(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、及び液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240909BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
B41J2/14 209
B41J2/14 607
B41J2/16 101
B41J2/14 613
(21)【出願番号】P 2020120678
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 譲
(72)【発明者】
【氏名】三隅 義範
(72)【発明者】
【氏名】加藤 麻紀
(72)【発明者】
【氏名】安田 建
(72)【発明者】
【氏名】船橋 翼
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-171911(JP,A)
【文献】特開2019-038126(JP,A)
【文献】特開2018-138375(JP,A)
【文献】特開2001-270121(JP,A)
【文献】特開2020-059146(JP,A)
【文献】特開2016-037625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の吐出エネルギーを発生する吐出素子が設けられた液体吐出ヘッド用基板と、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材と、前記液体吐出ヘッド用基板と前記吐出口形成部材との間に形成され前記吐出口から吐出する液体を収容する液室と、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記液体吐出ヘッド用基板は、
基板と、
前記基板に積層され、前記吐出素子を絶縁する絶縁膜と、
前記絶縁膜において、前記吐出素子が設けられた位置を覆う耐キャビテーション層と、
前記液室と連通するように前記基板と前記絶縁膜とに形成された連通口と、
前記吐出口形成部材に対する密着性を有する耐液性絶縁膜
と
を備え、
前記耐液性絶縁膜は、前記絶縁膜の前記吐出口形成部材が設けられる側の面を覆い、一部が前記吐出口形成部材と接する第1の部分と、前記絶縁膜に形成された前記連通口の内面を覆う第2の部分と、
前記耐キャビテーション層の一部を覆う第3の部分とに連続的に設けられることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記連通口は、前記絶縁膜に形成された第1開口部と、前記基板に形成された液体流路に連通する第2開口部とを含み、前記第1開口部の内面には前記耐液性絶縁膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記耐液性絶縁膜は、炭素原子を含んだ絶縁膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記耐液性絶縁膜は、炭素原子を5atom%以上含有している絶縁膜であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記耐液性絶縁膜は、SiCN(炭窒化シリコン)膜、SiOCN(炭窒酸化シリコン)膜、SiOC(酸炭化シリコン)膜またはそれらの積層膜により形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記吐出口形成部材は、樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記吐出口形成部材は、ネガ型感光性の樹脂層を複数積層した積層膜により構成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記積層膜を構成する前記樹脂層のうち、前記耐液性絶縁膜に接触する前記樹脂層には、ポリオールが含まれることを特徴とする請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第1開口部及び前記第2開口部は、前記吐出素子の少なくとも一側方に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第1開口部及び前記第2開口部は、前記吐出素子の両側方に形成され、
前記吐出素子の一側方に形成された前記第1開口部及び前記第2開口部は前記液室に液体を供給する供給口を構成し、
