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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/14 605
B41J2/14 501
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020108951
(22)【出願日】2020-06-24
(65)【公開番号】P2022006613
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】大塚 学
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-144917(JP,A)
【文献】特開2003-011356(JP,A)
【文献】特開2015-150687(JP,A)
【文献】特開2015-186901(JP,A)
【文献】特開2015-168208(JP,A)
【文献】特開2007-313761(JP,A)
【文献】特開2006-095725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口に連通する流路を有する流路形成部材と、前記複数の吐出口が形成された吐出口面を有し、前記吐出口面と反対側の面で前記流路形成部材に設けられた吐出口形成部材と、前記流路形成部材の前記吐出口形成部材が設けられた面に設けられ、前記流路内の液体の圧力を調整する圧力調整部と、を有する液体吐出ヘッドであって、
前記圧力調整部が、前記流路形成部材に形成された開口を閉塞して前記流路の一部を画定する可撓性のフィルムと、前記フィルムの前記流路形成部材に対向する面と反対側の面に当接して前記フィルムを覆うように設けられた蓋部材とを有し、
前記蓋部材が、前記フィルムに対向する面に設けられ、前記複数の吐出口の配列方向に沿って配列され、前記フィルムとの間に平面視で前記配列方向に複数に分割された形状の空間を形成する複数の凹部を有する、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記蓋部材が、前記空間を外部に連通させる連通部を有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記連通部が、前記蓋部材の前記フィルムに対向する面に形成され、前記複数の凹部を前記配列方向に横切って延びる連通溝を有する、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記連通溝は、前記蓋部材の側面に開口している、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記連通溝は、前記蓋部材の側面に開口しておらず、前記連通部が、前記連通溝を前記蓋部材の外部に連通させる連通孔をさらに有する、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記連通部は、前記蓋部材の前記フィルムに対向する面に形成され、前記複数の凹部から前記配列方向と交差する方向に個別に延び、前記蓋部材の側面に開口する複数の連通溝である、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
液体を吐出する複数の吐出口に連通する流路を有する流路形成部材と、前記複数の吐出口が形成された吐出口面を有し、前記吐出口面と反対側の面で前記流路形成部材に設けられた吐出口形成部材と、前記流路形成部材の前記吐出口形成部材が設けられた面に設けられ、前記流路内の液体の圧力を調整する圧力調整部と、を有する液体吐出ヘッドであって、
前記圧力調整部が、前記流路形成部材に形成された開口を閉塞して前記流路の一部を画定する可撓性のフィルムと、前記フィルムの前記流路形成部材に対向する面と反対側の面に当接して前記フィルムを覆うように設けられた蓋部材とを有し、
前記蓋部材が、前記フィルムに対向する面に設けられ、前記フィルムとの間に空間を形成する凹部と、前記凹部の底面に形成された梁状の凸部とを有する、液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記凸部は、前記凹部の深さ以下の高さを有し、かつ先端が前記フィルムに固定されていない、請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記蓋部材が、前記空間を外部に連通させる連通部を有する、請求項7または8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記凹部の底面に凹凸が形成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記凹凸の表面粗さRzは0.8μm以上である、請求項10に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記蓋部材は、前記フィルムに対向する面と反対側の面に撥水処理が施されている、請求項1から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクなどの液体を吐出して記録媒体に画像を記録する液体吐出ヘッドとして、圧電素子により圧力室内の液体に圧力変化を生じさせることで、圧力室に連通する吐出口から液体を吐出するピエゾ方式の液体吐出ヘッドが知られている。