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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】計測方法及び計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
G01N29/14
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020186553
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076230
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碓井 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一雄
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-194541(JP,A)
【文献】特開2018-040848(JP,A)
【文献】特開平06-241883(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0101167(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N29/00-G01N29/52
G01H 1/00-G01H17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料で形成されている構造物で発生した弾性波を非接触で検出し、
検出した前記弾性波の信号の強度に関する情報に基づいて前記弾性波の発生源の位置を推定し、
前記発生源の位置を推定する際に、
前記弾性波を検出する複数の検出位置を基準位置に対して、平面視において環状、同心円状、矩形状、楕円形状若しくは菱形状又は螺旋状に配置し、
記複数の検出位置の各々と基準位置とを結ぶ線と前記弾性波が前記複数の検出位置の各々に到着する方向に沿った線とが平面視でなす角度を前記弾性波の複数の検出角度として離散的に検出し、
各々の前記検出角度での前記強度のプロットに連続関数をフィッティングさせることによって前記検出角度に対する前記強度の変化を表す実測関数の情報を取得し、
前記弾性波の検出角度に関する情報と前記強度に関する情報と前記実測関数の情報に基づいて、実測関数のピーク角度と半減角とを求め、前記ピーク角度及び半減角によって基準位置から前記発生源に向かう方向及び前記基準位置から前記発生源までの距離を推定する、
計測方法。
【請求項2】
複数の検出位置の各々と前記構造物の表面における所定の基準位置とを結ぶ線が前記所定の基準位置と前記基準位置とを通る前記構造物の表面の法線に対して側面視でなす傾斜角度は、次の(1)式で表される、
請求項1に記載の計測方法。
【数1】
なお、(1)式において、vairは前記構造物の表面から出射される前記弾性波の速度を表し、vaeは前記発生源から前記表面まで前記構造物の内部を伝搬する前記弾性波の速度を表す。
【請求項3】
前記複数の検出角度の各々で指向性を有する超音波センサを用いて前記弾性波を非接触で検出し、
前記連続関数として前記超音波センサの共振周波数及び振動子半径に基づく指向性関数を用いる、
請求項1又は請求項2に記載の計測方法。
【請求項4】
前記連続関数としてフォン・ミーゼス分布関数を用いる、
請求項1又は請求項2に記載の計測方法。
【請求項5】
固体材料で形成されている構造物で発生した弾性波を非接触で検出する複数のセンサを有するセンサアレイと、
前記センサで検出された前記弾性波の信号の強度に関する情報に基づいて前記弾性波の発生源の位置を推定する位置推定機構と、
を備え、
前記位置推定機構は、
前記複数のセンサによって前記弾性波を検出する複数の検出位置の各々と基準位置とを結ぶ線と前記弾性波が前記複数の検出位置の各々に到着する方向に沿った線とが平面視でなす角度を前記弾性波の複数の検出角度として離散的に検出する検出角度取得部と、
各々の前記検出角度での前記強度のプロットに連続関数をフィッティングさせることによって前記検出角度に対する前記強度の変化を表す実測関数の情報を取得する関数取得部と、
前記弾性波の検出角度に関する情報と前記強度に関する情報と前記実測関数の情報に基づいて、実測関数のピーク角度と半減角とを求め、前記ピーク角度によって前記基準位置から前記発生源に向かう方向及び前記基準位置から前記発生源までの距離を推定する推定部と、
を有
前記複数の検出位置は、前記基準位置に対して、平面視において環状、同心円状、矩形状、楕円形状若しくは菱形状又は螺旋状に配置されている、
計測装置。
【請求項6】
複数のセンサの各々の位置と前記構造物の表面における所定の基準位置とを結ぶ線が前記所定の基準位置と前記基準位置とを通る前記構造物の表面の法線に対して側面視でなす傾斜角度は、次の(1)式で表される、
請求項5に記載の計測装置。
【数2】
なお、(1)式において、vairは前記構造物の表面から出射される前記弾性波の速度を表し、vaeは前記発生源から前記表面まで前記構造物の内部を伝搬する前記弾性波の速度を表す。
【請求項7】
前記センサは超音波を検出可能且つ指向性を有する超音波センサであり、
前記連続関数は前記超音波センサの共振周波数及び振動子半径に基づく指向性関数である、
請求項5又は請求項6に記載の計測装置。
【請求項8】
前記連続関数はフォン・ミーゼス分布関数である、
請求項5又は請求項6に記載の計測装置。
【請求項9】
前記複数のセンサのうちの一部のセンサは、前記構造物の表面における所定の基準位置を通る前記表面の法線に対して残りの前記センサとは異なる傾斜角度をなして配置されている、
