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特許7551473耐酸化グリース組成物およびそれを封入した軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】耐酸化グリース組成物およびそれを封入した軸受
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20240909BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240909BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20240909BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20240909BHJP
   F16J 15/324 20160101ALI20240909BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20240909BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20240909BHJP
   A61L 9/015 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240909BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240909BHJP
【FI】
C10M169/06
F16C19/06
F16C33/78 Z
F16J15/3204 201
F16J15/324
C10M115/08
C10M133/12
A61L9/015
C10N50:10
C10N40:02
C10N30:10
C10N30:00 Z
C10N30:06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020197626
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085766
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 佑介
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小板橋 和寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-339448(JP,A)
【文献】特開2018-021140(JP,A)
【文献】特開2013-253256(JP,A)
【文献】特開2007-112998(JP,A)
【文献】特開2014-019742(JP,A)
【文献】特開2020-083994(JP,A)
【文献】特開2014-084442(JP,A)
【文献】特開2016-079364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
F16C19/00-19/56
F16C33/30-33/82
F16J15/16-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
下記式(1)で表されるジウレア化合物からなるウレア系増ちょう剤と、
-NHCONH-R-NHCONH-R・・・(1)
(式中、R及びRは、夫々独立して、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基、又は一価の芳香族炭化水素基を表し、このとき、R及びRの合計モル数に対して、一価の脂肪族炭化水素基の割合は10%~60%であり、
は、二価の芳香族炭化水素基を表す。)
芳香族アミン系酸化防止剤とを含む、グリース組成物が封入されており、イオン発生装置又は空気調節装置の送風機に備えられる転がり軸受であって、
前記イオン発生装置又は空気調節装置は、吸気口、酸化性物質発生装置、排気口及び送風機を備え、吸気口から排気口へと、発生した酸化性物質とともに空気が流れ、その際、その流れが送風機と接触する構造を有する、転がり軸受
【請求項2】
前記転がり軸受がシール部材を備える、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記酸化性物質は、イオン、オゾン、酸素ラジカル又はヒドロキシラジカルから選択される少なくとも一つの物質からなる、請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
請求項乃至請求項のうち何れか一項に記載の転がり軸受を備えた送風機。
【請求項5】
