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  • 特許-トナー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
G03G9/087 325
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020128076
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025323
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】嶋野 努
(72)【発明者】
【氏名】松井 崇
(72)【発明者】
【氏名】青木 健二
(72)【発明者】
【氏名】芝原 昇平
(72)【発明者】
【氏名】山本 侑奈
(72)【発明者】
【氏名】豊田 隆之
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-219647(JP,A)
【文献】特開2019-191359(JP,A)
【文献】特開2019-191315(JP,A)
【文献】特開2019-074655(JP,A)
【文献】特開2014-130243(JP,A)
【文献】特開2013-083854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分を含有するコアと、前記コアの表面を覆うシェルと、を有するトナー粒子を有するトナーであって、
前記樹脂成分が、下記式(1)で示されるモノマーユニットAを有する樹脂Aを含有し、
前記樹脂A中の前記モノマーユニットAの含有割合が、2.0質量%以上80.0質量%以下であり、
前記シェルが、下記式(2)で示されるモノマーユニットBを有する樹脂Bを含有し、
前記樹脂AのSP値をSP とし、前記樹脂BのSP値をSP としたとき、SP -SP が、0.00(J/cm 0.5 以上6.00(J/cm 0.5 以下であることを特徴とするトナー。
【化1】

(式(1)中、Rは、炭素数が12以上36以下のアルキル基を示し、Rは、水素又はメチル基である。式(2)中、Rは、水素、メチル基又はエチル基である。)
【請求項2】
前記樹脂B中の前記モノマーユニットBの含有割合が、10.0質量%以上95.0質量%以下である請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記トナー中の前記樹脂Aの含有割合が、30.0質量%以上である請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】
前記トナー中の前記樹脂Bの含有割合が、1.0質量%以上10.0質量%以下である請求項1~3の何れか一項に記載のトナー。
【請求項5】
前記樹脂Aの酸価が、0.0mgKOH/g以上20.0mgKOH/g以下である請求項1~の何れか一項に記載のトナー。
【請求項6】
記SPが21.50(J/cm0.5以上25.00(J/cm0.5以下である請求項1~の何れか一項に記載のトナー。
【請求項7】
前記樹脂AがモノマーユニットCをさらに有し、
前記モノマーユニットCは下記式(3)で示されるモノマーユニット、下記式(4)で示されるモノマーユニット及び下記式(5)で示されるモノマーユニットからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーユニットである請求項1~の何れか一項に記載のトナー。
【化2】

(式(3)中、Rは水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、Rは水素又はメチル基を示す。式(4)中、Rは水素又はメチル基を示す。)
【請求項8】
前記樹脂A中の前記モノマーユニットCの含有割合が、25.0質量%以上95.0質量%以下である請求項に記載のトナー。
【請求項9】
前記樹脂BがモノマーユニットDをさらに有し、
前記モノマーユニットDは下記式(4)で示されるモノマーユニット及び下記式(6)で示されるモノマーユニットからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーユニットである請求項1~の何れか一項に記載のトナー。
【化3】

(式(4)中、Rは水素又はメチル基を示す。式(6)中、Rは水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、Rは水素又はメチル基を示す。)
【請求項10】
前記樹脂B中のモノマーユニットDの含有割合が、10.0質量%以上70.0質量%以下である請求項に記載のトナー。
【請求項11】
前記樹脂A中の前記モノマーユニットAの含有割合が、30.0質量%以上である請求項1~1の何れか一項に記載のトナー。
【請求項12】
前記コアに含有される前記樹脂Aの質量に対する、前記シェルに含有される前記樹脂Bの質量の割合が、1.0質量%以上10.0質量%以下である請求項1~1の何れか一項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式の画像形成装置に対する高速化への要求が高まっている。高速化に対応するため、帯電プロセスにおいて優れた帯電性を有するトナーが検討されている。
【0003】
トナーの帯電安定性の向上を目的として、トナー粒子に樹脂微粒子を外添する方法が知られている。しかし、一般的に外添された樹脂微粒子は、トナー粒子の表面から脱離しやすい。樹脂微粒子が画像形成中にトナー粒子の表面から脱離すると、トナー粒子が各種部材の表面に付着しやすくなり、トナーの帯電量が低下しやすい。
【0004】
そこで、トナーの帯電量を向上させることを目的として、トナー粒子のコア表面に帯電しやすい樹脂を固着させ、シェルを形成させたトナー粒子を有するトナーが注目されている。特許文献1では、オキサゾリン基を含有する樹脂を用いてシェルを形成させたトナーが提案されており、未開環のオキサゾリン基は環状構造を有し、強い正帯電性を示すことが記載されている。そのため、オキサゾリン基を含有する樹脂を用いてシェルを形成させたトナーは、高い帯電量を有し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-151412
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたトナーについて本発明者らが鋭意検討した結果、トナーの流動性が十分でない場合があることがわかった。
【0007】
本発明は、高い帯電量を有し得るとともに、流動性にも優れたトナーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂成分を含有するコアと、前記コアの表面を覆うシェルと、を有するトナー粒子を有するトナーであって、
前記樹脂成分が、下記式(1)で示されるモノマーユニットAを有する樹脂Aを含有し、
前記樹脂A中の前記モノマーユニットAの含有割合が、2.0質量%以上80.0質量%以下であり、
前記シェルが、下記式(2)で示されるモノマーユニットBを有する樹脂Bを含有し、
前記樹脂AのSP値をSP とし、前記樹脂BのSP値をSP としたとき、SP -SP が、0.00(J/cm 0.5 以上6.00(J/cm 0.5 以下であることを特徴とするトナー。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、Rは、炭素数が12以上36以下のアルキル基を示し、Rは、水素又はメチル基である。式(2)中、Rは、水素、メチル基又はエチル基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い帯電量を有し得るとともに、流動性にも優れたトナーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の効果を発現する想定メカニズムを説明するためのトナー粒子断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
数値範囲を表す「○○以上××以下」や「○○~××」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
【0014】
(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0015】
数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0016】
モノマーユニットとは、ポリマー(重合体)を構成するユニット(単位)であり、モノマー(重合性単量体)の反応した形態をいう。例えば、ポリマー中のビニル系モノマーが重合した主鎖中の炭素-炭素結合1区間が1モノマーユニットである。ビニル系モノマーは、下記式(Z)で示すことができ、ビニル系モノマーユニットは、重合体の構成単位であり、下記式(Z)で示されるモノマーが反応した形態である。また、モノマーユニットを、単に「ユニット」と表記する場合もある。
【0017】
【化2】
【0018】
(式(Z)中、RZ1は、水素又はアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基)を表し、RZ2は、任意の置換基を表す。)
ビニル系樹脂とは、上記ビニル系モノマーユニットが構成単位である樹脂を表す。
【0019】
<本発明の効果が発現する想定メカニズム>
図1に、本発明の効果を発現する想定メカニズムを説明するためのトナー粒子断面の模式図を示す。
【0020】
図1(A)はオキサゾリン基を含有するモノマーユニット3がシェル2中に含有され、トナー粒子のコア1中に長鎖アルキル基を有する樹脂を有さない場合の、トナー粒子断面の概略図である。シェル2中に存在するオキサゾリン基が不規則な方向を向いており、トナー粒子中において帯電が強い部分と弱い部分の偏りが大きくなりやすいことを示している。
