(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】光学系及びそれを有する撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/04 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
G02B13/04
(21)【出願番号】P 2020197034
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 匠
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-35868(JP,A)
【文献】特開2000-111798(JP,A)
【文献】特開2003-43359(JP,A)
【文献】特開2011-81185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に、負の屈折力の前群、絞り、正の屈折力の後群からなり、
前記前群は、物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する第1レンズ、負の屈折力を有する第2レンズ
、正の屈折力を有する第3レンズからなり、
前記後群は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、負の屈折力を有する第6レンズ、正の屈折力を有する第7レンズ、正の屈折力を有する第8レンズ、正の屈折力を有する第9レンズからなり、
無限遠合焦時において、前記第1レンズの物体側の面から前記絞りまでの光軸上の距離をPD、前記第1レンズの物体側の面から
前記第9レンズの像側の面までの光軸上の距離をLD、全系の焦点距離をf、前記前群の焦点距離をf1としたとき、
PD/LD<0.45
-3.0<f1/f<-1.0
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記第1レンズと前記第2レンズの間隔をL12、前記第2レンズと
前記第3レンズの間隔をL23としたとき、
0.1<L12/L23<18.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記第2レンズの像側の面の曲率半径をG2R2、前記第3レンズの物体側の面の曲率半径をG3R1としたとき、
-10.0<(G2R2+G3R1)/(G2R2-G3R1)<-0.1
なる条件式を満足することを特徴とする請求項
1又は
2に記載の光学系。
【請求項4】
前記第1レンズの焦点距離をfGn1、前記前群の焦点距離をf1としたとき、
0.1<fGn1/f1<7.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載の光学系。
【請求項5】
前記前群内における負の屈折力を有するレンズのアッベ数の平均値をνdn、前記
第3レンズのアッベ数
をνdpとしたとき、
0.3<νdn/νdp<4.5
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1から
4までのいずれか一項に記載の光学系。
【請求項6】
無限遠合焦時において、前記光学系のバックフォーカスをsk
としたとき、
0.1<sk/LD<0.5
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1から
5までのいずれか一項に記載の光学系。
【請求項7】
前記第1レンズの焦点距離をfGn1、前記第2レンズの焦点距離をfGn2としたとき、
1.1<fGn1/fGn2<3.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1から
6までのいずれか一項に記載の光学系。
【請求項8】
前記第2レンズの物体側の面の曲率半径をG2R1、前記第2レンズの像側の面の曲率半径をG2R2としたとき、
0.1<(G2R1+G2R2)/(G2R1-G2R2)<10.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1から
7までのいずれか一項に記載の光学系。
【請求項9】
前記後群の焦点距離をf2としたとき、
0.1<f2/f<5.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1から
8までのいずれか一項に記載の光学系。
【請求項10】
前記後群は、
前記第4レンズと前記第5レンズとが接合された第1の接合レンズと、前記第6レンズと前記第7レンズとが接合された第2の接合レンズと、を有することを特徴とする請求項1から
9までのいずれか一項に記載の光学系。
【請求項11】
PD/LD<0.35
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1から10までのいずれか一項に記載の光学系。