請求項に記載の送風機を備えた、イオン発生装置又は空気調節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸化グリース組成物、及びそれを封入した軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場の大規模化や自動車等の交通量の増加により、大気中に排出されるガス成分濃度が上昇すると、前記ガス成分に含まれる窒素酸化物や炭化水素(揮発性有機化合物)が紫外線の影響を受けて変質し、オゾンなどの酸化性物質が生成することがある。この現象は光化学スモッグとも呼ばれる。
また近年、前記オゾンや活性酸素(酸素ラジカル、ヒドロキシラジカルなど)等の酸化性物質を、清浄成分として空間に低濃度で排出することで、身の回りの空間を含め、菌やウィルス、悪臭等を減少させるための装置(例えばイオン発生装置や、イオン発生源を備える空気清浄装置や空気調節装置等)や薬品が普及してきている。
【0003】
大気中で光化学スモッグが発生したり、空気調節装置等から清浄成分として低濃度の酸化性物質が放出された場合、その空間中の酸化性物質が周囲の物体に悪影響を及ぼす可能性がある。たとえば、金属部品や樹脂部品、軸受内のグリース等が前記オゾンやヒドロキシラジカル等によって酸化、すなわち劣化するおそれがある。特に、前記清浄成分を拡散させるための送風機及びそれに用いられる軸受は、清浄成分でもある酸化性物質発生装置(イオン発生源等)の近傍に設置されるため、酸化性物質の暴露を受けやすいと考えられる。
【0004】
例えば特許文献1には、高温・長寿命のグリースを得るべく、グリースの耐酸化性の向上を目指し、基油とウレア系化合物からなる増ちょう剤と、酸化防止剤としてアミン系酸化防止剤とキノリン系酸化防止剤を併用したグリース組成物の開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-021140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記イオン発生装置や空気調節装置等は、該装置に設置された送風機によってオゾンやヒドロキシラジカル等を室内に送風し、室内の浮遊細菌の殺菌や消臭を図っている。しかしこれらの装置を設置・動作後に異音の発生が確認される事例がある。この要因の一つとして、前述の酸化性物質発生装置(イオン発生源等)から発生させたオゾンやヒドロキシラジカルによって、該装置内の送風機に備えられた軸受内に封入されているグリースの劣化が促進されることが挙げられ、この劣化グリースに起因して軸受に異音が発生することが確認されている。
また近年、空気調節装置等は低電力で動作することが求められている。そしてこれらに使用される送風機においても低電力で動作することが必須とされ、該送風機に使用される軸受を低トルクで駆動させることが求められる。これまで、低トルクを目的とする軸受に使用されるグリースには、一般にチャネリング特性(軸受内のグリース系潤滑剤が転動体によって押し退けられやすい性質)を有するグリースが用いられるが、該特性を有するグリースは異音の発生を引き起こしやすい問題がある。一方、音響特性に優れるグリースはチャーニング現象(軸受動作時にグリースが軸受内部で絶えずかき混ぜられた状態となること)のためにトルクが高くなりやすい。このように、低トルクと音響特性の双方の特性に優れるグリースへの要望がある。
【0007】
本発明は、オゾンやヒドロキシラジカル等の酸化性物質の影響下にあっても劣化を受けにくく、優れた音響特性と低トルクを実現できるグリース組成物、並びに該グリース組成物の適用により、異音の発生が抑制され且つ低トルクを実現できる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、基油と、
下記式(1)で表されるジウレア化合物からなるウレア系増ちょう剤と、
-NHCONH-R-NHCONH-R・・・(1)
(式中、R及びRは、夫々独立して、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基、又は一価の芳香族炭化水素基を表し、このとき、R及びRの合計モル数に対して、一価の脂肪族炭化水素基の割合は10%~60%であり、
は、二価の芳香族炭化水素基を表す。)
芳香族アミン系酸化防止剤とを含む、グリース組成物である。
本発明はまた、前記グリース組成物が封入されている転がり軸受、並びにイオン発生装置又は空気調節装置の送風機に備えられる前記該転がり軸受を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の転がり軸受の構造を説明する模式図である。
図2】本発明の転がり軸受が備えられたモータの構造を説明する模式図である。
図3】本発明の転がり軸受が備えられた送風機を有するイオン発生装置又は空気調節装置の模式図である。
図4】トルク試験で用いた回転装置の概念図である。
