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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】画像記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
B41J2/175 309
B41J2/175 121
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020104689
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021194880
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】村岡 千秋
(72)【発明者】
【氏名】後藤 顕
(72)【発明者】
【氏名】戸田 恭輔
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-172353(JP,A)
【文献】特開昭63-132057(JP,A)
【文献】特開2008-073856(JP,A)
【文献】特開平05-008407(JP,A)
【文献】米国特許第06007173(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像の記録に用いる液体を貯蔵する液室と、
前記液室内に挿入される第1の電極ピン及び第2の電極ピンと、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する印加手段と、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に流れる電流を検知する検知手段と、を備える画像記録装置において、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陽極側、前記第2の電極ピンを陰極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加し、前記検知手段が前記電流を検知する第1の期間と、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陰極側、前記第2の電極ピンを陽極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する第2の期間と、
を有し、
前記第1の期間に印加される電圧の印加累計時間よりも、前記第2の期間に印加される電圧の印加累計時間の方が長いことを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
画像の記録に用いる液体を貯蔵する液室と、
前記液室内に挿入される第1の電極ピン及び第2の電極ピンと、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する印加手段と、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に流れる電流を検知する検知手段と、を備える画像記録装置において、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陽極側、前記第2の電極ピンを陰極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加し、前記検知手段が前記電流を検知する第1の期間と、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陰極側、前記第2の電極ピンを陽極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する第2の期間と、
を有し、
前記第1の期間に印加される電圧のパルス幅よりも、前記第2の期間に印加される電圧のパルス幅の方が長いことを特徴とする画像記録装置。
【請求項3】
画像の記録に用いる液体を貯蔵する液室と、
前記液室内に挿入される第1の電極ピン及び第2の電極ピンと、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する印加手段と、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に流れる電流を検知する検知手段と、を備える画像記録装置において、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陽極側、前記第2の電極ピンを陰極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加し、前記検知手段が前記電流を検知する第1の期間と、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陰極側、前記第2の電極ピンを陽極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する第2の期間と、
を有し、
前記第1の期間に印加される電圧の絶対値よりも、前記第2の期間に印加される電圧の絶対値の方が大きいことを特徴とする画像記録装置。