請求項5から請求項8の何れか一項に記載の計測装置。
【請求項10】
前記複数のセンサのうちの一部のセンサは、前記構造物の表面における所定の基準位置を通る前記表面の法線に対して所定の傾斜角度をなして配置され、平面視において前記所定の基準位置から所定の距離離れて配置されている、
請求項5から請求項9の何れか一項に記載の計測装置。
【請求項11】
前記複数のセンサの各々の前記センサの指向性の最大感度を示す軸線は前記所定の基準位置で互いに交差している、
請求項9又は請求項10に記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、計測方法及び計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば橋梁等の構造物では、老朽化に伴い、疲労亀裂が発生する場合がある。疲労亀裂は時間の経過とともに進行し、構造物は劣化する。構造物の劣化を検出する方法として、アコースティック・エミッション(Acoustic Emission:AE)方式による位置評定解析が提案されている。AE方式では、圧電素子を有するAEセンサを用いて材料の疲労亀裂の進展に伴い発生する弾性波を電圧信号(即ち、AE信号)として検出する。AE方式に基づく位置評定解析では、原理的に、構造物の表面に設置された3つ以上のセンサによって疲労亀裂が発生した発生源の位置に関する2次元位置を推定可能である。しかしながら、従来のAE方式に基づく位置評定解析では、接触型のAEセンサの使用を前提としていたため、AEセンサを含む計測装置が弾性波を発生させる構造物に接して固定されている必要があり、計測対象物、計測範囲或いは計測環境が限定される場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-013172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、弾性波の発生源が存在する計測対象物、計測範囲或いは計測環境の自由度を高めることができる計測方法及び計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の計測方法は、固体材料で形成されている構造物で発生した弾性波を非接触で検出し、検出した前記弾性波の信号の強度に関する情報に基づいて前記弾性波の発生源の位置を推定する。前記発生源の位置を推定する際に、前記弾性波を検出する複数の検出位置を基準位置に対して、平面視において環状、同心円状、矩形状、楕円形状若しくは菱形状又は螺旋状に配置し、前記弾性波を検出する複数の検出位置の各々と基準位置とを結ぶ線と前記弾性波が前記複数の検出位置の各々に到着する方向に沿った線とが平面視でなす角度を前記弾性波の複数の検出角度として離散的に検出し、各々の前記検出角度での前記強度のプロットに連続関数をフィッティングさせることによって前記検出角度に対する前記強度の変化を表す実測関数の情報を取得し、前記弾性波の検出角度に関する情報と前記強度に関する情報と前記実測関数の情報に基づいて、実測関数のピーク角度と半減角とを求め、前記ピーク角度によって基準位置から前記発生源に向かう方向及び前記基準位置から前記発生源までの距離を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態の計測方法を説明するための側面図。
図2】ラム波のA0モード及びS0モードについて周波数に対する位相速度を計算した結果を示すグラフ。
図3】第1の実施形態の計測装置のセンサアレイの構成の一例を示す平面図。
図4図3に示す位置CにおいてZ方向から見たセンサアレイの側面図。
図5】第1の実施形態の計測装置の一部の構成を示す側面図。
図6A】センサアレイに含まれる1つのセンサから構造物を見たときの方向及び角度について説明するための平面図。
図6B】センサアレイに含まれる1つのセンサから構造物を見たときの方向及び角度について説明するための斜視図。
図6C】センサアレイに含まれる1つのセンサから構造物を見たときの方向及び角度について説明するための斜視図。
図7】方位角のずれに対する規格化振幅の変化を表すプロットの一例を示すグラフ。
図8】センサアレイと弾性波の発生源との位置関係を説明するための平面図。
図9】センサアレイと弾性波の発生源との位置関係を説明するための平面図。
図10】方位角のずれに対する規格化振幅を計算した結果を示すグラフ。
図11】センサアレイの基準位置と発生源との距離と半減値との相関関係を求めた結果を示すグラフ。
図12】第1の実施形態の計測装置のブロック図。
図13図12に示す信号処理部のブロック図。
図14図13に示す特徴量抽出部における処理を説明するための模式図。
図15図13に示す特徴量抽出部で行われる処理のフローチャート。
図16図13に示す位置推定部で行われる処理のフローチャート。
図17】構造物中の弾性波の発生源に関する従来の位置標定方法を説明するための側面図。
図18】第1の実施形態の計測装置のセンサアレイの構成の変形例を示す平面図。
図19図18に示す位置CにおいてZ方向から見たセンサアレイの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の計測方法及び計測装置を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、互いに同一又は類似の機能を有する構成に互いに同一の符号を付す。また、互いに同一又は類似の機能を有する構成の重複する説明を省略する場合がある。
【0008】
