(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】組成物、及び熱輸送装置
(51)【国際特許分類】
C09K 5/02 20060101AFI20240909BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C09K5/02
F28D15/02 104A
F28D15/02 101L
(21)【出願番号】P 2020174683
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2019197995
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】青谷 貴治
(72)【発明者】
【氏名】政田 陽平
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103426586(CN,A)
【文献】特開2018-041807(JP,A)
【文献】特開平03-102804(JP,A)
【文献】特開平08-224457(JP,A)
【文献】特開平05-140492(JP,A)
【文献】特開平07-150085(JP,A)
【文献】特開2012-044130(JP,A)
【文献】特表2014-511324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
F28D15/00-15/06
H01F1/44
C09K23/00-23/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子
、分散剤、及び水を含む水系媒体を含有する組成物であって、
前記粒子は下記の式(1)であらわされる磁性粒子を含み、
前記分散剤はポリアクリル酸又はその塩を含
み、
前記分散剤の重量平均分子量が、4500以上7000以下であることを特徴とする組成物。
(MnO)
x
・(ZnO)
y
・(Fe
2
O
3
)
z
・・・式(1)
ただし、x、y、zは、0.15≦x≦0.40、0.10≦y≦0.25、0.48≦z≦0.60、x+y+z=1を満たす。
【請求項2】
前記粒子の体積基準の累積50%粒径が、200nm以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記磁性粒子の含有量が、組成物全質量を基準として、20.0質量部以上50.0質量部以下である請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記分散剤の含有量が、組成物全質量を基準として、1.0質量部以上20.0質量部以下である請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記分散剤の含有量が、組成物全質量を基準として、1.0質量部以上8.0質量部以下である請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
前記水系媒体の含有量が、組成物全質量を基準として、30.0質量部以上80.0質量部以下である請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記水系媒体が、水溶性有機溶剤を含み、
前記水溶性有機溶剤の含有量が、前記水100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下である請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物の粘度が、1.5mPa・s以上30mPa・s以下である請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記磁性粒子が、Zn、Mn、Fe、Ni、Sr、Mg、及びCaからなる群より選択される少なくとも2種以上の元素を含む請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物100質量部に対して、10以上50以下の質量部のグリコール又はグリセリンが含まれる請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記グリコールはエチレングリコールあるいはプロピレングリコールである請求項
10に記載の組成物。
【請求項12】
組成物が流れる流路、前記組成物に磁場を印加する磁場印加部を備え、前記組成物が、請求項1乃至
11のいずれか1項に記載の組成物であることを特徴とする熱輸送機構。
【請求項13】
前記熱輸送機構が、前記組成物の一部を冷却する冷却部を有する請求項
12に記載の熱輸送機構。
【請求項14】
請求項
12または
13に記載の熱輸送機構と、
前記組成物の一部を加熱する熱源を有する熱輸送装置。
【請求項15】
請求項
14に記載の熱輸送装置と、
躯体と、
駆動機構を備える輸送機器。
【請求項16】
請求項
12または
