(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】鏡筒、光学装置および撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20240909BHJP
【FI】
G02B7/02 Z
G02B7/02 A
(21)【出願番号】P 2020070661
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】加茂 大地
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-238612(JP,A)
【文献】特開平01-238613(JP,A)
【文献】特開2002-250853(JP,A)
【文献】実開昭57-130807(JP,U)
【文献】特開2013-174670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G02B 7/02 - 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子と、該光学素子を
内面に保持する保持部材と、前記光学素子の側面と前記保持部材
の内面とを接着する接着剤とを有する鏡筒であって、
前記保持部材には、該保持部材の外面から前記接着剤を注入するための孔と、前記側面と対向し該孔に通じる溝と、
前記光学素子を含む光学系の光軸方向における該溝
の両側に前記側面と嵌合する嵌合部と
、前記光軸方向において前記光学素子と当接する当接部とが設けられていることを特徴とする鏡筒。
【請求項2】
前記嵌合部は、円周方向に沿って延びていることを特徴とする請求項1に記載の鏡筒。
【請求項3】
前記溝は、円周方向に沿って延びていることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の鏡筒。
【請求項4】
前記溝は、前記保持部材の全周に設けられていることを特徴とする請求項
3に記載の鏡筒。
【請求項5】
前記嵌合部は、前記光軸方向に対して傾斜したテーパー部を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項
4のうち何れか一項に記載の鏡筒。
【請求項6】
前記溝の内面は、前記側面に対して離間していることを特徴とする請求項1ないし請求項
5のうち何れか一項に記載の鏡筒。
【請求項7】
前記保持部材には、円周方向に沿って複数の前記孔が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項
6のうち何れか一項に記載の鏡筒。
【請求項8】
前記接着剤は、前記溝に収容されていることを特徴とする請求項1ないし請求項
7のうち何れか一項に記載の鏡筒。
【請求項9】
前記光軸方向において
前記光学素子に対して前記当接部とは反対側において、前記光学素子と当接する押え部材を有することを特徴とする請求項1ないし請求項
8のうち何れか一項に記載の鏡筒。
【請求項10】
前記保持部材には、前記押え部材と螺合する螺合部が設けられていることを特徴とする請求項
9に記載の鏡筒。
【請求項11】
請求項1ないし請求項
10のうち何れか一項に記載の鏡筒と、該鏡筒により形成された像を撮る撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡筒、光学装置および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤により光学素子を保持部材に接着してなる鏡筒が知られている。特許文献1は、保持部材の外周部に接着剤の注入口を有し、保持部材の内周部に接着溝を有し、注入口から接着溝に接着剤を流し込み、光学素子を保持部材に接着してなる鏡筒を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された構成では、保持部材の注入口から接着剤を注入した場合に、光学素子と保持部材との間の隙間から接着剤が漏れ出しうる。
【0005】