前記吐出素子の他側方に形成された前記第1開口部及び前記第2開口部は、前記液室から液体を回収する回収口を構成することを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第2開口部の内面及び前記液体流路の内面に第2耐液性絶縁膜が形成されていることを特徴とする請求項10に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記第2耐液性絶縁膜は、前記第1開口部の内面に形成された前記耐液性絶縁膜を覆うことを特徴とする請求項11に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記耐液性絶縁膜は、SiCN(炭窒化シリコン)膜、SiOCN(炭窒酸化シリコン)膜、SiOC(酸炭化シリコン)膜またはそれらの積層膜により形成され、前記第2耐液性絶縁膜は、TiO(一酸化チタン)膜により形成されていることを特徴とする請求項11または12に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記耐キャビテーション層の少なくとも一部は前記耐液性絶縁膜から露出している、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
液体の吐出エネルギーを発生する吐出素子が設けられた液体吐出ヘッド用基板と、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材と、前記液体吐出ヘッド用基板と前記吐出口形成部材との間に形成され前記吐出口から吐出する液体を収容する液室と、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記液体吐出ヘッド用基板は、
基板と、
前記基板に積層され、前記吐出素子を絶縁する絶縁膜と、
前記絶縁膜において、前記吐出素子が設けられた位置を覆う耐キャビテーション層と、
前記液室と連通するように前記基板と前記絶縁膜とに形成された連通口と、
前記絶縁膜の前記吐出口形成部材が設けられる側の面を覆い、一部が前記吐出口形成部材と接する第1の部分と、前記絶縁膜に形成された前記連通口の内面を覆う第2の部分と、
前記耐キャビテーション層の一部を覆う第3の部分とに連続的に設けられた被覆膜であって、炭素原子を含むシリコン化合物で形成された前記被覆膜を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記被覆膜は、炭素原子を5atom%以上含有していることを特徴とする
請求項15に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項17】
前記被覆膜は、SiCN(炭窒化シリコン)膜、SiOCN(炭窒酸化シリコン)膜、SiOC(酸炭化シリコン)膜またはそれらの積層膜により形成されていることを特徴とする
請求項15または16に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項18】
前記耐キャビテーション層の少なくとも一部は、前記被覆膜から露出している、請求項15ないし17のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項19】
前記吐出口形成部材は、樹脂により形成されていることを特徴とする
請求項1ないし18のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項20】
前記絶縁膜には、電気配線によって構成される回路が設けられている、請求項1ないし19のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項21】
前記吐出素子は、熱エネルギーによって液体を発泡させるための発熱素子である、請求項1ないし20のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項22】
前記耐キャビテーション層はIr層を含む、請求項1ないし21のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項23】
液体の吐出エネルギーを発生する吐出素子が形成された液体吐出ヘッド用基板と、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材と、前記液体吐出ヘッド用基板と前記吐出口形成部材との間に形成され前記吐出口から吐出する液体を収容する液室と、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
基板に対
し絶縁膜を積層する工程と、
前記絶縁膜の表面に、前記吐出素子と前記吐出素子を覆う耐キャビテーション層を形成する工程と、
前記絶縁膜に対し前記吐出素子の側方において開口部を形成する工程と、
前記吐出口形成部材に対する密着性を有
する耐液性絶縁膜を、前記絶縁膜において前記吐出口形成部材が設けられる側の面と
、前記耐キャビテーション層の一部と、前記開口部の内面とを連続的に覆う
ように形成する
耐液性絶縁膜形成工程と、
前記耐液性絶縁膜の一部と接するように前記吐出口形成部材を設ける工程と、
を備えることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項24】