特許文献1には、圧力室に連通する流路内の液体の圧力を調整する圧力調整部を備えた液体吐出ヘッドが記載されている。この圧力調整部は、可撓性のフィルムと、固定板と、蓋部材とを有し、これらは流路形成部材にこの順に設けられている。フィルムは、流路形成部材に形成された開口を閉塞して流路の一部を画定し、固定板と蓋部材は、固定板に形成された孔部を蓋部材が閉塞することで、フィルムの変形を許容する空間を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-34518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の液体吐出ヘッドでは、圧力調整部は、流路形成部材の吐出口形成部材が設けられた面に設けられており、吐出口形成部材の吐出口面(吐出口が形成された面)よりも記録媒体の側に突出している。したがって、その分だけ吐出口面と記録媒体との距離を遠ざける必要があり、記録媒体に対する液滴の着弾精度が悪化する懸念がある。また、吐出口形成部材と蓋部材との間に形成される段差が大きくなると、吐出口面に付着した液体を除去するためにワイピング動作を実施する際に段差部分に拭き残りが発生し、液体の吐出不良が発生する懸念もある。
そこで、本発明の目的は、液滴の着弾精度の悪化と液体の吐出不良の発生とを抑制して高品位な画像を記録する液体吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する複数の吐出口に連通する流路を有する流路形成部材と、複数の吐出口が形成された吐出口面を有し、吐出口面と反対側の面で流路形成部材に設けられた吐出口形成部材と、流路形成部材の吐出口形成部材が設けられた面に設けられ、流路内の液体の圧力を調整する圧力調整部と、を有し、圧力調整部が、流路形成部材に形成された開口を閉塞して流路の一部を画定する可撓性のフィルムと、フィルムの流路形成部材に対向する面と反対側の面に当接してフィルムを覆うように設けられた蓋部材とを有している。一態様では、蓋部材が、フィルムに対向する面に設けられ、複数の吐出口の配列方向に沿って配列され、フィルムとの間に平面視で配列方向に複数に分割された形状の空間を形成する複数の凹部を有している。他の態様では、蓋部材が、フィルムに対向する面に設けられ、フィルムとの間に空間を形成する凹部と、凹部の底面に形成された梁状の凸部とを有している。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、液滴の着弾精度の悪化と液体の吐出不良の発生とを抑制して高品位な画像を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
図2】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの断面図である。
図3】第1の実施形態に係る蓋部材のいくつか構成例を示す平面図である。
図4】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの変形例を示す断面図である。
図5】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
図6】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの断面図である。
図7】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの変形例を示す断面図である。
図8】第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの一構成例を示す断面図である。
図9】第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの他の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本明細書では、1つのヘッドチップ(後述する保護基板から吐出口基板までの積層体を含むヘッド本体部分)で液体吐出ヘッドが構成される場合を例示するが、本発明はこれに限定されず、複数のヘッドチップを組み合わせた場合にも適用可能である。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図であり、図2は液体吐出ヘッドの断面図である。