【0021】
図1(B)はオキサゾリン基を含有するモノマーユニット3がシェル2中に含有され、トナー粒子のコア1が長鎖アルキル基を有する樹脂を含有する場合の、トナー粒子断面の概略図である。トナー粒子のコア中に長鎖のアルキル基4が含有されており、該長鎖のアルキル基4とシェル2に存在するオキサゾリン基の間で斥力5が生じるため、該オキサゾリン基の多くがトナー粒子の外側方向に向きやすくなることを示している。
【0022】
本発明の効果が発現するメカニズムについて、本発明者らは以下のように推測している。
【0023】
トナー粒子のコアが、式(1)で示されるモノマーユニットAを特定の割合で有する樹脂Aを含有することで、該コアの疎水性が適切に保たれやすい。これは、モノマーユニットA中のRが長鎖のアルキル基であるためである。これにより、シェルに存在するオキサゾリン基と、トナーコアに存在する長鎖のアルキル基との間で斥力が生じ、多くの該オキサゾリン基がトナー粒子の外側方向に向きやすくなる。その結果、トナー粒子において帯電が強い部分と弱い部分の偏りが小さくなり、トナーの静電付着力が小さくなることで優れた流動性を有するトナーが得られると推測される。
【0024】
また、トナー粒子のシェルが、式(2)で示されるモノマーユニットBを有する樹脂Bを含有することで、高い帯電量を有するトナーが得られやすい。これは、モノマーユニットB中のオキサゾリン基が帯電されやすい官能基であるためであると推測される。
【0025】
<発明に至った経緯>
オキサゾリン基を含有する樹脂を含有するシェルを有するトナー粒子は、高い帯電量を持つトナーとなりやすい。これは、シェル中に存在するオキサゾリン基の極性が大きいためであると本発明者らは考えている。トナーが高い帯電量を持つことで、現像ローラや感光体等に素早く付着しやすくなり、高速の印字においても高画質での出力ができるトナーとなりやすい。
【0026】
しかしながら、本発明者らは、検討の結果、上記のような高い帯電量を有するトナーは、トナーの流動性が低下しやすい場合があることを発見した。流動性が低下しやすい要因としては、シェル中のオキサゾリン基が不規則な方向を向きやすく、トナー粒子中において帯電が強い部分と弱い部分の偏りが大きくなるためであると考えられる。シェル中のオキサゾリン基が不規則な方向を向きやすいのは、樹脂成分を含有するコアと、シェル中のオキサゾリン基との相互作用が小さいためにオキサゾリン基が向く方向が制御されていないためであると考えられる(図1(A))。トナー粒子中の帯電に偏りが生まれる結果、トナーの静電付着力が大きくなり、トナーの流動性が低下すると推測される。
【0027】
そこで、本発明者らは、高い帯電量を有するトナーであり、且つ優れた流動性を有するトナーを提供するために、シェル中に存在するオキサゾリン基が向く方向が制御され、静電付着力が適切に保たれるトナーを検討した。鋭意検討の結果、長鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレートのモノマーユニットAを有する樹脂Aを含有するコアと、オキサゾリン基を含有するモノマーユニットBを有する樹脂Bを含有するシェルと、を有するトナー粒子を用いる、という思想に達した。シェルがオキサゾリン基を含有する樹脂Bを含有することで、トナーが高い帯電量を有しやすい。また、コアが、長鎖のアルキル基を有するモノマーユニットAを有する樹脂Aを含有することで、コアに存在する長鎖のアルキル基と、シェルに存在するオキサゾリン基との間で斥力が生じると推測される。そしてこの斥力によって、多くの該オキサゾリン基がトナー粒子の外側方向に向きやすくなり、シェル中のオキサゾリン基が不規則な方向を向きにくくなると推測される(図1(B))。その結果、トナー粒子において帯電が強い部分と弱い部分の偏りが小さくなり、トナーの静電付着力が小さくなることで優れた流動性を有するトナーが得られると推測される。
【0028】
そして、優れた流動性を有するトナーが得られる条件を鋭意検討した結果、上記シェルを有し、且つ上記樹脂A中の長鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレートのユニットAを特定の範囲内で含有させることで、所望のトナーが得られることを見出した。このようなトナーは、高い帯電量を有し、且つ長鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレートのユニットAとオキサゾリン基の間での斥力が十分に生じると考えられ、常温常湿下だけでなく高温高湿下においても優れた流動性を有するトナーが得られる。また、優れた流動性を発揮させる上記の斥力は、コアとシェルの密着性が高いほど大きくなると推測される。
【0029】
<コア>
トナー粒子は、樹脂成分を含有するコアを有する。該コアに含有される離型剤や着色剤等を適切な量とするため、該コア中の樹脂成分の含有割合は70.0~95.0質量%であることが好ましい。
【0030】
樹脂成分は式(1)で示されるモノマーユニットAを有する樹脂Aを含有する。
【0031】
樹脂Aは例えば、後述する重合性単量体Aを含む単量体組成物に対し重合反応を行うことによって得られる樹脂をトナー製造の原料とすることで、トナーの樹脂成分として含有させることができる。
【0032】
樹脂成分は、結着樹脂であることが好ましい。即ち、結着樹脂を含有するコアと、該コアの表面を覆うシェルと、を有するトナー粒子を有するトナーであって、該結着樹脂が樹脂Aを含有することが好ましい。
【0033】
<樹脂A及びモノマーユニットA>
樹脂Aは上記式(1)で示されるモノマーユニットAを含有する。式(1)中のRが炭素数12以上36以下のアルキル基であることで、比較的に高極性なオキサゾリン基との斥力が生じやすく、優れた流動性を有するトナーが得られやすいと推測される。以下、式(1)中の炭素数12以上36以下のアルキル基(R)を長鎖アルキル基とも表記する。
【0034】
また、樹脂A中のモノマーユニットAの含有割合が2.0質量%以上80.0質量%以下である。樹脂A中のモノマーユニットAが2.0質量%以上であると、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。そのため2.0質量%以上であり、5.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることがより好ましく、30.0質量%以上であることがより好ましく、50.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、80.0質量%以下であると、樹脂Aの極性が低くなりすぎず、樹脂Aとシェルとの密着性が適切に保たれやすい。その結果、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。そのため、80.0質量%以下であり、75.0質量%以下であることが好ましく、70.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
また、式(1)中のRは炭素数が12以上36以下のアルキル基である。Rのアルキル基の炭素数が12以上であると、シェルに存在するオキサゾリン基との斥力が十分に大きいと考えられ、優れた流動性を有するトナーが得られやすい。そのため、該炭素数が12以上であり、好ましくは16以上であり、より好ましくは18以上である。また、R1のアルキル基の炭素数が36以下であると、樹脂Aとシェルとの密着性が適切に保たれやすく、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。そのため、該炭素数が36以下であり、好ましくは30以下であり、より好ましくは26以下であり、さらに好ましくは22以下である。また、炭素数12以上36以下のアルキル基は、直鎖の炭素数12以上36以下のアルキル基であることが好ましい。また、R2は水素であることが好ましい。
【0036】
モノマーユニットAを有する樹脂Aは炭素数12~36のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを重合性単量体(以下、重合性単量体Aとも表記する。)としてビニル重合させることで、樹脂Aのモノマーユニットとして組み込むことが可能である。即ち、樹脂Aはビニル系樹脂であることが好ましい。
【0037】
重合性単量体Aは、炭素数12~36のアルキル基を有する(メタ)アクリレートである。
【0038】
炭素数12~36のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、炭素数12~36の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ヘンエイコサニル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸リグノセリル、(メタ)アクリル酸セリル、(メタ)アクリル酸オクタコサ、(メタ)アクリル酸ミリシル、(メタ)アクリル酸ドドリアコンタ等]が挙げられる。
【0039】
重合性単量体A及びモノマーユニットAは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
なお、樹脂Aが2種以上のモノマーユニットAを有する場合の、樹脂A中のモノマーユニットAの含有割合は、それぞれの含有割合の合計とする。
【0041】
<モノマーユニットC>
樹脂AはモノマーユニットAには該当しない、他のモノマーユニットCを含有することが好ましい。
【0042】
モノマーユニットCは、対応する重合性単量体(以下、重合性単量体Cとも表記する。具体例は後述する。)を重合性単量体として重合(ビニル重合)させることで、樹脂Aのモノマーユニットとして組み込むことが可能である。
