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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】防曇剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240909BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240909BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240909BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240909BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20240909BHJP
【FI】
C09K3/00 R ZNM
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/20
G02B1/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020058664
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155622
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1472275(CN,A)
【文献】特開平11-199860(JP,A)
【文献】特開平10-101374(JP,A)
【文献】特開2014-201451(JP,A)
【文献】特開2019-172526(JP,A)
【文献】特開2010-195654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C09D 7/60
B05D 5/00
C01G 23/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニアナノ粒子を含有する防曇剤であって、
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が結合しており、
前記チタニアナノ粒子の平均粒子径が1.5~7nmであり、
前記チタニアナノ粒子の比表面積が200~400m /gであり、
示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が7~20質量%であり、且つ、
前記防曇剤の総量を100質量%として、前記チタニアナノ粒子の含有量が0.1~1.5質量%であり、濃塩酸を含まない、防曇剤。
【請求項2】
水を含む溶媒の分散液である、請求項1に記載の防曇剤。
【請求項3】
前記水の含有量が、前記防曇剤の総量を100質量%として、25質量%以上である、請求項に記載の防曇剤。
【請求項4】
前記分散液が、さらに、有機溶媒を含有する、請求項又はに記載の防曇剤。
【請求項5】
前記有機溶媒がアルコール、エーテル、ラクタム及びケトンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の防曇剤。
【請求項6】
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、2-プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン及びアセチルアセトンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項又はに記載の防曇剤。
【請求項7】
紫外光が当たらない状態で使用する、請求項1~のいずれか1項に記載の防曇剤。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の防曇剤の製造方法であって、
(A)チタンを含む物質、酢酸及び水を混合して分散液を得る工程、及び
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程を備え、且つ、
前記工程(A)において、前記チタンを含む物質と前記酢酸との混合比率は、前記チタンを含む物質中のチタン1モルに対して前記酢酸中のアセトキシ基が1.5モル以上である、製造方法。
【請求項9】
前記工程(B)における加熱条件が82℃以上で1.5時間以上である、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記チタンを含む物質がチタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタンである、請求項又はに記載の製造方法。
【請求項11】
工程(A)において作製される分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下である、請求項10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(A)において作製される分散液中の無機酸の濃度が0.01mol/L以下である、請求項11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(B)において作製される分散液のpHが2以上6未満である、請求項12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1~のいずれか1項に記載の防曇剤を用いた塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、浴室、農業、商業ビル等において、特に鏡等の防曇が求められてきているが、現在においても十分な効果を有する防曇剤は存在せず、大きな課題である。