前記耐液性絶縁膜形成工程では、前記耐キャビテーション層の少なくとも一部が前記耐液性絶縁膜から露出するように、前記耐液性絶縁膜を形成する、請求項23に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッド、及び液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドには、吐出素子が設けられた液体吐出ヘッド用基板(以下、吐出素子基板と称す)の一面に、吐出口が形成された吐出口形成部材を設けて液室を形成し、液室内の液体を吐出素子の駆動によって吐出口から吐出させるように構成したものがある。この種の液体吐出ヘッドに用いられる吐出素子基板としては、吐出素子及びこれに接続される電気配線などを絶縁する層間絶縁膜をシリコン基板に積層したものが知られている。層間絶縁膜及びシリコン基板には、液室に液体を供給する供給口及び液体流路が形成されている。また、吐出素子基板には、液体による浸食を抑制するため、液体と接触する面に耐液性の膜を形成することがある。特に、層間絶縁膜として用いられるシリコン酸化膜(以下、SiO膜と記載)は、インク等の液体の種類によっては液体に浸食される恐れがあるため、液体との接触面を耐液性の膜で覆うことが望ましい。
【0003】
特許文献1には、吐出素子基板の層間絶縁膜の表面を、吐出口形成部材との良好な密着性を有する絶縁性の膜で覆う一方、原子層堆積法(以下、ALD法と記載)を用いて吐出口に連通する供給口の内面を耐液性の膜で覆った吐出素子基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、吐出素子基板の製造において、シリコン基板に設けられた層間絶縁膜の表面に、吐出口形成部材に対する密着性と耐液性とを有する絶縁性膜を形成し、その後、液室に連通する供給口及び液体流路を形成する。次いで、絶縁性膜及び供給流路の内面に耐液性のあるTiO(一酸化チタン)等の膜をALD法によって形成する。さらに、供給口以外の領域にある膜をエッチングで除去する。このとき、ALD法によって形成された膜と絶縁性膜との重なり部が、供給口の開口部の周辺部において数μmの幅で残されるようにエッチングを行う。この重なり部を形成することによって、層間絶縁膜へのインク等の液体の浸入を抑制することが可能になる。
【0006】
上記のように、特許文献1に開示の吐出素子基板では、層間絶縁膜への液体の浸入を抑制するために、供給口の周辺部に前述のような膜同士の重なりを形成することが必要になる。このため、供給口の周辺部に大きな面積が必要となり、素子基板全体の面積が増大する虞がある。
【0007】
本発明は、大型化を抑制しつつ、液体による浸食を抑制することが可能な信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液体の吐出エネルギーを発生する吐出素子が設けられた液体吐出ヘッド用基板と、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材と、前記液体吐出ヘッド用基板と前記吐出口形成部材との間に形成され前記吐出口から吐出する液体を収容する液室と、を備えた液体吐出ヘッドであって、前記液体吐出ヘッド用基板は、基板と、前記基板に積層され、前記吐出素子を絶縁する絶縁膜と、前記絶縁膜において、前記吐出素子が設けられた位置を覆う耐キャビテーション層と、前記液室と連通するように前記基板と前記絶縁膜とに形成された連通口と、前記吐出口形成部材に対する密着性を有する耐液性絶縁膜とを備え、前記耐液性絶縁膜は、前記絶縁膜の前記吐出口形成部材が設けられる側の面を覆い、一部が前記吐出口形成部材と接する第1の部分と、前記絶縁膜に形成された前記連通口の内面を覆う第2の部分と、前記耐キャビテーション層の一部を覆う第3の部分とに連続的に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大型化を抑制しつつ、液体による浸食を抑制することが可能な信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る液体吐出ヘッドを模式的に示した断面斜視図である。
【
図2】
図1に記載の液体吐出ヘッドの部分断面図及び部分平面図である。
【
図3】比較例における液体吐出ヘッドの製造方法を示す部分断面図である。
【
図4】比較例における液体吐出ヘッドの部分断面図及び部分平面図である。
【
図5】第1実施例における液体吐出ヘッドの製造方法を示す部分断面図である。
【
図6】第2実施例における液体吐出ヘッドを示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。但し、以下の記載は本発明の範囲を限定するものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッド1を模式的に示した断面斜視図である。液体吐出ヘッド1は、液体吐出ヘッド用基板(以下、吐出素子基板ともいう)10と、吐出素子基板10の表面側(
図1において上面側)に設けられた吐出口形成部材12とを備える。吐出素子基板10は、Si(シリコン)からなる基板11と、基板11の裏面側(
図1において下面側)に設けられたカバープレート20等を有している。基板11の表面側には液体を吐出するための吐出エネルギーを発生する吐出素子としての吐出素子31と、吐出素子31に接続される電気配線(不図示)と、層間絶縁膜(