【請求項4】
画像の記録に用いる液体を貯蔵する液室と、
前記液室内に挿入される第1の電極ピン及び第2の電極ピンと、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する印加手段と、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に流れる電流を検知する検知手段と、を備える画像記録装置において、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陽極側、前記第2の電極ピンを陰極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加し、前記検知手段が前記電流を検知する第1の期間と、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陰極側、前記第2の電極ピンを陽極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する第2の期間と、
を有し、
前記液室における液体の残量を検出するための所定の検出期間の間に、複数の前記第1の期間を有し、前記検出期間とは異なる非検出期間の間に、複数の前記第2の期間を有することを特徴とする画像記録装置。
【請求項5】
前記検知手段は、前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に流れる直流電流を検知することで前記液室内の液体の残量を検出する、請求項1~4のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項6】
液体吐出カートリッジユニットと、
前記液室から前記液体吐出カートリッジユニットへ液体を供給する液体供給チューブと、
をさらに備える請求項1~5のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項7】
液体タンクと、
記録素子基板と、サブタンクと、を有する液体吐出カートリッジユニットと、
前記液体タンクから前記サブタンクへ液体を供給する液体供給チューブと、
をさらに備え、
前記液室は、前記サブタンクの液室であり、前記液体供給チューブから供給される液体を前記記録素子基板に供給する請求項1~5のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項8】
液体タンクと、
記録素子基板と、前記液体タンクに接続されたサブタンクと、を有する液体吐出カートリッジユニットと、
をさらに備え、
前記液室は、前記サブタンクの液室であり、前記液体タンクから供給される液体を一時的に保持し、前記記録素子基板に液体を供給する請求項1~4のいずれか1項に記載の画
像記録装置。
【請求項9】
前記第1の期間に印加される電圧の印加累計時間に対する前記第2の期間に印加される電圧の印加累計時間の長さの差は、前記第1の期間に印加される信号の印加累計時間の長さの±10%以内である請求項1~4のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項10】
前記非検出期間の間に、複数の前記第2の期間を連続的に有する請求項に記載の画像記録装置。
【請求項11】
前記液体は、自己分散型カーボンブラックを用いたインクである請求項1~10のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項12】
前記検知手段が前記電流を検知する検知動作の毎に、前記第1の期間と、前記第2の期間と、を有する請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項13】
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンは、SUS304、SUS384またはSU316で形成されている、請求項1に記載の画像記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を記録媒体へ吐出して画像の記録を行う画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙等の記録媒体に対してインク等の液体を吐出して画像記録を行う手段として、液体吐出カートリッジユニットを搭載した種々の記録方式が提案されており、例えば熱転写方式、ワイヤードット方式、感熱方式、インクジェット方式等が実用化されている。中でもインクジェット方式はランニングコストが安く、記録音が抑えられる記録方式として注目され、幅広い分野で使用されている。インクジェット方式は、液体吐出カートリッジユニットが具備する記録素子基板を駆動することにより、記録素子基板の表面にノズル部材により形成されるインク吐出口からインク液滴を吐出する。このインク液滴を紙面上の所望の位置に着弾させることによって画像形成を行う画像記録方式である。インクジェット方式の多くの場合、記録素子基板を駆動する信号や電源は、液体吐出カートリッジユニットが搭載される画像記録装置から電気接続部を通じて液体吐出カートリッジユニットへ供給される。