【0003】
防曇剤は、施工性、持続性等に合わせて使い分けられており(例えば、非特許文献1参照)、例えば、浴室の鏡においては短期的には界面活性剤を含む防曇剤、持続的効果を謳う防曇剤にはシリカを含む防曇剤が使用されている。しかしながら、界面活性剤は使用後に洗浄することが必須であり、例えば家庭の浴室において普段の生活で使用することを考慮すると施工が簡便ではなく、効果的とは言えない。また、シリカを含む防曇剤は、事前に鏡を洗浄した後、シリカの溶液をムラにならないように慎重に塗布し、施工する必要があり、職人でなければ効率的に防曇効果を発揮することができず、やはり施工が簡便ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】宮路宏一「農業用ポリ塩化ビニルフィルムの耐候性」繊維学会誌40.7(1984):P479-482.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チタニア(酸化チタン)は超親水効果があることが知られているが、一般的には、紫外線を照射しないと超親水化しないと言われており、また、チタニアナノ粒子は粒子サイズが小さいために分散性が悪いことが多く凝集しやすく、また、チタニアは屈折率が高いため同じ凝集状態でもシリカより光を散乱して白濁して見えること等から、室内の防曇剤には使用されていないのが現状である。
【0006】
以上のように、施工が簡便であり、防曇効果を有する防曇剤は存在しないのが現状である。
【0007】
そこで、本発明は、施工が簡便であり、防曇効果を有する防曇剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、表面にアセトキシ基が結合しており、且つ、示差熱熱重量同時測定装置によって昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であるチタニアナノ粒子を0.1質量%以上含む防曇剤が、施工が簡便であり、防曇効果を有することを見出した。そして、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0009】
項1.チタニアナノ粒子を含有する防曇剤であって、
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が結合しており、
示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、且つ、
前記防曇剤の総量を100質量%として、前記チタニアナノ粒子の含有量が0.1質量%以上である、防曇剤。
【0010】
項2.前記チタニアナノ粒子の平均粒子径が1~10nmである、項1に記載の防曇剤。
【0011】
項3.前記チタニアナノ粒子の比表面積が150~500m/gである、項1又は2に記載の防曇剤。
【0012】
項4.水を含む溶媒の分散液である、項1~3のいずれか1項に記載の防曇剤。
【0013】
項5.前記水の含有量が、前記防曇剤の総量を100質量%として、25質量%以上である、項4に記載の防曇剤。
【0014】
項6.前記分散液が、さらに、有機溶媒を含有する、項4又は5に記載の防曇剤。
【0015】
項7.前記有機溶媒がアルコール、エーテル、ラクタム及びケトンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項6に記載の防曇剤。
【0016】
項8.前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、2-プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン及びアセチルアセトンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項6又は7に記載の防曇剤。
【0017】
項9.項1~8のいずれか1項に記載の防曇剤の製造方法であって、
(A)チタンを含む物質、酢酸及び水を混合して分散液を得る工程、及び
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程
を備え、且つ、
前記工程(A)において、前記チタンを含む物質と前記酢酸との混合比率は、前記チタンを含む物質中のチタン1モルに対して前記酢酸中のアセトキシ基が1.5モル以上である、製造方法。
【0018】
項10.前記工程(B)における加熱条件が82℃以上で1.5時間以上である、項9に記載の製造方法。
【0019】
項11.前記チタンを含む物質がチタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタンである、項9又は10に記載の製造方法。
【0020】
項12.工程(A)において作製される分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下である、項9~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【0021】