本発明は、例えば、接着剤による光学素子の接着に有利な鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光学素子と、該光学素子を内面に保持する保持部材と、前記光学素子の側面と前記保持部材内面とを接着する接着剤とを有する鏡筒であって、前記保持部材には、該保持部材の外面から前記接着剤を注入するための孔と、前記側面と対向し該孔に通じる溝と、前記光学素子を含む光学系の光軸方向における該溝の両側に前記側面と嵌合する嵌合部と、前記光軸方向において前記光学素子と当接する当接部とが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば、接着剤による光学素子の接着に有利な鏡筒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例1の保持鏡筒2の断面図である。
【
図2】本発明の実施例1の保持鏡筒2の斜視図である。
【
図3】本発明の実施例2の保持鏡筒22の断面図である。
【
図4】本発明の実施例3の保持鏡筒32の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施例1)
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施例1について説明する。
図1は、実施例1に係る保持鏡筒2(保持部材)がその内面に光学系1(光学素子)を保持している状態の断面図であり、
図2は筒状の保持鏡筒2の斜視図である。また図面において、光軸Оに沿って前後方向を定義し、左側を前側、右側を後側とする。
【0010】
保持鏡筒2は、光学系1の円周に沿って延びている外周面1a(側面)と嵌合する二つの嵌合部2a、2bと、接着剤Aが注入される接着溝部2g(溝)と、光学系1を固定するための押え環3(押え部材)が螺合する螺合部2dを内面に有する。嵌合部2a、2bは、保持鏡筒2の円周に沿って延びているが、円周の全体にわたって環状に延びていてもよい。また、保持鏡筒2は保持鏡筒2に光学系1が嵌め込まれた際に、光学系1の一方の表面1cが当接する当接部2cを有する。
【0011】
接着溝部2gは、光軸Оの方向における二つの嵌合部2a、2bの間に設けられており、保持鏡筒2の円周に沿って延びているが、保持鏡筒2の円周の全体にわたって延びていてもよい。すなわち、接着溝部2gの外側の内面に二つの嵌合部2a、2bが形成されている。また、接着溝部2gに接着剤Aを注入するための孔2hが保持鏡筒2の外面2fから内面に向かって複数形成されており、これらの孔2hは、保持鏡筒2の外面2fと接着溝部2gを連通している。孔2hが複数配置されることで、組立作業時に任意の孔2hを選択して接着剤Aを注入することができる。
【0012】
次に、光学系1の保持鏡筒2への組立と接着固定について説明する。光学系1の一方の表面1cが保持鏡筒2の当接部2cに当接するまで、光学系1を光軸Оの方向に沿って保持鏡筒2に嵌め込む。光学系1が嵌め込まれると、光学系1の外周面1aは、保持鏡筒2の二つの嵌合部2a、2bと嵌合する。そして、押え環3を光軸Оの方向に沿って保持鏡筒2の螺合部2dに嵌め込む。押え環3が光学系1の他方の表面1bと当接すると、光学系1は光軸Оの方向に位置決めされる。
【0013】
このような押え環3の螺合により、光学系1が保持鏡筒2と押え環3で挟持される。レンズ鏡筒は、上記のような光学系1を保持した保持鏡筒2を一つ乃至複数有して構成される。押え環3を螺合した後、保持鏡筒2の外面2fに設けられた孔2hから、保持鏡筒2の内面に設けられた接着溝部2gに接着剤Aを充填する。接着剤Aが孔2hと接着溝部2gに収容されることにより、光学系1は保持鏡筒2に接着固定される。なお、光学系1は、押え環3を用いる構成により、保持鏡筒2に挟持されるものとしたが、光学系1の保持鏡筒2に対する光軸Оの方向の位置を略固定できれば、例えばカシメによる挟持としてもよい。カシメの場合、カシメ実施後に孔2hから接着溝部2gへ接着剤Aを充填することで、同様の効果が得られる。
【0014】
上記の構成により、保持鏡筒2の全周にわたる接着溝部2gに接着剤Aが充填されるため、接着面積が拡大されるので接着強度が向上し、衝撃印加時の光学系1の保持鏡筒2に対する位置ずれを抑制する効果が得られる。
【0015】
