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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】非延焼性グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/02 20060101AFI20240909BHJP
   C10M 169/06 20060101ALI20240909BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20240909BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20240909BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20240909BHJP
   C10M 129/08 20060101ALN20240909BHJP
   C10M 135/06 20060101ALN20240909BHJP
   C10M 135/20 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240909BHJP
【FI】
C10M169/02
C10M169/06
F16C33/66 Z
C10M101/02
C10M115/08
C10M129/08
C10M135/06
C10M135/20
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N30:06
C10N30:08
C10N40:02
C10N50:10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020134681
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030575
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】笠原 教行
(72)【発明者】
【氏名】金澤 裕太
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012639(WO,A1)
【文献】特開2011-105828(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135537(WO,A1)
【文献】特開2004-067843(JP,A)
【文献】特開平06-313184(JP,A)
【文献】特開2006-225297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の全質量を基準として、80~97質量%の、40℃における動粘度が300~550mm2/sである鉱油と、
組成物の全質量を基準として、3~15質量%の、ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとの反応物であるウレア系増ちょう剤と、ジフェニルメタンジイソシアネートとアニリンとの反応物であるウレア系増ちょう剤との混合物と
組成物の全質量を基準として、0.3~5質量%の、ポリスルフィド及び硫化油脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の硫黄系耐荷重添加剤と、
組成物の全質量を基準として、0.2~10質量%の、グリセリン、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパンからなる群から選ばれる少なくとも1種の多価アルコールとを含有し、
組成物に含まれる硫黄元素の濃度が、組成物の全質量を基準として、0.60~1.50質量%であり、
組成物に含まれるリン元素の濃度が高くても100ppmである、非延焼性グリース組成物。
【請求項2】
多価アルコールがグリセリンである、請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
硫黄系耐荷重添加剤が、少なくともポリスルフィドを含む、請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
硫黄系耐荷重添加剤が、ポリスルフィドと硫化油脂との混合物であり、ポリスルフィドと硫化油脂との質量比が、ポリスルフィド:硫化油脂=1:2~2:1である、請求項1~3のいずれか1項に記載のグリース組成物
【請求項5】
前記混合物が、ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとの反応物であるウレア系増ちょう剤と、ジフェニルメタンジイソシアネートとアニリンとの反応物であるウレア系増ちょう剤とを物理的に混合させてなるものである、請求項1~4のいずれか1項に記載のグリース組成物
【請求項6】
ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとの反応物であるウレア系増ちょう剤と、ジフェニルメタンジイソシアネートとアニリンとの反応物であるウレア系増ちょう剤との質量比が、前者:後者=5:5~8:2である、請求項5に記載のグリース組成物
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなる軸受又は歯車。
【請求項8】