項13.工程(A)において作製される分散液中の無機酸の濃度が0.01mol/L以下である、項9~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【0022】
項14.工程(B)において作製される分散液のpHが2以上6未満である、項9~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【0023】
項15.項1~8のいずれか1項に記載の防曇剤を用いた塗膜。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、施工が簡便であり、防曇効果を有する防曇剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例において、各種分散液を塗布前の家庭用浴室の鏡の様子を示す写真である。
図2】家庭用浴室の鏡の一部に対して、実施例1の分散液を塗布し10分後の様子を示す写真である。
図3】家庭用浴室の鏡の一部に対して、実施例1の分散液を塗布し15分後の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上B以下を示す。
【0027】
本明細書において、「酸化チタン」又は「チタニア」とは、二酸化チタン(TiO)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti);一酸化チタン(TiO);Ti、Ti等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含む。また、末端OH基に代表されるように一部酸化チタンの合成に起因するTi-O-Ti以外の基を含んでいてもよい。さらに、末端OH基に有機酸等が結合したものも含まれる。なお、詳しくは後述するが、本発明の防曇剤に含まれることができるチタニアは、表面にアセトキシ基を有することが好ましい。
【0028】
1.防曇剤
本発明の防曇剤は、チタニアナノ粒子を含有する防曇剤であって、前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が結合しており、示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、且つ、前記防曇剤の総量を100質量%として、前記チタニアナノ粒子の含有量が0.1質量%以上である。
【0029】
(1-1)チタニアナノ粒子
通常、水、無機酸、遊離した有機酸等は200℃以下でほとんど揮発する。一方、本発明のチタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が結合していることから、200~600℃の範囲で徐々に脱離する。具体的には、約260℃をピークとして200~600℃の範囲で徐々に脱離する。このように、本発明において、チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が結合していることから、乾燥又は焼成時にチタニアナノ粒子同士の凝集を抑制でき、且つ、基材との密着性を促進する結果、クラック、剥がれ等が起こりにくく塗布性、親水性及び透明性に特に優れ、防曇性に優れ、優れた外観が得られる。しかも、本発明の防曇剤による防曇効果は長時間維持することができ、防曇効果の耐久性にも優れる。
【0030】
なお、通常は、有機基を有していると表面の親水性や基材との密着性が低下するのが技術常識であるが、本発明では逆に紫外光が当たらない浴室内でも親水性を発揮することができる。また、塗布後、水で流してもごく薄くチタニアナノ粒子が密着し、防曇剤として機能するため、ムラなく塗るための技術、使用後の洗浄が必ずしも必要ではなくなるため、簡便に防曇作用を得ることができる。
【0031】
また、上記チタニアナノ粒子は、表面に存在するチタン原子にアセトキシ基が大量に結合していることが好ましい。表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が存在している場合は、上記のとおり200~600℃の範囲で徐々に離脱することから、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって昇温させた場合に200℃以上での質量減少が大きい。つまり、本発明において、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって昇温させた場合に200℃以上での質量減少は、表面に存在するチタン原子にアセトキシ基が結合している数の指標を意味している。このため、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上、好ましくは7~20質量%である。この際、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)の詳細な条件は、雰囲気:空気、昇温速度:3℃/分である。
【0032】
上記チタニアナノ粒子は、上記のとおり表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセトキシ基が結合しているものであるが、このアセトキシ基は、-OCOCHで表される基でチタン原子と結合していることが好ましい。
【0033】
