(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61D 37/00 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
B61D37/00 F
(21)【出願番号】P 2020173986
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章史
(72)【発明者】
【氏名】中桐 隆寿
(72)【発明者】
【氏名】松方 稜
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109572611(CN,A)
【文献】特開平09-119247(JP,A)
【文献】実開平03-110955(JP,U)
【文献】実公昭31-008104(JP,Y1)
【文献】特開昭50-059997(JP,A)
【文献】特開2018-012496(JP,A)
【文献】特開2012-240553(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0013565(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 37/00、23/00-23/02
B62D 31/02
B60R 3/00、 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両から乗客を線路上に降車させるための避難器具が収納される器具収納箱
と、客室に設けられて前記器具収納箱が固定される荷棚と、を備える鉄道車両であって、
前記器具収納箱は、
前記避難器具が上に置かれるように前記器具収納箱の底面を構成して前記荷棚上に配置される底壁と、前記底壁の枕木方向の車両外側から立ち上がる外側壁とを有し、前記避難器具を出し入れ可能な開口部が枕木方向の車両内側および上側に形成されて前記荷棚上に固定される箱本体と、
前記箱本体の前記開口部を開閉するカバーと、を備え
、
前記荷棚の上方の空間が車両内側に開放されており、レール方向に長い前記荷棚の一部の上に前記器具収納箱が固定され、その器具収納箱に対してレール方向の両側に前記器具収納箱が無いことを特徴とする
鉄道車両。
【請求項2】
前記荷棚上に前記箱本体が固定された状態で、前記底壁は、枕木方向の車両内側へ向かって下降傾斜することを特徴とする請求項1記載の
鉄道車両。
【請求項3】
前記箱本体は、前記底壁の枕木方向の車両内側から立ち上がって前記開口部の下縁を形成する下張出部を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の
鉄道車両。
【請求項4】
前記箱本体に対して前記カバーをレール方向にスライドさせるスライド機構を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の
鉄道車両。
【請求項5】
前記箱本体は、前記底壁および前記外側壁のレール方向の両端部にそれぞれ連結される一対の端壁を備えていることを特徴とする請求項4記載の
鉄道車両。
【請求項6】
前記荷棚および前記器具収納箱の枕木方向の車両内側に位置するようにレール方向に沿って天井に固定され、吊手が吊り下げられる吊手
棒を備えていることを特徴とする
請求項1から5のいずれかに記載の鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避難器具の器具収納箱を搭載した鉄道車両に関し、特に乗客用スペースを確保しつつ、避難器具をスムーズに設置できる鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が駅間で非常停止したとき等、梯子やスロープ等の避難器具によって乗客をドア開口部から線路上に降車させることがある。特許文献1には、ドア開口部近傍の左右いずれかの壁部に設けた収納空間部内に避難器具を収納することが開示されている。このように、客室内に避難器具が収納されているので、ドア開口部への避難器具の設置をスムーズに行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では、避難器具を収納した収納空間部の分だけドア開口部近傍における乗客が立てるスペースが狭くなるという問題点がある。