製鉄設備用である請求項7記載の軸受又は歯車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄設備等の軸受や歯車に使用することができる非延焼性グリース組成物に関する。詳しくは、本発明は、高温のスケール等が飛散して、グリースに着火し、火災が懸念される箇所に使用可能な非延焼性グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄設備、鍛造設備などの塑性加工設備の軸受や歯車の潤滑にはグリースが多用されている。製鉄設備に使用される軸受の潤滑環境は厳しく、連続鋳造設備の軸受は、高温度の環境の中で極めて低速で回転し、荷重も大きいことから、軸受の軌道面において潤滑膜の形成が不十分となり、さらに、水やスケールも混入することから、軸受は極めて厳しい環境の中で稼働している。
鉄鋼用圧延機の転がり軸受や鍛造プレスのジャーナル軸受などは、耐熱性、耐荷重性及び耐久性が要求される製鉄用機械等の特に過酷な荷重がかかる回転、摺動機構に係る潤滑箇所を多く有している。
これらの設備は高温に曝されるため、使用済みのグリースが設備の下に垂れ落ちて堆積し、堆積したグリースが高温に曝されたり、スケールが飛散したりした場合にグリースに着火し、それに起因する火災が問題視されている。このような火災が発生しないよう、通常、垂れ落ちたグリースを手で除去している。しかし、手が入り難いような狭い場所に垂れ落ちて堆積したグリースの除去は困難である。万一火災が発生したとしても、火災が直ちに発見されれば消火は容易であるが、自動化が進んだ設備では人手が少なく、必ずしも火災が直ちに発見されるとは限らない。火災の発見が遅れると、消火が困難となり、あるいは不可能となることも起こり得る。従って、グリースには自己消火性が求められている。
特許文献1には、自己消火性に優れるグリース組成物が開示されている。
特許文献2には、着火温度を高くし、自己消火性及び耐荷重性に優れるグリース組成物が開示されている。
特許文献3には、グリース組成物の消火助剤の一例として多価アルコールが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-067843号公報
【文献】特開2011-105828号公報
【文献】特開2018-115264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来の非延焼性グリース組成物の耐熱性及び耐荷重性を維持しつつ、従来の非延焼性グリース組成物よりも非延焼性を向上させたグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、前記非延焼性グリース組成物を封入した軸受又は歯車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.40℃における動粘度が300mm2/s以上である基油と、
ウレア系増ちょう剤と、
硫黄系耐荷重添加剤と、
組成物の全質量を基準として、0.2~10質量%の、グリセリン、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパンからなる群から選ばれる少なくとも1種の多価アルコールとを含有し、
組成物に含まれる硫黄元素の濃度が、組成物の全質量を基準として、0.59~2.70質量%であり、
組成物に含まれるリン元素の濃度が高くても100ppmである、非延焼性グリース組成物。
2.多価アルコールがグリセリンである、前記1項記載のグリース組成物。
3.硫黄系耐荷重添加剤が、硫化オレフィン、ポリオレフィン、及び硫化油脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記1又は2項記載のグリース組成物。
4.ウレア系増ちょう剤が、脂肪族ジウレア化合物である、前記1~3のいずれか1項記載のグリース組成物。
5.脂肪族ジウレア化合物が、4.4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとの反応物である、前記4項記載のグリース組成物。
6.基油が、鉱油である、前記1~5のいずれか1項記載のグリース組成物。
7.前記1~6のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなる軸受又は歯車。
8.製鉄設備用である前記7項記載の軸受又は歯車。
【発明の効果】
【0006】
本発明の非延焼性グリース組成物は、耐熱性及び耐荷重性能を維持しつつ、従来の非延焼性グリース組成物よりも非延焼性が向上している。したがって、本発明のグリース組成物は、耐熱性にも優れ、高荷重(高面圧下における荷重であり、熱間圧延で要求される)又は衝撃荷重(急激に加えられた荷重であり、鍛造設備で要求される)条件下の運転にも耐えられる一方、製鉄設備等の設備が高温に曝される環境で使用しても自然に消化して延焼しにくいことから、火災の危険性が低い。
【発明を実施するための形態】
【0007】
〔基油〕
本発明に使用する基油は、40℃における動粘度が300mm2/s以上、好ましくは300~1000mm2/s、さらに好ましくは300~700mm2/s、より好ましくは400~550mm2/sである。40℃における動粘度が300mm2/s以上で、十分な非延焼性が発揮できる。