【0003】
画像形成に用いられるインク等の液体の液体吐出カートリッジユニットへの供給形態は種々の構成が見られる。ある代表的な一形態では、液体吐出カートリッジユニットとは別体の、液体収容室を有する液体タンクを液体吐出カートリッジユニットへ直接接続することにより、液体タンク内の液体を液体吐出カートリッジユニットへ供給する。また、画像記録装置内にセットされる液体タンクから液体供給チューブを介して液体吐出カートリッジへインクを供給するチューブ供給方式も実用化されている。チューブ供給方式の場合、液体吐出カートリッジユニットにはサブタンクが設けられ、液体供給チューブより供給される液体をサブタンク内に一時的に保持し、記録素子基板へと液体供給する構成が一般的である。
【0004】
上記いずれの方式にしても、液体供給元から供給される液体は液体吐出カートリッジ内に導かれ、液体吐出カートリッジユニットの筐体内に形成される液体供給流路を通じて、記録素子基板へと導かれる。画像記録装置には供給元の液体残量を把握する機能が必要とされる。その代表的な目的は次の二点にある。一つ目の目的は、ユーザーに供給元の液体残量が少なくなった際にその旨を表示し、液体タンクの交換や液体注入などを促すことにある。また二つ目の目的は、液体が空となった状態で吐出動作を実行した場合に生じる可能性があるノズル部材の破壊などを抑制するために、分割印字などの印字制御のトリガーにすることにある。
【0005】
液体残量の検出方法としては、これまで種々の方式が提案されている。液体吐出発数から液体残量を算出するドットカウント方式や、液体収容室に光を照射し、センサで反射光レベルを取得して判定するプリズム方式、液体収容室に電極ピンを挿入し電気応答を得るピン残量検出方式などが提案されてきた。上記のうち、ピン残量検出方式は導入に伴うコストが比較的に安く、かつ検出精度が高いことから、これまで広く実施されてきている。
【0006】
一般的なピン残量検出方式では、液体収容室内に挿入した2本の電極ピンに対し、電気信号を印加し液体残量検出を行ってきた。上記のような画像記録に用いられるインク等の液体は電気を通す性質のものが大半のため、液体収容室内に液体がある場合(2本の電極ピンが液体と接触している状態)には、電極ピンに電気信号が印加されると、液体を介して電極ピン間に電流が流れる。一方、液体がない場合(2本の電極ピンが液体と非接触の
状態)には、電極ピン間に電気経路がない状態となるため、電流は流れない。このような特性を踏まえ、電極ピン間に電気信号を与え、電気的な応答を得ることで液体の有無を判定する構成が採用されてきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-223830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の構成においては、以下のような問題を生じる可能性がある。
【0009】
電極ピンの材料には、金属のSUS材などが主に用いられるが、2本の電極ピンの一方を陽極側、他方を陰極側とし、電極ピン間に液体が介在する状態で一方向に電流を流す動作を繰り返すと、電極ピンの表面には金属の酸化・還元反応が生じることがある。すなわち、陽極側の電極ピン表面は酸化が進行し、陰極側の電極ピン表面は還元が進行していく。上記反応が進んでいくと、陽極側の電極ピンが酸化した影響により電気抵抗が増すため、液体がある状態にも関わらず電極ピン間に流れる電流値が減少していってしまう。その場合には、液体がある場合の応答と、液体がない場合の応答の差分が少なくなり、液体残量の検出精度が低下してしまう懸念がある。
【0010】
液体残量の検出精度が低下すると、あるケースでは、液体がある状態にも関わらずユーザーに液体タンクの交換を促したり、分割印字モードとなり印字速度の低下を招いてしまったりする可能性がある。また別のケースでは、液体がない状態にも関わらず、その旨の表示がされずに空吐印字し、ノズル部材の破壊に至ってしまう可能性がある。
【0011】
このように、液体残量の検出精度の低下は、ユーザビリティや信頼性の観点より好ましくない。
【0012】
本発明の目的は、液体の残量の検出精度を向上させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の画像記録装置は、
画像の記録に用いる液体を貯蔵する液室と、
前記液室内に挿入される第1の電極ピン及び第2の電極ピンと、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する印加手段と、
前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に流れる電流を検知する検知手段と、を備える画像記録装置において、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陽極側、前記第2の電極ピンを陰極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加し、前記検知手段が前記電流を検知する第1の期間と、
前記印加手段が、前記第1の電極ピンを陰極側、前記第2の電極ピンを陽極側として前記第1の電極ピンと前記第2の電極ピンとの間に電圧を印加する第2の期間と、