始めに、計測対象の構造物11で弾性波が発生及び伝搬する原理について簡単に説明する。図1に示すように、固体材料で形成されている構造物11中を速度vaeで伝搬するラム波やレイリー波等の弾性波は、構造物11の表面11aから空気中に音波(弾性波)101として放射される。音波101は、空気中において速度vairで拡散する。詳しく説明すると、ラム波(弾性波)によって主に表面11aの固体材料の粒子が振動し、表面11aに点音源102が生じる。点音源102からは、空気中に音波101が放射される。点音源102は、固体材料に特有の速度vaeで表面11aと平行な伝搬方向に沿って移動する。移動した点音源102が作り出す音波101は、表面11aから空気側に所定の角度ψをなして傾斜した線上で同位相となる波面103を形成する。角度ψは、次に示す(1)式で表される。
【0009】
【数1】
【0010】
以下では、構造物11の表面11aに平行な且つ互いに直交する2つの方向をX方向及びY方向と称し、構造物11の厚さ方向に沿い且つX方向及びY方向に直交する方向をZ方向と称する。例えば、構造物11がアルミニウム製のプレートであり、構造物11の厚さが3mmであると想定する。固体材料を伝搬する弾性波には、縦波であるp波と、横波であるs波の2種類が含まれる。構造物11が厚さ3mmのプレートのように薄板である場合、プレートの端面での反射によって反射p波及び反射s波が励起され、全体としてラム波(弾性波)と呼ばれるガイド波が形成される。
【0011】
ラム波の伝搬の様子は、波動方程式に境界条件を導入することによって求めることができる。ラム波の伝搬速度は、周波数に応じて変化する。即ち、ラム波は、速度分散特性を有する。薄板であるアルミニウム製のプレートにおけるラム波の伝搬モードには、対称モード(Symmetry(S)モード)と、非対称モード(Anti-Symmetry(A)モード)が含まれる。各々の伝搬モードの次数が高くなるほど、周波数が高くなる。図2は、厚さ3mmのアルミニウム製のプレートにおける最も低い0次のSモード及びAモード(以下、S0モード及びA0モードと記載する場合がある)の各々について周波数の変化に対する位相速度の変化の計算結果を示す。
【0012】
Sモードの速度はAモードに比べて速いが、Sモードの振幅はAモードよりも小さい。図2に示す計算結果では、アルミニウム製のプレート中での周波数100[kHz]におけるA0モードの伝搬速度vLamb_A0は1530m/sであった。このときの角度ψは、空気中の音波101の速度vairを340.29m/sとすると、(1)式より、次に示す(2)式のように算出される。
【0013】
【数2】
【0014】
上述のように、構造物11中の弾性波の伝搬に伴い、構造物11の表面11aに隣接する空気中、即ち構造物11の周囲の媒質中に音波101が発生する。音波101の波面103と構造物11の表面11aとがなす角度ψは、固体材料中の弾性波の伝搬速度(本明細書では、単に速度という場合がある)と空気中の弾性波の伝搬速度との比によって決まる。
【0015】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の計測方法及び計測装置201では、上述の原理に基づいて、構造物11の表面11aから空気中へ放射される音波101を検出し、構造物11中の弾性波の発生源の位置を推定する。発生源の位置は、Z方向に特定されず、X方向及びY方向を含むXY平面内における位置を意味する。計測装置201は、図3及び図4に示すセンサアレイ51と、後述する位置推定装置(位置推定機構)60と、を備える。センサアレイ51は、複数の超音波センサ(センサ)10-1、10-2、・・・、10-jを備える。jは、超音波センサの総数を表し、2以上の任意の自然数である。図3では、j=8である。以下、複数の超音波センサ10-1、10-2、・・・、10-jに共通する内容を説明する際には、これらの超音波センサについて超音波センサ10と記載する。
【0016】
超音波センサ10は、音波101を非接触で検出する。前述のように、音波101は、固体材料で形成されている構造物11で発生した弾性波が空気中に放射されることによって生成される。固体材料は、例えばコンクリートや鉄、アルミニウム、セラミックス等の他、炭素繊維強化プラスチック等の複合材料であるが、特定の固体材料に限定されない。複数の超音波センサ10は、構造物11の表面11aからZ方向で所定の高さhの空気中に配置され、図4に示すように構造物11に接触しない状態で設けられている。図3に示すように、複数の超音波センサ10は、平面視において基準位置16を中心として距離rを半径とする円14上、且つ周方向で略等間隔に配置されている。即ち、複数の超音波センサ10は、基準位置16を中心として環状に配置されている。基準位置16は、構造物11の表面11aにおける基準位置(所定の基準位置)110からZ方向に沿って高さh移動した空気中の位置である。
【0017】
図4に示すように、複数の超音波センサ10は、基準位置110を通る表面11aの法線112に対して角度(所定の傾斜角度)ψをなすように配置されている。超音波センサ10は、弾性波の検出方向の指向性を有する検出装置である。超音波センサ10-mの指向性の最大感度を示す軸線12-mは、基準位置110で互いに交差し、基準位置110で1点に集束する。mは、1からjまでの自然数を表す。
【0018】
超音波センサ10-mの軸線12-mと法線112とがなす角度ψは、計測対象の構造物11の固体材料中での弾性波の速度vae、及び空気中での音波101の速度vairに基づき、次に示す(3)式で表される。
【0019】
【数3】
【0020】
複数の超音波センサ10は、平面視において基準位置110から一定の距離(所定の距離)r離れて配置されている。即ち、超音波センサ10-mの検出口13-mと基準位置16とのXY平面内での離間距離は、距離rである。
【0021】