13に記載の熱輸送機構を備える機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、及び熱輸送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の冷却には、ヒートパイプなどの熱輸送装置が用いられている。一般に、ヒートパイプとは、媒体を含むパイプの一部を加熱することで生じる媒体の相変化を利用して熱を輸送する熱輸送装置のことである。しかし、電子機器の小型化に伴い、発熱密度(発熱量を表面積で除した値)が高くなるため、従来の熱輸送装置を用いても、電子機器の処理速度の低下や発熱による故障が生じてしまう。そのため、電子機器の大きさに合わせて小型で、かつ、熱輸送量の大きい(高効率な)熱輸送装置が求められている。
【0003】
特許文献1には、磁性流体が封入された循環流路と、循環流路中に加熱部と、加熱部にある磁性流体に磁場を印加する磁場印加部とを備えた磁性流体駆動装置が記載されている。具体的には、温度が上昇すると磁化が低下する性質を持つ磁性微粒子であるフェライト粒子、油系媒体であるケロシンやヘキサンを含む磁性流体を用い、循環流路内の加熱部及び非加熱部での磁化の差を利用して、磁性流体を駆動させている。
【0004】
また、特許文献2には、フェライト粒子の表面をオレイン酸、及び界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムで被覆した後に水中に分散させてなる磁性流体が記載されている。さらに、特許文献3には、表面に3-メルカプトプロピオン酸が付着したフェライト粒子と水系分散媒とを含有する感温性磁性流体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-134335号公報
【文献】特公平7-38328号公報
【文献】特開2018-41807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討の結果、特許文献1に記載の磁性流体駆動装置に、特許文献2及び3に記載の磁性流体を適用しても、磁性流体に含まれるフェライト粒子の分散性の低下により、磁性流体の保存安定性が得られず、熱輸送量が小さくなってしまうことが判明した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、磁性粒子の分散性が高く、保存安定性が得られる組成物を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記組成物を使用する熱輸送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、粒子、分散剤、及び水を含む水系媒体を含有する組成物であって、
前記粒子は下記の式(1)であらわされる磁性粒子を含み、
前記分散剤はポリアクリル酸又はその塩を含み、
前記分散剤の重量平均分子量が、4500以上7000以下であることを特徴とする組成物。
(MnO)
x
・(ZnO)
y
・(Fe
2
O
3
)
z
・・・式(1)
ただし、x、y、zは、0.15≦x≦0.40、0.10≦y≦0.25、0.48≦z≦0.60、x+y+z=1を満たす。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁性粒子の分散性が高く、保存安定性が得られる組成物、及び前記組成物を使用する熱輸送装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の組成物による熱輸送の原理を説明する図である。
【
図2】本発明の熱輸送装置の一例を示す模式図である。
【
図3】
図2の熱輸送装置の磁場印加部を詳細に示す模式図である。
【
図4】
図2の熱輸送装置を組み込んだ輸送機器の例を示す図である。
【
図5】本発明の熱搬送装置を並列配置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に述べる。各種の物性値は、特に断りのない限り、温度25℃における値である。
【0013】
本発明の組成物は、磁性粒子を含む粒子、及び水系媒体を含有する。磁性粒子を含有する組成物を用いて熱輸送を行う場合、熱輸送量を大きくするためには、組成物の流量を多くする必要がある。ここで、組成物の流量を多くするためには、組成物の粘度を低下させ、組成物の流抵抗を下げることが重要となる。特許文献1に記載の磁性流体で用いる油系媒体と比べて、水系媒体は粘度が低い。そのため、磁性粒子を分散させる媒体として水系媒体を用いることで、組成物自体の粘度を低下させることができる。また、熱輸送量を大きくするためには、熱容量や熱伝導率の大きい媒体を用いる必要がある。一般に、油系媒体と比べて、水系媒体は、熱容量や熱伝導率が大きい。そのため、磁性粒子を分散させるための媒体として水系媒体を用いることで、組成物の熱輸送量を大きくすることが可能となる。
【0014】
さらに、粒子は、磁性粒子の他に、ポリアクリル酸又はその塩を含む分散剤を含有し、磁性粒子は、ポリアクリル酸又はその塩を含む分散剤で分散されている。分散剤としてポリアクリル酸又はその塩を用いることで、それらの有するカルボキシル基による静電反発と、樹脂を用いることによる立体障害により、磁性粒子を安定に分散させることが可能となり、組成物の保存安定性が向上する。
【0015】
特許文献2に記載の磁性流体を用いる場合、磁性粒子の分散に寄与するドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムは、オレイン酸を介して、物理吸着により磁性粒子に付着しており、脱離しやすい。そのため、磁性粒子の分散性が低下してしまい、磁性流体の保存安定性が得られなかった。また、磁性粒子の分散剤として、特許文献3で用いる3-メルカプトプロピオン酸は、その分子鎖が短いため、水との相溶性が低くなる。そのため、磁性粒子の分散性が低下してしまい、磁性流体の保存安定性が得られなかった。