を有し、
前記第1の期間に印加される電圧の印加累計時間よりも、前記第2の期間に印加される電圧の印加累計時間の方が長いことを特徴とする
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体の残量の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る画像記録装置の装置構成例を示す模式図
図2】液体吐出カートリッジユニットの構成説明図
図3】本発明の実施形態のインク残量の検出システムの回路構成図
図4】インク残量検出の入力信号および出力信号の例を示す図
図5】第1の電極ピン(陽極側)が酸化後の出力信号の例を示す図
図6】インク残量検出の信号形態例(従来例、実施例1)を示す図
図7】インク残量検出の信号形態例(実施例2、3、4)を示す図
図8】インク残量検出の信号形態例(実施例5、6、7)を示す図
図9】インク残量検出の信号形態例(変形例1、2)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0017】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る画像記録装置1および液体吐出カートリッジユニット2の簡易模式図である。図1(a)と図1(b)は、それぞれ液体吐出カートリッジユニット2への液体供給方式が異なる画像記録装置1を示している。本発明はそれぞれの構成に対して好適に適用し得る。図1(a)は、いわゆるオンキャリッジインクタンク方式の構成である。すなわち、画像記録に使用される液体としてのインクを収容した液体タンクとしてのインクタンク3を、インク吐出機能を有する液体吐出カートリッジユニット2に直接接続し、インク供給を行うものである。一方、図1(b)は、いわゆるチューブ供給方式の構成である。すなわち、画像記録装置内に配置されるインクタンク3から液体供給チューブとしてのインク供給チューブ4を介して液体吐出カートリッジユニット2へ液体としてのインクを供給するものである。
【0018】
図1に示すいずれの方式においても、液体吐出カートリッジユニット2へのインク供給が途切れる場合に検出する機能が必要となる。インク残量検出の主な目的は、次の2つにある。第一に、インクタンク3内のインクが空となった旨をユーザーに表示し、インクタンク3の交換、もしくはインクのリフィルを促すために用いられる。第二に、液体吐出カートリッジユニット2にインクがない状態で吐出動作されることを事前に検知し、印字停止や分割印字などの印字制御のトリガーとすることで、空吐時に生じえるノズル部材の破壊などを抑制するために用いられる。特に、図1(b)に示すようなチューブ供給方式の
構成においては、インクタンク3にはインクが残っていても、長期間の放置などによりインク供給チューブ4を透過してインク供給路内に空気が入り込んでしまう場合がある。この場合に発生する空吐も検知するために、本実施形態では液体吐出カートリッジユニット2内にインク残量を検出する構成を設けている。
【0019】
図2に、内部にインク残量検出機能を有する液体吐出カートリッジユニット2の詳細構成を示す。図2(a)は、液体吐出カートリッジユニットの斜視図、図2(b)は、液体吐出カートリッジユニットの横断面図である。
【0020】
液体吐出カートリッジユニット2は、ヘッドユニット5とサブタンク6が結合されたユニットである。インクタンク3もしくはインク供給チューブ4より供給されるインクは、インク色数分それぞれ独立してサブタンク6に設けられるジョイント部7より液体吐出カートリッジユニット2内に流入される。サブタンク6にはサブタンク液室8が形成されており、供給されるインクを一時的に保持、貯蔵され、その後ヘッドユニット5の筐体内に形成されるインク供給流路を通じて記録素子基板9へと導かれる。
【0021】
各サブタンク液室8内には、内部のインク有無を検出するため、それぞれ2本の電極ピン10が刺入される。なお、図2(b)では電極ピン10が1本のみ示されているが、これは紙面垂直方向に2本が並んでおり、一方の電極ピン10が他方の電極ピン10の後ろに隠れた状態となっている。電極ピン10の材料は、コスト面・加工性を踏まえて本実施形態ではステンレス鋼のうちSUS304とするが、その他金属材料であってもよい。刺入される電極ピン10は、サブタンク液室8内に突出する一端とは反対側の端において、電気接続部材11と接点を取り、電気接続部材11を介して画像記録装置1は電気的に接続される。
【0022】
図3に、電極ピン10によりインク残量を検出するシステム構成を簡易的に示す。残量検出を行う信号は、画像記録装置1の装置本体側の入力ポート14aより入力される。入力された信号は、残量検出するインク数だけ分岐され、各々検出抵抗15を介して液体吐出カートリッジユニット2の各サブタンク液室8内に設けられる陽極側の電極ピン10aの陽極側と接続される。また各サブタンク液室8に設けられる陰極側の電極ピン10bは、液体吐出カートリッジユニット2内でショートされ、画像記録装置1のGND端子と接続される。一方、残量検出の出力ポート14bは、検出抵抗15と陽極側の電極ピン10aの間に接続され、検出を行うインク色数分だけ設けられる。
