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特許7551328蓄電デバイス用積層セパレータ、及び蓄電デバイス
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  • 特許-蓄電デバイス用積層セパレータ、及び蓄電デバイス 図1A
  • 特許-蓄電デバイス用積層セパレータ、及び蓄電デバイス 図1B
  • 特許-蓄電デバイス用積層セパレータ、及び蓄電デバイス 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用積層セパレータ、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20240909BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240909BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240909BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240909BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240909BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20240909BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240909BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240909BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240909BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240909BHJP
   H01G 11/18 20130101ALN20240909BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/457
H01M50/489
H01M50/491
H01G11/06
H01G11/52
H01G11/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020081230
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021176127
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】村上 将人
(72)【発明者】
【氏名】畑山 博司
(72)【発明者】
【氏名】庄司 雅己
(72)【発明者】
【氏名】苫米地 純
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-535792(JP,A)
【文献】国際公開第2013/147071(WO,A1)
【文献】特開2016-060061(JP,A)
【文献】特開2014-086142(JP,A)
【文献】国際公開第2010/104077(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156410(WO,A1)
【文献】特開2015-171814(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0131604(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01G 11/06
H01G 11/52
H01G 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂を含有する多孔質層Aと、飽和脂肪酸及びその塩、不飽和脂肪酸及びその塩、ポリシロキサン、並びにシランカップリング剤から選ばれる一種以上で表面処理されている無機粒子を含有する多孔質層Bとを有し、前記多孔質層B中の前記無機粒子の含有量は60質量%以上100質量%未満であって、前記多孔質層Bの気孔率が30%以上70%以下であり、200℃膜抵抗値が200Ω・cm以上かつ170℃膜抵抗値を超えて、かつ少なくとも一層の前記多孔質層Aと、少なくとも一層の前記多孔質層Bとが積層された、蓄電デバイス用積層セパレータ。
【請求項2】
少なくとも二層の前記多孔質層Aと、少なくとも一層の前記多孔質層Bが積層された、請求項1に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
【請求項3】
少なくとも一層の前記多孔質層Aと、少なくとも二層の前記多孔質層Bが積層された、請求項1に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
【請求項4】
両表層が前記多孔質層Aまたは前記多孔質層Bである、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
【請求項5】
前記無機粒子は、平均粒径が31nm以上1000nm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
【請求項6】
前記無機粒子は、ベーマイト、アルミナ、チタニア、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、及びリン酸マグネシウムから選ばれる一種以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
【請求項7】
前記多孔質層A中に、粘度平均分子量が500,000以上5,000,000以下のポリエチレンを含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
【請求項8】
前記多孔質層B中に、粘度平均分子量が200,000以上10,000,000以下のポリオレフィンを含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
【請求項9】
前記蓄電デバイス用積層セパレータの透気度が、30秒/100ml以上150秒/100ml以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
【請求項10】
正極と、負極と、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータとを備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用積層セパレータ、及び当該セパレータを用いる蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスは、民生機器用電源、車載用電源、定置用電源などの幅広い用途において利用されている。蓄電デバイスの中でも、リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度、高耐久性といった優れた特徴を持つことから、近年では電気自動車用の電源として急速に利用が拡大している。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、一般的にポリオレフィン微多孔膜がセパレータとして使用されている。セパレータは、正極及び負極の間に配置され、正負極の直接接触又は短絡による電子伝導を防ぐ一方で、その微多孔膜中に保持した電解液を介してイオン伝導を可能にしている。
【0004】
電気自動車用のリチウムイオン二次電池としては、一般的に大型電池が採用されている。大型電池を使用することで、電池を複数個接続して蓄電モジュールを構築した際のエネルギー密度が高まり、小型電池と比較すると電池の接続個数を減らせることから、蓄電モジュールの生産性も高まる。しかしながら、大型電池は、その大きさゆえに放熱性に劣り、電池が内部短絡などによって異常発熱を起こした場合には、電池中心部の温度は容易に400℃以上に達しうるため、発火などの深刻な事故に繋がり易い。
【0005】
さらに、電気自動車用の電池は、車内の限られたスペースを有効活用するために、高密度に配置されることが多い。そのため、一つの電池が発火すると、他の電池に対して容易に影響が及びうる。したがって、電気自動車に搭載された全ての電池の安全性を高度に維持する必要がある。
【0006】
このような背景の下、セパレータには、電池内部が高温になった場合でも電気的絶縁性を十分に保ち、電池の安全性を維持する特性が求められている。近年、セパレータの高温における絶縁性を向上するために、様々な試みが検討されてきたが、最も汎用されている方法は、ポリオレフィン微多孔膜などの基材上に、無機粒子を主体とする無機層を塗工によって形成する方法である。例えば、特許文献1では、ポリオレフィン微多孔膜上に、ベーマイトを主体とする無機層を塗工によって形成し、ポリオレフィン層及び無機層からなる積層セパレータを作製している。
【0007】
他方で、塗工以外の方法で無機層を形成する技術も提案されてきた。例えば、特許文献2では、シリカを最大で98質量%含有する無機層を有する、二層のポリオレフィン層及び一層の無機層から構成される積層セパレータを共押出法によって作製している。また、特許文献3では、硫酸バリウムを最大で97質量%含有する無機層を有する、二層のポリオレフィン層及び一層の無機層から構成される積層セパレータを共押出法によって作製する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2014/208454号
【文献】特開2017-80977号公報
【文献】国際公開第2019/235112号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の積層セパレータは、後述の比較例1で示すように、ポリオレフィン樹脂の融点以上の高温においては、温度が上がるほど膜抵抗値が減少し、高温において絶縁性を維持する特性は不十分である。また、この技術は、ポリオレフィン層の製造工程と無機層の製造工程とをそれぞれ必要とするため、工程数が多く、生産性が低いという課題もある。
【0010】
また、特許文献2に記載の積層セパレータは、後述の比較例2で示すように、無機層の密度が十分ではなく、高温において絶縁性を維持する特性は満足できるものではなく、さらに、電池の耐久性や出力特性の面でも改善の余地がある。