液体吐出ヘッド30は、複数の吐出口13からインクなどの液体を吐出して記録媒体に画像を記録するものである。液体吐出ヘッド30は、支持基板1と、保護基板4と、圧力室基板2と、流路基板(流路形成部材)3と、吐出口基板(吐出口形成部材)6と、フィルム5と、蓋部材7とを有し、これらは、接着剤などにより互いに接合されて固定されている。
【0010】
支持基板1は、一方の面に凹部14を有し、凹部14内に保護基板4と圧力室基板2が収容されている。これにより、支持基板1は、保護基板4および圧力室基板2との間に、複数の吐出口13から吐出される液体を供給する共通流路の一部である第1のマニホールド部21を形成する。また、支持基板1には、第1のマニホールド部21に連通する液体導入路12と、配線基板8を受け入れる貫通孔9とが形成されている。支持基板1は、例えば樹脂材料の射出成形体で形成されている。
圧力室基板2には、複数の吐出口13の配列方向(X方向)に沿って配列された複数の圧力室16が形成されている。圧力室基板2の材料としては、ステンレス鋼やニッケルなどの金属、アルミナやジルコニウム、ガラスのような酸化物などを用いることもできる。また、圧力室基板2として、異方性エッチングにより圧力室16を形成することができるシリコン基板を用いることもできる。
【0011】
保護基板4と圧力室基板2との間には、振動板18が設けられている。振動板18は、弾性膜と絶縁膜とから構成され、弾性膜としてはシリコン酸化膜を用いることができ、絶縁膜としてはジルコニウム酸化膜などを用いることができる。振動板18の保護基板4に対向する面には、第1の電極と圧電体層と第2の電極とがこの順に積層された圧電素子17が形成されている。保護基板4は、この圧電素子17を保護するために設けられ、振動板18との間に、圧電素子17を収容する空間である収容部19を形成する。保護基板4は、例えばシリコン基板からなる。
圧電素子17の2つの電極のうち一方の電極は共通電極として機能し、他方の電極は、圧電体層と共に圧力室16ごとにパターニングされることで個別電極として機能する。圧電素子17の電極は配線基板8に接続され、この配線基板8を通じて圧電素子17ごとに駆動電力と駆動信号が供給される。また、保護基板4には、支持基板1に形成された貫通孔9と共に配線基板8を受け入れる貫通孔11が形成されている。
【0012】
流路基板3には、圧力室16と吐出口13とを連通する貫通孔からなる連通流路29と、その反対側で圧力室16に連通する貫通孔からなる個別流路28とが形成されている。連通流路29と個別流路28は、それぞれ圧力室16ごとに複数設けられている。さらに、流路基板3には、第1のマニホールド部21に連通する貫通孔からなる第2のマニホールド部22と、第2のマニホールド部22に連通する凹部からなる第3のマニホールド部23とが形成されている。第2のマニホールド部22と第3のマニホールド部23は、それぞれ複数の吐出口13にわたって連続的に設けられている。第2のマニホールド部22は、第1のマニホールド部21と共に共通流路を構成し、第3のマニホールド部23は、共通流路21,22と複数の個別流路28とを連通する絞り流路として機能する。
流路基板3の材料としては、ステンレス鋼やニッケルなどの金属、アルミナやジルコニウム、ガラスのような酸化物などを用いることができる。また、流路基板3として、異方性エッチングにより流路29,28やマニホールド部21,22を形成することができるシリコン基板を用いることもできる。ただし、流路基板3と圧力室基板2との線膨張係数が大きく異なると、加熱や冷却などの温度変化によって、反りやクラック、剥離などが発生しやすくなる。そのため、流路基板3の材料は、圧力室基板2の材料と線膨張係数が同等のものであることが好ましい。
【0013】
吐出口基板6には、液体を吐出する複数の吐出口13が形成されている。複数の吐出口13は、上述したようにX方向に沿って配列され、それと交差するY方向に並列する2つの吐出口列を形成する。吐出口基板6は、複数の吐出口13が形成された吐出口面6aと反対側の面で流路基板3に接合されている。
吐出口基板6の材料としては、ステンレス鋼やニッケルなどの金属、アルミナやジルコニウム、ガラスのような酸化物などを用いることができる。また、吐出口基板6として、異方性エッチングにより吐出口13を形成することができるシリコン基板を用いることもできる。ただし、吐出口基板6と流路基板3との線膨張係数が大きく異なると、加熱や冷却などの温度変化によって、反りやクラック、剥離などが発生しやすくなる。そのため、吐出口基板6の材料は、流路基板3の材料と線膨張係数が同等のものであることが好ましい。
【0014】
フィルム5と蓋部材7は、流路基板3の吐出口基板6が設けられた面に設けられ、第2および第3のマニホールド部(流路)22,23内の液体の圧力を調整する圧力調整部15として機能する。