図1には図示せず)等が形成されている。また、吐出口形成部材12には、各インク色に対応する4列の吐出口列14が形成されている。なお、吐出口列14を構成する複数の吐出口13の配列方向、すなわち吐出口列が延在する方向(Y方向)を「吐出口列方向」ともいう。
【0013】
図1に示すように、各吐出口13と対向する位置に吐出素子31が配置されている。吐出素子31は、熱エネルギーによって液体を発泡させるための発熱素子により構成されている。吐出口形成部材12により、吐出素子31を内部に備える圧力室(液室)23が、吐出口形成部材12と基板11との間に区画形成されている。この圧力室23には、吐出口13から吐出する液体が収容される。吐出素子31は、吐出素子基板10に設けられる不図示の電気配線によって、電極パッド部16に電気的に接続されている。電極パッド部16は、吐出素子基板10の外部に設けられた不図示の配線基板に接続されている。吐出素子31は、配線基板を介して外部から入力されるパルス信号に基づいて発熱し、圧力室23内の液体を沸騰させる。沸騰時に液体に加わる圧力により、吐出口13から液体が吐出される。
【0014】
吐出素子基板10に形成された液体供給流路18a及び液体回収流路18bは、吐出口列方向(Y方向)に延在する流路である。液体供給流路18a及び液体回収流路18bは、独立供給口39a及び独立回収口39b(
図2参照)を介して圧力室23にそれぞれ連通している。圧力室23は吐出口13に連通している。
【0015】
図2(a)は、
図1に記載の液体吐出ヘッド用基板(吐出素子基板)10のIIa-IIa線断面図であり、吐出口13との対向位置に配置される吐出素子31の周辺構成を示している。また、
図2(b)は、吐出素子31の周辺構成を表面側(吐出口13側)から見た平面図である。
【0016】
以下、
図2(a)及び
図2(b)を用いて、本実施形態における吐出素子基板10の構成を説明する。基板11の表面側(
図2(a)において上面側)には、層間絶縁膜(絶縁膜)37が形成されている。この層間絶縁膜37内には、AL(アルミニュウム)等の電気配線によって構成される回路が設けられている。層間絶縁膜37の表面側には、TaSiN(窒化タンタルシリコン)またはWSiN(窒化タングステンシリコン)等のサーメット材料によって形成される吐出素子31が形成されている。吐出素子31は、タングステンで形成された電極プラグ(不図示)により、層間絶縁膜37内に設けられた電気配線と電気的に接続されている。さらに、吐出素子31を覆うようにSiN(窒化シリコン)やSiCN(炭窒化シリコン)、あるいはそれらの積層からなる絶縁保護膜(不図示)が形成されている。絶縁保護膜の表面には、Ta(タンタル)やIr(イリジウム)のような材料を最表層とした耐キャビテーション層35が形成されている。
【0017】
また、吐出素子基板10において、吐出素子31の両側方には、圧力室23と連通する連通口として、独立供給口39aと独立回収口39bとが形成されている。吐出素子31の一側方に設けられた独立供給口39aは、基板11の裏面側(
図2(a)において下面側)から形成された液体供給流路18aと連通している。また、吐出素子31の他側方に設けられた独立回収口39bは、基板11の裏面側から形成された液体回収流路18bと連通している。なお、以下の説明において、独立供給口39aと独立回収口39bとを特に区別する必要がない場合には、これらを総称して独立口39と記載することとする。また、液体供給流路18aと液体回収流路18bについても、これらを区別する必要がない場合には、これらを総称して液体流路18と記載することとする。
【0018】
独立口39は、基板11上に設けられた層間絶縁膜37に形成された開口部391と、基板11に形成された開口部392とを含んでいる。これらの開口部391、392は、それぞれ基板11の表面側から行ったドライエッチングによって形成される。
【0019】
また、吐出素子基板10の表面には、樹脂によって形成される吐出口形成部材12が吐出素子基板10の表面(
図2(a)において上面)に密着した状態で設けられている。この吐出口形成部材12と吐出素子基板10の表面との間には、独立口39に連通する圧力室23が形成されている。
【0020】
上記のように吐出素子基板10と吐出口形成部材12とを有する液体吐出ヘッド1では、吐出素子基板10と吐出口形成部材12とが良好に密着することが必要となる。また、独立口39内の層間絶縁膜37が、インク等の液体との接触によって溶出するのを抑制することが求められる。そこで、本実施形態では、吐出素子31の上方や電極パッド部16(
図1参照)を除いた吐出素子基板10の表面と、層間絶縁膜37により形成される独立口39の内面とを、連続した耐液性絶縁膜38(被覆膜)によって覆うように構成している。従って、吐出口形成部材12は耐液性絶縁膜38に直接接触することとなる。なお、耐液性絶縁膜38のうちの、層間絶縁膜37の吐出口形成部材12が設けられる側の面を覆い、吐出口形成部材12と接する部分を、耐液性絶縁膜38の第1の部分とも称する。また、耐液性絶縁膜38のうちの、層間絶縁膜37に形成された独立口39の内面を覆う部分を、耐液性絶縁膜38の第2の部分とも称する。耐液性絶縁膜38は、第1の部分と第2の部分とが連続して設けられている。