【0011】
そして、特許文献3に記載の積層セパレータは、後述の比較例3で示すように、無機層の密度が十分ではなく、高温において絶縁性を維持する特性には改善の余地がある。
【0012】
本発明は、上記事情を鑑みて、高温における絶縁性に優れる蓄電デバイス用積層セパレータ、及び当該セパレータを備える蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリオレフィン樹脂を含有する多孔質層Aと、無機粒子を多量に含有する多孔質層Bとを有し、高温において特定の抵抗挙動を示す蓄電デバイス用積層セパレータが上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の一態様を以下に例示する。
[1]
ポリオレフィン樹脂を含有する多孔質層Aと、無機粒子を含有する多孔質層Bとを有し、前記多孔質層B中の前記無機粒子の含有量は60質量%以上100質量%未満であって、200℃膜抵抗値が200Ω・cm以上かつ170℃膜抵抗値を超えて、かつ少なくとも一層の前記多孔質層Aと、少なくとも一層の前記多孔質層Bとが積層された、蓄電デバイス用積層セパレータ。
[2]
前記多孔質層Bの気孔率が30%以上70%以下である、項目1に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[3]
少なくとも二層の前記多孔質層Aと、少なくとも一層の前記多孔質層Bが積層された、項目1又は2に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[4]
少なくとも一層の前記多孔質層Aと、少なくとも二層の前記多孔質層Bが積層された、項目1又は2に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[5]
両表層が前記多孔質層Aまたは前記多孔質層Bである、項目1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[6]
前記無機粒子は、表面処理された無機粒子である、項目1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[7]
前記無機粒子は、平均粒径が31nm以上1000nm以下である、項目1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[8]
前記無機粒子は、ベーマイト、アルミナ、チタニア、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、及びリン酸マグネシウムから選ばれる一種以上である、項目1~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[9]
前記多孔質層A中に、粘度平均分子量が500,000以上5,000,000以下のポリエチレンを含有する、項目1~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[10]
前記多孔質層B中に、粘度平均分子量が200,000以上10,000,000以下のポリオレフィンを含有する、項目1~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[11]
前記蓄電デバイス用積層セパレータの透気度が、30秒/100ml以上150秒/100ml以下である、項目1~10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータ。
[12]
正極と、負極と、項目1~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用積層セパレータとを備える、蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大型電池で異常発熱が起きた場合でも、電池の安全性を維持できる蓄電デバイス用積層セパレータ、及び当該セパレータを備える蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】膜抵抗値の測定装置の概略図である。
図1B図1Aの測定装置において複数の部材の重ね合わせを説明する概略図である。
図2】温度と膜抵抗値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
《多孔質層A》
本実施形態に係る蓄電デバイス用積層セパレータは、ポリオレフィン樹脂を含有する多孔質層Aを有する。多孔質層Aは、積層セパレータ中に少なくとも一層であり、二層以上であってもよい。
【0018】
多孔質層Aの一層当たりの厚みは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは2μm以上であって、更に好ましくは3μm以上である。多孔質層Aの一層当たりの厚みが1μm以上であることで、積層セパレータの機械的強度や耐電圧性が向上する。また、多孔質層Aの一層あたりの厚みは、好ましくは17μm以下であり、より好ましくは15μm以下であって、更に好ましくは13μm以下である。多孔層Aの一層当たりの厚みが17μm以下であることで、蓄電デバイスのエネルギー密度を高めることができる。
【0019】
多孔質層Aの気孔率は、積層セパレータのイオン透過性を高める観点からは30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましい。一方で、積層セパレータの構造を維持する観点からは75%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下が更に好ましい。
【0020】
積層セパレータ全体に占める多孔質層Aの厚み割合は、積層セパレータの物理的強度を勘案すると、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上である。多孔質層Aの厚み割合が5%以上であると、積層セパレータにフューズ特性が付与されて、高温における絶縁性が高まるため好ましい。一方で、多孔質層Aの厚み割合は、積層セパレータのイオン透過性を高める観点からは、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下である。多孔質層Aの厚み割合が90%以下であると、積層セパレータの高温における寸法安定性が向上し、高温における絶縁性が高まるため好ましい。
【0021】
多孔質層Aの作製方法は、特に限定されず、様々な方法を用いることができ、具体的には、一軸延伸、二軸延伸などの延伸工程;抽出、揮発、分解などの方法によるポリオレフィン樹脂及びイオン性化合物以外の第三成分の除去工程などを使用することができる。第三成分としては、流動パラフィン、フタル酸ジオクチルなどの可塑剤;アセトン、水などの溶媒を単独で、又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0022】
多孔質層Aの作製方法としては、積層セパレータの製造コストを低減し、膜厚の均一性などの品質を向上させる観点から、少なくとも延伸工程を有することが好ましく、延伸工程及び第三成分の除去工程を有することがより好ましく、延伸工程及び第三成分の抽出工程を有することが更に好ましく、二軸延伸工程及び可塑剤の抽出工程を有することが特に好ましい。これらの方法によって多孔質層Aを作製すると、多孔質層Aを均一に形成できるのみならず、蓄電デバイス用積層セパレータ全体の厚み、気孔率などの物性調整が容易になる。
【0023】
《ポリオレフィン樹脂》
本実施形態に係る蓄電デバイス用積層セパレータは、ポリオレフィン樹脂を含有する多孔質層Aを有する。本実施形態において用いられるポリオレフィン樹脂とは、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形などに使用されるポリオレフィン樹脂であって、オレフィン炭化水素をモノマー成分として含むポリマーであり、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテンなどのホモ重合体、共重合体、及び多段重合体である。また、これらのホモ重合体、共重合体、及び多段重合体から成る群から選ばれたポリオレフィンを単独で、又は混合して使用することもできる。
【0024】
ポリオレフィン樹脂として、具体的には、低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm3以上0.930g/cm3未満)、線状低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm3以上0.940g/cm3以下)、中密度ポリエチレン(密度0.930g/cm3以上0.942g/cm3未満)、高密度ポリエチレン(密度0.942g/cm3以上)、超高分子量ポリエチレン(密度0.910g/cm3以上0.970g/cm3以下)、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレンプロピレンラバーが挙げられる。
【0025】
ポリオレフィン樹脂の多孔質層A中に占める割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。ポリオレフィン樹脂の割合が70質量%以上である場合、多孔質層Aの形成が容易になる上に、多孔質層Aに物理的強度やフューズ特性を付与することができる。また、この割合は、好ましくは100質量%以下、より好ましくは100質量%である。ポリオレフィン樹脂の割合が100質量%以下である場合、多孔質層Aの均一性が高まる傾向にある。
【0026】
ポリオレフィン樹脂は、高密度ポリエチレンを含有することが好ましい。高密度ポリエチレンのポリオレフィン樹脂中に占める割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。高密度ポリエチレンのポリオレフィン樹脂に占める割合が70質量%以上である場合、高密度ポリエチレン分子鎖の絡み合いによって積層セパレータの機械的強度が高まる。
【0027】