図5】ウレア系増ちょう剤を構成するアミン化合物における、脂肪族アミンの配合比率(モル%)の変化(横軸)に対する、該ウレア系増ちょう剤を配合したグリース組成物を用いた音響評価(アンデロン値)の結果(縦軸)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前述したように、オゾンやヒドロキシラジカル等を放出する、イオン発生装置や空気調節装置等において、該装置内の送風機に備えられた軸受内に封入されたグリースの劣化により、異音が発生することが確認されている。しかしこれまでこうした装置に設置される送風機に使用する軸受に着目し、異音の発生を抑制するべく改善を図ったグリース組成物の提案は為されていない。
本発明者らは、オゾンやヒドロキシラジカルなどの酸化性物質の存在下における、グリース劣化の検討を進めたところ、脂肪族アミン由来の基の比率が高いウレア化合物を増ちょう剤として用いたグリースにおいて凝集物が形成され易く、これが軸受の音響特性に悪影響を及ぼすことを見出した。一方で、脂肪族アミン由来の基を有するウレア化合物を増ちょう剤として用いることにより、低トルクを実現できるグリースとなることを見出した。また併せて、該グリースに配合する酸化防止剤として脂肪族アミン系化合物を用いた場合、音響特性の劣化が進行することを見出した。
なお上記グリースの劣化の一要因として、増ちょう剤のウレア化合物や酸化防止剤の脂肪族アミン系化合物に含まれる脂肪族基が、オゾンやヒドロキシラジカルなどの酸化性物質により変性し、それらの一部が縮合するなどして凝集物形成を引き起こしたものと考えられる。
【0011】
本発明に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物(以降、単に“グリース組成物”と称する)は、後述するように特定のウレア系増ちょう剤を配合してなることを特徴とし、さらに、特定の酸化防止剤を配合してなることを特徴とする。このグリース組成物は、酸化性物質の存在下においても劣化が抑制され、良好な音響特性且つ低トルクを実現する
。以下具体的に説明する。
【0012】
[グリース組成物]
まず本発明のグリース組成物について説明する。
【0013】
<基油>
本発明のグリース組成物において、基油として、一般にグリース基油として使用される炭化水素系合成油、エステル系合成油、エーテル系合成油等の合成油を単独または混合して使用することができる。
なお、フッ素系基油は一般に耐熱性・耐酸化性に優れるものの、潤滑特性及び音響特性に劣る。そのため、空気調節装置など室内での使用が想定される機器・装置に使用される転がり軸受において、該軸受に使用されるグリース組成物へのフッ素系基油の使用は適さない。
【0014】
前記炭化水素系合成油としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセントエチレンオリゴマーなどのポリアルファオレフィン(PAO)を挙げることができる。
前記エステル系合成油としては、例えばジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルフタレート、メチル・アセチルリシノレートなどのジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート、テトラ-2-エチルヘキシルピロメリテートなどの芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどのポリオールエステル油、炭酸エステル油などが挙げられる。これらの中でも芳香族エステル油を好適に用いることができる。
また前記エーテル系合成油としては、モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリアルキルジフェニルエーテルなどのアルキルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油などを挙げることができる。
【0015】
本発明のグリース組成物の全量に対する基油の割合は70~90質量%、例えば75~95質量%、75~85質量%とすることができる。
【0016】
<増ちょう剤>
本発明で使用するグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア系増ちょう剤を添加する。
ウレア化合物は、耐熱性、耐水性ともに優れ、金属元素を含まないため酸化安定性に有利であり、高温環境下等での適用箇所において増ちょう剤として好適に用いられる。
ウレア系増ちょう剤としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア化合物を使用できるが、特に本発明にあっては音響特性(静音性)の観点からジウレア化合物を用いる。
ジウレア化合物の種類としては、脂肪族ジウレア、脂環-脂肪族ジウレア、脂肪-芳香族ジウレアなどが挙げられる。
これらウレア系増ちょう剤として、従来公知のウレア化合物を用いることができる。
【0017】
本発明に適したウレア系増ちょう剤として、下記一般式(1)で表されるジウレア化合物を挙げることができる。
-NHCONH-R-NHCONH-R・・・(1)
式(1)中、R及びRは、夫々独立して、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基、又は一価の芳香族炭化水素基を表し、このとき、R及びRの合計モル数