図5に示すように、センサアレイ51は、複数の超音波センサ10に加えて、複数の超音波センサ10を前述のように平面視環状且つ離散的に支持するためのフレーム部材40を備える。なお、図5以外の図面では、フレーム部材40は省略されている。フレーム部材40は、基準位置16を中心として環状に形成されている。例えば8個の超音波センサ10-1、・・・、10-8の各々は、不図示の連結部材等によってフレーム部材40の内周側に装着されている。超音波センサ10-mは、軸線12-mがセンサアレイ51の下方の基準位置110で1つに束ねられて交差するように配置されている。超音波センサ10-mの検出口13-mは、フレーム部材40よりも下方に垂下し、且つ平面視で基準位置110に向き合うように配置されている。
【0022】
センサアレイ51は、フレーム部材40の他に、複数の超音波センサ10を前述のように設置するために好適な部材を備えてもよい。図5では、超音波センサ10-1のみについて例示しているが、超音波センサ10とフレーム部材40との連結部材(図示略)は、超音波センサ10-mのZ方向の位置及び法線112に対して軸線12-mがなす角度ψを変更可能に構成されてもよい。センサアレイ51は、フレーム部材40が計測対象の構造物11の表面11aの空気側の空間内で移動可能に設置或いは固定されていてもよく、飛行体等に接続されて飛行可能に構成されてもよい。
【0023】
位置推定装置60の詳しい構成を説明する前に、第1の実施形態の計測方法及び計測装置201において複数の超音波センサ10で検出した音波101に関する情報から発生源120の位置に関する情報を推定する原理について説明する。超音波センサ10-mにおいて超音波を検出する検出口13-mは、基準位置110に向いている。
【0024】
超音波センサ10の指向性は、無限大の剛壁中に埋め込まれて所定の角周波数で振動する所定の半径の円板上の範囲に形成される音場の問題として捉えられる。遠距離場で音場が形成されると想定すると、XY平面内で指向性を示す角度θの関数である指向性関数は、図6A及び図6Bに示す超音波センサ10-mの軸線12-mの平面視における方位角がおおよそθであるとき、基準軸線32と軸線12-mがなす角度θ、弾性波の波数kを用いて、以下の(4)式の左辺で表され、(4)式の右辺で表されるように近似される。(4)式におけるJは、第1次のベッセル関数である。
【0025】
【数4】
【0026】
センサアレイ51に含まれる各々の超音波センサ10に弾性波が到来したときの方位角θazmを考慮すると、超音波センサ10の指向性の最も高い検出方向と弾性波の基準位置16、110到達方向でずれた角度θは、空気中の音速vair、構造物11中での弾性波の速度vaeを用いた幾何学的な計算によって、次に示す(5)式及び前述の(1)式のように表される。
【0027】
【数5】
【0028】
一例として、図7に、構造物11中の弾性波の周波数を200kHz、弾性波の速度を1530m/s、空気中の音速を340.29m/s、超音波センサ10の振動子半径を3.5mmと想定し、方位角のずれ量を表す角度(図7に示すAzimuth angle)に対する音波101の振幅特性を数値計算した結果を示す。図7に示すように、XY平面内で複数の超音波センサ10の各々において音波101が到来する方向(軸線の向く方向)と発生源から基準位置16に向かって弾性波が到来する方向(弾性波の検出方向)との角度差に基づいて、検出されるAE信号(信号)の強度が変化することが示されている。前述の角度差は、超音波センサ10-mの軸線12-mの方位角θazmに関係し、図6Cに示す角度θsrcで表される。なお、図6Cにおいては、θ=0である。
【0029】
上述の説明からわかるように、軸線12-mによって予め弾性波を検出する検出方向が既知であって、互いに異なる方向を向いている複数の超音波センサ10で同時に音波101を検出することによって、AE信号を生じさせる発生源の少なくとも2次元位置(位置)が推定される。
【0030】
図8に示すように、センサアレイ51の位置として基準位置16と弾性波の発生源120との距離Lが例えばセンサアレイ51の大きさ、即ち平面視での直径の数倍程度であり、有限とみなせる場合、発生源120からセンサアレイ51に到来する弾性波は、平面視で基準位置16を中心として環状に配置されている複数の超音波センサ10に対して互いに異なる方位角θazmで入射する。
【0031】
一方、図9に示すように、距離Lがセンサアレイ51の平面視での直径に比べてはるかに大きく、無限大とみなせる場合、発生源120からセンサアレイ51に到来する弾性波は、複数の超音波センサ10に対して概ね同じ方位角θで入射する。つまり、角度θsrcは、弾性波(以下、AE波と記載する場合がある)のセンサアレイ51への到来方向、即ちAE波の検出方向を示す。角度θsrcは、平面視でX方向に平行且つ基準位置16を通る軸線22を基準線として軸線22に対してAE信号(或いは、AE波)が検出される方向がなす角度を表す。
【0032】
図8及び図9に示すように、軸線22をセンサアレイ51の基準の方向とするとき、角度θsrc、角度θ、超音波センサ10-mの検出口13-mと基準位置16とを結ぶ距離r、及び距離Lを用いると、超音波センサに弾性波が入射する方位角θazmは、次に示す(6)式及び(7)式で表される。ここで、角度θsrcは、平面視で弾性波の検出位置、即ち基準位置16から前記発生源に向かう方向を示す。角度θは、超音波センサ10の相対配置によって決まり、且つ平面視での各々の超音波センサ10-mの軸線12-mと軸線22とがなす角度を表す。
【0033】
【数6】
【0034】
(6)式において、距離Lが無限大とみなせる場合は、右辺の第2項を0と近似することができる。
【0035】
【数7】
【0036】