【0016】
以下、各成分について、詳細に記載する。
【0017】
[組成物]
本発明の組成物は、粒子、及び水を含む水系媒体を含有し、粒子は、磁性粒子、及びポリアクリル酸又はその塩を含む分散剤を含有する。
【0018】
<磁性粒子>
磁性粒子としては、超常磁性を示す粒子を用いることができる。ここで、超常磁性とは、磁性体固有のキュリー温度を超えると磁化が低下する、すなわち、温度の上昇とともに磁化が低下する性質を持つ強磁性体のナノメートルサイズの粒子に現れる性質である。
【0019】
超常磁性を示す粒子は、磁場をかけると粒子の磁化が磁場方向に揃い、磁場をかけないと熱エネルギーによって磁化が粒子内で固定されずランダムに回転して、粒子全体として磁化がゼロになる。そのため、磁性粒子として超常磁性を示す粒子を含む組成物を用いることで、組成物に磁石を近づける、すなわち、組成物に磁場をかけると、磁化が生じた粒子が磁石に引き寄せられる。一方、組成物から磁石を遠ざける、すなわち、組成物に磁場をかけないと、粒子に磁化が生じにくくなり、粒子が磁石に引き寄せられにくくなる。このように、超常磁性を示す粒子を含む組成物は、磁力により制御可能なものである。
【0020】
超常磁性を示す粒子としては、フェライト粒子などが挙げられる。ここで、フェライトとは、MIIO・Fe2O3の型の2価金属の塩のことである。MIIとしては、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Cd、Caなどが挙げられる。フェライト粒子としては、マグネタイト(FeO・Fe2O3)粒子、マンガン亜鉛フェライト((MnO)x・(ZnO)1-x・Fe2O3))粒子、マンガンカルシウム亜鉛フェライト((MnO)x・(CaO)y・(ZnO)z・Fe2O3)粒子を用いることが好ましい。ここで、x+y+z=1である。
【0021】
なかでも、フェライト粒子は、磁化の高さの観点から、マンガン亜鉛フェライトを用いることが好ましい。特に、下記式(1)で表されるマンガン亜鉛フェライト粒子は、0℃以上100℃以下の温度域での、温度上昇に伴う磁化の減少が大きく、強い温度依存性(感温性)を示す。これにより、熱を輸送するための高い駆動力が得られ、効率的に熱輸送できる。
(MnO)x・(ZnO)y・(Fe2O3)z・・・式(1)
ここで、式(1)中、x、y、及びzは、0.15≦x≦0.40、0.10≦y≦0.25、0.48≦z≦0.60、x+y+z=1を満たす。
【0022】
上記式(1)に、さらに、SrO、NiO、MgO、及びCaOからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を0.01以上0.10以下の割合で加えたものを用いてもよい。これらの化合物の添加により、磁化が向上し、熱を輸送するための駆動力が得られ、より効率的に熱輸送できる。また、磁性粒子は、Zn、Mn、Fe、Ni、Sr、Mg、及びCaからなる群より選択される少なくとも2種以上の元素を含むことが好ましい。さらに、磁性粒子は、Zn、Mn、及びFeからなる群より選択される少なくとも2種以上の元素を含むことが好ましい。
【0023】
磁性粒子の含有量は、組成物全質量を基準として、20.0質量部以上50.0質量部以下であることが好ましく、30.0質量部以上50.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0024】
<分散剤>
磁性粒子を分散させる分散剤は、ポリアクリル酸又はその塩を含む。分散剤は、磁性粒子に付着して粒子表面を被覆し、水系媒体中で磁性粒子を安定に分散させることが可能となる。ここで、分散剤が粒子表面を被覆しているとは、必ずしも粒子全体を覆っている必要はなく、部分的でもよく、被覆されている分散剤の層は均一でなくともよい。
【0025】
ポリアクリル酸の塩としては、ポリアクリル酸の、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩などが挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。有機アンモニウムとしては、メチルアミン、エチルアミンなどの炭素数1以上3以下のアルキルアミン類などが挙げられる。なかでも、ポリアクリル酸は、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩型、又は有機アンモニウム塩型であることが好ましい。
【0026】
ポリアクリル酸又はその塩の使用量は、磁性粒子100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがさらに好ましい。磁性粒子に対して分散剤が少ないと、磁性粒子を安定に分散させにくくなり、保存安定性が十分に得られない場合がある。また、磁性粒子に対して分散剤が多いと、組成物の粘度が高くなり、組成物の流抵抗が上がる。これにより、組成物の流量が少なくなり、組成物の熱輸送量が小さくなる場合がある。
【0027】