上記チタニアナノ粒子の平均粒子径は、1~10nmが好ましく、1.5~7nmがより好ましく、2~5nmがさらに好ましい。チタニアナノ粒子の平均粒子径をこの範囲とすることにより、親水性が高く、且つ透明性の高い膜が形成しやすい。また、通常平均粒子径が小さい場合、加熱時の収縮が大きいため、クラックや基板からの剥離が起こりやすいが、本発明におけるチタニアナノ粒子は平均粒子径が小さいにも関わらず塗布性に優れる材料である。本発明においてチタニアナノ粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0034】
上記チタニアナノ粒子の比表面積は、150~500m/gが好ましく、200~400m/gがより好ましい。チタニアナノ粒子の比表面積をこの範囲とすることにより、ガラスの微細な凹凸に密着しやすく、且つ親水性及び防曇効果を高くしやすい。上記チタニアナノ粒子の比表面積はBET法により測定する。
【0035】
また、上記チタニアナノ粒子は、N、Cl及びS元素の濃度をいずれも0~5000ppm、特に0~1000ppmとすることができる。チタニアナノ粒子のN、Cl及びS元素の濃度をこの範囲とすることにより、基材の腐食等を抑えやすい。なお、この条件は、TiCl、TiOSO等の酸性チタニア前駆体由来の不純物が存在しないか、又はごく少量であることを意味している。上記チタニアナノ粒子のN、Cl及びS元素の濃度はWDX(蛍光X線)により測定する。
【0036】
さらに、上記チタニアナノ粒子の結晶形は、アナターゼ型が好ましい。アナターゼ型を採用することにより、紫外光を照射した時には超親水化し、さらに親水性を向上させやすい。
【0037】
このようなチタニアナノ粒子は、平均粒子径及び比表面積を調整することができ、また、親水性に優れ、分散性に優れるため透明性及び塗布性に優れるものである。よって防曇剤として有用である。
【0038】
ただし、上記のチタニアナノ粒子の含有量が少ないと、一時的に防曇効果は得られるものの、すぐに水滴が発生してしまい、防曇作用は特に耐久性の面で十分とは言えない。このため、本発明の防曇剤の総量を100質量%として、上記チタニアナノ粒子の含有量は、0.1質量%以上、好ましくは0.2~2.5質量%、より好ましくは0.3~1.5質量%である。上記チタニアナノ粒子の含有量を多くするほど、基材の濡れ性が悪くても弾きが生じにくく浸水性を向上させやすく防曇作用が強化されやすい一方、乾燥時にムラを生じさせにくい観点から適宜調整することが好ましい。
【0039】
(1-2)防曇剤(分散液)
本発明の防曇剤は、特に制限されるわけではないが、施工の簡便さ及び防曇効果を考慮して、分散液が好ましい。
【0040】
本発明において、防曇剤を分散液とする場合、例えば、後述の製造方法の上記工程(A)~(B)を経た反応液を用い、超音波分散等の分散工程を加えた場合には、さらに均一な分散液としやすい。この時、従来のチタニア分散液においては分散剤を使用しなければ均一な分散液を得ることができなかったことから、本発明においても、分散剤を加えてもよいが、分散剤を加えなくても通常のチタニアナノ粒子より遥かに分散性のよい分散液が得られる。分散性がよい結果、コーティングの耐クラック性にも優れ、防曇効果を高めやすい。また、分散剤を加えなくてもよい結果、極めて親水性の高いチタニアのコーティングが形成しやすく、防曇効果を向上させやすい。
【0041】
この際、分散液である本発明の防曇剤においては、本発明の防曇剤の総量を100質量%として、溶媒である水の含有量を、チタニアナノ粒子の分散性、施工の簡便さ、防曇効果等の観点から、25質量%以上が好ましく、35~99.9質量%がより好ましく、50~99.8質量%がさらに好ましく、90~99.7質量%が特に好ましい。
【0042】
また、分散液である本発明の防曇剤においては、さらに、有機溶媒を含ませることも可能である。
【0043】
分散液である本発明の防曇剤に使用する有機溶媒としては、水との親和性、チタニアナノ粒子との親和性、揮発性等の観点から選択することが好ましく、アルコール、エーテル、ラクタム、ケトン等が好ましい。具体的には、アルコールとしては、メタノール、エタノール、2-プロピルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等が挙げられ、エーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられ、ラクタムとしては、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられ、ケトンとしては、アセチルアセトン等が挙げられる。
【0044】
チタニアナノ粒子の濃度が高いほど、水以外の溶媒の比率が高いと凝集が発生しやすいため、水の比率を高めることが好ましい。
【0045】
また、有機溶媒の親水性が低いほど凝集が発生しやすいため、水の比率を高めることが好ましい。一方、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールは親水性が高いため、凝集性の観点では高濃度も採用できるが、揮発性及び乾燥時のムラの観点では、やはり、水の比率を高めることが好ましい。
【0046】
結果、沸点100℃以下の有機溶媒は水より先に揮発するため、濡れ性を高めるために分散性を損なわない範囲で添加することができる。浴室内等の安全性を考慮すると、エタノールが好ましく、添加量はチタニアナノ粒子の濃度にもよるが、通常は、分散液である本発明の防曇剤の総量を100質量%として、5~75質量%が好ましい。
【0047】