に対して、一価の脂肪族炭化水素基と、一価の脂環式炭化水素基及び/又は一価の芳香族炭化水素基とのモル比は、10%~60%:90%~40%である。
またRは、二価の芳香族炭化水素基を表す。
【0018】
前記一価の脂肪族炭化水素基としては、炭素原子数6乃至26の直鎖状又は分枝鎖状の飽和又は不飽和のアルキル基が挙げられる。
前記一価の脂環式炭化水素基としては、例えば炭素原子数5乃至12のシクロアルキル基が挙げられる。
また前記芳香族炭化水素基としては、炭素原子数6乃至20の一価又は二価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0019】
ウレア系増ちょう剤として用いるウレア化合物は、アミン化合物とイソシアネート化合物を用いて合成可能である。例えば後述する脂肪族アミンと芳香族アミンをアミン原料に用い、これと芳香族ジイソシアネートとを用いて合成する脂肪-芳香族ジウレア化合物、脂肪族アミンと脂環式アミンをアミン原料に用い、これと芳香族ジイソシアネートとを用いて合成する脂環-脂肪族ジウレア化合物などを挙げることができる。
本発明にあっては、前記イソシアネート化合物との反応に使用する前記アミン化合物として、脂肪族アミンをモル比10%~60%にて使用し、脂環式アミン及び/又は芳香族アミンをモル比40%~90%にて(合計100%)使用することができる。すなわち、本発明で使用するウレア系増ちょう剤は、アミン化合物とイソシアネート化合物との反応生成物であるウレア化合物であって、該アミン化合物由来の構造がその総モル数に対して10~60モル%の割合で脂肪族アミン由来の構造を含むウレア化合物を用いることができる。
【0020】
前記アミン化合物のうち、脂肪族アミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、べヘニルアミン、オレイルアミンなどが用いられる。脂環式アミンとしては、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどが用いられる。芳香族アミンとしては、アニリン、p-トルイジン、エトキシフェニルアミンなどが用いられる。
またイソシアネート化合物としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルビフェニルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートなどが用いられる。
なお、アミン原料として芳香族モノアミンのみと芳香族ジイソシアネートとを用いて得られる芳香族ジウレア化合物を増ちょう剤として用いた場合は、異音が発生するおそれがあるため、使用を控えたほうが良い。
【0021】
前記ウレア系増ちょう剤は、グリース組成物の全量に対して10~20質量%の量にて使用することが好ましい。
【0022】
<酸化防止剤>
本発明のグリース組成物では、脂肪族アミン系酸化防止剤を除く酸化防止剤を用い、特に芳香族アミン系酸化防止剤を用いる。
前記芳香族アミン系酸化防止剤としては、ジフェニルアミン、ジアリールアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェノチアジン等が挙げられるがこれらに限定されない。
前記芳香族アミン系酸化防止剤は、グリース組成物の全量に対して0.1~10質量%、好ましくは0.1~5質量%、例えば0.5~3質量%の量にて使用することが好まし
い。
【0023】
<その他添加剤>
また、グリース組成物には、上述の必須成分に加えて、必要に応じてグリース組成物に通常使用される添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲において含むことができる。
このような添加剤の例としては、前記以外の酸化防止剤、極圧剤、金属不活性剤、摩擦防止剤(耐摩耗剤)、錆止め剤(防錆添加剤)、油性向上剤、粘度指数向上剤、増粘剤などが挙げられる。
これらその他の添加剤を含む場合、その添加量(合計量)は、通常、グリース組成物の全量に対して0.1~10質量%である。
【0024】
例えば前記以外の酸化防止剤としては、例えばオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンゼンプロピオンアミド)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、および4,4-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。ただしこれらは固体のものが多く、再結晶化が懸念されるためその使用には注意を要する。また、オクチルアミンやヘキシルアミン等の脂肪族アミン系酸化防止剤は、グリースの劣化を促進することが懸念されるためその使用は好まれない。
【0025】