(6)式及び(7)式において角度θsrcの上方に付されたハットは、推定量であることを表す。複数の超音波センサ10が図3及び図4に示すように配置されている場合、上述の(5)式においてψ=ψであり、(6)式においてr=rである。
【0037】
図10は、上述の一例と同じパラメータを用い、(5)式及び(6)式に基づいて方位角θazmに対する規格化振幅値(強度に関する情報)の変化をAE信号の強度に関する情報として数値計算で求め、プロットしたグラフである。距離Lを0.1[m]、0.2[m]、1.0[m]と増大させると、ピークの方位角θazmは略変化せず、半減角が減少した。ピークの角度θazmは、センサアレイ51の基準位置16から見たときの発生源120が存在する方向を示す。角度θazmに対する規格化振幅値のプロットの半減角は、距離Lに依存し、距離rが減少するにしたがって増大する。
【0038】
図11は、距離rを95mm、弾性波の周波数200kHz、弾性波の速度1530m/s、空気中での音速340.29m/s、振動子半径3.5mmであると想定して(5)式~(7)式に代入したときの、距離Lと半減角との関係を示す。実際の計測時には、構造物11の固体材料に依存する弾性波の伝搬速度等の条件をふまえ、図11に例示するように、距離Lを変化させたときの半減幅を予め計算し、距離Lと半減幅との検量線を作成する。続いて、センサアレイ51における複数の超音波センサ10の総数或いは配置に基づいて、離散的な方位角θazmの各々に対する振幅値を取得する。得られた振幅値を(6)式及び(7)式でフィッティングすることによって、ピーク角度と半減角を算出し、ピーク角度を角度θsrcとして軸線22に対して傾斜した方向を求めると共に、半減幅を前述の検量線に対応させて距離Lを求める。算出したこれらの情報によってセンサアレイ51から見て発生源120が存在する位置を推定することができる。
【0039】
前述のように離散的な角度θazmの各々で得られた振幅値を数式に基づきフィッティングする際に、フィッティング関数として、(4)式で表される指向性関数を用いることができる。指向性関数に比べて簡易なフィッティング関数として、次に示す(8)式で表されるフォン・ミーゼス分布関数を用いることができる。
【0040】
【数8】
【0041】
(7)式において、Aは振幅に関係するスケーリングファクター、κは距離に関係する分布集中パラメータを表す。フィッティング関数は、距離Lと半減角との関係につながる要素を有していればよく、特に限定されない。
【0042】
上述の計測方法に用いるセンサアレイ51において、複数の超音波センサ10は、図3に示すように基準位置16を中心とする半径が距離rの仮想的な円14上に周方向で等間隔に配置されている。基準位置16をr=0の点とする円座標(r-θ座標)系で考えると、m個の超音波センサ10-m(Sm;m=1、・・・、j)のそれぞれの座標Pは、次に示す(9)式及び(10)式で表される。
【0043】
【数9】
【0044】
【数10】
【0045】
上述した原理に基づいて後述するように、フィッティング関数(連続関数)を用いて、角度θsrcと距離Lが算出された際には、これらの情報を円座標系に適用することによって、発生源120の正確な位置を算出することができる。
【0046】
第1の実施形態の計測装置201は、図12に示すように、センサアレイ51と、位置推定装置60と、を備える。位置推定装置60は、複数の超音波センサ10と同じ総数jの増幅器62-1~62-jと、バンドパスフィルタ(BPS)64-1~64-jと、信号処理部70と、出力部90と、を備える。増幅器62-1~62-jは、超音波センサ10-1~10-jから出力された音波101に関する電圧信号(弾性波の信号の強度に関する情報)を、例えば電圧利得等の所定の利得で増幅する。BPF64-1~64-jは、増幅器62-1~62-jで増幅された電圧信号の所定の帯域外のノイズ成分を除去し、所定の帯域以内の電圧信号を出力する。BPF64-1~64-jの種類は、前述の動作を実行できるフィルタであれば、特に限定されない。信号処理部70は、複数の超音波センサ10で検出された音波101に関する振幅を検出し、所定の演算処理によって、発生源120の位置を推定する。出力部90は、推定された発生源120の位置を外部へ出力し、例えば推定された発生源120の位置を直接又は遠隔で表示する表示装置等を備える。
【0047】
図13に示すように、信号処理部70は、特徴量抽出部72、位置推定部74及びセンサ配置記憶部76を備える。特徴量抽出部72は、少なくとも弾性波の振幅の情報として音波101の振幅の情報を抽出する。図14は、音波101の振幅に関する電圧信号の時間変化の典型例を表す。図14に示すように、電圧信号の振幅は、検出開始直後に増大し、初期の時間帯t1ではその後の時間よりも大きい。最大ピーク後の電圧信号の振幅は、時間の経過とともに減少し、微弱な状態が続く。このような電圧信号の振幅の時間変化の特性をふまえ、特徴量抽出部72は、図15に示すフローチャートの処理を実行する。特徴量抽出部72では、計測が開始すると、電圧信号が所定の振幅閾値VTHを超過したか否かを判定する(ステップS501)。電圧信号が所定の閾値を超過した場合、それ以降の時間において振幅の最大値を保持する。振幅が所定の閾値を一定時間t下回り続けるまで、前述の振幅の最大値を保持する(ステップS502)。振幅が閾値VTHを一定時間t下回った場合、一連の弾性波が収束したと判断し(ステップS503)、その時点での振幅の最大値を抽出し(ステップS504)、位置推定部74へ送信する。
【0048】