ポリアクリル酸又はその塩の重量平均分子量は、3000以上20000以下であることが好ましい。質量平均分子量が3000未満であると、磁性粒子を安定に分散させにくくなり、保存安定性が十分に得られない場合がある。重量平均分子量が20000を超えると、組成物の粘度が高くなり、組成物の流抵抗が上がる。これにより、組成物の流量が少なくなり、組成物の熱輸送量が小さくなる場合がある。さらに、ポリアクリル酸又はその塩の重量平均分子量は、4500以上7000以下であることが好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより算出されるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0028】
分散剤の含有量は、組成物全質量を基準として、1.0質量部以上20.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上8.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0029】
〔粒子の体積基準の累積50%粒径(D50)〕
粒子の体積基準の累積50%粒径(D50)は、200nm以下であることが好ましい。ここで、ストークスの式より、粒子の沈降速度は、粒径の2乗に比例して大きくなる。そのため、D50が200nmを超えると、粒子の沈降速度が大きくなり、粒子の分散性が低下するため、組成物の保存安定性が十分に得られない場合がある。また、D50は、10nm以上であることが好ましい。D50が10nm未満であると、磁性粒子の比表面積が大きくなり、水系媒体中で酸化されやすくなる。
【0030】
〔粒子の体積基準の累積90%粒径(D90)〕
粒子の体積基準の累積90%粒径(D90)は、500nm以下であることが好ましい。D90が500nmを超えると、磁性粒子の分散性が低下し、組成物の保存安定性が十分に得られない場合がある。
【0031】
D50及びD90は、分散剤により分散された磁性粒子の分散粒径のことであり、動的光散乱法(DLS法)により測定することができる。
【0032】
<水系媒体>
水系媒体は、水を含む。水系媒体は、さらに水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。組成物の粘度の観点から、水溶性有機溶剤の含有量は、水100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、グリコールなどの多価アルコール類などが挙げられる。より具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、が挙げられる。水系媒体の含有量は、組成物全質量を基準として、30.0質量部以上80.0質量部以下であることが好ましい。水の含有量が30質量部未満であると、組成物の粘度が高くなるため、組成物の流量が少なくなり、結果として熱輸送量も少なくなる場合がある。組成物中の水の含有量が80質量部を超えると、組成物に含まれる磁性粒子の量が少なくなるため、熱を輸送するための駆動力が十分に得られない場合がある。
【0033】
<その他の成分>
本発明の組成物は、必要に応じて、上記の成分以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、pH調整剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、及びキレート化剤などの種々の添加剤などが挙げられる。
【0034】
pH調整剤は、組成物のpHを調整するものである。組成物のpHは、7以上14以下であることが好ましく、8以上13以下であることがより好ましく、8以上12以下であることがさらに好ましい。組成物が上記pHの範囲であると、磁性粒子の分散剤であるポリアクリル酸又はその塩のカルボキシル基がイオン化されて水となじみやすくなり、磁性粒子を水系媒体中で安定に分散させることができる。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミンなどのアミン系の化合物などが挙げられる。
【0035】
界面活性剤の含有量は、磁性粒子100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。組成物が界面活性剤を含有することで、磁性粒子をさらに安定に分散させることが可能となる。
【0036】
〔組成物の製造方法〕
組成物の製造方法について例示するが、以下の製造方法に限定されるものではない。組成物の製造方法は、磁性粒子を作製する工程、及び前記磁性粒子を分散させる工程を有することが好ましい。
【0037】
・磁性粒子を作製する工程
磁性粒子は、液相法により作製することができる。具体的には、磁性粒子を構成する金属の金属塩水溶液にアルカリ水溶液を添加して中和し、共沈物を生成させ、共沈物を加熱・反応させることで懸濁溶液を得る。磁性粒子を作製するためには、初期の塩濃度が重要である。金属塩水溶液とアルカリ水溶液を混合させると、粒子形成の反応が開始する。その際、塩濃度が高ければ、連続的に粒子形成が起こり、増粒するため、磁性粒子を作製する際の塩濃度は低いほうが好ましい。
【0038】
反応が終了した懸濁溶液は、脱イオン水で洗浄する。洗浄方法としては、デカンテーション、遠心法、限外濾過などが挙げられる。洗浄は、除去した懸濁溶液に含まれる塩濃度が100ppm以下になるまで行う。洗浄後、遠心法や加熱、真空乾燥などによって高濃度の磁性粒子ペーストが得られる。