また、ポリオレフィン樹脂は、高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。高分子量ポリエチレンのポリオレフィン樹脂中に占める割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。高分子量ポリエチレンの粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは500,000以上5,000,000以下、より好ましくは600,000以上4,000,000以下、更に好ましくは700,000以上3,000,000以下である。粘度平均分子量は、ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒の135℃での極限粘度を測定し、ポリオレフィン樹脂に応じた計算式から算出することで、求めることができる。
ポリエチレンについては、次式によりMvを算出できる。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出できる。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0028】
粘度平均分子量500,000以上のポリオレフィン樹脂を用いることで、ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練する際に、メルトテンションを高く維持して良好な成形性を確保する観点、並びに、ポリオレフィン樹脂の分子鎖に対して十分な絡み合いを付与し、積層セパレータの機械的強度を高める観点から好ましい。一方、粘度平均分子量を5,000,000以下に調整することは、ポリオレフィン樹脂の押出成形の安定性を向上させる観点から好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂は、積層セパレータの耐熱性を向上させる観点から、ポリプロピレンを含むことが好ましい。ポリプロピレンのポリオレフィン樹脂中に占める割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上である。また、ポリプロピレンのポリオレフィン樹脂中に占める割合は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。ポリプロピレンの割合を1質量%以上に調整することは、積層セパレータの耐熱性を向上させる観点から好ましい。一方で、積層セパレータの均一性を高める観点から、ポリプロピレンの割合は30質量%以下であることが好ましい。
【0030】
本実施形態で使用されるポリオレフィン樹脂には、本発明の利点を損なわない範囲で必要に応じて、フェノール系、リン系、硫黄系などの酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料などの添加剤を混合して使用できる。
【0031】
《多孔質層B》
本実施形態に係る蓄電デバイス用積層セパレータは、無機粒子を多量に含有する多孔質層Bを有する。多孔質層Bは、積層セパレータ中に少なくとも一層であり、二層以上であってもよい。
【0032】
多孔質層Bの一層当たりの厚みは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは2μm以上であって、更に好ましくは3μm以上である。多孔質層Bの一層当たりの厚みが1μm以上であることで、積層セパレータの高温における絶縁性が高まる。また、多孔質層Bの一層当たりの厚みは、好ましくは17μm以下であり、より好ましくは15μm以下であって、更に好ましくは13μm以下である。多孔層Bの一層当たりの厚みが17μm以下であることで、蓄電デバイスのエネルギー密度を高めることができる。
【0033】
多孔質層Bの気孔率は、積層セパレータのイオン透過性を高める観点からは30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましく、45%以上が特に好ましい。一方で、多孔質層Bの気孔率は、積層セパレータの高温における絶縁性を維持する観点からは70%以下が好ましく、68%以下がより好ましく、66%以下が更に好ましく、64%以下が特に好ましい。
【0034】
積層セパレータ全体に占める多孔質層Bの厚み割合は、積層セパレータの高温における絶縁性を向上する観点からは、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上である。多孔質層Bの厚み割合が5%以上であると、積層セパレータの高温における絶縁性が高まるため好ましい。一方で、多孔質層Bの厚み割合は、積層セパレータの製造を容易に行う観点からは、好ましくは95%以上、より好ましくは90%、更に好ましくは85以下%である。
【0035】
多孔質層Bの作製方法は、特に限定されず、様々な方法を用いることができるが、具体的には、一軸延伸、二軸延伸などの延伸工程;抽出、揮発、分解などの方法によるポリオレフィン樹脂及びイオン性化合物以外の第三成分の除去工程などを使用することができる。第三成分としては、流動パラフィン、フタル酸ジオクチルなどの可塑剤;アセトン、水などの溶媒を単独で、又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0036】
多孔質層Bの作製方法としては、積層セパレータの製造コストを低減し、膜厚の均一性などの品質を向上させる観点から、少なくとも延伸工程を有することが好ましく、延伸工程及び第三成分の除去工程を有することがより好ましく、延伸工程及び第三成分の抽出工程を有することが更に好ましく、二軸延伸工程及び可塑剤の抽出工程を有することが特に好ましい。これらの方法によって多孔質層Bを作製すると、多孔質層Bを均一に形成できるのみならず、蓄電デバイス用積層セパレータ全体の厚み、気孔率などの物性調整が容易になる。
【0037】
多孔質層B中の無機粒子の含有量は、60質量%以上であり、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上である。無機粒子の含有量が60質量%以上である場合、積層セパレータの高温における絶縁性が高まる傾向にある。また、無機粒子の含有量は、100質量%未満であり、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98.5質量%以下である。無機粒子の含有量が100質量%未満である場合、多孔質層Bからの無機粒子の脱落を抑制し、多孔質層Bの均一性を高めることができる。
【0038】
多孔質層Bは、ポリオレフィン樹脂を含有してもよい。多孔質層Bがポリオレフィン樹脂を含有することで、無機粒子同士が結着されて、多孔質層Bからの無機粒子の脱落を抑制することができる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテンなどのホモ重合体、共重合体、及び多段重合体が挙げられ、成形性を高める観点からは、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレンである。ポリオレフィン樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
多孔質層B中のポリオレフィン樹脂は、多孔質層Bの成形性や物理的強度を確保する観点からは特定の分子量を有することが好ましい。多孔質層B中のポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは200,000以上10,000,000以下、より好ましくは300,000以上8,000,000以下、更に好ましくは400,000以上6,000,000以下である。
【0040】
粘度平均分子量200,000以上のポリオレフィン樹脂を用いることで、多孔質層Bを構成する組成物を溶融混練する際に、メルトテンションを高く維持して良好な成形性を確保することができる。さらに、ポリオレフィン分子鎖に十分な絡み合いが付与されるため、多孔質層Bを延伸した際に均一に延伸することが可能になる。一方で、粘度平均分子量10,000,000以下のポリオレフィン樹脂を用いることで、多孔質層Bの高温における寸法安定性を高めることができるため、積層セパレータの高温における絶縁性を向上することができる。
【0041】
多孔質層B中のポリオレフィン樹脂の含有量は、好ましくは0質量%を超えて、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上である。ポリオレフィン樹脂の含有量が0質量%を超える場合、多孔質層Bの均一性が高まり、多孔質層Bからの無機粒子の脱落を抑制できる傾向にある。また、このポリオレフィン樹脂の含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。ポリオレフィン樹脂の含有量が40質量%以下である場合、多孔質層Bの高温における寸法安定性を高めることができる。
【0042】
《無機粒子》
本実施形態に係る蓄電デバイス用積層セパレータは、無機粒子を含有する多孔質層Bを有する。本実施形態において用いられる無機粒子とは、主として炭素元素以外の元素から構成される粒子状の物質である。無機粒子としては、電子伝導性を有さず、分解温度又は融点が500℃以上であり、蓄電デバイス内部という特殊な環境下で化学的に安定であるものが望ましい。これらの特性を有する無機粒子を用いると、蓄電デバイス内部が異常発熱などにより高温になった場合でも、蓄電デバイスの安全性を保つことができる。
【0043】
無機粒子は、主として炭素元素以外の元素から構成される粒子状の物質であって、電子伝導性を有さず、分解温度又は融点が500℃以上であり、蓄電デバイス内部で化学的に安定であれば特に限定されないが、例えば、シリカ、ベーマイト、アルミナ、チタニア、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物;マイカ、クレイ、カオリンなどのケイ酸塩鉱物;硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩;リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウムなどのリン酸塩;フッ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウムなどのハロゲン化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物が挙げられる。
【0044】