【請求項12】
-2.2<f1/f<-1.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1から11までのいずれか一項に記載の光学系。
【請求項13】
請求項1から
12までのいずれか一項に記載の光学系と、該光学系によって形成された像を受光する撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学系及びそれを有する撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮影画角が広い撮影光学系として、物体側に負の屈折力を有する光学系を配置し、像側に正の屈折力を有する光学系を配置した、いわゆるレトロフォーカスタイプの撮影光学系が知られており、例えば単焦点の広角レンズに用いられている。
更に、デジタルカメラ、ビデオカメラにおいてCCDやCMOSセンサ等の固体撮像素子の高画素化が進み、撮影レンズには色収差を含めて高い光学性能が要求されると共に、小型化が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-144350号公報
【文献】特開2013-029658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、撮像装置に用いる広角レンズ系において、レンズ全体が小型でありながら、より広い範囲を撮影可能にするために、広画角化が求められている。
一般的に広角レンズにおいて、物体側に負の屈折力を有する光学系を配置することで、広画角化を実現している。広画角化のためには物体側の負の屈折力を強くすることが必要となるが、レンズの曲率半径が小さくなることで、レンズ加工精度の悪化や主に軸外光線によって発生する像面湾曲や倍率色収差の悪化を招く。これらの問題を解決するために、物体側のレンズ径の大型化やレンズ枚数の増加が必要となり、好ましくない。レンズ径の小型化と広画角化、及び高い光学性能を実現するためには、絞りを適切に配置し、絞りより物体側に配置する光学系の負の屈折力を適切に配置することが必要となる。
【0005】
特許文献1のように、広角レンズにおいて、絞りをレンズ全長の中心近傍に配置する場合、広角化のために配置する最も物体側の負の屈折力を有するレンズのレンズ径が大型化するため好ましくない。
特許文献2のように、広角レンズにおいて、絞りの前に配置された光学系の焦点距離が全系の焦点距離に対して長いため、広画角化を行う場合、レンズ径の大型化や像面湾曲収差の悪化を招き、好ましくない。
本発明は、広角レンズにおいて、小型軽量で高い光学性能を有する光学系及びそれを有する撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の光学系は、物体側から像側へ順に、負の屈折力の前群、絞り、正の屈折力の後群からなり、前記前群は、物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する第1レンズ、負の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズからなり、前記後群は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、負の屈折力を有する第6レンズ、正の屈折力を有する第7レンズ、正の屈折力を有する第8レンズ、正の屈折力を有する第9レンズからなり、無限遠合焦時において、前記第1レンズの物体側の面から前記絞りまでの光軸上の距離をPD、前記第1レンズの物体側の面から前記第9レンズの像側の面までの光軸上の距離をLD、全系の焦点距離をf、前記前群の焦点距離をf1としたとき、
PD/LD<0.45
-3.0<f1/f<-1.0
なる条件式を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、広角レンズにおいて、小型軽量で高い光学性能を有する光学系及びそれを有する撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の物体距離無限遠時のレンズ断面図である。
【
図2】実施例1の物体距離無限遠時の収差図である。
【
図3】実施例2の物体距離無限遠時のレンズ断面図である。
【
図4】実施例2の物体距離無限遠時の収差図である。
【
図5】実施例3の物体距離無限遠時のレンズ断面図である。
【
図6】実施例3の物体距離無限遠時の収差図である。
【
図7】実施例4の物体距離無限遠時のレンズ断面図である。
【
図8】実施例4の物体距離無限遠時の収差図である。
【
図9】実施例5の物体距離無限遠時のレンズ断面図である。
【
図10】実施例5の物体距離無限遠時の収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
図1、3、5、7、9は本発明の実施例1乃至5の光学系の物体距離無限遠時の断面図である。