基油としては、鉱油、合成油、又はこれらの混合物が使用できる。このうち、設備から垂れ落ち堆積グリースが発生する場合は、集中給脂用グリースで使用され、多量で使用されることを考慮すると、経済性の観点から、鉱油が好ましい。
本発明のグリース組成物における基油の含有量は、50~98質量%であるのが好ましく、80~97%であるのがより好ましい。基油の含有量がこのような範囲内にあると、自己消火性の点で好ましい。
なお、本明細書において、「非延焼性」は「自己消火性」と同義である。後述するグリース燃焼性試験により300秒以内に鎮火した場合、「非延焼性」ないし「自己消火性」グリースとする。
【0008】
〔増ちょう剤〕
本発明で使用する増ちょう剤はウレア系増ちょう剤である。ウレア系増ちょう剤としては、芳香族ウレア化合物、脂肪族ウレア化合物、脂環式ウレア化合物、脂環式-脂肪族ウレア化合物、脂肪族-芳香族ウレア化合物、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
芳香族ウレア化合物を構成するアミンとしては、炭素数6~12の芳香族アミンが挙げられる。芳香族ウレア化合物の例としては、アミン由来の両末端がフェニル基であるジウレアがあげられる。
【0009】
脂肪族ウレア化合物を構成するアミンとしては、炭素数8~22の脂肪族アミンが挙げられる。脂肪族ウレア化合物の例としては、アミン由来の両末端がC8アルキル基であるジウレア、アミン由来の両末端がC18アルキル基であるジウレア、及びアミン由来の末端の一方がC8アルキル基であり、他方がC18アルキル基であるジウレアがあげられる。
脂環式ウレア化合物を構成するアミンとしては、炭素数6~10の脂環式アミンが挙げられる。脂環式ウレア化合物の例としては、アミン由来の両末端がシクロヘキシル基であるジウレアがあげられる。
脂環式-脂肪族ウレア化合物を構成するアミンとしては、炭素数6~10の脂環式アミン及び炭素数8~22の脂肪族アミンが挙げられる。脂環式-脂肪族ウレア化合物の例としては、アミン由来の末端の一方がシクロヘキシル基であり、他方がC18アルキル基であるジウレアがあげられる。
【0010】
脂肪族-芳香族ウレア化合物を構成するアミンとしては、炭素数8~22の脂肪族アミン及び炭素数6~12の芳香族アミンが挙げられる。脂肪族-芳香族ウレア化合物の例としては、アミン由来の末端の一方がC8アルキル基であり、他方がフェニル基であるジウレア、アミン由来の末端の一方がC18アルキル基であり、他方がフェニル基であるジウレアがあげられる。C8アルキルアミン又はC18アルキルアミンとアニリンとのモル比を、5:5~8:2として、ジイソシアネートと反応させることにより得られる脂肪族-芳香族ウレア化合物(すなわち、脂肪族-芳香族ウレア化合物と、脂肪族-脂肪族ウレア化合物と、芳香族-芳香族ウレア化合物との混合物である)が好ましい。
ウレア系増ちょう剤を構成するジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート又はトリレンジイソシアネートがあげられる。得られるジウレアの非延焼性の観点から、ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0011】
このうち、機械設備の集中給脂を行う場合、グリースの圧送が容易となる脂肪族ウレア化合物を含むのが好ましい。特に、脂肪族ウレア化合物を、ウレア系増ちょう剤の全質量を基準として、好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%となる量で含むのが好ましい。アミン由来の両末端がC8アルキル基又はC18アルキル基である脂肪族ジウレア、及び一方の末端がC8アルキル基であり、他方がC18アルキル基である脂肪族ジウレアを含むのがより好ましい。両末端がC8アルキル基である脂肪族ジウレアを含むのが特に好ましい。両末端がC8アルキル基である脂肪族ジウレアと、両末端がフェニル基である芳香族ジウレアとの組合せがとりわけ好ましい。この組合せは、別個に存在するC8アルキル基である脂肪族ジウレアと、両末端がフェニル基である芳香族ジウレアとを、物理的に混合したものであるのが好ましい。さらに、前者と後者との質量比が、前者:後者=5:5~8:2である組合せがより好ましく、前者:後者=8:2である組合せが最も好ましい。このとき、ウレア化合物を構成するジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
本発明の組成物中の増ちょう剤の含有量は、所望のちょう度が得られれば良く、グリース組成物全体に対して好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは3~15%である。
【0012】
〔耐荷重添加剤〕
グリースに使用できる耐荷重添加剤は、一般的に、分子内に硫黄元素を有する硫黄系耐荷重防止剤と、分子内にリン元素を有するリン系耐荷重防止剤と、分子内に硫黄元素とリン元素とを有する硫黄-リン系耐荷重防止剤とに大別できる。