また極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等の硫黄系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン等の硫黄系化合物の金属塩等が挙げられる。
【0026】
金属不活性剤としては、例えばベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物、チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール等のチアジアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系化合物、亜硝酸ソーダ等が挙げられる。
【0027】
また耐摩耗剤はトリクレジルホスフェートや高分子エステルを挙げることができる。
前記高分子エステルとしては、例えば脂肪族1価カルボン酸及び2価カルボン酸と、多価アルコールとのエステルが挙げられる。前記高分子エステルの具体例としては、例えばクローダジャパン社製のPRIOLUBE(登録商標)シリーズなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
錆止め剤(防錆添加剤)としては、亜鉛系防錆剤や、スルホン酸塩系防錆剤、カルボン酸又はカルボン酸塩系防錆剤等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0029】
本発明のグリース組成物は、前記基油と、前記増ちょう剤、そして前記酸化防止剤を、上述の所定の割合となるように混合し、所望によりその他添加剤を配合して得ることができる。
また、例えば合成油(PAO、エステル油、エーテル油)とウレア系増ちょう剤からなるウレア系グリース(ベースグリース)と、酸化防止剤、そして所望によりその他添加剤とを配合し、グリース組成物を得ることもできる。
通常、ベースグリースに対する増ちょう剤の含有量は10~30質量%程度であり、例えば上記のウレア系グリースに対するジウレア化合物(ウレア系増ちょう剤)の含有量は10~25質量%程度、また10~20質量%程度とすることができる。
【0030】
[転がり軸受]
以下に添付図面を参照して、本発明に係る転がり軸受の好ましい実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0031】
図1は、本発明の好ましい実施形態の転がり軸受10の径方向の断面図である。転がり軸受10は、従来技術の転がり軸受と同様の基本構造を有するものであって、環状の内輪11と外輪12と複数の転動体13と保持器14とシール部材15とを具備する。
内輪11は、図示を省略するシャフトの外周側に、その中心軸と同軸に設置される円筒形の構造体である。外輪12は、内輪11の外周側で、内輪11と同軸に配置される円筒形の構造体である。複数の転動体13の各々は、内輪11と外輪12との間に形成される環状の軸受空間16内の軌道に配置された玉である。すなわち、本実施形態における転がり軸受10は玉軸受である。
保持器14は、軌道内に配置されて複数の転動体13を保持する。保持器14は、シャフトの中心軸と同軸に設置される環状体であり、中心軸の方向における一方の側に、転動体13を保持するための複数のポケット部を備え、各ポケット部内に転動体13が収容された構造を有する。なお、保持器14の形状(冠形や波形等)や材質(鋼板製あるいは樹脂製等)は任意であり、特定の形状や材質に限定されない。
シール部材15は、外輪12の内周面に固定されて内輪11側に延在し、軸受空間16を密封する。シール部材15により密封された軸受空間16には、グリース組成物Gが封入されている。なお、軸受空間16内部へのグリース組成物Gの封入量は、例えばその容積の5~50%である。トルク性能と寿命性能を両立させるためには25~35%程度の量が好ましい。シール部材15は、例えば鋼板又はゴムにより形成され、内輪11の外周と非接触である鋼板シールド、内輪11の外周と非接触である非接触式ゴムシール、内輪11の外周と接触する接触式ゴムシールが挙げられる。本発明にあっては前記鋼板シールド、非接触式ゴムシール又は接触式ゴムシールの何れのシール部材でも使用することができる。なお本図はシール部材15を具備する態様であるが、本発明の転がり軸受はシール部材を具備しない転がり軸受の態様も対象とする。
以上の構成を有する転がり軸受10において、グリース組成物Gは、転動体13と保持器14との間、および、転動体13と内輪11ないし外輪12との間における摩擦を低減するように作用する。図1に示される構成から解るように、転がり軸受10に封入されたグリース組成物Gは、転がり軸受10が回転する際に、転動体13と内輪11ないし外輪12との間を潤滑する。
【0032】
[イオン発生装置又は空気調節装置]
本発明の転がり軸受は、好適な態様において、イオン発生装置又は空気調節装置の送風機に備えられ、例えば該送機のモータに用いられる。上記イオン発生装置や空気調節装置には、所謂オゾン発生装置や空気清浄装置なども含まれ、また加湿装置や除湿装置、換気装置なども含まれ得、ただしこれらに限定されない。