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、乗客用スペースを確保しつつ、避難器具をスムーズに設置できる避難器具の器具収納箱を搭載した鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の鉄道車両は、車両から乗客を線路上に降車させるための避難器具が収納される器具収納箱と、客室に設けられて前記器具収納箱が固定される荷棚と、を備えるものであって、前記器具収納箱は、前記避難器具が上に置かれるように前記器具収納箱の底面を構成して前記荷棚上に配置される底壁と、前記底壁の枕木方向の車両外側から立ち上がる外側壁とを有し、前記避難器具を出し入れ可能な開口部が枕木方向の車両内側および上側に形成されて前記荷棚上に固定される箱本体と、前記箱本体の前記開口部を開閉するカバーと、を備え、前記荷棚の上方の空間が車両内側に開放されており、レール方向に長い前記荷棚の一部の上に前記器具収納箱が固定され、その器具収納箱に対してレール方向の両側に前記器具収納箱が無いものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の鉄道車両によれば、器具収納箱の箱本体が客室の荷棚上に固定されているので、乗客が立てるスペースを器具収納箱によって占有することがなく、乗客用スペースを確保できる。さらに、器具収納箱が客室内にあるので、避難器具をスムーズに設置できる。
【0008】
カバーにより開閉する開口部が、箱本体の枕木方向の車両内側だけでなく上側にも形成されているので、箱本体に対し避難器具を枕木方向の車両内側へスライドさせるだけでなく、避難器具を傾けながら取り出すことができる。特に、荷棚上という高い場所に器具収納箱があっても、開口部から出た避難器具の手前側を下方へ傾けることで、避難器具を取り出し易くできる。これにより、避難器具をよりスムーズに設置できる。
更に、荷棚の上方の空間が車両内側に開放されており、レール方向に長い荷棚の一部の上に器具収納箱が固定され、その器具収納箱に対してレール方向の両側に器具収納箱が無い。これにより、荷棚を利用する乗客の利便性を損ない難くできる。
【0009】
請求項2記載の鉄道車両によれば、荷棚上に箱本体が固定された状態で、箱本体の底壁は、枕木方向の車両内側へ向かって下降傾斜する。これにより、底壁に沿って避難器具を手前側にスライドさせ易くできるので、請求項1の効果に加え、荷棚上の器具収納箱から避難器具をより取り出し易くできる。
【0010】
請求項3記載の鉄道車両によれば、箱本体は、底壁の枕木方向の車両内側から立ち上がって開口部の下縁を形成する下張出部を備えている。これにより、避難器具を傾けて取り出すときの支点として下張出部を機能させることができるので、請求項1又は2の効果に加え、避難器具をより取り出し易くできる。
【0011】
請求項4記載の鉄道車両によれば、箱本体に対してカバーをレール方向にスライドさせるスライド機構を備えているので、荷棚上という高い場所に器具収納箱が位置しても、カバーを開閉し易い。さらに、通常、荷棚はレール方向に十分に長いので、その荷棚上に器具収納箱を設置したとき、カバーをレール方向にスライドさせるためのスペースを確保し易い。これらの結果、請求項1から3のいずれかの効果に加え、カバーの開閉の作業性を良くできる。
【0012】
請求項5記載の鉄道車両によれば、箱本体は、底壁および外側壁のレール方向の両端部にそれぞれ連結される一対の端壁を備えている。これにより、箱本体の剛性を高めることができるので、請求項4の効果に加え、箱本体の変形に伴ってスライド機構に加わる負荷を抑制でき、スライド機構のがたつき等を抑制できる。さらに、端壁によって箱本体内の避難器具がカバーと一緒にスライドしないようにできる。
【0013】
請求項6記載の鉄道車両は、吊手が吊り下げられる吊手棒を備えている。吊手棒は、荷棚および器具収納箱の枕木方向の車両内側に位置するようにレール方向に沿って天井に固定されている。そのため、箱本体に対し避難器具を枕木方向の車両内側へスライドさせるだけでは、取り出そうとする避難器具が吊手棒に干渉することがある。しかし、箱本体の開口部が、箱本体の枕木方向の車両内側だけでなく上側にも形成されているので、吊手棒に避難器具が干渉しないように避難器具を傾けながら取り出すことができる。よって、請求項1から5のいずれかの効果に加え、吊手棒が荷棚前に位置する鉄道車両においても、避難器具を取り出し易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における器具収納箱を設置した鉄道車両の断面図である。