【0043】
また、モノマーユニットCは下記式(3)で示されるモノマーユニット、下記式(4)で示されるモノマーユニット及び下記式(5)で示されるモノマーユニットからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーユニットであることが好ましい。
【0044】
【化3】
【0045】
(式(3)中、Rは水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、Rは水素又はメチル基を示す。式(4)中、Rは水素又はメチル基を示す。)
上記からなる群から選択される少なくとも1つのモノマーユニットCを含有することで、トナーコア中の樹脂Aとシェル中の樹脂Bとの密着性が高まりやすく、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。
【0046】
優れた流動性を有するトナーが得られやすいといった観点から、式(3)中、Rは水素又は炭素数4の直鎖のアルキル基(即ち、n-ブチル基)であることがより好ましい。また、式(4)中、Rはメチル基であることがより好ましい。
【0047】
モノマーユニットCは式(4)で示されるモノマーユニット及び式(5)で示されるモノマーユニットからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーユニットであることがより好ましい。
【0048】
また、モノマーユニットCは式(4)で示されるモノマーユニットであることがさらに好ましい。
【0049】
また、樹脂A中のモノマーユニットCの含有割合は25.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。該含有割合が25.0質量%以上であると、トナーコア中の樹脂Aとシェル中の樹脂Bとの密着性が高まりやすく、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。そのため、25.0質量%以上であることが好ましく、40.0質量%以上であることがより好ましい。また、95.0質量%以下であると、シェルで帯電される電荷が過度にトナー粒子のコアに移動しにくく、高い帯電量を有するトナーが得られやすい。そのため、95.0質量%以下であることが好ましく、80.0質量%以下であることがより好ましく、70.0質量%以下であることがより好ましく、60.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
樹脂Aを形成し得る重合性単量体A以外の重合性単量体Cとしては、例えば、以下に挙げる単量体などが挙げられる。
【0051】
スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼンのようなスチレン系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシルのような不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸のような不飽和カルボン酸、マレイン酸のような不飽和ジカルボン酸、マレイン酸無水物のような不飽和ジカルボン酸無水物、アクリロニトリルのようなニトリル系ビニル単量体、塩化ビニルのような含ハロゲン系ビニル単量体、ニトロスチレンのようなニトロ系ビニル単量体、及びジビニルベンゼン、ヘキサンジオールジアクリレートのような重合性不飽和基を2つ有する単量体など。これらの単量体を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0052】
<樹脂Aの酸価>
上記樹脂Aの酸価は、20.0mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂Aの酸価が、20.0mgKOH/g以下であると、シェルに存在するオキサゾリン基と樹脂A中のカルボキシル基との反応が起こりにくく、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。該オキサゾリン基と該カルボキシル基との反応により生じるトナーへの影響メカニズムは以下のように考えている。
【0053】
シェルに存在するオキサゾリン基と樹脂A中に存在するカルボキシル基との反応が生じると、該オキサゾリン基と該カルボキシル基とでアミドエステル結合を形成する。そしてアミドエステル結合を形成した部分は、構造が変化することにより他のオキサゾリン基が存在する部分とは帯電量が異なる。さらに、オキサゾリン基由来のアミド構造は樹脂Aと共有結合するため、該アミド構造が樹脂Aの方向即ちトナー粒子の内側方向を向く。上記の、オキサゾリン基の構造の変化、及びオキサゾリン基由来のアミド構造がトナー粒子の内側を向くこと、によって、トナー粒子中において帯電量の偏りが生じ、静電付着力が大きいトナーが得られやすくなってしまうと考えられる。
【0054】
上記理由より、樹脂Aの酸価は20.0mgKOH/g以下であることが好ましく、15.0mgKOH/g以下であることがより好ましく、10.0mgKOH/g以下であることがより好ましく、8.0mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。下限は特に制限されず、0.0mgKOH/g以上である。即ち、樹脂Aの酸価は0.0mgKOH/g以上20.0mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂Aの酸価は、樹脂Aを製造する際に用いる原料の種類及び/又は量によって制御することができる。
【0055】
<樹脂Aに関するその他の形態>
樹脂Aは、ビニル系樹脂であることが好ましい。また、樹脂Aがビニル系樹脂である場合、樹脂Aは、ポリエステルなどのビニル系樹脂以外の樹脂と結合したハイブリッド樹脂(ビニル系樹脂である樹脂Aとビニル系樹脂以外の樹脂とのハイブリッド樹脂)の一部であってもよい。その場合、該ハイブリッド樹脂中の樹脂Aの含有割合は、50.0質量%以上である。該含有割合は80.0質量%以上であることがより好ましく、95.0質量%以上であることがさらに好ましい。結合とは、例えば、共有結合などが挙げられる。
【0056】
樹脂A中に、樹脂Bの特徴的なモノマーユニットであり上記式(2)で示されるモノマーユニットBが含まれてもよい。その場合、樹脂A中のモノマーユニットBの含有割合は、9.9質量%以下であることが好ましい。樹脂A中のモノマーユニットBの含有割合が9.9質量%以下であると、トナー粒子中のコアの疎水性が適切に保たれやすく、優れた流動性を有するトナーが得られやすい。そのため、9.9質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.0質量%であることがさらに好ましい。0.0質量%であるということは、樹脂A中にモノマーユニットBが含有されていないことを意味する。
【0057】
樹脂A以外に、樹脂成分として併用することのできるその他の樹脂としては特に限定されることはない。その他の樹脂としては例えば、ポリエステル、樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。樹脂Aとこれらの樹脂を併用して複数種の樹脂を用いてもよいが、トナー中の樹脂Aの含有割合が30.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。該含有割合が、30.0質量%以上であると、上記長鎖アルキル基とオキサゾリン基との斥力が十分に生じ、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。そのため、30.0質量%以上であることが好ましく、40.0質量%以上であることがより好ましく、50.0質量%以上であることがより好ましく、70.0質量%以上であることがより好ましく、75.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、90.0質量%以下であると、トナーの帯電量が適切に保たれやすい。そのため、90.0質量%以下であることが好ましく、85.0質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
上記と同様に、優れた流動性を有するトナーが得られやすいため、本発明に係るコアに含有される樹脂成分中の樹脂Aの含有割合が50.0質量%以上であることが好ましい。該含有割合が60.0質量%以上であることがより好ましく、75.0質量%以上であることがより好ましく、90.0質量%以上であることがさらに好ましい。上限は特に制限されず、100.0質量%である。該含有割合が100.0質量%ということは、本発明に係るコアに含有される樹脂成分が樹脂Aのみであることを意味する。
【0059】
樹脂Aは、樹脂成分中に複数種含有されてもよい。樹脂成分中に複数種の樹脂Aが含有される場合、樹脂Aに該当する樹脂の質量の合計を、樹脂Aの含有量とする。
【0060】
樹脂成分にポリエステルを併用する場合は、例えば、2価のカルボン酸又はその誘導体と2価のアルコールとを構成成分として、縮重合反応を行うことでポリエステルを製造することができる。また、1価又は3価以上のカルボン酸又はその誘導体、1価又は3価以上のアルコールを構成成分として含み、縮重合反応を行うことで得られるポリエステルであってもよい。
【0061】
2価のカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン-1,10-ジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、及び、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸、ヘット酸、ハイミック酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0062】