図2、4、6、8、10は本発明の実施例1乃至5の光学系の物体距離無限遠時の収差図である。
【0010】
各実施例の光学系はデジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、監視用カメラ、車載カメラなどの撮像装置に用いられる。レンズ断面図において、左方が物体側(前方)で、右方が像側(後方)である。
【0011】
SPは絞りである。IPは像面であり、デジタルスチルカメラやビデオカメラの撮影光学系として使用する際にはCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)の撮像面が置かれる。又、銀塩フィルム用カメラの撮影光学系として使用する際にはフィルム面の感光面が置かれている。
【0012】
収差図においてFnoはFナンバー、ωは半画角(度)である。球面収差図において、dはd線(波長587.56nm)、gはg線(波長435.835nm)である。
非点収差図においてΔSはd線におけるサジタル像面、ΔMはd線におけるメリディオナル像面である。歪曲収差はd線について示している。色収差図は倍率色収差でありg線について示している。
【0013】
本発明は、物体側から像側へ順に、負の屈折力の前群、絞り、正の屈折力の後群からなり、前群は物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する第1レンズ、負の屈折力を有する第2レンズを有し、無限遠合焦時において、第1レンズの物体側の面から絞りまでの光軸上の距離をPD、第1レンズの物体側の面から最も像側に配置された最終レンズの像側の面までの光軸上の距離をLD、全系の焦点距離をf、前群の焦点距離をf1としたとき、
PD/LD<0.45 ・・・(1)
-3.0<f1/f<-1.0 ・・・(2)
なる条件式を満たすことを特徴とする。
【0014】
広角レンズにおいて、絞りの位置を適切に設定することで、最も物体側のレンズ(第1レンズ)の径の小型化を達成することができる。第1レンズの径の小型化により、レンズ全体の軽量化、レンズの物体側に装着する各種フィルター製品の小型化が可能となる。又、全系の焦点距離に対する前群の焦点距離を適切に配置することで、広画角化によって発生する像面湾曲や歪曲収差などの諸収差を適切に補正しつつ、広画角化と良好な光学性能の両立が可能となる。更に、前群に負の屈折力を持つレンズを少なくとも2枚有することで、1枚の負の屈折力を有するレンズの屈折力が強くなりすぎること防ぎ、主に軸外光線によって発生する像面湾曲や倍率色収差を適切に補正することが可能となり、レンズの小型化と良好な光学性能を両立することができる。
【0015】
条件式(1)は全系における絞り位置を規定したものである。絞り位置を適正化することで、物体側のレンズ径の小型化を図ることができる。条件式(1)の上限を超えると、物体側のレンズ径の小型化が困難となるため好ましくない。
【0016】
条件式(2)は前群の焦点距離f1と全系の焦点距離fの比を規定したものである。主として、前群の屈折力を適正化することで、レンズ系の小型化と良好な光学性能を両立することができる。 条件式(2)の上限を超えると、前群の屈折力が強くなり、レンズ全長の小型化が有利となるが、像面湾曲収差の悪化を招く。
【0017】
条件式(2)の下限を超えると、前群の屈折力が弱くなり、諸収差発生の抑制には有利となるが、レンズ全長の小型化が困難となるため好ましくない。
好ましくは条件式(1)及び(2)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
PD/LD<0.4 ・・・(1a)
-2.6<f1/f<-1.0 ・・・(2a)
更に好ましくは条件式(1a)及び(2a)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
PD/LD<0.35 ・・・(1b)
-2.2<f1/f<-1.0 ・・・(2b)
以上のように、条件式(1)及び(2)を満たすことにより、広角レンズにおいて、小型軽量で高い光学性能を有する光学系及びそれを有する撮像装置を提供することができる。
【0018】
各実施例において、更に好ましくは次の条件式のうち1つ以上を満足するのがよい。
最も物体側のレンズ(第1レンズ)と最も物体側から2枚目のレンズ(第2レンズ)の間隔をL12、最も物体側から2枚目のレンズ(第2レンズ)と最も物体側から3枚目のレンズ(第3レンズ)の間隔をL23とする。第2レンズの物体側の面の曲率半径をG2R1、第2レンズの像側の面の曲率半径をG2R2、第3レンズの物体側の面の曲率半径をG3R1とする。前群内において、第1レンズの焦点距離をfGn1、第2レンズの焦点距離をfGn2とする。前群内において負の屈折力を有するレンズのアッベ数の平均値をνdn、前群内において正の屈折力を有するレンズのアッベ数の平均値をνdpとする。最終レンズの像側のレンズ面から像面の距離(空気換算でのバックフォーカス)をskとする。後群の焦点距離をf2とする。