また本発明の転がり軸受は、上記イオン発生装置や空気調節装置の送風機以外にも、イオン発生源(オゾンやヒドロキシラジカル等の発生源)を備える装置の送風機に好適に使用され得、例えば冷蔵庫、洗濯乾燥装置、掃除機などにも適用可能であるがこれらに限定されない。
【0033】
一例として、図2に、本実施形態の転がり軸受を備えているモータの実施形態について説明するが、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
図2は、本実施形態の転がり軸受を備えるモータにおけるシャフト方向の断面図である。モータ20は、従来技術のモータと同様の基本構造を有するものであって、ハウジング21、ステータ22、コイル23、ロータマグネット24、シャフト25、及びシャフト25を支持する転がり軸受26から構成される。
モータ20は、駆動回路を介して電源(以上図示せず)より供給された電流をステータ22に巻回されたコイル23に流すことで磁力が発生し、それによりロータマグネット24が回転し、シャフト25を通じて外部の回転体に回転が伝えられる。
本発明では、送風機に使用するモータの軸受として本発明の転がり軸受を好適に用いることができ、この場合、上記外部の回転体は送風機のインペラ(図示せず)が該当することとなる。
【0034】
本発明の上記転がり軸受は、中でも、吸気口、イオン発生源(オゾン発生源とも言われる場合がある)、排気口及び送風機を備え、吸気口から排気口へと、発生したイオンとともに空気が流れ、その際、その流れが送風機と接触する構造を有する、イオン発生装置又は空気調節装置の送風機に使用される。例えば本発明の転がり軸受は、同じ閉空間内に吸気口と排気口を有するように設置される、イオン発生装置や空気調節装置の送風機に好適に使用されるがこれに限定されない。送風機のインペラ(図示せず)の回転により、モータの軸受周辺が負圧となるため、そこへイオンを含んだ空気が流入する。これにより軸受に封入されたグリースがイオンに曝される。
【0035】
上記イオン発生装置又は空気調節装置の一例として、その模式図を図3に示す。なお本図によって本発明が限定されるものではない。
図3は、イオン発生装置又は空気調節装置30の模式図であり、該装置30は、送風機31、イオン発生源32、吸気口33及び排気口34を備える。図3中、実線矢印が空気の流れを、点線矢印がイオンの流れを示す。なお、送風機31には本発明の転がり軸受(図示せず)を備えるモータ(図示せず)が設置されている。
図3(a)及び図3(b)は吸気口33から送風機31に吸い込まれる空気の流路と、送風機31から排気口34に排出される空気の流路が独立して設けられた装置の模式図である。図3(a)では、イオン発生源32が、送風機31から排気口34に排出される空気の流路内に設置された態様を示す。該装置32から発生したイオンは、排気口34から空気とともに装置30の外に排出される。そして吸気口33から空気とともにイオンが吸い込まれ、これらが送風機31に吸い込まれることとなる。図3(b)は、イオン発生源32が、吸気口33から送風機31に吸い込まれる空気の流路内に設置された態様を示す。該装置32から発生したイオンは、吸気口33から吸い込まれた空気とともに送風機31に吸い込まれ、これらが排気口34から装置30の外に排出される。
また図3(c)では、イオン発生源32から発生したイオンが、吸気口33から吸い込まれた空気とともに送風機31に吸い込まれ、これらが排気口34から装置30の外に排出される。
そして図3(d)では、装置30の内部に設けられたイオン発生源32から発生したイオンが、吸気口33から吸い込まれた空気とともに送風機31に吸い込まれ、これらが排気口34から装置30の外に排出される。
【0036】
本発明は、本明細書に記載された実施形態や具体的な実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
例えば、上記実施形態及び下記実施例では、転がり軸受として玉軸受を挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の転がり軸受、たとえばころ軸受、針軸受、円錐ころ軸受、球面ころ軸受、スラスト軸受等や、自動車の車軸支持軸受のような軸受ユニットへのグリース組成物の適用を制限するものではない。
【実施例
【0037】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
〔グリース組成物の評価〕
下記表1に示す配合量にて実施例1乃至実施例7並びに比較例1乃至比較例7に使用するグリース組成物を調製した。
【0039】
なおグリースの調製に用いた各成分の詳細及びその略称等は以下のとおりである。
(a)基油
(a1)PAO:ポリアルファオレフィン油
(a2)エステル油
(a3)エーテル油
(b)増ちょう剤
(b1)ウレア系増ちょう剤