無機粒子は、蓄電デバイス内部での安定性及びコストの両面を考慮すると、ベーマイト、アルミナ、チタニア、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、及びリン酸マグネシウムが好ましく、ベーマイト、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、リン酸リチウム、及びリン酸ナトリウムがより好ましく、ベーマイト、アルミナ、チタニア、硫酸バリウムが更に好ましく、硫酸バリウムが特に好ましい。無機粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
無機粒子の形状としては、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、塊状などが挙げられ、上記形状を有する無機粒子を複数種組み合わせて用いてもよい。無機粒子の形状は特に限定されないが、セパレータの破膜を抑制する観点からは、柱状、球状、又は多面体のものが好ましく、球状のものがより好ましい。
【0046】
無機粒子の平均粒径は31nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、50nm以上が更に好ましい。平均粒径が31nm以上であることで、無機粒子同士の凝集が抑制され、セパレータの破膜を抑制することができる。一方で、平均粒径は、1000nm以下が好ましく、900nm以下がより好ましく、800nm以下が更に好ましい。平均粒径が1000nm以下であることで、多孔質層Bを延伸する際に界面剥離による空孔形成が抑制されて、多孔質層Bの密度を高められる。なお、平均粒径とは、走査型電子顕微鏡で多孔質層Bを3万倍で観察した際に、視野像の中に確認できる無作為に選ばれた30点の無機粒子の粒子径の平均値を指す。平均粒径を算出する際には、個々の粒子が単独で存在している状態での粒子径を用いるのであって、粒子が凝集している場合には、凝集物を構成する一次粒子の粒子径を用いるものとする。
【0047】
炭酸カルシウムなどの炭酸塩は、各種ポリマーの充填剤として古くから汎用されており、充填剤としての性能は様々な用途で実証されている。しかしながら、蓄電デバイス内部という特殊な環境においては、炭酸塩が分解して二酸化炭素を発生させる恐れがあるため、好ましくない。
【0048】
また、シリカ及びケイ酸塩鉱物は、蓄電デバイスの使用条件によっては、蓄電デバイス内部で副生するフッ化水素と反応して、四フッ化ケイ素ガスを発生させる可能性がある。結果として、蓄電デバイスが膨張し、蓄電デバイスの安全性や耐久性が損なわれる可能性があるため、好ましくない。
【0049】
無機粒子は、表面処理剤によって表面処理されていても良い。表面処理剤としては、具体的には、ステアリン酸などの飽和脂肪酸及びその塩、オレイン酸などの不飽和脂肪酸及びその塩、ポリシロキサン、及びシランカップリング剤などを用いることができる。ポリオレフィン樹脂との相容性を高める観点からは、無機粒子の表面処理剤としては、好ましくは飽和脂肪酸及びその塩、不飽和脂肪酸及びその塩、並びにシランカップリング剤であり、より好ましくは炭素数8以上の飽和脂肪酸及びその塩、並びに炭素数8以上の不飽和脂肪酸及びその塩であり、更に好ましくは炭素数12以上の飽和脂肪酸及びその塩、並びに炭素数12以上の不飽和脂肪酸及びその塩である。表面処理剤は、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0050】
《蓄電デバイス用積層セパレータ》
本実施形態に係る蓄電デバイス用積層セパレータは、ポリオレフィン樹脂の融点を超えるような高温状態での膜抵抗値が高く、絶縁性に優れる。したがって、当該積層セパレータを用いる蓄電デバイスは、何らかの要因で高温になった場合でも安全性を維持することができる。
【0051】
蓄電デバイス用積層セパレータの膜抵抗値(Ω・cm)は、以下に記載する方法で測定する。図1Aに測定装置の概略図を示す。1はセパレータであり、2A及び2Bは実施例に記載した方法で作製された正極及び負極である。3は面積2cmの真円形の穴が開けられているアラミドフィルムであり、実効電極面積を規定している。4はシリコーンゴムシートであり、1~3の部材に印加される面圧のばらつきを低減する役割がある。5は熱電対が埋め込まれたセラミックプレートである。6はヒーターであり、セパレータを加熱する。7は油圧プレス機であり、1~4の部材に面圧を印加する。8は交流電気抵抗測定装置であり、2A及び2Bの集電体部分と接続されて、2A及び2B間の抵抗値を測定する。9は温度計であり、5の熱電対と接続されて温度を測定する。10はデータコレクターであり、交流電気抵抗測定装置8及び温度計9と接続されて、抵抗値と温度を記録する。
【0052】
さらに詳細に説明すると、まず、セパレータ1、正極2A及び負極2Bの電極活物質が塗布されている部分に電解液(ホウフッ化リチウム/プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/γ-ブチルラクトン/トリオクチルホスフェート=重量比7.2/23.3/25.7/43.3/0.5)を十分に含浸する。その後、セパレータ1と、正極2A及び負極2Bと、アラミドフィルム3と、シリコーンゴム4とを、図1Bに示すように重ね合わせて、セラミックプレート5上に配置する。
【0053】
次いで、油圧プレス機7で1~4の部材に面圧4MPaを印加しながら、ヒーター6を昇温して、連続的に温度と抵抗値を測定する。なお、温度は室温23℃から200℃まで10℃/分の速度にて昇温し、抵抗値は1V、1kHzの交流にて測定する。得られた抵抗値(Ω)に実効電極面積2cmを乗じて、膜抵抗値(Ω・cm)を算出する。170℃及び200℃膜抵抗値(Ω・cm)とは、セラミックプレート5に埋め込まれた熱電対で計測された温度がそれぞれ170℃及び200℃のときの膜抵抗値を指す。
【0054】
蓄電デバイス用積層セパレータの170℃膜抵抗値(Ω・cm)は、積層セパレータの高温における絶縁性を高める観点からは、140Ω・cm以上が好ましく、160Ω・cm以上がより好ましく、180Ω・cm以上が更に好ましい。一方で、積層セパレータの生産性を高める観点からは、170℃膜抵抗値は、10000Ω・cm以下が好ましく、9000Ω・cm以下がより好ましく、8000Ω・cm以下が更に好ましい。
【0055】
蓄電デバイス用積層セパレータの200℃膜抵抗値(Ω・cm)は、積層セパレータの高温における絶縁性を高める観点からは、200Ω・cm以上であり、250Ω・cm以上が好ましく、300Ω・cm以上がより好ましく、350Ω・cm以上が更に好ましい。一方で、積層セパレータの生産性を高める観点からは、200℃膜抵抗値は、20000Ω・cm以下が好ましく、18000Ω・cm以下がより好ましく、16000Ω・cm以下が更に好ましい。
【0056】
蓄電デバイス用積層セパレータの170℃から200℃の温度域における膜抵抗値増加率(Ω・cm/℃)は、0Ω・cm/℃を超えて、好ましくは1Ω・cm/℃以上であり、より好ましくは2Ω・cm/℃以上であり、更に好ましくは3Ω・cm/℃以上である。なお、170℃から200℃の温度域における膜抵抗値増加率は、200℃膜抵抗値(Ω・cm)から170℃膜抵抗値(Ω・cm)を差し引き、温度差30℃で除することで、170℃から200℃の温度域における膜抵抗値の1℃当たりの平均増加量として算出することができる。膜抵抗値増加率が高いことは、温度が上がるほどセパレータの絶縁性がより高まることを意味しており、膜抵抗値増加率が高いセパレータを用いると、蓄電デバイスの安全性が向上する。
【0057】
蓄電デバイス用積層セパレータの膜厚は、1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上50μm以下、さらに好ましくは3μm以上25μm以下である。機械的強度を確保する観点から1μm以上の膜厚が好ましく、蓄電デバイスのエネルギー密度を高める観点から100μm以下の膜厚が好ましい。膜厚は、ダイリップ間隔、延伸工程の延伸倍率などを制御することによって調整することができる。
【0058】
蓄電デバイス用積層セパレータの平均孔径は、イオン伝導性と耐電圧性を両立する観点から、10nm以上100nm以下が好ましく、20nm以上90nm以下がより好ましく、30nm以上80nm以下がさらに好ましい。平均孔径は、組成比、押出シートの冷却速度、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御すること、又はこれらを組み合わせることにより調整することができる。
【0059】
蓄電デバイス用積層セパレータの気孔率は、好ましくは25%以上95%以下、より好ましく30%以上90%以下、更に好ましくは35%以上85%以下、特に好ましくは40%以上80%以下である。イオン伝導性を向上するためには、25%以上の気孔率が好ましく、耐電圧性を確保するためには95%以下の気孔率が好ましい。セパレータの気孔率は、多孔質層A及び多孔質層Bの組成、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御すること、又はこれらを組み合わせることによって調整することができる。
【0060】
蓄電デバイス用積層セパレータの透気度は、好ましくは30秒/100ml以上、より好ましくは40秒/100ml以上、更に好ましくは50秒/100ml以上である。透気度が30秒/100ml以上であると、蓄電デバイスのセパレータとして使用した際に自己放電が抑制される傾向にある。一方で、透気度は、好ましくは150秒/100ml以下、より好ましくは140秒/100ml以下、更に好ましくは130秒/100ml以下である。透気度が150秒/100ml以下であると、蓄電デバイスのセパレータとして使用した際に良好な入出力特性が得られる傾向にあるため好ましい。
【0061】
本実施形態の蓄電デバイス用積層セパレータの高温における絶縁性が高い理由は必ずしも明らかではなく、後述する作用又は原理によるものに限定されないが、本実施形態のセパレータは、主にポリオレフィン樹脂から成る多孔質層Aと、主に無機粒子から成る多孔質層Bとの界面が良好に形成されているからであると考えられる。塗工によって無機層を形成すると、乾燥によって媒体を揮発させる際に、基材と無機層の界面にバインダーや分散剤などの成分が偏析してしまうことがある。その場合、基材と無機層の相互作用が弱まり、高温状態などの厳しい条件においては、溶融した基材と無機層が分離してしまい、絶縁性が維持されず、膜抵抗値が下がる可能性がある。本実施形態の蓄電デバイス用積層セパレータは、共押出法で多孔質層Aと多孔質層Bを積層しているため、多孔質層Aと多孔質層Bの界面に何らかの成分が偏析することがなく、高温状態においても多孔質層Aと多孔質層Bが分離しないものと考えられる。