【0039】
・磁性粒子を分散させる工程
得られた磁性粒子ペーストに、磁性粒子の分散剤であるポリアクリル酸又はその塩を含有する水溶液を添加することで、磁性粒子の表面に分散剤を直接付着させ、磁性粒子を水に分散させることが可能となる。磁性粒子は、カルボキシル基の一部が化学吸着し、また別のカルボキシル基がイオン化しているため、水への分散機能を持ち、水系媒体中で安定して分散する。磁性粒子とカルボキシル基は、化学吸着し、磁性粒子からのカルボキシル基の脱離が起こりにくいため、増粘を抑制できると考えられる。また、組成物中の磁性粒子の濃度を高くすることができるため、熱を輸送するための駆動力が向上する。
【0040】
磁性粒子を分散させる際に使用する分散機としては、例えば、二本ロールミル、三本ロールミル、ボールミル、ペブルミル、ヘンシェルミキサー、ビーズミル、コボルミル、トロンミル、サンドミル、サンドグラインダー、セグバリアトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、ディスパー、高速ミキサー、ナノマイザー、ホモジナイザー、超音波分散機などが挙げられる。分散条件は、特に制限はなく、実際に使用する装置によって異なるが、処理対象とする磁性粒子の種類・濃度、分散剤の種類・濃度などの処理量に応じて、均一な分散液が形成されるように適宜設定すればよい。また、分散後に過剰な分散剤を洗浄により除去してもよい。
【0041】
〔組成物の粘度〕
上述した通り、組成物の粘度は、流路を流れる際の流抵抗に影響を及ぼし、その結果、組成物の流量が低下して、熱輸送量が低下してしまう。そのため、本発明の組成物の粘度は、低いほうが好ましい。具体的には、25℃における組成物の粘度は、1.5mPa・s以上30mPa・s以下であることが好ましい。また、25℃における組成物の粘度は、20mPa・s以下であることがより好ましく、10mPa・s以下であることがさらに好ましい。ここで、組成物の粘度は、回転粘度計により測定することができる。
【0042】
[熱輸送装置]
図1は、本発明の組成物による熱輸送の原理を説明する図である。以下、本発明の組成物による熱輸送の原理を詳細に説明する。熱輸送装置は、組成物1が流れる流路11、組成物1に磁場を印加する磁場印加部23、及び組成物1の一部を加熱する加熱部22を有する(
図1(a)参照)。ここで、
図1において、流路中で組成物が流れる方向を矢印Xで示している。
【0043】
図1(a)において、組成物1に磁場印加部23により磁場Hが印加されると、組成物1は、磁化Mを有する流体としてふるまう。ここで、磁場Hが印加された組成物には、磁化Mと磁場勾配
▽Hに比例する磁気体積力F(M・
▽H)が働く。加熱前では、磁場印加部23の中心(点線部分)を境界として、組成物に働く磁気体積力F1とF2がつりあっていて、組成物が流れない(
図1(b)参照)。しかし、加熱中では、磁場印加部23の中心を境界として右側、すなわち、加熱部22により加熱された組成物に働く磁気体積力F2は、加熱による磁性粒子の磁化Mの低下により、小さくなる。これにより、加熱中では、磁気体積力F1>磁気体積力F2となり、組成物がX方向に流れることとなる。
【0044】
図2は、本発明の熱輸送装置の一例を示す模式図である。熱輸送装置は、組成物1が流れる流路11、組成物1に磁場を印加する磁場印加部23、及び組成物1の一部を加熱する加熱部22を有する。熱輸送装置は、さらに、冷却部24、流量計25、及び温度センサ28を有することが好ましい。温度センサ28としては、2種の異なる金属導体で構成された熱電対を用いることが好ましい。また、加熱部22は、電圧・電流源27と、流量計25、及び温度センサ28は、表示装置29と接続していることが好ましい。さらに、流路11は、コネクタ26により連結されていることが好ましい。
【0045】
流路11には、銅管、アルミ管、テフロン(登録商標)チューブ、シリコンチューブ、ゴムチューブなどが用いられる。装置内の場所によって、流路の材質を使い分けることが好ましい。加熱部22や冷却部24など熱の入出力を行う箇所においては、銅管やアルミ管などの熱伝導性に優れた流路を用いることで、効率的に熱の入出力を行うことが可能となる。その他の箇所においては、自由に配管でき、かつ、流抵抗を下げて流量を多くすることができるテフロンチューブを用いることが好ましい。
【0046】
図3は、
図2の熱輸送装置の磁場印加部を詳細に示す模式図である。ここで、磁場印加部23は、流路11を挟んで、磁石13が対向するように配置されている。磁場印加部23は、磁場強度の極大点が1個になるように配置されている。磁場印加部に用いる磁石13として、永久磁石や電磁石などが挙げられる。なかでも、
図3に示すように、磁場印加部23が、磁石13と、N極とS極の2つの磁石間を磁束で結合するための鉄心であるヨーク14とを含む永久磁石磁気回路を含むことで、外部電源を使用せずに、加熱のみで熱輸送を可能とする熱輸送装置となる。また、
図3において、流路11の一部は、加熱部22となるように構成されている。
【0047】
加熱部22は、流路11内で組成物1に温度勾配を与える。加熱部の加熱手段としては、電気ヒータ、エアーヒータ、ランプヒータなどが挙げられる。加熱部22の一部は、流路11を介して、磁場印加部23と対向していることが好ましい。