【0021】
本実施形態では、耐液性絶縁膜38は、SiCN(炭窒化シリコン)、SiOCN(炭窒酸化シリコン)、SiOC(酸炭化シリコン)またはそれらの積層膜により構成している。このため、インクを含む液体から層間絶縁膜37を保護することができる。さらに、SiCN、SiOCN、SiOCは、吐出口形成部材12との密着性も良好なため、耐液性絶縁膜38は、密着向上層としての役割も兼ねる。
【0022】
なお、本実施形態では、耐液性絶縁膜38が炭素原子(C)を含有することで耐液性を有することができる。また、耐液性の観点から、耐液性絶縁膜38は炭素原子(C)を5atom%以上含有することが好ましい。また、耐液性絶縁膜38は、層間絶縁膜37よりもインク等の液体に対する耐液性が高いことが好ましい。
【0023】
また、本実施形態では、耐液性絶縁膜38が例えばSiCN、SiOCN、SiOCのようなシリコン化合物であれば、樹脂によって形成される吐出口形成部材12との密着性を有することができる。また、耐液性絶縁膜38における密着性は、層間絶縁膜37よりも吐出口形成部材12との接着力が大きいことが好ましい。
【0024】
従って、本実施形態では、層間絶縁膜の表面に形成する密着性向上層と、独立口内に形成する耐液性膜とを個々に形成する後述の比較例に比べ、製造工程の簡略化を図ることができる。また、後述の比較例では、耐液性膜と密着性向上膜とが重なる重なり部を独立口の周辺部分に形成する必要があり、これが独立口と吐出素子31との距離を増大させる要因となっている。これに対し、本実施形態では、耐液性絶縁膜が連続的に形成されているため、比較例のような重なり部を必要としない。このため、本実施形態では、独立口と吐出素子31との距離を比較例より短縮することが可能になり、液体吐出ヘッド1を小型化することが可能になる。また、独立口39と吐出素子31との距離の短縮化に伴い、液体吐出ヘッド1における液体の流抵抗を低減することが可能になる。さらに、重なり部の形成を考慮する必要がないため、液体吐出ヘッド1の設計の自由度が向上する。
【0025】
なお、本実施形態における液体吐出ヘッド1は、液体循環方式を採る液体吐出装置に用いられる構成を備える。すなわち、液体吐出ヘッド1の液体供給流路18aと液体回収流路18bは、液体吐出装置に設けられた装置側供給流路と装置側回収流路とにそれぞれ接続される。そして、液体吐出装置の液体貯留部内の液体は、装置側供給流路を介して液体吐出ヘッド1の液体供給流路18aに供給され、液体供給流路18aに流入した液体は独立供給口39aを経て圧力室23に流入する。圧力室23に流入した液体の一部は吐出素子31の駆動により吐出口13から吐出され、残りの液体は独立回収口39b及び液体回収流路18b及び装置側回収流路を経て液体貯留部に戻る。このように、液体を循環させつつ液体の吐出を行う液体循環方式の液体吐出装置によれば、液体に含まれる色材などの沈降を抑制することが可能になり、良好な液体吐出性能を維持することが可能になる。さらに、上記本実施形態では、独立供給口39aから吐出素子31までの距離L1及び独立回収口39bから吐出素子31までの距離L1が短縮されている。このため、独立供給口39aから独立回収口39bへと液体が流動する際の流抵抗が低減され、スムーズな液体循環を実現することが可能になる。
【0026】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッド1の構成および製造方法を、第1実施例及び第2実施例においてより具体的に説明する。なお、以下の説明では、本実施例の特徴を明確にするため、まず、本実施例の比較例を説明し、その後、各実施例について説明を行う。
【0027】
(比較例)
本実施例に対する比較例における液体吐出ヘッド100の構成及び製造方法を、
図3及び
図4を参照しつつ説明する。
図3(a)ないし
図3(e)は本比較例の製造方法を示す断面図である。また、
図4(a)は本比較例における液体吐出ヘッドの部分断面図、
図4(b)は平面図である。
【0028】
図3(a)は、基板11に、層間絶縁膜37と吐出素子31を形成し、さらに吐出素子31との対向位置に耐キャビテーション層35を形成した状態を示している。ここで、
図3(a)に示す積層構造を形成するまでの工程を説明する。
【0029】
吐出素子31を駆動するための駆動素子(不図示)と駆動素子駆動用の配線(不図示)とが形成された基板11上に、SiO(酸化シリコン)からなる1~2μmの厚さの層間絶縁膜37を形成した。次に、層間絶縁膜37の一部を、ドライエッチング法を用いて開口し、スルーホールを形成した。次にスルーホール内を充填するように、タングステンを用いて電極プラグ(不図示)を形成した。なお、電極プラグは、下層の駆動素子と上層に形成する吐出素子31とを電気的に接続する役割を果すものである。
【0030】