0.1<L12/L23<18.0 ・・・(3)
-10.0<(G2R2+G3R1)/(G2R2-G3R1)<-0.1・・(4)
0.1<fGn1/f1<7.0 ・・・(5)
0.3<νdn/νdp<4.5 ・・・(6)
0.1<sk/LD<0.5 ・・・(7)
0.1<fGn1/fGn2<3.0 ・・・(8)
0.1<(G2R1+G2R2)/(G2R1-G2R2)<10.0 ・・・(9)
0.1<f2/f<5.0 ・・・(10)
アッベ数νdは、フラウンホーファ線のd線、F線、C線における屈折率をNd、NF、NC、とするとき、
νd=(Nd-1)/(NF-NC)
で定義される。
【0019】
条件式(3)は最も物体側のレンズと最も物体側から2枚目のレンズの間隔L12、最も物体側から2枚目のレンズと最も物体側から3枚目のレンズの間隔L23の比を規定したものである。
条件式(3)の上限を超えると、最も物体側のレンズと最も物体側から2枚目のレンズの間隔L12が長くなり、最も物体側のレンズを通る軸外マージナル光線が高くなるため、レンズ径の大型化するため好ましくない。
条件式(3)の下限を超えると、最も物体側から2枚目のレンズと最も物体側から3枚目のレンズの間隔L23が長くなり、最も物体側から3枚目のレンズを通る軸上マージナル光線が高くなるため、球面収差の補正には有利となるが、レンズ径が大型化するため好ましくない。
【0020】
条件式(4)は最も物体側から2枚目のレンズの像側の面と、最も物体側から3枚目のレンズの物体側の面の間の空気レンズの形状(シェイプファクタ)を規定したものである。形状を適正化することで、主として前群内において、良好な光学性能を両立することができる。
条件式(4)の上限を超えると、空気レンズによる屈折力が弱くなり、諸収差発生の抑制には有利となるが、好ましくない。
条件式(4)の下限を超えると、空気レンズの屈折力が強くなり、レンズ全長の小型化には有利となるが、軸外光線が大きく発散され、色収差の悪化を招く。
【0021】
条件式(5)は前群内の負の屈折力を有する最も物体側のレンズの焦点距離fGn1と全系の焦点距離fの比を規定したものである。前群内の負の屈折力を有する最も物体側のレンズの焦点距離を適正化することで、レンズ径の小型化と良好な光学性能を両立することができる。
条件式(5)の上限を超えると、前群内の負の屈折力を有する最も物体側のレンズの屈折力が弱くなり、諸収差発生の抑制には有利となるが、レンズ径が大型化するため好ましくない。
条件式(5)の下限を超えると、前群内の負の屈折力を有する最も物体側のレンズの屈折力が強くなり、レンズ径の小型化には有利となるが、色収差が悪化するため好ましくない。
【0022】
条件式(6)は前群内の負の屈折力を有するレンズのアッベ数の平均値νdnと正の屈折力を有するレンズのアッベ数の平均値νdpの比を規定したものである。前群内のレンズのアッベ数を適正化することで、レンズ径の小型化と前群内で発生する倍率色収差の抑制を両立することができる。条件式(6)の上限を超えると、倍率色収差の補正効果は増加するが、軸上色収差の悪化を招き、又負の屈折力を有するレンズの屈折力を適正化することが困難となるため、レンズ径の大型化を招く。条件式(6)の下限を超えると、第3部分群の屈折力が弱くなり、主に軸外光線によって発生する像面湾曲や歪曲収差の発生は抑制できるが、第2部分群の屈折力を適正化することが困難となり、像ぶれ補正時における第2部分群の移動量が増加するため好ましくない。
なお、前群に含まれる正の屈折力を有するレンズの枚数が1枚の場合は、その1枚の正レンズのアッベ数をアッベ数の平均値νdpとして用いるものとする。
【0023】
条件式(7)は全系におけるバックフォーカスskを規定したものである。条件式(7)の上限を超えると、バックフォーカスskの距離が増大し、撮像素子に近い位置にレンズを配置できなくなるため、像面湾曲や倍率色収差の改善が困難となり、結果として低画質化を招き、好ましくない。条件式(7)の下限を超えると、バックフォーカスskの距離が短縮し、より撮像素子に近い位置にレンズを配置できるため、像面湾曲や倍率色収差の改善は有利となるが、シャッター部材等の配置が難しくなる。
【0024】
条件式(8)は負の屈折力を有する最も物体側のレンズの焦点距離fGn1と負の屈折力を有する最も物体側のレンズから2枚目のレンズの焦点距離fGn2の比を規定したものである。前群内の負の屈折力を持つレンズの焦点距離を適正化することで、レンズ径の小型化と諸収差の抑制を両立することができる。条件式(8)の上限を超えると、負の屈折力を有する最も物体側のレンズの屈折力が弱くなり、諸収差の抑制には有利となるが、レンズ全長の大型化につながる。条件式(8)の下限を超えると、負の屈折力を有する最も物体側のレンズの屈折力が強くなり、レンズ全長の小型化につながるが、像面湾曲が悪化するため好ましくない。
【0025】