本発明で使用する耐荷重添加剤は、硫黄系耐荷重添加剤である。本発明のグリース組成物は、リン系耐荷重防止剤も、硫黄-リン系耐荷重防止剤も含まないのが好ましい。一般的に、グリースに含まれ得るリン分としては、耐荷重防止剤(例えば、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)やジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、アミンホスフェート)由来のものに加え、摩擦調整剤(例えば、リン酸エステル)などに由来するものもあるが、本発明のグリース組成物は、リン元素の濃度が高くても100ppmである。目安としては、代表的な耐荷重防止剤であるZnDTPの場合、0.1~0.125質量%が100ppmに相当する。代表的な摩擦調整剤であるリン酸エステルの場合、例えば、ブチルホスフェートやターシャリーアルキルアミンジメチルホスフェートの場合、0.07~0.106質量%が100ppmに相当する。如何なる理論にも拘束されるものではないが、本発明のグリース組成物中のリン濃度が高くても100ppmであることにより、その多くの引火点が、グリースの使用環境温度より低い200℃前後である多価アルコールを含むものの、非延焼性を発揮できると考えられる。
【0013】
本発明で使用できる硫黄系耐荷重添加剤として、硫化オレフィン、ポリスルフィド及び硫化油脂が挙げられる。これらは、単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明で使用する硫化オレフィンは、下記一般式で示すことができる。
1S-(Sx-R2-Sy)n-R1
(式中xは0または1又は2の整数、yは1~3の整数、nは1~10の整数を表し、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素原子数4~10の飽和又は不飽和炭化水素基を表す。)
硫化オレフィンは、公知の方法により合成しても市販品を用いても良い。市販品として、ANGLAMOL33(日本ルブリゾール(株))、NA-LUBEEP-5120(KINGINDUSTRIES社)、NA-LUBEEP-5130LC(KINGINDUSTRIES社)、NA-LUBEEP-5415(KINGINDUSTRIES社)等があげられる。
【0014】
本発明で使用するポリスルフィドは公知の方法により合成しても市販品を用いても良い。市販のポリスルフィドとしては、DAILUBEIS-30、DAILUBEGS-460(DIC(株))、TPS-20、TPS-32(アルケマ(株))等があげられる。
本発明で使用する硫化油脂は公知の方法により合成しても市販品を用いても良い。市販の硫化油脂としては、DAILUBEFS-150(DIC(株))、DAILUBES-290(DIC(株))、DAILUBES-310KD(DIC(株))、DAILUBEGS-110(DIC(株))等があげられる。
本発明で使用する硫黄系耐荷重添加剤としては、ポリスルフィドが好ましい。2種以上を併用する場合、ポリスルフィドを含むのが好ましい。このとき、自己消火性の観点から、ポリスルフィドと他の硫黄系耐荷重添加剤とは、質量比にして、ポリスルフィド:他の硫黄系耐荷重添加剤=1:2~2:1となる割合であるのが好ましい。
本発明の組成物中の耐荷重添加剤の含有量は0.3~5質量%であるのが好ましく、好ましくは0.3~1.5質量%であるのがより好ましい。このような範囲で耐荷重添加剤を含むことにより、非延焼性を低下させることなく、耐荷重性も担保することができる。
グリースを構成する基油が鉱油のように硫黄分を含むこともある。本発明のグリース組成物中に含まれる硫黄分(すなわち、添加剤由来の硫黄分と、存在する場合、基油由来の硫黄分との総量)が、硫黄元素に換算して、0.59~2.70質量%であるのが好ましく、0.60~1.50質量%であるのがより好ましく、0.60~0.90質量%であるのがさらに好ましい。
【0015】
〔多価アルコール〕
本発明で使用する多価アルコールは、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンからなる群から選ばれる。2種以上を併用してもよい。これらの中でもグリセリンが好ましい。
本発明の組成物中の多価アルコールの含有量は、0.2~10質量%、さらに好ましくは0.2~1質量%である。このような範囲で、非延焼性に優れるだけでなく、耐熱性も優れる。
【0016】
〔任意成分〕
本発明の非延焼性グリース組成物には、本発明の効果を損なわない限り、グリース組成物に通常用いられる添加剤、例えば、錆止め剤、腐食防止剤、酸化防止剤、油性剤などを必要に応じて添加することができる。本発明のグリース組成物を製鉄設備に使用する場合、錆止め剤を含むのが好ましい。これらの成分の含有量の合計は、組成物の全質量を基準にして、通常0.1~10質量%程度、好ましくは0.5~5質量%である。但し、既述のとおり、グリース組成物に含まれるリン元素濃度が100ppm以下となる量である。
【0017】
〔錆止め剤〕
錆止め剤としては、例えばカルボン酸、及びその誘導体、カルボン酸金属塩、スルフォン酸塩、脂肪酸エステル、アミン系防錆剤等を好適に使用することができる。
〔腐食防止剤〕
本発明の非延焼性グリース組成物には、グリース組成物に通常用いられる金属腐食防止剤を必要に応じて添加することができる。例えば、酸化亜鉛やベンゾトリアゾールに代表される金属腐食防止剤が挙げられる。
【0018】
〔酸化防止剤〕