位置推定部74は、図16に示すフローチャートの処理を実行する。センサ配置記憶部76には、超音波センサ10の配置に関する情報として、総数j、距離r、角度ψ等のデータが記憶されている。位置推定部74では、同時に複数の超音波センサ10で振幅値が抽出されたか否かを判定する(ステップS511)。同時に複数の超音波センサ10で振幅値が抽出された場合は、超音波センサ10の方位角θazmに関する情報をもとに、離散的な複数の角度θazmと各々の角度θazmにおける振幅値に関するデータを作成する(ステップS512)。作成した離散データに対して所定の連続関数でフィッティングを行い(ステップS513)、ピーク角度と半減角とを求める(ステップS514)。ピーク角度はセンサアレイ51から見て発生源120が存在する方向に対応し、半減角は距離Lに対応する。これらのことをふまえ、半減角と距離Lの関係は、上述の(5)式及び(6)式に基づいて都度計算してもよく、予めデータテーブルを作成しておいてもよい。求めた角度θazmに基づいて、センサアレイ51から見て発生源120の存在する方向、即ち弾性波の検出方向と距離Lに基づき、発生源120の2次元平面座標を算出してもよい。
【0049】
特徴量抽出部72、位置推定部74、センサ配置記憶部76及び出力部90は、ソフトウェアで機能する機能部であってもよく、LSIやFPGA等のハードウェアで機能する機能部であってもよい。
【0050】
以上説明したように、第1の実施形態の計測方法は、複数の超音波センサ10を有するセンサアレイ51を用いて音波101を検出することによって、固体材料で形成されている構造物11中の弾性波の発生源120の位置を推定する。第1の実施形態の計測方法は、構造物11中で発生した弾性波が表面11aから空気中に放射されて生成する音波101を計測対象の構造物11に非接触で検出し、検出した音波101の信号の強度に関する情報に基づいて弾性波の発生源120の位置を推定する。第1の実施形態の計測方法によれば、構造物11で発生したラム波等の弾性波を表面11aから空気中に放射された音波101等の超音波として指向性を有する超音波センサ10で検出する。構造物11に対して非接触の超音波センサ10のみを用いて音波101を検出するため、従来のAE方式に基づく位置評定解析のようにAEセンサを含む計測装置を構造物11に接するように配置しなくても済む。そのため、構造物の表面にAEセンサを設置することが難しい構造物中の弾性波の発生源の推定に適用することができる。予め、発生源120を含む領域が未知であっても発生源120からの信号を検出することができる。構造物にAEセンサを設置することが難しい環境下でも実行することができる。その結果、計測対象の構造物11、発生源の位置に関する計測範囲或いは計測環境の自由度を高めることができる。
【0051】
図17に示すように、従来のAE方式に基づく位置標定方法では、構造物100の表面100aに、2つのAEセンサ311、312を互いに間隔をあけて配置する。AEセンサ311、312を用いた従来の位置標定方法では、AEセンサ311、312の各々に弾性波が到着した到着時刻t、tの差の情報に基づいて発生源120の位置を標定することができる。しかしながら、AEセンサをレイリー波やラム波等の弾性波が生じる構造物100上に配置する必要があった。また、平面視したときに発生源120を囲むように複数のAEセンサ311、312を設置する必要があった。
【0052】
第1の実施形態の計測方法によれば、従来のように推定される発生源120の位置の精度が到達時刻の決定精度に依存して低減することもなく、広い範囲の位置推定を行うために予め数多くのセンサを広範囲に配置する必要もない。第1の実施形態の計測方法では、発生源120の位置の推定精度を下げる要因はなく、容易に発生源120の2次元位置を推定することができる。
【0053】
第1の実施形態の計測方法では、発生源120の位置を推定する際に、弾性波の検出方向に関する情報と弾性波の強度に関する情報に基づいて、センサアレイ51の基準位置16(弾性波の検出位置)から発生源120に向かう方向、及び基準位置16から発生源120までの距離の少なくとも一方を推定する。第1の実施形態の計測方法によれば、複数の超音波センサ10を用い、弾性波の到達方向と強度との対応関係に基づいて発生源120の位置を推定することができる。
【0054】
第1の実施形態の計測方法では、発生源120の位置を推定する際に、音波101を検出する複数の方位角θazm、即ち検出角度を離散的に検出し、複数の検出角度に対する各々の検出角度での音波101の強度の情報として振幅のプロットに連続関数をフィッティングさせることによって検出角度に対する音波の振幅の変化を表す実測関数(図示略)の情報を取得する。実測関数の情報に基づいて、弾性波の基準位置16から発生源120に向かう方向、及び基準位置16から発生源120までの距離Lの少なくとも一方を推定する。第1の実施形態の計測方法によれば、具体的に角度θazmと音波101の振幅との関係を理論的な連続関数でフィッティングさせるため、離散データに含まれない角度θazmと音波101の振幅との関係性に関する情報を取得することができる。
【0055】
第1の実施形態の計測方法では、AEセンサとして複数の超音波センサ10を用いて弾性波を非接触で検出し、連続関数として超音波センサ10の共振周波数及び振動子半径に基づく指向性関数を用いる。第1の実施形態の計測方法によれば、超音波センサ10に関するパラメータを導入し、超音波センサ10に最適な連続関数を用いて発生源120の平面視での位置を推定することができる。連続関数として、フォン・ミーゼス分布関数を用いてもよい。フォン・ミーゼス分布関数を用いる場合、主に離散データに連続関数をフィッティングさせて実測関数を算出する計算過程が簡単化され、計算量を減らすことができる。
【0056】