この後、TaSiNからなるサーメット材料により、吐出素子31を形成した。この際、吐出素子31は、厚さ15nm、平面方向の大きさが15μmとなるように形成した。吐出素子31の形成には、フォトリソグラフィー及び塩素を用いたドライエッチング法を用いた。続いて、吐出素子31を覆うように、SiNからなる絶縁保護膜(不図示)をプラズマCVD法を用いて、200nmの厚さに形成した。ここでは、絶縁性の観点から絶縁保護膜の膜厚を200nmとした。但し、保護層の膜厚は100nm以上の厚さがあればよく、さらには、液体への熱伝導の観点から100nm以上500nm以下の厚さで形成されていればよい。
【0031】
次に、絶縁保護膜上に、耐キャビテーション層35を形成した。この耐キャビテーション層は、Ta層、Ir層、Ta層の3層を、基板11の表面側(図中、上面側)から順次積層することにより形成した。これらの3層は、スパッタリング法を用いて、基板側から順次、30nm、50nm、50nmの厚さで基板11の表面全域に形成した。なお、Ir層の厚さについては、耐キャビテーション性を満足する厚さであればよく、20nm以上であることが好ましい。さらに、加工性の観点を加味すると、Ir層の厚さは、20nm以上300nm以下であることがより好ましい。また、基板11の表面側に位置するTa層は、密着性を確保するために配置したものであり、20nm以上であることが好ましい。さらに、加工性の観点を加味すると、基板11の表面側に位置するTa層の厚さは、20nm以上300nm以下であることがより好ましい。
【0032】
この後、耐キャビテーション層35のパターニング処理を行った。このパターニング処理では、基板11の表面全域に形成した耐キャビテーション層のうち、吐出素子31上に位置する耐キャビテーション層を残し、他の位置に存在する耐キャビテーション層をドライエッチングにより除去した。以上により、
図3(a)に示す積層構造が形成された。
【0033】
次に、吐出口形成部材12との密着性がある密着向上層36をCVD法により150nmの厚さで層間絶縁膜37の全面に形成した(
図3(b)参照)。本比較例では、密着向上層として、SiOCN膜を用いたが、SiCやSiCN等の膜を用いてもよい。次に、ドライエッチング法によって、吐出素子31上の密着向上層36を除去すると共に、耐キャビテーション層35を構成する前述の3層の中の最表面に位置するTa層を除去し、Ir膜が最表面に現れるようにした。また、電極パッド部の形成箇所に開口を形成し、形成した開口内に、吐出素子31と電気的に接続されるAuパッド部(不図示)を形成した。
【0034】
次に、層間絶縁膜37の表面(図中、上面)から、層間絶縁膜37及び基板11に対して、ドライエッチング法により独立口39(独立供給口39a、独立回収口39b)を形成した。さらに、基板11の裏面から独立口39(独立供給口39a、独立回収口39b)に連通する液体流路18(液体供給流路18a、液体回収流路18b)を、ドライエッチング法を用いて形成した(
図3(c)参照)。
【0035】
その後、ALD法を用いて、インク等の液体に対する耐性を有するTiO(一酸化チタン)膜40を100nmの厚さで、基板11及び層間絶縁膜37における露出部分に形成した。すなわち、基板11の裏面、液体流路18の内面、独立口39の内面、及び層間絶縁膜37の表面にTiO膜40を形成した。
【0036】
ここで、基板11及び層間絶縁膜37に形成されたTiO膜40のうち、独立口39の内面及び液体流路18の内面に形成されたTiO膜40を残して、その他の部分に形成されているTiO膜を、バッファードフッ酸を用いたウェットエッチングにより除去した。このとき、独立口39の内面に形成されたTiO膜40を確実に残すべく、層間絶縁膜37の表面に形成された密着向上層36の上に、TiO膜40が5μmの距離で重なる重なり部40aが形成されるようにウェットエッチングを行った。この状態を
図3(d)に示す。密着向上層36とTiO膜40との密着性の観点、及び製造公差の観点から、TiO膜40には上記のような5μmの距離の重なり部40aを形成することが必要となる。以上により、吐出素子基板10が形成された。
【0037】
その後、
図3(e)に示すように、吐出素子基板10に吐出口形成部材12を設けた。本比較例や、以下に説明する第1実施例及び第2実施例で用いる吐出口形成部材12には、ネガ型感光性樹脂層を複数積層した積層膜を用いた。具体的には、複数の樹脂層をフィルム上に形成した後、凹凸のある基材に張り合わせ、露光と現像とを行うことにより吐出口形成部材12を形成した。特に、吐出素子基板10と直接接するネガ型感光性樹脂層には、ポリオールを含有した樹脂層を用いた。この樹脂層は、本比較例及び実施例において使用するSiOCN等のシリコン化合物に対して良好な密着性を有する。一方、金属や金属酸化膜等の膜との密着性は良好ではなく、インクに高温化で浸漬していると、界面で剥がれが生じることもある。従って、本比較例では、吐出口形成部材12とTiO膜40とが直接接しない構成とした。以上により、比較例における液体吐出ヘッド100が作製された。
【0038】
図4(a)、(b)に示すように、比較例では、吐出素子基板10の表面(図中、上面)には、独立口39の開口部周辺において、重なり部40aが形成される。この重なり部40aには、前述のように5μmの距離が必要となるため、この距離を考慮した位置に独立口39を形成する必要がある。その結果、独立口39から吐出素子31までの距離L2が大きくなり、これが吐出素子基板10の大型化、延いては液体吐出ヘッド1の大型化を招いていた。また、距離L2が大きくなることで液体の流抵抗が大きくなったり、重なり部を形成するために製造プロセスが複雑化したりする恐れもあった。