一方、沸点150℃以上の溶媒は水より大幅に遅れて摘発するため、添加量を抑制することが好ましい。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の親水性溶媒を添加する場合、分散液である本発明の防曇剤の総量を100質量%として、合計濃度は0.05~0.5質量%であることが好ましい。
【0048】
分散液である本発明の防曇剤は、用途に応じて粘度を調整し、例えば、スピンコート、ディップコート、スプレー、刷毛塗り、布やスポンジによる塗布等により対象に塗布することができる。塗布後水で洗い流す場合は、スプレーやスポンジ等簡易な方法で塗布し、まんべんなく洗い流すことができる。このようにして得られる本発明の塗膜は、上記のとおり親水性を向上させ、防曇効果に優れたコーティングである。
【0049】
2.防曇剤の製造方法
本発明の防曇剤は、
(A)チタンを含む物質、酢酸及び水を混合して分散液を得る工程、及び
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程
を備え、且つ、
前記工程(A)において、前記チタンを含む物質と前記酢酸との混合比率は、前記チタンを含む物質中のチタン1モルに対して前記有機酸中のアセトキシ基が1.5モル以上である方法により得られる。
【0050】
(2-1)工程(A)
工程(A)では、特定量のチタンを含む物質、特定量の酢酸及び水を混合して分散液を得る。
【0051】
使用するチタンを含む物質としては、加熱により酸化チタンとなる物質であれば特に制限はない。つまり、チタンを含む物質としては、酸化チタン及び/又は酸化チタン前駆体が好ましく、具体的には、酸化チタン;水酸化チタン;チタンアルコキシド;三塩化チタン、四塩化チタン等のハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの);金属チタン等が挙げられる。これらのチタンを含む物質は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。これらのなかでも、得られるチタニアナノ粒子の分散性、塗布性及び防曇効果の観点から、チタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの)が好ましく、特に純度、分散性、塗布性、親水性及び防曇効果の観点からチタンアルコキシドがより好ましい。
【0052】
チタンアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド、チタンテトラn-プロポキシド、チタンテトラエトキシド等が挙げられ、コスト、副生成物の水溶性、塗布性、親水性及び防曇効果の観点から、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0053】
なお、チタンアルコキシドと酢酸との組合せによっては、得られるチタニアを触媒として水に溶けにくいエステル化合物が遊離することがあるが、チタニア自身には問題はない(例えば、チタンテトラn-ブトキシドと酢酸の組合せにおいて、混合し加熱した段階で酢酸ブチルが生じ遊離する)が、均一な分散液を得る観点からは、水溶性に優れる酢酸アルコキシドが得られる酢酸とチタンアルコキシドとの組合せを採用することが好ましい。
【0054】
ハロゲン化チタン(四塩化チタン、三塩化チタン等)については、不純物(ハロゲン)、量産時の反応器の腐食、結晶性制御、塗布性、親水性及び防曇効果の観点から、塩基で中和し、沈殿物の洗浄を行ってから用いることが好ましい。その場合、得られるチタニアナノ粒子の分散性の観点から、乾燥を行わずに用いることが好ましい。
【0055】
なお、酸化チタン、金属チタン等の固体を用いる場合は、平均粒子径は100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。下限値は特に設定されないが、通常1nm程度である。なお、粒径が大きい場合は遊星ボールミル、ペイントシェーカー等を用いて乾式又は湿式で粉砕して用いることもできる。酸化チタン、金属チタン等の固体の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0056】
分散液中のチタンを含む物質の濃度は、生産性、反応液の粘度、塗布性、親水性及び防曇効果の観点から、0.01~5mol/Lが好ましく、0.05~3mol/Lがより好ましい。
【0057】
酢酸の使用量は、分散性、塗布性、親水性、防曇効果及びコストの観点から、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、COOH基を1.5モル以上、好ましくは2モル以上含むように調整することが好ましい。酢酸を多く用いるほど経時安定性、塗布性等が向上する。なお、上限値は特に制限されないが、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して通常10モルである。
【0058】
分散液中の酢酸の濃度は、分散性、塗布性、親水性、防曇効果及びコストの観点から、0.02~10mol/Lが好ましく、0.1~7mol/Lがより好ましい。
【0059】
反応溶媒としては、水等の水性溶媒を主成分(具体的には、例えば50質量%以上)として用いることが好ましいが、反応時にアルコール又はエステルを含んでいてもよい。
【0060】