フィルム5は、可撓性を有し、流路基板3に形成された貫通孔および凹部の開口を閉塞して流路22,23の一部を画定するものである。フィルム5が撓み変形することにより、流路22,23内の液体の圧力変動を吸収することができる。フィルム5としては、例えば、厚さ20μm以下の芳香族ポリアミドやポリフェニレンサルファイドなどからなるものを用いることができるが、吐出される液体に対して耐性を有するものであれば、これに限定されるものではない。
【0015】
蓋部材7は、フィルム5の流路基板3に対向する面と反対側の面、すなわち、記録媒体に対向する面にフィルム5を覆うように接合され、吐出口基板6を露出させる開口部10を有している。加えて、蓋部材7のフィルム5に対向する面には、フィルム5との間に空間27を形成する凹部26が設けられている。蓋部材7により、フィルム5が用紙などの記録媒体に接触して破壊されるのが抑制されるとともに、フィルム5との間に形成される空間27により、フィルム5の撓み変形が許容される。
蓋部材7の材料としては、ステンレス鋼やニッケルなどの金属、アルミナやジルコニウム、ガラスのような酸化物などを用いることができる。また、蓋部材7として、異方性エッチングにより凹部26を形成することができるシリコン基板を用いることもできる。なお、蓋部材7の材料は、吐出口基板6と同様、温度変化による反りなどの発生を抑制するために、流路基板3の材料と線膨張係数が同等のものであることが好ましい。また、蓋部材7の記録媒体に対向する面には撥水処理が施されていることが好ましい。これにより、蓋部材7の記録媒体に対向する面をワイパーブレードで払拭するワイピング動作を行うことができ、その面に付着した液体で記録媒体が汚れることを抑制することができる。
【0016】
このように構成された液体吐出ヘッド30では、共通流路21,22に供給された液体は、絞り流路23を通り、複数の個別流路28を介して複数の圧力室16に供給される。そして、圧力室16に対応する圧電素子17に電圧を印加し、圧電素子17と共に振動板18を変形させて圧力室16内に圧力変化を生じさせることで、圧力室16内の液体は、連通流路29を通じて吐出口13から吐出される。このとき、流路22,23内の液体にも圧力変動が生じるが、そのような圧力変動はフィルム5が撓み変形することにより吸収され、液体の吐出特性に悪影響を及ぼすことが抑制される。
【0017】
本実施形態では、流路22,23内の液体の圧力を調整する圧力調整部15として、フィルム5の記録媒体に対向する面には、フィルム5との間に空間27を形成する凹部26を有する蓋部材7のみが設けられている。すなわち、フィルム5と蓋部材7の凹部26の上面とが接合されている。これにより、圧力調整部15の蓋部材7が吐出口基板6の吐出口面6aから記録媒体の側に突出することを最小限に抑え、吐出口基板6と蓋部材7との間に形成される段差を小さくすることができる。その結果、吐出口面6aと記録媒体の距離を近づけることができる。また、吐出口面6aのワイピング動作を実施する際にも、吐出口基板6と蓋部材7との段差部分に拭き残りが発生することを抑制することができる。その結果、記録媒体に対する液滴の着弾精度の向上と液体の吐出不良の抑制とが可能になり、高品位な画像を記録することが可能になる。
【0018】
蓋部材7の凹部26とフィルム5とにより形成される空間27は、流路22,23内の液体の圧力変動に応じてフィルム5を撓み変形させるために、液体吐出ヘッド30の外部に連通して大気開放されていることが好ましい。図3(a)から図3(c)は、それぞれ蓋部材のフィルムに対向する面を示す平面図であり、フィルムと蓋部材との間の空間を外部に連通させる連通部のいくつかの構成例を示す図である。
【0019】
図3(a)に示す構成例では、連通部として、凹部26に連通する連通溝34と、連通溝34を外部に連通させる連通孔33とが設けられている。本実施形態では、凹部26は、吐出口13の配列方向(X方向)に分割された複数の小凹部26aから構成されているが、連通溝34は、複数の小凹部26aをX方向に横切って延び、連通孔33は、連通溝34の延在方向(X方向)の両端に形成されている。一方、図3(b)に示す構成例では、連通孔33が設けられていない代わりに、連通溝34が蓋部材7の端部まで延びて両側面に開口している。このように、図3(a)および図3(b)に示す構成例では、複数の小凹部26aをまとめて外部に連通させているが、その代わりに、複数の小凹部26aを個別に外部に連通させてもよい。すなわち、図3(c)に示すように、複数の小凹部26aからY方向に個別に延び、蓋部材7の側面に開口する複数の連通溝34を設けてもよい。