また、2価のカルボン酸の誘導体としては、上記脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物、エステル化物及び酸無水物などが挙げられる。
【0063】
3価以上のカルボン酸やその無水物としては、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸などが挙げられる。
【0064】
2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の非環式の脂肪族ジオール、及び、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのビスフェノール類、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物、キシリレングリコール等のアラルキレングリコール類等の芳香族ジオールなどが挙げられる。
【0065】
<シェル>
シェルは、式(2)で示されるモノマーユニットBを有する樹脂Bを含有する。樹脂Bをトナー粒子のシェルとして含有させる方法としては、例えば、樹脂Bを分散させた溶液中にトナーコアを分散させ、その状態で撹拌及び昇温する方法が挙げられる。
【0066】
<樹脂B及びモノマーユニットB>
樹脂Bは式(2)で示されるモノマーユニットBを有する。モノマーユニットBを有することで、高い帯電量を持つトナーが得られやすい。
【0067】
また、高い帯電量を持つトナーが得られやすいため、本発明のトナーは正帯電性トナーであることが好ましい。これは、樹脂Bが正に帯電しやすい樹脂であるためである。
【0068】
式(2)中のRは水素、メチル基又はエチル基である。また、式(2)中のRは水素又はメチル基であることが好ましい。式(2)中のRが水素、メチル基又はエチル基であることで、式(2)に示すオキサゾリン基の運動性が十分に保たれることで、オキサゾリン基が均一にトナー粒子の外に向きやすく、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。
【0069】
モノマーユニットBを有する樹脂Bは、オキサゾリン基を有するビニル系モノマーを重合性単量体(以下、重合性単量体Bとも表記する。)としてビニル重合させることで、樹脂Bのモノマーユニットとして組み込むことが可能である。即ち、樹脂Bはビニル系樹脂であることが好ましい。
【0070】
重合性単量体Bは、オキサゾリン基を有するビニル系モノマーである。
【0071】
オキサゾリン基を有するビニル系モノマーとしては例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられる。
【0072】
重合性単量体B及びモノマーユニットBは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0073】
なお、樹脂Bが2種以上のモノマーユニットBを有する場合の、樹脂B中のモノマーユニットBの含有割合は、それぞれの含有割合の合計とする。
【0074】
樹脂B中の、モノマーユニットBの含有割合が10.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。該含有割合が10.0質量%以上であると、高い帯電量を持つトナーが得られやすい。そのため、10.0質量%以上であることが好ましく、30.0質量%以上であることがより好ましく、40.0質量%以上であることがより好ましく、50.0質量%以上であることがより好ましく、70.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、95.0質量%以下であると、樹脂B中のオキサゾリン基がトナー粒子の外に向きやすく、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。そのため、95.0質量%以下であることが好ましく、90.0質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
<モノマーユニットD>
樹脂BはモノマーユニットBには該当しない、他のモノマーユニットDを含有することが好ましい。
【0076】
モノマーユニットDは、対応する重合性単量体(以下、重合性単量体Dとも表記する。具体例は後述する。)を重合性単量体として重合(ビニル重合)させることで、樹脂Bのモノマーユニットとして組み込むことが可能である。
【0077】
モノマーユニットDは下記式(4)で示されるモノマーユニット及び下記式(6)で示されるモノマーユニットからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーユニットであることが好ましい。
【0078】
【化4】
【0079】
(式(4)中、Rは水素又はメチル基を示す。式(6)中、Rは水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、Rは水素又はメチル基を示す。)
上記の群から選択される少なくとも一つのモノマーユニットDを含有することで、コア中の樹脂Aとシェル中の樹脂Bとの密着性が高まりやすく、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。
【0080】
高い帯電量を有し、且つ優れた流動性を有するトナーが得られやすいといった観点から、式(4)中、Rはメチル基であることがより好ましい。また、式(6)中、Rがメチル基であり、且つ、Rがメチル基であることがより好ましい。
【0081】
また、モノマーユニットCは下記式(6)で示され、式(6)中、Rがメチル基であり、且つ、Rがメチル基であるモノマーユニットであることがさらに好ましい。
【0082】
高い帯電量を有し、且つ優れた流動性を有するトナーが得られやすいといった観点から、樹脂B中のモノマーユニットDの含有割合は10.0質量%以上70.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10.0質量%以上50.0質量%以下であり、より好ましくは、10.0質量%以上30.0質量%以下であり、さらに好ましくは、10.0質量%以上20.0質量%以下である。
【0083】
<樹脂Bに関するその他の形態>
また、トナー中の樹脂Bの含有割合は、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。該含有割合が1.0質量%以上であることで、高い帯電量を持つトナーが得られやすい。そのため、1.0質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましい。また、10.0質量%以下であると、トナー中の樹脂Bの含有割合が大きくなりすぎないため、トナーの過剰帯電が起こりにくく、好適な帯電量を有するトナーが得られやすい。そのため、10.0質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0084】
また、高い帯電量を持つトナーが得られやすいため、本発明に係るシェル中の樹脂Bの含有割合が50.0質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、75.0質量%以上であり、さらに好ましくは、90.0質量%以上である。上限は特に制限されず、100.0質量%である。該含有割合が100.0質量%ということは、本発明に係るシェルが樹脂Bであることを意味する。
【0085】
また、本発明に係るコアに含有される樹脂Aの質量に対する、本発明に係るシェルに含有される樹脂Bの質量の割合が、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。上記を満たす質量比でコア中に樹脂Aが含有され、及びシェル中に樹脂Bが含有されることで、高い帯電量を有し、且つ優れた流動性を有するトナーが得られやすいため好ましい。より好ましくは3.0~7.0質量%であり、さらに好ましくは4.0~6.0質量%である。
【0086】
樹脂Bは、樹脂成分中に複数種含有されてもよい。樹脂成分中に複数種の樹脂Bが含有される場合、樹脂Bに該当する樹脂の質量の合計を、樹脂Bの含有量とする。
【0087】
樹脂B中に、樹脂Aの特徴的なモノマーユニットであり上記式(1)で示されるモノマーユニットAが含まれてもよい。その場合、樹脂B中のモノマーユニットAの含有割合は、1.9質量%以下であることが好ましい。重合体B中のモノマーユニットAの含有割合が1.9質量%以下であると、高い帯電量を有するトナーが得られやすい。そのため、1.9質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.0質量%であることがさらに好ましい。0.0質量%であるということは、樹脂B中にモノマーユニットAが含有されていないことを意味する。
【0088】
また、シェル用樹脂として、モノマーユニットBを有する樹脂B以外の樹脂を併用してもよい。樹脂B以外の樹脂としては、以下のものが挙げられる。
【0089】
メラミン樹脂、尿素(ユリア)樹脂、スルホンアミド樹脂、グリオキザール樹脂、グアナミン樹脂、アニリン樹脂、又はこれら各樹脂の誘導体、ポリイミド、マレイミド系重合体、ビスマレイミド、アミノビスマレイミド、又はビスマレイミドトリアジンなどの熱硬化性樹脂。及び樹脂Bに該当しないビニル樹脂やポリエステルなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、複数種を併用して用いてもよい。