【
図2】
図1の矢印II方向から見た器具収納箱の正面図である。
【
図3】
図2のIII-III線における器具収納箱の断面図である。
【
図4】第2実施形態における器具収納箱の断面図である。
【
図5】(a)はカバーの下方斜視図であり、(b)は箱本体の上方斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1及び
図2を参照して第1実施形態における器具収納箱20を設置した鉄道車両10について説明する。
図1は、器具収納箱20の近傍を示した、鉄道車両10のレール方向(車両長さ方向)に垂直な断面図である。
図2は、
図1の矢印II方向から見た器具収納箱20の正面図である。
【0016】
図1及び
図2に示すように、鉄道車両10は、図示しない台枠と、台枠の枕木方向(車両幅方向)の端部に立設されて側壁面を構成する側構体11と、側構体11の上端に連結される屋根構体12と、を主に備えている。これらの各構体に囲まれた部分に客室13が形成される。屋根構体12により形成される客室13の天井13aからは、レール方向に並んだ複数の吊手棒受け14が下方へ突出する。この複数の吊手棒受け14の下端に、レール方向に延びた吊手棒15が支持される。吊手棒15には、複数の吊手16が吊り下げ支持される。
【0017】
側構体11の上部からは、乗客の荷物を載せるための荷棚17が枕木方向の車両内側(以下、単に「車両内側」と称す)へ張り出す。荷棚17は、側構体11に固定されてレール方向に略等間隔に並んだ複数の支持板18と、複数の支持板18間を連結する複数の連結棒19a,19b,19cと、を備えている。枕木方向の車両外側(以下、単に「車両外側」と称す)へ向かって下降傾斜する同一平面上に複数の連結棒19bが並び、最も車両内側の連結棒19aがその同一平面よりも下方に位置し、最も車両外側の連結棒19cがその同一平面よりも上方に位置する。
【0018】
荷棚17上には器具収納箱20が固定されている。器具収納箱20には、緊急停止した鉄道車両10から乗客を線路上に降車させるための避難梯子(避難器具)21が折り畳まれた状態で収納されている。なお、各図面では、収納された避難梯子21を模式的に示している。
【0019】
このように、客室13の荷棚17上に器具収納箱20が固定されているので、客室13のうち乗客が立てるスペースを器具収納箱20によって占有することがなく、乗客用スペースを確保できる。さらに、客室内の器具収納箱20に避難梯子21が収納されているので、側構体11の扉11aを開けた扉開口部への避難梯子21の設置をスムーズに行うことができる。また、避難梯子21が入っていることを器具収納箱20に表示することで、緊急時のスムーズな避難が可能であるという安心感を乗客に与えることができる。
【0020】
器具収納箱20は、複数の支持板18のうち扉11a側から2番目および3番目の間に配置される。これにより、利用頻度が比較的高い扉11a近傍の荷棚17を空けつつ、扉11aを開けた扉開口部に設置される避難梯子21を扉11aの近くに収納できる。よって、荷棚17を利用する乗客の利便性を損ない難くしつつ、器具収納箱20から取り出した避難梯子21の設置をスムーズにできる。
【0021】
図2に加えて
図3を参照し、器具収納箱20の各部について詳細に説明する。
図3は、
図2のIII-III線における器具収納箱20の断面図である。器具収納箱20は、荷棚17上に固定されて避難梯子21が収納される箱本体22と、避難梯子21を出し入れするために箱本体22の開口部30を開閉するカバー40と、箱本体22に対してカバー40をレール方向にスライドさせる既知のスライド機構46,47と、を備えている。
【0022】
箱本体22は、荷棚上に配置される底壁23と、底壁23の車両外側の縁から立ち上がる外側壁24と、底壁23及び外側壁24のレール方向の両端部にそれぞれ連結される一対の端壁25と、外側壁24の上端縁から車両内側へ僅かに張り出した上張出部26と、底壁23の車両内側の縁から僅かに立ち上がった下張出部27と、下張出部27の上縁から車両内側へ僅かに張り出した保護片28と、を備えている。
【0023】