【0039】
(第1実施例)
次に、本発明の第1実施例を説明する。以下では、
図2(a)及び
図2(b)に示す液体吐出ヘッド1の製造方法を、
図5(a)ないし
図5(e)に示した製造工程に基づいて段階的に説明する。
図5(a)は、基板11上に耐キャビテーション層35のパターニング処理を行った状態を示す断面図である。この耐キャビテーション層35のパターニング処理を行うまでの工程は比較例1と同様であるため、説明を省略する。
【0040】
耐キャビテーション層35のパターニング処理の後、本実施例では、
図1に示すAuパッド部を形成する(
図4には図示せず)。その後、層間絶縁膜37の表面側(図中、上面側)から、層間絶縁膜37に対してのみドライエッチングを行い、
図2に示す独立口39(独立供給口39a及び独立回収口39b)の一部に相当する開口部391を形成した(
図5(b)参照)。
【0041】
独立口39の開口部391を形成した後、
図5(c)に示すように、層間絶縁膜37の表面(
図5における上面)及び開口部391の内面全体(側面及び底面)に、プラズマCVD法を用いて、連続した耐液性絶縁膜38を形成した。本実施例では、層間絶縁膜37の表面に、耐液性絶縁膜38としてのSiOCN膜を150nmの厚さに形成した。このとき、層間絶縁膜37の表面に形成されたSiOCN膜に連続して、独立口39の開口部391の内面(側面及び底面)には100nm以上の膜が形成された。これにより、インク等の液体から層間絶縁膜37を保護することが可能になる。すなわち、層間絶縁膜37と液体との接触を抑制し、層間絶縁膜37の溶出を抑制することが可能になる。耐液性絶縁膜38は、SiCN膜やSiOC膜、またはそれらの積層膜によって形成してもよい。また、SiOCN膜や、SiCN膜、SiOC膜、またはそれらの積層膜からなる耐液性絶縁膜38は、吐出口形成部材12を構成する樹脂との密着性が良好なため、密着向上層としての役割も兼ねる。このため、別工程において密着向上層を新たに形成する必要はない。
【0042】
なお、本実施例では、耐液性絶縁膜38の形成処理において、層間絶縁膜37の表面に150nmの厚さのSiOCN膜を形成したが、耐液性絶縁膜38の形成処理は、必ずしも本例に限定されない。耐液性絶縁膜38の形成処理は、独立口39内部に100nm以上の厚さのSiOCN膜が形成されるように実施すればよい。また、プラズマCVD法を用いて耐液性絶縁膜38を形成したが、ALD法等の成膜方法を用いてもよい。耐液性絶縁膜38を形成するSiOCN膜が、炭素原子(C)を5atom%以上含有していれば、液体との接触による耐液性絶縁膜38の膜減り(膜厚の減少)を大幅に低減することができる。本実施例では、炭素原子(C)の含有量を10atom%とした。このようにして、本実施例では、層間絶縁膜37の表面及び独立口39の内面を覆う連続的な耐液性絶縁膜38を形成した。
【0043】
次に、
図5(d)に示すように、吐出素子31の上方に形成した耐液性絶縁膜(SiOCN膜)38と、耐キャビテーション層35を構成する3層の中の最表層に位置するTa膜とをドライエッチングにより除去した。これにより、耐キャビテーション層35のIr層を露出させた。このドライエッチングは、塩素系ガスを用いて、低バイアス条件で行った。これにより、Ir層が露出した位置でエッチングをストップさせることができる。従って、耐SiOCN膜とTa膜を連続してエッチングすることが可能になる。
【0044】
次に、
図5(d)に示すように、独立口39(独立供給口39a、独立回収口39b)の一部を構成する開口部391の底面に形成されたSiOCN膜と、独立口39の中の基板11により形成される開口部392を表面側(図中、上面側)からエッチングした。さらに、基板11の裏面側(図中、下面側)からドライエッチングを行い、独立口39に連通する液体流路18(液体供給流路18a、液体回収流路18b)を形成した。以上により、吐出素子基板10が作製された。
【0045】
次に、比較例と同様の方法によって、吐出素子基板10の表面(図中、上面)に吐出口形成部材12を設け、吐出素子基板10と吐出口形成部材12との間に独立口39と連通する圧力室23を形成した。吐出素子基板10の最表面には、吐出口形成部材12に対して良好な密着性を有する耐液性絶縁膜38が形成されている。このため吐出口形成部材12を設ける際に、吐出素子基板10との密着性を特に考慮する必要はなく、必要とする箇所に吐出口形成部材12を形成すればよい。また、比較例のように、吐出素子基板10の表面に5μmの重なり部を形成する必要がないため、吐出素子31と独立口との間の距離L1を、比較例の距離L2より短縮することが可能になる。このため、液体吐出ヘッド1を小型に構成することが可能になると共に、液体吐出ヘッド1内における液体の流抵抗を低減することが可能になり、液体の流動性を高めることが可能になる。
【0046】
(第2実施例)