【0023】
上述の構成は、すなわち検出抵抗15とインクの電気抵抗Rの分圧比を出力として、画像記録装置1の電流検知部16が検出し、画像記録装置1の動作を制御する制御部18に送信するものである。制御部18は、電圧印加手段として、画像記録装置1が接続された商用電力17を電力供給源とする電源回路を制御し、電気信号として電極ピン10a、10b間に印加させる電圧の大きさ、極性を任意に制御することができる。制御部18は、かかる電源回路に接続された電流検知手段としての電流検知部16が検知する電流値により電極ピン10a、10b間の電圧を取得し、その大きさにより各サブタンク液室8内のインク残量を検出することができる。以上の構成が、本実施形態の画像記録装置1における液体残量検出機構をなす。
【0024】
サブタンク液室8内にインクが存在しない場合、陽極・陰極の電極ピン10a、10b間は電気的にはオープンな状態となるため、液体吐出カートリッジユニット2側には電流は流れない。そのため、出力ポート14bにて入力信号に近い電圧が検出される。一方、サブタンク液室8内にインクが存在する場合、陽極・陰極の電極ピン10a、10bはインクを介して電気的に接続されるため、液体吐出カートリッジユニット2側にも電流が流れることとなる。そのため、出力ポート14bで検出される信号は、入力信号に対して低
い電圧レベルの出力となる。
【0025】
図4に、上述の出力レベルについて、従来の検出システムの例に示す。従来より採用されてきた残量検出構成においては、入力ポート14aより入力される検出信号には、図4(a)に示すように、2発の3.3Vの矩形パルスを用いている。出力ポート14b側では、2発目のパルスの入力直前の出力「Val(Min)」と、2発目のパルスの立ち下げ直前の出力「Val(Max)」を取得し、残量検出出力(Output Val)=「Val(Max)-Val(Min)」として検出を行う。インクがある場合には、図4(b)に示すように残量検出出力は一例では0.2V~0.6V程度と低い出力になるのに対し、インクがない場合には、図4(c)に示すように2.0V~3.3V程度の出力となる。
【0026】
図4(d)は、サブタンク液室8の模式的断面図、図4(e)は、サブタンク液室8内のインク残量と残量検出出力の推移について図示する。インクが電極ピン10に接触する水位の中でインクが消費されていくと(水位h(A)→h(B)→h(C))、残量検出出力はa1→b1→c1となだらかな勾配を持って変化していく。そしてインク水位が電極ピン10を離れると、出力変化の勾配は大きくなる。残量検出においては、インク水位h(C)とh(Emp)の間の出力値、すなわちc1~V_Empの間に検出の閾値Vthを設ける方法が一般的である。そうすることにより、インク液面が電極ピン10の先端を下回ってから空になるまでの間に検出することが可能となる。
【0027】
インク残量に対する残量検出出力値が不変であれば、上述の通りに閾値を設定すれば精度よく検出することは可能である。ただし、電極ピン10a、10bにSUS材(SUS304)などの金属材料を用い、インクを介して電極ピン10a、10b間に一方向に電流を流す動作を繰り返していくと、電極ピン10a、10bの表面には金属の酸化・還元反応が生じることがある。酸化・還元反応とはすなわち、陽極側の電極ピン10a表面は酸化が進行し、陰極側の電極ピン10b表面は還元が進行していく現象である。このような反応が進んでいくと、陽極側の電極ピン10aが酸化した影響により電気抵抗が増すため、インクがある状態にも関わらず電極ピン10a、10b間に流れる電流値が減少し、残量検出出力が上昇していってしまう。
【0028】
図5(a)に、陽極側の電極ピン10aが酸化した状態のサブタンク液室8の模式的断面図を示し、図5(b)に、初期=酸化・還元前(ini)状態と電極ピン10の酸化・還元後(used)の出力の変化を示す。初期(ini)状態ではインク液面がピン先端h(C)~空h(Emp)の間の残量検出出力、c1~V_Empの間に検出閾値を設定すれば所望の残量での残量検出が可能であった。それが電流印加の累積により陽極側の電極ピン10aに酸化が生じると、出力値が大幅に上昇し、検出閾値を一定に設定する場合に、狙った残量よりも早く(インクがピンに十分に浸漬された状態で)検出してしまうことがあり得る。早期に検出してしまうと、まだ十分にインクが残っているにも関わらずユーザーにインクタンク3の交換を促してしまったり、頻繁に印字速度を低下させてしまったりと、弊害を生じることになる。電極ピン10に与えたパルスの回数に応じて検出閾値を変動させることも可能であるが、電極ピン10の個体差により酸化による出力変動分のバラツキを有するため、高い検出精度を得ることが難しくなる。
【0029】
以上の状況を踏まえ、本実施形態の特徴部分でもある、一方向の電流印加に伴う電極ピン10の酸化・還元現象を防ぎ、残量検出出力の変動を抑制する構成について、図6を用いて説明する。
【0030】
図6(a)に示すのが、従来より採用されてきた残量検出の信号形態である。インク検出のステータスとしては、「検出期間」と「非検出期間」に大別される。検出期間とは、