【0090】
樹脂Bを形成し得る重合性単量体B以外の重合性単量体Dとしては、例えば、上述の重合性単量体Cとして挙げた単量体が挙げられる。これらの単量体を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0091】
樹脂BのSP値をSPとしたとき、SPが21.50(J/cm0.5以上25.00(J/cm0.5以下であることが好ましい。本発明者らの検討の結果、SPが21.50(J/cm0.5以上であると、高い帯電量を有するトナーが得られやすかった。そのため、21.50(J/cm0.5以上であることが好ましく、22.00(J/cm0.5以上であることがより好ましい。また、該SPが25.00(J/cm0.5以下であると、トナーの過剰帯電が起こりにくく、好適な帯電量を有するトナーが得られやすかった。そのため、25.00(J/cm0.5以下であることが好ましく、24.50(J/cm0.5以下であることがより好ましく、24.00(J/cm0.5以下であることがさらに好ましい。
【0092】
樹脂AのSP値をSPとし、樹脂BのSP値をSPとしたとき、SP-SPが0.00(J/cm0.5以上7.00(J/cm0.5以下であることが好ましい。上記SP-SPが0.00(J/cm0.5以上であると、トナーコア中の樹脂Aとシェル中の樹脂Bとの密着性が適切に保たれ、シェルで生じた電荷がコア粒子へ過度に受け渡されにくく、高い帯電量を持つトナーが得られやすいと考えられる。そのため、0.00(J/cm0.5以上であることが好ましく、1.00(J/cm0.5以上であることがより好ましく、2.00(J/cm0.5以上であることがさらに好ましい。また、7.00(J/cm)0.5以下であると、トナーコア中の樹脂Aとシェル中の樹脂Bとの密着性が高まりやすく、優れた流動性を持つトナーが得られやすい。そのため、7.00(J/cm)0.5以下であることが好ましく、6.00(J/cm0.5以下であることがより好ましく、5.00(J/cm0.5以下であることがさらに好ましい。
【0093】
上記SP及びSPは、用いる原料の種類及び/又は量によって制御することができる。
【0094】
<各種添加剤>
必要により、着色剤、離型剤、磁性体、荷電制御剤、及び外添剤などから選ばれる1種以上の添加剤を含有してもよい。
【0095】
<着色剤>
着色剤としては、ブラック用着色剤、イエロー用着色剤、マゼンタ用着色剤、及びシアン用着色剤などの着色剤が使用可能である。
【0096】
ブラック用着色剤としては、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0097】
イエロー用着色剤としては、モノアゾ化合物;ジスアゾ化合物;縮合アゾ化合物;イソインドリノン化合物;イソインドリン化合物;ベンズイミダゾロン化合物;アンスラキノン化合物;アゾ金属錯体;メチン化合物;アリルアミド化合物などに代表されるイエロー顔料が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー74,93,95,109,111,128,155,174,180,185などが挙げられる。
【0098】
マゼンタ用着色剤としては、モノアゾ化合物;縮合アゾ化合物;ジケトピロロピロール化合物;アントラキノン化合物;キナクリドン化合物;塩基染料レーキ化合物;ナフトール化合物:ベンズイミダゾロン化合物;チオインジゴ化合物;ペリレン化合物などに代表されるマゼンタ顔料が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド2,3,5,6,7,23,48:2,48:3,48:4,57:1,81:1,122,144,146,150,166,169,177,184,185,202,206,220,221,238,254,269、C.I.ピグメントバイオレッド19などが挙げられる。
【0099】
シアン用着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物;塩基染料レ-キ化合物などに代表されるシアン顔料が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー1,7,15,15:1,15:2,15:3,15:4,60,62,66が挙げられる。
【0100】
また、顔料とともに、着色剤として従来知られている種々の染料を用いることもできる。
【0101】
トナー中の着色剤の含有割合は、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましい。
【0102】
<磁性体>
本発明のトナーは、磁性体を含有させて磁性トナーとしてもよい。また、磁性体は着色剤の役割を担っていてもよい。
【0103】
磁性体としては、以下の、マグネタイト、ヘマタイト、フェライト等に代表される酸化鉄;鉄、コバルト、ニッケル等に代表される金属あるいはこれらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウム等の金属との合金及びその混合物等が挙げられる。
【0104】
トナー中の磁性体の含有割合は、25.0質量%以上60.0質量%以下であることが好ましく、30.0質量%以上50.0質量%以下であることがより好ましい。
【0105】
<離型剤>
離型剤としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0106】
ベヘン酸ベヘニル、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸パルミチル等の1価アルコールとモノカルボン酸とのエステル類;セバシン酸ジベヘニル等の2価カルボン酸とモノアルコールのエステル類;エチレングリコールジステアレート、ヘキサンジオールジベヘネート等の2価アルコールとモノカルボン酸とのエステル類;グリセリントリベヘネート等の3価アルコールとモノカルボン酸とのエステル類;ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート等の4価アルコールとモノカルボン酸とのエステル類;ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミテート等の6価アルコールとモノカルボン酸とのエステル類;ポリグリセリンベヘネート等の多官能アルコールとモノカルボン酸とのエステル類;カルナバワックス、ライスワックス等の天然エステルワックス類;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系炭化水素ワックス及びその誘導体;フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス及びその誘導体;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィン系炭化水素ワックス及びその誘導体;高級脂肪族アルコール;ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸;酸アミドワックス等。
【0107】
トナー中のワックスの含有量は、1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上20.0質量%以下であることがより好ましい。
【0108】
<荷電制御剤>
荷電制御剤としては、特段の制限なく用いることができる。
【0109】
負帯電制御剤の例として以下のものが挙げられる。
【0110】
サリチル酸、アルキルサリチル酸、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸等の芳香族カルボン酸の金属化合物又は上記芳香族カルボン酸の金属化合物を有する重合体若しくは共重合体。スルホン酸基、スルホン酸塩基若しくはスルホン酸エステル基を有する重合体又は共重合体。アゾ染料若しくはアゾ顔料の金属塩又は金属錯体。ホウ素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーン等が挙げられる。
【0111】
また、正帯電制御剤の例としては、四級アンモニウム塩、四級アンモニウム塩を側鎖に有する高分子型化合物;グアニジン化合物;ピリジン系化合物;ニグロシン系化合物;イミダゾール化合物等が挙げられる。
【0112】
トナー中の荷電制御剤の含有量は、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。
【0113】
<外添剤>
外添剤としては、以下の外添剤を用いることができる。
【0114】
例えば、シリカ粒子、及び金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム等)等の無機微粒子などが挙げられる。また、樹脂、シリコーン樹脂、及びメラミン樹脂等からなる有機微粒子、及び有機無機複合微粒子等も例として挙げられる。
【0115】
また、外添剤は表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、シリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、未変性のシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機ケイ素化合物、有機チタン化合物等が挙げられる。これらの表面処理剤は、単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0116】
<トナーの製造方法>