【0062】
また、本実施形態の蓄電デバイス用積層セパレータの一つの特徴として、ポリオレフィン樹脂が溶融するような高温状態において、温度が上がるほど膜抵抗値が増加することが挙げられる。本実施形態のセパレータは、多孔質層Bに含有される無機粒子に特定の表面処理を施していることで、無機粒子と多孔質層Aに含まれるポリオレフィン樹脂の親和性が高まり、高温において多孔質層Bと多孔質層Aの複合化が進み、膜抵抗値が増加している可能性がある。
【0063】
さらに、本実施形態の蓄電デバイス用積層セパレータは、従来の共押出法で作製された積層セパレータと比較して、多孔質層Bの気孔率が低い、すなわち多孔質層Bの密度が高い。一般的に、セパレータの製作工程には面倍率50倍以上に延伸する工程が含まれる。このような工程を経ると、無機粒子を多量に含む多孔質層Bは、破膜することが多く、仮に延伸できたとしても多孔質層Bの気孔率が必要以上に高くなり易い。本実施形態の蓄電デバイス用積層セパレータは、多孔質層Bの密度を高められているため、高温状態において絶縁性が維持され易く、膜抵抗値が高いものと推定される。
【0064】
《蓄電デバイス用積層セパレータの製造方法》
本発明の蓄電デバイス用積層セパレータを得るための製造方法に関して一例を記述するが、必ずしも本例に限定される訳ではない。セパレータの製造方法は、例えば、以下の工程:
(1)ポリオレフィン樹脂及び可塑剤を溶融混練して多孔質層Aを構成するための溶融物を得る工程、
(2)無機粒子、ポリオレフィン樹脂、及び可塑剤を溶融混練して多孔質層Bを構成するための溶融物を得る工程、
(3)多孔質層A及び多孔質層Bが積層されたシート状溶融物を成形する工程、
(4)シート状溶融物を冷却固化する工程、
(5)シート状成形物を面倍率20倍以上200倍未満で、少なくとも一軸方向に延伸する工程、
(6)シート状成形物から可塑剤を抽出する工程、
を含んでいてもよい。
【0065】
(1)の工程では、ポリオレフィン樹脂及び可塑剤を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、可塑剤、及び必要に応じてその他の添加剤とを押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサーなどの樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。
【0066】
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックスなどの炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルなどのエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコールなどが挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留などの操作により回収して再利用してよい。
【0067】
また、樹脂混練装置に投入する前に、ポリオレフィン樹脂、及び必要に応じてその他の添加剤を、予めヘンシェルミキサーなどを用いて所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。事前混練では、可塑剤を投入しないことが好ましく、可塑剤を投入するとしても、その一部のみを投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置に適宜加温しサイドフィードしながら混練することが好ましい。このような混練方法を用いることにより、可塑剤の分散性が高まり、後の工程でシート状成形物を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
【0068】
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレン又はポリプロピレンの場合には、これらとの相容性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こり難く、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
【0069】
ポリオレフィン樹脂及び可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂及び可塑剤からなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは10質量%以上90質量%以下、より好ましくは20質量%以上80質量%以下である。可塑剤の質量分率が90質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが成形性向上のために十分なものとなる傾向にある。一方、可塑剤の質量分率が10質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン分子鎖の切断が起こらず、均一かつ微細な孔構造が形成される傾向にある。
【0070】
(2)の工程では、無機粒子、ポリオレフィン樹脂、及び可塑剤を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、無機粒子、ポリオレフィン樹脂、可塑剤、及び必要に応じてその他の添加剤とを押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサーなどの樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。
【0071】
可塑剤としては、特に限定されないが、(1)の工程で用いる可塑剤と同じものを使用することが好ましい。また、樹脂混練装置に投入する前に、無機粒子、ポリオレフィン樹脂、及び必要に応じてその他の添加剤を、予めヘンシェルミキサーなどを用いて所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。事前混練では、可塑剤を投入しないことが好ましく、可塑剤を投入するとしても、その一部のみを投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置に適宜加温しサイドフィードしながら混練することが好ましい。さらに、事前混練された混合物をローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、遊星ミル、振動ミル、ビーズミルなどを用いて、十分に解砕することが好ましい。このような混練方法を用いることにより組成物の均一性が高まり、後の工程でシート状成形物を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
【0072】
無機粒子、ポリオレフィン樹脂、及び可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、無機粒子、ポリオレフィン樹脂、及び可塑剤からなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは1質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上45質量%以下、更に好ましくは10質量%以上40質量%以下である。可塑剤の質量分率が50質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが成形性向上のために十分なものとなる傾向にある。一方、可塑剤の質量分率が1質量%以上であると、溶融混練物に柔軟性が付与されて、混練物を高倍率で延伸した場合でも均一かつ微細な孔構造が形成される傾向にある。
【0073】
(3)の工程では、多孔質層A及び多孔質層Bが積層されたシート状溶融物を作製する。積層シート状溶融物を成形する方法としては、各層をダイ内で層状に組み合せてシート状に押し出す方法(ダイ内接着法)、或いは各層を複数のダイからシート状に押し出してダイ外で接合する方法(ダイ外接着法)が挙げられるが、多孔質層A及び多孔質層Bの接着強度を高める観点からは、ダイ内接着法が好ましい。
【0074】
積層シート状溶融物を成形するための押出方法として、例えば、フラットダイ法及びインフレーション法を用いることができる。いずれの方法においても、ダイ内接着する場合は、多孔質層A及び多孔質層Bの溶融物を積層用ダイの別々のマニホールドに供給してダイリップ入口で層状に接合する方法(多数マニホールド法)、又は各溶融物を予め層状に組合せてダイに供給する方法(フィードブロック法)のいずれを用いてもよい。フラットダイのリップ間隔は、200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ、スジ、欠点などが発生し辛く、セパレータの品位が向上する。一方で、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、積層シート状溶融物の冷却速度が高まり、冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
【0075】
(4)の工程では、シート状溶融物を冷却固化し、シート状成形物を作製する。シート状溶融物を冷却固化する方法としては、例えば、シート状溶融物を熱伝導体に接触させて、樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、及び可塑剤などが挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した混練物を金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むことは、熱伝導の効率がさらに高まり、シートが配向して膜強度が増し、加えてシートの表面平滑性も向上する傾向にあるためより好ましい
【0076】
また、シート状成形物を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機などを使用したプレス法にて実施することができる。圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し、最終的に得られるセパレータの膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