これらの底壁23から保護片28までの各部は長方形状の金属板により形成され、保護片28を除く各部の内面にゴム膜29が貼り付けられている。ゴム膜29により、箱本体22内に収納した避難梯子21の振動を低減できると共に、その振動音を器具収納箱20の外部へ漏れ難くできる。保護片28にゴム膜29は無いので、保護片28上を滑らせて避難器具21を取り出し易くできる。
【0024】
箱本体22には、避難梯子21を出し入れ可能な開口部30が車両内側および上側に形成されている。即ち、上張出部26により開口部30の車両外側の縁が形成され、下張出部27及び保護片28により開口部30の下縁が形成され、端壁25により開口部30のレール方向の縁が形成されている。
【0025】
底壁23は、器具収納箱20の底面を構成する平板である。底壁23は、同一平面上に並ぶ連結棒19bのうち最も車両内側の連結棒19bと連結棒19cとにUボルト31によって固定される。これにより、既存の鉄道車両の荷棚17上に器具収納箱20を容易に後付けできる。連結棒19a,19b,19cを有する荷棚17は、通勤用の鉄道車両10に設けられることが多い。通勤用の鉄道車両では、乗客による荷棚17の利用頻度が低いので、器具収納箱20の配置により荷棚17上を有効活用できる。
【0026】
また、荷棚17に固定された底壁23は、車両内側へ向かって下降傾斜する。底壁23の上に置かれた避難梯子21が車両内側へ滑らないように、底壁23の上面に固定されたベルト止め32から延びるベルト33によって避難梯子21が底壁23に固定される。
【0027】
外側壁24は、器具収納箱20の車両外側の面を構成する平板であり、底壁23と垂直に形成される。一対の端壁25は、器具収納箱20のレール方向両側の面をそれぞれ構成する平板であり、底壁23及び外側壁24と垂直に形成される。一対の端壁25の外面間の距離は、隣り合う支持板18の間隔よりも若干小さく設定される。これにより、箱本体22を支持板18間に配置でき、箱本体22のレール方向の移動を支持板18で規制できる。
【0028】
上張出部26は、外側壁24を補強するためのリブである。上張出部26の上面には、レール方向に垂直な断面がL字状の金具26aが固定される。この金具26aのうち上張出部26から立ち上がった部位の車両外側に、硬質塩化ビニール等の樹脂製の調整ライナー49を介してスライド機構47が取り付けられる。避難梯子21の出し入れ時、金具26aによって避難梯子21をスライド機構47に当たり難くできる。
【0029】
下張出部27は、底壁23を補強するためのリブである。避難梯子21を器具収納箱20から取り出すためにベルト33を外したとき、万が一、避難梯子21が底壁23上を滑っても、下張出部27により箱本体22から避難梯子21を手前に滑り落ち難くできる。その結果、避難梯子21を取り出すときの安全性を向上できる。
【0030】
下張出部27の車両内側に、樹脂製の調整ライナー48を介してスライド機構46が取り付けられる。保護片28は、このスライド機構46の上側を覆うように下張出部27に連なる部位である。これにより、避難梯子21の出し入れ時、保護片28によって避難梯子21をスライド機構46に当たり難くできる。
【0031】
カバー40は、レール方向の中央で2分割された両開きの扉である。具体的にカバー40は、スライド機構46,47により箱本体22に対してレール方向の両側にそれぞれ開閉する。なお、スライド機構46,47は、箱本体22の開口部30のレール方向の両縁よりも外側までカバー40をスライドできるように構成されている。また、
図2には、紙面左側のカバー40を開いて紙面右側のカバー40を閉じた状態を示している。
【0032】
カバー40は、箱本体22の車両内側を覆う内側壁41と、内側壁41の上縁から車両外側へ延びて箱本体22の上側を覆う天井壁42と、内側壁41及び天井壁42のレール方向の両縁から僅かに張り出す補強用のリブとしての補強部43と、天井壁42の車両外側端部から下方に延びる垂下部42aと、内側壁41の下端部から車両外側へ延びる保護部42bと、を主に備えている。内側壁41、天井壁42、補強部43、垂下部42a及び保護部42bは長方形状の金属板により形成され、内側壁41及び天井壁42の内面にゴム膜29が貼り付けられている。箱本体22のゴム膜29と同様にカバー40のゴム膜29によっても、避難梯子21の振動を低減できると共に、その振動音を器具収納箱20の外部へ漏れ難くできる。
【0033】