本発明のトナーの製造方法としては、懸濁重合法、溶解懸濁法、乳化凝集法、粉砕法等の製造方法を用いることができるが、これらに限定されるものではない。本発明のトナーは、樹脂成分を含有するコアと、該コアの表面を覆うシェルとを備えるトナーであるが、該コアを上記した製造方法で準備したのちに、外部からシェルを形成する製造方法が好ましい。その中でも、粉砕法又は懸濁重合法で該コアを製造したのちに、水系にて外部からシェルを形成する製造方法がより好ましい。
【0117】
<各種測定方法等>
以下、各種の測定方法等に関して記載する。
【0118】
<トナー粒子中のシェルの有無の観察>
トナー粒子のシェルの有無の観察は、トナー粒子の断面の形態を観察することによって行うことができる。トナー粒子の断面の形態を観察する具体的方法としては、以下の通り。
【0119】
まず、光硬化性のエポキシ樹脂中にトナー粒子を十分分散させた後、紫外線を照射して上記エポキシ樹脂を硬化させ、硬化物を得る。得られた硬化物を、ダイヤモンド刃を備えたミクロトームを用いて切断し、厚さ100nmの薄片状のサンプルを作製する。上記サンプルに、必要に応じて四酸化ルテニウムを用い染色を施した後、透過型電子顕微鏡(TEM)(商品名:電子顕微鏡Tecnai TF20XT、FEI社製)を用い、加速電圧120kVの条件でトナーの断面を観察してTEM画像を得る。
【0120】
上記した観察方法において、シェルが存在し、コアとシェルが異なる成分である場合、染色状態の違いや元素マッピングによるコントラストが観察される。観察倍率は20000倍とする。
【0121】
<樹脂中の各種モノマーユニットの含有割合の測定方法>
樹脂中のモノマーユニットの含有割合の測定は、1H-NMRにより以下の条件にて行う。
【0122】
測定装置 :FT NMR装置 JNM-EX400(日本電子社製)
測定周波数:400MHz
パルス条件:5.0μs
周波数範囲:10500Hz
積算回数 :64回
測定温度 :30℃
試料 :試料50mgを重クロロホルム(CDCl)に添加し、これを40℃の恒温槽内で溶解させて調製する。得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マイショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。該サンプル溶液を内径5mmのサンプルチューブに入れて測定に用いる。
【0123】
得られたH-NMRチャートを解析し、各モノマーユニットの構造を同定する。ここでは一例として、本発明に係る樹脂A中のモノマーユニットAの含有割合の測定について記載する。得られたH-NMRチャートにおいて、モノマーユニットAの構成要素に帰属されるピークの中から、その他のモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択し、このピークの積分値S1を算出する。樹脂A中に含有されるその他のモノマーユニットについても、それぞれ同様に積分値を算出する。
【0124】
樹脂Aを構成するモノマーユニットがモノマーユニットAとその他のモノマーユニット1種である場合、モノマーユニットAの含有割合は、上記積分値S1、及びその他のモノマーユニットのピークの積分値S2を用いて、以下のようにして求める。なお、n1、n2はそれぞれの部位について着眼したピークが帰属される構成要素における水素の数である。
【0125】
モノマーユニットAの含有割合(モル%)=
{(S1/n1)/((S1/n1)+(S2/n2))}×100
その他のモノマーユニットが2種以上ある場合でも同様にモノマーユニットAの含有割合を算出できる。
【0126】
本発明に係る樹脂B中のモノマーユニットBの含有割合の測定も、上記と同様の方法で行う。
【0127】
なお、ビニル基以外の構成要素に水素原子が含まれない重合性単量体が使用されている場合は、13C-NMRを用いて測定原子核を13Cとし、シングルパルスモードにて測定を行い、H-NMRにて同様にして算出する。
【0128】
<トナー粒子表面に存在する樹脂B及びモノマーユニットBの検出>
トナー粒子表面に存在する樹脂Bの検出には、TOF-SIMS(アルバック・ファイ社製、TRIFT-IV)を使用する。分析条件は以下の通りである。
【0129】
サンプル調整:トナー粒子をインジウムシートに付着させる。
【0130】
サンプル前処理:なし
一次イオン:Au
加速電圧:30kV
電荷中和モード:On
測定モード:Positive
ラスターサイズ:100μm
積算時間:180秒
上記測定を行うことで、トナー表面に存在する、モノマーユニットBを有する樹脂Bを検出することが出来る。トナー粒子のシェルの存在を観察によって確認し、該測定を行うことで、シェルが樹脂Bを含有しているかどうかを判断できる。
【0131】
また、樹脂B中のモノマーユニットBの含有割合は、上記条件で得られる2次イオンマススペクトル(縦軸:強度、横軸:質量数=m/z)のオキサゾリン基由来のスペクトル強度から、濃度既知のサンプルを元に作成した検量線を用いて算出することもできる。
【0132】
<樹脂の重量平均分子量(Mw)の測定>
樹脂試料の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。
【0133】
まず、室温で24時間かけて、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。そして、得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マイショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。なお、サンプル溶液は、THFに可溶な成分の試料が0.8質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
【0134】
装置:HLC8120 GPC(検出器:RI)(東ソー社製)
カラム:Shodex KF-801、802、803、804、805、806、807の7連(昭和電工社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:0.10mL
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F-850、F-450、F-288、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000、A-2500、A-1000、A-500」、東ソー社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
【0135】
<SP値の算出方法>
モノマーユニットのSP値及び樹脂のSP値は、Fedorsによって提案された算出方法に従い、以下のようにして求める。
【0136】
モノマーユニットのSP値は、それぞれのモノマーユニットについて、分子構造中の原子又は原子団に対して、「polym.Eng.Sci.,14(2),147-154(1974)」に記載の表から蒸発エネルギー(Δei)(cal/mol)及びモル体積(Δvi)(cm/mol)を求め、(4.184×ΣΔei/ΣΔvi)0.5をSP値(J/cm0.5とする。ポリエステルに用いられるアルコール系及びカルボン酸系単量体に由来するユニットのSP値を算出する場合、全ての水酸基及びカルボン酸基をエステル基に置き換え、且つ何れか1つのエステル基を除いた構造をモノマーユニットとした。
【0137】
樹脂のSP値は、該樹脂を構成するモノマーユニットの蒸発エネルギー(Δei)及びモル体積(Δvi)をモノマーユニット毎に求め、各モノマーユニットの樹脂中におけるモル比(j)との積をそれぞれ算出し、下記式より算出する。
【0138】
樹脂のSP値={(Σj×ΣΔei)/(Σj×ΣΔvi)}0.5
<樹脂の酸価の測定方法>
酸価は試料1gに含まれる酸を中和するために必要な水酸化カリウムの重量(mg)である。本発明における樹脂の酸価はJIS K 0070-1992に準じて測定されるが、具体的には、以下の手順に従って測定する。
【0139】
(1)試薬の準備
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95体積%)90mLに溶かし、イオン交換水を加えて100mLとし、フェノールフタレイン溶液を得る。
【0140】
特級水酸化カリウム7gを5mLの水に溶かし、エチルアルコール(95体積%)を加えて1Lとする。炭酸ガス等に触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、濾過して、水酸化カリウム溶液を得る。得られた水酸化カリウム溶液は、耐アルカリ性の容器に保管する。上記水酸化カリウム溶液のファクターは、0.1モル/L塩酸25mLを三角フラスコに取り、上記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、上記水酸化カリウム溶液で滴定し、中和に要した上記水酸化カリウム溶液の量から求める。上記0.1モル/L塩酸は、JIS K 8001-1998に準じて作成されたものを用いる。
【0141】
(2)操作
(A)本試験
溶融混練して粉砕したトナーの試料2.0gを200mLの三角フラスコに精秤し、トルエン/エタノール(2:1)の混合溶液100mLを加え、5時間かけて溶解する。次いで、指示薬として上記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、上記水酸化カリウム溶液を用いて滴定する。なお、滴定の終点は、指示薬の薄い紅色が30秒間続いたときとする。
【0142】
(B)空試験
試料を用いない(すなわちトルエン/エタノール(2:1)の混合溶液のみとする)以外は、上記操作と同様の滴定を行う。
【0143】
(3)得られた結果を下記式に代入して、酸価を算出する。
【0144】
A=[(C-B)×f×5.61]/S