【0048】
図5は、
図3で説明した熱輸送装置を電動車両用冷却システムに組み込んだ輸送機器の一例を説明する図である。輸送機器としては車両、船舶、エレベーター、ベルトコンベア等がある。以下では駆動機構として車輪を備える車両を例に説明するが、これに限らず様々な駆動機構を備える輸送機器であってよい。
【0049】
輸送機器である電動車30に搭載される電動車両用冷却システムは駆動モータ31と、冷媒である磁性流体1と、磁性流体1を一時的に貯留するリザーバ32、及び磁性流体1の冷却を行う冷却器33、これらをつなぐ流路34とから成る。躯体(フレーム)に設けられ、加熱部(熱源)となる駆動モータ31内の電磁石はモータ駆動により発熱する。なお躯体に設けられた加熱部は、車両の外装に直接設けられているもののみならず、外装によって覆われる内部空間に部材を介して取り付けられているものも含む。
【0050】
磁性流体1はこの熱を受け取ることによって磁性が低下し、モータ中の電磁石の磁力によって流れが生じる。
【0051】
駆動モータ31より熱を受け取った磁性流体1はリザーバ32を介して冷却器33を通過することにより除熱され、再び駆動モータ31の冷媒として循環する。
【0052】
さらに電動車両においてはIGBTなどのインバータ類、電池などの冷却が必要となる場合がある。これらは駆動により熱が生じるため、適切な温度に保つため冷却が必要であるが、それぞれの適温が異なるため、単純に直列に配置することは好ましくない場合がある。本磁性流体を用いた熱搬送装置は、
図5に例示したように、並列配置することができる。
図5は冷却器33で冷却された磁性流体1は駆動モータ31とインバータ35の流路に分岐し、駆動モータ31とインバータ35で生じた熱を受け取ってリザーバ32で合流し、再び冷却器33で冷却され、循環するシステムである。インバータ部の発熱部付近には磁性流体駆動のために磁石36が配置される。さらにバッテリー37を冷却するように分岐させることも可能である。バッテリー部にも発熱部付近に磁石36を配置する。インバータ35やバッテリー37の発熱部付近に配置する磁石36の強度及び流路の流抵抗を調整することで駆動モータ31とインバータ35、バッテリー37に最適な流量になるように調節することが可能である。
【0053】
本発明の他の態様として、組成物1が流れる流路11、組成物1に磁場を印加する磁場印加部23を備える熱輸送機構を構成してもよい。さらに、冷却部24、流量計25、及び温度センサ28を有してもよい。つまり熱輸送機構は加熱部(熱源)それ自体は備えておらず、熱輸送機器が搭載される機器の側に加熱部(熱源)を有していることを想定している機構である。
【0054】
また、逆に熱輸送機構にさらに加熱部(熱源)を配して、上述の熱輸送装置を構成してもよい。上述の輸送機器の例を挙げると、輸送機器は熱輸送機構と駆動モータ等の加熱部(熱源)、躯体、車輪等の駆動機構を備えている。
【0055】
本磁性流体を用いた熱輸送装置は、電力不要で部品点数も少ないため、電動車両用冷却システムに適している。また、本冷却システムはハイブリッド車のような内燃機関とモータを同時に備える場合にも適用できる。
【0056】
本熱輸送装置および熱輸送機構のその他の適用例として、自動車等の内燃機関、太陽光発電パネル、大型ディスプレイ、大型スピーカ、CPUやGPUに代表される半導体およびそれらを用いた電気基板類、が挙げられる。すなわち、加熱部(熱源)を備えるさまざまな機器に適用可能である。太陽光パネル等、輻射熱あるいは他の熱源からの熱伝搬により温度が上昇した部位が、その加熱部(熱源)となる機器も本発明に含まれる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例、及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、成分量に関して「部」と記載しているものは「質量部」を示す。
【0058】
(組成物1~12の調製)
表1及び2に記載の通り、水酸化ナトリウムを水に溶解して、アルカリ水溶液を調製した。また、表1及び2に記載の金属塩を、それぞれ水に溶解し、金属塩水溶液を調製した。
【0059】
次に、水酸化ナトリウム水溶液を撹拌しながら、各金属塩水溶液を2mL/分の速度で滴下して反応させて、フェライト粒子を作製した。得られたフェライト粒子のpHが11~12となるように、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、調整した。その後、温度90℃以上で1時間熟成させて、フェライト粒子の懸濁溶液を得た。得られたフェライト粒子の懸濁液のpHを7に調整し、磁気沈降による水洗を繰り返し行った。その際、洗浄液に塩化バリウム水溶液や塩化銀水溶液を添加しても白濁しなくなるまで、水洗を行った。水洗後の粒子を遠心分離により濃縮し、磁性粒子ペーストを得た。
【0060】
得られた磁性粒子ペーストに、表1及び2に記載の分散剤であるポリアクリル酸ナトリウム、及び水を添加し、6時間ホモジナイザーで分散処理を行った後、磁性粒子の濃度を調整し、各組成物を得た。表1及び2中、ポリアクリル酸ナトリウムの量は、固形分量である。
【0061】