例えばチタンテトライソプロポキシドを原料として用いた場合、酢酸との反応によりイソプロピルアルコールが生じる。また、加熱により酢酸イソプロピルが生じることもある。つまり、工程(A)により得られる分散液中には、アルコール又はエステルを投入してもよいし、系中で発生していてもよい。このアルコール又はエステルについては、100℃以下の開放系における加熱により除去してもよいし、減圧により除去してもよいし,反応液中に残留していてもよい。
【0061】
なお、分散液中にアルコールが含まれる場合には、得られるチタニアナノ粒子の平均粒子径が小さくなる傾向にあり、平均粒子径を制御するために、意図的にアルコールを添加してもよい。
【0062】
本発明においては、通常チタニアナノ粒子の水熱合成反応に用いることが多い硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸(特に無機強酸)は、得られるチタニアナノ粒子の結晶形がアナターゼ型の他にブルッカイト型も混在するだけでなく、得られる分散液の貯蔵安定性にも劣り、装置の腐食、不純物、排水等の観点からも原則用いない。ただし、原料の分散性、均一性等を高め取扱いを容易にする場合には、効果を損なわない範囲で、例えば、0.01mol/L以下の範囲で補助的に使用することもできる。この場合、分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下となる。
【0063】
このような工程(A)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、及び分散性の観点から、2以上6未満が好ましく、2.1~5がより好ましい。
【0064】
工程(A)において、分散液の作製方法は特に制限はなく、チタンを含む物質、酢酸及び溶媒(水等)を同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。特に、凝集して大きな塊を形成しにくく攪拌を継続できる観点から、酢酸及び溶媒(水等)を混合した後に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入することが好ましい。
【0065】
(2-2)工程(B)
工程(B)においては、工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する。
【0066】
工程(B)は、常圧下に行ってもよいし、密閉容器内で加圧下に行ってもよい。チタニアナノ粒子の平均粒子径を小さくする観点から、常圧下に行うことが好ましく、具体的には0.09~0.11MPaが好ましい。なお、加圧下に行う場合は、防曇効果が高く、且つ透明性の高い膜が形成できる観点からは、0.2MPa以下(0.11~0.2MPa)において短時間(例えば5~30分程度)の反応を行うことが好ましい。
【0067】
加熱の際には、チタンを含む物質と酢酸と水とを十分に反応させる観点から、撹拌することが好ましい。攪拌の方法は特に制限はなく、常法に従うことができる。また、攪拌時間は、チタンを含む物質と有機酸と水とを十分に反応させる観点から、1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましい。攪拌時間の上限値は特に制限されないが、通常240時間である。
【0068】
加熱温度は、80℃より高い温度、好ましくは82℃以上である。加熱温度が80℃以下では、クラックが発生しやすく、塗布性に劣りすぐに脱落することから塗膜を形成することが困難となる。なお、加熱温度の上限値は特に制限はないが、常圧で反応する場合は通常120℃である。
【0069】
このような工程(B)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、及び分散性の観点から、2以上6未満が好ましく、2.1~5がより好ましい。
【0070】
得られた分散液をそのまま防曇剤とすることもできるし、必要に応じて水等の溶媒で希釈して防曇剤とすることもできる。
【実施例
【0071】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0072】
以下の実施例及び比較例では、家庭用浴室の鏡に対して、各種分散液を塗布し、防曇効果を確認した。
【0073】
なお、各種分散液を塗布前の家庭用浴室の鏡の様子を図1に示す。塗布前は。水滴で鏡には何も映らないことが理解できる。
【0074】
[実施例1]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸120g(2mol)を加え60分撹拌し、水を538g加えた。この分散液は、チタンテトライソプロポキシドの濃度は0.625mol/L、酢酸の濃度は2.5mol/L、pHは2.2であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、60分間撹拌した後に加熱を行ったところ70℃で沈殿がすべて溶解した。なお、この分散液において、無機酸の濃度、N、Cl及びS元素の濃度はいずれも0mol/Lである。
【0075】
その後、常圧(0.1MPa)で85℃で3時間撹拌したところ、有機分散剤を使うことなく半透明の均一なチタニア分散液が得られた。この分散液に超音波分散を加えたところ、粘度が低減され、透明性が増した。この分散液は水の含有量が67質量%でありpHは2.3であった。この分散液をスピンコートによりガラスに塗布し、乾燥したところ、透明な塗膜が得られた。
【0076】