ここで、A:酸価(mgKOH/g)、B:空試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)、C:本試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)、f:水酸化カリウム溶液のファクター、S:試料(g)である。
【実施例
【0145】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例において部は、特に断りのない限り質量基準である。
【0146】
<結着樹脂1の製造例>
還流冷却管、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、下記材料を投入した。
【0147】
・トルエン 100.0部
・単量体組成物 100.0部
(単量体組成物は以下のアクリル酸ベヘニル・メタクリロニトリル・スチレンを以下に示す割合で混合したものとする)
・アクリル酸ベヘニル(モノマーユニットAに対応する単量体) 50.0部
・メタクリロニトリル(その他の単量体) 30.0部
・スチレン(その他の単量体) 20.0部
・重合開始剤 t-ブチルパーオキシピバレート(日油社製:パーブチルPV)0.5部
上記反応容器内を200rpmで撹拌しながら、70℃に加熱して12時間重合反応を行い、単量体組成物の重合体がトルエンに溶解した溶解液を得た。続いて、該溶解液を25℃まで降温した後、1000.0部のメタノール中に上記溶解液を撹拌しながら投入し、メタノール不溶分を沈殿させた。得られたメタノール不溶分を濾別し、更にメタノールで洗浄後、40℃で24時間真空乾燥して結着樹脂1を得た。結着樹脂1の酸価は0.0mgKOH/g、組成比から算出されるSP値(SPA)は20.75であった。また、結着樹脂1のNMR測定を行ったところ、結着樹脂1を構成しているモノマーユニットは、アクリル酸ベヘニル由来のユニットが50.0質量%、メタクリロニトリル由来のユニットが30.0質量%、スチレン由来のユニットが20.0質量%であった。
【0148】
<結着樹脂2~20の製造例>
表1に示すように、単量体の種類と添加量を変更すること以外は結着樹脂1の製造例と同様にして、結着樹脂2~20を得た。
【0149】
<結着樹脂22の製造例>
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、精留塔、及び攪拌装置を備えた容量5Lの反応容器を油浴にセットし、その容器にプロピレングリコール1200部、テレフタル酸1700部、及びエステル化触媒(2-エチルヘキサン酸錫(II))3部を投入した。続けて、油浴を用いて容器内の温度を230℃に昇温させて、窒素雰囲気且つ温度230℃の条件で、容器内容物を15時間反応(縮合反応)させた。続けて、容器内を減圧し、減圧雰囲気(圧力8.0kPa)且つ温度230℃の条件で、結着樹脂22(ポリエステル)を得た。結着樹脂22のSP値は22.10(J/cm0.5、酸価は18.9mgKOH/gであった。また、結着樹脂22のNMR測定を行ったところ、結着樹脂を構成しているモノマーユニットは、プロピレングリコール由来のユニットが41.4質量%、テレフタル酸由来のユニットが58.6質量%であった。
【0150】
得られた結着樹脂1~22のSP値(SP)及び酸価について表1に示す。また、得られた結着樹脂1~21のNMR測定を行って得られる、それぞれの結着樹脂を構成しているモノマーユニットとその含有割合を表2に示す。結着樹脂21については後述する。
【0151】
【表1】
【0152】
表1及び表2中の略号が以下の通り。
BEA:アクリル酸ベヘニル
DOA:アクリル酸ドデシル
SA:アクリル酸ステアリル
TRA:アクリル酸トリアコンチル
St:スチレン
MN:メタクリロニトリル
BuA:アクリル酸ノルマルブチル
OcA:アクリル酸オクチル
AA:アクリル酸
PG:プロピレングリコール
TPA:テレフタル酸
表1中、SPの単位は、(J/cm0.5であり、結着樹脂の酸価の単位は、mgKOH/gである。
【0153】
※表1において、結着樹脂18~20及び22は本発明に係る樹脂Aに該当する樹脂ではないが、それぞれの結着樹脂のSP値をSPの列に記載している。
【0154】
【表2】
【0155】
<オキサゾリン基含有樹脂B1、及びオキサゾリン基含有樹脂溶解液B1の製造例>
温度計、窒素導入管、攪拌装置(ステンレススチール製の攪拌羽根)、及び流下式コンデンサー(熱交換器)を備えた容量1Lの4つ口フラスコ内に、2-ビニル-2-オキサゾリン30.0部と、メタクリル酸メチル60.0部と、アクリル酸n-ブチル10.0部と、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.7部と、酢酸エチル200部とを入れた。続けて、窒素導入管を通じてフラスコ内に窒素ガスを導入し、フラスコ内を窒素雰囲気(不活性雰囲気)にした。続けて、窒素雰囲気で、フラスコ内容物を攪拌しながら温度235℃まで昇温させて、温度を維持したままフラスコ内を減圧し、減圧雰囲気(圧力8.0kPa)且つ温度235℃の条件で5時間、フラスコ内容物を反応させて、樹脂B1を得た。また、樹脂B1のNMR測定を行ったところ、樹脂B1を構成しているモノマーユニットは、2-ビニル-2-オキサゾリン由来のユニットが30.0質量%、メタクリル酸メチル由来のユニットが60.0質量%、アクリル酸n-ブチル由来のユニットが10.0質量%であった。
【0156】
次いで、樹脂B1を、濃度70質量%の2-プロパノール水溶液に溶解させ、固形分濃度10質量%のオキサゾリン基含有樹脂溶解液B1とした。
【0157】
<オキサゾリン基含有樹脂B2~B6、及びオキサゾリン基含有樹脂溶解液B2~B6の製造例>
表3に示すように、用いる単量体の種類と量を変更すること以外はオキサゾリン基含有樹脂B1、及びオキサゾリン基含有樹脂溶解液B1の製造例と同様にして、オキサゾリン基含有樹脂B2~B6、及びオキサゾリン基含有樹脂溶解液B2~B6を得た。
【0158】
後述するオキサゾリン基含有樹脂溶解液「エポクロスWS-300(固形分濃度:10質量%)」及び「エポクロスWS-700(固形分濃度:25質量%)」も含めて樹脂B1~B6のSPについて表3に示す。また、オキサゾリン基含有樹脂B1~B6、エポクロスWS-300、エポクロスWS-700のNMR測定を行って得られる、それぞれの樹脂を構成しているモノマーユニットとその含有割合を表4に示す。
【0159】
【表3】
【0160】
表3及び表4中の略号が以下の通り。
VOX:2-ビニル-2-オキサゾリン
IPOX:2-イソプロペニル-2-オキサゾリン
MM:メタクリル酸メチル
BuA:アクリル酸ノルマルブチル
MN:メタクリロニトリル
表3中、SPの単位は、(J/cm0.5である。
【0161】
【表4】
【0162】
<ポリエステル1の製造例>
減圧装置、水分離装置、窒素ガス導入装置、温度測定装置、撹拌装置を備えたオートクレーブ中に以下の材料を添加した。
【0163】
・テレフタル酸 32.3部(50.0モル%)
・ビスフェノールA-プロピレンオキサイド2モル付加物 67.7部(50.0モル%)
・シュウ酸チタンカリウム(触媒) 0.02部
続いて、窒素雰囲気下、常圧下220℃で所望の分子量に到達するまで反応を行った。降温後粉砕し、ポリエステル1を得た。ポリエステル1の酸価は8.0mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)は12000、組成比から算出されるSP値は22.30(J/cm0.5であった。
【0164】
以下にトナーの製造例を示す。
【0165】
<トナー1の製造例>
(コアの製造)
・結着樹脂1 100.0部
・着色剤(ピグメントブルー15:3) 6.5部
・炭化水素ワックスHNP-9(日本精蝋製、融点74℃) 9.0部
上記材料をヘンシェルミキサー(日本コークス社製)で前混合した後、二軸混練押し出し機(池貝鉄工社製:PCM-30型)によって、溶融混練した。
【0166】
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルで粗粉砕した後、機械式粉砕機(ターボ工業社製:T-250)で粉砕し、微粉砕粉末を得た。得られた微粉砕粉末を、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径が6.6μmのトナーコア(トナー粒子のコア)を得た。
【0167】
(シェルの形成)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内にイオン交換水300部を入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃にした。続けて、150部のオキサゾリン基含有樹脂B1溶解液(株式会社日本触媒製「エポクロスWS-300」、固形分濃度:10質量%)をフラスコ内に加えた。なお、表5中の添加量は、後で添加されるトナーコア100質量部に対して添加されるオキサゾリン基含有樹脂(固形分)の添加量(単位:質量部)を示す。
【0168】
そして、フラスコ内に、前述の手順で作製したトナーコア300部を添加し、回転速度200rpmでフラスコ内容物を1時間攪拌した。その後、フラスコ内にイオン交換水300部を添加し、濃度が1質量%アンモニア水溶液を6mLフラスコ内に添加した。
【0169】
続けて、回転速度150rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、フラスコ内の温度を0.5℃/分の速度で55℃まで昇温させた。続けて、回転速度100rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、その温度(55℃)に2時間保った。
【0170】