また、ポリアクリル酸ナトリウム1としては、固形分量が40質量%であるT-50(東亜合成製)を用い、重量平均分子量が6000であった。ポリアクリル酸ナトリウム2は、一般的な方法で作製したものを用い、重量平均分子量が5500であった。ポリアクリル酸ナトリウム3としては、固形分量が40質量%のA-210(東亜合成製)を用い、重量平均分子量が3000であった。ポリアクリル酸ナトリウム4としては、固形分量が40質量%であるAC-10P-1(東亜合成製)を用い、重量平均分子量が9000であった。ポリアクリル酸ナトリウム5は、一般的な方法で作製したものを用い、重量平均分子量が20000であった。
【0062】
[重量平均分子量の測定方法]
分散剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定した。25℃で24時間かけて、樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。得られた溶液を、メンブレンフィルターでろ過して、サンプル溶液を得た。サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が約0.3%となるように調整した。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で分散剤の重量平均分子量を測定した。
装置:Waters2695 Separations Module、Waters製RI検出器:2414detector、Waters製
カラム:KF-806Mの4連、昭和電工製
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/min
オーブン温度:40℃
試料注入量:100μL
【0063】
分散剤の重量平均分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(TSKスタンダード ポリスチレン F-850、F-450、F-288、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000、A-2500、A-1000、A-500、東ソー製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用した。
【0064】
【0065】
【0066】
表3~5には、各組成物における磁性粒子の構成、組成物中の磁性粒子の含有量(部)、分散剤の含有量(部)、界面活性剤の含有量(部)、及び水の含有量(部)を記載した。含有量は、いずれも固形分量である。また、表3~5の下段には、組成物の特性として、粘度(mPa・s)、及び粒子の特性として、体積基準の累積50%粒径D50(nm)を記載した。表3~5中、アセチレノールE100は、川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤である。
【0067】
[粘度の測定方法]
組成物の粘度は、回転粘度計(RE80型回転粘度計、東機産業製)を使用して、温度25℃で測定した値である。
【0068】
[D50の測定方法]
粒子のD50は、動的光散乱法による粒子径測定装置(ナノトラック150、マイクロトラック製)を使用して、測定した値である。測定条件は、測定回数:3回、測定時間:120秒である。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
(組成物13の調製)
組成物1~12と同様の方法で、磁性粒子ペーストを得た。得られた磁性粒子ペーストに水を加えて600gとし、95℃にして、磁性粒子を含む溶液を得た。また、水150mLに、3-メルカプトプロピオン酸6.8gを溶解し、60℃にして、3-メルカプトプロピオン酸を含む溶液を得た。
【0073】
磁性粒子を含む溶液を撹拌しながら、3-メルカプトプロピオン酸を含む溶液を加えて、95℃で1時間反応させて、磁性粒子に3-メルカプトプロピオン酸を吸着させた。その後、磁気沈降による水洗を繰り返し行い、過剰な3-メルカプトプロピオン酸を除去し、磁性粒子の固形分量が90質量%になるまで濃縮乾燥して、乾燥させた磁性粒子33gを得た。
【0074】
水20gに24%の水酸化ナトリウム水溶液2gを溶解させた溶液に、乾燥させた磁性粒子32gを加えて、30分高速で撹拌し、磁性粒子を分散させた。その後、磁気沈降により濃縮して、磁性粒子の含有量が45.0部である組成物13を得た。
【0075】
(組成物14の調製)
組成物1~12と同様の方法で、磁性粒子ペーストを得た。得られた磁性粒子ペーストに水を加えて500gとし、80℃にして、磁性粒子を含む溶液を得た。磁性粒子を含む溶液を撹拌しながら、オレイン酸ナトリウム20gを加えた。温度80℃で30分間撹拌して、磁性粒子にオレイン酸ナトリウムを吸着させた。その後、加熱を止めて、塩酸を加えて溶液を中和してpH6.5~7に調整して、オレイン酸ナトリウムが吸着した磁性粒子を得た。
【0076】
得られた磁性粒子は、磁気沈降による水洗を繰り返し行った。その際、洗浄液に塩化バリウム水溶液を添加しても白濁しなくなるまで、水洗を行った。その後、遠心脱水機で脱水を行い、磁性粒子の固形分量が70%である含水磁性粒子42gを得た。
【0077】
水50g、及び50%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液18gを均一に撹拌し、得られた含水磁性粒子20gを加えて、磁性粒子の含有量が20.0部である組成物14を得た。