この分散液を乾燥し、チタニアナノ粒子を得た。このチタニアナノ粒子について、BET比表面積を測定したところ250m/gであった。また、TEM観察を行ったところ、平均粒子径は約3nmであった。また得られたチタニアナノ粒子について、X線回折で結晶性を解析したところ、アナターゼ型100%であった(他の結晶形は存在しなかった)。
【0077】
この分散液を、水分計を用いて200℃で保持し質量減少がなくなるまで乾燥したチタニアナノ粒子のTG-DTAを、空気雰囲気下3℃/minの昇温条件で600℃まで昇温させて測定したところ、200℃以上での質量減少は10質量%であった。この200℃以上での質量減少は、酢酸が脱離することによる質量減少に相当する。遊離した酢酸は200℃以下でほとんど揮発することから、200℃以上における質量減少が10質量%あることが、チタニアナノ粒子表面に大量のアセトキシ基が-OCOCHの形でチタン原子と結合していることを示唆している。
【0078】
この分散液10gを水で5倍希釈し、チタニアナノ粒子を1.0質量%含有する分散液50gを得た。この分散液を鏡にスポンジで塗布し、シャワーで水洗したところ、水滴、曇りが消え、防曇効果が得られ、72時間後においても防曇効果は継続していた。
【0079】
[実施例2]
実施例1において、得られた分散液を水で5倍希釈せず、10倍希釈し、チタニアナノ粒子を0.5質量%含有する分散液100gを得たこと以外は同様に処理を行った。この分散液を鏡にスポンジで塗布し、シャワーで水洗したところ、水滴、曇りが消え、防曇効果が得られ、72時間後においても防曇効果は継続していた。
【0080】
[実施例3]
実施例1において、得られた分散液を水で5倍希釈した後に、さらに、エタノールを25g添加し、チタニアナノ粒子を0.67質量%、エタノール33.3質量%を含有する分散液75gを得たこと以外は同様に処理を行った。この分散液を鏡にスポンジで塗布し、シャワーで水洗したところ、水滴、曇りが消え、防曇効果が得られ、72時間後においても防曇効果は継続していた。また、実施例1及び2と比較し、鏡に対する濡れ性に優れていた。
【0081】
[実施例4]
実施例1において、得られた分散液を水で5倍希釈した後に、さらに、エチレングリコールを0.05g添加し、チタニアナノ粒子を1.0質量%、エチレングリコールを0.1質量%含有する分散液50.05gを得たこと以外は同様に処理を行った。この分散液を鏡にスポンジで塗布し、シャワーで水洗したところ、水滴、曇りが消え、防曇効果が得られ、72時間後においても防曇効果は継続していた。また、実施例1及び2と比較し、鏡に対する濡れ性に優れていた。
【0082】
[実施例5]
実施例1において、得られた分散液を水で5倍希釈した後に、さらに、グリセリンを0.05g添加し、チタニアナノ粒子を1.0質量%、グリセリンを0.1質量%含有する分散液50.05gを得たこと以外は同様に処理を行った。この分散液を鏡にスポンジで塗布し、シャワーで水洗したところ、水滴、曇りが消え、防曇効果が得られ、72時間後においても防曇効果は継続していた。また、実施例1及び2と比較し、鏡に対する濡れ性に優れていた。
【0083】
[比較例1]
アナターゼ型チタニアナノ粒子(石原産業(株)製、平均粒子径7nm)1gに水を加え、100gとし、鏡に塗布した。その結果、鏡が白濁した。水で洗浄したところ、チタニアがすべて流出し、親水性及び防曇効果が全く得られなかった。
【0084】
[比較例2]
チタニアナノ粒子(日本アエロジル(株)製、平均粒子径20~30nm)1gに水を加え、100gとし、鏡に塗布した。その結果、鏡が白濁した。水で洗浄したところ、チタニアがすべて流出し、親水性及び防曇効果が全く得られなかった。
【0085】
[比較例3]
アナターゼ型チタニアゾル(堺化学工業(株)製、平均粒子径7nm)固形分1g分に水を加え、100gとし、鏡に塗布した。その結果、鏡が白濁した。水で洗浄したところ、チタニアがすべて流出し、親水性及び防曇効果が全く得られなかった。
【0086】
[比較例4]
アナターゼ型チタニアナノ粒子(石原産業(株)製、平均粒子径7nm)1gに酢酸3g及び水を加え、100gとし、鏡に塗布した。その結果、鏡が白濁した。水で洗浄したところ、チタニアがすべて流出し、親水性及び防曇効果が全く得られなかった。
【0087】
[比較例5]
チタニアナノ粒子(日本アエロジル(株)製、平均粒子径20~30nm)1gに酢酸3g及び水を加え、100gとし、鏡に塗布した。その結果、鏡が白濁した。水で洗浄したところ、チタニアがすべて流出し、親水性及び防曇効果が全く得られなかった。
【0088】
[比較例6]
アナターゼ型チタニアゾル(堺化学工業(株)製、平均粒子径7nm)固形分1g分に酢酸3g及び水を加え、100gとし、鏡に塗布した。その結果、鏡が白濁した。水で洗浄したところ、チタニアがすべて流出し、親水性及び防曇効果が全く得られなかった。
【0089】
[比較例7]
実施例1において、得られた分散液を水で5倍希釈せず、100倍希釈し、チタニアナノ粒子を0.05質量%含有する分散液100gを得たこと以外は同様に処理を行った。この分散液を鏡にスポンジで塗布し、シャワーで水洗したところ、一時的に防曇効果が得られたが、1分後には水滴が発生し、防曇効果は十分ではなかった。
【0090】
図2及び3には、家庭用浴室の鏡の一部に対して、実施例1の分散液を塗布し10分後(図2)及び15分後(図3)の様子を示す。この結果、塗布前の鏡には水滴が残存して鏡には映らないのに対して、塗布後の鏡には水滴が発生せず、防曇効果を有していることが理解できる。
図1
図2
図3