内側壁41は、器具収納箱20の車両内側の面を構成する平板である。内側壁41の下部にスライド機構46が取り付けられる。保護部42bによって、スライド機構46を乗客から見え難くできると共に、スライド機構46を保護できる。内側壁41には、カバー40を手動でスライドさせるための取手44と、カバー40を閉じた状態でロックする錠部45とが設けられる。錠部45によるロックは、乗務員が持つ鍵によって解除される。なお、錠部45を、鉄道車両10の電源遮断時などに開錠されるような電気錠としても良い。この場合、緊急時に乗客自らが器具収納箱20から避難梯子21を取り出すことができる。但し、鍵で開錠する錠部45であれば、既存の鉄道車両への器具収納箱20の後付けを容易にできる。
【0034】
天井壁42は、器具収納箱20の天井面を構成する平板である。天井壁42の車両外側端部から下方に延びる垂下部42aにスライド機構47が取り付けられる。スライド機構46,47の配置スペースの関係で、箱本体22と内側壁41や天井壁42との間が離れるが、その箱本体22とカバー40との隙間を補強部43、垂下部42a及び保護部42bによって小さくできる。
【0035】
以上のような器具収納箱20によれば、カバー40により開閉する開口部30が、箱本体22の車両内側だけでなく上側にも形成されている。そのため、箱本体22に対し避難梯子21を車両内側へスライドさせるだけでなく、避難梯子21を傾けながら取り出すことができる。特に、荷棚17上という高い場所に器具収納箱20があっても、開口部30から出た避難梯子21の手前側を下方へ傾けることで、避難梯子21を取り出し易くできる。これにより、避難梯子21をスムーズに設置できる。
【0036】
また、荷棚17及び器具収納箱20の車両内側には、吊手棒受け14を介して天井13aに固定された吊手棒15が位置する。荷棚17に固定された箱本体22から吊手棒15までの枕木方向の距離は、箱本体22の枕木方向の寸法よりも十分に小さく、その箱本体22に収納される避難梯子21の枕木方向の寸法よりも小さい。そのため、箱本体22に対し避難梯子21を車両内側へスライドさせるだけでは、取り出そうとする避難梯子21が吊手棒15に干渉するおそれがある。しかし、上述した通り、開口部30が箱本体22の上側にも形成されているので、吊手棒15に避難梯子21が干渉しないように避難梯子21を傾けながら取り出すことができる。よって、吊手棒15が荷棚17前に位置する鉄道車両10においても、避難梯子21を取り出し易くできる。
【0037】
荷棚17上に固定された箱本体22の底壁23は、車両内側へ向かって下降傾斜しているので、避難梯子21の手前側(車両内側)を少し持ち上げて取り出すとき、底壁23に沿って避難梯子21を手前側にスライドさせ易くできる。これにより、高い場所にある荷棚17上の器具収納箱20から避難梯子21を取り出し易くできる。
【0038】
さらに底壁23の車両内側の縁から下張出部27が立ち上がり、下張出部27の上縁から車両内側へ保護片28が張り出している。これにより、避難梯子21を傾けて取り出すときの支点として下張出部27や保護片28を機能させることができるので、避難梯子21をより取り出し易くできる。
【0039】
カバー40は、スライド機構46,47により箱本体22に対してレール方向にスライドすることで開口部30を開閉するので、荷棚17上という高い場所に器具収納箱20が位置しても、カバー40を開閉し易い。さらに、通常、荷棚17はレール方向に十分に長いので、その荷棚17上に器具収納箱20を設置したとき、カバー40をレール方向にスライドさせるためのスペースを確保し易い。これらの結果、カバー40の開閉の作業性を良くできる。
【0040】
さらに、カバー40がレール方向に2分割された両開きの扉なので、開けたカバー40が箱本体22に対し片持ち状態になっても、分割したカバー40それぞれにかかるモーメントを小さくできる。また、カバー40の開閉方向に左右勝手がないので、荷棚17上への設置位置の自由度を確保できる。
【0041】
開口部30の下縁近傍にスライド機構46が設けられ、開口部30の車両外側の縁近傍にスライド機構47が設けられるので、箱本体22の車両内側および上側に形成された開口部30を開閉するカバー40のスライドをスムーズにできる。
【0042】
さらに、一対の端壁25によって箱本体22の剛性が高まるので、箱本体22の変形によってスライド機構46,47に加わる負荷を抑制でき、スライド機構46,47のがたつき等を抑制できる。また、端壁25によって箱本体22内の避難梯子21がカバー40と一緒にスライドしないようにできる。