【0077】
(5)の工程では、シート状成形物を延伸する。延伸は上記シート状成形物から可塑剤を抽出した後に行ってもよい。さらに、上記シート状成形物から可塑剤を抽出する前と後に行ってもよい。
【0078】
延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られるセパレータの強度を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形物を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られるセパレータが裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸などの方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、フューズ特性の観点からは同時二軸延伸が好ましい。また、面配向の制御容易性の観点からは遂次二軸延伸が好ましい。
【0079】
同時二軸延伸とは、MD(セパレータ連続成形の機械方向)の延伸とTD(セパレータのMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0080】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上200倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上150倍以下の範囲であることがより好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上15倍以下、TDに4倍以上15倍以下の範囲であることが好ましく、MDに5倍以上12倍以下、TDに5倍以上12倍以下の範囲であることがより好ましい。総面積倍率が25倍以上であると、得られるセパレータに十分な強度を付与できる傾向にあり、一方、総面積倍率が200倍以下であると、延伸工程でのセパレータの破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
【0081】
(6)の工程では、シート状成形物から可塑剤を除去してセパレータを形成する。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形物を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法は、バッチ式と連続式のいずれであってもよい。セパレータの収縮を抑えるために、浸漬及び乾燥の一連の工程中にシート状成形物の端部を拘束することが好ましい。また、セパレータ中の可塑剤残存量は、セパレータ全体の質量に対して1質量%未満に調整することが好ましい。
【0082】
可塑剤を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボンなどの非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留などの操作により回収して再利用してもよい。
【0083】
セパレータの収縮を抑制するために、延伸工程後、又は、セパレータ形成後に熱固定を目的として熱処理を行うこともできる。また、セパレータに、界面活性剤などによる親水化処理、電離性放射線などによる架橋処理などの後処理を行ってもよい。
【0084】
セパレータには、収縮を抑制する観点から熱固定を目的として熱処理を施すことが好ましい。熱処理の方法としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行ってもよい。これらの熱処理は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
【0085】
延伸操作は、膜のMD及び/又はTDに好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上の延伸を施すことが、更なる高強度かつ高気孔率なセパレータが得られる観点から好ましい。緩和操作は、膜のMD及び/又はTDへの縮小操作のことである。緩和率とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことである。なお、MDとTDの双方を緩和した場合は、緩和率はMDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、1.0以下であることが好ましく、0.97以下であることがより好ましく、0.95以下であることがさらに好ましい。緩和率はセパレータの品位を高める観点から0.5以上であることが好ましい。緩和操作は、MDとTDの両方向で行ってもよいが、MDとTDの片方だけ行ってもよい。
【0086】
この可塑剤抽出後の延伸及び緩和操作は、好ましくはTDに行う。延伸及び緩和操作の温度は、ポリオレフィン樹脂の融点(以下、「Tm」ともいう。)と比較して、好ましくはTm-20℃以上Tm+20℃以下、より好ましくはTm-10℃以上Tm+10℃以下である。延伸及び緩和操作の温度が上記範囲であると、熱収縮率低減と気孔率とのバランスの観点から好ましい。
【0087】
本実施形態の蓄電デバイス用積層セパレータは、単独でも蓄電デバイスのセパレータとして十分に機能するが、必要に応じて、無機材料及び/又は有機材料を塗布してもよい。
【0088】
《蓄電デバイス》
本実施形態の蓄電デバイスは、正極と、負極と、本実施形態に係る蓄電デバイス用積層セパレータとを備える。蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウム二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。上記の中でも、実用性の観点から、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、より好ましくはリチウムイオン二次電池又はカリウムイオン二次電池である。
【0089】
本実施形態の蓄電デバイスは、例えば、上述の正極と負極とを、セパレータを介して重ね合わせて、必要に応じて捲回して、積層電極体又は捲回電極体とした後、これを外装体に装填し、正負極と外装体の正負極端子とをリード体などを介して接続し、さらに、鎖状又は環状カーボネートなどの非水溶媒とリチウム塩などの電解質を含む非水電解液を外装体内に注入した後に外装体を封止して作製することができる。
【0090】
蓄電デバイスの外装体としては、特に限定されないが、金属製の缶容器、金属箔ラミネートフィルムから成るラミネート容器などを好適に用いることができる。なお、蓄電デバイスの形状としては、特に限定されず、一例を挙げると、円筒形、角型、コイン型、扁平形、シート状などの形状が採用される。
【0091】
《正極》
正極は、正極活物質に、アセチレンブラックなどの導電助剤、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を適量加えて、正極合剤を調製し、これをアルミニウム箔などの集電材料に塗布乾燥後に加圧することで、集電材料上に正極合剤層を固着させて作製される。ただし、正極の作製方法は、上記例示の方法に限定されない。
【0092】
正極活物質としては、特に限定されないが、蓄電デバイスのエネルギー密度及び耐久性を高める観点から、好ましくは、一般式LiNixCoyMa1-x-y2{式中、Maは、Mn及びAlから成る群より選ばれる一種以上を表し、0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、かつx+y≦1である。}で示される層状酸化物正極活物質;一般式LiMn2-xMbx4{式中、Mbは遷移金属から成る群より選ばれる一種以上を表し、かつ0.2≦x≦0.7である。}で示されるスピネル型酸化物正極活物質;Li2McO3とLiMdO2{式中、Mc及びMdは、別個独立に遷移金属から成る群より選ばれる一種以上を表す。}の複合酸化物であって、一般式zLi2McO3-(1-z)LiMdO2{式中、Mc及びMdは、別個独立に遷移金属から成る群より選ばれる一種以上を表し、かつ0.05≦z≦0.95である。}で示されるLi過剰層状酸化物正極活物質;LiMe1-xFexPO4{式中、Meは、Mn及びCoから成る群より選ばれる一種以上を表し、かつ0≦x≦1である。}で示されるオリビン型正極活物質;及びLi2MfPO4F{式中、Mfは、遷移金属から成る群より選ばれる一種以上を示す。}から成る群より選ばれる一種以上の正極活物質などが挙げられる。
【0093】
一般式LiNixCoyMa1-x-y2{式中、Maは、Mn及びAlから成る群より選ばれる一種以上を表し、0≦x≦1であって、0≦y≦1であり、かつx+y≦1である。}で示される層状酸化物正極活物質は、構造安定性の観点から、LiNixCoyMn1-x-y2{式中、0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、かつx+y≦1である。}又はLiNixCoyAl1-x-y2{式中、0.7≦x≦1であり、0≦y≦0.3であり、かつx+y≦1である。}で示される組成を有することが好ましい。より好ましい組成としては、LiCoO2、LiNixCoyMn1-x-y2{式中、0.3≦x≦1であり、0≦y≦0.4であり、かつx+y≦1である。}、及びLiNi0.85Co0.1Al0.052を挙げることができる。
【0094】
《負極》
負極は、負極活物質に、カルボキシメチルセルロースなどの増粘剤、スチレンブタジエンゴムなどの結着剤を適量加えて、負極合剤を調製し、これを銅箔などの集電材料に塗布乾燥後に加圧することで、集電材料上に負極合剤層を固着させて作製することができる。ただし、負極の作製方法は、上記例示の方法に限定されない。
【0095】
本実施形態において、負極に用いることができる負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、Al、Si、Snなどの合金化合物;CuO、CoOなどの金属酸化物;チタン酸リチウムなどのリチウム含有化合物;及び炭素材料などを用いることができる。蓄電デバイスのエネルギー密度向上の観点から、比較的低い電位でのリチウムイオンの吸蔵・放出が可能である炭素材料が好ましい。このような炭素材料としては、特に限定されないが、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、有機天然物の焼成体、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0096】