第1の実施形態の計測装置201は、センサアレイ51と、位置推定装置60と、を備える。センサアレイ51は、固体材料で形成されている構造物11で発生した音波101を非接触で検出する複数の超音波センサ10を有する。位置推定装置60は、超音波センサ10で検出された音波101の信号の強度に関する情報に基づいて発生源120の位置を推定する。第1の実施形態の計測装置201によれば、構造物11で発生した弾性波を音波101等の超音波として、指向性を有する超音波センサ10で検出する。構造物11に対して非接触の超音波センサ10のみを用いて音波101を検出するため、従来のAE方式に基づく位置評定解析のようにAEセンサを含む計測装置を構造物11に接するように配置しなくてよい。そのため、構造物の表面にAEセンサを設置することが難しい構造物中の弾性波の発生源の推定にも適用することができる。その結果、計測対象の構造物11、発生源の位置に関する計測範囲或いは計測環境の自由度を高めることができる。
【0057】
第1の実施形態の計測装置201において、位置推定装置60は、検出方向取得部81と、強度取得部82と、位置推定部(推定部)74と、を備える。検出方向取得部81は、複数の超音波センサ10に含まれる各々の超音波センサ10における音波101の検出方向に関する情報を取得する。強度取得部は、各々の超音波センサ10で検出された音波101の信号の強度に関する情報を取得する。図13に示すように、前述の位置推定部74は、検出方向取得部81及び強度取得部82を有する。即ち、位置推定部74では、図16に示すフローチャートのステップS512で説明したように、超音波センサ10の方位角θazmに関する情報をもとに、離散的な複数の角度θazmと各々の角度θazmにおける振幅値に関するデータを作成する。このデータにおいて、最大ピークの角度θazmは、各々の超音波センサ10における音波101の検出方向を示す角度θsrcを表す。角度θazmにおける振幅値は、各々の超音波センサ10で検出された音波101の信号の強度に関係している。位置推定部74では、音波101の検出方向に関する情報、及び各々の超音波センサ10で検出された音波101の信号の強度に関する情報に基づいてセンサアレイ51の基準位置16から発生源120に向かう方向として角度θsrc及び基準位置16から発生源120までの距離Lを推定する。第1の実施形態の計測装置201によれば、各々の超音波センサ10によって検出された音波101の到達方向と強度との対応関係に基づいてセンサアレイ51から見た発生源120の方向やセンサアレイ51と発生源120との距離Lに関する情報を得て、発生源120の位置を推定することができる。
【0058】
第1の実施形態の計測装置201において、位置推定装置60は、検出角度取得部85と、関数取得部83と、位置推定部74と、を備える。検出角度取得部85は、センサアレイ51に含まれる各々の超音波センサ10によって離散的に得られた音波101の複数の検出角度に関する情報を取得する。関数取得部83は、センサアレイ51の複数の超音波センサ10の検出角度に対する音波101の振幅(強度に関する情報)のプロットに連続関数をフィッティングさせて角度(検出角度)θazmに対する振幅の変化を表す実測関数の情報を取得する。前述の位置推定部74は、検出角度取得部85及び関数取得部83を有する。即ち、位置推定部74の検出角度取得部85では、図16に示すフローチャートのステップS513、S514で説明したように、複数の超音波センサ10によって検出した角度θazm及び角度θazmにおける振幅値に基づいて離散データを作成する。位置推定部74の関数取得部では、作成した離散データに対して所定の連続関数でフィッティングを行い、最もフィットする関数を実測関数とする。位置推定部74では、関数取得部83で取得した実測関数に関する情報に基づいて、センサアレイ51の基準位置16から発生源120に向かう方向を示す角度θsrc及び基準位置16から発生源120までの距離Lを推定する。
【0059】
第1の実施形態の計測装置201において、構造物11に非接触な状態で音波101を検出するセンサとして超音波を検出可能なAEセンサが用いられている。前述の連続関数は超音波センサ(即ち、AEセンサ)10の共振周波数及び振動子半径に基づき(3)式で表される指向性関数である。第1の実施形態の計測装置201によれば、超音波センサ10に最適な連続関数を用いて発生源120の平面視での位置を推定することができる。前述のように、連続関数として、フォン・ミーゼス分布関数を用いてもよく、その場合、離散データに連続関数をフィッティングさせて実測関数を算出する計算過程が簡単化され、計算量を減らすことができる。
【0060】
第1の実施形態の計測装置201において、複数の超音波センサ10は、平面視において、即ちZ方向から見たときに基準位置16を中心として環状に配置されている。第1の実施形態の計測装置201によれば、複数の超音波センサ10と基準位置16との距離rが一定であるので、離散データに基づき、(5)式を用いて角度θsrcを簡便に算出することができる。
【0061】
第1の実施形態の計測装置201において、複数の超音波センサ10-mの各々の指向性の最大感度を示す軸線12-mは、構造物11の表面11aの基準位置110で互いに交差し、基準位置110で一点に集束している。第1の実施形態の計測装置201によれば、軸線12-mと法線112とがなす角度ψが一定であり、基準位置110、16が明確に設定されるので、離散データに基づき、(4)式を用いて角度θsrcを簡便に算出することができる。
【0062】
(他の実施形態)
次いで、第1の実施形態の変形例の計測方法及び計測装置について、説明する。以下の説明において、第1の実施形態の計測方法及び計測装置201と共通する構成要素については第1の実施形態と同じ符号を付し、第1の実施形態と重複する説明を省略する。
【0063】