例えば、液体吐出カートリッジユニット2がキャップされるような待機状態でなく、印字動作等を行う状態にあり、インク残量を検出する所定の期間を示す。一方、非検出期間は、例えば液体吐出カートリッジユニット2がキャップされるような待機状態にあり、インク残量の検出動作を行わない所定の期間を示す。検出期間中においては、上述の通り残量検出用パルス12として2発の矩形パルスが、検出間隔を置いて連続的に印加される。一方、非検出期間においては、信号は印加されず0Vレベルを維持するものであった。
【0031】
それに対し、本発明の実施例1における信号形態を図6(b)に示す。本実施例では、検出期間中において、従来例と同様の3.3Vの残量検出用パルス12を印加する期間である「第1の期間」と、残量検出用パルス12の電位を反転させた信号=還元用パルス13を印加する期間である「第2の期間」を設ける。還元用パルス13を印加することで、第1の期間中に残量検出用パルス12の印加で酸化した陽極側の電極ピン10aに対し、第2の期間中に還元作用を加えて、酸化をキャンセルし、残量検出出力の上昇を抑制することが可能となる。本方式では、1回の残量検出毎に陽極側電極ピン10aの酸化を還元することが可能となるため、より安定的で高精度な残量検出を行うことができる。
【0032】
本実施例では、第1の期間における電圧信号の印加累積時間と、第2の期間における電圧信号の印加累積時間は、ほぼ同じ長さと、印加信号の電圧値の絶対値も略同じ値(略同じ電圧レベル)としている。例えば、第1の期間の印加累積時間に対する第2の期間の印加累積時間の差は、第1の期間の印加累積時間の長さの±10%以内となるように制御している。
【0033】
検出対象であるインクについては、様々な種類のものがあり得るが、画像性能や材料コスト面等を考慮し、本実施例では自己分散型顔料のうち、カルボン酸型の自己分散型カーボンブラックを用いたインクを採用するものとする。上記インクにおいては、残量検出用パルス12の印加で、電極ピン10aの酸化現象により出力が上昇し、還元用パルス13を印加することでそれが抑制できることが確認されていて、本発明の実施効果が得られる。ただし、その他インクの場合においても酸化現象は生じるため、効果を得ることはできる。
【0034】
以上の通り、本実施形態によれば、残量検出期間中に印加した信号により第1の電極ピン(陽極側)の表面に酸化が生じた場合にも、非残量検出期間中に極性を反転した信号を印加することで還元作用を生じさせ、電極ピンの酸化進行を抑制することができる。特に、電極ピン10に酸化作用の生じやすい金属材料(SUS304、SUS384、SUS316等)を採用し、酸化作用を生じやすいインクを採用した場合にも、電極ピンの酸化を抑制することができる。すなわち、電極ピン表面の電気抵抗の上昇を抑制でき、インクがある状態での電極ピン間に流れる電流値を一定に保つことが可能となる。そのため、安定したより高い検出精度をえられ、したがって、高精度にインク残量検出を実施することができる。
【0035】
チューブ供給方式のインク供給を行う形態においては、長期放置により空気がチューブを透過して入り込んだり、供給経路内にイレギュラーに空気が内在し、吐出に影響が生じる場合があり得る。そういった印字への影響を検知し空吐出を抑制するためにも、インク残量検出を高精度に行うことができる本実施形態の構成は有効である。
【0036】
本実施形態では、液体吐出カートリッジユニット2内のインク残量検出に適用したが、インクタンク3内や、その他インク供給経路内のインク有無検出にも適用可能である。
【0037】
本実施形態とは逆に、第2の電極ピン10bを陽極側とし第1の電極ピン10aを陰極側として残量検出を行い、極性を入れ替えて、第2の電極ピン10bを陰極側とし第1の
電極ピン10aを陽極側として還元印加を行う構成としてもよい。
【0038】
本実施形態では、電極ピンが液室内に上方から鉛直方向下方に向かって挿入される構成としているが、挿入方向は限定されない。また、電極ピンの本数も、2本に限定されるものではない。例えば、1本の陰極ピンに対して複数の陽極ピンを配置して検出することも可能であり、3本以上の電極ピンを用いて、液体に対する侵入深さをそれぞれ異ならせたり、液室内における検出位置を複数取ることで検出精度を高めるように構成してもよい。
【0039】
(第二の実施形態)
図7図8は、本発明の第二の実施形態による残量検出の信号形態例を示している。ここでは、第二の実施形態において第一の実施形態と異なる点のみ説明する。以下の残量検出の信号形態の目的は、第一の実施形態で記述したものと同じく、残量検出用パルス12の印加により生じる陽極側の電極ピン10aの酸化を抑制し、残量検出出力の変動を抑制することにある。
【0040】
図7(a)に示す実施例2では、残量検出期間中において残量検出用パルス12よりも多い発数の還元用パルス13を印加することを特徴としている。すなわち、第1の期間に印加される電圧信号の印加累計時間よりも、第2の期間に印加される電圧信号の印加累計時間の方が長い。本実施例では、検出用パルス12の2発に対し、3倍の発数である6発の還元用パルス13を印加している。電極ピン10の材料やインクの物性によっては、酸化と還元の反応速度が異なる場合があり得る。そこで、残量検出用パルス12の発数に対し、還元用パルス13の発数を調整可能にすることにより、電極ピン10やインクにより異なる酸化の進行度に対し、残量検出出力を一定に保つことができる条件を採用できる。