条件式(9)は最も物体側から2枚目のレンズの形状(シェイプファクタ)を規定したものである。形状を適正化することで、主として前群内において、良好な光学性能を両立することができる。条件式(9)の上限を超えると、最も物体側から2枚目のレンズの屈折力が強くなるためレンズ全長の小型化につながるが、曲率半径が短くなることで加工性が悪化するため好ましくない。条件式(9)の下限を超えると、最も物体側から2枚目のレンズの屈折力が弱まるため、諸収差の抑制には有利となるが、最も物体側のレンズの屈折力を強くしなければならなくなり、結果として諸収差の悪化を招くため好ましくない。
【0026】
条件式(10)は後群の焦点距離f2と全系の焦点距離fの比を規定したものである。後群の焦点距離を適正化することで、レンズ全長の小型化とフォーカシング時における諸収差変動の抑制を両立することができる。条件式(10)の上限を超えると、後群の正の屈折力が弱くなり、諸収差の抑制には有利となるが、レンズ全長の大型化につながる。条件式(10)の下限を超えると、後群の正の屈折力が強くなり、レンズ全長の小型化につながるが、像面湾曲や球面収差が悪化するため好ましくない。
好ましくは条件式(3)乃至(10)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
0.3<L12/L23<16.5 ・・・(3a)
-8.5<(G2R2+G3R1)/(G2R2-G3R1)<-0.3・(4a)
0.2<fGn1/f1<4.0 ・・・(5a)
0.8<νdn/νdp<3.2 ・・・(6a)
0.2<sk/LD<0.40 ・・・(7a)
0.25<fGn1/fGn2<2.0 ・・・(8a)
1.0<(G2R1+G2R2)/(G2R1-G2R1)<6.0・・・(9a)
0.5<f2/f<3.0 ・・・(10a)
更に好ましくは条件式(3a)乃至(10a)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
0.9<L12/L23<15.0 ・・・(3b)
-7.0<(G2R2+G3R1)/(G2R2-G3R1)<-1.1・(4b)
0.3<fGn1/f1<2.1 ・・・(5b)
1.2<νdn/νdp<2.6 ・・・(6b)
0.22<sk/LD<0.36 ・・・(7b)
0.4<fGn1/fGn2<1.5 ・・・(8b)
1.2<(G2R1+G2R2)/(G2R1-G2R1)<3.0・・・(9b)
1.1<f2/f<1.4 ・・・(10b)
【0027】
無限遠フォーカシング時から最至近フォーカシング時までフォーカス群が移動する際、前群、絞り、後群、もしくは、前群、絞り、後群の一部が像側から物体側へ光軸方向に一体で移動することが望ましい。これにより、無限遠フォーカシング時のレンズ全長の小型化が可能となる。
【0028】
前群に含まれる正の屈折力を有するレンズは1枚であることが望ましい。これにより、前群で発生する倍率色収差の補正とレンズ全長の小型化の両立が可能となる。
前群が有する少なくとも1枚の正の屈折力を有するレンズは像側の面が像側に対して凸面であることが望ましい。これにより球面収差の補正とレンズ全長小型化の両立が可能となる。
【0029】
後群は正の屈折力を有するレンズと負の屈折力を有するレンズの接合レンズを少なくとも1つ有することが望ましい。好ましくは正の屈折力を有するレンズと負の屈折力を有するレンズの接合レンズを2枚有することが望ましい。これにより、軸上色収差と倍率色収差の補正を行うことが可能となる。更に、後群に含まれる2つの接合レンズを、物体側から像側へ順に、正レンズと負レンズを接合した接合レンズと、負レンズと正レンズを接合した接合レンズとで構成すると像面湾曲も補正できるため、より好ましい。
【0030】
後群は少なくとも1枚の非球面レンズを有することが望ましい。これにより、主に軸外光線によって発生する像面湾曲のフォーカスによる変動を適切に補正することが可能となる。
像振れ補正のために像振れ補正群を光軸に対して垂直方向に移動させて補正する場合には、全系における一部のレンズが移動機構(防振機構)を有していてもよい。
【実施例】
【0031】
以下、数値実施例1乃至5を本実施形態と呼ぶ。
実施例においてriは物体側より順に第i番目の面の曲率半径、diは物体側より順に第i面と第i+1面間のレンズ厚及び空気間隔、ndiとνdiは各々物体側より順に第i面と第i+1面間の光学媒体の屈折率とアッベ数である。
非球面形状は光軸方向にX軸、光軸と垂直方向にH軸、光の進行方向を正としRを近軸曲率半径、Kを円錐定数、A4、A6、A8、A10、A12、A14を各々非球面係数としたとき
【数1】
なる式で表している。
【0032】
面番号の右に付した*はその面が非球面形状を有する面であることを意味している。「e-x」は×10
-xを意味している。BFはバックフォーカスを示している。
次に本発明の光学系を撮影光学系として用いたデジタルスチルカメラの実施例を、
図11を用いて説明する。
【0033】