負極活物質に炭素材料を用いる場合、その炭素材料の(002)面の層間距離d002は、好ましくは0.37nm以下であり、より好ましくは0.35nm以下であり、さらに好ましくは0.34nm以下である。d002の下限値は、特に限定されないが、理論的には約0.335nmである。また、炭素材料のc軸方向の結晶子の大きさは、好ましくは3nm以上であり、より好ましくは8nm以上であり、さらに好ましくは25nm以上である。結晶子の大きさの上限は、特に限定されないが、通例200nm程度である。そして、炭素材料の平均粒径は、好ましくは3μm以上15μm以下であり、より好ましくは5μm以上13μm以下である。また、炭素材料の純度は、99.9%以上であることが好ましい。
【0097】
本実施形態に係る蓄電デバイスは、安全性が高く、生産性にも優れることから、電気自動車用電池としてのみならず、スマートフォンなどの民生機器用電池を含む様々な機器の電源として幅広く利用することができる。
【実施例
【0098】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において使用された分析方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0099】
(1)膜厚(μm)
微小測厚器(株式会社東洋精機製作所,タイプKBM)を用いて、試料の膜厚を室温23℃で測定した。また、試料の各層の厚みは、試料の断面を走査型電子顕微鏡で観察することで測定した。
【0100】
(2)気孔率(%)
セパレータから10cm×10cm角の試料を切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm3)より、次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積-質量/膜密度)/体積×100
なお、膜密度としては、用いたポリオレフィン樹脂と無機粒子の各々の密度と混合比より計算で求められる値を用いた。
【0101】
(3)透気度(秒/100ml)
JIS P-8117準拠のガーレー式透気度計(株式会社東洋精機製作所)にて試料の透気度を測定した。
【0102】
(4)突刺強度(gf)
ハンディー圧縮試験器「KES-G5」(カトーテック株式会社)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーでセパレータを固定した。固定されたセパレータの中央部に対して、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/秒の条件下で、室温23℃で突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(gf)を測定した。
【0103】
(5)膜抵抗値(Ω・cm
セパレータから40mm×30mm角の試料を切り取り、試料1を準備した。また、後述する方法で作製された正極及び負極から55mm×20mm角の正極及び負極を切り取り、正極2A及び負極2Bを準備した。なお、2A及び2Bの長さ55mmのうち10mmは、電極活物質が塗布されておらず、集電体が剥き出しになっている。
【0104】
その後、試料1、正極2A及び負極2Bの電極活物質が塗布されている部分に電解液(ホウフッ化リチウム/プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/γ-ブチルラクトン/トリオクチルホスフェート=重量比7.2/23.3/25.7/43.3/0.5)を十分に含浸した。
【0105】
そして、図1Aに示すように測定装置を準備して、試料1と、正極2A及び負極2Bと、面積2cmの真円形の穴が開けられているアラミドフィルム3(厚み9μm)と、シリコーンゴム4(厚み4mm)とを、図1Bに示すように重ね合わせて、熱電対が埋め込まれたセラミックプレート5上に配置した。
【0106】
次いで、油圧プレス機7で1~4の部材に面圧4MPaを印加しながら、ヒーター6を昇温し、5の熱電対が接続された温度計9と、正極2A及び負極2Bの集電体部分が接続された交流電気抵抗測定装置8「AG-4311」(安藤電機株式会社)とを用いて、連続的に温度と抵抗値を測定した。なお、温度は室温23℃から200℃まで10℃/分の速度にて昇温し、抵抗値は1V、1kHzの交流にて測定した。
【0107】
得られた抵抗値(Ω)に実効電極面積2cmを乗じて、膜抵抗値(Ω・cm)を算出した。このとき、170℃及び200℃での膜抵抗値を、それぞれ170℃及び200℃膜抵抗値(Ω・cm)とした。また、膜抵抗値増加率(Ω・cm/℃)は、200℃膜抵抗値(Ω・cm)から170℃膜抵抗値(Ω・cm)を差し引き、温度差30℃で除して算出した。
【0108】
(6)リチウムイオン二次電池を用いた試験
《正極シートの作製》
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/32(日本化学工業株式会社)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末(デンカ株式会社)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン溶液(株式会社クレハ)とを、90:6:4の固形分質量比で混合し、分散溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分40質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ20μmの集電材料としてのアルミニウム箔の両面に塗布し、溶剤を乾燥除去し、その後、塗布されたアルミニウム箔をロールプレスで圧延して、正極合剤部分の空孔率が38%に調整された正極シートを得た。
【0109】
《負極シートの作製》
負極活物質として人造グラファイト(日立化成株式会社)、結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース水溶液とを、100:1.5:1.8の固形分質量比で混合し、分散溶媒として水を固形分45質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ18μmの集電材料としての銅箔の両面に塗布し、溶剤を乾燥除去し、その後、塗布された銅箔をロールプレスで圧延して、負極合剤部分の空孔率が40%に調整された負極シートを得た。
【0110】
《非水電解液の調製》
非水溶媒としてのエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/L含有させた溶液を調製した。
【0111】
《リチウムイオン二次電池の作製》
上述のようにして作製した正極シートと負極シートとを、後述する実施例及び比較例で得られたセパレータの両側に重ね合わせて積層体を得た。得られた積層体を、アルミニウム箔(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したアルミラミネートフィルムから成る袋(外装体)内に正負極の端子を突設させながら挿入した。その後、上述のようにして作製した非水電解液を袋内に注入し、袋に真空封止を行うことによって、パウチ型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0112】
《リチウムイオン二次電池の初充放電》
パウチ型リチウムイオン二次電池を、25℃に設定した恒温槽「PLM-73S」(株式会社二葉科学)に収容し、充放電装置「ACD-01」(アスカ電子株式会社)に接続した。次いで、その二次電池を、0.1Cの定電流で4.2Vの電圧に達するまで充電して、4.2Vの定電圧で1時間充電し、その後、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電するという充放電サイクルを、3回繰り返した。その後、0.1Cの定電流で4.2Vの電圧に達するまで電池を充電して、リチウムイオン二次電池を満充電の状態とした。なお、1Cとは、電池の全容量を1時間で放電させる場合の電流値を表し、0.1Cとは、その1/10の電流値を表す。
【0113】
《リチウムイオン二次電池の20C放電試験》
初充放電後のパウチ型リチウムイオン二次電池を、1/3Cの定電流で4.2Vの電圧に達するまで充電した後、4.2Vの定電圧で1時間充電し、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。その後、1/3Cの定電流で4.2Vの電圧に達するまで電池を充電した後、4.2Vの定電圧で1時間充電し、20Cの定電流で3.0Vまで放電した。上記一連の充放電の結果から、20C容量維持率(%)を、以下の式によって算出した。
20C容量維持率(%)=20C放電容量/1C放電容量×100
【0114】
《リチウムイオン二次電池のサイクル試験》
20C放電試験後のパウチ型リチウムイオン二次電池を、50℃に設定した恒温槽「PLM-73S」(株式会社二葉科学)に収容し、充放電装置「ACD-01」(アスカ電子株式会社)に接続した。次いで、その二次電池を、1Cの定電流で4.2Vの電圧に達するまで充電した後、4.2Vの定電圧で1時間充電し、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。上記一連の充放電を1サイクルとして、これを500サイクルに亘って実施し、500サイクル後の容量維持率(%)を測定した。なお、500サイクル後容量維持率(%)は、以下の式で求めた。
500サイクル後容量維持率(%)=500サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量×100
【0115】
《リチウムイオン二次電池の安全性試験》
初充放電後の満充電状態のパウチ型リチウムイオン二次電池を、60℃に温度調整された防爆ブース内に設置された台座に静置した。その後、電池に釘(直径3mm、SUS304製)を、電池の平面部に対して90°の角度から、電池の中心部に対して、30mm/秒の速度で、釘が電池を貫通するまで刺した。釘を刺した後の電池の挙動を観察し、ハザードレベル(HL)のランク付けを行った。なお、HLの数値が低いほど、電池の安全性が維持されていることを意味する。
HL0:変化無し
HL1:保護機構作動
HL2:破損
HL3:漏出