第1の実施形態の計測方法及び計測装置201では、構造物11内の発生源120のX方向及びY方向を含む面内での位置を推定する際に、センサアレイにおける基準位置16から見て発生源120が存在する方向(検出位置から発生源に向かう方向)、及び基準位置16から発生源120までの距離L(検出位置から発生源までの距離)の両方を推定することができる。但し、第1の実施形態の計測方法及び計測装置201において、基準位置16から見て発生源120が存在する方向、即ち角度θsrc、及び距離Lの何れか一方の情報によって発生源120の位置を特定できる状況であれば、角度θsrc及び距離Lの何れか一方のみを推定してもよい。
【0064】
第1の実施形態の計測装置201が有するセンサアレイ51の変形例として、図18及び図19に示すセンサアレイ52が挙げられる。図18に示すように、複数の超音波センサ10は、基準位置16を中心として平面視で同心円状に配置されてもよい。即ち、センサアレイ52は、基準位置16を中心として距離r離れて環状に配置された超音波センサ10-1~10-jに加えて、基準位置16を中心として距離rとは異なる距離r離れて環状に配置された総数pの超音波センサ10-11~10-(10+q)を備えてもよい。本明細書では、超音波センサ10-(10+q)とは、図18及び図19に対応して(10+q)番目の超音波センサ10を意味する。qは、1からpまでの自然数である。図18では、j=p=8であるが、総数j、pは8に限定されず、2以上の任意の総数であればよく、互いに等しくなくてもよい。超音波センサ10-(10+q)の指向性の最大感度を示す軸線12-(10+q)は、基準位置110で互いに交差し、側面視で法線112と角度ψをなしている。
【0065】
例えば計測対象の構造物11の固体材料中での弾性波の速度で速度vaeとは異なる速度vae2を想定する場合、角度ψは次に示す(11)式を満たすことが好ましい。
【0066】
【数11】
【0067】
第1の実施形態と同様に、仮想円の中心をr=0の点とする円座標(r-θ座標)系で考えると、p個の超音波センサ10-(10+q)の座標は、次に示す(12)式及び(13)式で表される。(12)式及び(13)式における角度θは、図6Cを参照するとわかるように、超音波センサ10-mを超音波センサ10-qに置き換えたときの角度θに対応する角度である。
【0068】
【数12】
【0069】
【数13】
【0070】
図18及び図19に示す構成例では、超音波センサ10-m及び超音波センサ10-(10+p)は、Z方向で互いに同じ高さに配置されている。超音波センサ10-m、10-(10+p)が前述のように互いに同じ高さで配置されることによって、設置スペースの効率化を図ることができる。
【0071】
センサアレイ52において、超音波センサ10-q(複数のセンサに含まれる一部のセンサ)は、構造物11の表面11aにおける基準位置110を通る法線112に対して超音波センサ10-m(残りのセンサ)とは異なる角度(傾斜角度)ψをなして配置されている。角度ψを構造物11で伝搬する速度vaeに合わせて(11)式のように設定すれば、センサアレイ52によって構造物11での伝搬速度が互いに異なる2種類の弾性波を検出することができる。基準位置16を中心として複数の超音波センサ10が3つ以上の同心円状に配置され、各々の超音波センサ10の指向性の最大感度を示す軸線と法線112とがなす角度が弾性波の構造物11中における速度を考慮して設定されれば、構造物11での伝搬速度が互いに異なる3種類以上の弾性波を検出することができる。したがって、基準位置16を中心として複数の超音波センサ10が配置される同心円数は、特定数に限定されなくてもよい。
【0072】
センサアレイ51、52とは別のセンサアレイの構成の変形例が考えられる。複数の超音波センサ10は、各々の超音波センサ10の指向性の最大感度を表す軸線と法線112とのなす角度、及び各々の超音波センサ10における弾性波の検出口と基準位置16との距離が判明していれば、表面11aからの高さや基準位置16からの距離は互いに異なってもよい。例えば、複数の超音波センサ10は、平面視において矩形状、楕円形状、菱形状、その他の任意の形状を描くように配置されていてもよい。例えば、複数の超音波センサ10は、側面視において螺旋状に配置されていてもよい。
【0073】
第1の実施形態の計測装置201では、複数の超音波センサ10を有するセンサアレイ51によって構造物11で発生した音波101を非接触で検出する。例えば距離Lが前述のように無限大とみなせる場合、1つの超音波センサ10のみで音波101を非接触で検出することができる。距離Lが有限であるとみなせる場合、実質的に2つ以上の超音波センサ10が必要とされ、離散データに連続関数をフィッティングさせる際の精度を確保するためには4個以上の超音波センサ10で音波101を非接触で検出することが好ましく、8個以上の超音波センサ10で音波101を非接触で検出することがさらに好ましい。即ち、実施形態の計測方法及び計測装置では、少なくとも1つ以上の超音波センサ10を用いて音波101を非接触で検出することができる。
【0074】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、固体材料で形成されている構造物11で発生した弾性波を音波101によって非接触で検出し、検出した前記弾性波の信号の強度に関する情報に基づいて弾性波の発生源120の位置を推定することによって、弾性波の発生源120が存在する計測対象物、計測範囲或いは計測環境の自由度を高めることができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
11…構造物、11a…表面、120…発生源、201…計測装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19