なお、図3(a)に示す構成例では、連通孔33は、その形状や位置に特に制限はなく、例えば、流路基板3や圧力室基板2などに形成された溝や貫通孔などからなる大気開放路(図示せず)を介して、液体吐出ヘッド30の外部に連通していてもよい。ただし、液体吐出ヘッド30の外部に開口する大気開放口に接着剤や液体が付着すると、大気開放路が閉塞したり、接着剤や液体が空間27に侵入したりするなどの不具合が生じる懸念がある。そのため、連通孔33に連通する大気開放路は、接着剤や液体が付着しにくい面に開口形していることが好ましい。
【0020】
図4は、本実施形態の蓋部材の変形例を示す断面図である。
蓋部材7には凹部26が形成されているため、その領域の厚さが薄くなり、強度の低下が懸念される。そのため、蓋部材7の凹部26の底面には、図4に示すように、強度を高めるための梁状の凸部35が形成されていてもよい。凸部35は、蓋部材7の凹部26の深さ以下の高さを有し、かつ先端がフィルム5と接触してもよいが固定されていないことが好ましい。これは、凸部35の高さが凹部26の深さよりも大きくなると、フィルム5にテンションがかかってしまい、フィルム5の撓み変形が制限され、液体の圧力変動を吸収する機能が低下してしまうためである。また、凸部35がフィルム5に固定されると、同様にフィルム5の撓み変形が制限され、液体の圧力変動を吸収する機能が低下してしまうためである。
【0021】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図であり、図6は、液体吐出ヘッドの断面図である。以下、第1の実施形態と同様の構成については、図面に同じ符号を付してその説明を省略し、第1の実施形態と異なる構成のみ説明する。
【0022】
本実施形態は、圧力調整部15の構成が第1の実施形態と異なっており、具体的には、フィルム5と蓋部材7との間に固定板31が設けられている点で第1の実施形態と異なっている。固定板31には、吐出口基板6を露出させる開口部32と、蓋部材7の凹部26に対向する位置に凹部26と共に空間27を形成する孔部33とが形成されている。なお、固定板31とフィルム5の貼り付けは、固定板31に対する機械加工や化学エッチングによる加工等の後に行ってもよく、固定板31とフィルム5を貼り付けた後に化学エッチングにより固定板31を選択的に加工してもよい。
蓋部材7に凹部26が設けられていることで、固定板31を薄くすることができ、吐出口基板6と蓋部材7との段差を小さくすることができる。その結果、本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態においても同様に、蓋部材7の強度を高めるために、図7に示すように、凹部26の底面に梁状の凸部35を1つ以上形成してもよい。このとき、凸部35は、フィルム5の撓み変形を制限しないように、空間27の高さ(Z方向の長さ)以下の高さを有し、かつフィルム5に固定されていないことが好ましい。
【0023】
(第3の実施形態)
図8は、本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの一構成例を示す断面図であり、図9は、本実施形態の液体吐出ヘッドの他の構成例を示す断面図である。以下、第1および第2の実施形態と同様の構成については、図面に同じ符号を付してその説明を省略し、第1および第2の実施形態と異なる構成のみ説明する。
【0024】
本実施形態は、固定板31が設けられている点では第2の実施形態と同様であるが、蓋部材7に凹部26が設けられておらず、固定板31の孔部33のみが空間27を形成している点で、上述した実施形態と異なっている。本実施形態では、固定板31を薄くすることで、吐出口基板6と蓋部材7との段差を小さくすることができ、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。ただし、この場合、フィルム5と蓋部材7との距離が近くなるため、フィルム5が蓋部材7に貼り付いて動作不良を引き起こすおそれがある。そのため、本実施形態では、フィルム5と蓋部材7との接触を抑制するために、図8に示すように、蓋部材7のフィルムに対向する面に微細加工による凹凸36を形成してもよい。あるいは、図9に示すように、蓋部材7のフィルム5に対向する面をサンドペーパーやサンドブラスト等で荒らし、好ましくは0.8μm以上の表面粗さRzを有する微小な凹凸37を形成することで、フィルム5と蓋部材7との貼り付きを抑制してもよい。
なお、このように蓋部材7のフィルム5に対向する面に意図的に物理的な加工を施すことは、第1の実施形態に対しても適用可能である。すなわち、第1の実施形態の液体吐出ヘッド30において、蓋部材7の凹部26の底面に、本実施形態と同様の凹凸36,37が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0025】
5 蓋部材
7 フィルム
15 圧力調整部
26 凹部
27 空間
30 液体吐出ヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9