【0041】
図7(b)に示す実施例3のように、還元用パルス13にDC的なパルス幅の長い信号を採用しても良い。すなわち、第1の期間に印加される電圧信号のパルス幅よりも、第2の期間に印加される電圧信号のパルス幅が長い。直流的な電流で還元を進めることで、より短い期間で還元制御を完了させることができる場合があり得る。
【0042】
図7(c)に示す実施例4のように、還元用パルス13には残量検出用パルス12と異なる電圧レベルの信号を与えても良い。すなわち、第1の期間に印加される電圧信号の絶対値よりも、第2の期間に印加される電圧信号の絶対値の方が大きい。残量検出用パルス12の電圧よりも高電位の還元用パルス13を与えて、より還元時に高電流が流れることで、より短い期間で還元制御を完了させることができる場合があり得る。本実施例では、画像記録装置の他の駆動に使用される電圧6Vを電位反転させ印加する方式を採用しているが、他の電位(例えば24Vなど)を印加してもよい。
【0043】
図8(a)に示す実施例5では、インク残量の検出期間中には、従来例と同じく残量検出用パルス12のみを印加し、非検出期間において、還元用パルス13を連続的に印加するものである。この方式は、検出期間内において、より高頻度に残量検出を実施する場合に有効である。高頻度に残量検出を実施する場合、検出の度に還元用パルス13を入れることが難しくなってくる。そのため、検出期間中には還元用パルス13を印加せず、非検出期間において還元用パルス13のみを連続的に印加する。なお、検出期間において残量検出用パルス12を連続的に印加してもよい。
【0044】
図8(b)に示す実施例6のように、図8(a)の方式に対して,還元用パルス13にDC的なパルス幅の長い信号を採用しても良い。
【0045】
図8(c)に示す実施例7のように、図8(a)の方式に対して,還元用パルス13に残量検出用パルス12と異なる電圧レベルの信号を与えても良い。
【0046】
以上の各実施例のように、採用する電極ピン10やインク処方、検出間隔など様々な制約に応じて、適切な還元用パルス13を適用すれば良い。
【0047】
(変形例)
図9は、本実施形態の変形例よる残量検出の信号形態例を示している。ここでは、変形例において第一、第二の実施形態と異なる点のみ説明する。変形例においてここで説明しない事項は、上記各実施形態と同様である。
【0048】
上記実施形態では、第1の電極ピン10aを陽極側とし第2の電極ピン10bを陰極側として残量検出を行う構成としているが、極性を逆にして残量検出を行うことも可能である。本変形例では、第2の電極ピン10bを陽極側とし第1の電極ピン10aを陰極側として残量検出を行う第3の期間と、第1の電極ピン10aを陽極側とし第2の電極ピン10bを陰極側として還元印加を行い、残量検出は行わない第4の期間と、を設ける。
【0049】
図9(a)に示す変形例1では、第1の期間として、電極ピン10aを陽極側、電極ピン10bを陰極側として残量検出用パルス12aを印加し、第3の期間として、電極ピン10bを陽極側、電極ピン10aを陰極側として残量検出用パルス13aを印加する。これにより、第3の期間において、第1の期間の電圧印加による酸化を還元しつつ、インク残量の検出を行うことが可能となる。第1の期間と第3の期間の順番は逆でもよいし、パルスの数や幅、レベルはそれぞれ異なっていてもよいし、上記実施形態と同様、酸化と還元のバランスをとるため、還元用パルスを印加する第2の期間を設けてもよい。
【0050】
図9(b)に示す変形例2では、電極ピンの極性の組合わせを変えた還元用の第2の期間と第4の期間を組み合わせた制御を行う。すなわち、第1の期間のあと、第3の期間において第1の期間のときよりもパルスの数を増やした残量検出用パルス13aを印加し、その後、第3の期間に対応した還元用パルス12bを印加する第4の期間を設けている。この第4の期間の還元用パルス12bにより、第3の期間の残量検出用パルス13aによる酸化を還元する。また、第4の期間のあとに、第1の期間の残量検出用パルス12aによる酸化を還元するための還元用パルス13bを印加する第2の期間を設けている。
【0051】
以上の変形例によれば、残検用のパルスの印加回数を多く行わなければならないような場合に、酸化の進行を効果的に抑制しながら、残量検出を行うことができる。また、還元用の信号印加の回数を減らす、あるいは無くすことができるので、装置寿命が引き延ばされることも期待できる。
【符号の説明】
【0052】
1…画像記録装置、2…液体吐出カートリッジユニット、3…インクタンク、4…インク供給チューブ、5…ヘッドユニット、6…サブタンク、7…ジョイント部、8…サブタンク液室、9…記録素子基板、10…電極ピン、11…電気接続部材、12…残量検出用パルス、13…還元用パルス
図1
図2
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図4
図5
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図7
図8
図9