その後、フラスコ内に濃度1質量%アンモニア水溶液を加えて、フラスコ内容物のpHを7に調整した。得られたスラリーを常温(約25℃)まで冷却し、洗浄・濾過・固液分離した後、真空乾燥機を用いて乾燥し、トナー粒子1を得た。トナー粒子1中の、オキサゾリン基含有樹脂の含有割合は、4.6質量%であった。
【0171】
続いて、100.0質量部のトナー粒子1に対して、外添剤としてシリカ微粒子(ヘキサメチルジシラザンによる疎水化処理、1次粒子の個数平均粒径:10nm、BET比表面積:170m/g)3.0質量部を加えた。そして、ヘンシェルミキサー(日本コークス社製)を用い、3000rpmで15分間混合して、トナー1を得た。
【0172】
<トナー2~29、31~35の製造例>
表5及び表6に示すように、結着樹脂の種類、シェルを形成するオキサゾリン基含有樹脂溶解液の種類と量を変更すること以外はトナー1の製造例と同様にして、トナー2~29、31~34を得た。
【0173】
【表5】
【0174】
(表5及び表6中、添加量とは、添加されるトナーコア100質量部に対するオキサゾリン基含有樹脂(固形分)の量(単位:質量部)を示す。また、表5及び表6中、SP-SPの単位は、(J/cm0.5である。)
【0175】
【表6】
【0176】
※表6において、結着樹脂18~20及び22は本発明に係る樹脂Aに該当する樹脂ではないが、表1で記載したSPの値を用いて、SP-SPを算出している。
【0177】
<トナー30の製造例>
(コアスラリーの製造)
・スチレン 60.0部
・着色剤(C.I.Pigment Blue 15:3、大日精化社製) 6.0部
上記材料をアトライタ(三井三池化工機株式会社製)に投入し、さらに直径1.7mmのジルコニア粒子を用いて、220rpmで5時間分散させて、着色剤分散液を得た。
【0178】
・スチレン 10.0部
・アクリル酸ベヘニル 30.0部
・ポリエステル1 5.0部
・炭化水素ワックスHNP-9(日本精蝋製、融点74℃) 9.0部
上記材料を混合し、着色剤分散液に加えた。得られた混合物を60℃に保温し、T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、500rpmで攪拌し、均一に溶解して分散させ、重合性単量体組成物を調製した。
【0179】
一方、高速撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製)を備えた容器中に0.10mol/LのNaPO水溶液850.0部及び10%塩酸8.0部を添加し、回転数を15000rpmに調整し、70℃に加温した。ここに、1.0mol/L-CaCl水溶液68.0部を添加し、リン酸カルシウム化合物を含む水系媒体を調製した。
【0180】
水系媒体中に上記重合性単量体組成物を投入後、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート7.0部を添加し、15000回転/分の回転数を維持しつつ10分間造粒した。その後、高速撹拌機からプロペラ撹拌翼に撹拌機を変え、還流しながら70℃で5時間反応させた後、液温85℃とし、さらに2時間反応させた。
【0181】
重合反応終了後、得られたスラリーを冷却し、静置して粒子を沈降させ、一部の上澄み液を除去することで、固形分濃度25.0質量%のコアスラリーを得た。
【0182】
(シェルの形成)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内に得られたコアスラリー400.0部を入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃にした。続けて、50部のオキサゾリン基含有樹脂分散液(株式会社日本触媒製「エポクロスWS-300」、固形分濃度:10.0質量%)をフラスコ内に加えた。
【0183】
続けて、回転速度200rpmでフラスコ内容物を1時間攪拌し、その後、フラスコ内にイオン交換水300部を添加した。フラスコ内に濃度1.0質量%アンモニア水溶液を6mL添加した後、回転速度150rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、フラスコ内の温度を0.5℃/分の速度で55℃まで昇温させた。続けて、回転速度100rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、その温度(55℃)に2時間保った。
【0184】
続けて、フラスコ内に濃度1質量%アンモニア水溶液を加えて、フラスコ内容物のpHを7に調整した。続けて、得られたスラリーを常温(約25℃)まで冷却した。
【0185】
その後、撹拌を保持したままpHが1.5になるまで希塩酸を加えて分散安定剤である上記リン酸カルシウム化合物を溶解させた。固形分を濾別し、イオン交換水で充分に洗浄した後、40℃で24時間真空乾燥して、トナー粒子を得た。
【0186】
得られたトナー粒子100.0質量部に対して、外添剤として、シリカ微粒子(ヘキサメチルジシラザンによる疎水化処理、1次粒子の個数平均粒径:10nm、BET比表面積:170m/g)2.0質量部を加えてヘンシェルミキサー(日本コークス社製)を用い、3000rpmで15分間混合してトナー30を得た。
【0187】
<結着樹脂21の製造例>
また、上記トナー30の製造例におけるコアスラリーの製造の過程から、着色剤、ポリエステル1、炭化水素ワックスを除いた条件で同様に製造を行い、シェルの形成を行わずに分散安定剤の溶解・固形分の濾別・洗浄・乾燥を行い、結着樹脂21を得た。得られた結着樹脂21のSPA及び酸価を表1に示す。
【0188】
<トナー35の製造例>
表6に示すように、結着樹脂21を用いたこと以外はトナー1の製造例と同様にして、トナー35を得た。
【0189】
得られたトナー1~35のSP-SP、トナー中の結着樹脂の含有割合、及びトナー中のオキサゾリン基含有樹脂の含有割合及びトナー粒子中のシェルの有無を表5及び表6に示す。また、トナー1~35に対して上記のTOF-SIMS分析を行ったところ、トナー1~33及び35のトナー表面に、モノマーユニットBを有する樹脂Bが検出された。
【0190】
<実施例1>
トナー1を以下の様に評価した。評価結果を表7に示す。
【0191】
<トナーの流動性の評価>
レーザープリンタ(商品名:LBP712Ci、キヤノン社製)の改造機を使用し、トナーの流動性の評価を行った。上記改造機の改造点は、電位の設定を変更した点である。トナーの流動性が高いほど現像ローラ(現像部材)へのトナーのコートが速やかになるため、現像ローラの1周目の画像濃度と1周目以降の画像濃度の差が小さくなり、ムラのない良好な画像が得られる。上記電位の設定は、常温常湿環境下において、トナー35に対して下記の流動性評価を行った際に、画像濃度差が0.20となり、下記の帯電量評価を行った際に、画像濃度が1.01となるように設定した。評価時に使用するカートリッジは、市販のカートリッジ中に入っているトナーを抜き取り、エアーブローにて内部を清掃した後、トナー1を100g充填したものを使用した。上記カートリッジを、シアンステーションに装着し、その他にはダミーカートリッジを装着して評価を実施した。さらに、正帯電性トナーの現像が可能になるよう、各種電位設定を変更した。
【0192】
23℃、60%RH環境下(常温常湿環境下)にて、高白色用紙(商品名:GF-C081、キヤノン社製、81.4g/m)を使用し、印字率1%の画像を連続して10000枚出力した。その後、全ベタ画像をサンプル画像として3枚連続で出力した。得られた全ベタ画像の3枚目に対して、画像の左右の中心部における上部から5cmの部分と、上部から20cmの部分の画像濃度を測定し、その測定された画像濃度の差を用いて流動性を評価した。評価結果を表7に示す。濃度測定にはX-rite exact advance(X-rite社製)を用いた。
【0193】
さらに、トナー1が充填された評価用カートリッジを用意し、そのカートリッジを用いて上記と同様の評価を、30℃、80%RH環境下(高温高湿環境下)でも行った。評価結果を表7に示す。常温常湿下での評価と比較して、高湿環境下ではトナーの流動性が上記評価に与える影響がより顕著になっていると思われる。
【0194】
該評価において、常温常湿環境下及び高温高湿環境下での上記画像濃度の差が0.20以下であるものを、本発明の効果が得られているものと判断した。
【0195】
<トナーの帯電量の評価>
上記した常温常湿環境下での流動性評価において、全ベタ画像を3枚出力した後に、先端余白5mm、左右余白5mmで、画像上部から5cmの部分の左、右、中央の合計で3箇所に5mm×5mmのベタ画像を有するチェック画像を出力した。このチェック画像の3箇所のベタ画像部分の画像濃度を測定し、該3箇所の画像濃度の平均値を求めた。画像濃度は反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して測定し、その測定結果で評価を行った。該評価において、画像濃度が1.00以上のものを本発明の効果が得られているものを判断した。本評価において、十分にトナーの帯電量が高い場合には、高い画像濃度が得られる。
【0196】
<実施例2~30>
トナー2~30を実施例1と同様に評価した。評価結果を表7に示す。
尚、実施例21及び23は、参考例として記載するものである。
【0197】
<比較例1~5>
トナー31~35を実施例1と同様に評価した。評価結果を表7に示す。
【0198】
【表7】
【符号の説明】
【0199】
1 トナー粒子のコア
2 トナー粒子のシェル
3 トナー粒子のシェルに含有されている、オキサゾリン基を有するモノマーユニット
4 トナー粒子のコアに含有されている樹脂が有する、長鎖アルキル基
5 トナー粒子のシェルに含有されているオキサゾリン基と、トナー粒子のコアに含有されている長鎖アルキル基との間で生じる斥力
図1