【0078】
(組成物15の調製)
組成物14と同様の方法で組成物の調製を行い、磁性粒子の含有量が30.0部である組成物15を得た。
【0079】
(組成物16及び17の調製)
組成物1~12と同様の方法で組成物の調製を行い、磁性粒子の含有量が17.0部である組成物16、磁性粒子の含有量が30.0部である組成物17を得た。
【0080】
(組成物18)
媒体として油系媒体であるケロシンをベースとしたフェリコロイドTS-50K(イチネンケミカルズ製)を磁性粒子として用いた。組成物の粘度は、13.1mPa・sであり、粒子のD50は、11nmであった。
【0081】
表6には、組成物を調製する際に用いるアルカリ水溶液(部)、金属塩水溶液(部)、及び分散剤(部)を記載した。表7には、各組成物における磁性粒子の構成、組成物中の磁性粒子の含有量(部)、分散剤の含有量(部)、界面活性剤の含有量(部)、及び水の含有量(部)を記載した。含有量は、いずれも固形分量である。また、表7の下段には、組成物の特性として、粘度(mPa・s)、及び粒子の特性として、体積基準の累積50%粒径D50(nm)を記載した。
【0082】
【0083】
【0084】
(組成物19~26の調製)
組成物1~12と同様の方法で組成物の調製を行い、磁性粒子の含有量が35.0部である組成物19~26を得た。
【0085】
表8、表9には、各組成物における磁性粒子の構成、組成物中の磁性粒子の含有量(部)、分散剤の含有量(部)、水溶性有機溶媒の含有量(部)、及び水の含有量(部)を記載した。また、表8、表9の下段には、組成物の特性として、F25-F90(gF)、粘度(mPa・s)、及び粒子の特性として、体積基準の累積50%粒径D50(nm)を記載した。
【0086】
(組成物19~26の調製)
組成物1~12と同様の方法で組成物の調製を行い、磁性粒子の含有量が35.0部である組成物19~26を得た。
【0087】
表8、表9には、各組成物における磁性粒子の構成、組成物中の磁性粒子の含有量(部)、分散剤の含有量(部)、水溶性有機溶媒の含有量(部)、及び水の含有量(部)を記載した。また、表8、表9の下段には、組成物の特性として、F25-F90(gF)、粘度(mPa・s)、及び粒子の特性として、体積基準の累積50%粒径D50(nm)を記載した。
【0088】
以下に例示した組成物においては組成物100質量部に対して、10以上50以下の質量部のグリコール又はグリセリンが含まれる。
【0089】
【0090】
【0091】
<評価>
本発明においては、下記の評価の評価基準で、A、又はBを許容できるレベルとし、Cを許容できないレベルとした。評価結果は、表10に示す。
【0092】
(保存安定性)
ガラスサンプル管(容量30mL、外径30mm×高さ63mm、底面積5cm2)に、得られた各組成物10mLを入れて密封し、静置して3日後の磁性粒子の分散状態を目視で観察し、保存安定性を評価した。
A:状態に変化が見られなかった
B:ゲル化していたが、再分散した
C:ゲル化しており、再分散しなかった。
【0093】
(流量)
図1の熱輸送装置を試作し、組成物の駆動試験を行った。磁場印加部としては、
図3のように、流路11の垂直方向に磁化容易軸を持ち、着磁方向が互いに反対である60×30×30tmmのネオジム磁石2個と、70×30×10tmmのヨーク材SS400で構成される磁気回路を2個同極配置させたものを用いた。ここで、磁気回路は、流路11を挟んで対向するように配置されている。
【0094】
流路11としては、内径4mmのテフロン(登録商標)チューブ、加熱部としては、内径4mm、長さ40.0mmの銅管を使用し、全流路11の長さを、1200mmとした。
【0095】
加熱部は、
図3に示すように、上記磁気回路との相対位置を任意に変更可能な銅管で形成し、直流電源に接続した。銅管の温度を温度センサである熱電対により測定し、その測定値が25℃~90℃になるように電流・電圧を調整した。流路に各組成物を封入して、熱輸送装置を作製した。
【0096】
加熱していない場合の流路内の組成物の温度を25℃として、熱輸送装置を用いて、銅管温度(組成物への印加温度)を変化させて、組成物の駆動試験を行い、流量を測定した。
【0097】
【0098】
比較例1は、組成物の保存安定性が許容できないレベルのCであり、60℃と80℃での流量の差(mL/min)は、実施例と比べて低くなった。また、比較例2及び3は、組成物の保存安定性が許容できないレベルのCであり、60℃と80℃での流量がいずれも0.0であった。これは、比較例1~3の組成物の保存安定性の低下により、熱輸送するための駆動力が低下したことを示している。
【0099】
参考例1及び2は、組成物の保存安定性が許容できるレベルのAであるものの、60℃と80℃での流量がいずれも0.0であった。これは、組成物中の磁性粒子の含有量が小さく、熱輸送するための駆動力が低下したことを示している。
【0100】
参考例3は、組成物の保存安定性が許容できるレベルのAであるものの、60℃と80℃での流量の差(mL/min)は、実施例と比べて低くなった。これは、組成物中の媒体が油系媒体であるため、流量が低下し、熱輸送量が大きくないことを示している。比較例6は水分含有量が少ないために、分散剤が十分に機能せず、磁性流体を媒体中に分散することができなかった。