図11において、10はカメラ本体、11は実施例1乃至5に説明したいずれかのズームレンズによって構成された撮影光学系である。12はカメラ本体に内蔵され、撮影光学系11によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。
【0034】
[数値実施例1]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd vd
1 41.307 1.20 1.60311 60.6
2 9.978 4.26
3 30.342 1.00 1.48749 70.2
4 12.124 3.17
5 28.492 2.01 1.83481 42.7
6 -662.034 5.01
7(絞り) ∞ 1.80
8 47.613 5.77 1.81600 46.6
9 -8.980 0.91 1.90366 31.3
10 -16.902 5.69
11 -18.534 0.92 1.69895 30.1
12 29.517 4.40 1.59282 68.6
13 -35.692 1.10
14* -54.759 2.10 1.53110 55.9
15* -34.782 6.57
16 -161.374 4.59 1.60311 60.6
17 -34.257 12.94
像面 ∞
非球面データ
第14面
K = 0.00000e+000 A 4= 4.57136e-005 A 6=-1.97209e-006 A 8= 3.74538e-008 A10=-4.12263e-010 A12= 1.59769e-012
第15面
K = 0.00000e+000 A 4= 1.03365e-004 A 6=-1.10800e-006 A 8= 1.95771e-008 A10=-1.88559e-010 A12= 6.52817e-013
各種データ
焦点距離 18.20
Fナンバー 2.90
半画角 45.00
像高 18.20
レンズ全長 63.45
BF 12.94
レンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 -32.77
2 8 23.43
【0035】
[数値実施例2]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd vd
1 25.173 1.20 1.59522 67.7
2 9.960 4.83
3 22.509 1.00 1.49700 81.5
4 7.529 1.81
5 57.731 1.65 1.91650 31.6
6 -98.374 3.25
7(絞り) ∞ 1.80
8 64.342 6.53 1.88300 40.8
9 -7.326 0.91 2.00069 25.5
10 -12.387 3.52
11 -19.745 0.92 1.69895 30.1
12 23.747 5.10 1.49700 81.5
13 -27.013 1.44
14* -29.866 2.10 1.53110 55.9
15* -17.802 6.34
16 -62.773 4.14 1.64000 60.1
17 -26.587 10.97
像面 ∞
非球面データ
第14面
K = 0.00000e+000 A 4=-2.73841e-005 A 6=-3.88135e-007 A 8= 2.67267e-008 A10=-4.37155e-010 A12= 2.30061e-012 A14=-5.75662e-015
第15面
K = 0.00000e+000 A 4= 7.95764e-005 A 6=-3.58079e-007 A 8= 2.89945e-008 A10=-3.41257e-010 A12= 1.23584e-012 A14=-2.30241e-016
焦点距離 14.28
Fナンバー 2.91
半画角 51.88
像高 18.20
レンズ全長 57.50
BF 10.97
レンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 -19.07
2 8 18.40
【0036】
[数値実施例3]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd vd
1 27.125 1.10 1.60311 60.6
2 9.735 3.67
3 30.493 1.00 1.48749 70.2
4 10.586 3.21
5 40.191 1.71 1.83400 37.2
6 -392.360 5.43
7(絞り) ∞ 1.80
8 38.857 6.25 1.83481 42.7
9 -8.128 0.90 1.90366 31.3
10 -16.045 4.69
11 -16.526 0.92 1.68893 31.1
12 19.781 5.80 1.59282 68.6
13 -26.412 0.91
14* -50.009 2.10 1.53110 55.9