更に接着剤Aは、光学系1の外周面1aと接着溝部2gにより構成される空間に充填されるが、接着溝部2gは、光軸Оの前後方向に離間した二つの嵌合部2a、2bの間に設けられているので、嵌合部2a、2bは接着剤Aが流出するのを堰き止める効果がある。更に、嵌合部2a、2bは、環状に形成され、光軸Оの方向に直交する方向である径方向に突出する突状の形状をしているので、接着剤Aの流出を更に低減することができる。その結果、接着剤Aの流出による光学性能への影響や、接着剤Aの拭き取り工程を低減し、組立作業性を改善することができる。嵌合部2a、2bは、光軸Оの方向に沿って、二つ設けられているが、少なくとも一つ設けることでも、接着剤Aの流出を堰き止めることができる。
【0016】
なお、実施例1では、接着剤Aを注入するための孔2hの形状を丸孔の貫通孔としたが、形状はこの限りではない。孔2hは、接着溝部2gと保持鏡筒2の外面2fを貫通していれば接着剤Aを注入可能であるので、例えば、円周方向に幅を有する長孔の貫通孔としてもよく、接着剤Aの充填の作業性を改善することができる。
【0017】
また、実施例1では、接着溝部2gを全周にわたる溝としたが、光軸Оの方向の前後に嵌合部2a、2bが形成されていればよく、溝の形状はこの限りではない。例えば、光学系1の保持に必要な接着面積を確保可能な長さの溝とすることで、保持鏡筒2の加工時間を低減し、部品コストの削減をすることができる。同様に、実施例1では接着剤Aを注入するための孔2hを複数有する構成としたが、少なくとも1つの孔2hを有すれば接着剤Aの接着溝部2gへの注入は可能となる。例えば、接着剤Aを注入する孔2hの数を削減すると共に、保持鏡筒2の加工時間を低減し、部品コストの削減をすることなどもできる。
【0018】
(実施例2)
図3は、実施例2に係る保持鏡筒22の部分断面図を示す。以下、実施例1と異なる構成について説明し、実施例1と同じ構成についての説明は省略する。保持鏡筒22の内面に形成された嵌合部22a、22bは、光学系21の外周面21a(側面)に嵌合するが、嵌合部22a、22bには、略V字形のV溝22e(溝)がそれぞれ設けられている。このような構成とすることで、嵌合部22a、22bと光学系21の外周面21aの間に接着剤Aが侵入してしまった場合にも、このV溝22eに接着剤Aが留まるので、光学系21の表面21b、21cに接着剤Aが浸透するのを防止することができる。すなわち、このV溝22eは、漏れてきた接着剤Aの溜り部として機能する。
【0019】
(実施例3)
図4は、実施例3に係る保持鏡筒32の部分断面図を示す。以下、実施例1と異なる構成について説明し、実施例1と同じ構成についての説明は省略する。保持鏡筒32の嵌合部32a、32bは、光軸Оの方向に対し傾斜を有する形状(テーパー部)をしている。そして、光学系31の外周面31a(側面)も嵌合部32a、32bに対応するような傾斜を有する形状をしており、嵌合部32a、32bは、光学系31の外周面31aに嵌合する。組立てに際し、光学系31を保持鏡筒32へ挿入すると、外周面31aと嵌合部32a、32bが接するので、実施例1と同様の効果を得ることができる。更に、このような構成とすることで、外周面31aが嵌合部32a、32bに沿って位置決めされるので、光学系31と保持鏡筒32の中心軸を合致させ易くする効果も得られる。
【0020】
本発明の各実施例は、静止画及び動画撮影を行うための交換レンズに関して説明したが、投射レンズや複写機の光学素子など、交換可能なレンズ鏡筒において同様な効果が得られる可能性がある。また、本発明が適用されるレンズ鏡筒は、レンズ鏡筒により形成された像を撮る撮像素子を備える撮像装置や、撮像素子を備えレンズ鏡筒が着脱可能な撮像装置本体を備える撮像システムに用いられる。更に、本発明はレンズ一体型の撮像装置にも適用可能である。
【0021】
以上、本発明の好ましい各実施例について説明したが、本発明はこれら各実施例に限定されず、その要旨の範囲で種々の変形及び変更が可能である。また、本発明のレンズ鏡筒を有する光学装置、及び該光学装置を有する撮像装置を実現することにより、本発明の効果を奏する光学装置及び撮像装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0022】
1、21、31 光学系(光学素子)
1a21a、31a 外周面(側面)
2、22、32 保持鏡筒(保持部材)
2a、22a、32a 嵌合部
2b、22b、32b 嵌合部
2f 外面
2g 接着溝部(溝)
2h 孔
A 接着剤