ジイソシアネート化合物(芳香族系ジイソシアネート)と、下記(b1-1)~(b1-3)から選択される1種又は2種のアミン(アミンの配合比率(モル比)は表1に記載)とから合成されるジウレア化合物
(b1-1)脂肪族アミン
(b1-2)脂環式アミン
(b1-3)芳香族アミン
(b2)リチウム石鹸増ちょう剤:12-ヒドロキシステアリン酸リチウム
なお一般に、ウレア系増ちょう剤(b1)は、該ウレア系増ちょう剤と基油((a1)~(a3))を含むベースグリース全量に対して10~25質量%にて添加され、また、リチウム石けん増ちょう剤(b4)は、該石鹸系増ちょう剤と基油(PAO(a1))を含むベースグリース全量に対して10~20質量%にて添加される。
(c)添加剤:酸化防止剤
(c1)芳香族アミン系酸化防止剤
(c2)脂肪族アミン系酸化防止剤
(d)その他添加剤
(d1)極圧添加剤
(d2)防錆添加剤
なお(d)その他添加剤は、実施例1乃至実施例7並びに比較例1乃至比較例7の各グリース組成物(全質量)に対して、上記極圧添加剤、防錆添加剤をあわせて3質量%となるように添加した。
【0040】
また以下の試験評価に用いた転がり軸受は以下のとおりである。
(1)鋼板シールド付き玉軸受(内径5mm、外径13mm、幅4mm)
(2)鋼板シールド付き玉軸受(内径3mm、外径8mm、幅3mm)
【0041】
<試験方法>
1.軸受音響評価
酸化性物質暴露後の転がり軸受の音響評価を以下の手順にて実施した。
本試験には、(1)鋼板シールド付き玉軸受(内径5mm、外径13mm、幅4mm)を用い、これに実施例1乃至実施例7、比較例1乃至比較例7のグリース組成物を、それ
ぞれ軸受容積の25%~35%で封入した。該玉軸受を酸化性物質発生装置内に入れて250時間放置し、酸化性物質に該玉軸受(及び封入したグリース組成物)を暴露させた。なお、暴露条件は以下のとおりである。
・酸化性物質:オゾン濃度 0.1ppm
(検知管:株式会社ガステック社製 低濃度測定検知管でオゾン濃度を検知)
・暴露時間:250時間
・気圧:900hPa~950hPa
・温度:24℃~27℃
・湿度:平均85RH%(45RH%~95RH%)
【0042】
酸化性物質に暴露させた該転がり軸受について、以下の手順を用いて、室温における音響特性(軸受音響評価)について評価した。以降の説明において、グリース組成物の例番号を、これを封入した転がり軸受の性能評価の例番号としても扱うものとする。
【0043】
各試験グリース組成物を使用した玉軸受の音響性能を、アンデロンメータを用いて、Mバンド(300~1800Hz)のアンデロン値を測定することにより評価した。
室温にて、上記酸化性物質暴露後の玉軸受をハウジングにセットし、軸受内径にシャフトを挿入して、外輪に対してアキシアル方向より10Nの予圧をかけた後、試験用モータの回転軸にシャフトを結合し、玉軸受が内輪回転するようにした。また玉軸受の外輪の外周に半径方向にて速度型ピックアップを接触させた。
ついで、回転速度1,800rpmで回転させ、外輪に伝わる機械的振動を検出してアンデロン値を算出し、回転開始から10秒間における最大アンデロン値を求めた。本試験を、各試験グリース組成物毎に4個の玉軸受を用いて行い、最大アンデロン値の平均値を求め、以下の基準にて音響性能を評価した(測定上のアンデロン値の最大値:50)。
なお、Mバンドの周波数:300~1800Hzは、人にとって耳障りな音と言われている。
<評価基準>
本実施例の試験条件において、アンデロン値が1を超えると騒音が顕著となるため、1以下を好適と評価する。
A(好適):アンデロン値が1以下
N(不適):アンデロン値が1超
【0044】
2.トルク試験
図4に示す構成の回転装置60にて、回転トルク試験を実施した。
本試験には、(2)鋼板シールド付き玉軸受(内径3mm、外径8mm、幅3mm)を用い、これに実施例1乃至実施例7、比較例1乃至比較例7のグリース組成物を、それぞれ軸受容積の25%~35%で封入した。
この玉軸受(玉軸受61)を試験用モータ64のシャフト62に挿入した。玉軸受61の外輪に対してアキシアル方向より予圧用重り63にて3Nの予圧をかけた後、試験用モータ64の回転軸65にシャフト62を結合し、玉軸受61が内輪回転するようにし、回転装置60を構成した。
前記回転装置60を25℃の恒温槽(図示せず)にセットし、外部電源(図示せず)によって回転数10,000rpmで玉軸受61を回転させ、試験用モータ64の回転により玉軸受61の外輪が連れ回る応力をひずみゲージ(図示せず)によって検出して、回転トルクに換算した。回転開始から2分後のトルク値(定常トルク)を計測し、測定値(mNm)とした。各実施例および比較例の試験グリースにつき、それぞれ3回ずつ試験を行い、各測定値の平均値を求めた。
<評価基準>
本実施例の試験条件において、トルクの測定値が0.5mNm以下であるものを好適と評価する。
A:トルクの測定値が0.5mNm以下
N:トルクの測定値が0.5mNm超
【0045】