次に本発明の第2実施例を説明する。上記の第1実施例では、吐出素子基板10のうち、インク等の液体との接触によって溶出し易い層間絶縁膜37のみをSiOCN膜等の耐液性絶縁膜38で覆う構成とした。これに対し、第2実施例は、基板11に形成されている液体流路18(液体供給流路18a、液体回収流路18b)の内面も耐液性を有する膜によって覆う構成を備える。
【0047】
図6は、第2実施例における液体吐出ヘッド1Aを示す断面図である。本実施例においても、第1実施例と同様に、
図5(a)~
図5(d)に示す処理を行った。すなわち、層間絶縁膜37の表面及び独立口39の一部である開口部391の内面にプラズマCVD法を用いて連続的した耐液性絶縁膜38を形成した。その後、層間絶縁膜37の表面側から開口部391内の耐液性絶縁膜38と基板11をエッチングして独立口39(独立供給口39a、独立回収口39b)を形成し、さらに、基板裏面側より液体流路18をドライエッチングで形成した。
【0048】
以上により
図5(d)までの処理が完了し、次に、本実施例では、ALD法を用いて、独立口39や液体流路18をはじめ、基板11の表面及び裏面に耐液性を有するTiO膜41を100nmの厚さに形成した。その後、層間絶縁膜37の表面側からエッチバック法を用いて、層間絶縁膜37の表面に形成されているTiO膜41を除去し、層間絶縁膜37の表面に耐液性絶縁膜38を露出させた。このとき、独立口39及び液体流路18内に形成したTiO膜はエッチングされにくいため、
図6に示すようにTiO膜41は、除去されずに残る。また、エッチバックによりTiO膜41の除去を行うことにより、第1実施例と同じレイアウト設計をとることが可能である。以上により、本実施例における吐出素子基板10Aの形成が完了した。
【0049】
次に、比較例と同様の方法によって、吐出素子基板10Aの表面に吐出口形成部材12を設け、吐出素子基板10Aと吐出口形成部材12との間に独立口39と連通する圧力室23を形成した。以上により、第2実施例における液体吐出ヘッド1Aが完成した。
【0050】
本実施例においても第1実施例と同様に、独立口39と吐出素子31との間の距離を短縮することが可能になり、液体吐出ヘッド1Aを小型化することが可能になる。さらに、本実施例によれば、層間絶縁膜37だけでなく、基板11も液体から保護することが可能になり、より信頼性の高い液体吐出ヘッド1Aを作製することが可能になる。
【0051】
さらに、第2実施例では、ALD法によるTiO41の成膜及びエッチバックを追加することで、基板11に部分も耐液性のある膜で覆うことができ、より信頼性の高い液体吐出ヘッド1Aを作製することが可能になる。
【0052】
(第1、第2実施例と比較例との比較)
ここで、第1実施例及び第2実施例と比較例との比較を行う。
図4(b)のように、比較例では、吐出素子基板10の表面側において、独立口39の周辺に、5μm程度の耐液性膜(TiO膜40)の重なり部40aを設けることが必要となる。これに対し、第1、第2実施例においては、
図2及び
図6に示すように、独立口39の周辺に耐液性膜の重なり部を設ける必要がない。このため本実施例では、比較例において必要とされていた重なり部40aの幅(5μm)を削除し、その分、独立口39の形成位置を吐出素子31に近づけた構成となっている。すなわち、本実施例における吐出素子31と独立口39との間の距離L1は、比較例における吐出素子31と独立口39との間の距離L2より、少なくとも重なり部40aの幅(5μm)だけ短縮された構成となっている。このため、比較例に比べ、液体吐出ヘッド1Aを小型化することが可能になると共に、液体の流抵抗を低減することができる。
【0053】
また、比較例では、密着向上層36及びTiO膜40の2種類の膜を用いて、層間絶縁膜37を保護していたのに対し、第1実施例では、1種類の耐液性絶縁膜38のみで液体を保護する構成となっている。このため製造工程が簡略化され、製造コストを低減することができる。
【0054】
さらに、第2実施例では、ALD法によるTiO膜41の成膜及びエッチバックを行うことで、基板11もTiO膜41によって液体から保護することが可能になり、より信頼性の高い液体吐出用ヘッドを作製することができる。
【0055】
(他の実施形態)
上記実施形態及び実施例では、各吐出素子31の両側方に、独立供給口39aと独立回収口39bを形成し、独立供給口39aから圧力室23に供給した液体のうち、吐出口13から吐出されなかった残りの液体を独立回収口39bから回収する構成を示した。しかし、本発明はこのような構成に限定されない。吐出素子の両側方に設けた2つの独立口から圧力室に液体を供給する構成を採る液体吐出ヘッドにも本発明は適用可能である。さらに、圧力室に連通する独立口を吐出素子の一側方にのみ形成し、1つの独立口から圧力室に液体を供給する構成を採る液体吐出ヘッドにも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 液体吐出ヘッド
10 液体吐出ヘッド用基板
11 基板
12 吐出口形成部材
23 圧力室(液室)
31 吐出素子
37 層間絶縁膜(絶縁膜)
38 耐液性絶縁膜
39 独立口(連通口)