15* -32.615 6.74
16 -109.118 4.42 1.62299 58.2
17 -31.658 12.54
像面 ∞
非球面データ
第14面
K = 0.00000e+000 A 4= 5.22756e-005 A 6=-1.92650e-006 A 8= 3.51677e-008 A10=-3.71946e-010 A12= 1.36387e-012
第15面
K = 0.00000e+000 A 4= 1.10438e-004 A 6=-1.14287e-006 A 8= 2.01498e-008 A10=-1.88642e-010 A12= 6.28660e-013
焦点距離 16.48
Fナンバー 2.90
半画角 47.84
像高 18.20
レンズ全長 63.19
BF 12.54
レンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 -23.97
2 8 21.53
【0037】
[数値実施例4]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd vd
1 65.909 1.20 1.51633 64.1
2 9.037 7.77
3 42.409 1.00 1.48749 70.2
4 13.346 0.55
5 18.515 2.49 1.81600 46.6
6 495.445 2.10
7(絞り) ∞ 1.80
8 62.544 5.93 1.81600 46.6
9 -9.874 0.91 1.90366 31.3
10 -16.040 4.24
11 -19.203 0.92 1.69895 30.1
12 23.146 4.42 1.59282 68.6
13 -50.209 1.90
14* -24.546 2.10 1.53110 55.9
15* -20.035 6.50
16 239.301 5.22 1.51633 64.1
17 -44.930 14.51
像面 ∞
非球面データ
第14面
K = 0.00000e+000 A 4= 4.26131e-005 A 6=-5.69079e-007 A 8= 3.11223e-008 A10=-4.01391e-010 A12= 1.97312e-012 A14=-4.63067e-015
第15面
K = 0.00000e+000 A 4= 9.72369e-005 A 6=-4.90970e-007 A 8= 2.56192e-008 A10=-2.41747e-010 A12= 6.54509e-013 A14=-5.57218e-017
焦点距離 20.10
Fナンバー 2.91
半画角 42.16
像高 18.20
レンズ全長 63.55
BF 14.51
レンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 -43.46
2 8 24.82
【0038】
[数値実施例5]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd vd
1 50.748 1.20 1.64000 60.1
2 9.501 5.88
3 39.118 1.00 1.51633 64.1
4 13.246 0.52
5 20.516 2.30 1.83481 42.7
6 -253.579 2.60
7(絞り) ∞ 2.10
8 58.276 6.50 1.81600 46.6
9 -10.141 0.91 1.90366 31.3
10 -15.580 4.13
11 -19.874 0.92 1.69895 30.1
12 23.911 4.83 1.49700 81.5
13 -37.922 1.44
14* -29.446 2.10 1.53110 55.9
15* -22.933 6.49
16 123.893 5.32 1.51633 64.1
17 -56.204 15.86
像面 ∞
非球面データ
第14面
K = 0.00000e+000 A 4= 8.25521e-005 A 6=-1.39793e-006 A 8= 3.21660e-008 A10=-3.67155e-010 A12= 1.30899e-012
第15面
K = 0.00000e+000 A 4= 1.18271e-004 A 6=-8.57243e-007 A 8= 2.28356e-008 A10=-2.35169e-010 A12= 7.79940e-013
焦点距離 20.59
Fナンバー 2.91
半画角 41.47
像高 18.20
レンズ全長 64.11
BF 15.86
レンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 -35.70
2 8 24.06
【0039】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【表1】