【0043】
カバー40は、鉄道車両10に直接固定されておらず、車両の振動などによって変形し難いので、箱本体22と比べて求められる剛性が低い。そのため、器具収納箱20のレール方向の面を形成するような端壁25がなくても、リブ状の補強部43によってカバー40の剛性を十分に確保でき、カバー40の変形によってスライド機構46,47に加わる負荷を十分に抑制できる。さらに、補強部43のレール方向の両側に、垂下部42a及び保護部42bが略垂直に接続されているので、カバー40の剛性をより向上できる。
【0044】
次に
図4及び
図5を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、箱本体22に対してカバー40がレール方向にスライドする場合について説明した。これに対して第2実施形態では、箱本体51に対してカバー55を着脱する場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0045】
図4は、第2実施形態における器具収納箱50の断面図である。
図5(a)はカバー55の下方斜視図である。
図5(b)は箱本体51の上方斜視図である。なお、
図4では、カバー55の補強柱60や補強梁61の図示を省略している。
図5(a)では板ばね57の図示を省略している。
【0046】
器具収納箱50は、荷棚17上に固定されて避難梯子21が収納される箱本体51と、避難梯子21を出し入れするために箱本体51の開口部53を開閉するカバー55と、を備えている。箱本体51は、底壁23と、外側壁24と、上張出部26と、下張出部27と、底壁23および外側壁24のレール方向の両端縁から僅かに張り出す補強用のリブとしての補強部52と、を備えている。
【0047】
このように、箱本体51は全体として、レール方向に垂直な断面が略L字状に形成されている。箱本体51には、避難梯子21を出し入れ可能な開口部53が車両内側、上側およびレール方向の両側に形成されている。
【0048】
箱本体51の底壁23は、最も車両内側の連結棒19bと最も車両外側の連結棒19bとにUボルト31によって固定される。これにより、荷棚17上に固定された底壁23は、車両内側へ向かって上昇傾斜する。そのため、ベルト33を外しても避難梯子21を車両内側へ滑らないようにできる。
【0049】
カバー55は、内側壁41と、天井壁42と、内側壁41及び天井壁42のレール方向の両端部にそれぞれ連結される一対の端壁56と、を主に備えている。一対の端壁56は、器具収納箱50のレール方向両側の面をそれぞれ構成する平板であり、内側壁41及び天井壁42と垂直に形成される。
【0050】
天井壁42の車両外側の縁近傍に取り付けられた板ばね57と天井壁42とで箱本体51の上張出部26を挟み、内側壁41の下縁近傍の貫通孔(図示せず)に挿入したねじ58を下張出部27に設けたねじ孔59に嵌めることで、カバー55が箱本体51に固定されて開口部53が閉じる。逆に、ねじ58を外し、板ばね57と天井壁42との間から上張出部26を抜くことで、カバー55が箱本体51から取り外され、開口部53が開く。カバー55を着脱式にすることで、カバー40がスライド式である第1実施形態と比べて、器具収納箱50を安価かつ軽量化し易い。
【0051】
カバー55が取り外された箱本体51の開口部53が車両内側および上側だけでなく、レール方向の両側にも形成されているので、箱本体51からレール方向に避難梯子21を移動させたり、避難梯子21をレール方向に傾けたりしながら、避難梯子21を取り出すことができる。これにより、吊手棒15や吊手棒受け14との位置関係に起因して、箱本体51から車両内側に避難梯子21を取り出し難くても、避難梯子21を取り出し易くできる。
【0052】
カバー55は、天井壁42に垂直な複数の補強柱60と、天井壁42の内側(箱本体51側)に沿って配置される補強梁61と、を更に備えている。補強柱60は、箱本体51から取り外したカバー55を床に置いたときに、天井壁42を床と平行な状態で支えるための柱である。補強柱60は、天井壁42の四隅に設けられ、端壁56に沿って固定されている。補強梁61は、天井壁42を補強するための梁であって、長方形状の天井壁42の対角線上に固定されている。
【0053】