HL4:噴出
HL5:発火
HL6:破裂
HL7:爆発
【0116】
[実施例1]
粘度平均分子量70万の高密度ポリエチレン(融点135℃)を47質量部と、粘度平均分子量25万の高密度ポリエチレン(融点137℃)を46質量部と、粘度平均分子量40万のポリプロピレン(融点163℃)を7質量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.3質量部とをタンブラーブレンダーを用いて混合して、多孔質層Aの原料となる組成物Aを調製した。
【0117】
次に、平均粒径300nmの表面処理された硫酸バリウム(硫酸バリウム100質量部に対して、ステアリン酸ナトリウム1質量部を表面処理に用いた)を98質量部と、粘度平均分子量200万の超高分子量ポリエチレン(融点134℃)を2質量部と、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.012質量部とをヘンシェルミキサーで混合して、多孔質層Bの原料となる組成物Bを調製し、ジェットミルを用いて組成物Bを微粉砕した。
【0118】
組成物Aを二軸押出機へ供給し、溶融混練物中に占める組成物Aの割合が35質量%、かつ押出量が13kg/hとなるように、40℃の動粘度が70.6cStである流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードして、二軸押出機内で180℃に加熱しながら溶融混練した。
【0119】
組成物Bを二軸押出機へ供給し、溶融混練物中に占める組成物Bの割合が82質量%、かつ押出量が16kg/hとなるように、40℃の動粘度が70.6cStである流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードして、二軸押出機内で180℃に加熱しながら溶融混練した。
【0120】
得られた2種類の溶融混練物を、2種3層の共押出ができるTダイ内で、両表層が組成物A、中間層が組成物Bとなるように積層し、表面温度90℃に制御された冷却ロール上に押し出し、その押出物を冷却ロールに接触させ、成形して冷却固化することにより、シート状成形物を得た。
【0121】
このシート状成形物を同時二軸延伸機に導き、温度122℃で、倍率7×7で同時二軸延伸を行った。次に、シート状延伸物を抽出槽に導き、塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去し、塩化メチレンの乾燥を行った。その後、得られた多孔質膜を一軸延伸機に導き、温度134℃で、幅方向に1.7倍に延伸した後に、幅方向に約20%緩和して、積層セパレータを得た。得られた積層セパレータの評価結果を表1及び図2に示す。
【0122】
[実施例2]
実施例1の積層方法に代えて、両表層が組成物B、中間層が組成物Aとなるように積層したこと以外、実施例1と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表1及び図2に示す。
【0123】
[実施例3]
実施例1の組成物Bに代えて、平均粒径300nmの表面処理された硫酸バリウム(硫酸バリウム100質量部に対して、ステアリン酸ナトリウム1質量部を表面処理に用いた)を95質量部と、粘度平均分子量200万の超高分子量ポリエチレン(融点134℃)を5質量部と、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.03質量部とをヘンシェルミキサーで混合して調整した組成物Bを用いたこと以外、実施例1と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表1に示す。
【0124】
[実施例4]
実施例3の積層方法に代えて、両表層が組成物B、中間層が組成物Aとなるように積層したこと以外、実施例3と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表1に示す。
【0125】
[実施例5]
実施例1の組成物Bに代えて、平均粒径300nmの表面処理された硫酸バリウム(硫酸バリウム100質量部に対して、ステアリン酸ナトリウム1質量部を表面処理に用いた)を70質量部と、粘度平均分子量70万の高密度ポリエチレン(融点135℃)を30質量部と、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.18質量部とをヘンシェルミキサーで混合して調整した組成物Bを用いて、組成物Bを押出機に供給して溶融混練する際に押出量を22kg/hにしたこと以外、実施例1と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表1に示す。
【0126】
[実施例6]
実施例5の積層方法に代えて、両表層が組成物B、中間層が組成物Aとなるように積層したこと以外、実施例5と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表1に示す。
【0127】
[実施例7]
実施例1の平均粒径300nmの表面処理された硫酸バリウムに代えて、平均粒径300nmの表面処理されたベーマイト(ベーマイト100質量部に対して、ステアリン酸ナトリウム1質量部を表面処理に用いた)を用いて組成物Bを調整したこと以外、実施例1と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表1に示す。
【0128】
[実施例8]
実施例7の積層方法に代えて、両表層が組成物B、中間層が組成物Aとなるように積層したこと以外、実施例7と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表2に示す。
【0129】
[実施例9]
実施例1の平均粒径300nmの表面処理された硫酸バリウムに代えて、平均粒径300nmの表面処理されたチタニア(チタニア100質量部に対して、ステアリン酸ナトリウム1質量部を表面処理に用いた)を用いて組成物Bを調整したこと以外、実施例1と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表2に示す。
【0130】
[実施例10]
実施例9の積層方法に代えて、両表層が組成物B、中間層が組成物Aとなるように積層したこと以外、実施例9と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表2に示す。
【0131】
[実施例11]
実施例1の平均粒径300nmの表面処理された硫酸バリウムに代えて、平均粒径50nmの表面処理された硫酸バリウム(硫酸バリウム100質量部に対して、ステアリン酸ナトリウム3質量部を表面処理に用いた)を用いて組成物Bを調整したこと以外、実施例1と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表2に示す。
【0132】
[実施例12]
実施例1の平均粒径300nmの表面処理された硫酸バリウムに代えて、平均粒径600nmの表面処理された硫酸バリウム(硫酸バリウム100質量部に対して、ステアリン酸ナトリウム0.5質量部を表面処理に用いた)を用いて組成物Bを調整したこと以外、実施例1と同様にして積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表2に示す。
【0133】
[比較例1]
特許文献1の実施例1に記載の方法に従って、積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表2及び図2に示す。なお、膜抵抗値の測定、及びリチウムイオン二次電池を用いた各種評価においては、無機塗工層が正極に対向するように積層セパレータを配置した。
【0134】
[比較例2]
特許文献2の実施例5に記載の方法に従って、積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表2及び図2に示す。
【0135】
[比較例3]
特許文献3の実施例5に記載の方法に従って、積層セパレータを作製した。得られた積層セパレータの評価結果を表2及び図2に示す。
【0136】
[比較例4]
実施例1の組成物Bを調整する際に、ジェットミルでの微粉砕を行わなかったこと以外、実施例1と同様にして積層セパレータの作製を試みた。しかしながら、積層セパレータを作製する際に度々破断が生じ、セパレータを安定して作製することができなかった。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
表1及び2より、実施例1~12は、ポリオレフィン基材上に無機層を塗工によって形成して積層セパレータを作製している比較例1と比較すると、ポリオレフィン樹脂の融点以上の高温においては、温度が上がるほど膜抵抗値が増加し、高温において絶縁性を維持する特性に優れる。電池の安全性試験では、実施例1~12の積層セパレータを用いた場合、比較例1よりも電池の安全性が維持されている。また、実施例1~12は、電池の出力特性の面でも比較例1より優れている。
【0140】
次に、実施例1~12は、無機粒子としてシリカを用いて共押出法で積層セパレータを作製している比較例2と比較して、無機粒子を含有する多孔質層Bの密度が高く、高温において絶縁性を維持する特性に優れることに加え、電池のサイクル特性及び出力特性が高く、安全性にも優れている。
【0141】
そして、実施例1~12は、無機粒子として硫酸バリウムを用いて共押出法で積層セパレータを作製している比較例3と比較して、無機粒子を含有する多孔質層Bの密度が高く、高温において絶縁性を維持する特性に優れる。結果として、電池の安全性試験では、実施例1~12の積層セパレータを用いた場合、比較例3よりも電池の安全性が維持されている。
【0142】
以上のことから、ポリオレフィン樹脂を含有する多孔質層Aと、無機粒子を多量に含有する多孔質層Bとを有し、高温において特定の抵抗挙動を示す蓄電デバイス用積層セパレータは、セパレータとして良好に機能するだけでなく、高温での蓄電デバイスの安全性の向上に寄与し、更には蓄電デバイスの耐久性及び出力特性の向上にも資することが明確となった。
【符号の説明】
【0143】
1 セパレータ
2A,2B 正極,負極
3 面積2cmの真円形の穴が開けられているアラミドフィルム
4 シリコーンゴムシート
5 熱電対が埋め込まれたセラミックプレート
6 ヒーター
7 油圧プレス機
8 交流電気抵抗測定装置
9 温度計
10 データコレクター
図1A
図1B
図2