域における減衰量を示す。横軸および縦軸は任意単位[a.u.]である。
【0051】
図10(a)に示すように、フィルタAからCのように、ビア配線40、43および44に対し線路30から32をシフトさせると、通過帯域の幅が変化する。
図10(b)に示すように、通過帯域の高周波数側の減衰域における減衰量が変化する。
図10(a)において挿入損失が所定値における通過帯域の高周波数端のフィルタBとCとの差ΔFをフィルタAの通過帯域の高周波数端Fで除した値ΔF/Fを周波数変動量ΔFとすると、ΔFは約5.0%である。
【0052】
図11(a)および
図11(b)は、実施例1における通過特性を示す図である。
図11(a)は、通過帯域付近における挿入損失を示し、
図11(b)は広帯域における減衰量を示す。横軸および縦軸は任意単位[a.u.]である。
【0053】
図11(a)に示すように、フィルタAからCのように、ビア配線41から44に対し線路31から35をシフトさせても通過帯域の幅の変化は小さい。
図11(b)に示すように、減衰域における減衰量の変化は小さい。
図11(a)において挿入損失が所定値における周波数変動量ΔFは約0.7%である。このように、実施例1では比較例1に比べΔFが小さい。
【0054】
比較例1では、
図8(a)から
図8(c)のように、ビア配線40に対する線路30の位置が変化すると、線路30の長さが実質的に変化する。線路30はインダクタL3およびL4を束ねたインダクタL5の一部に相当する。インダクタL5のインダクタンスの変化は並列共振回路23および24の共振周波数に大きく影響すると考えられる。これにより、フィルタAからCではΔFが大きくなったものと考えられる。
【0055】
実施例1では、
図9(a)から
図9(c)のように、ビア配線41および42に対する線路35の位置が変化しても線路35の長さは変わらない。線路33および34の長さは変化するが、線路33および34はノードN7とN3との間において並列接続されており、線路33および34の長さの変化はインダクタL5のインダクタンスに影響しにくい。これにより、実施例1では、ビア配線41から44に対し線路31から35がシフトしてもΔFは小さい。
【0056】
図12(a)から
図12(c)は、実施例1における線路の別の例を示す拡大平面図である。
【0057】
図12(a)に示すように、線路31から34はY方向(線路35の延伸方向に略直交する方向)に延伸する。その他の構成は
図9(a)と同じであり説明を省略する。
図12(b)に示すように、線路31および33は-Y方向に行くにしたがい互いに近づくように延伸する。線路32および34は+Y方向に行くにしたがい互いに近づくように延伸する。その他の構成は
図9(a)と同じであり説明を省略する。
図12(a)および
図12(b)に示すように、線路31から35の形状は任意に設定できる。
【0058】
図12(c)に示すように、ノードN7において線路35に接続する線路38が設けられている。線路38の端部はビア配線48を介しノードN3に接続されている。その他の構成は
図9(a)と同じであり説明を省略する。
図12(c)に示すように、ノードN7とN3(
図3参照)との間の線路は3本以上の複数でもよい。
【0059】
実施例1によれば、
図3、
図4および
図9(a)のように、誘電体層11c(第1誘電体層)の上面(第1面)に線路31から35が設けられている。誘電体層11d(第2誘電体層)の上面(第2面)にノードN3(第3ノード)に相当する導電体パターン39が設けられている。線路31から35が設けられている。線路35(第5線路)の一端は、線路31(第1線路)と線路32(第2線路)とが接続するノードN6(第1ノード)に接続され、線路35の他端は、線路33(第3線路)と線路34(第4線路)とが接続するノードN7(第2ノード)に接続されている。ビア配線41(第1ビア配線)は、誘電体層11aから11fの少なくとも1つの誘電体層
11cを貫通し、導電体パターン39と線路
33のノードN7から離れた箇所とを接続する。ビア配線42(第2ビア配線)は、誘電体層
11cを貫通し、導電体パターン39と線路
34のノードN7から離れた箇所とを接続する。
【0060】
これにより、
図9(a)から
図9(c)のように、ビア配線41および42に対し線路31から35がシフトしても線路35の長さは変わらない。線路33および34の実質的な長さは変わるが、線路33と34はノードN7と導電体パターン39の間に並列接続されている。よって、インダクタL5のインダクタンスは大きくは変わらない。
【0061】
線路35は略直線であり、線路33および34は線路35に対し略線対称であり、ビア配線41および42は線路35に対し略線対称である。これにより、
図9(a)から
図9(c)において、ビア配線41および42に対し線路31から35がY方向(線路35の延伸方向に直交する方向)にシフトしても線路33が実質的に長くなると線路34は実質的に短くなる。このように、線路33と線路34のインダクタンスの変化は互いに補償し合う。よって、インダクタL5のインダクタンスの変化を小さくできる。
【0062】
さらに、線路33がビア配線41の中心に入る方向および線路34がビア配線42の中心に入る方向は線路35の延伸方向に略直交する。これにより、
図9(a)から
図9(c)において、ビア配線41および42に対し線路31から35がX方向(線路35の延伸方向)にシフトしても線路33および34の実質的な長さは変化しにくい。よって、インダクタL5のインダクタンスの変化を小さくできる。
【0063】
略直線、略対称および略直交とは、実施例1の効果を奏する範囲で直線、対称および直交からずれていてもよく、例えば製造誤差程度直線、対称および直交からずれていてもよい。
【0064】
フィルタの回路構成は
図1に限られないが、線路33、34およびノードN6は、入力端子である端子T1と出力端子である端子T2との間の経路に設けられている。このとき、インダクタL5はインダクタL3とL4とを束ねる構造となる。よって、インダクタL3とL4のインダクタンスが変化してもフィルタ特性は大きくは変化しないが、インダクタL5のインダクタンスが変化すると、フィルタ特性が大きく変化する。よって、線路31から35を
図4のような構成とすることが好ましい。