この補強柱60及び補強梁61によってカバー55の上下方向の剛性を確保できるので、箱本体51から取り外したカバー55を床に置き、カバー55を、箱本体51から避難梯子21を取り出すときの踏み台にできる。補強柱60及び補強梁61は、軽量かつ高強度の素材(例えば炭素繊維強化プラスチック等)で形成されることが好ましい。この場合、荷棚17上という高い場所からカバー55を取り外し易く、踏み台とするときのカバー55の強度を十分に確保できる。なお、補強柱60及び補強梁61がなくても、内側壁41、天井壁42及び端壁56を厚くしたり高強度の素材で形成することで、カバー55を踏み台として利用できる。
【0054】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。器具収納箱20,50に収納される避難器具は、避難梯子21に限らず、避難用のスロープでも良い。また、避難器具のサイズや形状に合わせて、箱本体22,51やカバー40,55のサイズや形状を適宜変更しても良い。
【0055】
上記第1実施形態では、複数の支持板18のうち扉11a側から2番目および3番目の間に器具収納箱20が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。扉11a側から1番目の支持板18と2番目の支持板18との間に器具収納箱20を配置しても良く、扉11a側から3番目以降の支持板18間に器具収納箱20を配置しても良い。
【0056】
上記形態では、荷棚17の連結棒19b,19cに箱本体22,51の底壁23をUボルト31で固定する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。Uボルト31に代えて金属バンドを用いる等、連結棒19b,19cへの箱本体22,51の固定方法を適宜変更しても良い。また、荷棚17の形状に応じて箱本体22,51の固定方法を適宜変更しても良い。底壁23を荷棚17に直接固定する場合に限らず、箱本体22,51が荷棚17上に固定されるように、箱本体22,51を側構体11に固定しても良い。
【0057】
上記第1実施形態ではカバー40がスライド式である場合について説明し、上記第2実施形態ではカバー55が着脱式である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、カバーの開閉方法を適宜変更しても良い。例えば、箱本体22,51の外側壁24や上張出部26に設けた巻取部に収納可能なシャッターをカバーとしても良い。
【0058】
上記形態では、避難梯子21をベルト33で箱本体22,51に固定する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、箱本体22,51内に避難梯子21を固定する方法を適宜変更しても良い。例えば、箱本体22,51内に設けた硬めのスポンジを変形させることで避難梯子21を保持しても良い。また、避難梯子21の一部が着脱される着脱部を箱本体22,51内に設けても良い。
【0059】
上記第1実施形態では端壁25を箱本体22に設けた場合について説明し、上記第2実施形態では端壁56をカバー55に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。上記第1実施形態のカバー40に端壁56を設けても良く、上記第2実施形態の箱本体51に端壁25を設けても良い。箱本体22,51及びカバー40,55の両方に端壁25,56をそれぞれ設けても良い。
【0060】
また、上記第1実施形態における器具収納箱20の構成の一部と、上記第2実施形態における器具収納箱50の構成の一部とを置き換えても良い。例えば、器具収納箱20の箱本体22の底壁23を上記第2実施形態のように車両内側へ向かって上昇傾斜させても良く、器具収納箱50の箱本体51の底壁を上記第1実施形態のように車両内側へ向かって下降傾斜させても良い。また、箱本体51にカバー55をねじ58で固定するのに代えて、錠部45で箱本体51にカバー55を固定しても良い。箱本体22やカバー40の内面に貼るゴム膜29を上記第2実施形態のように省略しても良く、箱本体51やカバー55の内面にゴム膜29を貼っても良い。
【符号の説明】
【0061】
10 鉄道車両
13 客室
13a 天井
15 吊手棒
16 吊手
17 荷棚
20,50 器具収納箱
21 避難梯子(避難器具)
22,51 箱本体
23 底壁
24 外側壁
25 端壁
27 下張出部
30,53 開口部
40,55 カバー
46,47 スライド機構