酸化防止剤は、グリースの酸化劣化抑制剤として知られている。本発明において使用可能な酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-ターシャリーブチル-p-クレゾール(BHT)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、2,6-ジ-ターシャリーブチル-フェノール、2,4-ジメチル-6-ターシャリーブチルフェノール、ターシャリーブチルヒドロキシアニソール(BHA)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,3-ジ-ターシャリーブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)等があげられる。アミン系酸化防止剤としては、N-n-ブチル-p-アミノフェノール、4,4’-テトラメチル-ジ-アミノジフェニルメタン、α-ナフチルアミン、N-フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン等が挙げられる。
【0019】
〔油性剤〕
さらに油性剤を含むことができる。本発明に使用可能な油性剤としては、高級アルコール、油脂、エステル等があげられる。
【0020】
〔ちょう度〕
本発明のグリース組成物のちょう度は、使用目的に合わせて調整されるが、好ましくは220~430、より好ましくは280~430である。本発明のグリース組成物を、鉄鋼・鍛造設備用の軸受に集中給脂用グリースとして用いる場合、ちょう度が310~385であると、グリースの圧送が容易なので好ましい。なお、本明細書において、用語「ちょう度」は、60回混和ちょう度を指す。ちょう度は、JIS K2220 7.に従って測定することができる。
【0021】
本発明の非延焼性グリース組成物は、基油中で相当するアミンとイソシアネートを反応させ、その後加熱分散させる方法を用いて製造することができる。さらに、製造工程途中に添加剤を添加することができる。
【0022】
本発明の非延焼性グリース組成物は、軸受又は歯車に封入して用いることができる。とりわけ、集中給脂用グリース組成物として使用するのに好適であり、特に製鉄設備用グリース組成物として使用するのに好適である。さらに特に、製鉄設備用の軸受又は歯車に封入して用いるのが好ましい。
【実施例
【0023】
試験グリース組成物を調製するのに用いた成分は以下のとおりである。
<基油>
・鉱油:40℃における動粘度:480mm2/s
・鉱油:40℃における動粘度:320mm2/s
・鉱油:40℃における動粘度:132mm2/s
基油の40℃における動粘度は、JIS K 2220 23.に従って測定した。
<耐荷重添加剤>
硫化オレフィン:ANGLAMOL33(日本ルブリゾール(株))
ポリスルフィド:TPS-32(Arkema France)
硫化油脂:DAILUBE GS-110(DIC(株))
ZnDTP:Lubrizol 1395(日本ルブリゾール(株))
【0024】
0.グリース組成物の製造
(1)実施例1~16及び比較例1~13のグリース組成物の製造
基油中で、4.4’-ジフェニルメタンジイソシアネート1モルに対し、オクチルアミン2モルの比率で反応させ、冷却して脂肪族ウレアを含むベースグリースを得た。オクチルアミンに代えてシクロヘキシルアミンを使用して、脂環式ウレアを含むベースグリースを得た。オクチルアミンに代えてアニリンを使用して、芳香族ウレアを含むベースグリースを得た。上記各ベースグリースを表1及び2に示す割合で採取し、そこに、添加剤を、表1及び表2に示す割合(表中の数字は、組成物の全質量を基準とした質量%である)で配合し、表1及び表2に示す割合の増ちょう剤量になるように追加の基油を添加し、3本ロールミルで分散することにより、グリース組成物を調製した。グリース組成物のちょう度は310~340とした。
(2)比較例14のグリース組成物の製造
基油中で、ステアリン酸リチウムを混合加熱溶解し、冷却した後、3本ロールミルで混練し、比較例14のグリース組成物を得た。グリース組成物のちょう度は325とした。
【0025】
1.耐熱性評価
JIS K2220.8に規定されたグリースの滴点試験方法に従って測定したグリースの滴点により耐熱性を評価した。
2.耐荷重性の評価
耐荷重性は、ASTMD2596に規定された高速四球試験を用い、融着が生じたときの荷重(融着荷重)を測定することにより、評価した。
3.非延焼性評価
グリース組成物100gを横155×縦126×深さ27mm、の金属容器(ステンレスバット)に入れ、これに規定温度(950℃)に加熱した鋼球(直径26.98mm)を入れ、着火させ燃焼が終わるまでの時間を測定した。
燃焼時間が300秒を越えた場合は非延焼性なしと判断して消火し、試験を中止した。
4.リン分濃度測定
グリース組成物中のリン濃度は、誘導結合プラズマ質量分析装置(Thermo Scientific製 iCAP-6300)を用いて測定した。
試料を事前にアナリティクイエナ製 マイクロウェーブ試料分解装置:TOPwaveを用いてマイクロウェーブで有機物を酸分解し、分解後の溶液を純水で希釈して標準液の検量線から濃度を算出した。
5.硫黄濃度の測定
グリース組成物中の硫黄濃度は、JIS K 2541-3に従って測定した。表1及び表2中の質量%は、グリース組成物の全質量を基準とした値である。
結果を表1及び表2に示す。
【0026】
判断基準
以下の場合に合格(○)とした。
・耐熱性は、グリースの滴点が210℃以上であること。
・耐荷重性は、融着荷重が1961N以上であること。
・非延焼性は、950℃で300秒以内に鎮火すること。
・リン濃度は、100ppm以下であること。
【0027】
総合判定
耐荷重性、非延焼性及びリン濃度のいずれもが合格の場合に合格(○)とした。
【0028】
【表1】