【0065】
線路31はインダクタL3(第1インダクタ)の少なくとも一部を形成し、線路32はインダクタL4(第2インダクタ)の少なくとも一部を形成し、線路33から35は、インダクタL3およびL4にノードN6において接続されたインダクタL5(第3インダクタ)の少なくとも一部を形成する。このように、3つのインダクタL3からL5がノードN6において接続されているとき、最もフィルタ特性に影響するインダクタL5を線路33から35により形成する。これにより、ビア配線41および42に対し線路31から35がシフトしたときのフィルタ特性の変化を小さくできる。
【0066】
線路36(第6線路)は、誘電体層11b(第3誘電体層)の上面(第3面)に設けられ、インダクタL3の一部を形成し、線路31のノードN6から離れた箇所に接続される。線路37(第7線路)は、誘電体層11bの上面に設けられ、インダクタL4の一部を形成し、線路32のノードN6から離れた箇所に接続される。このとき、
図5のように、平面視において、線路31、35および33を流れる電流の回転方向と、線路36を流れる電流の回転方向とは同じである。また、平面視において、線路32、35および34を流れる電流の回転方向と、線路37を流れる電流の回転方向とは同じである。これにより、インダクタL3およびL4の一部をインダクタL5として束ねることで、インダクタL3およびL4のインダクタンスを大きくできる。
【0067】
キャパシタC4(第1キャパシタ)は端子T1と端子T2との間においてインダクタL3と並列接続され、キャパシタC5(第2キャパシタ)は端子T1と端子T2との間においてインダクタL4と並列接続されている。また、キャパシタC4の一端およびキャパシタC5の一端は導電体パターン39に接続されている。このような回路構成では、インダクタL5のインダクタンスが変化すると、インダクタL3およびL5とキャパシタC4を有する並列共振回路23およびインダクタL4およびL5とキャパシタC5を有する並列共振回路24の共振周波数が大きく変わる。これにより、共振周波数に起因した減衰極の周波数が大きく変わりフィルタ特性が大きく変わる。よって、インダクタL5を線路33から35により形成することが好ましい。
【0068】
さらに、キャパシタC10(第3キャパシタ)は、一端が導電体パターン39に接続され、他端が接地されている。これにより、インダクタL3からL5、キャパシタC4、C5およびC10は、ローパスフィルタとして機能する。
【実施例2】
【0069】
実施例2は、実施例1のフィルタを用いたトリプレクサの例である。
図13は、実施例2に係るトリプレクサの回路図である。
図13に示すように、トリプレクサ50はフィルタ52、54および56を備えている。共通端子Antと端子LB、MBおよびHBとの間にそれぞれフィルタ52、54および56が接続されている。共通端子Antにはアンテナ58が接続されている。フィルタ52は例えばローパスフィルタLPFであり、ローバンドの高周波信号を通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。フィルタ54は例えばバンドパスフィルタBPFであり、ローバンドより高い周波数のミドルバンドの高周波信号を通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。フィルタ56は例えばハイパスフィルタHPFであり、ミドルバンドより高い周波数のハイバンドの高周波信号を通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。
【0070】
フィルタ52、54および56の少なくとも1つのフィルタを実施例1およびその変形例のフィルタとすることができる。マルチプレクサの例としてトリプレクサの例を説明したが、マルチプレクサはダイプレクサ、デュプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0071】
[実施例2の変形例1]
実施例2の変形例1は、実施例1のフィルタを用いた通信用モジュールの例である。
図14は、実施例2の変形例1に係る通信用モジュールの回路図である。
図14に示すように、モジュール60は、フィルタ61、スイッチ62、ローノイズアンプLNA63およびパワーアンプPA64を備えている。
【0072】
アンテナ端子TAにアンテナ58が接続される。アンテナ端子TAには、フィルタ61の一端が接続されている。フィルタ61の他端にはスイッチ62が接続されている。スイッチ62にはLNA63の入力端子およびPA64の出力端子が接続されている。LNA63の出力端子は受信端子TRに接続されている。PA64の入力端子は送信端子TTに接続されている。受信端子TRおよび送信端子TTにはRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)が接続されている。
【0073】
モジュール60は、例えばTDD(Time Division Duplex)通信方式の通信用モジュールである。TDD通信方式では送信帯域と受信帯域とは同じ帯域である。フィルタ61は例えばバンドパスフィルタであり、送信帯域と受信帯域を含む通過帯域の高周波信号を通過させ他の周波数の信号を抑圧する。
【0074】
受信信号を受信するとき、スイッチ62はフィルタ61とLNA63とを接続する。これにより、アンテナ58に受信された高周波信号はフィルタ61により受信帯域の信号に濾波され、LNA63により増幅されRFIC65に出力される。送信信号を送信するとき、スイッチ62はフィルタ61とPA64とを接続する。これにより、RFIC65から出力された高周波信号は、PAにより増幅され、フィルタ61により送信帯域の信号に濾波され、アンテナ58から出力される。
【0075】
実施例2の変形例1の通信用モジュール内のフィルタ61を実施例1のフィルタとすることができる。モジュールとしては、他の回路形式の通信用モジュールでもよい。
【0076】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 積層体
11a-11f 誘電体層
12a-12f、39 導電体パターン
13b-13f、40-48 ビア配線
14 端子
31-38 線路