結果を表1に示す。なお、表中の配合量:質量%は組成物の全質量に対する値であり、増ちょう剤のアミン種に関する配合割合はモル%を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、ウレア系増ちょう剤として、脂肪族アミンの配合比率(モル比率)を50%又は20%としたジウレア化合物を用い、また芳香族アミンを酸化防止剤として用いた実施例1~実施例7のグリース組成物は、基油の種類によらず、酸化性物質暴露後の音響特性(アンデロン値:1以下で好適判定であるところ、0.35~0.52)に優
れ、回転トルク(トルク値:0.5mNm以下で好適判定であるところ、0.22~0.48mNm)も低トルクであることが確認された。なお、基油としてPAOを用いた実施例1のグリース組成物は、エステル油を用いたグリース組成物(実施例5)と比べて、音響特性(アンデロン値;実施例1:0.35、実施例5:0.38)、及び回転トルク(トルク値;実施例1:0.22mNm、実施例5:0.48mNm)の双方ともに良好である傾向がみられた。
【0048】
一方、脂肪族アミンの配合比率(モル比率)を70%としたジウレア化合物を用いたグリース組成物(比較例1)は、音響特性が悪化し(アンデロン値:1.3)、該配合比率を100%としたジウレア化合物を用いたグリース組成物(比較例5)は、音響特性がさらに悪化した(アンデロン値:3.8)だけでなく、回転トルク値も大きくなり(トルク値:0.90mNm)、トルク性能も悪化した。
また酸化防止剤として脂肪族アミンを用いた場合(比較例2、比較例3)、芳香族アミンを用いたグリース組成物(比較例1、実施例1)と比べて音響特性が悪化した(アンデロン値;比較例2:3.5、比較例3:2.8)。
増ちょう剤としてリチウム石鹸増ちょう剤を用いた比較例4にあっては、音響特性には優れる(アンデロン値:0.17)ものの、トルク性能に劣るものであった(トルク値:0.58mNm)。
また増ちょう剤として、脂環式アミンの配合比率(モル比率)を100%としたジウレア化合物を用いたグリース組成物(比較例6)、並びに芳香族アミンの配合比率(モル比率)を100%としたジウレア化合物を用いたグリース組成物(比較例7)では、音響特性及びトルク性能の何れも劣る結果となった(アンデロン値;比較例6:1.2、比較例7:1.5、トルク値;比較例6:0.93mNm、比較例7:1.20mNm)。なお比較例6と比較例7とを比較すると、アミン化合物として芳香族アミンのみを用いたジウレア化合物を配合した比較例7のグリース組成物が、脂環式アミンのみを用いたジウレア化合物を配合した比較例6のグリース組成物と比べて、音響特性及びトルク性能の双方に劣る傾向がみられた。
【0049】
ここで、ウレア系増ちょう剤(ジウレア化合物)を構成するアミン化合物において、脂肪族アミンの使用割合を変化させた場合の、グリース組成物の音響特性の変化について図5に示す。
図5は、ウレア系増ちょう剤を構成するアミン化合物において、脂肪族アミンの配合比率(モル%)の変化(横軸)に対する、該ウレア系増ちょう剤を配合したグリース組成物を用いた音響評価(アンデロン値)の結果(縦軸)を示す図である。
図5中、横軸に対して並行に付された直線はアンデロン値:1.0を示す。なお本図に示す測定点のグリース組成物は、ウレア系増ちょう剤を構成するアミン化合物として脂肪族アミンと脂環式アミンとをこれらの配合比率を変えて用い、酸化防止剤として芳香族アミンを使用したグリース組成物(比較例6(脂肪族アミン比率0モル%)、実施例2(同20モル%)、実施例1(同50モル%)、比較例1(同70モル%)、比較例5(同100モル%)、以上のアンデロン値より算出した近似曲線をあわせて示す)、あるいは、脂肪族アミン比率を50モル%とし、酸化防止剤として脂肪族アミンを使用したグリース組成物(比較例3、近似曲線から離れ、点線で囲まれた測定点)である。
図5に示すように、脂肪族アミンの配合比率が10モル%から60モル%の範囲においてはアンデロン値が1以下となることが近似曲線より推定される(図中、点線矢印範囲)。なお、脂肪族アミンの配合比率が50モル%とした場合においても、酸化防止剤として脂肪族アミンを用いた場合にはアンデロン値が大きく上昇することが明確に示される。
【0050】
以上の結果は、ウレア系増ちょう剤を構成するアミン化合物として、その全量に対して10~60モル%の割合で脂肪族アミンを含むウレア化合物を用いることにより、酸化性物質暴露後にあっても異音の発生が抑制され、音響特性に優れるグリース組成物を提供す
ること、さらには、低トルク性能も実現できるグリース組成物を提供することが可能となることが示唆されるものである。
【0051】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれものである。
【符号の説明】
【0052】
G…グリース組成物、 10…転がり軸受、 11…内輪、 12…外輪、 13…転動体、 14…保持器、 15…シール部材、 16…軸受空間
30…イオン発生装置又は空気調節装置、 31…送風機、 32…イオン発生源、 33…吸気口、 34…排気口
図1
図2
図3
図4
図5